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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】吐水装置
(51)【国際特許分類】
   A47K 3/28 20060101AFI20240719BHJP
   B05B 1/18 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A47K3/28
B05B1/18 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021027615
(22)【出願日】2021-02-24
(65)【公開番号】P2022129067
(43)【公開日】2022-09-05
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】中島 平裕
(72)【発明者】
【氏名】八板 遼平
(72)【発明者】
【氏名】森泉 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】村下 武司
(72)【発明者】
【氏名】花城 加奈子
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-108832(JP,A)
【文献】米国特許第04662568(US,A)
【文献】特表昭54-500011(JP,A)
【文献】特開2017-064393(JP,A)
【文献】特開2017-108830(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0233301(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1978068(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 3/20-3/40
B05B 1/00-1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を往復振動させながら吐水する吐水装置であって、
吐水装置本体と、
この吐水装置本体に設けられ、所定の振動平面内で水を往復振動させながら吐水する振動発生素子と、を有し、
上記振動発生素子は、
供給された水が流入する給水通路と、
この給水通路の流路断面の一部を閉塞するように、上記給水通路の下流側端部に配置され、上記給水通路によって導かれた水が衝突することで、その下流側に交互に反対回りの渦を発生させる衝突部と、
この衝突部により形成された渦を導くように上記給水通路の下流に設けられ、上記振動平面に平行な方向の幅が、上記振動平面と直角な方向の高さよりも広く形成された渦列通路と、
上記渦列通路によって導かれた水を吐水させる吐出通路と、を備え、
上記渦列通路は、渦列通路の上流側が形成された上流側部材と、渦列通路の下流側が形成された下流側部材を接続することにより構成され、
上記上流側部材と上記下流側部材の接続部において、上記渦列通路の内壁面に下流側に向かって高さ方向に流路を狭める段差が形成されないように、上記下流側部材の上流端における上記渦列通路の高さは、上記上流側部材の下流端における上記渦列通路の高さよりも高く構成されていることを特徴とする吐水装置。
【請求項2】
上記下流側部材に形成された渦列通路は、下流に向かって滑らかに高さが低くなるように構成されている請求項1記載の吐水装置。
【請求項3】
上記下流側部材に形成された渦列通路は、下流に向かって高さが低くなるように構成されたテーパ部を有する請求項2記載の吐水装置。
【請求項4】
上記下流側部材に形成された渦列通路の下流端の高さは、上記上流側部材に形成された渦列通路の下流端の高さと同一である請求項2又は3に記載の吐水装置。
【請求項5】
上記振動発生素子は、上記衝突部の上流端から、上記上流側部材に形成された渦列通路の下流端までの長さが、上記衝突部の最大幅の2.5倍以上に構成されている請求項1乃至4の何れか1項に記載の吐水装置。
【請求項6】
上記振動発生素子は、上記上流側部材と上記下流側部材の接続部において、上記下流側部材の上流端における上記渦列通路の幅が、上記上流側部材の下流端における上記渦列通路の幅よりも広く構成されている請求項1乃至5の何れか1項に記載の吐水装置。
【請求項7】
上記振動発生素子は、上記衝突部よりも下流側から、上記渦列通路に水を流入させるバイパス通路を備え、このバイパス通路の内壁面の一部は、上記下流側部材によって形成されている請求項1乃至6の何れか1項に記載の吐水装置。
【請求項8】
上記バイパス通路は、その最も下流側に位置する内壁面のみが、上記下流側部材によって形成されている請求項7記載の吐水装置。
【請求項9】
上記上流側部材は硬質部材で形成され、上記下流側部材は軟質部材で形成されている請求項1乃至8の何れか1項に記載の吐水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐水装置に関し、特に、水を往復振動させながら吐水する吐水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-108830号公報(特許文献1)には、吐水装置が記載されている。この吐水装置には、供給された水を往復振動させながら吐出させる振動発生素子が備えられている。振動発生素子は、給水通路と、この給水通路の下流端に設けられている衝突部と、衝突部に水が衝突することによって発生した渦を導く渦発生通路と、渦発生通路の下流側に設けられた吐水口通路と、を有する。吐水装置に供給された水は、振動発生素子の給水通路に流入し、その下流端に設けられた衝突部に衝突する。水が衝突部に衝突することによって、下流側の渦発生通路内では、交互に反対回りの渦が発生し、渦発生通路によって下流側に向かって導かれる。渦発生通路によって導かれた渦を含む水の流れは、渦発生通路よりも流路断面積の狭い吐水口通路から、往復振動しながら吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-108830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された振動発生素子は、給水通路と渦発生通路の間に衝突部が設けられ、渦発生通路の下流側には、流路断面積の狭い吐水口通路が設けられている。振動発生素子はこのような構造を有するため、これを樹脂で一体成形することには困難が伴う。即ち、振動発生素子を樹脂で一体に構成する場合、衝突部と吐水口通路の間の空間から成形型を抜きとることが困難である。このため、従来は、振動発生素子を樹脂で一体成形する場合、成形する樹脂として弾性変形可能な樹脂を選択し、成形後の部品を弾性変形させながら型を抜き出していた。このため、振動発生素子を樹脂で一体成形する場合には、使用可能な樹脂が制限されるという問題がある。
