(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】伝送装置
(51)【国際特許分類】
H04L 1/22 20060101AFI20240718BHJP
H04B 1/74 20060101ALI20240718BHJP
H04B 7/155 20060101ALI20240718BHJP
H04H 20/02 20080101ALI20240718BHJP
【FI】
H04L1/22
H04B1/74
H04B7/155
H04H20/02
(21)【出願番号】P 2023506748
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2021045278
(87)【国際公開番号】W WO2022195982
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2021044202
(32)【優先日】2021-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 剛
【審査官】鉢呂 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-175988(JP,A)
【文献】特開昭57-112141(JP,A)
【文献】特開2019-050505(JP,A)
【文献】特開2012-175133(JP,A)
【文献】地上デジタル放送用デジタルSTL/TTL伝送方式標準規格 ARIB STD-B22,2.1版,一般社団法人 電波産業会,2014年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 1/22
H04B 1/74
H04B 7/155
H04H 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IF伝送方式が用いられ、第1系統、第2系統からなる2つの伝送経路が切り替えて用いられ、主信号にパイロット信号が多重された構成を具備する伝送信号が送信側から受信側に向けて発せられる伝送装置であって、
前記送信側において、前記第1系統と前記第2系統との間の切替の直前から当該切替の直後の間の期間において、当該切替が行われることを示す切替通知信号が前記伝送信号に更に多重され、
前記受信側において、受信した前記伝送信号から前記切替通知信号を認識
し、
前記切替通知信号が認識されない間は、前記伝送信号から抽出された前記パイロット信号から生成されたローカル信号を用いて前記伝送信号の周波数変換が行なわれ、
前記切替通知信号が認識された間は、前記切替通知信号が認識される前に受信された前記伝送信号から抽出された前記パイロット信号を用いて生成された代替ローカル信号を前記ローカル信号の代わりに用いて、前記伝送信号の周波数変換が行われることを特徴とする伝送装置。
【請求項2】
前記伝送信号の周波数配置において、前記切替通知信号は、前記主信号からみて前記パイロット信号の反対側に配置されたことを特徴とする請求項
1に記載の伝送装置。
【請求項3】
前記伝送装置はARIB STD-B22に準拠したIF伝送方式で動作し、ARIB STD-B22に準拠したIF伝送方式における伝送信号で用いられる2つのパイロット信号のうちの一方、他方がそれぞれ前記パイロット信号、前記切替通知信号として用いられることを特徴とする請求項
2に記載の伝送装置。
【請求項4】
IF伝送方式が用いられ、第1系統、第2系統からなる2つの伝送経路が切り替えて用いられ、主信号にパイロット信号が多重された構成を具備する伝送信号が送信側から受信側に向けて発せられる伝送装置であって、
前記送信側において、前記第1系統と前記第2系統との間の切替の直前から当該切替の直後の間の期間において、当該切替が行われることを示す切替通知信号が前記伝送信号に更に多重され、
前記受信側において、受信した前記伝送信号から前記切替通知信号を認識し、
前記伝送信号の周波数配置において、前記切替通知信号は、前記主信号からみて前記パイロット信号の反対側に配置され、
前記伝送装置はARIB STD-B22に準拠したIF伝送方式で動作し、ARIB STD-B22に準拠したIF伝送方式における伝送信号で用いられる2つのパイロット信号のうちの一方、他方がそれぞれ前記パイロット信号、前記切替通知信号として用いられることを特徴とする伝送装置。
【請求項5】
前記受信側において、
前記切替通知信号が認識されない間は、前記伝送信号から抽出された前記パイロット信号から生成されたローカル信号を用いて前記伝送信号の周波数変換が行なわれ、
前記切替通知信号が認識された間は、前記切替通知信号が認識される前に受信された前記伝送信号から抽出された前記パイロット信号を用いて生成された代替ローカル信号を前記ローカル信号の代わりに用いて、前記伝送信号の周波数変換が行われることを特徴とする請求項
