(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】分子分析及び同定のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20240718BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240718BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240718BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240718BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20240718BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
G01N37/00 101
C12M1/00 A
C12N15/09 Z
C12Q1/6869 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022162344
(22)【出願日】2022-10-07
(62)【分割の表示】P 2019538574の分割
【原出願日】2017-10-02
【審査請求日】2022-11-01
(32)【優先日】2016-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519199510
【氏名又は名称】ジェンヴィーダ テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ソウ ダニエル ワイ-チョン
(72)【発明者】
【氏名】ホ チ イップ
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-010109(JP,A)
【文献】特開2012-118039(JP,A)
【文献】特開2004-150804(JP,A)
【文献】特表2012-526556(JP,A)
【文献】特開2005-159353(JP,A)
【文献】特開2006-344216(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0021183(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
G01N 37/00
C12M 1/00-3/10
C12N 15/09
C12Q 1/00-3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的物質を含む試料液体を分析するための装置において使用するための構造であって、
1つの入口1501および複数の出口1502を備える一連の案内チャネルであって、
前記一連の案内チャネルはHツリー構造を有し、前記入口1501
から前記
複数の出口1502のいずれか
までの経路長は
、同一
である、一連の案内チャネル、
を備え、
前記試料液体は前記入口1501に供給され、前記複数の出口の各々に到達するために前記一連の案内チャネルの階層的流体ネットワーク内の各連続するレベルにおいて小さいけれども等しい容積に分割される、
生物学的物質を含む試料液体を分析するための装置において使用するための構造。
【請求項2】
前記生物学的物質は分子を含む、請求項1に記載の構造。
【請求項3】
前記複数の出口は複数のナノ細孔を備えるナノ細孔型シーケンシングチップに接続され、前記複数の出口の各々は前記複数のナノ細孔の各々に別々に接続される、請求項1に記載の構造。
【請求項4】
前記生物学的物質はdsDNAであり、前記構造は、
a.ニック入りdsDNAを形成するために前記dsDNAを特定の制限部位にニッキングするためのニッキング機構を備えるチャンバ1401と、
b.制御された形で前記ニック入りdsDNAを複数のssDNAの短鎖に解離するための解離機構を備える解離ゾーンと、
c.前記複数のssDNAの短鎖を輸送するための前記一連の案内チャネル内の一連の案内電極と、
をさらに備え、
前記複数のssDNAの短鎖を前記一連の案内チャネルに供給するために前記解離ゾーンは前記チャンバを前記1つの
入口に接続し、前記一連の案内電極は、前記入口に入り込んだ前記複数のssDNAの短鎖の各々を異なるチャネルに割り当て、連結アルゴリズムを用いて再構築されるように、わかっている順序で前記ssDNAが前記複数の出口の各々に到達するのを確実にする、
請求項1に記載の構造。
【請求項5】
前記ニッキング機構は、突然変異したII S型エンドヌクレアーゼ、CRISPR/cas9由来のニッカーゼ、及びTALEN様fokI型ニッカーゼからなる群から選択される1又は2以上のニッカーゼを備える、請求項4に記載の構造。
【請求項6】
前記突然変異したII S型エンドヌクレアーゼはfokI型ニッカーゼである、請求項5に記載の構造。
【請求項7】
前記解離機構は、加熱、ヘリカーゼ、バクテリオファージT7遺伝子産物4、又はバクテリオファージT7遺伝子産物gp4である、請求項4に記載の構造。
【請求項8】
前記解離ゾーンは、前記ニック入りdsDNAを真っ直ぐに伸ばすための矯正機構(straightening mechanism)をさらに備える、請求項4に記載の構造。
【請求項9】
前記矯正機構はマイクロピラー又はナノピラー又はDNAポンプのアレイを備える、請求項
8に記載の構造。
【請求項10】
前記一連の案内電極は
前記Hツリー構造
を有する前記一連の案内チャネルに配置される、請求項3に記載の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に分子分析及び同定に関し、具体的には、ポータブルなナノ細孔型リアルタイム分子分析装置を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
全ての生命体には、核酸、デオキシリボ核酸(DNA)及び/又はリボ核酸(RNA)が存在し、これらは独特な配列を有する。このことは、必然的に様々な生物学的作用物質の最終的な同定として役立つ。従って、生命体の研究では、本明細書では概してゲノム分析と呼ぶ核酸、DNA及び/又はRNAの分析が非常に有用である。しかしながら、現在商業的に利用できるマイクロアレイ法、パイロシーケンシング法、合成によるシーケンシング法及びライゲーションによるシーケンシング法などの核酸シーケンシング技術は、様々な面で大きく制限されている。例えば、これらの技術の一部又は全部は、リアルタイム分析を行うことができず、(ポリメラーゼ連鎖反応などの)長い試料核酸増幅手順及びプロトコルを必要とし、所要時間が長く(通常は、試料核酸の小断片を分析するのに約数日から数週間掛かる)、運用コストが高く(高価な化学試薬を使用するものもある)、偽陽性誤り率が高く、携帯することができない。
【0003】
このような現在の核酸シーケンシング技術の制限により、医療専門家、保安要員、科学者などの現場で働く人々は、その場で局所的にゲノム分析を行うことができない。それどころか、現場の作業員は、試料を収集して専門研究所に輸送し、試料内に存在する核酸を同定するために数日間又は数週間にわたって分析を行う必要がある。このような長期にわたる冗長なプロセスは、特に英国における口蹄疫の流行、アジアにおける重症急性呼吸器症候群(SARS)の大流行、並びにメキシコ及び米国における最近の(一般に豚インフルエンザとしても知られている)H1N1インフルエンザの大流行などの流行的発生中に今日のゲノム分析のニーズをほとんど満たすことができない。当局が現在の核酸シーケンシング技術を使用して非常に大きな安全上の及び経済的な影響を社会に与える可能性がある十分な情報に基づいた素早い決定を下すことは、不可能ではないにせよ困難である。
【0004】
このような核酸シーケンシング技術の不十分さに対処するために、科学者らは様々なナノ細孔型シーケンシング技術を発展させた。近頃、オックスフォード大学のHagan Bayley教授及びその共同研究者らは、バイオナノ細孔実験においてαヘモリシンを用いた99.8%の精度でのロングリードを実証した。確立された検出速度に基づけば、一般に約30分以内にヒトゲノム全体を分析するのに256×256のナノ細孔アレイで十分である。バイオナノ細孔アレイを上手く実現できた場合には、このことが大きな転換的偉業になると思われる。しかしながら、バイオナノ細孔の1つの欠点は、バイオナノ細孔の形成において使用されるタンパク質及び酵素の、典型的には数時間から数日間という比較的短い寿命である。
【0005】
固体ナノ細孔は、その構築時にバイオ試薬を伴わないため、バイオナノ細孔のさらにロバストな代替案である。しかしながら、半導体産業で使用されている従来のリソグラフィ技術は、固体ナノ細孔型シーケンシング技術に必要な2nmの特徴部サイズを定めることができない。これまでは、ナノ細孔を1つずつ連続して形成するために、例えば電子/イオンミリングなどの異なる加工技術が使用されてきた。しかしながら、これらの技術は、手頃なコスト及び合理的な製作時間で256×256のアレイを生産するように拡張することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kletsov他著、「1nmナノ細孔確証第3世代シーケンシングにおけるDNAヌクレオチド塩基を通る横方向伝導の第一原理電子伝播関数計算(Ab initio electron propagator calculations of transverse conduction through DNA nucleotide bases in 1-nm nanopore corroborate third generation sequencing)」、Biochimica et Biophysica Acta、第1860巻、第1号、Part A、2016年1月、140~145頁
