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特許7522853音響機器、音響機器の再生制御方法およびプログラム
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  • 特許-音響機器、音響機器の再生制御方法およびプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】音響機器、音響機器の再生制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
H04R3/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022561723
(86)(22)【出願日】2020-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2020041920
(87)【国際公開番号】W WO2022101979
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】315017409
【氏名又は名称】AlphaTheta株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】武井 義則
(72)【発明者】
【氏名】礒部 広幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼城 七生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 成広
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-80110(JP,A)
【文献】特開2016-25379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転操作子の回転角度を検出する検出部と、
前記回転角度に基づいて、前記回転操作子の回転方向が反転したか否かを判定する判定部と、
前記回転方向が反転したときの前記回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を再生するエフェクト再生制御部と、を備える音響機器。
【請求項2】
記回転操作子は、操作面に接触センサを有し
前記基準角度は、前記接触センサが新たな接触を検出したときの前記回転角度である、請求項1に記載の音響機器。
【請求項3】
前記エフェクト再生制御部は、前記接触センサが接触を検出したときに前記エフェクト音を再生する、請求項2に記載の音響機器。
【請求項4】
前記判定部は、前記回転操作子の反転前の回転方向をさらに判定し、
前記エフェクト再生制御部は、前記角度差および前記反転前の回転方向に応じて異なるエフェクト音を再生する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の音響機器。
【請求項5】
前記エフェクト音は、第1の楽曲を順再生または逆再生したスクラッチ音を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の音響機器。
【請求項6】
前記第1の楽曲とは異なる第2の楽曲を再生する楽曲再生制御部をさらに備え、
前記エフェクト再生制御部は、前記スクラッチ音を前記第2の楽曲の拍位置に同期して再生させる、請求項5に記載の音響機器。
【請求項7】
回転操作子の回転角度を検出する手順と、
前記回転角度に基づいて、前記回転操作子の回転方向が反転したか否かを判定する手順と、
前記回転方向が反転したときの前記回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を再生する手順と、を含む音響機器の再生制御方法。
【請求項8】
回転操作子の回転角度を検出する検出部と、
前記回転角度に基づいて、前記回転操作子の回転方向が反転したか否かを判定する判定部と、
前記回転方向が反転したときの前記回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を再生するエフェクト再生制御部と、を備える音響機器としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響機器、音響機器の再生制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