4に記載の伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重化された伝送路が用いられる伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上デジタル放送のための伝送装置として、マイクロ波帯の電波を利用したSTL(Studio to Transmitter Link)装置、TTL(Transmitter to Transmitter Link)装置が用いられている。ここでは、STL装置(STL回線)は放送局本社(スタジオ)と親局送信所との間の通信のために用いられ、TTL装置(TTL回線)は親局送信所(演奏所)と中継送信所(送信所)との間、あるいは異なる2つの中継送信所間の通信のために用いられることによって、中継ネットワークが構成される。
【0003】
STL/TTLにおける伝送方式は、「ARIB STD-B22 地上デジタル放送用デジタルSTL/TTL伝送方式」に記載されている。ここで、STL装置においては、ISDB-Tで規定されるTS(Transport Stream)多重信号が64QAM変調方式で変調されたマイクロ波が用いられる。一方、TTL装置においては、受信したマイクロ波からTS多重信号を復調、再生してからSTL装置と同様に再度伝送を行うTS-TTL方式と、このような復調、再生を行わずにOFDM(直交多重信号)信号をIF(Intermedeate Frequency)信号に変換して伝送を行うIF-TTL方式と、がある。後者は復調、再生を行わないために装置構成が単純、小型となるため、特に中継のみのために用いられる中継送信所に適している。
【0004】
一方、このような伝送装置においては、通信の障害となる事象が発生した場合においても放送が中断されにくいように、TS-TTL方式、IF-TTL方式のどちらにおいても、伝送経路の冗長化(二重化)が採用されている。この場合においては、異なる2つの伝送経路(第1系統、第2系統)が設けられ、通常は第1系統(現用系)が用いられるのに対して、第1系統において異常が発生した場合には、第1系統が遮断され第2系統(予備系)が用いられる。このように二重化を用いた伝送装置については、例えば特許文献1に記載されている。
【0005】
図6は、このような二重化を用いたIF-TTL方式の伝送装置における親局送信所、中継送信所における構成を簡略化して示し、ここでは、親局送信所側における送信装置80が
図6(a)に、中継送信所側における受信装置90の構成が
図6(b)に示されている。送信装置80においては、スタジオ側から入力したTS信号と共に、CLK(クロック)信号、Fsync(同期)信号もOFDM変調器81に入力し、IF信号として出力される。このIF信号は、第1系統に対応する第1送信変換器82A、第2系統に対応する第2送信変換器82Bに入力され、それぞれにおいて基準クロック信号(Ref-CLK)を用いて、異なるSHF(Super High Frequency)帯のSHF信号(SHF1、SHF2)にアップコンバート、電力増幅される。SHF1、SHF2はSHF切替器83に入力し、これによりいずれか一方が送信アンテナ84から出力される。この切替は、外部からの系統選択信号や、第1送信変換器82A、第2送信変換器82Bからの指令によって行われる。ここでは、第1送信変換器82A、第2送信変換器82Bの各々が、自身に異常が発生した場合にアラーム信号(ALM1、ALM2)を発する。例えば、SHF切替器83は、SHF1が選択されている場合において、第1送信変換器82Aからアラーム信号ALM1を受信した場合には、SHF1からSHF2への切替を行うことができる。ただし、前記のように、通常は第1系統(SHF1)が選択され、第1系統の異常発生時に第2系統(SHF2)が選択されるような設定とされる。
【0006】
受信装置90においては、受信アンテナ91によって受信されたSHF信号(SHF1又はSHF2)は、SHF分配器92によってSHF1は第1系統として、SHF2は第2系統としてそれぞれ分配され、SHF1は第1受信変換器93Aに、SHF2は第2受信変換器93Bに入力する。SHF1、SHF2はこれらによって共にIF信号にダウンコンバートされ、それぞれのIF信号がデジタル放送用中継器である第1放送機94A、第2放送機94Bに入力し、他の送信所に送信される。なお、発生した異常によって実際に第1系統による通信が不可能になった後でこの切替が行われた場合には、切替直前において通信が中断する期間が生ずるため、例えば通信が不可能となる前兆となる異常が第1系統において認識された場合において行えば、こうした中断期間をなくすことができる。
【0007】
このようにTS-TTL方式、IF-TTL方式のどちらにおいても、このように切り替えが行われた場合においても、この切替タイミングの前後の期間にわたり、伝送されたデータを受信側で適正に認識できること、あるいはこの切替動作の際に失われるデータがないことが要求される。特許文献2には、こうした点を考慮したTS-TTL方式におけるSHF信号の切替動作について記載されている。
