(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用電解質媒体及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240719BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240719BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240719BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240719BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240719BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M50/44
(21)【出願番号】P 2020156005
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591267855
【氏名又は名称】埼玉県
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小笠 博司
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英紀
(72)【発明者】
【氏名】稲本 将史
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-334730(JP,A)
【文献】特開2004-311272(JP,A)
【文献】特開平9-306543(JP,A)
【文献】特開2002-8724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0569
H01M 10/052
H01M 10/0568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池に用いられる電解質媒体であって、
低誘電率溶媒と、リチウム塩と、多価カチオン塩と、を含有し、
前記多価カチオン塩は粒子が分散された状態で、かつ、固定化されず流動可能な状態で含有され、
高誘電率溶媒を含有しない、又は、含有量が20質量%以下である、リチウム二次電池用電解質媒体。
【請求項2】
前記多価カチオン塩は、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム及び酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1に記載のリチウム二次電池用電解質媒体。
【請求項3】
前記多価カチオン塩の含有量が0.1質量%~50質量%である、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用電解質媒体。
【請求項4】
前記多価カチオン塩の粒子径が100μm以下である、請求項1~3いずれかに記載のリチウム二次電池用電解質媒体。
【請求項5】
増粘剤を含有する、請求項1~4いずれかに記載のリチウム二次電池用電解質媒体。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載のリチウム二次電池用電解質媒体を備える、リチウム二次電池。
【請求項7】
不織布からなるセパレータを備える、請求項6に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記リチウム二次電池がリチウム金属又はリチウム金属合金で構成される負極を備える、請求項6又は7に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電解質媒体及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムのレドックス反応を利用したリチウム二次電池では、リチウムがデンドライト状に析出するため、正負極の短絡が生じることが知られている。そのため、例えばリチウムイオン二次電池では、リチウムイオンが挿入脱離するグラファイト負極及び微孔シート状セパレータを用いてこの短絡を抑制することにより、実用化されている。しかしながら、近年の自動車用蓄電池やドローン用蓄電池では、このリチウムイオン二次電池を凌駕するエネルギー密度と高い出力が要望されている。
【0003】
そこで、高エネルギー密度化を目的として、最も高いエネルギー密度を有する材料であるリチウム金属の利用について検討がなされている。しかしながら、このリチウム金属を用いた場合には、充電時にリチウムがデンドライト状に析出するため、部分短絡や電解液の枯渇、析出リチウムの脱落等により、著しくサイクル劣化することが知られている。また、ハイレートや大型電池では、短絡が発生する等、安全性に難がある。そのため、リチウム金属二次電池は、一般には利用されていないのが現状である。
【0004】
ここで、例えば、リチウムがデンドライト状に析出するのを抑制するために、リチウム金属に対するコーティングや合金化の検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。また、リチウム金属に対して、酸化マグネシウム等の無機物質との複合化や、マグネシウム等との合金化により、安定な被膜を形成することが報告されている(特許文献2~5参照)。しかしながら、リチウム金属は活性が極めて高いため、コーティング工程中に変質するおそれがあるうえ、合金製造中に酸化するおそれがある。また、コーティング欠落部分があると、そこからリチウムがデンドライト成長する可能性がある。そのため、リチウム金属のコーティング処理、合金形成は容易ではない。特に、マグネシウム等の多価イオンは高誘電率溶媒と反応して不活性化(イオン透過性が低下)するため、この場合には電池反応が阻害される。
【0005】
