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  • 特許-リチウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20240718BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240718BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240718BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M10/0566
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023526182
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2021126905
(87)【国際公開番号】W WO2022089509
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】202011175816.X
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【弁理士】
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼娜
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼▲ロン▼
(72)【発明者】
【氏名】潘▲儀▼
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-076317(JP,A)
【文献】特開2012-221681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 4/58
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/587
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質材料を含む正極板と、負極活物質材料を含む負極板とを有する、リチウムイオン電池であって、
前記正極活物質材料は、リン酸マンガン鉄リチウム及び三元系材料を含み、
前記負極活物質材料は、黒鉛であり、
前記リチウムイオン電池は、以下の式を満たし、
1.08≦(M×η×y)/[(M×η×A+M×η×A)×x]≦1.12 (1)
0.49≦[M×(1-η)×A+M×(1-η)×A]×x/[M×(1-η)×y]≦1.15 (2)
式中、Mは、前記リン酸マンガン鉄リチウムの初回充電比容量であり、単位がmAh/gであり、ηは、前記リン酸マンガン鉄リチウムの初回効率であり、Aは、前記リン酸マンガン鉄リチウムの前記正極活物質材料中の質量パーセントであり、Mは、前記三元系材料の初回充電比容量であり、単位がmAh/gであり、ηは、前記三元系材料の初回効率であり、Aは、前記三元系材料の前記正極活物質材料中の質量パーセントであり、Mは、前記黒鉛の初回放電比容量であり、単位がmAh/gであり、ηは、前記黒鉛の初回効率であり、xは、前記正極活物質材料の塗布量であり、yは、前記負極活物質材料の塗布量であり、xとyは、単位が同じである、リチウムイオン電池。
【請求項2】
リチウムイオン電池の正極板において、リン酸マンガン鉄リチウムの実際の比容量が138mAh/gより大きい、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
以下の式を満たす、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
0.64≦[M×(1-η)×A+M×(1-η)×A]×x/[M×(1-η)×y]≦1.05
【請求項4】
電解液をさらに含み、以下の式を満たし、
0.6≦(M×η×A+M×η×A)×b×c/(a×A×1000)≦2.91 (3)
