(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】表皮老化細胞の排除促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240719BHJP
A61K 36/73 20060101ALI20240719BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240719BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240719BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/73
A61P43/00 105
A61P43/00 107
A61Q19/08
A23L33/105 ZNA
(21)【出願番号】P 2020099575
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 寿
(72)【発明者】
【氏名】足立 浩章
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】野場 翔太
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519850(JP,A)
【文献】特開平07-017847(JP,A)
【文献】Age Recovery Organic Facial Oil,ID 2998397,Mintel GNPD[online],2015年2月,[検索日2024.04.11],https://www.portal.mintel.com
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K36/00
A23L33/00
CAPLUS/MEDLINE/KOSMET/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナナカマド
果実の
エタノール水溶液抽出物またはエタノール抽出物を有効成分として含有する、表皮老化細胞の排除促進剤。
【請求項2】
ナナカマド
果実の
エタノール水溶液抽出物またはエタノール抽出物を有効成分として含有する、表皮角化細胞におけるJAG1(jagged canonical Notch ligand 1)遺伝子の発現促進剤。
【請求項3】
ナナカマド
果実の
エタノール水溶液抽出物またはエタノール抽出物を有効成分として含有する、表皮における細胞競合活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮老化細胞の排除促進剤、表皮角化細胞におけるJAG1遺伝子の発現促進剤、及び表皮における細胞競合活性化剤、ならびにこれらの剤を含む皮膚の老化及び損傷の改善又は予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮は、皮膚の最も外側にある組織であり、外界から身体を防御する重要な役割を担っている。ヒトの表皮は主に表皮角化細胞(ケラチノサイト)により構成され、メラニン色素を産出するメラノサイト、抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞、触覚に関係するメルケル細胞なども含まれる。この表皮の大部分を構成する表皮角化細胞は、表皮の最下層である基底層で分裂し、成熟するにしたがって上方の層へ分化しながら移行し、角化してやがて剥がれ落ちる(角質化)。このような基底層からの分化パターンの違いから、表皮は成熟段階の異なる複数の層(基底層、有棘層、顆粒層、角質層)により構成される。
【0003】
表皮細胞は基底層から角質層へ押し上げられるターンオーバーにより、周期的に細胞が生まれ変わることで、表皮の恒常性を維持している。一方、紫外線や加齢などの様々な要因でダメージを受けた老化細胞は表皮に滞留することで炎症性サイトカインなどを放出し、表皮幹細胞の分化の抑制など、表皮の恒常性維持に悪影響を及ぼすことが知られている(非特許文献1)。表皮は紫外線や活性酸素によって日々、障害を受ける可能性がある組織であり、表皮の恒常性を維持するために、ダメージを受けた老化細胞はいち早く表皮組織から除去される必要があると考えられる。
【0004】
近年の研究では、イヌ腎臓上皮などにおいて、遺伝子変異が生じた細胞に対して、周囲の正常な細胞が働きかけ、その遺伝子変異が生じた細胞を除去する機構が明らかとなっている(非特許文献2)。このような、同種の細胞集団の中で、適応度の低い特定の細胞を、その細胞集団から積極的に排除する現象は「細胞競合」と呼ばれている。皮膚における細胞競合現象にも関心が寄せられており、表皮幹細胞におけるCOL17A1の発現量の違いにより細胞競合が起こり、細胞競合の減弱により皮膚の老化が促進されることが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
一方、Notchシグナルは隣接する細胞間で起こる相互作用のシグナルであり、神経組織はじめ多くの組織の発生過程で重要な働きをする。細胞表面に発現しているレセプタータンパク質Notchは、表皮においては表皮細胞の分化と増殖に関与することが知られている(非特許文献4)。しかしながら、表皮における老化細胞除去機構へのNotchの関与については詳細な解析には至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Rabeony H. et al., Inhibition of keratinocyte differentiation by the synergistic effect of IL-17A, IL-22, IL-1α, TNFα and oncostatin M. PLoS One. 2014 Jul 10;9(7)
【文献】Kajita M. et al., Filamin acts as a key regulator in epithelial defence against transformed cells. Nat Commun. 2014 Jul 31;5:4428.
【文献】Liu N. et al., Stem cell competition orchestrates skin homeostasis and ageing, Nature. 2019 Apr;568(7752):344-350.
