(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】排水用スリット形成装置
(51)【国際特許分類】
A01B 21/08 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
A01B21/08
(21)【出願番号】P 2020181262
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】500156346
【氏名又は名称】椛島 貞幸
(73)【特許権者】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100114731
【氏名又は名称】藤井 重男
(72)【発明者】
【氏名】椛島 貞幸
(72)【発明者】
【氏名】奥野 竜平
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】実開昭64-014253(JP,U)
【文献】特許第6159744(JP,B2)
【文献】特開2009-100659(JP,A)
【文献】特開2016-167983(JP,A)
【文献】特開2006-077477(JP,A)
【文献】実開昭49-009711(JP,U)
【文献】実公昭51-049287(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 3/00 - 25/00
A01B 27/00 - 31/00
A01B 35/00 - 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車の後方側に接続される排水用スリット形成装置であって、
上記後方側に接続用杆が設けられ、
上記接続用杆に、一端部の水平支持軸にスリット形成用円盤が軸支された支持杆の他端部が接続部を以って接続され、
上記支持杆の上記スリット形成用円盤は、土の上面に位置するように構成され、
上記スリット形成用円盤には、上記スリット形成用円盤より小径かつ幅広の深度調整用円盤が、上記スリット形成用円盤の両側面に上記スリット形成用円盤に同心に設けられ、上記深度調整用円盤より外径側の上記スリット形成用円盤によりスリットの深度が決定され、
上記支持杆は、上記水平支持軸とは反対側の上記他端部の基準点と上記水平支持軸の中心点までの基準線と、上記基準点を通る鉛直線との傾斜角度が、上記走行車の前方側に傾斜しているものである排水用スリット形成装置
であって、
上記支持杆の途中に、上記スリット形成用円盤を土の上面から内部に食い込ませるための錘を固定したものである排水用スリット形成装置。
【請求項2】
上記接続用杆に基端部が接続され、該基端部に水平方向の回転軸が設けられ、一端部の水平支持軸に畝面スリット形成用円盤が軸支された畝用支持杆の他端部が上記回転軸を以って上記基端部に回動可能に接続され、
上記畝用支持杆は上記回転軸より後方側に設けられることにより、上記畝面スリット形成用円盤が土の上面に位置するように、上記畝面スリット形成用円盤が上記スリット形成用円盤より高い位置となるように構成され、
上記畝面スリット形成用円盤を上記土の上記上面側に附勢する弾性部材が上記基端部と上記畝用支持杆との間に設けられ、
上記畝面スリット形成用円盤には、上記畝面スリット形成用円盤より小径かつ幅広の深度調整用円盤が、上記畝面スリット形成用円盤の両側面に上記畝面スリット形成用円盤に同心に設けられ、上記深度調整用円盤より外径側の上記畝面スリット形成用円盤によりスリットの深度が決定されるものである請求項1記載の排水用スリット形成装置。
【請求項3】
上記畝面スリット形成用円盤の外周縁には、刃部が一定間角度毎に設けられているものか、或いは、上記外周縁には上記刃部が設けられておらず上記外周縁は幅の狭い円状に形成されたものである請求項2に記載の排水用スリット形成装置。
【請求項4】
上記走行車の車輪は、畝を跨いで作業用通路に位置するように構成されている記載の排水スリット形成装置であって、
上記支持杆及び上記スリット形成用円盤により構成される排水用スリット形成部は、上記畝を跨いで一対の上記作業用通路に各々設けられているものである排水スリット形成装置により構成されてあり、
上記支持杆及び上記スリット形成用円盤により構成される上記排水用スリット形成部は、上記畝を跨いで一対の上記作業用通路の対応位置に位置するように、上記接続用杆に各々設けられ、
畝面スリット形成用円盤を有する畝面排水用スリット形成部は、上記畝に対応して位置するように、上記接続用杆に設けられているものである請求項1~3の何れか記載の排水スリット形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水田転換畑等の圃場において、排水用のスリットを形成するための排水用スリット形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場に給水或いは排水を円滑に行うために土を破砕する装置が知られている。例えば、特許文献1に示すように、トラクタの後にトラクタ進行方向に湾曲した掘削反転体を複数個設けた所謂サブソイラ作業機を用い、トラクタを圃場にて進行させ、上記掘削反転体にて作土層、硬化層等を破砕することにより、排水を円滑化して土の活性化を図ることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の装置は、播種前の耕耘作業時に作業するものであるため、一度サブソイラ装置にて土の破砕を行うと、播種後においては使用することができず、その後の降雨時の排水の円滑化には適用できないという課題があった。
【0005】
また、上記掘削反転体は、トラクタの進行方向側に湾曲しているため、土を破砕するには、牽引するトラクタに高い馬力が必要であるという課題もある。
【0006】
また、圃場内に暗渠パイプを通すという方法では、圃場(畝等)の施工時に暗渠を造る必要があるため、作物の栽培前(播種前)にしか施工ができず、播種後の圃場の乾燥、或いは、豪雨による浸水対策には対応できないという課題がある。
【0007】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、トラクタ等の走行車の後部に接続するだけで、低馬力の走行車であってもスリット形成が可能であり、圃場に一定深さのスリットを、播種後において、作物の生育中に複数回、形成することができ、これにより圃場における排水等を円滑化し得る排水用スリット形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため本発明は、