式中、aは、前記三元系材料の残留アルカリ量であり、bは、前記リチウムイオン電池の注液係数であり、cは、前記電解液中のHO残留量であり、前記aの値の範囲は、500ppm~1500ppmであり、前記bの値の範囲は、2.9g/Ah~3.8g/Ahであり、前記cの値の範囲は、200ppm~400ppmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
45℃で、2000回の充放電サイクルの後のMn溶出量が700ppmより小さい、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
以下の式を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
0.75≦(M×η×A+M×η×A)×b×c/(a×A×1000)≦1.48
【請求項7】
前記yと前記xとの比の範囲は、0.52~0.58である、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記正極活物質材料の総質量を基準として、前記Aの値の範囲は、75%~95%である、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記三元系材料の一般式は、LiNia1Cob1c1であり、
式中、0≦a1≦1、0≦b1≦1、0≦c1≦1、かつa1+b1+c1=1であり、前記Xは、第3B族~第5A族の少なくとも一種の金属元素である、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記三元系材料におけるNi、Co及びXのモル数の和を基準として、前記三元系材料におけるNiのモル数の割合範囲は、80%~95%である、請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権情報)
本願は、2020年10月28日に中国国家知識産権局に提出された、出願名称が「リチウムイオン電池」である中国特許出願第202011175816.X号の優先権を主張するものであり、その全ての内容は参照により本開示に組み込まれるものとする。
【0002】
本願は、動力機器の技術分野に関し、具体的には、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
エネルギー及び環境保護意識が徐々に高くなるにつれて、近年、新エネルギー自動車も著しい発展を遂げている。電気自動車は、主要な方向の1つとなる。電気自動車の動力電池において、リチウムイオン電池は、非常に重要な地位を占め、正極材料は、リチウムイオン電池の重要な構成部分として、その選択がリチウムイオン電池の性能に直接的に影響を与える。リン酸マンガン鉄リチウム(LMFPと略称される)正極材料は、構造安定性が高く、サイクル特性及び安全性が高いため、リチウムイオン電池の主流の正極材料となる。
【0004】
リン酸マンガン鉄リチウムは、高い理論比容量及び初回効率を有し、リチウムイオン電池に高い容量を提供することができる。しかしながら、リチウムイオン電池の負極黒鉛活物質は、充放電過程においてSEI膜を形成し、SEI膜の形成過程において、リン酸マンガン鉄リチウムにおける活性リチウムが消費され、リン酸マンガン鉄リチウムの実際比容量が低下し、リチウムイオン電池におけるリン酸マンガン鉄リチウムの容量発揮が制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の実施例は、従来のリチウムイオン電池の比容量におけるリン酸マンガン鉄リチウムの容量の効果的な発揮が困難であるという問題を解決するリチウムイオン電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本願の実施例は、下記技術手段を用いる。
【0007】
本願の実施例に係るリチウムイオン電池は、
正極活物質材料がリン酸マンガン鉄リチウム及び三元系材料を含む正極板と、負極活物質材料が黒鉛である負極板と、を含み、以下の式を満たし、
1.08≦(M×η×y)/[(M×η×A+M×η×A)×x]≦1.12 (1)
0.49≦[M×(1-η)×A+M×(1-η)×A]×x/[M×(1-η)×y]≦1.15 (2)