また、高出力化を目的として、空隙率の高い不織布セパレータの利用について検討がなされている。リチウムイオン電池で通常用いられている微孔シートセパレータは、短絡防止、耐化学薬品性、機械的強度等、リチウムイオン電池に適した特性を備えているが、空隙率は50%以下である。これに対して不織布セパレータは、空隙率を90%程度まで上げることができ、リチウム二次電池の高出力化が期待できる。しかしながら、空隙率が高いと微短絡が発生し、サイクル安定性や安全性が問題となる。即ち、高出力化と短絡抑制はトレードオフの関係にあり、実際に例えば空隙率78%の不織布セパレータを用いてリチウムイオン電池を構成すると、著しくサイクル劣化する。特に、短絡し易いリチウム金属二次電池では、不織布セパレータは適さないことが想定される。そのため、不織布セパレータを用いたリチウム二次電池は実用化されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/034526号
【文献】国際公開第2018/034526号
【文献】国際公開第2018/034526号
【文献】特開2019-121610号公報
【文献】特開2006-310302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力を有するリチウム二次電池が求められている。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力を有するリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明は、リチウム二次電池に用いられる電解質媒体であって、低誘電率溶媒と、リチウム塩と、多価カチオン塩と、を含有し、前記多価カチオン塩は電解質媒体中に粒子として分散された状態で、かつ、粒子が固定化されず流動可能な状態で含有され、高誘電率溶媒を含有しない、又は、含有量が20質量%以下である、リチウム二次電池用電解質媒体を提供する。
【0010】
(2) (1)のリチウム二次電池用電解質媒体において、前記多価カチオン塩は、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム及び酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つであってよい。
【0011】
(3) (1)又は(2)のリチウム二次電池用電解質媒体において、前記多価カチオン塩の含有量が0.1質量%~50質量%であってよい。
【0012】
(4) (1)~(3)いずれかのリチウム二次電池用電解質媒体において、前記多価カチオン塩の粒子径が100μm以下であってよい。
【0013】
(5) (1)~(4)いずれかのリチウム二次電池用電解質媒体において、増粘剤を含有してもよい。
【0014】
(6) また本発明は、(1)~(5)いずれかのリチウム二次電池用電解質媒体を備えるリチウム二次電池を提供する。
【0015】
(7) (6)のリチウム二次電池において、不織布からなるセパレータを備えてもよい。
【0016】
(8) (6)又は(7)のリチウム二次電池において、前記リチウム二次電池がリチウム金属又はリチウム金属合金で構成される負極を備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力を有するリチウム二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池の第1の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池の第2の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池の第3の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池の第4の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】多価カチオン塩を添加していない従来の電解質媒体を用いたリチウム二次電池におけるSEI被膜のSEM画像である。
【
図6】多価カチオン塩を0.05質量%添加した本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池におけるSEI被膜のSEM画像である。
【
図7】多価カチオン塩を0.15質量%添加した本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池におけるSEI被膜のSEM画像である。
【
図8】実施例1に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図9】比較例1に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図10】実施例2に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図11】実施例3に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図12】実施例4に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図13】比較例2に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図14】実施例5に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図15】実施例6に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図16】比較例3に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図17】比較例4に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図18】実施例7に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図19】実施例8に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図20】実施例9に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