第1に、走行車の後方側に接続される排水用スリット形成装置であって、上記後方側に接続用杆が設けられ、上記接続用杆に、一端部の水平支持軸にスリット形成用円盤が軸支された支持杆の他端部が接続部を以って接続され、上記支持杆の上記スリット形成用円盤は、土の上面に位置するように構成され、上記スリット形成用円盤には、上記スリット形成用円盤より小径かつ幅広の深度調整用円盤が、上記スリット形成用円盤の両側面に上記スリット形成用円盤に同心に設けられ、上記深度調整用円盤より外径側の上記スリット形成用円盤によりスリットの深度が決定され、上記支持杆は、上記水平支持軸とは反対側の上記他端部の上記接続部の基準点と上記水平支持軸の中心点までの基準線と、上記基準点を通る鉛直線との傾斜角度が、上記走行車の前方側に傾斜しているものである排水用スリット形成装置であって、上記支持杆の途中に、上記スリット形成用円盤を土の上面から内部に食い込ませるための錘を固定したものである排水用スリット形成装置により構成される。
【0009】
走行車は例えば乗用管理機、トラクタ(1)その他の走行車両とすることができる。接続用杆は例えば接続用横杆(7)とすることができる。接続部は例えば接続用横杆(7)に挿通された方形枠(8)と、方形枠(8)の底面(8c)に溶接された支持杆(9)の他端部により構成することができる。土の上面は、例えば畝の両側に形成される作業用通路(10a,10a’)の上面(10c,10c’)とすることができる。このように構成すると、上記支持杆は、上記水平支持軸とは反対側の上記他端部の接続部の基準点と上記水平支持軸の中心点までの基準線と、上記基準点を通る鉛直線との傾斜角度が、上記走行車の前方側に傾斜しているので、スリット形成用円盤は、当初より深度調整用円盤により決定される所定の深度(T)、作業用通路の土の上面に入り込み(或いは食い込み)、走行車を進行していく過程において、スリット形成用円盤は、走行車の進行に追従して、上記深度を維持したまま回転するため、常に、土中に所定の深度入り込んだ状態を維持することができ、スリット形成用円盤が土の上面から上に浮き上がることはない。これにより、一定の深度のスリットを、直線的に形成することができる。上記土の上面は例えば畝の両側に形成される作業用通路(10a,10a’)の上面(10c,10c’)とすることができる。このように構成すると、上記錘の重量が、鉛直線より前方側に傾斜している支持杆に作用するので、スリット形成用円盤に下向きの重量として作用させることができ、スリット形成用円盤の浮き上がりを抑制することができる。
【0013】
複管構造とは、例えば、支持杆を、被挿入管(9a)と挿入管(9b)とにより構成することをいう。支持杆の長さを調整可能とは、被挿入管(9a)に挿入管(9b)を挿入し、被挿入管(9a)と挿入管(9b)に各々調整用孔(11,15)を設け、長さ調整後に所定の両調整用孔(11,15)にボルト(B)を挿入してボルト(B)の端部にナット(N)を螺合することにより、被挿入管(9a)と挿入管(9b)の位置を固定することをいう。このように構成すると、支持杆の長さを調整することにより、スリット形成用円盤の高さを最適位置に調整することができ、所定深さのスリットを形成することができる。
【0015】
上記刃部は、例えば円弧部(20a)と段部(20b)により形成される刃部(20)とすることができる。このように構成すると、刃部により、スリット形成用円盤を、土中に鋭く食い込ませることができ、或いは、幅の狭い円状に形成されているから、土中に鋭く食い込ませることができ、より円滑にスリットを形成することができる。
【0019】
このように構成すると、上記排水用スリット形成部を、接続用杆の両側に各々設け、上記畝を跨いだ2本の作業用通路の各々に設けることができ、1回の作業により2本のスリットを同時に形成することができる。
【0020】
第2に、上記接続用杆に基端部が接続され、該基端部に水平方向の回転軸が設けられ、一端部の水平支持軸に畝面スリット形成用円盤が軸支された畝用支持杆の他端部が上記回転軸を以って上記基端部に回動可能に接続され、上記畝用支持杆は上記回転軸より後方側に設けられることにより、上記畝面スリット形成用円盤が土の上面に位置するように、上記畝面スリット形成用円盤が上記スリット形成用円盤より高い位置となるように構成され、上記畝面スリット形成用円盤を上記土の上記上面側に附勢する弾性部材が上記基端部と上記畝用支持杆との間に設けられ、上記畝面スリット形成用円盤には、上記畝面スリット形成用円盤より小径かつ幅広の深度調整用円盤が、上記畝面スリット形成用円盤の両側面に上記畝面スリット形成用円盤に同心に設けられ、上記深度調整用円盤より外径側の上記畝面スリット形成用円盤によりスリットの深度が決定されるものである第1記載の排水用スリット形成装置により構成される。
【0021】
上記畝用支持杆は、例えば、後方突出アーム(28)、短横杆(31)、支持平板(32a,32a’)、及びL型アングル(33,33’)等により構成されたものをいい、一端部の水平支持軸に畝用スリット形成用円盤が軸支され、他端部が回転軸を持って上記基端部に回動可能に接続されたものという。上記弾性部材は例えば、上記基端部と上記畝用支持杆(例えば後方突出アーム)との間に設けられたスプリング軸(25)と、上記畝面スリット形成用円盤を、上記土の上面に附勢する方向の附勢力を有する該スプリング軸(25)に設けられた第1スプリング(39a)及び第2スプリング(39b)により構成することができる。このように構成すると、畝面スリット形成用円盤は、常時、土の上面に附勢されて深度調整用円盤により決定される深度だけ土の中に入り込んだ状態となるし、仮に、土の上面に高低差があっても、上記弾性部材の附勢力により、回転軸を中心として後方突出アームが上下動することにより追従し得るので、常時一定の深度のスリットを形成することができる。
【0022】
第3に、上記畝面スリット形成用円盤の外周縁には、刃部が一定間角度毎に設けられているものか、或いは、上記外周縁には上記刃部が設けられておらず上記外周縁は幅の狭い円状に形成されたものである第3に記載の排水用スリット形成装置により構成される。
【0023】
上記刃部は、例えば円弧部(36a)と段部(36b)により形成される刃部(36)とすることができる。このように構成すると、刃部により、畝面スリット形成用円盤を、土中に鋭く食い込ませることができ、或いは、幅の狭い円状に形成されているから、土中に鋭く食い込ませることができ、より円滑にスリットを形成することができる。
【0024】
第4に、上記走行車の車輪は、畝を跨いで作業用通路に位置するように構成されている記載の排水スリット形成装置であって、上記支持杆及び上記スリット形成用円盤により構成される排水用スリット形成部は、上記畝を跨いで一対の上記作業用通路に各々設けられているものである排水スリット形成装置により構成されてあり、上記支持杆及び上記スリット形成用円盤により構成される上記排水用スリット形成部は、上記畝を跨いで一対の上記作業用通路の対応位置に位置するように、上記接続用杆に各々設けられ、畝面スリット形成用円盤を有する畝面排水用スリット形成部は、上記畝に対応して位置するように、上記接続用杆に設けられているものである第1~3の何れかの記載の排水スリット形成装置により構成される。
【0025】
