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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】殺菌処理方法及び殺菌処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/04 20060101AFI20240719BHJP
   A61L 2/20 20060101ALI20240719BHJP
   A61L 9/20 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61L9/04
A61L2/20 100
A61L9/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020149898
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044329
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-329101(JP,A)
【文献】特開2017-123892(JP,A)
【文献】特表2015-502204(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073996(WO,A1)
【文献】特開2018-082987(JP,A)
【文献】登録実用新案第3195890(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
A61L 2/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画された人の往来が想定される処理空間内において、オゾンによって殺菌処理する方法であって、
湿度が60RH%~95RH%であり、両親媒性物質(界面活性剤を除く)が存在する環境下の前記処理空間内に、オゾンを導入することを特徴とする殺菌処理方法。
【請求項2】
水で希釈された前記両親媒性物質を前記処理空間内に噴霧した後、オゾンを発生させることを特徴とする請求項1に記載の殺菌処理方法。
【請求項3】
前記両親媒性物質は、芽胞菌に対して殺菌作用がない物質であることを特徴とする請求項1又は2に記載の殺菌処理方法。
【請求項4】
前記両親媒性物質は、アルコールであることを特徴とする請求項3に記載の殺菌処理方法。
【請求項5】
前記両親媒性物質は、エタノールであって、濃度が3体積%以上60体積%以下となるように水で希釈されていることを特徴とする請求項4に記載の殺菌処理方法。
【請求項6】
前記処理空間内に導入される前記オゾンは、主たる発光波長が100nm以上240nm以下の紫外光を出射する放電ランプを備えたオゾン発生器によって生成されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の殺菌処理方法。
【請求項7】
水で希釈された両親媒性物質(界面活性剤を除く)が貯留される貯留部と、前記貯留部から流し込まれる、水で希釈された前記両親媒性物質をミスト状にして噴出させる噴出口とを有する加湿器と、
電極に電力が供給されることで主たる発光波長が100nm以上240nm以下の紫外光を出射する放電ランプと、空気を吸気する吸気口と、前記吸気口から取り込まれた空気に対して前記放電ランプからの前記紫外光が照射されて生成されたオゾン含有ガスを排気する排気口とを有するオゾン発生器とを備え
前記加湿器は、前記処理空間の湿度が60RH%~95RH%の範囲となったところで停止することを特徴とする殺菌処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌処理方法及び殺菌処理装置に関し、特に、オゾンを用いた殺菌処理方法及び殺菌処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空間内に存在する菌を殺菌する方法として、オゾンを用いた殺菌方法が知られている。例えば、下記特許文献1には、チャンバ内にオゾンガスを供給して殺菌処理を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-164260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オゾンは、強い酸化力を有することから、様々な菌の殺菌や、ウィルスの不活化に用いられている。ところが、菌の中でも、枯草菌、セレウス菌、炭疽菌などバチルス属に属する菌や、ボツリヌス菌、破傷風菌などクロストリジウム属に属する菌のように、芽胞を産生する菌(以下、「芽胞菌」という。)は、オゾンが浸透、破壊できないような外殻を有しており、オゾンに曝すだけでは殺菌することができない。