図21】実施例10に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図22】実施例11に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図23】実施例12に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図24】実施例13に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図25】実施例14に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図26】実施例15に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図27】実施例16に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【
図28】比較例6に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳しく説明する。
【0020】
[リチウム二次電池用電解質媒体]
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用電解質媒体(以下、単に電解質媒体ともいう。)は、リチウム二次電池に用いられる電解質媒体であり、低誘電率溶媒と、リチウム塩と、粒子が分散された状態(未溶解状態)かつ固定化されず流動可能な状態の多価カチオン塩と、を含有することを特徴とする。また、本実施形態に係る電解質媒体は、低誘電率溶媒よりも誘電率が高い高誘電率溶媒の含有量が20質量%以下であることを特徴とする。このような構成を備える本実施形態に係る電解質媒体は、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力を有するリチウム二次電池の提供が可能である。
【0021】
また、本発明の一実施形態に係る電解質媒体を備えることにより、多価カチオン塩の粒子が負極(リチウム金属)上に流動状態で存在することで、負極と電解質媒体との界面に嵩高い構造のSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成され、短絡が抑制される。これにより、本実施形態に係る電解質媒体を備えたリチウム二次電池では、リチウム金属負極及び不織布セパレータを用いることができ、高エネルギー密度及び高出力のリチウム二次電池の提供が可能である。
【0022】
本実施形態において、低誘電率溶媒とは、誘電率が10より小さい溶媒を意味する。本実施形態に係る電解質媒体は、主としてこの低誘電率溶媒を含有する。
【0023】
また、高誘電率溶媒とは、誘電率が50より大きい溶媒を意味する。本実施形態に係る電解質媒体は、この高誘電率溶媒の含有量が20質量%以下である。より好ましい高誘電率溶媒の含有量は10質量%以下であり、さらには、含有量が0質量%、即ち高誘電率溶媒を含有しないことが好ましい。高誘電率溶媒は、多価カチオン塩と反応して不動態化し、リチウムイオンの拡散が阻害されるからである。
【0024】
低誘電率溶媒としては、鎖状カーボネートを用いることができる。鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を用いることができる。
【0025】
高誘電率溶媒としては、環状カーボネートを用いることができる。環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)を用いることができる。
【0026】
リチウム塩としては、従来公知のリチウム二次電池に使用可能なリチウム塩を用いることができる。具体的には、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム:LiPF6、テトラフルオロホウ酸リチウム:LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド:LiFSI等のリチウム塩を用いることができる。
【0027】
多価カチオン塩としては、多価金属塩が好ましく、2価又は3価の金属塩がより好ましく用いられる。中でも、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩がさらに好ましく用いられる。これら多価カチオン塩は、アニオン種によることなく用いることが可能である。
【0028】
マグネシウム塩としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム(Mg(TFS)2):(Mg(SO3CF3)2、酸化マグネシウム:(MgO)、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MgTFSI2):Mg[N(SO2CF3)2]2を用いることができる。
【0029】
カルシウム塩としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム(Ca(TFS)2):(Ca(SO3CF3)2、酸化カルシウム(CaO)、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Ca(TFSI)2):Ca[N(SO2CF3)2]2を用いることができる。
【0030】
アルミニウム塩としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム(Al(TFS)3):Al(SO3CF3)3、酸化アルミニウム(Al2O3)を用いることができる。
【0031】
以上の通り、本実施形態に係るリチウム二次電池用電解質媒体は、多価カチオン塩として、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム及び酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つを用いることができる。即ち、本実施形態に係るリチウム二次電池用電解質媒体は、これら多価カチオン塩を1種単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0032】
