(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】利用履歴管理システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20240718BHJP
【FI】
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2022554036
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035774
(87)【国際公開番号】W WO2022071365
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2020166713
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】512008233
【氏名又は名称】GreenEarthInstitute株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183988
【氏名又は名称】渡邉 泰帥
(72)【発明者】
【氏名】伊原 智人
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 淳
(72)【発明者】
【氏名】藤間 達也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 詞
(72)【発明者】
【氏名】後藤 伸行
(72)【発明者】
【氏名】冨山 俊男
(72)【発明者】
【氏名】小野 達矢
【審査官】田川 泰宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-079253(JP,A)
【文献】特開2020-035436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原材料から製品を製造する工程であって第1の工程において第1の原材料を含む1または複数の原材料から製造された第1の製品が、前記第1の工程より後の工程である第2の工程において第2の製品の製造に利用される第2の原材料に含まれる場合における原材料の利用履歴を管理する利用履歴管理システムであって、
原材料の利用情報を生成する1または複数の利用情報生成装置と、
原材料から製品を製造する一連の工程における前記利用情報生成装置が生成した原材料の利用情報をもれなく集約することで原材料の利用情報についての履歴を利用履歴情報として生成して管理するとともに、利用履歴情報から第2の製品の数量に占める第1の製品の数量を算出する利用履歴管理装置と、
前記利用情報生成装置と前記利用履歴管理装置とが接続されて情報の交換のために使用される通信ネットワークと、
を備え、
前記利用情報は、少なくとも、
前記利用履歴管理装置が発行する前記原材料を特定することができる識別子と、
前記原材料の利用前における数量を示す在庫数量情報と、
前記原材料を利用して製造した製品を特定することができる識別子と、
前記製品の製造に利用した前記原材料の数量を示す利用数量情報と、
前記利用情報生成装置が前記利用情報を生成した時刻を示す時刻情報と、
を含むことを特徴とする利用履歴管理システム
【請求項2】
請求項1に記載の利用履歴管理システムであって、
前記利用履歴管理装置が接続されて、前記利用情報を記録するブロックチェーンデータを管理するブロックチェーンネットワークを備え、
前記ブロックチェーンネットワークへの参加の承認と、前記ブロックチェーンデータへの前記利用情報の記録の承認と、を行う運営者アカウントを有し、
前記利用履歴管理装置は、秘密鍵を生成する手段と、トークンを発行する手段と、を備え、
前記利用情報生成装置は、前記原材料の前記利用情報を前記原材料の数量に応じた前記トークンの取引のトランザクションとして生成する手段を備え、
前記原材料を特定することができる識別子は、前記原材料に関連付けられた前記秘密鍵から生成され、
前記利用情報は、さらに、
前記原材料に関連付けられた前記秘密鍵から生成される公開鍵を含み、
前記原材料に関連付けられた前記秘密鍵を用いた電子署名がなされる、
ことを特徴とする利用履歴管理システム
【請求項3】
前記原材料には、事業活動に伴って生じた排出物を含む、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の利用履歴管理システム
【請求項4】
前記排出物は、食品生産時に排出されるものである、
ことを特徴とする請求項3に記載の利用履歴管理システム
【請求項5】
前記排出物は、農作物生産時に排出されるものである、
ことを特徴とする請求項3に記載の利用履歴管理システム
【請求項6】
前記排出物は、工業製品生産時に排出されるものである、
ことを特徴とする請求項3に記載の利用履歴管理システム
【請求項7】
前記原材料には、化学組成が同一であって製造の工程が異なる2以上の化学品を含む、
ことを特徴とする請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の利用履歴管理システム
【請求項8】
前記製品には、生体触媒を利用した変換を伴う工程を経て製造された化学品を含む、
ことを特徴とする請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の利用履歴管理システム
【請求項9】
前記利用履歴管理システムは、前記通信ネットワークに接続され前記利用履歴管理装置と情報の交換を行う情報端末を備え、
前記情報端末は、
前記利用履歴管理装置に、前記通信ネットワークを介して前記第2の製品の数量に占める前記第1の製品の数量を問い合わせる情報を送信する手段と、
前記利用履歴管理装置から、前記通信ネットワークを介して前記第2の製品の数量に占める前記第1の製品の数量の情報を受信する手段と、
前記利用履歴管理装置から受け取った前記通信ネットワークを介して前記第2の製品の数量に占める前記第1の製品の数量の情報を出力する手段と、
を備え、
前記利用履歴管理装置は、
前記情報端末から、前記通信ネットワークを介して問い合わせの情報を受信する手段と、
前記情報端末に、問い合わせの結果の情報を送信する手段と、
を備えることを特徴とする請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の利用履歴管理システム
【請求項10】
前記利用履歴管理装置は、
前記情報端末からの問い合わせの結果として算出され前記情報端末に送信する情報について課金する手段、
を備えることを特徴とする請求項
9に記載の利用履歴管理システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用履歴管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の製造、流通において、製品の安全性や消費者の製品選択の観点などから、原材料の入荷から製品の出荷までトレーサビリティ(追跡可能性)への要求が大きくなっている。特許文献1では、機器の生産工程における物体指紋認証技術によるトレーサビリティ管理システムが開示されている。
【0003】
一方、近年、ハッシュ関数と公開鍵暗号方式を用いて取引情報の真正性を担保するいわゆるブロックチェーン(分散型台帳技術)が様々な分野で利用され始めている。取引情報の真正性の保証度を高める技術の進展に伴い、ブロックチェーンによって取引履歴などの情報をサプライチェーン(供給連鎖)の構成者が共有することでトレーサビリティ環境を整備する動きもある。特許文献2では、ブロックチェーンを利用した取引情報の真正性の保証度を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-109731号公報
