(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】電磁波透過カバー
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20240719BHJP
H01Q 1/42 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01S7/03 246
H01Q1/42
(21)【出願番号】P 2021155661
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】香西 竣太
(72)【発明者】
【氏名】道家 真一
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/334397(US,A1)
【文献】特開2019-155946(JP,A)
【文献】特開2019-035667(JP,A)
【文献】特開2000-012201(JP,A)
【文献】特開平07-297616(JP,A)
【文献】特開2016-085889(JP,A)
【文献】特開2017-117785(JP,A)
【文献】特開2014-207283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
H01Q 1/42
H05B 3/20 - 3/38
3/84 - 3/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を送信及び受信する装置が搭載された乗物に適用され、前記電磁波の送信方向における前記装置の前方に配置され、かつ同送信方向に複数の層が積層された層構造を有し、複数の前記層の1つがヒータフィルムにより構成された電磁波透過カバーであって、
前記ヒータフィルムは、導電性材料により形成された導電部を備え、
前記導電部は、複数のヒータ線部、第1電極部及び第2電極部を備え、
前記第1電極部及び前記第2電極部は、前記電磁波の透過領域よりも外側であって、同透過領域を挟んで対向する箇所に配置されており、
前記第1電極部及び前記第2電極部が対向する方向を対向方向とし、前記対向方向に対し交差する方向を交差方向とした場合、前記第1電極部及び前記第2電極部は、互いに反対方向へ膨らむように湾曲しながら前記交差方向へ延び、複数の前記ヒータ線部は前記交差方向に離間して配置されており、
前記ヒータ線部毎の第1端部は前記第1電極部に接続され、前記ヒータ線部毎の第2端部は前記第2電極部に接続され、
さらに、前記交差方向における中央部に位置する前記ヒータ線部の1つを中央ヒータ線部とし、他の前記ヒータ線部を一般ヒータ線部とした場合、各一般ヒータ線部が前記中央ヒータ線部に対し90~110%の長さを有するように、前記中央ヒータ線部及び前記一般ヒータ線部は、蛇行しながら前記対向方向に延びる蛇行部を有している電磁波透過カバー。
【請求項2】
複数の前記ヒータ線部と同数設定され、かつ互いに前記交差方向に離間した状態で前記対向方向へ直線状に延びる複数の仮想線を基準線とし、前記基準線を基準として前記交差方向の両方向へ振れながら前記対向方向へ延びる形状を単位形状とし、前記対向方向における前記単位形状の長さを周期とした場合、
前記蛇行部では、前記単位形状が繰り返されており、
前記中央ヒータ線部の前記蛇行部における前記単位形状の前記周期と、前記一般ヒータ線部の前記蛇行部における前記単位形状の前記周期とが異なるように設定されている請求項1に記載の電磁波透過カバー。
【請求項3】
前記導電部は、電力供給のための機器が接続されるプラス端子部及びマイナス端子部をさらに備え、
前記第1電極部は、前記プラス端子部に接続された第1プラス電極部と、前記マイナス端子部に接続された第1マイナス電極部とからなり、
前記第1プラス電極部は、前記プラス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有し、前記第1マイナス電極部は、前記マイナス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有している請求項1又は2に記載の電磁波透過カバー。
【請求項4】
電磁波を送信及び受信する装置が搭載された乗物に適用され、前記電磁波の送信方向における前記装置の前方に配置され、かつ同送信方向に複数の層が積層された層構造を有し、複数の前記層の1つがヒータフィルムにより構成された電磁波透過カバーであって、
前記ヒータフィルムは、導電性材料により形成された導電部を備え、
前記導電部は、複数のヒータ線部、第1電極部及び第2電極部を備え、
前記第1電極部及び前記第2電極部は、前記電磁波の透過領域よりも外側であって、同透過領域を挟んで対向する箇所に配置されており、
前記第1電極部及び前記第2電極部が対向する方向を対向方向とし、前記対向方向に対し交差する方向を交差方向とした場合、前記第1電極部及び前記第2電極部はそれぞれ前記交差方向へ延び、複数の前記ヒータ線部は前記交差方向に離間して配置されており、
前記ヒータ線部毎の第1端部は前記第1電極部に接続され、前記ヒータ線部毎の第2端部は前記第2電極部に接続され、
前記導電部は、電力供給のための機器が接続されるプラス端子部及びマイナス端子部をさらに備え、
前記第1電極部は、前記プラス端子部に接続された第1プラス電極部と、前記マイナス端子部に接続された第1マイナス電極部とからなり、
前記第1プラス電極部は、前記プラス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有し、前記第1マイナス電極部は、前記マイナス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有している電磁波透過カバー。
【請求項5】
前記第2電極部は、前記第1プラス電極部及び前記第1マイナス電極部の間の中継電極部として、前記第1プラス電極部及び前記第1マイナス電極部に対向し、
一部の前記ヒータ線部では、前記第1端部が前記第1プラス電極部に接続され、かつ前記第2端部が前記第2電極部に接続され、残部の前記ヒータ線部では、前記第1端部が前記第1マイナス電極部に接続され、かつ前記第2端部が前記第2電極部に接続され、
前記第2電極部は、前記交差方向における中央部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有している請求項3又は4に記載の電磁波透過カバー。
【請求項6】
前記ヒータ線部毎の前記第1端部は、同第1端部に設定された第1起点から分岐した2本の直線状の第1分岐線部を有しており、両第1分岐線部の間隔は、前記第1起点から遠ざかるに従い拡大し、両第1分岐線部は、前記第1電極部の互いに前記交差方向に離間した箇所に接続され、
前記ヒータ線部毎の前記第2端部は、同第2端部に設定された第2起点から分岐した2本の直線状の第2分岐線部を有しており、両第2分岐線部の間隔は、前記第2起点から遠ざかるに従い拡大し、両第2分岐線部は、前記第2電極部の互いに前記交差方向に離間した箇所に接続されている請求項1~5のいずれか1項に記載の電磁波透過カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波等の電磁波を送信及び受信する装置を、電磁波の送信方向における前方から覆う電磁波透過カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波等の電磁波を送信及び受信する装置が搭載された車両では、同装置から電磁波が車外へ向けて送信される。先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された電磁波は、上記装置によって受信される。そして、上記装置は、送信及び受信した電磁波により上記物体を認識し、車両と物体との距離、相対速度等を検出する。
【0003】
上記車両では、電磁波の送信方向における上記装置の前方に、電磁波を透過する電磁波透過カバーが配置される。上記電磁波透過カバーは、上記送信方向に複数の層が積層された層構造を有し、上記装置を上記送信方向における前方から覆う。
【0004】
ここで、上記電磁波透過カバーに氷雪が付着すると電磁波が減衰され、上記装置の検出性能が低下する問題がある。そこで、ヒータフィルムを付加した下記電磁波透過カバーが考えられている。
【0005】
ヒータフィルムは、導電性材料により形成された導電部を備える。導電部は、例えば、特許文献1に記載されているように、複数のヒータ線部(加熱導体)、及び一対の電極部(バスバー電極)を備える。両電極部は、電磁波の透過領域よりも外側であって、同透過領域を挟んで対向する箇所に位置する。
【0006】
ここで、両電極部が対向する方向を対向方向とし、上記対向方向に対し交差する方向を交差方向とする。両電極部は、それぞれ一定の線幅で上記交差方向へ直線状に延びる。複数のヒータ線部の各々は、蛇行しながら対向方向へ延び、両電極部に接続される。
【0007】
