(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240718BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240718BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20240718BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240718BHJP
F16J 15/40 20060101ALI20240718BHJP
F16J 15/3244 20160101ALI20240718BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16J15/3232 201
F16J15/447
F16J15/40 C
F16J15/3244
(21)【出願番号】P 2022559030
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2021038552
(87)【国際公開番号】W WO2022091861
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2020181176
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】山根 章平
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186319(JP,A)
【文献】特開2017-067103(JP,A)
【文献】国際公開第2020/110623(WO,A1)
【文献】特開平09-317897(JP,A)
【文献】特開2008-281025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 33/80
F16J 15/3232
F16J 15/447
F16J 15/40
F16J 15/3244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線まわりに相対的に回転可能な内輪と外輪との間に転動体を介在させた軸受の前記内輪と前記外輪との間に形成される空間を密封する密封装置であって、
前記内輪と共回りする部材の外周面に嵌め合わされる環状のスリーブと、
前記外輪の内周面に嵌め合わされる環状のケースと、
前記ケースに固定される環状のシール部材と、を有し、
前記スリーブは、
前記部材の外周面に接触する内筒部と、
前記内筒部よりも大径で前記内筒部の外周面に沿う外筒部と、
前記内筒部および前記外筒部の互いに隣り合う一端同士を接続する板状の壁部と、を有し、
前記シール部材は、
前記内筒部の外周面に接触する少なくとも1つの第1リップと、
第2リップと、
第1突出部と、
第2突出部と、を有し、
前記第2リップと前記壁部の壁面との間には、ラビリンス隙間が形成され、
前記第1突出部と前記内筒部の外周面との間には、ラビリンス隙間が形成され、
前記第2突出部と前記外筒部の外周面との間には、ラビリンス隙間が形成され、
前記
少なくとも1つの第1リップと前記第2リップと前記第1突出部と前記第2突出部とが弾性材料で一体に構成さ
れ、
前記第1突出部の厚さは、前記少なくとも1つの第1リップの厚さよりも大きい、
密封装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第1リップのそれぞれは、前記内筒部の外周面に接触する複数の突出部を有する、
請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第1リップは、前記軸線に沿う方向に並ぶ2つの第1リップを含んでおり、
前記複数の突出部は、
前記2つの第1リップのうちの一方に設けられる複数の第3突出部と、
前記2つの第1リップのうちの他方に設けられる複数の第4突出部と、を有し、
前記軸線まわりの周方向における前記複数の第3突出部の位置と前記複数の第4突出部の位置とが互いに異なる、
請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記ケースは、前記軸線に対して直交する径方向に沿って延びる板状のフランジ部を有しており、
前記シール部材は、前記フランジ部に固定される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項5】
