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特許7522862フッ化物イオン二次電池およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】フッ化物イオン二次電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240718BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240718BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240718BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/134
H01M4/587
H01M4/133
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/66 A
H01M4/38 Z
H01M10/0585
H01M10/05
H01M4/62 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022571628
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021047920
(87)【国際公開番号】W WO2022138836
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2020215794
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】日野上 麗子
(72)【発明者】
【氏名】三木 秀教
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/187943(WO,A1)
【文献】特開2019-016425(JP,A)
【文献】特開2019-016426(JP,A)
【文献】特開2020-191252(JP,A)
【文献】特開2018-092863(JP,A)
【文献】特開2019-192581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有し、フッ素化および脱フッ素化が可能な正極層と、
第2金属元素を有する第1固体電解質材料を含有する固体電解質層と、
第3金属元素を有する第2固体電解質材料と、集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つとを含有する負極層と、
をこの順に備え、
前記第2金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有し、
前記第3金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項2】
前記第2金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも1つの元素である、
請求項1に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項3】
前記第2金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも2つの元素である、
請求項2に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項4】
前記第3金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも1つの元素である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項5】
前記第3金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも2つの元素である、
請求項4に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項6】
前記負極層において、前記Al単体粒子または前記Al合金粒子は、Al単体またはAl合金が露出した表面を有しており、前記表面において、前記Al単体粒子または前記Al合金粒子が前記第2固体電解質材料と接している、
請求項1から5のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項7】
前記Al単体粒子および前記Al合金粒子の表面には、Al酸化膜が実質的に存在しない、
請求項1から6のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項8】
前記Al単体粒子および前記Al合金粒子の粒径は、50nm以下である、
請求項1から7のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項9】
完全放電状態の前記フッ化物イオン二次電池において、開回路状態における前記負極層の電位が、-1.1V(vs.Pb/PbF2)よりも卑である、
請求項1から8のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項10】
前記第1金属元素は、Cu、Bi、Pb、Sb、Fe、Zn、Ni、Mn、Sn、Ag、Cr、In、Ti、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つの元素である、
請求項1から9のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項11】
前記負極層における前記第2固体電解質材料の含有割合が、10質量%以上95質量%以下である、
請求項1から10のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項12】
前記負極層における前記Al単体粒子および前記Al合金粒子の合計の割合が、1質量%以上50質量%以下である、
請求項1から11のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項13】
前記負極層において、前記Al単体粒子および前記Al合金粒子の合計質量に対する前記第2固体電解質材料の質量の比が、8以上95以下である、
請求項1から12のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項14】
第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有し、フッ素化および脱フッ素化が可能な正極層と、第2金属元素を有する第1固体電解質材料を含有する固体電解質層と、第3金属元素を有する第2固体電解質材料と、集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つとを含有する負極層と、をこの順に備えた積層体を形成することを含み、
前記第2金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有し、
前記第3金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する、
フッ化物イオン二次電池の製造方法。
【請求項15】
Al単体およびAl合金からなる群より選択される少なくとも1つと、前記第2固体電解質材料とを粉砕混合して、前記Al単体粒子および前記Al合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つと、前記第2固体電解質材料とを含有する前記負極層を形成することをさらに含み、
前記粉砕混合によって、前記Al単体粒子または前記Al合金粒子の表面にAl単体またはAl合金を露出させる、