【0005】
そこで、芽胞菌の殺菌には、活性酸素の中でも非常に酸化力が強く、水に溶解したオゾンによって発生されるヒドロキシラジカルによって、芽胞菌を殺菌する方法が提案されている。
【0006】
ヒドロキシラジカルは、活性酸素の中でも反応性が高く、空気中で長時間存在することができず、生成後速やかに消滅してしまう。したがって、ヒドロキシラジカルによって芽胞菌を殺菌処理させるためには、ヒドロキシラジカルが芽胞菌の近傍で生成される必要がある。
【0007】
これを実現するための方法として、上記特許文献1には、チャンバ内にミスト状の水を散布し、菌の表面に滞留した水とオゾンとの反応によってヒドロキシラジカルを発生させる殺菌処理方法が記載されている。
【0008】
ところが、菌の表面は、高湿度の環境下であっても、化学的な組成や油分の存在等によって表面に接触した水分を弾いてしまい、なかなか水が留まりづらい。このため、菌の表面にオゾンが到達してもヒドロキシラジカルはほとんど生成されない。
【0009】
また、菌の表面に水が十分に滞留するように、しばらく高湿度の環境下で菌の表面に水が十分に付着することを待ってからオゾンの発生を開始させることで、菌の近傍でヒドロキシラジカルを発生させることが考えられる。しかしながら、この殺菌処理方法によって期待する殺菌効果を得るには、菌の表面に確実に水が滞留している状態となるように、長時間にわたって処理空間を加湿し続けて高湿度を維持する必要があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、短時間でより高い殺菌効果が得られる、オゾンを用いた殺菌処理方法及び殺菌処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の殺菌処理方法は、
区画された処理空間内において、オゾンによって殺菌処理する方法であって、
両親媒性物質が存在する環境下の前記処理空間内に、オゾンを導入することを特徴とする。
【0012】
水中に存在しているオゾンは、下記(1)~(2)式の過程により、ヒドロキシラジカル(・OH)を生成する。(1)式は、オゾンと水中に存在する水酸イオン(OH-)が反応し、ヒドロペルオキシドラジカル(・HO2)とスーパーオキシドアニオン(O2 -)を生成する過程を示す。式(2)は、オゾンとヒドロペルオキシドラジカルが反応し、酸素とヒドロキシラジカルを生成する過程を示す。なお、(1)式や(2)式以外にも多くの反応が連鎖的に生じ得るが、ここでは代表的な2つの反応式のみを記載している。
3 + OH- → ・HO2 + O2 - ‥‥(1)
3 + ・HO2 → 2O2 + ・OH ‥‥(2)
【0013】
両親媒性物質は、水分となじみやすい親水基と、油分となじみやすい親油基(疎水基)とを併せ持つ物質である。両親媒性物質は、菌の表面に存在する油分や親油基となじみやすい化学構成が形成されている部分と接触すると、親油基が菌の表面側を向き、親水基が反対側を向くように菌の表面に留まる。そうすると、菌の外表面には、所々に両親媒性物質の親水基が現れ、水となじみやすい領域が形成される。
【0014】
したがって、上記方法とすることで、このような水となじみやすい領域が形成された状態でオゾンが導入させるため、菌の表面上、又は近傍でヒドロキシラジカルが生成されやすくなる。
【0015】
そして、生成されたヒドロキシラジカルは、菌の表面上、又は近傍で生成されるため、空気中の物質と反応して消滅してしまう前に菌と接触しやすくなる。つまり、上記方法によれば、通常の菌をより確実に殺菌処理ができると共に、芽胞菌のような外殻を有し、耐性の強い菌を、殺菌処理することができる。
【0016】
上記殺菌処理方法は、
水で希釈された前記両親媒性物質を前記処理空間内に噴霧した後、オゾンを発生させる方法であっても構わない。
【0017】
両親媒性物質は、安定した物質であるため、水で希釈した両親媒性物質を処理空間内に噴霧した後、徐々に反応や分解することなく、しばらくの間、処理空間内に浮遊、又は菌等に付着した状態を維持することができる。これに対し、オゾンは、非常に不安定な物質であり、常温下で徐々に分解して酸素になってしまうため、密閉した空間であっても、常時生成されていなければ処理空間内の濃度が徐々に低下してしまう。
【0018】
そこで、上記方法とすることで、処理空間内の菌は、処理空間内にオゾンが生成されているときに、表面に水が十分に滞留している状態となる。したがって、オゾンが菌の表面に滞留している水と反応して、よりヒドロキシラジカルを生成しやすくなり、芽胞菌のような外殻を有し、耐性の強い菌を、より確実に殺菌処理することができる。
