(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】電解コンデンサ用電極箔、電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/07 20060101AFI20240719BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240719BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20240719BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240719BHJP
H01G 9/055 20060101ALI20240719BHJP
H01G 9/045 20060101ALI20240719BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01G9/07
H01G9/00 290A
H01G9/00 290D
H01G9/145
H01G9/15
H01G9/055
H01G9/045
H01G9/048 G
(21)【出願番号】P 2021502178
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007016
(87)【国際公開番号】W WO2020175357
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2019037030
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 満久
(72)【発明者】
【氏名】栗原 直美
(72)【発明者】
【氏名】小川 美和
(72)【発明者】
【氏名】津田 康裕
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154461(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/198744(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/07
H01G 9/00
H01G 9/145
H01G 9/15
H01G 9/055
H01G 9/045
H01G 9/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質部を有する金属箔と、
前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層と、を備え、
前記誘電体層は、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層
と、前記金属骨格と前記第1層との間に配され、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層と、を有し、
T1とT2は、T1≧2×T2の関係式を満足し、
前記第1層が、炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含み、
前記第1層は、前記金属骨格に対向する内側表面と、前記内側表面の反対側の外側表面を有し、
前記第1層の前記外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に前記少なくとも1種の添加元素が含まれており、
前記第1層の前記外側表面から0.75×T1の深さには前記少なくとも1種の添加元素が含まれず、
前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記内側表面までの第2領域と、を含み、
前記第
1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量が、前記第
2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多い、電解コンデンサ用電極箔。
【請求項2】
前記第2領域は、前記少なくとも1種の添加元素が含まれない領域を有する、請求項1に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項3】
多孔質部を有する金属箔と、
前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層と、を備え、
前記誘電体層は、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層
と、前記金属骨格と前記第1層との間に配され、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層と、を有し、
T1とT2は、T1≧2×T2の関係式を満足し、
前記第1層が、炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含み、
前記第1層は、前記金属骨格に対向する内側表面と、前記内側表面の反対側の外側表面を有し、
前記第1層の前記外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に前記少なくとも1種の添加元素が含まれており、
前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記内側表面までの第2領域と、を含み、
前記第
1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量が、前記第
2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多い
とともに、前記第2領域は、前記少なくとも1種の添加元素が含まれない領域を有する、電解コンデンサ用電極箔。
【請求項4】
前記第1領域において、前記第1層の前記外側表面から0.05×T1の深さD1と前記第1層の前記外側表面から0.3×T1の深さD2との間の領域における前記少なくとも1種の添加元素の最大の濃度が、前記第1層の前記外側表面から0.75×T1の深さD3における前記少なくとも1種の添加元素の濃度の2倍以上である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項5】
前記第1領域において、前記第1層の前記外側表面から0.05×T1の深さD1と前記第1層の前記外側表面から0.3×T1の深さD2との間の領域における前記少なくとも1種の添加元素の最大の濃度が、前記第1層の前記外側表面から0.75×T1の深さD3における前記少なくとも1種の添加元素の濃度の3倍以上である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項6】
前記第1金属は、アルミニウムを含み、
前記第2金属は、タンタル、ニオブ、チタン、ケイ素、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔。
【請求項7】
多孔質部を有する金属箔を準備する工程と、
前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、を備え、
前記誘電体層を形成する工程は、
(A)気相法により、前記金属骨格の表面に、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を形成するステップと、
化成により、前記金属骨格と前記第1層との間に、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を形成するステップと、
(B)前記第1層の前記金属骨格に対向する内側表面とは反対側の外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含ませる
とともに、前記第1層の前記外側表面から0.75×T1の深さには前記少なくとも1種の添加元素を含ませないステップと、を含み、
T1とT2は、T1≧2×T2の関係式を満足し、