このように構成すると、走行車の車輪は作業用通路に位置しているから、走行車の底面と畝とはある程度の距離(I)が生じるので、畝に植え付けた作物等がある程度成長してからも、排水用スリット形成装置により、例えば作業用通路の土の上面にスリットを形成することができ、例えば播種直後、第1回土入れ時期、第2回土入れ時期等の複数回にわたりスリット形成を行うことができる。このように構成すると、畝の上面には、1本のスリット、畝を跨いだ両側の作業用通路に各々1本のスリットを形成することができ、3本のスロットを効率的に形成することができる。
【0027】
このように構成すると、深度調整用円盤の表面に土、泥等が付着しようとすると、円筒状弾性チューブの厚みの弾性反発力により、土、泥等が弾き飛ばされるので、スリット形成作業中、深度調整用円盤に土、泥等が付着することを防止することができ、円滑にスリット形成作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は上述のように、上記支持杆は、上記水平支持軸とは反対側の上記他端部の基準点と上記水平支持軸の中心点までの基準線と、上記基準点を通る鉛直線との傾斜角度が、前方側に傾斜しているので、スリット形成用円盤は、当初より深度調整用円盤により決定される所定の深度、土の中に入り込み(或いは食い込み)、走行車を進行していく過程において、スリット形成用円盤は、走行車の進行に追従して、土への深度を維持したまま回転するため、常に、所定の深度入り込んだ状態を維持することができ、スリット形成用円盤が上面から上に浮き上がることはない。これにより、一定の深度のスリットを、直線的に形成することができる。
【0029】
また、スリットを形成した後、圃場が乾燥するとスリットに沿って亀裂が複数形成され、上記スリット及び亀裂によって圃場の排水を促進させることができる。
【0030】
また、スリットの形成は、作物の播種後において、複数回行うことができるため、適宜、圃場の乾燥具合、降雨量に応じて、必要に応じてスリットの形成を行うことができ、これにより作物の生育を促進させることができる。
【0031】
さらに、スリット形成用円盤は、走行車の進行に応じて回転(自転)するだけであるため、走行車に高い馬力は必要なく、通常のものを使用することができる。
【0032】
また、錘の重量が、鉛直線より前方側に傾斜している支持杆に作用するので、スリット形成用円盤に下向きの重量として作用させることができ、スリット形成用円盤の浮き上がりを抑制することができる。
【0033】
また、支持杆の長さを調整することにより、スリット形成用円盤の高さを最適位置に調整することができ、土の上面に対応して所定深さのスリットを形成することができる。
【0034】
また、スリット形成用円盤は、刃部により、スリット形成用円盤を、土中に鋭く食い込ませることができ、或いは、幅の狭い円状に形成されているから、土中に鋭く食い込ませることができ、より円滑にスリットを形成することができる。
【0035】
また、畝に植え付けた作物等がある程度成長してからも、排水用スリット形成装置により、スリットを形成することができ、例えば播種直後、第1回土入れ時期、第2回土入れ時期等の複数回にわたりスリット形成を行うことができる。
【0036】
また、上記排水用スリット形成部を、接続用杆の両側に各々設け、上記畝を跨いだ2本の作業用通路の各々に設けることができ、1回の作業により2本のスリットを同時に形成することができる。
【0037】
また、畝面スリット形成用円盤は、常時、畝等の土の上面側に附勢されて深度調整用円盤により決定される深度だけ土中に入り込んだ状態となるし、仮に、畝等の上面に高低差があっても、上記弾性部材の附勢力により、回動軸を中心として畝用支持杆が上下動することにより追従し得るので、常時一定の深度のスリットを形成することができる。
【0038】
また、畝面スリット形成用円盤の刃部により、スリット形成用円盤を、土中に鋭く食い込ませることができ、或いは、幅の狭い円状に形成されているから、土中に鋭く食い込ませることができ、より円滑にスリットを形成することができる。
【0039】
また、畝の上面には、1本のスリット、畝を跨いだ両側の作業用通路に各々1本のスリットを形成することができ、3本のスリットを効率的に形成することができる。
【0040】
また、深度調整用円盤の表面に土、泥等が付着しようとすると、円筒状弾性チューブの厚みの弾性反発力により、土、泥等が弾き飛ばされるので、スリット形成作業中、深度調整用円盤に土、泥等が付着することを防止することができ、円滑にスリット形成作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明に係る排水用スリット形成装置を管理機の後部に接続した状態を示す側面図である。
【
図2】同上排水用スリット形成装置の拡大正面図である。
【
図3】同上排水用スリット形成装置の側面図である。
【
図4】同上排水用スリット形成装置の正面図である。
【
図5】同上排水用スリット形成装置の側面図である。
【
図6】同上排水用スリット形成装置の正面図である。
【
図7】同上排水用スリット形成装置で形成した溝を示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図を示す。
【
図8】(a)は同上排水用スリット形成装置におけるスリット形成用円盤の側面図、(b)は同上スリット形成用円盤の正面図である。
【
図9】同上は非水用スリット形成装置のスリット形成用円盤の一部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(第1の実施形態)
以下、本発明に係る排水用スリット形成装置について詳細に説明する。
【0043】
図1に示すように、走行車としての乗用管理機又はトラクタ1(その他の走行車両であっても良い)の後部に排水用スリット形成装置2が接続されている。尚、
図1において、トラクタ1の進行方向を「前」、「前方」、進行方向とは逆方向を「後」、「後方」という。また、後方から前方を向いた場合の、左右を「左方向」、又は、「右方向」、又は「横方向」という。また、本発明は例えば水田転換畑等の圃場への適用を考えているため、稲以外の作物、麦、野菜等の圃場に適用可能である。
【0044】
上記トラクタ1の後部(後方側)には、前後方向の水平杆3が設けられ、水平杆3に横方向の丸横杆4が固定され、該丸横杆4に矢印A方向、又は、矢印H方向に回動可能に支持部5が挿通され、当該支持部5から後方に水平板6が設けられ、該水平板6に、接続用横杆7が固定されている(
図2参照)。
【0045】
よって、上記接続用横杆7は、上記排水用スリット形成装置2共々、上記丸横棒4を中心に、上記矢印A方向、又は、矢印H方向に回動可能となっている。尚、40は支持部5から丸横棒4に挿入可能なロックピンであり、
図1に示すようにロックピン40の挿入状態では、接続用横杆7、延いては排水用スリット形成装置2の上記矢印A方向又は矢印H方向の回動は停止される。
【0046】
上記接続用横杆7には、両側から、方形枠8,8が挿通されており、上板8a,8aをボルトB及びナットNにて方形枠8,8のフランジ8b,8bに締結することで、上記方形枠8,8の上記接続用横杆7の位置を固定することができる。尚、上記方形枠8,8の固定する位置は、後述のスリット形成用円盤14が、畝10の左右の高さの低い作業用通路10a,10a’の略中央部に対応する位置である(