図7は、この場合における第1系統、第2系統の伝送信号(SHF1、SHF2に対応)の構成を模式的に示す図であり、中段に第1系統の信号、下段に第2系統の信号が示され、上段には第1系統と第2系統の切替の状況が横軸を時間経過として例示されている。ここで、第1系統、第2系統で伝送されるデータは共通であり、どちらの系統においても、本来伝送されるべきデータとは異なるプリアンブルが挿入され、このプリアンブルは、受信側において各系統の固有の波形等化基準信号用に用いられる。図示されるように、このプリアンブルの長さ、タイミングを両系統で統一し、切り替えのタイミングをこのプリアンブル期間内に設定すれば、切り替えの前後のデータは共にそのまま保たれる。プリアンブルが一定周期で挿入されれば、切替のタイミングをこの期間内に設定することは容易であり、こうした設定によって、切替に伴うデータの欠損を発生させないようにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-94544号公報
【文献】特開2019-50505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
IF伝送方式の場合においては、伝送される信号の構成は
図7に示されたようなTS伝送方式の場合とは異なり、このようなプリアンブル期間(本来伝送されるべきデータ以外のデータが送信される期間)は設けられない。このため、切替動作の際にはデータに欠損が発生しやすくなった。
【0010】
特に、IF伝送方式あるいは従属同期方式が用いられる場合においては、伝送信号において、本来伝送されるデータに対応した主信号とは別に、パイロット信号が多重される。このパイロット信号は、受信側においてSHF信号をダウンコンバートしてIF信号とする際に使用され、この際にこれを用いて雑音の低下等を図ることができる。上記の切替動作が行われる際には、このパイロット信号が一時的に発せられなくなった。すなわち、IF伝送方式においては、切り替え動作時において仮に主信号に欠損が生じない場合であっても、パイロット信号が欠損し、これによって受信側で良好なIF信号を再生することができない場合があった。
【0011】
更に、
図6においてSHF信号の切り替えに用いられるSHF切替器83として、例えば同軸型切替器を用いた安価なものが用いられる場合が多い。この場合には、切り替えに要する時間が数msと長くなるため、前記のような切り替え時に発生する障害が発生する時間が長くなった。
【0012】
このため、特にIF-TTL方式において、二重化が行われている場合のSHF信号の切替時の動作に、受信側で良好なIF信号を得ることができる技術が求められた。
【0013】
このため、二重化されたIF方式の伝送装置において、信号の切り替えに伴う障害を抑制できる技術が求められた。
【0014】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の伝送装置は、IF伝送方式が用いられ、第1系統、第2系統からなる2つの伝送経路が切り替えて用いられ、主信号にパイロット信号が多重された構成を具備する伝送信号が送信側から受信側に向けて発せられる伝送装置であって、前記送信側において、前記第1系統と前記第2系統との間の切替の直前から当該切替の直後の間の期間において、当該切替が行われることを示す切替通知信号が前記伝送信号に更に多重され、前記受信側において、受信した前記伝送信号から前記切替通知信号を認識し、前記切替通知信号が認識されない間は、前記伝送信号から抽出された前記パイロット信号から生成されたローカル信号を用いて前記伝送信号の周波数変換が行なわれ、前記切替通知信号が認識された間は、前記切替通知信号が認識される前に受信された前記伝送信号から抽出された前記パイロット信号を用いて生成された代替ローカル信号を前記ローカル信号の代わりに用いて、前記伝送信号の周波数変換が行われる。
この際、前記伝送信号の周波数配置において、前記切替通知信号は、前記主信号からみて前記パイロット信号の反対側に配置してもよい。
この際、前記伝送装置はARIB STD-B22に準拠したIF伝送方式で動作し、ARIB STD-B22に準拠したIF伝送方式における伝送信号で用いられる2つのパイロット信号のうちの一方、他方がそれぞれ前記パイロット信号、前記切替通知信号として用いられてもよい。