【0019】
なお、上記殺菌処理方法は、
前記処理空間内に、前記両親媒性物質を噴霧した後、オゾンを発生させる方法であっても構わない。
【0020】
例えば、浴室等のある程度の湿気が存在する空間を処理空間とする場合は、両親媒性物質のみ散布して、空間内に存在する湿気が菌の表面に滞留しやすくなるように処理する方法としても構わない。
【0021】
上記殺菌処理方法において、
前記両親媒性物質は、芽胞菌に対して殺菌作用がない物質であっても構わない。
【0022】
また、上記殺菌処理方法において、
前記両親媒性物質は、アルコール、又は界面活性剤であっても構わない。
【0023】
上記殺菌処理方法において、
前記両親媒性物質は、エタノールであって、濃度が3体積%以上60体積%以下となるように水で希釈されていることが好ましい。
【0024】
上記殺菌処理方法において、
前記両親媒性物質は、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンであって、濃度が0.5g/L以上5g/L以下となるように水で希釈されていることが好ましい。
【0025】
両親媒性物質の濃度が低すぎると、処理空間中に存在する菌に付着させる両親媒性物質が不足してしまうおそれがある。また、濃度が高すぎると、例えば、エタノールのようなアルコールは、揮発性が高いために、加湿しながらも次第に揮発してしまい、オゾンが菌に到達する前に完全に揮発してしまうおそれがある。また、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンのような界面活性剤は、処理空間の至るところの油分となじみ、殺菌処理後の換気や清掃に長時間を要してしまう。
【0026】
このため、それぞれ上記の範囲の濃度に水で希釈されることが好ましい。
【0027】
上記殺菌処理方法において、
前記処理空間内に導入される前記オゾンは、主たる発光波長が100nm以上240nm以下の紫外光を出射する放電ランプを備えたオゾン発生器によって生成されたものとしても構わない。
【0028】
本明細書における「主たる発光波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。例えばKrCl、KrBr、ArFを含む発光ガスが封入されているエキシマランプ等のように、半値幅が極めて狭く、かつ、特定の波長においてのみ光強度を示す光源においては、通常は、相対強度が最も高い波長(主ピーク波長)をもって、主たる発光波長として構わない。
【0029】
酸素の光吸収スペクトルの波長範囲である100nm以上240nm以下の紫外光が酸素に照射されると、下記(3)~(4)式の反応が進行しオゾンが生成される。(3)式において、hνは、紫外光が吸収されていることを示す。なお、(3)式及び(4)式では、O(1D)とO(3P)の両者を包括して、「O・」で表現している。特に(3)式において、O(1D)が生じるか否かは、照射される紫外光の波長に依存する。
2 + hν → O・ + O・ ‥‥(3)
O・ + O2 → O3 ‥‥(4)
【0030】
本発明の殺菌処理装置は、
水で希釈された両親媒性物質が貯留される貯留部と、前記貯留部から流し込まれる、水で希釈された前記両親媒性物質をミスト状にして噴出させる噴出口とを有する加湿器と、
電極に電力が供給されることで主たる発光波長が100nm以上240nm以下の紫外光を出射する放電ランプと、空気を吸気する吸気口と、前記吸気口から取り込まれた空気に対して前記放電ランプからの紫外光が照射されて生成されたオゾン含有ガスを排気する排気口とを有するオゾン発生器とを備えることを特徴とする。
【0031】
上記構成とすることで、両親媒性物質が存在する処理空間を作りだすと共に、酸素を取り込んで生成したオゾンを両親媒性物質が存在する空間内に導入する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、短時間でより高い殺菌効果が得られる、オゾンを用いた殺菌処理方法及び殺菌処理装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】殺菌処理環境の一実施形態を模式的に示す全体側面図である。
図2A】加湿器の側面断面図である。
図2B】オゾン発生器の側面断面図である。
図3】殺菌処理環境の一実施形態を模式的に示す全体側面図である。
図4】被処理体をボックス内に配置するところを示す全体側面図である。
図5】加湿器によってミスト状の両親媒性物質を噴霧している状態を示す全体側面図である。
図6】オゾン生成器が空気を取り込み、オゾン含有ガスを排気している状態を示す全体側面図である。
