(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】曲面展開プログラム、及びツールパス計算プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20240719BHJP
B29C 70/48 20060101ALI20240719BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G06F30/10
B29C70/48
G05B19/418 Z
(21)【出願番号】P 2020151174
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 正仁
(72)【発明者】
【氏名】松尾 宏平
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 昭男
(72)【発明者】
【氏名】前川 卓
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 研二
(72)【発明者】
【氏名】乙黒 雄斗
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-292688(JP,A)
【文献】特開平09-238023(JP,A)
【文献】特開2019-090145(JP,A)
【文献】特開2016-091477(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111538287(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109887024(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/398
B29C 70/48
G05B 19/418
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面を前記曲面上の任意の曲線群を展開基準線として平面に展開する曲面展開プログラムであって、
コンピュータに、
入力された曲面データを取得する曲面データ取得ステップと、
前記曲面データに対し前記展開基準線となるネット状に交わる任意の曲線群を計算する曲線群計算ステップと、
前記任意の曲線群で囲まれた領域の曲面パッチを取得する曲面パッチ取得ステップと、
前記任意の曲線群の測地線曲率を計算する測地線曲率計算ステップと、
前記測地線曲率を利用して前記曲面パッチを平面に展開する計算を行い平面パッチを取得する平面パッチ取得ステップと、
取得した前記平面パッチを並べて
、平面展開図を生成する平面展開図生成ステップと、
前記平面展開図を出力する平面展開図出力ステップと
を実行させることを特徴とする曲面展開プログラム。
【請求項2】
前記平面展開図生成ステップにおいて、前記平面パッチの並べ方を変えて複数枚の前記平面展開図を生成することを特徴とする請求項1に記載の曲面展開プログラム。
【請求項3】
前記平面展開図生成ステップにおいて、前記平面パッチの並べ方を変えて複数パターンの前記平面展開図を生成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の曲面展開プログラム。
【請求項4】
前記任意の曲線群の曲線は、パラメトリック曲面上の等パラメータ曲線、主ストレッチ線、又は主応力線のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の曲面展開プログラム。
【請求項5】
前記曲面データはNURBS曲面データであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の曲面展開プログラム。
【請求項6】
平面展開図に対して刺しゅう機のツールパスを計算するプログラムであって、
コンピュータに、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の曲面展開プログラムを用いて得られた前記平面展開図を取得させる平面展開図取得ステップと、
前記ツールパスを前記平面展開図の内側に限定して配置するツールパス配置ステップと、
前記平面展開図の内側における前記ツールパスを計算するツールパス計算ステップと、
計算した前記ツールパスを出力するツールパス出力ステップと
を実行させることを特徴とするツールパス計算プログラム。
【請求項7】
前記ツールパス配置ステップにおいて、前記平面展開図の境界曲線の種類を整理し、展開基準線と、前記平面展開図の境界線に分類することを特徴とする請求項6に記載のツールパス計算プログラム。
【請求項8】
前記ツールパス配置ステップにおいて、前記ツールパスのずれを軽減する補助線を、前記展開基準線を考慮して前記平面展開図の内側に描くことを特徴とする請求項7に記載のツールパス計算プログラム。
【請求項9】
前記ツールパス配置ステップにおいて、前記平面展開図の前記境界線を延長し、前記境界線の影響を避けて前記展開基準線に沿った前記ツールパスの配置を容易にすることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のツールパス計算プログラム。
【請求項10】
前記ツールパス計算ステップにおいて、前記ツールパスを刺しゅう対象物の幅を考慮して、前記平面展開図の内側にオフセットさせたオフセット経路を順に計画することを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載のツールパス計算プログラム。
【請求項11】
前記ツールパス計算ステップにおいて、前記補助線を考慮して前記オフセット経路を順に計画することを特徴とする請求項8を引用する請求項10、又は請求項8及び請求項9を引用する請求項10に記載のツールパス計算プログラム。
【請求項12】
前記ツールパス計算ステップにおいて、前記ツールパスを計画した後、前記平面展開図の外側に刺しゅう対象物の幅を考慮してオフセットした外側オフセット曲線を描き、不要な曲線をトリムすることを特徴とする請求項9、又は請求項9を引用する請求項10若しくは請求項11に記載のツールパス計算プログラム。
【請求項13】
前記ツールパス計算ステップにおいて、前記平面展開図の前記オフセット経路の孤立したアイランド部に対し、前記アイランド部を横断する経路を追加経路として追加し、前記オフセット経路と前記追加経路を用いて前記ツールパスを計画することを特徴とする請求項10、又は請求項10を引用する請求項11若しくは請求項12に記載のツールパス計算プログラム。
【請求項14】
前記ツールパス計算ステップにおいて、前記ツールパスを一筆書化できるように計算することを特徴とする請求項6から請求項13のいずれか1項に記載のツールパス計算プログラム。
【請求項15】
前記一筆書化は、開始点となる前記ツールパスの端点を指定する端点指定ステップと、反対側の前記端点に移動させる移動ステップと、未接続の前記端点が残っているかを判断する未接続判断ステップと、未接続の前記端点が残っている場合に現在の端点から一番近い前記端点に接続する接続ステップとを実行することを特徴とする請求項14に記載のツールパス計算プログラム。
【請求項16】
前記ツールパスの計算は、NURBS曲線に基づいて行うことを特徴とする請求項6から請求項15のいずれか1項に記載のツールパス計算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面を当該曲面上の任意の曲線群を展開基準線として平面に展開する曲面展開プログラム、及び曲面展開プログラムを用いて得られた平面展開図に対して刺しゅう機のツールパスを計算するツールパス計算プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(Carbon Fiber Reinforced Plastics, CFRP)は、鋼と比較して比強度や比弾性率が優れており、特に自動車産業および航空宇宙産業においてその利用が増加している。例えば、ボーイング787やエアバスA350XWBなどの航空機構造には、重量ベースで約50%もの複合材が利用されている。また近年、ドイツのドレスデンにあるライプニッツ研究所(IPF Dresden)によって発明されたテーラードファイバープレースメント(Tailored Fiber Placement,TFP)技術が注目されている。TFP技術を用いると、ガラスクロス材などの基材に対して所定の軌道に沿って炭素繊維トウを刺しゅうしてCFRP成形用のプリフォームを作製することができる。ここでトウ(tow)とは、ヨリのかかっていない炭素繊維の連続フィラメントの束を指す。またプリフォームとは、炭素繊維トウが刺しゅうされたCFRP成形用の基材シートを指す。
シート状のプリフォームを設計形状のメス型に沿って積み重ね、真空含浸工法(Vacuum assisted resin transfer molding,VaRTM)などを用いてCFRP製品を成形する。TFP技術により、設計者が意図する方向に炭素繊維トウが配置されたプリフォームを作製することで、成形品内部の繊維の流れを制御することが出来る。これにより、炭素繊維が直交方向に織り込まれた繊維シートであるクロス材や、炭素繊維が一方向にのみ織りこまれた繊維シートである一方向材の織物材を利用した従来の成形法と比べて設計自由度が高くなるため、軽量化及び高強度化などの製品の高機能化の面で大きな利点がある。
【0003】
ここで、特許文献1には、形成目的面における複数の最大主曲率線及び複数の最小主曲率線を求める目的面曲率線取得部と、形成目的面が最大主曲率線及び最小主曲率線で区切られた各領域について、対応する平面上の領域の形状を示すデータを求める平面上領域取得部とを備える形状取得装置が開示されている。
また、特許文献2には、形成目的の面における、最大主曲率方向および最小主曲率方向のいずれか一方の2本の曲率線である第1曲率線および第2曲率線を求め、最大主曲率方向および最小主曲率方向のうち、第1曲率線および第2曲率線とは異なる方向の、第1曲率線から第2曲率線までの曲率線である第3曲率線を複数求める目的面曲率線取得部と、第1曲率線を平面に展開し、第3曲率線の各々を、第1曲率線に含まれる点を始点として平面に等長展開し、第2曲率線を、平面に展開された第3曲率線のいずれかの終点を通るように平面に展開する展開部と、平面に展開された第2曲率線と1つ以上の第3曲率線の終点とのずれに基づいて、平面のうち除去すべき部分を求める除去部分設定部とを備える除去部分設定装置が開示されている。