請求項14に記載のフッ化物イオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化物イオン二次電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギー密度を有する二次電池として、リチウムイオン二次電池が広く普及している。また、不燃性の無機の固体電解質を用いたリチウムイオン全固体電池が提案されている。このようなリチウムイオン全固体電池は、高い安全性を有する。したがって、リチウムイオン全固体電池は、広く研究開発されている。
【0003】
上記のような固体電解質を用いた電池の一種として、フッ素イオン(F-)が移動するフッ化物イオン二次電池が提案されている。フッ化物イオン二次電池は、高い理論エネルギー密度を有する。フッ化物イオン二次電池で用いることのできる固体電解質のうち、比較的フッ素イオン伝導度が高く、かつ広い電位窓を有する材料として、例えば、タイソナイト化合物にアルカリ土類金属が添加されたLA1-xEAx3-x(非特許文献1)およびフルオライト化合物Ca1-yBay2(非特許文献2)が報告されている。ここで、LA1-xEAx3-xにおいて、xは0.01以上0.2以下であり、「LA」はLaおよびCeなどの希土類金属を表し、「EA」はCa、Sr、およびBaなどのアルカリ土類金属を表す。フルオライト化合物Ca1-yBay2において、yは0.1以上0.9以下である。これらの固体電解質材料は、負極活物質材料としても利用可能である。すなわち、これらの固体電解質材料は、自己形成負極として利用可能である。これらの固体電解質材料が自己形成負極として利用された場合、電池の構成要素を削減することができる。また、特許文献1は、自己形成負極反応の課題である電池の短絡が起こらない負極集電体材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6638622号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.Mat.Chem.、2011、21、17059
【文献】Daltоn Trans.、2018、47、4105-4117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、自己形成負極反応を利用したフッ化物イオン二次電池であって、例えば重量エネルギー密度を向上させるために、軽い元素であるアルミニウムが負極集電体として機能したフッ化物イオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のフッ化物イオン二次電池は、
第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有し、フッ素化および脱フッ素化が可能な正極層と、
第2金属元素を有する第1固体電解質材料を含有する固体電解質層と、
第3金属元素を有する第2固体電解質材料と、集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つとを含有する負極層と、
をこの順に備え、
前記第2金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有し、
前記第3金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、自己形成負極反応を利用したフッ化物イオン二次電池であって、例えば重量エネルギー密度を向上させるために、軽い元素であるアルミニウムが負極集電体として機能したフッ化物イオン二次電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の実施形態によるフッ化物イオン二次電池を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施例1および3で得られた負極合剤のX線光電子分光(XPS)分析によるAl 2pスペクトルを示す。
図3図3は、実施例1から3および比較例1で得られた評価用セルに対する充放電試験の結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例4および比較例2で得られた評価用セルに対する充放電試験の結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1で得られた評価用セルに対する充電試験後および充放電試験後のXPS分析による負極のAl 2pスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本開示に係る一態様の概要>
本開示の第1態様に係るフッ化物イオン二次電池は、
第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有し、フッ素化および脱フッ素化が可能な正極層と、
第2金属元素を有する第1固体電解質材料を含有する固体電解質層と、
第3金属元素を有する第2固体電解質材料と、集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つとを含有する負極層と、
をこの順に備え、
前記第2金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有し、
前記第3金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。
【0011】
第1態様に係るフッ化物イオン二次電池は、自己形成負極反応を利用した電池である。ここで、自己形成負極反応を利用した従来のフッ化物イオン二次電池において、軽量化のために、固体電解質層に接して配置される負極集電体層の材料にアルミニウムを用いた場合、アルミニウムを負極集電体として機能させて、実用的な容量を示す電池を実現することが困難であった。これに対し、第1態様に係るフッ化物イオン二次電池は、Al単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つと、第3金属元素を有する第2固体電解質材料とを含有する負極層を設けることにより、アルミニウムを負極集電体として機能させることができる。したがって、本開示の第1態様によれば、自己形成負極反応を利用したフッ化物イオン二次電池であって、軽い元素であるアルミニウムが負極集電体として機能したフッ化物イオン二次電池を提供できる。
【0012】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係るフッ化物イオン二次電池では、前記第2金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも1つの元素であってもよい。
【0013】
第2態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量を高めることができる。
【0014】
本開示の第3態様において、例えば、第2態様に係るフッ化物イオン二次電池では、前記第2金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも2つの元素であってもよい。
【0015】
第3態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量をさらに高めることができる。
【0016】
本開示の第4態様において、例えば、第1から第3態様のいずれか1つに係るフッ化物イオン二次電池では、前記第3金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも1つの元素であってもよい。
【0017】
第4態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量を高めることができる。