前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記内側表面までの第2領域と、を含み、
前記第
1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量を、前記第
2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多くする、電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項8】
前記第2領域は、前記少なくとも1種の添加元素が含まれない領域を有する、請求項7に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項9】
多孔質部を有する金属箔を準備する工程と、
前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、を備え、
前記誘電体層を形成する工程は、
(A)気相法により、前記金属骨格の表面に、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を形成するステップと、
化成により、前記金属骨格と前記第1層との間に、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を形成するステップと、
(B)前記第1層の前記金属骨格に対向する内側表面とは反対側の外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含ませるステップと、を含み、
T1とT2は、T1≧2×T2の関係式を満足し、
前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記内側表面までの第2領域と、を含み、
前記第
1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量を、前記第
2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多くする
とともに、前記第2領域は、前記少なくとも1種の添加元素が含まれない領域を有する、電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項10】
前記第1層に前記少なくとも1種の添加元素を含ませるステップが、前記第1層に前記少なくとも1種の添加元素を付着させた後、前記第1層を180℃以上に加熱することを含む、請求項
7~9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項11】
前記第1層に前記少なくとも1種の添加元素を含ませるステップが、前記少なくとも1種の添加元素を含む水溶液中で、前記第1層を有する前記金属箔に電圧を印可した後、前記第1層を180℃以上に加熱することを含む、請求項
7~9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ用電極箔の製造方法。
【請求項12】
多孔質部を有する陽極体と、
前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層と、
前記誘電体層を覆う陰極部と、を備え、
前記誘電体層は、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層
と、前記金属骨格と前記第1層との間に配され、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層と、を有し、
T1とT2は、T1≧2×T2の関係式を満足し、
前記第1層が、炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含み、
前記第1層は、前記金属骨格に対向する内側表面と、前記陰極部に対向する外側表面を有し、
前記第1層の前記外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に前記少なくとも1種の添加元素が含まれており、
前記第1層の前記外側表面から0.75×T1の深さには前記少なくとも1種の添加元素が含まれず、
前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記内側表面までの第2領域と、を含み、
前記第
1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量が、前記第
2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多い、電解コンデンサ。
【請求項13】
前記第2領域は、前記少なくとも1種の添加元素が含まれない領域を有する、請求項12に記載の電解コンデンサ。
【請求項14】
多孔質部を有する陽極体と、
前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層と、
前記誘電体層を覆う陰極部と、を備え、
前記誘電体層は、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層
と、前記金属骨格と前記第1層との間に配され、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層と、を有し、
T1とT2は、T1≧2×T2の関係式を満足し、
前記第1層が、炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含み、
前記第1層は、前記金属骨格に対向する内側表面と、前記陰極部に対向する外側表面を有し、
前記第1層の前記外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に前記少なくとも1種の添加元素が含まれており、
前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記内側表面までの第2領域と、を含み、
前記第
1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量が、前記第
2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多い
とともに、前記第2領域は、前記少なくとも1種の添加元素が含まれない領域を有する、電解コンデンサ。
【請求項15】
前記第1領域において、前記第1層の前記外側表面から0.05×T1の深さD1と前記第1層の前記外側表面から0.3×T1の深さD2との間の領域における前記少なくとも1種の添加元素の最大の濃度が、前記第1層の前記外側表面から0.75×T1の深さD3における前記少なくとも1種の添加元素の濃度の2倍以上である、請求項
12~14のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項16】
前記第1領域において、前記第1層の前記外側表面から0.05×T1の深さD1と前記第1層の前記外側表面から0.3×T1の深さD2との間の領域における前記少なくとも1種の添加元素の最大の濃度が、前記第1層の前記外側表面から0.75×T1の深さD3における前記少なくとも1種の添加元素の濃度の3倍以上である、請求項
12~14のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項17】
前記第1金属は、アルミニウムを含み、
前記第2金属は、タンタル、ニオブ、チタン、ケイ素、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項
12~16のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項18】
多孔質部を有する陽極体を準備する工程と、
前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層を覆う陰極部を形成する工程と、を備え、
前記誘電体層を形成する工程は、
(A)気相法により、前記金属骨格の表面に、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を形成するステップと、