また、本発明は、IF伝送方式が用いられ、第1系統、第2系統からなる2つの伝送経路が切り替えて用いられ、主信号にパイロット信号が多重された構成を具備する伝送信号が送信側から受信側に向けて発せられる伝送装置であって、前記送信側において、前記第1系統と前記第2系統との間の切替の直前から当該切替の直後の間の期間において、当該切替が行われることを示す切替通知信号が前記伝送信号に更に多重され、前記受信側において、受信した前記伝送信号から前記切替通知信号を認識し、前記伝送信号の周波数配置において、前記切替通知信号は、前記主信号からみて前記パイロット信号の反対側に配置され、前記伝送装置はARIB STD-B22に準拠したIF伝送方式で動作し、ARIB STD-B22に準拠したIF伝送方式における伝送信号で用いられる2つのパイロット信号のうちの一方、他方がそれぞれ前記パイロット信号、前記切替通知信号として用いられる。
この際、前記受信側において、前記切替通知信号が認識されない間は、前記伝送信号から抽出された前記パイロット信号から生成されたローカル信号を用いて前記伝送信号の周波数変換が行なわれ、前記切替通知信号が認識された間は、前記切替通知信号が認識される前に受信された前記伝送信号から抽出された前記パイロット信号を用いて生成された代替ローカル信号を前記ローカル信号の代わりに用いて、前記伝送信号の周波数変換が行われてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、二重化されたIF方式の伝送装置において、信号の切り替えに伴う障害を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ARIB STD-B22に準拠したIF-TTL方式における伝送信号の周波数配置である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る伝送装置における通信系統の切替動作、及びこの際の伝送信号の例を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る伝送装置における送信側(a)、受信側(b)の構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る伝送装置において、送信側において信号IFから伝送信号SHF1を生成するための構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る伝送装置において、受信側において伝送信号SHF1から信号IFを再生するための構成を示す図である。
【
図6】従来のIF伝送方式の伝送装置における送信側(a)、受信側(b)の構成を示す図である。
【
図7】TS伝送方式における通信系等の切替時の伝送信号の状態を模式的に示す図である。
【0018】
次に、本発明を実施するための形態に係る伝送装置について具体的に説明する。この伝送装置は、IF-TTL方式又はIF-STL方式、すなわちIF伝送方式の、二重化された伝送装置である。このため、この伝送装置においても、第1系統(現用系)から第2系統(予備系)への切り替えが行われる。この際、TS伝送方式とは異なり、送信データ間における本来の送信データ以外のデータが送信される期間(TS伝送方式の場合のプリアンブル期間)は設けられないため、この切替タイミングをこの期間に設定することによって、切替に伴う受信側におけるデータの欠損を抑制することはできない。
【0019】
これに対して、この伝送装置においては、送信側でこの切替動作が行われる直前において、直後にこの切替動作が行われる旨の信号である切替通知信号が伝送信号に多重される。この切替通知信号は、TS伝送方式において用いられるプリアンブルとは異なり、時系列的に付加される信号ではなく、周波数空間において付加される信号であるため、これによって送信されるデータは影響を受けない。すなわち、切替通知信号の付加によっては送信されるデータは失われない。
【0020】
一方、受信側では、従来はこの切替の直後においては受信した伝送信号から適正にデータを認識することができなくなる場合があったのに対し、この伝送装置においては、この切替通知信号を認識することによって、受信側でその直後に切替が行われることを認識することによって、この切替時点の前後の期間にわたり、受信側でデータを適正に認識することができる。
【0021】
以下に、ここで用いられる切替通知信号について説明する。この前提として、従来より使用されているARIB STD-B22に準拠したIF-TTL方式における伝送信号(OFDM信号)の周波数配置(例えば国際公開公報2018/159411号に記載)を
図1に模式的に示す。ここでは、中心周波数f0の周囲における構造が模式的に示されている。伝送されるべきデータは、f0を中心とした5.7MHzの帯域(主信号)によって伝送される。一方、従属同期方式においては、主信号とは別のパイロット信号も伝送される。受信側において受信したSHF信号をダウンコンバートしてIF信号とする際に、このパイロット信号を使用することによって、雑音の低下等を図ることができる。図示されるように、パイロット信号は、主信号と干渉しないように、主信号の帯域幅よりも十分に離れたf0+4.0MHz(fp1)のサブキャリアとして搬送されるP1、あるいはf0-4.0MHz(fp2)のサブキャリアとして搬送されるP2が用いられる。また、パイロット信号P1、P2とは別に、必要に応じてサービスチャンネル信号SCも別のサブキャリアとして搬送される。
