(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】表面処理装置
(51)【国際特許分類】
C25D 17/00 20060101AFI20240719BHJP
C25D 17/06 20060101ALI20240719BHJP
C25D 17/10 20060101ALI20240719BHJP
C25D 17/12 20060101ALI20240719BHJP
C25D 21/00 20060101ALI20240719BHJP
C25D 5/02 20060101ALI20240719BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C25D17/00 H
C25D17/06 Z
C25D17/10 A
C25D17/12 A
C25D21/00 A
C25D5/02 B
C25D7/00 J
(21)【出願番号】P 2020152104
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】391020665
【氏名又は名称】ミカドテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊樹
(72)【発明者】
【氏名】寺山 孝男
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-196540(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125643(WO,A1)
【文献】特許第6176234(JP,B2)
【文献】特開2016-125087(JP,A)
【文献】実開昭53-069757(JP,U)
【文献】特開2000-256891(JP,A)
【文献】特開2003-147593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
C25D 17/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体層が表面に形成された被処理物を載置可能な載置基台と、
前記載置基台に対して対向配置されて、内部に液室を形成可能なハウジングと、
前記ハウジング内に配された電極と、
電解液を前記液室内に供給可能な溶液供給部と、
前記液室と前記載置基台との間に配置されたイオン伝導膜と、
前記イオン伝導膜と前記被処理物との間に配置された絶縁層及び通電層を有する箔状部材と、
前記電極と前記導体層との間に電圧を印加する電源部と、を備え、
前記箔状部材は、
前記通電層が、前記電源部と前記導体層とを導通するように、該導体層の一部に接触可能に配置されると共に、前記絶縁層が、前記通電層と前記イオン伝導膜との間に配置され、
前記イオン伝導膜を前記導体層の表面に接触させて、前記電極と前記通電層に接続された前記導体層との間に電圧を印加し、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記導体層の表面を処理する
ことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記電極は、前記液室内の前記電解液に浸かる位置に配置されている
ことを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記電極は、前記液室内に配置された金属製の籠状部材からなり、
前記籠状部材の内部には、可溶性を有する金属が配置されている
ことを特徴とする請求項1又は2記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記箔状部材は、前記絶縁層及び前記通電層を交互に複数積層してなる
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記箔状部材は、前記絶縁層及び前記通電層を有する可撓性プリント基板からなる
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記イオン伝導膜と前記箔状部材との間に配置された離型フィルム材を更に備える
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記箔状部材は、前記イオン伝導膜と接触する表面に離型処理が施されている
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1記載の表面処理装置。
【請求項8】
前記箔状部材の前記通電層は、複数の通電パターンを有し、
前記電源部は、前記複数の通電パターン毎に印加電圧、印加電流及び印加時間の少なくとも一つを制御可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項記載の表面処理装置。
【請求項9】
前記箔状部材の前記絶縁層は、前記導体層の表面の被処理領域の形状に応じた形状の貫通孔を有し、該貫通孔が前記被処理領域上に配置されると共に、該貫通孔を除く部分が、前記導体層の表面における非処理領域上を覆うように配置されている
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項記載の表面処理装置。
【請求項10】
前記箔状部材の前記絶縁層は、少なくとも前記通電層と前記被処理物の前記導体層との接触部において、該通電層と前記イオン伝導膜との間に配置されている
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項記載の表面処理装置。
【請求項11】
前記載置基台及び前記ハウジングを所定角度に傾斜可能な傾斜機構を更に備える
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項記載の表面処理装置。
【請求項12】
導体層が表面に形成された被処理物を載置可能な載置基台と、前記載置基台に対して対向配置されて、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、電解液を前記液室内に供給可能な溶液供給部と、前記液室と前記載置基台との間に配置されたイオン伝導膜と、前記電極と前記導体層との間に電圧を印加する電源部と、を備え、前記イオン伝導膜を前記導体層の表面に接触させて、前記電極と前記導体層との間に電圧を印加し、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記導体層の表面を処理する表面処理装置に用いられる箔状部材であって、
絶縁層及び通電層を有し、
前記通電層は、前記電源部と前記導体層とを導通するように、該導体層の一部に接触可能に構成され、
前記絶縁層は、前記通電層と前記イオン伝導膜との間に配置可能に構成されている
ことを特徴とする箔状部材。
【請求項13】
前記絶縁層及び前記通電層が交互に複数積層してなる
ことを特徴とする請求項
12に記載の箔状部材。
【請求項14】
前記絶縁層は、前記導体層の表面の被処理領域の形状に応じた形状の貫通孔を有し、該貫通孔が前記被処理領域上に配置されると共に、該貫通孔を除く部分が、前記導体層の表面における非処理領域上を覆うように構成されている
ことを特徴とする請求項
12又は
13に記載の箔状部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の表面を処理する表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁体からなる基材の上に導電体からなる回路パターンを形成する場合、例えば、基材の表面に金属皮膜のシード層を形成した上でパターンを形成し、該回路パターンの表面にめっき処理を施すことが行われている。回路パターンの表面に成膜されるめっきは、スパッタリング等の物理蒸着(PVD)法や電解めっき等の方法により形成される他、固相電析(Solid Electrolyte Deposition:SED)法により形成されることが知られている。
【0003】
SED法によるめっきの形成は、例えば、陽極と、この陽極に対して陰極となる導体パターン層が表面に形成された樹脂部材との間に配置されるイオン伝導膜と、陽極と導体パターン層との間に電圧を印加する電源部と、を備えた成膜装置により行われることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この成膜装置では、電源部の負極と導体パターン層とを導通するように、貫通孔が形成された導通部材を導体パターン層の一部に接触させながら、導体パターン層の表面に金属イオンが含有したイオン伝導膜を貫通孔を介して接触させる。そして、陽極と導体パターン層との間に電圧を印加することにより、金属イオンを導体パターン層の表面に析出させて、導体パターン層上にめっきを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された従来技術の成膜装置では、導通部材上にめっきが成膜されないようにするために、不動態被膜を形成する金属材料で導通部材を形成する必要がある。しかしながら、例えばチタン、モリブデン、タングステン等の不動態被膜を形成する金属材料は、電気抵抗が高く、電気が流れにくくなるため、電流効率が低下し、金属イオンの析出が不均一になるおそれがあるという問題がある。また、不動態被膜を形成する金属材料としてアルミニウムを用いる場合には、耐薬品性に劣るおそれがあるという問題がある。
