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特許7522828ポリブタジエン組成物及びその製造方法、ゴム組成物、タイヤ及びゴムベルト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ポリブタジエン組成物及びその製造方法、ゴム組成物、タイヤ及びゴムベルト
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20240718BHJP
   C08F 236/06 20060101ALI20240718BHJP
   C08F 6/10 20060101ALI20240718BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C08L9/00
C08F236/06
C08F6/10
B60C1/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022518066
(86)(22)【出願日】2021-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2021016694
(87)【国際公開番号】W WO2021221029
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2020078170
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521491130
【氏名又は名称】UBEエラストマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑季
(72)【発明者】
【氏名】平井 裕士
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-044146(JP,A)
【文献】特開2013-227522(JP,A)
【文献】特開2003-040919(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104745(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/00
C08F 236/06
C08F 6/10
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブタジエンゴムとシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとを含有するポリブタジエン組成物であって、
ポリブタジエン組成物は、ポリブタジエンゴムとシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとの間に界面成分を有し、
原子間力顕微鏡で測定した前記界面成分の厚みは、40~55nmであり、
シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの含有量に対する界面成分の含有量の割合は、0.01~0.20である、ポリブタジエン組成物。
【請求項2】
界面成分の含有量は、0.1~2.0質量%である、請求項1に記載のポリブタジエン組成物。
【請求項3】
原子間力顕微鏡で測定した単位面積当たりのシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの個数の逆数に1000を乗じた数値(SPBサイズ指数)は、1~5である、請求項1又は2に記載のポリブタジエン組成物。
【請求項4】
界面成分の含有量をSPBサイズ指数で除した数値は、0.1~0.6である、請求項1~のいずれか一項に記載のポリブタジエン組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のポリブタジエン組成物を含む、ゴム組成物。
【請求項6】
請求項に記載のゴム組成物を用いたタイヤ。
【請求項7】
請求項に記載のゴム組成物を用いたゴムベルト。
【請求項8】
ポリブタジエン組成物の製造方法であって、
1,3-ブタジエンをシス-1,4-重合する工程と、
前記工程で得られた重合反応混合物中の1,3-ブタジエンをシンジオタクチック-1,2-重合する工程と、
前記工程で得られたポリブタジエン組成物を脱溶媒及び脱水・乾燥する工程を含み、
ポリブタジエン組成物を脱溶媒及び脱水・乾燥する工程は、
熱水処理で脱溶媒する工程と、
熱、せん断及び圧搾押出力を加えて脱水・乾燥する工程とを含み、
脱溶媒及び脱水・乾燥する工程で得られたポリブタジエン組成物の界面成分の厚みは、40~55nmであり、
シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの含有量に対する界面成分の含有量の割合は、0.01~0.20である、ポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項9】
熱、せん断及び圧搾押出力を加えて脱水・乾燥する工程は、スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機で脱水・乾燥する工程を含む、請求項に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項10】
スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機で脱水・乾燥する工程は、スクリュー圧縮絞り機による脱水乾燥を行った後に、エキスパンジョン型押出乾燥機による脱水・乾燥を行う工程である、請求項に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項11】
スクリュー圧縮絞り機の運転条件は、内温が75~155℃であり、先端圧力は0.1~3.0MPaである、請求項又は10に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【請求項12】
エキスパンジョン型押出乾燥機の運転条件は、内温が70~140℃であり、圧力は5~13MPaである、請求項11のいずれか一項に記載のポリブタジエン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブタジエン組成物及びその製造方法、ゴム組成物、タイヤ及びゴムベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含有するポリブタジエン組成物は、従来のポリブタジエンゴムに比べて製品(ゴム組成物やタイヤなど)の機械的特性等の改良を容易にする材料として知られている。
【0003】
特定の引裂強度や耐屈曲亀裂特性を有するシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含有するポリブタジエン組成物が開示されている(特許文献1及び2)。
また、特定の成形性や引張応力、引張強さ、耐屈曲亀裂成長性を有するシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含有するポリブタジエン組成物が開示されている(特許文献3~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭49-17666号公報
【文献】特公昭49-17667号公報
【文献】特開2000-44633号公報
【文献】特開2018-44146号公報
【文献】特開2019-56073号公報
【文献】特開2013-227522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1~6には、加工性、押出寸法安定性及び硬度に優れたシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンを含有するポリブタジエン組成物は開示されていない。
本発明は、硬度に優れたゴム組成物を得ることが可能であり、かつ加工性及び押出寸法安定性に優れ、さらに加工性、押出寸法安定性及び硬度の物性バランスも優れたポリブタジエン組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に関する。
[1]ポリブタジエンゴムとシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとを含有するポリブタジエン組成物であって、
ポリブタジエン組成物は、ポリブタジエンゴムとシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとの間に界面成分を有し、
原子間力顕微鏡で測定した前記界面成分の厚みは、40~55nmである、
ポリブタジエン組成物。
[2]界面成分の含有量は、0.1~2.0質量%である、[1]のポリブタジエン組成物。