【文献】Lin、Yong他著、「次世代シーケンシング技術のための新規アセンブリツールの比較研究(Comparative studies of de novo assembly tools for next-generation sequencing technologies)」、Bioinformatics、2011年8月1日、27(15)、2031~2037頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付図面の図に本発明を限定ではなく一例として示す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ナノ細孔型シーケンサ及び関連するナノ細孔型シーケンシングバイオチップの一実施形態を示す図である。
【
図2A】ナノ細孔型核酸シーケンシングの検出及び分析中における分子の転位過程の一実施形態を示す図である。
【
図2B】空の細孔のバックグラウンド信号と比べた対応する例示的な核酸配列の電気的読み取り値を示す図である。
【
図3】ナノパントグラフィにおいてエッチング及び堆積の両方に使用されるアインツェルレンズの一実施形態の側面図及び上面図である。
【
図4A】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する減法の一実施形態を示す図である。
【
図4B】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する減法の一実施形態を示す図である。
【
図4C】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する減法の一実施形態を示す図である。
【
図4D】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する減法の一実施形態を示す図である。
【
図4E】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する減法の一実施形態を示す図である。
【
図5A】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す図である。
【
図5B】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す図である。
【
図5C】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す図である。
【
図5D】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す図である。
【
図5E】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す図である。
【
図5F】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す図である。
【
図5G】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す図である。
【
図5H】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す図である。
【
図5I】ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す図である。
【
図6A】ナノリングの一実施形態及びナノスリットの一実施形態を示す図である。
【
図6B】ウェハ上に配置された薄膜上の漏斗状ナノ細孔の実施形態を示す図である。
【
図7】測定チャンバの下部キャビティを形成するように接合されたナノ細孔アレイウェハ及び集積回路ウェハの一実施形態を示す図である。
【
図8】測定チャンバの上部キャビティを形成するように接合された上部ウェハ及び複合ウェハの一実施形態を示す図である。
【
図9】ナノ細孔型シーケンサと共に動作できる電圧バイアス機構及び電流検知回路の一実施形態を示す図である。
【
図10A】ナノ細孔型シーケンサの一実施形態を示す図である。
【
図10B】複数の測定チャンバの一実施形態を示す図である。
【
図11】試料取り入れ口からマイクロ流体チャネル及びナノ流体チャネルに沿って測定チャンバを通じて試料出口に至る選択した経路に沿ったナノ細孔型シーケンサの一実施形態の断面図である。
【
図12】埋め込み電極を有する3層バイオチップ構造の一実施形態を示す図である。
【
図13A】ナノ細孔検出のためのバイアス及び検知機構の一実施形態を示す図である。
【
図13B】平面電極実装の一実施形態を示す図である。
【
図13C】平面電極実装における検知電極及びナノスリットの一実施形態の上面図である。
【
図14A】ニック入りdsDNAを真っ直ぐに伸ばすための実施形態を示す図である。固定位置に固定されてDNAプロセシングモータとしての役割を指向的に果たすことができる、例えばFtsKタンパク質ファミリーなどのDNA転位タンパク質として定められるDNAポンプ1403を使用して、案内電極1404を含むチャネル内にニック入りdsDNA1402の一端を能動的に輸送し、この案内電極がニック入りdsDNA1402を解離ゾーン1405に輸送し、ここでdsDNAを加熱によってssDNA1406の短鎖に解離させた後で、案内電極によって下流に輸送する。
【
図14B】
図14AのDNAポンプをマイクロ/ナノピラーのアレイ1407に置き換えた実施形態を示す図である。
【
図14C】解離ゾーンにおいて熱の代わりにヘリカーゼ1408を使用する点を除いて
図14Aと同じ実施形態を示す図である。
【
図14D】解離ゾーンにおいて熱の代わりにヘリカーゼ1408を使用する点を除いて
図14Bと同じ実施形態を示す図である。
【
図14E】ニック入りdsDNAを真っ直ぐに伸ばすことなく直接解離ゾーンに供給する実施形態を示す図である。
【
図15】1つの入口1501と複数の出口1502とが存在するHツリー構造を有する一連のチャネルを示す図である。このHツリー構造は、入口1501からいずれかの出口1502までの経路長が同じであることを保証する。
【
図16】連結アルゴリズムのフローチャートを示す図である。オリゴヌクレオチドシーケンシング結果の利用可能性の順序は、ニック入りdsDNAからオリゴヌクレオチドを解離させる順序に厳密に従うので、待ち行列、スタック、リンクリスト又はハッシュテーブルなどの比較的単純なデータ構造を用いて一時ストレージTS-1及びTS-2を実装することができる。
【
図17】リアルタイムdPCRバイオチップにおけるウェルアレイ及びHツリーネットワークの例を示す図である。
【
図18】完全なリアルタイムdPCRモジュールの例を示す図である。
【
図19】ナノ細孔型シーケンサの一実施形態の高水準ハードウェアアーキテクチャを示す図である。
【
図20】ナノ細孔型シーケンサの一実施形態における、オペレーティングシステム及びゲノム分析ソフトウェアのソフトウェアコンポーネント及び関連するハードウェアコンポーネントの高水準アーキテクチャを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明では、本発明の実施形態を完全に理解できるように、特定のコンポーネント、装置、方法の例などの数多くの具体的な詳細を示す。しかしながら、当業者には、これらの具体的な詳細を使用して本発明の実施形態を実施する必要はないことが明らかであろう。その他の場合、本発明の実施形態を不必要に曖昧にしないように、周知の材料又は方法については詳細に説明していない。
【0010】
以下、核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質及びポリマーなどの分子、並びにカーボンナノチューブ、シリコンナノロッド及びコーティングされた/されていない金ナノ粒子などのナノメートルサイズの粒子の分析及び同定を行う装置及び方法の様々な実施形態について説明する。なお、以下の説明では、概念を示すために分子分析、すなわちゲノム分析の一例に焦点を当てている。当業者であれば、本明細書で開示する技術を一般に分子の分析及び同定に適用することもできると容易に認識するであろう。1つの実施形態では、ナノ細孔型シーケンサがポータブルゲノム分析システムである。
図1に、ポータブルナノ細孔型シーケンサ110及び関連するナノ細孔型シーケンシングバイオチップ120の一実施形態を示す。検出及び分析中、試験用試料内の分子は、
図2Aに示すように溶液中でナノスケールの細孔(ナノ細孔とも呼ばれる)を通って電気泳動的に駆動される。いくつかの実施形態では、ナノ細孔のサイズが約2nmである。なお、異なる実施形態ではナノ細孔のサイズが異なることができる。例えば、いくつかの実施形態では、ナノ細孔が一定の同一サイズである。いくつかの別の実施形態では、ナノ細孔が異なるサイズである。さらに、ナノ細孔の形状も、同じ実施形態又は異なる実施形態において、円形、長円形、細長いスリットなどのように異なることができる。