【文献】特開2017-207860号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】一般社団法人日本ブロックチェーン協会,“「ブロックチェーンの定義」を公開しました”,平成28年10月3日,インターネット<URL:https://jba-web.jp/news/642>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トレーサビリティの担保については、機器など分野では、部品や製品の個体識別が可能なため特許文献1に開示される物体指紋認証技術など技術の進展が著しい。一方、化学製品の分野においては、同じ組成の化学製品であれば製造方法の違いによる差異を認めることが難しく、また、機器などのように個体識別ができないことからトレーサビリティの担保について困難性が高い。
【0007】
ところで、近年、従来であれば廃棄されていたものを新たな資源と捉え、製品の原材料とすることで資源を循環させるサーキュラーエコノミー(循環型経済)が注目されている。サーキュラーエコノミーを実現するための技術として、化石資源を除いた再生可能な生物由来の有機性資源であるバイオマスを原材料に製品を製造する技術がバイオリファイナリー技術である。
【0008】
バイオリファイナリー技術によって食品残渣や農業残渣を含むバイオマスを原材料として製品を製造した場合、最終製品や原材料の品質や性能が変わらなかったとしても、従来であれば廃棄されていたものが再生過程を経て原材料となりうるため、製品の安全性や消費者の製品選択の観点などから、トレーサビリティの担保への要求は大きい。
【0009】
また、バイオリファイナリー技術によって従来であれば廃棄されていたバイオマスを原材料として製品を製造した場合、原材料として再生品と非再生品が混合されて使用される場合や、再生品を原材料として製造された製品と非再生品を原材料として製造された製品を混合して最終製品として消費者に向けて販売される場合なども考えられる。特に、化学製品では、同一の化学構造である原材料や製品を混合されると分別することが不可能なことから、どのような再生過程を経て製造された再生品が、製品にどの程度含まれているかを管理することがトレーサビリティの担保においては重要な解決すべき課題である。
【0010】
さらに、原材料である再生品と非再生品では、原材料製造のコストに差が生じることから、どのような再生過程を経て製造された再生品が、原材料として製品にどの程度含まれているかを管理することが、最終製品の価格決定においても重要な役割を果たす。
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示されるような機器などの分野で好適な従来技術では、これらの課題は解決が困難であって、化学製品の分野で好適なトレーサビリティを担保する技術が求められる。
【0012】
そこで、本発明は、バイオリファイナリー技術によってバイオマスを原材料として製造された製品のように、製造工程が異なるが同じ組成の2以上の化学品が原材料となる製品において、原材料のトレーサビリティを担保する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、原材料から製品を製造する工程における原材料の利用履歴を管理する利用履歴管理システムであって、原材料の利用情報を生成する1または複数の利用情報生成装置と、利用情報生成装置が生成した原材料の利用情報についての履歴を利用履歴情報として管理する利用履歴管理装置と、利用情報生成装置と利用履歴管理装置が接続されて情報の交換のために使用される通信ネットワークを備え、利用情報は、少なくとも、利用履歴管理装置が発行する原材料を特定することができる識別子と、原材料の利用前における数量を示す在庫数量情報と、原材料を利用して製造した製品を特定することができる識別子と、製品の製造に利用した原材料の数量を示す利用数量情報と、利用情報生成装置が利用情報を生成した時刻を示す時刻情報を含むことを特徴とする。
【0014】
これにより、バイオリファイナリー技術によってバイオマスを原材料として製造された製品のように、製造工程が異なるが同じ組成の2以上の化学品が原材料となる製品において、原材料のトレーサビリティを担保することができる。
【0015】
なお、本発明において、製品とは工程を経て原材料から製造されたものをいい、ある工程の製品は、後の工程の原材料となり得る関係にある。
【0016】
本発明の一態様である利用履歴管理システムでは、さらに、利用履歴管理装置が接続されて利用情報を記録するブロックチェーンデータを管理するブロックチェーンネットワークを備え、ブロックチェーンネットワークへの参加の承認とブロックチェーンデータへの利用情報の記録の承認を行う運営者アカウントを有し、利用履歴管理装置は、秘密鍵を生成する手段と、トークンを発行する手段を備え、利用情報生成装置は、原材料の利用情報を原材料の数量に応じたトークンの取引のトランザクションとして生成する手段を備え、原材料を特定することができる識別子は原材料に関連付けられた秘密鍵から生成され、利用情報は、さらに、原材料に関連付けられた秘密鍵から生成される公開鍵を含み、原材料に関連付けられた秘密鍵を用いた電子署名がなされることを特徴とする。
【0017】
ブロックチェーンにより、トレーサビリティを担保するための情報の真正性の保証度を高めることができる。
【0018】
本発明の一態様である利用履歴管理システムでは、さらに、利用履歴管理装置は、原材料から製品を製造する一連の工程における前記利用情報をもれなく集約することで前記利用履歴情報を生成する手段を備えることを特徴とする。
【0019】
これにより、一連の工程を経て製造される製品について、原材料のトレーサビリティを担保することができる。なお、本発明において、一連の工程とは、複数の連続する工程をいう。一連の工程を構成するある工程の製品は、連続する次の工程の原材料のひとつとなる関係にある。
【0020】
本発明の一態様である利用履歴管理システムでは、さらに、第1の工程において第1の原材料を含む1または複数の原材料から製造された第1の製品が、第1の工程より後の工程である第2の工程において第2の製品の製造に利用される第2の原材料に含まれる場合であって、利用履歴管理装置は、利用履歴情報から前記第2の製品の数量に占める前記第1の製品の数量を算出する手段を備えることを特徴とする。
【0021】
これにより、原材料のトレーサビリティに関する情報を本発明に係る利用履歴管理システムから取得できる。
【0022】
本発明の一態様である利用履歴管理システムでは、さらに、利用履歴管理装置は、問い合わせの結果として算出され情報について課金する手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明による利用履歴管理システムは、バイオリファイナリー技術によってバイオマスを原材料として製造された製品のように、製造工程が異なるが同じ組成の2以上の化学品が原材料となる製品においても、原材料を特定することができる識別子によって一連の工程で利用された原材料の利用履歴管理を管理することで、特定の原材料が製品に利用されている数量を求めることができる。また、ブロックチェーンにより、トレーサビリティを担保するための情報の真正性の保証度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】排出物を原材料とするエタノール製造工程を示す図である。
【
図2】排出物を原材料とするエタノール製造工程、及び、これを原材料とする製品製造工程を示す図である。