DJパフォーマンスに用いられるコントローラーやミキサーのような音響機器において、機能性や操作性を向上させたりするための技術が種々提案されている。そのような技術の例は、例えば特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/239538号
【文献】国際公開第2019/239486号
【文献】国際公開第2019/234861号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音響機器において機能性や操作性が向上される一方で、音響機器を利用する一般のユーザーにとっては、ユーザー操作が難しく、演奏する楽しさを損なうおそれがある。例えば、DJパフォーマンスによく用いられるスクラッチ再生に際しては、正確かつ複雑なユーザー操作が必要とされる。具体的には、例えば、ジョグダイヤルなどの回転操作子をすばやく小刻みに反復回転させるスクラッチ操作、およびクロスフェーダーをタイミングよく切り替える操作等を楽曲リズムに合わせて正確に行う高度な技術が必要となる。
そこで、本発明は、経験や知識が少ないユーザーであっても、簡便な操作で演出効果の高いスクラッチ再生を行うことが可能な音響機器、音響機器の再生制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]回転操作子の回転角度を検出する検出部と、回転角度に基づいて、回転操作子の回転方向が反転したか否かを判定する判定部と、回転方向が反転したときの回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を再生するエフェクト再生制御部と、を備える音響機器。
[2]回転操作子は、操作面に接触センサを有し、基準角度は、接触センサが新たな接触を検出したときの回転角度である、[1]に記載の音響機器。
[3]エフェクト再生制御部は、接触センサが接触を検出したときにエフェクト音を再生する、[2]に記載の音響機器。
[4]判定部は、回転操作子の反転前の回転方向をさらに判定し、エフェクト再生制御部は、角度差および反転前の回転方向に応じて異なるエフェクト音を再生する、[1]から[3]のいずれかに記載の音響機器。
[5]エフェクト音は、第1の楽曲を順再生または逆再生したスクラッチ音を含む、[1]から[4]のいずれかに記載の音響機器。
[6]第1の楽曲とは異なる第2の楽曲を再生する楽曲再生制御部をさらに備え、エフェクト再生制御部は、スクラッチ音を第2の楽曲の拍位置に同期して再生させる、[5]に記載の音響機器。
[7]回転操作子の回転角度を検出する手順と、回転角度に基づいて、回転操作子の回転方向が反転したか否かを判定する手順と、回転方向が反転したときの回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を再生する手順と、を含む音響機器の再生制御方法。
[8]回転操作子の回転角度を検出する検出部と、回転角度に基づいて、回転操作子の回転方向が反転したか否かを判定する判定部と、回転方向が反転したときの回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を再生するエフェクト再生制御部と、を備える音響機器としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【0006】
上記の構成によれば、回転操作子の回転角度を検出し、回転角度に基づいて、回転操作子の回転方向が反転したか否かを判定する。そして、回転方向が反転したときの回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を再生することによって、経験や知識が少ないユーザーであっても、簡便な操作で演出効果の高いスクラッチ再生を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態における音響機器を示す模式図である
図2】本発明の一実施形態に係る音響機器の概略的な機能構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態におけるスクラッチモードについて説明する模式図である。
図4】エフェクト記憶部に記憶されるエフェクト音の一例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る再生制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、一実施形態における音響機器を示す模式図である。