【0005】
一方、成形すべき振動発生素子を渦発生通路の部分で分割して、振動発生素子を2つの部材から構成することが考えられる。このように、振動発生素子を分割して、2つの部材から構成することにより、各部材を、型を容易に抜くことができる形状にすることができ、成形が容易になる。しかしながら、この場合には、2つの部材の接続部において、渦発生通路の形状精度が低下する虞がある。即ち、振動発生素子を小型に構成する場合、振動発生素子を構成する2つの部材には、非常に高い寸法精度、形状精度が要求されることとなる。例えば、2つの部材を結合することにより振動発生素子を形成し、形成された振動発生素子の渦発生通路の途中に段差ができてしまうと、振動発生素子としての性能が低下したり、振動発生素子として機能しなくなったりする虞がある。
【0006】
従って、本発明は、性能の著しい低下を招くことなく、容易に成型することができる振動発生素子を備えた吐水装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、水を往復振動させながら吐水する吐水装置であって、吐水装置本体と、この吐水装置本体に設けられ、所定の振動平面内で水を往復振動させながら吐水する振動発生素子と、を有し、振動発生素子は、供給された水が流入する給水通路と、この給水通路の流路断面の一部を閉塞するように、給水通路の下流側端部に配置され、給水通路によって導かれた水が衝突することで、その下流側に交互に反対回りの渦を発生させる衝突部と、この衝突部により形成された渦を導くように給水通路の下流に設けられ、振動平面に平行な方向の幅が、振動平面と直角な方向の高さよりも広く形成された渦列通路と、渦列通路によって導かれた水を吐水させる吐出通路と、を備え、渦列通路は、渦列通路の上流側が形成された上流側部材と、渦列通路の下流側が形成された下流側部材を接続することにより構成され、上流側部材と下流側部材の接続部において、渦列通路の内壁面に下流側に向かって高さ方向に流路を狭める段差が形成されないように、下流側部材の上流端における渦列通路の高さは、上流側部材の下流端における渦列通路の高さよりも高く構成されていることを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明においては、吐水装置本体に設けられた振動発生素子の給水通路に流入した水は、衝突部に衝突し、下流側に交互に反対回りの渦が発生される。発生した渦を含む水の流れは、下流側の渦列通路によって導かれ、吐出通路から、所定の振動平面内で往復振動しながら吐出される。渦列通路は、その上流側が形成された上流側部材と、下流側が形成された下流側部材を接続することにより構成され、下流側部材の上流端における渦列通路の高さは、上流側部材の下流端における渦列通路の高さよりも高く形成されている。
【0009】
このように構成された本発明によれば、渦列通路が、上流側部材と下流側部材を接続することにより形成されているので、上流側部材及び下流側部材を、樹脂成形において容易に型を抜くことができる形状に構成することができる。このため、成形に使用可能な樹脂の選択の幅を広げることができる。
【0010】
一方、本発明においては、渦列通路を上流側部材と下流側部材で構成することから、これらの部材が接続される渦列通路の内壁面に段差ができる可能性がある。ここで、本件発明者は、振動発生素子を2つの部材から構成し、渦列通路の内壁面に段差ができた場合であっても、渦列通路の内壁面に下流側に向かって高さ方向に流路を狭める段差が形成されなければ、振動発生素子の性能が著しく低下することがないことを見出した。上記のように構成された本発明によれば、下流側部材の上流端における渦列通路の高さが、上流側部材の下流端における渦列通路の高さよりも高く構成されている。このため、上流側部材及び下流側部材に寸法誤差、形状誤差が存在したとしても、これらの部材の接続部に、高さ方向に流路を狭める段差が形成されるのを容易に防止することができ、上流側部材及び下流側部材の成形を容易にしながら、振動発生素子の性能の著しい低下を回避することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、下流側部材に形成された渦列通路は、下流に向かって滑らかに高さが低くなるように構成されている。
まず、本発明においては、下流側部材の上流端における渦列通路の高さが、上流側部材の下流端における渦列通路の高さよりも高く構成されているので、上流側部材と下流側部材の接続部において、渦列通路の流路断面積が広くなる。このため、上流側部材から下流側部材に流入した水の流速は低下する。しかしながら、上記のように構成された本発明によれば、下流側部材に形成された渦列通路は、下流に向かって滑らかに高さが低くなるように構成されているので、下流側部材に流入した水の流速は下流に向かって少しずつ上昇する。これにより、渦列通路内を流れる水の流速を、上流側部材から流出した際の流速に近づけることができ、渦列通路を2つの部材に分割して構成したことによる悪影響を軽減することができる。また、下流側部材内の渦列通路は、段差なく、滑らかに高さが低くなるように構成されているので、通路内を流れる水に含まれる渦に影響を与えにくく、所望の往復振動角度、及び浴び心地で水を吐出させることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、下流側部材に形成された渦列通路は、下流に向かって高さが低くなるように構成されたテーパ部を有する。
このように構成された本発明によれば、渦列通路にテーパ部を設けることにより、渦列通路の高さが下流に向かって低くされるので、単純な形状で渦列通路高さを漸減させることができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、下流側部材に形成された渦列通路の下流端の高さは、上流側部材に形成された渦列通路の下流端の高さと同一である。
このように構成された本発明によれば、下流側部材の渦列通路の下流端における高さは、上流側部材の渦列通路の下流端における高さと同一であるため、上流側部材と下流側部材の接続部において低下した水の流速を、上流側部材の渦列通路の下流端における流速まで戻すことができる。これにより、渦列通路を2つの部材から構成したことによる影響を、さらに小さくすることができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、振動発生素子は、衝突部の上流端から、上流側部材に形成された渦列通路の下流端までの長さが、衝突部の最大幅の2.5倍以上に構成されている。