化成により、前記金属骨格と前記第1層との間に、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を形成するステップと、
(B)前記第1層の前記陰極部に対向する外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含ませる
とともに、前記第1層の前記外側表面から0.75×T1の深さには前記少なくとも1種の添加元素を含ませないステップと、を含み、
T1とT2は、T1≧2×T2の関係式を満足し、
前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記金属骨格に対向する内側表面までの第2領域と、を含み、
前記第
1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量を、前記第
2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多くする、電解コンデンサの製造方法。
【請求項19】
前記第2領域は、前記少なくとも1種の添加元素が含まれない領域を有する、請求項18に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項20】
多孔質部を有する陽極体を準備する工程と、
前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、
前記誘電体層を覆う陰極部を形成する工程と、を備え、
前記誘電体層を形成する工程は、
(A)気相法により、前記金属骨格の表面に、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を形成するステップと、
化成により、前記金属骨格と前記第1層との間に、前記第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を形成するステップと、
(B)前記第1層の前記陰極部に対向する外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含ませるステップと、を含み、
T1とT2は、T1≧2×T2の関係式を満足し、
前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記金属骨格に対向する内側表面までの第2領域と、を含み、
前記第
1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量を、前記第
2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多くする
とともに、前記第2領域は、前記少なくとも1種の添加元素が含まれない領域を有する、電解コンデンサの製造方法。
【請求項21】
前記第1層に前記少なくとも1種の添加元素を含ませるステップが、前記第1層に前記少なくとも1種の添加元素を付着させた後、前記第1層を180℃以上に加熱することを含む、請求項
18~20のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項22】
前記第1層に前記少なくとも1種の添加元素を含ませるステップが、前記少なくとも1種の添加元素を含む水溶液中で、前記第1層を有する前記陽極体に電圧を印可した後、前記第1層を180℃以上に加熱することを含む、請求項
18~20のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ用電極箔、電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサの陽極体には、例えば、弁作用金属を含む金属箔が用いられている。電解コンデンサの容量を増加させるために、金属箔の主面にはエッチングが施され、多孔質な金属部分が形成される。その後、金属箔を化成処理して、多孔質な金属部分の表面に金属酸化物(誘電体)の層が形成される。
【0003】
一方、特許文献1は、原子層堆積法により誘電体層を形成することを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/26247号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、原子層堆積法により誘電体層を形成する場合、誘電体層の耐酸性が不十分になる場合があり、漏れ電流を十分に低減できない場合もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面に係る電解コンデンサ用電極箔は、多孔質部を有する金属箔と、前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層と、を備える。前記誘電体層は、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を有する。前記第1層が、炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含む。前記第1層は、前記金属骨格に対向する内側表面と、前記内側表面の反対側の外側表面を有する。前記第1層の前記外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に前記少なくとも1種の添加元素が含まれている。前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記内側表面までの第2領域と、を含む。前記第1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量が、前記第2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多い。
【0007】
本発明の第2の側面に係る電解コンデンサ用電極箔の製造方法は、多孔質部を有する金属箔を準備する工程と、前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、を備える。前記誘電体層を形成する工程は、(A)気相法により、前記金属骨格の表面に、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を形成するステップと、(B)前記第1層の前記金属骨格側に対向する内側表面とは反対側の外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含ませるステップと、を含む。前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記内側表面までの第2領域と、を含む。前記第1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量を、前記第2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多くする。
【0008】
本発明の第3の側面に係る電解コンデンサは、多孔質部を有する陽極体と、前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層と、前記誘電体層を覆う陰極部と、を備える。前記誘電体層は、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を有する。前記第1層が、炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含む。前記第1層は、前記金属骨格に対向する内側表面と、前記陰極部に対向する外側表面を有する。前記第1層の前記外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に前記少なくとも1種の添加元素が含まれている。前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記内側表面までの第2領域と、を含む。前記第1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量が、前記第2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多い。