前記フランジ部には、前記軸線に沿って前記フランジ部を貫通する孔が設けられる、
請求項4に記載の密封装置。
【請求項6】
前記孔は、前記シール部材により塞がれる、
請求項5に記載の密封装置。
【請求項7】
前記孔は、前記第2突出部により塞がれる、
請求項6に記載の密封装置。
【請求項8】
前記第1突出部は、前記フランジ部から前記軸受に向かう方向に突出する、
請求項4から7のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項9】
前記第2突出部は、前記フランジ部から前記軸受とは反対方向に突出する、
請求項4から8のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項10】
前記第2突出部の先端は、前記スリーブよりも前記軸受から遠い位置にある、
請求項1から9のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項11】
前記第1突出部は、前記内筒部の外周面に対して均一な距離で対向する面を有する、
請求項1から10のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項12】
前記第2突出部と前記内輪と共回りする前記部材との間には、ラビリンス隙間が形成される、
請求項1から11のいずれか1項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受等の軸受には、一般に、当該軸受の内輪と外輪との間に形成される空間を密封する密封装置が設けられる。当該密封装置は、当該空間に封入されるグリース等の潤滑剤の漏出を防止したり当該空間への水分または異物の侵入を防止したりする。例えば、特許文献1には、鉄道車両用軸受に用いる密封装置が記載される。
【0003】
特許文献1に記載の密封装置は、車軸に取り付けられる後ろ蓋の外周に設けられるスリーブと、車軸を支持する軸受の外輪に取り付けられるシール外環と、シール外環の内周に嵌合するシール環と、シール環の内周に嵌合する弾性シールと、を有する。
【0004】
ここで、弾性シールは、芯金とゴムまたは合成樹脂等の弾性体とを一体化させた部材である。弾性シールの弾性体は、スリーブに接触するリップと、スリーブに近接するリップと、を有する。また、シール外環は、当該シール外環と後ろ蓋およびスリーブのそれぞれとの間でラビリンスシールを構成する。シール環は、当該シール環とスリーブとの間でラビリンスシールを構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の密封装置では、シール外環、シール環および弾性シールの複数の部材を組み立てる必要があるため、これらの部材の公差の積み上げに起因して寸法バラつきが大きくなったり、製作に要する工数が多くなったりすることから、改善が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するために、本発明の一態様に係る密封装置は、軸線まわりに相対的に回転可能な内輪と外輪との間に転動体を介在させた軸受の前記内輪と前記外輪との間に形成される空間を密封する密封装置であって、前記内輪と共回りする部材の外周面に嵌め合わされる環状のスリーブと、前記外輪の内周面に嵌め合わされる環状のケースと、前記ケースに固定される環状のシール部材と、を有し、前記スリーブは、前記部材の外周面に接触する内筒部と、前記内筒部よりも大径で前記内筒部の外周面に沿う外筒部と、前記内筒部および前記外筒部の互いに隣り合う一端同士を接続する板状の壁部と、を有し、前記シール部材は、前記内筒部の外周面に接触する少なくとも1つの第1リップと、第2リップと、第1突出部と、第2突出部と、を有し、前記第2リップと前記壁部の壁面との間には、ラビリンス隙間が形成され、前記第1突出部と前記内筒部の外周面との間には、ラビリンス隙間が形成され、前記第2突出部と前記外筒部の外周面との間には、ラビリンス隙間が形成され、前記1以上の第1リップと前記第2リップと前記第1突出部と前記第2突出部とが弾性材料で一体に構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、密封装置の寸法バラつきを小さくするとともに、密封装置の製作に要する工数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】密封装置のケースおよびシール部材のそれぞれの一部を示す斜視図である。
【