【
図3】第1実施形態における利用履歴管理システムの全体構成例を示す図である。
【
図4】第1実施形態における利用情報生成装置の構成を示す図である。
【
図5】第1実施形態における利用履歴管理装置の構成を示す図である。
【
図6】第1実施形態での利用情報のデータ項目を模式的に示した図である。
【
図7】利用履歴管理システムの処理を説明するためのモデル工程の図である。
【
図8】モデル工程を例にとって第1実施形態での処理フローを説明する図である。
【
図9】第2実施形態における利用履歴管理システムの全体構成例を示す図である。
【
図10】第2実施形態における利用情報生成装置の構成を示す図である。
【
図11】第2実施形態における利用履歴管理装置の構成を示す図である。
【
図12】第2実施形態における原材料の利用情報のデータ項目を模式的に示した図である。
【
図13】モデル工程を例にとって第2実施形態での処理フローを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。重複する説明は省略し、各図面において同一又は相当部分には同一の符号を付す。
【0026】
本実施形態は、バイオリファイナリー技術によるバイオマスを原材料とする製品の製造の工程のような、化学組成が同一であって製造の工程が異なる2以上の化学品を原材料とする化学製品の製造の工程でのトレーサビリティの担保において好適に採用される。なお、本願において、トレーサビリティとは、一連の工程を経て製造された製品について、特定の原材料が利用されている数量を明らかにできることをいう。説明理解の容易性を考慮して、排出物を原材料とするエタノール製造工程を例にとって、第1実施形態、第2実施形態の二つの実施形態を以下で説明するが、これに先立ち二つの実施形態において例にとる排出物を原材料とするエタノール製造工程、及び、これを原材料とする製品製造工程の概略を説明する。なお、これは例示であって、排出物を原材料とするエタノール製造工程、及び、これを原材料とする製品製造工程のみに本発明の適用を限るものではない。
【0027】
図1は、排出物を原材料とする化学品製造工程を示す図である。本願において、排出物とは、事業活動に伴って生じた再生可能な生物由来の有機性資源をいう。例えば、食品生産時に出る排出物であるコーヒー粕やカカオハスク、農作物生産時に出る排出物である小麦ふすま粕やきのこ廃菌床、工業製品生産時に出る排出物である古紙などがある。また、排出物由来の化学品として、エタノールや希少糖などがある。
【0028】
101は、排出物から化学品への生体触媒を利用した変換を伴う工程である。加熱や粉砕などの前処理102、酵素による糖化103、微生物による発酵104、蒸留や精製105の各工程から構成される。なお、生体触媒を利用した変換には、酵素変換、微生物変換のいずれをも含む。
【0029】
図2は、排出物を原材料とするエタノール製造工程、及び、これを原材料とする製品製造工程を示す図である。101は、
図1で示した生体触媒を利用した排出物から化学品への変換を伴う工程であって、原材料である排出物209から排出物由来エタノール201を製造する。
【0030】
図2で、製造工程205では、エタノールとその他原材料204から製品206(例えば、消毒用製品など)を製造するが、エタノールは、排出物由来エタノール201と、植物由来エタノール202(例えば、トウモロコシから製造するバイオエタノールなど)と、石油由来エタノール203を混合して原材料として利用していることを示している。排出物由来エタノール201と、植物由来エタノール202と、石油由来エタノール203は、化学的組成は同一のため、原材料として利用する混合されたエタノールからそれぞれを分別することはできない。
【0031】
このように、
図2は、発明が解決しようとする課題として前述したトレーサビリティの担保において重要な解決すべき課題を内包する顕著な例を示すものである。
【0032】
本実施形態では、特に、
図2の破線で囲まれた部分207、すなわち、排出物由来エタノール製造工程101と製品製造工程205における製品206への排出物由来エタノール201の利用情報の生成と利用履歴の管理について説明する。なお、本発明による利用履歴管理システムは、実施形態で説明すると同様の手段を用いて原材料から製品を製造する一連の工程において利用情報をもれなく集約して利用履歴情報を生成することで、一連の工程におけるトレーサビリティの担保することができる。例えば、
図2の破線で囲まれた部分207の前工程にあたる排出物製造工程208と排出物由来エタノール製造工程101における排出物由来エタノール201への排出物209の利用情報の生成と利用履歴の管理が同様の手段を用いて行われれば、排出物209から製品206までの一連のトレーサビリティが担保される。
【0033】
また、本発明による利用履歴管理システムは、ひとつの工程を複数の工程に分割して管理する場合、分割されたそれぞれの工程について原材料の利用履歴を管理することができる。具体的な一例としては、
図2に示す排出物由来エタノール製造工程101を、
図1に示すように、加熱や粉砕などの前処理102、酵素による糖化103、微生物による発酵104、蒸留や精製105の各工程に分割して管理する場合に、分割した工程(102~105)の各々について、別個独立に本発明による利用履歴管理システムによって原材料の利用履歴について管理することもできる。
【0034】
(第1実施形態)
第1実施形態は、利用履歴管理システムをクライアントサーバシステムによって構成する。
図3は、本実施形態における利用履歴管理システムの全体構成例を示す図である。
図3に示すように、本実施形態における利用履歴管理システムは、原材料の利用情報を生成する利用情報生成装置301、302と、利用情報生成装置が生成した原材料の利用情報についての履歴を利用履歴情報として管理する利用履歴管理装置303と、利用情報取得装置301、302と利用履歴管理装置303とが接続されて情報の交換のために使用される通信ネットワーク304から構成される。さらに、通信ネットワーク304に接続され利用履歴管理装置303と情報の交換を行う情報端末305を備えてもよい。
【0035】
図3に示すように利用履歴管理システムは1または複数の利用情報生成装置を用いて構成される。
図3では、利用情報生成装置1(301)、利用情報生成装置2(302)が示されているが、利用情報生成装置の数を2に限定するものではない。また、各々の製造工程が物理的に離れた場所で行われる場合などであっても通信ネットワーク304を介して複数の利用情報生成装置を配することができる。なお、本実施形態においては、
図2に示す製造工程101において利用情報生成装置1(301)が、製造工程205において利用情報生成装置2(302)が使用されるとして説明する。
【0036】
利用情報生成装置301、302は、物理的には、中央演算装置(CPU)、入力装置、出力装置、主記憶装置(RAM/ROM)、補助記憶装置から構成される通信ネットワーク304に接続されたコンピュータである。利用情報生成装置301、302は、専用の装置であってもよいし、パーソナルコンピュータや、スマートフォン、情報携帯端末等の携帯型電子機器であってもよい。
【0037】
図4は、利用情報生成装置の構成を示す図である。利用情報生成装置1(301)、利用情報生成装置2(302)のいずれも同様の構成をとる。各構成要素の機能を