図2参照)。
【0047】
ここで、
図2に示すように、以下に説明する排水用スリット形成部42,42(支持杆9、スリット形成用円盤14を具備する)は、1本の接続用横杆7の左右に接続されているが、左右対称形状なので、
図2中左側の排水用スリット形成部42について説明し、右側の排水用スリット形成部42についての説明は便宜上省略する。
【0048】
上記方形枠8の底面8cに支持杆9の他端部が下方向けて接続されている。この支持杆9は、上方の被挿入管9aと、上記被挿入管9aに挿入される挿入管9bとからなる複管構造から構成されている。
【0049】
また、上記支持杆9は、上記方形枠8の底面8cから前方に向けて傾斜した角度を有している。より具体的には、
図3に示すように、支持杆9は、上記方形枠8の中心Pを通る鉛直線L1に対して、支持杆9の他端部の基準点Q(鉛直線L1と底面8cとの接触点、よって鉛直線L1は基準点Qを通る)から、一端部のスリット形成用円盤14の水平支持軸13の中心点Rを通る基準線L2は、トラクタ1の前方側に傾斜角度θ(例えば角度2度~10度の範囲、例えば4度)だけ傾斜するように構成されている。
【0050】
上記支持杆9は、上方の被挿入管9aと、該被挿入管9aに挿入される挿入管9bとから構成されている。上記被挿入管9aは、断面は正方形であり、内部に挿入管9bを挿入するための横断面正方形の空間S1が形成されている(
図3参照)。この被挿入管9aは、その上端部(他端部)が上記方形枠8の底面8cに溶接により固定されているが、上述のように、上記基準線L2が鉛直線L1より前方に傾斜角度θだけ傾斜するように固定されている。
【0051】
また、被挿入管9aの後方側の面には、挿入管9bの長さを調整するための調整用孔11が縦方向に7か所後面に貫通形成されている(
図2、
図4参照)。さらに、上記調整用孔11の下から2番目の調整用孔11に対応する前面に貫通孔11aが形成されている(
図3参照)。
【0052】
一方、挿入管9bは、上記空間S1内に挿入可能な、横断面正方形の角パイプであり、下端に、二股部12a,12bを有する支持部9cが一体的に形成されており、上記二股部12a,12bの各下端(支持杆9の一端部)に、スリット形成用円盤14の水平支持軸13が左右方向に水平に固定されている。また、上記挿入管9bの前後面には、上記調整用孔11の対応位置に、調整用孔15(7か所)が前後方向に貫通形成されている(
図4参照)。
【0053】
よって、上記挿入管9bを上記被挿入管9a内に下方から挿入し、高さを調整し、上記被挿入管9aの後面における下から2番目の調整用孔11からボルトBを挿入し、当該ボルトBを対応する挿入管9bの調整用孔15の何れかに挿入し、上記被挿入管9aの前面の貫通孔11aからボルトBの端部を突出し、上記端部にナットNを螺子込むことにより(
図3参照)、上記挿入管9bを所定の高さ(長さ)に設置することができる。
【0054】
上記挿入管9bの上記支持部9cには、上記水平支持軸13の中央部に、スリット形成用円盤14がその中心点Rを以って固定されている。このスリット形成用円盤14は、金属製であって、その厚さは数ミリ(例えば2mm~3mm)であり、上記水平支持軸13を中心に矢印C方向に回転自在に設けられている。そして、このスリット形成用円盤14は、上記トラクタ1の走行により、矢印C方向に回転(自転)し、上記畝10の土による作業用通路10a,10a’内に容易に入り込んで(食い込んで)、幅数ミリ(例えば2mm~3mm)のスリット(溝)16を形成し得るように構成されている。
【0055】
上記スリット形成用円盤14は、上記支持部9cの二股部12a,12bの上内側面12cに接しない程度の直径を有しており、その下半部は、上記二股部12a,12bの下端より、下方に露出し、畝10の作業用通路10a,10a’に挿入され、上記スリット16を形成し得るように構成されている。
【0056】
また、上記スリット形成用円盤14の外周には、円弧部20aと段部20bからなる刃部20が複数形成されており、矢印C方向の回転により、上記刃部20が土に入り込んで(食い込んで)、円滑にスリット16を形成することができるように構成されている。また、スリット形成用円盤14は、上記刃部20を形成することなく、外周縁は幅の狭い円状に形成しても良い(
図8参照)。このように構成しても、スリット形成用円盤14の厚は薄いので、土に容易に食い込むことができる。
【0057】
さらに、上記スリット形成用円盤14の両側面14a,14bには(
図4参照)、上記水平支持軸13を中心として、深度調整用円盤17a,17bが、上記スリット形成用円盤14に同心に固定されている。従って、この深度調整用円盤17a,17bは上記スリット形成用円盤14と一体として水平支持軸13を中心に自在に回転し得るように構成されている。尚、深度調整用円盤17a,17bは水平支持軸13に同心に設けても良いし、スリット形成用円盤14に同心に設けても良い。
【0058】
この深度調整用円盤17a,17bは、上記スリット形成用円盤14の両側面14a,14bから上記二股部12a,12bの内側に近接する幅広の幅tを有しており、その直径は、上記スリット形成用円盤14の直径の約1/2或いは1/2以下であり、上記深度調整用円盤17a,17bの幅広の外周面17a’,17b’が上記作業用通路10a,10a’の上面10c,10c’に接することにより(
図2参照)、スリット形成用円盤14が作業用通路10a,10a’に形成するスリット16の深さTを決定するものである。即ち、上記深度調整用円盤17a,17bより外径側の上記スリット形成用円盤14によりスリット16の深度Tが決定される。
【0059】
18は、上記被挿入管9aの前面側に設けられた錘であり、直方体形状の鉄製の立方体から構成され、後面側に取付用板18aが一体的に構成されている。この錘18は、上記被挿入管9aの上記前面に溶接により固定された長方形の取付板19の一面に、上記取り付用板18aを接合し、4か所をボルトB及びナットNにて固定することで、上記被挿入管9aの前面に固定されている。
【0060】
この錘18の作用は、排水用スリット形成装置1(排水用スリット形成部42)自体の重量を増加させることにより、上記排水用スリット形成用円盤14を上記作業用通路10a,10a’に載置したとき、上記排水用スリット形成用円盤14が上記作業用通路10aに容易に入り込ませる(食い込ませる)ことを可能とするためである。
【0061】
上述のように、排水用スリット形成部42,42は、
図2に示すように、接続用横杆7の両端部に、各々方形枠8,8を以って固定されており、各々のスリット形成用円盤14,14が畝10を跨いだ畝10より低い作業用通路10a,10a’に位置して、当該作業用通路10a,10a’の略中央部に、2本のスリット16,16を形成し得るように構成されている。
【0062】
次に、畝面排水用スリット形成部21について説明する(
図5、