本実施形態に係る音響機器1は、楽曲を再生する2つのプレイヤー2Aおよび2Bと、プレイヤー2Aおよび2Bを制御するミキサー3とが一体化したDJシステムである。具体的に、音響機器1は、ユーザーが操作をすることによって音響再生装置及び音響再生制御装置として機能し、楽曲を再生するとともに、再生中の楽曲に対して各種エフェクトを適用して再生する。
【0009】
音響機器1は、図1に示すように、プレイヤー2Aおよび2Bにそれぞれ設けられた操作部21Aおよび21Bと、ミキサー3に設けられた操作部31とを備える。
操作部21Aは、プレイヤー2Aに対するユーザー操作を受け付け、操作部21Bは、プレイヤー2Bに対するユーザー操作を受け付ける。また、操作部31は、ミキサー3に対するユーザー操作を受け付ける。
【0010】
操作部21Aは、ジョグダイヤル211A、テンポスライダー212A、キューボタン213A、プレイ/ポーズボタン214A、パフォーマンスパッド215A、及びスクラッチモードボタン216Aを含む。
【0011】
ジョグダイヤル211Aは、回転操作子として機能し、プレイヤー2Aで再生中の楽曲の再生方向や再生速度を設定する際に用いられるダイヤルである。ジョグダイヤル211Aは、操作面である天面に接触センサ211Sを有し、ユーザーによる接触位置を検出る。
テンポスライダー212Aは、プレイヤー2Aで再生中の楽曲の再生速度を調整するレバーである。
【0012】
キューボタン213Aは、楽曲の所定の位置をキューポイントとして設定する際に押下されるボタンである。
プレイ/ポーズボタン214Aは、プレイヤー2Aで楽曲の再生を開始、または停止する際に押下されるボタンである。
【0013】
パフォーマンスパッド215Aは、再生制御に関する各種機能を割り当てることができる汎用性操作子である。
スクラッチモードボタン216Aは、ユーザーによるオンオフのスイッチ操作を受け付け可能な操作子であり、簡便な操作で演出効果の高い楽曲のスクラッチ再生を実現するスクラッチモードの開始および終了の設定に用いられる。スクラッチモードの詳細については後述する。スクラッチモードボタン216Aは、図1に例示したようにスクラッチモードの開始および終了の設定に用いられる専用の操作子であってもよいし、既存の操作子を兼用して利用する構成であってもよい。
【0014】
操作部21Bは、操作部21Aと同様に、ジョグダイヤル211B、テンポスライダー212B、キューボタン213B、プレイ/ポーズボタン214B、パフォーマンスパッド215B、及びスクラッチモードボタン216Bを含む。ジョグダイヤル211Bは、操作面である天面に接触センサ211Sを有し、ユーザーによる接触位置を検出る。
そして、音響機器1は、例えば、プレイヤー2Aの操作部21Aに対してユーザーによる操作が行われると、プレイヤー2Aにロードされた楽曲を再生するとともに、再生中の楽曲に対して、エフェクトを適用して再生する。プレイヤー2Bについても同様である。
【0015】
ミキサー3は、ユーザー操作に応じて、プレイヤー2Aおよび2B間の楽曲再生の切り替え、各チャンネルの音量調整、及び、エフェクトを適用した再生を実行する。
ミキサー3の操作部31は、エフェクト選択つまみ311Aおよび311B、エフェクト量調整つまみ312Aおよび312B、チャンネルフェーダー313Aおよび313B、及びクロスフェーダー314を含む。
【0016】
エフェクト選択つまみ311Aおよび311Bは、それぞれプレイヤー2Aおよび2Bで再生中の楽曲に適用するエフェクトを選択する際に用いられるつまみである。
エフェクト量調整つまみ312Aおよび312Bは、それぞれプレイヤー2Aおよび2Bで再生中の楽曲に適用するエフェクトの深さ、大きさ等のパラメータを調整する際に用いられるつまみである。
【0017】
チャンネルフェーダー313Aおよび313Bは、それぞれプレイヤー2Aおよび2Bで再生中の楽曲の出力音量レベルを調整する際に用いられるレバーである。
クロスフェーダー314は、プレイヤー2Aおよび2Bから出力される楽曲の出力音量レベルを切り替える際に用いられるレバーである。
【0018】
図2は、一実施形態に係る音響機器の概略的な機能構成を示すブロック図である。
音響機器1は、それぞれ上述した各部の他、図2に示すように、制御部4と、エフェクト記憶部5と、楽曲データ格納部6と、音声出力部7とを含む。上記の各部の機能は、例えばコンピュータのハードウェア構成を備える音響機器において、プロセッサがプログラムに従って動作することによって実現される。以下、各部の機能についてさらに説明する。