図2に示す製造工程205において使用される利用情報生成装置2(302)の例で説明する。製品識別子管理部401は、製造工程205において製造される製品206を特定することができる識別子の発行を利用履歴管理装置303に通信部404を介して依頼し、発行された識別子を管理する。原材料情報取得部402は、製造工程205において利用される原材料について、原材料を特定することができる識別子と、製造工程205において利用される前の原材料の数量を示す在庫数量情報を取得する。なお、原材料を特定することができる識別子と、製造工程205において利用される前の原材料の数量を示す在庫数量情報については、前工程から情報として原材料情報取得部402に受け渡される。例えば、前工程からの納品書に印刷された識別子と在庫数量の情報を利用情報生成装置2(302)に直接入力する、納品書に印刷された識別子と在庫数量の情報を示すバーコードを利用情報生成装置2(302)で読み取る、前工程の製造装置から通信ネットワーク304を介して利用情報生成装置2(302)に受け渡される、前工程で使用される利用情報生成装置1(301)から通信ネットワーク304を介して利用情報生成装置2(302)に受け渡されるなど、識別子と在庫数量の情報が正しく引き渡されれば方法は問わない。利用情報生成部403は、原材料を特定することができる識別子、在庫数量情報、製品206を特定することができる識別子に加えて、製造工程205において利用された原材料の数量を示す利用数量情報と情報を生成した時刻から製造工程205における原材料の利用情報を生成して、利用履歴管理装置303に通信部404を介して送信する。なお、製造工程205において利用された原材料の数量を示す利用数量情報は、例えば、利用情報生成装置2(302)に直接入力する、製造工程205の製造装置から通信ネットワーク304を介して利用情報生成装置2(302)に受け渡されるなど、正しく情報が取得できれば方法は問わない。
【0038】
次に、利用履歴管理装置303は、物理的には、中央演算装置(CPU)、入力装置、出力装置、主記憶装置(RAM/ROM)、補助記憶装置から構成される通信ネットワーク304に接続されたサーバ装置である構成される。複数のサーバ装置で機能を分散して構成してもよい。
【0039】
図5は、利用履歴管理装置303の構成を示す図である。識別子管理部501は、利用情報生成装置からの依頼に基づいて、利用情報生成装置が使用される製造工程において製造される製品を特定することができる識別子を発行するとともに、管理する。利用履歴管理部502は、通信部504を介して受信した、利用情報生成装置が生成した原材料の利用情報についての履歴を利用履歴情報として管理する。課金部503については後述する。
【0040】
図6は、原材料の利用情報のデータ項目を模式的に示した図である。利用情報は、利用情報生成装置の利用情報生成部403によって生成される。なお、原材料の利用情報は、
図6に示すデータ項目と情報を生成した時刻を示す時刻情報からなる。601に基づいて、原材料の利用情報のデータ項目について説明する。INPUT側には、製造工程で利用される原材料について、原材料を特定することができる識別子と原材料の利用前における数量を示す在庫数量情報がセットされる。INPUT側にセットされるこれら情報は、前述の通り、前工程から情報として原材料情報取得部402が取得して、利用情報生成部403に引き渡される。OUTPUT側には、原材料を利用して製造した製品を特定することができる識別子と製品の製造に利用した原材料の数量を示す利用数量情報、及び、原材料を特定することができる識別子と原材料の利用後における数量を示す残数量情報がセットされる。OUTPUT側にセットされるこれら情報のうち、原材料を利用して製造した製品を特定することができる識別子は利用履歴管理装置303から発行され、製品の製造に利用した原材料の数量を示す利用数量情報は、前述の通り、製品の製造工程において取得される。また、原材料の利用後における数量を示す残数量情報は、在庫数量情報と利用数量情報から自動的に算出される。利用情報生成部403は、このようにして生成したデータ項目に時刻情報を付して利用情報とする。602に基づいて、具体的な例で説明する。602は、製造工程205における排出物由来エタノール201の利用情報の例示である。排出物由来エタノール201を特定することができる識別子がX0001、製品206を特定することができる識別子がY0001とした場合、602は、在庫数量100の排出物由来エタノール201を製造工程205において製品206の製造に数量60を利用して数量40残っていることを表している。
【0041】
図7は、本実施形態での利用履歴管理システムの処理を説明するためのモデル工程の図である。また、
図8では、
図7で示すモデル工程を例にとって処理フローを説明する。なお、モデル工程は、説明理解の容易性を考慮して示す例示であって、本実施形態の適用をこれに限るものではない。
図7は、
図2の破線で囲まれた部分207に相当する。
図7で示すモデル工程を説明する。モデル工程は、排出物由来エタノール201を製造して出荷するまでと、排出物由来エタノール201が納品されてから製品製造工程205を経て製品206が製造されるまでに大別される。
図7に示す通り、前者の工程で利用情報生成装置1(301)が、後者の工程で利用情報生成装置2(302)が、それぞれ使用されるものとする。まず、排出物由来エタノール製造工程101で排出物由来エタノール201が数量300製造される。これには製品を特定することができる識別子としてX0000が既に付与されている。製造された数量300の排出物由来エタノール201のうち、数量100が原材料として出荷(701)される。この際、利用情報生成装置1(301)が利用履歴管理装置303に原材料を特定することができる識別子の発行を依頼し、識別子X0001が発行される。この後、利用情報生成装置1(301)は、製品である排出物由来エタノール201の数量300のうち数量数量100を原材料として出荷したことについての利用情報を生成して利用履歴管理装置303に送信する。利用履歴管理装置303は、利用情報を利用履歴情報に追加して履歴として管理する。原材料である数量100の排出物由来エタノール201とともに、情報として識別子X0001と在庫数量100が納品される。前述の通り、例えば、納品書に識別子と在庫数量の情報を示すバーコードを印刷するなどの方法による。識別子と在庫数量の情報が引き渡されれば方法は問わない。製品製造工程205では、原材料である排出物由来エタノール201の数量100のうち数量60を使用して製品206を製造した。この際、利用情報生成装置2(302)が利用履歴管理装置303に製品を特定することができる識別子の発行を依頼し、識別子Y0001が発行される。この後、利用情報生成装置2(302)は、識別子と在庫数量の情報を示すバーコードを読み取るなどの方法によって識別子X0001と在庫数量100の情報を取得し、製品206を特定することができる識別子Y0001と排出物由来エタノール201の利用数量60から原材料である排出物由来エタノール201の利用情報を生成して利用履歴管理装置303に送信する。利用履歴管理装置303は、利用情報を利用履歴情報に追加して履歴として管理する。また、利用情報生成装置2(302)は、製造された製品206の数量を利用履歴管理装置303に送信し、利用履歴管理装置303は、これを管理する。
【0042】
図8は、
図7で示すモデル工程における利用情報生成装置1(301)、利用情報生成装置2(302)、利用履歴管理装置303の間での利用情報の生成と利用履歴の管理についての処理フローである。処理フロー開始前に、排出物由来エタノール製造工程101で製造された数量300の排出物由来エタノール201には、製品を特定することができる識別子としてX0000が既に付与されている。
【0043】
まず、