【文献】Okuyama R. et al., Notch signaling : its role in epidermal homeostasis and in the pathogenesis of skin diseases.J Dermatol Sci. 2008 Mar;49(3):187-94.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表皮角化細胞の基底層から上層への移行においては、その分化の過程が重要であり、基底層に存在する表皮角化細胞に分化のシグナルが入ると上方の層へ分化しながら角化が進行する。このような分化のシグナルを伝えるメカニズムの1つにJAG1-NOTCHシグナリングが知られている。これまで表皮における老化細胞除去機構の研究で、NOTCHが紫外線等でダメージを受けた老化細胞で発現が亢進されること、また、老化細胞の周囲の正常細胞では細胞膜表面タンパク質であるJAG1が発現しており、このJAG1からNOTCHを介してシグナルを受けた隣接する老化細胞が分化し、表皮上層に移行して細胞が排除されるという知見が得られている。従って、表皮組織中の老化細胞の排出には、正常な表皮角化細胞におけるJAG1遺伝子の発現が重要である。
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑み、表皮角化細胞におけるJAG1遺伝子の発現を促進する物質を見出し、表皮組織から老化細胞を効率的に排除するための薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ナナカマドの抽出物が、表皮角化細胞におけるJAG1遺伝子の発現量を高めること、また、表皮角化細胞の分化の過程で正常細胞と競合して老化細胞を優先的に排除する作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)ナナカマドの抽出物を有効成分として含有する、表皮老化細胞の排除促進剤。
(2)ナナカマドの抽出物を有効成分として含有する、表皮角化細胞におけるJAG1(jagged canonical Notch ligand 1)遺伝子の発現促進剤。
(3)ナナカマドの抽出物を有効成分として含有する、表皮における細胞競合活性化剤。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の剤を含む、皮膚の老化及び損傷の改善又は予防用組成物。
(5)前記組成物が、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は飲食品である、(4)に記載の皮膚の老化及び損傷の改善又は予防用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紫外線や加齢によって損傷を受けた表皮老化細胞を、細胞競合により優先的に排除させることができる表皮老化細胞の排除促進剤が提供される。よって、本発明は、表皮基底層に蓄積した表皮老化細胞に起因する皮膚の老化及び損傷の改善又は予防に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の表皮老化細胞の排除促進剤、表皮角化細胞におけるJAG1遺伝子の発現促進剤、及び表皮における細胞競合活性化剤は、ナナカマドの抽出物を有効成分として含有する。
【0013】
本発明において用いるナナカマドは、バラ科ナナカマド属に属する落葉高木で、セイヨウナナカマド(学名:Sorbus aucuparia、和名:西洋七竈、英名:Rowan, Mountain ash)、ナナカマド(学名:Sorbus commixta、和名:七竈、英名:Japanese Rowan)が含まれるが、セイヨウナナカマドが好ましい。本発明において、ナナカマドの抽出物は、植物体全体、あるいは、葉、茎、花、芽、果実、種子、樹皮、根等の植物体の一部又はそれらの混合物の抽出物をいうが、果実の抽出物が好ましい。また、抽出には、これらの植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0014】
ナナカマドの抽出物の抽出方法は特に限定されず、例えば、連続抽出、浸漬抽出などが挙げられ、また、加熱抽出方法であっても良いし、常温や冷温抽出方法であっても良い。抽出に使用する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。これらの溶媒のなかでも、水、低級アルコール及び液状多価アルコールが好ましく、水、エタノールがより好ましい。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良く、例えば30~70v/v%のエタノール水溶液を使用することもできる。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0015】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記ナナカマド(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。より具体的には、ナナカマド果実に水を加え、95~100℃における熱水抽出を行うことで、ナナカマドの抽出物を得ることができる。あるいは、ナナカマド果実に低級アルコール(例えば、エタノール等)又は液状多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)を添加し、常温(例えば5~35℃)で抽出を行うことで、ナナカマドの抽出物を得ることができる。
【0016】
抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0017】
本発明において表皮角化細胞において発現が促進される「JAG1(jagged canonical Notch ligand 1)遺伝子」は、Notchシグナル伝達系を構成する遺伝子であり、Notchシグナル伝達受容体のリガンドとして機能するが、本発明においてJAG1遺伝子は、老化細胞排除遺伝子として機能する。JAG1遺伝子及びタンパク質の配列情報は、例えばヒトの場合は、GenBank number:Nucleotide NM_000214、Protein NP_000205として登録されている。
【0018】