【0022】
このため、受信側では、
図1における主信号を適正に認識できることが要求されると共に、このようなパイロット信号も適正に認識できることも要求される。受信側ではこれらのパイロット信号P1、P2、SCをバンドパスフィルターを用いることによって主信号から分離して容易に認識することができる。ただし、パイロット信号としては、P1、P2のうちの一方のみを用いることもできる。
【0023】
ただし、このようなパイロット信号は、通信系等の切替が行われた直後においては、失われる場合がある。このため、通信系等の切替が行われた直後においては、実際は主信号は適正に伝送されているものの、パイロット信号が認識できないために、伝送信号(SHF信号)を適正にダウンコンバートしてIF信号とすることができず、最終的にデータを適正に認識できない場合がある。
【0024】
ここで、本発明の実施の形態に係る伝送装置においては
図1におけるパイロット信号P1を常時用い、パイロット信号P2を切替通知信号として用いる。ここで、パイロット信号P1は前記のように受信側における周波数変換の際に用いられるように適正に制御された信号であるが、この場合に用いられるパイロット信号P2は必ずしもこのように用いられる必要はなく、あくまで以下に説明する切替通知信号として用いられるため、パイロット信号P1のように周波数変換の際に用いられるように制御されている必要はない。このため、以下ではこの場合のパイロット信号P2を切替通知信号P2’とする。
【0025】
受信側では切替通知信号P2’を認識した場合には、直後に切り替え動作が行われることを認識することができる。
図2は、この動作を模式的に示す図であり、横軸は時間経過に対応し、上段はこの切り替えの状況(第1系統又は第2系統)を示し、中段は切替通知信号の発生の状況(オン又はオフ)、下段はこれに対応した伝送信号の周波数配置(
図1に対応)が、それぞれ示されている。ここでは、送信側においてはデフォールトで用いられる第1系統(運用系)と、第1系統に障害がある(第1系統による通信が不可能となる可能性がある)と認識された場合に用いる第2系統(予備系)の2つの通信系等が用いられる。ここでは、A0の時点で第1系統から第2系統への切替が行われ、その後に第1系統の障害が復旧してB0の時点で第2系統から第1系統への切替が行われる(再び第1系統に戻る)ものとする。
【0026】
送信側では、A0よりもT0だけ前の時点であるA1よりも前の時点では、切替通知信号(P2)は発せられず、A1の時点で切替通知信号P2’が発せられる。A1よりも前の時点ではP2’は発せられないため、下段における周波数配置においては、
図1の場合と比べてP1が存在するのに対して、P2’は存在しない。A1以降では、切替通知信号P2’が用いられるため、その周波数配置においては、
図1の場合と同様にP1、P2(P2’)が用いられる。なお、この伝送装置の動作の特徴にはSCは無関係であるため、ここではSCについては記載されていない。
【0027】
この切替通知信号P2’が発せられた後、A0の時点で第1系統から第2系統への切替が行われる。その後、A0から所定の時間T1だけ経過後のA2の時点で、この切替通知信号P2’は発せられなくなる。すなわち、A2の経過後には、この伝送信号の周波数配置は再びA1よりも前の状態と同様となる。その後、第1系統から第2系統への切替が行われた場合と同様に、第2系統から第1系統への切替が行われるB0よりもT0だけ前のB1の時点で、再び切替通知信号P2’が発せられる。その後、B0の時点で切替が実際に行われた後に、B0からT1だけ経過した後のB2の時点で、切替通知信号P2’は再び発せられなくなる。この状態は、A1よりも前の状態(第1系統が用いられ、かつ切替通知信号P2’が発せられない状態)と同様である。このため、再び第1系統に障害が発生した場合には、前記と同様の動作が繰り返される。
【0028】
ただし、実際には、前記のように、パイロット信号P1は切替時(
図2におけるA0、B0)の直後には失われる場合がある。
図2の例においては、第2系統(予備系)から第1系統(現用系)への復旧のタイミングとなるB0については、このタイミングの設定の自由度は大きいのに対し、第1系統(現用系)から第2系統(予備系)への切替のタイミングとなるA0については、第1系統に異常が認識された場合において速やかにこの切替を行う必要がある。このため、特にA0の直後においては、パイロット信号P1が失われる可能性が高い。この切替の直前に発せられる切替通知信号P2’は、直後にこのようにパイロット信号P1が失われる可能性があることを受信側に認識させることができる。
【0029】
切替通知信号P2’が実際の切り替え動作(A0、B0)に先行する時間差T0、切り替え動作後に切替通知信号P2’の発振が停止されるまでの時間T1の間においては、後述するように、パイロット信号P1が正常に存在する場合とは異なる動作が受信側で行われる。このため、T0、T1は、切替直後においてパイロット信号P1が失われる時間の長さに応じて適宜設定される。