なお、上記特許文献1についての記載中、部材名称に続く括弧内の名称は、同特許文献1で使用されている部材名称である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載された技術は、一対の電極部が直線状をなしていて互いに平行に配置されることを前提としている。そのため、上記技術を、両電極部が、対向方向のうち、互いに遠ざかる側へ膨らむように湾曲しながら交差方向へ延びている場合に適用した場合、次の問題が懸念される。それは、ヒータ線部の長さが上記交差方向における中央部で最長となり、同中央部から遠ざかるに短くなる。これに伴い、両電極部間での発熱分布が上記交差方向にばらつくおそれがあることである。
【0010】
また、各電極部において上記交差方向に電流密度がばらつき、電極部の発熱分布が上記交差方向にばらつくおそれもある。
このように、上記特許文献1に記載された技術には、交差方向における発熱分布の均一化の点で改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する電磁波透過カバーは、電磁波を送信及び受信する装置が搭載された乗物に適用され、前記電磁波の送信方向における前記装置の前方に配置され、かつ同送信方向に複数の層が積層された層構造を有し、複数の前記層の1つがヒータフィルムにより構成された電磁波透過カバーであって、前記ヒータフィルムは、導電性材料により形成された導電部を備え、前記導電部は、複数のヒータ線部、第1電極部及び第2電極部を備え、前記第1電極部及び前記第2電極部は、前記電磁波の透過領域よりも外側であって、同透過領域を挟んで対向する箇所に配置されており、前記第1電極部及び前記第2電極部が対向する方向を対向方向とし、前記対向方向に対し交差する方向を交差方向とした場合、前記第1電極部及び前記第2電極部は、互いに反対方向へ膨らむように湾曲しながら前記交差方向へ延び、複数の前記ヒータ線部は前記交差方向に離間して配置されており、前記ヒータ線部毎の第1端部は前記第1電極部に接続され、前記ヒータ線部毎の第2端部は前記第2電極部に接続され、さらに、前記交差方向における中央部に位置する前記ヒータ線部の1つを中央ヒータ線部とし、他の前記ヒータ線部を一般ヒータ線部とした場合、各一般ヒータ線部が前記中央ヒータ線部に対し90~110%の長さを有するように、前記中央ヒータ線部及び前記一般ヒータ線部は、蛇行しながら前記対向方向に延びる蛇行部を有している。
【0012】
上記の構成によれば、電磁波透過カバーの導電部では、第1電極部、複数のヒータ線部及び第2電極部の順に電流が流れると、又はその逆に第2電極部、複数のヒータ線部及び第1電極部の順に電流が流れると、ヒータ線部を含む各部がそれぞれ発熱する。
【0013】
ここで、第1電極部及び第2電極部が上記のように互いに反対方向へ膨らむように湾曲している場合、両電極部の間隔は、上記交差方向における位置に応じて異なる。
仮に、全てのヒータ線部が上記対向方向に真っ直ぐ延びていると、ヒータ線部の長さは、同ヒータ線部間で異なる。長さが短くなるに従い、ヒータ線部の発熱量が少なくなる。導電部では、両電極部間における発熱分布が上記交差方向にばらつく。
【0014】
この点、上記の構成によれば、中央ヒータ線部及び一般ヒータ線部が、蛇行しながら対向方向に延びる蛇行部を有している。この蛇行部の形状等がヒータ線部間で異ならせられることにより、各一般ヒータ線部の長さが中央ヒータ線部の長さの90~110%に調整される。この調整により、中央ヒータ線部及び一般ヒータ線部の各長さが、ヒータ線部間で揃えられる。そのため、ヒータ線部間の発熱量のばらつきが小さくなり、両電極部間では、上記交差方向における発熱分布のばらつきが小さくなる。
【0015】
上記電磁波透過カバーにおいて、複数の前記ヒータ線部と同数設定され、かつ互いに前記交差方向に離間した状態で前記対向方向へ直線状に延びる複数の仮想線を基準線とし、前記基準線を基準として前記交差方向の両方向へ振れながら前記対向方向へ延びる形状を単位形状とし、前記対向方向における前記単位形状の長さを周期とした場合、前記蛇行部では、前記単位形状が繰り返されており、前記中央ヒータ線部の前記蛇行部における前記単位形状の前記周期と、前記一般ヒータ線部の前記蛇行部における前記単位形状の前記周期とが異なるように設定されていることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、蛇行部の単位形状の周期が、中央ヒータ線部と一般ヒータ線部とで異なるように設定されている。この設定により、各一般ヒータ線部の長さを中央ヒータ線部の長さの90~110%に調整し、中央ヒータ線部及び一般ヒータ線部の各長さを、ヒータ線部間で揃えることが可能である。
【0017】
上記電磁波透過カバーにおいて、前記導電部は、電力供給のための機器が接続されるプラス端子部及びマイナス端子部をさらに備え、前記第1電極部は、前記プラス端子部に接続された第1プラス電極部と、前記マイナス端子部に接続された第1マイナス電極部とからなり、前記第1プラス電極部は、前記プラス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有し、前記第1マイナス電極部は、前記マイナス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有していることが好ましい。
【0018】
上記課題を解決する電磁波透過カバーは、電磁波を送信及び受信する装置が搭載された乗物に適用され、前記電磁波の送信方向における前記装置の前方に配置され、かつ同送信方向に複数の層が積層された層構造を有し、複数の前記層の1つがヒータフィルムにより構成された電磁波透過カバーであって、前記ヒータフィルムは、導電性材料により形成された導電部を備え、前記導電部は、複数のヒータ線部、第1電極部及び第2電極部を備え、前記第1電極部及び前記第2電極部は、前記電磁波の透過領域よりも外側であって、同透過領域を挟んで対向する箇所に配置されており、前記第1電極部及び前記第2電極部が対向する方向を対向方向とし、前記対向方向に対し交差する方向を交差方向とした場合、前記第1電極部及び前記第2電極部はそれぞれ前記交差方向へ延び、複数の前記ヒータ線部は前記交差方向に離間して配置されており、前記ヒータ線部毎の第1端部は前記第1電極部に接続され、前記ヒータ線部毎の第2端部は前記第2電極部に接続され、前記導電部は、電力供給のための機器が接続されるプラス端子部及びマイナス端子部をさらに備え、前記第1電極部は、前記プラス端子部に接続された第1プラス電極部と、前記マイナス端子部に接続された第1マイナス電極部とからなり、前記第1プラス電極部は、前記プラス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有し、前記第1マイナス電極部は、前記マイナス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有している。
【0019】
上記のように、プラス端子部及びマイナス端子部が設けられ、かつ第1電極部が、上記の条件を満たす線幅を有する第1プラス電極部及び第1マイナス電極部によって構成されている場合、電流が次のように流れる。
【0020】
機器から導電部に電力が供給されると、電流が、プラス端子部、第1プラス電極部、複数のヒータ線部のうち第1プラス電極部に接続されたもの、及び第2電極部の順に流れる。第2電極部を流れた電流は、複数のヒータ線部のうち第1マイナス電極部に接続されたもの、第1マイナス電極部、及びマイナス端子部の順に流れる。上記通電により、導電部の各部が発熱する。第1電極部も発熱の対象となる。
【0021】
ここで、電流がプラス端子部から第1プラス電極部へ移る際には、電流は、同第1プラス電極部を、交差方向に沿って同プラス端子部から遠ざかる側へ流れる。この過程で、電流は、第1プラス電極部から、第1端部が同第1プラス電極部に接続された複数のヒータ線部に移る。
【0022】
また、第1端部が第1マイナス電極部に接続された複数のヒータ線部をそれぞれ流れた電流は、第1マイナス電極部で合流する。この電流は、第1マイナス電極部を交差方向におけるマイナス端子部側へ流れた後、同マイナス端子部を経由して機器に戻される。
【0023】
従って、第1プラス電極部での電流密度は、プラス端子部に近い箇所で高く、同プラス端子部から遠ざかるに従い低くなる。また、第1マイナス電極部での電流密度は、マイナス端子部に近い箇所で高く、同マイナス端子部から遠ざかるに従い低くなる。
【0024】
この点、上記の構成によれば、第1プラス電極部は、プラス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有している。また、第1マイナス電極部は、マイナス端子部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有している。そのため、第1プラス電極部の抵抗値が交差方向に揃えられ、同第1プラス電極部の交差方向における発熱量のばらつきが小さくなる。また、第1マイナス電極部の抵抗値が交差方向に揃えられ、同第1マイナス電極部の交差方向における発熱量のばらつきが小さくなる。
【0025】