【0018】
本開示の第5態様において、例えば、第4態様に係るフッ化物イオン二次電池では、前記第2金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも2つの元素であってもよい。
【0019】
第5態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量をさらに高めることができる。
【0020】
本開示の第6態様において、例えば、第1から第5態様のいずれか1つに係るフッ化物イオン二次電池では、前記負極層において、前記Al単体粒子または前記Al合金粒子は、Al単体またはAl合金が露出した表面を有しており、前記表面において、前記Al単体粒子または前記Al合金粒子が前記第2固体電解質材料と接していてもよい。
【0021】
第6態様に係るフッ化物イオン二次電池では、Al単体またはAl合金と第2固体電解質材料とが接するので、負極層において第2固体電解質材料の自己形成負極反応がより効率良く起こる。したがって、第6態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量をさらに高めることができる。
【0022】
本開示の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つに係るフッ化物イオン二次電池では、前記Al単体粒子および前記Al合金粒子の表面には、Al酸化膜が実質的に存在しなくてもよい。
【0023】
第7態様に係るフッ化物イオン二次電池では、Al単体粒子およびAl合金粒子の表面で生じる第2固体電解質材料の自己形成負極反応が、Al酸化膜によって妨げられない。したがって、第7態様に係るフッ化物イオン二次電池では、負極層において第2固体電解質材料の自己形成負極反応がより効率良く起こる。これにより、第7態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量をさらに高めることができる。
【0024】
本開示の第8態様において、例えば、第1から第7態様のいずれか1つに係るフッ化物イオン二次電池では、前記Al単体粒子および前記Al合金粒子の粒径が、50nm以下であってもよい。
【0025】
第8態様に係るフッ化物イオン二次電池では、Al単体粒子およびAl合金粒子の粒径が50nm以下であることにより、負極層において第2固体電解質材料の自己形成負極反応がより効率良く起こる。したがって、第8態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量をさらに高めることができる。
【0026】
本開示の第9態様において、例えば、第1から第8態様のいずれか1つに係るフッ化物イオン二次電池が完全放電状態である場合、開回路状態における前記負極層の電位が、-1.1V(vs.Pb/PbF2)よりも卑であってもよい。
【0027】
第9態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量を高めることができる。
【0028】
本開示の第10態様において、例えば、第1から第9態様のいずれか1つに係るフッ化物イオン二次電池では、前記第1金属元素は、Cu、Bi、Pb、Sb、Fe、Zn、Ni、Mn、Sn、Ag、Cr、In、Ti、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つの元素であってもよい。
【0029】
第10態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量を高めることができる。
【0030】
本開示の第11態様において、例えば、第1から第10態様のいずれか1つに係るフッ化物イオン二次電池では、前記負極層における前記第2固体電解質材料の含有割合が、10質量%以上95質量%以下であってもよい。
【0031】
第11態様に係るフッ化物イオン二次電池では、負極層において第2固体電解質材料の自己形成負極反応が効率良く起こる。したがって、第11態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量を高めることができる。
【0032】
本開示の第12態様において、例えば、第1から第11態様のいずれか1つに係るフッ化物イオン二次電池では、前記負極層における前記Al単体粒子および前記Al合金粒子の合計の割合が、1質量%以上50質量%以下であってもよい。
【0033】
第12態様に係るフッ化物イオン二次電池では、負極層において第2固体電解質材料の自己形成負極反応が効率良く起こる。したがって、第12態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量を高めることができる。
【0034】
本開示の第13態様において、例えば、第1から第12態様のいずれか1つに係るフッ化物イオン二次電池では、前記負極層において、前記Al単体粒子および前記Al合金粒子の合計質量に対する前記第2固体電解質材料の質量の比が、8以上95以下であってもよい。
【0035】
第13態様に係るフッ化物イオン二次電池では、Al単体粒子およびAl合金粒子の集電体としての機能と、第2固体電解質材料の負極活物質としての機能とを効率良く発揮させることができる。したがって、第13態様に係るフッ化物イオン二次電池は、容量を高めることができる。
【0036】
本開示の第14態様に係るフッ化物イオン二次電池の製造方法は、
第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有し、フッ素化および脱フッ素化が可能な正極層と、第2金属元素を有する第1固体電解質材料を含有する固体電解質層と、第3金属元素を有する第2固体電解質材料と、集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つとを含有する負極層と、をこの順に備えた積層体を形成することを含み、
前記第2金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有し、
前記第3金属元素は、前記正極層に含まれる前記第1金属元素、前記炭素元素、および前記硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの前記元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。
【0037】
第14態様に係る製造方法よれば、自己形成負極反応を利用したフッ化物イオン二次電池であって、軽い元素であるアルミニウムが負極集電体として機能したフッ化物イオン二次電池を製造できる。
【0038】
本開示の第15態様において、例えば、第14態様に係る製造方法では、
Al単体およびAl合金からなる群より選択される少なくとも1つと、前記第2固体電解質材料とを粉砕混合して、前記Al単体粒子および前記Al合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つと、前記第2固体電解質材料とを含有する前記負極層を形成することをさらに含み、
前記粉砕混合によって、前記Al単体粒子または前記Al合金粒子の表面にAl単体またはAl合金を露出させてもよい。
【0039】
第15態様に係る製造方法よれば、上記の粉砕混合の処理によって、Al単体粒子またはAl合金粒子の表面のAl酸化膜を除去して、Al単体粒子またはAl合金粒子の表面にAl単体またはAl合金を露出させることができる。これにより、製造されるフッ化物イオン二次電池の負極層において、Al単体またはAl合金と第2固体電解質材料とが接することができる。したがって、第15態様に係る製造方法よれば、より容量が高いフッ化物イオン二次電池を製造できる。
【0040】
<本開示の実施形態>