図3】第1リップの突出部のない部分におけるスリーブとの接触状態を示す図である。
【
図4】第1リップの突出部のある部分におけるスリーブとの接触状態を示す図である。
【
図5】第1リップとスリーブとの接触状態を示す図である。
【
図6】ケースに設けられる孔の使用方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法および縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示す部分もある。また、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0011】
1-1.密封装置
図1は、実施形態に係る密封装置10の断面図である。密封装置10は、例えば、鉄道車両の車軸等のシャフトを回転可能に支持する軸受ユニットに用いられる。なお、以下では、当該シャフトの軸線を単に「軸線」という場合がある。また、当該軸線に沿う方向を「軸方向」という場合がある。同様に、当該軸線まわりに沿う方向を「周方向」といい、当該軸線に直交する方向を「径方向」という場合がある。
【0012】
図1では、当該軸受ユニットの有する軸受110と後ろ蓋130との間にわたり密封装置10が配置される構成が例示される。ここで、軸受110は、内輪111と、外輪112と、内輪111と外輪112との間に配置される図示しない複数の転動体と、当該複数の転動体を保持する保持器114と、を有する。後ろ蓋130は、内輪111と共回りする部材であり、図示しないシャフトの外周面に内輪111とともに嵌め合わされる。なお、軸受110の構成は、玉軸受、ころ軸受、針軸受または球面ころ軸受等のいずれの軸受の構成でもよい。
【0013】
密封装置10は、内輪111と外輪112との間に形成される空間Sを密封する。
図1に示すように、密封装置10は、後ろ蓋130に固定されるスリーブ11と、軸受110の外輪112に固定されるケース12と、ケース12に固定されるシール部材13と、を有する。
【0014】
スリーブ11は、後ろ蓋130の外周面に嵌め合わされることにより、後ろ蓋130に固定される。スリーブ11は、炭素鋼等の金属材料で構成される。スリーブ11は、例えば、プレス成型等により形成される。
【0015】
図1に示す例では、後ろ蓋130の外周面が、互いに径の異なる小径部131および大径部132を有する。スリーブ11は、大径部132よりも小径の小径部131に嵌め合わされる。ここで、小径部131の径は、前述の内輪111の外径よりも若干小さい。大径部132の径は、内輪111の外径よりも大きい。また、後ろ蓋130の外周面には、小径部131と大径部132との間にこれらの径差に起因する段差面133が設けられる。段差面133には、周方向に沿って延びる溝134が設けられる。
【0016】
スリーブ11は、軸線を含む平面で切断した断面でみたとき、
図1に示すように、折り返された形状をなす。具体的には、スリーブ11は、小径部131に沿って軸方向に延びる筒状の内筒部11aと、内筒部11aの軸方向での両端のうち軸受110から遠いほうの端から径方向での外方に向けて延びる板状の壁部11bと、壁部11bの外周縁から軸受110に近づく方向に延びる筒状の外筒部11cと、を有する。
【0017】
ここで、内筒部11aの内周面は、小径部131に所定の締め代を有して固定される。内筒部11aの軸方向での長さは、外筒部11cの軸方向での長さよりも長い。外筒部11cの外径は、内筒部11aの外径よりも大きい。
図1に示す例では、外筒部11cの外径は、前述の溝134の内径と同等かそれよりも若干小さい。壁部11bは、環状をなしており、内筒部11aおよび外筒部11cのそれぞれの軸方向での両端のうち軸受110から遠いほうの端同士を全周にわたり接続する。
【0018】
一方、ケース12は、外輪112の内周面に嵌め合わされることにより、外輪112に固定される。ケース12は、炭素鋼等の金属材料で構成される。ケース12は、例えば、プレス成型等により形成される。
【0019】
図1に示す例では、外輪112の内周面が軸方向に平行な部分112aを有する。部分112aには、ケース12が嵌め合わされる。ここで、部分112aの径は、前述の後ろ蓋130の大径部132の径よりも大きい。
【0020】
ケース12は、軸線を含む平面で切断した断面でみたとき、