上記電磁波透過カバーにおいて、前記第2電極部は、前記第1プラス電極部及び前記第1マイナス電極部の間の中継電極部として、前記第1プラス電極部及び前記第1マイナス電極部に対向し、一部の前記ヒータ線部では、前記第1端部が前記第1プラス電極部に接続され、かつ前記第2端部が前記第2電極部に接続され、残部の前記ヒータ線部では、前記第1端部が前記第1マイナス電極部に接続され、かつ前記第2端部が前記第2電極部に接続され、前記第2電極部は、前記交差方向における中央部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有していることが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、電流は、第1端部が第1プラス電極部に接続された複数のヒータ線部のそれぞれを流れた後に、第2電極部で合流し、同第2電極部を交差方向における中央部に向けて流れる。上記中央部を通過した電流は、通過前の流れ方向と同方向であって、第2電極部のうち、交差方向における中央部から遠ざかる側へ流れる。この過程で、電流は第2電極部から、第1端部が第1マイナス電極部に接続された複数のヒータ線部のそれぞれに移り、同ヒータ線部を第1マイナス電極部に向けて流れる。従って、第2電極部も発熱の対象となる。
【0027】
ここで、第2電極部での電流密度は、交差方向における中央部、及び同中央部に近い箇所で高く、同中央部から遠ざかるに従い低くなる。
この点、上記の構成によれば、第2電極部は、交差方向における中央部に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅を有している。そのため、第2電極部の抵抗値が交差方向に揃えられ、同第2電極部の交差方向における発熱量のばらつきが小さくなる。
【0028】
上記電磁波透過カバーにおいて、前記ヒータ線部毎の前記第1端部は、同第1端部に設定された第1起点から分岐した2本の直線状の第1分岐線部を有しており、両第1分岐線部の間隔は、前記第1起点から遠ざかるに従い拡大し、両第1分岐線部は、前記第1電極部の互いに前記交差方向に離間した箇所に接続され、前記ヒータ線部毎の前記第2端部は、同第2端部に設定された第2起点から分岐した2本の直線状の第2分岐線部を有しており、両第2分岐線部の間隔は、前記第2起点から遠ざかるに従い拡大し、両第2分岐線部は、前記第2電極部の互いに前記交差方向に離間した箇所に接続されていることが好ましい。
【0029】
上記の構成によれば、ヒータ線部の第1端部に応力が加わった場合、その応力は、第1起点と、各第1分岐線部の第1電極部に対する接続部分との3箇所に対し、分散された状態で加わる。そのため、第1端部の1箇所に応力が集中することが起こりにくく、第1端部と第1電極部との間における断線が抑制される。また、各第1端部では、片方の第1分岐線部が断線しても、残りの第1分岐線部による第1電極部との接続状態が維持される。
【0030】
同様に、ヒータ線部の第2端部に応力が加わった場合、その応力は、第2起点と、各第2分岐線部の第2電極部に対する接続部分との3箇所に対し、分散された状態で加わる。そのため、第2端部の1箇所に応力が集中することが起こりにくく、第2端部と第2電極部との間における断線が抑制される。また、各第2端部では、片方の第2分岐線部が断線しても、残りの第2分岐線部による第2電極部との接続状態が維持される。
【発明の効果】
【0031】
上記電磁波透過カバーによれば、交差方向における発熱分布の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】電磁波透過カバーを車両用のエンブレムに具体化した一実施形態において、そのエンブレムを、フロントグリルの一部とともに示す部分正面図である。
【
図2】上記実施形態におけるヒータフィルムの一部を拡大して示す部分平断面図である。
【
図3】上記実施形態のエンブレムの上部及び下部をミリ波レーダ装置とともに示す部分側断面図である。
【
図4】上記実施形態のヒータフィルムであって、レジスト層が形成される前の状態を示す背面図である。
【
図5】
図4のA部を拡大して示す部分背面図である。
【
図6】
図4のB部を拡大して示す部分背面図である。
【
図7】
図5のC部を拡大して示す部分背面図である。
【
図8】
図6のD部を拡大して示す部分背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、電磁波透過カバーを車両用のエンブレムに具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。
【0034】
図1及び
図3に示すように、車両10の前部の左右方向における中央部分であって、フロントグリル11の後方には、電磁波を送信及び受信する装置として、前方監視用のミリ波レーダ装置13が搭載されている。ミリ波レーダ装置13は、電磁波におけるミリ波を、車外のうち前方へ向けて送信し、かつ、車外の物体に当たって反射されたミリ波を受信する機能を有する。
【0035】
本実施形態では、上述したように、ミリ波レーダ装置13によるミリ波の送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。ミリ波の送信方向における前方は、車両10の前方と概ね合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と概ね合致する。そのため、以後の記載では、ミリ波の送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0036】
上記フロントグリル11の厚みは、一般的なフロントグリルと同様、一定ではない。また、フロントグリル11では、樹脂製基材の表面に金属めっき層が形成されることがある。フロントグリル11は、送信又は反射されたミリ波と干渉するおそれがある。このため、フロントグリル11において、ミリ波の送信方向におけるミリ波レーダ装置13の前方には、窓部12が開口されている。
【0037】
上記窓部12にはエンブレム14が配置されており、ミリ波レーダ装置13がエンブレム14によって前方から覆われている。エンブレム14は、その前面(意匠面69)が車両10の前方を向き、かつ同エンブレム14の後面が車両10の後方を向くように、起立した状態で配置される。
【0038】
エンブレム14の主要部は、エンブレム本体部15によって構成されている。
図3では、エンブレム本体部15の上部及び下部が図示され、中間部の図示が省略されている。
図1に示すように、エンブレム本体部15は、これを前方から見た形状が、上下方向よりも左右方向の寸法の大きな楕円形状をなしている。
【0039】
ここで、上記エンブレム本体部15の径方向のうち、中心O(長軸と短軸との交点)に近づく方向を「内方」といい、中心Oから遠ざかる方向を「外方」という。また、エンブレム本体部15の縁部に沿う方向を「周方向」というものとする。
【0040】
図1及び
図3に示すように、エンブレム本体部15の縁部から径方向における内方へ離れた領域の一部は、ミリ波レーダ装置13から送信されるミリ波の透過領域Z1とされている(
図4参照)。
【0041】
エンブレム本体部15は、それぞれミリ波の透過性を有する複数の層が前後方向に積層された層構造を有している。複数の層は、樹脂基材25、透明樹脂層33、加飾層41、ヒータフィルム45及び保護部68を備えている。次に、各層について説明する。
【0042】
<樹脂基材25>
樹脂基材25は、エンブレム本体部15の後部を構成する部材であり、基材本体部26及び枠部31を備えている。基材本体部26は、AES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合)樹脂によって形成されており、着色されている。基材本体部26の前部には、前後方向に対し略直交する一般部27と、その一般部27よりも前方へ突出する突部28とが形成されている。一般部27は、
図1におけるエンブレム14の背景領域16に対応し、突部28は同エンブレム14の模様領域17に対応している。ここでは、模様領域17は、「K」という文字部分18とその周りの環状部分19とにより構成されている。環状部分19の前面における外周部分は、斜め前外方へ膨らむように湾曲する湾曲面21となっている。
【0043】
図3に示すように、基材本体部26の外周部には、前面において開放されて後方へ凹む環状凹部29が形成されている。環状凹部29は、基材本体部26の全周にわたって形成されていて、略楕円の環状をなしている。
【0044】
なお、基材本体部26は、ASA(アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合)樹脂、PC(ポリカーボネート)樹脂、PC樹脂及びABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合)樹脂のポリマーアロイ等によって形成されてもよい。
【0045】
枠部31は、基材本体部26の外周部の前側に隣接する箇所に位置しており、略楕円の環状をなしている(
図1参照)。枠部31の後部は、上記環状凹部29内に充填された状態で形成されている。枠部31は、例えば、PC樹脂とカーボンブラックとの混合材料によって形成されていて、黒色を有している。
【0046】
基材本体部26の後面の外周部における複数箇所には、エンブレム14をフロントグリル11又は車体に組付けるための取付部(図示略)が設けられている。取付部は、クリップ、ビス、係合爪等によって構成されている。
【0047】
<透明樹脂層33>
