(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】幹細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/074 20100101AFI20240718BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20240718BHJP
【FI】
C12N5/074
C12N5/0775
(21)【出願番号】P 2023501408
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 CN2021106399
(87)【国際公開番号】W WO2022012608
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】202010691416.8
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522342064
【氏名又は名称】上海我武幹細胞科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI WOLWO STEM CELL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 401, 4th Floor, Building 51, No.1089 North Qinzhou Road, Xuhui District Shanghai 200233 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】胡 ▲ゲン▼熙
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-521793(JP,A)
【文献】J. Biomech Eng.,2007年02月,Vol.129, No.1,pp.110-116,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1995430/のPDFファイルを参照
【文献】Journal of Clinical Rehabilitative Tissue Engineering Research,2009年,Issue 19,pp.3628-3632,https://caod.oriprobe.com/articles/15450653/sEffects_of_cyclical_air_pressure_culture_on_proli.htmの要約を参照,引用例2は、上記文献全体ではなく要約のみを引用している。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-28
C12M 3/00-10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1大気圧に加え、さらに追加圧力がかけられたガス環境で、幹細胞を培養する工程を含み、
前記ガス環境における酸素濃度は、2%~8%であり、
前記幹細胞はヒト間葉系幹細胞であり、
前記追加圧力は60~140mmHgの範囲で周期的に変動し、前記変動は正弦波状または擬似正弦波状に変化する周期的な変動であり、または、
前記追加圧力は定常的なものであり、前記定常的な追加圧力は60~130mmHgの範囲内にあることを特徴とする、幹細胞の培養方法。
【請求項2】
前記周期的な変動の頻度は、12~100回/
分、13~18回/分、40~80回/分、13~15回/分または50~70回/分であることを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガス環境における酸素濃度
は、3%~7%、4%~7%、
または5%~7%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記
ヒト間葉系幹細胞は、初
代及び/又は継代された
ヒト間葉系幹細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記
ヒト間葉系幹細胞
はヒト脂肪間葉系幹細胞、ヒト子宮膜間葉系幹細胞、ヒト毛包間葉系幹細胞、
およびヒト臍帯間葉系幹細胞
から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記培養の温度は36.5~37.5
℃であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記培養の温度は37℃であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記追加圧力は70~120mmHgまたは75~115mmHgの範囲で周期的に変動することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記定常的な追加圧力は70~120mmHg、75~115mmHg、80~110mmHg、85~100mmHg、または90~95mmHgの範囲内にある、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は幹細胞の分野に関し、具体的には、幹細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、自己複製能力を持つ多能性細胞であり、所定の条件下で様々な機能性細胞に分化することができる。胚性幹細胞は最も分化能の高い万能幹細胞であるが、その自身の腫瘍原性や倫理的問題などの様々な要因により、その臨床応用の見込みは今でも不明である。間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells、MSC)は幹細胞家族の一員であり、様々な組織(骨髄、臍帯血・臍帯組織、胎盤組織、脂肪組織など)に存在し、多方向分化能を備える。これらの幹細胞は、様々な間葉系細胞(例えば骨形成細胞、軟骨形成細胞、脂肪形成細胞など)や非間葉系細胞への分化能を備え、且つユニークなサイトカイン分泌機能および免疫調節・抗炎症機能を持ち、全身性エリテマトーデス、クローン病、移植片対宿主病などの免疫関連疾患の治療に適用できることは報告されている;それに、間葉系幹細胞が動脈粥状硬化を軽減できることを証明した基礎研究や臨床試験もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