図8で示す処理フローの前半、利用情報生成装置1(301)と利用履歴管理装置303の間での処理フローについて説明する。排出物由来エタノール201について数量300から数量100を分離することを、利用履歴管理システムではひとつの工程701としてとらえる。つまり、数量300の排出物由来エタノール201は排出物由来エタノール製造工程101で製造された製品、数量100の排出物由来エタノール201は製品製造工程205の原材料であるが、利用履歴管理システムでの処理においては、数量300の排出物由来エタノール201は工程701の原材料、分離された数量100の排出物由来エタノール201は工程701の製品として扱って処理される。利用情報生成装置1(301)は、利用履歴管理装置303に、工程701の製品として特定することができる識別子の発行を依頼(SQ801)する。利用履歴管理装置303は、依頼(SQ801)を受けて、識別子管理部501が、識別子X0001を発行(SQ802)する。発行した識別子は識別子管理部501が管理する。また、利用情報生成装置1(301)でも識別子管理部501から発行された識別子を製品識別子管理部401が管理する。この後、利用情報生成装置1(301)は、利用情報生成部403が、工程701(排出物由来エタノール201の数量300のうち数量100を分離)についての利用情報を生成して利用履歴管理装置303に送信(SQ803)する。803はSQ803で送信される利用情報のデータ項目を示す。803は、識別子X0000で特定できる数量300の排出物由来エタノール201から工程701において識別子X0001で特定できる数量100の排出物由来エタノール201を分離して数量200が残っていることを表している。利用履歴管理装置303では、利用履歴管理部502が、受信した利用情報を利用履歴情報に追加して履歴として管理する。
【0044】
次に、
図8で示す処理フローの後半、利用情報生成装置2(302)と利用履歴管理装置303の間での処理フローについて説明する。利用情報生成装置2(302)は、利用履歴管理装置303に、製品製造工程205の製品206を特定することができる識別子の発行を依頼(SQ804)する。利用履歴管理装置303は、依頼(SQ804)を受けて、識別子管理部501が、識別子Y0001を発行(SQ805)する。発行した識別子は識別子管理部501が管理する。また、利用情報生成装置2(302)でも識別子管理部501から発行された識別子を製品識別子管理部401が管理する。この後、利用情報生成装置2(302)は、原材料取得部402がバーコードを読み取るなどの方法によって取得した原材料を特定することができる識別子と在庫数量の情報と、製品を特定することができる識別子と利用数量から、利用情報生成部403が、製品製造工程205についての利用情報を生成して利用履歴管理装置303に送信(SQ806)する。806はSQ806で送信される利用情報のデータ項目を示す。806は、識別子X0001で特定できる数量100の排出物由来エタノール201から製品製造工程205において識別子Y0001で特定できる製品206の原材料として数量100の排出物由来エタノール201を利用して数量40が残っていることを表している。利用履歴管理装置303では、利用履歴管理部502が、受信した利用情報を利用履歴情報に追加して履歴として管理する。
【0045】
さらに、
図8で、利用履歴管理装置303が行う利用履歴情報の管理について説明する。利用履歴情報は、各々の利用情報生成装置から利用履歴管理装置303に送信された一連の工程における利用情報をもれなく集約した情報である。利用情報は、803や806で示すデータ項目に情報を生成した時刻を示す時刻情報からなり、利用履歴管理部502が管理する。
図8に示す例では、時刻が先の803に基づく利用情報と、時刻が後の806に基づく利用情報は、803に基づく利用情報のOUTPUTである識別子X0001と数量100が、806に基づく利用情報のINPUTである識別子X0001と数量100と紐づいて利用履歴を追跡することができる。利用履歴管理装置303は、このようにして識別子管理部501が管理する識別子と利用履歴管理部502が管理する利用履歴情報に基づいて、一連の工程を経て製造された製品について、特定の原材料が利用されている数量を明らかにできる。すなわち、トレーサビリティを担保することができる。
【0046】
製品206の製造の後、利用情報生成装置2(302)は、製造された製品206の数量を利用履歴管理装置303に送信(SQ807)し、利用履歴管理装置303は、これを管理する
【0047】
次に、
図3に示す情報端末305の役割と機能、及び、
図5に示す利用履歴管理装置303の課金部503の役割と機能について説明する。
【0048】
情報端末305は、通信ネットワーク304を介して利用履歴管理装置303と情報の交換を行う。情報端末305は、物理的には、中央演算装置(CPU)、入力装置、出力装置、主記憶装置(RAM/ROM)、補助記憶装置から構成される通信ネットワーク304に接続されたコンピュータである。情報端末305は、専用の装置の他、パーソナルコンピュータや、スマートフォン、情報携帯端末等の携帯型電子機器であってもよい。
【0049】
情報端末305の主な使用用途としては、トレーサビリティ情報の参照がある。なお、これは例示であって、この用途に限られるものではない。例えば、
図2に示す一連の製造工程を経て製造された製品206に含まれる排出物由来エタノール201の数量に関する情報は、製品の安全性や消費者の製品選択の観点などから有益な情報となる。例えば、製品206の販売業者が、原材料として利用されている排出物由来エタノール201の数量などを製品206の原材料表示に明記するなどの使用が考え得る。前述の通り、
図2に示される一連の工程において利用情報をもれなく集約して利用履歴情報として管理すれば、排出物由来エタノール201の原材料としての利用数量を得ることができる。また、同様にして、植物由来エタノール202、石油由来エタノール203、その他原材料204の原材料としての利用数量も得ることができることから、原材料全体に占める排出物由来エタノール201の割合を得ることもできる。
【0050】
情報端末305によるトレーサビリティ情報の参照における処理について説明する。
図7の一連の工程における製品206に利用された排出物由来エタノール201の数量を参照する例とする。情報端末305への入力情報として少なくとも排出物由来エタノール製造工程101の製品である排出物由来エタノール201を特定することができる識別子X0000と、製品206を特定することができる識別子Y0001が入力される。情報端末305から入力情報を受け取った利用履歴管理装置303では、識別子管理部501が、情報に含まれる識別子X0000と識別子Y0001が管理された識別子であることを判断し、利用履歴管理部502が、利用履歴情報(本例では、803と806)から製品206に利用された排出物由来エタノール201の数量を60と算出して、算出結果を情報端末305に返す。あわせて、利用履歴管理装置303は、管理している製品206の数量を情報端末305に返す。
【0051】
前述のとおり、トレーサビリティ情報は有益な情報であるため、情報に対して課金することが考えられる。
図5に示す利用履歴管理装置303の課金部503は、情報端末305からのトレーサビリティ情報の参照処理に対して課金する機能を有する。本実施形態では、トレーサビリティ情報に対して課金を行うことができればよく、課金の方法(処理1回ごとに課金、処理一定回数までは定額など)については問わない。また、請求先情報の紐づけ(情報端末305にログインしたIDに対して請求、利用履歴管理システム利用料とあわせて請求など)についても正しい請求先に請求ができれば方法は問わない。
【0052】
以上が、第1実施形態についての説明である。