透明樹脂層33は、透明な樹脂材料、本実施形態ではPC樹脂によって、基材本体部26及び枠部31の前方に隣接する箇所に形成されている。透明樹脂層33の後部は、上記基材本体部26の前部の形状に対応した形状に形成されている。すなわち、透明樹脂層33の後部であって、基材本体部26の一般部27の前方となる箇所には、前後方向に対し略直交する一般部34が形成されている。透明樹脂層33の後部であって、基材本体部26の突部28の前方となる箇所には、一般部34よりも前方へ凹む凹部35が形成されている。
【0048】
なお、透明樹脂層33は、上記PC樹脂に代えてPMMA(ポリメタクリル酸メチル)樹脂等の透明な樹脂材料によって形成されてもよい。
<加飾層41>
加飾層41は、樹脂基材25と透明樹脂層33との間であって、枠部31によって囲まれた領域に形成されている。本実施形態では、加飾層41は、有色加飾層42及び光輝加飾層43の組み合わせによって構成されている。有色加飾層42は、例えば、黒色、紺色等の濃色を有しており、一般部34の後面に形成されている。
【0049】
光輝加飾層43は、インジウム(In)等の金属材料からなり、上記凹部35の壁面、枠部31の外面の一部及び有色加飾層42の後面全体に対し、島構造をなすように形成されている。上記突部28によって構成される模様領域17の環状部分19も光輝加飾層43の形成対象とされている。
【0050】
島構造は、金属皮膜が一面に連続しておらず、多数の微細な金属皮膜が島状に互いに僅かに離間し又は一部接触した状態で敷き詰められてなる構造である。この構造が採用されることにより、光輝加飾層43は不連続構造となり、高い電気抵抗を有し、ミリ波透過性を有する。
【0051】
樹脂基材25及び透明樹脂層33において、ミリ波が透過される領域は、厚みが一定となるように形成されている。
<ヒータフィルム45>
ヒータフィルム45は、エンブレム14に融雪機能を付加するためのものである。
図2は、ヒータフィルム45の層構成を示している。この
図2では、各層を認識可能な大きさとするために、縮尺を適宜変更して各層を示している。
【0052】
図2及び
図3に示すように、ヒータフィルム45は、透明樹脂層33の前方に隣接する箇所に配置され、同透明樹脂層33の前面の形状に対応した形状に賦形されている。ヒータフィルム45は、フィルム基材46、接着層51、導電部52及びレジスト層67を備えている。
【0053】
〈フィルム基材46>
フィルム基材46は、ヒータフィルム45の骨格部分をなす部分である。フィルム基材46は、ミリ波透過性を有し、かつ透明な樹脂材料によって形成されている。本実施形態では、フィルム基材46は、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂によって形成されている。
【0054】
図4は、レジスト層67が形成される前のヒータフィルム45を示している。
図2及び
図4に示すように、フィルム基材46は、本体部47及び接続部49を備えている。本体部47は、これを前方から見た形状が、上下方向よりも左右方向の寸法の大きな楕円形状をなしている。本体部47の縁部48における上部48U及び下部48Lは、上記透過領域Z1よりも外側であって、その透過領域Z1を上下方向の両側から挟んで対向する箇所に位置している。
【0055】
図7に示すように、接続部49は、電力供給のための機器72が接続される箇所であり、本体部47の縁部48の一部から上記径方向の外方へ延出している。ここで、
図4及び
図7に示すように、上記下部48Lのうち、上記中心Oの下方となる箇所を「中央部48C」というものとする。本実施形態では、接続部49は、上記中央部48Cに対し右方へずれた箇所を起点として、上記径方向のうち斜め右下方へ向けて延びている。
【0056】
<接着層51>
図2及び
図4に示すように、接着層51は、フィルム基材46における本体部47及び接続部49のそれぞれの後面の全面に形成されている。接着層51としては、例えば、OCA(OPTICAL CLEAR ADHESIVE)と呼ばれる透明なフィルム状の光学粘着シートを用いることができる。
【0057】
なお、上記透明樹脂層33、フィルム基材46及び接着層51における「透明」には、無色透明のほか、着色透明(有色透明)も含まれる。この点は、後述する保護部68に関しても同様である。
【0058】
<導電部52>
導電部52は、導電性材料からなる箔、例えば、銅箔、銀箔等によって形成されている。
図4に示すように、導電部52は、一対の端子部と、第1電極部56及び第2電極部59と、複数のヒータ線部61とを備えている。
【0059】
[一対の端子部]
一対の端子部は、上記接続部49の後面に対し、接着層51を介してそれぞれ形成されたプラス端子部53及びマイナス端子部54からなる。
図7に示すように、プラス端子部53及びマイナス端子部54は、それぞれ矩形の網目が縦横に並べられてなる網状をなしている。プラス端子部53及びマイナス端子部54は、互いに本体部47の上記周方向へ離間している。
【0060】
上記接続部49、プラス端子部53及びマイナス端子部54は、ヒータフィルム45がエンブレム14に組込まれた状態では、図示はしないが、透明樹脂層33及び樹脂基材25の下面に沿って後方へ折り曲げられる。
【0061】
プラス端子部53は、本体部47から遠い側の端部に延出端部53aを有している。同様に、マイナス端子部54は、本体部47から遠い側の端部に延出端部54aを有している。延出端部53a,54aは、レジスト層67によって被覆されていない。これらの延出端部53a,54aのそれぞれに対しては、図示しないコネクタピンが、はんだ付け、接着、かしめ等の固定手段によって固定される。両延出端部53a,54a及び両コネクタピンは、エンブレム本体部15よりも後方に配置されたソケット部71内に、フィルム基材46における接続部49の一部と一緒に配置される。
【0062】
[第1電極部56及び第2電極部59]
図4に示すように、第1電極部56及び第2電極部59は、上記本体部47の後面の縁部48に対し、接着層51を介してそれぞれ形成されている。第1電極部56及び第2電極部59は、上記透過領域Z1よりも外側であって、同透過領域Z1を上下方向の両側から挟んで対向する箇所に位置している。
図3に示すように、第1電極部56は、上記枠部31の下部の前方に位置している。また、第1電極部56は、環状部分19の下部に対しては、斜め前下方に位置している。
【0063】
同様に、第2電極部59は、上記枠部31の上部の前方に位置している。また、第2電極部59は、上記環状部分19の上部に対しては、斜め前上方に位置している。
図5に示すように、第1電極部56は、第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58によって構成されている。第1プラス電極部57は、下部48Lに沿って互いに反対方向へ延びる2つの部分57a,57bからなる。部分57aは、プラス端子部53の上端部から略下方へ膨らむように緩やかに湾曲しながら、上記周方向における略右方へ延びている。部分57bは、プラス端子部53の上端部から略下方へ膨らむように緩やかに湾曲しながら、上記周方向における略左方へ延びている。部分57bは、第1マイナス電極部58から上記径方向における内方へ僅かに離間した箇所に形成されている。上記部分57bの左端部は、上記中心Oの下方(中央部48Cの近傍)に位置している。
【0064】
図7に示すように、上記部分57a,57bは、いずれもプラス端子部53に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅W1を有している。本実施形態では、線幅W1は、部分57a,57bのプラス端子部53との接続部分において最大となり、プラス端子部53から遠ざかるに従い徐々に小さくなるように設定されている。より詳しくは、部分57aは、右方ほど線幅W1が小さくなるように形成されている。部分57bは、左方ほど線幅W1が小さくなるように形成されている。
【0065】
第1マイナス電極部58は、略下方へ膨らむように緩やかに湾曲しながら、下部48Lに沿って略左右方向へ延びている。第1マイナス電極部58は、自身の右端部において上記マイナス端子部54に接続されている。
【0066】
第1マイナス電極部58は、マイナス端子部54に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅W2を有している。本実施形態では、線幅W2は、第1マイナス電極部58のマイナス端子部54との接続部分において最大となり、同マイナス端子部54から遠ざかるに従い徐々に小さくなるように設定されている。
【0067】
一方、
図4及び
図6に示すように、第2電極部59は、第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58の間の中継電極部としての機能を有する。第2電極部59は、上方へ膨らむように緩やかに湾曲しながら、上記縁部48の上部48Uに沿って略左右方向へ延びている。従って、第1電極部56及び第2電極部59は、互いに反対方向、この場合、遠ざかる方向に膨らむように湾曲していることになる。
【0068】
図6及び
図8に示すように、第2電極部59において、上記中心Oの上方となる箇所を中央部59cというものとする。第2電極部59は、上記周方向における中央部59cに近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅W3を有している。本実施形態では、線幅W3は、第2電極部59の中央部59cにおいて最大となり、同中央部59cから遠ざかるに従い徐々に小さくなるように設定されている。