【0019】
制御部4は、例えば通信インターフェース、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、及び、作業領域となるメモリーによって音響機器1に実装され、音響機器1の動作を制御する。制御部4は、プロセッサがメモリーに格納された、又は通信インターフェースを介して受信されたプログラムに従って動作することによって実現される受付部41と、検出部42と、判定部43と、第1再生制御部44と、第2再生制御部45と、エフェクト再生制御部46とを含む。
【0020】
受付部41は、操作部21A、21B、および操作部31に対するユーザー操作を検出して、ユーザー操作を受け付ける。そして、受付部41は、ユーザー操作の内容を示す情報を制御部4内の各部に供給する。
検出部42は、スクラッチモード実行時に、回転操作子であるジョグダイヤル211Aおよび211Bに対するユーザー操作を検出する。
判定部43は、スクラッチモード実行時に、回転操作子であるジョグダイヤル211Aおよび211Bの回転方向が反転したか否かを判定する。
【0021】
第1再生制御部44は、プレイヤー2Aにおける楽曲の再生を行い、音声信号を音声出力部7に出力する。第2再生制御部45は、プレイヤー2Bにおける楽曲の再生を行い、音声信号を音声出力部7に出力する。また、第1再生制御部44は、プレイヤー2Aで再生中の楽曲にエフェクトを適用した再生を行い、第2再生制御部45は、プレイヤー2Bで再生中の楽曲にエフェクトを適用した再生を行う。
エフェクト再生制御部46は、スクラッチモード実行時に、回転操作子であるジョグダイヤル211Aおよび211Bの回転方向が反転したときの回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を再生する。なお、エフェクト再生制御部46は、ユーザーがジョグダイヤル211Aの接触センサ211S、またはジョグダイヤル211Bの接触センサ211Sに新たに接触した際の回転角度を基準角度とし、上述した角度差に応じて異なるエフェクト音を再生する。
【0022】
エフェクト記憶部5は、スクラッチモードにおける角度差およびエフェクト音の対応を記憶する。より具体的には、エフェクト記憶部5は、角度差に対応付けられたエフェクト音を生成するパラメータおよびアルゴリズムを記憶する。
楽曲データ格納部6は、HDD(Hard Disk Drive)またはフラッシュメモリー等により、楽曲データを格納可能に構成されている。楽曲データ格納部6には、複数の楽曲の楽曲データがMP3形式等の所定の形式で格納されている。楽曲データは、音声情報に加えて、例えば、楽曲のBPM、アートワーク、タイトル、アーティスト名、アルバム名、キー、DJプレイ回数及びジャンル等の情報をタグ情報として含む。楽曲データ格納部6に格納される楽曲データには、再生位置の情報であるタイムスタンプが対応付けられる。
【0023】
なお、音響機器1は、通信インターフェースを備え、外部記憶装置およびコンピュータ等に記憶された楽曲データを、図示しない通信インターフェースを介して取得し、楽曲データ格納部6に格納する構成としてもよい。この場合、音響機器1には楽曲データ格納部6が含まれず、外部記憶装置が楽曲データ格納部6として機能する。
音声出力部7は、スピーカおよびヘッドフォン端子等を備え、第1再生制御部44、第2再生制御部45、およびエフェクト再生制御部46により再生された音声信号を音声情報として出力する。
【0024】
以上説明した音響機器1におけるスクラッチモード実行時の制御部4の動作について説明する。スクラッチモードは、上述したように、簡便な操作で演出効果の高いスクラッチ再生を行うモードである。
従来、スクラッチ再生に際しては、ジョグダイヤル211Aおよび211Bの回転操作を利用した反復再生、及びクロスフェーダー314を利用した意図的なミュートを正確かつタイミングよく組み合わせて行うことにより、演出効果の高いスクラッチ再生が行われている。しかし、このような操作には、知識や経験、および正確かつ複雑なユーザー操作が必要となる。本実施形態のスクラッチモードにおいては、ジョグダイヤル211Aおよび211Bに対する簡便なユーザー操作に応じて、スクラッチ再生を行う。
【0025】
