IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本メナード化粧品株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】老化細胞の排除促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20240719BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240719BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 36/73 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240719BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/08
A61Q19/00
A61Q19/02
A61K36/73
A61P17/00
A61P17/02
A61P17/16
A61P37/04
A61P43/00 107
A61P43/00 105
A23L33/105 ZNA
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020100422
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021195305
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大形 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】野場 翔太
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519850(JP,A)
【文献】特開平07-017847(JP,A)
【文献】Age Recovery Organic Facial Oil,ID 2998397,Mintel GNPD[online],2015年2月,[検索日2024.04.18],https://www.portal.mintel.com
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K36/00
A23L33/00
CAPLUS/MEDLINE/KOSMET/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナナカマド果実エタノール水溶液抽出物またはエタノール抽出物を有効成分として含有する、マクロファージの貪食能促進による老化細胞の排除促進剤。
【請求項2】
前記老化細胞が真皮老化細胞である、請求項1に記載の老化細胞の排除促進剤。
【請求項3】
マクロファージにおけるSTAB1(Stabilin-1)遺伝子の発現を促進する、請求項1又は2に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化細胞の排除促進剤、マクロファージの貪食能促進剤、美白剤、及び免疫増強剤、ならびにこれらの剤を含む生体組織の老化及び損傷の改善又は予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
真皮はコラーゲンやエラスチンといった線維構造に富む組織であり、皮膚において裏打ちとしての役割を果たす。これらの線維構造は真皮内に存在する線維芽細胞により産生されているが、加齢や紫外線などの影響により線維芽細胞がダメージを受けると、機能が低下した細胞となり、線維構造の形成不全が起こることでシワやタルミなどの外見上の変化を生じると考えられている。機能の低下の例としては細胞増殖率の低下や、コラーゲン産生能の低下などが知られている。一般的に、このように機能が低下した細胞は「老化細胞」と呼ばれており、老化細胞は加齢などにより生体内において増加することから、シワやタルミといった皮膚の老化現象にも密接に関与すると考えられている。
【0003】
近年では、老化細胞は単に機能が低下した細胞ではなく、SASP(Senescent associated secretory phenotype)という現象を介して、炎症性物質やマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などを産生し、周囲の組織を障害することが明らかになり、老化細胞が生体の老化を促進する可能性が示唆されている(非特許文献1)。また、このような生体にとって悪影響を及ぼしうる老化細胞を特異的に除去することで、抗老化効果を得られることも分かってきた(非特許文献2)。しかし、老化細胞の除去技術は一般化しておらず、実用化の目途は立っていないのが現状である。
【0004】
一方、生体内においては免疫細胞であるマクロファージが老化細胞の除去に働くと考えられている(非特許文献3)。しかしながら、マクロファージの機能は加齢に伴って低下してしまうことが分かっている(非特許文献4)。よって、マクロファージの機能を高めることが老化細胞除去の促進につながり、ひいては皮膚組織の抗老化効果が得られると考えられる。
【0005】