本実施形態では、多価カチオン塩は、電解質媒体中に粒子として分散された状態で、かつ、粒子が固体化されず流動可能な状態で存在する。多価カチオン塩は、液相でのコロイド状態、懸濁状態でも、固相状態のいずれの状態であってもよい。また、上述したリチウム塩のアニオンにより液相におけるコロイド状、粒子状となるものであっても、上述した増粘剤により固相状態となるものでもよい。これにより、負極上に多価カチオン塩が流動状態で存在することで、負極と電解質媒体との界面に嵩高い構造のSEI被膜を形成することができ、短絡の抑制が可能である。
【0033】
本実施形態の多価カチオン塩の含有状態、即ち、「粒子が分散された状態で、かつ、固定化されず流動可能な状態」について、
図1~
図4を参照して詳しく説明する。
【0034】
図1は、本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池の第1の構成を模式的に示す断面図である。
図1に示されるように、第1の構成を備えるリチウム二次電池10は、正極91と負極92の間において、正極91側にセパレータ93が配置され、負極92側に電解質媒体1が配置されている。電解質媒体1では、表面が電解液層12で被覆された多価カチオン塩粒子11が、負極92側に分散配置されており、かつ、負極92の表面に固定化されることなく流動して存在している。
【0035】
図2は、本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池の第2の構成を模式的に示す断面図である。
図2に示されるように、第2の構成を備えるリチウム二次電池20は、正極91と負極92の間に電解質媒体2が配置されている。電解質媒体2では、表面が電解液層22で被覆された多価カチオン塩粒子21が、均一に分散配置されており、かつ、負極92の表面に固定化されることなく流動して存在している。
【0036】
図3は、本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池の第3の構成を模式的に示す断面図である。
図3に示されるように、第3の構成を備えるリチウム二次電池30は、正極91と負極92の間において、正極91側に固体電解質94が配置され、負極92側に電解質媒体3が配置されている。電解質媒体3では、表面が電解液層32で被覆された多価カチオン塩粒子31が、負極92側に分散配置されており、かつ、負極92の表面に固定化されることなく流動して存在している。また、表面が電解液層32で被覆された多価カチオン塩粒子31の一部は、固体電解質94と混在して存在している。
【0037】
図4は、本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池の第4の構成を模式的に示す断面図である。
図4に示されるように、第4の構成を備えるリチウム二次電池40は、正極91と負極92の間において、正極91側から順に固体電解質94と電解質ゲル95が配置され、負極92側に電解質媒体4が配置されている。電解質媒体4では、表面が電解液層42で被覆された多価カチオン塩粒子41と表面が電解質ゲル層43で被覆された多価カチオン塩粒子41が、負極92側に分散配置されており、かつ、負極92の表面に固定化されることなく流動して存在している。また、表面が電解液層42で被覆された多価カチオン塩粒子41の一部と、表面が電解質ゲル層43で被覆された多価カチオン塩粒子41の一部は、電解質ゲル95と混在して存在している。
【0038】
以上説明した第1~第4の構成における多価カチオン塩の含有状態が、「粒子が分散された状態で、かつ、固定化されず流動可能な状態」を意味する。このように、多価カチオン塩の粒子は、固定化されずに流動していることで電解液を吸着するため、多価カチオン塩の粒子近傍は濃厚電解液となり、短絡を抑制可能になるものと推測される。なお、これら第1~第4の構成における多価カチオン塩の含有状態は、上述した低誘電率溶媒、必要に応じて高誘電率溶媒、リチウム塩及び多価カチオン塩を混合して電解質媒体とすることにより、実現可能である。
【0039】
次に、
図5は、多価カチオン塩を添加していない従来の電解質媒体を用いたリチウム二次電池におけるSEI被膜のSEM画像である。より詳しくは、
図5は、多価カチオン塩(MgO)未添加の電解質媒体を備える従来のリチウム二次電池の負極上に形成されたSEI被膜を、SEMを用いて表面観察したものである(後述の
図6及び
図7も同様)。
図5に示されるように、多価カチオン塩(MgO)未添加の電解質媒体を用いた場合には、負極上に緻密な構造のSEI被膜が形成されることが分かる。
【0040】
これに対して、
図6は、多価カチオン塩を0.05質量%添加した本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池におけるSEI被膜のSEM画像である。
図6に示されるように、多価カチオン塩の添加量が0.05質量%と少ないため完全ではないものの、負極上に嵩高いSEI被膜が形成されていることが分かる。また、
図7は、多価カチオン塩を0.15質量%添加した本発明の一実施形態に係る電解質媒体を用いたリチウム二次電池におけるSEI被膜のSEM画像である。
図7に示されるように、多価カチオン塩の添加量が0.15質量%で十分な添加量であり、負極上に完全な嵩高いSEI被膜が形成されていることが分かる。
【0041】
このように、負極上に嵩高い構造のSEI被膜が形成されると、イオンの移動が非局在化(ランダム化)され、セパレータによる短絡防止効果を利用しなくても短絡の抑制が可能になると考えられる。そのため、
図6及び
図7に示されるような嵩高いSEI被膜が形成されることで、安定したサイクル特性が得られるようになる。なお、SEI被膜自体は、従来から知られているSEI被膜と同様に、LiF及びCOx等で構成されていると考えられる。
【0042】