図3は、一実施形態におけるスクラッチモード実行時の処理について説明する模式図である。以下では、一例として、プレイヤー2Aおよび2Bにそれぞれ第1の楽曲および第2の楽曲がロードされた状態で、プレイヤー2Bによって音声データに基づく第2の楽曲の再生中に、プレイヤー2Aを用いてスクラッチ再生を行う場合を例示する。プレイヤー2Aによるスクラッチ再生は、プレイヤー2Bによって再生中の第2の楽曲に、エフェクト音であるスクラッチ音を効果音的に付加する場合等に行われる。スクラッチモードの開始および終了は、上述したように、操作部21Aのスクラッチモードボタン216Aを用いて行われる。
【0026】
プレイヤー2Bでの第2の楽曲の再生中に、スクラッチモードボタン216Aがオンされてスクラッチモードが開始され、図3に示すように、時刻t1でジョグダイヤル211Aの接触センサ211Sの点P1にユーザーが接触し、時刻t1からt2の間にユーザーが矢印A1に沿って点P1が点P2に移動するまでジョグダイヤル211Aの回転操作を行い、時刻t2から時刻t3の間にユーザーが矢印A2に沿って点P2が点P3に移動するまで回転方向を反転してジョグダイヤル211Aの回転操作を行う場合を考える。
検出部42は、時刻t1における点P1に応じた回転角度、時刻t1からt2の間における矢印A1に応じた回転方向、時刻t2における点P2に応じた回転角度、および時刻t2からt3の間における矢印A2に応じた回転方向を順次検出する。
判定部43は、時刻t1からt2の間における回転方向、および時刻t2からt3の間における回転方向に基づいて、ジョグダイヤル211Aの回転方向が反転したことを判定する。
エフェクト再生制御部46は、時刻t1における点P1に応じた回転角度を基準角度とし、時刻t2における点P2に応じた回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を、エフェクト記憶部5を参照して選択する。そして、エフェクト再生制御部46は、選択したエフェクト音を生成して音声出力部7に出力する。
【0027】
図4は、エフェクト記憶部5に記憶されるエフェクト音の一例を示す図である。エフェクト記憶部5は、図4に示すように、上述した角度差および反転前の回転方向に対応付けて、異なるエフェクト音FX1aからFX6a、およびFX1bからFX6bをそれぞれ記憶する。反転前の回転方向が時計回りとなるのは、ジョグダイヤル211Aの回転方向が時計回りから反時計回りに反転された場合であり、反転前の回転方向が反時計回りとなるのは、ジョグダイヤル211Aの回転方向が反時計回りから時計回りに反転された場合である。図4の例では、角度差を6分割し、角度差および反転前の回転方向の組み合わせに応じて12種類のエフェクト音が記憶されている。
エフェクト音FX1aからFX6a、およびFX1bからFX6bは、それぞれエフェクト音を生成するパラメータおよびアルゴリズムが異なる。エフェクト再生制御部46は、エフェクト記憶部5を参照してエフェクト音を選択し、プレイヤー2Aにロードされた第1の楽曲の一部を上述したパラメータおよびアルゴリズムに基づいて加工することによりエフェクト音を生成する。なお、エフェクト音の原音となる第1の楽曲の一部は、例えば、第1の楽曲のうち、予め指定された再生開始位置を始点とし、角度差に応じた長さとして設定することができる。再生開始位置は、キューボタン213Aおよびプレイ/ポーズボタン214A等を用いたユーザー操作により指定可能である。
【0028】
エフェクト音の加工は、上述した各パラメータおよびアルゴリズムに基づいて、例えば、第1の楽曲の一部の再生または逆再生、再生する時間の調整、音色の調整、部分的なミュート(ミュートのパターンを含む)等の公知の手法により行われる。エフェクト音を加工する際には、反対側のプレイヤーであるプレイヤー2Bにおいて再生中の第2の楽曲の拍位置に同期させてもよい。拍位置は、既存の楽曲解析技術に基づいて第2の楽曲データを予め解析することにより取得可能である。エフェクト音を拍位置に同期させることにより、スクラッチ再生の演出効果をより高めることができる。
【0029】
エフェクト音FX1aからFX6a、およびFX1bからFX6bは、それぞれエフェクト音を生成するパラメータおよびアルゴリズムが異なるため、ユーザーがジョグダイヤル211Aの回転方向を反転させた位置および反転前の回転方向に応じて、異なるエフェクト音が生成されることになる。また、エフェクト再生制御部46により生成されるエフェクト音は、原音に基づいて生成されるため、ユーザーが同一の操作を行ったとしても、原音が異なれば異なるエフェクト音が生成されることになる。
【0030】
