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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】レーザ伝送ケーブル、及び、レーザ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/24 20060101AFI20240718BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
G02B6/24
G02B6/02 421
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023032029
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2021502019の分割
【原出願日】2020-02-18
(65)【公開番号】P2023073263
(43)【公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019029367
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】下平 幸輝
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-533543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24
G02B 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバの被覆が除去されてベアファイバが露出した素線露出部の少なくとも一部と、前記素線露出部と前記光ファイバの被覆を備える被覆部との境界部と、を内部に収容するファイバ収容溝が形成されたファイバ収容部と、
前記ファイバ収容溝内に充填され、前記素線露出部の少なくとも一部と、前記境界部と、を固定する固定樹脂と、
を備える光ファイバ固定構造と、
前記ベアファイバの端部に接続され、前記ベアファイバの断面積よりも大きい断面積を有するエンドキャップと、
前記ファイバ収容溝と前記エンドキャップの一部とを収容する筐体と、を備え、
前記ファイバ収容溝を前記光ファイバの長手方向に垂直な断面から見た断面視において、前記素線露出部の全体および前記境界部の全体が、前記ファイバ収容溝の深さ方向において、前記ファイバ収容溝内に収容されており、かつ、前記固定樹脂は前記素線露出部の外周の全周および前記境界部の外周の全周を覆っており、
前記断面視において、前記ファイバ収容溝の底面の形状は半円であり、
前記エンドキャップは、前記ベアファイバの端部と光学的に結合する入射面と、前記ベアファイバから入射した光が出射する出射面と、を有する、レーザ伝送ケーブル。
【請求項2】
前記断面視において、前記素線露出部、および前記境界部は前記ファイバ収容溝の底面及び側面とは離間している、請求項1に記載のレーザ伝送ケーブル。
【請求項3】
前記ファイバ収容溝の内部は、前記断面視において、前記固定樹脂によって満たされており、かつ、前記固定樹脂は前記ファイバ収容溝の外部に突出している、請求項1又は2に記載のレーザ伝送ケーブル。
【請求項4】
前記ファイバ収容溝は、前記光ファイバの前記被覆部の一部を内部に収容し、
前記固定樹脂は、前記断面視において、前記ファイバ収容溝内に収容された前記被覆部の外周の全部を覆っている、請求項1から3のいずれか1項に記載のレーザ伝送ケーブル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のレーザ伝送ケーブルと、
前記レーザ伝送ケーブルを伝搬する光を出射する少なくとも一つの光源とを備える、レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ伝送ケーブル、及びレーザ装置に関する。
本願は、2019年2月21日に日本に出願された特願2019-029367号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ファイバレーザ装置は、集光性に優れ、パワー密度が高く、小さなビームスポットとなる光が得られることから、レーザ加工分野、医療分野等の様々な分野において用いられている。
【0003】
ファイバレーザ装置は、発振器から出射される高出力のレーザ光を伝送させるために、内部に光ファイバが配置されたレーザ伝送ケーブルを有する。ファイバレーザ装置は、光ファイバによってレーザ光を伝搬させ、光ファイバの出射端に接続される石英ブロックを介してレーザ光を出射する。石英ブロック及び石英ブロックに接続された光ファイバは、一般に筐体の内部において樹脂によって固定されている。このようなファイバレーザ装置におけるレーザ光の出射端側の構造は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2018-004770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レーザ伝送ケーブルの実際の使用環境では、例えば、樹脂が硬化する際の硬化収縮による樹脂の体積の変化により、樹脂により接着固定されたファイバに残留応力や外部からの引張力がかかることが想定される。