式中、Mは、前記リン酸マンガン鉄リチウムの初回充電比容量であり、単位がmAh/gであり、ηは、前記リン酸マンガン鉄リチウムの初回効率であり、Aは、リン酸マンガン鉄リチウムの正極活物質材料中の質量パーセントであり、Mは、前記三元系材料の初回充電比容量であり、単位がmAh/gであり、ηは、前記三元系材料の初回効率であり、Aは、三元系材料の正極活物質材料中の質量パーセントであり、Mは、前記黒鉛の初回放電比容量であり、単位がmAh/gであり、ηは、前記黒鉛の初回効率であり、xは、前記正極活物質材料の塗布量であり、yは、前記負極活物質材料の塗布量であり、xとyは、単位が同じである。
【0008】
本願のいくつかの実施例では、前記リチウムイオン電池の正極板におけるリン酸マンガン鉄リチウムの電池全体中の実際比容量が138mAh/gより大きい。
【0009】
本願のいくつかの実施例では、前記リチウムイオン電池は、以下の式を満たす。
0.64≦[M×(1-η)×A+M×(1-η)×A]×x/[M×(1-η)×y]≦1.05
【0010】
本願のいくつかの実施例では、前記リチウムイオン電池は、電解液をさらに含み、以下の式を満たし、
0.6≦(M×η×A+M×η×A)×b×c/(a×A×1000)≦2.91 (3)
式中、aは、前記三元系材料の残留アルカリ量であり、bは、前記リチウムイオン電池の注液係数であり、cは、前記電解液中のHO残留量であり、前記aの値の範囲は、500ppm~1500ppmであり、前記bの値の範囲は、2.9g/Ah~3.8g/Ahであり、前記cの値の範囲は、200ppm~400ppmである。
【0011】
本願のいくつかの実施例では、前記リチウムイオン電池は、45℃で、2000回の充放電サイクルの後のMn溶出量が700ppmより小さい。
【0012】
本願のいくつかの実施例では、前記リチウムイオン電池は、以下の式を満たす。
0.75≦(M×η×A+M×η×A)×b×c/(a×A×1000)≦1.48
【0013】
本願のいくつかの実施例では、前記yと前記xとの比の範囲は、0.52~0.58である。
【0014】
本願のいくつかの実施例では、前記正極活物質材料の総質量を基準として、前記Aの値の範囲は、75%~95%である。
【0015】
本願のいくつかの実施例では、前記三元系材料の一般式は、LiNia1Cob1c1であり、
式中、0≦a1≦1、0≦b1≦1、0≦c1≦1、かつa1+b1+c1=1であり、前記Xは、第3B族~第5A族の少なくとも一種の金属元素である。
【0016】
本願のいくつかの実施例では、前記三元系材料におけるNi、Co及びXのモル数の和を基準として、前記三元系材料におけるNiのモル数の割合範囲は、80%~95%である。
【発明の効果】
【0017】
本願の実施例が用いる技術手段は、以下の有益な効果を達成することができる。
【0018】
本願の実施例に係るリチウムイオン電池における正極板の正極活物質材料として、三元系材料及びリン酸マンガン鉄リチウム材料を混用するとともに、リン酸マンガン鉄リチウム及び三元系材料と負極活物質材料の黒鉛とに上記式(1)及び式(2)における関係式を満たさせることにより、混用後の正極活物質材料の初回効率と黒鉛材料の初回効率とが平衡になり、リン酸マンガン鉄リチウムの容量の効果的な発揮が保証され、さらにリチウムイオン電池の高い安全性を保証する上で、リチウムイオン電池のエネルギー密度及びサイクル特性を向上させる。
【0019】
本開示の追加の態様及び利点は、一部が以下の説明において示され、一部が以下の説明において明らかになるか、又は本開示の実施により把握される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
ここで説明される図面は、本願への理解を深めるためのものであり、本願の一部を構成し、本願の例示的な実施例及びそれらの説明は、本願を説明するものであり、本願を限定するものではない。
【0021】
図1】三元系材料、LFMP、及び三元系材料とLFMPとの混合材料のサイクリックボルタンメトリー(CV)曲線である。
図2】三元系材料、LFMP、及び三元系材料とLFMPとの混合材料の初回充放電サイクル曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の目的、技術手段及び利点をより明確にするために、以下、本願の具体的な実施例及び対応する図面を参照しながら、本願の技術手段を明確かつ完全に説明する。明らかに、説明された実施例は、本願の一部の実施例に過ぎず、全ての実施例ではない。本願における実施例に基づいて、当業者が創造的な労力をしない前提で得られる全ての他の実施例は、いずれも本願の保護範囲に属する。