図1に示すように、階段状に折れ曲がる形状をなす。具体的には、ケース12は、部分112aに沿って軸方向に延びる筒状の第1筒部12aと、第1筒部12aの軸方向での両端のうち後ろ蓋130に近いほうの端から径方向での内方に向けて延びる板状の板部12bと、板部12bの内周縁から軸受110から遠ざかる方向に延びる筒状の第2筒部12cと、第2筒部12cの軸方向での両端のうち軸受110から遠いほうの端から径方向での内方に向けて延びる板状のフランジ部12dと、を有する。
【0021】
ここで、第1筒部12aの外周面は、部分112aに接触する。このため、第1筒部12aの外径は、部分112aの径に実質的に等しい。第1筒部12aの軸方向での長さは、部分112aの軸方向での長さと同程度である。第2筒部12cの軸方向での長さは、第1筒部12aの軸方向での長さと同程度である。第2筒部12cの外径は、第1筒部12aの外径よりも小さい。
図1に示す例では、第2筒部12cの外径は、前述の後ろ蓋130の溝134の外径よりも大きい。板部12bは、環状をなしており、第1筒部12aの軸方向での両端のうち後ろ蓋130に近いほうの端と、第2筒部12cの軸方向での両端のうち軸受110に近いほうの端と、を全周にわたり接続する。フランジ部12dは、環状をなしており、第2筒部12cに全周にわたり接続される。フランジ部12dの内周縁の径は、前述のスリーブ11の内筒部11aの外径よりも大きく、かつ、溝134の内径よりも小さい。
【0022】
図1に示す例では、フランジ部12dには、フランジ部12dを軸方向に貫通する孔12d1が設けられる。孔12d1は、後に
図6に基づいて詳述するが、ケース12を外輪112から取り外す際に用いられる。なお、孔12d1の数は、1個でもよいし、2個以上でもよい。孔12d1の数が2個以上である場合、2個以上の孔12d1は、例えば、周方向に並んで配置されるが、孔12d1同士の間隔は、等間隔であってもそうでなくともよい。
【0023】
シール部材13は、前述のケース12のフランジ部12dに固定される。シール部材13は、ゴム材料等の弾性材料で構成される。当該弾性材料としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)またはフッ素ゴム(FKM)等のゴム材料が挙げられる。シール部材13は、成形型を用いて形成される。ここで、当該成形型内にケース12の一部(フランジ部12d)を配置した状態で成形を行うことにより、ケース12に加硫接着等により固定された状態のシール部材13が得られる。なお、シール部材13の一部または全部がPTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene:四フッ化エチレン樹脂)等のフッ素系樹脂等の樹脂材料で構成されてもよい。
【0024】
シール部材13は、第1突出部13aと第1リップ13bと第1リップ13cと第2リップ13dと第2突出部13eとを有する。これらは、前述の弾性部材で一体に構成される。
【0025】
第1突出部13aは、スリーブ11の内筒部11aの外周面に向かうように、前述のケース12のフランジ部12dから軸受110に向かう方向に突出する。ここで、第1突出部13aは、軸受110に近づくようにフランジ部12dから径方向に対して傾斜する方向に突出する。第1突出部13aは、スリーブ11に対して非接触であり、第1突出部13aと内筒部11aの外周面との間にラビリンス隙間を形成する。なお、ラビリンス隙間とは、ラビリンスシールを形成し得る程度の隙間のことをいう。
【0026】
第1突出部13aは、内筒部11aの外周面に対して実質的に均一な距離で対向する面を有する。当該面により前述のラビリンス隙間が好適に形成される。第1突出部13aの厚さt1は、第1突出部13aが振動等を受けても実質的に変形せずに当該隙間を好適に維持し得る程度である。例えば、厚さt1は、後述の第1リップ13bの厚さt3よりも大きい。
【0027】
第1リップ13bおよび第1リップ13cのそれぞれは、前述のケース12のフランジ部12dの内周縁またはその近傍からスリーブ11の内筒部11aの外周面に向けて突出する。ここで、第1リップ13bは、第1リップ13cよりも軸受110の近くに位置する。第1リップ13bは、軸受110に近づくように当該内周縁またはその近傍から径方向に対して傾斜する方向に突出する。これに対し、第1リップ13cは、軸受110から離れるように当該内周縁またはその近傍から径方向に対して傾斜する方向に突出する。第1リップ13bおよび第1リップ13cのそれぞれは、スリーブ11の内筒部11aの外周面に接触する。この接触状態については、後に
図2~
図5に基づいて詳述する。
【0028】