【0015】
本発明において、水が衝突部に衝突することによって発生する渦は、渦列通路によって導かれながら成長する。上記のように構成された本発明によれば、衝突部の上流端から、上流側部材に形成された渦列通路の下流端までの長さは、衝突部の最大幅の2.5倍以上に構成されている。このため、発生した渦は、渦列通路内で十分に成長した後で、上流側部材と下流側部材の接続部を通ることとなり、渦を含む流れが接続部を通ることによる悪影響を軽減することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、振動発生素子は、上流側部材と下流側部材の接続部において、下流側部材の上流端における渦列通路の幅が、上流側部材の下流端における渦列通路の幅よりも広く構成されている。
【0017】
このように構成された本発明によれば、上流側部材と下流側部材の接続部において、下流側部材の上流端における渦列通路の幅が、上流側部材の下流端における渦列通路の幅よりも広く構成されている。この結果、下流側に向かって渦列通路を幅方向に狭める段差の形成も防止することができ、渦列通路を上流側部材と下流側部材に分割して形成することによる悪影響を、さらに軽減することができる。
【0018】
本発明において、好ましくは、振動発生素子は、衝突部よりも下流側から、渦列通路に水を流入させるバイパス通路を備え、このバイパス通路の内壁面の一部は、下流側部材によって形成されている。
【0019】
このように構成された本発明によれば、振動発生素子がバイパス通路を備えているので、振動発生素子から吐出される水の往復振動の振幅等を、バイパス通路から流入する水の流量によっても調整することができる。また、バイパス通路の内壁面の一部が下流側部材によって形成されているので、バイパス通路を備えた形態の振動発生素子も、容易に成形することができる。
【0020】
本発明において、好ましくは、バイパス通路は、その最も下流側に位置する内壁面のみが、下流側部材によって形成されている。
このように構成された本発明によれば、バイパス通路は、その最も下流側に位置する内壁面のみが、下流側部材によって形成されているので、バイパス通路を接続することにより渦列通路の流路断面積が変化する部分と、上流側部材と下流側部材を接続することにより流路断面積が変化する部分を1つに集約することができ、流路断面積の変化によって生じる悪影響を軽減することができる。また、バイパス通路の最も下流側に位置する内壁面のみを、下流側部材によって形成することにより、上流側部材と下流側部材を接続することによって流路断面積が変化する部分を衝突部から離間させ、衝突部によって形成された渦を十分に成長させることができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、上流側部材は硬質部材で形成され、下流側部材は軟質部材で形成されている。
このように構成された本発明によれば、上流側部材を硬質部材で形成することにより、水の圧力が比較的高い上流側の部分において、水圧による渦列通路の変形を抑制することができる。また、下流側部材を軟質部材で形成することにより、下流端の吐出通路内に、水道水に含まれるカルシウム成分が堆積し、固化した場合でも、吐出通路の部分を弾性変形させて、堆積したカルシウム成分(スケール)を容易に除去することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、性能の著しい低下を招くことなく、容易に成型することができる振動発生素子を備えた吐水装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態による吐水装置を上方から見た分解斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態による吐水装置を下方から見た分解斜視図である。
図3】本発明の第1実施形態による吐水装置において、散水板に機能部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
図4】本発明の第1実施形態による吐水装置において、散水板に機能部材を取り付けた状態の断面図である。
図5図4のV-V線に沿う断面図である。
図6図5のVI-VI線に沿う断面図である。
図7】本発明の第1実施形態における振動発生素子を模式的に示す図である。
図8】比較例として、一体で構成された振動発生素子を模式的に示す図である。
図9】分割構造を有する振動発生素子の比較例を示す断面図である。
図10】分割構造を有する振動発生素子の比較例を示す斜視断面図である。
図11】本発明の第1実施形態の変形例を示す断面図である。
図12】本発明の第1実施形態の変形例を示す断面図である。
図13】本発明の第1実施形態の変形例を示す断面図である。
図14】本発明の第1実施形態の変形例を示す断面図である。
図15】本発明の第1実施形態の変形例を示す断面図である。
図16】本発明の第1実施形態の変形例を示す断面図である。
図17】本発明の第2実施形態によるシャワーヘッドの外観を示す斜視図である。
図18】本発明の第2実施形態によるシャワーヘッドの全断面図である。
図19】本発明の第2実施形態によるシャワーヘッドに備えられている振動発生素子の斜視断面図である。
図20】本発明の第2実施形態によるシャワーヘッドに備えられている振動発生素子を振動平面に平行な方向に切断した断面図である。
図21】本発明の第2実施形態によるシャワーヘッドに備えられている振動発生素子を振動平面に直角な方向に切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による吐水装置を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態による吐水装置を上方から見た分解斜視図である。図2は、本発明の第1実施形態による吐水装置を下方から見た分解斜視図である。
【0025】
図1及び図2に示すように、本実施形態の吐水装置1は、いわゆるハンドシャワーであって、吐水装置本体10と、この吐水装置本体10に取り付けられた散水板12と、散水板12の背面に取り付けられた機能部材14と、から構成されている。
【0026】
吐水装置本体10は、吐水ヘッド部10aと把持部10bとを有し、供給された水が内部に流入するように構成されている。