【0007】
また、上記特許文献1に開示された従来技術の成膜装置では、イオン伝導膜と接触する導通部材を、不動態被膜を形成する金属材料で形成する必要があるため、部材を構成する材料の選択肢を広げることが難しいという問題もある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、電源部と導体層とを導通する部材の制約を低減させることができる表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る表面処理装置は、導体層が表面に形成された被処理物を載置可能な載置基台と、前記載置基台に対して対向配置されて、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、電解液を前記液室内に供給可能な溶液供給部と、前記液室と前記載置基台との間に配置されたイオン伝導膜と、前記イオン伝導膜と前記被処理物との間に配置された絶縁層及び通電層を有する箔状部材と、前記電極と前記導体層との間に電圧を印加する電源部と、を備え、前記箔状部材は、前記通電層が、前記電源部と前記導体層とを導通するように、該導体層の一部に接触可能に配置されると共に、前記絶縁層が、前記通電層と前記イオン伝導膜との間に配置され、前記イオン伝導膜を前記導体層の表面に接触させて、前記電極と前記通電層に接続された前記導体層との間に電圧を印加し、前記イオン伝導膜を介した電気分解により前記導体層の表面を処理することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る表面処理装置において、前記電極は、前記液室内の前記電解液に浸かる位置に配置されていることが好ましい。
【0011】
本発明に係る表面処理装置において、前記電極は、前記液室内に配置された金属製の籠状部材からなり、前記籠状部材の内部には、可溶性を有する金属が配置されていても良い。
【0012】
本発明に係る表面処理装置において、前記箔状部材は、前記絶縁層及び前記通電層を交互に複数積層してなることが好ましい。
【0013】
本発明に係る表面処理装置において、前記箔状部材は、前記絶縁層及び前記通電層を有する可撓性プリント基板からなるものであっても良い。
【0014】
本発明に係る表面処理装置において、前記イオン伝導膜と前記箔状部材との間に配置された離型フィルム材を更に備えることが好ましい。
【0015】
本発明に係る表面処理装置において、前記箔状部材は、前記イオン伝導膜と接触する表面に離型処理が施されていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る表面処理装置において、前記箔状部材の前記通電層は、複数の通電パターンを有し、前記電源部は、前記複数の通電パターン毎に印加電圧、印加電流及び印加時間の少なくとも一つを制御可能に構成されていることが好ましい。
【0017】
本発明に係る表面処理装置において、前記箔状部材の前記絶縁層は、前記導体層の表面の被処理領域の形状に応じた形状の貫通孔を有し、該貫通孔が前記被処理領域上に配置されると共に、該貫通孔を除く部分が、前記導体層の表面における非処理領域上を覆うように配置されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係る表面処理装置において、前記箔状部材の前記絶縁層は、少なくとも前記通電層と前記被処理物の前記導体層との接触部において、該通電層と前記イオン伝導膜との間に配置されていることが好ましい。
【0019】
本発明に係る表面処理装置において、前記載置基台及び前記ハウジングを所定角度に傾斜可能な傾斜機構を更に備えることが好ましい。
【0020】
本発明に係る他の表面処理装置は、導体層が表面に形成された被処理物を載置可能な載置基台と、前記載置基台に対して対向配置されて、内部に液室を形成可能なハウジングと、前記ハウジング内に配された電極と、電解液を前記液室内に供給可能な溶液供給部と、前記液室と前記被処理物との間に配置された箔状部材と、前記電極と前記導体層との間に電圧を印加する電源部と、を備え、前記箔状部材は、前記導体層の表面の被処理領域の形状に応じた形状の貫通孔を有し、該貫通孔が前記被処理領域上に配置されるように構成され、前記電解液を前記貫通孔を介して前記導体層の表面に接触させて、前記電極及び前記電源部と導通された前記導体層の間に電圧を印加し、電気分解により前記導体層の表面を処理することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る他の表面処理装置において、前記ハウジングと前記載置基台との間であって前記箔状部材よりも前記液室側に配置されたイオン伝導膜を更に備え、前記イオン伝導膜を前記貫通孔を介して前記導体層の表面に接触させて、該イオン伝導膜を介した前記電気分解により前記導体層の表面を処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電源部と導体層とを導通する部材の制約を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る表面処理装置の型開き状態における概略構成を示す図である。
【
図1B】同表面処理装置の型閉じ状態における概略構成を示す図である。
【
図1C】同表面処理装置の傾斜状態における概略構成を示す図である。
【
図2】同表面処理装置における被処理物の導体層の近傍箇所を部分的に拡大して概略的に説明するための断面図である。
【
図3】同表面処理装置の第一の箔状部材及び被処理物を概略的に示す図である。
【
図4】同表面処理装置の第一の箔状部材及び被処理物を概略的に示す図である。
【
図5】同表面処理装置の第二の箔状部材及び被処理物を概略的に示す図である。
【
図6】同表面処理装置の第二の箔状部材及び被処理物を概略的に示す図である。
【
図7】同表面処理装置の第三の箔状部材の通電層及び第三の箔状部材を被処理物に重ねた状態を概略的に示す図である。
【
図8】同表面処理装置の第四の箔状部材及び被処理物を概略的に示す図である。
【
図9】表面処理が施された被処理物を上面及び断面で概略的に示す図である。
【
図10】同表面処理装置の第五の箔状部材を概略的に示す上面図である。
【
図11】同表面処理装置の第五の箔状部材及び被処理物を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態に係る表面処理装置を詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、本実施形態においては、各構成要素の縮尺や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。また、符号を付与していないが、図中に白抜きの丸で示した部分は、主要なOリング等のシール部材を表している。
【0025】
図1A~
図1Cは、本発明の一実施形態に係る表面処理装置1の概略構成を示す図である。また、
図2は、表面処理装置1における被処理物Cの導体層Dの近傍箇所を部分的に拡大して概略的に説明するための断面図である。
【0026】
図1A~
図1Cに示すように、本実施形態に係る表面処理装置1は、例えば、金属イオンを還元することで金属を析出させて、金属からなる被膜を被処理物Cの導体層Dの表面Eに形成するめっき処理装置として用いられ得る。ただし、表面処理装置1は、これに限定されるものではなく、被処理物Cの導体層Dの表面Eを処理することができる装置であれば、種々のものに適用可能である。
【0027】
表面処理装置1は、概略的には、被処理物Cを載置可能な載置基台2と、この載置基台2に対して対向配置され、内部に液室(閉鎖空間、密閉空間)3を形成するハウジング4と、を備えている。また、表面処理装置1は、載置基台2及びハウジング4の少なくとも一方を他方に対して相対移動させる移動機構5と、液室3内に電解液を供給又は排出する溶液供給部(図示省略)と、を備えている。なお、本実施形態において、電解液は、金属イオンを含有する金属溶液を用いることができる。
【0028】
さらに、表面処理装置1は、被処理物Cを覆い、これと電解液とを分離するために、ハウジング4と載置基台2との間に配置されたイオン伝導膜6と、このイオン伝導膜6と被処理物Cとの間に配置された箔状部材10と、を備えている。また、表面処理装置1は、液室3内に配置された電極(本実施形態では陽極)となる金属製の籠状部材20と、この籠状部材20と陽極に対して陰極となる被処理物Cの導体層Dとの間に電圧を印加する電源部7と、を備えている。
【0029】
載置基台2は、支持基台8とハウジング4との間に配置されており、被処理物Cをその表面に載置可能に構成されている。本実施形態では、載置基台2は、被処理物Cを嵌め込むことが可能なトレイ9bを有すると共に、該トレイ9bを嵌め込むことが可能な凹部を有しているが、トレイ9bを介さずに被処理物Cを嵌め込む構成や、被処理物Cを単に載置させる構成であっても良い。ハウジング4は、上記のように載置基台2と対向配置されると共に、例えば、移動機構5によって載置基台2側へ移動された状態のときに、載置基台2との間に閉鎖空間となる液室3を形成可能に構成されている。