幹細胞の効率的な培養は、常に本分野で解決しようとする課題である。この分野では、培地選択の観点から幹細胞培養の高効率化を図ることが多かったが、酸素濃度や圧力などの要素の観点から幹細胞培養の効率や活性について調査することはほとんどなかった。文献の報告によると、正常ヒト骨髄中の酸素張力は3.591~6.517kPaであり、4~7%の酸素体積分率に相当し、即ち、通常の条件では、間葉系幹細胞が低酸素環境で生存している。また、さらに圧力をかけて培養された間葉系幹細胞の方は良い結果が得られたという報告もある。しかし、幹細胞培養条件における酸素濃度や圧力パラメーターなどのガス条件パラメーターの選択や最適化については、これまで報告されていない。それと共に、幹細胞の研究・生産分野において、より最適な培養プロトコルが求められ続けている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、培養条件におけるガス環境の研究・最適化によって、最適化された新規な幹細胞培養プロトコルを提案した。本発明の方法により培養された幹細胞は、増殖能、独立生存能、分化能、幹細胞性維持能、抗老化性などのより優れた生物活性を示す。
【0005】
本文の内容の一つは、1つの大気圧に加え、さらに追加圧力がかけられたガス環境で、幹細胞を培養する工程を含み、前記追加圧力が60~140mmHgであることを特徴とする、幹細胞培養方法である。前記追加圧力は、静的なものであっても、周期的に変動するような動的なものであってもよい。
【0006】
一つの実施形態において、前記ガス環境は、2%~20%の酸素濃度を有し、好ましくは低酸素環境で、例えば2%~7%の低酸素濃度を有する。
【0007】
本文では、本発明の方法によって培養して得られた幹細胞も提供される。
【0008】
本文において、「幹細胞」という用語は、受精後14日以上経過した、あるいは生体内発育を経過したヒト胚から分離・取得された細胞を含まない。前記幹細胞としては、間葉系幹細胞が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、異なる条件で培養した毛包間葉系幹細胞の増幅倍数を示す図である。
【
図2】
図2は、異なる培養条件下での毛包間葉系幹細胞の継代数と増幅倍数とを示し、継代数はPnで表され、nは自然数である。
【
図3】
図3は、異なる条件下で培養した臍帯および脂肪間葉系幹細胞のCFU率を示す。
【
図4】
図4は、異なる条件で培養した毛包間葉系幹細胞の骨形成率(
図4A)および脂肪形成率(
図4B)を示す。
【
図5】
図5は、1つの実施形態において、1つの大気圧に加え、さらにかけられた追加圧力が75~115mmHgの範囲で正弦波状または擬似正弦波状に変動することを示す。
図1~
図5において、「異なる(培養)条件」の間の相違点は、図中で下記のように表されるガス環境の特徴の違いにある:「20%」は、酸素濃度が20%で、追加圧力がかけられないことを表す;「5%」は、酸素濃度が5%で、追加圧力がかけられないことを表す;「5%+静」は、酸素濃度が5%で、1つの大気圧に加え、95mmHgの追加圧力が定常的にかけられることを表す;「5%+動」は、酸素濃度が5%で、1つの大気圧に加え、75~115mmHgの範囲で正弦波状または擬似正弦波状に14回/分の頻度で周期的に変動する追加圧力がかけられることを表す。
【
図6】
図6は、実施例における低酸素静圧(5%+静)装置の模式図であり、酸素濃度が5%で、1つの大気圧に加えて追加圧力がかけられ、かけられた追加圧力が95mmHgに維持される加圧タンク内での細胞培養を示す。
【
図7】
図7は、実施例における低酸素動圧(5%+動)装置の模式図であり、酸素濃度が5%で、1つの大気圧に加えて追加圧力がかけられ、かけられた追加圧力が75~115mmHgの範囲で正弦波状または擬似正弦波状に周期的に変動する加圧タンク内での細胞培養を示す。図中、矢印で示す制御モジュールから圧力タンクまでのラインは増圧ガスラインを、矢印で示す圧力タンクから制御モジュールまでのラインは減圧ガスラインを示す;「制御モジュール」は、ソフトウェア制御と、ガスラインにおける増圧ガスポンプ、減圧ガスポンプ、減圧弁、増圧弁とを含む。
【
図8】
図8は、実施例5において異なる条件で培養した毛包間葉系幹細胞の倍加時間を示す。
【
図9】
図9は、実施例5において異なる条件で培養した毛包間葉系幹細胞の増幅倍数を示す。
図8と
図9において、「異なる条件」の間の相違点は、図中で下記のように表されるガス環境の特徴の違いのみにある:「常酸素常圧」は、酸素濃度が20%で、追加圧力がかけられないことを表す;「低酸素常圧」は、酸素濃度が3%で、追加圧力がかけられないことを表す;「低酸素静圧」は、酸素濃度が3%で、1つの大気圧に加え、60mmHgの追加圧力が定常的にかけられることを表す。
【
図10】
図10は、実施例6において異なる条件で培養した毛包間葉系幹細胞の軟骨形成分化の比較を示す。ただし、「異なる条件」の間の相違点は、図中で下記のように表されるガス環境の特徴の違いのみにある:「常酸素常圧」は、酸素濃度が20%で、追加圧力がかけられないことを表す;「低酸素動圧」は、酸素濃度が3%で、1つの大気圧に加え、60~135mmHgの範囲で正弦波状または擬似正弦波状に60回/分の頻度で周期的に変動する追加圧力がかけられることを表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本文において、特に断らない限り、名称、量詞または単位の前に付けられる「一つ」または「1つ」は、存在すること、即ち数として少なくとも1つであることを示すため、複数の意味をカバーする。
【0011】
本文において、特に断らない限り、本文で説明される成分、含有量、工程、条件パラメーター、パラメーター値、部品、接続関係、動作関係などの様々な技術的特徴は、それらの組み合わせが、本文に具体的に記載した個々の実施形態や実施例に限定されるものではなく、そのほかの任意の組み合わせも同様に本発明の範囲に含まれるものである。
【0012】
本文において、特に断らない限り、2つの端値で表される数値範囲は、具体的に、2つの端値の間の全ての実数およびその中のいずれか2つの組み合わせからなる数値範囲の開示と同様視される。また、特に断らない限り、同じパラメーターについて任意的に選択される複数の数値範囲や数値が具体的に記載されている場合、これらの端値や数値は任意的に組み合わせることができ、これで得られる範囲は、具体的に記載された最大連続範囲に含まれる限り、本発明の範囲に含まれるものである。例えば、一つの実施形態において、前記周期的な変動の頻度は、12~100回/分、例えば13~18回/分、40~80回/分、13~15回/分または50~70回/分である。これは、12~100回/分という周期的な変動の頻度の範囲には、上に挙げられた変動の頻度の範囲の他に、例えば13~80回/分、15~70回/分、18~50回/分等の頻度も含まれると理解できる。