図6参照)。
この畝面排水用スリット形成部21については、上記接続用横杆7の中央部に、前面開口の方形部23aと前面板23bとからなる方形枠23を接続用横杆7に挿通嵌合し(
図5参照)、該挿通嵌合状態で、上記方形部23aの前面開口を前面板23bで閉鎖し、上記前面板23bの上下部と上記方形枠23のフランジをボルトB及びナットNにて締結することにより、当該方形枠23が上記接続用杆7の中央部に固定されている。
【0063】
そして、この方形枠23の後面には、側面視T字型の基端部24が溶接により固定されており、その水平後端部にはスプリング軸25の中間部を挿通する球形の中間支持部26が設けられ、上記垂直下端部には回動軸27が形成されている。そして、上記回動軸27には後方側突出アーム28の前端28bが回動自在に軸支されており、その後端部近傍には、支持部29上部に左右に開口29aが形成されており(
図6参照)、上記開口29a,29aには、上記スプリング軸25の下端の左右横軸37が回動自在に嵌合している。
【0064】
上記後方側突出アーム28の後端部28aは、斜め後方(下方)に折曲されており、後端部28aに、基板30aが溶接固定され、該基板30aに上面開口の方形枠30bが接合され、上記方形枠30bの上面開口のフランジを上記基板30aにて閉鎖し、ボルトB及びナットNにて上記基板30aと上記方形枠30bのフランジを締結可能とすることにより、横断面正方形の左右方向空間S2を形成している。そして、上記空間S2に左右方向の短横杆(角ロッド)31が挿通され、上記ボルトB及びナットNを締結することで、上記空間S2内に上記短横杆31が挿通固定されている。
【0065】
この短横杆31は、左右方向に同じ長さだけ突出しており、左右の端部の両前面には、2枚の支持平板32a,32a’がその板面後面を以って溶接固定されており、その両下面(後面)には、断面L字形のL型アングル33,33’の上記支持平面32a,32a’に平行な、平行面33a,33a’が各2本のボルトB及びナットNにより、上記支持平板32a,32a’の上記下面(後面)に固定されている(
図5、
図6参照)。
【0066】
上記L型アングル33,33’は、上記平行面33a,33a’に直交する直立面33b,33b’が対向するように設けられており、当該対向する直立面33b,33b’間に水平支持軸34が設けられ、該水平支持軸34の中央部に回転自在の畝面スリット形成用円盤35が設けられている。尚、符号34a,34aは水平支持軸34の抜け止めキャップである。
【0067】
ここで、例えば、上記後方突出アーム(28)、上記短横杆(31)、上記支持平板(32a,32a’)、及び上記L型アングル(33,33’)等により畝用支持杆が構成されており、畝用支持杆の一端部の水平支持軸34に畝面スリット形成用円盤35が軸支され、上記畝用支持杆の他端部は、上記回転軸27を持って上記基端部24に回動可能に接続されている。
【0068】
また、上記畝面スリット形成用円盤35の両面には、該畝面スリット形成用円盤35に同心に、深度調整用円盤17a,17bが設けられている。この深度調整用円盤17a,17bは、上記スリット形成用円盤35の両面35a,35bから上記直立面33b,33b’の内側に近接する幅広の幅tを有しており、その直径は、上記スリット形成用円盤35の直径の約1/2或いは1/2以下であり、上記深度調整用円盤17a,17bの幅広の外周面17a’,17b’が上記畝10の上面10bに接することにより、畝面スリット形成用円盤35が畝10の上面10bに形成するスリット16の深さTを決定するものである。即ち、上記深度調整用円盤17a,17bより外径側の上記畝面スリット形成用円盤35によりスリット16の深度Tが決定される。尚、深度調整用円盤17a,17bは水平支持軸34に同心に設けても良いし、畝面スリット形成用円盤35に同心に設けても良い。
【0069】
上記畝面スリット形成用円盤35の外周には、円弧部36aと段部36bとからなる刃部36が複数形成されており、矢印C方向の回転により、上記刃部36が土にめり込んで溝16を形成することができるように構成されている。また、畝面スリット形成用円盤35は、上記刃部36を形成することなく、外周縁は幅の狭い円状に形成しても良い(
図8参照)。このように構成しても、畝面スリット形成用円盤35の厚は薄いので、土に容易に食い込むことができる。
【0070】
上記スプリング軸25は、上述のように、下端の左右横軸37が上記開口29a,29aに回動自在に挿通されると共に、上記中間支持部26に挿通されており、上記中間支持部26より下部の抜止ピン38aと、上記下近傍の抜止ピン38a’との間に第1スプリング39a、上記中間支持部26より上部の抜止ピン38bと、上近傍の抜止ピン38b’との間に第2スプリング39bが各々挿通されている(
図5参照)。よって、上記後方側突出アーム28が上記回転軸27を支点として矢印D方向に回動したときは、上記第1スプリング39aが圧縮、第2スプリング39bは伸長し、上記後方側突出アーム28に矢印E方向(斜め下方)の弾性復帰力を作用させるように構成されている。また、上記後方側突出アーム28が上記回転軸27を支点として矢印E方向に回動したときは、上記第1スプリング39aが伸長、第2スプリング39bは圧縮し、上記後方側突出アーム28に矢印D方向(斜め下方)の弾性復帰力を作用させるように構成されている。
【0071】
このように、中央の畝面排水用スリット形成部21は、作業用通路10a,10a’に比較して、畝10の面が高く、その高さが一定でないので、スリット形成用円盤35の上下動に対して、スプリングによる附勢力(畝面排水用スリット形成用円盤35を畝10の上面10bに附勢する方向の附勢力)を作用させることで、高さの違いをある吸収できるように構成されている。
【0072】
本発明の排水用スリット形成装置2は上述のように構成されているので、次に、同装置を用いて、畝10及び作業用通路10a,10a’にスリット16を形成する動作を説明する。
【0073】
本発明に係る排水用スリット形成装置2は、
図1に示すように、トラクタ1の後部の水平杆3に接続された丸横棒4に矢印A又はH方向に回動可能に取り付けられている。尚、動作中は、ロックピン40によって、上記支持部5の丸横棒4に対する回動は、阻止されている。
【0074】
また、畝10は
図7(b)に示すような断面形状であり、高い面の畝10と、該畝10の両側に低い面である作業用通路10a,10a’が直線的に形成されており、上記畝10の面の位置G,Gに例えば麦の種を直線的に播種するものとする。
【0075】
尚、トラクタ1は、前輪の左右タイヤ41、後輪の左右タイヤ41’を有しているが、これらのタイヤ41,41’は、各々、上記作業用通路10a,10a’に位置しており、走行することにより、畝10の面の植物を踏みつけない構成となっている。
【0076】