以下、本開示の実施形態によるフッ化物イオン二次電池を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0041】
フッ化物イオン二次電池は、フッ化物イオンを電解質中でシャトルさせることで、正極および負極において、脱フッ化反応およびフッ化反応をそれぞれ進行させて起電力を得る電池である。
【0042】
本開示の実施形態によるフッ化物イオン二次電池は、正極層、固体電解質層、および負極層をこの順に備える。正極層は、第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有し、フッ素化および脱フッ素化が可能な層である。固体電解質層は、第2金属元素を有する第1固体電解質材料を含有する。第2金属元素は、正極層に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。負極層は、第3金属元素を有する第2固体電解質材料と、集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つとを含有する。すなわち、負極層において、Al単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つが、集電体として機能する。第3金属元素は、正極層に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。
【0043】
本開示の実施形態によるフッ化物イオン二次電池は、集電機能の向上のために、正極層に電気的に接して配置された正極集電体、および負極層に電気的に接して配置された負極集電体をさらに備えていてもよい。
【0044】
図1は、本開示の実施形態によるフッ化物イオン二次電池を模式的に示す断面図である。図1に示すフッ化物イオン二次電池1は、正極集電体5と、正極層2と、固体電解質層3と、負極層4と、負極集電体6とをこの順に備える。固体電解質層3は、正極層2と負極層4との間に配置されている。以下に、各構成について詳しく説明する。
【0045】
(正極層)
正極層2は、第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有する。正極層2に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素は、通常、充電時にフッ素化され、放電時に脱フッ素化される。フッ化物イオンは、求核性が非常に高いことから、多くの元素と反応し、フッ化物を形成する。一方、正極層2では、放電時に脱フッ素化反応が生じる必要がある。すなわち、正極層2は、フッ素化反応のみならず、脱フッ素化反応が生じ得る層である必要がある。また、正極層2は、正極集電体および正極活物質の機能を兼ね備えていてもよい。したがって、フッ化物イオン二次電池1には、正極集電体5が設けられていなくてもよい。
【0046】
第1金属元素は、例えば、Cu、Bi、Pb、Sb、Fe、Zn、Ni、Mn、Sn、Ag、Cr、In、Ti、およびCoからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。
【0047】
正極層2は、第1金属元素を含有する層、炭素元素を含有する層、硫黄元素を含有する層、第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素のうちいずれか2つを含有する層、ならびに、第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素の全てを含有する層、のいずれであってもよい。第1金属元素を含有する層は、例えば、第1金属元素を有する金属電極層であってもよい。炭素元素を含有する層は、例えば、カーボン電極層であってもよい。硫黄元素を含有する層は、例えば、CeSFを含有する層であってもよい。正極層2に含まれる第1金属元素は、第1金属元素の単体であってもよいし、第1金属元素を有する合金であってもよい。第1金属元素を有する合金は、第1金属元素を1種類のみ有していてもよいし、2類以上有していてもよい。合金が第1金属元素を2種以上有する場合、当該合金における複数の第1金属元素の中で、フッ素化電位および脱フッ素化電位が最も高い金属元素(金属元素A)が、当該合金の主成分であることが望ましい。合金における金属元素Aの割合は、50mol%以上であってもよく、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。また、正極層2に含まれる炭素元素は、例えば、グラファイトまたはグラフェン等の炭素材料であってもよい。「主成分」とは、含まれている複数の成分の中で、モル比で最も多く含まれた成分を意味する。
【0048】
充電前の正極層2の厚さは、例えば1μm以上であり、10μm以上であってもよい。充電前の正極層2の厚さが適切に調整されていると、充電時に集電体として機能する部分、すなわちフッ化物イオンと反応していない部分、の厚さが十分に確保されて、十分な集電機能が得られる。なお、充電前の正極層2とは、第1金属元素および炭素元素からなる群より選択される少なくとも1つのフッ化物を含有するフッ化物層が存在しない正極層2をいう。
【0049】
正極層2は、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質材料をさらに含んでいてもよい。フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質材料としては、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質材料として公知の材料を用いることができる。例えば、固体電解質層3および負極層4に用いられる第1固体電解質材料または第2固体電解質材料が、正極層2に用いられてもよい。
【0050】
(正極集電体)
上述のとおり、正極層2は正極集電体として機能してもよい。したがって、正極層2とは別部材の正極集電体は設けられなくてもよい。しかし、正極層2のフッ素化による腐食を考慮して、化学的安定性の高い正極集電体が、図1に示された正極集電体5のように補助集電体として別途設けられてもよい。補助集電体としては、Au、Pt、Al、Cu、Ni、Ti、Cr、Mo、W、Zr、ステンレス鋼、またはグラファイトを含む集電体を挙げることができる。
【0051】
(固体電解質層)
固体電解質層3は、第2金属元素を有する第1固体電解質材料を含有する。第2金属元素は、正極層2に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。第2金属元素は、充電時に金属単体として析出してもよく、放電時にフッ素化されてもよい。後述するように、本実施形態によるフッ化物イオン二次電池1において、充電反応および放電反応は、主に、負極層4の中、すなわち、負極層4におけるAl単体粒子またはAl合金粒子と第3固体電解質材料との界面で起こる。しかし、充放電末期などにおいては、負極層4の中だけでなく、固体電解質層3と負極層4との界面において、充放電反応が起こる場合がある。すなわち、負極層4との界面付近における固体電解質層3の一部は、充電時に、第1固体電解質材料の自己形成反応により負極活物質層となってもよい。この負極活物質層は、第2金属元素の単体を含有する層であり、固体電解質層3から自己形成的に生じる。
【0052】