【0030】
上記の動作において、切替通知信号P2’が付加されても
図1における主信号はこれによって影響を受けずにどの時点でも維持されているため、切替動作に際して、受信側に伝送されるべきデータは失われない。ただし、前記のように、A0の直後においてはパイロット信号P1が失われている可能性がある。これに対して、受信側では切替に先立って切替通知信号P2’を認識することによって、直後にパイロット信号P1が失われた場合に対応した動作をすることができ、これによって、受信側でSHF信号を適正にダウンコンバートしてIF信号を生成することができる。
【0031】
上記の動作を行う、本発明を実施するための形態に係る伝送装置について説明する。この動作とは、(1)送信側において、前記のように通信に用いる経路を必要に応じて第1系統と第2系統の間で切替を行う動作、(2)送信側において、この切替に際して切替通知信号P2’をを主信号に多重する機能、(3)受信側において、切替の前後で第1系統又は第2系統で信号を受信する動作、(4)受信側において切替通知信号を認識した場合に、予め記憶されたパイロット信号のレベルを用いて、周波数変換を行う動作、である。
【0032】
このような動作を行う本発明の実施の形態に係る伝送装置について説明する。
図6の伝送装置と同様に、この伝送装置における親局送信所における送信装置10、中継送信所における受信装置20の構成を
図3(a)(b)にそれぞれ示す。
図3(a)に示された送信装置10においても、前記の送信装置80におけるOFDM変調器81、送信アンテナ84とそれぞれ同様のOFDM変調器11、送信アンテナ14が用いられている。OFDM変調器11によってIF信号が生成され、これがアップコンバートされたSHF1、SHF2が第1送信変換器12A、第2送信変換器12Bによって生成され、SHF切替器13がSHF1、SHF2を切り替えて送信アンテナ14に出力することも同様であり、この切替動作が第1送信変換器12A、第2送信変換器12Bの各々によって発せられるアラーム信号ALM1、ALM2や手動操作に応じて行われる点についても同様である。
【0033】
ただし、このSHF切替器13は、この切替動作を行う前に、切替動作をこれから行う旨の通知(切替予告通知)を、第1送信変換器12A、第2送信変換器12Bの両方に行う。これによって、第1送信変換器12A、第2送信変換器12Bは、
図1におけるA0あるいはB0のタイミングが迫っていることを認識することができる。
【0034】
また、第1送信変換器12Aは、自身に異常が認められず継続的にSHF切替器13で出力が選択されている間(デフォールトの状態の間)、すなわち
図2のA1以前とB2以降においては、
図2下段に示されたように、主信号に対してパイロット信号P1のみを付加した信号(SHF1)を出力する。一方、前記のようにSHF切替器13から切替予告通知を受信した場合には、
図2のA1以降A2以前においては、これに更に切替通知信号P2’も付加した信号(SHF1)を出力する。同様に、第2送信変換器12Bは、
図2におけるA2以降B1以前においては主信号に対してパイロット信号P1のみを付加した信号(SHF2)を出力し、前記のようにSHF切替器13から切替予告通知を受信した場合には、
図2のB1以降B2以前においては、これに更に切替通知信号P2’も付加した信号(SHF2)を出力する。
【0035】
図4は、このように信号IFから伝送信号SHF1を生成する第1送信変換器12Aの具体的構成を示す。ここでは第1送信変換器12Aの構成が示されているが、第2送信変換器12Bも同様の構成を具備する。また、ここでは信号IFから信号SHF1を生成するまでに関わる構成が示されており、前記のように自身の診断を行いアラーム信号ALM1を発するための構成については記載されていないが、このためには周知の構成を用いることができる。
【0036】
図4においては、左側からOFDM変調器11で生成された信号IFが入力する。この信号IFは
図1における主信号のみに対応する。一方、周波数fp1であるパイロット信号P1は、局部発振器121で生成され、周波数fp2(fp2<fp1)である切替通知信号P2’は、局部発振器122で生成される。パイロット信号P1を信号IFに付加する合成器123、切替通知信号P2’を更にこれに付加する合成器124が設けられるが、局部発振器122と合成器124の間には切替器125が設けられ、この切替器125は、前記のようにSHF1において切替通知信号P2’が付加される期間においてのみ、局部発振器122と合成器124を接続する。切替器125は、このような期間を前記の切替予告通知を受信することによって認識することができる。
【0037】