図2Bに示すように、ナノ細孔に閉じ込められた空間内の分子の相対的サイズ及び移動速度に応じて、異なる振幅及び継続時間の電流パルスなどの様々な電気的特性が観察され、これを利用して分子を同定することができる。この結果、試験用分子を破壊することなく、核酸配列の直接的な読み取りを行うことができる。換言すれば、核酸配列を手付かずの状態にしたまま核酸配列に対する測定を行うことができる。1つの実施形態では、電気的読み取り値が、分子のターンオン電圧及び/又はコンダクタンス/電流である。別の実施形態では、これらの分子を、DNA鎖からのヌクレオチドとすることができる。対応する各ヌクレオシドの理論値がKletsov他によって取得されている(Kletsov他著、「1nmナノ細孔確証第3世代シーケンシングにおけるDNAヌクレオチド塩基を通る横方向伝導の第一原理電子伝播関数計算(Ab initio electron propagator calculations of transverse conduction through DNA nucleotide bases in 1-nm nanopore corroborate third generation sequencing)」、Biochimica et Biophysica Acta、第1860巻、第1号、Part A、2016年1月、140~145頁を参照)。
【0011】
いくつかの実施形態では約2nmの細孔のアレイを含むナノ細孔アレイを本質的限界なく大量生産するために、複数の加工技術を利用することができる。以下、概念を示すために、いくつかの例示的な加工技術の細部を詳細に説明する。当業者であれば、他の同等の加工技術又はその変形例を使用してナノ細孔アレイを生産することもできると理解するであろう。ナノ細孔型シーケンサは、マイクロ/ナノ流体チャネルのネットワークに組み込まれることにより、人間の介入を伴わずにゲノムをかつてない速度で正確に解読することができる。
【0012】
ナノ細孔型シーケンサのいくつかの実施形態は、小型のフォームファクタ及びゲノム分析速度に加えて以下のさらなる利点をもたらす。1つの利点は、生物学的作用物質のあらゆる突然変異に対して古くならない準備できた製品(ready production)という点である。これが可能である理由は、ナノ細孔型シーケンシングが直接的な読み取り技術であり、その結果が試験用ゲノムの予備知識を必要としないからである。さらに、ナノ細孔型シーケンサのいくつかの実施形態は、ナノ細孔が常にナノ細孔型シーケンシングバイオチップ内に閉じ込められて、全体的な分析プロセス中に望ましくない異物に全く曝されないことによって、ナノ細孔の無菌性及び清潔性が常に保証されるので、極端な条件及び汚れた環境で動作することができる。
【0013】
ハンドヘルド型のポータブル装置としてのナノ細孔型シーケンサのいくつかの実施形態は、多くの異なる業界及び科学の進歩を加速させることができる。例えば、商業及び研究開発では、このナノ細孔型シーケンサのいくつかの実施形態が、基礎研究、薬理ゲノミクス、細菌診断、病原体検出、農業、食品産業、バイオ燃料などで役立つことができる。さらなる例として、ナノ細孔型シーケンサのいくつかの実施形態は、迅速なDNA科学捜査、通関手続き地の生物学的スクリーニングなどで役立つこともできる。
【0014】
ナノ細孔型シーケンシングのためのナノ細孔アレイ
1970年代、DeBlois及びその同業者らは、コールターカウンターの抵抗パルス技術に基づいて粒子をそのサイズ及び電気泳動移動度によって特徴付ける上で、単一のサブミクロン直径の細孔を使用する実証に成功した。その後、Deamerは、遺伝子シーケンシングにナノメートルサイズの細孔を使用する考えを提案した。Deamer及びその同業者らは、一本鎖DNA(ssDNA)分子及びRNA分子を細孔形成タンパク質に通し、このナノ細孔を通るイオン電流に対する影響によってこれらの分子を検出できることを実証した。最近実証された高いシーケンシング速度を考慮すると、ナノ細孔型シーケンシングの進歩は、迅速なゲノム分析のための大型ナノ細孔アレイを形成する安価な並列書き込み加工プロセスが存在しないことによって大きく妨げられている。従来のリソグラフィ法、電子ミリング法、イオンミリング法及びシリコンエッチバック法の多くは、リアルタイムゲノム分析に必要なナノ細孔アレイを製造するための実行可能な手段ではない。最近まで、ヒューストン大学のDonnelly及びその同業者らは、2nmのナノ細孔アレイをほぼ制限なく大量生産できるナノパントグラフィのいくつかの実施形態を構築していた。Donnellyのシミュレーション結果によれば、ナノパントグラフィは、1nm程の小さなサイズの孔又は点を定めることができる。ナノパントグラフィは、マイクロ/ナノ流体工学技術を取り入れることによって、リアルタイム又は近リアルタイムゲノム分析システムを実現する可能性を開くものである。
【0015】
ナノパントグラフィでは、例えばドープシリコン(Si)ウェハなどの導電性基板上に加工された(
図3に示すようなアインツェルレンズとも呼ばれる)サブミクロン直径の静電レンズアレイに幅広い平行な単一エネルギーのイオンビームを向ける。レンズ電極に適切な電圧を付与することにより、レンズに入射する「ビームレット」をレンズの直径よりも100倍小さなスポットに集束させる。このことは、現在の半導体加工で使用されるフォトリソグラフィ技術で扱うことができる100nmのレンズによって1nmの特徴部を画定できることを意味する。また、各レンズは、基板上に独自のナノメートルの特徴を書き込み、従ってナノパントグラフィは、集束電子ビーム又はイオンビームの順次書き込みとは大きく異なる並列書き込みプロセスである。レンズアレイが基板の一部であるため、この方法は、振動又は熱膨張によって生じる位置不良に実質的に影響されない。ナノメートル特徴部のサイズは、同じ又は異なる直径を有することができる所定のレンズのサイズによって制御され、すなわち同じ又は異なるナノメートル特徴部のアレイを実質的に同時に加工することができる。Cl
2ガスの存在下でAr+ビームを使用して、直径10nm、深さ100nmのエッチングされたSi孔が実証されている。エッチングは、イオンビームレットが集束するように上部金属層に電圧が付与される孔内でしか行うことができない。残りの孔では上部金属層に電圧が付与されないためビームレットが集束せず、従っていずれかの感知できるエッチングを引き起こすには電流密度が小さすぎる。
【0016】
ナノパントグラフィでは、ゲノム分析のためのナノ細孔を加工する2つの方法、すなわち減法と加法とが存在する。以下では、最初に直接エッチング法の一実施形態を説明し、その後に間接エッチング法の一実施形態を説明する。
【0017】
A.ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する減法の一実施形態
図4A~
図4Eに、ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する減法の一実施形態を示す。
図4Aに示すように、Si(100)ウェハ410上に窒化物420を堆積させる。
図4Bにおいて、ドープシリコン又は金属である下部導電材料422を堆積させ、その後に誘電体スペーサ424及び上部金属層426を堆積させる。その後に、複数のアインツェルレンズを画定する。
図4Cに示すように、導電材料422上でナノパントグラフィエッチングを行って、窒化物層420におけるナノ細孔エッチングのためのハードマスクとして使用されるナノメートル孔430を画定する。
図4Dにおいて、アインツェルレンズを取り除く。次に、ナノ細孔430を保護のために酸化物435でコーティングする。最後に、
図4Eにおいて、シリコン基板410の裏面に対する化学機械研磨(CMP)、リソグラフィ法及び水酸化カリウム(KOH)エッチングによって測定チャンバの下部キャビティ440を形成する。その後、酸化物層435を取り除いてナノ細孔430を露出させる。
【0018】
B.ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態
図5A~
図5Iに、ナノ細孔及び/又はナノ細孔アレイを加工する加法の一実施形態を示す。
図5Aに示すように、Si(100)ウェハ510上に窒化物520を堆積させる。
図5Bにおいて、ドープシリコン又は金属である下部導電材料522、誘電体スペーサ524及び上部金属層526を堆積させる。その後に、アインツェルレンズを画定する。
図5Cにおいて、ナノロッド又はナノチューブ成長のためのナノシード530を堆積させる。
図5Dにおいて、ナノロッド又はナノチューブ535を成長させる。
図5Eにおいて、酸化物540を堆積させる。
図5Fにおいて、ナノロッド又はナノチューブ535を取り除く。残りの酸化物ナノメートル孔550は、導電層及び窒化物層のためのハードマスクとして使用する。
図5Gにおいて、酸化物層540から導電層522に、その後に窒化物層520にパターンを転写する。
図5Hにおいて、アインツェルレンズを取り除き、その後に酸化物層540を取り除く。ナノ細孔は、保護のために酸化物552でコーティングする。最後に、