上述の多価カチオン塩のうち、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム(Mg(TFS)2)は、加熱により電解質媒体中に溶解する特性を有する。また、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MgTFSI2)は、25℃でDMCに溶解し、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム(Mg(TFS)2)はコロイド状となり、これらは放置すると(MgPF6)2として粒子状に分散する特性を有する。
【0043】
多価カチオン塩の平均粒子径は、100μm以下であることが好ましい。多価カチオン塩の平均粒子径が100μm以下であれば、短絡をより確実に抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力がより確実に得られる。なお、多価カチオン塩の平均粒子径が大きいとサイクルごとの容量のばらつきが大きくなる傾向があることから、多価カチオン塩のより好ましい平均粒子径は、20μm以下である。
【0044】
多価カチオン塩の含有量は、0.1質量%~50質量%であることが好ましい。多価カチオン塩の含有量がこの範囲内であれば、負極が嵩高いSEI被膜で覆われるため、安定した充放電特性が得られ、多価カチオン塩の含有量が高いことにより電解質媒体が粒状固体となってレート特性が低下することを回避できる。多価カチオン塩のより好ましい含有量は、0.1質量%~1.5質量%である。
【0045】
なお、本実施形態に係る電解質媒体は、本実施形態の効果を阻害しない範囲内において、添加材等、他の成分を含有していてもよい。
【0046】
本実施形態に係る電解質媒体は、増粘剤を含有してもよい。上述の本実施形態に係る電解質媒体に増粘剤を添加することにより、多価カチオン塩粒子層が安定的に形成される。
【0047】
増粘剤(増粘剤の濃度を上げればゲル化するため、この場合はゲル化剤とも言う。)としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることができる。
【0048】
本実施形態に係る電解質媒体は、上述の増粘剤が添加されることにより、例えば、粘度が5000mPa・s以上となったものである。粘度が5000mPa・s以上であれば、生産時のハンドリング性が向上する。
【0049】
増粘剤を含有する本実施形態に係る電解質媒体は、固体電池に好ましく用いることができる。例えば、本実施形態に係る電解質媒体を、負極界面に配置させて固体電解質層として用いることにより、固体電池を構成することが可能である。
【0050】
また、増粘剤を含有する本実施形態に係る電解質媒体は、負極をアノードレス化して電気化学的にリチウム金属を銅箔等に生成させるタイプの固体電池に利用することも可能である。固体電池で使用される固体電解質層は、従来のリチウムイオン二次電池に使用されている液状の電解質と比べて多量のリチウム塩を含有しているため、リチウム金属の生成に適しているからである。
【0051】
[リチウム二次電池]
本実施形態に係るリチウム二次電池は、上述の本実施形態に係る電解質媒体を備えるリチウム二次電池である。具体的に、本実施形態に係るリチウム二次電池は、リチウムイオン電池でもよく、リチウム固体電池でもよい。リチウムイオン二次電池の場合には、上述の本実施形態に係る電解質媒体の他に、正極、負極及びセパレータを備える。また、リチウム固体電池の場合には、上述の本増粘剤を含有する実施形態に係る電解質媒体の他に、リチウムイオン二次電池と同様の正極及び負極を備える。
【0052】
負極としては、従来公知のリチウム二次電池に用いられる負極を使用可能であるが、好ましくは、リチウム金属を用いることができる。ここで、上述したように高エネルギー密度化を目的として、最も高いエネルギー密度を有する材料であるリチウム金属の利用について従来検討がなされているが、このリチウム金属を用いた場合には、充電時にリチウムがデンドライト状に析出するため、部分短絡や電解質媒体の枯渇、析出リチウムの脱落等により、著しくサイクル劣化することが知られている。特に、ハイレートや大型電池では、短絡が発生する等、安全性に難があるため、これまでのところリチウム金属二次電池は、一般には利用されていないのが現状である。
【0053】
これに対して本実施形態に係る電解質媒体を備えるリチウム二次電池によれば、負極の表面に嵩高いSEI被膜が形成されることで短絡を抑制することができるため、負極としてリチウム金属を用いることが可能である。また、同様の理由により、負極としてリチウム金属合金を用いることも可能である。
【0054】
正極としては、従来公知のリチウム二次電池に用いられる負極を使用可能である。例えば、正極としてコバルト酸リチウム等を用いることができる。
【0055】
セパレータとしては、従来公知のリチウム二次電池に用いられるセパレータ、例えば微孔シート状ポリプロピレンセパレータ等を使用可能である。好ましくは、不織布からなるセパレータを用いることができる。ここで、上述したように高出力化を目的として、空隙率の高い不織布セパレータの利用について従来検討がなされているが、この不織布セパレータを用いた場合には、空隙率が高いことにより微短絡が発生し、サイクル安定性や安全性に難があることが知られている。即ち、高出力化と短絡抑制はトレードオフの関係にあり、特に、短絡し易いリチウム金属を負極として用いたリチウム二次電池では不織布セパレータの利用は困難であると言われている。
【0056】
これに対して本実施形態に係る電解質媒体を備えるリチウム二次電池によれば、負極の表面に嵩高いSEI被膜が形成されることで短絡を抑制することができるため、従来一般的な短絡抑制効果を有する微孔シート状セパレータ(例えば、微孔シート状ポリプロピレンセパレータ)の代わりに、空隙率が高いことで短絡抑制効果を有さない不織布セパレータを用いることが可能である。
【0057】
不織布セパレータとしては、例えば、ポリプロピレン不織布セパレータの他、セルロース系不織布セパレータ等を用いることができる。不織布セパレータの好ましい空隙率は、70~90%である。空隙率がこの範囲内であることにより、流動状態の多価カチオン塩粒子で短絡を抑制しつつ、高い出力が得られる。