第2リップ13dは、前述のケース12のフランジ部12dの内周縁またはその近傍からスリーブ11の壁部11bに向けて突出する。ここで、第2リップ13dは、前述の第1リップ13cよりも径方向での外方に位置する。第2リップ13dは、スリーブ11の内筒部11aから遠ざかるように当該内周縁またはその近傍から軸方向に対して傾斜する方向に突出する。第2リップ13dは、スリーブ11に対して非接触であり、第2リップ13dと壁部11bとの間にラビリンス隙間を形成する。なお、第2リップ13dは、第2リップ13dとスリーブ11の外筒部11cとの間にラビリンス隙間を形成してもよい。
【0029】
第2突出部13eは、後ろ蓋130の段差面133に向かうように、前述のケース12のフランジ部12dから軸受110とは反対方向に突出する。ここで、第2突出部13eは、前述の第2リップ13dよりも径方向での外方に位置する。第2突出部13eは、スリーブ11の外筒部11cよりも径方向での外方の位置でフランジ部12dから径方向に突出する。第2突出部13eの先端は、スリーブ11よりも後ろ蓋130の近くに位置する。第2突出部13eは、後ろ蓋130に対して非接触であり、第2突出部13eと段差面133との間にラビリンス隙間を形成する。
図1に示す例では、第2突出部13eの先端が溝134に進入する。第2突出部13eは、第2突出部13eと溝134の壁面との間にラビリンス隙間を形成する。なお、第2突出部13eは、スリーブ11に対して非接触である。第2突出部13eは、第2突出部13eとスリーブ11の外筒部11cの外周面との間にラビリンス隙間を形成してもよい。
【0030】
第2突出部13eは、軸線を含む平面で切断した断面でみたとき、先細りの形状をなす。ただし、第2突出部13eの形状は、当該先細りの形状に限定されない。第2突出部13eの厚さt2は、第2突出部13eが振動等を受けても実質的に変形せずに前述のラビリンス隙間を好適に維持し得る程度である。例えば、厚さt2は、前述の第1リップ13bの厚さt3よりも大きい。
【0031】
1-2.第1リップの詳細
図2は、密封装置10のケース12およびシール部材13のそれぞれの一部を示す斜視図である。
図2に示すように、シール部材13の第1リップ13bには、複数の突出部13b1が設けられる。当該複数の突出部13b1は、周方向に間隔を隔てて並ぶ。ここで、当該複数の突出部13b1は、第1リップ13bののうち、スリーブ11の内筒部11aに向かう面に設けられる。このため、第1リップ13bと内筒部11aとの間には、当該複数の突出部13b1に起因する隙間が周方向に間欠的に形成される。当該隙間による通気性により、軸受110内の圧力上昇を低減し、この結果、当該圧力上昇による異常発熱が防止される。なお、突出部13b1の幅、高さおよび配置等は、必要となる通気性の程度等に応じて適宜に決められる。
【0032】
同様に、シール部材13の第1リップ13cには、複数の突出部13c1が設けられる。ただし、当該複数の突出部13c1の周方向での位置は、複数の突出部13b1の周方向での位置と異なる。このため、これらの突出部による隙間が形成されても、前述の通気性を確保しつつ、密封装置10によるシール性能が好適に発揮される。なお、軸方向からみて、突出部13b1と突出部13c1とは、重なってもよいし重ならなくてもよい。以下、第1リップ13bとスリーブ11との接触状態について説明する。なお、第1リップ13cとスリーブ11との接触状態は、第1リップ13bとスリーブ11との接触状態と同様である。
【0033】
図3は、第1リップ13cの突出部13c1のない部分におけるスリーブ11との接触状態を示す図である。
図3では、当該部分の周方向での中央部について、軸線を含む平面で切断した断面が示される。
図3に示すように、当該部分では、第1リップ13cがスリーブ11に摺動可能に接触する。
【0034】
図4は、第1リップ13cの突出部13c1のある部分におけるスリーブ11との接触状態を示す図である。
図4では、当該部分の周方向での端部について、軸線を含む平面で切断した断面が示される。
図4に示すように、当該部分では、突出部13c1がスリーブ11に接触するため、第1リップ13cとスリーブ11との間に隙間dが形成される。
【0035】
図5は、第1リップ13cとスリーブ11との接触状態を示す図である。
図5では、第1リップ13cの先端を軸方向でみた状態が示される。
図5に示すように、第1リップ13cとスリーブ11との間には、周方向に複数の隙間dが間欠的に形成される。ここで、隙間dは、各突出部13c1の周方向での各近傍領域に形成される。
【0036】