図5Iにおいて、シリコン基板510の裏面に対するCMP、リソグラフィ技術及びKOHエッチングによって測定チャンバの下部キャビティ560を形成する。その後、酸化物層552を取り除いてナノ細孔565を露出させる。
【0019】
図6Aに、本発明のいくつかの実施形態において使用できるナノスリットの一実施形態及びナノリングの一実施形態を示す。(上述した)アインツェルレンズを用いた減法のいくつかの実施形態は、それぞれ
図6Aに示すような矩形及び半円形の開口部を有する細長いナノサイズのナノスリット610及びナノリング620を画定することができる。当業者には、本明細書で行う開示に基づいて、同様のパターニング技術を用いてあらゆる二次元形状を画定できることが明らかであろう。いくつかの実施形態では、ウェハステージがプロセス全体にわたって実質的に静止しているので、この非円形パターニング法が、ウェハステージを傾ける従来の方法が直面する主な技術課題のうちの少なくとも3つを解決する。第1に、ウェハステージの傾斜角及び速度を精密に制御する必要がない。第2に、この方法は、一般に入射イオンビームに対してウェハを傾けることによってもたらされる線幅拡大効果及び線幅不均一性を克服する。第3に、この方法では、異なる形状及びサイズのパターンをほぼ同時に画定することができる。1つの実施形態では、ナノパントグラフィが、ウェハ上に配置された薄膜上に漏斗状ナノ細孔のアレイを形成する。
図6Bに、ウェハ上に配置された薄膜上の漏斗状ナノ細孔の例を示す。漏斗状ナノ細孔601の各々は、一方の表面に大きな開口部602を有し、他方の表面に小さな開口部603を有する。1つの実施形態では、大きい方の開口部602が分子の受け取りを容易にし、小さい方の開口部603が、1つの分子を空間内に閉じ込めて同定パラメータを測定するためのものである。小さな開口部603は、分子サイズと同等の寸法を有する。1つの実施形態では、小さな開口部が、1、2又は3nmの直径を有する。1つの実施形態では、薄膜が、複数の層を含む複合薄膜である。薄膜は、誘電体層605を挟んだ2つの導電層604を含む少なくとも3つの層で構成することができる。2つの導電層604は、グラフェンなどの炭素系材料、又はイリジウムなどの金属とすることができる。1つの実施形態では、導電層604を、分子の同一性を検出するための電極として機能するようにさらに加工することができる。誘電材料605は、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム又は酸化ジルコニウムなどの高誘電率(high-k)誘電材料とすることができる。1つの実施形態では、high-k誘電材料の層605が、2つの導電材料の層604を電気的に絶縁して、この2つの導電材料の層605間に漏れ電流が流れるのを防ぐように機能する。誘電体層605の1、2又は3nmの厚みは、ssDNAの個々のヌクレオチドなどの単一分子が薄膜上のナノ細孔601を通過する際に、この分子を正確に特定する高分解能を可能にする。漏斗状ナノ細孔は多層薄膜を貫通しているので、各層は、ナノ細孔の部分に円形の貫通孔606を形成し、導電層上のナノ細孔の開口部は中心軸の周囲で対称であるため、これによって中心軸からのあらゆる分子の傾斜が同様の読み取り値をもたらすことが確実になる。挟まれた層は分子の同一性を検出するので、この構造を貫通するナノ細孔の部分は、正確な検出を保証する1、2又は3nmの直径を有する。薄膜は、構造的支持、又は周囲環境からの電気的絶縁をもたらすことなどの目的のために、酸化シリコン又は窒化シリコンなどのさらなる上部誘電材料層607及び下部誘電材料層608をさらに含むことができる。これらのさらなる層は、漏斗状ナノ細孔がさらに大きくなって、検出が行われるナノ細孔の最後の1、2又は3nmへの分子の転移を容易にする薄膜の部分を構成する。上述したナノ細孔の1nm~3nmの範囲の直径及びhigh-k誘電材料の厚みは、特に核酸のために選択される。当業者であれば、アミノ酸、タンパク質又はペプチドなどの他の分子についても、検出信号を最適化するように容易に寸法を調整するであろう。
【0020】
ナノ細孔型シーケンシングバイオチップ
減法又は加法のいずれかを用いてナノ細孔アレイを形成した後には、
図7に示すように、予め加工されている集積回路720及びマイクロ流体チャネル730を有するウェハ上にナノ細孔アレイウェハ750を接合することができる。これによって、測定チャンバの下部キャビティの形成が完了する。核酸試料は、必要に応じて底部ウェハ上のマイクロ流体チャネルを通じてバイオチップから抽出することができる。
【0021】
同様に、いくつかの実施形態では、接合されたナノ細孔ウェハ840及び底部ウェハ850を含む複合ウェハ上に集積回路820及び/又は流体チャネル830を有する上部ウェハ810を接合することによって測定チャンバの上部キャビティが形成される。
図8に、この3層ウェハ構造800を示す。
図9には、電圧バイアス機構910及び関連する電流検知回路920の一実施形態を示す。その後、3層複合ウェハ800は、デッドボリュームが最小であるような適切な流体I/O接続部を用いてワイヤボンディング又はベルグリッドワイヤボンディングの支持フレームに取り付けられる。例えばエポキシ封入法及びセラミックパッケージング法などの典型的なパッケージング技術を用いてアセンブリ全体を取り囲み、ナノ細孔型シーケンシングバイオチップを形成することができる。或いは、検知及びバイアスに関連するような集積回路をナノ細孔ウェハ840上に加工して、集積回路を有する別のウェハの代わりに空の基板に接合することもできる。
【0022】
さらに、いくつかの実施形態では、
図10A及び
図11に示すように、上部ウェハ810に2つのさらなる特徴部、すなわちマイクロ流体チャネル1010に沿った試料案内電極1015と、測定チャンバ1030に通じるナノ流体チャネル1013とが埋め込まれる。以下、ナノ細孔型シーケンシングバイオチップを通る試料の流れをさらに示すために1つの例を詳細に説明する。
【0023】
緩衝液取り入れ口(buffer intake)1025及び緩衝液出口1027は、マイクロ流体チャネル1010、ナノ流体チャネル1013及び測定チャンバ1030のネットワークを検出試料の取り込み前に予め湿らせて満たしておくためのものである。検出中、マイクロ流体チャネル内の流体流は、オンチップ又はオフチップマイクロポンプ及びマイクロバルブを用いて緩衝液流取り入れ口及び出口の流量によって調整することができる。
【0024】
1つの例では、一本鎖核酸分子のリン酸デオキシリボース骨格が各塩基セグメントについて負電荷を帯び、分子の5’末端に2つの負電荷が存在する。試料取り入れ口コネクタ1023を通じて受け入れ容器1020から目的の測定チャンバ1030に至る試料案内電極チェーン1015に沿って脈動する正電圧により、受け入れ容器1020から核酸分子を抽出して、予め割り当てられた測定チャンバに送出することができる。同様に、底部ウェハ上にも、マイクロ流体チャネル1010に沿って、ナノ細孔型シーケンシングバイオチップから同様に試料を抽出するための試料案内電極1017が埋め込まれる。
【0025】
測定チャンバ1040の数は、流体チャネルのネットワークに沿った同様の試料案内電極の機構を用いて1つよりも多くに拡張することができる。
図10Bに、ツリー構造で配置された測定チャンバの例を示す。いくつかの実施形態では、複数の単独分析を行う能力に加えて、試料受け入れ容器1020からDNA断片を抽出する際のDNA断片の順序を各測定チャンバに予め割り当てる。
図10Bに示すように、測定チャンバ1040には2桁の数字を付している。最初の桁は分岐番号を示し、2番目の桁は分岐内の測定チャンバの位置を示す。測定チャンバ1040の割り当て順は、単純に昇順とすることができ、すなわち最初に最も小さな番号のチャンバを使用した後で、次に大きな番号のチャンバを使用することができる。このように、分岐内の全ての測定チャンバを使用した後で次の分岐に移行することができる。或いは、各分岐の最も小さな番号のチャンバに試料を割り当てて最初に最も小さな分岐番号を使用することもでき、すなわち現在の例では、11、21、31、41の後に12、22、32、42などとすることができる。この割り当て法によれば、中央マイクロ流体チャネルから最も距離が離れた各分岐の測定チャンバに最初に割り当てを行った後に、各分岐の次に離れたチャンバに割り当てを行うことができる。この方法は、中央マイクロ流体チャネル内の試料案内電極の電気信号が測定信号に干渉するのを抑えることができる。全体的な測定が完了すると、断片の抽出順に従ってDNA試料全体の配列を体系的に組み立てることができる。これにより、混成プロセスによって元々の試料配列が無作為化されて再び正しい配列に継ぎ合わせるために計算集約的で誤りを生じやすい検出後分析が必要なマイクロアレイ法などの他の従来のシーケンシング法に必要な時間の掛かる検出後分析を排除することができる。さらに、断片の抽出順が記録されるので、再び断片を組み合わせて元々のDNA試料を形成することができる。他の従来のシーケンシング法では、通常は元々の試料が破壊され、将来的な使用のために回復させることができない。
【0026】
再び