マクロファージは貪食能に優れた細胞であり、死細胞、病原体、老廃物といった不必要な物質を排除することにより生体の防御や恒常性の維持を担っている。貪食は、死細胞や活性化した細胞に表出するホスファチジルセリン(phosphatidylserine:PS)に、貪食細胞で発現しているStabilin-1、Stabilin-2、BAI1、GAS6(product of growth arrest-specific gene 6)、MFG-E8(Milk fat globle-EGF-factor 8)、Tim-1、Tim-3、CCN1、PROS1などのPS受容体タンパク質が結合することによって開始、促進されることが知られている(非特許文献5)。例えば、Stabilin-1(STAB1)は、選択的に活性化されたマクロファージの細胞表面に特異的に発現し、死細胞の認識及び貪食部位に集積し、初期ファゴソームに動員されることや、マクロファージのSTAB1を阻害すると、老化した赤血球の貪食が不十分となることが報告されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Byun HO et al., From cell senescence to age-related diseases: differential mechanisms of action of senescence-associated secretory phenotypes. BMB Rep. 549-558(2015)
【文献】Baker DJ et al., Clearance of p16Ink4a-positive senescent cells delays ageing-associated disorders. Nature. 479(7372):232-6(2011)
【文献】Kay MM et al., Mechanism of removal of senescent cells by human macrophages in situ. Proc Natl Acad Sci USA. 72(9):3521-5(1975)
【文献】Albert C. Shaw et.al., Age-dependent dysregulation of innate immunity. Nat Rev Immunol. 13(12):875-887(2013)
【文献】Elliott MR et al., The Dynamics of Apoptotic Cell Clearance. Dev Cell,38(2):147-60(2016)
【文献】Park SY et al., Stabilin-1 mediates phosphatidylserine-dependent clearance of cell corpses in alternatively activated macrophages. Journal of Cell Science 122(Pt 18):3365-73(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、マクロファージにおいてSTAB1のような死細胞の認識と排除に関与する因子の発現を亢進させることにより、マクロファージによる貪食が活性化されるとともに、真皮組織から老化細胞や老廃物が排除され、若々しい肌を実現する化粧品や医薬品の開発に期待ができる。
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑み、死細胞の認識と排除に関与するマクロファージ上の受容体の発現を促進する物質を見出し、マクロファージの貪食を活性化し、生体組織から老化細胞や老廃物を効率的に排除するための薬剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、STAB1遺伝子の発現を指標として、マクロファージの貪食活性を高める天然素材の探索を行った結果、ナナカマド抽出物が、STAB1遺伝子の発現を促進するとともに、マクロファージの貪食能促進作用及び老化細胞の排除促進作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)ナナカマドの抽出物を有効成分として含有する、老化細胞の排除促進剤。
(2)前記老化細胞が真皮老化細胞である、(1)に記載の老化細胞の排除促進剤。
(3)ナナカマドの抽出物を有効成分として含有する、マクロファージの貪食能促進剤。
(4)ナナカマドの抽出物を有効成分として含有する、美白剤。
(5)ナナカマドの抽出物を有効成分として含有する、免疫増強剤。
(6)マクロファージにおけるSTAB1(Stabilin-1)遺伝子の発現を促進する、(1)~(5)のいずれかに記載の剤。
(7)(1)~(5)のいずれかに記載の剤を含む、生体組織の老化及び損傷の改善又は予防用組成物。
(8)前記生体組織が、皮膚組織である、(7)に記載の組成物。
(9)前記組成物が、化粧品、医薬部外品、医薬品、又は飲食品である、(7)又は(8)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加齢や紫外線などの影響により機能低下した生体組織内の老化細胞や老廃物を、マクロファージによる貪食により排除することができる老化細胞の排除促進剤及びマクロファージ貪食能促進剤が提供される。よって、本発明は、例えば、真皮層に蓄積した真皮老化細胞や老廃物に起因する皮膚の老化及び損傷の改善又は予防に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の老化細胞の排除促進剤、マクロファージの貪食能促進剤、美白剤、及び免疫増強剤(以下、「本発明の剤」という)は、ナナカマド抽出物を有効成分として含有する。
【0013】
本発明において用いるナナカマドは、バラ科ナナカマド属に属する落葉高木で、セイヨウナナカマド(学名:Sorbus aucuparia、和名:西洋七竈、英名:Rowan, Mountain ash)、ナナカマド(学名:Sorbus commixta、和名:七竈、英名:Japanese Rowan)が含まれるが、セイヨウナナカマドが好ましい。本発明において、ナナカマドの抽出物は、植物体全体、あるいは、葉、茎、花、芽、果実、種子、樹皮、根等の植物体の一部又はそれらの混合物の抽出物をいうが、果実の抽出物が好ましい。また、抽出には、これらの植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0014】