【0058】
以上説明した本実施形態に係るリチウム二次電池によれば、ハイレート(1C程度)で高いサイクル安定性(サイクル維持率90%以上/100サイクル)が得られる。また、本実施形態に係るリチウム二次電池によれば、ハイレート(2C程度)で高いサイクル安定性(サイクル維持率88%以上/200サイクル)が得られる。従って、本実施形態によれば、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力を有するリチウム二次電池を提供できる。
【0059】
なお、本実施形態に係る電解質媒体及びリチウム二次電池は、従来公知の製造方法により製造可能である。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例】
【0061】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
実施例1に係るリチウム二次電池として、以下の構成を備えるリチウム二次電池を作製した。また、作製した実施例1に係るリチウム二次電池について、以下の条件で充放電試験を行った。
【0063】
<構成>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:ポリプロピレン不織布(空隙率78%)
電解質媒体:1MLiPF6/DMC+1.5質量%MgO(平均粒径:100μm)
<充放電試験条件>
25℃、150mAhg-1-0.5C、100サイクル
【0064】
[比較例1]
比較例1に係るリチウム二次電池として、以下の従来一般的な構成を備えるリチウム二次電池を作製した。また、作製した比較例1に係るリチウム二次電池について、実施例1と同様の条件で充放電試験を行った。
【0065】
<構成>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:微孔シート状ポリピロピレン
電解質媒体:1MLiPF6/DMC+30質量%EC
【0066】
図8は、実施例1に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。また、
図9は、比較例1に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図8及び
図9において、横軸は容量を示しており、縦軸は電圧を示している(後述の
図10~
図28においても同様)。これら
図8及び
図9に示されるように、比較例1に係るリチウム二次電池では著しくサイクル特性が劣化したのに対して、実施例1に係るリチウム二次電池では容量のサイクル維持率が97%で安定したサイクル特性が得られた。この結果から、低誘電率溶媒(DMC)と、リチウム塩と、多価カチオン塩(電解質媒体に未溶解のMgO)と、を含有するとともに高誘電率溶媒の含有量が20質量%以下である本発明のリチウム二次電池用電解質媒体を用いることにより、負極としてリチウム金属を用いるとともにセパレータとして不織布セパレータを用いた場合であっても、安定した充放電が可能となることが確認された。ひいては本発明によれば、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力が得られることが確認された。
【0067】
[実施例2~4、比較例2]
実施例2~4、比較例2に係るリチウム二次電池として、以下の構成を備えるリチウム二次電池をそれぞれ作製した。即ち、実施例2~4、比較例2に係るリチウム二次電池は、上述の実施例1のリチウム二次電池に対して、電解質媒体中に高誘電率溶媒のECを添加したものに相当する。なお、電解質媒体中のECの含有量は、実施例2では20質量%、実施例3では10質量%、実施例4では0質量%、比較例2では30質量%とした。また、作製した実施例2~4、比較例4に係るリチウム二次電池について、以下の条件で充放電試験を行った。
【0068】
<構成>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:ポリプロピレン不織布(空隙率78%)
電解質媒体:1.2MLiPF6/DMC+0.1質量%MgO(平均粒径:100μm)+0~30質量%EC
<充放電試験条件>
25℃、150mAhg-1-0.2C
【0069】
図10は、実施例2に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図11は、実施例3に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図12は、実施例4に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。また、
図13は、比較例2に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。なお、
図10~
図13は、いずれも初期の充放電曲線を示す図である。
図11~
図13に示されるように、電解質媒体中における高誘電率溶媒であるECの含有量が20質量%以下である実施例3~4のリチウム二次電池では短絡が生じなかったのに対して、電解質媒体中における高誘電率溶媒であるECの含有量が30質量%である比較例2のリチウム二次電池では短絡が生じることが確認された。また、
図10に示されるように、電解質媒体中における高誘電率溶媒であるECの含有量が20質量%以下である実施例2のリチウム二次電池では、サイクル1回目に短絡したものの、サイクル2回目で復活することが確認された。これは、充放電により被膜が再構築されたためと推測された。これらの結果から、本発明によれば、電解質媒体中の高誘電率溶媒の含有量が20質量%以下であることにより、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力が得られることが確認された。特に、電解質媒体中に高誘電率溶媒を含有していない実施例4のリチウム二次電池の充放電特性が好ましいことも確認された。
【0070】
[実施例5~6、比較例3~4]