図10Aを参照すると、上部ウェハと複合ウェハとのウェハボンディングによって形成されたナノ流体チャネル1013は、フィルタ、試料流速コントローラ及び分子ストレッチャとしての役割を果たすことができる。いくつかの実施形態では、このナノ流体チャネルが、上部ウェハの上部電極をオン及びオフに切り替えることによってフィルタとしての役割を果たし、マイクロ流体チャネルから選択的に試料を引き込むことができる。いくつかの実施形態では、ナノ流体チャネルが、上部電極及び下部電極の電圧を調整することによって試料流速コントローラとしての役割を果たし、ナノ流体チャネルを通る試料の流速を制御することができる。また、
図11に示すように、ナノ流体チャネル1013は、一本鎖核酸分子1101がナノ流体チャネル1013を通過する際にこれを自然な丸まった状態から引き延ばすことができるので、分子ストレッチャとしての役割を果たすこともできる。
【0027】
いくつかの実施形態では、ナノ流体チャネルの速度制御特性を利用してさらに正確な分子の分析を可能にする。
図12に示すように、ナノ細孔1225に検知電極1205を埋め込むと、ナノ細孔1225を通る分子の流れを制御する上でのマイクロ/ナノチャネルネットワークの不可欠な部分になる。ナノ流体チャネルに加えて、付与されるDC電圧も、ナノ細孔1225を通過する際の分子の速度及び方向を微調整するように設計される。統計的誤りを排除することによって分子同定の精度を高め、すなわち偽陽性誤り率を低減するために、上部駆動電極1230及び下部駆動電極1235、並びに埋め込み検知電極1205に付与するDCバイアス電圧の大きさをそれぞれ交互に入れ替えることによって、ナノ細孔1225を通じて試験用分子を前後に複数回引き寄せて分析を繰り返すことができる。
【0028】
ナノ細孔に検知電極が組み込まれたいくつかの従来の方法とは異なり、DNA内の各塩基がナノ細孔を通過する時間は数ナノ秒しか掛からないこともある。このような移動時間は、あらゆる有意義な測定にとって短すぎる。この欠点に照らして、ナノ細孔を通る分子の動きを遅くする他の従来の方法が開発されている。1つの従来の手法は、ナノ細孔にさらなる電極を埋め込むことによって分子の速度を制御する電圧閉じ込めスキームを提案する。提案される電圧閉じ込めスキームは、互いに積み重なって間に誘電材料を挟むことによって互いに電気的に絶縁された導電性電極を4つ又は5つ以上必要とするため実装が困難である。この多層膜上に必要とされる2~3nmのナノ細孔形態は、30:1を上回るアスペクト比を有することができ、現在の集積回路加工技術を用いてこれを達成することは、不可能ではないにせよ困難である。
【0029】
図13Aに示すように、付与されるAC検知電圧1310は、ナノ細孔1325を分子が通過している間にこれらを調べるためのものである。この結果、例えば抵抗の変化、静電容量の変化、位相の変化及び/又はトンネリング電流などの様々な検知機構を用いて分子を同定することができる。埋め込み検知電極1305と試験用分子とが非常に近いので、信号対雑音比を改善することもできる。
【0030】
上記の例示的な試料供給及びフィルタリング機構は、ナノ細孔測定チャンバのアレイをどのよう実装できるかを示す一例として機能するものである。当業者であれば、異なる実施形態では上記の供給及びフィルタリング機構の変形例を使用することもできると認識するであろう。さらに、図示の方法を用いて異なるサイズの細孔アレイを実現することもできる。また、αヘモリシンなどのタンパク質細孔及び上述した固体ナノ細孔のアレイと共に、バイオナノ細孔のアレイを実現することもできる。いくつかの実施形態では、上述した異なる導電層上の積層電極の代わりに、両検知電極を同じ導電層上に配置することもできる。
図13Bに、この平面電極実装の一実施形態を示す。この平面電極実装では、両検知電極1307が同じ導電層上に配置され、検知電極1307間にナノスリット1327が画定される。
図13Cに、検知電極1307及びナノスリット1327の上面図を示す。上述したように、ナノ細孔及びナノスリットは、いずれもナノパントグラフィを用いて画定することができる。
【0031】
例えば一塩基多型の認識などの、いくつかの実施形態における低コストで高速で正確なゲノム分析では、実質的にリアルタイムで分子検出を行う能力、検出前試料増幅を伴わずに単一分子検出を行う能力、複数かつ実質的に同時の検出を行う能力、マルチパス検出を行う能力、計算集約的な検出後分析を伴わずに試料を同定する能力、及び/又は将来的な使用のために検出後に試料を保持する能力が非常に重要である。
【0032】
本発明では、計画的な制限部位又はその付近でニッキング作用(nicking actions)が生じるように、二本鎖DNAであるdsDNAをニッカーゼで前処理する。解離ゾーンにおいて個々のオリゴヌクレオチドがそのdsDNA上の順序に従ってニック入りdsDNAから解離する前に、ニック入りdsDNAを線形化することができる。その後、各オリゴヌクレオチドは、例えばHツリー構造チャネルなどの案内チャネルの異なるアーム部に案内電極によって引き寄せられる。その後、下流のナノ細孔チップが各オリゴヌクレオチドの配列を検出する。一連のHツリー構造チャネルを使用する場合、バランスのとれたHツリー内の単一の入口から葉までの経路長は同じであるように設計されているので、各オリゴヌクレオチドがナノ細孔に到達する時間は、dsDNA上のオリゴヌクレオチドの順序を大まかに反映する。この順序を使用して検出結果を組み立てて、参照配列を使用せずに元々のdsDNAの配列を取得することができる。dsDNA内の2つの鎖は互いに相補的であるため、ナノ細孔チップにほぼ同時に到達する2つのオリゴヌクレオチドは互いに相補的である可能性が高く、このような各オリゴヌクレオチドの対の検出された配列は、互いの正確さを逆チェック、すなわち自己チェックする。2つの最大限に相補的なオリゴヌクレオチドを対にする時には、dsDNA上の制限部位の散在性によって生じる各オリゴヌクレオチドの2つの末端の突出部の配列を、隣接するオリゴヌクレオチドの対を探し当てる際の一致基準、すなわち自動案内として使用する。この内蔵された自己チェック及び自動案内機構により、参照配列を伴わずにオリゴヌクレオチドの検出された配列を互いに組み立て、すなわち新たなシーケンシングを達成することができる。
【0033】
1つの実施形態では、チャンバ1401に、DNA1402の少なくとも1つの鎖の特定の制限部位をニッキングする酵素を含む長いdsDNAが供給される。1つの実施形態では、dsDNAが、酵素によってニッキングされた後に真っ直ぐに伸びる。
図14に、dsDNAを真っ直ぐに伸ばすための実施形態を示す。dsDNAをニッキングする酵素としては、fokI型ニッカーゼなどの突然変異したII S型エンドヌクレアーゼ、他の新たに発見されたニッカーゼ、又はニューイングランド州BioLab社のREBASEデータベースに含まれている人工的に操作されたニッカーゼ、CRISPR/cas9由来のニッカーゼ、及びTALEN様fokI型(TALEN like fokI based)ニッカーゼが挙げられる。その後、酵素的にニッキングされたニック入りDNAは、酵素活性が生じた場所の下流の位置又は分離したチャンバ内で、例えば熱又は酵素によってssDNAの短鎖に分解される。ニック入りDNAは、酵素修飾後にニッキングされたにもかかわらず長い二重螺旋としての状態を保つので、長いニック入りdsDNAは、長いdsDNAからssDNAの短鎖が制御された形で1つずつ解離する解離ゾーンに向かって供給されるように(例えば、案内電極によって)制御することができる。この解離は、加熱又はヘリカーゼなどの酵素によって行うことができる。1つの実施形態では、これらの酵素が、バクテリオファージT7遺伝子産物4、すなわちgp4、野生型タンパク質、又は突然変異誘導体を含む。その後、ssDNAの短鎖は、複数の出口に通じる単一の入口を介して下流に供給される。入口から出口に通じる経路の全長は、ssDNAの出口到達時間が元々のdsDNA上のssDNAの順序を示唆するように、どれも同じになるように設計されている。案内電極は、入口に入り込んだssDNAを異なるチャネルに割り当てる。1つの実施形態では、ssDNAの出口到達を確実にするように、案内電極がチャネル全体に沿って存在する。1つの実施形態では、一連のチャネルがHツリー構造を有する。
図15に、Hツリー構造の例を示す。各出口では、ssDNAがナノ細孔を通過して配列が読み取られる。元々の長鎖DNA上のssDNAの順序が分かっているので、個々のssDNAが読み取られた後には、配列全体を再び容易に継ぎ合わせることができる。
図16に、参照配列を伴わずにオリゴヌクレオチド配列をdsDNA配列に組み立てる連結アルゴリズムの例を示す。
【0034】
Lin及びその同業者らは、それぞれがデュアルクアッドコアXenonプロセッサ(2.4GHz)及び12GB RAMを有する8台のコンピュータサーバのクラスタを用いて7つの新規アセンブリアルゴリズムに関する比較を行い、これらの7つのアルゴリズムのアセンブリ時間が、C.エレガンス(20.9Mbp、メガ塩基対)では数分から数時間の範囲であることに気付いた(Lin、Yong他著、「次世代シーケンシング技術のための新規アセンブリツールの比較研究(Comparative studies of de novo assembly tools for next-generation sequencing technologies)」、Bioinformatics、2011年8月1日、27(15)、2031~2037頁を参照)。