図7】ボックス内を換気している状態を示す全体側面図である。
図8】被処理体をボックス内から取り出すところを示す全体側面図である。
図9】オゾンによる殺菌処理の実験結果を示すグラフである。
図10】オゾンによる殺菌処理の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の殺菌処理方法及び殺菌処理装置について、図面を参照して説明する。なお、殺菌処理装置に関して、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0035】
[殺菌処理装置]
図1は、殺菌処理環境の一実施形態を模式的に示す全体側面図である。図1に示すように、ボックス1は、処理対象物を出し入れするための扉2と、処理空間1Aを換気するための換気用ファン3を備える。殺菌処理装置10は、加湿器20と、オゾン発生器30を備え、ボックス1によって区画された処理空間1A内に配置されている。
【0036】
なお、以下では、処理空間1Aは、ボックス1によって区画された空間として説明するが、殺菌処理装置10は、加湿器20によって湿度を調整でき、オゾンが分解しないまま到達できる範囲で区画された空間で使用することができる。例えば、会議室や病室等の殺菌処理に用いても構わない。
【0037】
また、ボックス1は、内側の処理空間1Aが完全に密閉された空間でなくても構わない。さらに、殺菌処理装置10は、例えば、食品や医療機器、植物の種子等をボックス1内に配置して殺菌処理することや、部屋を処理空間1Aとして、室内の備品として配置されているテーブルやソファ、カーテン等の殺菌処理に使用することができる。
【0038】
また、本実施形態は、図1に示すように、ボックス1内に載置された被処理体T1に付着した菌を殺菌処理する例として説明する。
【0039】
図2Aは加湿器20の側面断面図である。加湿器20は、図2に示すように、エタノールを水で希釈した薬液L1が貯留された貯留部21と、薬液L1をミスト状にして噴出させる噴出口22とを備える。加湿器20は、例えば、超音波式加湿器等を採用することができ、一般に市販されている家庭用の加湿器を用いても構わない。
【0040】
エタノールは、親水性のヒドロキシル基と、疎水性のアルキル基の両方を有する両親媒性物質である。本実施形態における薬液L1は、濃度が50体積%となるように蒸留水で希釈された液体である。エタノールは、少量であれば人が摂取しても害はなく、植物の種子に直接散布しても、種子自体を死滅させるおそれが少ない。
【0041】
なお、薬液L1は、両親媒性による効果や揮発性等の観点から、エタノールの濃度が3体積%以上60体積%以下であることが好ましい。また、薬液L1は、親水性と疎水性の両方の特性を備える両親媒性物質が水で希釈された液体であればよく、具体的な両維新媒性物質としては、アルコールや界面活性剤を採用し得る。それぞれ、より具体的な物質としては、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、エチレングリコール、ジエチルエーテル、非イオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が採用でき、好ましくは、エタノールや、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(「ポリソルベート80」、「Tween80」とも称される。)である。
【0042】
また、エタノールやオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンは、直接芽胞菌に吹きかけて付着させても、外殻を破壊することはできず、また、芽胞菌の内側に浸透してタンパク質やDNAを破壊することもできない。つまり、エタノールやオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンは、芽胞菌に対して殺菌作用がない物質である。
【0043】
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンが採用される場合、薬液L1は、両親媒性による効果や処理空間1A内の清掃等の観点から、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンの濃度が0.5g/L以上5g/L以下であることが好ましい。また、薬液L1は、水と両親媒性物質以外の物質が含まれていても構わない。
【0044】
噴出口22は、図2Aに示すように、貯留部21に貯留されている薬液L1をミスト状にして、ボックス1内に噴出する。
【0045】