【0013】
本文において、特に断らない限り、前記数値は「約」という接頭語が付いても付かなくても、当該数値の±10%の範囲をカバーするが、±5%、±3%、±2%、±1%、±0.5%の範囲をカバーしてもよい。
【0014】
本文において、特に断らない限り、全ての科学・技術用語は、本分野で、特に幹細胞、間葉系幹細胞の分野で周知または既知の意味、例えば教科書、実験マニュアルや先行技術文献に記載の意味を持つ。
【0015】
本文は、1つの大気圧に加え、さらに追加圧力がかけられたガス環境で、幹細胞を培養する工程を含み、前記追加圧力が約60~140mmHgである幹細胞培養方法を提供する。
【0016】
本文において、「ガス環境」とは、細胞培養物がさらされる環境におけるガス条件、例えばインキュベーター内のガス環境を指し、主にガスの組成および気圧によって特徴付けられる。通常、幹細胞を含む細胞培養ガス環境は、1つの大気圧、約5%のCO2、および約95%の相対湿度である。
【0017】
本発明の方法では、1つの大気圧に加え、約60~140mmHgの追加圧力がかけられる。健常人の拡張期血圧は60~90mmHgで、収縮期血圧は140~90mmHgであることが周知されている。このように、本発明では、追加圧力をかけることで、幹細胞が人体内でさらされる圧力環境を旨くシミュレートしている。ある実施形態において、追加圧力は約60~130mmHg、約70~120mmHg、約75~115mmHg、約80~110mmHg、約85~100mmHgまたは約90~95mmHgである。例えば、インキュベーターのガス供給システムと気圧感知装置を利用して、上記の加圧と調節を実現できる。
【0018】
ある実施形態において、「1つの大気圧」とは、追加的に加圧されない環境大気圧、即ち常圧を指す。好ましくは、「1つの大気圧」は1気圧、即ち760mmHgである。
【0019】
本発明において、前記追加圧力は、静的なもの(即ち定常的なもの)であっても、動的なものであってもよい。ある実施形態において、追加圧力は静的なもの、即ち定常的なものであり、例えば定常的に約60~130mmHg、70~120mmHg、75~115mmHg、80~110mmHg、85~100mmHg、90~95mmHgの範囲内のいずれか一つの数値であり、例えば95mmHgである。本文において、圧力が「定常的」であるとは、圧力が実質的に定常的である場合、つまり、公称圧力値に対する変動の幅は10%を超えず、好ましくは5%、3%、2%、1%または0.5%を超えず、好ましくは無限に0%に近く、且つゼロ変動の場合を含む。気圧を定常的に維持する手段などの、細胞培養のガス環境を安定に維持する手段は、当業者によく知られており、例えば、汎用のインキュベーターやそのガス供給システムとモニタリングシステムなどが挙げられる。例えば、一つの実施形態において、インキュベーター内に加圧タンクを設置し、当該加圧タンク内で細胞培養を行い、タンクにガスポンプでガスを補充して加圧し、圧力が所定の値に達すると、ガス補充と加圧を止めないという前提で、リリーフ弁をゆっくりと開き、給気と排気を動的平衡にすることで、タンク内のガスを設定値に維持する。
【0020】
ある実施形態において、追加圧力は動的なものであり、以下で「動圧」とも言われる。ある実施形態において、前記追加圧力は60~140mmHgの範囲で周期的に変動する。前記周期的な変動は、固定周波数でも可変周波数でもよく、各周期の振幅は同じでも異なっていてもよい。従って、60~140mmHgの範囲を例にとると、前記範囲の端値はそれぞれ、最も低い谷の圧力値と最も高いピークの圧力値を示す。好ましくは、追加圧力の変動範囲、即ち振幅は、約70~120mmHg、より好ましくは約75~115mmHgである。ただし、75mmHgは健常人の拡張期血圧(60~90mmHg)の中央値であり、115mmHgは収縮期血圧(140~90mmHg)の中央値である。従って、本発明で追加的にかけられる動圧は、振幅の点で幹細胞が生体内でさらされる周期的に変化する圧力環境を旨くシミュレートしている。好ましくは、前記変動は、例えば
図5に示すような、正弦波状または擬似正弦波状に変化する周期的な変動である。
【0021】
例を挙げると、動圧をかける手段としては、下記の方法を採用することができる:培養物のあるチャンバーを、変圧装置と通気するように連結し、変圧装置によって前記チャンバーに気圧をかける。一つの実施形態において、前記変圧装置は、増圧ガスラインおよび減圧ガスラインを含み、培養物のあるチャンバーは増圧ガスラインおよび減圧ガスラインと接続し、増圧ガスラインはガス源と接続する。前記チャンバーは、例えばインキュベーター、加圧タンクや加圧キャビン、培養タンクなどの培養装置の、培養物のある内部チャンバーであってもよい。前記ガス源は、例えばガス貯蔵タンクであってもよいが、培養チャンバーがさらされる環境ガスであってもよい。前記ガス源から供給されるガスは、本発明が要求するガス組成に合致する。前記増圧ガスラインは、増圧ガスポンプ、および増圧弁のような任意的に選択される弁を含む。前記減圧ガスラインは、減圧弁のような弁および任意的に選択される減圧ガスポンプを含む。一つの実施形態において、ソフトウェアの制御により、増圧ガスポンプがガス源からのガスを増圧ガスラインを介して培養物のあるチャンバーに送り込み、気圧が設定された上限に達したことを検知すると、増圧ガスラインを閉じると同時に減圧弁を開き、減圧ガスラインを介して培養物のあるチャンバーの気圧を低下させ、気圧が設定された下限まで低下すると、減圧を止めて減圧ガスラインを閉じ、再び増圧ガスラインを開き、このように繰り返して気圧変動を形成する。前記ガスポンプおよび弁は、ソフトウェア制御に接続することができ、このソフトウェア制御では、圧力タンク内の圧力が例えば正弦波状または擬似正弦波状に時間の経過に伴って周期的に変動するように、圧力を上昇・低下させる動作はプログラムによって制御される。一つの実施形態において、減圧ガスラインは減圧ガスポンプを含み、減圧ガスポンプによって培養物のあるチャンバーからガスを吸引して圧力を低下させる。もう一つの実施形態において、減圧ガスラインでは、培養チャンバーからガスを吸引する減圧ガスポンプを省略し、チャンバー内外の圧力差を利用した減圧弁によってチャンバー内の圧力をリリーフすることで減圧を行ってもよい。
【0022】