【0035】
上述したニッカーゼ試料の調製及び関連するアセンブリアルゴリズムの改善を実証するために、デュアルコアi5プロセッサ(2.5GHz)及び16GB RAMを備えたMacBook ProラップトップにPythonを用いてニッキング作用及びアセンブリアルゴリズムを実装した。他の7つの新規アセンブリアルゴリズムとの公正な比較のために、20Mbpの長さのdsDNAの配列をランダムに生成し、予め定めた制限部位のパターンに従ってdsDNAの二本鎖に沿ったニックを生成し、最後に短縮ssDNAの配列に従ってライブラリ(ハッシュテーブル)を生成した。ssDNAの読み取り及びアセンブリを連続して行う際には、他の7つの新規アセンブリアルゴリズムと同調して複数の事例のシミュレーションを行い、すなわちssDNAの全ての結果が利用可能になって初めてアセンブリプロセスを開始した。本発明の方法を用いた典型的なアセンブリ時間は5分未満であり、このことは、ポータブルシステムを用いて試料DNAに対するリアルタイム分析を実行できることを意味する。
図16のフローチャートに示すように、このアセンブリ時間は、ssDNAの読み取りとアセンブリとを同時に処理した場合には実質的に短くなると予想される。
【0036】
1つの実施形態では、液体生検及び無細胞DNA分析の場合と同様の希少な対立遺伝子又は超少量の配列などのDNA配列をナノ細孔において読み取るように処理する前に、デジタルPCR、dPCRによってDNA試料を増幅する。別の実施形態では、dPCRがシーケンシング系とは別に存在する。本発明のdPCRは、上述したようなHツリー構造を有する一連のチャネルを含む。1つの実施形態では、これらの一連のチャネルを、フロリナート、3M社から市販されている合成油、又は鉱油などの、水よりも沸点が高い疎水性流体で満たす。DNA試料を水性のPCR検定用試薬と混合した後に一連のHツリーチャネルの単一の入口に供給し、複数の出口の各々において少量のDNA試料及び試薬をウェル内に分注する。1つの実施形態では、これらのウェルが、シリコンウェハ上に加工された細孔のアレイである。別の実施形態では、各ウェルの直径が10~1000μmである。PCRに必要な温度の制御は、ウェルのアレイを有するシリコンウェハにセンサ及び加熱素子を埋め込むことによって、或いは温度制御された環境内にウェハ全体を配置することによって行う。1つの実施形態では、各ウェルに結合されたCMOS又はCCDが各ウェルからの蛍光信号を記録する。シーケンシング系内のdPCRについては、1又は2以上の選択されたウェルからの試料が、漏斗状ナノ細孔におけるDNA配列の読み取りに必要な処理のために下流に進むことができる。dPCRが単独装置として存在する時には、1つの開口部においてHツリー構造チャネルの出口に接続された細孔のアレイを、DNA試料を回収すべき場合に除去できる膜によってシールする。
図17及び
図18に、本発明における単独のdPCRの実施形態を示す。この実施形態では、dPCRが、ウェルアレイ及びHツリーマイクロ流体ネットワークから成る。Hツリーマイクロ流体ネットワークの各出口は、加工時にウェルアレイ上の対応するウェルに接続される。ウェルアレイ1701のマイクロ流体ネットワークに接続されていない方の面は透明膜で覆われて上部チャネルを形成し、Hツリーマイクロ流体ネットワーク1702のウェルアレイに接続されていない方の面は支持スラブで覆われる。透明膜及び支持スラブは、いずれも明確にするために
図17からは省いている。I/Oポートも
図17から省いている。
図18には、完全なリアルタイムdPCRモジュールを示す。オイル及び試料の投入口、並びに余剰分レセプタクルは含めているが、透明膜は省略している。1つの実施形態では、dPCRの試料装入が、1)モジュールを合成油で部分的に満たし、2)チャネル内に試料液体を装入し、3)さらなる合成油をポンプ注入して試料液体をウェル内に押し込む、ことによって行われる。例えばHツリーマイクロ流体ネットワークのように流体チャネルが正しく設計され製造されている場合、試料液体は各ウェルに均等に分布すると予想される。試料液体は、装入後に前面及び背面においてオイルに捕らえられる。蒸発によって水が失われることはなく、すなわち試料装入プロセス全体を通じて分析物の濃度は維持される。投入される試料液体の容積には限界があり、アレイ内の全てのウェルの全容積よりも小さいと予想されるので、試料液体の初期体は、階層的流体ネットワーク内の各連続するレベルにおいて小さいけれども等しい容積に分割される。最後には、異なるウェル内に最終的な「小滴」が分配される。各小滴の位置は、温度サイクル前、温度サイクル中及び温度サイクル後にアレイ内に固定される。外部撮像装置を用いて、温度サイクルにおける各サイクルの異なる波長の蛍光画像を取り込むことができる。このことは、PCRの進行をリアルタイムでモニタできること、すなわちリアルタイムdPCRを意味する。必要時には、針を用いて透明膜を穿孔し、さらなるプロセスのために注射器又は中空光ファイバを用いてウェルから関心小滴を抽出することができる。dPCRチップは、ウェルのサイズに基づいて、以下の技術のうちの1つ又は2つ以上によって加工することができる。1つの実施形態では、数百ミクロンの直径を有するウェルを加工するために3D印刷又は成形を使用する。別の実施形態では、数百~数十ミクロンの直径を有するウェルを加工するためにナノ3D印刷又はマイクロ成形を使用する。さらなる実施形態では、数十~数ミクロンの直径を有するウェルを加工するために熱プラスチック上のナノインプリント又はシリコン上の半導体製造技術を使用する。シリコンチップの場合には、高速熱サイクルのためにチップ上に加熱素子を組み込むことができる。
【0037】
当業者であれば、Hツリー構造を他の用途に使用することもできると容易に認識するであろう。1つの実施形態では、DNA分子の代わりに個別細胞などの他の生物学的物質を異なるウェルに取り込んで複数の単一細胞実験を行うことができる。
【0038】
ナノ細孔型シーケンサ
ナノ細孔型シーケンサは、ポータブルゲノム検出及び分析システムを提供する。いくつかの実施形態では、ナノ細孔型シーケンサが、2つの主要コンポーネント、すなわちハードウェア及びソフトウェアを含む。以下、高水準アーキテクチャ及びサブユニットのいくつかの実施形態について説明する。
【0039】
A.ハードウェアシステム
いくつかの実施形態では、ナノ細孔型シーケンサのハードウェアシステムが、2つの主要ユニット、すなわち計算、通信及び制御ユニット、並びにナノ細孔型シーケンシングバイオチップインターフェイスユニットと、様々なモジュールとを含む。
図19に、高水準アーキテクチャの一実施形態を示す。以下、様々な要素の詳細についてさらに説明する。
【0040】
I.計算、通信及び制御ユニット
1つの実施形態では、ハードウェアシステム1900が、ディスプレイ装置を有するポータブルコンピュータシステム1910を含む。ポータブルコンピュータシステム1910は、タブレット、ラップトップ、ネットブック、オールインワン型デスクトップコンピュータ、スマートホン、携帯情報端末(PDA)、又はいずれかのハンドヘルドコンピュータ装置などを用いて実装することができる。ポータブルコンピュータシステム1910は、オペレーティングシステム(OS)を実行し、データ分析ソフトウェアを実行し、データを記憶し、ナノ細孔型シーケンシングバイオチップの動作を制御し、ナノ細孔型シーケンシングバイオチップからデータを収集する、中央装置としての役割を果たす。
【0041】
1つの実施形態では、ハードウェアシステム1900が、ネットワーク通信モジュール1920をさらに含む。ネットワーク通信モジュール1920は、WiFi、WiMAX、イーサネット、Bluetooth、電話機能、衛星リンク及び全地球測位システム(GPS)などのうちの1つ又は2つ以上を含む。ネットワーク通信モジュール1920は、データ共有、プログラム更新、データ分析などのために中央コンピュータシステムと通信し、データを共有して複数のコンピュータ装置において並行してデータ分析を実行できるように他のコンピュータ装置と通信し、データ共有、プログラム更新などのために他のBluetooth対応装置(例えば、携帯電話機、プリンタなど)と通信し、GPS信号を送受信する、通信ハブとしての役割を果たす。
【0042】
1つの実施形態では、ハードウェアシステム1900が、入力装置1930をさらに含む。入力装置1930は、キーボード、タッチ画面、マウス、トラックボール、赤外線(IR)ポインティングデバイス及び音声認識装置などのうちの1つ又は2つ以上を含むことができる。入力装置1930は、コマンド入力及びデータ入力のためのヒューマンインターフェイスとしての役割を果たす。
【0043】
1つの実施形態では、ハードウェアシステム1900が、フラッシュメモリカードインターフェイス、IEEE1394インターフェイス、及びユニバーサルシリアルバス(USB)インターフェイスなどを含むことができる入力/出力(I/O)ポート1940をさらに含む。I/Oポート1940は、他の電子装置とのシリアルインターフェイス、二次データ記憶インターフェイス、及びナノ細孔型シーケンシングバイオチップの測定データI/Oとしての役割を果たす。
【0044】
II.ナノ細孔型シーケンシングバイオチップインターフェイスユニット