図2Bは、オゾン発生器30の側面断面図である。オゾン発生器30は、図2Bに示すように、放電ランプ31と、放電ランプ31の支持台を兼ねる一対の電極32と、吸気口33と、排気口34と、吸気口33と排気口34を連絡する流路35とを備える。
【0046】
本実施形態における放電ランプ31は、管体内に発光ガスとしてキセノンガスが封入され、電極32間に電圧を印加することで、主たる発光波長が172nmの紫外光を出射するエキシマランプである。
【0047】
放電ランプ31は、波長が100nm以上240nm以下の範囲内の光を出射するものであれば、出射する光の主たる発光波長が172nm以外のエキシマランプを採用しても構わない。
【0048】
また、エキシマランプは、図2Bに示すような、放電ランプ31の管軸方向に離間して配置された、支持台としても機能する電極32を備える構成以外のエキシマランプであっても構わない。例えば、円筒状の管体を備え、径方向において電極が対向する構成や、扁平管形状とも称される、管軸方向に直交する平面で切断したときの断面が矩形状を呈し、電極が管体を介して対向する構成のエキシマランプ等を採用し得る。
【0049】
放電ランプ31は、エキシマランプ以外に、例えば、低圧水銀ランプ等が採用されても構わない。
【0050】
また、オゾン発生器30は、光照射によらない、例えば、放電式オゾナイザが採用されてもよく、さらには、オゾンは、単にボンベから供給される構成であっても構わない。
【0051】
図2Bに示すように、吸気口33に備えられた吸気用ファン33aによって流路35内に取り込まれた空気G1は、放電ランプ31から出射される紫外光X1に曝されながら排気口34に向かって通流する。本実施形態において、空気G1は、ボックス1の内側に滞留している空気であるが、ボックス1の外部から導入される空気であっても構わない。
【0052】
流路35内を吸気口33から取り込まれた空気G1が通流すると、放電ランプ31から出射される紫外光X1が照射されて、空気G1に含まれる酸素から、上述した(3)~(4)式の過程を経て、オゾンが生成される。
【0053】
流路35内を通流する空気G1は、紫外光X1によって生成されるオゾンを含み、排気口34からオゾン含有ガスG2として排気される。
【0054】
なお、図2Bでは、オゾン発生器30は、空気G1を吸気口33から取り込むための吸気用ファン33aが備えられているが、吸気用ファン33a等の送風機構が備えられていても構わない。
【0055】
図3は、図1とは別の殺菌処理環境の一実施形態を模式的に示す全体側面図である。図3に示すように、加湿器20とオゾン発生器30は、一体として構成されていても構わない。加湿器20とオゾン発生器30が一体構成の場合は、配置スペースが小さくなり、電源系統等を一本化することができる。また、加湿器20とオゾン発生器30が独立した装置である場合は、処理空間1Aの広さや、殺菌処理対象物の形状や処理空間1Aにおける位置等に応じて、それぞれを殺菌処理に関して最適な箇所に配置することができる。
【0056】
[殺菌処理方法]
次に、殺菌処理装置10を用いた殺菌処理方法について説明する。図4は、被処理体T1をボックス1内に配置するところを示す全体側面図である。まず、図4に示すように、被処理体T1がボックス1内に配置される(ステップS1)。
【0057】
図5は、加湿器20によってミスト状の両親媒性物質を噴霧している状態を示す全体側面図である。図5に示すように、ステップS1の後、ボックス1の扉2が閉じられ、加湿器20の動作が開始される(ステップS2)。
【0058】
ステップS2の後、ボックス1内の湿度が80RH%となったところで、加湿器20の動作が停止される(ステップS3)。なお、十分に両親媒性物質を散布して、被処理体T1に付着している菌(特に、芽胞菌)の表面にミスト状の両親媒性物質が含まれた水が付着していると判断できるようであれば、湿度が80RH%となる前に加湿器20の動作を停止させても構わない。
【0059】
なお、加湿器20によって処理空間1A内の湿度が調整される場合は、ボックス1内の殺菌処理を行うか、部屋の殺菌処理を行うか等で異なるが、60RH%~95RH%の範囲となるように調整されることが好ましい。湿度が低すぎると、菌に対してあまり水を付着させることができず、十分な殺菌効果が得られなくなってしまう。また、湿度が高すぎると、特に部屋の殺菌処理であった場合は、書籍のような紙類の物品等が湿気によって変形や損傷が発生してしまったり、電化製品等が結露によって故障したりしてしまう。
【0060】
図6は、オゾン発生器30が空気G1を取り込み、オゾン含有ガスG2を排気している状態を示す全体側面図である。なお、図6には、説明のために、実際には見えない放電ランプ31と電極32が破線で図示されている。ステップS3の後、図6に示すように、オゾン発生器30の動作が開始される(ステップS4)。
