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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】比較電極
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
G01N27/30 311Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020199009
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2021092559
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2019218169
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 忠範
(72)【発明者】
【氏名】石原 篤
(72)【発明者】
【氏名】西尾 友志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼味 拓永
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-223646(JP,A)
【文献】国際公開第2012/093727(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049945(WO,A1)
【文献】特開平10-239276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部電極と被検液とを電気的に接続する導通部材を備え、
前記導通部材の前記被検液と接する面が、3価又は4価を取り得る元素の酸化物を主成分とするガラス又はセラミックスであって、イオン伝導性を有するガラス又はセラミックスで形成されており、
前記ガラス又は前記セラミックスが、前記ガラス又は前記セラミックスにイオン伝導性を付与する化合物を含有するものであり、
前記化合物が、1価又は2価を取り得る元素の酸化物である比較電極。
【請求項2】
前記3価又は4価を取り得る元素が、テルル、ゲルマニウム及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むものである、請求項1に記載の比較電極。
【請求項3】
前記1価又は2価を取り得る元素が、銀、リチウム及びナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むものである、請求項に記載の比較電極。
【請求項4】
前記導通部材の水素イオン濃度に対する感度が40%以下である、請求項1乃至の何れか一項に記載の比較電極。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の比較電極を備えた複合電極。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の比較電極又は複合電極を備えたイオン濃度測定装置。
【請求項7】
内部電極と被検液とを電気的に接続する導通部材を備え、
前記導通部材の前記被検液と接する面が、二酸化ケイ素を主成分としないガラス又はセラミックスであって、イオン伝導性を有するガラス又はセラミックスで形成されており、
前記ガラス又は前記セラミックスが、前記ガラス又は前記セラミックスにイオン伝導性を付与する化合物を含有するものであり、
前記化合物が、1価又は2価を取り得る元素の酸化物である比較電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の比較電極は、液絡部から内部液を少量ずつ流出させることによって、被検液と内部電極とを電気的に接続させているので、液絡部が汚れで詰まってしまった場合に正確な測定ができなくなってしまうという問題や、内部液を定期的に補充する必要があるという問題、液絡部から流出した内部液によって被検液が汚染されるという問題がある。
液絡部を備えない比較電極として、SAM膜を用いたものが検討されてはいるが、SAM膜は物理的な強度が小さく実用化が難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開公報2019/049945号
【文献】“Drastic Dependence of the pH Sensitivity of Fe2O3-Bi2O3-B2O3 Hydrophobic Glasses with Composition”, Tadanori Hashimoto et al., Materials 2015, 8, 8624-8629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述したような課題に鑑みてなされたものであり、液絡部を備えず、実用化可能な物理的強度を備えた比較電極を提供することを目的とするものである。