【0009】
本発明の第4の側面に係る電解コンデンサの製造方法は、多孔質部を有する陽極体を準備する工程と、前記多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層を形成する工程と、前記誘電体層を覆う陰極部を形成する工程と、を備える。前記誘電体層を形成する工程は、(A)気相法により、前記金属骨格の表面に、前記金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を形成するステップと、(B)前記第1層の前記陰極部に対向する外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまでの領域に炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含ませるステップと、を含む。前記第1層は、前記外側表面から前記第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から前記金属骨格に対向する内側表面までの第2領域と、を含む。前記第1領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量を、前記第2領域における前記少なくとも1種の添加元素の含有量よりも多くする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐酸性が高く、かつ漏れ電流を十分に低減し得る電解コンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る誘電体層を有する多孔質部の一部を拡大して示す断面模式図(A)と、破線Xで囲まれた部分の拡大図(B)である。
【
図2】本発明の別の実施形態に係る誘電体層を有する多孔質部の一部を拡大して示す断面模式図(A)と、破線Yで囲まれた部分の拡大図(B)である。
【
図4】電解コンデンサが具備する捲回体の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る誘電体層において、外側表面からの距離と、添加元素である窒素の含有量との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例1に係る誘電体層において、外側表面からの距離と、添加元素である炭素の含有量との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例2に係る誘電体層において、外側表面からの距離と、添加元素であるリンの含有量との関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施例3に係る誘電体層において、外側表面からの距離と、添加元素であるリンの含有量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態に係る電解コンデンサ用電極箔は、多孔質部を有する金属箔と、多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層とを備える。また、本実施形態に係る電解コンデンサは、上記金属箔を陽極体として有し、かつ誘電体層を覆う陰極部とを備える。以下、多孔質部を有する金属箔と陽極体とを区別せずに、いずれも陽極体と称することがある。
【0013】
陽極体は、例えば、芯材部と多孔質部との一体化物である。陽極体は、例えば、第1金属で形成された金属箔の一部にエッチングなどを施すことにより得られる。よって、金属骨格は第1金属を含む。多孔質部は、エッチングにより多孔質化された金属箔の部分であり、金属箔の残部(多孔質部以外の部分)が芯材部である。
【0014】
金属骨格とは、多孔質部における微細構造を有する金属部分をいう。多孔質部は、金属骨格で囲まれたピットもしくは細孔を有する。誘電体層は、金属骨格の表面の少なくとも一部を覆うように設けられている。
【0015】
誘電体層は、金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を有する。第1金属とは異なる第2金属の酸化物を誘電体層に含ませる場合、例えば、第1金属の制限を受けずに、誘電率の高い第2金属を選択することができる。よって、電解コンデンサの容量を向上させやすくなる。また、第2金属の選択の幅が広がるため、第1金属の制限を受けずに誘電体層に様々な性能を付与し得るようになる。
【0016】
ここで、第1層は、炭素(C)、リン(P)、ホウ素(B)および窒素(N)からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含む。添加元素は、第1層の陰極部側の表面から少なくとも0.05×T1の深さの領域まで分布している。これにより、誘電体層に十分な耐酸性を付与し得るようになり、かつ漏れ電流を十分に低減し得るようになる。第1層は、第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む誘電体で形成されている。第2金属は、高誘電率の誘電体を形成し得るが、その形成過程において、漏れ電流の増大の原因となる誘電体層の欠陥を生じ易い。添加元素が欠陥に入り込むことで誘電体層に耐酸性が付与され、漏れ電流の増大を抑制できる。
【0017】
なお、第1層の陰極部側の外側表面から0.001×T1の深さまでの最表層部において添加元素が検出される場合でも、そのような添加元素は誘電体層に定着しにくく、耐酸性を高めたり、漏れ電流を低減したりする効果はほとんど期待できない。
【0018】
第1層を、陰極部側の外側表面から第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、前記中心から金属骨格側の表面までの第2領域とに区分するとき、添加元素は、第2領域よりも第1領域に多く含まれている。換言すれば、添加元素は第1層の陰極部側に偏在している。誘電体層は陰極層側から、例えば電解液中の酸性成分による影響を受けやすいため、添加元素を第1層の陰極部側に偏在させることで、十分な耐酸性を誘電体層に付与しやすくなり、漏れ電流を低減しやすくなる。なお、誘電体層の耐酸性を向上させ、かつ漏れ電流を十分に抑制し得る量の添加元素を第1層内に均一に分布させる場合、添加元素が不純物として作用しやすく、電極箔の容量低下や、漏れ電流の増大が生じ得る。
【0019】
第1領域において、第1層の陰極部側の外側表面から0.05×T1の深さD1と第1層の陰極部側の外側表面から0.3×T1の深さD2との間の領域における添加元素の最大の濃度は、第1層の陰極部側の外側表面から0.75×T1の深さD3における添加元素の濃度の2倍以上であってもよい。このように添加元素を第1層の陰極部側に偏在させることで、誘電体層の耐酸性を更に向上させやすくなり、漏れ電流を更に低減しやすくなる。
【0020】
第1領域において、第1層の陰極部側の表面から0.05×T1の深さD1と第1層の陰極部側の表面から0.3×T1の深さD2との間の領域における添加元素の最大の濃度は、第1層の陰極部側の表面から0.75×T1の深さD3における添加元素の濃度の3倍以上であってもよい。これにより、誘電体層の耐酸性がより一層向上し、漏れ電流がより一層低減する。
【0021】
添加元素の分布もしくは濃度は、誘電体層もしくは第1層の断面の分析、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いた元素マッピング、グロー放電発光分析(GD-OES)による皮膜深さ方向の分析等により測定できる。
【0022】
なお、通常は、添加元素を第1層の例えば中心部にまで侵入させることは困難であり、第1層の陰極部側の外側表面から0.75×T1の深さにおける添加元素の濃度は、ほぼゼロである。よって、例えば、第1層の陰極部側の外側表面から0.05×T1の深さにおける添加元素の濃度が、外側表面から0.75×T1の深さにおける添加元素の濃度の0.95倍から1.05倍である場合(すなわち、最表層部と濃度が概ね同じである場合)には、最表層部で大気等から混入した不純物が検出されていると考えられる。この場合、実質的には第1層に添加元素が含まれていない(すなわち、第1層における添加元素濃度は全体的にゼロ)と見なすことができる。