このように、主信号に対してパイロット信号P1、あるいは更にこれに対して更に切替通知信号P2’が信号IFに対して付加された信号IF1が生成される。この信号IF1は、2段階でアップコンバートされることによってSHF1とされる。このため、1段目、2段目のアップコンバートのためにそれぞれ局部発振器126、127が設けられ、局部発振器126の出力を信号IF1に混合してアップコンバートした信号IF2を生成する混合器128、局部発振器127の出力を信号IF2に混合してアップコンバートしたSHF1を生成する混合器129が設けられる。これによって、
図2下段に示されたようなSHF1が生成される。第2送信変換器12Bも同様の構成を具備するため、同様にSHF2が生成される。これによって、前記の(1)送信側において、前記のように通信に用いる経路を必要に応じて第1系統と第2系統の間で切替を行う動作、(2)送信側において、この切替に際して切替通知信号P2’を通常の信号に付加する機能、が実現される。
【0038】
図3(b)に示された受信装置20においても、前記の受信装置90における受信アンテナ91、SHF分配器92と同様の受信アンテナ21、SHF分配器22が用いられている。SHF分配器22によってSHF1、SHF2が分配されてそれぞれ第1受信変換器23A、第2受信変換器23Bに入力し、これらによって再生されたIF信号が第1放送機24A、第2放送機24Bに入力し、他の送信所に送信される点も同様である。
【0039】
ただし、ここで用いられる第1受信変換器23A、第2受信変換器23Bは、SHF1、SHF2における前記の切替通知信号P2’の有無を認識することができる。切替通知信号P2’が送信装置10の第1送信変換器12A、第2送信変換器12Bからのアラーム信号ALM1、ALM2によって生成された場合には、受信監視装置25は、この旨を認識することができる。すなわち、受信監視装置25は、第1送信変換器12A、第2送信変換器12Bにおいて異常が発生した旨を認識することができる。
【0040】
図5は、このように伝送信号SHF1から信号IFを再生する第1受信変換器23Aの具体的構成を示す。ここでは第1受信変換器23Aの構成が示されているが、第2受信変換器23Bも同様の構成を具備する。
図5においては、左側からSHF分配器22から出力された高周波信号SHF1が入力する。SHF1は
図2下段に示されたように、主信号に対して、パイロット信号、あるいはこれに更に切替通知信号P2’が付加されて構成されている。このSHF1は局部発振器231の出力が混合器232によって混合されることによってダウンコンバートされ、
図4におけるIF2に対応した信号に変換される。
【0041】
次に、信号IF2は分離器233に入力し、ここから主信号以外の成分(パイロット信号P1、切替通知信号P2’)が分離される。パイロット信号P1はこれに対応した周波数(
図1)のバンドパスフィルター234を、切替通知信号P2’はこれに対応した周波数(
図1におけるパイロット信号P2)のバンドパスフィルター235をそれぞれ通過して抽出される。
【0042】
次に、例えば国際公開公報WO2018/159411等に記載されるように、従属同期方式の場合には、IF2は、混合器236でローカル信号Loと混合されることによって、再びダウンコンバートされ、信号IFが再生され、パイロット信号P1は、このローカル信号Loを生成するために用いられる。一般的には、発振器237によって発振された周波数floの高周波と、前記のように抽出されたパイロット信号P1(周波数fp1)とが混合器238で混合された周波数fp1-floの高周波信号が対応するバンドパスフィルター239を通過後にローカル信号Loとされる。これにより、混合器236で生成された後に、対応するバンドパスフィルター239を通過した信号が前記のローカル信号Loとして用いられて信号IFが再生される。このIFが
図3(b)における第1放送機24Aに入力し、以降で用いられる。パイロット信号P1がSHF1において正常に存在していれば、こうした動作を行わせることができ、これは従属同期方式の一般的な動作である。
【0043】
一方、前記のように、例えば第1系統から第2系統への切替直後においては、パイロット信号P1が正常に付加されない場合がある。このような状況が直後に起こりうることは、受信装置20側で切替通知信号P2’を認識することによって、認識することができる。この場合においては、前記のようにIFを生成するためのローカル信号Lo(混合器236への入力)を準備することができない。これに対して、この第1受信変換器23Aにおいては、この場合において代替となるローカル信号Loを作成するための代替ローカル信号生成部30が設けられる。混合器236には、切替通知信号P2’がない場合には前記のようにバンドパスフィルター239を通過後の信号がローカル信号Loとして入力し、切替通知信号P2’がある場合には代替ローカル信号生成部30からの出力である代替ローカル信号Lo’が入力するように、切替器240によって切替通知信号P2’の有無によって切り替えて入力される。