【0023】
本願の明細書及び特許請求の範囲における用語「第1」、「第2」などは、類似した対象を区別するためのものであり、特定の順序又は優先順位を説明するものではない。本願の実施例が、例えばここでの図示又は説明以外の順序でも実施できるように、このように使用されたデータは、適宜入れ替えてもよく、かつ「第1」、「第2」などで区別される対象は、一般的に同じ種類であり、対象の数を限定せず、例えば、第1対象が1つであってもよく、複数であってもよいことを理解されたい。また、明細書及び特許請求の範囲における「及び/又は」は、接続対象の少なくとも1つを表し、符号「/」は、一般的に前後の関連対象が「又は」の関係であることを表す。
【0024】
以下、図面を参照しながら、本願の各実施例に係る技術手段を詳細に説明する。
【0025】
本願の実施例に係るリチウムイオン電池は、
正極活物質材料がLMFP(リン酸マンガン鉄リチウム)及び三元系材料を含む正極板と、負極活物質材料が黒鉛である負極板と、を含み、以下の式を満たし、
1.08≦(M×η×y)/[(M×η×A+M×η×A)×x]≦1.12 (1)
0.49≦[M×(1-η)×A+M×(1-η)×A]×x/[M×(1-η)×y]≦1.15 (2)
式中、Mは、上記LMFPの初回充電比容量であり、単位がmAh/gであり、ηは、上記LMFPの初回効率であり、Aは、LMFPの正極活物質材料中の質量パーセントであり、Mは、上記三元系材料の初回充電比容量であり、単位がmAh/gであり、ηは、上記三元系材料の初回効率であり、Aは、三元系材料の正極活物質材料中の質量パーセントであり、Mは、上記黒鉛の初回放電比容量であり、単位がmAh/gであり、ηは、上記黒鉛の初回効率であり、xは、上記正極活物質材料の塗布量であり、yは、上記負極活物質材料の塗布量であり、xとyは、単位が同じであり、yとxとの比の範囲が0.52~0.58である。
【0026】
具体的には、正極活物質材料に対して、初回効率は、ボタン電池の初回放電容量と初回充電容量との比であり、負極活物質材料に対して、初回効率は、ボタン電池の初回充電容量と初回放電容量との比である。
【0027】
さらに、式2中の[M×(1-η)×A+M×(1-η)×A]×x/[M×(1-η)×y]をαに設定し、本願の一実施例では、αの範囲は、0.64~1.05であってもよい。
【0028】
具体的には、図1及び図2に示すように、LMFPにおけるMnの電圧プラトーが約4.15V(vs.Li)であり、三元系材料のH2-H3相転移の電圧プラトーが約4.25V(vs.Li)であり、LMFP及び三元系材料の電圧プラトーに電圧相乗効果が存在し、このような相乗効果は、三元系材料自体のH2-H3相転移による表面構造の不安定性を低減することができるため、上記正極活物質材料における三元系材料は、H2-H3相転移が発生しにくく、三元系材料の構造安定性に寄与し、三元系材料の安全性及びサイクル特性を向上させる。したがって、LMFP及び三元系材料を混合して得られた正極活物質材料は、正極活物質材料に二重電圧プラトーが存在することを回避することにより、正極活物質材料における各材料の容量の十分な発揮に寄与する。LMFPは、三元系材料に対して高い安全性を有し、リチウムイオン電池の安全性を向上させることができる。
【0029】
リチウムイオン電池の初回充放電過程において、負極板の表面におけるSEI膜の形成は、正極活物質材料からの活性リチウムを消費する必要がある。負極が黒鉛である場合、黒鉛の初回効率がLMFP材料の初回効率より小さいため、LMFP材料のみを正極活物質材料として用いる場合、LMFP材料は、初回効率による不可逆リチウム量が小さくて、黒鉛におけるSEI膜の形成に十分ではないため、黒鉛は、LMFPにおける活性リチウムを余分に消費し、このようにLMFPの実際比容量の発揮が低下し、さらにリチウムイオン電池のエネルギー密度が低くなり、三元系材料の初回効率が黒鉛の初回効率より小さく、三元系材料の負極に残す多くの不可逆リチウムは、黒鉛におけるSEI膜の形成に十分であり、LMFP及び三元系材料が混用される場合、三元系材料は、実質的にLMFPにリチウムを補充することに相当し、LMFPの電池全体中の実際比容量が向上し、リチウムイオン電池のエネルギー密度が向上する。