[3]シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの含有量に対する界面成分の含有量の割合は、0.01~0.20である、[1]又[2]のポリブタジエン組成物。
[4]原子間力顕微鏡で測定した単位面積当たりのシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンの個数の逆数に1000を乗じた数値(SPBサイズ指数)は、1~5である、[1]~[3]のいずれかのポリブタジエン組成物。
[5]界面成分の含有量をSPBサイズ指数で除した数値は、0.1~0.6である、[1]~[4]のいずれかのポリブタジエン組成物。
[6][1]~[5]のいずれかのポリブタジエン組成物を含む、ゴム組成物。
[7][6]のゴム組成物を用いたタイヤ。
[8][6]のゴム組成物を用いたゴムベルト。
[9]ポリブタジエン組成物の製造方法であって、
1,3-ブタジエンをシス-1,4-重合する工程と、
前記工程で得られた重合反応混合物中の1,3-ブタジエンを、シンジオタクチック-1,2-重合する工程と、
前記工程で得られたポリブタジエン組成物を脱溶媒及び脱水・乾燥する工程を含み、
ポリブタジエン組成物を脱溶媒及び脱水・乾燥する工程は、
熱水処理で脱溶媒する工程と、
熱、せん断及び圧搾押出力を加えて脱水・乾燥する工程とを含み、
前記ポリブタジエン組成物を脱溶媒及び脱水・乾燥する工程で得られたポリブタジエン組成物の界面成分の厚みは、40~55nmである、
ポリブタジエン組成物の製造方法。
[10]熱、せん断及び圧搾押出力を加えて脱水・乾燥する工程は、スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機で脱水・乾燥する工程を含む、[9]のポリブタジエン組成物の製造方法。
[11]
スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機で脱水・乾燥する工程は、スクリュー圧縮絞り機による脱水乾燥を行った後に、エキスパンジョン型押出乾燥機による脱水・乾燥を行う工程である、[10]のポリブタジエン組成物の製造方法。
[12]
スクリュー圧縮絞り機の運転条件は、内温が75~155℃であり、先端圧力は0.1~3.0MPaである、[10]又は[11]のポリブタジエン組成物の製造方法。
[13]
エキスパンジョン型押出乾燥機の運転条件は、内温が70~140℃であり、先端圧力は5~13MPaである、[10]~[12]のいずれかのポリブタジエン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、硬度に優れたゴム組成物を得ることが可能であり、かつ加工性及び押出寸法安定性に優れ、さらに加工性、押出寸法安定性及び硬度の物性バランスも優れたポリブタジエン組成物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ポリブタジエン組成物の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。ポリブタジエン組成物は、ポリブタジエンゴム中にシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(SPB)が分散していることが知られている。
図2】原子間力顕微鏡(AFM)測定によるポリブタジエン組成物の弾性率像である。本発明のポリブタジエン組成物の界面厚みを求める際に使用するデータである。
図3】本発明のポリブタジエン組成物の界面厚みの測定領域を示した図である。
図4】本発明のポリブタジエン組成物の界面厚みの定義を示すグラフである。
図5】AMF測定により得られた弾性率像を二値化像に変換した図である。本発明のポリブタジエン組成物のSPBサイズ指数(φSPB)を求める際に使用するデータである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ポリブタジエン組成物>
本発明のポリブタジエン組成物は、ポリブタジエンゴムと、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとを含有し、ポリブタジエンゴムとシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとの間に界面成分を有し、原子間力顕微鏡で測定した前記界面成分の厚みは、40~55nmである。ポリブタジエン組成物において、ポリブタジエンゴムはマトリックスであり、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンはドメインである。
【0010】
(ポリブタジエンゴム)
ポリブタジエンゴムは、1,3-ブタジエンをシス-1,4-重合することで得られる。ポリブタジエンゴムは、ポリブタジエン組成物において、マトリックスとなる成分である。ポリブタジエンゴムは、高シス-1,4-ポリブタジエンであることが好ましい。ゴム組成物にしたときの様々なゴム物性(引張応力、低燃費性、耐摩耗性など)を向上させる上で、シス-1,4体の含有率は、90~100%が好ましく、95~100%がさらに好ましく、97%~100%が特に好ましい。
【0011】
固さ、加工性の指標であるムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、ゴム組成物にしたときの硬度と、ポリブタジエン組成物における押出寸法安定性および加工性を両立する上で、10~80が好ましく、10~65がさらに好ましく、15~50が特に好ましい。
【0012】
リニアリティの指標であるトルエン溶液粘度をムーニー粘度で除した数値(Tcp/ML1+4(100℃))は、ゴム組成物にしたときの硬度と、ポリブタジエン組成物における押出寸法安定性および加工性を両立する上で、1.0~4.0が好ましく、1.5~3.5がさらに好ましく、2.0~3.0が特に好ましい。分子量(Mw)は10万~80万が好ましく、20万~60万が特に好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は、1.5~4.0が好ましく、1.5~3.0が特に好ましい。
【0013】
(シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン)
シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(以下、SPBとも言う。)は、1,3-ブタジエンをシンジオタクチック-1,2-重合することで得られる。SPBはポリブタジエン組成物において、ドメインとなる結晶性樹脂であり、SPBを含むことで、ゴム組成物の硬度や機械的特性を向上させることができる。また、SPBの構造、サイズ、分散状態を制御することで、ゴム組成物にしたときの硬度と、ポリブタジエン組成物における押出寸法安定性を向上させることができる。
【0014】
SPBの融点(Tm)は、ゴム組成物にしたときの硬度を向上させる上で、150~220℃が好ましく、180~210℃がさらに好ましい。分子量(Mw)は10万~80万が好ましく、特に15万~50万が好ましい。1,2-体含有率は90~100%が好ましく、95~100%がさらに好ましく、98~100%が特に好ましい。1,2-構造の立体規則性(シンジオタクティシティrr)は95~100%が好ましく、98~100%がさらに好ましく、99~100%が特に好ましい。
【0015】
(界面成分)
界面成分(IF)とは、本発明のポリブタジエン組成物において、ポリブタジエンゴムとシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエンとの間にある成分である。界面成分は、ゴム(ポリブタジエンゴム)と樹脂(シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン)が物理的、あるいは化学的に混ざり合っているため、ゴムと樹脂の接着性を向上させることができる。
【0016】
界面成分の厚み(TIF)は、40~70nmであり、40~55nmがより好ましく、40~50nmが特に好ましい。ポリブタジエン組成物の加工性及び押出寸法安定性に優れ、ポリブタジエン組成物をゴム組成物にしたときの硬度にも優れる。
【0017】
(原子間力顕微鏡(AFM)による界面成分の厚み(TIF)測定)
界面成分の厚み(TIF)は、原子間力顕微鏡(AFM)による測定で求める。構造解析に好適な架橋体を作製する評価工程1と、AFM観察により界面成分の厚み(TIF)を測定する評価工程2により、界面成分の厚み(TIF)を求めることができる。
【0018】
(評価工程1)架橋体の作製
架橋体とは、ポリブタジエン組成物に対して、架橋剤および通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば、加硫促進剤、老化防止剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸などを配合し、所望の温度、圧力で加熱プレスして架橋させたゴム組成物である。