【0006】
一方、レーザ加工において、レーザ光のビーム品質は加工品質に大きな影響を及ぼすため、レーザ伝送ケーブルには、伝送するレーザ光のビーム品質を維持する機能が求められる。光ファイバを部分的に樹脂(固定樹脂)で接着固定した場合、固定樹脂の硬化収縮により光ファイバの一部に曲がりや応力が加わり、ビーム品質を劣化させる可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、光ファイバを伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制することが可能な光ファイバ固定構造、光ファイバ固定構造を用いたレーザ伝送ケーブル、及び、レーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る光ファイバ固定構造は、光ファイバの被覆が除去されてベアファイバが露出した素線露出部の少なくとも一部と、前記素線露出部と前記光ファイバの被覆を備える被覆部との境界部と、を内部に収容するファイバ収容溝が形成されたファイバ収容部と、前記ファイバ収容溝内に充填され、前記素線露出部の少なくとも一部と、前記境界部と、を固定する固定樹脂と、を備え、前記ファイバ収容溝を前記光ファイバの長手方向に垂直な断面から見た断面視において、前記素線露出部の全体および前記境界部の全体が前記ファイバ収容溝内に収容されており、かつ、前記固定樹脂は前記素線露出部の外周の全周および前記境界部の外周の全周を覆っている。
【0009】
このような構成により、素線露出部および境界部とファイバ収容溝の壁との間にある固定樹脂が硬化収縮したときに発生する残留応力および引張力は、光ファイバの全周において均一に分布することになる。この結果、光ファイバがファイバ収容溝内に固定されたときに、光ファイバに曲がりや不均一な応力が加わることを抑制でき、光ファイバを伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制することができる。
【0010】
また、前記断面視において、前記素線露出部、および前記境界部は前記ファイバ収容溝の底面及び側面とは離間していてもよい。
【0011】
このような構成により、素線露出部とファイバ収容溝の壁との間にある樹脂が硬化収縮したときに発生する残留応力および引張力をさらに均一に分布させることが可能になり、ビーム品質の劣化を抑制することができる。
【0012】
また、前記ファイバ収容溝の内部は、前記断面視において、前記固定樹脂によって満たされており、かつ、前記固定樹脂は前記ファイバ収容溝の外部に突出していてもよい。
【0013】
また、前記ファイバ収容溝は、前記光ファイバの前記被覆部の一部を内部に収容し、前記固定樹脂は、前記断面視において、前記ファイバ収容溝内に収容された前記被覆部の外周の全部を覆っていてもよい。
【0014】
このような構成により、光ファイバを伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制しつつ、光ファイバをファイバ収容部に対してより安定して固定することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明の一態様に係るレーザ伝送ケーブルは、上述の光ファイバ固定構造と、前記ベアファイバの端部に接続され、前記ベアファイバの断面積よりも大きい断面積を有するエンドキャップと、を備える。
【0016】
上記の光ファイバ固定構造によって、光ファイバを伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制することが可能になる。このため、上記いずれかの光ファイバ固定構造を備えるレーザ伝送ケーブルでは、素線露出部とファイバ収容溝の壁との間にある固定樹脂が硬化収縮したときに発生する残留応力および引張力が光ファイバの全周において均一に分布するため、光ファイバを伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化が抑制され得る。
【0017】
また、上記課題を解決するため、本発明の一態様に係るレーザ装置は、上記レーザ伝送ケーブルと、上記レーザ伝送用ケーブルを伝搬する光を出射する少なくとも一つの光源とを備える。
【0018】
上記の光ファイバ固定構造によって、光ファイバを伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制することが可能になる。このため、上記レーザ伝送ケーブルを備えるレーザ装置では、素線露出部とファイバ収容溝の壁との間にある固定樹脂が硬化収縮したときに発生する残留応力および引張力が光ファイバの全周において均一に分布するため、ビーム品質の劣化が抑制されたレーザ光を出力することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の一態様に係る光ファイバ固定構造によれば、光ファイバを伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制することができる。また、本発明の一態様に係るレーザ伝送ケーブルによれば、光ファイバ固定構造において光ファイバが曲がることを抑制することで、光ファイバを伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制することができる。また、本発明の一態様に係るレーザ装置においては、光ファイバ固定構造において光ファイバが曲がることを抑制することで、ビーム品質の劣化が抑制されたレーザ光を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係るレーザ装置を示す概念図である。