【0023】
金属骨格と第1層との間に、第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を有してもよい。第2層は、例えば、陽極体の多孔質部を化成することにより形成し得る。この場合、第1金属として、化成に適した弁作用金属が好ましく用いられる。第2層は、第1金属の酸化物と第2金属の酸化物との複合酸化物を含んでもよい。第2層を形成することで、第1層に欠陥が存在する場合でも欠陥が補修され得る。よって、誘電体層の耐酸性がより一層向上し、漏れ電流がより一層低減する。
【0024】
第1層の厚さT1と第2層の厚さT2とは、T1≧2×T2を満たしてもよく、T1≧3×T2を満たしてもよい。このように第1層の厚さを相対的に大きくすることで、例えば、誘電率の高い第2金属を選択する場合には、電解コンデンサの容量を顕著に向上させることができる。
【0025】
第1金属は、例えば、アルミニウム(Al)を含んでもよい。このとき、第2金属は、例えば、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0026】
上記電解コンデンサ用電極箔は、例えば、(i)多孔質部を有する金属箔を準備する工
程と、(ii)多孔質部を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層を形成する工程とを備える方法により製造される。電解コンデンサは、上記工程(i)、(ii)に加え、(iii)誘電体層を覆う陰極部を形成する工程を備える方法により製造される。
【0027】
工程(i)
多孔質部を有する金属箔(陽極体)を準備する工程(i)は、例えば、第1金属を含む
金属箔にエッチングを施して金属箔を粗面化する工程であり得る。粗面化により、金属箔の表面には複数のピットもしくは細孔が形成される。エッチングは、例えば、直流電流による直流エッチングまたは交流電流による交流エッチングにより行われ得る。
【0028】
第1金属の種類は特に限定されないが、化成による第2層の形成が容易である点から、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)などの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用い得る。また、有効に多孔質部を形成するために金属箔に銅(Cu)を含有させてもよい。金属箔の厚さは特に限定されないが、例えば、15μm以上、400μm以下である。
【0029】
金属箔の表面に形成されるピットもしくは細孔の孔径は、特に限定されないが、表面積を大きくするとともに誘電体層を多孔質部の深部にまで形成する観点から、例えば50nm~2000nmとすればよい。孔径は、例えば水銀ポロシメータで測定される細孔分布の最頻度孔径である。多孔質部の厚さは、特に限定されず、金属箔の厚さに応じて適宜設定すればよいが、例えば、陽極体の厚さの1/10以上、4/10以下とすればよい。多孔質部の厚さDは、陽極体の断面の電子顕微鏡写真における任意の10点の平均値として求めればよい。以下、誘電体層の厚さ、すなわち第1層および第2層の厚さも同様にして算出され得る。
【0030】
工程(ii)
誘電体層を形成する工程(ii)は、例えば、(A)気相法により、金属骨格の表面に第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含む厚さT1の第1層を形成するステップを有する。
【0031】
第2金属としては、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)などが挙げられる。これらは、単独で、あるいは2種以上組み合わされてもよい。すなわち、第1層には、Al2O3、Ta2O5、Nb2O5、SiO2、TiO2、ZrO2、HfO2などが単独で、あるいは2種以上含まれ得る。第1層が2種以上の第2金属の酸化物を含む場合、2種以上の酸化物が混在していてもよいし、それぞれが層状に配置されていてもよい。電解コンデンサの容量を増加させる観点からは、第2金属の酸化物が第1金属の酸化物よりも高い比誘電率を有することが好ましい。また、電解コンデンサの耐電圧を向上させる観点からは、第2金属は、タンタル(Ta)
、
チタン(Ti)、ケイ素(Si)などであることが好ましい。
【0032】
気相法としては、例えば、真空蒸着法、化学蒸着法、ミスト蒸着法、スパッタ法、パルスレーザ堆積法、原子層堆積法(AtomicLayer Deposition:ALD法)などが選択され得る。中でも、ALD法が、多孔質部の深部にまで緻密な誘電体層を形成し得る点で優れている。第1層の厚さは特に限定されないが、例えば、0.5nm以上、200nm以下であり、5nm以上、100nm以下であってもよい。
【0033】
図1(A)に、芯材部111と多孔質部112との一体化物である陽極体110と、多孔質部112を構成する金属骨格の表面を覆う誘電体層120とを具備する陽極箔10の一例を示す。
図1(A)は、誘電体層120として第1層121だけを有する多孔質部112の一部を拡大して示す断面模式図である。
【0034】
図1(A)に示すように、多孔質部112は、金属骨格で囲まれた多数のピット(もしくは細孔)Pを有する。誘電体層120(第1層121)は、金属骨格の表面の少なくとも一部を覆うように設けられている。第1層121は、金属骨格に含まれる第1金属とは異なる第2金属の酸化物を含み、その厚さはT1で示されている。
【0035】
ALD法は、対象物が配置された反応室に第2金属を含む原料ガスと酸化剤とを交互に供給して、対象物の表面に第2金属の酸化物を含む誘電体層(第1層)を形成する製膜法である。ALD法では、自己停止(Self-limiting)作用が機能するため、第2金属は原子層単位で対象物の表面に堆積する。そのため、原料ガスの供給→原料ガスの排気(パージ)→酸化剤の供給→酸化剤の排気(パージ)を1サイクルとしたサイクル数により、第1層の厚さは制御される。つまり、ALD法は、形成される誘電体層の厚さを容易に制御し得る。
【0036】
なお、一般的に400~900℃の温度条件で行われるCVDに対して、ALD法は100~400℃の温度条件で行い得る。つまり、ALD法は、金属箔への熱的ダメージを抑制し得る点で優れている。
【0037】
ALD法で用いる酸化剤としては、例えば、水、酸素、オゾンなどが挙げられる。酸化剤は、酸化剤を原料とするプラズマとして反応室に供給されてもよい。
【0038】
第2金属は、第2金属を含むプリカーサ(前駆体)のガスとして反応室に供給される。プリカーサは、例えば、第2金属を含む有機金属化合物であり、これにより、第2金属は対象物に化学吸着し易くなる。プリカーサとしては、従来、ALD法で用いられている各種の有機金属化合物を使用することができる。
【0039】
Alを含むプリカーサとしては、例えば、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)等が挙げられる。Zrを含むプリカーサとしては、例えば、ビス(メチル-η
5
-シクロペンタジエニル)メトキシメチルジルコニウム(Zr(CH3C5H4)2CH3OCH3)、テトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(IV)([(CH3)2N]4Zr)、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(IV)(Zr(NCH3C2H5)4)、ジルコニウム(IV)t-ブトキシド(Zr[OC(CH3)3]4)等が挙げられる。Nbを含むプリカーサとしては、例えば、ニオブ(V)エトキシド(Nb(OCH2CH3)5、トリス(ジエチルアミド)(t-ブチルイミド)ニオブ(V)(C16H39N4Nb)等が挙げられる。
【0040】