【0044】
代替ローカル信号生成部30においては、ローカル信号Loと同様の周波数がfp1-floとなる高周波信号である代替ローカル信号Lo’を発振する発振器31が設けられる。ただし、この高周波信号は、一般的には前記のローカル信号Loと同期がとれていないため、そのままローカル信号Loを置換することはできない。この高周波信号の位相は発振器31においては印加される電圧で調整することができ、前記のバンドパスフィルター239を通過後のローカル信号Loを基準信号としたPLL(フェーズロックトループ)によって、この同期をとることができる。この電圧の調整のため、前記のバンドパスフィルター239を通過後のローカル信号Loは分離器241に入力し、一部が代替ローカル信号生成部30において発振器31との間の位相を比較する位相比較器32に入力し、この位相の差に応じたループフィルター33の出力電圧を発振器31の入力とすることによって、この同期をとることができる。この動作も、パイロット信号P1が正常に存在している間(切替通知信号P2’が存在しない間)に行われ、この出力電圧を、A/D変換器34を介して発振器制御部35が記憶することができる。
【0045】
一方、前記の切替器240と同期して動作する切替器36が設けられ、切替通知信号P2’が認められた場合には、ループフィルター33の出力電圧の代わりに、発振器制御部35が記憶した前記の出力電圧がD/A変換器37を介して発振器制御部35が記憶した前記の出力電圧が入力するように切り替えられる。すなわち、この場合には、記憶された出力電圧で制御されて発振器31で発振された代替ローカル信号Lo’が信号IFを再生するために用いられる。ここで発振器制御部35に記憶される出力電圧は、切替通知信号P2’が認められる直前のものとすることができるため、代替ローカル信号Lo’を、直前のローカル信号Loに近いものとすることができる。上記の例は第1受信変換器23Aであるが、第2受信変換器23Bについても同様の構成により同様の動作が行われる。
【0046】
このように、切替通知信号P2’が存在しない間はローカル信号Loを用いて周波数変換されて信号IFが生成され、切替通知信号P2’が存在する間は代替ローカル信号Lo’を用いて周波数変換されて信号IFが生成される。この信号IFは対応する周波数のバンドパスフィルター242を介して出力される。
【0047】
このため、パイロット信号P1が第1系統から第2系統へ(あるいは第2系統から第1系統へ)切替わった直後にパイロット信号P1が失われた場合でも、受信装置20においては、信号IFを適正に再生することができる。
【0048】
なお、切替通知信号P2’が認められた間においてローカル信号Loの代わりに用いられる代替ローカル信号Lo’の生成方法は、同様の特性のものが生成できる限りにおいて、他の手法を用いることもできる。また、切替通知信号についても、パイロット信号と共に主信号に多重して伝送信号を構成できるものであれば、他の形式のものを用いることができる。例えば、上記の例においては
図1におけるパイロット信号P1がそのまま用いられ、パイロット信号P2がその代わりに異なる機能をもつ切替通知信号P2’として用いられたが、逆に、
図1におけるパイロット信号P2をそのまま用い、パイロット信号P1を切替通知信号としてもよい。これらの場合、上記の伝送装置は、ARIB STD-B22に準拠した従来の伝送装置を基にして容易に実現することができる。
【0049】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、IF伝送方式が用いられ伝送装置に利用可能である。特に第1系統、第2系統からなる2つの伝送経路が切り替えて用いられ、主信号にパイロット信号が多重された構成を具備する伝送信号が送信側から受信側に向けて発せられる伝送装置に利用可能である。
この出願は、2021年3月18日に出願された日本出願特願2021-044202を基礎として優先権の利益を主張するものであり、その開示の全てを引用によってここに取り込む。
【符号の説明】
【0051】
10、80 送信装置(伝送装置)11、81 OFDM変調器12A、82A 第1送信変換器12B、82B 第2送信変換器13、83 SHF切替器14、84 送信アンテナ20、90 受信装置(伝送装置)21、91 受信アンテナ22、92 SHF分配器23A、93A 第1受信変換器23B、93B 第2受信変換器24A、94A 第1放送機24B、94B 第2放送機25 受信監視装置30 代替ローカル信号生成部31、237 発振器32 位相比較器33 ループフィルタ―34 A/D変換器35 発振器制御部36、125、240 切替器37 D/A変換器121、122、126、127、231 局部発振器123、124 合成器128、129、232、236、238 混合器233、241 分離器234、235、239、242 バンドパスフィルター