【0030】
リチウムイオン電池の設計時に、電池の負極板により提供された容量と正極板により提供された容量との比は、N/P(負極活物質グラム容量×負極面密度×負極活物質含有量比)/(正極活物質グラム容量×正極面密度×正極活物質含有量比)比と呼ばれ、該比の範囲は、一般的に1.08~1.12であり、つまり、式1に示す割合範囲に達する必要がある。より重要なのは、三元系材料の初回効率が黒鉛の初回効率より低く、黒鉛の初回効率がLMFPの初回効率より低いため、三元系材料及びLMFP材料が混用される場合、両者の混用割合が一定の範囲にあってこそ、混用後の正極活物質材料の初回効率と黒鉛材料の初回効率とが平衡になることができ、つまり、式2に示す割合範囲に達する必要があり、上記式2を満たすと、正極活物質材料におけるLMFP材料の実際比容量の発揮を向上させることに寄与し、リチウムイオン電池の安全性が保証される上で、リチウムイオン電池のエネルギー密度が向上する。
【0031】
本願の別の実施例では、上記リチウムイオン電池の正極板におけるLMFPの電池全体中の比容量が138mAh/gより大きく、該比容量は、LMFP材料がリチウムイオン電池の充放電過程において実際に発揮した容量であり、一般的にLMFP材料の理論比容量より小さい。上記正極活物質材料の総質量を基準として、上記正極活物質材料におけるLMFPの質量分率の範囲は、75%~95%である。
【0032】
具体的には、三元系材料及びLMFP材料が混用される場合に、三元系材料の割合が低すぎる場合、三元系材料は、初回効率が低いため、損失したリチウムイオンも低すぎ、これらのリチウムイオンは、黒鉛による消費とSEI膜の形成に十分ではないため、負極板における黒鉛にSEI膜が形成されるように、LMFPにおけるリチウムイオンを余分に消費する必要があり、このように正極板におけるLMFPの実際比容量が低くなり、正極活物質材料における三元系材料の割合が高すぎる場合、一方では、三元系材料の構造安定性がLMFPに対して低いため、正極活物質材料の混合体系のサイクル容量維持率が低くなり、その一方では、三元系材料の充放電過程における安全性が低く、リチウムイオン電池の安全使用に不利となる。したがって、リチウムイオン電池の混用した正極活物質材料の初回効率と黒鉛材料の初回効率とが平衡になる場合、つまり、式2に示す割合範囲を満たす場合、上記リチウムイオン電池の正極板におけるLMFPの電池全体中の比容量の発揮は、138mAh/g、ひいてはより高いレベルに達することができ、正極活物質材料におけるLMFP材料の比容量発揮が保証される。
【0033】
本願のまた別の実施例では、上記リチウムイオン電池は、電解液をさらに含み、以下の式を満たし、
0.6≦(M×η×A+M×η×A)×b×c/(a×A×1000)≦2.91 (3)
式中、aは、上記三元系材料の残留アルカリ量であり、単位がppmであり、bは、上記リチウムイオン電池の注液係数であり、単位がg/Ahであり、cは、上記電解液中のHO残留量であり、単位がppmである。
【0034】
さらに、式3中の(M×η×A+M×η×A)×b×c/(a×A×1000)の値をβに設定し、本願の一実施例では、βの値の範囲は、0.75~1.48であってもよい。
【0035】
具体的には、電池の実際の製造過程において、電解液中に一定の微量の水が不可避的に存在し、HOと電解液中のヘキサフルオロリン酸リチウムなどのリチウム塩とが反応してHF(フッ化水素酸)を生成しやすく、HFがLMFPにおけるFe及びMnの溶出を引き起こすため、LMFP材料の構造安定性及びリチウムイオン電池のサイクル寿命が低下する。三元系材料の表面の残留アルカリが電解液中の生成したHFと反応し、すなわち、HFが消費されるため、LMFP材料におけるFe及びMnの溶出を抑制することに寄与し、かつMnの溶出に対する抑制がより顕著であり、さらに正極活物質材料のサイクル特性を向上させることに寄与し、リチウムイオン電池の寿命を延長することに寄与する。したがって、三元系材料の残留アルカリ量、リチウムイオン電池における電解液の注液係数及び電解液中のHO残留量は、三元系材料の表面の残留アルカリを十分に利用して電解液中のHFを効果的に消費し、リチウムイオン電池の寿命を延長することを達成するように、式3に示す割合範囲を満たす必要がある。