ナナカマドの抽出物の抽出方法は特に限定されず、例えば、連続抽出、浸漬抽出などが挙げられ、また、加熱抽出方法であっても良いし、常温や冷温抽出方法であっても良い。抽出に使用する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。これらの溶媒のなかでも、水、低級アルコール及び液状多価アルコールが好ましく、水、エタノールがより好ましい。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良く、例えば30~70v/v%のエタノール水溶液を使用することもできる。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0015】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記ナナカマド(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。より具体的には、ナナカマド果実に水を加え、95~100℃における熱水抽出を行うことで、ナナカマドの抽出物を得ることができる。あるいは、ナナカマド果実に低級アルコール(例えば、エタノール等)又は液状多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)を添加し、常温(例えば5~35℃)で抽出を行うことで、ナナカマドの抽出物を得ることができる。
【0016】
抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0017】
本発明において「マクロファージ」には、種々の組織や末梢血に存在するマクロファージが含まれ、限定はされないが、例えば皮膚の真皮内に存在し、結合組織に広く分布する組織球(histiocyte)が挙げられる。また、本発明の老化細胞の排除促進作用及びマクロファージの貪食能促進作用は、老化(死)細胞に表出するホスファチジルセリン(PS)に対する受容体のマクロファージにおける発現促進を介することが好ましい。本発明において有効成分の探索の指標としたSTAB1(Stabilin-1)遺伝子は、マクロファージによる死細胞の認識と排除に関与する膜受容体タンパク質をコードする遺伝子であり、STAB1遺伝子及びタンパク質の配列情報は、例えばヒトの場合は、GenBank number:Nucleotide NM_015136、Protein NP_055951として登録されている。
【0018】
上記ナナカマドの抽出物は、マクロファージにおけるSTAB1遺伝子の発現促進によって、マクロファージの貪食能を促進する作用を有し、生体組織内の有害物質を効率的に排除することができる。マクロファージが貪食する有害物質としては、加齢により組織や臓器に蓄積する老化細胞、ウイルス又は細菌などの病原体、がん細胞、分化能や増殖能が低下した老化幹細胞、損傷細胞、死細胞、老廃物(酸化悪玉コレステロール、認知症の原因となるアミロイドβ)、表皮から真皮に滴落したメラニン顆粒等が挙げられる。よって、ナナカマド抽出物は、老化細胞の排除促進剤、マクロファージの貪食能促進剤の有効成分として用いることができるほか、美白剤や免疫増強剤の有効成分としても用いることができる。本発明の剤は、生体組織の老化及び損傷の改善又は予防に有効である。例えば、皮膚関連では、本発明の剤は、真皮層に蓄積した真皮老化細胞や老廃物に起因する皮膚の老化及び損傷の改善又は予防に使用することができる。ここで、皮膚の老化及び損傷としては、限定はされないが、シワ、タルミ、ハリの低下、色素沈着(シミ)、皮膚萎縮症(線状皮膚萎縮症、日光弾性症、white fibrous papulosis of the neck、硬化性萎縮性苔癬など)、蕁麻疹、接触性皮膚炎(かぶれ)、アトピー性皮膚炎、創傷治癒の遅延(褥瘡)などが挙げられる。また皮膚関連以外では、加齢に伴い蓄積される老化細胞の分泌物質による臓器や組織の破壊や機能低下に関連する様々な加齢性疾患(動脈硬化症、変形性関節症、白内障、加齢黄斑変性症等)、感染症(インフルエンザ、肺炎、結核)、アレルギー性疾患(花粉症、アレルギー性鼻炎、気管支喘息等)、自己免疫性疾患(関節リウマチ、多発性筋炎、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、糸球体腎炎等)、がん、炎症性腸疾患、認知症(アルツハイマー型認知症等)、神経障害性疼痛、代謝異常及び低下等が挙げられる。
【0019】
本発明の剤は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物を混合して種々の形態の製剤や組成物に配合し、上記生体組織の老化及び損傷の改善又は予防用組成物に配合することができる。組成物の形態としては、化粧品、医薬品、医薬部外品、飲食品が挙げられる。本発明の剤を、例えば、シワ、タルミ、ハリの低下、色素沈着(シミ)といった皮膚老化の改善や予防を目的として使用する場合は、化粧品等の皮膚外用組成物の形態とすることができる。また、本発明の剤を、皮膚萎縮症、蕁麻疹、褥瘡等の皮膚疾患の治療や改善を目的として使用する場合は、医薬品の形態で使用することが好ましい。
【0020】
本発明の剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、上記ナナカマドの抽出物とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0021】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、ボディローション等が挙げられる。
【0022】