散水板12は概ね円板状の部材であり、吐水装置本体10の吐水ヘッド部10aに取り付けられる。また、図2に示すように、散水板12の前面には、複数の円筒形の散水ノズル16が突出するように設けられている。
【0027】
また、図1に示すように、機能部材14は、散水板12の背面側中央に取り付けられ、散水板12の一部と共に、5つの振動発生素子を構成するようになっている。この振動発生素子は、供給された水を所定の振動平面内で往復振動させながら吐水するように構成されている。振動発生素子の詳細については後述する。
【0028】
本実施形態の吐水装置1は、供給された水が吐水装置本体10内に流入し、吐水ヘッド部10aに取り付けられた散水板12の散水ノズル16及び振動発生素子を通ってシャワー吐水されるように構成されている。各散水ノズル16から吐出される水は夫々1本の線状に吐出され、各振動発生素子から吐出される水は、所定の振動平面内で往復振動しながら吐出される。
【0029】
次に、図3乃至図6を新たに参照して、振動発生素子について説明する。
図3は散水板12に機能部材14を取り付けた状態を示す斜視図であり、図4は、その断面図である。また、図5は、図4のV-V線に沿う断面図であり、1つの振動発生素子の部分のみを抜き出して描かれている。図6は、図5のVI-VI線に沿う断面図である。
【0030】
振動発生素子22は、上流側部材18と、下流側部材20を接続することにより構成されている(図5)。即ち、本実施形態においては、図3に示すように、5つの上流側部材18が環状に連結され、上述した機能部材14が構成されている。また、本実施形態においては、図4に示すように、下流側部材20は散水板12と一体に形成され、散水板12の一部が下流側部材20として機能している。
【0031】
即ち、図4に示すように、下流側部材20は、散水板12の背面側に突出するように形成された背面部20a(図1)と、散水板12の前面側に突出するように形成された前面部20b(図2)から構成されている。これにより、本実施形態においては、機能部材14を散水板12の背面側に取り付けることで、環状に配列された5つの振動発生素子22が構成される。また、本実施形態においては、機能部材14(上流側部材18)は、硬質部材(例えばPOM(ポリアセタール))で形成されており、散水板12(下流側部材20)は、軟質部材(例えばTPE(熱可塑性エラストマー))で形成されている。なお、本実施形態においては、機能部材14を散水板12に嵌め込むことにより両者が結合されているが、上流側部材18と下流側部材20を、接着や溶着等、任意の方法で結合することもできる。なお、硬質部材としては、通常の給水圧によって変形しない程度の強度をもつ部材であればよく、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)などでもよい。また、軟質部材は、使用者が力を加えることで容易に弾性変形する部材であればよく、例えば、シリコーンゴムなどでもよい。
【0032】
図5に示すように、振動発生素子22は、供給された水が流入する給水通路24と、この給水通路24の下流に設けられた渦列通路26と、渦列通路によって導かれた水を吐水させる吐出通路28と、を有する。さらに、給水通路24の下流側の端部には、給水通路24の流路断面の一部を閉塞するように、衝突部30が設けられている。各振動発生素子22は、供給された水を、図5の紙面に平行な振動平面内で往復振動させながら、吐出通路28の下流端から吐水するように構成されている。
【0033】
給水通路24は、吐水装置本体10内に流入した水が流入するように構成された、断面の寸法、形状が一定の通路である。また、給水通路24は、振動平面に平行な方向の幅が、振動平面と直角な方向の高さよりも大きい扁平な長方形断面を有するように形成されている。また、給水通路24の下流には、同一の断面形状に構成された渦列通路26が連続して設けられている。
【0034】
衝突部30は、給水通路24の下流側の端部に、給水通路24の流路断面の一部を閉塞するように設けられている。即ち、衝突部30は、給水通路24、渦列通路26を形成する、振動平面に平行な2つの内壁面同士を連結するように設けられている(図6)。また、本実施形態において、衝突部30は、振動平面に直角な方向から見て、直角二等辺三角形状に形成されており、その斜辺が上流側に向くように、給水通路24の中央に配置されている。この衝突部30には、給水通路24によって導かれた水が衝突することで、その下流側に交互に反対回りの渦が発生する。
【0035】
渦列通路26は、給水通路24の下流に形成され、衝突部30により形成された渦を導くように構成されている。また、渦列通路26は、その上流部において、給水通路24と同一の断面寸法、形状で連続するように形成された通路である。即ち、渦列通路26は、振動平面に平行な方向の幅が、振動平面と直角な方向の高さよりも広く形成された扁平な長方形断面を有する通路である。衝突部30により形成された渦は、この渦列通路26によって導かれることにより成長しながら下流へ移動する。
【0036】
吐出通路28は、渦列通路26の下流側に接続された流路であり、渦列通路26によって導かれた水を吐水させるように構成されている。また、吐出通路28の上流端の幅は渦列通路26の下流端の幅よりも狭く、下流側に向けてテーパ状に幅が広くなっている。一方、図6に示すように、吐出通路28の、振動平面と直角な方向の高さは、渦列通路26の下流側における高さと同一であり、上流端から下流端まで一定の高さにされている。衝突部30の下流側で発生した交互に反対回りの渦は、渦列通路26において成長し、吐出通路28から吐出される。この際、反対回りの渦が交互に到達することにより、吐出通路28から吐出される水の方向が振動平面内で往復振動する。
【0037】
次に、振動発生素子22の分割構造について説明する。
上述したように、各振動発生素子22は、上流側部材18と下流側部材20の2つの部材から構成されており、上流側部材18には、給水通路24と、渦列通路26の上流側の部分が形成されている。また、下流側部材20には、渦列通路26の下流側の部分と、吐出通路28が形成されている。即ち、渦列通路26は、上流側が上流側部材18に形成され、下流側が下流側部材20に形成され、上流側部材18と下流側部材20を接続することにより構成されている。
【0038】