【0036】
本願のさらに別の実施例では、上記リチウムイオン電池は、45℃で、2000回の充放電サイクルの後のMn溶出量が700ppmより小さい。
【0037】
具体的には、リチウムイオン電池の充放電過程において、電解液中に多くのHFが存在する場合、LMFP材料におけるFe及びMnの溶出量が高く、LMFP材料の構造完全性が損なわれ、LMFP材料のサイクル特性、レート特性などの電気特性が低下する。三元系材料の表面の残留アルカリを利用して電解液中のHFを効果的に消費すると、LMFP材料におけるFe及びMnの溶出が大幅に低減され、特にMnの溶出が低減されるため、リチウムイオン電池は、45℃で、2000回の充放電サイクルの後のMn溶出量が依然として700ppmより小さく、電池のサイクル特性が向上する。
【0038】
本願のさらに別の実施例では、上記aの値の範囲は、500ppm~1500ppmであり、上記bの値の範囲は、2.9g/Ah~3.8g/Ahであり、上記cの値の範囲は、200ppm~400ppmである。
【0039】
具体的には、つまり、三元系材料の表面の残留アルカリ量の範囲は、500ppm~1500ppmであり、電解液の注液係数の範囲は、2.9g/Ah~3.8g/Ahであり、電解液中のHO残留量の範囲は、200ppm~400ppmであり、HOと電解液中のヘキサフルオロリン酸リチウムとが反応して生成されたHFは、三元系材料の表面の残留アルカリと反応し、HFの消費が実現され、正極活物質材料のサイクル特性及びリチウムイオン電池の寿命が保証される。
【0040】
本願のさらに別の実施例では、上記三元系材料の一般式は、LiNia1Cob1c1であり、
式中、0≦a1≦1、0≦b1≦1、0≦c1≦1、かつa1+b1+c1=1であり、上記Xは、第3B族~第5A族の少なくとも一種の金属元素である。
【0041】
具体的には、上記三元系材料の安全安定性及び結晶構造の完全性を向上させるように、三元系材料におけるMn元素は、一部又は全てがAl、Zr、Ti、Y、Sr及びWなどの元素で置換される。
【0042】
本願の1つの具体的な実施例では、上記三元系材料におけるNi、Co及びXのモル数の和を基準として、上記三元系材料におけるNiのモル数の百分率は、80%~95%である。
【0043】
具体的には、上記三元系材料におけるNiのモル数の百分率が80%~95%である場合、上記三元系材料は、高ニッケル三元系材料と呼ばれ、高ニッケル三元系材料は、コストが低く、エネルギー密度が高く、可逆容量が高く、環境に優しいなどの利点を有し、リチウムイオン電池の比容量を大幅に向上させることができる。高ニッケル三元系材料の安全性が低いが、LMFPと高ニッケル三元系材料とが混用される場合、混合割合が一定の範囲にあると、LMFP材料体系の元の安全性を保証し、電池の使用安全を保証することができる。
【0044】
以下、具体的な実施例の形態で本願の技術手段を詳細に説明する。
【0045】
正極活物質材料の選択について、
初回充電比容量が165mAh/gで、初回効率が98%であるLMFPを選択し、初回充電比容量が238mAh/gで、初回効率が86%である高ニッケル三元系材料(Ni、Co及びMnのモル比が0.83:0.12:0.05である)を選択し、LMFP及び高ニッケル三元系材料を混合して正極活物質材料を形成し、正極活物質材料におけるLMFPの質量分率がAであり、正極活物質材料における高ニッケル三元系材料の質量分率がAであり、A+A=1である。高ニッケル三元系材料の残留アルカリ量は、700ppmである。
【0046】
負極活物質材料の選択について、
初回放電容量が355mAh/gで、初回効率が95%である黒鉛を選択する。
【0047】
電解液の選択について、
リチウムイオン電池における電解液の注液係数は、3.1g/Ahであり、リチウムイオン電池の組み立て後の電解液中のHO残留量は、200ppmである。
【0048】
上記選択された正極活物質材料、負極活物質材料及び電解液でリチウムイオン電池を製造し、製造フローは、以下のステップS101~S103を含む。
【0049】