【0019】
架橋体を作製せずに、後述する評価工程2によりAFM測定を行うことも可能であるが、AFM観察のしやすさ、AFMで得られる弾性率像の質の向上の観点から架橋体を作製することが好ましい。架橋は、主にポリブタジエン組成物のマトリックスであるポリブタジエンゴム内で起こる。界面成分(IF)は、ゴム成分(ポリブタジエンゴム等)とは異なり、ヘキサンなどの良溶媒に不溶で、ゴム成分より弾性率が高いため、架橋剤等の薬品が入りづらい。ゆえに架橋後の界面成分の厚みは、架橋前の界面成分の厚みと実質同じである。また、後述する(式1)により規格化値を用いて界面成分の厚みを算出するため、架橋体の界面成分の厚みを測定することで、ポリブタジエン組成物の界面成分の厚み(TIF)を求めることができる。
【0020】
架橋剤としては、特に制限されないが、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄などのハロゲン化硫黄;ジクミルパーオキシド、ジターシャリブチルパーオキシドなどの有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(AMBN)、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル(ADVN)、2,2’-アゾビス-4-アゾビスシアノバレリックアシッド(塩)(ACVA)などのアゾ系ラジカル開始剤;p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’-メチレンビス-o-クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;メチロール基をもったアルキルフェノール樹脂;酸化マグネシウムなどの金属酸化物などが挙げられる。これらの中でも、硫黄が好ましい。
【0021】
硫黄架橋剤の使用量は、状況に応じて適宜選定すればよいが、ポリブタジエン組成物100質量部に対して、硫黄分として、0.1~10質量部の範囲が好ましく、さらに0.1~3質量部が好ましい。
【0022】
亜鉛華の使用量は、状況に応じて適宜選定すればよいが、ポリブタジエン組成物100質量部に対して、亜鉛華分として、0.1~10質量部の範囲が好ましく、さらに0.1~3質量部が好ましい。
【0023】
加硫促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系、あるいは1,3-ジフェニルグアニジン等のグアニジン系の加硫促進剤等を挙げることができ、その配合量は、ポリブタジエン組成物100質量部に対し、0.1~5.0質量部が好ましく、さらに好ましくは0.1~3.0質量部である。
【0024】
更に、老化防止剤としては、例えばN-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン、ジフェニルアミンとアセトンの高温縮合物等を挙げることができる。その使用量は、ポリブタジエン組成物100質量部に対して、0.1~6.0質量部が好ましく、更に好ましくは0.1~3.0質量部である。
【0025】
老化防止剤は架橋体の表面にブルームアウトし、AFMで取得できる画像が鮮明に得られない可能性がある。そのため、老化防止剤は使用しなくてもよい。
【0026】
架橋体作製時の架橋剤および各種薬品のポリブタジエン組成物への配合方法に関して、特に制限されないが、例えば、バンバリーミキサー、2軸ロール、インターナルミキサーなどの混練機を用いて混練することにより調製することができる。
【0027】
ポリブタジエン組成物と架橋剤および各種薬品との配合時の混練温度は、0~120℃が好ましく、20~80℃がより好ましい。混練時間は、30秒~30分が好ましく、1分~10分がより好ましい。
【0028】
配合物の加熱方法としては、特に制約されないが、得られた配合物をシート状とし、加熱プレスする方法が好ましい。加熱する際の温度は、通常120~200℃であり、加熱プレスする時間は、通常1~100分である。加熱プレスにより架橋が進行し、目的とする架橋体が得られる。
【0029】
(評価工程2)AFM観察による界面成分の厚み(TIF)の測定
AFMは、走査型プローブ顕微鏡の一種であって、試料とプローブ(探針)間の原子間力を利用して、試料表面の情報を得る走査型プローブ顕微鏡であり、試料とカンチレバーに備えられたプローブとの距離を変えながら、プローブに働く力(カンチレバーのたわみ量)を測定して、試料表面の形状や弾性率など様々な物理化学的特性を評価することができる。
【0030】
使用可能なAFMとして、ブルカージャパン社製MultiMode8、日立ハイテクサイエンス社製E-sweep、アサイラムインスツルメンツ製MFP-3DAFMファミリー等が例示されるが、これらの機種に限定されるものではない。
【0031】
AFM観察に使用する試料片の形状及び大きさは、AFMの試料台に設置可能なサイズのものであれば特に限定されない。架橋体の成形にはクライオミクロトーム、ナイフ、はさみ、カミソリ等が適宜使用される。特にクライオミクロトームを用いることは、最も平滑な表面を試料片上に成形することができるため、AFM観察に好適である。
【0032】
AFM観察において、AFM装置が備える適切な測定モードが使用される。AFMの代表的な測定モードとして、コンタクトモード、タッピングモード及びノンコンタクトモードが挙げられる。試料片の表面の微少領域の硬さが測定されるフォースモジュレーションモードや、試料片の表面における弾性率やヤング率の分布が測定可能なフォースボリュームモードが選択されてもよい。特に好ましい測定モードは、試料片の微小領域の力学的特性の差を画像化できるフォースボリュームモード、あるいは高速でフォースカーブを計測してその値から実際の触圧をフィードバックするピークフォースQNMモードである。フォースボリュームモードやピークフォースQNMモードでは、試料片の表面の微小領域毎に弾性率が測定されることによって、弾性率のマッピング像が得られる。本願明細書において、マッピング像を「弾性率像」と称する。
【0033】
弾性率像から、ポリブタジエン組成物の構成成分の識別が可能となる。本発明のポリブタジエン組成物は、マトリックスであるポリブタジエンゴムとドメインであるSPB、および界面成分(IF)からなる。通常、ポリブタジエンゴムの弾性率が最も小さく、1~20MPa程度である。SPBの弾性率はそれよりも1桁以上大きく、100MPa以上である。界面成分(IF)はその間の数値であり、20~100MPaである(図2を参照)。
【0034】
取得した弾性率像を用いて、界面成分の厚み(TIF)を測定する方法を定義する。図3には測定イメージを示す。また、図4には測定例を示す。
測定において、SPBを横断する、すなわち、ポリブタジエン(BR)部からSPB部を挟んで反対側のBR部に至る直線を測定領域とする。その際、図3のように測定領域の直線は、SPB部を挟んで通常2か所で界面成分(IF)相を横断するが、該直線は、少なくとも一方の界面成分相に対して垂直とする。
界面成分(IF)の弾性率は、ポリブタジエンゴム(BR)部からSPB部にかけて傾斜のように増大する。また、ポリブタジエン組成物の特性(分子量、架橋密度、Tmなど)、測定エリアやAFMの測定条件によって、ポリブタジエンゴム部分やSPB部分の弾性率が変動するなど、弾性率の絶対値でIFであるかを判定するにはいささか困難を要する。そこで、下記の(式1)により、規格化値Enormalを用いる。EはAFMによる弾性率の測定値、Eminは測定領域における弾性率の最小値、Emaxは測定領域における弾性率の最大値である。
【0035】
【数1】
本願においては、界面成分(IF)の弾性率は、Enormalが0.1~0.8の領域と定義する。よって、界面成分の厚み(TIF)は、Enormalが0.1から0.8までの距離(TIF)である(図4を参照)。
なお、界面成分の厚み(TIF)は、上に説明した測定領域の直線に対して垂直な界面成分相30箇所の厚みの平均値である。
【0036】
(AFMによる単位面積当たりのSPB個数の測定)
界面成分の厚み(TIF)の測定と同様にして取得した弾性率像から、画像内のSPB個数を算出することができる。具体的には、以下の方法により、単位面積(36μm)当たりのSPBの個数(nSPB)を算出する。
AMF測定により得られた弾性率像の画像(3μm×3μm)に対して、弾性率が50MPa以上の箇所をSPBとして黒く塗りつぶし、50MPa未満の箇所をゴム成分(ポリブタジエンゴム)として白く塗りつぶし、白黒の二値化像に変換する(図5を参照)。得られた二値化像内において10ピクセルの2乗以上のサイズをSPBドメインとしてカウントする。観察箇所によるSPB個数のばらつきを低減させるため、弾性率像を4箇所から取得し、4枚のSPB個数の合計をSPB個数(nSPB)とする。