いくつかの実施形態では、ナノ細孔型シーケンシング(nSeq)バイオチップインターフェイスユニット1950が、nSeq電子モジュール1960、流体制御モジュール1970、化学物質貯蔵及び流体I/O接続モジュール1980、並びにnSeq流体制御及び試料I/O接続モジュール1990に結合する。nSeq電子モジュール1960は、核酸モジュールの分配を制御し、ナノ流体チャネルの流速を制御し、測定データを収集し、計算、通信及び制御ユニットにデータを出力する。
【0045】
いくつかの実施形態では、流体制御モジュール1970が、緩衝液取り入れ口/出口コネクタと、オンチップ又はオフチップマイクロポンプ及びマイクロバルブの使用とを通じて、化学物質貯蔵庫とnSeqバイオチップとの間の流体流を制御する。化学物質貯蔵及び流体I/O接続モジュール1480は、必要に応じてnSeqバイオチップに化学物質を供給するとともに、化学物質及び/又はバイオ廃棄物貯蔵庫としての役割を果たすこともできる。nSeq流体制御及び試料I/O接続モジュール1990は、nSeqバイオチップ内の流体及び試料の流れを制御するとともに、nSeqバイオチップの試料の取り入れ及び排出を制御することもできる。例えば、再び
図10Bを参照すると、測定チャンバ#11において検出を行いたいと望む場合には、分岐#1の緩衝液出口が開いて他の全ての緩衝液出口が閉じる。この結果、流体が試料取り入れ口から分岐#1に向かって流れ、マイクロ流体チャネル沿いの試料案内電極と同期的に連動して測定チャンバ#11に試料を送達する。
【0046】
B.ソフトウェアアーキテクチャ
図20に、ナノ細孔型シーケンサの一実施形態におけるオペレーティングシステム及びゲノム分析ソフトウェアのソフトウェアコンポーネント及び関連するハードウェアコンポーネントの高水準アーキテクチャを示す。図示のソフトウェアアーキテクチャ内の様々な論理処理モジュールは、コンピュータ可読媒体内に具体化された命令を実行する(
図19のポータブルコンピュータシステム1910などの)処理装置が実装することができる。コンピュータ可読媒体は、コンピュータ(例えば、サーバ、パーソナルコンピュータ、ネットワーク装置、携帯情報端末、製造ツール、1又は2以上のプロセッサの組を有するいずれかの装置など)がアクセスできる形の情報を提供(すなわち、記憶及び/又は送信)するいずれかの機構を含む。例えば、コンピュータ可読媒体は、記録可能/記録不可能媒体(例えば、リードオンリメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、磁気ディスク記憶媒体、光学記憶媒体、フラッシュメモリデバイスなど)などを含む。
【0047】
上述したように、オペレーティングシステム2010は、計算、通信及び制御ユニットにインストールされる。オペレーティングシステム2010は、Windows、Linux(登録商標)、又はコンピュータ装置に適したいずれかのオペレーティングシステムを含むことができる。ゲノム解析ソフトウェアは、計算、通信及び制御ユニットにインストールされたオペレーティングシステム2010とは別に、5つの処理モジュール、すなわちグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)2020、データビューア2030、ゲノムデータ分析器インターフェイス2040、ゲノムデータ分析器2050及びゲノムデータベース2060を含む。以下、
図20を参照しながら、オペレーティングシステム2010と、上記の処理モジュール2020~2060と、他のハードウェアコンポーネントとの間の相互作用のいくつかの実施形態について説明する。
【0048】
いくつかの実施形態では、ゲノムデータ分析器インターフェイス2040が、ゲノム分析ソフトウェアアーキテクチャにおけるデータフロー制御ユニットとして機能する。オペレーティングシステム2010は、入力装置からコマンド及び/又は入力データを取得した後に、ゲノムデータ分析器インターフェイス2040を介してゲノムデータ分析器2050に情報を送信する。この結果、これに応じてゲノムデータ分析器2050が動作する。ゲノムデータ分析器インターフェイス2040は、適切なコマンド(例えば、GET、ADDなど)を用いてI/Oポート2070とゲノムデータベース2060との間のデータフローを制御し、従ってデータベース2060に記憶されたデータを送出又は更新することができる。同様に、I/Oポート2070及び/又は入力装置2080を介して分析器ソフトウェアを定期的に更新することもできる。ゲノムデータ分析器インターフェイス2040は、nSeqバイオチップインターフェイス2090にも結合されてnSeqバイオチップをモニタする。nSeqバイオチップの状態は、分析器インターフェイス2040を介してモニタされ、(
図19のポータブルコンピュータシステム1910内のディスプレイ装置などの)表示ユニットに表示される。ゲノムデータ分析器インターフェイス2040は、ゲノムデータ分析器2050からの結果も取得して表示ユニットに表示する。
【0049】
いくつかの実施形態では、ゲノムデータ分析器2050が、ゲノム分析ソフトウェアの主要データ分析ユニットである。ゲノムデータ分析器2050は、nSeqバイオチップから測定結果を取得して分析を行った後に、これらの結果をデータベース2060に記憶されているデータと比較して生物学的作用物質を同定する。これらの分析結果は、表示ユニットに表示して、将来的に参照できるようにデータベース2060に記憶することができる。
【0050】
ゲノムデータベース2060は、既存の生物学的作用物質及び新たに発見された核酸配列を記憶するためのデータリポジトリである。データビューア2030は、他のユニットの一部又は全部からデータ及び情報を取得してこれらをディスプレイ装置上に表示するソフトウェアルーチンを含む。
【0051】
以上、ポータブルなリアルタイムの分子分析及び同定のための方法及び装置について説明した。上記の説明から、本発明の態様を少なくとも部分的にソフトウェアで具体化できることが明らかであろう。すなわち、これらの技術は、コンピュータシステム又はその他のデータ処理システムにおいて、これらのシステムのプロセッサがメモリに含まれる一連の命令を実行することに応答して実施することができる。様々な実施形態では、本発明を実施するためにハードワイヤード回路をソフトウェア命令と組み合わせて使用することができる。従って、これらの技術は、ハードウェア回路とソフトウェアとの特定の組み合わせに限定されるものではなく、或いはデータ処理システムが実行する命令のいずれかの特定のソースに限定されるものでもない。また、説明を単純化するために、本明細書全体を通じて様々な機能及び動作をソフトウェアコードによって実行され又は引き起こされるものとして説明していることがある。しかしながら、当業者であれば、このような表現が意味するところは、プロセッサ又はコントローラがコードを実行した結果としてこれらの機能が行われるということであると理解するであろう。
【0052】
本発明は、1つの実施形態において、ニック入り二本鎖DNAから解離した一本鎖DNAの短鎖の順序を維持するための装置であって、上記ニック入り二本鎖DNAを一本鎖DNAの短鎖に解離するための解離ゾーンと、単一の入口及び複数の出口を含む一連のチャネルと、一連のチャネル内の案内電極の組とを備え、上記入口から上記複数の出口のいずれか1つまでの各チャネルの長さが同じであり、上記入口が解離ゾーンの下流に存在し、上記案内電極が、上記一連のチャネルにおける別個のチャネル内に各オリゴヌクレオチドを割り当てる、装置を提供する。
【0053】
1つの実施形態では、上記解離ゾーンが、ニック入り二本鎖DNAを真っ直ぐに伸ばすための機構を含む。別の実施形態では、上記機構が、マイクロピラー又はナノピラーのアレイを含む。さらなる実施形態では、上記機構がDNAポンプを含む。
【0054】
1つの実施形態では、上記解離ゾーンが熱源を含む。
【0055】
1つの実施形態では、上記解離ゾーンがヘリカーゼを含む。
【0056】
1つの実施形態では、上記一連のチャネルがHツリー構造を有する。
【0057】
1つの実施形態では、上記装置が、上記出口の各々にウェルを含む。
【0058】
本発明は、1つの実施形態において、デジタルPCRのための装置であって、ニック入り二本鎖DNAを一本鎖DNAの短鎖に解離するための解離ゾーンと、単一の入口及び複数の出口を含む一連のチャネルと、一連のチャネル内の案内電極の組と、2つの面を含むウェルアレイとを備え、上記入口から上記複数の出口のいずれか1つまでの各チャネルの長さが同じであり、上記入口が解離ゾーンの下流に存在し、上記案内電極が、上記一連のチャネルにおける別個のチャネル内に各オリゴヌクレオチドを割り当て、上記2つの面の一方が、それぞれが一連のチャネルの出口に接続されたウェルを含み、上記2つの面の一方が透明膜を含む、装置を提供する。
【0059】
1つの実施形態では、上記解離ゾーンが、ニック入り二本鎖DNAを真っ直ぐに伸ばすための機構を含む。1つの実施形態では、上記機構は、マイクロピラー又はナノピラーのアレイを含む。1つの実施形態では、この機構は、DNAポンプを含む。
【0060】
1つの実施形態では、上記解離ゾーンが熱源を含む。
【0061】
1つの実施形態では、上記解離ゾーンがヘリカーゼを含む。
【0062】
1つの実施形態では、上記一連のチャネルがHツリー構造を有する。