第1固体電解質材料は、通常、第2金属元素およびフッ素元素を有し、フッ化物イオン伝導性を有する材料である。上述のとおり、第2金属元素は、正極層2に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素よりも、低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。すなわち、正極層2が第1金属元素を有する場合、第2金属元素は、第1金属元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。同様に、正極層2が炭素元素を有する場合、第2金属元素は、炭素元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。同様に、正極層2が硫黄元素を有する場合、第2金属元素は、硫黄元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。フッ素化電位および脱フッ素化電位は、例えば、サイクリックボルタンメトリ(CV)により求めることができる。第1金属元素、炭素元素、または硫黄元素と第2金属元素とのフッ素化電位の差は、例えば0.05V以上であり、0.1V以上であってもよい。また、第1金属元素、炭素元素、または硫黄元素と、第2金属元素との脱フッ素化電位の差も、例えば0.05V以上であり、0.1V以上であってもよい。
【0053】
第2金属元素は、さらに、アルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。Alと第2金属元素とのフッ素化電位の差は、例えば0.05V以上であり、0.1V以上であってもよい。また、Alと第2金属元素との脱フッ素化電位の差も、例えば0.05V以上であり、0.1V以上であってもよい。
【0054】
第2金属元素は、例えば、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。フッ化物イオン二次電池1の容量を向上させるために、第2金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも2つの元素であってもよい。第2金属元素が2つ以上の元素を有する場合、複数の第2金属元素の中で、フッ素化電位および脱フッ素化電位が最も高い金属元素(金属元素B)が、第1固体電解質材料に含まれる全金属元素の主成分であってもよい。第1固体電解質材料に含まれる全金属元素における金属元素Bの割合は、50mol%以上であってもよく、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。
【0055】
第2金属元素を有する第1固体電解質材料としては、例えば、Ce1-xSrx3-x(0≦x≦1)、La1-xCax3-x(0≦x≦1)、La1-xBax3-x(0≦x≦1)、Ca2-xBax4(0≦x≦2)、およびCe1-xBax3-x(0≦x≦1)等が挙げられる。上記xは、それぞれ、0よりも大きくてもよく、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。また、上記xは、それぞれ、1よりも小さくてもよく、0.95以下であってもよく、0.9以下であってもよい。第1固体電解質材料の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状を挙げることができる。
【0056】
固体電解質層3の厚さは、例えば10μm以上であり、50μm以上であってもよい。一方、固体電解質層3の厚さは、例えば2000μm以下である。固体電解質層3の厚さが10μm以上である場合、フッ化物イオン二次電池1の安全性が向上する。一方、固体電解質層3の厚さが300μm以下である場合、フッ化物イオン二次電池1のエネルギー密度を高めることができる。
【0057】
固体電解質層3は、第1固体電解質材料とは異なる組成を有する第3固体電解質材料をさらに含んでいてもよい。第3固体電解質材料には、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質材料として公知の材料を用いることができる。
【0058】
(負極層4)
負極層4は、第3金属元素を有する第2固体電解質材料と、集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つと、を含有する。図1に示すように、負極層4は、例えば、第2固体電解質材料42にAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つの粒子41が分散した構成を有していてもよい。負極層4において、Al単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つは、負極集電体として機能する。負極層4において、第2固体電解質材料が有する第3金属元素は、正極層2に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。したがって、負極層4において、通常、第3金属元素は、充電時に金属単体として析出し、放電時にフッ素化される。すなわち、負極層4に含まれる第2固体電解質材料の一部は、第2固体電解質材料の自己形成反応により、負極活物質として機能し得る。負極層4中の第2固体電解質材料における負極活物質の自己形成反応は、通常、第2固体電解質層材料と、集電体として機能するAl単体粒子またはAl合金粒子との界面において生じる。したがって、例えば、充電時には、第2固体電解質層材料とAl単体粒子またはAl合金粒子との界面に、第2固体電解質材料から自己形成的に生じる負極活物質層が形成され得る。この負極活物質層は第3金属元素の単体を含有する。このように、本実施形態によるフッ化物イオン二次電池1において、負極層4は、負極集電体層および負極活物質層の両方の機能を兼ね備えることができる。
【0059】
第2固体電解質材料は、通常、第3金属元素およびフッ素元素を有し、フッ化物イオン伝導性を有する材料である。上述のとおり、第3金属元素は、正極層2に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素よりも、低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。正極層2に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素と第3金属元素とのフッ素化電位の差は、例えば0.05V以上であり、0.1V以上であってもよい。また、正極層2に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素と、第3金属元素との脱フッ素化電位の差も、例えば0.05V以上であり、0.1V以上であってもよい。
【0060】
第3金属元素は、アルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。Alと第3金属元素とのフッ素化電位の差は、例えば0.05V以上であり、0.1V以上であってもよい。また、Alと第3金属元素との脱フッ素化電位の差も、例えば0.05V以上であり、0.1V以上であってもよい。
【0061】
第3金属元素は、例えば、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。フッ化物イオン二次電池1の容量を向上させるために、第3金属元素は、La、Ba、Ca、Ce、およびSrからなる群から選択される少なくとも2つの元素であってもよい。第3金属元素が2つ以上の元素を有する場合、複数の第3金属元素の中で、フッ素化電位および脱フッ素化電位が最も高い金属元素(金属元素X)が、第2固体電解質材料に含まれる全金属元素の主成分であってもよい。第2固体電解質材料に含まれる全金属元素における金属元素Xの割合は、50mol%以上であってもよく、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。
【0062】