【0030】
載置基台2は、例えば、載置基台2の上面に開口し、載置基台2の内部を通って外部に連通する排気流路9及び排気ポート9aと、図示しない排気ポンプ(例えば、真空ポンプ)と、を有しており、イオン伝導膜6の離隔時に排気ポンプを動作させることにより、載置基台2(トレイ9bが設けられる場合にはトレイ9b)に被処理物Cを吸着保持させるよう構成されている。
【0031】
ハウジング4には、液室3内の気体を排出可能な排出流路31と、液室3に対して電解液を供給可能な供給流路41と、が形成されている。また、ハウジング4には、例えば、排出流路31に接続されてこれを開閉する開閉弁として機能すると共に、載置基台2とハウジング4との間において開閉弁が閉じられたときに形成される液室3の閉鎖空間の容積を減少させて、閉鎖空間内を加圧する加圧機構としても機能する開閉弁付き加圧機構30が設けられている。
【0032】
さらに、ハウジング4には、供給流路41を開閉させる流路開閉弁40が設けられている。なお、排出流路31の液室3に臨む開口部は、例えば、供給流路41の液室3に臨む開口部よりも鉛直方向の上方側に形成されている。より具体的には、ハウジング4は、載置基台2の鉛直方向の上方に配置されており、内部上面と内部側面とを有する液室3を構成する有底筒状(有底円筒状、有底角筒状等)に形成され、排出流路31の液室3に臨む開口部は、ハウジング4の内部上面又は内部側面の上部に形成されている。
【0033】
また、供給流路41の液室3に臨む開口部は、ハウジング4の内部側面の下部等の任意の箇所に形成されている。さらに、ハウジング4の内部上面は、排出流路31の開口部が最上部となるように、鉛直方向に対して傾斜し、且つ、水平方向に沿って傾斜している。
【0034】
開閉弁付き加圧機構30は、排出流路31を開閉可能に構成されると共に、液室3内に供給された電解液を加圧可能に構成されている。開閉弁付き加圧機構30は、ハウジング4の壁面を貫通して形成された排出流路31の外壁面に装着され、流路開閉弁40とはハウジング4の鉛直中心に対して対向した位置(対角の位置を含む)に、ハウジング4の側面から突出するように設けられている。開閉弁付き加圧機構30は、開閉弁を閉じてから液室3内の容積を減少させて液室3内の電解液を加圧する。
【0035】
このように、ハウジング4の内部側面の最下部には、開口部を持つ供給流路41が形成され、供給流路41に流路開閉弁40が接続される。また、ハウジング4の内部側面(好ましくは、対向した内部側面)の最上部には、開口部を持つ排出流路31が形成され、排出流路31に開閉弁付き加圧機構30が接続される。
【0036】
ここで、「対向した」とは、供給流路41が、排出流路31と、ハウジング4において、ハウジング4の中心軸に対して互いに対称となる位置に配置されていることを意味する。供給流路41が排出流路31と対向して位置する構成であると、ハウジング4の液室3内への電解液及び空気の注入や排出がスムーズになる。
【0037】
本実施形態では、排出流路31の開口部と供給流路41の開口部とは、対向した、すなわち、中心軸に対して180°の位置関係であるが、これに限らない。ハウジング4の液室3の内部上面の最上部に排出流路31の開口部があることが好ましく、載置基台2の最下部に接する位置に供給流路41の開口部があることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態では、開閉弁として、開閉弁付き加圧機構30と流路開閉弁40を有し、これらはハウジング4の流路それぞれに備えられている。本実施形態では、上記のように供給流路41がハウジング4内側の最下部に設けてあり、排出流路31がハウジング4内側の最上部に設けてあるので、電解液をハウジング4の液室3内で澱むことなく循環させることができ、供給流路41から電解液を容易に排除することができる。
【0039】
本実施形態では、液室3の内部上面が傾斜したハウジング4において、供給流路41が、内部上面が最も低い箇所の近傍に設けてあり、排出流路31が、内部上面が最も高い箇所の近傍に設けてあるので、液室3内を電解液で満たす際に空気等の気泡を排出流路31の方向に集めて排気しやすく、液室3内から電解液を排出する際に排出流路31から空気を流入させることにより、電解液を供給流路41の方向に集めて排液しやすい構造となっている。
【0040】
液室3内の電解液が供給流路41を通過して外部へ排出される際の入り口、すなわち、開口部の通路は、本実施形態では、水平で狭くなっている(例えば、供給流路41を中心としハウジング4中心に向かって広がる高さ2mm程度の扇形開口)。その後、通路は垂直に上がり、さらに流路開閉弁40内で再び水平となり、その後、通路は再び垂直に上がって給排ポート45から外部へ排出される。本実施形態によれば、供給流路41の開口部が載置基台2に面して設けられているので、電解液を排出する際に電解液が残留しにくい構造を有する。
【0041】
開閉弁付き加圧機構30は、中空の開閉調整室兼加圧室で、内壁面に摺接し摺動可能な加圧兼用のスプール32を備え、例えば、外側から内側(液室3側)にかけて閉操作ポート33、開操作ポート34、及び給排ポート35が設けられている。各ポート33,34,35は、開閉弁付き加圧機構30の外側から内部の開閉調整室兼加圧室への貫通孔であり、給排ポート35はハウジング4の排出流路31と直結して接続されている。開閉弁付き加圧機構30は、給排ポート35の流路側先端を含む端部がハウジング4の壁面(外部側面)内に嵌合されることによりハウジング4に設けられている。
【0042】
流路開閉弁40は、供給流路41の外壁面に装着され、開閉弁付き加圧機構30とは上記のように対向する位置に、ハウジング4の側面から突出するように設けられている。流路開閉弁40は、内部に中空の開閉調整室で内壁面に摺接して摺動可能な中実構造のスプール42を備え、外側から内側(液室3側)にかけて閉操作ポート43、開操作ポート44、及び給排ポート45が設けられている。各ポート43,44,45は、流路開閉弁40の外側から内部の開閉調整室への貫通孔であり、給排ポート45はハウジング4の供給流路41と直結して接続されている。流路開閉弁40は、給排ポート45の流路側先端を含む端部がハウジング4の壁面(外部側面)内に嵌合されることによりハウジング4に設けられている。
【0043】
開閉弁付き加圧機構30及び流路開閉弁40において、各スプール32,42は、例えば、中実のピストン状部材からなる。閉操作ポート33,43の位置にスプール32,42の基端部が位置するときは、給排ポート35は排出流路31と繋がり、給排ポート45は供給流路41と繋がった状態となる。開操作ポート34,44の位置にスプール32,42の基端部が位置するときは、排出流路31及び供給流路41は塞がれた状態となる。開閉弁付き加圧機構30及び流路開閉弁40は、電解液の供給を行う溶液供給部を含む外部の液制御系とハウジング4との間に設置されている。
【0044】
なお、流路開閉弁40の開閉調整室よりも開閉弁付き加圧機構30の開閉調整室兼加圧室の方が大径に構成されている。したがって、スプール32は、スプール42よりも大径のピストン状部材からなる。開閉弁付き加圧機構30は、その動作圧を制御可能に構成されており、これにより、液室3内の圧力を容易且つ安定的に変化させることができる。すなわち、ハウジング4の内部には、液室3内の圧力をモニタリングすることが可能な図示しない圧力センサが設置されており、この圧力センサの計測値を基に、閉操作ポート33に供給される作動空気の圧力がフィードバック制御され得るように構成されている。この構成により、より正確に開閉弁付き加圧機構30の動作圧、延いては液室3内の圧力を制御可能となる。
【0045】
移動機構5は、
図1Cに示すように、載置基台2及びハウジング4の少なくとも一方(本例ではハウジング4)を他方(本例では載置基台2)に対して接近又は離隔する方向に相対移動させる。これにより、載置基台2及びハウジング4間に形成される液室3を開閉可能に構成されている。
【0046】
本実施形態において、移動機構5は、直動ロッド51によってハウジング4を載置基台2に対して昇降させることにより離隔又は接近させるように構成されている。移動機構5は、載置基台2に対するハウジング4の位置制御及び圧力制御を実行可能に構成されている。具体的には、移動機構5は、ハウジング4が載置基台2に対して最も離隔された上昇端位置(原位置:
図1A参照)と、ハウジング4及び載置基台2の間に液室3を形成すると共に、該液室3及びイオン伝導膜6の下部に載置基台2と下クランプ部39とが嵌合して形成される下方空間の減圧を実行する減圧位置と、該減圧位置よりも更にハウジング4を載置基台2に接近させて表面処理を実行する処理位置(
図1B参照)との少なくとも3か所において、ハウジング4を停止させることが可能に構成されている。また、移動機構5は、処理位置において、液室3の内圧を相殺する以上の力でハウジング4を載置基台2に対して押圧するよう構成されている。ただし、移動機構5は、上述した直動ロッド51を備える構成に限定されず、ハウジング4を載置基台2に対して離隔又は接近させることが可能な構成であれば、任意の構成を採用することができる。