【0053】
(第2実施形態)
第2実施形態について図面を参照して説明するが、第1実施形態と重複する説明は省略する。また、情報端末305の動作、利用履歴管理装置303の課金部503の動作については、第1実施形態と同様のため説明を割愛する。
【0054】
第2実施形態は、利用履歴管理システムをブロックチェーン(プライベートチェーン)を用いて構成する。
図9は、本実施形態における利用履歴管理システムの全体構成例を示す図である。
図9に示すように、本実施形態における利用履歴管理システムは、利用情報生成装置301、302、利用履歴管理装置303、通信ネットワーク304、情報端末305に加え、利用履歴管理装置303が接続されて利用情報を記録するブロックチェーンデータを管理するブロックチェーンネットワーク901から構成される。
【0055】
ブロックチェーンとは、日本ブロックチェーン協会によれば、「電子署名とハッシュポインタを使用し改竄検出が容易なデータ構造をもち、且つ、当該データをネットワーク上に分散する多数のノードに保持させることで、高可用性及びデータ同一性等を実現する技術を広義のブロックチェーンと呼ぶ」と定義(非特許文献1)されている。本願において、ブロックチェーンとは、この定義に依るものとする。また、本願においては、ブロックチェーンで管理されるデータをブロックチェーンデータという。本実施形態は、利用履歴管理システムをブロックチェーンを用いて構成することで、改竄検出を容易とし、高可用性及びデータ同一性等を実現することでトレーサビリティを担保するための情報の真正性の保証度を高めることができる。
【0056】
ブロックチェーンネットワークとは、ブロックチェーンデータを分散管理するP2P(Peer to Peer)通信により互いに通信可能に接続された複数のコンピュータ(ノード)からなるネットワークをいう。
図9では、ブロックチェーンネットワーク901に接続された利用履歴管理装置303がノードとして機能し、利用情報をブロックチェーンデータに記録するとともに、ブロックチェーンネットワーク901に接続された他のノードとともにブロックチェーンデータを分散管理する。
【0057】
本実施形態では、ブロックチェーンネットワーク901への参加の承認と、ブロックチェーンデータへの利用情報の記録の承認を行う運営者アカウントを有するプライベート型のブロックチェーン(プライベートチェーン)を用いた利用履歴管理システムとする。運営者アカウントは、ブロックチェーンネットワーク901に接続しているノードを把握し、管理する。本発明の主な目的である一連の工程を経て製造された製品についてトレーサビリティを担保するために、利用履歴管理システムは、一連の工程に関与する者のみの間で利用情報を流通させる必要があるためである。
【0058】
図10は、利用情報生成装置の構成を示す図である。利用情報生成装置1(301)と利用情報生成装置2(302)は同様の構成をとる。本実施形態において、利用情報生成装置は、製品識別子管理部401、原材料情報取得部402、利用情報生成部403、通信部404に加え、トランザクション生成部1001を備える。トランザクション生成部1001は、原材料の利用情報を原材料の数量に応じたトークンの取引のトランザクションとして生成する。また、トランザクション生成部1001は、利用情報のデータ項目に、生成した時刻を示す時刻情報であるタイムスタンプを付し、原材料を特定できるように関連付けて生成した秘密鍵によって生成された電子署名を施してトランザクションファイルを生成する。本願において、トークンとは、ブロックチェーンを利用して発行された価値を含むデジタルデータをいい、特に本実施形態では、ブロックチェーンを利用して利用履歴管理装置303が発行する原材料や製品の数量に応じた数値を含むデジタルデータをいう。また、トランザクションとは、ブロックチェーンを利用して実現される取引データをいう。
【0059】
図11は、利用履歴管理装置303の構成を示す図である。本実施形態において、利用履歴管理装置303は、識別子管理部501、利用履歴管理部502、課金部503、通信部504に加え、秘密鍵生成部1101とトークン管理部1102を備える。秘密鍵生成部1101は、秘密鍵の生成を行う。秘密鍵とは、公開鍵暗号技術で使用される一対の暗号鍵のうち、秘匿する必要がある鍵をいう。なお、一対の暗号鍵のうち、他方の鍵を公開鍵という。公開鍵は、例えば、楕円曲線変換などの一定のアルゴリズムに基づいて秘密鍵から生成される。トークン管理部1102は、トークンの発行と管理を行う。
【0060】
図12は、原材料の利用情報のデータ項目を模式的に示した図である。利用情報は、利用情報生成装置の利用情報生成部403によって生成される。1201に基づいて、原材料の利用情報のデータ項目について説明する。INPUT側には、製造工程で利用される原材料について、原材料に関連付けられた公開鍵と原材料の利用前における数量を示す在庫数量情報がセットされる。本実施形態においては、数量情報は、トークンの数量として表現される。やりとりされる原材料の数量の履歴を、トランザクション生成部1001が、ブロックチェーンを利用してトランザクションによるトークンのやりとりに置き換えて利用履歴を管理する。原材料に関連付けられた公開鍵は、利用履歴管理装置303の秘密鍵生成部1101が、原材料を特定できるように関連付けて生成した秘密鍵から生成される。公開鍵は秘密鍵と対を成す。OUTPUT側には、原材料を利用して製造した製品を特定することができる識別子としての製品に関連付けられたウォレットアドレスと製品の製造に利用した原材料の数量を示す利用数量情報、及び、原材料を特定することができる識別子としての原材料に関連付けられたウォレットアドレスと原材料の利用後における数量を示す残数量情報がセットされる。ウォレットアドレスとは、ブロックチェーンで使用される用語であって、公開鍵暗号の秘密鍵と公開鍵をもとにしてハッシュ関数などによって数学的に導出されたアドレスをいう。本実施形態においては、原材料や製品を特定することができる識別子としてウォレットアドレスを使用する。なお、原材料を特定することができるウォレットアドレスについては、前工程から情報として原材料情報取得部402に受け渡される。例えば、前工程からの納品書に印刷されたウォレットアドレスの情報を示すバーコードを利用情報生成装置で読み取る、前工程で使用される利用情報生成装置から通信ネットワーク304を介して製品の製造工程で使用される利用情報生成装置に受け渡されるなど、ウォレットアドレスの情報が正しく引き渡されれば方法は問わない。また、製品の製造工程において利用される前の原材料の数量を示すトークンの数量は、利用情報生成装置が、トークンの発行を管理する利用履歴管理装置303に問い合わせて取得する。1202に基づいて、具体的な例で説明する。1202は、
図7に示す、製造工程205における排出物由来エタノール201の利用情報の例示である。排出物由来エタノール201に関連付けられた公開鍵がKEYX0001、製品206を特定することができる識別子である製品206に関連付けられたウォレットアドレスがWALLETY0001、排出物由来エタノール201を特定することができる識別子である排出物由来エタノール201に関連付けられたウォレットアドレスがWALLETX0001、とした場合、1202は、在庫数量100の排出物由来エタノール201を製造工程205において製品206の製造に数量60を利用して数量40残っていることを表している。なお、本実施形態において、原材料の利用情報がトランザクションとして扱われる際、