実施例5~6、比較例3~4に係るリチウム二次電池として、以下の構成を備えるリチウム二次電池をそれぞれ作製した。即ち、実施例5~6、比較例3~4に係るリチウム二次電池は、上述の実施例1のリチウム二次電池に対して、電解質媒体中に添加する多価カチオン塩をMg(TFS)2に変更したものに相当する。なお、電解質媒体中のMg(TFS)2の含有量は、実施例5では2.0質量%、実施例6では3.0質量%、比較例3では0.5質量%、比較例4では1.0質量%とした。また、比較例3~4ではMg(TFS)2を加熱して電解質媒体中に溶解させたのに対して、実施例5~6ではMg(TFS)2を加熱することなく電解質媒体中で懸濁した状態とした。(Mg(TFS)2)は、放置すると(MgPF6)2として粒子状に分散し、その平均粒径はナノサイズであった。また、作製した実施例5~6、比較例3~4に係るリチウム二次電池について、以下の条件で充放電試験を行った。
【0071】
<構成>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:ポリプロピレン不織布(空隙率78%)
電解質媒体:1.0MLiPF6/DMC+0.5~3.0質量%Mg(TFS)2
<充放電試験条件>
50℃、150mAhg-1-0.2C
【0072】
図14は、実施例5に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図15は、実施例6に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図16は、比較例3に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。また、
図17は、比較例4に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。なお、
図14~
図17は、いずれも初期の充放電曲線を示す図である。
図14~
図17に示されるように、電解質媒体中における多価カチオン塩のMg(TFS)
2が未溶解の懸濁状態である実施例5~6のリチウム二次電池では短絡せずに安定した充放電特性が得られたのに対して、電解質媒体中における多価カチオン塩のMg(TFS)
2が溶解した状態である比較例3~4のリチウム二次電池では安定した充放電特性が得られなかった。この結果から、本発明によれば、電解質媒体中における多価カチオン塩が未溶解の状態であることにより、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力が得られることが確認された。
【0073】
[実施例7~9]
実施例7~9に係るリチウム二次電池として、以下の構成を備えるリチウム二次電池をそれぞれ作製した。即ち、実施例7~9に係るリチウム二次電池は、上述の実施例1のリチウム二次電池に対して、電解質媒体中に添加する多価カチオン塩を、実施例7では平均粒子径40μmのMgO、実施例8ではMg(TFS)2、実施例9ではMg(TFSI)2に変更したものに相当し、いずれもアニオンの種類が異なるマグネシウム塩を用いたものである。なお、実施例7~9いずれも、電解質媒体中の多価カチオン塩の含有量は0.1質量%とし、各多価カチオン塩は電解質媒体中において未溶解で懸濁した状態とした。(Mg(TFS)2)及びMg(TFSI)2は、いずれも放置すると(MgPF6)2として粒子状に分散し、その平均粒径はナノサイズであった。また、作製した実施例7~9に係るリチウム二次電池について、以下の条件で充放電試験を行った。
【0074】
<構成>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:ポリプロピレン不織布(空隙率78%)
電解質媒体:1.2MLiPF6/DMC+0.1質量%(MgO、Mg(TFS)2、Mg(TFSI)2)
<充放電試験条件>
25℃、150mAhg-1-1C、100サイクル
【0075】
図18は、実施例7に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図19は、実施例8に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。また、
図20は、実施例9に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図18~
図20に示されるように、電解質媒体中における各多価カチオン塩が未溶解の懸濁状態である実施例7~9のリチウム二次電池では、容量のサイクル維持率が実施例7では95%、実施例8では93%、実施例9では94%であり、安定したサイクル特性、充放電特性が得られることが確認された。この結果から、本発明によれば、電解質媒体中における多価カチオン塩が未溶解の状態であればアニオンの種類によらず、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力が得られることが確認された。
【0076】
[実施例10~12]
実施例10~12に係るリチウム二次電池として、以下の構成を備えるリチウム二次電池をそれぞれ作製した。即ち、実施例10~12に係るリチウム二次電池は、上述の実施例1のリチウム二次電池に対して、電解質媒体中に添加する多価カチオン塩を、実施例10では平均粒子径100μmのCaO、実施例11では平均粒子径20μmのCaO、実施例12では平均粒子径1μmのCaOに変更したものに相当し、平均粒子径の異なるCaOをそれぞれ用いたものである。なお、実施例10~12いずれも、電解質媒体中の多価カチオン塩CaOの含有量は0.1質量%とし、電解質媒体中において未溶解で懸濁した状態とした。また、作製した実施例10~12に係るリチウム二次電池について、以下の条件で充放電試験を行った。
【0077】
<構成>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:ポリプロピレン不織布(空隙率78%)
電解質媒体:1.2MLiPF6/DMC+0.1質量%CaO(平均粒子径1~100μm)
<充放電試験条件>
25℃、150mAhg-1-1C、50サイクル
【0078】