【0061】
オゾン発生器30の動作が開始されると、放電ランプ31が点灯し、吸気用ファン33aが流路35内に空気G1が取り込まれ、排気口34からオゾンを含むオゾン含有ガスG2が噴射される。
【0062】
なお、ステップS4は、ステップS2と同時、すなわち、加湿器20とオゾン発生器30の動作の開始が同時であっても構わない。この場合、ステップS3は実施されない。また、ステップS2の実施前から、ボックス1内が既に両親媒性物質の存在している環境下にある場合は、ステップS2及びステップS3が省略されても構わない。
【0063】
図7は、ボックス1内を換気している状態を示す全体側面図である。図7に示すように、ステップS4の後、ボックス1内のオゾンやエタノールの濃度が十分低くなるまで、換気用ファン3を動作させて換気を行う(ステップS5)。
【0064】
図8は、被処理体T1をボックス1内から取り出すところを示す全体側面図である。ステップS6の後、図8に示すように、被処理体T1がボックス1から取り出される。
【0065】
以上の工程を経て、被処理体T1の殺菌処理が完了する。
【0066】
上記方法とすることで、ボックス1内に存在する両親媒性物質が菌の表面に滞留しやすくなる。そして、菌の表面に滞留している水とオゾンが反応し、菌の表面上、又は近傍でヒドロキシラジカルが生成される。したがって、生成されたヒドロキシラジカルは、空気中の物質と反応して消滅してしまう前に菌に接触しやすくなり、より確実に菌を殺菌することができる。そして、芽胞菌に対しては、より確実に外殻を破壊して殺菌処理することができる。
【0067】
[実験1]
上述した方法によって、バイオロジカルインジケーターを用いた実験を行い、エタノールの濃度を変化させたときの、芽胞菌に対する殺菌効果を比較した。
【0068】
本実験1において使用しバイオロジカルインジケーターは、コスモバイオ社製の蒸気過酸化水素殺菌用バイオロジカルインジケーターH3726Tを使用した。
【0069】
当該バイオロジカルインジケーターは、芽胞菌が担持されたストリップ状のろ紙が、撥水性を有する紙バッグ内に封止された、殺菌効果を評価する指標体である。処理を行ったバイオロジカルインジケーター内のろ紙が、専用の培地の中に入れられ、所定の時間培養される。そして、残存した菌と反応して生じる培地の変色が無ければ、十分な殺菌効果があると評価される。
【0070】
バイオロジカルインジケーターは、芽胞菌が担持されたろ紙が、撥水性を有する紙バッグ内に入れられた状態と、紙バッグから取り出した状態のそれぞれで比較実験を行った。
【0071】
処理空間1Aは、容積が110Lのボックスで構成した。
【0072】
ボックス内にバイオロジカルインジケーターを載置した後は、ボックス1内の湿度が80RH%になるまで加湿して、オゾンを発生させた。
【0073】
オゾン濃度は、500ppmとなるように調整し、CT積(オゾン濃度[ppm]×時間[Min])は、0ppm・Min(0Min)、30000ppm・Min(60Min)、45000ppm・Min(90Min)、60000ppm・Min(120Min)とした。
【0074】
薬液L1は、それぞれエタノールの濃度が1体積%、2.5体積%、3体積%、5体積%、10体積%、20体積%、40体積%、50体積%(実施例)、60体積%、70体積%となるように、エタノールを蒸留水で希釈して作成した。なお、下記の表1及び表2においては、濃度の単位表記を、単に「%」と略記する。
【0075】
参考例1として、ボックス内を水道水で加湿した場合の実験を行った。
【0076】
参考例2として、加湿を行わず、蒸留水をバイオロジカルインジケーターに直接滴下した場合の実験を行った。紙バッグ有りの場合は、紙バッグの外表面に蒸留水を滴下した。紙バッグ無しの場合は、紙バッグから中身を取り出して蒸留水を滴下した。
【0077】
試行回数は、それぞれ二回とし、二回とも培地の変色が無かった場合は「A」、二回のうち一回だけ培地が変色した場合は「B」、いずれも培地が変色した場合は「C」と判定した。
【0078】
(結果)
以下、表1は、芽胞菌が担持されたろ紙を紙バッグから取り出して行った実験結果であり、表2は、芽胞菌が担持されたろ紙を紙バッグに入れた状態で行った実験結果である。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
薬液L1のエタノール濃度が3体積%以上70体積%以下の範囲で、芽胞菌に対する殺菌効果が確認された。
【0082】
紙バッグ有りでは、蒸留水を直接滴下しても、紙バッグの撥水性によって蒸留水がろ紙まで到達せず、芽胞菌の殺菌処理ができなかった。つまり、エタノールによる加湿の場合は、エタノールの両親媒性の効果により、水分が紙バッグを通過して芽胞菌に到達したため、殺菌処理が行われた。