また、特許文献3には、所定形状の基材に対して高強度繊維からなる糸を縫い表して、高強度繊維からなる糸によって基材の少なくとも一方の表面を覆うように構成しており、基材に対して運針により刺し綴った高強度繊維からなる糸は、基材の少なくとも一方の面において山折り状に縫い表されて多数列に並んだ連続ループ形状を形成し、表面側の連続ループ形状の糸の山折り状先端部は自由端となるように構成したFRP素材が開示されている。
また、特許文献4には、少なくとも2組の2軸ステッチ基材が積層されて係合材料にて一体化された多層基材であって、2軸ステッチ基材は、多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシート複数枚を強化繊維糸条が2方向に配向するように積層してステッチ糸にて縫合してなり、係合材料の融点Tmcが80~200℃の範囲内にあり、かつ、ステッチ糸の融点が(Tmc+10)~(Tmc+120)℃の範囲内にある多層基材が開示されている。
また、特許文献5には、層A、層B、層Cの順で積層されている部分を少なくとも含む積層シートであって、層Aは、一定の方向に平行に引き揃えられて、平面状に並んでいるフィラメントA群で構成され、層Bは、熱溶融性フィルムで構成され、層Cは、フィラメントA群が引き揃えられている方向とは異なる方向に平行に引き揃えられて、平面状に並んでいるフィラメントC群で構成され、層A、層B及び層Cは、長手方向に走る複数本の縫い糸によって縫製されて一体化しており、各縫い糸は、経編組織で編成されている、熱溶融性フィルムを母体とするFRPを製造するための積層シートが開示されている。
また、非特許文献1には、曲面と外板展開を論理的に扱うことで、幾何学的変形(曲げと絞り)を定量化し、ぎょう鉄加工の作業指示線を与えることができる外板現図展開手法が開示されている。
また、非特許文献2には、正確な長さを維持して境界線が曲率線である各パッチの4つの曲線を平面にマッピングして、それらを互いにほぼ直交する曲線として接続することにより自由曲面を展開する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際特開2017/090749号
【文献】特開2016-91477号公報
【文献】特開2010-280212号公報
【文献】特開2007-160587号公報
【文献】特開2004-346175号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】松尾宏平,外1名,“船舶の曲り外板製造を支援する新しい外板展開システムの開発”,日本機械学会論文集(C編),2010年11月,76巻,771号,p.51-56
【文献】M.Takezawa,外3名,“Fabrication of freeform objects by principal strips”,2016,ACM Transactions on Graphics (TOG),35(6):225:1-225:12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TFPは2次元平面において炭素繊維トウを基材に刺しゅうする技術であり、複雑な3次元設計形状を対象とする場合は、当該形状の平面展開図(プリフォームの裁断形状)が必要となる。さらにその平面展開図は、設計形状のメス型への積層の際にシワが発生することを抑えるため、復元精度が高い展開形状である必要がある。
また、非可展面形状は伸縮無しに平面に展開することはできない形状であるため展開図には切込み線が必要となるが、この切込み線は配向したい繊維方向に沿っていることが望ましい。これは、TFP技術を用いて平面展開図上に炭素繊維トウを刺しゅう(配置)する際に、配置したい流れに沿って切込み線が入っていなければ、配置する繊維の流れが内部で分断されてしまうためである(切込み線をまたいで刺しゅうすると、裁断の際に炭素繊維トウがそこで分断されてしまう)。
さらには、平面展開図上で、設計目的に適する流れに沿ったツールパスの算出が必要となる。ここでツールパスとは、刺しゅう機が炭素繊維トウを刺しゅうする経路を指す。このツールパスの要件としては、配置する繊維トウの粗密のばらつきが小さく、かつ最終製品において、設計者が望む流れに沿って繊維が配置されるような経路である必要がある。
以上により、内部の繊維方向を制御した非可展面形状のCFRP製品を成形するためには、繊維を配向したい流れに沿って切込みが入った復元精度の良い平面展開図の算出と、算出した平面展開図上で上記の要件を満たしたツールパスの算出が必要になる。
【0007】
ここで、特許文献1-2、及び非特許文献1-2は、曲率線を用いて平面展開図を生成するものではあるが、曲率線以外の、等パラメータ線、主ストレッチ線、又は主応力線といった任意の曲線を基準として平面展開図を生成するものではない。また、平面展開図を生成する際に、後の工程を考慮したものではない。
また、特許文献3-5は、曲面を平面展開した平面展開図を基にツールパスを配置するものではない。
そこで本発明は、任意の曲線を基準とした平面展開図を生成する曲面展開プログラムと、その平面展開図を基にツールパスを配置するツールパス計算プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載に対応した曲面展開プログラムにおいては、曲面を曲面上の任意の曲線群を展開基準線として平面に展開する曲面展開プログラムであって、コンピュータに、入力された曲面データを取得する曲面データ取得ステップと、曲面データに対し展開基準線となるネット状に交わる任意の曲線群を計算する曲線群計算ステップと、任意の曲線群で囲まれた領域の曲面パッチを取得する曲面パッチ取得ステップと、任意の曲線群の測地線曲率を計算する測地線曲率計算ステップと、測地線曲率を利用して曲面パッチを平面に展開する計算を行い平面パッチを取得する平面パッチ取得ステップと、取得した平面パッチを並べて、平面展開図を生成する平面展開図生成ステップと、平面展開図を出力する平面展開図出力ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、曲面上の任意の曲線群を基準として得られた曲面パッチを展開した平面パッチを並べて、平面展開図を得ることができる。
【0009】
請求項2記載の本発明は、平面展開図生成ステップにおいて、平面パッチの並べ方を変えて複数枚の平面展開図を生成することを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、復元精度の高い複数枚の平面展開図を得ることができる。
【0010】
請求項3記載の本発明は、平面展開図生成ステップにおいて、平面パッチの並べ方を変えて複数パターンの平面展開図を生成することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、平面パッチの並べ方を変えることによりパターンの異なる平面展開図を生成でき、複合材料製品の強度を高める成形基材への展開が可能となる。
【0011】
請求項4記載の本発明は、任意の曲線群の曲線は、パラメトリック曲面上の等パラメータ曲線、主ストレッチ線、又は主応力線のいずれかであることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、曲率線以外の等パラメータ曲線、主ストレッチ線、又は主応力線に基づいて精度の高い平面展開図を生成することができる。
【0012】
請求項5記載の本発明は、曲面データはNURBS曲面データであることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、曲面データとして同じ幾何学的表現を共有するCAD、CAE、及びCAM技術を連係して利用しやすくなる。
【0013】
請求項6記載に対応したツールパス計算プログラムにおいては、平面展開図に対して刺しゅう機のツールパスを計算するプログラムであって、コンピュータに、曲面展開プログラムを用いて得られた平面展開図を取得させる平面展開図取得ステップと、ツールパスを平面展開図の内側に限定して配置するツールパス配置ステップと、平面展開図の内側におけるツールパスを計算するツールパス計算ステップと、計算したツールパスを出力するツールパス出力ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、曲面展開プログラムにより得られた平面展開図に計算された刺しゅう機のツールパスを配置することができ、平面展開図に対して、例えば、目的の方向に沿わせつつ、繊維の粗密のばらつきが少なるくなるよう配置する繊維トウのツールパスを計算することが可能となる。
【0014】
請求項7記載の本発明は、ツールパス配置ステップにおいて、平面展開図の境界曲線の種類を整理し、展開基準線と、平面展開図の境界線に分類することを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、展開基準線と境界線を考慮してツールパスを配置することができる。
【0015】
請求項8記載の本発明は、ツールパス配置ステップにおいて、ツールパスのずれを軽減する補助線を、展開基準線を考慮して平面展開図の内側に描くことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、配置の際に補助線を利用してツールパスのずれを軽減し、ツールパスの精度を高めることができる。
【0016】
請求項9記載の本発明は、ツールパス配置ステップにおいて、平面展開図の境界線を延長し、境界線の影響を避けて展開基準線に沿ったツールパスの配置を容易にすることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、後のオフセット作業において、境界線の影響を避けて展開基準線の流れに沿ったオフセット経路の計画を容易にすることができる。
【0017】
請求項10記載の本発明は、ツールパス計算ステップにおいて、ツールパスを刺しゅう対象物の幅を考慮して、平面展開図の内側にオフセットさせたオフセット経路を順に計画することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、配置する繊維トウ等の刺しゅう対象物の幅を考慮したツールパスを計画することができる。
【0018】
請求項11記載の本発明は、ツールパス計算ステップにおいて、補助線を考慮してオフセット経路を順に計画することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、補助線をオフセット経路の境界線のガイドラインとして活用し、オフセット経路を精度良く計画できる。