麦の播種の終了後(例えば11月頃)、上記後部に上記排水用スリット形成装置2を接続された上記トラクタ1を、前輪の左右タイヤ41,41と、後輪の左右タイヤ41’,41’が各々作業用通路10a,10a’に位置するように、即ち、畝10を跨ぐように、乗り入れる。このとき、支持部5のロックピン40を外して、排水用スリット形成装置2を矢印A方向に回動し、各スリット形成用円盤14,35は畝10及び作業用通路10a,10a’に接地していないものとする。
【0077】
挿入管9bの長さは、接続用横杆7の下面と畝10の作業用通路10a,10a’との距離K2によって決定すれば良い(
図2参照)。上記挿入管9bを上記被挿入管9aに挿入し、
図2に示すように、例えば、挿入管9bの下から2番目の調整用孔15と、被挿入管9aの下から2番目の調整用孔11とを合わせ、上記調整用孔11からボルトBを挿入し、ボルトBの端部を、被挿入管9aの前面側の調整用孔11a(
図3参照)から外部に突出し、上記突出したボルトBにナットNを螺合することにより、上記挿入管9bを当該位置に固定する。
【0078】
また、畝面排水用スリット形成部21は、接続用横杆7の下面と畝10の上面10bとの距離K1によって決定すれば良い(
図2参照)。具体的には、第1スプリング39a、第2スプリング39bの附勢力により、回転軸27に対して、上記後方突出アーム28が
図2、
図5のように位置するように設定する。
【0079】
その後、上記トラクタ1の進行方向側に、畝10が直線的に位置する方向で、当該管理機1を畝10の端に停止させ、支持部5のロックピン40を外して、排水用スリット形成装置2を矢印H方向に回動し、各スリット形成用円盤14,14を作業用通路10a,10a’に接地させること共に、中央の畝面スリット形成用円盤35を畝10の面に接地させる。
【0080】
このとき、上記スリット形成用円盤14,35の下面が、各々作業用通路10a,10a’の上面10c,10c’、畝10の上面10bに接触すると共に、深度調整用円盤17a,17bの外周面17a’,17b’が各々作業用通路10a,10a’の上面10c,10c’、及び、畝10の上面10bに接するまで矢印H方向に回動させ、上記各スリット形成用円盤14,35の下面が、上記上面10c,10c’及び上記上面10bに深さTまで入り込んだ状態とし(
図2参照)、上記支持部5のロックピン40を再び挿入して、排水用スリット形成装置2を
図1の位置にロックする。
【0081】
このとき、作業用通路10a,10a’に対応する排水用スリット形成部42,42は、
図3に示すように、各支持杆9は、鉛直線L1に対して前方に角度θだけ傾斜した状態で、スリット形成用円盤14,14が作業用通路10a,10a’の上面10c,10c’に深さTだけ入り込んだ状態となっており、中央の畝面排水用スリット形成部21は、
図5に示すように、後方突出アーム28が下斜め後方に傾斜した状態で、畝面スリット形成用円盤35が畝10の上面10bに深さTだけ入り込んだ状態となっている。
【0082】
その後、トラクタ1を畝10に沿って前方に進行させれば良い。
トラクタ1が前方に進行すると、作業用通路10a,10aのスリット形成用円盤14,14は、トラクタ1の前進に従って、矢印C方向に回転(自転)し、作業用通路10a,10a’に深さTのスリット16,16を直線的に形成して行くことができる(
図7参照)。
【0083】
このとき、上記支持杆9は、鉛直線L1に対して方形枠8の底面8cの基準点Qを中心として前方に角度θ傾斜しているので(中心線L2参照)、スリット形成用円盤14,14が上面10c,10c’から上方に浮き上がることがなく、スリット形成用円盤14,14は、深さTを維持した状態で回転することができ、作業用通路10a,10a’の上面10c,10c’に一定の深さTの溝(スリット)16を直線的に形成していくことができる(
図7(a)(b)参照)。
【0084】
また、各々の被挿入管9a,9aの前方面に錘18,18が固定されおり、この錘18,18の重量は、前方に傾斜した挿入管9b,9bの前面側に、鉛直方向の重量(
図3の矢印F方向)として作用することになるので、この錘18,18の重量は、上記スリット形成用円盤14,14の中心部近傍に常時作用することになり、上記スリット形成用円盤14,14の上面10c,10c’からの浮き上がりを防止している。
【0085】
上述のような作用により、上記排水用スリット形成部42,42において、作業用通路10a,10a’に、直線的なスリット16,16を形成していくことができる(
図7(a)参照)。
【0086】
一方、畝面排水用スリット形成部21においては、上記第1、第2スプリング39a,39bの伸長方向の附勢力により、回転軸27を支点として、後方突出アーム28が矢印E方向に強く附勢されており、その結果、畝面スリット形成用円盤35は畝10の上面10bに強く接触し、その結果、スリット形成用円盤35は深調調整用円盤17a,17bの外周面17a’,17b’を上記上面10bに強く圧接して、上記上面10bにスリット形成用円盤35が深さTだけ入り込んだ状態となっている(
図5参照)。
【0087】
但し、上記畝10には高低差が存在する場合があり、上記畝面スリット形成用円盤35の上記上面10bへの接地状態において、後方突出アーム28は、畝10の上面10bが通常の面より高くなっている場合は、第1スプリング39aは圧縮(第2スプリング39bは伸長)方向(矢印D方向)に移動し、畝10の上面10bが通常の面より低くなっている場合は、第1スプリング39aは伸長(第2スプリング39bは圧縮)方向(矢印E方向)に移動し、よって上記後方突出アーム28は、回転軸27を中心とする中立位置から上方にも下方にも回動することになる(
図5参照)。
【0088】
トラクタ1が前方に進行すると、上記畝面スリット形成用円盤35は、上記第1第2スプリング39a,39bの附勢力により、矢印E方向に強く附勢されているので、畝10の上面10bの畝面スリット形成用円盤35は、トラクタ1の前進に従って、矢印C方向に回転(自転)し、上記上面10bに深さTのスリット16を直線的に形成して行くことができる(
図5参照)。
【0089】
このとき、仮に、畝10の上面10bに高低が存在し、畝面スリット形成用円盤35が上方(矢印D方向)に上昇したとしても、上記第1スプリング39a、及び、上記第2スプリング39bの附勢力(矢印E方向)が作用するので、常時スリット形成用円盤35は上記上面10b側に附勢されており、スリット16の深さTが変化することはない。
【0090】
また、畝面スリット形成用円盤35が下方(矢印E方向)に移行したとしても、上記第1スプリング39a、及び、上記第2スプリング39bの附勢力(矢印D方向)が作用するので、常時スリット形成用円盤35は上記上面10b側に附勢されており、スリット16の深さTが変化することはない。
【0091】
上述のような作用により、上記畝面排水用スリット形成部21において、畝10の上面10bに、直線的なスリット16を形成していくことができる(
図7(a)参照)。
【0092】
以上のように、本発明に係る排水用スリット形成装置によると、畝10の上面10bと、畝10の両側の作業用通路10a,10a’に、略一定深度Tの3本のスリット16を直線的に一度に形成することができる。