【0037】
(SPBサイズ指数(φSPB))
SPBサイズ指数(φSPB)とは、SPB個数(nSPB)の逆数(1/nSPB)に1000を乗じた数値であり、SPBのサイズを表す指標である。SPBサイズ指数(φSPB)は、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。この範囲であれば、加工性、押出寸法安定性及び硬度の物性バランスに優れるポリブタジエン組成物を得ることができる。
【0038】
(ポリブタジエン組成物の特性)
ポリブタジエン組成物のムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、35~65が好ましい。この範囲であれば、加工性に優れたポリブタジエン組成物を得ることができる。
【0039】
ポリブタジエン組成物のスウェルは押出寸法安定性の指標であり、押出し成形体の断面積とダイス開口部の断面積の比で表すことができるスウェルは、1.69以下であることが好ましい。
【0040】
ポリブタジエン組成物の硬度は、JIS K6253に従い室温でポリブタジエン組成物架橋体の硬度を測定することで求めることができ、50以上であることが好ましい。
【0041】
ポリブタジエン組成物の物性バランス指数は、硬度をムーニー粘度(ML1+4(100℃))及びスウェルで除した値であり、加工性、押出寸法安定性及び硬度の物性バランスを示す指標である。物性バランス指数は、0.70以上であることが好ましく、0.74以上であることがより好ましい。
【0042】
(ポリブタジエン組成物中の各成分の割合)
ポリブタジエン組成物中のSPBの含有量(FSPB)は、ゴム組成物にしたときの硬度とポリブタジエン組成物における加工性および押出寸法安定性を両立する上で、1~50質量%であることが好ましい。2~30質量%がさらに好ましく、3~25質量%が特に好ましい。
SPBの含有量(FSPB)は、赤外分光法(FT-IR)を用いてビニル構造割合を測定することにより求めることができる。
【0043】
界面成分の含有量(FOR)は、ポリブタジエン組成物の加工性及び押出寸法安定性と、ゴム組成物にしたときの硬度の物性バランスの観点から、0.1~6.0質量%であることが好ましく、0.1~2.0質量%であることがより好ましい。
界面成分(IF)は、ポリブタジエンゴムの良溶媒(例えば、n-ヘキサン)に不溶なので、界面成分の含有量(FOR)は(式2)より求めることができる。

OR(質量%)=ヘキサン不溶分(HI)-SPBの含有量(FSPB)・・・(式2)

なお、前記(式2)のヘキサン不溶分(HI)とは、ポリブタジエン組成物をポリブタジエンゴムの良溶媒(n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、トルエン、ベンゼン、キシレン等)でソックスレー抽出した後の抽出残部であり、SPBと界面成分を含んでいる。
【0044】
SPBの含有量(FSPB)に対する界面成分の含有量(FOR)の割合(FOR/FSPB)は、ポリブタジエン組成物の加工性及び押出寸法安定性、ゴム組成物にしたときの硬度の物性バランスの観点から、0.01~0.50が好ましく、0.02~0.40がより好ましく、0.02~0.20が特に好ましい。
【0045】
界面成分の含有量(FOR)をSPBサイズ指数(φSPB)で除した数値(FOR/φSPB)は、効率よく界面成分が形成されていることを表す指標であり、ポリブタジエン組成物の加工性及び押出寸法安定性、ゴム組成物にしたときの硬度の物性バランスの観点から、0.05~0.7が好ましく、0.1~0.7がより好ましく、0.1~0.6が特に好ましい。
【0046】
界面成分を増やすことは、通常のポリブタジエンゴム成分よりも硬い成分が増えることになるため、硬度や押出寸法安定性が向上する。一方、加工性が低下するので、あまり界面成分を増やしすぎるのは好ましくない。そこで、適切な範囲になるように界面成分を調節することが重要である。
したがって、界面成分に関する物性値として、界面成分の厚み(TIF)を40~55nmの特定の範囲とすること、また好ましくは、界面成分の含有量(FOR)、SPBの含有量(FSPB)に対する界面成分の含有量(FOR)の割合(FOR/FSPB)、界面成分の含有量(FOR)をSPBサイズ指数(φSPB)で除した数値(FOR/φSPB)を適切な範囲に調節することで、加工性、押出寸法安定性及び硬度の物性バランスを向上させることができる。
【0047】
硬度、押出寸法安定性及び加工性は、一般的なゴム物性として挙げることができるが、上記の界面成分に関する物性値を適切な範囲に調節することで、様々なゴム製品における物性バランスを向上させることができる。
例えば、タイヤにおいては、界面成分を増やすことで、弾性率を高めることができる。それによって、トレッド部材として操縦安定性を高めることができる。サイドウォール部材では強度を高められ、薄肉化乃至軽量化につながり、引いては低燃費性向上にも貢献できる。また、タイヤ用ゴム組成物にした際の、成型加工性や押出寸法安定性を向上させることができる。よって、界面成分に関する物性値を適切な範囲に調節することで、硬度に関する物性(弾性率、操縦安定性、強度など)と成型加工性、押出寸法安定性のバランスを向上させることができる。
また、靴においては、主に靴底用ゴム組成物として、界面成分を増やすことで、成型加工性や寸法安定性を向上させることができる。さらに硬度あるいは弾性率を高めることができるので、フィラーを減らすことができ、靴の軽量化に貢献できる。よって、界面成分に関する物性値を適切な範囲に調節することで、硬度に関する物性(弾性率、軽量化など)と成型加工性や寸法安定性のバランスを向上させることができる。
また、工業部品においては、ゴムベルトやゴムホース、防振ゴムと言った、様々な工業部品用ゴム組成物として、成型加工性や押出寸法安定性を向上させることができる。また、必要に応じて硬度あるいは弾性率を高めることができ、工業部品の耐久性改善に貢献することができる。また、フィラーを減らすことができ、工業部品の軽量化に貢献できる。よって、界面成分に関する物性値を適切な範囲に調節することで、硬度に関する物性(弾性率、耐久性、軽量化など)と成型加工性、押出寸法安定性のバランスを向上させることができる。
ゴルフボールにおいては、主に基材として用いられるゴルフボール用ゴム組成物として、硬度や高反発性を維持しつつ、成型加工性を向上させることができる。硬度を高めることができるので、ゴルフボールにおける弾性率、引張強度や衝撃強度を高めることができる。よって、界面成分に関する物性値を適切な範囲に調節することで、硬度に関する物性(高反発性、弾性率、強度など)と成型加工性のバランスを向上させることができる。
【0048】
<ポリブタジエン組成物の製造方法>
ポリブタジエン組成物の製造方法は、
1,3-ブタジエンをシス-1,4-重合する工程(製造工程1)と、
前記重合工程で得られた重合反応混合物中の1,3-ブタジエンを、シンジオタクチック-1,2-重合する工程(製造工程2)と、
ポリブタジエン組成物を脱溶媒及び脱水・乾燥する工程(製造工程3)を含む。
【0049】
(製造工程1)
製造工程1は、1,3-ブタジエンをシス-1,4-重合する工程であり、1,3-ブタジエンと炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒に溶解させた混合溶液を調製し、当該混合溶液に水、有機アルミニウム化合物及び可溶性コバルト化合物からなる触媒を添加して、1,3-ブタジエンをシス-1,4-重合する。
【0050】
炭化水素を主成分とする不活性有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族系炭化水素、n-ヘキサン、ブタン、ヘプタン、ペンタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、上記のオレフィン化合物やシス-2-ブテン、トランス-2-ブテン等のオレフィン系炭化水素、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン等の炭化水素系溶媒、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。1,3-ブタジエンモノマーそのものを重合溶媒として用いてもよい。
【0051】
前記不活性有機溶媒の中でも、トルエン、シクロヘキサン、あるいは、シス-2-ブテンとトランス-2-ブテンとの混合物などが好適に用いられる。
【0052】
次に得られた混合溶液中の水の濃度を調節する。水のモル濃度は前記混合溶液中において、0.2~3.0mM、特に0.5~3.0mMの範囲であることが好ましい。この範囲内であると、触媒活性が高くなり、シス-1,4-構造含有率が高くなる。また、分子量を適切に調節することが可能であり、重合時のゲルの発生を抑制することができる。水の濃度を調節する方法は公知の方法が適用できる。