【0019】
請求項12記載の本発明は、ツールパス計算ステップにおいて、ツールパスを計画した後、平面展開図の外側に刺しゅう対象物の幅を考慮してオフセットした外側オフセット曲線を描き、不要な曲線をトリムすることを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、刺しゅう対象物の幅を考慮した上で、不要な経路を含むツールパスが生成されることを防止できる。
【0020】
請求項13記載の本発明は、ツールパス計算ステップにおいて、平面展開図のオフセット経路の孤立したアイランド部に対し、アイランド部を横断する経路を追加経路として追加し、オフセット経路と追加経路を用いてツールパスを計画することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、アイランド部を横断する追加経路により、全体の一筆書化が可能となる。
【0021】
請求項14記載の本発明は、ツールパス計算ステップにおいて、ツールパスを一筆書化できるように計算することを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、刺しゅう対象物の繊維トウがストリップ内部で分断されることを防止でき、強度を向上することができる。
【0022】
請求項15記載の本発明は、一筆書化は、開始点となるツールパスの端点を指定する端点指定ステップと、反対側の端点に移動させる移動ステップと、未接続の端点が残っているかを判断する未接続判断ステップと、未接続の端点が残っている場合に現在の端点から一番近い端点に接続する接続ステップとを実行することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、ツールパスの一筆書化を正確かつ迅速に行うことができる。
【0023】
請求項16記載の本発明は、ツールパスの計算は、NURBS曲線に基づいて行うことを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、CADソフトで標準的なNURBS曲線を利用してツールパスの計算を行うことができ、後の製造(CAM)も連係し易くなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の曲面展開プログラムによれば、曲面上の任意の曲線群を基準として得られた曲面パッチを展開した平面パッチを並べて、平面展開図を得ることができる。
【0025】
また、平面展開図生成ステップにおいて、平面パッチの並べ方を変えて複数枚の平面展開図を生成する場合には、復元精度の高い複数枚の平面展開図を得ることができる。
【0026】
また、平面展開図生成ステップにおいて、平面パッチの並べ方を変えて複数パターンの平面展開図を生成する場合には、平面パッチの並べ方を変えることによりパターンの異なる平面展開図を生成でき、複合材料製品の強度を高める成形基材への展開が可能となる。
【0027】
また、任意の曲線群の曲線は、パラメトリック曲面上の等パラメータ曲線、主ストレッチ線、又は主応力線のいずれかである場合には、曲率線以外の等パラメータ曲線、主ストレッチ線、又は主応力線に基づいて精度の高い平面展開図を生成することができる。
【0028】
また、曲面データはNURBS曲面データである場合には、曲面データとして同じ幾何学的表現を共有するCAD、CAE、及びCAM技術を連係して利用しやすくなる。
【0029】
本発明のツールパス計算プログラムによれば、曲面展開プログラムにより得られた平面展開図に計算された刺しゅう機のツールパスを配置することができ、平面展開図に対して、例えば、目的の方向に沿わせつつ、繊維の粗密のばらつきが少なるくなるよう配置する繊維トウのツールパスを計算することが可能となる。
【0030】
また、ツールパス配置ステップにおいて、平面展開図の境界曲線の種類を整理し、展開基準線と、平面展開図の境界線に分類する場合には、展開基準線と境界線を考慮してツールパスを配置することができる。
【0031】
また、ツールパス配置ステップにおいて、ツールパスのずれを軽減する補助線を、展開基準線を考慮して平面展開図の内側に描く場合には、配置の際に補助線を利用してツールパスのずれを軽減し、ツールパスの精度を高めることができる。
【0032】
また、ツールパス配置ステップにおいて、平面展開図の境界線を延長し、境界線の影響を避けて展開基準線に沿ったツールパスの配置を容易にする場合には、後のオフセット作業において、境界線の影響を避けて展開基準線の流れに沿ったオフセット経路の計画を容易にすることができる。
【0033】
また、ツールパス計算ステップにおいて、ツールパスを刺しゅう対象物の幅を考慮して、平面展開図の内側にオフセットさせたオフセット経路を順に計画する場合には、配置する繊維トウ等の刺しゅう対象物の幅を考慮したツールパスを計画することができる。
【0034】
また、ツールパス計算ステップにおいて、補助線を考慮してオフセット経路を順に計画する場合には、補助線をオフセット経路の境界線のガイドラインとして活用し、オフセット経路を精度良く計画できる。
【0035】
また、ツールパス計算ステップにおいて、ツールパスを計画した後、平面展開図の外側に刺しゅう対象物の幅を考慮してオフセットした外側オフセット曲線を描き、不要な曲線をトリムする場合には、刺しゅう対象物の幅を考慮した上で、不要な経路を含むツールパスが生成されることを防止できる。
【0036】
また、ツールパス計算ステップにおいて、平面展開図のオフセット経路の孤立したアイランド部に対し、アイランド部を横断する経路を追加経路として追加し、オフセット経路と追加経路を用いてツールパスを計画する場合には、アイランド部を横断する追加経路により、全体の一筆書化が可能となる。
【0037】
また、ツールパス計算ステップにおいて、ツールパスを一筆書化できるように計算する場合には、刺しゅう対象物の繊維トウがストリップ内部で分断されることを防止でき、強度を向上することができる。
【0038】
また、一筆書化は、開始点となるツールパスの端点を指定する端点指定ステップと、反対側の端点に移動させる移動ステップと、未接続の端点が残っているかを判断する未接続判断ステップと、未接続の端点が残っている場合に現在の端点から一番近い端点に接続する接続ステップとを実行する場合には、ツールパスの一筆書化を正確かつ迅速に行うことができる。
【0039】
また、ツールパスの計算は、NURBS曲線に基づいて行う場合には、CADソフトで標準的なNURBS曲線を利用してツールパスの計算を行うことができ、後の製造(CAM)も連係し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
本発明の実施形態による複合材料を用いた曲面の製造システムの構成を示す図
【
図6】同等パラメータ曲線を使用した編み込みモデルを示す図
【
図7】同自動車のボンネット表面の曲線の直交網を示す図
【
図14】同アイランド部の分類とツールパス追加の例を示す図
【
図15】同アイランド部を形成する内側オフセット曲線におけるツールパスの一筆書化の例を示す図
【
図17】同作成したツールパスに沿って刺しゅう対象物を刺しゅうしたイメージ図
【
図18】同オフセット曲線が実際の曲線から逸脱している場合の処理手順を示す図
【
図19】同自動車のボンネットにツールパス計算プログラムを適用したときの測定結果を示す図
【
図20】同複合材料を用いた曲面の製造方法の工程を示す図
【
図21】同平面展開図の生成から製品製造までの流れを示す概念図
【
図23】同製造中のVaRTM装置及びL-RTM装置を示す図
【
図24】同自動車のボンネットモデルの成形基材を製造するために適用されたTFP刺しゅう機の一筆書化したツールパスを示す図
【
図25】同TFP刺しゅう機によって製造された成形基材を示す図
【
図26】同VaRTM装置によって製造されたCFRP自動車ボンネットを示す図
【
図27】同曲線に沿った船舶用プロペラブレード曲面の展開プロセスを示す図
【
図28】同船舶用プロペラブレードモデルの成形基材のツールパスを示す図
【
図29】同TFP刺しゅう機で製造された成形基材を示す図
【
図30】同L-RTM装置によって製造されたCFRP船舶用プロペラブレードを示す図
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施形態による曲面展開プログラム、ツールパス計算プログラム、複合材料を用いた曲面の製造方法、及び複合材料を用いた曲面の製造システムについて説明する。
【0042】
図1は複合材料を用いた曲面の製造システムの構成を示す図である。
複合材料を用いた曲面の製造システムは、曲面展開プログラム及びツールパス計算プログラムを実行するコンピュータ10と、平面展開図に基づいて基材を裁断する裁断機20と、基材に刺しゅう対象物を刺しゅうする刺しゅう機30と、少なくとも裁断機20と刺しゅう機30とを制御する製造用コンピュータ40と、成形型50に樹脂を注入し複合材料曲面を得る樹脂成型手段60と、曲面データを設計するCADシステム70を備える。この曲面の製造システムを用いることにより、精度の高い成形基材を基にした曲面を有する複合材料製品を製造することができる。
なお、コンピュータ10は、製造システムとは別に設けることもできるが、製造システムに組み込むことで、曲面展開プログラムによる平面展開図の生成と、ツールパス計算プログラムによるツールパスの計算を、製造システムにおいてコンピュータ10を用いて行うことができる。
また、CADシステム70は、通信ネットワーク80を介してコンピュータ10と連係させている。これにより、コンピュータ10で、CADシステム70で作成された曲面データを取得し、曲面の設計から複合材料を用いた曲面の製造までをより連係しやすくなる。
【0043】
コンピュータ10と製造用コンピュータ40とは互いに遠く離れた遠隔地に配置し連係させている。これにより、コンピュータ10による平面展開図の生成及びツールパスの計算と、製造用コンピュータ40による複合材料を用いた曲面の製造とを連係して、別々の場所で行うことができる。なお、連係させた上で、平面展開図の生成とツールパスの計算を別々のコンピュータ10で行うこともできる。
図1では、事業所A、事業所B、事業所Cが製造用コンピュータ40として、製造用コンピュータ(A)、製造用コンピュータ(B)、製造用コンピュータ(C)をそれぞれ設置している。