S101では、NMP(N-メチルピロリドン)及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を撹拌機に入れて1h撹拌し、次に導電性黒鉛を導電剤として入れて0.5h撹拌し、そして正極活物質材料(リン酸マンガン鉄リチウム及び三元系材料)を入れて1.5h撹拌して正極スラリーを形成し、正極スラリーを篩にかけてアルミニウム箔の集電体に塗布し、正極スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で12h真空乾燥させ、最後に、乾燥した、正極スラリーが塗布されたアルミニウム箔をロールプレスし、スリットして、正極板を得る。正極板は、片面面密度が2.0g/dmであり、圧密密度が2.6g/cmである。
【0050】
S102では、水、SBR及びCMCを混合して(SBRがスチレンブタジエンゴムであり、CMCがカルボキシメチルセルロースナトリウムである)、撹拌機に入れて1h撹拌し、次に導電性黒鉛を導電剤として入れて0.5h撹拌し、そして負極活物質材料の黒鉛を入れて1.5h撹拌して負極スラリーを形成し、負極スラリーを篩にかけて銅箔の集電体に塗布し、負極スラリーが塗布された銅箔を100℃で12h真空乾燥させ、最後に、乾燥した、負極スラリーが塗布された銅箔をロールプレスし、スリットして、負極板を得る。
【0051】
S103では、正極板、セパレータ及び負極板を電池のケース内に入れて、セパレータ(両面にセラミックが塗布されたPEセパレータ)を正極板と負極板との間に配置し、次に電解液(電解液は、溶媒及びLiPF含み、溶媒は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)及び炭酸エチルメチル(EMC)を含み、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジメチル(DMC)と炭酸エチルメチル(EMC)との体積比が1:1:1であり、電解液中のLiPFの濃度が1mol/Lである)を注入して電池のケースを密封して、リチウムイオン電池を得る。
【0052】
具体的には、以下の実施例1~実施例5、比較例1及び比較例2のリチウムイオン電池を得る。
【実施例1】
【0053】
正極活物質材料におけるLMFPの質量分率Aは、95%であり、正極活物質材料における高ニッケル三元系材料の質量分率Aは、5%である。
【実施例2】
【0054】
正極活物質材料におけるLMFPの質量分率Aは、91.1%であり、正極活物質材料における高ニッケル三元系材料の質量分率Aは、8.9%である。
【実施例3】
【0055】
正極活物質材料におけるLMFPの質量分率Aは、88%であり、正極活物質材料における高ニッケル三元系材料の質量分率Aは、12%である。
【実施例4】
【0056】
正極活物質材料におけるLMFPの質量分率Aは、85.5%であり、正極活物質材料における高ニッケル三元系材料の質量分率Aは、14.5%である。
【実施例5】
【0057】
正極活物質材料におけるLMFPの質量分率Aは、75%であり、正極活物質材料における高ニッケル三元系材料の質量分率Aは、25%である。
(比較例1)
【0058】
正極活物質材料におけるLMFPの質量分率Aは、98%であり、正極活物質材料における高ニッケル三元系材料の質量分率Aは、2%である。
(比較例2)
【0059】
正極活物質材料におけるLMFPの質量分率Aは、70%であり、正極活物質材料における高ニッケル三元系材料の質量分率Aは、30%である。
【0060】
黒鉛の負極板における塗布量yと、正極活物質材料の正極板における塗布量x(xとyの単位が同じである)との比y/x=0.55を制御する上で、上記実施例1~実施例5、比較例1及び比較例2のリチウムイオン電池に対して、式2及び式3の検算を行って、α及びβの値を得て、実施例1~実施例5、比較例1及び比較例2のリチウムイオン電池に対して、正極におけるLMFPの比容量の測定、45℃での2000回のサイクル後の容量維持率の測定、45℃での2000回のサイクル後のMn溶出量の測定及び正極活物質材料のDSC(示差走査熱量計)熱暴走トリガ温度の測定を行い、測定過程は、具体的には以下のとおりである。
【0061】
正極におけるLMFPの電池全体中の比容量の測定について、