【0083】
なお、エタノールは、芽胞菌のような耐性が強い菌を除いて、濃度が60体積%以上で殺菌作用が現れることが、薬局方等によって一般的に認識されている。ところが、追加的にエタノールの濃度が70体積%の薬液L1でボックス内を加湿しただけで殺菌効果が得られるかどうかを確認する実験を行ったが、この実験では芽胞菌は殺菌処理されなかった。
【0084】
以上のことから、両親媒性物質であるエタノールが存在する環境下でオゾンを発生させることで、芽胞菌に対する高い殺菌効果が得られることが確認された。
【0085】
[実験2]
上述した方法によって、室内の殺菌処理実験を行い、殺菌効果を確認した。
【0086】
処理空間1Aは、151m3の広さの部屋一室を対象とした。
【0087】
殺菌処理の対象物は、処理空間1Aとする部屋に備えられたカーテンとした。本実験における殺菌処理の対象となる菌は、黄色ブドウ球菌である。
【0088】
処理空間1Aの加湿は、上述した実施形態における薬液L1(実施例)と、水道水(参考例1)で行った。
【0089】
当該カーテンに、黄色ブドウ球菌108CFU/mLを10μL滴下し、風乾後、オゾンで処理した。
【0090】
殺菌効果の評価方法は、殺菌処理前と殺菌処理後における、当該カーテンに付着している芽胞菌の減少数を確認した。
【0091】
(結果)
図9は、実験2のオゾンによる殺菌処理の実験結果を示すグラフであり、縦軸が初期状態に対する黄色ブドウ球菌の生残菌数を対数で表しており、横軸がCT積[ppm・Min]を表している。図9に示すように、オゾン発生開始後30ppm・Min位までは、参考例1と実施例1との減少の差はそれほど見られないが、60ppm・Min以降から実施例において急激に低下し、減少の程度に大きな差がみられる。
【0092】
これは、参考例1は、黄色ブドウ球菌の表面に水が十分に付着するのに処理空間1A内を所定の湿度となるまで加湿した後、数十分の時間を要しているのに対し、実施例は、加湿が完了し、オゾンを発生させる時点で、黄色ブドウ球菌の表面に水が十分に付着していることによると推定される。
【0093】
これにより、実施例が参考例1と比較して、短時間で、かつ、より高い殺菌効果が得られることが確認された。
【0094】
[実験3]
上述した方法によって、種子の殺菌処理実験を行い、殺菌効果を確認した。
【0095】
殺菌処理の対象物は、チンゲン菜の種子とした。本実験における殺菌処理の対象となる菌は、黄色ブドウ球菌である。
【0096】
処理空間1Aの加湿は、上述した実施形態における薬液L1(実施例)と、水道水(参考例1)で行った。
【0097】
チンゲン菜の種子を、107CFU/mLの黄色ブドウ球菌に浸漬し、取り出し後3時間、風乾した。その後、この種子を100Lのガラスボックスに入れ、30ppmのオゾンで処理した。
【0098】
殺菌効果の評価方法は、殺菌処理前と殺菌処理後における、当該種子に付着している黄色ブドウ球菌を計数し、減少数を確認した。
【0099】
(結果)
図10は、実験3のオゾンによる殺菌処理の実験結果を示すグラフであり、縦軸、横軸は前述の図9と同様である。図10に示すように、参考例1は、オゾンの発生を開始してから緩やかに逓減する傾向にあるのに対し、実施例は、オゾンを発生させた直後から急激な減少が見られる。
【0100】
これは、参考例1においては、種子の産毛等微細構造によって水分供給が妨げられるの対し、実施例においては、種子の産毛等微細構造が存在しても、オゾンに暴露される時点で、菌体に水が十分付着しているためと推定される。
【0101】
これにより、実施例が参考例1と比較して、短時間で、かつ、より高い殺菌効果が得られることが確認された。
【0102】
実験2のCT値のオーダーは~100ppm・Minであり、実験3のCT値のオーダーは~10000ppm・Minである。これにより、CT値が大きく変わっても、短時間で、かつ、より高い殺菌効果が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0103】
1 : ボックス
1A : 処理空間
2 : 扉
3 : 換気用ファン
20 : 加湿器
21 : 貯留部
22 : 噴出口
30 : オゾン発生器
31 : 放電ランプ
32 : 電極
33 : 吸気口
33a : 吸気用ファン
34 : 排気口
35 : 流路
G1 : 空気
G2 : オゾン含有ガス
L1 : 薬液
T1 : 被処理体
X1 : 紫外光
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10