「細胞競合」とは、組織中で近接する同種細胞間で相対的に環境適応度の高い細胞が低い細胞を集団から排除する現象をいい、たとえば、成長している組織において、適応度の高い細胞と低い細胞とが近接すると、適応度の低い細胞が敗者細胞として組織から排除されるとともに適応度の高い細胞が勝者細胞として増殖し、結果的に敗者細胞が勝者細胞に置き換えられる。本発明において活性化される表皮における細胞競合は、JAG1の発現が促進された正常細胞とNOTCHの発現が亢進された老化細胞との細胞競合であり、活性化の結果、老化細胞が分化(ターンオーバー)によって表皮上層へ排除されて除去される。
【0019】
本発明の表皮老化細胞の排除促進剤、表皮角化細胞におけるJAG1の発現促進剤、及び表皮における細胞競合活性化剤(以下、「本発明の剤」という)の有効成分である上記ナナカマドの抽出物は、表皮角化細胞におけるJAG1遺伝子の発現促進によって、Notchの発現亢進が認められる表皮老化細胞との細胞競合を活性化し、表皮老化細胞(ダメージ細胞)を優先的に排除することできる。よって、本発明の剤は、表皮基底層に蓄積した表皮老化細胞に起因する皮膚の老化及び損傷の改善又は予防に有効である。ここで、皮膚の老化及び損傷としては、限定はされないが、小じわ、シミ、くすみ、ハリやツヤの低下、肌荒れ、乾燥肌、敏感肌、角質肥厚、毛穴の開き、ひび、あかぎれ、皮脂欠乏症(乾皮症)、皮脂欠乏性湿疹、皮膚掻痒症、手湿疹、アトピー性皮膚炎、乾癬(紅斑、鱗屑、落屑を伴う)、熱傷や創傷の治癒の遅れなどが挙げられる。
【0020】
本発明の剤は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物を混合して種々の形態の製剤や組成物に配合し、上記皮膚の老化及び損傷の改善又は予防用組成物に配合することができる。組成物の形態としては、化粧品、医薬品、医薬部外品、飲食品が挙げられる。本発明の剤を、例えば、肌荒れ、乾燥肌、皮膚老化の改善や予防を目的として使用する場合は、化粧品等の皮膚外用組成物の形態とすることができる。また、本発明の剤を、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の治療や改善を目的として使用する場合は、医薬品の形態で使用することが好ましい。
【0021】
本発明の剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、上記ナナカマドの抽出物とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0022】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、ボディローション等が挙げられる。
【0023】
上記ナナカマドの抽出物を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0024】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0025】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調整剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0026】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0027】
本発明の医薬品を、上記の皮膚の老化及び損傷の治療、改善、又は予防するために用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0028】
本発明の化粧品、医薬部外品、医薬品の使用量又は投与量は、その種類や形態、使用又は投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、ナナカマドの抽出物として0.1~1000mg/日、好ましくは1~500mg/日、より好ましくは5~300mg/日の範囲で、それぞれ1日1回から数回行う。上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要がある場合もある。
【0029】
前記ナナカマドの抽出物を上記の化粧品、医薬部外品、医薬品に配合する場合、その含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、ナナカマドの抽出物の乾燥固形分に換算して、0.001~30重量%(w/w)が好ましく、0.01~10重量%(w/w)がより好ましい。0.001重量%(w/w)未満では効果が低く、また30重量%(w/w)を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0030】
また、上記ナナカマドの抽出物は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品が含まれる。飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0031】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0032】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0033】
本発明の飲食品における上記ナナカマドの抽出物の配合量は、表皮老化細胞排除促進作用、JAG1遺伝子の発現促進作用、表皮における細胞競合活性化作用を発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
ナナカマドの抽出物を以下のとおり製造した。
【0036】
[実施例1]
(製造例1)セイヨウナナカマド果実の熱水抽出物の調製
セイヨウナナカマド果実の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してセイヨウナナカマド果実の熱水抽出物を3.2g得た。
【0037】
(製造例2)セイヨウナナカマド果実の50%エタノール抽出物の調製
セイヨウナナカマド果実の乾燥物10gに200mLの50%(v/v)エタノール水溶液を加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してセイヨウナナカマド果実の50%エタノール抽出物を1.8g得た。
【0038】
(製造例3)セイヨウナナカマド果実の100%エタノール抽出物の調製
セイヨウナナカマド果実の乾燥物10gに200mLの100%エタノール水溶液を加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してセイヨウナナカマド果実の100%エタノール抽出物を0.8g得た。