もう一つの実施形態において、前記変圧装置は、シリンダー、ピストンおよびピストンブロックを含む。培養物のあるチャンバーはピストンブロックに接続され、シリンダーによってピストンブロック内のピストンの動きを駆動して前記チャンバー内の気圧を変動させ、ピストンブロック内のピストンの往復運動によってチャンバー内のガス体積が周期的に変化し、気圧もそれに従って周期的に脈動するが、当該圧力変化は、例えば正弦波状または擬似正弦波状に変化させるように、必要に応じて設定・制御することもできる。
【0023】
ある実施形態において、追加される動圧が周期的に変動する頻度は、約12~100回/分、好ましくは約13~18回/分、約40~80回/分、約13~15回/分または約50~70回/分、例えば約12、13、14、15、16または60回/分である。一つの実施形態において、追加される動圧が周期的に変動する頻度は、定常的なものである。健常人の呼吸数は12~20回/分で、健常成年人の心拍数は60~100回/分であることが知られている。従って、本発明で追加的にかけられる動圧は、頻度の点で幹細胞が生体内でさらされる周期的に変化する圧力環境を旨くシミュレートしている。
【0024】
本発明において、ガス環境におけるガス組成は、酸素濃度以外の他のパラメーターは全て、幹細胞の細胞培養の通常の設定、例えば約5%のCO2濃度や、約95%の相対湿度などを参考に、あるいはそれらに準じて設定することができる。ある実施形態において、ガス環境は約2%~20%の酸素を含み、酸素以外の他のガスは、空気における酸素以外の他のいずれかの成分、幹細胞に有害でない他のガス、或いはそれらの組み合わせ、例えば窒素(N2)、二酸化炭素(CO2)またはそれらの組み合わせから選択される。ある実施形態において、ガス環境における酸素濃度は、約2%~8%、約2%~7%、約2%~5%、約3%~7%、約4%~7%、約5%~7%、例えば約3%、約5%である。ガス組成を安定に維持する手段などの、細胞培養のガス環境を安定に維持する手段は、当業者によく知られており、例えば、汎用のインキュベーターやその二酸化炭素ガス制御システムと湿度制御システムなどが挙げられる。例を挙げると、3ガスインキュベーターで低酸素濃度を作り出すことができる。
【0025】
本発明にかかる方法は、胚性幹細胞、成体幹細胞、人工多能性幹細胞などを含む様々な幹細胞の培養に適用することができる。ただし、成体幹細胞は、例えば脂肪幹細胞、子宮膜幹細胞、毛包幹細胞または臍帯幹細胞であってもよい。ヒト幹細胞が好ましい。本発明において、「幹細胞」という用語は、受精後14日以上経過した、あるいは生体内発育を経過したヒト胚から分離、取得された細胞を含まないことは、説明すべきである。ある実施形態において、本発明にかかる方法は、間葉系幹細胞、例えば(ヒト)脂肪間葉系幹細胞、子宮膜間葉系幹細胞、毛包間葉系幹細胞または臍帯間葉系幹細胞の培養に適用される。
【0026】
ある実施形態において、追加加圧環境で幹細胞を培養する工程は、初代細胞の増幅、維持及び/又は継代であるか、それらを含む。ある実施形態において、追加加圧環境で幹細胞を培養する工程は、継代細胞の増幅、維持及び/又は継代であるか、それらを含む。ある実施形態において、初代細胞から追加加圧環境で培養し、増幅、維持、継代させる。
【0027】
本発明において、ガス環境以外の他の培養条件、例えば培地や温度は全て、幹細胞の細胞培養の通常の設定を参考に、あるいはそれらに準じて設定される。例えば、本発明にかかる方法は、間葉系幹細胞のような幹細胞の培養に用いられる任意の培地を採用することができる。例えば、本発明にかかる方法は、間葉系幹細胞などのいかなる幹細胞の適切な培養温度、一般的には36.5~37.5℃、好ましくは37℃の温度を採用することができる。
【0028】
本文では、本発明の方法によって培養して得られた幹細胞も提供される。本発明の方法により培養された幹細胞は、増殖能、独立生存能、分化能、幹細胞性維持能、抗老化性などのより優れた生物活性を示す。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に説明するためのものだけであり、本発明の範囲を限定するためのものではないことが理解されるべきである。
【0030】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4において、「異なる条件」または「異なる培養条件」とは、比較されている細胞培養条件の間の相違点が下記のように表されるユニークなガス環境の特徴のみにあることを示し、このように比較されている異なる培養条件のセットは「4種類の条件」と略称され、ただし、圧力値はいずれもゲージ圧、即ち1つの大気圧に加えて追加的にかけられる圧力である:
【0031】
常酸素(20%):酸素濃度が20%で、追加圧力がかけられない;
【0032】
低酸素(5%):酸素濃度が5%で、追加圧力がかけられない;
【0033】
低酸素静圧(5%+静):詳細は
図6に示すように、酸素濃度が5%で、1つの大気圧に加え、95mmHgの追加圧力が定常的にかけられており、低酸素インキュベーター(ESCO社)内に加圧タンクを設置し、当該加圧タンク内で細胞培養を行い、タンクにガスポンプでガスを補充して加圧し、圧力が95mmHgに達すると、ガス補充と加圧を止めないという前提で、リリーフ弁をゆっくりと開き、給気と排気を動的平衡にすることで、タンク内のガスを95mmHgに維持する;
【0034】
低酸素動圧(5%+動):
図5に示すように、酸素濃度が5%で、1つの大気圧に加え、75~115mmHgの範囲で正弦波状または擬似正弦波状に14回/分の頻度で周期的に変動する追加圧力がかけられる。
図7に示すように、低酸素インキュベーター(ESCO社)内に加圧タンクを設置し、当該加圧タンク内で細胞培養を行う。加圧タンクには、増圧ガスラインおよび減圧ガスラインが接続される。図中、矢印で示す制御モジュールから圧力タンクまでのラインは増圧ガスラインを、矢印で示す圧力タンクから制御モジュールまでのラインは減圧ガスラインを示す;「制御モジュール」は、ソフトウェア制御と、ガスラインにおける増圧ガスポンプ、減圧ガスポンプ、増圧弁、減圧弁とを含む。ソフトウェアの制御により、増圧ガスラインの増圧弁を開き、増圧ガスポンプをオンにし、増圧ガスポンプによってインキュベーター内のガスを吸引して加圧タンクにガスを補充して加圧し、圧力が115mmHgに達したことを検知すると、増圧ガスラインの増圧ガスポンプをオフにし、増圧弁を閉じ、加圧を止めると同時に、減圧ガスラインの減圧弁を開き、減圧ガスポンプをオンにし、減圧ガスポンプによってタンク内のガスを吸引して圧力を低下させ、圧力が75mmHgまで低下すると、減圧ガスラインの減圧弁を閉じ、減圧ガスポンプをオフにし、減圧を止めて再び増圧ガスラインを開き、即ち増圧弁を開いて増圧ガスポンプをオンにし、このように繰り返し、プログラムソフトウェアにより交互周波数を14回/分に制御した。