図2A図1に示す光ファイバ固定構造の一部を拡大して示す図である。
図2B図2AのII-II線に沿った光ファイバ固定構造の断面図である。
図2C図2AのIII-III断面矢視図である。
図3図1に示す光ファイバ固定構造の一部を拡大して示す斜視図である。
図4A】比較例における光ファイバ固定構造を光ファイバの長手方向に垂直な断面で断面視した場合の断面図である。
図4B】実施例における光ファイバ固定構造を光ファイバの長手方向に垂直な断面で断面視した場合の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る光ファイバ固定構造、光ファイバ固定構造を用いたレーザ伝送ケーブル、及び、レーザ装置の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
(第1実施形態)
まず、本実施形態のレーザ装置の構成について説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るレーザ装置を示す概念図である。図1に示すように、本実施形態のレーザ装置1は、複数の光源10と、光コンバイナ20と、レーザ伝送ケーブル30とを主な構成として備える。
【0024】
それぞれの光源10は、所定の波長の信号光を出射するレーザ装置とされ、例えば、ファイバレーザ装置や固体レーザ装置とされる。光源10がファイバレーザ装置とされる場合、例えば共振器型のファイバレーザ装置や、MO-PA(Master Oscillator Power Amplifier)型のファイバレーザ装置が用いられる。それぞれの光源10から出射する信号光は、例えば、1070nmの波長の光とされる。なお、信号光とは、信号を含む光に限定されない。
【0025】
それぞれの光源10には、光源10から出射する信号光を伝搬する光ファイバ11が接続されている。光ファイバ11は、ベアファイバと、ベアファイバの外周に形成された被覆層と、を備える。ベアファイバは、例えば石英系ガラスなどにより形成され、光を伝達する。ベアファイバは、コアと、コアを覆うクラッドと、を有している。被覆層は、例えばUV硬化型樹脂により形成され、ベアファイバを覆っている。被覆層は、1層の樹脂層により形成されていてもよいし、プライマリ層およびセカンダリ層の2層を備えていてもよい。または、2層以上の樹脂層を備えていてもよい。
【0026】
それぞれの光ファイバ11は、例えば、コアの直径が20μm程度のフューモードファイバとされる。従って、それぞれの光源10から出射する信号光は、2から10程度のLP(Linearly Polarized)モードで、それぞれの光ファイバ11を伝搬する。
【0027】
光コンバイナ20は、複数の光ファイバ11のコアと光ファイバ21のコアとを光学的に接続する部材である。光コンバイナ20では、例えば、それぞれの光ファイバ11と、光ファイバ11よりも直径の大きい光ファイバ21とが端面接続されている。
【0028】
光ファイバ21は、ベアファイバと、ベアファイバの外周に形成された被覆層と、を備える。ベアファイバは、例えば石英系ガラスなどにより形成され、光を伝達する。ベアファイバは、コアと、コアを覆うクラッドと、を有している。光ファイバ21の被覆層は、光ファイバ11と同様な構成であってもよい。
光ファイバ21は、例えば、コアの直径が50μmから100μm程度、クラッドの外径が360μm程度のマルチモードファイバであることが好ましい。
【0029】
図2Aは、図1に示すレーザ伝送ケーブル30の一部を拡大して示す断面図である。図2Aに示すレーザ伝送ケーブル30は、光ファイバ21の被覆部23の一部、および素線露出部22、エンドキャップ32、筐体33、ファイバ収容部34、及び光ファイバ固定構造40を主な構成として備える。
(方向定義)
本実施形態のレーザ伝送ケーブル30では、光ファイバ21が延びる方向を長手方向という。また、長手方向に沿った断面で見ることを断面視という。
【0030】
レーザ伝送ケーブル30に含まれる光ファイバ21において、光ファイバ21の光源10側とは反対側である出射端側の端部では、被覆層が剥がされベアファイバが露出している。光ファイバ21の長手方向において出射端側から、被覆層が設けられていない素線露出部22と、被覆層が設けられている被覆部23と、がこの順で設けられている。また、光ファイバ21の出射端側の端面21fは、例えば酸水素バーナ等によってエンドキャップ32の一方の端面(入射面32b)の中央部に融着される。これにより、光ファイバ21は、エンドキャップ32に光学的に結合される。