【0053】
水の濃度を調節して得られた溶液には有機アルミニウム化合物を添加する。有機アルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウムやジアルキルアルミニウムクロライド、ジアルキルアルミニウムブロマイド、アルキルアルミニウムセスキクロライド、アルキルアルミニウムセスキブロマイド、アルキルアルミニウムジクロライド等である。
【0054】
具体的な化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウムを挙げることができる。
【0055】
さらに、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライドなどのジアルキルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライドなどのような有機アルミニウムハロゲン化合物、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド、エチルアルミニウムセスキハイドライドのような水素化有機アルミニウム化合物も含まれる。これらの有機アルミニウム化合物は、二種類以上併用することができる。中でも、ジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライドとトリエチルアルミニウムの併用が好ましい。特にジエチルアルミニウムクロライドとトリエチルアルミニウムの併用が、ゲルを低減できる点で好ましい。
【0056】
有機アルミニウム化合物のモル濃度は前記混合溶液中において、0.5mM以上、特に2.0~25mMであることが好ましい。
【0057】
ジエチルアルミニウムクロリド(DEAC)とトリエチルアルミニウム(TEA)の併用系において、TEAに対するDEACのモル比(DEAC/TEA)は1~10が好ましい。
【0058】
次いで、有機アルミニウム化合物を添加した混合媒体に可溶性コバルト化合物を添加してシス-1,4-重合する。可溶性コバルト化合物としては、炭化水素系溶媒を主成分とする不活性媒体又は液体1,3-ブタジエンに可溶なものであるか又は、均一に分散できる、例えばコバルト(II)アセチルアセトナート、コバルト(III)アセチルアセトナートなどコバルトのβ-ジケトン錯体、コバルトアセト酢酸エチルエステル錯体のようなコバルトのβ-ケト酸エステル錯体、コバルトオクトエート、コバルトナフテネート、コバルトベンゾエートなどの炭素数6以上の有機カルボン酸のコバルト塩、塩化コバルトピリジン錯体、塩化コバルトエチルアルコール錯体などのハロゲン化コバルト錯体などを挙げることができる。可溶性コバルト化合物のモル濃度は前記混合溶液中において、0.5μM以上、特に1.5μM以上であることが好ましい。また可溶性コバルト化合物に対する有機アルミニウムクロライドのモル比(Al/Co)は10以上であり、特に50以上であることが好ましい。また、可溶性コバルト化合物以外にもニッケルの有機カルボン酸塩、ニッケルの有機錯塩、有機リチウム化合物、ネオジウムの有機カルボン酸塩、ネオジウムの有機錯塩を使用することも可能である。
【0059】
シス-1,4-重合する温度は0℃を超える温度~100℃、好ましくは10~100℃、特に好ましくは20~80℃までの温度範囲で1,3-ブタジエンをシス-1,4-重合する。重合時間(平均滞留時間)は5分~2時間の範囲が好ましい。シス-1,4-重合後のポリマー濃度は5~26重量%となるようにシス-1,4-重合を行うことが好ましい。重合槽は1槽、又は2槽以上の槽を連結して行われる。重合は重合槽(重合器)内にて溶液を攪拌混合して行う。重合に用いる重合槽としては高粘度液攪拌装置付きの重合槽、例えば特公昭40-2645号に記載された装置を用いることができる。
【0060】
本発明のシス-1,4-重合時に公知の分子量調節剤、例えばシクロオクタジエン、アレン、メチルアレン(1,2-ブタジエン)などの非共役ジエン類、又はエチレン、プロピレン、ブテン-1などのα-オレフィン類を使用することができる。又重合時のゲルの生成を更に抑制するために公知のゲル化防止剤を使用することができる。
【0061】
(製造工程2)
製造工程2は、製造工程1で得られた重合反応混合物中の1,3-ブタジエンを、シンジオタクチック-1,2-重合する工程である。製造工程1で得られた重合反応混合物中に二硫化炭素、一般式AlRで表せる有機アルミニウム化合物及び可溶性コバルト化合物からなる触媒を添加して、1,3-ブタジエンをシンジオタクチック-1,2-重合する。その際に、製造工程1で得られた重合反応混合物中に1,3-ブタジエンを添加しても添加しなくてもよい。一般式AlRで表せる有機アルミニウム化合物としてはトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリフェニルアルミニウムなどを好適に挙げることができる。有機アルミニウム化合物のモル濃度は前記混合溶液中において、0.5mM以上、特に2.0~25mMであることが好ましい。また、4mM以上であることも好ましい。
可溶性コバルト化合物のモル濃度は前記混合物中において、1.0μM以上、特に5μM以上であることが好ましい。また、100μM以下であることが好ましく、場合により35μM以下であることも好ましい。
二硫化炭素は特に限定されないが水を含まないものであることが好ましい。二硫化炭素のモル濃度は前記混合物中において、20mM以下、特に0.01~10mMであることが好ましい。二硫化炭素の代替として公知のイソチオシアン酸フェニルやキサントゲン酸化合物を使用してもよい。また、二硫化炭素は製造工程1で予め加えておいても良い。
【0062】
シンジオタクチック-1,2-重合する温度は-5~100℃が好ましい。特に10~80℃が好ましい。また、20℃以上、例えば30~70℃であることも好ましい。シンジオタクチック-1,2-重合する際の重合系には前記製造工程1で得られた重合反応混合物100重量部当たり1~50重量部、好ましくは1~20重量部の1,3-ブタジエンを添加することでシンジオタクチック-1,2-重合時のSPBの収量を増大させることができる。重合時間(平均滞留時間)は5分~2時間の範囲が好ましい。シンジオタクチック-1,2-重合後のポリマー濃度は9~29重量%となるようにシンジオタクチック-1,2-重合を行うことが好ましい。重合槽は1槽、又は2槽以上の槽を連結して行われる。重合は重合槽(重合器)内にて重合溶液を攪拌混合して行う。シンジオタクチック-1,2-重合に用いる重合槽としてはシンジオタクチック-1,2-重合中に更に高粘度となり、ポリマーが付着しやすいので高粘度液攪拌装置付きの重合槽、例えば特公昭40-2645号公報に記載された装置を用いることができる。
【0063】
重合反応が所定の重合率に達した後、常法に従って公知の老化防止剤を添加することができる。老化防止剤の代表としてはフェノール系の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)、リン系のトリノニルフェニルフォスファイト(TNP)、硫黄系の4.6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート(TPL)などが挙げられる。単独でも2種以上組み合わせて用いてもよく、老化防止剤の添加はポリブタジエン組成物100重量部に対して0.001~5重量部が好ましい。
【0064】
重合停止剤を重合系に加えて停止することもできる。重合停止剤は例えば1,4-ナフトキノンなどが用いられる。重合停止剤の添加量(モル量)は、添加した可溶性コバルト化合物に対して5~10倍以上添加することが好ましい。
また、メタノール、エタノールなどのアルコール、水などの極性溶媒を大量に投入する方法、塩酸、硫酸などの無機酸、酢酸、安息香酸などの有機酸、塩化水素ガスを重合溶液に導入する方法なども挙げられるが、大量の水を加える方法が特に好ましい。水の添加量(モル量)は、添加した有機アルミニウム化合物に対して5~10倍以上添加することが好ましい。
【0065】
(製造工程3)
製造工程3は、製造工程2で得たポリブタジエン組成物を脱溶媒及び脱水・乾燥する工程である。ポリブタジエン組成物は、公知の方法で脱溶媒及び脱水・乾燥することができるが、脱溶媒及び脱水・乾燥する工程は、熱水処理で脱溶媒する工程と、熱、せん断及び圧搾押出力を加える脱水・乾燥する工程を含むことが好ましい。脱水・乾燥する工程で、熱、せん断及び圧搾押出力を加えることで、40~55nmの界面厚みを有するポリブタジエン組成物を得ることができる。
熱、せん断及び圧搾押出力を加えて脱水・乾燥する工程としては、単軸押出機構造を有するスクリュー圧縮絞り機(SDU)、エキスパンジョン型押出乾燥機(VCU)及びSDU・VCU一体型装置、二軸混練押出機構造を有する脱水エキスパンジョンプロセス装置、などで脱水・乾燥する工程を含むことが好ましく、脱水・乾燥効率を向上させるうえではスクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機で脱水・乾燥する工程を含むことが特に好ましい。