Taを含むプリカーサとしては、例えば、(t-ブチルイミド)トリス(エチルメチルアミノ)タンタル(V)(C13H33N4Ta、TBTEMT)、タンタル(V)ペンタエトキシド(Ta(OC2H5)5)、(t-ブチルイミド)トリス(ジエチルアミノ)タンタル(V)((CH3)3CNTa(N(C2H5)2)3)、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル(V)(Ta(N(CH3)2)5)等が挙げられる。
【0041】
Nbを含むプリカーサとしては、例えば、ニオブ(V)エトキシド(Nb(OCH2C
H3)5、トリス(ジエチルアミド)(t-ブチルイミド)ニオブ(V)(C16H39N4Nb)等が挙げられる。
【0042】
Siを含むプリカーサとしては、例えば、N-sec-ブチル(トリメチルシリル)アミン(C7H19NSi)、1,3-ジエチル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン(C8H23NSi2)、2,4,6,8,10-ペンタメチルシクロペンタシロキサン((CH3SiHO)5)、ペンタメチルジシラン((CH3)3SiSi(CH3)2H)、トリス(イソプロポキシ)シラノール([(H3C)2CHO]3SiOH)、クロロペンタンメチルジシラン((CH3)3SiSi(CH3)2Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリジメチルアミノシラン(Si[N(CH3)2]4)、テトラエチルシラン(Si(C2H5)4)、テトラメチルシラン(Si(CH3)4)、テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)、ドデカメチルシクロヘキサシラン((Si(CH3)2)6)、四塩化ケイ素(SiCl4)四臭化ケイ素(SiBr4)等が挙げられる。
【0043】
Tiを含むプリカーサとしては、例えば、ビス(t-ブチルシクロペンタジエニル)チタン(IV)ジクロライド(C18H26
Cl
2
Ti)、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン(IV)([(CH3)2N] 4Ti、TDMAT)、テトラキス(ジエチルアミノ)チタン(IV)([(C2H5)2N]4Ti)、テトラキス(エチルメチルアミノ)チタン(IV)(Ti[N(C2H5)(CH3)]4)、チタン(IV)(ジイソプロポキサイド-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート(Ti[OCC(CH3)3CHCOC(CH3)3] 2(OC3H7)2)、四塩化チタン(TiCl4)、チタン(IV)イソプロポキシド(Ti[OCH(CH3)2]4)、チタン(IV)エトキシド(Ti[O(C2H5)]4)等が挙げられる。
【0044】
Zrを含むプリカーサとしては、例えば、ビス(メチル-η5シクロペンタジエニル)メトキシメチルジルコニウム(Zr(CH3C5H4)2CH3OCH3)、テトラキス(ジメチルアミド)ジルコニウム(IV)([(CH3)2N]4Zr)、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(IV)(Zr(NCH3C2H5)4)、ジルコニウム(IV)t-ブトキシド(Zr[OC(CH3)3]4)等が挙げられる。
【0045】
Hfを含むプリカーサとしては、例えば、ハフニウムテトラクロライド(HfCl4)、テトラキスジメチルアミノハフニウム(Hf[N(CH3)2]4)、テトラキスエチルメチルアミノハフニウム(Hf[N(C2H5)(CH3)]4)、テトラキスジエチルアミノハフニウム(Hf[N(C2H5)2]4)、ハフニウム-t-ブトキシド(Hf[OC(CH3)3]4)等が挙げられる。
【0046】
次に、誘電体層を形成する工程(ii)は、(B)第1層の金属骨格側とは反対側の外側表面から少なくとも0.05×T1の深さまで炭素、リン、ホウ素および窒素からなる群より選択される少なくとも1種の添加元素を含ませるステップを含む。ただし、ステップ(B)では、第1層を、外側表面から第1層の厚さ方向の中心までの第1領域と、中心から金属骨格側の表面までの第2領域とに区分するとき、添加元素を第2領域よりも第1領域に多く含ませる。
【0047】
ステップ(B)は、第1層に添加元素を付着させた後、第1層を180℃以上に加熱することを含んでもよい。加熱により、第2金属の酸化物に付着した添加元素がより多く第1層に定着するとともに、第1層のより深部にまで適度に拡散する。第1層に添加元素を付着させるには、例えば、添加元素を含む水溶液に誘電体層を有する陽極体を浸漬すればよい。誘電体層を有する陽極体に、蒸着等の気相法で添加元素を付着させてもよい。添加元素をより拡散させるためには、加熱温度は250℃以上が好ましい。
【0048】
添加元素を含む水溶液は、添加元素を含む化合物の水溶液であればよく、例えば、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、セバシン酸、酒石酸などのC(炭素)を含むカルボン酸、アジピン酸2アンモニウムなどのアンモニウム塩などのN(窒素)を含む化合物、リン酸、リン酸アンモニウム、ホスホン酸、ホスフィン酸などのP(リン)を含む化合物、ホウ酸、ホウ酸アンモニウムなどのB(ホウ素)を含む化合物などを用い得る。
【0049】
第1層に添加元素を含ませるステップ(B)は、添加元素を含む水溶液(もしくは添加元素を含む化合物の水溶液)中で、第1層を有する陽極体に電圧を印可した後、第1層を180℃以上に加熱することを含んでもよい。水溶液中で陽極体に電圧を印加することで、第1層に含まれる第2金属の酸化物に、より強固に添加元素が定着する。また、第1金属部分側とは反対側の表面の近傍に添加元素を偏在させやすくなる。また、第1層に添加元素を偏在させる時間を短縮させるために、ピーク温度を250℃以上、更には300℃以上に設定して加熱するのが好ましい。
【0050】
ここで、
図1(B)は、
図1(A)の破線Xで囲まれた部分の拡大図である。添加元素は、少なくとも、第1層121の陰極部側の外側表面S1から0.05×T1の深さまでの領域(すなわち、陰極近傍領域R
0.1)
に分布している。また、第1層121を陰極部側の外側表面S1から第1層121の厚さ方向の中心までの第1領域R1と、中心から金属骨格側の表面S2までの第2領域R2とに区分するとき、添加元素は第2領域R2よりも第1領域R1に多く含まれている。なお、
図1(B)では、第1層121の厚さ方向の中心を中心線C
0で示す。
【0051】
上記電解コンデンサ用電極箔を製造する方法は、更に、第1層を有する陽極体を化成(陽極酸化)する工程を有してもよい。これにより、第1金属を含む金属骨格と第2金属の酸化物を含む第1層との間に、第1金属の酸化物を含む厚さT2の第2層を形成することができる。厚さT2は、化成の際に陽極体に印加する電圧により制御し得る。
【0052】
図2(A)に、誘電体層120として第1層121と第2層122とを有する多孔質部112の一部を拡大して断面模式図で示す。
図2(B)は、
図2(A)の破線Yで囲まれた部分の拡大図である。
図2において、
図1と対応する構成要素には
図1と同様の符号を付している。
【0053】
図2(A)に示すように、誘電体層120は、金属骨格側から順に、第2層122と第1層121とを有する。第1層121の厚さはT1で、第2層の厚さはT2で示されている。ここでも、添加元素は、少なくとも、第1層121の陰極部側の表面S1から0.05×T1の深さまでの陰極近傍領域R
0.1に分布し、かつ第1層121の第2領域R2よりも第1領域R1に多く含まれている。
【0054】
ALD法によれば、薄く均一な誘電体層(第1層)が形成され得る。しかし、実際には多孔質部が有するピットの深部の表面においては、ピンホールの様なマクロな欠陥や、格子欠陥の様な微細欠陥を有する場合がある。第2層を形成する際に、イオン化した第1金属が第1層にまで拡散し、第1層の欠陥を修復する作用を有する。その結果、全体としては、ピンホール等の欠陥の低減された均一な厚さを備える誘電体層が形成される。よって、電解コンデンサの容量が増大するとともに、陽極体の自然電位が上がり、耐電圧性が向上する。
【0055】
第2層の厚さT2は特に限定されないが、第1層の厚さT1よりも小さくてもよい。第2層の厚さT2は、例えば、0.5nm以上、200nm以下であり、5nm以上、100nm以下であってもよい。