例えば、事業所Aは裁断と刺しゅう、及び樹脂成型を一貫して行う事業所であり、CADシステム70は別の場所に設置されたものと連係している。事業所Aの製造用コンピュータ(A)40は、裁断機20と刺しゅう機30を制御する。事業所Bは、同じ場所で曲面の設計から裁断と刺しゅうまでを行う事業所であり、樹脂成型は別の事業所に任せる事業形態である。事業所Cは、刺しゅうのみを行う事業所であり、CADシステム70による曲面の設計や平面展開図の生成、また裁断や樹脂成型は別の事業所で行う形態である。
このように、設計から刺しゅうした成形基材の製造、また樹脂成形品の製造の事業の形態は、任意に組み合わせて実現することができる。また、製造用コンピュータ40も、裁断機20用と刺しゅう機30用を、別々の製造用コンピュータ40で制御することもできる。
このとき、製造用コンピュータ40の形態に関わらず、コンピュータ10と、製造用コンピュータ40とは、通信ネットワーク80を介して連係させることが好ましい。この場合、通信ネットワーク80によりコンピュータ10と製造用コンピュータ40との連係性を高めて、製造の迅速化と容易化を図ることができる。
また、CADシステム70とコンピュータ10も通信ネットワーク80を介して連係させることが好ましい。
但し、これらの連携は必須ではなく、情報記憶媒体を一部使用して設計情報や計算結果等をやり取りすることも可能である。
成形型50は、CADシステム70の設計した曲面データに基づいて製造され、同じ曲面データに基づいて、曲面の平面展開やツールパス計算がコンピュータ10で行われ、製造用コンピュータ40の制御のもと製造された成形基材が成形型50に載置されることになる。
【0044】
図2は曲面展開プログラムの処理フローである。
曲面展開プログラムは、曲面を曲面上の任意の曲線群を展開基準線として平面に展開するプログラムであり、コンピュータ10にインストールされている。
処理を開始した曲面展開プログラムは、曲面データの入力を受け付け、入力された曲面データを取得する(曲面データ取得ステップS1)。曲面データの入力は、設計者等のユーザーが、キーボードやタッチパネル等のインターフェースを用いて行う。また、曲面データは、外部のCAD(computer-aided design)システム等から受信して取得してもよい。
曲面データ取得ステップS1で取得する曲面データは、ベジェ(Bezier)曲面データ(Bezierの一つ目の「e」は´付)、B-スプライン(B-spline)曲面データ、又はT-スプライン(T-spline)曲面データとすることもできるが、NURBS曲面データであることが好ましい。NURBS曲面データを用いることにより、曲面データとして同じ幾何学的表現を共有するCAD(computer-aided design)、CAE(computer aided engineering)、及びCAM(computer aided manufacturing)技術を連係して利用しやすくなる。
【0045】
曲面データ取得ステップS1の後、曲面データに対し展開基準線となるネット状(網状)に交わる任意の曲線群を計算する(曲線群計算ステップS2)。
曲線群計算ステップS2においては、設計曲面に対して、ユーザーが繊維を配置したい流れに沿った曲線群を計算する。曲線群は、3D空間の曲面上か、又は曲面の2次元パラメータ空間上のどちらかに計算する。
計算する任意の曲線群の曲線は、曲率線とすることもできるが、パラメトリック曲面上の等パラメータ曲線、主ストレッチ線、又は主応力線のいずれかであることが好ましい。なお、ユーザーが曲面上に任意に描画した曲線群に対しても展開可能である。曲面上の任意の曲線群は、目的に応じて曲面上に直接描いても、曲面のパラメータ空間で描かれる曲線群を曲面上の曲線群として写像しても良い。
曲率線の他にテンソル量の主方向に基づく任意の曲線の利用が考えられる。例えば、主方向で作られる軸に対して任意のそれぞれ任意の角度をつけた方向にそった曲線や、物理量である応力テンソル・ストレッチテンソルに基づいた主ストレッチ線や主応力線が例として挙げられる。目的に応じた曲線は曲面上に定義されたテンソル量を基に算出することが基本となる。曲面上におけるテンソルの固有値解析から固有ベクトルを計算し、それに基づいてトレースすることによりテンソル量の持つ曲線群を描くことが可能である。
また、ストレッチや応力のように3次元空間上に定義されるテンソル量においても薄肉などの仮定の下、主方向の一つが表面の法線方向と一致するようにモデル化することで曲面上に直交する曲線群を定義することが可能となる。一方、本発明では直交する事は必要条件でないことから必ずしも1つの主方向が法線と一致しなければならないわけではない。
また主方向に沿った曲線に限らず、強化を施したい目的の方向に対して配向の角度をつけた平面展開図の生成も可能である。
さらに、曲面のパラメータ空間で描かれる曲線群を曲面上の曲線群として写像した場合、それらは一般的には直交しないが、等パラメータ線のように特異点を含まない曲線群を生成できるため、すべてが矩形のGeneralized principal patchを生成することが容易である。
これにより、曲率線以外の等パラメータ曲線、主ストレッチ線、又は主応力に基づいて精度の高い平面展開図を生成することができる。また、前述のように任意の曲線群は、ユーザーが曲面上に任意に描画した曲線群であってもよい。
【0046】
曲線群計算ステップS2の後、任意の曲線群で囲まれた領域である曲面パッチを取得する(曲面パッチ取得ステップS3)。
曲率線で囲まれた領域(一般的には矩形)は「Principal patch」と呼ばれる。本発明の曲面展開プログラムは、展開基準線となる曲線群を、曲率線には限らず一般化して、パラメータ曲線、主ストレッチ線、又は主応力線など、任意の曲線群で平面展開図を生成する。そのため、任意の曲線群で囲まれた領域である曲面パッチは「Generalized principal patch」と表現できる。
曲面パッチは、任意の曲線群を曲面上に引いた段階で取得できる。
【0047】
曲面パッチ取得ステップS3の後、任意の曲線群の測地線曲率を計算する(測地線曲率計算ステップS4)。曲線の測地線曲率(geodesic curvature)は、微分幾何学的に求めることができる。以下に測地線曲率の計算方法について説明する。
【0048】
図3は座標系を示す図であり、
図3(a)はフレネセレ・フレームとダルブーフレームを示し、
図3(b)は接触ダルブーベクトルを示す。
曲面上の曲線の測地線曲率を使用することで、展開可能な曲面(可展面)上の曲線を平面上に展開できることが知られている。例えば、非特許文献3(Shyuichi Izumiya and Saki Otani,Flat approximations of surfaces along curves,Demonstratio Mathematica,48(2):217-241,2015.)には、曲面上の任意の曲線に沿って生成される、いわゆる接触可展面(osculating developable surface)を導入することが記載されている。曲面の基準線の各点でダルブーフレーム(Darboux frame)内の接触ダルブーベクトル(osculating Darboux vector)と呼ばれる方向が、展開可能な曲面のジェネレータとなる。
曲面を曲面上の曲線の測地線曲率を使用して曲面上の任意の曲線を平面に展開する際は、まず、3Dデカルト参照座標系o-xyzを定義する。パラメトリック曲面R(u,v)のパラメータ空間の平面曲線r(t)=(u(t),v(t))を考慮する。また、c(t)=R(u(t),v(t))はパラメトリック曲線である。
図3(a)に示すように、単位接線t、法線n、及び従法線bのベクトルは、フレネセレ・フレーム(Frenet-Serret frame)と呼ばれる経路c(t)に沿って移動する直交フレームを定義する。ここで、単位接線t、法線n、及び従法線bは、下式(1)のように計算される。
【数1】
「・」(上ドット)は、パラメータtに関する微分を表す。フレネ・セレの公式は下式(2)で与えられる。
【数2】
Λ=|c|(上ドット付)、κ(t)及びτ(t)は、それぞれ、曲線c(t)のパラメータ速度、曲率、及び捩率である。
【0049】
図3(a)に示すように、ダルブーフレーム(t、N、B)は同様の直交フレームであり、曲面幾何を含み、下式(3)で評価される。
【数3】
添え字に使用されるu、vは、示された変数に関する偏微分を表す。ダルブーフレームの動きは下式(4)で与えられる。
【数4】
κg(t)、κn(t)、及びτg(t)は、それぞれ測地線曲率、法曲率、及び測地線捩率である。
【0050】
ここで、単位接触ダルブーベクトルを下式(5)で定義する。
【数5】
これを
図3(b)に示す。式(4)とB・N=0及びt・N=0より、τg及びκnは下式(6)から導出できる。
【数6】
ここで、Λ≠0と仮定する。式(5)の分子に式(6)を代入すると、下式(7)が得られる。
【数7】
「’」は、弧長パラメータsに関する微分を表す。結果は、接触ダルブーベクトルが、c(t)に沿った接平面包絡面として定義された可展面の直線ベクトル方向と一致することを示している。
【0051】
c(t)を基準線とし、do(t)を下式(8)のように線織面(ruled surface)D(t,μ)のジェネレータにする。
【数8】
t、d0、d0(上ドット付)はすべてt-B平面上にあることを示すのは簡単であり、下式(9)となる。
【数9】
その結果、D(t,μ)は展開可能な曲面であり、これは接触可展面(osculating developable surface)と呼ばれる。接触可展面の曲面法線は、下式(10)で表される。
【数10】
式(10)のδ(t)は下式(11)で表される。
【数11】
D(t,0)=c(t)に沿って、Noを削減すると下式(12)となる。
【数12】
【0052】
ここでは、κn(t)=0は孤立点(isolated points)でのみ発生し、そのような点ではc(t)は局所的に平面であり、No=n×tとして定義できると仮定する。したがって、c(t)に沿った曲面R(u,v)の単位法線ベクトルN(u,v)とD(t,0)の単位法線ベクトルとが一致するため、両方の曲面上のc(t)に沿った測地線曲率κgは同一である。それゆえ、等尺曲面上の曲線(D(t,μ))に基づいて、測地線曲率を平面曲線の曲率としてc(t)を平面に展開できる。
測地線曲率κgは、下式(13)のように計算できる。
【数13】
式(13)のE、F、及びGは、第一基本形式計量であり、クリストッフェル記号Γijk(i,j,k=1,2)は、下式(14)のように定義される。
【数14】
曲面パラメータの第1導関数u(上ドット付)、v(上ドット付)、第2導関数u(¨付)、v(¨付)は、予め設計された曲線や、等パラメータ曲線、曲率線、主ストレッチ線、主応力線などの曲面上の曲線のプリイメージを表す曲線(u(t),v(t))を微分することで得られる。