【0035】
実施例5において、「異なる条件」とは、比較されている細胞培養条件の間の相違点が下記のように表されるユニークなガス環境の特徴のみにあることを示し、このように比較されている異なる培養条件のセットは「3種類の条件」と略称され、ただし、圧力値はいずれもゲージ圧、即ち1つの大気圧に加えて追加的にかけられる圧力である:
【0036】
常酸素(20%)常圧:酸素濃度が20%で、追加圧力がかけられない;
【0037】
低酸素(3%)常圧:酸素濃度が3%で、追加圧力がかけられない;
【0038】
低酸素静圧(3%+静):酸素濃度が3%で、1つの大気圧に加え、60mmHgの追加圧力が定常的にかけられており、低酸素インキュベーター(ESCO社)内に加圧タンクを設置し、当該加圧タンク内で細胞培養を行い、タンクにガスポンプでガスを補充して加圧し、圧力が60mmHgに達すると、ガス補充と加圧を止めないという前提で、リリーフ弁をゆっくりと開き、給気と排気を動的平衡にすることで、タンク内のガスを60mmHgに維持する。
【0039】
実施例6において、「異なる条件」とは、比較されている細胞培養条件の間の相違点が下記のように表されるユニークなガス環境の特徴のみにあることを示し、ただし、圧力値はいずれもゲージ圧、即ち1つの大気圧に加えて追加的にかけられる圧力である:
【0040】
常酸素(20%)常圧:酸素濃度が20%で、追加圧力がかけられない;
【0041】
低酸素動圧(3%+動):酸素濃度が3%で、1つの大気圧に加え、60~135mmHgの範囲で正弦波状または擬似正弦波状に60回/分の頻度で周期的に変動する追加圧力がかけられる。以上で実施例1~4における低酸素動圧について説明されたように、
図7に示す装置を用いて、ソフトウェアの制御により、設定された圧力範囲と設定された交互周波数に従って動圧をかけた。
【0042】
実施例1:異なる条件で培養した毛包間葉系幹細胞の増幅倍数の比較
【0043】
1)完全なヒト毛包組織を獲得し、マイクロピンセットを使って慎重に毛包組織を1.5mL EPチューブの底に置いた。毛包あたりに5μLの量で酵素分解液TrypLE(Gibco-12604021)を添加し、37℃、5%CO2インキュベーター内で3時間静置し、1時間おきにチューブの底を慎重に軽くフリックし、軽くて均一に混合した。
【0044】
2)3時間の酵素分解後、顕微鏡で観察すると、毛包の外毛根鞘層は完全に酵素分解されたが、毛幹部分は完全に酵素分解されなかったことが見られた。酵素分解されなかった部分を取り出さずに、100~1000μLピペットで10回軽くフリックし、酵素分解液を完全に混合した。酵素分解されなかった毛幹がEPチューブの底に沈むまで1分間静置し、上層の酵素分解懸濁液を吸い取り、初代間葉系幹細胞とした。
6ウェルプレートの1つのウェルに、5つの毛包を合わせて酵素分解して得られた初代間葉系幹細胞懸濁液を25μL添加し、さらに羊水培地(広州白雲山拜迪生物医薬有限会社から購入)2mLで再懸濁させた。6ウェルプレートをそれぞれ、正常酸素(20%)、低酸素(5%)、低酸素静圧(5%+静圧)、低酸素動圧(5%+動圧)の4種類の条件で、3日おきに液交換をしながら37℃で培養した。
【0045】
3)10~12日間培養し、6ウェルプレート内の細胞密度が80%以上に達した時点で培地を捨て、6ウェルプレートの底に0.5mLのTrypLE消化液を添加してから、37℃のインキュベーターに3分間置いて消化した後、6ウェルプレートに羊水培地を1mL添加して消化を終了させ、上澄みを取り出して15mL遠心チューブに入れ、羊水培地1mLでウェルプレートを1回洗浄し、洗浄液を当該遠心チューブに入れた。遠心機で1500r.p.m.で5分間遠心し、上澄みを捨て、羊水培地を1mL添加して再懸濁させ、カウントしてT25培養フラスコに接種し、培養してP1世代毛包間葉系幹細胞を得た。
【0046】
4)細胞をP12世代まで連続継代培養し、4つの条件での細胞は常にそれぞれの培養条件を維持した。増幅倍数=毎回の継代で収穫した細胞数/接種した細胞数。本実施例では、5000細胞/cm2の密度で厳密に継代を行い、T25培養フラスコの面積を25cm2とし、つまり毎回でT25培養フラスコに接種した細胞を1.25×105個とすると、増幅倍数の計算式は「増幅倍数=毎回で収穫した細胞数/(1.25×105)」になる。
【0047】
結果は
図1、
図2に示す。結果から分かるように、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞の増幅倍数は常酸素条件よりも高く、加圧すると増幅倍数がさらに高くなり、低酸素動圧条件での間葉系幹細胞の増幅倍数は最も高かった。
【0048】
実施例2:異なる条件で培養した間葉系幹細胞のクローン形成能の比較
【0049】
クローン形成は、細胞の増殖能力を測定する有効な方法の一つである。単一の細胞をインビトロで培養すると、その子孫からなる細胞集団はクローンと呼ばれる。この場合、1つのクローンは50個以上の細胞を含み、0.3~1.0mmのサイズを有し、クローン形成率をカウントすることにより、細胞の増殖ポテンシャルを定量的に解析し、細胞の増殖能および独立生存能を把握することができる。
【0050】
ヒト臍帯間葉系幹細胞アッセイ:
【0051】
1)完全なヒト臍帯組織を入手し、大型外科用ハサミで臍帯の両端から1cmずつ切り離し、数回リンスして血液を除去し、小型ハサミと組織鉗子で臍静脈の近くに沿って羊膜層を完全に引き裂いて平らに広げ、組織鉗子で組織から2本の臍動脈と1本の臍静脈を取り除いた。
【0052】
2)血管が取り除かれた組織を、TrypLE(Gibco-12604021)消化酵素液を10mL入れた50mL遠心チューブに移し、大型外科用ハサミで組織を1mm3程度の塊に切断し、シールフィルムで密封してから、37℃の振とうシェーカーに移し、回転数60~80回/分で3時間振とうして消化した。
【0053】
3)消化完了後、Hank平衡塩溶液を30ml添加して希釈・混合し、均一に混合した後、チューブ内の液体は層状にならず、薄い淡黄色を呈し、液体はゼラチン状になり、100μmの細胞ストレーナーを用いてゆっくりと濾過を行った。
【0054】
4)濾液を13本の15ml遠心チューブに分注し、400gで常温で6分間遠心し、遠心完了後、上澄みをゆっくりと取り除き、それぞれにDMEM/F12(Gibco社から購入)を1mL添加して沈殿した細胞を再懸濁させ、1本のチューブに合わせて混合してから、400gで常温で6分遠心分離し、上澄みを捨て、1mLのDMEM/F12で再懸濁させ、初代間葉系幹細胞を得た。カウントし、Edexcel培地(上海Edexcel生物科技有限会社から購入)を用いて細胞をT25培養フラスコに接種した。