同様の技術としては、例えば、特許文献1に示すように、応答ガラスを作成する過程において副産物的に生じたpH応答しない応答ガラスを比較電極に使用することが試みられている。
【0005】
本発明は、本発明者らが鋭意検討した結果、前述した特許文献1に記載した応答ガラスとは全く異なる組成のガラス又はセラミックスであって、被検液と内部電極とを電気的に接続させることができ、かつ測定対象であるイオンには実質的に応答しないガラス又はセラミックスの作成に成功したことによって完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る比較電極は、被検液と接する面が、3価又は4価を取り得る元素の酸化物を主成分とするガラス又はセラミックスであって、イオン伝導性を有するガラス又はセラミックスで形成されているものである。
【0007】
このような比較電極によれば、液絡部を設ける必要がないため、液絡部の汚れによるイオン濃度測定への影響をなくすことができる。また、比較電極の内部液を補充する手間が不要である。さらに、内部液が漏れ出すことによる被検液の汚染をもなくすことができる。さらに、前記導通部材の表面がガラス又はセラミックスで形成されているため、SAM膜を用いた比較電極に比べて物理的強度を大幅に向上することができる。
【0008】
より具体的には、前記金属が、テルル、ゲルマニウム及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であるものを挙げることができる。
【0009】
本発明の具体的な実施態様としては、前記ガラス又は前記セラミックスが、前記ガラス又は前記セラミックスにイオン伝導性を付与する化合物を含有するものであり、前記化合物が、1価又は2価を取り得る元素の酸化物であるものを挙げることができる。より具体的には、前記1価又は2価を取り得る元素が、銀、リチウム及びナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むものを挙げることができる。
【0010】
基準電位を安定させて、イオン濃度測定の精度を上げるという観点から、前記導通部材のイオン濃度に対する感度が40%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る比較電極によれば、液絡部を設ける必要がないため、液絡部の汚れによるイオン濃度測定への影響をなくすことができる。また、比較電極の内部液を補充する手間が不要である。さらに、内部液が漏れ出すことによる被検液の汚染をもなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るイオン濃度測定装置を示す模式図。
図2】本実施形態に係る比較電極を示す模式図。
図3】本発明の他の実施形態に係る導通部材の断面模式図。
図4】本発明の他の実施形態に係る電極構造を示す模式図。
図5】本発明の他の実施形態に係る電極構造を示す模式図。
図6】本発明の他の実施形態に係る電極構造を示す模式図。
図7】本発明の一実施例に係る導通部材の性質を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。
本実施形態に係るイオン濃度測定装置100は、例えば、図1に示すように、被検液Sに含まれる特定のイオン濃度の変化を電位変化として検出する測定電極1と、該測定電極に対する基準電位を出力する比較電極2と、これら測定電極1及び比較電極2からの出力値に基づいてイオン濃度を算出する算出部3と、該算出部3によって算出されたイオン濃度を表示する表示部4等を備えるものである。
【0014】
前記測定電極1は、例えば、銀/塩化銀等からなる作用極11(測定電極用内部電極ともいう。)と、該作用極11及び測定電極用内部液12を内部に収容する円筒状の測定電極用筐体13とを備えるものであり、前記測定電極用筐体13の被検液Sと接する部分が、前記特定のイオン濃度に応答せず、測定対象となる特定のイオンに応答する応答ガラス14で形成されたガラス電極である。
【0015】
前記比較電極2は、図1又は図2に示すように、例えば、銀/塩化銀等からなる比較極21(比較電極用内部電極ともいう。)と、該比較極21及び比較電極用内部液22を内部に収容する円筒状の比較電極用筐体23とを備えるものであり、前記比較電極用筐体23の被検液Sと接する部分が、前記被検液Sと前記比較電極用内部液22とを電気的に接続させる(すなわち、前記被検液Sと内部電極である前記比較極21とを電気的に接続する)導通部材24によって形成されたものである。