【0066】
(脱溶媒する工程)
脱溶媒の方法に関しては、真空乾燥や、熱水処理(コアギュレートおよびストリッピング)が挙げられる。
真空乾燥は、特に限定されないが、真空に耐えられる恒温槽にて、真空ポンプなどを用いて真空引きして、脱溶媒および乾燥することができる。真空乾燥は、脱水・乾燥する工程も兼ねている。
【0067】
熱水処理は、特に限定されないが、ポリマーセメント(ポリブタジエン組成物が有機溶媒に溶解しているポリマー溶液)のクラム(ポリブタジエン組成物の微粒子)化を行うコアギュレーター、及びクラムを熱水により脱溶媒処理を行うストリッパー(例えば、常圧蒸留で残留溶媒を低減させる装置)で構成されることが好ましい。ポリマーセメントは、コアギュレーターにおいてスチームにより細断されてクラムになる。コアギュレーターから出てきたスラリー(クラムを含んだ熱水)は、ストリッパーヘ送液され、ストリッパー内でクラム中の残留溶剤を低減させることができる。更に、そのスラリーをフィルター等のろ過機でろ過することで、スラリーから熱水を分離してクラムのみを得ることができる。
【0068】
(脱水・乾燥する工程)
脱溶媒する工程の後に、脱水・乾燥する工程を行う。脱水・乾燥する工程については、真空乾燥機、スクリュー圧縮絞り機(SDU)、エキスパンジョン型押出乾燥機(VCU)等の脱水・乾燥機、SDU・VCU一体型装置、二軸混練押出機等を用いることができる。熱、せん断及び圧搾押出力を加えることができる装置が好ましく、スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機を併用して脱水・乾燥を行うことが好ましい。前記工程で得られたクラムに含まれる水分や残留溶媒を極限まで除去することができる。
【0069】
まず、スクリュー圧縮絞り機により、前記工程で得られたクラムの脱水を行うことが好ましい。スクリュー圧縮絞り機の運転条件は、内温が75~155℃であることが好ましく、85~145℃がより好ましい。先端圧力は0.1~3.0MPaであることが好ましく、0.2~2.0MPaであることがより好ましい。スクリュー回転数は1~50rpmであることが好ましく、5~30rpmであることがより好ましい。温度、先端圧力及びスクリュー回転数の条件を前記範囲にすることで安定的な脱水運転が可能である。
【0070】
次に、スクリュー圧縮絞り機による脱水を経たクラムに対して、エキスパンジョン型押出機により、水分を蒸発させることが好ましい。クラムの含水率をより低減させることができる。エキスパンジョン型押出乾燥機の運転条件は、内温が70~140℃であることが好ましく、75~135℃がより好ましい。先端圧力は5~13MPaであることが好ましく、6~12MPaであることがより好ましい。スクリュー回転数は5~60rpmであることが好ましく、10~45rpmであることがより好ましい。温度、先端圧力及びスクリュー回転数の条件を前期範囲にすることで、安定的な押出乾燥運転が可能である。
【0071】
スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出機を用いることで、クラムには熱やせん断力、圧搾押出力が加わることとなる。温度、先端圧力及びスクリュー回転数の条件を前記範囲にすることで、クラムに十分なせん断力および圧搾押出力をかけることができる。せん断力及び圧搾押出力により、クラムが繰り返し伸長されることとなる。クラムが熱や繰り返し伸長を受けることで、最適な界面成分量に調節することができる。
製造工程3において、前述したようにクラム状のポリブタジエン組成物に熱やせん断、圧搾押出力を加える工程を経ることで、40~55nmの界面厚みを有するポリブタジエン組成物を得ることができる。その結果、ゴム組成物にしたときの硬度及びポリブタジエン組成物の加工性、押出寸法安定性に優れ、かつ物性バランスも優れたポリブタジエン組成物を得ることができる。
【0072】
前記脱水・乾燥工程を経て得られたポリブタジエン組成物は、微量の水分を含有していることがある。そこで、熱風乾燥機を用いてクラムを乾燥することができる。含水率は0.7質量%以下、さらに0.5質量%以下に低減することが好ましい。熱風乾燥機としては、特に限定されないが、オーブン型、ドラム型、コンベア型、振動コンベア型などが挙げられる。熱風の温度は、80~120℃が好ましく、85~115℃がより好ましい。
【0073】
<ゴム組成物>
ゴム組成物は、前記ポリブタジエン組成物を含む。ゴム組成物は、前記ポリブタジエン組成物以外のゴム成分と補強材を更に含むことが好ましい。
【0074】
ポリブタジエン組成物以外のゴム成分としては、ハイシスポリブタジエンゴム、ローシスポリブタジエンゴム、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、乳化重合若しくは溶液重合スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0075】
また、前記ゴム成分の誘導体、例えば錫化合物で変性されたポリブタジエンゴムやエポキシ変性、シラン変性、マレイン酸変性された上記ゴムなども用いることができ、これらのゴム成分は単独でも、二種以上組み合わせて用いても良い。
【0076】
補強材としては、カーボンブラック、シリカ、活性化炭酸カルシウム、超微粒子珪酸マグネシウム等の無機補強剤やシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ハイスチレン樹脂、フェノール樹脂、リグニン、変性メラミン樹脂、クマロンインデン樹脂及び石油樹脂等の有機補強剤があり、特に好ましくは、粒子径が90nm以下、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が70ml/100g以上のカーボンブラックで、例えば、FEF、FF、GPF、SAF、ISAF、SRF、HAF等が挙げられる。また、シリカとしては、乾式法による無水ケイ酸及び湿式法による含水ケイ酸や合成ケイ酸塩などが挙げられる。
【0077】
ポリブタジエン組成物と前記補強材との混練は、バンバリー、オープンロール、ニーダー、二軸混練機などを用いることができる。混練温度は、当該ポリブタジエン組成物に含有されるSPBの融点より低いことが好ましい。SPBの融点より高い温度で混練すると、ポリブタジエン組成物中のSPBが溶けて、高アスペクト比の形状から、球状の粒子状に変形してしまい、ゴム物性の低下を招くため好ましくない。
【0078】
また、ゴム組成物には、必要に応じて、加硫剤、加硫助剤、老化防止剤、プロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸など、通常ゴム業界で用いられる配合剤を混練してもよい。
【0079】
加硫剤としては、公知の加硫剤、例えば硫黄、有機過酸化物、樹脂加硫剤、酸化マグネシウムなどの金属酸化物などが用いられる。加硫助剤としては、公知の加硫助剤、例えばアルデヒド類、アンモニア類、アミン類、グアニジン類、チオウレア類、チアゾール類、チウラム類、ジチオカーバメイト類、キサンテート類などが用いられる。老化防止剤としては、アミン・ケトン系、イミダゾール系、アミン系、フェノール系、硫黄系及び燐系などが挙げられる。プロセスオイルは、アロマティック系、ナフテン系、パラフィン系のいずれを用いてもよい。
【0080】
<タイヤ、ゴムベルト>
タイヤ及びゴムベルトは、前記ゴム組成物を用いてなる。
ゴム組成物はタイヤ用ゴムとして有用であり、サイドウォール、または、トレッド、スティフナー、ビードフィラー、インナーライナー、カーカスなどに、その他、ホース、ゴムベルト、防振ゴムその他の各種工業用品等の剛性、機械的特性及び破壊特性が要求されるゴム用途に使用される。また、プラスチックスの改質剤として使用することもできる。
また、ゴム組成物は、靴底用ゴム組成物、ゴルフボール用ゴム組成物等、硬度に関する物性と成形加工性とのバランスが求められる用途に有用である。
【実施例
【0081】
以下に本発明に基づく実施例について具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。なお、各物性の測定方法は次のとおりである。
【0082】
<ポリブタジエン組成物の評価>
(1)ヘキサン不溶分(HI)
2gのポリブタジエン組成物を200mlのn-ヘキサンで4時間ソックスレー抽出した後の抽出残部を、ポリブタジエン組成物のHI(wt%)として算出した。
【0083】
(2)SPB含有量(FSPB
フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)により測定したビニル構造割合から、あらかじめ作成したビニル構造割合とSPB含有量との検量線を用いて、ポリブタジエン組成物のFSPBを算出した。