【0053】
図2に戻り、測地線曲率計算ステップS4の後、測地線曲率を利用して曲面パッチを平面に展開する計算を行い、平面パッチを取得する(平面パッチ取得ステップS5)。曲面パッチは1枚ごとに平面に展開する。
【0054】
平面パッチ取得ステップS5の後、取得した平面パッチを並べて、後の工程を考慮した形状の平面展開図を生成する(平面展開図生成ステップS6)。
ここで、「後の工程を考慮した」とは、例えば、平面展開図生成ステップS6よりも後に行われる工程の一つである刺しゅう工程を考慮して、刺しゅう機30の作業に支障を来さない大きさの複数のストリップに分け複数の平面展開図を生成する(寄せ集めると曲面全体に対応したものとなる)ことを指す。
平面展開図生成ステップS6においては、平面パッチの並べ方を変えて複数枚の平面展開図を生成することが好ましい。この場合は、例えば、平面パッチを最大主曲率線方向に並び変えることにより複数枚のストリップを生成する。平面パッチの並べ方を変えて複数枚の平面展開図を生成することにより、後の工程のための復元精度の高い複数枚の平面展開図を得ることができる。
また、平面展開図生成ステップS6においては、平面パッチの並べ方を変えて複数パターンの平面展開図を生成することが好ましい。この場合は、例えば、最大主曲率線方向と最小主曲率線方向に並び変えてそれぞれのストリップを作成するなど、平面上で展開パッチを並び変えることによって、2パターンの平面展開図を生成することができる。平面パッチの並べ方を変えて複数パターンの平面展開図を生成することにより、パターンの異なる平面展開図を生成でき、複合材料製品の強度を高める成形基材への展開が可能となる。
【0055】
ここで、曲面データ取得ステップS1で取得する曲面データをNURBS曲面データとしたときの曲面パッチ(generalized principal patch)の展開について詳述する。
次数(p,q)のNURBS曲面は下式(15)のように定義される。
【数15】
【0056】
上述の通りprincipal patchは、構成する曲線が曲率線であるパッチである。本発明者らは、非特許文献2において、正確な長さを維持して各principal patchの4つの曲線を平面にマッピングして、それらを互いにほぼ直交する曲線として接続することにより、自由曲面を展開する方法を導入した。結果として得られる四辺形の平面パッチは、principal quadと呼ばれる。非特許文献2で開発されたアルゴリズムは、N本の曲率線で囲まれたパッチを処理して、主曲線の直交網の特異点、つまり臍点を考慮することもできる。
本発明は、曲率線を曲面上の任意の曲線群に一般化した曲面パッチ(generalized principal patch)とできるものであるから、構成する曲線を「generalized principal curves」と表現でき、対面の2組は「曲線A(generalized principal curves A)」及び「曲線B(generalized principal curves B)」と表現できる。
【0057】
図4は曲面パッチの展開を示す図であり、
図4(a)は曲面パッチの4つの曲線を示し、
図4(b)は4本の曲線の展開を示し、
図4(c)は結果として得られる四辺形の平面パッチを示している。
曲面c(t)上の曲線は、式(2)に示したフレネ・セレの公式の最初の方程式の下式(16)を積分することにより平面に展開される。
【数16】
ここで、曲線c(t)に沿った測地線曲率が展開された曲線の曲率と同じであるという事実に基づき、κはc(t)の測地線曲率κgに置き換えられる。
図4に示すように、正確な長さを維持し、隣接するそれぞれの2つの辺の間の角度が曲面パッチにおける接続角度に最も近づくように、4つの辺を接続することにより、各曲面パッチを平面にマッピングする。
【0058】
図5はりんごモデルの展開と再構築を示す図であり、
図5(a)は上図にNURBSサーフェス(曲面)で表現されたりんごモデル、下図にuvパラメータ空間で事前に設計された曲線を示し、
図5(b)は展開平面パッチを示し、
図5(c)は上図に主ストリップA(generalized A principal strip)、下図に主ストリップB(generalized B principal strip)を示し、
図5(d)は再構築されたモデルを示している。
図5(a)に示すように、メッシュが三角形になるパラメータ空間の4つの境界を除いて、曲面のパラメータ空間に構造化された四辺形メッシュを形成する10本の45°ラインと10本の-45°ラインがuvパラメータ空間に描画される。
図5(b)の平らな四角形はそれぞれ平面パッチ(generalized principal quad)である。この方法の際立った特徴は、展開プロセスが、各パッチに対して単一変数のニュートン法を用いて解く問題に簡略化できることである。3本の曲線から構成されるパッチは、曲面境界曲線の近くで発生することが多く、平坦化された3本の曲線は、一意の三角形を構成するため、最適化計算の必要がないことに注意する。
【0059】
すべての平面パッチ(generalized principal patch)が平面上に展開されると、並進と回転を使用して等長である隣接エッジを整列させることにより、平面パッチのそれぞれを1つずつ接続する。接続がBサイドの曲線に沿って行われる場合、結果として得られるストリップは主ストリップAであり、その逆も同様である。
図5(c)は、
図5(a)に示す事前設計されたラインから計算された主ストリップAと、主ストリップBを示している。これらのストリップ(帯)は、2つの組立方法で元の3D形状を形成できる。一対の層は、1層は主ストリップAで構成され、もう1層は主ストリップBで構成されるような、2層構造を形成する。対応する各一般化された平面パッチは同じ場所で重なり合うように配置され、1つは主ストリップA、もう1つは主ストリップBの3D形状を再構築する。
【0060】
図6は等パラメータ曲線を使用した編み込みモデルを示す図であり、
図6(a)は等パラメータ曲線を含む曲面モデルを示し、
図6(b)は展開された平面パッチを示し、
図6(c)は展開された平面パッチを整列した主ストリップA(上図)と主ストリップB(下図)を示し、
図6(d)は編み込まれた主ストリップを示している。
図6に示す編み込みモデルは、
図6(a)~(c)に示すように、等パラメータ曲線に沿って展開される。
図6(d)に示すペーパークラフトモデルは、主ストリップAと主ストリップBが編み込まれて3D曲面モデルを形成する場合を示している。編み込みモデルはTFPには使用できないが、ペーパークラフト、板金工芸、建築デザインなど、さまざまなアプリケーションに使用できる。
【0061】
自由曲面上の曲線のよく知られている直交網には、曲率線、主ストレッチ線、及び主応力線の3種類がある。各点の接線がその点での曲率の主方向と一致するサーフェス上の曲線は、曲率線と呼ばれる。曲率線は、曲面全体の最大または最小の法曲率方向の流れを示す。臍点でない点においては、直交する2つの主方向が存在するため、曲率線は直交網を形成する。非線形の連立常微分方程式の初期値問題を積分することによって曲率線を描画する手法の詳細は、非特許文献4(T. Maekawa, F. E. Wolter, and N. M. Patrikalakis. Umbilics and lines of curvature for shape interrogation. Computer Aided Geometric Design, 13(2):133-161, 1996.)に記載されている。臍点は、すべての方向において法曲率が等しい曲面上の点であり、したがって主方向は不定である。よって、臍点では曲率線の直交網が特異となり、それゆえ、曲率線で囲まれた領域である曲面パッチは、4本でなくN本の曲率線で囲まれたパッチになる。非特許文献2の展開アルゴリズムは、このようなN本のパッチに対応できる。3D自由形状シェル構造上の主ストレッチ線と主応力線の計算は、曲率線と同様の方法で計算できる。
【0062】
固体力学では、薄いシェルはその幾何学的な寸法のため、大きな変位と回転を受けることが予想されるが、曲げに支配される変形に対しては小さなひずみしか持たない。したがって、線形ひずみ-応力関係を想定するが非線形運動学を説明するサンブナン・キルヒホッフ(Saint Venant-Kirchhoff)構成モデルは、シェル形状によく使用される。古典的なキルヒホッフ・ラブ(Kirchhoff-Love)シェル理論を採用している。これは、3次元のシェルの連続体が中間面とその法線ベクトル場で表現できると仮定している。したがって理論では、シェル表現でC1連続性が必要である。シェルの運動学は、中間面の第1及び第2基本形式係数によって記述できる。臍点と同様に、2つの主応力が等しい点をisotropic pointと呼ぶ。そのような点での応力の状態は、全方向に均一な半径方向の圧縮または張力の状態である。
【0063】
自由曲面の幾何学的表現はNURBSであるため、薄いシェル構造の変形を計算するために、NURBSサーフェスが近似なしでNURBS要素に正確に変換されるIGA(Isogeometric analysis)を採用する。さらに、C1連続等幾何離散化を使用すると、キルヒホッフ・ラブシェルモデルに適合する。NURBS曲面のノットスパンは、ドメインを要素に細分割し、問題のフィールド(例えば、変位、速度、温度など)は、NURBS曲面と同じ基底関数で表現される。
ここで、
図7は自動車のボンネット表面の曲線の直交網を示す図であり、
図7(a)はIGAの荷重と境界条件を示し、
図7(b)は主ストレッチ線を示し、
図7(c)は主応力線を示している。
【0064】
図8は曲線の計算の終了を示す図であり、
図8(a)は狭い領域の発生を示し、
図8(b)は曲線間の距離が短いため曲線の計算を終了した状態を示している。
曲率線、主ストレッチ線、及び主応力線の密な曲線群は、高曲率、高変形、及び高応力領域で発生する傾向があるが、疎な曲線群は低曲率、低変形、及び低応力領域で表示される。非特許文献2では、ユーザーが「追加」および「削除」できる機能を適用することにより、曲線の直交網の密度を調整できるようにするグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)を導入している。ユーザーが曲線の1つを選択すると、曲線が疎である曲面上のシードポイントをクリックして、両方向に向かって積分することで新しい曲線を追加する。「削除」機能は、ユーザーが削除したい曲線上の任意点をクリックすることにより、既存の曲線を削除する。