なお、図4の例では、エフェクト記憶部5が12種類のエフェクト音を記憶する例を示したが、1以上であれば、何種類のエフェクト音を記憶してもよい。
また、エフェクト記憶部5が記憶するエフェクト音はユーザーにより設定可能としてもよいし、予め好ましいエフェクト音を記憶してもよい。さらに、予め記憶されたエフェクト音に対して、ユーザーがその一部または全部を変更して記憶可能な構成としてもよい。
【0031】
また、エフェクト再生制御部46は、上述したジョグダイヤル211Aの回転方向の反転時である時刻t3に加えて、ジョグダイヤル211Aの接触センサ211Sが接触を検出した時刻t1においてもエフェクト音を再生する。ジョグダイヤル211Aの接触センサ211Sが接触を検出した時点で再生されるエフェクト音をエフェクト音FX0と称する。エフェクト音FX0は、スクラッチ再生の開始に適したエフェクト音であり、ユーザーがジョグダイヤル211Aに接触したタイミングで即時に再生されるため、ユーザーの所望のタイミングでスクラッチ再生を開始させることができる。
【0032】
以上説明したように、スクラッチモード実行時において、プレイヤー2Bによる第2の楽曲の再生中に、プレイヤー2Aのジョグダイヤル211Aにおいて接触センサ211Sの点P1にユーザーが接触すると、エフェクト音FX0が再生される。そして、ユーザーが矢印A1に沿って時計回りにジョグダイヤル211Aを回転操作した後に矢印A2に沿って反時計回りにジョグダイヤル211Aを回転操作すると、プレイヤー2Bによって再生された第2の楽曲に加えて、プレイヤー2Aによるエフェクト音であるスクラッチ音が再生される。つまり、ユーザーは、ジョグダイヤル211Aに対して回転方向を反転させるという実際のスクラッチ操作と類似した簡便な操作を行うだけで、スクラッチ再生を行うことができる。また、ユーザーは、新たにジョグダイヤル211Aの接触センサ211Sに接触してから回転操作を反転するまでの角度を変えることにより、様々なエフェクト再生を切り替えて行うことができる。
【0033】
次に、図5のフローチャートを参照して、本発明の一実施形態における音響機器の再生制御方法について説明する。
図5には、スクラッチモード実行時の処理のフローチャートが示されている。以下では、一例として、プレイヤー2Bによる第2の楽曲の再生中に、プレイヤー2Aによってスクラッチモードを実行する場合を例に挙げて説明する。
まず、検出部42がジョグダイヤル211Aの接触センサ211Sへのユーザーの接触を検出すると(ステップS101YES)、エフェクト再生制御部46が、エフェクト音F0を再生する(ステップS102)。
そして、検出部42がジョグダイヤル211Aの回転角度および回転方向を検出し(ステップS103)、判定部43がジョグダイヤル211Aの回転方向が反転したか否かを判定する(ステップS104)。判定部43がジョグダイヤル211Aの回転方向が反転したと判定しない場合(ステップS104NO)、制御部4はステップS103に戻る。
【0034】
判定部43がジョグダイヤル211Aの回転方向が反転したと判定した場合(ステップS104YES)、エフェクト再生制御部46がエフェクト記憶部5を参照してエフェクト音を選択し(ステップS105)、エフェクト音を再生する(ステップS106)。
制御部4は、スクラッチモードボタン216Aをオフするユーザー操作を受け付ける(ステップS107YES)まで、ステップS103からステップS107の処理を所定の時間間隔で繰り返すことにより、スクラッチモードを実行する。
【0035】
なお、図3から図5では、プレイヤー2Bによる第2の楽曲の再生中に、プレイヤー2Aによってスクラッチモードを実行する場合を例に挙げて説明したが、プレイヤー2Aによる第1の楽曲の再生中に、プレイヤー2Bによってスクラッチモードを実行する場合についても同様の処理が行われる。つまり、プレイヤー2Aにおける第1の楽曲の再生中にスクラッチモードボタン216Bをオンするユーザー操作を受け付けた場合には、プレイヤー2Bによってエフェクト音であるスクラッチ音を効果音的に付加するスクラッチモードが実行される。
【0036】
以上で説明したような本発明の一実施形態によれば、回転操作子であるジョグダイヤル211A、211Bの回転角度を検出し、ジョグダイヤル211A、211Bの回転方向が反転したか否かを判定する。そして、ジョグダイヤル211A、211Bの回転方向が反転したときの回転角度と基準角度との角度差に対応付けられたエフェクト音を再生する。したがって、高度な技術を必要とせずに、経験や知識が少ないユーザーであっても実際のスクラッチ操作と類似した簡便な操作で演出効果の高いスクラッチ再生を行うことができる。