【0055】
5)3日おきに液交換をし、9日間培養し、T25フラスコ内の細胞密度が80%以上に達した時点で培地を捨て、培養フラスコの底に1mLのTrypLE消化液を添加してから、37℃のインキュベーターに3分間置いて消化した後、培養フラスコに10mLピペットでEdexcel培地を3mL添加して消化を終了させ、上澄みを取り出して15mL遠心チューブに入れ、さらにEdexcel培地1mLでフラスコの底を1回洗浄し、洗浄液を当該遠心チューブに入れた。遠心機で1500r.p.m.で5分間遠心し、上澄みを捨て、Edexcel培地を1mL添加して再懸濁させ、カウントしてT25培養フラスコに接種し、P1世代臍帯間葉系幹細胞として継代した。
【0056】
6)細胞連続継代培養:P6世代細胞を4本のT25培養フラスコに5000細胞/cm2の密度で接種し、それぞれ37℃で上記4つの条件で培養した。4日後、Edexcel培地で細胞を回収し、再懸濁させて細胞懸濁液とし、カウントした。
【0057】
7)コロニー形成単位(CFU)の算出:
異なる条件で培養した細胞をそれぞれ、10cm2の培養ディッシュに2200細胞/ディッシュで接種した。プレートを広げた後、均一に振とうしてから、別々にインキュベーターに置き、それぞれ工程6)と同じ培養条件で培養した。培養周期を14日間とし、培養中で3日おきに液交換をして、細胞集団の成長状況を観察した。
培養ディッシュ中の単一クローンの細胞数が殆ど50個を超えた時点で、各培養ディッシュに4%パラホルムアルデヒドを2mL添加し、細胞を4℃で60分間固定し、PBSで細胞を1回洗浄した。各培養ディッシュに清潔で不純物フリーなクリスタルバイオレット染色液を2mL添加し、細胞を30分間染色した。
細胞は洗浄して、乾燥し、写真を撮り、クローンをカウントした。各培養ディッシュ中のコロニー形成単位(CFU)の数を数え、CFU率を算出した:CFU率=CFU数/接種量、本例の場合、接種量は2200とした。
【0058】
結果は
図3に示す。低酸素動圧条件での臍帯間葉系幹細胞のCFU率は最も高く、3.55%に達した。
【0059】
ヒト脂肪間葉系幹細胞アッセイ:
【0060】
1)完全なヒト脂肪手術試料を入手し、手術後の固形脂肪組織を細胞洗浄液で洗浄し、医療用の先端がまっすぐな眼科用ハサミと医療用の先端が曲がった歯付き眼科用鉗子で肉眼で見える血管と結合組織を取り除き、脂肪を5mL取って50mL遠心チューブに入れた。
【0061】
2)2倍の体積の酵素分解作業溶液(10mg/mLのコラゲナーゼI、溶媒はDMEM/F12)(10mL)を添加し、即ち体積比1:2の割合で均一に混合し、滅菌済み医療用直刃で繊細なハサミで脂肪組織を1mm3のマッシュに切断し、チューブのキャップを締めてシールフィルムで密封してから、37℃の恒温シェーカーに置き、80r.p.m振とう数で、明らかな脂肪粒子が見えなくなるまで1時間消化し、その後、消化した脂肪組織を10mLピペットで4~5回繰り返して軽くフリックし、洗浄液を15mL添加し、上下逆さに均一に混合して消化を終了させ、1500r.p.m.で室温で5分間遠心し、上澄みを捨てた。
【0062】
3)20mLの細胞洗浄液で沈殿物を再懸濁させ、再懸濁液全量を100μmの細胞ストレーナーに通過させ、さらに5mLの細胞洗浄液を添加し、セルフィルターを洗浄した。1500r.p.m.で室温で5分間遠心し、上澄みを捨てた。DMEM-F12を添加して細胞を懸濁させ、細胞をカウントし、細胞をT25培養フラスコに接種した(使用培地は羊水培地で、広州白雲山拜迪生物医薬有限会社から購入)。細胞を37℃で48時間培養した後、液交換で付着していない赤血球を洗い流し、4日おきに液交換をしながら培養を続けたことで、初代間葉系幹細胞を得た。7~9日間培養し、80%~90%のコンフルエンシーに達すると、継代培養を行った。TrypLEで室温で2分間消化し、2倍の体積の羊水培地を添加して消化を終了させ、遠心して上澄みを捨て、羊水培地を1mL添加して再懸濁させ、カウントしてT25培養フラスコに接種し、P1世代脂肪間葉系幹細胞とした。
【0063】
4)細胞連続継代培養:P4世代細胞を4本のT25培養フラスコに5000個の細胞/cm2の密度で接種し、それぞれ37℃で上記4つの条件で培養した。4日後、羊水培地で細胞を回収し、再懸濁させて細胞懸濁液とし、カウントした。
【0064】
5)前記のようにコロニー形成単位(CFU)を算出した。
【0065】
結果は
図3に示す。結果から分かるように、低酸素条件で培養した脂肪間葉系幹細胞のCFU率は常酸素条件よりも顕著に高く、低酸素動圧条件での脂肪間葉系幹細胞のCFU率は最も高く、8.18%に達した。
【0066】
実施例3:異なる条件で培養した毛包間葉系幹細胞の骨形成分化と脂肪形成分化の比較
【0067】
実施例1の通りに毛包間葉系幹細胞を調製して継代培養し、初代細胞から、それぞれ4種類の条件で維持して培養・継代した。収穫したP5世代毛包間葉系幹細胞に、骨形成分化と脂肪形成分化の誘導を行った。
【0068】
骨形成分化と染色:
生細胞濃度で2.5×10
5の細胞を15mL遠心チューブに取り、完全増殖培地を全体積が2.5mLになるように、即ち最終濃度が1.0×10
5細胞/mLになるように添加した。1mL/ウェル、即ち1.0×10
5細胞/ウェルの細胞濃度で、4種類の条件でのインキュベーターで、90%~100%のコンフルエンシーになるまで3~4日間培養した。クリーンベンチでウェルから培地を吸い上げて捨て、ウェルごとに骨形成分化誘導完全培地(賽業生物科技有限会社から購入)を1mL添加した。3日おきに培地を交換し、骨形成分化誘導の14日目にアリザリンレッドSで骨形成分化細胞を染色した。骨形成率(%)の結果は
図4Aに示す。
【0069】
脂肪形成分化と染色:
生細胞濃度で2.5×10
5の細胞を15mL遠心チューブに取り、完全増殖培地を全体積が2.5mLになるように、即ち最終濃度が1.0×10
5細胞/mLになるように添加した。1mL/ウェル、即ち1.0×10
5細胞/ウェルの細胞濃度で、4種類の条件でのインキュベーターで、90%~100%のコンフルエンシーになるまで3~4日間培養した。クリーンベンチでウェルから培地を吸い上げて捨て、ウェルごとに脂肪形成分化誘導完全培地(STEMCELL社から購入)を1mL添加した。3日おきに培地を交換し、脂肪形成分化誘導の14日目にオイルレッドO染色液で脂肪形成分化細胞を染色した。脂肪形成率(%)の結果は
図4Bに示す。
【0070】