【0047】
また、本実施形態に係る表面処理装置1は、
図1Cに示すように、載置基台2及びハウジング4を所定の角度(例えば、2°)に傾斜させるための傾斜機構50が設けられている。本実施形態において、傾斜機構50は、直動ロッド50aによって支持基台8の側縁部の一部を昇降させることにより、載置基台2及びハウジング4を傾斜させるよう構成されている。この傾斜機構50により、ハウジング4の液室3を含む流路系全体を所定の角度で傾斜させることで、例えば、電解液を液室3内に注入する際の残留空気をより確実に排除したり、電解液を液室3内から排出する際の残留溶液をより確実に排水したりすることが可能である。
【0048】
傾斜機構50により載置基台2及びハウジング4を傾斜させると、例えば、載置基台2の上面が、供給流路41の開口部近傍側を最下部として鉛直方向に対して傾斜している状態となる。載置基台2がハウジング4の下クランプ部39と嵌合したときに、供給流路41の開口部の真下になる部分が僅かに低くなる。したがって、液室3内の電解液が供給流路41の開口部付近に集まり、排液しやすくなる。このため、排液能力を高め、電解液の漏洩リスクを低減し、被処理物Cが電解液に曝露されるリスクが低減される。
【0049】
具体的には、傾斜機構50によって、ハウジング4は全体が傾斜すると共に、載置基台2は、ハウジング4の傾斜方向と同じ方向に傾斜する。より詳細には、据付床面に対し、流路系全体、すなわち、支持基台8、載置基台2、ハウジング4、開閉弁付き加圧機構30、流路開閉弁40、移動機構5等が、所定の角度だけ同じ方向に傾斜する。被処理物Cは、載置基台2の凹部(又はトレイ9b)に嵌め込まれているため、傾斜機構50によって傾斜した場合であっても、位置がずれてしまう等の問題は生じない。このように、傾斜機構50の傾斜によって排液力を増すことができるので、排液能力をさらに向上させることができる。
【0050】
イオン伝導膜6は、内枠膜治具36及び外枠膜治具37の間に挟持された枚葉状の膜材である。これら内枠膜治具36及び外枠膜治具37は、ハウジング4の下部に固定されており、イオン伝導膜6は、液室3内に配置された籠状部材20の直下に配置されている。イオン伝導膜6は、液室3内に供給された電解液に接触させることで、金属イオンを含浸し、電源部7により電圧を印加したときに金属イオン由来の金属を被処理物Cの導体層Dの表面Eに析出可能なものであれば、特に限定されるものではない。
【0051】
イオン伝導膜6としては、例えば、多孔質膜、固体電解質膜等が挙げられ、ポリエチレンや、ポリプロピレン、炭化水素系樹脂、フッ素系樹脂等の樹脂を用いることができる。そのため、イオン伝導膜6は、十分な柔軟性や撓み性を有するので、例えば、イオン伝導膜6で被処理物Cを覆った後に、被処理物Cの周辺を減圧状態にして真空度を高めた場合、被処理物Cの表面形状の微細な凹凸等に倣って追従し密着し得る。
【0052】
なお、イオン伝導膜6は、数μm~数百μm(例えば、5~450μm)の膜厚で形成されている。また、イオン伝導膜6は、被処理物Cと接触する前に、
図2に示すように、例えば、内枠膜治具36の膜接触側端面に設けられた吸着溝36aに、この吸着溝36aと連通する吸着通路36bを介して吸引されることにより、膜端部側が吸着される。これにより、イオン伝導膜6は、均一に張られた状態で内枠膜治具36に保持される。
【0053】
また、イオン伝導膜6は、上記供給流路41の開口部の下方に位置する部分が、例えば、その部分の下面側を覆って支持するように外枠膜治具37に取り付けられた保護板(図示せず)により補強されていると良い。このような保護板を取り付けることにより、供給流路41を介して電解液が注入・排出される際の流速増大に起因する局所的減圧効果による開口部下方に位置するイオン伝導膜6の浮き上がりを防止でき、イオン伝導膜6の破れ等の不具合を防止することができる。
【0054】
箔状部材10は、外枠膜治具37の外側に設けられた上クランプ部38と、この上クランプ部38の下方に設けられた下クランプ部39との間で挟持され、イオン伝導膜6の直下に配置される。箔状部材10は、例えば、イオン伝導膜6側に配置された絶縁層11と、被処理物C側に配置された通電層12と、を有するように構成されている。すなわち、絶縁層11は、通電層12とイオン伝導膜6との間に配置されている。これら絶縁層11及び通電層12は、互いに接着されていても良いし、非接着状態で積層された構成であっても良い。なお、本明細書において、「箔状」とは、厚さが、平面視における幅及び長さよりも小さい形状(薄い形状)を指し、所謂シート状、フィルム状、平板状等の形態を含む概念であり、その材質が金属等に限定されることを意図するものではない。
【0055】
箔状部材10の絶縁層11は、例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン(PO)、ガラス織布入りエポキシ樹脂等の絶縁性及び耐薬品性を有する樹脂材料により構成されている。絶縁層11としては、例えば5~125μmの厚みを有する絶縁フィルム(例えば25μmのポリイミド製絶縁フィルム)を用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。箔状部材10の通電層12は、銅、金、銀等の導電性を有する金属材料により構成されている。通電層12としては、例えば1.5~150μmの厚みを有する金属箔(例えば18μmの銅箔)を用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。
【0056】
ここで、電解液は、例えば、導体層Dの表面Eに析出される金属をイオンの状態で含有している液体であり、含有される金属は、例えば、銅、金、銀、ニッケル等が挙げられる。電解液は、これらの金属をイオン化したものであり、公知の各種の電解液を用いることができる。なお、電解液は、ここに例示したものに限定されるものではない。
【0057】
本実施形態に係る表面処理装置1は、
図1Cに示すように、イオン伝導膜6と箔状部材10とを接近又は剥離させるための剥離機構52を備えている。具体的には、剥離機構52は、例えば上クランプ部38に接続された直動ロッド52aを備えており、該直動ロッド52aを進退させることで、上クランプ部38を外枠膜治具37に対して摺動させ、外枠膜治具37に固定された内枠膜治具36を下クランプ部39に対して接近又は離隔する方向に相対移動させるよう構成されている。そして、内枠膜治具36と下クランプ部39との間でイオン伝導膜6と箔状部材10とがクランプされる。
【0058】
また、上クランプ部38には、剥離機構52によるイオン伝導膜6及び箔状部材10の剥離に先立ち、イオン伝導膜6と箔状部材10との間にエアブローを行い、イオン伝導膜6と箔状部材10との密着状態を解除することができるように、空気導入流路38bが設けられている。
【0059】
さらに、イオン伝導膜6と箔状部材10との間には、
図2に示すように、例えば、少なくともイオン伝導膜6側の表面に離型処理が施された離型フィルム材46が配置されていても良い。離型処理は、例えば、凹凸を付けるシボ加工やシリカ粒子を塗布する粗面化処理等が挙げられるが、これに限定されず、粗面化処理に代えて又はこれに加えて、フッ素系離型剤等の離型促進剤を塗布する処理を採用可能である。離型フィルム材46は、表面処理後のイオン伝導膜6と箔状部材10との密着状態をより簡単に解除するために用いられ得る。離型フィルム材46を用いない場合は、絶縁層11のイオン伝導膜6側の表面(イオン伝導膜6と接触する表面)に上記の離型処理が施されていても良い。
【0060】
なお、下クランプ部39には、該下クランプ部39と載置基台2とが嵌合した状態において、載置基台2と箔状部材10及びイオン伝導膜6との間の下方空間の空気を排気(好適には真空排気)するための排気手段が設けられている。排気手段は、上記の下方空間を減圧するために開閉される開閉弁47を有しており、該開閉弁47は、上記の下方空間に開口すると共に下クランプ部39の下方に連通する減圧流路48の外側に配置されるように設けられている。
【0061】
この減圧流路48は、液室3(イオン伝導膜6の上方空間)に連通する図示しない減圧流路と、流路開閉弁及びバイパス流路(いずれも図示せず)を介して接続されている。バイパス流路は、可能な限り流路長が短くなるように設定され、バイパス流路には、減圧用の真空ポンプ等を有する減圧ユニット(図示せず)が接続されている。このような減圧系の回路は、開閉弁付き加圧機構30や流路開閉弁40等の溶液供給系の回路とは別回路で設けられている。
【0062】
開閉弁47は、内部に中空の開閉調整室で内壁面に摺接して摺動可能な中実構造のスプール49を備え、下クランプ部39の外側に設けられた閉操作ポート57と、この閉操作ポート57よりも内側で且つ下クランプ部39の下側に設けられた開操作ポート58と、を備えている。各ポート57,58は、開閉弁47の外側から内部の開閉調整室への貫通孔である。開閉弁47は、例えば、電解液等の液体が通過しやすいイオン伝導膜6を使用した際に、開閉弁付き加圧機構30による圧縮体積以上に液体が下方空間に流れ込むと加圧できなくなってしまうことを防止するために設けられている。
【0063】