ここで、図6に示すように、下流側部材20に形成された渦列通路26の上流端における高さH2は、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端における高さH1よりも高く構成されている。これにより、上流側部材18と下流側部材20の接続部Jにおいて、渦列通路26の内壁面に下流側に向かって高さ方向に流路を狭める段差が形成されるのを防止している。さらに、渦列通路26の高さは、下流側部材20に形成された部分において、上流端から下流端に向けてテーパ状に低くなっている。即ち、本実施形態においては、下流側部材20に形成された渦列通路26全体がテーパ部として構成されている。また、本実施形態においては、下流側部材20に形成された渦列通路26の下流端における高さは、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端における高さH1と同一である。即ち、渦列通路26の高さは、上流側部材18と下流側部材20の接続部Jにおいて一旦拡張され、下流側部材20の下流端において、もとの高さに戻る。
【0039】
また、本実施形態においては、図5に示すように、下流側部材20に形成された渦列通路26の上流端における幅W2が、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端における幅W1よりも広く構成されている。これにより、上流側部材18と下流側部材20の接続部Jにおいて、幅方向にも、渦列通路26の内壁面に下流側に向かって流路を狭める段差が形成されるのを防止している。
【0040】
さらに、本実施形態においては、衝突部30の上流端から、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端までの長さLが約6.7mmであり、衝突部30の最大幅WMAXは約2mmに構成されている。このように、長さLを長く設定することにより、衝突部30によって形成された渦が渦列通路26の接続部Jに到達するまでに十分に成長し、渦が接続部Jの影響を受けにくくなる。好ましくは、衝突部30の上流端から、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端までの長さLを、衝突部30の最大幅WMAXの2.5倍以上に構成する。
【0041】
次に、図7乃至図10を参照して、振動発生素子22を2つの部材から構成することによる利点と、2つの部材の接続部において発生する段差について説明する。図7は、2つの部材から構成された本実施形態における振動発生素子を模式的に示す図であり、図8は、比較例として、一体で構成された振動発生素子を模式的に示す図である。
【0042】
図7に示すように、本実施形態の振動発生素子22は、上流側部材18及び下流側部材20から構成され、渦列通路26が2つの部材から構成されている。このため、射出成形により上流側部材18を成形する場合には、成形型M1及びM2を衝突部30の部分で分割しておくことにより、成形型M1及びM2を上流側及び下流側から夫々抜き取ることができる。同様に、下流側部材20を成形する場合には、成形型M3及びM4を渦列通路26と吐出通路28の境界で分割しておくことにより、上流側及び下流側から成形型M3及びM4を夫々抜き取ることができる。このため、上流側部材18及び下流側部材20は、射出成形等により、容易に成形することができる。
【0043】
一方、図8に示すように、一体で成形された比較例の振動発生素子32では、射出成形を行う場合、成形型M5を上流側から引き抜くことができるものの、成形型M6は、図中に破線で囲った部分が係合してしまう。このため、成形型M6を下流側から容易に引き抜くことはできず、これを可能とするために、射出成形に使用する材料として、弾性変形が可能なものを選択する等の対策が必要となる。このため、振動発生素子を一体で成形する場合には、材料の選択等に一定の制約が発生し、本実施形態のように振動発生素子22を分割構造とすることには大きなメリットがある。
【0044】
しかしながら、振動発生素子を分割構造とし、渦列通路26を2つの部材から構成すると、別の問題が発生する。図9は、分割構造を有する振動発生素子の比較例を示す断面図であり、図10は、この比較例による振動発生素子の斜視断面図である。
【0045】
図9に示すように、比較例による振動発生素子34は、上流側部材18と、下流側部材20から構成されているが、下流側部材20に形成された渦列通路26の上流端における高さH4と、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端における高さH3が同一に構成されている。ここで、上流側部材18及び下流側部材20を完全な寸法精度、形状精度で成形することは不可能であり、上流側部材18と下流側部材20の接続部Jには、図9に示すようにずれが生じる。このように、上流側部材18と下流側部材20の組み付けにずれが生じると、図10に示すように、組み付けられた上流側部材18と下流側部材20の接続部Jに段差が生じる。
【0046】
図10においては、上流側部材18と下流側部材20の接続部Jにおいて、渦列通路26の内壁面に下流側に向かって高さ方向に流路を狭める段差が形成されている(反対側の内壁面においては、下流側に向かって高さ方向に流路を広げる段差が形成される)。本件発明者は、渦列通路26の内壁面に、このような高さ方向に流路を狭める段差が生じてしまうと、渦列通路26によって導かれている渦が弱められてしまい、吐出通路28から吐出される水が往復振動しなくなったり、往復振動の振幅が小さくなったりしてしまうという問題を見出した。
【0047】
これに対して、本実施形態における振動発生素子22は、図6に示すように、下流側部材20に形成された渦列通路26の上流端における高さH2は、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端における高さH1よりも高く構成されている。このため、上流側部材18と下流側部材20の組み付けにずれが生じた場合でも、これらの部材の接続部Jにおいて発生する段差は、両側とも、下流側に向かって高さ方向に流路を広げる段差となる。下流側に向かって流路を広げる段差は、渦列通路26内を流れる渦に与える影響が少なく、段差が生じていても、吐出される水が往復振動しなくなったり、往復振動の振幅が著しく小さくなったりすることはない。
【0048】
本実施形態においては、下流側部材20に形成された渦列通路26の上流端における高さH2は約1.6mmであり、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端における高さH1は約1.0mmである。従って、高さH2の方が高さH1よりも約0.6mm高く構成されている。これにより、上流側部材18、下流側部材20自体の寸法、形状の誤差、及びこれらの部材の組み付けの誤差が生じた場合でも、接続部Jにおいて、下流側に向かって高さ方向に流路を狭める段差が生じないようになっている。高さH1とH2の差は、上流側部材18及び下流側部材20において想定される最大の寸法誤差、形状誤差、及びこれらの部材の組み付けにおいて想定される最大の誤差が生じた場合でも、下流側に向かって流路を狭める方向の段差が生じないように設定するのが良い。