【0069】
図4に示すように、第2電極部59の右端部は、第1プラス電極部57における部分57aの右端部の上方に位置している。第2電極部59の左端部は、第1マイナス電極部58の左端部の上方に位置している。
【0070】
上記部分57aの右端部での線幅W1、部分57bの左端部での線幅W1、第1マイナス電極部58の左端部での線幅W2、及び第2電極部59の両端部での線幅W3は、ヒータ線部61の線幅と同程度に設定されている。
【0071】
上記のように、第1電極部56及び第2電極部59は、透過領域Z1を挟んで上下方向に対向している。ここで、本体部47の後面に沿う方向であって、第1電極部56及び第2電極部59が対向する方向を「対向方向」という。また、上記対向方向に対し交差する方向を「交差方向」というものとする。交差方向には、対向方向に対し直交する方向が含まれるほか、斜めに交差する方向も含まれる。本実施形態では、対向方向に対し略直交する方向である略左右方向が交差方向に該当する。
【0072】
[複数のヒータ線部61]
ここで、
図7及び
図8に示すように、互いに上記交差方向に離間した状態で上記対向方向へ直線状に延びる複数の仮想線を「基準線BL」とする。なお、
図7及び
図8では、一部の基準線BLのみが図示されている。
【0073】
複数の基準線BLは、ヒータ線部61と同数設定されている。複数の基準線BLは、上記交差方向に等間隔毎又は略等間隔毎に設定されている。上記間隔は、ヒータ線部61に対し要求されるミリ波の透過性確保、発熱分布の均一化、抵抗値、意匠性等の観点から総合的に判断されて、設定されている。本実施形態では、隣り合う基準線BLの間隔は、4mm程度に設定されている。
【0074】
複数のヒータ線部61は、上記基準線BLを基準に形成されていて上記対向方向へ延びている。ここで、
図4に示すように、複数のヒータ線部61を区別する必要があるときには、上記交差方向における中央部に位置しているヒータ線部61の1本を「中央ヒータ線部61a」といい、他のヒータ線部61を「一般ヒータ線部61b」というものとする。本実施形態では、上記交差方向における中央部であって、上記中心Oの両側に2本のヒータ線部61が配置されている。両ヒータ線部61のうち、第1端部62が第1マイナス電極部58に接続されたものが、中央ヒータ線部61aとされている。
【0075】
各ヒータ線部61は、上記対向方向におけるどの箇所においても、同一の線幅を有している。また、複数のヒータ線部61は、互いに同一(共通)の線幅を有している。各ヒータ線部61の線幅は、本実施形態では10μm程度に設定されている。
【0076】
各ヒータ線部61は下端部に第1端部62を有し、上端部に第2端部63を有している。第1端部62及び第2端部63は、上記基準線BL上に位置している。ヒータ線部61毎の第1端部62は第1電極部56に接続されている。より詳しくは、
図7に示すように、ヒータ線部61毎の第1端部62において、第1電極部56から径方向における内方である上方へ僅かに離れた箇所には第1起点62aが設定されている。各第1端部62は、第1起点62aから分岐した2本の直線状の第1分岐線部62bを有している。両第1分岐線部62bの間隔は、第1起点62aから第1電極部56側へ遠ざかるに従い拡大している。第1端部62毎の両第1分岐線部62bは、第1電極部56の互いに上記交差方向に離間した箇所に接続されている。両第1分岐線部62bと第1電極部56とによって囲まれた三角形の領域は、導電性材料によって埋められていない。第1端部62毎の各第1分岐線部62bの線幅は、ヒータ線部61の他の箇所(蛇行部64を含む)の線幅と同一である。
【0077】
図4に示すように、一部のヒータ線部61、この場合、中央ヒータ線部61aよりも右方に位置する一般ヒータ線部61bは、第1端部62において第1プラス電極部57に接続されている。残部のヒータ線部61、この場合、中央ヒータ線部61aと、それよりも左方に位置する一般ヒータ線部61bとは、第1端部62において第1マイナス電極部58に接続されている。
【0078】
これに対し、
図8に示すように、ヒータ線部61毎の第2端部63は、第2電極部59に接続されている。より詳しくは、ヒータ線部61毎の第2端部63において、第2電極部59から径方向における内方である下方へ僅かに離れた箇所には、第2起点63aが設定されている。第2端部63は、第2起点63aから分岐した2本の直線状の第2分岐線部63bを有している。両第2分岐線部63bの間隔は、第2起点63aから第2電極部59側へ遠ざかるに従い拡大している。両第2分岐線部63bは、第2電極部59の互いに上記交差方向に離間した箇所に接続されている。第2端部63毎の両第2分岐線部63bと第2電極部59とによって囲まれた三角形の領域は、導電性材料によって埋められていない。第2端部63毎の各第2分岐線部63bの線幅は、ヒータ線部61の他の箇所(蛇行部64を含む)の線幅と同一である。
【0079】
図7及び
図8に示すように、各ヒータ線部61は、第1端部62及び第2端部63の間に蛇行部64を有している。本実施形態では、各ヒータ線部61において、第1端部62及び第2端部63の間の領域の大部分が蛇行部64によって構成されている。蛇行部64では、ヒータ線部61は、上記基準線BLを基準として上記交差方向の両方向へ振れながら、すなわち、蛇行しながら、上記対向方向に延びている。各蛇行部64は、略S字状をなす単位形状64aを繋ぎ合わせたような形状をなしている。各蛇行部64では、同一の単位形状64aが繰り返されている。蛇行部64における単位形状64aの振れ幅は、全てのヒータ線部61で同一又は略同一である。
【0080】
ここで、上記対向方向における単位形状64aの長さを「周期T」とする。蛇行部64の形状等、本実施形態では、中央ヒータ線部61aの蛇行部64における単位形状64aの周期Tと、一般ヒータ線部61bの蛇行部64における単位形状64aの周期Tとが異ならせられている。周期Tに関する上記設定により、各一般ヒータ線部61bの長さが中央ヒータ線部61aの長さの90~110%に調整されている。
【0081】
なお、
図4に示すように、本体部47のうち、上記交差方向における両端の一般ヒータ線部61bよりも外側の領域には、ヒータ線部61が形成されていない。
<レジスト層67>
図2及び
図7に示すように、レジスト層67は絶縁材料からなり、導電部52のうち、プラス端子部53の延出端部53aと、マイナス端子部54の延出端部54aとは異なる箇所を被覆することで、同箇所に対し絶縁を施している。両延出端部53a,54aはレジスト層67から露出している。この露出した部分に対し、上述したコネクタピンが導通した状態で固定される。
【0082】
〈ヒータフィルム45の製作について〉
上記の構成を有するヒータフィルム45は、次のようにして製作される。
図2に示すフィルム基材46の後面に上記OCAが貼付けられることによって、接着層51が形成される。接着層51が形成された上記フィルム基材46と、導電性材料からなる箔、ここでは銅箔とが、ローラ等により、互いに接近する側へ押される。箔は、接着層51によりフィルム基材46に貼付けられる。
【0083】
次に、上記箔に対し、パターニング加工が行なわれる。パターニング加工は、フォトリソグラフィ及び光学マスクのプロセスを行なうことで、接着層51上の箔のうち、不要な部分を除去することで、上記導電部52を形成する加工法であり、線幅の小さなヒータ線部61の加工も可能である。
【0084】
導電部52のうち、延出端部53a,54aとは異なる箇所の周りにソルダーレレジスト等が塗布されることによってレジスト層67が形成される。すると、目的とするヒータフィルム45が得られる。
【0085】
<保護部68>
図3に示す保護部68は、樹脂シート及び接着層を備えており、シート状をなしている。保護部68は、ヒータフィルム45のフィルム基材46の前方に隣接する箇所に配置されている。保護部68は、エンブレム14に対し、前方から飛び石等による衝撃が加わった場合に、その衝撃からヒータフィルム45、特に導電部52を保護する役割を担っている。
【0086】
保護部68の樹脂シートは、ミリ波透過性を有する透明な樹脂材料によって形成されている。本実施形態では、樹脂シートは、PC樹脂によって形成されている。樹脂シートは、フィルム基材46の前面の形状に対応した形状に賦形されている。
【0087】
保護部68の接着層は、上記接着層51と同様、OCAによって形成されており、樹脂シートをフィルム基材46の前面に接着している。保護部68の前面は、エンブレム14の意匠面69を構成している(
図1参照)。
【0088】
図7に示すように、上記ソケット部71に対し、電力供給のための上記機器72のコネクタ73が結合されている。この結合により、プラス端子部53及びマイナス端子部54がそれぞれコネクタピンを介して機器72に対し電気的に接続されている。
【0089】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
<(1)ミリ波の透過性について>
ミリ波レーダ装置13からミリ波が送信されると、そのミリ波は、
図1及び