【0037】
また、本発明の一実施形態によれば、基準角度は、ジョグダイヤル211Aの接触センサ211S、またはジョグダイヤル211Bの接触センサ211Sが新たな接触を検出したときの回転角度である。したがって、ユーザーはジョグダイヤル211Aまたはジョグダイヤル211Bに対する接触開始位置を特に意識せずにラフに操作しても、演出効果の高いスクラッチ再生を行うことができる。
【0038】
また、本発明の一実施形態によれば、ジョグダイヤル211Aの接触センサ211S、またはジョグダイヤル211Bの接触センサ211Sが接触を検出したときにエフェクト音F0を再生する。したがって、ユーザーの所望のタイミングでスクラッチ再生を開始させることができる。
【0039】
また、本発明の一実施形態によれば、上述した角度差および反転前の回転方向に応じて異なるエフェクト音を再生する。したがって、回転角度と基準角度との角度差の組み合わせに加え、反転前の回転方向に対応付けられた複数のエフェクト音を容易に使い分けることができる。したがって、演奏する楽しさを損なわずに、バリエーション豊富なスクラッチ再生を実現することができる。
【0040】
なお、上記実施形態では、ジョグダイヤル211Aの接触センサ211S、またはジョグダイヤル211Bの接触センサ211Sが新たな接触を検出したときの回転角度を基準角度とする例を示したが、その他の回転角度を基準角度としてもよい。また、基準角度をユーザーにより指定可能な構成としてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、ジョグダイヤル211Aの接触センサ211S、またはジョグダイヤル211Bの接触センサ211Sが接触を検出したときにエフェクト音F0を再生する例を示したが、エフェクト音F0の再生を行わない構成としてもよいし、エフェクト音F0の再生の有無をユーザーにより指定可能な構成としてもよい。
【0042】
また、上記実施形態で説明した角度差および反転前の回転方向に対応付けられた複数のエフェクト音は一例であり、この例に限定されない。上記実施形態では、角度差を6分割する例を示したが、分割数はこの例に限定されない。また、エフェクト音は、角度差および反転前の回転方向の何れか一方のみに対応付けられてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、反対側のプレイヤーで再生中の楽曲の拍位置に同期してスクラッチ音を再生させる例を示したが、同期させずに再生させてもよい。また、スクラッチモードを実行するプレイヤーで再生中の楽曲の拍位置に同期してスクラッチ音を再生させてもよい。
【0044】
また、上記のような機能をもった音声機器は一実施形態として説明されたようなDJシステムには限られず、例えばミキサー、ミキサー機能を備えたDJコントローラーなどであってもよい。
上記の例では2つのプレイヤー2Aおよび2Bを有する2チャンネルの音響機器が説明されたが、例えば3チャンネル以上の音響機器でも同様の機能が実現可能である。なお、3チャンネル以上の音響機器において実現する際には、スクラッチモードの実行を排他的に可能とすると良い、例えば、4チャンネルの音響機器において実現する際には、一部の音響機器のみにおいてスクラッチモードを実行可能とし、スクラッチモードの同時使用を避ける構成とすると良い。また、3チャンネル以上の音響機器において実現する際には、マスターのプレイヤーで再生中の楽曲の拍位置に同期してスクラッチ音を再生させてもよい。
また、本発明はDJ機器に限られず、一般的なミキサーや電子楽器などの音響機器にも適用可能である。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0046】
1…音響機器、2A,2B…プレイヤー、3…ミキサー、4…制御部、5…エフェクト記憶部、6…楽曲データ格納部、7…音声出力部、21A,21B,31…操作部、41…受付部、42…検出部、43…判定部、44…第1再生制御部、211A,211B…ジョグダイヤル、212A,212B…テンポスライダー、213A,213B…キューボタン、214A,214B…プレイ/ポーズボタン、215A,215B…パフォーマンスパッド、216A,216B…スクラッチモードボタン、311A,311B…エフェクト選択つまみ、312A,312B…エフェクト量調整つまみ、313A,313B…チャンネルフェーダー、314…クロスフェーダー。
図1
図2
図3
図4
図5