【0049】
また、本実施形態においては、下流側部材20に形成された渦列通路26の上流端における幅W2は約5.7mmであり、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端における幅W1は約6.1mmである。従って、渦列通路26の幅方向についても、幅W2の方が幅W1よりも約0.4mm広く構成されている。渦列通路26の幅は、高さよりも大きく、同じ大きさの段差が生じた場合でも、内部を流れる渦に与える影響は小さくなる。しかしながら、幅方向についても、幅W2を幅W1よりも広く形成し、下流側に向かって幅方向に流路を狭める段差が生じないように構成することが好ましい。
【0050】
次に、図11乃至図16を参照して、本発明の第1実施形態の変形例を説明する。
上述した第1実施形態においては、下流側部材20に形成された渦列通路26は、図6に示すように、下流に向かって通路の高さが低くなるように全体がテーパ部として構成されていた。これに対して、変形例として、図11に示すように、下流側部材20に形成された渦列通路26を、湾曲面36で下流に向かって高さが低くなるように構成することもできる。
【0051】
また、図12に示す変形例においては、下流側部材20に形成された渦列通路26の基端部のみをテーパ部38として構成し、テーパ部38の下流側の流路を高さ一定に構成している。
或いは、図13に示す変形例のように、下流側部材20に形成された渦列通路26の先端部のみをテーパ部40として構成し、基端部の流路を高さ一定に構成することもできる。
【0052】
さらに、図14に示す変形例のように、下流側部材20に形成された渦列通路26の中間部のみをテーパ部42として構成し、基端部及び先端部の流路を高さ一定に構成することもできる。
以上のように、下流側部材20に形成された渦列通路26は、その高さが、下流に向かって滑らかに単調減少し、又は一定になるように構成することが好ましい。
【0053】
また、上述した第1実施形態においては、下流側部材20に形成された渦列通路26の幅は、図5に示すように、上流側部材18に形成された渦列通路26の幅よりも僅かに広く、全体が一定の幅に構成されていた。これに対して、変形例として、図15に示すように、下流側部材20に形成された渦列通路26の幅を、その上流端において、上流側部材18に形成された渦列通路26の幅よりも広く、下流に向かって幅が狭くなるように構成することもできる。
【0054】
或いは、図16に示す変形例のように、下流側部材20に形成された渦列通路26の幅を、上流側部材18に形成された渦列通路26の幅よりも所定幅広く構成することもできる。
【0055】
本発明の第1実施形態の吐水装置1によれば、渦列通路26が、上流側部材18と下流側部材20を接続することにより形成されているので、上流側部材18及び下流側部材20を、樹脂成形において容易に型を抜くことができる形状に構成することができる(図7)。このため、成形に使用可能な樹脂の選択の幅を広げることができる。
【0056】
また、本実施形態の吐水装置1によれば、下流側部材20の上流端における渦列通路26の高さH2が、上流側部材18の下流端における渦列通路26の高さH1よりも高く構成されている。このため、上流側部材18及び下流側部材20に寸法誤差、形状誤差が存在したとしても、これらの部材の接続部Jに、高さ方向に流路を狭める段差が形成されるのを容易に防止することができ、上流側部材18及び下流側部材20の成形を容易にしながら、振動発生素子22の性能の著しい低下を回避することができる。
【0057】
さらに、本実施形態の吐水装置1によれば、下流側部材20に形成された渦列通路26は、下流に向かって滑らかに高さが低くなるように構成されている(図6図11乃至図14)ので、下流側部材20に流入した水の流速は下流に向かって少しずつ上昇する。これにより、渦列通路26内を流れる水の流速を、上流側部材18から流出した際の流速に近づけることができ、渦列通路26を2つの部材に分割して構成したことによる悪影響を軽減することができる。また、下流側部材20内の渦列通路26は、段差なく、滑らかに高さが低くなるように構成されているので、通路内を流れる水に含まれる渦に影響を与えにくく、所望の往復振動角度、及び浴び心地で水を吐出させることができる。
【0058】
また、本実施形態の吐水装置1によれば、渦列通路26にテーパ部を設けることにより、渦列通路26の高さが下流に向かって低くされる(図6図12乃至図14)ので、単純な形状で渦列通路高さを漸減させることができる。
【0059】
さらに、本実施形態の吐水装置1によれば、下流側部材20の渦列通路26の下流端における高さは、上流側部材18の渦列通路26の下流端における高さH1と同一であるため、上流側部材18と下流側部材20の接続部Jにおいて低下した水の流速を、上流側部材18の渦列通路26の下流端における流速まで戻すことができる。これにより、渦列通路26を2つの部材から構成したことによる影響を、さらに小さくすることができる。
【0060】
また、本実施形態の吐水装置1によれば、衝突部30の上流端から、上流側部材18に形成された渦列通路26の下流端までの長さL(図5)は、衝突部30の最大幅WMAXよりも十分に長く構成されている。このため、発生した渦は、渦列通路26内で十分に成長した後で、上流側部材18と下流側部材20の接続部Jを通ることとなり、渦を含む流れが接続部Jを通ることによる悪影響を軽減することができる。
【0061】
さらに、本実施形態の吐水装置1によれば、上流側部材18と下流側部材20の接続部Jにおいて、下流側部材20の上流端における渦列通路の幅W2が、上流側部材18の下流端における渦列通路の幅W1よりも広く構成されている(図5)。この結果、下流側に向かって渦列通路26を幅方向に狭める段差の形成も防止することができ、渦列通路26を上流側部材18と下流側部材20に分割して形成することによる悪影響を、さらに軽減することができる。
【0062】
また、本実施形態の吐水装置1によれば、上流側部材18を硬質部材で形成することにより、水の圧力が比較的高い上流側の部分において、水圧による渦列通路26の変形を抑制することができる。また、下流側部材20を軟質部材で形成することにより、下流端の吐出通路28内に、水道水に含まれるカルシウム成分が堆積し、固化した場合でも、吐出通路28の部分を弾性変形させて、堆積したカルシウム成分(スケール)を容易に除去することができる。