結果から分かるように、低酸素条件で培養した間葉系幹細胞の骨形成分化能と脂肪形成分化能は常酸素条件よりも強く、加圧は分化能をさらに強化させた。特に、低酸素動圧培養条件での間葉系幹細胞は、その骨形成分化能と脂肪形成分化能が顕著に強化した。
【0071】
実施例4:異なる条件で培養した間葉系幹細胞の幹細胞性と老化遺伝子発現レベルの比較
【0072】
ヒト毛包間葉系幹細胞の調製と培養:
実施例1の通りに毛包間葉系幹細胞を調製して継代培養し、初代細胞から、それぞれ4種類の条件で維持して培養・継代した。羊水培地の代わりに賽業培地(賽業(広州)生物科技有限会社から購入)を使用した点で異なっていた。収穫されたP3、P5世代毛包間葉系幹細胞を採取して保管し、幹細胞性遺伝子発現レベル測定に使用した。
【0073】
ヒト子宮膜間葉系幹細胞の調製と培養:
【0074】
1)組織分離:50mL遠心チューブに入れた月経血試料を、18メッシュステンレス細胞ストレーナー、36メッシュステンレス細胞ストレーナー、80メッシュステンレス細胞ストレーナー、100μmのフィルターを順次に通過させた。
【0075】
2)単球分離法:
工程1)で濾過した月経血試料を400g、20℃で10分間予備遠心して殆どの上澄みを除去し、底に2mLの上澄みと細胞沈殿物を残し、沈殿物を洗浄液で希釈し、希釈した試料の総体積を純血量の2倍にして均一に混合した。シリンジで室温リンパ球分離液を16mL吸い取り、50mL分離チューブの底に入れ、底を完全に満たした後、20mLの血液をチューブの壁に沿って直接に入れ、800g、20℃で15分間遠心した。遠心完了後、試料は上から順に、隔壁上部における血漿層、バフィーコート層、並びに隔壁下部におけるリンパ球分離液層、赤血球層の4層に分けられた。3mLパスツールピペットで上部血漿層の大部分(15mL程度)を吸引した。残りの2mLの血漿層をバフィーコート層と共に3mLパスツールピペットで慎重に吸い取り、新しい50mL遠心チューブに入れた。
【0076】
3)組織培養
バフィーコート層試料の2倍の体積の洗浄液で1回洗浄し、各チューブに洗浄液を10mL添加して沈殿物を再懸濁させてから、各チューブ中の沈殿物を40mL/チューブで合併し、40mLを超えた懸濁液は別のチューブに分けて遠心して上澄みを捨てる必要があった。その後、もう一回洗浄し、上澄みを捨てた。培地(750l培地、ScienCell社から購入)を2mL添加し、初代間葉系幹細胞を含む全ての細胞沈殿物を再懸濁させ、カウントし、3×105個/cm2の密度で6ウェルプレートに接種し、均一に振とうし、37℃で上記の4種類の条件で培養した。48時間後、液交換で付着していない赤血球を洗い流し、その後は3日おきに液交換をした。7日目まで培養し、6ウェルプレート内の細胞密度が80%以上に達したのを観察したら、37℃で3分間トリプシン消化を行い、2倍の体積の750l培地を添加して消化を終了させ、遠心して上澄みを捨て、7501培地を1mL添加して再懸濁させ、カウントしてT25培養フラスコに接種し、P1世代とした。
細胞をP8世代まで連続継代培養し、4つの条件での細胞は常にそれぞれの培養条件を維持し、収穫されたP6、P8世代子宮膜間葉系幹細胞を採取して保管し、老化遺伝子発現レベル測定に使用した。
【0077】
幹細胞性遺伝子と老化遺伝子発現レベルの測定:
【0078】
トータルRNAの抽出:間葉系幹細胞を1.5mL遠心チューブに収集し、PBSで2回洗浄後、RNAiso Plus溶解液(タカラ社から購入)を1mL添加し、氷上に静置してから、クロロフォルムを200μL添加してよく混合し、氷上に5分間放置してから、4℃で12000r.p.m.で15分間遠心し、上層の透明水相を500μL軽く吸い取り、新しい1.5mL遠心チューブに入れ、等体積のイソプロパノールを添加し、上下逆さに8回軽くて均一に混合し、氷上に15分間放置し、4℃で12000r.p.m.で15分間遠心し、この時にチューブの底に白い沈殿物が生じ、上澄みを捨て、沈殿物を75%エタノールで洗浄し、再度遠心して上澄みを捨てた後、キャップを開けて沈殿物を室温で乾燥させ、DNase/RNaseフリーH2O(Invitrogen(商標))を15~20μL添加し、沈殿物が完全に溶解するまでよく混合した。
【0079】
トータルRNAからcDNAへの逆転写:逆転写キット「TransScriptワンステップgDNA除去とcDNA合成スーパーミックス(TransScript One-Step gDNA Removal and cDNA Synthesis Super Mix)」(AT311-03、北京全式金生物技術有限会社)を用いて逆転写を行った。具体的には、取扱説明書に従い、トータルRNAを1μg取り、Dnase/RNaseフリーH2Oを7μL添加し、ランダムプライマーを1μL添加し、65℃で5分間均一に混合し、RNA Mixとして調製した後、取扱説明書に従って他の成分を添加して逆転写系を調製した。グランジエントPCR装置で逆転写し、プログラムは、25℃で10分間、42℃で30分間、85℃で5秒間とした。
【0080】
【0081】
qPCRによる遺伝子発現測定:PerfectStart緑色qPCRスーパーミックス(PerfectStart Green qPCR Super Mix)キット(AQ601-04、北京全式金生物技術有限会社)を用いてqPRCRを行った。具体的には、cDNAを含む逆転写系20μLにDNase/RNaseフリー水(Invitrogen(商標)) を180μL添加することで、cDNA鋳型溶液を得た。蛍光定量用96ウェルプレートに、取扱説明書に従い、下表に示す組成のものを各ウェルに添加し、20μLの反応系を形成した。96ウェルプレートに試料を添加し終わった後、シールフィルムでよく密封してから、遠心機で4000r.p.m.で4℃で1分間遠心した後、装置にロードした。PCR増幅パラメーターは、94℃で30秒間変性し、それから94℃で5秒間、60℃で15秒間、72℃で15秒間を1サイクルとして、40サイクルを行った。Ct値を得た。
【0082】
【0083】
【0084】
データ計算と処理:
【0085】
Ct値は、PCR増幅過程において増幅産物の蛍光シグナルが設定した閾値に到達するまで経過されたサイクル数を表し、この時点での鋳型数は、M×2Ct(Mは初期鋳型数を表す)となる。
【0086】
M1、Ct1が標的遺伝子(即ち、老化遺伝子または幹細胞性遺伝子)を、M2、Ct2が内在性コントロール遺伝子(一般的に間葉系幹細胞で常時発現していると考えられる遺伝子、本実施例ではGAPDH遺伝子を採用した)を表すと仮定すると:
M1×2Ct1=M2×2Ct2
M1/M2=2Ct2/2Ct1=2-(Ct1-Ct2)