図3に示すように、上記透過領域Z1におけるエンブレム本体部15の各部を透過する。透過したミリ波は、先行車両、歩行者等を含む車両前方の物体に当たって反射された後、再びエンブレム本体部15を透過し、ミリ波レーダ装置13によって受信される。ミリ波レーダ装置13は、送信及び受信した上記ミリ波に基づき、物体を認識し、車両10と同物体との距離、相対速度等を検出する。
【0090】
(1-1)
図7及び
図8に示すように、本実施形態では、隣り合うヒータ線部61の基準線BLの間隔が4mm程度に設定されている。そのため、ミリ波が隣り合うヒータ線部61間を透過しやすい。ヒータ線部61が、ミリ波の透過の妨げとなりにくい。
【0091】
(1-2)ヒータ線部61が太いと、ミリ波がヒータ線部61によって反射されて減衰する。この点、本実施形態では、各ヒータ線部61の線幅が10μm程度に設定されている。そのため、ヒータ線部61でのミリ波の反射が抑制され、ミリ波が透過しやすい。この点でも各ヒータ線部61が、ミリ波の透過の妨げとなりにくい。
【0092】
(1-3)
図4に示すように、第1プラス電極部57、第1マイナス電極部58及び第2電極部59は、透過領域Z1よりも外側に位置しているため、ミリ波の透過の妨げとなりにくい。
【0093】
上記(1-1)~(1-3)により、本実施形態では、ヒータフィルム45の付加に伴うミリ波の透過性低下を抑制できる。
<(2)融雪機能について>
図1及び
図3に示す意匠面69に氷雪が付着するとミリ波が減衰され、ミリ波レーダ装置13の検出性能が低下する。この点、本実施形態では、
図7に示す機器72から電力がコネクタピン等を介して導電部52に供給される。
【0094】
図4に示す導電部52では、電流が、プラス端子部53、第1プラス電極部57、複数のヒータ線部61のうち本体部47の右側部分に位置していて第1プラス電極部57に接続されているもの、及び第2電極部59の中央部59cよりも右側部分の順に流れる。
【0095】
また、電流は、第2電極部59の中央部59cよりも左側部分、複数のヒータ線部61のうち本体部47の左側部分に位置していて第1マイナス電極部58に接続されているもの、第1マイナス電極部58、及びマイナス端子部54の順に流れる。
【0096】
(2-1)各ヒータ線部61は、電流が流れることで発熱する。各ヒータ線部61が発した熱の一部は、
図2及び
図3において、接着層51及びフィルム基材46を介して保護部68に伝達される。この熱により、意匠面69に付着している氷雪が融解される。氷雪によるミリ波の減衰を抑制し、氷雪の付着が原因でミリ波レーダ装置13の検出性能が低下するのを抑制できる。
【0097】
(2-2)本実施形態では、上記のように、複数のヒータ線部61を交差方向における中央部よりも右側に位置するものと、左側に位置するものとに分けている。右側に位置するヒータ線部61では、電流を下方から上方へ流れさせている。左側に位置するヒータ線部61では、電流を上方から下方へ流れさせている。
【0098】
そのため、電流を複数のヒータ線部61に対し満遍なく流れさせることができる。
(2-3)
図4に示すように、第1電極部56及び第2電極部59は、それぞれ本体部47の縁部48であって、互いに上下方向に対向する箇所に形成されている。複数のヒータ線部61の各々は、第1電極部56及び第2電極部59の間に形成されていて、第1端部62において第1電極部56に接続され、第2端部63において第2電極部59に接続されている。このように、複数のヒータ線部61は、フィルム基材46の広い領域に形成されている。そのため、ヒータフィルム45の広い領域を発熱させることができる。
【0099】
(2-4)
図7に示すように、第1端部62毎の第1分岐線部62bは、ヒータ線部61の他の部分と同様に、通電により発熱する。また、
図8に示すように、第2端部63毎の第2分岐線部63bは、ヒータ線部61の他の部分と同様に、通電により発熱する。そのため、ヒータ線部61による発熱領域を拡大できる。
【0100】
(2-5)仮に、ヒータ線部61を、第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58に対し、直列に接続した場合、ヒータ線部61は、例えば次のような構成となる。ヒータ線部61は、複数の直線部と、隣り合う直線部の端部同士を連結する円弧状の連結部とによって構成される。
【0101】
ただし、この場合には、連結部をエンブレム本体部15の縁部48から径方向の内方へ離れた箇所に形成せざるを得ず、その分、発熱できる領域が小さくなる。
この点、本実施形態では、
図4に示すように、第1プラス電極部57、第1マイナス電極部58及び第2電極部59を本体部47の縁部48に形成している。ヒータ線部61を下部48Lまで延ばして第1電極部56に接続するとともに、上部48Uまで延ばして第2電極部59に接続している。そのため、上記のように直列に接続する場合に比べ、発熱できる領域が大きくなる。
【0102】
上記(2-2)~(2-5)により、本実施形態では、ヒータフィルム45における発熱領域を拡大することができる。
(2-6)本実施形態では、
図4に示すように、複数のヒータ線部61が、第1電極部56及び第2電極部59に対し並列に接続されていることから、各ヒータ線部61に対し同一の電圧が印加される。そのため、各ヒータ線部61を均一に発熱させることが可能である。
【0103】
(2-7)
図7及び
図8に示すように、本実施形態では、隣り合うヒータ線部61の基準線BLが互いに平行な状態で対向方向へ延びている。隣り合う基準線BLの間隔が上記対向方向に均一である。そのため、上記間隔が上記対向方向に均一でない場合に比べ、ヒータフィルム45を上記対向方向に均一な発熱分布で発熱させることが可能である。
【0104】
(2-8)
図7及び
図8に示すように、本実施形態では、隣り合う基準線BLの間隔が、隣り合う基準線BLの全ての組み合わせについて同一又は略同一に設定されている。そのため、上記間隔が上記組み合わせ間で大きく異なる場合に比べ、ヒータフィルム45を上記交差方向に均一な発熱分布で発熱させることが容易となる。
【0105】
(2-9)
図4に示すように、第1電極部56及び第2電極部59が、上記対向方向のうち互いに遠ざかる側へ膨らむように湾曲している。そのため、第1電極部56及び第2電極部59の間隔は、上記交差方向における中央部で最も大きくなる。上記間隔は、上記中央部から上記交差方向へ遠ざかるに従い小さくなる。
【0106】
仮に、全てのヒータ線部61が上記対向方向に真っ直ぐ延びていると、全てのヒータ線部61のうち、上記交差方向における中央部に位置するものが最長となる。ヒータ線部61の長さは、上記中央部から上記交差方向へ遠ざかるに従い短くなる。長さが短くなるに従い、ヒータ線部61の発熱量が少なくなる。発熱は、上記交差方向における中央部では発熱量が多く、上記中央部から上記交差方向に遠ざかるに従い発熱量が少なくなる分布となる。このように、導電部52では、発熱分布が上記交差方向にばらつく。
【0107】
この点、本実施形態では、中央ヒータ線部61a及び一般ヒータ線部61bが蛇行しながら対向方向に延びる蛇行部64を有している。
図7及び
図8に示すように、各蛇行部64の形状等、本実施形態では、単位形状64aの周期Tが、中央ヒータ線部61aと一般ヒータ線部61bとで異なるように設定されている。この設定により、各一般ヒータ線部61bの長さが中央ヒータ線部61aの長さの90~110%に調整されている。そのため、ヒータ線部61間の発熱量のばらつきが小さくなり、上記交差方向における発熱分布のばらつきが小さくなる。
【0108】
(2-10)上記のように電流が導電部52を流れる際に第1電極部56を通ることから、同第1電極部56も発熱の対象となる。
ここで、電流がプラス端子部53から第1プラス電極部57に移る際には、電流は、同第1プラス電極部57を、交差方向に沿って同プラス端子部53から遠ざかる側へ流れる。この過程で、電流は第1プラス電極部57から、中央ヒータ線部61aよりも右方の複数の一般ヒータ線部61bに移る。従って、第1プラス電極部57での電流密度は、プラス端子部53に近い箇所で高く、プラス端子部53から遠ざかるに従い低くなる。
【0109】
上記電流は、第2電極部59を流れた後、中央ヒータ線部61aとそれよりも左方の複数の一般ヒータ線部61bに移る。各ヒータ線部61を流れた電流は、第1マイナス電極部58で合流する。従って、第1マイナス電極部58での電流密度は、マイナス端子部54に近い箇所で高く、マイナス端子部54から遠ざかるに従い低くなる。
【0110】
この点、本実施形態では、
図7に示すように、第1プラス電極部57は、プラス端子部53に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅W1を有している。そのため、第1プラス電極部57の抵抗値が交差方向に揃えられ、同第1プラス電極部57の交差方向における発熱量のばらつきが小さくなる。第1プラス電極部57のうちプラス端子部53に近い箇所が局所的に発熱する現象を抑制できる。
【0111】
特に、本実施形態では、第1プラス電極部57は、プラス端子部53から遠ざかるに従い線幅W1が徐々に小さくなるように形成されている。そのため、線幅W1が段階的に小さくなる場合に比べ、第1プラス電極部57の交差方向における発熱量のばらつきをより小さくできる。
【0112】