図12に示す原材料の利用情報のデータ項目に、生成した時刻を示す時刻情報であるタイムスタンプを付して、原材料を特定できるように関連付けて生成した秘密鍵によって生成された電子署名を施してトランザクションファイルとして生成される。ブロックチェーンでは、トランザクションファイルのハッシュ値をトランザクションIDとして唯一性の保証を行う。
【0061】
図13は、
図7で示すモデル工程における利用情報生成装置1(301)、利用情報生成装置2(302)、利用履歴管理装置303、ブロックチェーンネットワーク901の間での利用情報の生成と利用履歴の管理についての処理フローである。処理フロー開始前に、排出物由来エタノール製造工程101で製造された数量300の排出物由来エタノール201には、製品を特定することができる識別子としてウォレットアドレスWALLTX0000と、排出物由来エタノール製造工程101で製造された数量300に相当するトークン300が既に付与されている。
【0062】
まず、
図13で示す処理フローの前半、利用情報生成装置1(301)、利用履歴管理装置303、ブロックチェーンネットワーク901の間での処理フローについて説明する。排出物由来エタノール201について数量300から数量100を分離することを、利用履歴管理システムではひとつの工程701としてとらえることは第1実施形態と同様である。数量300の排出物由来エタノール201は排出物由来エタノール製造工程101で製造された製品、数量100の排出物由来エタノール201は製品製造工程205の原材料であるが、利用履歴管理システムでの処理において、数量300の排出物由来エタノール201は工程701の原材料、分離された数量100の排出物由来エタノール201は工程701の製品として扱って処理される。
【0063】
利用情報生成装置1(301)は、利用履歴管理装置303に、工程701の製品として特定することができるウォレットの生成を依頼(SQ1301)する。本願において、ウォレットとは、各々対応する秘密鍵、公開鍵、ウォレットアドレスの情報の組み合わせをいう。利用履歴管理装置303は、依頼(SQ1301)を受けて、識別子管理部501が、ウォレットを生成する。識別子管理部501は、秘密鍵生成部1101に秘密鍵の生成を指示する。秘密鍵生成部1101は、新たな秘密鍵を生成する。識別子管理部501は、秘密鍵生成部1101が生成した秘密鍵を工程701の製品として特定することができる秘密鍵とし、この秘密鍵から公開鍵KEYX0001を生成し、さらに公開鍵からウォレットアドレスWALLETX0001を生成する。利用履歴管理装置303は、利用情報生成装置1(301)に対してウォレットを発行(SQ1302)する。発行したウォレットは識別子管理部501が管理する。利用情報生成装置1(301)でも利用履歴管理装置303から発行されたウォレットを製品識別子管理部401が管理する。
【0064】
工程701の製品として特定することができるウォレットを取得した利用情報生成装置1(301)は、利用情報生成の前に、利用履歴管理装置303に、残トークン確認依頼(SQ1303)を行う。残トークン確認依頼(SQ1303)は、利用情報でINPUT側にセットされるウォレットアドレスWALLETX0000で特定できる排出物由来エタノール201の数量に相当するトークン数量の確認のための依頼である。利用履歴管理装置303は、依頼(SQ1303)を受けて、トークン管理部1102が、ウォレットアドレスWALLETX0000に関連付けられたトークンの残数量を算出する。
図13においては、残トークンは300と算出される。利用履歴管理装置303は、利用情報生成装置1(301)に残トークン情報(SQ1304)としてウォレットアドレスWALLETX0000に関連付けられたトークンの残数量300を通知する。
【0065】
利用情報生成装置1(301)は、利用情報生成部403が、工程701(排出物由来エタノール201の数量300のうち数量100を分離)についての利用情報を生成する。1305は、利用情報生成部403が生成する利用情報のデータ項目を示す。1305は、公開鍵KEYX0000で特定できる数量300の排出物由来エタノール201から工程701においてウォレットアドレスWALLETX0001で特定できる数量100の排出物由来エタノール201を分離して数量200が残っていることを表している。
【0066】
利用情報生成部403は、利用情報のデータ項目1305のINPUT側に工程701の原材料として扱われる排出物由来エタノール201に関連付けられた公開鍵と残トークン情報(SQ1304)として取得したトークンの数量300をセットする。利用情報生成部403は、利用情報のデータ項目1305のOUTPUT側に工程701の製品として扱われる排出物由来エタノール201に関連付けられたウォレットアドレスWALLETX0001と利用数量に対応するトークンの数量100をセットする。なお、INPUTにセットされたトークンの数量を越えるトークンの数量をOUTPUTにセットできないよう制御される。また、工程701での残数量を示すOUTPUTのウォレットアドレスWALLETX0000とトークンの数量200について自動的にセットされる。
【0067】
トランザクション生成部1001は、生成した工程701(排出物由来エタノール201の数量300のうち数量100を分離)についての利用情報のデータ項目に、生成した時刻を示す時刻情報であるタイムスタンプを付して、原材料を特定できるように関連付けて生成した秘密鍵によって生成された電子署名を施してトランザクションファイルを生成する。利用情報生成装置1(301)は、利用情報のトランザクションファイルを利用履歴管理装置303に送信(SQ1305)する。
【0068】
利用履歴管理装置303では、利用履歴管理部502が、受信した利用情報を利用履歴情報に追加して履歴として管理するとともに、ブロックチェーンデータに記録してブロックチェーンネットワーク901に送出する。ブロックチェーンデータに記録された情報は、ブロックチェーンネットワーク901を構成するノードで共通に管理される。
【0069】
次に、
図13で示す処理フローの後半、利用情報生成装置2(302)、利用履歴管理装置303、ブロックチェーンネットワーク901の間での処理フローについて説明する。利用情報生成装置2(302)は利用履歴管理装置303に製品製造工程205の製品206を特定することができるウォレットの生成を依頼(SQ1307)する。利用履歴管理装置303は、依頼(SQ1307)を受けて、識別子管理部501が、ウォレットを生成する。識別子管理部501は、秘密鍵生成部1101に秘密鍵の生成を指示する。秘密鍵生成部1101は、新たな秘密鍵を生成する。識別子管理部501は、秘密鍵生成部1101が生成した秘密鍵を製品製造工程205の製品206として特定することができる秘密鍵とし、この秘密鍵から公開鍵KEYY0001を生成し、さらに公開鍵からウォレットアドレスWALLETY0001を生成する。利用履歴管理装置303は、利用情報生成装置2(302)に対してウォレットを発行(SQ1308)する。発行したウォレットは識別子管理部501が管理する。利用情報生成装置2(302)でも利用履歴管理装置303から発行されたウォレットを製品識別子管理部401が管理する。
【0070】
製品製造工程205の製品206として特定することができるウォレットを取得した利用情報生成装置2(302)は、利用情報生成の前に、利用履歴管理装置303に、残トークン確認依頼(SQ1309)を行う。残トークン確認依頼(SQ1309)は、利用情報でINPUT側にセットされるウォレットアドレスWALLETX0001で特定できる排出物由来エタノール201の数量に相当するトークン数量の確認のための依頼である。原材料を特定することができる識別子として製品に関連付けられたウォレットアドレスWALLETX0001は、原材料取得部402がバーコードを読み取るなどの方法によって取得する。利用履歴管理装置303は、依頼(SQ1309)を受けて、トークン管理部1102が、ウォレットアドレスWALLETX0001に関連付けられたトークンの残数量を算出する。