【0056】
第1層の厚さT1と第2層の厚さT2との比は、特に限定されず、用途および所望の効果等に応じて適宜設定すればよい。例えば、厚さの比:T1/T2は、1以上であってもよいし、2以上でもよいし、3以上でもよいし、5以上でもよい。
【0057】
ここで、多孔質部の厚み方向において多孔質部を、金属芯部側から順に、第1領域、第2領域および第3領域に3等分割するとき、第1領域の空隙率P1、第2領域の空隙率P2および第3領域の空隙率P3は、P1<P2<P3を満たすことが好ましい。すなわち、陽極体の外側表面に近づくほど多孔質部の空隙率が大きくなっている。この場合、十分量の添加元素を第1層に添加することが更に容易となる。上記関係が満たされる場合、ピットの入口が誘電体層で塞がれにくく、添加元素の多孔質部への侵入が良好に進行する。
【0058】
一方、多孔質部の深部(例えば第1領域)では、空隙率が比較的小さく、エッチングピットのピット径(もしくは細孔径)が相対的に小さくなっている。換言すれば、多孔質部の深部では、微小な細孔が多く存在し、大きな表面積が確保されている。よって、陽極体の外側表面近傍(例えば第3領域)における表面積が相対的に小さい場合でも、十分に大きな静電容量を確保しやすくなる。
【0059】
多孔質部の空隙率は、以下の方法で測定すればよい。
まず、陽極体の金属芯部と多孔質部の厚さ方向の断面が得られるように陽極体を切断し、断面の電子顕微鏡写真を撮影する。次に、画像を二値化して、金属骨格と空隙とを区別する。次に、陽極体の表面側から金属芯部側に向かって、陽極体の厚さ方向と平行な経路に沿って、画像を複数(例えば0.1μm間隔)に分割し、分割後の各部の空隙率の平均値を空隙率として算出する。算出値を利用すれば、陽極体の表面からの距離と、空隙率との関係を示すグラフを描くことができる。第1領域、第2領域および第3領域において、等間隔に任意の位置での空隙率を複数抽出し、それらの平均値からP1、P2およびP3を算出すればよい。
【0060】
P2およびP3は、P2×1.1≦P3を満たしてもよく、P2×1.2≦P3を満たしてもよい。また、P1およびP2は、P1×1.05≦P2を満たしてもよく、P1×1.1≦P2を満たしてもよい。
【0061】
P1~P3は、P2/P1<P3/P2を満たしてもよく、1.05×P2/P1<P3/P2を満たしてもよく、1.3×P2/P1<P3/P2を満たしてもよい。P1は、例えば30%以上であればよい。P2は、例えば40%以上であればよく、50%以上であってもよい。また、P3は60%以上であってもよい。この場合、原子層堆積法のような気相法で誘電体層を形成する場合に、金属多孔質部の深部への誘電体層の原料ガスの拡散性が向上する。ただし、陽極体の十分な強度を確保する観点からは、P3が80%以下であることが好ましく、P2は70%以下が好ましく、P1は60%以下が好ましい。
【0062】
工程(iii)
誘電体層を覆う陰極部を形成する工程(iii)では、例えば、誘電体層を有する陽極体に電解液を含浸させ、および/または、誘電体層の表面に固体電解質層を形成すればよい。固体電解質層の形成および電解液の含浸の両方を行う場合、誘電体層に固体電解質層を形成した後、電解液の含浸を行えばよい。
【0063】
電解液としては、非水溶媒であってもよく、非水溶媒とこれに溶解させたイオン性物質(溶質(例えば有機塩))との混合物であってもよい。非水溶媒は、有機溶媒でもよく、イオン性液体でもよい。
【0064】
非水溶媒としては、高沸点溶媒が好ましい。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなとの多価アルコール類、スルホランなどの環状スルホン類、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、酢酸メチルなどのエステル類、炭酸プロピレンなどのカーボネート化合物、1,4-ジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、ホルムアルデヒドなどを用いることができる。
【0065】
有機塩とは、アニオンおよびカチオンの少なくとも一方が有機物を含む塩である。有機塩としては、例えば、マレイン酸トリメチルアミン、ボロジサリチル酸トリエチルアミン、フタル酸エチルジメチルアミン、フタル酸モノ1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、フタル酸モノ1,3-ジメチル-2-エチルイミダゾリニウムなどを用いてもよい。
【0066】
固体電解質層は、例えば、マンガン化合物、導電性高分子などを含む。導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびこれらの誘導体などを用いることができる。導電性高分子を含む固体電解質層は、例えば、原料モノマーを誘電体層上で化学重合および/または電解重合することにより形成し得る。固体電解質層は、導電性高分子が溶解した溶液または導電性高分子が分散した分散液を誘電体層に付着させることにより形成してもよい。
【0067】
誘電体層を有する陽極体が、
図1、2に示すような陽極箔である場合、陰極部を形成する前に、
図4に示すような捲回体100を作製してもよい。
図4は、捲回体100の構成を説明するための展開図である。
【0068】
捲回体100を作製する場合、陽極箔10に加え、陰極箔20を準備する。陰極箔20には、陽極箔10と同様に金属箔を用いることができる。陰極箔20を構成する金属の種類は特に限定されないが、Al、Ta、Nbなどの弁作用金属または弁作用金属を含む合金を用い得る。必要に応じて、陰極箔20の表面を粗面化してもよい。
【0069】
次に、陽極箔10と陰極箔20とをセパレータ30を介して捲回する。陽極箔10と陰極箔20には、それぞれリードタブ50Aまたは50Bの一方の端部が接続されており、リードタブ50Aおよび50Bを巻き込みながら捲回体100が構成される。リードタブ50Aおよび50Bの他方の端部には、リード線60Aおよび60Bがそれぞれ接続されている。
【0070】
セパレータ30は特に限定されず、例えば、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、アラミド繊維などを主成分とする不織布を用いることができる。
【0071】
次に、捲回体100の最外層に位置する陰極箔20の外側表面に、巻止めテープ40を配置し、陰極箔20の端部を巻止めテープ40で固定する。なお、陽極箔10を大判の箔から裁断して準備した場合には、裁断面に誘電体層を設けるために、捲回体100に対して更に化成処理を行ってもよい。
【0072】
捲回体100に電解液、導電性高分子が溶解した溶液、および/または、導電性高分子が分散した分散液を含浸させる方法は、特に限定されない。例えば、容器に収容された電解液、溶液または分散液に、捲回体100を浸漬させる方法、電解液、溶液または分散液を捲回体100に滴下する方法などを用い得る。含浸は、減圧下、例えば10kPa~100kPa、好ましくは40kPa~100kPaの雰囲気で行ってもよい。
【0073】
次に、捲回体100を封止することにより、
図3に示すような電解コンデンサ200が得られる。電解コンデンサ200を製造するには、まず、リード線60A、60Bが有底ケース211の開口側に位置するように、捲回体100を有底ケース211に収納する。有底ケース211の材料としては、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属あるいはこれらの合金を用いることができる。
【0074】
次に、リード線60A、60Bが貫通するように形成された封止部材212を、捲回体100の上方に配置し、捲回体100を有底ケース211内に封止する。封止部材212は、絶縁性物質であればよく、弾性体が好ましい。中でも耐熱性の高いシリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、ハイパロン(商標)ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴムなどが好ましい。