上記ナナカマドの抽出物を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0023】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0024】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調整剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0025】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0026】
本発明の医薬品を、上記の皮膚の老化及び損傷の治療、改善、又は予防するために用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0027】
本発明の化粧品、医薬部外品、医薬品の使用量又は投与量は、その種類や形態、使用又は投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、ナナカマドの抽出物として0.1~1000mg/日、好ましくは1~500mg/日、より好ましくは5~300mg/日の範囲で、それぞれ1日1回から数回行う。上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要がある場合もある。
【0028】
前記ナナカマドの抽出物を上記の化粧品、医薬部外品、医薬品に配合する場合、その含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、ナナカマドの抽出物の乾燥固形分に換算して、0.001~30重量%(w/w)が好ましく、0.01~10重量%(w/w)がより好ましい。0.001重量%(w/w)未満では効果が低く、また30重量%(w/w)を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0029】
また、上記ナナカマドの抽出物は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品が含まれる。飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0030】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0031】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0032】
本発明の飲食品における上記ナナカマドの抽出物の配合量は、老化細胞の排除促進作用、マクロファージの貪食能促進作用を発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
【実施例
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
ナナカマドの抽出物を以下のとおり製造した。
【0035】
[実施例1]
(製造例1)セイヨウナナカマド果実の熱水抽出物の調製
セイヨウナナカマド果実の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してセイヨウナナカマド果実の熱水抽出物を3.2g得た。
【0036】
(製造例2)セイヨウナナカマド果実の50%エタノール抽出物の調製
セイヨウナナカマド果実の乾燥物10gに200mLの50%(v/v)エタノール水溶液を加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してセイヨウナナカマド果実の50%エタノール抽出物を1.8g得た。
【0037】
(製造例3)セイヨウナナカマド果実の100%エタノール抽出物の調製
セイヨウナナカマド果実の乾燥物10gに200mLの100%エタノール水溶液を加え、室温で7日間浸漬し抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後エバポレーターで濃縮乾固してセイヨウナナカマド果実の100%エタノール抽出物を0.8g得た。
【0038】
[実施例2]
(実験例1)ナナカマド抽出物によるマクロファージにおけるSTAB1遺伝子発現の促進効果
ヒト単球性白血病細胞株THP1(ATCC)を24well plateに3×10個播種し、PMA(ホルボールエステル-12-ミリステート-13-アセテート)を終濃度100nMになるよう添加した10%FBS含有RPMI1640培地にて72時間培養し、マクロファージへ分化誘導を行った。その後、実施例1で調製したセイヨウナナカマド果実の抽出物(製造例1~3)を最終濃度が100μg/mLになるように添加した。24時間培養後、細胞(THP1由来マクロファージ)を回収し、PBS(-)にて2回洗浄し、RNAiso Plus(タカラバイオ社製)を用いて細胞からRNAを抽出した。このRNAを、High Capacity RNA to cDNA Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてcDNAに逆転写した後、SYBR Select Master Mix(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてPCR反応(95℃、2分の初期変性を行った後、95℃;15秒間、60℃:60秒間を1サイクルとして40サイクル)を実施し、STAB1遺伝子の発現量を測定した。プライマーとして下記のプライマーセットを用い、その他の操作は定められた方法に従った。
【0039】
STAB1プライマーセット:
5’-CTTCTATGGGATGCTATTGGG-3’(配列番号1)
5’-TCATTGACAGGGACGAAGAG-3’(配列番号2)