【0039】
[実施例2]
(実験例1)セイヨウナナカマド抽出物による表皮角化細胞におけるJAG1遺伝子の発現促進効果
市販の正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ社製)を12well plateに1×104個ずつ播種し、Keratinocyte-SFM(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて3日間培養した。その際、実施例1で調製したセイヨウナナカマド果実の抽出物(製造例1~3)を最終濃度が10μg/mLになるように添加した。培養後、細胞を回収し、PBS(-)にて2回洗浄し、RNAiso Plus(タカラバイオ社製)を用いて細胞からRNAを抽出した。このRNAを、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてcDNAに逆転写した後、SYBR Select Master Mix(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてPCR反応(95℃、2分の初期変性を行った後、95℃;15秒間、60℃:60秒間を1サイクルとして40サイクル)を実施し、JAG1遺伝子発現量を測定した。プライマーとして下記のプライマーセットを用い、その他の操作は定められた方法に従った。
【0040】
JAG1用プライマーセット:
5'-TGTCACCAGGTCTTACTACGG-3'(配列番号1)
5'-CGCCTCTGAACTCTTACTTCTG-3'(配列番号2)
18S rRNA(内部標準)用プライマーセット:
5'-CCGAGCCGCCTGGATAC-3'(配列番号3)
5'-CAGTTCCGAAAACCAACAAAATAGA-3'(配列番号4)
【0041】
JAG1遺伝子の発現促進効果は、抽出物未添加群の表皮角化細胞におけるJAG1のmRNAの発現量を内部標準である18S ribosomal RNA(18S rRNA)の発現量に対する割合として算出したJAG1遺伝子相対発現量(JAG1遺伝子発現量/18S rRNA遺伝子発現量)を1とし、これに対し、抽出物添加群の表皮角化細胞におけるJAG1遺伝子の同相対発現量を算出して評価した。これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0042】
【0043】
表1に示されるように、JAG1遺伝子の発現量は、セイヨウナナカマド果実の抽出物を添加することにより、未添加群に比べて顕著に増加した。よって、ナナカマド抽出物はJAG1遺伝子の発現を高める作用を有することから、老化細胞の排除を促進する効果があることが示唆された。
【0044】
(実験例2)ナナカマド抽出物による老化細胞排除促進効果
(1)表皮細胞競合モデルの作製
ヒト表皮角化細胞に不死化遺伝子を導入し不死化させた細胞株に、蛍光遺伝子であるtdTomatoを導入することにより赤色蛍光を発する細胞にUVBを照射し、DNA損傷による老化を誘導した(UVB照射老化細胞)。照射条件は1回あたり20mJ/cm2で、計6日間毎日照射を行った。
【0045】
上記のUVBを照射して老化させた赤色蛍光を発するtdTomato発現細胞(UVB照射老化細胞)と非蛍光の正常細胞を、UVB照射老化細胞:正常細胞=1:100の比率で混合した細胞混合体を用いて、定法により三次元培養表皮を作製した。
【0046】
具体的には、上記細胞混合体を細胞増殖用培地(Keratinocyte-SFM;CELLnTEC社製)に分散させ、この細胞分散液を、液透過性膜を底面に有する培養インサート[ミリセルセルカルチャーインサート(24well plate用)]の底面に2×105細胞/cm2播種し、培養インサートの外部も同じ細胞増殖用培地で満たし、液透過性膜上の細胞が細胞増殖用培地中に浸漬した状態で2日間培養(培地量はインサート内400μL、インサート外1000μL)した。なお、液透過性膜によって、培養インサートの内部と外部とは培地が透過可能なように連通している状態を維持した。コンフルエントの状態であることを確認した後、培養インサートの内部及び外部の培地を除いた。
【0047】
次に、培養インサートの内部及び外部の培地を細胞分化用培地(CnT-Prime 3D barrier medium;CELLnTEC社製)に交換し(培地量はインサート内400μL、インサート外1000μL)、細胞混合体を8時間程度浸漬培養した後、培養インサートの内部及び外部のすべての培地をアスピレーターで除去し、インサート外部にのみ同細胞分化用培地を700μL添加し、培養インサート内部の細胞混合体は空気(大気)に曝露し、7日間培養して、重層化した表皮細胞に分化誘導させた。
【0048】
(2)老化表皮細胞の局在評価
(1)の分化誘導工程の空気に曝露する前、及び空気曝露開始から7日後において、培養インサートを取り出し、ガラスボトムディッシュの上に接着させ、蛍光顕微鏡(キーエンス社製)にてインサートの底面を観察した。取得画像については、静止画(1.739×2.065mm)の縦17枚×横19枚分に相当する連結画像を作成し、培養インサートの底面の全体を捉えることができる像を作製した。次に、最も底面に位置し、tdTomatoに由来する赤色蛍光を発している蛍光細胞の数を目視で計測した。培養初期に播種した蛍光細胞の総数から、培養後にインサート底面に存在する蛍光細胞の数を減算することによって、排除された(基底層から離脱した)細胞の割合(%)を算出した。本試験ではこの数値を細胞排除率として表す。結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
表2に示すように、空気曝露7日後における、ナカマド抽出物を添加して作製した培養表皮モデル中の老化細胞は、未添加と比べて老化細胞の排除が促進されていることが示された。以上より、ナナカマド抽出物は表皮組織の老化細胞の排除を促進する作用を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の表皮老化細胞の排除促進剤は、細胞競合によって表皮基底層に蓄積した老化細胞を効率よく生体外に排除することによって、若さと恒常性を維持した皮膚へと導くことができる。よって、本発明は、皮膚の老化及び損傷の改善又は予防を目的とした化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品の製造分野において利用できる。
【配列表】