【0065】
ただし、
図8(a)に示すように、ストリップが狭すぎて(細すぎて)製造できない場合がある。
このような場合、
図8(b)に示すように、曲線が他の既存の曲線から所定の距離内にあるときに、曲線の積分計算を終了する。
次に、
図8(c)に示すように、GUIを使用して曲線の密度をインタラクティブに調整する。それにもかかわらず、
図8(c)に示すように、終了により曲線がパッチの内側にある可能性がある。このような曲線は、
図8(d)に示すように、パッチの境界で削除(トリミング)する。
図5、
図6及び
図8(a)に示すように、曲線は入力曲面の境界から始まり境界で終了するとの仮定の下では、並進と回転を使用して等長の隣接エッジを整列させることにより、平面パッチを1つずつ接続するのは簡単である。ただし、上記のケースでは、この仮定はもはや成り立たない。したがって、
図8(e)に示すように、境界から境界まで曲面を通る主要な曲線に従って、平面パッチをグループに分割する。
図8(e)において、上図は曲面が最小主曲率線に従って3つの領域に分割されていることを示し、下図は曲面が最大主曲率線に従って7つの領域に分割されていることを示している。
【0066】
図2に戻り、平面展開図生成ステップS6の後、平面展開図を出力する(平面展開図出力ステップS7)。
ここでの出力には、画像データやファイルデータとしての出力の他、製造用コンピュータ40など、コンピュータ10と連携している他機器へのデータ送信が含まれる。
【0067】
このように、曲面展開プログラムは、コンピュータ10に、入力された曲面データを取得する曲面データ取得ステップS1と、曲面データに対し展開基準線となるネット状に交わる任意の曲線群を計算する曲線群計算ステップS2と、任意の曲線群で囲まれた領域の曲面パッチを取得する曲面パッチ取得ステップS3と、任意の曲線群の測地線曲率を計算する測地線曲率計算ステップS4と、測地線曲率を利用して曲面パッチを平面に展開する計算を行い平面パッチを取得する平面パッチ取得ステップS5と、取得した平面パッチを並べて、後の工程を考慮した形状の平面展開図を生成する平面展開図生成ステップS6と、平面展開図を出力する平面展開図出力ステップS7とを実行させる。これにより、曲面上の任意の曲線群を基準として得られた曲面パッチを展開した平面パッチを並べて、後の工程を考慮した平面展開図を得ることができる。また、繊維を配向したい流れに沿って切込みが入った復元精度の良い平面展開図を算出することができるため、従来は制御が困難とされていた繊維方向を設計パラメータとして考慮することが可能となり、製品設計の自由度が向上する。また、繊維方向を制御することで、CFRP等の複合材料製品の高強度化、軽量化、機能性の付加等に繋げることができる。なお、繊維としては成形品の用途に応じて、炭素繊維以外にも芳香族ポリアミド系樹脂繊維や超高分子量ポリエチレン繊維等の繊維の利用が可能である。
【0068】
図9はツールパス計算プログラムの処理フローである。
ツールパス計算プログラムは、平面展開図に対して刺しゅう機30のツールパスを計算するプログラムであり、コンピュータ10にインストールされている。ツールパス計算プログラムは、境界曲線が2本の展開基準線と2本の曲面の境界曲線とで構成されるような、一般的な主ストリップを例に説明する。
処理を開始したツールパス計算プログラムは、曲面展開プログラムを用いて得られた平面展開図を取得する(平面展開図取得ステップS11)。
【0069】
平面展開図取得ステップS11の後、ツールパスを平面展開図の内側に限定して配置する(ツールパス配置ステップS12)。
ここで、
図10は平面展開図の境界曲線の分類例を示す図である。
図10に示すように、ツールパスを引く平面展開図のパーツについて、各境界曲線を、展開基準線1(等パラメータ曲線、主ストレッチ線、主応力線、又は曲率線等)か、曲面の境界線2かの二種類に分類する。このように、ツールパス配置ステップS12において、平面展開図の境界曲線の種類を整理し、展開基準線1と、平面展開図の境界線2に分類することで、展開基準線1と境界線2を考慮してツールパスを配置することができる。
【0070】
ここで、
図11は平面展開図の領域拡大の例を示す図である。
平面展開図において、境界曲線のうち展開基準線1を延長して、平面展開図の領域を十分に広げる。これにより、後述のオフセット作業において、曲面の境界線2の影響を避け、展開基準線1の流れに沿ったツールパスが作られる。
図11では、展開基準線1の端部から接線方向に直線で延長している。
このように、ツールパス配置ステップS12において、平面展開図の境界線2を延長し、境界線2の影響を避けて展開基準線1に沿ったツールパスの配置を容易にすることで、後のオフセット作業において、境界線2の影響を避けて展開基準線1の流れに沿ったオフセット経路の計画を容易にすることができる。
【0071】
図9に戻り、ツールパス配置ステップS12の後、平面展開図の内側におけるツールパスを計算する(ツールパス計算ステップS13)。
ここで、
図12はオフセットの例を示す図である。
ツールパス計算ステップS13においては、ツールパスを刺しゅう対象物の幅を考慮して、平面展開図の内側にオフセットさせたオフセット経路を順に計画することが好ましい。これにより、配置する繊維トウ等の刺しゅう対象物の幅を考慮したツールパスを計画することができる。なお、刺しゅう対象物は、例えば炭素繊維束(トウ)である。
図12は展開基準線を延長し領域を拡大した境界曲線に対して内側へオフセットして複数の内側オフセット曲線4を描いた状態を示している。境界線2と最初の内側オフセット曲線4までのオフセット幅のみ刺しゅう対象物の幅に対して0.5倍とし、その後の内側オフセット曲線4は刺しゅう対象物の幅と同幅でオフセットしている。
また、ツールパスの計算は、NURBS曲線に基づいて行う。これにより、CADソフトで標準的なNURBS曲線を利用してツールパスの計算を行うことができ、後の製造(CAM)も連係し易くなる。
【0072】
図13はトリムの例を示す図である。
ツールパス計算ステップS13においては、ツールパスを計画した後、平面展開図の外側に刺しゅう対象物の幅を考慮してオフセットした外側オフセット曲線5を描き、不要な曲線をトリムする。これにより、刺しゅう対象物の幅を考慮した上で、不要な経路を含むツールパスが生成されることを防止できる。
図13には、展開基準線1の外側に外側オフセット曲線5を描き、外側オフセット曲線5よりも外側にある拡張領域の境界曲線及び内側オフセット曲線4を不要な曲線として切り取った状態を示している。
【0073】
図14はアイランド部の分類とツールパス追加の例を示す図である。
不要な曲線をトリムすると、
図14に示すように、一方の端点(端)と他方の端点(端)を有する内側オフセット曲線4と、端点(端)を有さない環状の内側オフセット曲線4が形成される。端点が無い環状の内側オフセット曲線4は、連続する閉じた輪郭であり他の曲線と繋げることができない。この環状の内側オフセット曲線4により形成された領域は、端点を有する内側オフセット曲線4から孤立した島のような領域であるアイランド部6として分類する。
ツールパス計算ステップS13においては、平面展開図のオフセット経路の孤立したアイランド部6に対し、アイランド部6を横断する経路を追加経路7として追加し、オフセット経路と追加経路7を用いてツールパスを計画する。アイランド部6を形成する全ての内側オフセット曲線4を貫く1本の滑らかな曲線である追加経路7を設けることにより、アイランド部6を横断する追加経路7により、全体の一筆書化が可能となる。
図14に示すように、追加経路7の長さは、端点を有する内側オフセット曲線4の長さと揃える。このように、追加経路7は、アイランド部6を一筆化するために追加するパスであり、追加した線は、そのまま一筆化時のパスとして利用される。
【0074】
図15はアイランド部を形成する内側オフセット曲線におけるツールパスの一筆書化の例を示す図、
図16はツールパス全体の一筆書化の例を示す図である。
ツールパス計算ステップS13においては、ツールパスを一筆書化できるように計算することが好ましい。なお、一筆書化とは、独立している各曲線を、一筆(ワンストローク)で描けるように繋げ、一つのツールパスを生成する単一の曲線にすることをいう。各ストリップにおけるツールパスを一筆書化することにより、刺しゅう対象物の繊維トウがストリップ内部で分断されることを防止でき、強度を向上することができる。
一筆書化においては、まず、
図15に示すように、アイランド部6を構成している環状の内側オフセット曲線4と追加経路7の曲線とを合体(マージ)することによって、アイランド部6のオフセット経路を一筆書化する。これにより、アイランド部6の輪郭を一筆で書き込むことができるようになる。
次に、
図16に示すように、ツールパスを構成する全ての曲線を半円で連続的に繋ぐことで一筆書化する。ここでは、
図9に示すように、端点指定ステップS13-1、移動ステップS13-2、未接続判断ステップS13-3、及び接続ステップS13-4を実行する。
【0075】
端点指定ステップS13-1では、開始点となるツールパスの端点を指定する。
移動ステップS13-2では、端点指定ステップS13-1で指定した開始点である端点から、その反対側の端点に移動させる。
未接続判断ステップS13-3では、移動ステップS13-2の結果を基に、ストリップ内部に未接続の端点が残っているかを判断する。
未接続判断ステップS13-3において、ストリップ内部に未接続の端点が残っていると判断された場合は、接続ステップS13-4となる。接続ステップS13-4では、まだ接続されていない、現在の端点から一番近い端点に接続する。接続ステップS13-4の後は、移動ステップS13-2に戻る。
一方、未接続判断ステップS13-3において、ストリップ内部に未接続の端点が残っていると判断された場合は、一筆書化の処理を終了する。
これにより、ツールパスの一筆書化を正確かつ迅速に行うことができる。なお、
図17は作成したツールパスに沿って刺しゅう対象物を刺しゅうしたイメージ図である。
【0076】
一筆書化の処理を終了した後、一筆書化したツールパスに沿ってトウ等の刺しゅう対象物を配置して、隙間領域を確認する。
図18はオフセット曲線が実際の曲線から逸脱している場合の処理手順を示す図であり、
図18(a)は補助線を追加した状態を示し、
図18(b)は展開基準線を延長し領域を拡大した状態を示し、
図18(c)はツールパスを構成する全ての曲線を半円で連続的に繋ぐことで一筆書化した状態を示し、