第3金属元素を有する第2固体電解質材料としては、例えば、Ce1-xSrx3-x(0≦x≦1)、La1-xCax3-x(0≦x≦1)、La1-xBax3-x(0≦x≦1)、Ca2-xBax4(0≦x≦2)、およびCe1-xBax3-x(0≦x≦1)等が挙げられる。上記xは、それぞれ、0よりも大きくてもよく、0.05以上であってもよく、0.1以上であってもよい。また、上記xは、それぞれ、1よりも小さくてもよく、0.95以下であってもよく、0.9以下であってもよい。第2固体電解質材料の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状を挙げることができる。
【0063】
負極層4の厚さは、例えば1μm以上であり、10μm以上であってもよい。一方、負極層4の厚さは、例えば100μm以下である。負極層4の厚さが10μm以上である場合、フッ化物イオン二次電池1の容量が向上する。一方、負極層4の厚さが100μm以下である場合、フッ化物イオン二次電池1の重量エネルギー密度を高めることができる。
【0064】
負極層4において、Al単体粒子またはAl合金粒子は、Al単体またはAl合金が露出した表面を有していてもよい。例えば、負極層4にAl単体粒子のみが含まれる場合、Al単体粒子は、Al単体が露出した表面を有していてもよい。また、負極層4にAl合金粒子のみが含まれる場合、Al合金粒子は、Al合金が露出した表面を有していてもよい。また、負極層4にAl単体粒子およびAl合金粒子の両方が含まれる場合、Al単体粒子のみがAl単体が露出した表面を有していてもよく、Al合金粒子のみがAl合金が露出した表面を有していてもよく、または、Al単体粒子がAl単体が露出した表面を有し、かつAl合金粒子がAl合金が露出した表面を有していてもよい。なお、Al単体またはAl合金が露出した表面は、Al単体粒子またはAl合金粒子の表面の一部であってもよく、Al単体粒子またはAl合金粒子の表面全体にAl単体またはAl合金が露出していなくてもよい。Al単体またはAl合金が露出した表面において、Al単体粒子またはAl合金粒子が第2固体電解質材料と接していてもよい。Al単体粒子またはAl合金粒子が、AlまたはAl合金が露出した表面において第2固体電解質材料と接することにより、負極層4において第2固体電解質材料の自己形成負極反応がより効率良く起こる。これにより、開回路状態における負極層4の電位が、より卑となることができる。その結果、フッ化物イオン二次電池1は、充放電容量をさらに高めることができる。
【0065】
負極層4に含まれるAl単体粒子およびAl合金粒子の表面には、例えば、Al酸化膜が実質的に存在しない。ここで、Al単体粒子およびAl合金粒子の表面にAl酸化膜が実質的に存在しないとは、負極層4の材料のXPS分析によるAl 2pスペクトルにおいて、Al酸化膜のピーク(すなわち、75.5eV以上76.5eV以下の範囲に存在する最も大きいピーク)強度が、0価のAl ピーク(72.5eV以上73.5eV以下の範囲に存在する最も大きいピーク)強度の1/10以下であることを意味する。したがって、Al単体粒子およびAl合金粒子の表面にAl酸化膜が実質的に存在しないとは、Al単体粒子およびAl合金粒子の表面のいずれかの部位において僅かなAl酸化膜が存在することを否定するものではない。負極層4に含まれるAl単体粒子およびAl合金粒子の表面にAl酸化膜が実質的に存在しないことにより、Al単体粒子およびAl合金粒子の表面で生じる第2固体電解質材料の自己形成負極反応が、Al酸化膜によって妨げられない。したがって、負極層4において第2固体電解質材料の自己形成負極反応がより効率良く起こる。これにより、開回路状態における負極層4の電位が、より卑となることができる。その結果、フッ化物イオン二次電池1は、充放電容量をさらに高めることができる。負極層4に含まれるAl単体粒子およびAl合金粒子の表面に、Al酸化膜が全く存在していなくてもよい。
【0066】
負極層4に含まれるAl単体粒子およびAl合金粒子の粒径は、例えば50nm以下であってもよく、20nm以下であってもよい。負極層4に含まれるAl単体粒子およびAl合金粒子の粒径が50nm以下である場合、負極層4において第2固体電解質材料の自己形成負極反応がより効率良く起こる。したがって、フッ化物イオン二次電池1は、充放電容量をさらに高めることができる。Al単体粒子およびAl合金粒子の粒径は、例えば、電子顕微鏡(SEMやTEMなど)の観察画像から100個以上の粒子の粒径を計測しその平均値を求めることで確認できる。
【0067】
フッ化物イオン二次電池1が完全放電状態である場合、Pb/PbF2基準で、開回路状態における負極層4の電位が、-1.1V(vs.Pb/PbF2)より卑な電位であってもよい。フッ化物イオン二次電池1が開回路状態において、負極層4がこのような電位を有することにより、フッ化物イオン二次電池1は高容量を実現することができる。ここで、完全放電状態とは、フッ化物イオン二次電池1が使用される機器分野で所定の電圧範囲において、最も低い電圧までフッ化物イオン二次電池1を放電した状態である。例えば、完全放電状態とは、電池を短絡させた時の起電力が0.5V以下になるまで放電した状態をいう。
【0068】
負極層4における第2固体電解質材料の含有割合は、例えば10質量%以上95質量%以下であってもよい。ここで、負極層4における第2固体電解質材料の含有割合は、負極層4の全質量に対する第2固体電解質材料の質量の比である。負極層4が第2固体電解質材料を上記の割合で含有することにより、負極層4において第2固体電解質材料が負極活物質として効率良く機能することができる。その結果、フッ化物イオン二次電池1は、より高い充放電容量を実現できる。負極層4における第2固体電解質材料の含有割合は、50質量%以上であってもよく、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。負極層4において、第2固体電解質材料の含有割合は、質量比で、Al単体粒子およびAl合金粒子の合計の割合よりも大きくてもよい。
【0069】
負極層4におけるAl単体粒子およびAl合金粒子の合計の割合が、例えば1質量%以上50質量%以下であってもよい。ここで、負極層4におけるAl単体粒子およびAl合金粒子の合計の割合は、負極層4の全質量に対するAl単体粒子およびAl合金粒子の合計の質量の比である。負極層4がAl単体粒子およびAl合金粒子を上記の割合を満たすように含有することにより、負極層4において第2固体電解質材料の自己形成負極反応が効率良く生じる。その結果、フッ化物イオン二次電池1は、より高い充放電容量を実現できる。負極層4におけるAl単体粒子およびAl合金粒子の合計の割合は、40質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよい。
【0070】
負極層4において、Al単体粒子およびAl合金粒子の合計質量に対する第2固体電解質材料の質量の比が、例えば8以上95以下であってもよい。Al単体粒子、Al合金粒子、および第2固体電解質材料が上記質量比を満たすことにより、Al単体粒子およびAl合金粒子の集電体としての機能と、第2固体電解質材料の負極活物質としての機能を効率良く発揮させることができる。その結果、フッ化物イオン二次電池1は、より高い充放電容量を実現できる。負極層4において、Al単体粒子およびAl合金粒子の合計質量に対する第2固体電解質材料の質量の比は、65以下であってもよい。
【0071】
負極層4は、第2固体電解質材料とは異なる第4固体電解質材料をさらに含んでいてもよい。第4固体電解質材料には、フッ化物イオン伝導性を有する固体電解質材料として公知の材料を用いることができる。
【0072】
負極層4は、必要に応じて、電子伝導助剤等をさらに含んでいてもよい。電子伝導助剤としては、例えば、グラファイト、グラフェン、またはカーボンブラック等の炭素材料であってもよい。
【0073】
(負極集電体)