また、第1マイナス電極部58は、マイナス端子部54に近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅W2を有している。そのため、第1マイナス電極部58の抵抗値が交差方向に揃えられ、同第1マイナス電極部58の交差方向における発熱量のばらつきが小さくなる。第1マイナス電極部58のうちマイナス端子部54に近い箇所が局所的に発熱する現象を抑制できる。
【0113】
特に、本実施形態では、第1マイナス電極部58は、マイナス端子部54から遠ざかるに従い線幅W2が徐々に小さくなるように形成されている。そのため、線幅W2が段階的に小さくなる場合に比べ、交差方向における第1マイナス電極部58の発熱量のばらつきをより小さくできる。
【0114】
(2-11)
図6及び
図8に示すように、中央ヒータ線部61aよりも右方の複数の一般ヒータ線部61bのそれぞれを流れた電流は、第2電極部59の中央部59cよりも右側部分で合流し、同中央部59cに向けて流れる。上記中央部59cを通過した電流は、第2電極部59のうち、中央部59cよりも左側部分を左方へ流れる。この過程で、電流は第2電極部59から、中央ヒータ線部61aとそれよりも左方の複数の一般ヒータ線部61bとのそれぞれに移り、それらのヒータ線部61を第1マイナス電極部58に向けて流れる。従って、第2電極部59も発熱の対象となる。
【0115】
ここで、第2電極部59での電流密度は、交差方向における中央部59c、及び同中央部59cに近い箇所で高く、同中央部59cから遠ざかるに従い低くなる。
この点、本実施形態によれば、第2電極部59は、交差方向における中央部59cに近い箇所よりも遠い箇所において小さな線幅W3を有している。そのため、第2電極部59の抵抗値が交差方向に揃えられ、同第2電極部59の交差方向における発熱量のばらつきが小さくなる。第2電極部59のうち、交差方向における中央部59cに近い箇所が局所的に発熱する現象を抑制できる。
【0116】
特に、本実施形態では、第2電極部59の線幅W3が、中央部59cから遠ざかるに従い徐々に小さくなる。そのため、線幅W3が段階的に小さくなる場合に比べ、交差方向における第2電極部59の発熱量のばらつきをより小さくできる。
【0117】
上記(2-6)~(2-11)により、本実施形態では、ヒータフィルム45における発熱分布の均一化、特に対向方向における均一化を図ることができる。
<(3)エンブレム14の外観について>
図1~
図3に示すエンブレム14に対し車両10の前方から可視光が照射されると、その可視光は、透明な保護部68を透過し、ヒータフィルム45に照射される。可視光は、フィルム基材46の本体部47及び接着層51を透過する。第1電極部56、第2電極部59及びヒータ線部61に照射された可視光は反射され、照射されない可視光はレジスト層67を透過する。
【0118】
ヒータフィルム45を透過した可視光は、透明樹脂層33を透過した後に加飾層41及び枠部31で反射又は吸収される。車両10の前方からエンブレム14を見ると、保護部68、ヒータフィルム45及び透明樹脂層33を通して、それらの後側(奥側)に加飾層41及び枠部31が位置するように見える。加飾層41のうち有色加飾層42については、その有色加飾層42の有する色(黒色、紺色等)が見える。また、加飾層41のうち光輝加飾層43については、金属のように光り輝いて見える。すなわち、黒色、紺色等の濃色を背景に、文字部分18と環状部分19とが金属のように見える。また、環状部分19の径方向における外方には、黒色の枠部31が見える。このように、加飾層41及び枠部31によってエンブレム14が装飾され、同エンブレム14及びその周辺部分の外観が向上する。
【0119】
なお、加飾層41及び枠部31は、ミリ波レーダ装置13よりも前側に位置しており、そのミリ波レーダ装置13を覆い隠す機能を発揮する。そのため、エンブレム14の前側からは、ミリ波レーダ装置13が見えにくい。従って、ミリ波レーダ装置13がエンブレム14を介して透けて見える場合に比べて外観が向上する。
【0120】
(3-1)ヒータ線部61の線幅が10μm程度と小さいことから、同ヒータ線部61が見えにくい。そのため、ヒータフィルム45ひいてはエンブレム14の外観向上を図ることができる。
【0121】
(3-2)
図4に示すように、第1プラス電極部57、第1マイナス電極部58及び第2電極部59は、いずれも本体部47の縁部48に形成されているため、同縁部48よりも径方向の内方に形成された場合よりも目立ちにくい。そのため、エンブレム14の外観が一層向上する。
【0122】
(3-3)
図3に示すように、第1電極部56は、枠部31の下部の前方に位置している。枠部31は、第1電極部56とは異なる色である黒色をなしている。
そのため、第1プラス電極部57の線幅W1が、仮に上記交差方向のどこの箇所でも、プラス端子部53に近い箇所の線幅W1と同程度に大きいと、第1プラス電極部57で反射した可視光により同第1プラス電極部57が目立つ。また、第1マイナス電極部58の線幅W2が、仮に上記交差方向のどこの箇所でも、マイナス端子部54に近い箇所の線幅W2と同程度に大きいと、第1マイナス電極部58で反射した可視光により同第1マイナス電極部58が目立つ。
【0123】
また、エンブレム14を前方から見た際に、第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58の後面が、環状部分19の湾曲面21上に形成されて湾曲している光輝加飾層43で反射される。第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58のそれぞれの線幅W1,W2が上記のように大きいと、光輝加飾層43で反射された可視光により、同第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58のそれぞれの後面が目立ってしまう。
【0124】
この点、本実施形態では、上述したように、第1プラス電極部57の線幅W1は、プラス端子部53に近い箇所よりも遠い箇所において小さくなる。また、第1マイナス電極部58の線幅W2は、マイナス端子部54に近い箇所よりも遠い箇所において小さくなる。
【0125】
そのため、第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58は、黒色をなす枠部31の下部の前方で目立ちにくくなる。また、第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58の後面は、湾曲した光輝加飾層43で反射されても目立ちにくくなる。
【0126】
特に、本実施形態では、第1プラス電極部57の線幅W1が、プラス端子部53から遠ざかるに従い徐々に小さくなる。第1マイナス電極部58の線幅W2が、マイナス端子部54から遠ざかるに従い徐々に小さくなる。そのため、第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58は、黒色をなす枠部31の下部の前方でより一層目立ちにくく、湾曲した光輝加飾層43で反射されてもより一層目立ちにくくなる。
【0127】
上記枠部31の上部の前方であり、かつ環状部分19の斜め前上方に位置している第2電極部59についても同様の効果が得られる。すなわち、第2電極部59の線幅W3は、上記交差方向における中央部59cに近い箇所よりも遠い箇所において小さくなる。そのため、第2電極部59は、黒色をなす枠部31の上部の前方で目立ちにくくなる。また、第2電極部59の後面は、湾曲した光輝加飾層43で反射されても目立ちにくくなる。
【0128】
特に、本実施形態では、第2電極部59の線幅W3が、中央部59cから交差方向へ遠ざかるに従い徐々に小さくなる。そのため、第2電極部59は、黒色をなす枠部31の上部の前方でより一層目立ちにくく、湾曲した光輝加飾層43で反射されてもより一層目立ちにくくなる。
【0129】
(3-4)
図7に示すように、ヒータ線部61毎の第1端部62では、2本の第1分岐線部62bと、第1電極部56とによって囲まれた三角形の領域が、導電性材料によって埋められていない。そのため、上記領域が埋められている場合に比べ、第1端部62が見えにくくなる。
【0130】
また、
図8に示すように、ヒータ線部61毎の第2端部63では、両第2分岐線部63bと、第2電極部59とによって囲まれた三角形の領域が、導電性材料によって埋められていない。そのため、上記領域が埋められている場合に比べ、第2端部63が見えにくくなる。
【0131】
(3-5)本実施形態では、上記(2-7)で説明したように、隣り合う基準線BLの間隔が上記対向方向に均一である。そのため、上記間隔が均一でない場合に比べ、ヒータ線部61が見えにくくなる。従って、この点においても、エンブレム14の外観が向上する。
【0132】
(3-6)本実施形態では、上記(2-8)で説明したように、隣り合う基準線BLの間隔が、隣り合う基準線BLの全ての組み合わせについて同一又は略同一に設定されている。そのため、上記間隔が上記組み合わせ間で大きく異なる場合に比べ、ヒータ線部61が見えにくくなる。従って、この点においても、エンブレム14の外観が向上する。
【0133】
本実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