M1/M2、即ち2-(Ct1-Ct2)は、細胞数の違いによる影響を排除し、同じ細胞数での標的遺伝子の初期鋳型数を正確に反映させることができる。
【0087】
ヒト毛包間葉系幹細胞の幹細胞性遺伝子発現量の測定結果は表1に示す。表から分かるように、P3世代でもP5世代でも、低酸素動圧培養条件での毛包間葉系幹細胞における4つの幹細胞性遺伝子の発現量はいずれも一番高かった。
【0088】
【0089】
ヒト子宮膜間葉系幹細胞の老化遺伝子発現量の測定結果は表2に示す。表から分かるように、P6世代でもP8世代でも、低酸素動圧培養条件での子宮膜間葉系幹細胞における3つの老化遺伝子の発現量はいずれも一番低かった。
【0090】
【0091】
以上のことをまとめると、低酸素および動圧の培養条件は、間葉系幹細胞の幹細胞性遺伝子発現のアップレギュレーションと老化遺伝子のダウンレギュレーションに有利であった。
【0092】
実施例5:異なる条件で培養した人毛包間葉系幹細胞の倍加時間と増幅倍数の比較
【0093】
ヒト毛包間葉系幹細胞の入れたT75培養フラスコを二酸化炭素インキュベーターから取り出し、フラスコ内の元の培地を捨て、T75培養フラスコの無細胞側にPBSを10mL添加して細胞培養フラスコを平らにし、細胞培養フラスコを軽く振とうして残留する培地を洗浄してから、PBSを捨て、2回繰り返した;トリプシンTrypLEを3mL吸い取って細胞培養フラスコに添加してから、フラスコを軽く振とうして酵素分解液TrypLEを細胞培養フラスコの底に均一に広げ、その後に37℃、5%二酸化炭素インキュベーターに置いて1~2分間消化した;倒立顕微鏡で細胞培養フラスコ内の細胞を観察し、細胞の細胞質が収縮していること、細胞の隙間が拡大していること、細胞が丸く透明になることを確認した;細胞培養フラスコを軽く振とうすると、付着していた細胞が培養フラスコの底面から剥離するのが見え、6mLのPBS希釈消化酵素液をフラスコに添加し、全ての細胞を懸濁させるように10mLピペットでフラスコの底面を軽くフリックし、フリックする時には細胞に損傷をもたらさないように気泡の生成をなるべく避けた。
【0094】
培養フラスコから全ての細胞懸濁液を15mL遠心チューブに移し、培養フラスコにPBSを6mL添加して培養フラスコの底面を洗いなおし、得られた洗浄液を15mL遠心チューブに移し、室温(20℃前後)で400gで5分間遠心した;遠心後、真空吸引ポンプで上澄みを慎重に取り除き(沈殿物を乱さないように注意し)、5mLピペットで3mLの予め温めた培地を吸い取って遠心チューブに入れた。100~1000μLピペットで15回軽くフリックして細胞懸濁液を均一に混合した;混合した細胞懸濁液を11μL取り、11μLのAO/PI染色液と混合してから、20μLを計数プレートに取り、全自動セルカウンターでカウントして接種数を得た。
【0095】
培養フラスコに予め完全培地を15mL添加し、5000細胞/cm2の継代密度に従って必要な細胞懸濁液の体積を算出してから、100~1000μLピペットで細胞懸濁液を10回軽くフリックし、細胞懸濁液を均一に混合してから、算出した細胞懸濁液を吸い取り、完全培地の入ったT75培養フラスコに添加し、十字形法または8字形法で細胞をよく振とうしてから37℃、5%二酸化炭素インキュベーターに平らに置き、常酸素常圧、低酸素(3%)常圧および低酸素静圧(3%+静)の3種類の条件で培養し、P1世代毛包間葉系幹細胞を得た。
【0096】
細胞をP6世代まで連続継代し、3つの条件での細胞は常にそれぞれの培養条件を維持した。増幅倍数=毎回の継代で収穫した細胞数/接種した細胞数。本実施例では、5000細胞/cm
2の密度で厳密に継代を行い、T75培養フラスコの面積を75cm
2とし、つまり毎回でT75培養フラスコに接種した細胞を3.75×10
5個とすると、増幅倍数の計算式は「増幅倍数=毎回で収穫した細胞数/(3.75×10
5)」になる。異なる条件での倍加時間は表3と
図8に示す;異なる条件での増幅倍数は表4と
図9に示す。
【0097】
【0098】
【0099】
表3と
図8から分かるように、低酸素静圧条件で培養した人毛包間葉系幹細胞の倍加時間は常酸素常圧条件と低酸素常圧条件よりも短かった;表4と
図9から分かるように、低酸素静圧条件で培養した人毛包間葉系幹細胞の増幅倍数は常酸素常圧条件と低酸素常圧条件よりも高かった。
【0100】
実施例6:異なる条件で培養した毛包間葉系幹細胞の骨形成分化と軟骨形成分化の比較
【0101】
実施例1の通りに毛包間葉系幹細胞を調製して継代培養した。初代細胞から、細胞を常酸素(20%)常圧、低酸素動圧(3%+動)の2種類の条件で培養した点で異なっていた。収穫されたP4、P5世代毛包間葉系幹細胞はそれぞれ、骨形成分化と軟骨形成分化の誘導に使用した。
【0102】
骨形成分化と染色:
培養して得られたP4世代毛包間葉系幹細胞を取り、実施例3における骨形成分化と染色工程に従い、常酸素(20%)常圧、低酸素動圧(3%+動)の2種類の条件で培養した細胞のそれぞれに、骨形成分化の誘導を行い、且つ骨形成率を統計した。骨形成率(%)の結果は下表5に示す。
【0103】
【0104】
軟骨形成分化と染色:
培養して得られたP5世代毛包間葉系幹細胞を取り、1.0×10
7細胞/mLの細胞濃度で間葉系幹細胞を完全増殖培地で再懸濁させ、懸濁液を取って10cm
2培養ディッシュの蓋の内面に均一に滴下した。常酸素(20%)常圧および低酸素動圧(3%+動)の2種類の条件で37℃で24時間培養し、クリーンベンチでマイクロスフィアを吸い取り、1ウェルあたり10個のマイクロスフィアの量で軟骨形成分化培地(STEMCELLから購入)を0.5mL含む低吸着24ウェルプレートに滴下し、1群に少なくとも3つのウェルを入れ、上記2種類の条件でそれぞれ培養を続けた。3日おきに培地を交換し、軟骨形成分化誘導の28日目に、細胞マイクロスフィアを収集してアルシアンブルー染色を実施した。結果は
図10に示す。
【0105】
表5から分かるように、低酸素動圧培養条件での毛包間葉系幹細胞の骨形成分化能は、常酸素常圧培養条件での毛包間葉系幹細胞よりも顕著に強かった。
図10から分かるように、常酸素常圧条件と低酸素動圧条件で培養した毛包間葉系幹細胞の組織の間では、いずれも明らかな青色(色の濃い)領域が現れたことから、軟骨形成能はこれで示された;また、低酸素動圧条件で培養した毛包間葉系幹細胞の軟骨形成分化能は常酸素常圧条件よりも強かった。
【0106】
本発明では具体的な例を説明したが、本発明の精神および範囲を逸脱しない限り、本発明に対する各種の変更や修正が可能である点は、当業者にとって明らかである。よって、添付される請求の範囲には、本発明の範囲内に入るそれらの変更が全て含まれる。
【配列表】