上述のとおり、負極層4は、負極集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つを含有している。したがって、負極層4とは別部材の負極集電体は、設けられなくてもよい。しかし、集電をより安定的に行うために、図1に示された負極集電体6のような補助集電体が別途設けられてもよい。補助集電体としては、Au、Pt、Al、ステンレス鋼、またはグラファイト等を含む集電体を挙げることができる。
【0074】
(電池の充放電反応)
フッ化物イオン二次電池1の充放電時の反応について説明する。
【0075】
充電時、正極層2に含まれる第1金属元素、炭素元素、および/または硫黄元素がフッ素化されるフッ素化反応が生じる。これにより、正極層2と固体電解質層3との界面に、第1金属元素、炭素元素、および/または硫黄元素のフッ化物を含むフッ化物層が形成される。一方、負極層4における第2固体電解質材料とAl単体粒子またはAl合金粒子との界面において、第2固体電解質材料の脱フッ素化反応が生じる。この脱フッ素化反応により、負極層4における第2固体電解質材料とAl単体粒子またはAl合金粒子との界面に、第3金属元素が金属単体として析出する。すなわち、充電時に、第2固体電解質材料の自己形成反応により、負極層4における第2固体電解質材料とAl単体粒子またはAl合金粒子との界面に、負極活物質層に相当する層が生成される。この負極活物質層は、第3金属元素の単体を含有する。
【0076】
放電時、正極層2と固体電解質層3との界面に形成されたフッ化物層の脱フッ素化反応が生じる。したがって、放電によって第1金属元素、炭素元素、および/または硫黄元素のフッ化物を含有するフッ化物層が存在しなくなる。一方、負極層4における第2固体電解質材料とAl単体粒子またはAl合金粒子との界面に析出した第3金属元素の金属単体は、フッ素化される。充電時に第2固体電解質材料の自己形成反応によって形成された負極活物質層に相当する層は、放電によって存在しなくなる。
【0077】
(電池の製造方法)
本実施形態によるフッ化物イオン二次電池は、例えば、以下のような方法によって製造され得る。
【0078】
本実施形態によるフッ化物イオン二次電池の製造方法は、例えば、第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含有し、フッ素化および脱フッ素化が可能な正極層と、第2金属元素を有する第1固体電解質材料を含有する固体電解質層と、第3金属元素を有する第2固体電解質材料と、集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つとを含有する負極層と、をこの順に備えた積層体を形成することを含む。第2金属元素は、正極層に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。第3金属元素は、正極層に含まれる第1金属元素、炭素元素、および硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素およびアルミニウム元素よりも低いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。
【0079】
本実施形態によるフッ化物イオン二次電池の製造方法は、Al単体およびAl合金からなる群より選択される少なくとも1つと、第2固体電解質材料とを粉砕混合して、Al単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つと、第2固体電解質材料とを含有する負極層を形成することをさらに含んでもよい。この粉砕混合によって、Al単体粒子またはAl合金粒子の表面にAl単体またはAl合金を露出させてもよい。この方法によれば、Al単体またはAl合金が露出した表面において、Al単体粒子またはAl合金粒子が第2固体電解質材料と接している負極層を形成することができる。
【実施例
【0080】
以下、実施例を用いて、本開示がより詳細に説明される。
【0081】
[実施例1]
(固体電解質材料の作製)
CeF3の粉体(高純度化学研究所社製)およびSrF2の粉体(高純度化学研究所社製)を、CeF3:SrF2=95:5のモル比で混合した。次に、得られた混合物を、遊星型ボールミルを用いて、43.5時間ミリング処理した。次に、ミリング処理後の混合物を、不活性ガスの雰囲気下にて、1100℃で1時間熱処理した。これにより、組成式Ce0.95Sr0.052.95(以下、「CSF」という)により表される固体電解質材料を得た。すなわち、実施例1では、第1固体電解質材料の第2金属元素としてCeおよびSrを有し、第2固体電解質材料の第3金属元素としてCeおよびSrを有する固体電解質材料が準備された。
【0082】
(負極合剤の作製)
先述のように準備された第2固体電解質材料であるCSFと、電子伝導助剤となるアセチレンブラック(以下、「AB」という)(デンカ株式会社製)と、Al粉体(高純度化学研究所社製)とを、CSF:AB:Al=84:6:10の質量比で混合した。次に、得られた混合物を、遊星型ボールミルを用いて400rpmの回転数で13時間ミリング処理することによって、負極合剤が得られた。
【0083】
(評価用セルの作製)
先述のように準備された負極合剤の粉末10mg、第1固体電解質材料であるCSFの粉末200mg、正極層となる鉛箔(ニラコ社製、厚さ200μm)、および正極集電体となるアルミ箔(ニラコ社製、厚さ10μm)が、この順で直径10mmφの金型中で積層されて、加圧成形された。得られた積層体における負極合剤からなる層(すなわち、負極層)の上部に負極集電体としてのアルミ箔(ニラコ社製、厚さ10μm)を配置し、評価用セルを得た。
【0084】
[実施例2]
負極合剤の作製においてボールミル回転数を600rpmとしたこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0085】
[実施例3]
負極合剤の作製においてボールミル回転数を100rpmとしたこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0086】
[比較例1]
負極合剤の作製においてAl粉体を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0087】
[実施例4]
(固体電解質材料の作製)
LaF3の粉体(高純度化学研究所社製)およびCaF2の粉体(高純度化学研究所社製)を、LaF3:CaF2=9:1のモル比で混合した。次に、得られた混合物を、遊星型ボールミルを用いて、6時間ミリング処理した。次に、ミリング処理後の混合物を、不活性ガスの雰囲気下にて、700℃で1時間熱処理した。これにより、組成式La0.9Ca0.12.9(以下、「LCF」という)により表される固体電解質材料を得た。すなわち、実施例4では、第1固体電解質材料および第2固体電解質材料として、LaおよびCaを第2金属元素および第3金属元素として有する固体電解質材料が準備された。
【0088】
(負極合剤の作製)
CSFに替えて先述のように準備された第2固体電解質材料であるLCFを用いた点以外は、実施例1と同様にして負極合剤を作製した。
【0089】
(評価用セルの作製)
固体電解質材料の粉末として、実施例4で準備した第1固体電解質材料であるLCFを用いた。負極合剤の粉末として、実施例4で準備した負極合剤の粉末を用いた。これら以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0090】
[比較例2]
(固体電解質材料の作製)
PbF2の粉体(高純度化学研究所社製)およびSnF2の粉体(高純度化学研究所社製)を、PbF2:SnF2=1:1のモル比で混合した。次に、得られた混合物を、遊星型ボールミルを用いて、6時間ミリング処理した。これにより、組成式PbSnF4(以下、「PSF」という)により表される固体電解質材料を得た。なお、得られた固体電解質材料が有する金属元素PbおよびSnは、Alよりも高いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する。すなわち、比較例2で作製された第1固体電解質材料および第2固体電解質材料は、それぞれ、第2金属元素および第3金属元素を有しない固体電解質材料であった。