【0063】
次に、図17乃至図21を参照して、本発明の第2実施形態の吐水装置であるシャワーヘッドを説明する。
本実施形態の吐水装置は、吐水装置本体が円柱形に構成されている点、及び内蔵されている振動発生素子がバイパス通路を備えている点が上述した第1実施形態とは異なる。従って、以下では、本実施形態の、第1実施形態とは異なる点のみを説明し、同様の構成、作用、効果については説明を省略する。
【0064】
図17は本発明の第2実施形態によるシャワーヘッドの外観を示す斜視図である。図18は本発明の第2実施形態によるシャワーヘッドの全断面図である。図19は本発明の第2実施形態によるシャワーヘッドに備えられている振動発生素子の斜視断面図である。図20は振動発生素子を振動平面に平行な方向に切断した断面図であり、図21は振動発生素子を振動平面に直角な方向に切断した断面図である。
【0065】
図17に示すように、本実施形態のシャワーヘッド100は、概ね円柱形の吐水装置本体であるシャワーヘッド本体102と、このシャワーヘッド本体102内に、軸線方向に一直線に並べて埋め込まれた9つの振動発生素子104と、を有する。本実施形態のシャワーヘッド100は、シャワーヘッド本体102の基端部102aに接続されたシャワーホース(図示せず)から水が供給されると、各振動発生素子104の吐水口104aから水が往復振動しながら吐出される。
【0066】
次に、図18を参照して、シャワーヘッド100の内部構造を説明する。
図18に示すように、シャワーヘッド本体102内には、通水路を形成すると共に、各振動発生素子104を保持する通水路形成部材106が内蔵されている。
通水路形成部材106は、概ね円筒形の部材であり、シャワーヘッド本体102の内部に供給された水の流路を形成するように構成されている。通水路形成部材106の基端部には、シャワーホース(図示せず)が水密的に接続されるようになっている。また、通水路形成部材106の内部には、概ね軸線方向に延びる主通水路106aが形成されている。
【0067】
さらに、通水路形成部材106には、各振動発生素子104を挿入して保持するための9つの素子挿入孔106cが、主通水路106aと連通するように形成されている。各素子挿入孔106cは、通水路形成部材106の外周面から主通水路106aまで延びるように形成されている。また、各素子挿入孔106cは、概ね等間隔に、軸線方向に一直線に並べて形成されている。これにより、通水路形成部材106の主通水路106a内に流入した水は、通水路形成部材106に保持された各振動発生素子104に、その背面側から流入し、正面に設けられた吐水口104aから吐出される。
【0068】
次に、図19乃至図21を参照して、本実施形態のシャワーヘッドに内蔵されている振動発生素子104の構成を説明する。
図19乃至図21に示すように、振動発生素子104は概ね薄い直方体状の部材であり、その正面側の端面には長方形の吐水口104aが設けられ、背面側の端面中央には主流入口104bが形成され、その両側にはバイパス流入口104cが設けられている。各振動発生素子104が素子挿入孔106cに挿入されると、主流入口104b及びバイパス流入口104cが通水路形成部材106の主通水路106aに連通する。
【0069】
また、振動発生素子104は、上流側部材118と下流側部材120の2つの部材から構成されており、上流側部材118が背面側から下流側部材120の内部に挿入されている。この構成により、上流側部材118の両側面と、下流側部材120の内壁面との間に、第2給水通路140が夫々形成される。
【0070】
さらに、図20に示すように、振動発生素子104の内部には、上流側から順に、給水通路124、渦列通路126、吐出通路128が形成されている。また、給水通路124の下流側端部には、衝突部130が設けられている。ここで、給水通路124と、渦列通路126の上流側は上流側部材118の内部に形成され、渦列通路126の下流側と、吐出通路128は下流側部材120の内部に形成されている。
【0071】
給水通路124は、振動発生素子104背面側の主流入口104bから延びる断面積一定の長方形断面の直線状の通路である。
【0072】
渦列通路126は、給水通路124の下流に、給水通路124に連続して設けられた長方形断面の通路である。即ち、本実施形態においては、上流側部材118の内部に設けられた給水通路124及び渦列通路126の上流側は、同一の断面形状で一直線に延びている。また、渦列通路126の下流側は、下流側部材120の内部に設けられている。
【0073】
ここで、図21に示すように、下流側部材120に形成された渦列通路126の上流端における高さH6は、上流側部材118に形成された渦列通路126の下流端における高さH5よりも高く構成されている。これにより、上流側部材118と下流側部材120の接続部Jにおいて、渦列通路126の内壁面に下流側に向かって高さ方向に流路を狭める段差が形成されるのを防止している。さらに、下流側部材120に形成された渦列通路126は、下流端に向かって高さが低くなるように、テーパして構成されている。また、図20に示すように、下流側部材120の上流端における渦列通路126の幅W6は、上流側部材118の下流端における渦列通路126の幅W5よりも広く構成されている。
【0074】
吐出通路128は、渦列通路126と連通するように下流側に設けられた通路であり、下流に向かって幅が広くなるように構成されている。また、吐出通路128の高さは、一定に構成されている。この吐出通路128の上流端における流路断面積は、渦列通路126の流路断面積よりも小さく、渦列通路126によって導かれた渦列を含む水流が絞られて、吐水口104aから吐出される。
【0075】
さらに、渦列通路126の両側の側面には、互いに向かい合うように、長方形断面のバイパス通路142が夫々設けられている。各第2給水通路140から夫々流入した水は、各バイパス通路142を通り、衝突部130よりも下流側において、渦列通路126の側面から渦列通路126に流入する。各バイパス通路142は、上流側部材118と下流側部材120の接続部Jに設けられている。このため、バイパス通路142を構成する内壁面の一部が下流側部材120に設けられ、残りの部分が上流側部材118に設けられている。
【0076】
本実施形態においては、図20図21に示すように、バイパス通路142を構成する、最も下流側に位置する内壁面120aのみが下流側部材120に設けられ、残りの内壁面118a及び内壁面118b、118cは上流側部材118に設けられている。このように、本実施形態においては、上流側部材118と下流側部材120の接続部Jにバイパス通路142が設けられている。これにより、バイパス通路142を成形するための成形型(図示せず)を、バイパス通路142の方向(側方)に向けて抜く構成とする必要がなく、バイパス通路142を有する振動発生素子104を容易に成形することができる。