【0016】
前記算出部3は、例えば、前記測定電極1から出力される電位と前記比較電極2から出力される電位との電位差を算出し、算出された電位差と予め得た検量線等とに基づいて前記特定のイオンの濃度を算出するものであり、具体的には、CPUやメモリ、通信ポートなどから構成されたデジタル回路と、バッファーや増幅器などを具備するアナログ回路と、これらデジタル回路とアナログ回路とを仲立ちするADコンバータ、DAコンバータなどを具備した情報処理回路である。そして、前記メモリに記憶させた所定のプログラムにしたがってCPUやその周辺機器が協働することにより、この情報処理回路が算出部3としての機能を発揮するようにしてある。
【0017】
しかして、前記導通部材24は、イオン伝導性を有し、かつ前記特定のイオンに対して実質的に応答しない不感応ガラスによって形成されているものである。
実質的に応答しないとの定義は、求められるイオン濃度測定の精度にもよるが、前記特定のイオンに対する感度が40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
感度は、前記特定のイオン濃度と電位変化との関係を示す係数を用いて算出することができるものであり、例えば、前記特定のイオンが水素イオンである場合には、以下のような式1に基づいて求めることができる。
【0018】
【数1】
【0019】
本実施形態に係る導通部材24を形成する不感応ガラスは、より具体的には3価又は4価を取り得る元素の酸化物を主成分とするものである。
ここでガラスとは、その一部が結晶化している結晶化ガラスをも含むものである。
また主成分とは、不感応ガラス全体に対する含有量が50mol%以上であることを意味する。
【0020】
前記不感応ガラスは、3価又は4価を取り得る元素の酸化物をその骨格の主成分(主骨格)として含有するものである。前記3価又は4価を取り得る元素としては、例えば、周期表の第13族元素~第16族に含まれる元素が好ましく、より具体的にはテルル(Te)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)及びリン(P)からなる群より選ばれる1種以上の金属を含有することが好ましい。
【0021】
前記不感応ガラスにおける、前記3価又は4価を取り得る元素の酸化物の含有量は、60mol%以上85mol%以下であることが好ましく、70mol%以上85mol%以下であることがより好ましく、75mol%以上80mol%以下であることが特に好ましい。
【0022】
前記不感応ガラスは、該不感応ガラスに対してイオン伝導性を付与する化合物を含有するものであることが好ましい。前記化合物としては、例えば、1価又は2価を取り得る元素の酸化物を挙げることができる。前記不感応ガラスにイオン伝導性を付与するためには、ガラス骨格内を動き回りやすい大きさのイオンを生じる元素であることが好ましく、例えば、1976年にシャノンによって定義された有効イオン半径(6配位時)が-0.38Å以上1.20Å以下の範囲のものが好ましい。前記1価又は2価を取り得る元素としては、例えば、第1族のアルカリ金属又は第11族の戦記金属元素であることが好ましく、より具体的には、銀(Ag)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、フッ素(F)、水素(H)及び銅(Cu)からなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有することが好ましい。
【0023】
前記不感応ガラスにおける、前記1価又は2価を取り得る元素の酸化物の含有量は、15mol%以上30mol%以下であることが好ましく、より好ましくは、20mol%以上25mol%以下である。15mol%以上とすることによって、不感応ガラスに十分なイオン伝導性を付与することができるので好ましい。また、30mol%以下とすることによって、不感応ガラスをよりガラス化しやすくすることができるので好ましい。
【0024】
前記不感応ガラスのイオン伝導性はイオン濃度測定のノイズを抑えるという観点から、高いことが好ましい。このイオン伝導性は、例えば、比抵抗を用いて評価することができるものである。より具体的には、前記不感応ガラスは、測定電極に用いられている応答ガラスと同等の比抵抗を有するものであることが好ましい。より具体的には、前記ガラスの比抵抗は、×1012Ωcmオーダー以下であることが好ましく、×1010Ωcmオーダー以下であることがより好ましく、×10Ωcmオーダー以下であることが特に好ましい。