【0091】
(負極合剤の作製)
CSFに替えて先述のように準備された第2固体電解質材料であるPSFを用いた点以外は、実施例1と同様にして負極合剤を作製した。
【0092】
(評価用セルの作製)
第1固体電解質材料の粉末として、比較例2で準備した第1固体電解質材料であるPSFを用いた。負極合剤の粉末として、比較例2で準備した負極合剤の粉末を用いた。これら以外は、実施例1と同様にして評価用セルを得た。
【0093】
[評価]
(負極合剤の評価)
XPS分析装置(アルバックファイ社製、PHI5000 Versa ProbeII、Al-Kα線源)を用いて、実施例1および3で得られた負極合剤中のAlの表面状態を観察した。図2は、実施例1および3で得られた負極合剤のXPS分析によるAl 2pスペクトルを示す。
【0094】
ボールミルを行わない試薬のAlでは、73eV付近の0価に加え、76eV付近の3価のピークが観察された。この3価のピークの存在は、表面が酸化膜で覆われていることを示している。負極合剤の作製におけるボールミル回転数が100rpmの実施例3においては、表面酸化膜は残ったままであった。一方、ボールミル回転数が400rpmの実施例1については、3価のピークが消失しており、表面酸化膜の剥離が起こっていることが分かった。
【0095】
(フッ化物イオン二次電池の評価)
実施例1から4、比較例1、および比較例2の評価用セルを用いて、フッ化物イオン二次電池の充放電評価が行われた。充放電評価は、ポテンショガルバノスタット(バイオロジック社製、SP240)を用いて行われた。充電40μA、放電20μAの電流にて、下限電圧-2.35V、上限電圧-0.05Vにて、定電流充放電試験が実施された。なお、充放電試験は140℃で実施された。
【0096】
【表1】
【0097】
図3は、実施例1から3および比較例1で得られた評価用セルに対する充放電試験の結果を示すグラフである。図3には、固体電解質材料としてCSFが用いられた実施例1から3および比較例1の電池の充放電特性が示されている。Al単体粒子を含有する負極層を備えた実施例1から3の電池は、0.1mAh以上の高い容量を示した。これに対し、Al単体粒子を含有しない負極層を備えた比較例1の電池は、殆ど容量を示さなかった。
【0098】
さらに、実施例1から3の電池の充放電特性を比較する。負極合剤の作製におけるボールミル回転数が400rpm以上の実施例1および2の電池は、ボールミル回転数が100rpmの実施例3の電池よりも高い容量を示した。ここで、図2に示されたXPS分析結果からわかるように、実施例1において負極層の作製に用いられた負極合剤中のAl単体粒子は、表面に存在していたAl酸化膜が剥離されて、Al単体が露出した表面を有している。すなわち、実施例1の電池の負極層では、Al単体が露出した表面を有するAl単体粒子と第2固体電解質材料とが接していると考えられる。一方、実施例3において負極層の作製に用いられた負極合剤中のAl単体粒子は、表面がAl酸化膜でほぼ覆われていると考えられる。これらの結果から、表面にAl単体が露出したAl単体粒子と第2固体電解質材料とが少なくとも一部で接する負極層を備えた電池では、開回路状態における負極層の電位がより卑であり、かつより高い充放電容量が得られることが確認された。
【0099】
図4は、実施例4および比較例2で得られた評価用セルに対する充放電試験の結果を示すグラフである。図4には、第1および第2固体電解質材料としてLCFが用いられた実施例4の電池と、第1および第2固体電解質材料としてPSFが用いられた比較例2の電池の充放電特性が示されている。負極合剤の作製におけるボールミル回転数が同じ400rpmであって、かつ負極層がAl単体粒子を含んでいる実施例1、実施例4、および比較例2の電池の充放電特性を比較する。実施例1および4の電池は高い容量を示したのに対し、比較例2の電池は殆ど容量を示さなかった。これは、比較例2の電池には、アルミニウム元素よりも高いフッ素化電位および脱フッ素化電位を有する金属元素を有する固体電解質材料が用いられているからであると考えられる。
【0100】
表1に、評価用セルが完全放電状態である場合の開回路状態における負極層の電位を示す。なお、評価用セルが完全放電状態である場合の開回路状態における負極層の電位も、上記ポテンショガルバノスタットを用いて測定された。実施例1から4の負極層は、0V(vs.Pb/PbF2)よりも卑な電位を示した。特に、実施例1、2、および4の負極層は、-1.1V(vs.Pb/PbF2)よりも卑な電位を示した。一方、比較例1および2の負極層は、実施例1から4の負極層よりも貴な電位を示した。
【0101】
なお、実施例1から4および比較例2の電池では負極層にAl単体粒子が用いられたが、Al合金粒子が用いられた場合でも同様の結果を示すと考えられる。
【0102】
(フッ化物イオン二次電池の充放電後の状態評価)
実施例1による負極層に含まれるAlについて、充放電試験による状態変化を調べる為に、XPS分析装置を用いて評価用セルの負極層の状態を観察した。具体的には、実施例1で得られた評価用セルを用いて、充電試験を行った後および充放電1サイクル試験を行った後に、負極集電体のアルミ箔を剥がし、負極層のXPS観察を行った。図5は、実施例1で得られた評価用セルに対する充電試験後および充放電試験後のXPS分析による負極層のAl 2pスペクトルを示す。充電後および充放電後のスペクトルとも、試験前の負極合剤のスペクトルとピーク位置が変わらなかった。すなわち、負極層に含まれるAlは、充放電動作によって状態変化が無いことが確認された。仮にAlが活物質として機能すると仮定した場合、放電時にフッ化反応が進行しAlF3が生成するはずである。しかし、実施例1による負極層について、充放電動作によってAlF3の析出は確認されなかった。従って、本検討によって、負極層に含まれるAlは、活物質としてではなく集電体として機能することが確かめられた。
【0103】
以上のことから、自己形成負極反応を利用したフッ化物イオン二次電池は、第2金属元素を有する第1固体電解質材料を含有する固体電解質層、および、第3金属元素を有する第2固体電解質材料と、集電体として機能するAl単体粒子およびAl合金粒子からなる群より選択される少なくとも1つとを含有する負極層を備えることにより、充放電容量を示すことが確認された。すなわち、本開示のフッ化物イオン二次電池は、軽い元素であるAlを負極集電体として機能させるので、例えば、自己形成負極反応を利用したフッ化物イオン二次電池の重量エネルギー密度を向上させることができる。さらに、本開示のフッ化物イオン二次電池において、負極層に含まれるAl単体粒子およびAl合金粒子がAl酸化膜を介さずに第2固体電解質材料と接する場合、開回路状態における負極層の電位をより卑にでき、かつより高い充放電容量が得られることも確認された。
【0104】
本開示のフッ化物イオン二次電池は、上述した各実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形、変更が可能である。例えば、発明を実施するための形態に記載した実施形態に示された技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するため、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本開示のフッ化物イオン二次電池は、充放電可能な二次電池として、種々の用途への応用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5