図18(d)は一筆書化したツールパスに沿ってトウ等の刺しゅう対象物を配置して隙間領域を確認する状態を示している。
2つの曲線の距離が大きい場合、オフセット曲線は実際の曲線から逸脱する可能性がある。そのような場合は、
図18に示すように、補助線3をストリップの中心にマッピングし、ストリップを2つのストリップに分割し、上記のツールパス配置ステップS12及びツールパス計算ステップS13を各ストリップに適用する。ツールパス配置ステップS12において、ツールパスのずれを軽減する補助線3を、展開基準線1を考慮して平面展開図の内側に描くことで、配置の際に補助線3を利用してツールパスのずれを軽減し、ツールパスの精度を高めることができる。
また、ツールパス計算ステップS13において、ツールパスを刺しゅう対象物の幅を考慮して、平面展開図の内側にオフセットさせたオフセット経路を順に計画することで、配置する繊維トウ等の刺しゅう対象物の幅を考慮したツールパスを計画することができる。
なお、補助線3は、オフセットを精度良くするためのいわば、オフセット曲線の境界線(オフセットを開始する基準線)のガイドラインであり、その線自体はパスにはならない。
【0077】
図9に戻り、ツールパス計算ステップS13の後、計算したツールパスを出力する(ツールパス出力ステップS14)。本実施例では、計算したツールパスは、通信ネットワーク80を介してコンピュータ10から製造用コンピュータ40へ送信される。
このように、ツールパス計算プログラムは、曲面展開プログラムにより得られた平面展開図に計算された刺しゅう機30のツールパスを配置することができ、平面展開図に対して、例えば、目的の方向に沿わせつつ、繊維の粗密のばらつきが少なるくなるよう配置する繊維トウのツールパスを計算することが可能となる。
【0078】
ここで、ツールパス計算プログラムのアルゴリズムを、繊維(刺しゅう対象物)の配向角度、繊維同士のオーバーラップ、繊維同士の隙間、の三つの観点から評価する測定方法について説明する。
図19は自動車のボンネットに対して曲率線を基準として展開した展開図上にツールパス計算プログラムを適用したときの測定結果を示す図であり、
図19(a)はツールパスの配置角度について、展開された曲線A及び曲線Bからのオフセットに沿った繊維配向の角度を交点で計算し直角との差を評価したもの、
図19(b)は刺しゅう対象物がオーバーラップした領域について、グレースケールの画像上で暗いピクセル(オーバーラップ有り)と明るいピクセル(オーバーラップ無し)の比率で評価したもの、ならびに繊維のギャップ領域について、色付きのピクセル(繊維有り)と展開図内部の白のピクセル(繊維無し)の比率で評価したものである。
ツールパス計算プログラムのアルゴリズムによる結果を評価する方法の一つ目は、
図19(a)に示すように、展開された曲線Aと展開された曲線Bとの交点でのオフセットに沿った繊維配向間の角度について設計角度からの偏差を評価するものである。
二つ目の評価方法は、刺しゅう対象物(トウ)間のオーバーラップの量を評価するものである。
図19(b)に示すように、半透明のシェーディングモードを使用して、パスに沿ってトウの幅と等しい幅の2Dサーフェスを配置する。重なり合った領域(オーバーラップした領域)は、重なり合っていない領域に比べて暗く見えて検出できるため、明るいピクセルに対する暗いピクセルの比率で評価する。
三つ目の評価方法は、刺しゅう対象物(トウ)間のギャップの量を評価するものである。
図19(b)に示すように、色を有するピクセルに対する内部の白のピクセルの比率で評価する。
【0079】
図20は複合材料を用いた曲面の製造方法の工程を示す図である。
複合材料を用いた曲面の製造方法は、まず、曲面展開プログラムを用いて得られた平面展開図に基づいて原基材を裁断機20で裁断した基材と、基材に刺しゅうする刺しゅう対象物を準備する(材料準備工程S21)。基材は、ガラスクロス材などである。また、裁断した基材には、切込みが入ったものも含む。刺しゅう対象物ではなく基材のみに切込みを入れることで、部品の強度低下を防ぐことができる。
後の工程を考慮した形状の平面展開図が複数枚の場合は、基材に識別符号を付与する(第一の識別符号付与工程S21-1)。これにより、基材の取り違えを防止し、刺しゅう時の順番等の識別を容易にすることができる。
【0080】
材料準備工程S21の後、ツールパス計算プログラムを用いて得られたツールパスに基づいて基材に炭素繊維トウ等の刺しゅう対象物を配置する(材料配置工程S22)。このとき、基材の上にツールパスに基づいた曲線を描くと、刺しゅう対象物を配置しやすくなる。
刺しゅう対象物は炭素繊維トウであることが好ましい。これにより、鋼と比較して比強度及び比弾性率に優れたCFRP製品を製造することができる。
【0081】
材料配置工程S22の後、刺しゅう機30によりツールパスに従って刺しゅう対象物を基材に刺しゅうし、成形基材を得る(刺しゅう工程S23)。成形基材(プリフォーム)は復元精度の良い平面展開図に基づいて基材を裁断し、計算されたツールパスに基づいて、繊維トウ等の刺しゅう対象物を基材に配置して刺しゅうができるため、精度の高い成形基材を少ない労力で製造することができる。
【0082】
刺しゅう工程S23の後、後の工程を考慮した形状の平面展開図が複数枚の場合に、成形基材に識別符号を付与する(第二の識別符号付与工程S24)。これにより、成形基材の取り違えを防止し、成形型50への載置時の順番等の識別を容易にすることができる。
【0083】
第二の識別符号付与工程S24の後、後の工程を考慮した形状の平面展開図が複数枚の場合に、複数枚の成形基材を連結する(連結工程S25)。複数枚の成形基材を連結して1枚物などにすることで、成形基材を成形型50へ載置する際の手間を軽減することができる。
【0084】
また、曲面の成形型50を準備する成形型準備工程S26と、刺しゅう工程S23で得られた成形基材を成形型50に載置する成形基材載置工程S27と、成形基材を載置した成形型50に樹脂を注入し成形する樹脂成形工程S28と、樹脂を硬化させて成形基材と一体化された複合材料から成る曲面を得る曲面完成工程S29を有する。これにより、繊維トウ等の配置が計算した曲線群に沿った曲面を有するCFRP製品等の複合材料を用いた樹脂成形曲面を製造することができる。なお、樹脂としては成形品の用途に応じて、エポキシやフェノール等の熱硬化性樹脂、またポリオレフィン、ポリアミド等の熱可塑性樹脂の何れも使用が可能である。
また、CFRPの成形には、真空含浸工法(VaRTM)などの一般的な成形方法を適用することができる。
また、曲面データ取得ステップS1で取得する曲面データをNURBS曲面データとし、NURBS曲線に基づいてツールパスの計算をしている場合、曲面の成形型50はNURBS曲面に基づいたものであり、裁断機20による基材の裁断、及び刺しゅう機30によるツールパスに従った刺しゅうは、NURBS曲線に基づいたものである。これにより、同じ幾何学的表現を共有するCAD、CAE、及びCAM技術を連係し、NURBS曲面やNURBS曲線を利用して複合材料から成る曲面を製造することができる。なお、曲面データ取得ステップS1で取得する曲面データをベジェ曲面データ、B-スプライン曲面データ、又はT-スプライン曲面データとし、各曲線に基づいてツールパスの計算をしている場合、曲面の成形型50は各曲面に基づいたものであり、裁断機20による基材の裁断、及び刺しゅう機30によるツールパスに従った刺しゅうは、各曲線に基づいたものである。
【0085】
成形基材載置工程S27においては、複数枚の成形基材を重ねて載置することが好ましい。これにより、複合材料を用いた製品の強度を高めることができる。
また、複数枚の成形基材は、複数パターンの成形基材を組み合わせたものであることが好ましい。これにより、複合材料を用いた製品の強度をより高めることができる。
また、複数パターンの成形基材は、炭素繊維トウの炭素繊維が直交するパターンを組み合わせたものであることが好ましい。これにより、より強度を高めたCFRP製品を得ることができる。なお、局所的に炭素繊維の配向を変えることで、部分的な強度調整も可能である。
【0086】
図21は平面展開図の生成から製品製造までの流れを示す概念図である。
上記で説明した通り、まず
図21(a)に示すように、入力曲面の2次元パラメータ空間、又は3次元空間において、入力曲面の構造化された四辺形の曲面パッチのテッセレーションを行う。
次に
図21(b)に示すように、これらの曲面パッチを展開して平面パッチを取得する。
次に、
図21(c)に示すように、平坦化された平面パッチを並び替えてを2つの方法で整列させ平面展開図を生成する。
次に、
図21(d)に示すように、ツールパスを生成する。
次に、
図21(e)に示すように、刺しゅう機30を使用して展開パッチに刺しゅう対象物を配置し、成形基材(プリフォーム)を製作する。
最後に、
図21(f)に示すように、複合材料から成る曲面を有するCFRP製品等の製品を形成する。
【0087】
次に、本発明を適用した製造例として、自動車のボンネットモデルと、船舶用プロペラブレードモデルを説明する。
図22はCFRP製造方法の概略図であり、
図22(a)はVaRTMを示し、
図22(b)はL-RTMを示している。また
図23は製造中のVaRTM装置及びL-RTM装置を示す図であり、
図23(a)、(b)はVaRTM装置による自動車のボンネットの成形プロセスを示し、
図23(c)、(d)はL-RTM装置による船舶用プロペラの成形プロセスを示している。
刺しゅう機30としてタジマTCWM-101(タジマ工業株式会社製)を用い、基材に炭素繊維トウを配置し、成形基材(プリフォーム)を製造した。炭素繊維トウにはToho Tenax HTS40 F22 12K 800TEXS(帝人株式会社製)、基材であるガラスクロスには厚さ0.18mmのMARINETEX 0.2A(ニチアス株式会社製)を用いた。
CRFPシェル構造の製造には、VaRTM装置及びL-RTM装置を使用した。VaRTM処理は、低コストの複合製造技術である。
図22(a)に示すように、乾燥した成形基材を開いた型の上に重ね、真空フィルムで覆って真空圧下で樹脂を成形基材に注入し、オーブンで硬化させる。一方、L-RTMは、クローズドモールドを用いた複合材料の製造プロセスである。L-RTM装置で製造された部品の両面には鏡面仕上げが施されるが、VaRTM装置で製造された部品では、金型側のみに鏡面仕上げが施される。
【0088】
図24は自動車のボンネットモデルの成形基材を製造するために適用されたTFP刺しゅう機の一筆書化したツールパスを示す図であり、図中の記号Sは始点の位置を示し、記号Eは一筆書化したツールパスの終点の位置を示す。