【0084】
(3)界面厚み(TIF
1.評価用試験片(ポリブタジエン組成物架橋体)の作製
2軸ロールを用いて、ポリブタジエン組成物100部に対し、亜鉛華1部、ステアリン酸2部、硫黄1.5部、加硫促進剤としてN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(商品名「ノクセラーNS」、大内新興化学工業社製)1部を添加し、50℃で5分間混練した。この混練物を160℃にて60分プレス加硫し、2mm厚シートの架橋体を作製した。次いで、架橋体のソックスレー処理を行った。溶媒にはシクロヘキサンを用い、110℃で8時間還流した。円筒ろ紙から取り出した後、60℃で2時間真空乾燥させた。その後、クライオミクロトームを用いて-140℃で試料片の先端を切削することで、AFM観察用の平滑表面を作製した。
2.測定方法
原子間力顕微鏡(AFM)としてブルカージャパン社製のMultiMode8およびNanoscopeVを用い、ピークフォースQNMモードで測定した。AFMのカンチレバーは、OMCL-TR800PSA(ばね定数公称値0.57N/m、オリンパス社製)を用いた。また、測定サイズは3×3μm、測定点数は1辺当たり256点で、全サイズの合計点数を65536点とした。ポアソン比は0.5と仮定し、全フォースカーブを解析することで、弾性率を算出し、弾性率像を得た。4箇所の弾性率像を取得し、それら画像内の計30箇所におけるIF部の界面厚み(TIF)を測定し、平均値をそのサンプルのTIFとした。界面成分の厚みは前述した方法で算出した。
【0085】
(4)界面成分の含有量(FOR
前記(1)のHIの測定値及び前記(2)のFSPBの測定値を用いて、以下の式2よりFORを算出した。
OR(質量%)=ヘキサン不溶分(HI)-SPBの含有量(FSPB)・・・(式2)
【0086】
(5)SPB個数(nSPB
界面厚みの測定と同様の評価用試験片及び測定方法により、弾性率像(3μm×3μm)を4枚(それぞれ異なる箇所)取得した。弾性率が50MPa以上の箇所をSPBとして黒く塗りつぶし、50MPa未満の箇所をゴム成分(ポリブタジエンゴム)として白く塗りつぶし、白黒の二値化像に変換し、10ピクセルの2乗以上のサイズをSPBドメインとしてカウントした。4枚の画像のSPBドメインの数を合計し、SPB個数(nSPB)とした。
【0087】
(6)SPBサイズ指数(φSPB
SPB個数(nSPB)の逆数(1/nSPB)に1000を乗じて求めた。
【0088】
(7)ムーニー粘度(ML1+4(100℃))
JIS K6300に従って、100℃で1分予熱したのち4分間測定した。ムーニー粘度は、ポリブタジエン組成物の加工性を表す指標である。
<加工性の評価>
〇:ムーニー粘度が65以下
×:ムーニー粘度が65超
【0089】
(8)スウェル
キャピラリー長さ8.0mm、キャピラリー直径1.0mmφ、入り口角90°のキャピラリーダイを用い、押出し加工性測定装置(NETZSCH社製 ロザンドRH10ツインキャピラリーレオメーター)にてポリブタジエン組成物を100℃で10分間予熱し、10sec-1のせん断速度でポリブタジエン組成物を押出した後、室温にて1時間静置してポリブタジエン組成物押出し成形体を得た。得られた成形体の断面積とダイス開口部の断面積の比を測定し、スウェルを算出した。スウェルは、ポリブタジエン組成物の押出寸法安定性を表す指標である。
<押出寸法安定性の評価>
〇:スウェルが1.69以下
×:スウェルが1.69超
【0090】
(9)硬度
硬度;JIS K6253に従い、タイプAデュロメーターを用いて室温でポリブタジエン組成物架橋体の硬度を測定した。なお、ポリブタジエン組成物架橋体は界面厚みの評価用試験片(ポリブタジエン組成物架橋体)と同様である。
<硬度の評価>
〇:硬度が50以上
×:硬度が50未満
【0091】
(10)物性バランス指数
硬度をムーニー粘度及びスウェルで除した数値を物性バランス指数とした。加工性、押出寸法安定性及び硬度の物性バランスを示す指標である。
<物性バランスの評価>
〇:物性バランス指数が0.74以上
△:物性バランス指数が0.70以上、0.74未満
×:物性バランス指数が0.70未満
【0092】
<ポリブタジエン組成物中のポリブタジエンゴムの評価>
(ポリブタジエンゴムの合成)
ステンレス製の耐圧容器を窒素置換した後、シス-1,4重合を行った。温度は60℃に設定した。仕込んだ原料のモル濃度は以下の通りである。ブタジエン5.78M、シクロヘキサン4.63M、水2.22mM、二硫化炭素(CS)0.25mM、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート(TPL)14.60μM、1,5-シクロオクタジエン(COD)33.40mM、ジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)2.60mM、トリエチルアルミニウム(TEA)0.30mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))4.89μM。
最後に反応を停止させ、脱溶媒した。「イルガノックス」(登録商標)1520L(BASF社製)が0.90mMになるように加えた後、重合物を取り出して100℃で真空乾燥し、ポリブタジエンゴムを得た。
【0093】
(ムーニー粘度(ML1+4(100℃))
JIS K6300に従って、100℃で1分予熱したのち4分間測定した。ムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、24.3であった。
【0094】
(トルエン溶液粘度(Tcp))
ポリブタジエンゴムの5重量%トルエン溶液粘度(Tcp)は、ポリマー2.28gをトルエン50mlに溶解した後、キャノンフェンスケ粘度計No.400を使用して、25℃で測定した。なお、標準液としては、粘度計校正用標準液(JIS Z8809)を用いた。トルエン溶液粘度(Tcp)は、63.9cpsであった。
【0095】
(Tcp/ML)
前記ムーニー粘度及(ML)び前記トルエン溶液粘度(Tcp)の測定値を用いてTcp/MLを求めた。Tcp/MLは、2.63であった。
【0096】
(数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn))
ポリスチレンを標準物質としてテトラヒドロフランを溶媒として温度40℃で、ゲルパーミエーション(透過)クロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製)を行い、得られた分子量分布曲線から求めた検量線を用いて計算し、ポリブタジエンゴムの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。数平均分子量(Mn)は19.2万、重量平均分子量(Mw)は41.1万、分子量分布(Mw/Mn)は2.15であった。
【0097】
(ミクロ構造)
フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)により、ポリブタジエンのミクロ構造を算出した。具体的には、ミクロ構造に由来するピーク位置(cis:740cm-1)の吸収強度比から、ポリブタジエンゴムのミクロ構造を算出した。シス体含有率は98.3%であった。
【0098】
<ポリブタジエン組成物の製造例>
(参考例1)
ステンレス製の耐圧容器を窒素置換した後、シス-1,4重合を行った。温度は60℃に設定した。仕込んだ原料のモル濃度は以下の通りである。1,3-ブタジエン5.78M、シクロヘキサン4.63M、水2.22mM、二硫化炭素(CS)0.25mM、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート(TPL)14.60μM、1,5-シクロオクタジエン(COD)33.40mM、ジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)2.60mM、トリエチルアルミニウム(TEA)0.30mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))4.89μM。
続いてシンジオタクチック-1,2-重合を行った。温度は10℃に設定した。上記の成分に、トリエチルアルミニウム(TEA)が3.96mM、とオクチル酸コバルト(Co(Oct))38.19μMになるように追加した。
最後に反応を停止させ、脱溶媒および脱水・乾燥を行った。「イルガノックス」(登録商標)1520L(BASF社製)が0.90mM、ナフトキノンが0.50mMになるように加えた後、重合物を取り出して100℃で真空乾燥し、ポリブタジエン組成物を得た。
【0099】
(実施例2)