1-3.孔12d1の使用方法
図6は、ケース12に設けられる孔12d1の使用方法を説明するための図である。
図6では、ケース12の孔12d1の近傍部分が斜視図で示される。例えば、密封装置10を交換したり軸受ユニットのメンテナンスを行ったりする場合には、密封装置10が軸受ユニットから取り外される。ここで、孔12d1は、ケース12を軸受110から取り外す際に用いられる。
【0037】
具体的には、まず、
図6に示すように、先の曲がったフック状の治具200が孔12d1に挿入される。その後、治具200の先端がケース12に引っ掛けられ、その状態で、治具200が軸受110から離れる方向に引っ張られることにより、ケース12が軸受110から取り外される。ここで、シール部材13は、あらかじめ、適宜の方法によりケース12から取り外される。なお、工具等を用いてシール部材13を適宜に変形させることにより、孔12d1を露出させることができれば、シール部材13がケース12から取り外されていなくてもよい。
【0038】
以上のように、密封装置10は、軸線まわりに相対的に回転可能な内輪111と外輪112との間に転動体を介在させた軸受110の内輪111と外輪112との間に形成される空間Sを密封する。ここで、前述のように、密封装置10は、内輪111と共回りする部材の一例である後ろ蓋130の外周面に嵌め合わされる環状のスリーブ11と、外輪112の内周面に嵌め合わされる環状のケース12と、ケース12に固定される環状のシール部材13と、を有する。
【0039】
前述のように、スリーブ11は、内筒部11aと外筒部11cと壁部11bとを有する。ここで、内筒部11aは、後ろ蓋130の外周面に接触する。外筒部11cは、内筒部11aよりも大径で内筒部11aの外周面に沿う。壁部11bは、内筒部11aおよび外筒部11cの互いに隣り合う一端同士を接続する板状をなす。
【0040】
前述のように、シール部材13は、第1リップ13bおよび13cと第2リップ13dと第1突出部13aと第2突出部13eとを有し、これらは、弾性材料で一体に構成される。ここで、第1リップ13bおよび13cのそれぞれは、内筒部11aの外周面に接触する。第2リップ13dは、第2リップ13dと壁部11bの壁面との間にラビリンス隙間を形成する。第1突出部13aは、第1リップ13bと内筒部11aの外周面との間にラビリンス隙間を形成する。第2突出部13eは、第2突出部13eと外筒部11cの外周面との間にラビリンス隙間を形成する。
【0041】
以上の密封装置10では、シール部材13が第1リップ13b、第1リップ13cおよび第2リップ13dだけでなく第1突出部13aおよび第2突出部13eを有するので、第1突出部13aまたは第2突出部13eをシール部材13とは別部材に設ける従来構成に比べて、密封装置10を構成する部品数を少なくすることができる。このため、従来構成に比べて、密封装置10を構成する部品の公差の積み上げに起因する寸法バラつきを低減することができる。また、従来構成に比べて、密封装置10の製作に要する工数を少なくすることもできる。
【0042】
また、前述のように、第1リップ13bは、内筒部11aの外周面に接触する複数の突出部13b1を有する。このため、第1リップ13bと内筒部11aとの間に隙間dを形成することができる。当該隙間dによる通気性により、軸受110内の圧力上昇を低減し、この結果、当該圧力上昇による異常発熱が防止される。同様に、第1リップ13cは、内筒部11aの外周面に接触する複数の突出部13c1を有する。このため、軸受110内の圧力上昇による異常発熱が好適に防止される。
【0043】
ここで、前述のように、軸線まわりの周方向における複数の突出部13b1の位置と複数の突出部13c1の位置とが互いに異なる。このため、これらの突出部による隙間が形成されても、前述の通気性を確保しつつ、密封装置10によるシール性能が好適に発揮される。なお、第1リップ13bおよび第1リップ13cは、軸線に沿う方向に並ぶ2つの第1リップである。また、突出部13b1および突出部13c1のうち、一方は、当該2つの第1リップのうちの一方に設けられる「第3突出部」であり、他方は、当該2つの第1リップのうちの他方に設けられる「第4突出部」である。
【0044】
前述のように、ケース12は、軸線に対して直交する径方向に沿って延びる板状のフランジ部12dを有する。シール部材13は、フランジ部12dに固定される。このため、シール部材13をケース12に対して好適に固定することができる。
【0045】