【0025】
前述した不感応ガラスは、例えば、以下のような手順及び方法で製造することができる。
3価又は4価を取り得る元素の酸化物と、1価又は2価を取り得る元素の酸化物とを所定の割合で混合し、この混合物を800℃~1200℃前後の高温で溶融してから急冷加圧した後、200℃~500℃前後の温度でアニールさせることにより不感応ガラスを得る。
【0026】
前述したようにして製造した不感応ガラスを、比較電極用筐体23の導通部材24として使用する方法としては、例えば、筒状の支持管ガラスの先端部に応答ガラスを接合して製造される測定電極用筐体13と同様の方法で作成することができる。具体的に説明すると、前記不感応ガラスを溶融状態にしておき、そこに筒状の支持管ガラスの先端部を浸漬した後、所定速度で支持管ガラスを引き上げながらブロー成形することにより、前記不感応ガラスを略半球状をなす形状に成形する方法を挙げることができる。
【0027】
このように構成した比較電極2によれば、前記導通部材24がイオン伝導性を有するものであるので、液絡部を設ける必要がない。
その結果、液絡部が汚れで詰まってしまうことによるイオン濃度測定への影響をなくすことができる。また、液絡部から比較電極用内部液22が漏れ出すことによる被検液Sの汚染をもなくすことができる。さらに、比較電極用内部液22を補充する手間が不要である。
【0028】
前記導通部材が測定対象である特定のイオンに対して実質的に応答しないものであるので、比較電極から出力される基準電位を安定させることができる。
前記ガラスが、例えば、応答ガラスに含まれているケイ素(Si)、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)等の酸化物を含まないものとすることができるので、特定のイオン、特に水素イオンに対する感度を小さく抑えることができる。
【0029】
本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、前記実施形態では、導通部材が不感応ガラスで形成されているものについて説明したが、前記導通部材が同様の組成を有する不感応セラミックスで形成されていても良い。この場合には、不感応セラミックスが液体を透過させないものである必要がある。
【0030】
前記不感応ガラス又は不感応セラミックスには、前述した3価又は4価を取り得る元素の酸化物及び1価又は2価を取り得る元素の酸化物以外にも、添加物を含有していてもよい。この添加物としては、アルカリ塩等を挙げることができる。前記アルカリ塩等としては、例えば、塩化銀(AgCl)などのハロゲン化アルカリや硝酸銀(AgNO)等を挙げることができる。
【0031】
また、前記導通部材全体が前記不感応ガラス又は前記不感応セラミックスによって形成されているものに限らず、前記導通部材の表面のみが、前述した不感応ガラス又は不感応セラミックスで形成されているものであっても良い。導通部材の表面のみが前述した不感応ガラス又は不感応セラミックスで形成されているものについて以下に説明する。
【0032】
この場合には、前記導通部材24′は、例えば、図3に示すように、基板241′と、この基板の表面に形成された不感応層242′とを備えている。前記基板241′は、導電性のある物質からなるものであればよく、例えば、SUSなどの金属からなるものを挙げることができる。前記不感応層242′は、前述したような不感応ガラス又は不感応セラミックスからなるものである。
【0033】
このような導通部材24′の製造方法としては、例えば、前記実施形態で説明したようにして作製した不感応ガラス又は不感応セラミックスを粉砕し、これをSUS等で形成された基板241′上に堆積させ、600℃~700℃で2時間程度加熱することによって基板241′上に不感応層242′を形成する方法を挙げることができる。
【0034】
また、他の方法としては、水とポリビニルアルコール(PVA)の混合液に前述した不感応ガラスの破砕物を溶解した溶液中に基板241′を浸し又は塗布して乾燥させた後に、600℃~700℃前後の温度で焼成することによって基板241′上に不感応ガラス又は不感応セラミックスからなる不感応層242′を形成する湿式法を挙げることができる。この湿式法の場合には、基板241′を浸して乾燥させる工程を複数回繰り返しても良い。水とポリビニルアルコールとの配合比は、不感応ガラスの組成や実験条件などによって適宜変更することが可能である。また、ポリビニルアルコールの代わりにポリビニルピロリドン等の他の水溶性高分子を使用することも可能である。
【0035】