また、上述した箔状部材10は、絶縁層11及び通電層12を交互に複数積層(接着又は非接着のいずれでも良い)してなるものでも良く、より好適には、絶縁層11上に通電層12が形成された可撓性プリント基板(例えばフレキシブルプリント基板)、或いは多層構造の絶縁層11及び通電層12を有する多層可撓性プリント基板(例えば多層フレキシブルプリント基板)により構成されていても良い。箔状部材10が可撓性プリント基板により構成される場合は、絶縁層11は、例えば12~25μm程度の厚みで形成され、通電層12は、例えば6~18μm程度の厚みで形成されることが好適であるが、これに限定されるものではない。
【0064】
箔状部材10は、
図1A及び
図1Bに示すように、通電層12を電源部7の負極(-極)と電気的に接続させるためのコネクタ部13を備えており、
図2(b)に示すように、通電層12が、コネクタ部13を介して電源部7の負極と導体層Dとを導通するように、導体層Dの一部に接触可能に配置される。これと共に、箔状部材10は、絶縁層11が、導体層Dの表面Eの被処理領域の形状に応じた形状の貫通孔11aを有し、この貫通孔11aが被処理領域上に配置されるように構成される。
【0065】
箔状部材10は、一例として、絶縁層11の貫通孔11aが上面視で見て矩形開口状(ロの字状)に形成されている場合、例えば、通電層12は貫通孔11aよりも僅かに大きな貫通孔12aを有するように形成される。これにより、箔状部材10は、
図2(c)に示すように、表面処理時に、コネクタ部13を介して通電層12を導体層Dに接触させて陰極とすることができると共に、絶縁層11を、貫通孔11aを除く部分が導体層Dの表面Eにおける非処理領域上を覆って、被処理領域上にのみイオン伝導膜6を接触させるマスク材とすることができる。なお、絶縁層11の貫通孔11aと通電層12の貫通孔12aとを同じ大きさとし、離型フィルム材46の貫通孔をこれら貫通孔11a,12aよりも僅かに小さい大きさとすることで、離型フィルム材46をマスク材として機能させる構成であっても良い。また、通電層12の全体に一律に電圧を印加して良い場合(例えば通電層12の後述する通電パターン12b毎に選択的に電圧を印加する必要が無い場合等)には、電源部7の負極をコネクタ部13ではなく下クランプ部39に接続し、該下クランプ部39に通電層12を接触させることで通電層12に電圧を印加する構成としても良い。
【0066】
イオン伝導膜6は、繰り返し使用されることを前提にしており、表面処理時の膜損傷等に対処するために、その変形量はできるだけ小さい方が好適である。ただし、被処理物Cの表面の凹凸形状や導体層Dのパターン形状が微細化或いは複雑化してくると、その形状に倣うためには、イオン伝導膜6の膜厚をできるだけ薄くした上で変形量を小さくする必要が生じる。
【0067】
この点、本実施形態の表面処理装置1は、非常に薄い通電層12(及び絶縁層11)を有する箔状部材10により、導体層Dを陰極とすることができると共に、貫通孔11aを介してイオン伝導膜6を導体層Dの表面Eの被処理領域に接触させることができる。このため、イオン伝導膜6の変形量を小さくしてイオン伝導膜6に掛かる負荷を減少させ、より微細化及び複雑化したパターン形状の導体層Dであっても、イオン伝導膜6とその表面Eとを適切に接触させて表面処理することが可能となる。
【0068】
一方、籠状部材20は、例えば、ハウジング4に鉛直方向に貫通するように複数取り付けられた支持柱部21に、高さ調整スペーサ22を介して吊り下げられた状態で液室3内に配置されている。籠状部材20の底部23は、例えば、網目状に形成されており、その内部には、電解液に対して可溶性を有する球状、円柱状及び板状等の任意形状の金属(例えば、銅ボール等)が複数配置されている。
【0069】
籠状部材20は、例えば、その底部23がイオン伝導膜6の直上に位置するように、高さ調整スペーサ22により液室3内の位置を調整された上で配置されている。高さ調整スペーサ22の形状や数を変更することで、籠状部材20の液室3内の位置は自在に変更し得る。籠状部材20は、支持柱部21及びハウジング4を介して、電源部7の正極(+極)に接続されている。
【0070】
これにより、籠状部材20は、表面処理装置1における陽極を構成する。なお、籠状部材20は、支持柱部21に吊り下げられる態様に限定されるものではなく、イオン伝導膜6の上方に配置可能であれば、種々の支持態様を採用し得る。また、陽極は、籠状部材20に限定されず、液室3内の電解液に浸かる位置に配置され得るものであれば、種々の形状(例えばプレート状等)、配置態様を採り得る。本実施形態では、籠状部材20は、その底部23がイオン伝導膜6と接しない状態で直上に配置されるのみならず、陰極となる被処理物Cの導体層Dとの間の鉛直方向の極間距離が一定となるように配置されている。
【0071】
なお、本実施形態の表面処理装置1では、電解液が流れる流路は、供給流路41及び排出流路31の二つであるが、三つ以上であっても良い。また、本実施形態では、支持基台8、載置基台2及びハウジング4は、例えば、上面視で見て矩形状の外形を有し、液室3を構成する部分は角丸矩形状に形成されているが、これらはいずれも円形でも良く、矩形状や角丸矩形状には限定されない。また、載置基台2は支持基台8の上面中央に固定されているが、載置基台2が支持基台8と一体構成となったものでも良い。
【0072】
ハウジング4は、上面視矩形状で、側面に開閉弁付き加圧機構30及び流路開閉弁40が互いに対向する位置に差し込まれて装着された状態で固定してあり、下部には矩形状のイオン伝導膜6等が固定してある。なお、本実施形態では、ハウジング4の上部の上面全体に上ヒータ55及び絶縁部材55aを設け、載置基台2の内部に下ヒータ56を設けてあるが、被処理物Cへの表面処理の種類によっては設けなくても良い。
【0073】
本実施形態では、流路開閉弁40と、電解液を増圧する開閉弁付き加圧機構30とがハウジング4に直接接続され一体化されているので、高い圧力が生じる外部配管を必要とせず、装置全体の小型化を実現すると共に、電解液の加圧時に高圧となる領域をハウジング4の液室3に限定することができる。これにより、表面処理における加圧圧力が増大しても配管が破裂する心配がなく、安全性が高い。また、加圧に必要な加圧機構を弁機構と兼用することで小型化でき、加圧すべき電解液の容積を最小化できるので、その結果、電解液の圧力による配管系の膨張の影響を受けない構造となり、全体がさらにコンパクト、かつシンプルな構成となり、製造コストやメンテナンスコストも削減することができる。
【0074】
次に、図示は省略するが、本実施形態に係る表面処理装置1による表面処理プロセスの一例について説明する。なお、ここでは、離型フィルム材46については省略して説明する。
まず、表面処理の前段階として、ハウジング4が載置基台2と離隔した状態(原位置:
図1A参照)において、載置基台2の上面に被処理物Cを載置する。次に、イオン伝導膜6を、内枠膜治具36の吸着溝36aにその縁部を吸着して膜張りを行う(ステップS1)。この状態において、イオン伝導膜6及び箔状部材10は、剥離機構52によって剥離されており、これらの間には隙間が形成されている。
【0075】
その後、剥離機構52によってイオン伝導膜6と箔状部材10とを密着させる(ステップS2)。このとき、ハウジング4とイオン伝導膜6との間には、開閉弁系以外の部分が閉鎖された常圧の液室3が形成される。
【0076】
その後、ハウジング4の下クランプ部39とこれの下方に配置された被処理物Cを載置した載置基台2とを嵌合する(ステップS3)。すなわち、ステップS2の状態から、移動機構5によって、ハウジング4を上述の減圧位置まで下降させると、下クランプ部39は載置基台2に嵌合する。
【0077】
このとき、下クランプ部39と載置基台2との嵌合位置は、イオン伝導膜6(及び箔状部材10)が被処理物Cの導体層Dの表面Eと可能な限り近づいた状態となる位置に設定される。被処理物Cは、液室3内ではなく、載置基台2とイオン伝導膜6との間に形成される下方空間内に密閉され、液室3とは隔てられる。
【0078】
したがって、このステップS3では、被処理物Cは、開口部が内壁最下部に設けてある供給流路41と開口部が内壁最上部に設けてある排出流路31とを備え内部上面が傾斜したハウジング4と、イオン伝導膜6(及び箔状部材10)を隔てて載置基台2に載置される。
【0079】
次に、ステップS3の状態から、下クランプ部39に設けられた開閉弁47を開状態にすると共に、上述した減圧系の流路開閉弁を開状態にして、減圧流路48と図示しない減圧流路をバイパス流路を介して連通させ、液室3と下方空間を同時に減圧する(ステップS4)。すなわち、このステップS4では、液室3と下方空間をイオン伝導膜6を介して等圧にする。
【0080】
このように液室3と下方空間を同時に減圧することで、液室3と下方空間との差圧の発生を低減することができ、後述するステップS7において、イオン伝導膜6(及び箔状部材10)を被処理物Cの全体的な表面形状に沿って精度良く密着させることができる。
【0081】
そして、例えば、減圧状態を継続したまま、載置基台2を下クランプ部39に完全嵌合させるべく相対移動(本実施形態では、移動機構5によってハウジング4を上述の減圧位置まで下降)させて(ステップS5:
図1B参照)、イオン伝導膜6を導体層Dの表面Eに接近させ、上述した減圧系の流路開閉弁を閉状態にして、液室3の減圧系の回路(バイパス流路)を遮断して(ステップS6)、液室3を大気開放させる(ステップS7)。
【0082】
なお、液室3の減圧系の回路遮断の際には、流路開閉弁のスプールの先端部(図示せず)は、液室3の内部側面と面一若しくは内部側面から突出するように移動して、回路を遮断する。スプールの先端部が内部側面よりも引っ込んだ位置にあると、その部分に電解液が残留したり空気が残留する不具合が起こりやすくなるからである。ステップS7の大気開放が行われた場合、イオン伝導膜6は大気圧によって下方空間側に押された状態となる。
【0083】
このステップS7と同時に、載置基台2とハウジング4を相対移動させて該載置基台2と下クランプ部39とを完全嵌合(処理位置(
図1B参照)まで下降)することで、イオン伝導膜6は、被処理物Cの中心部から最初に密着する状態となる。この際、イオン伝導膜6と載置基台2との間に残留する空気を減圧流路48から吸引することで、被処理物Cの周囲を減圧状態とし、空気の残留を抑制することができる。そして、このようにして載置基台2と下クランプ部39を完全嵌合させた後(すなわち、載置基台2とハウジング4とを最接近させた後)に、開閉弁47を閉状態にして、下方空間の減圧系の回路を遮断する。
【0084】
これにより、イオン伝導膜6(及び箔状部材10)が被処理物Cの全体的な表面形状に沿って密着し、箔状部材10の通電層12を導体層Dの一部に接触させた状態(
図2(c)参照)となる。このような各ステップを経てイオン伝導膜6及び箔状部材10を被処理物Cに接触させることで、例えば、表面処理面(すなわち、被処理物Cの導体層Dの表面E)に残留する微細な気泡を確実に排除してこれらを密着させることができる。
【0085】
次に、傾斜機構50によって、
図1Cに示すように、載置基台2及びハウジング4を、例えば、排出流路31側が傾斜上方となるように所定の角度で傾斜させ(ステップS8)、液室3内に、電解液を注入する(ステップS9)。すなわち、ステップS8に続くステップS9では、被処理物Cをイオン伝導膜6で覆った状態で、ハウジング4の液室3の内部側面の最下部に開口部を有する供給流路41から電解液を液室3内に注入する。
【0086】
具体的には、流路開閉弁40の給排ポート45から、液室3の内部に向かって電解液が注入される。電解液は、ハウジング4の壁面流路である供給流路41を通り、イオン伝導膜6の近傍の供給流路41の開口部から、液室3の内部を満たしていく。電解液がハウジング4の壁面上面に達すると、液室3の内部に残留している空気は、内部上壁面の傾斜に沿って移動し、開閉弁付き加圧機構30の接続流路である排出流路31から、給排ポート35に接続された外部の溶液供給部(図示省略)に排気される。電解液の注入をさらに続けると、液室3の内部は常圧の電解液で完全に満たされる。
【0087】
そして、ハウジング4の内部側面の最上部に開口部を有する排出流路31から液室3内の残留空気を排出する(ステップS10)。ステップS10では、ステップS9で残留空気が排除され給排ポート45からの電解液の注入を継続した状態で、開閉弁付き加圧機構30の給排ポート35から、液室3内の残留空気と余剰の電解液が排出される。
【0088】
残留空気を排出したら、ハウジング4の外部側面に装着された流路開閉弁40と開閉弁付き加圧機構30を閉じて、液室3内を密閉する(ステップS11)。ステップS11では、流路開閉弁40の閉操作ポート43に作動空気が送気され、スプール42が液室3側に移動することにより、電解液の供給流路41と給排ポート45との間が遮断され、流路開閉弁40が閉状態となる。
【0089】
また、開閉弁付き加圧機構30の閉操作ポート33に作動空気が送気され、スプール32が液室3側に移動し、開閉弁付き加圧機構30の給排ポート35が閉じられる。
【0090】
次に、ハウジング4の外部側面に設けられた加圧機構兼開閉弁である開閉弁付き加圧機構30によって、液室3内の電解液を加圧すると共に、電源部7により籠状部材20と箔状部材10の通電層12との間に電圧を印加する。これにより、イオン伝導膜6で覆われた被処理物Cの導体層Dの表面Eの被処理領域上に、金属イオンを析出させて金属の被膜を形成する表面処理を実行する(ステップS12)。
【0091】
電解液の加圧に際しては、閉状態となった開閉弁付き加圧機構30の閉操作ポート33にさらに作動空気を送気し、スプール32をさらに液室3側に移動させて液室3内の電解液を圧縮して加圧する。作動空気の圧力を高めると、スプール32の基端部に圧力が掛かり、液室3側にスプール32が移動する。このスプール32が移動した体積分だけ液室3内が加圧され、内部を満たす電解液に掛かる圧力がその分増加する。
【0092】
なお、ハウジング4に液室3の内部の圧力を計測可能な圧力センサを設置し、この計測値を基に、閉操作ポート33に供給する作動空気圧力を制御すれば、電解液を所望の圧力に加圧制御することが可能である。この状態を所定の時間保持し、所定の電圧印加時間が経過すれば、表面処理が完了する。
【0093】
被処理物Cは、表面処理中、電解液が含まれる液室3とはイオン伝導膜6によって隔てられているが、電解液が加圧されることで、被処理物Cには均一な加圧力が付与される。したがって、特許文献1に開示された従来技術の成膜装置のように、多孔質体の陽極で電解質膜ごと陰極を押圧する従来の構成と比較して、イオン伝導膜6と導体層Dの表面Eとの密着性が向上し、表面処理の品質が向上する。
【0094】
表面処理を完了したら、ハウジング4の内部側面の最下部に開口部を有する供給流路41から電解液を排出する(ステップS13)。ステップS13では、流路開閉弁40と開閉弁付き加圧機構30とを開状態にし、開閉弁付き加圧機構30の給排ポート35から低圧の空気を送気して、流路開閉弁40の給排ポート45から電解液を排液する。
【0095】
流路開閉弁40に接続されているハウジング4の供給流路41は、イオン伝導膜6に接した最下部に開口部を設けているため、電解液を十分に排除することが可能である。最後に、傾斜機構50による傾斜状態を解除して、ハウジング4を載置基台2から離隔するように上昇させ、被処理物Cを取り出す(ステップS14)。
【0096】
本実施形態の表面処理装置1によれば、被処理物Cの導体層Dの表面Eをイオン伝導膜6で均一に加圧しながら、箔状部材10の通電層12を導体層Dに接触させて表面Eに金属の被膜を形成することができるので、イオン伝導膜6に掛かる各種の負荷を低減することができる。
【0097】
また、被処理物Cを効率よく表面処理できるのみならず、例えば、被処理物Cを取り出す際の電解液の漏洩リスクを低減できると共に、被処理物Cの周囲に電解液が残留することを抑制して被処理物Cが電解液に曝露されるリスクも低減できる。そして、傾斜機構50による傾斜も含めてイオン伝導膜6の上に電解液が残留しにくい構造のため、例えば、被処理物Cを取り出す際に万が一イオン伝導膜6が破損したとしても、電解液が漏洩するリスクと、被処理物Cが電解液に曝露されるリスクが極力低減される。
【0098】
また、非常に薄いイオン伝導膜6と箔状部材10を備えるため、微細化及び複雑化したパターン形状の導体層Dを有する被処理物Cにおいても、イオン伝導膜6を導体層Dの表面Eに適切に接触させて表面処理することができ、イオン伝導膜6の変形量を小さくして掛かる負荷を減少させることができる。
【0099】
なお、上記の説明では、開閉弁付き加圧機構30の作動に空気圧を使用した例を示したが、液圧或いは電動の方式を採用することもできる。また、流路開閉弁40及び開閉弁付き加圧機構30を含む各種開閉弁は、空気圧駆動を想定した弁構造について説明を行ったが、液圧での駆動や、一般の電磁弁、ボールねじ機構、ラックアンドピニオン機構等の種々の手段を用いることも可能である。さらに、これらの作動機構を弁構造から独立させ、各種の汎用作動機構部品を用いることも可能である。
【0100】
また、ハウジング4を上下動させる移動機構5は、空気圧シリンダ機構や電動のリニア駆動機構等の種々の構成を任意に用いることが可能である。これらの直動機構には、位置検出センサ及び圧力検出センサが設けられることが好ましい。なお、作動空気の制御系、電解液の制御系については、一般の流体制御系の回路が使用できるため、詳細の説明は省略する。
【0101】
上述した作用効果と共に、表面処理装置1によれば、ハウジング4の内部に被処理物Cを表面処理する液室3を形成し、その液室3に臨む加圧機構を直接取り付けてあるので、不要な配管や圧力ポンプ等を排除して小型化することができる。また、載置基台2とハウジング4を離隔させることにより、被処理物Cを容易に取り出すことができる。
【0102】
また、表面処理の後、液室3の内部を排液させた上で載置基台2とハウジング4を離隔させるので、電解液の漏洩を防ぐことができる。さらに、供給流路41を液室3の最下部に、また、排出流路31を液室3の最上部にそれぞれ設けてあるので、液室3内に満たされた電解液は給気排気口から空気を入れることにより、空気圧と重力を利用して給液排液口から効率よく排出され得る。このように、液室3内に電解液が残留していなければその漏洩のリスクは著しく低くなる。
【0103】