(4-1)
図7に示すように、ヒータ線部61の第1端部62に応力が加わった場合、その応力は、第1起点62aと、各第1分岐線部62bの第1電極部56に対する接続部分との3箇所に対し、分散された状態で加わる。従って、第1端部62の1箇所に応力が集中することが起こりにくく、第1端部62と第1電極部56との間における断線を抑制できる。また、各第1端部62では、片方の第1分岐線部62bが断線しても、残りの第1分岐線部62bによる第1電極部56との接続状態を維持できる。
【0134】
また、
図8に示すように、ヒータ線部61の第2端部63に応力が加わった場合、第2起点63aと、各第2分岐線部63bの第2電極部59に対する接続部分との3箇所に対し、分散された状態で加わる。従って、第2端部63の1箇所に応力が集中することが起こりにくく、第2端部63と第2電極部59との間における断線を抑制できる。また、各第2端部63では、片方の第2分岐線部63bが断線しても、残りの第2分岐線部63bによる第2電極部59との接続状態を維持できる。
【0135】
(4-2)
図7に示すように、本実施形態では、プラス端子部53及びマイナス端子部54を網状に形成している。そのため、外部から力を受けたときにプラス端子部53及びマイナス端子部54が撓んだり変形したりしやすい。従って、上記力を受けることで、プラス端子部53及びマイナス端子部54が割れ等を生ずるのを抑制できる。
【0136】
(4-3)
図4に示すように、各ヒータ線部61が蛇行部64を有しているため、エンブレム14の使用時に、エンブレム本体部15に対し、外部から上記対向方向における外方へ向かう力が加わった場合に、次の効果が期待できる。すなわち、上記の力により、蛇行部64が引っ張られて変形する。ヒータ線部61は伸びきった状態となりにくく、同ヒータ線部61に過大なテンションが加わるのを抑制できる。
【0137】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変更例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0138】
<エンブレム14の層構造について>
エンブレム14は、ヒータフィルム45を含む複数の層が前後方向に積層された層構造を有する。この層構造における層の構成が、例えば、下記のように変更されてもよい。
【0139】
・フィルム基材46が、導電部52等を保護するうえで十分な厚みを有している場合、保護部68を省略可能である。
・層構造においてヒータフィルム45とは異なる層の数が、上記実施形態とは異なる数に変更されてもよい。
【0140】
・機能付加のために新たな層が追加されてもよい。
ヒータフィルム45よりも前側に層が追加される場合、その層は、車両10の外部から同層を通してヒータフィルム45が透けて見えるようにするために、透明な樹脂材料によって形成される。
【0141】
ヒータフィルム45よりも後側に層が追加される場合、その層は、透明であってもよいし不透明であってもよい。
<エンブレム本体部15の形状について>
・
図1において、エンブレム本体部15を前方から見た形状が、上記実施形態とは異なる形状、例えば、円形、多角形等に変更されてもよい。
【0142】
この場合、第1電極部56及び第2電極部59は必ずしもエンブレム本体部15の縁部に沿った形状に形成されなくてもよい。
<ヒータフィルム45の層構成について>
・
図2において、接着層51がフィルム基材46の後面に代えて前面に形成され、導電部52が接着層51の後面に代えて前面に形成されてもよい。
【0143】
<接続部49の位置について>
・
図4において、フィルム基材46の接続部49が、本体部47の縁部48であって、上記実施形態とは異なる箇所、例えば、上部、左右の側部、下部等から延出されてもよい。この変更に伴い、プラス端子部53及びマイナス端子部54の位置も変更される。また、第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58の構成も変更される。
【0144】
例えば、接続部49が、上記中央部48Cから下方へ延出される場合には、部分57a,57bが繋がる。第1プラス電極部57が1つの部分によって構成される。この第1プラス電極部57は、中央部48Cに位置するプラス端子部53から略右方へ延びる。また、第1プラス電極部57と同程度の長さを有する1本の第1マイナス電極部58が中央部48Cに位置するマイナス端子部54から略左方へ延びる。
【0145】
<導電部52の全体について>
・導電部52は、めっきにより形成された銅、銀等の金属皮膜を、エッチングによりパターニングして形成されたものであってもよい。
【0146】
<プラス端子部53及びマイナス端子部54について>
・上記実施形態とは逆に、マイナス端子部54が接続部49の右側部分に配置され、プラス端子部53が同接続部49の左側部分に配置されてもよい。この場合、第1電極部56における第1プラス電極部57及び第1マイナス電極部58の左右の位置関係が上記実施形態とは逆にされる。
【0147】
上記変更例では、電流の流れ方向が上記実施形態とは逆になる。すなわち、ヒータフィルム45の左半分では、電流が第1プラス電極部57から第2電極部59に向けて流れ、ヒータフィルム45の右半分では、電流が第2電極部59から第1マイナス電極部58に向けて流れる。
【0148】
<第1電極部56及び第2電極部59について>
・
図7における第1プラス電極部57の部分57a,57bの線幅W1は、プラス端子部53から遠ざかるに従い段階的に小さくされてもよい。例えば、部分57aの場合、同部分57aが交差方向に複数の領域に分けられ、同一の領域では線幅W1が一定にされる。そして、プラス端子部53から遠い領域ほど線幅W1が小さく設定される。
【0149】
上記と同様に、第1マイナス電極部58の線幅W2は、マイナス端子部54から遠ざかるに従い段階的に小さくされてもよい。
図8における第2電極部59の線幅W3は、中央部59cから遠ざかるに従い段階的に小さくされてもよい。
【0150】
・
図4において、第1電極部56及び第2電極部59が、透過領域Z1よりも外側であることを条件に、上下方向とは異なる方向に対向した状態で配置されてもよい。例えば、第1電極部56及び第2電極部59が、左右方向に対向した状態で配置されてもよいし、鉛直線又は水平線に対し斜めに交差する線に沿う方向に対向した状態で配置されてもよい。これらの場合、上記変更に伴い、ヒータ線部61が延びる方向も、上記対向方向に変更される。
【0151】
・第1電極部56及び第2電極部59が、上記実施形態とは逆に、互いに近づく側へ膨らむように湾曲しながら交差方向へ延びてもよい。この場合、第1電極部56及び第2電極部59の間隔は、交差方向における中央部で最小となる。上記間隔は、上記中央部から上記交差方向へ遠ざかるに従い大きくなる。
【0152】
この場合にも、各一般ヒータ線部61bが中央ヒータ線部61aに対し90~110%の長さを有するように、中央ヒータ線部61a及び一般ヒータ線部61bには蛇行部64が設けられる。
【0153】
<ヒータ線部61について>
・複数のヒータ線部61のそれぞれは、上記対向方向に対し傾斜する方向へ延びてもよい。
【0154】
・各ヒータ線部61において、第1端部62及び第2端部63の間の領域の全部が蛇行部64によって構成されてもよいし、一部のみが蛇行部64によって構成されてもよい。後者の場合、第1端部62及び第2端部63の間であって、蛇行部64とは異なる箇所は、例えば直線状に形成されてもよい。
【0155】
・蛇行部64における単位形状64aの振れ幅は、ヒータ線部61間で異なってもよい。
・各蛇行部64が、振れ幅及び周期Tの少なくとも一方の異なる複数種類の単位形状64aの組み合わせによって構成されてもよい。
【0156】
<その他>
・上記電磁波透過カバーは、車外の物体を検出するための電磁波を送信及び受信する装置が搭載された車両であれば適用可能である。この場合、装置が送信及び受信する電磁波には、ミリ波のほかにも、近赤外線等の電磁波が含まれる。
【0157】
・車外の物体を検出するための電磁波を送信及び受信する装置は、前方監視用以外にも、後方監視用、前側方監視用、又は後側方監視用の装置であってもよい。この場合、電磁波透過カバーは、電磁波の送信方向における上記装置の前方に配置される。
【0158】
・電磁波透過カバーは、電磁波を送信及び受信する装置が、車両とは異なる種類の乗物、例えば、航空機、船舶等の乗物に搭載された場合にも適用可能である。
・上記電磁波透過カバーは、オーナメント、マーク等、エンブレムとは異なる種類の車両用外装品にも適用可能である。
【符号の説明】
【0159】
10…車両(乗物)
13…ミリ波レーダ装置(装置)
14…エンブレム(電磁波透過カバー)
45…ヒータフィルム
52…導電部
53…プラス端子部
54…マイナス端子部
56…第1電極部
57…第1プラス電極部
58…第1マイナス電極部
59…第2電極部
59c…中央部
61…ヒータ線部
61a…中央ヒータ線部
61b…一般ヒータ線部
62…第1端部
62a…第1起点
62b…第1分岐線部
63…第2端部
63a…第2起点
63b…第2分岐線部
64…蛇行部
64a…単位形状
72…機器
BL…基準線
T…周期
W1,W2,W3…線幅
Z1…透過領域