基板241′と、この基板の表面に形成された不感応層242′とを備える導通部材24′の基板241′は、前述したようにSUS等からなる一枚の金属板であっても良いし、金属板の表面に銀などの他の金属を含有する層を積層したものであっても良い。不感応層242′は基板241′の両面に形成されていても良いし、被検液と接する面となる側の表面のみに形成されていてもよい。
【0036】
前記実施形態では、測定電極及び比較電極が内部液を備えたものを説明したが、内部液は必ずしも必要でなく、応答ガラス又は導通部材に内部電極(作用極又は比較極)が直接触れるように配置されているものとしても良い。このように内部液を使用しないものとすれば、測定電極及び比較電極を従来よりも小型化することが可能である。また、測定電極として、SUSを酸化処理したイオン応答膜などを使用するものとすれば、測定電極及び比較電極の物理的強度をより向上することができるので、従来のイオン濃度測定装置では測定が難しい高圧条件下においても安定したイオン濃度測定が可能になる。
【0037】
さらに、内部液を備えない測定電極及び比較電極とすることによって、例えば図4図6に示すような電極構造を採用することも可能である。図4図6に記載の電極について、以下に説明する。図4図6における太い矢印は、測定電極又は比較電極に対して被検液Tが供給される側を示すためのものである。
【0038】
図4(a)に示す電極は、筒状の筐体Aと、この筐体Aの側壁又は底壁などに形成された貫通孔Hを塞ぐように筐体Aの外面に取り付けられた応答ガラス14及び導通部材24と、これら応答ガラス14又は導通部材24をそれぞれ算出部3などに電気的に接続する金属線Wと、応答ガラス14又は導通部材24と各金属線Wとを接続する導電ペーストなどからなる接続部材Bとを備える複合電極である。金属線Wは貫通孔Hを介して筐体の内部に引き込まれているので、筐体Aの内部で、これら金属線W同士が互いに接触しないように筐体A内部のスペースを仕切る仕切部材Dをさらに備えるようにしてある。
【0039】
筐体Aの材質は特に限定されず、応答ガラス及び導通部材を取り付けられるものであれば良い。
金属線Wとしては、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、SUS、鉄(Fe)、白金(Pt)、金(Au)、アルミニウム(Al)、パラジウム(Pd)等を挙げることができる。
接続部材Bとしては、例えば、導電ペーストを用いることが好ましく、導電ペーストとしては、例えば、ガラスフリット、樹脂と金属とを含むもの、導電性高分子、金属そのものを使用することが考えられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル等を挙げることができる。導電性高分子としては、ポリアセチレン類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、ポリピロール類などを挙げることができる。導電ペーストに含有される金属としては、銀(Ag)、金(Au)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、炭素(C)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、SUS等を使用することが好ましい。
【0040】
図4(a)では、筐体Aの内部に仕切部材Dを設けているが、これに替えて、各金属線Wを覆う筒状のカバーCを備えるようにしても良い。仕切部材DやカバーCはいずれも絶縁性のものであることが好ましい。
また、応答ガラス14と導通部材24とは互いに接触せず、被検液Tに触れやすい場所であれば、筐体Aの外表面のうち、どのような位置に配置されていてもよい。
なお、図4について説明した、筐体A、金属線W、接続部材Bなどの材質については、図5及び図6についても共通して使用することができる。
【0041】
図5は、支持体Sの壁に形成された貫通孔H′を塞ぐように取り付けられた応答ガラス14又は導通部材24と、応答ガラス14又は導通部材24を算出部3に電気的に接続するための接続部材Bとを備える測定電極1′又は比較電極2′を示している。貫通孔H′を介して応答ガラス14又は導通部材24に接するように接続部材Bである導電ペーストなどを支持体Sの表面に塗布することによって応答ガラス14又は導通部材24を算出部3などに電気的に接続することができるので、図4に示すように金属線Wを使用する場合に比べて測定電極1′又は比較電極2′の製造工程を単純化することができる。支持体Sの材質は、前述した筐体Aと同じく、特に限定されず、応答ガラスや導通部材を取り付けることができるものであればよい。
【0042】