また、加圧機構(開閉弁付き加圧機構30)を小型化するためには、電解液を注入する際、液室3内の残留空気の排除が重要となる。表面処理装置1は、液室3の上面を最上部にある給気排気口(排出流路31)に向けた傾斜構造とすることにより、液室3内の空気を容易に排除することができる。
【0104】
また、液室3内の空気を排除した状態で、加圧機構により加圧を行うことにより、効率よく加圧することができるようになるだけでなく、効率が良くなったことによる加圧機構の小型化を図ることができる。なお、上述した表面処理装置1は、イオン伝導膜6を有するものであるが、電解液を直接被処理物Cに接触させて表面処理を行うような場合には、イオン伝導膜6は必ずしも具備されていなくても良い。
【0105】
次に、表面処理装置1における被処理物Cに対応する箔状部材10の様々な構成及び表面処理例について説明する。なお、ここでは、被処理物Cは、特に明記しない限り、樹脂基材Bの上に導体層Dが形成されたものとし、表面処理は、イオン伝導膜6を介して導体層Dの表面Eに金属を析出させ被膜を形成するめっき処理とするが、表面処理装置1により行われる表面処理は、これに限定されるものではない。
【0106】
図3及び
図4は、第一の箔状部材10及び被処理物Cを概略的に示す図であり、
図3(a)は第一の箔状部材10の通電層12の上面を、
図3(b)は第一の箔状部材10の絶縁層11の上面を、
図3(c)は被処理物Cの導体層Dの表面Eを、それぞれ示しており、
図3(d)は被処理物Cの断面を示している。また、
図4(a)は、第一の箔状部材10の通電層12及び絶縁層11を積層して被処理物Cに重ねた状態の上面を、
図4(b)は表面処理が施された被処理物Cの上面を、
図4(c)はその断面を、それぞれ示している。
【0107】
上述したように、被処理物Cが樹脂基材B上に導体層Dが形成された構造であると、例えば、イオン伝導膜6を用いためっき処理では、載置基台2を電源部7の負極に接続したとしても、導体層Dを陰極とすることができなくなる。このため、導体層Dの表面Eに金属を析出させてめっき処理を行うには、導体層Dを電源部7の負極と接続して陰極とすることが必要となる。
【0108】
本実施形態の表面処理装置1の第一の箔状部材10は、通電層12を導体層Dの表面Eに直接接触させることで電源部7の負極と導通させて陰極とすることができるので、載置基台2側に樹脂基材B等の絶縁体が配置された被処理物Cであっても、良好且つ確実に導体層Dにめっき処理を行うことができるようになる。
【0109】
第一例の被処理物Cは、
図3(c)に示すように、例えば、上面視矩形状に形成されている。この被処理物Cは、
図3(d)に示すように、樹脂基材Bの上面に全面的に導体層Dが形成されたベタパターンの導体層Dを有する。そして、この導体層Dの表面Eの周縁部から僅かに内側の矩形状の領域を被処理領域としてその全面にめっき処理を施す場合、第一の箔状部材10の通電層12には、
図3(a)に示すように、導体層Dの外径よりも僅かに小さな開口径を有する貫通孔12aが形成される。
【0110】
また、第一の箔状部材10の絶縁層11には、
図3(b)に示すように、被処理領域に対応する開口径であって、貫通孔12aよりも僅かに小さな開口径を有する貫通孔11aが形成される。この第一の箔状部材10の通電層12及び絶縁層11は、貫通孔12a,11aを除く部分がベタパターンに形成されている。
【0111】
このように構成された第一の箔状部材10を、被処理物Cの上に通電層12及び絶縁層11の順で重ね合わせると、
図4(a)に示すように、絶縁層11の貫通孔11aから導体層Dの表面Eの被処理領域Epが露出すると共に、通電層12の一部が貫通孔12aの周縁部近傍下面で導体層Dの表面Eと接触した状態とすることができる。この状態で、第一の箔状部材10とイオン伝導膜6とを重ね合わせ、イオン伝導膜6を貫通孔11aを介して被処理物Cの導体層Dの表面Eと密着させて、めっき処理を施す。
【0112】
めっき処理後の被処理物Cは、
図4(b)及び
図4(c)に示すように、導体層Dの表面Eにおいて、被処理領域Ep上にめっきによる被膜Fが形成され、通電層12が接触していた部分を含む非処理領域En上には被膜Fが形成されていない状態となる。すなわち、第一の箔状部材10の絶縁層11は、貫通孔11aを除く部分が、導体層Dの表面Eの非処理領域En上をイオン伝導膜6と接触しないように覆うマスク材の役割も担っている。貫通孔11aの形状や数、種類を、被処理領域Epや非処理領域Enのデザインに合わせて適宜設定するようにして絶縁層11を構成すれば、マスク材としての機能をより向上させることが可能となる。
【0113】
図5及び
図6は、第二の箔状部材10及び被処理物Cを概略的に示す図であり、
図5(a)は第二の箔状部材10の通電層12の上面を、
図5(b)は第二の箔状部材10の絶縁層11の上面を、
図5(c)は被処理物Cの上面を、
図5(d)は被処理物Cの断面を、それぞれ示している。また、
図6(a)は、第二の箔状部材10の通電層12及び絶縁層11を積層して被処理物Cに重ねた状態の上面を、
図6(b)は表面処理が施された被処理物Cの上面を、
図6(c)はその断面を、それぞれ示している。なお、以降においては、既に説明した内容と重複する説明については省略し、導体層Dの表面Eにおける被処理領域Ep及び非処理領域Enの図示を省略する。
【0114】
上述した第一例の被処理物Cは、ベタパターンの導体層Dを有するものであったが、第二例の被処理物Cは、
図5(c)及び
図5(d)に示すように、例えば、樹脂基材Bが上面視矩形状に形成されると共に、導体層Dが複数の上面視矩形状の独立パターン(ここでは、九つのパターン)で形成されている。
【0115】
そして、各独立パターンの導体層Dの表面Eにめっき処理を施す場合、第二の箔状部材10の通電層12には、
図5(a)に示すように、独立パターンの導体層Dの外径よりも僅かに小さな開口径を有する貫通孔12aが、各独立パターンの導体層Dに対応して複数形成される。
【0116】
また、第二の箔状部材10の絶縁層11には、
図5(b)に示すように、独立パターンの導体層Dの表面Eの被処理領域に対応する開口径であって、貫通孔12aよりも僅かに小さな開口径を有する貫通孔11aが、貫通孔12aと同様に各独立パターンの導体層Dに対応して複数形成される。この第二の箔状部材10の通電層12及び絶縁層11は、各貫通孔12a,11aを除く部分がベタパターンに形成されている。
【0117】
このように構成された第二の箔状部材10を、被処理物Cの上に通電層12及び絶縁層11の順で重ね合わせると、
図6(a)に示すように、絶縁層11の各貫通孔11aから各独立パターンの導体層Dの表面Eの被処理領域が露出すると共に、通電層12の一部が各貫通孔12aの周縁部近傍下面において導体層Dの表面Eと接触した状態とすることができる。この状態で、第二の箔状部材10とイオン伝導膜6とを重ね合わせ、イオン伝導膜6を各貫通孔11aを介して被処理物Cの各独立パターンの導体層Dの表面Eと密着させた上で、めっき処理を施す。
【0118】
めっき処理後の被処理物Cは、
図6(b)及び
図6(c)に示すように、各独立パターンの導体層Dの表面Eにおいて貫通孔11aで画定される被処理領域上にめっきによる被膜Fが形成された状態となる。このように、第二の箔状部材10の絶縁層11及び通電層12の貫通孔11a,12aの形状や数、種類等を導体層Dに合わせて工夫すれば、独立パターンの導体層Dを有する被処理物Cに対しても、表面Eの非処理領域をマスクして良好にめっき処理を行うことが可能となる。
【0119】
なお、第二例の被処理物Cは、複数の独立パターンの導体層Dを有し、各独立パターンの導体層Dの表面Eに一律にめっき処理がなされるものであったが、第二の箔状部材10の通電層12の構成を工夫すれば、例えば、各独立パターンの導体層Dの表面Eに選択的にめっき処理を行うことも可能となる。
【0120】
図7は、第三の箔状部材10の通電層12及び第三の箔状部材10を被処理物Cに重ねた状態を概略的に示す図であり、
図7(a)は通電層12の上面を、
図7(b)は被処理物Cに第三の箔状部材10を重ねた状態の上面を、それぞれ示している。上記
図5(c)及び(d)に示した第二例の被処理物Cにおける各独立パターンの導体層Dの表面Eに、選択的にめっき処理を施す場合、第三の箔状部材10の絶縁層11は、
図5(b)に示したものと同じパターンのものを用いることができるが、第三の箔状部材10の通電層12は、
図7(a)に示すように、各貫通孔12aを有する複数の通電パターン12b(ここでは、三つの貫通孔12a毎に三つの通電パターン12b)により構成される。
【0121】
なお、各通電パターン12bの回路間の絶縁性を確保するため、通電層12の下面側(すなわち、被処理物C側)には、
図3(b)に示したような貫通孔11aを有する絶縁層(図示せず)が配置される。なお、該絶縁層には、各通電パターン12bに各々独立して電源部7の負極を電気的に接続させるための貫通孔(図示せず)が更に形成されることが好ましい。このように通電層12の下方に別途絶縁層を配置することによって、電源部7による各通電パターン12bへの電圧印加等を選択的に行うことができる回路系を実現し、選択的に電源部7の負極を導体層Dに導通させて陰極としめっき処理することが可能となる。このような通電層12及び図示しない絶縁層は、層数が増えれば交互に配置され得る。