【0077】
また、変形例として、最も上流側に位置する内壁面118aのみを上流側部材118に形成し、他の内壁面118b、118c、120aが下流側部材120に形成されるように本発明を構成することもできる。或いは、内壁面118aを上流側部材118に形成し、内壁面120aを下流側部材120に形成し、内壁面118b、118cが上流側部材118及び下流側部材120によって形成されるように本発明を構成することができる。
【0078】
一方、給水通路124の下流端に形成された衝突部130は、給水通路124の流路断面の一部を閉塞するように設けられている。この衝突部130は、給水通路124の高さ方向に対向する壁面(天井面及び床面)を連結するように延びる三角柱状の部分であり、給水通路124の幅方向の中央に、島状に配置されている。衝突部130の断面は、直角二等辺三角形状に形成されており、その斜辺が給水通路124の中心軸線と直交するように配置され、また、直角二等辺三角形の直角の部分は下流側に向くように配置されている。
【0079】
衝突部130を設けることにより、その下流側にカルマン渦が生成され、吐水口104aから吐出される水が往復振動される。また、上述したように、渦列通路126の両側の側面にはバイパス通路142が互いに向かい合うように設けられており、第2給水通路140からバイパス通路142を通った水が流入する。このため、バイパス通路142は、渦列通路126が延びる方向に対して直交する方向に水を流入させる。
【0080】
各バイパス通路142からの湯水は、衝突部130によって形成されたカルマン渦を含む流れに側面から合流する。即ち、バイパス通路142を通って流入する水は、衝突部130を迂回して、渦列通路126の中に流入する。
【0081】
このように、衝突部130によって形成されたカルマン渦を含む流れに、各バイパス通路142からの水が渦列通路126内で合流するため、渦列の進行に伴う吐水口104aにおける流速の変化は小さくなる。これにより、吐出される水の偏向が小さくなり、噴射される水の振動振幅が小さくなる。即ち、衝突部130を通って渦列通路126に流入する水の流量と、バイパス通路142から流入する水の流量の割合を、適宜設定することにより、水の振動振幅を自由に設計することができる。
【0082】
本発明の第2実施形態の吐水装置によれば、振動発生素子104がバイパス通路142を備えている(図20)ので、振動発生素子104から吐出される水の往復振動の振幅等を、バイパス通路142から流入する水の流量によっても調整することができる。また、バイパス通路142の内壁面の一部が下流側部材120によって形成されているので、バイパス通路142を備えた形態の振動発生素子104も、容易に成形することができる。
【0083】
また、本実施形態の吐水装置によれば、バイパス通路142は、その最も下流側に位置する内壁面120a(図20)のみが、下流側部材120によって形成されているので、バイパス通路142を接続することにより渦列通路126の流路断面積が変化する部分と、上流側部材118と下流側部材120を接続することにより流路断面積が変化する部分を1つに集約することができ、流路断面積の変化によって生じる悪影響を軽減することができる。また、バイパス通路142の最も下流側に位置する内壁面120aのみを、下流側部材120によって形成することにより、上流側部材118と下流側部材120を接続することによって流路断面積が変化する部分を、衝突部130から離間させ、衝突部によって形成された渦を十分に成長させることができる。
【0084】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、本発明をシャワーヘッドに適用していたが、台所のシンクや洗面台等で使用する水栓装置や、便座等に備えられる温水洗浄装置等、任意の吐水装置に本発明を適用することができる。また、上述した実施形態においては、シャワーヘッドに複数の振動発生素子が備えられていたが、吐水装置には適用に応じて任意の個数の振動発生素子を備えることができ、単一の振動発生素子を備えた吐水装置を構成することもできる。
【0085】
また、上述した実施形態においては、下流側部材に上流側部材を嵌め込むことにより、両部材が嵌合されていたが、上流側部材に下流側部材を嵌め込むことにより、両者が嵌合される構成とすることもできる。さらに、上流側部材と下流側部材との接続部にシール部材を設けることもできる。これにより、上流側部材と下流側部材の相対位置が変化しにくくなり、渦列通路の内壁面に下流側に向かって高さ方向に流路を狭める段差、及び渦列通路の内壁面に下流側に向かって幅方向に流路を狭める段差が形成されるのを確実に防止することができる。なお、シール部材は、上流側部材及び下流側部材とは別の部材として設けることができ、或いは、上流側部材又は下流側部材自体がシール部材を構成していてもよい。
【0086】
なお、上述した本発明の実施形態において、振動発生素子内の通路について、便宜的に「幅」、「高さ」等の用語を用いて形状を説明したが、これらの用語は振動発生素子を設ける方向を規定するものではなく、振動発生素子は任意の方向に向けて使用することができる。例えば、上述した実施形態における「高さ」の方向を水平方向に向けて振動発生素子を使用することもできる。
【符号の説明】
【0087】
1 吐水装置
10 吐水装置本体
10a 吐水ヘッド部
10b 把持部
12 散水板
14 機能部材
16 散水ノズル
18 上流側部材
20 下流側部材
20a 背面部
20b 前面部
22 振動発生素子
24 給水通路
26 渦列通路
28 吐出通路
30 衝突部
32 比較例による振動発生素子
34 比較例による振動発生素子
36 湾曲面
38 テーパ部
40 テーパ部
42 テーパ部
100 シャワーヘッド
102 シャワーヘッド本体
102a 基端部
104 振動発生素子
104a 吐水口
104b 主流入口
104c バイパス流入口
106 通水路形成部材
106a 主通水路
106c 素子挿入孔
118 上流側部材
118a 内壁面
118b 内壁面
118c 内壁面
120 下流側部材
120a 内壁面
124 給水通路
126 渦列通路
128 吐出通路
130 衝突部
140 第2給水通路
142 バイパス通路
図1
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