図6(a)は、被検液Tを内部に貯留する測定セルEの側壁又は底壁に形成された貫通孔H″を塞ぐように測定セルEの内面に取り付けられた応答ガラス14又は導通部材24と、これら応答ガラス14又は導通部材24をそれぞれ算出部3などに電気的に接続する金属線Wと、応答ガラス14又は導通部材24と各金属線Wとを接続する導電ペーストなどからなる接続部材Bとを備え、前記金属線Wが前記貫通孔H″を介して測定セルEの外側に引き出されている測定電極1″及び比較電極2″を表している。
測定セルEには、図6(a)に示すように、測定電極1″と比較電極2″の両方が取り付けられていても良いし、どちらか一方のみが取り付けられているものとしても良い。
【0043】
図6(b)は、図6(a)の測定電極1″又は比較電極2″の構成要素から金属線Wを省き、金属線Wの代わりに導電ペーストなどの接続部材Bを測定セルEの表面に塗布して算出部3等との導通をはかった測定電極1a″又は比較電極2a″を示している。
【0044】
前述した不感応ガラス又は不感応セラミックスは、水素イオンだけでなく、他の様々なイオンに対しても応答しないので、これら不感応ガラス又は不感応セラミックスを導通部材に使用した比較電極は、水素イオンだけでなく、他の様々な種類のイオン濃度測定装置に適用することが可能である。
【0045】
測定電極と比較電極との他に、白金や塩化銀等で形成された金属線からなる疑似極を備える3極式のイオン濃度測定装置としても良い。
疑似極を備える3極式のイオン濃度測定装置とすることによって、測定電極と疑似極との間の電位差及び比較電極と疑似極との間の電位差を測定し、これら2つの電位差の和を算出して測定電極と比較電極との間の電位差を測定することができる。その結果、測定電極と比較電極との間の起電力の差を増幅させる増幅器への負荷を低減することができる。
また、測定電極又は比較電極について、それぞれと疑似電極との電位差を測定するので、応答ガラス又は導通部材の電気抵抗が大きい場合であっても、測定電極と比較電極との間の電位差を安定して測定することができる。
さらに、測定電極と疑似電極との間でのみ逆電圧をかけることが可能であるので、比較電極による基準電位を変化させることなく、測定電極の汚れを抑えることができる。 その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、種々の変形や実施形態の組合せを行ってもかまわない。
【実施例
【0046】
以下に実施例を挙げて、本発明に係る比較電極についてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
実施例1
不感応ガラスにイオン電導性を付与する化合物としてAgO、ガラスの主成分としてTeOを含有するガラスを作成した。具体的には、表1に示すように、ガラス中に含まれるAgOの含有量とTeOの含有量とを様々に変化させた複数種類のガラスを以下の表1の通り作成した。以下表1中に示す不感応ガラスの組成は、例えば、20Ag80Teと記載されているサンプルは、ガラス全体に対するAgOの含有量が20mol%であり、TeOの含有量が80mol%であるものを示している。これらの不感応ガラスは、溶融急冷法を用いて作成した。900℃で1時間加熱して材料を溶融させた後、200℃まで急冷し、200℃で1時間アニールさせた。最後に、表面を研磨して整えることによって不感応ガラスを得た。
表1の結果から、今回作成した組成の不感応ガラスはすべてガラス化できることが確認できた。
【0048】
【表1】
【0049】
次にこれらガラスを使用して、pHへの応答性(イオン濃度に対する感度)と比抵抗をそれぞれ調べた。
感度については、これらガラスを応答膜として用いた測定電極と、液絡部を備える従来の比較電極であるダブルジャンクション形比較電極(2565A-10T、堀場製作所製)とを用いて、pH4、pH7及びpH9の各標準液間での電位差を繰り返し測定し、pHに対する電位変化を測定することによって調べた。比抵抗については、日置電機株式会社製の超絶縁計で測定した。これらガラスの感度及び比抵抗の測定結果を図7に示す。
【0050】
この図7の結果から、この実施例で作成したすべてのガラスについてpHに対する感度が顕著に下がっており、不感応ガラスとして使用可能であることがわかった。より精度の高いオン濃度測定装置における比較電極に使用する場合には、感度が30%以下であり、比抵抗が×1010Ωcm以下であることが好ましいので、これら不感応ガラスの中でも、特に、AgOの含有量が21mol%以上23mol%の範囲であり、TeOの含有量が77mol%以上79mol%以下の範囲であるものが好ましいことが分かる。
なお、この実施例1では、溶解温度が900℃であり、アニール温度が200℃の場合について記載したが、溶解温度及びアニール温度については、ガラスの組成によってガラス化しやすい温度に適宜変更することが可能である。