常温(25℃)で、上記リチウムイオン電池を0.1Cレートで充電し、0.1Cレートで放電し、充放電電圧の範囲を2.5V~4.2Vとし、充放電サイクルを3回行って、極板の塗布量及びリチウムイオン電池の3回目の放電容量に基づいて、正極におけるLMFPの電池全体中の比容量を計算する。
【0062】
2000回の充放電サイクルの後の容量維持率の測定について、
上記リチウムイオン電池を1Cレートで充電し、1Cレートで放電し、充放電電圧の範囲を2.5V~4.2Vとし、45℃で充放電サイクルを2000回行った後、電池の1回目のサイクルと2000回目のサイクルとの電池放電容量の比に基づいて、電池の2000回のサイクルの後の容量維持率を得る。
【0063】
2000回の充放電サイクルの後のMn溶出量の測定について、
45℃で充放電サイクルを2000回行った後のリチウムイオン電池を解体し、負極板の負極活物質材料を取り出し、ICPで負極活物質材料におけるMnの溶出量を測定する。
【0064】
正極活物質材料のDSC熱暴走トリガ温度の測定について、
上記リチウムイオン電池の正極活物質材料を満充電状態に充電し(具体的な方式は、カットオフ電圧が4.2Vになるように0.1Cで定電流充電し、カットオフ電流が0.05Cになるように4.2Vで低電圧充電することである)、満充電状態の正極板及び電解液を高温坩堝に入れて、5℃/minの昇温速度で昇温させ、示差走査熱量計(DSC)でそのサーモグラムを測定して、正極材料の熱暴走のトリガ温度を観察する。
【0065】
表1は、実施例1~実施例5、比較例1及び比較例2のリチウムイオン電池に対する式2及び式3の検算データ及び測定データを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
備考:表1における2000回の充放電サイクルテスト後のMn溶出量は、純粋LMFPの場合に対応するMn溶出量に換算されたものである。
【0068】
表1から分かるように、実施例1~実施例5のリチウムイオン電池に対して式2及び式3の検算を行った後、α及びβは、いずれも本願の式2及び式3により限定された範囲にあり、つまり0.49≦α≦1.15、0.6≦β≦2.91である。また、リチウムイオン電池の正極板におけるLMFPの電池全体中の比容量は、138mAh/gより大きく、実施例5のリチウムイオン電池の場合、141mAh/gに達することができる。リチウムイオン電池の2000回の充放電サイクルの後の容量維持率は、70%より大きく、実施例2のリチウムイオン電池の場合、80%に達することができ、リチウムイオン電池の2000回の充放電サイクルテスト後のMn溶出量は、700ppmより小さく、実施例3のリチウムイオン電池の2000回の充放電サイクルテスト後のMn溶出量は、600ppmのみである。安全性の面で、LMFP及び高ニッケル三元系材料が効果的に配合されることにより、実施例1~実施例5のリチウムイオン電池の正極活物質材料のDSCトリガ温度が243℃より高く、つまり、243℃以下の範囲内に安全に動作することができ、リチウムイオン電池の安全性が向上する。
【0069】
比較例1及び比較例2のリチウムイオン電池に対して式2及び式3の検算を行った後、α及びβは、いずれも本願の式2及び式3により限定された範囲になく、つまり、αが0.49~1.15の範囲内になく、βが0.6~2.91の範囲内にない。リチウムイオン電池の正極板におけるLMFPの電池全体中の比容量は、いずれも135mAh/gより小さく、リチウムイオン電池の2000回の充放電サイクルの後の容量維持率は、60%より小さく、リチウムイオン電池の2000回の充放電サイクルテスト後のMn溶出量は、1000ppmより大きく、比較例1におけるリチウムイオン電池の2000回の充放電サイクルテスト後のMn溶出量は、ひいては1350ppmに達する。安全性の面で、比較例2のリチウムイオン電池の正極活物質材料が多くの高ニッケル三元系材料を含有するため、正極活物質材料のDSCトリガ温度が235℃のみであり、リチウムイオン電池の高温での使用が制限される。
【0070】
以上、図面を参照しながら本願の実施例を説明したが、本願は、上記具体的な実施形態に限定されるものではなく、上記具体的な実施形態は、限定的なものではなく、例示的なものに過ぎず、当業者であれば、本願の示唆で、本願の趣旨及び特許請求の範囲の保護範囲から逸脱せずに多くの形式を行うことができ、これらはいずれも本願の保護範囲内に属する。
図1
図2