GAPDH(内部標準)用プライマーセット:
5’-TGCACCACCAACTGCTTAGC-3’(配列番号3)
5’-TCTTCTGGGTGGCAGTGATG-3’(配列番号4)
【0040】
STAB1遺伝子の発現促進効果は、抽出物未添加群のTHP1由来マクロファージにおけるSTAB1のmRNAの発現量を内部標準であるGAPDHの発現量に対する割合として算出したSTAB1遺伝子相対発現量(STAB1遺伝子発現量/GAPDH遺伝子発現量)を1とし、これに対し、抽出物添加群のTHP1由来マクロファージにおけるSTAB1遺伝子の同相対発現量を算出して評価した。これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示されるように、STAB1遺伝子の発現量は、セイヨウナナカマド果実の抽出物を添加することにより、未添加群に比べて顕著に増加した。よって、ナナカマド抽出物はSTAB1遺伝子の発現を高める作用を有することから、マクロファージの貪食能及び老化細胞の排除を促進する効果があることが示唆された。
【0043】
(実験例2)ナナカマド抽出物によるマクロファージの貪食能促進効果
mCitrine遺伝子導入により蛍光標識したヒト単球性白血病細胞株THP1を12well plateに5×10個播種し、PMA(ホルボールエステル-12-ミリステート-13-アセテート)を終濃度100nMになるよう添加した10%FBS含有RPMI1640培地にて72時間培養し、マクロファージに分化誘導した。
【0044】
ナナカマド抽出物がマクロファージの貪食能に与える影響は、血清非含有培地にて72時間培養して細胞死を誘導して死滅させた血球細胞(A6細胞)に対するマクロファージの貪食効率を測定することによって評価した。
【0045】
まず、実施例1で調製したセイヨウナナカマド果実の抽出物(製造例1~3)を最終濃度が100μg/mLになるように上記THP-1由来マクロファージを含むRPMI1640培地へ添加し、さらに、Propidium Iodide(PI)染色した死滅血球細胞(A6細胞)を1×10個ずつ添加し、16時間培養した。
【0046】
培養後、培地中の死滅血球細胞を除き、THP-1由来マクロファージを回収した。THP-1由来マクロファージの回収にはトリプシン-EDTA溶液を用いた。mCitrineとPIの蛍光波長をFACSAria(日本BD社製)にてそれぞれ測定し、その測定値から総マクロファージに対する死滅血球細胞を貪食したマクロファージの割合(貪食効率)を算出した。マクロファージの貪食能促進効果は、抽出物未添加群における貪食効率を100%とし、抽出物添加群における貪食効率を算出して評価した。これらの試験結果を以下の表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示されるように、マクロファージによる死細胞の貪食効率は、セイヨウナナカマド抽出物の添加により、未添加群に比べて顕著に増加した。よって、ナナカマド抽出物はマクロファージの貪食能を促進する作用を有することが確認できた。また、死滅血球細胞(A6細胞)に代えて老化を誘導した真皮線維芽細胞を用いた場合にも、同様にマクロファージの貪食能促進効果が確認できた。
【0049】
(実験例3)ナナカマド抽出物による老化細胞排除促進効果
mCitrine遺伝子導入により蛍光標識したヒト単球性白血病細胞株THP1を12well plateに2×10個播種し、PMA(ホルボールエステル-12-ミリステート-13-アセテート)を終濃度100nMになるよう添加した10%FBS含有RPMI1640培地にて72時間培養し、マクロファージに分化誘導した。
【0050】
実施例1で調製したセイヨウナナカマド果実の抽出物(製造例1~3)を最終濃度が0(コントロール)、5、10、50、100μg/mLになるように上記THP-1由来マクロファージを含むRPMI1640培地へ添加し、さらに、血清非含有培地にて72時間培養して細胞死を誘導した死滅血球細胞(A6細胞)を5×10個ずつ添加し、12時間培養した。培養後、培養上清中に浮遊しているA6細胞を回収し、残存しているA6細胞の数を計測した。添加した細胞数から残存しているA6細胞の数を減算することで、マクロファージによって排除された細胞数を算出し、添加した細胞数あたりの排除された細胞数を求めることで、細胞排除率を算出した。老化(死滅)細胞排除促進効果は、抽出物未添加群における細胞排除率を100%とし、各濃度の抽出物添加群における細胞排除率を算出して評価した。これらの試験結果を以下の表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示されるように、老化細胞排除率は、セイヨウナナカマド抽出物の添加により、未添加群に比べて顕著に増加した。よって、ナナカマド抽出物はマクロファージの貪食を活性化することにより、老化細胞の排除を促進する作用を有することが確認できた。また、死滅血球細胞(A6細胞)に代えて老化を誘導した真皮線維芽細胞を用いた場合にも、同様にナナカマド抽出物による老化細胞の排除促進効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の老化細胞排除促進剤及びマクロファージ貪食能促進剤は、生体内組織に蓄積した老化細胞や老廃物を、マクロファージの貪食を活性化することにより当該組織から排除することができるので、例えば、真皮層に存在する老化細胞や老廃物を対象とする場合は、若さと恒常性を維持した皮膚へと導くことができる。よって、本発明は、皮膚の老化及び損傷の改善又は予防を目的とした化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品の製造分野において利用できる。
【配列表】
0007523111000001.app