【0063】
本発明は、1つの実施形態において、本発明の装置に装入を行う方法であって、一連のチャネルを合成油で部分的に満たすステップと、上記一連のチャネルの入口に試料液体を装入するステップと、さらなる合成油をポンプ注入して上記試料液体をウェル内に押し込むステップと、を含む方法を提供する。
【0064】
本発明は、1つの実施形態において、ナノ細孔シーケンサであって、ニック入り二本鎖DNAを一本鎖DNAの短鎖に解離するための解離ゾーンと、単一の入口及び複数の出口を含む一連のチャネルと、この一連のチャネル内の案内電極の組と、複数のナノ細孔を含むナノ細孔アレイウェハとを備え、上記入口から上記複数の出口のいずれか1つまでの各チャネルの長さが同じであり、上記入口が解離ゾーンの下流に存在し、上記案内電極が、上記一連のチャネルにおける別個のチャネル内に各オリゴヌクレオチドを割り当て、上記複数のナノ細孔の各々が上記複数の出口のうちの1つに接続されたナノ細孔シーケンサを提供する。
【0065】
1つの実施形態では、上記解離ゾーンが、ニック入り二本鎖DNAを真っ直ぐに伸ばすための機構を含む。
【0066】
1つの実施形態では、上記解離ゾーンが、熱源又はヘリカーゼを含む。
【0067】
1つの実施形態では、上記一連のチャネルがHツリー構造を有する。
【0068】
本発明は、1つの実施形態において、ナノスリット型シーケンシング法であって、ポータブル分子分析器内のナノスリット型シーケンシングチップから、ポータブル分子分析器に投入される分子の試料に関する測定データを受け取るステップと、この測定データの分析を行って試料内の分子を同定するステップとを含み、ナノスリット型シーケンシングチップが、上記分子の試料の1又は2以上の電気的特性を測定するように構成されて、それぞれが埋め込み検知電極の少なくとも1つの対を含む複数のナノスリットを画定する漏斗状ナノスリットアレイウェハを有し、上記埋め込み検知電極の各対がナノスリットの両側に配置される、方法を提供する。
【0069】
1つの実施形態では、上記ナノスリット型シーケンシングチップが、上記埋め込み検知電極の少なくとも1つの対を用いて上記複数のナノスリットのうちの少なくとも1つにおける抵抗の変化、静電容量の変化、位相の変化又は電流の変化を検出することによって上記測定データを取得する。1つの実施形態では、上記電流がトンネリング電流を含む。
【0070】
1つの実施形態では、複数のナノスリットの各々が、1又は2以上のナノ流体チャネル及び1又は2以上のマイクロ流体チャネルと流体連通する。
【0071】
1つの実施形態では、上記ナノスリット型シーケンシングチップが、上記記埋め込み検知電極の少なくとも1つの対を用いて電圧閉じ込めを行ってナノスリットを通る上記分子の移動速度を制御することによって測定データを取得する。
【0072】
1つの実施形態では、上記ナノスリット型シーケンシングチップが、ナノスリットを通る分子の転移中に、上記埋め込み検知電極の少なくとも1つの対を用いて交流電流を付与して電気信号を検出することによって測定データを取得する。
【0073】
1つの実施形態では、上記ナノスリット型シーケンシングチップが、複数のナノスリットの外部にある電極を用いて複数のナノスリットのうちの少なくとも1つに電圧電位を付与することによって測定データを取得する。
【0074】
本発明は、1つの実施形態において、請求項1に記載のシーケンシング法を実行するためのポータブル分子分析器であって、試料を受け取るように構成された試料取り入れ口と、試料の1又は2以上の電気的特性を測定するように構成されたナノスリット型シーケンシングチップとを備え、上記ナノスリット型シーケンシングチップが上記試料取り入れ口と流体連通し、上記ナノスリット型シーケンシングチップが、それぞれが埋め込み検知電極の少なくとも1つの対を含む複数のナノスリットを画定するナノスリットアレイウェハを有し、上記埋め込み検知電極の各対が上記ナノスリットの両側に配置された、ポータブル分子分析器を提供する。
【0075】
1つの実施形態では、上記複数のナノスリットの各々が、異なる材料で形成された複数の層を含む。
【0076】
1つの実施形態では、上記ナノスリットの長さに沿って同じ深さに存在する第1の電極及び第2の電極を有する。
【0077】
1つの実施形態では、複数の埋め込み検知電極が、少なくとも1つのナノスリットの少なくとも2つの層内に形成される。
【0078】
1つの実施形態では、複数の埋め込み検知電極が、少なくとも1つのナノスリットにおける抵抗の変化、静電容量の変化、位相の変化又は電流の変化を検出するように構成される。
【0079】
1つの実施形態では、上記電流がトンネリング電流を含む。
【0080】
1つの実施形態では、上記ポータブル分子分析器が、ポータブル分子分析器の複数のナノスリットの少なくとも1つの上方に固定された上部電極と、ポータブル分子分析器の少なくとも1つのナノスリットの下方に固定された下部電極とをさらに備え、上記少なくとも1つのナノスリットが、上部電極と下部電極との間に電気的連通のための経路をもたらす。
【0081】
1つの実施形態では、下部電極又は上部電極が集積回路と電気的に連通する。
【0082】
1つの実施形態では、集積回路が、電圧バイアス機構又は電流検知回路を含む。
【0083】
1つの実施形態では、ナノスリット型シーケンシングチップが、それぞれが1又は2以上のナノ流体チャネル及び1又は2以上のマイクロ流体チャネルと流体連通する複数のナノスリットを画定するナノスリットアレイウェハを有する。
【0084】
1つの実施形態では、上記1又は2以上のマイクロ流体チャネルが、1又は2以上のマイクロ流体チャネルに沿って試料を案内するように構成された案内電極を含み、或いは上記1又は2以上のナノ流体チャネルが、1又は2以上のナノ流体チャネルに沿って試料を案内するように構成された案内電極を含む。
【0085】
本発明は、1つの実施形態において、シーケンシング法を実行するためのポータブル分子分析器であって、試料を受け取るように構成された試料取り入れ口と、試料の1又は2以上の電気的特性を測定するように構成されたナノ細孔型シーケンシングチップとを備え、上記ナノ細孔型シーケンシングチップが上記試料取り入れ口と流体連通し、上記ナノ細孔型シーケンシングチップが、それぞれが埋め込み検知電極の少なくとも1つの対を含む複数のナノ細孔を画定するナノ細孔アレイウェハを有し、上記埋め込み検知電極の各対が上記ナノ細孔の両側に配置された、ポータブル分子分析器を提供する。
【0086】
1つの実施形態では、上記ナノ細孔型シーケンシングチップが、測定チャンバに向けて試料を案内する第1の1又は2以上の試料案内電極の組と、試料を測定チャンバから離れるように案内する第2の1又は2以上の試料案内電極の組と、複数のナノ細孔を含むナノ細孔アレイウェハと、ナノ細孔アレイウェハの上面に接合された上部ウェハと、ナノ細孔アレイウェハの底面に接合された底部ウェハと、上部ウェハ及びナノ細孔アレイウェハによって画定された1又は2以上のナノ流体チャネルと、底部ウェハ及びナノ細孔アレイウェハによって画定された1又は2以上のマイクロ流体チャネルと、それぞれがナノ細孔と上部駆動電極と下部駆動電極とを含む複数の測定チャンバと、を備えたナノ細孔型シーケンシングチップ、又は、誘電材料層を挟んだ2つの導電材料層と、複数のナノ細孔とを含むナノ細孔アレイウェハであって、複数のナノ細孔がナノ細孔アレイウェハの厚み全体を横切る、ナノ細孔アレイウェハと、ナノ細孔アレイウェハの上面に接合された上部ウェハと、ナノ細孔アレイウェハの底面に接合された底部ウェハと、上部ウェハ及びナノ細孔アレイウェハによって画定された1又は2以上のナノ流体チャネルと、底部ウェハ及びナノ細孔アレイウェハによって画定された1又は2以上のマイクロ流体チャネルと、を備え、上記複数のナノ細孔を通過する分子を調べるために上記2つの導電材料層にAC検知電流が付与される、ナノ細孔型シーケンシングチップである。
【0087】
本明細書全体を通じ、「1つの実施形態(one embodiment)」又は「ある実施形態(an embodiment)」との言及は、その実施形態に関連して説明する特定の特徴、構造又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味すると理解されたい。従って、本明細書の様々な部分における「いくつかの実施形態(some embodiment)」、「1つの実施形態(one embodiment)」又は「別の実施形態(an alternative embodiment)」についての2又は3以上の言及は、必ずしも全てが同じ実施形態を示すとは限らないということを強調し、そのように理解されたい。さらに、これらの特定の特徴、構造又は特性は、本発明の1又は2以上の実施形態において適切に組み合わせることもできる。また、複数の実施形態の観点から本発明を説明したが、当業者であれば、本発明は説明した実施形態に限定されるものではないと認識するであろう。本発明の実施形態は、添付の特許請求の範囲において修正及び変更を伴って実施することができる。従って、本明細書及び図面は本発明を限定するものではなく、例示とみなすべきである。
【符号の説明】
【0088】
601 漏斗状ナノ細孔
602 大きな開口部
603 小さな開口部
604 導電層
605 誘電体層
606 貫通孔
607 上部誘電材料層
608 下部誘電材料層