【0031】
エンドキャップ32は、光ファイバ21を伝搬する信号光を透過する柱状体(光透過柱状部材)である。本実施形態のエンドキャップ32は、石英の柱状体である。エンドキャップ32は、例えば、直径8mm、長さ20mm程度の石英の円柱状体とされる。エンドキャップ32は、入射面32b及び出射面32aを有している。入射面32bは、上述のように光ファイバ21の端面21fと光学的に結合している。出射面32aでは、光ファイバ21から入射した光が出射する。エンドキャップ32の入射面32bは、光ファイバ21のコアの外径より大きい。
本実施形態のエンドキャップ32の入射面32bは、光ファイバ21の端面21fより大きい。
【0032】
筐体33は、エンドキャップ32の一部、および光ファイバ21の出射端側を収容する部材である。光ファイバ21の被覆層が除去された素線露出部22と、被覆層を備えた被覆部23の一部が、筐体33に収容されている。筐体33は長手方向に延びる筒状に形成されており、内径は、エンドキャップ32の外径よりも大きい。筐体33には、エンドキャップ32の一部及び光ファイバ21の一部が挿入される。筐体33内において、エンドキャップ32の外周面がシリコーン系樹脂等の接着剤によって筐体33の内周面に固定されることにより、エンドキャップ32の位置が固定される。
【0033】
筐体33は、例えば、熱伝導性に優れる銅等の金属によって構成されることが好ましい。また、筐体33の外周面は、レーザ装置1から出射される光のパワー等に応じて水冷されてもよく、空冷されてもよい。
【0034】
次に、光ファイバ固定構造40について説明する。図3は、光ファイバ固定構造40の斜視図である。本実施形態の光ファイバ固定構造40は、ファイバ収容部34及び固定樹脂42を有する。ファイバ収容部34には、光ファイバ21を収容するファイバ収容溝35が形成されている。ファイバ収容溝35には、例えば、素線露出部22の一部と、被覆部23の一部と、素線露出部22および被覆部23の境界部21aと、が収容されている。この例に限らず、少なくとも、素線露出部22の一部と、境界部21aと、がファイバ収容溝35に収容されていればよい。
【0035】
ファイバ収容溝35には、光ファイバ21を固定するための固定樹脂42が充填されている。
固定樹脂42は、例えば、熱硬化性接着剤、熱可塑性接着剤、2液型接着剤等である。液体の固定樹脂42が、ファイバ収容溝35の内周面と光ファイバ21の外周面との間の隙間を埋めるように充填され、その後硬化される。これにより、固定樹脂42によって光ファイバ21の出射端側がファイバ収容溝35内に固定される。
【0036】
図3に示す光ファイバ固定構造40では、長手方向において、固定樹脂42は、素線露出部22の一部と、被覆部23の一部と、境界部21aと、を含む領域を覆っている。固定樹脂42は、当該領域において光ファイバ21の外周の全周を覆っている。
この例に限らず、少なくとも、素線露出部22の一部と境界部21aとにおいて、当該領域の全周が固定樹脂42に覆われていればよい。
【0037】
図2Bは、図2AのII-II線に沿った位置における光ファイバ固定構造40の断面図である。II-II線はファイバ収容溝35内に収容された素線露出部22の長手方向に対して垂直な線である。
【0038】
図2Bに示すように、本実施形態における光ファイバ固定構造40においては、ファイバ収容部34に形成されたファイバ収容溝35の深さが光ファイバ21のベアファイバの直径よりも大きい。
図2Bに示すように、素線露出部22を収容したファイバ収容溝35の断面視において、素線露出部22の全体がファイバ収容溝35内に収容されており、かつ、固定樹脂42は素線露出部22の外周の全周を覆っている。
【0039】
なお、ファイバ収容溝35の底面の形状は半円に限られない。例えば角型であってもよい。
【0040】
断面視において、ファイバ収容溝35の内部は、固定樹脂42によって満たされていてもよい。また、固定樹脂42はファイバ収容溝35の外部に突出していてもよい。
また、図2Cに示すように、光ファイバ21はファイバ収容溝35の溝底に接触していない。このため、素線露出部22、境界部21a、および被覆部23の全周が固定樹脂42によって覆われている。
【0041】
<固定樹脂42による光ファイバ21の固定>
上述のように、光ファイバ21はファイバ収容溝35内に固定樹脂42によって固定されている。固定樹脂42は、液状の樹脂が、例えば、熱、湿気、紫外線等に反応し硬化する、硬化型の樹脂である。一般にこのような樹脂は、硬化反応によって体積が収縮する。このため、硬化後の樹脂内に応力が残留する場合がある。
本実施形態では、光ファイバ21とファイバ収容溝35の壁面との間にある固定樹脂42が硬化して収縮したときに、長手方向に垂直な方向における固定樹脂42の体積変化が起こり、残留応力が光ファイバ21の外周部に発生すると考えられる。
【0042】
すなわち、素線露出部22、境界部21a、および被覆部23は、図2Bおよび図2Cに示されている矢印の方向に向かってファイバ収容溝35の側壁や底壁に向かって引っ張られる力(引張力)を受ける。