図24(a)は最大主曲率線に沿った経路であり、
図24(b)は最小主曲率線に沿った経路である。また、
図24(c)、(d)は、それぞれ
図24(a)、(b)中に正方形で囲んだ領域の拡大図である。
一筆書化したツールパス(ストロークパス)を適用して、
図24に示す自動車ボンネットモデルの成形基材を製造する。最大主曲率線及び最小主曲率線に沿った経路は、それぞれ
図24(a)、(b)に示されている。なお、切込みは基材のみとしており、
図24(a)、(b)における繊維方向は、3次元形状にした際、層ごとに直交する。
【0089】
図25はTFP刺しゅう機によって製造された成形基材を示す図であり、
図25(a)、(b)はそれぞれ
図24に示す対応するパスに基づいてTFP刺しゅう機によって製造された成形基材を示し、
図25(c)、(d)はそれぞれ
図25(a)、(b)に対応する炭素繊維トウの拡大図である。また、
図26はVaRTM装置によって製造されたCFRP自動車ボンネットを示す図であり、
図26(a)は鏡面仕上げの金型側、
図26(b)は鏡面仕上げのないフィルム面側を示す図である。
図25に示す成形基材を金型に積み重ね、VaRTM装置を使用して、CFRP自動車ボンネットモデルを製造している。
【0090】
図27は曲線に沿った船舶用プロペラブレード曲面の展開プロセスを示す図であり、
図27(a)は船舶用プロペラブレードを示し、
図27(b)はブレードの吸引側の曲率線を示し、
図27(c)はブレードの圧力側の曲率線を示し、
図27(d)は曲率線のプリイメージを示し、
図27(e)は展開されたストリップを示している。
また、
図28は船舶用プロペラブレードモデルの成形基材のツールパスを示す図であり、
図28(a)は最大主曲率線に沿った経路を示し、
図28(b)は最小主曲率線に沿った経路を示している。プロペラブレードは複数枚のストリップから構成されており、
図28(a)中の数字(1-1~1-15)、及び
図28(b)中の数字(2-1~2-8)は識別符号である。また、
図28(c)、(d)は、それぞれ
図28(a)、(b)中に正方形で囲んだ領域の拡大図である。
一筆書化したツールパスを適用して、
図28に示すように船舶用プロペラブレードモデルの成形基材を製造する。なお、切込みは基材のみとしており、
図28(a)、(b)における繊維方向は、3次元形状にした際、層ごとに直交する。
【0091】
図29はTFP刺しゅう機で製造された成形基材を示す図である。また、
図30はL-RTM装置によって製造されたCFRP船舶用プロペラブレードを示す図であり、
図30(a)は鏡面仕上げの吸引側、
図30(b)は鏡面仕上げの圧力側を示す図である。
図29に示すように、成形基材は、
図28と同じ識別符号のパスに対応してTFP刺しゅう機で製造される。
【0092】
最後に、以上の説明に関して更に以下の付記を開示する。
【0093】
[付記1]
複合材料を用いた曲面の製造方法であって、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の曲面展開プログラムを用いて得られた平面展開図に基づいて裁断機で裁断した基材と、前記基材に刺しゅうする刺しゅう対象物とを準備する材料準備工程と、
請求項6から請求項16のいずれか1項に記載のツールパス計算プログラムを用いて得られたツールパスに基づいて前記基材に前記刺しゅう対象物を配置する材料配置工程と、
刺しゅう機により前記ツールパスに従って前記刺しゅう対象物を前記基材に刺しゅうし、成形基材を得る刺しゅう工程と
を有すること特徴とする複合材料を用いた曲面の製造方法。
本構成によれば、成形基材は復元精度の良い平面展開図に基づいて基材を裁断し、計算されたツールパスに基づいて、繊維トウ等の刺しゅう対象物を基材に配置して刺しゅうができるため、精度の高い成形基材を少ない労力で製造することができる。
【0094】
[付記2]
後の工程を考慮した形状の前記平面展開図が複数枚の場合に、前記基材及び/又は前記成形基材のそれぞれに識別符号を付与する識別符号付与工程をさらに有することを特徴とする付記1に記載の複合材料を用いた曲面の製造方法。
本構成によれば、基材や成形基材の取り違えを防止し、刺しゅう時や成形型への載置時の順番等の識別を容易にすることができる。
【0095】
[付記3]
後の工程を考慮した形状の前記平面展開図が複数枚の場合に、複数枚の前記成形基材を連結する連結工程をさらに有することを特徴とする付記1又は付記2に記載の複合材料を用いた曲面の製造方法。
本構成によれば、複数枚の成形基材を連結して1枚物などにすることで、成形基材を成形型へ載置する際の手間を軽減することができる。
【0096】
[付記4]
前記曲面の成形型を準備する成形型準備工程と、前記刺しゅう工程で得られた前記成形基材を前記成形型に載置する成形基材載置工程と、前記成形基材を載置した前記成形型に樹脂を注入し成形する樹脂成形工程と、前記樹脂を硬化させて前記成形基材と一体化された前記複合材料から成る前記曲面を得る曲面完成工程とをさらに有することを特徴とする付記1から付記3のいずれか1つに記載の複合材料を用いた曲面の製造方法。
本構成によれば、繊維トウ等の配置が計算した曲線群に沿った曲面を有するCFRP製品等の複合材料を用いた樹脂成形曲面を製造することができる。
【0097】
[付記5]
前記成形基材載置工程において、複数枚の前記成形基材を重ねて載置することを特徴とする付記4に記載の複合材料を用いた曲面の製造方法。
本構成によれば、複合材料を用いた製品の強度を高めることができる。
【0098】
[付記6]
複数枚の前記成形基材は、複数パターンの前記成形基材を組み合わせたものであることを特徴とする付記5に記載の複合材料を用いた曲面の製造方法。
本構成によれば、複合材料を用いた製品の強度をより高めることができる。
【0099】
[付記7]
前記刺しゅう対象物は炭素繊維トウであることを特徴とする付記1から付記6のいずれか1つに記載の複合材料を用いた曲面の製造方法。
本構成によれば、鋼と比較して比強度及び比弾性率に優れたCFRP製品を製造することができる。
【0100】
[付記8]
複数パターンの前記成形基材は、前記炭素繊維トウの炭素繊維が直交するパターンを組み合わせたものであることを特徴とする付記6を引用する付記7に記載の複合材料を用いた曲面の製造方法。
本構成によれば、より強度を高めたCFRP製品を得ることができる。
【0101】
[付記9]
前記曲面の前記成形型はNURBS曲面に基づいたものであり、裁断機による基材の裁断及び前記刺しゅう機による前記ツールパスに従った刺しゅうはNURBS曲線に基づいたものであることを特徴とする付記1から付記8のいずれか1つに記載の複合材料を用いた曲面の製造方法。
本構成によれば、同じ幾何学的表現を共有するCAD、CAE、及びCAM技術を連係し、NURBS曲面やNURBS曲線を利用して複合材料から成る曲面を製造することができる。
【0102】
[付記10]
複合材料を用いた曲面の製造システムであって、
平面展開図に基づいて基材を裁断する裁断機と、
前記基材に刺しゅう対象物を刺しゅうする刺しゅう機と、
少なくとも前記裁断機と前記刺しゅう機とを制御する製造用コンピュータと、
成形型に樹脂を注入する樹脂成型手段とを備え、
付記1から付記9のいずれか1つに記載の複合材料を用いた曲面の製造方法を実施することを特徴とする複合材料を用いた曲面の製造システム。
本構成によれば、精度の高い成形基材を基にした曲面を有する複合材料製品を製造することができる。
【0103】
[付記11]
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の曲面展開プログラムと、請求項6から請求項16のいずれか1項に記載のツールパス計算プログラムとを実行するコンピュータをさらに備えたことを特徴とする付記10に記載の複合材料を用いた曲面の製造システム。
本構成によれば、曲面展開プログラムによる平面展開図の生成と、ツールパス計算プログラムによるツールパスの計算を、製造システムにおいてコンピュータを用いて行うことができる。
【0104】
[付記12]
前記コンピュータと、前記製造用コンピュータとを遠隔地に配置し連係させることを特徴とする付記11に記載の複合材料を用いた曲面の製造システム。
本構成によれば、コンピュータによる平面展開図の生成及びツールパスの計算と、製造用コンピュータによる複合材料を用いた曲面の製造とを連係して、別々の場所で行うことができる。
【0105】
[付記13]
前記コンピュータと、前記製造用コンピュータとを通信ネットワークを介して連係させることを特徴とする付記12に記載の複合材料を用いた曲面の製造システム。
本構成によれば、通信ネットワークによりコンピュータと製造用コンピュータとの連係性を高めて、製造の迅速化と容易化を図ることができる。
【0106】
[付記14]
前記コンピュータと、曲面データを設計するCADシステムとをさらに連係させることを特徴とする付記11から付記13のいずれか1つに記載の複合材料を用いた曲面の製造システム。
本構成によれば、CADシステムで作成された曲面データを取得し、曲面の設計から複合材料を用いた曲面の製造までをより連係しやすくなる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、上記した自動車のボンネットや船舶用プロペラの他、一般的なCFRP製品等の複合材料製品に適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 展開基準線
2 境界線
3 補助線
4 内側オフセット曲線
5 外側オフセット曲線
6 アイランド部
7 追加経路
10 コンピュータ
20 裁断機
30 刺しゅう機
40 製造用コンピュータ
50 成形型
60 樹脂成型手段
70 CADシステム
80 通信ネットワーク
S1 曲面データ取得ステップ
S2 曲線群計算ステップ
S3 曲面パッチ取得ステップ
S4 測地線曲率計算ステップ
S5 平面パッチ取得ステップ
S6 平面展開図生成ステップ
S7 平面展開図出力ステップ
S11 平面展開図取得ステップ
S12 ツールパス配置ステップ
S13 ツールパス計算ステップ
S13-1 端点指定ステップ
S13-2 移動ステップ
S13-3 未接続判断ステップ
S13-4 接続ステップ
S14 ツールパス出力ステップ
S21 材料準備工程
S21、S24 識別符号付与工程
S22 材料配置工程
S23 刺しゅう工程
S25 連結工程
S26 成形型準備工程
S27 成形基材載置工程
S28 樹脂成形工程
S29 曲面完成工程