【0093】
上記畝10と作業用通路10a,10a’にスリット16が形成され、圃場が乾燥してくると、
図7(a)に示すように、スリット16から枝分かれ状に亀裂43が多数形成され、これにより排水が促進される。例えば、圃場が乾燥した後に多雨があったとしても、スリット16及び亀裂43が複数存在しているので、雨水は土中に容易に浸透し、排水され、これにより圃場表面の帯水率を向上させることができる。
【0094】
また、圃場はその後のトラクタ1の走行等によって、スリット16及び亀裂43は癒着してそれらの効果が減少するが、スリット16及び亀裂43が癒着して効果が減少した場合は、再度、本発明に係る排水用スリット形成装置2を装着したトラクタ1を以って圃場を走行させ、再度スリット16を形成することができる。このように、何度でもスリット16を形成することにより、亀裂43の発生を促して圃場の排水性を高めることができる。
【0095】
また、上記実施形態では、畝10と作業用通路10a,10a’にスリット16を形成することを説明したが、畝を有しない圃場においても使用することができるのは勿論である。この場合、排水用スリット形成部42のみを接続用杆7に複数設けることが考えられる。
【0096】
(第2の実施形態)
例えば、トラクタ1の後方に、本発明に係る上記排水用スリット形成装置2と共に、追肥用のホッパ及び追肥用の肥料のロール繰出機を設け、追肥作業とスリット形成作業とを同時に行うことも可能である。
【0097】
さらに、トラクタ1の後方に、本発明に係る排水用スリット形成装置2と共に、麦踏用の鎮圧ローラを設け、麦踏作業とスリット形成作業とを同時に行うことも可能である。
【0098】
このように本発明に係る排水用スリット形成装置2は、播種後だけではなく、追肥時、麦踏み時に合わせて可能であるため、播種から収穫時の間において、複数回、スリット16を形成することが可能となり、圃場における排水管理を非常に効果的に行うことが可能となる。
【0099】
(第3の実施形態)
次に、本発明に係る排水用スリット形成装置2の第3の実施形態について説明する。
この第3の実施形態では、
図8(a)(b)に示すように、上記深度調整用円盤17a,17bの周りに、泥付着防止用の円筒状弾性チューブ44a,44bを被覆したものである(特許第6159744号参照)。
【0100】
この円筒状弾性チューブ44a,44bは、クロロブレンゴム等のゴムからなる一定厚(数mm~5mm)の弾性シートを上記深度調整用円盤17a,17bの直径より小の直径にて円筒状に形成したものであり、各々の円筒状弾性チューブ44a,44bを上記深度調整用円盤17a,17bの外表面に、弾性的に伸ばした状態で装着する。また、上記円筒状弾性チューブ44a,44bは、例えば外面側に薄布(厚みは0.5mm~1mm程度のジャージ編の生地)が一体的に接着されたものであり、例えば潜水用のウェットスーツの素材として使用されている既製品)を使用することができる。尚、薄布は、円筒状弾性チューブ44a,44bの内側に設けても、外側に設けても良い。
【0101】
この弾性シートは、厚み方向に圧力が加わると、それに反する方向に反発力を有するものであり、ゴム素材のものは、例えば硬度10度~30度(JISK6253)程度の比較的軟質のものが選択される。
【0102】
上記円筒状弾性チューブ44a,44bは、その直径が深度調整用円盤17a,17bより小なので、それらの直径を弾性的に伸ばして上記深度調整用円盤17a,17bの外表面に装着する。この装着状態では、円筒状弾性チューブ44a,44bはそれらの直径が弾性的に縮小しようとするため、上記深度調整用円盤17a,17bの外表面に密着した状態で、隙間なく装着された状態となる。
【0103】
そして、上記円筒状弾性チューブ44aには、深度調整用円盤17aの外周縁に近い位置R1において、結束バンド45にて円周状に締結して、円筒状弾性チューブ44aを深度調整用円盤17aに固定する。また、上記円筒状弾性チューブ44bには、深度調整用円盤17bの外周縁に近い位置R2において、同じく結束バンド45にて円周状に締結して、円筒状弾性チューブ44bを深度調整用円盤17bに固定する。
【0104】
尚、上記各円筒状弾性チューブ44a,44bの内面と上記深度調整用円盤17a,17bの外周面とは、接着することなく、結束バンド45,45による締結、及び円筒状弾性チューブ44a,44bの弾性的収縮により固定する。また、当該円筒状弾性チューブ44a,44bは、上記スリット形成用円盤14の深度調整用円盤17a,17b(2か所)と、畝用スリット形成用円盤35の深度調整用円盤17a,17bの両方に各々装着する。
【0105】
上述のように円筒状弾性チューブ44a,44bを装着して、
図3、
図5に示すように、作業用通路10a,10a’及び畝10上において上記円筒状弾性チューブ44a,44bの外表面44a’,44b’が土に接した状態でトラクタ1を走行させる。すると、作業用通路10a,10a’及び畝10に溝16を形成することができると共に、深度調整用円盤17a,17bの外周面17a’,17b’に対応する円筒状弾性チューブ44a,44bの外周面44a’,44b’に土、泥が付着することはない。
【0106】
即ち、
図9に示すように、土等が付着しようとした場合、円筒状弾性チューブ44a,44bの弾性復帰力(矢印J方向)により、付着した土47等を弾き飛ばすことができる。また、円筒状弾性チューブ44a,44bの内側面は深度調整用円盤17a,17bの外表面に接着されていないため、円筒状弾性チューブ44a,44bが畝10又は作業用通路10a,10a’の凹凸により深度調整用円盤17a,17bの外表面に対して動くことによっても、円筒状弾性チューブ44a,44bの表面に付着した土等を除去することができる。
【0107】
このように、溝16を形成する作業を行う上で、深度調整用円盤17a,17bの表面(円筒状弾性チューブ44a,44bの表面)に土、泥等が付着しないため、非常に円滑にスリット16の形成作業を行うことができるものである。
【実施例】
【0108】
(1)スリットの形成について
上記トラクタ1を使用した上記排水用スリット形成装置2によるスリット形成作業は、麦の播種直後(11月)と、第1回土入れ時期(例えば、翌年の1月)と、第2回土入れ時期(例えば、同年の2月)に行った。一方、スリットを形成しない区域を設け、排水量、麦の生育、収穫量等を比較した。
【0109】
このとき、1月と2月の時期は、畝10においてある程度、麦が生長しているが、
図7(b)に示すように、麦の植え付け箇所G,Gの間にスリット16を形成するので、麦を傷つけることはなかった。
【0110】
また、トラクタ1は、トラクタ1の底面1’(
図1参照)と畝10の上面10bとの距離Iの長いものを使用することにより、麦の葉を痛めることはなかった。
【0111】
また、畝10の上面10b、作業用通路10a,10a’の上面10c,10c’に、各々直線的でかつ一定深度(深さT)の溝(スリット)16を直線的に形成することができた。
【0112】