ステンレス製の耐圧容器を窒素置換した後、シス-1,4重合を行った。温度は67℃に設定した。仕込んだ原料のモル濃度は以下の通りである。1,3-ブタジエン4.57M、シクロヘキサン1.87M、水1.90mM、二硫化炭素(CS)0.13mM、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート(TPL)7.87μM、1,5-シクロオクタジエン(COD)16.5mM、ジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)3.20mM、トリエチルアルミニウム(TEA)0.36mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))6.70μM。
続いてシンジオタクチック-1,2-重合を行った。温度は60℃に設定した。上記の成分に、1,3-ブタジエン5.05M、水3.11mM、トリエチルアルミニウム(TEA)4.66mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))33.6μMになるように追加した。
最後に反応を停止させ、脱溶媒および脱水・乾燥を行った。「イルガノックス」(登録商標)1520L(BASF社製)が100.5μMになるように加えた後、水が0.82Mになるように追加した。更に熱水処理により脱溶媒を行った後に、スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機を併用して脱水・乾燥を行い、ポリブタジエン組成物を得た。
【0100】
(実施例3)
ステンレス製の耐圧容器を窒素置換した後、シス-1,4重合を行った。温度は70℃に設定した。仕込んだ原料のモル濃度は以下の通りである。1,3-ブタジエン4.56M、シクロヘキサン1.75M、水1.87mM、二硫化炭素(CS)0.22mM、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート(TPL)7.88μM、1,5-シクロオクタジエン(COD)14.2mM、ジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)3.20mM、トリエチルアルミニウム(TEA)0.37mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))7.30μM。
続いてシンジオタクチック-1,2-重合を行った。温度は62℃に設定した。上記の成分に、1,3-ブタジエン5.29M、水3.09mM、トリエチルアルミニウム(TEA)4.71mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))30.2μMになるように追加した。
最後に反応を停止させ、脱溶媒および脱水・乾燥を行った。「イルガノックス」(登録商標)1520L(BASF社製)が95.9μMになるように加えた後、水が0.82Mになるように追加した。更に熱水処理により脱溶媒を行った後に、スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機を併用して脱水・乾燥を行い、ポリブタジエン組成物を得た。
【0101】
(実施例4)
ステンレス製の耐圧容器を窒素置換した後、シス-1,4重合を行った。温度は60℃に設定した。仕込んだ原料のモル濃度は以下の通りである。1,3-ブタジエン5.18M、シクロヘキサン2.16M、水1.89mM、二硫化炭素(CS)0.25mM、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート(TPL)7.85μM、1,5-シクロオクタジエン(COD)14.37mM、ジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)3.20mM、トリエチルアルミニウム(TEA)0.36mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))7.30μM。
続いてシンジオタクチック-1,2-重合を行った。温度は63℃に設定した。上記の成分に、1,3-ブタジエン5.18M、水3.25mM、トリエチルアルミニウム(TEA)5.23mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))30.6μMになるように追加した。
最後に反応を停止させ、脱溶媒および脱水・乾燥を行った。「イルガノックス」(登録商標)1520L(BASF社製)が82.9μMになるように加えた後、水が0.82Mになるように追加した。更に熱水処理により脱溶媒を行った後に、スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機を併用して脱水・乾燥を行い、ポリブタジエン組成物を得た。
【0102】
(実施例5)
ステンレス製の耐圧容器を窒素置換した後、シス-1,4重合を行った。温度は65℃に設定した。仕込んだ原料のモル濃度は以下の通りである。1,3-ブタジエン4.60M、シクロヘキサン1.72M、水1.69mM、二硫化炭素(CS)0.16mM、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート(TPL)8.3μM、1,5-シクロオクタジエン(COD)15.0mM、ジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)3.14mM、トリエチルアルミニウム(TEA)0.36mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))6.7μM。
続いてシンジオタクチック-1,2-重合を行った。温度は61℃に設定した。上記の成分に、1,3-ブタジエン5.42M、水2.89mM、トリエチルアルミニウム(TEA)が4.65mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))25.7μMになるように追加した。
最後に反応を停止させ、脱溶媒および脱水・乾燥を行った。「イルガノックス」(登録商標)1520L(BASF社製)が89.1μMになるように加えた後、水が0.81Mになるように追加した。更に熱水処理により脱溶媒を行った後に、スクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機を併用して脱水・乾燥を行い、ポリブタジエン組成物を得た。
【0103】
(比較例1)
シス-1,4-重合における水を1.98mM、シンジオタクチック-1,2重合におけるトリエチルアルミニウム(TEA)を3.43mM、オクチル酸コバルト(Co(Oct))を127.09μM、重合温度を80℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリブタジエン組成物を得た。
【0104】
(比較例2)
シス-1,4-重合における水を2.10mM、シンジオタクチック-1,2-重合におけるオクチル酸コバルト(Co(Oct))を28.89mM、重合温度を0℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリブタジエン組成物を得た。
【0105】
(比較例3)
特許文献の製造例3に記載された方法に従って、ポリブタジエン組成物を得た。
【0106】
(比較例4)
特許文献の製造例1に記載された方法に従って、ポリブタジエン組成物を得た。
【0107】
(比較例5)
特許文献の実施例7に記載された方法に従って、ポリブタジエン組成物を得た。
【0108】
【表1】
【0109】
比較例1のポリブタジエン組成物は、押出寸法安定性が低く、ゴム組成物としたときの硬度が十分でない。また、比較例2のポリブタジエン組成物は、加工性が低い。また、比較例3および4のポリブタジエン組成物は押出寸法安定性が低い。また、比較例5のポリブタジエン組成物は、加工性が低い。熱水処理、並びに熱、せん断及び圧搾押出力を加える脱水・乾燥処理が行われず、界面成分の厚み(40~55nm)を満たさない比較例1~5のポリブタジエン組成物の物性バランス指数は低い。
参考例1のポリブタジエン組成物は、加工性及び押出寸法安定性に優れ、ゴム組成物としたときの硬度にも優れているが、物性バランス指数が低い値となっている。一方、熱水処理並びにスクリュー圧縮絞り機及びエキスパンジョン型押出乾燥機を用いて脱溶媒および脱水・乾燥を行った実施例2~5のポリブタジエン組成物は、界面成分の厚みが40~55nmの範囲となり、物性バランスも非常に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のポリブタジエン組成物は、押出寸法安定性及び加工性に優れ、ゴム組成物としたときの硬度も高く、物性バランスに優れるので、タイヤやゴムベルトをはじめ各種ゴム用途の材料として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5