図21は、実施例10に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図22は、実施例11に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。また、
図23は、実施例12に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図21~
図23に示されるように、電解質媒体中における各多価カチオン塩の平均粒子径によらず、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力が得られることが確認された。特に、
図21に示されるように多価カチオン塩の平均粒子径が100μmである実施例10に係るリチウム二次電池では、多価カチオン塩の平均粒子径が大きいことによりサイクルごとのばらつきが若干見られるようになっていることから、電解質媒体中における多価カチオン塩の平均粒子径は1~100μmの範囲が好ましいことが確認された。
【0079】
[実施例13~15、比較例5]
実施例13~15、比較例5に係るリチウム二次電池として、以下の構成を備えるリチウム二次電池をそれぞれ作製した。即ち、実施例13~15、比較例5に係るリチウム二次電池は、上述の実施例1のリチウム二次電池に対して、電解質媒体中に添加する多価カチオン塩をAl2O3に変更するとともにその含有量を、実施例13では0.1質量%、実施例14では1.5質量%、実施例15では50質量%、比較例5では0.05質量%としたものである(ただし、実施例15については、後段で示す通りセパレータは用いず、電解質媒体が粒状固体である点も異なる)。また、作製した実施例13~15に係るリチウム二次電池について、以下の条件で充放電試験を行った。
【0080】
<構成(実施例13~14、比較例5)>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:ポリプロピレン不織布(空隙率78%)
電解質媒体:1.2MLiPF6/DMC+0.05~1.5質量%αAl2O3(平均粒子径20μm)
<充放電試験条件(実施例13~14)>
25℃、150mAhg-1-1C、100サイクル
【0081】
<構成(実施例15)>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:無し
電解質媒体(粒状固体):1.8MLiPF6/DMC+50質量%αAl2O3(平均粒子径20μm)
<充放電試験条件(実施例15)>
25℃、150mAhg-1-1/3C、100サイクル
【0082】
図24は、実施例13に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図25は、実施例14に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。また、
図26は、実施例15に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図24~
図26に示されるように、電解質媒体中における各多価カチオン塩の含有量によらず、いずれも高いサイクル維持率が得られたことから、短絡を抑制でき、高いエネルギー密度と高い出力が得られることが確認された。また、比較例5に係るリチウム二次電池では、電解質媒体中における各多価カチオン塩の含有量が0.05質量%と少ないため、嵩高いSEI被膜の形成が不完全であり、短絡することが確認された。従って、電解質媒体中における各多価カチオン塩の含有量が0.1質量%以上であれば、負極のリチウム金属が嵩高いSEI被膜で覆われるため、安定した充放電特性が得られることが確認された。ただし、実施例15に係るリチウム二次電池では、電解質媒体中における多価カチオン塩の含有量が非常に高いため、電解質媒体が含浸した粒状固体となり、レート特性が低下することが見て取れることから、電解質媒体中における多価カチオン塩の含有量は、0.1~50質量%が好ましく、0.1~1.5質量%がより好ましいことが確認された。
【0083】
[実施例16、比較例6]
実施例16、比較例6に係るリチウム二次電池として、以下の構成を備えるリチウム二次電池をそれぞれ作製した。即ち、実施例16に係るリチウム二次電池は、上述の実施例1のリチウム二次電池に対して、電解質媒体中に添加する多価カチオン塩MgOの含有量を0.1質量%に変更したものに相当する。また、比較例6に係るリチウム二次電池は、上述の比較例1に係るリチウム二次電池と同一の構成である。作製した実施例16、比較例6に係るリチウム二次電池について、以下の条件で充放電試験を行った。
【0084】
<構成(実施例16)>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:ポリプロピレン不織布(空隙率78%)
電解質媒体:1MLiPF6/DMC+1.5質量%MgO
<充放電試験条件>
25℃、150mAhg-1-2C、200サイクル
【0085】
<構成(比較例6)>
負極:リチウム金属
正極:コバルト酸リチウム
セパレータ:微孔シート状ポリピロピレン
電解質媒体:1MLiPF6/DMC+30質量%EC
<充放電試験条件>
25℃、150mAhg-1-2C、200サイクル
【0086】
図27は、実施例16に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図28は、比較例6に係るリチウム二次電池の充放電曲線を示す図である。
図27~
図28に示されるように、実施例16に係るリチウム二次電池ではハイレート(2C)の充放電にも対応可能であったのに対して、比較例6に係るリチウム二次電池ではハイレート(2C)の充放電ではサイクル劣化が確認された。この結果から、本発明によれば、ハイレート(2C)の充放電にも対応可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0087】
1,2,3,4 電解質媒体
10,20,30,40 リチウム二次電池
11,21,31,41 多価カチオン塩粒子
12,22,32,42 電解液層
13 電解液
43 電解質ゲル層
91 正極
92 負極
93 セパレータ
94 固体電解質
95 電解質ゲル