ここで、フランジ部12dには、前述のように、軸線に沿ってフランジ部12dを貫通する孔12d1が設けられる。このため、ケース12を軸受110の外輪112から容易に取り外すことができる。この結果、密封装置10または軸受ユニットのメンテナンス性を向上させることができる。
【0046】
また、前述のように、孔12d1は、シール部材13により塞がれる。このため、孔12d1を設けても、密封装置10の使用時における密封性が確保される。
【0047】
本実施形態では、孔12d1は、第2突出部13eにより塞がれる。第2突出部13eは、他の部分に比べて、孔12d1の延びる方向に厚くなるので、変形し難い。このため、孔12d1を安定的に塞ぐことができる。
【0048】
また、前述のように、第1突出部13aは、フランジ部12dから軸受110に向かう方向に突出する。このため、第1突出部13aをフランジ部12dの内周縁等から突出させる構成に比べて、第1突出部13aの剛性を高めやすい。この結果、第1突出部13aとスリーブ11との間にラビリンス隙間が安定的に形成される。また、第1リップ13b、第1リップ13cおよび第2リップ13dの配置のための領域を確保しやすく、この結果、これらの設計の自由度を高めることができる。
【0049】
また、前述のように、第2突出部13eは、フランジ部12dから軸受110とは反対方向に突出する。このため、第2突出部13eをフランジ部12dの外周縁等から突出させる構成に比べて、第2突出部13eの剛性を高めやすい。この結果、第2突出部13eとスリーブ11との間にラビリンス隙間が安定的に形成される。また、フランジ部12dの孔12d1を第2突出部13eにより安定的に塞ぎやすいという利点もある。
【0050】
また、前述のように、第2突出部13eの先端は、スリーブ11よりも軸受110から遠い位置にある。このため、第2突出部13eと後ろ蓋130との間にも、ラビリンス隙間を形成することができる。
【0051】
2.変形例
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0052】
2-1.変形例1
図7は、変形例1に係る密封装置10Aの断面図である。密封装置10Aは、シール部材13に代えて、シール部材13Aを有すること以外は、前述の実施形態の密封装置10と同様である。シール部材13Aは、第2突出部13eに代えて第2突出部13fを有すること以外は、シール部材13と同様である。第2突出部13fは、軸方向での長さが短いこと以外は、第2突出部13eと同様である。
【0053】
第2突出部13fは、第2突出部13fと後ろ蓋130Aの段差面133Aとの間にラビリンス隙間を形成する。なお、後ろ蓋130Aは、段差面133に代えて段差面133Aを有すること以外は、前述の実施形態の後ろ蓋130と同様である。段差面133Aは、溝134を省略したこと以外は、段差面133と同様である。以上の変形例1によっても、前述の実施形態と同様、密封装置10Aの寸法バラつきを小さくするとともに、密封装置10Aの製作に要する工数を少なくすることができる。
【0054】
2-2.変形例2
前述の実施形態では、第1リップ13bおよび第1リップ13cを有する構成が例示されるが、当該構成に限定されず、例えば、第1リップ13bおよび第1リップ13cのうちの一方が省略されてもよい。
【0055】
2-3.変形例3
前述の実施形態では、孔12d1を有する構成が例示されるが、孔12d1は、必要に応じて設ければよく、省略されてもよい。
【0056】
2-4.変形例4
前述の形態では、突出部13b1および突出部13c1を有する構成が例示されるが、当該構成に限定されず、例えば、突出部13b1および突出部13c1のうちの一方が省略されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…密封装置、10A…密封装置、11…スリーブ、11a…内筒部、11b…壁部、11c…外筒部、12…ケース、12a…第1筒部、12b…板部、12c…第2筒部、12d…フランジ部、12d1…孔、13…シール部材、13A…シール部材、13a…第1突出部、13b…第1リップ、13b1…突出部、13c…第1リップ、13c1…突出部、13d…第2リップ、13e…第2突出部、13f…第2突出部、14b…補助リップ、110…軸受、111…内輪、112…外輪、112a…部分、114…保持器、130…後ろ蓋、130A…蓋、131…小径部、132…大径部、133…段差面、133A…段差面、134…溝、200…治具、S…空間、d…隙間、t1…厚さ、t2…厚さ、t3…厚さ。