【0051】
実施例2
図7ではpH感度が39であった25Ag75Teについて、研磨後にさらに250℃又は275℃で24時間加熱すると、以下の表2に示すように、pH4-9間の感度がさらに小さくなり、いずれのサンプルにおいても30%以下になることが分かった。
【0052】
【表2】
【0053】
実施例3
次に、導通部材の表面のみが不感応ガラスで形成されているサンプルを作成した。具体的には、SUS基板上にイオン電導性を付与する化合物としてAgO、ガラスの主成分としてTeOを含有する不感応ガラスを融着させ琺瑯ガラスとした。
また、砕いた不感応ガラスに添加物としてAgClを添加したものを融着させた場合についても実験を行った。AgClの添加量は、粉砕した不感応ガラス90質量%に対して、10質量%のAgClを添加するものとした。
これら琺瑯ガラスの作製条件は以下の通りである。
まず、SUSからなる基板上に、実施例1で作成した25Ag75Teを粉砕したものを堆積させ、これを640℃又は680℃で2時間焼成して、基板上に不感応ガラスを融着させた。
結果を以下の表3に示す。なお、表3中の*1は焼成温度が640℃の場合を、*2は焼成温度が680℃の場合を、それぞれ示している。
【0054】
【表3】
【0055】
この表3の結果から、実施例3で作成したいずれの琺瑯ガラスにおいても、pH4-9間の感度が不感応ガラス単独の場合よりも小さくなることが確認できた。また、焼成温度によっては、AgプレートよりもpH7-9間の感度が小さくなるものも得ることができた。
この実施例3では、SUS基板上に融着させた不感応ガラスの厚みを0.7mm程度となるようにしたが、この厚みを0.01mm程度まで薄くしても感度がpH4-9間の感度を20%~30%程度に抑えられることが確認されている。
さらに、不感応ガラスに添加物としてAgClを添加すると、さらに感度を小さく抑えられることが分かった。
なお、これら琺瑯ガラスのうち一部のガラスでは、焼成後に銀が析出しているものも観察されている。
【0056】
実施例4
実施例3では、粉砕した不感応ガラスを基材上に堆積して融着する方法で導通部材を作成したが、この実施例4では、基板上に不感応ガラスを溶解した溶液を塗布、乾燥した後に焼成することによって導通部材を作製した。
具体的な実験方法は以下の通りである。
粉砕して53μm以下に分級した不感応ガラス粉末0.1gを、イオン交換水3.5mlとポリビニルアルコール0.5gとを混合した混合液に溶解した溶液(スラリー)を作製し、この溶液を電動ピペッターで0.4ml計り取り、SUSからなる基板上に滴下後、60℃で1時間乾燥し焼成を行う湿式法を採用して、基板上に不感応層を形成した。焼成は640℃又は680℃で2時間行った。
このようにして作成した導通部材について、感度と比抵抗を測定した結果を以下の表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
この表4の結果から、湿式法で作成した導通部材についても、感度が40%以下に抑えられており、比較電極の導通部材として十分に使用できるものであることが確認できた。
なお、この湿式法で作成した導通部材は、いずれも琺瑯ガラスとなっていたが、その表面にはAgの結晶が析出しているものも観察され、一部が結晶化した結晶化ガラスとなっている可能性がある。通常銀は立方晶であるが、銀の結晶として六方晶が析出した導通部材においては、立方晶の結晶が析出した導通部材よりも、さらに感度が低い傾向がみられた。
【0059】
実施例5
組成をさまざまに変化させた不感応ガラスを表5に示すように作成した。表5中に示す不感応ガラスの組成は、表1と同様に、例えば、20Ag80Teと記載されているサンプルは、ガラス全体に対するAgOの含有量が20mol%であり、TeOの含有量が80mol%であるものを示している。
【0060】
【表5】
【0061】
この表5の結果から、AgOとTeOとの組み合わせ以外にも、3価又は4価を取り得る元素の酸化物と1価又は2価を取り得る元素の酸化物とをさまざまに組み合わせた場合であっても、感度が低く比抵抗の小さい不感応ガラスを作成できることを確かめることができた。
特に、LiOとTeO、AgOとB、又はCuOとTeOを組み合わせたガラスは、この不感応ガラス単体で実施例3や実施例4に示したような琺瑯ガラスと同程度又はより小さい感度を示すことが確認された。
【符号の説明】
【0062】
100・・・イオン濃度測定装置
1 ・・・測定電極
2 ・・・比較電極
24 ・・・導通部材

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7