【0075】
次に、有底ケース211の開口端近傍に、横絞り加工を施し、開口端を封止部材212にかしめてカール加工する。最後に、カール部分に座板213を配置することによって、封止が完了する。その後、定格電圧を印加しながら、エージング処理を行ってもよい。
【0076】
上記の実施形態では、捲回型の電解コンデンサについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、他の電解コンデンサ、例えば、積層型の電解コンデンサにも適用することができる。
【0077】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0078】
《実施例1》
本実施例では、化成電圧65Vのアルミ電解コンデンサ用電極箔を作製した。以下に、電解コンデンサ用電極箔の具体的な製造方法について説明する。
【0079】
(陽極箔の作製)
厚さ120μmのAl箔を準備した。塩酸に硫酸を添加した水溶液中で、Al箔に交流エッチング処理を行い、表面を粗面化し、多孔質部を形成した。Al箔の表面には、厚さ40μmの多孔質部が形成されており、そのピットの孔径は100~200nmであった。
【0080】
第1領域R1の空隙率P1、第2領域R2の空隙率P2、第3領域R3の空隙率P3は、それぞれ50%、55%および70%であり、P1<P2<P3を満たしていた。また、P2/P1=1.10、P3/P2=1.27であり、P2/P1<P3/P2を満たしていた。この陽極体を用いたこと以外、実施形態と同様に電極箔を作製し、同様に評価した。
【0081】
次いで、ALD法(温度:200℃、プリカーサ:(t-ブチルイミド)トリス(エチルメチルアミノ)タンタル(V)(C13H33N4Ta、TBTEMT)、酸化剤:H2O、圧力:10Pa、3000サイクル)により、多孔質部を構成するAl骨格の表面に、誘電体層(第1層)としてTaを含む酸化物を形成した。
【0082】
続いて、Al箔に化成処理を施して、Al骨格と第1層との間にAlの酸化物を含む第2層を形成し、電極箔を得た。化成処理は、アジピン酸2アンモニウム水溶液(アジピン酸アンモニウム濃度10質量%)に第1層を有するAl箔を浸漬し、これに65Vの電圧を印加することにより行った。化成電圧約65Vに到達してからの印加時間は、5分(実施例1A)と15分(実施例1B)の2条件で実施した。その後、250℃で10分、空気中で加熱し、誘電体層に添加元素としてアンモニウムイオンに由来する窒素とアジピン酸に由来する炭素を導入した。その後、電極箔を所定形状に裁断した。
【0083】
GD-OESによる元素分析の結果、第1層(厚さ:約80nm)には、Ta2O5が含まれており、第2層(厚さ:約10nm)にはAl2O3が含まれていた(T1=8×T2)。但し、第1層と第2層の境界部分は、Ta2O5とAl2O3との混在層であった。
【0084】
第1層の金属骨格側とは反対側の外側表面から0.05×T1の深さD1と第1層の金属骨格側とは反対側の外側表面から0.3×T1の深さD2と間の領域における添加元素としての窒素(N)の最大の濃度は、第1層の外側表面から0.75×T1の深さD3における窒素(N)の濃度の2倍以上であった。
【0085】
図5に、第1層の陰極部側の表面からの距離(深さ)と、窒素元素の含有量との関係を示す。
図5より、第1層の陰極近傍領域に窒素元素が偏在している様子が確認できる。また、
図6に、第1層の外側表面からの距離(深さ)と、炭素元素の含有量との関係を示す。
図6より、第1層の陰極近傍領域に炭素元素が偏在している様子が確認できる。なお、窒素を導入するために化成電圧65Vを印加する保持時間が5分(実施例1A)であれば、窒素が検出され、保持時間を15分(実施例1B)に長くすると窒素量が増加した。
【0086】
[評価]
得られた電極箔について、静電容量および漏れ電流を測定した。漏れ電流は、0.2V/秒のレートで昇圧しながら電圧を印加し、60Vまでに流れる漏れ電流の積算値を測定した。また、耐酸性(劣化試験)として、35℃の酸性水溶液中に60分浸漬(劣化)後に上記と同じ測定方法で漏れ電流を測定して、耐酸性を評価した。評価結果を表1に示す。表1には、比較例1の結果を100とした場合の各相対値を示す。
【0087】
《比較例1》
Al骨格と第1層との間にAlの酸化物を含む第2層を形成した後、電極箔を十分に蒸留水で洗浄した。その後、電極箔を所定形状に裁断した。この点以外、実施例1と同様に電解コンデンサを作製した。
【0088】
《実施例2》
Al骨格と第1層との間にAlの酸化物を含む第2層を形成する際、正リン酸水溶液(正リン酸濃度0.05質量%)に第1層を有するAl箔を浸漬し、これに65Vの電圧を印加することにより化成処理を行った。その後、250℃で15分、空気中で加熱し、誘電体層に添加元素としてリン酸イオンに由来するリンを導入した。その後、陽極箔を所定形状に裁断した。
【0089】
GD-OESによる元素分析の結果、第1層(厚さ:約80nm)には、Ta2O3が含まれており、第2層(厚さ:約10nm)にはAl2O3が含まれていた(T1=8×T2)。
【0090】
第1層の外側表面から0.05×T1の深さD1と第1層の外側表面から0.3×T1の深さD2と間の領域における添加元素としてのリン(P)の最大の濃度は、第1層の外側表面から0.75×T1の深さD3におけるリン(P)の濃度の18倍以上であった。
【0091】
図7に、第1層の外側表面からの距離(深さ)と、リン元素の含有量との関係を示す。
図7より、第1層の陰極近傍領域にリン元素が偏在している様子が確認できる。
【0092】
《比較例2》
Al骨格と第1層との間にAlの酸化物を含む第2層を形成した後、陽極箔を十分に純水で洗浄した。その後、陽極箔を所定形状に裁断した。
【0093】
《実施例3》
実施例1Aと同様に第1層を有するAl箔をアジピン酸アンモニウムで化成した後、更に加えて、リン酸アンモニウム水溶液(リン酸アンモニウム濃度0.005質量%)で、5分間、65Vの電圧を印加して、誘電体層に添加元素としてリン酸イオンに由来するリンを導入した。その後、250℃で15分、空気中で加熱しその後、更に陽極箔を所定形状に裁断した。
【0094】
GD-OESによる元素分析の結果、第1層(厚さ:約80nm)には、Ta2O5が含まれており、第2層(厚さ:約10nm)にはAl2O3が含まれていた(T1=8×T2)。
【0095】
第1層の金属骨格とは反対側の外側表面から0.05×T1の深さD1と第1層の金属骨格とは反対側の外側表面から0.3×T1の深さD2と間の領域における添加元素としてのリン(P)の最大の濃度は、第1層の陰極部側の表面から0.75×T1の深さD3におけるリン(P)の濃度の11倍以上であった。
【0096】
図8に、第1層の陰極部側の表面からの距離(深さ)と、リン元素の含有量との関係を示す。第1層の陰極近傍領域にリン元素が偏在している様子が確認できる。窒素および炭素の各元素についても
図5、6と同様に確認できた。
【0097】
《比較例3》
Al骨格と第1層との間にAlの酸化物を含む第2層を形成した後、陽極箔を十分に純水で洗浄した。その後、陽極箔を所定形状に裁断した。
【0098】
【0099】
実施例1、2、3では、比較例1、2、3と比較して静電容量は向上していた。熱処理により誘電体層の結晶化が促進されたためと考えられる。一方、誘電体層の結晶化が促進されると漏れ電流が増大する可能性があるが、実施例1、2、3では添加元素により、比較例1、2、3と比較して漏れ電流が低減し、耐酸性が向上していた。更に、化成での保持時間が長くなると、漏れ電流が更に低減し、耐酸性が更に向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、耐酸性が高く、かつ漏れ電流を十分に低減し得る電解コンデンサを得ることができる。
【符号の説明】
【0101】
10:陽極箔、20:陰極箔、30:セパレータ、40:巻止めテープ、50A、50B:リードタブ、60A、60B:リード線、100:捲回体、110:陽極体、111:芯材部、112:多孔質部、120:誘電体層、121:第1層、122:第2層、200:電解コンデンサ、211:有底ケース、212:封止部材、213:座板