この引張力は、長手方向における固定樹脂42の塗布される範囲が長いほど大きくなる。当該範囲が過度に長くなった場合には、光ファイバ21に曲がりが加わった状態で固定される可能性がある。
【0043】
ここで、図2Cに示すように、光ファイバ21において、素線露出部22の外径は被覆部23の外径よりも小さいため、素線露出部22とファイバ収容溝35との距離D1は、境界部21aおよび被覆部23とファイバ収容溝35との距離D2よりも大きくなる。
このため、素線露出部22の周囲の固定樹脂42の体積変化量は、境界部21aおよび被覆部23の周囲の固定樹脂42の体積変化量よりも大きくなる。すなわち、素線露出部22が受けるファイバ収容溝35の側壁や底壁に向かって引っ張られる引張力は、境界部21aおよび被覆部23が受ける引張力よりも大きい。
【0044】
長手方向において素線露出部22が受ける引張力の合計が、光ファイバ21のベアファイバの剛性よりも大きくなった場合には、境界部21aを起点として素線露出部22が曲がる可能性がある。
【0045】
本実施形態において、光ファイバ固定構造40は、光ファイバ21の被覆が除去されてベアファイバが露出した素線露出部22の少なくとも一部と、素線露出部22と光ファイバの被覆を備える被覆部23との境界部21aと、を内部に収容するファイバ収容溝35が形成されたファイバ収容部34と、ファイバ収容溝35内に充填され、素線露出部22の少なくとも一部と、境界部21aと、を固定する固定樹脂42と、を備え、断面視において、素線露出部22の全体および境界部21aの全体がファイバ収容溝35内に収容されており、かつ、固定樹脂42は素線露出部22の外周の全周および境界部21aの外周の全周を覆っている。
【0046】
このような構成により、素線露出部22および境界部21aとファイバ収容溝35の壁との間にある固定樹脂42が硬化収縮したときに発生する残留応力および引張力は、光ファイバ21の全周において均一に分布することになる。この結果、光ファイバ21がファイバ収容溝35内に固定されたときに光ファイバ21に曲がりや不均一な応力が加わることを抑制でき、ビーム品質の劣化を抑制できる。
【0047】
また、従来から光ファイバ21をファイバ収容部34に固定するための固定樹脂42には、想定される残留応力や引張力で剥がれずに耐えられるだけの接着力が求められていた。固定樹脂42の接着力を増加させるためには、光ファイバ21と固定樹脂42との接触面積、及びファイバ収容部34と固定樹脂42との接触面積を大きくすることが有効であることが知られていた。そこで、光ファイバの長手方向における固定樹脂42の塗布される領域の長さを長くすることが考えらえる。
【0048】
ここで、例えば、光ファイバ21の被覆部23の上に固定樹脂42を塗布した場合には、ビーム品質の劣化は回避できる。しかし、固定樹脂42と被覆部23との接触面積だけでは、接着力が不十分となる場合がある。また、固定樹脂42と各構成との接着が剥がれないように注意しながら使用することをエンドユーザに周知することで、固定樹脂42に残留した応力や引張力の他にさらなる外的な力を光ファイバ21の固定部にかけないように使用環境を限定することができる。しかし、結果的には、エンドユーザの作業性を下げてしまう可能性がある。
【0049】
これに対して、本実施形態では素線露出部22および境界部21aが固定樹脂42によってファイバ収容部34に固定される。このような構成により、光ファイバ21の被覆部23のみに固定樹脂42を塗布してファイバ収容部34に固定する場合と比べて、光ファイバ21と固定樹脂42との接触面積を広く確保することができる。このため、光ファイバ21をファイバ収容溝35に安定して固定できる。
【0050】
また、断面視において、素線露出部22、および境界部21aはファイバ収容溝35の底面及び側面とは離間していてもよい。
これにより、素線露出部22とファイバ収容溝35の壁との間にある固定樹脂42が硬化収縮したときに発生する残留応力および引張力をさらに均一に分布させることが可能になり、ビーム品質の劣化を抑制することができる。
【0051】
ファイバ収容溝35の内部は、断面視において、固定樹脂42によって満たされており、かつ、固定樹脂42はファイバ収容溝35の外部に突出していてもよい。
【0052】
これにより、断面視において、素線露出部22の外周に配置される固定樹脂42の厚さが過度に薄い箇所を無くすことができるので、光ファイバ21へ不均一な応力が加わることや曲がりをより抑制できる。
【0053】
ファイバ収容溝35は、光ファイバ21の被覆部23の一部を内部に収容し、固定樹脂42は、断面視において、ファイバ収容溝35内に収容された被覆部23の外周の全部を覆っていてもよい。
これにより、光ファイバ21と固定樹脂42との接触面積をより広く確保することができるため、光ファイバ21を安定して固定できる。
【0054】
本態様に係るレーザ伝送ケーブル30は、上記の光ファイバ固定構造40と、ベアファイバの端部に接続され、ベアファイバの断面積よりも大きい断面積を有するエンドキャップ32とを備える。