図13においては、残トークンは100と算出される。利用履歴管理装置303は、利用情報生成装置2(302)に残トークン情報(SQ1310)としてウォレットアドレスWALLETX0001に関連付けられたトークンの残数量100を通知する。
【0071】
利用情報生成装置2(302)は、利用情報生成部403が、製品製造工程205についての利用情報を生成する。1311は、利用情報生成部403が生成する利用情報のデータ項目を示す。1311は、公開鍵KEYX0001で特定できる数量100の排出物由来エタノール201から製品製造工程205においてウォレットアドレスWALLETY0001で特定できる製品206の原材料として数量100の排出物由来エタノール201を利用して数量40が残っていることを表している。
【0072】
利用情報生成部403は、利用情報のデータ項目1311のINPUT側に製品製造工程205の原材料として扱われる排出物由来エタノール201に関連付けられた公開鍵と残トークン情報(SQ1310)として取得したトークンの数量100をセットする。利用情報生成部403は、利用情報のデータ項目1311のOUTPUT側に製品製造工程205の製品206に関連付けられたウォレットアドレスWALLETY0001と利用数量に対応するトークンの数量60をセットする。なお、INPUTにセットされたトークンの数量を越えるトークンの数量をOUTPUTにセットできないよう制御される。また、製品製造工程205での残数量を示すOUTPUTのウォレットアドレスWALLETX0001とトークンの数量40について自動的にセットされる。
【0073】
トランザクション生成部1001は、生成した製品製造工程205についての利用情報のデータ項目に、生成した時刻を示す時刻情報であるタイムスタンプを付して、原材料を特定できるように関連付けて生成した秘密鍵によって生成された電子署名を施してトランザクションファイルを生成する。利用情報生成装置2(302)は、利用情報のトランザクションファイルを利用履歴管理装置303に送信(SQ1305)する。
【0074】
利用履歴管理装置303では、利用履歴管理部502が、受信した利用情報を利用履歴情報に追加して履歴として管理するとともに、ブロックチェーンデータに記録してブロックチェーンネットワーク901に送出する。ブロックチェーンデータに記録された情報は、ブロックチェーンネットワーク901を構成するノードで共通に管理される。
【0075】
製品206の製造の後、利用情報生成装置2(302)は、製造された製品206の数量を利用履歴管理装置303に送信(SQ1313)し、利用履歴管理装置303は、これを管理する。
【0076】
さらに、
図13で、利用履歴管理装置303が行う利用履歴情報の管理について説明する。利用履歴情報は、各々の利用情報生成装置から利用履歴管理装置303に送信された一連の工程における利用情報をもれなく集約した情報である。利用情報は、1305や1311で示すデータ項目に情報を生成した時刻を示す時刻情報からなり、利用履歴管理部502が管理するとともに、ブロックチェーンデータに記録されてブロックチェーンネットワーク901を構成するノードで共通に管理される。
図8に示す例では、時刻が先の1305に基づく利用情報と、時刻が後の1311に基づく利用情報は、1305に基づく利用情報のOUTPUTであるウォレットアドレスWALLETX0001と数量100が、1311に基づく利用情報のINPUTである公開鍵KEYX0001と数量100と紐づいて利用履歴を追跡することができる。ウォレットアドレスWALLETX0001は公開鍵KEYX0001から生成されるからである。利用履歴管理装置303は、このようにして識別子管理部501が管理する識別子と利用履歴管理部502が管理する利用履歴情報に基づいて、一連の工程を経て製造された製品について、特定の原材料が利用されている数量を明らかにできる。すなわち、トレーサビリティを担保することができる。
【0077】
本実施形態では、
図9で示すように、利用履歴管理装置303は、ノードとしてブロックチェーンネットワーク901を構成する。利用履歴管理装置303が一連の工程における利用情報をもれなくブロックチェーンデータに記録してブロックチェーンネットワーク901に送出することで、ブロックチェーンデータに記録された情報は、ブロックチェーンネットワーク901を構成するノードで共通に管理される。これにより、改竄検出を容易とし、高可用性及びデータ同一性等を実現するとのブロックチェーンの特徴から、第1実施形態と比べ、トレーサビリティを担保するための情報の真正性の保証度を高めることができる。また、本実施形態では、利用履歴がブロックチェーンネットワーク901を構成するノードで共通に管理されることから、複数の利用履歴管理装置303を、ブロックチェーンネットワーク901を構成するノードとし、さらに各々の利用履歴管理装置303に利用情報生成装置を接続する構成をとることができる。これにより、例えば、
図2で示す各々の工程(排出物由来製造工程、植物由来製造工程、石油由来製造工程、その他製造工程、製品製造工程)ごとに利用履歴管理装置303を備えるなどが可能となる。ブロックチェーンネットワーク901への参加承認は運営者アカウントで行われることから信頼性を保ちながらブロックチェーンネットワーク901で利用履歴管理を行う工程の追加が容易に行うことができる。さらに本実施形態では、ブロックチェーンを用いて利用履歴管理システムを構成していることから、いわゆる仮想通貨を利用した課金への移行が容易とのメリットもある。
【0078】
以上が、第2実施形態についての説明である。
【0079】
このように、本発明に係る利用履歴管理システムによれば、バイオリファイナリー技術によってバイオマスを原材料として製造された製品のように、製造工程が異なるが同じ組成の2以上の化学品が原材料となる製品においても、原材料を特定することができる識別子によって一連の工程で利用された原材料の利用履歴管理を管理することで、特定の原材料が製品に利用されている数量を求めることができる。また、ブロックチェーンにより、トレーサビリティを担保するための情報の真正性の保証度を高めることができる。
【符号の説明】
【0080】
101 排出物から化学品への生体触媒を利用した変換を伴う工程(排出物由来製造工程)
102 前処理工程
103 酵素糖化工程
104 微生物発酵工程
105 蒸留・生成工程
201 排出物由来エタノール
202 植物由来エタノール
203 石油由来エタノール
204 その他原材料
205 製品製造工程
206 製品
207 第1実施形態で説明する例示領域
208 排出物製造工程
209 排出物
301 利用情報生成装置1
302 利用情報生成装置2
303 利用履歴管理装置
304 通信ネットワーク
305 情報端末
401 製品識別子管理部
402 原材料情報取得部
403 利用情報生成部
404 通信部
501 識別子管理部
502 利用履歴管理部
503 課金部
504 通信部
601 利用情報のデータ項目
602 利用情報のデータ項目の例
701 出荷・輸送・納品
803 利用情報のデータ項目の例
806 利用情報のデータ項目の例
901 ブロックチェーンネットワーク
1001 トランザクション生成部
1101 秘密鍵生成部
1102 トークン管理部
1201 利用情報のデータ項目
1202 利用情報のデータ項目の例
1305 利用情報のデータ項目の例
1311 利用情報のデータ項目の例