(2)スリット16が麦の生育及び収穫量に及ぼす影響
上記スリット16を施行することにより、圃場の乾燥後、スリット16から枝分かれ状の複数の亀裂43の形成が促進され(
図7(a)参照)、降雨後において、降水が上記スリット16又は亀裂43から土内への浸透し、畝10及び作業用通路10a,10a’の表面に停滞する水が低下し、排水改善効果が認められた。
【0113】
また、その結果、スリットの施行区域では、スリットの無施行区域と比べて、麦の生長が促進され、スリットの無施行区域と比べて、収穫量は9%の増収となった。
【0114】
(3)結果
以上より、スリット16の施工により、亀裂43の形成が促進され、表面水の速やかな排水が可能となり、生育、及び、収穫量の向上効果が得られることが確認できた。
【0115】
また、スリット16の形成は、作物の播種後において、複数回行うことができるため、適宜、圃場の乾燥具合、降雨量に応じて、必要に応じてスリット16の形成を行うことができ、これにより作物の生育を促進させることができる。また各種作業により、スリット16及び亀裂43が癒着した後は、再度スリット16を形成することにより、圃場の排水性を長期間に亘り維持することができた。
【0116】
本発明は以上のように、支持杆9は、水平支持軸13とは反対側の他端部の基準点Qと上記水平支持軸13の中心点までの基準線L2と、上記基準点を通る鉛直線L1との傾斜角度θが、前方側に傾斜しているので、スリット形成用円盤14は、当初より深度調整用円盤17a, 17bにより決定される所定の深度T、土の中に入り込み(或いは食い込み)、トラクタ(走行車)1を進行していく過程において、スリット形成用円盤14は、管理機1の進行に追従して、土への深度を維持したまま回転(自転)するため、常に、所定の深度T入り込んだ状態を維持することができ、スリット形成用円盤14が土の上面から上に浮き上がることはない。これにより、一定の深度Tのスリット16を、直線的に形成することができる。
【0117】
また、スリットを形成した後、圃場が乾燥するとスリットに沿って亀裂が複数形成され、上記スリット及び亀裂によって圃場の排水を促進させることができる。
【0118】
さらに、スリット形成用円盤14(35)は、トラクタ1の進行に応じて回転(自転)するだけであるため、走行車としての乗用管理機、トラクタ1に高い馬力は必要なく、通常のものを使用することができる。
【0119】
また、錘18の重量が、鉛直線L1より前方側に傾斜している支持杆9に作用するので、スリット形成用円盤14に下向きの重量として作用させることができ、スリット形成用円盤14の浮き上がりを抑制することができる。
【0120】
また、支持杆9の長さを調整することにより、スリット形成用円盤14の高さを最適位置に調整することができ、土の上面に対応して所定深さTのスリット16を形成することができる。
【0121】
また、スリット形成用円盤14は、刃部20により、スリット形成用円盤14を、土中に鋭く食い込ませることができ、或いは、幅の狭い円状に形成されているから、土中に鋭く食い込ませることができ、より円滑にスリット16を形成することができる。
【0122】
また、畝10に植え付けた作物等がある程度成長してからも、排水用スリット形成装置2により、スリット16を形成することができ、例えば播種直後、第1回土入れ時期、第2回土入れ時期等の複数回にわたりスリット形成を行うことができる。
【0123】
また、上記排水用スリット形成部11を、接続用杆7の両側に各々設け、上記畝10を跨いだ2本の作業用通路10a,10a’の各々に設けることができ、1回の作業により2本のスリット16を同時に形成することができる。
【0124】
また、畝面スリット形成用円盤35は、常時、畝10の上面10bに附勢されて深度調整用円盤17a,17bにより決定される深度Tだけ畝10の上面から土中に入り込んだ状態となるし、仮に、畝10の上面に高低差があっても、上記弾性部材39a,39bの附勢力により、回動軸を中心として後方突出アーム28が上下動することにより追従し得るので、常時一定の深度Tのスリットを形成することができる。
【0125】
また、畝面スリット形成用円盤35の刃部36により、畝面スリット形成用円盤35を、土中に鋭く食い込ませることができ、或いは、幅の狭い円状に形成されているから、土中に鋭く食い込ませることができ、より円滑にスリット16を形成することができる。
【0126】
また、畝10の上面には、1本のスリット16、畝10を跨いだ両側の作業用通路10a,10a’に各々1本のスリット16を形成することができ、3本のスリット16を効率的に形成することができる。
【0127】
また、排水用スリット形成装置2は、播種後だけではなく、追肥時、麦踏み時に合わせてスリット16の形成が可能であるため、播種から収穫時の間において、複数回、スリット16を形成することが可能となり、圃場における排水管理を非常に効果的に行うことが可能となる。
【0128】
また、円筒状弾性チューブ44a,44bを使用する場合は、深度調整用円盤17a,17bの表面に土、泥等が付着しようとすると、円筒状弾性チューブ44a,44bの厚みの弾性反発力により、土、泥等が弾き飛ばされるので、スリット形成作業中、深度調整用円盤17a,17bに土、泥等が付着することを防止することができ、円滑にスリット形成作業を行うことができる。
【0129】
上記実施形態では、畝10上には、畝面排水用スリット形成部21を設けたが、畝10上においても、前方側に傾斜した支持杆9を有する排水用スリット形成部42を設けても良い。また、上記畝10と作業用通路10a,10a’の実施形態を述べたが、畝10を設けることなく、平坦な圃場であっても良い。
図7中、符号46は暗渠である。
【0130】
また、第1の実施形態乃至第3の実施形態、及び、実施例において、本発明に係る排水用スリット形成装置2を装着する走行車として、トラクタ1を示したが、トラクタ以外であっても、乗用管理機、その他の走行車両であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の排水スリット形成装置によれば、畝及び/又は作業用通路等の圃場にスリットを複数回形成することができ、その結果、畝等の圃場の排水及び給水を向上することにより、作物の成長を促進し、作物の収穫量を向上させることができるため、効果の高いものである。
【符号の説明】
【0132】
1 トラクタ
2 排水用スリット形成装置
7 接続用杆
9 支持杆
10 畝
10a,10a’ 作業用通路
13 水平支持軸
14 スリット形成用円盤
14b,14b’ 側面(両側面)
17a,17b 深度調整用円盤
18 錘
20 刃部
21 畝面排水用スリット形成部
24 基端部
27 回転軸
28 後方突出アーム
34 水平支持軸
35 畝面スリット形成用円盤
36 刃部
39a 第1スプリング(弾性部材)
39b 第2スプリング(弾性部材)
41,41’ 車輪
42 排水用スリット形成部
44a,44b 円筒状弾性チューブ
T 深度
L1 鉛直線
L2 基準線
Q 基準点
R 中心点
θ 傾斜角度