本態様によれば、上記の光ファイバ固定構造40によって、光ファイバ21を伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制することが可能になる。
【0055】
本態様に係るレーザ装置1は、上記のレーザ伝送ケーブル30と、レーザ伝送ケーブル30を伝搬する光を出射する少なくとも一つの光源10とを備える。
【0056】
本態様によれば、上記の光ファイバ固定構造40によって、光ファイバ21を伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制することができる。
【0057】
(実施例)
本実施形態の有効性を確認するため以下のような実験を行った。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
出力される光のBPP(Beam Parameter Products)が予め測定された光源を用意し、図4Bに示す光ファイバ固定構造40の光ファイバに当該光源からの光を入射させ、当該光ファイバ固定構造40から出力された光のBPPを測定した。図4Bに示す光ファイバ固定構造40では、ファイバ収容溝35内は固定樹脂42で満たされているが、固定樹脂42はファイバ収容溝35の外部へ突出していない。
【0058】
光ファイバ固定構造40から出力された光のBPPと光源から出力された光のBPPとの差分、すなわち光ファイバ固定構造40におけるビーム品質の劣化量としてΔBPPを算出した。実験サンプルは全部で5個作成した。実験サンプルに使用した光ファイバは、被覆径φ500μm、クラッド径φ200μm、コア径φ100μmであり、ファイバ収容溝35の深さは1.0mm、光ファイバにおける長手方向の固定樹脂42の塗布長は4mmである。実験結果を以下の表1に示す。
【0059】
(比較例)
また、比較例として、図4Aに示すような光ファイバ固定構造50についても同様の実験を行った。すなわち、上記光源からの光を入射させ、比較例の光ファイバ固定構造50から出力された光のBPPを測定した。比較例の光ファイバ固定構造50から出力された光のBPPと光源から出力された光のBPPとの差分、すなわち光ファイバ固定構造50におけるビーム品質の劣化量としてΔBPPを算出した。実験サンプルは全部で5個作成した。実験サンプルに使用した光ファイバは、被覆径φ500μm、クラッド径φ200μm、コア径φ100μmであり、ファイバ収容溝55の深さは0.3mm、光ファイバにおける長手方向の固定樹脂42の塗布長は4mmである。実験結果を以下の表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果から、実施例のΔBPPは小さく、実施例の光ファイバ固定構造40を伝搬したレーザ光のBPPは殆ど劣化していないことがわかった。実施例の光ファイバ固定構造は、ファイバ収容溝内に配置された光ファイバの全長が固定樹脂42によってファイバ収容溝35内で固定されており、素線露出部22とファイバ収容溝35の壁との間にある固定樹脂42が硬化収縮したときに発生する長手方向に交差する方向の引張力を均一に分布させることができる。
このため、接着固定されたときのファイバの曲がりを抑制でき、光ファイバ21を伝搬するレーザ光のビーム品質の劣化を抑制することができたと考えられる。
【0062】
一方で、比較例のΔBPPは大きく、比較例の光ファイバ固定構造50における光ファイバ21を伝搬したレーザ光のBPPが大きく劣化していることがわかった。比較例の光ファイバ固定構造50は、断面視においてファイバ収容溝55から光ファイバ21が突出した状態で固定樹脂42によってファイバ収容溝55内で固定されており、光ファイバ21の周方向において、ファイバ収容溝35に隣接する下側で大きな引張力を受ける。このため、固定樹脂42の硬化収縮による光ファイバ21への引張力が不均一に加わり、レーザ光のBPPが大きく劣化したと考えられる。
【0063】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態または実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0064】
例えば、長手方向において、ファイバ収容溝35の全長にわたって固定樹脂42が充填されていなくてもよい。少なくとも素線露出部22の一部、および境界部21aにおいて、それらの全周が固定樹脂42に覆われていればよい。
【0065】
このように、本発明の光ファイバ固定構造は比較例の光ファイバ固定構造に比べて光ファイバを伝搬するビーム品質の劣化を抑制できることが確認された。
【0066】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1・・・レーザ装置
10・・・光源
20・・・光コンバイナ
30・・・レーザ伝送ケーブル
21・・・光ファイバ
21a・・・境界部
22・・・素線露出部
23・・・被覆部
32・・・エンドキャップ(光透過柱状部材)
33・・・筐体
34・・・ファイバ収容部
35・・・ファイバ収容溝
40・・・光ファイバ固定構造
42・・・固定樹脂
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B