【0122】
また、この通電層12の下方に配置された絶縁層の貫通孔11aの形状や数、種類等を適宜変更して配置することで、通電層12の上方に配置された絶縁層11の貫通孔11aの形状等によるバリエーションに加えて、選択的に通電等する回路パターンのバリエーションをさらに広げることが可能となる。
【0123】
なお、第三の箔状部材10においても、各貫通孔11a,12aの開口径の関係については上述した通りである。また、通電層12がこのような複数の通電パターン12bにより構成され、選択的にめっき処理を行う場合、電源部7は、各通電パターン12b毎に印加電圧、印加電流及び印加時間の少なくとも一つを制御可能に構成され得る。
【0124】
すなわち、各通電パターン12bにより構成された通電層12を被処理物Cに重ねると共に絶縁層11を重ねて被処理物C上に第三の箔状部材10を配置すると、
図7(b)に示すようになり、この状態の第三の箔状部材10にイオン伝導膜6を重ね合わせて導体層Dの表面Eと密着させた上で、電源部7は、三つの各通電パターン12b毎に選択的に電流を流したり電圧を印加したり、或いはこれらの値を変更したりその時間を変化させたりして、独立パターンの三つずつの導体層Dの表面Eに選択的に異なるめっき処理を行うことができる。このように選択的にめっき処理を行うことで、各通電パターン12b毎に被膜Fの厚さを変えたり金属の析出速度や析出時間等を変更したりしてめっき処理を行うことができるので、被膜Fを所望の厚さや形状に自在に形成することが可能となる。
【0125】
なお、例えば、第二例の被処理物C(
図5(c)等参照)は、上面視矩形状の独立パターンの導体層Dが九つ設けられた構造を備えているが、この被処理物Cの各々の導体層Dが密集したレイアウトで形成され、それぞれに対して独立して対応する貫通孔12a及び通電パターン12bを設けて、箔状部材10の通電層12を形成しようとすると、例えば、
図8(a)に示すようになる。
【0126】
すなわち、貫通孔12a及び通電パターン12bを上記のような密集したレイアウトの導体層Dに対応させようとすると、例えば、被処理物Cの真ん中に配置された導体層Dに対しては、密集度合いによって貫通孔12aも通電パターン12bも形成できないような事態が生じることも想定される。
【0127】
このような場合、すなわち、めっき処理すべき被処理物Cの導体層Dのパターンや密集度如何によっては、貫通孔11a,12aや通電パターン12b等の絶縁層11及び通電層12のレイアウトが異なる複数の箔状部材10を交換しながら複数回のめっき処理を行ったり、異なるレイアウトの貫通孔11a,12aや通電パターン12bを有する絶縁層11及び通電層12を導体層Dのパターン等に対応するように複数積層させて構成された箔状部材10を用いてめっき処理をしたり、両者の箔状部材10を併用してめっき処理すること等が好ましい。
【0128】
図8は、第四の箔状部材10A及び被処理物Cを概略的に示す図であり、
図8(a)は第四の箔状部材10Aの通電層12の上面を、
図8(b)は第四の箔状部材10Aの絶縁層11の上面を、
図8(c)は第四の箔状部材10Aの通電層12及び絶縁層11を積層して被処理物Cに重ねた状態の上面を、それぞれ示している。また、
図9は、表面処理が施された被処理物を上面及び断面で概略的に示す図であり、
図9(a)は、表面処理が施された被処理物Cの上面を、
図9(b)は
図9(a)のM-M線断面図を、それぞれ示している。
【0129】
まず、上記のような九つの導体層Dが設けられた被処理物Cの真ん中に配置された導体層Dを除く各導体層Dに対して、それぞれ独立して対応する貫通孔12a及び通電パターン12bを設けて各導体層Dの表面Eにめっき処理を施す場合、第四の箔状部材10Aの通電層12は、
図8(a)に示すように、導体層Dの外径よりも僅かに小さな開口径の貫通孔12aを有する独立した複数の通電パターン12b(ここでは、一つの貫通孔12aにつき一つの通電パターン12b)により構成される。
【0130】
また、第四の箔状部材10Aの絶縁層11には、
図8(b)に示すように、導体層Dの表面Eの被処理領域に対応する開口径であって、貫通孔12aよりも僅かに小さな開口径を有する貫通孔11aが、貫通孔12aのレイアウトと同様に真ん中に配置された導体層Dを除く各導体層Dに対応して複数形成される。
【0131】
このように構成された第四の箔状部材10Aを、被処理物Cの上に重ね合わせると、
図8(c)に示すように、絶縁層11の各貫通孔11aから各導体層Dの表面Eの被処理領域が露出すると共に、通電層12の一部が上記真ん中を除く各貫通孔12aの周縁部近傍下面において各導体層Dの表面Eとそれぞれ独立して接触した状態とすることができる。
【0132】
なお、通電層12の下面側には各通電パターン12bの回路間の絶縁性を確保するための上述したような絶縁層(図示せず)が配置される。この状態で、第四の箔状部材10Aとイオン伝導膜6とを重ね合わせ、イオン伝導膜6を各貫通孔11aを介して被処理物Cの各導体層Dの表面Eと密着させた上で、めっき処理を行う。
【0133】
めっき処理後の被処理物Cは、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、真ん中を除いた各導体層Dの表面Eにめっきによる被膜Fが形成された状態となる。第四の箔状部材10Aを利用しためっき処理では、めっき処理を一律に或いは各通電パターン12b毎に異ならせて施すことはできるが、上記の真ん中に配置された導体層Dのように、導体層Dのパターンや密集度如何によっては一回でのめっき処理を行うことができない場合が生じ得る。このような場合は、例えば、第五の箔状部材10B(
図11(a)参照)のような構成のものを、一回或いは複数回のめっき処理で利用したり、第四の箔状部材10Aと組み合わせて利用したりするようにしても良い。
【0134】
図10は、第五の箔状部材10Bを概略的に示す上面図であり、
図10(a)は第一層の通電層12Aを、
図10(b)は第二層の絶縁層11Aを、
図10(c)は第三層の通電層12Bを、
図10(d)は第四層の絶縁層11Bを、それぞれ示している。また、
図11は、第五の箔状部材10B及び被処理物Cを概略的に示す図であり、
図11(a)は第五の箔状部材10Bを被処理物Cに重ねた状態の上面を、
図11(b)は表面処理が施された被処理物Cの上面を、
図11(c)は
図11(b)のN-N線断面図を、それぞれ示している。
【0135】
まず、上記のような九つの導体層Dが設けられた被処理物Cの真ん中に配置された第一導体層D及びその隣の第二導体層Dに対して、それぞれ独立して対応する貫通孔12a1,12a2及び通電パターン12b1,12b2を設けて表面Eにめっき処理を施す場合、第五の箔状部材10Bは、少なくとも四層構造を有するように構成される。
【0136】
まず、例えば、被処理物Cに最も近い第一層の通電層12Aは、
図10(a)に示すように、例えば、第二導体層Dの外径よりも僅かに小さな開口径の貫通孔12a1を有する独立した通電パターン12b1により構成される。次に、第一層の通電層12Aの上に配置される第二層の絶縁層11Aには、
図10(b)に示すように、例えば、第二導体層Dの表面Eの被処理領域に対応する開口径であって、貫通孔12a1よりも僅かに小さな開口径を有する貫通孔11a1、及び後述する第四層の絶縁層11Bの貫通孔11a2よりも大きな開口径を有する貫通孔11b1が、それぞれ第一及び第二導体層Dに対応して形成される。
【0137】
次に、第二層の絶縁層11Aの上に配置される第三層の通電層12Bは、
図10(c)に示すように、例えば、第一導体層Dの外径よりも僅かに小さな開口径の貫通孔12a2を有し、第二層の通電パターン12b1とは位相(位置)をずらした独立した通電パターン12b2により構成される。
【0138】
そして、第三層の通電層12Bの上に配置される第四層の絶縁層11Bには、
図10(d)に示すように、例えば、第一導体層Dの表面Eの被処理領域に対応する開口径であって、貫通孔12a2よりも僅かに小さな開口径を有する貫通孔11a2、及び第二層の絶縁層11Aの貫通孔11a1よりも大きな開口径を有する貫通孔11b2が、それぞれ第一及び第二導体層Dに対応して形成される。
【0139】
このように構成された第五の箔状部材10Bを、被処理物Cの上に重ね合わせると、
図11(a)に示すように、絶縁層11A,11Bの各貫通孔11a1,11a2から第二及び第一導体層Dの表面Eの被処理領域が露出する。これと共に、通電層12A,12Bの一部が各貫通孔12a1,12a2の周縁部近傍下面において第二及び第一導体層Dの表面Eとそれぞれ独立して接触した状態とすることができる。
【0140】
なお、第一層の通電層12Aの下面側には、上述したような絶縁層(図示せず)が配置される。この状態で、第五の箔状部材10Bとイオン伝導膜6とを重ね合わせ、イオン伝導膜6を各貫通孔11b2,11a1及び貫通孔11a2,11b1を介して被処理物Cの第二及び第一導体層Dの表面Eと密着させる。そして、上述したような一律或いは各通電パターン12b1,12b2毎に異なるめっき処理を行う。
【0141】
めっき処理後の被処理物Cは、
図11(b)及び
図11(c)に示すように、真ん中及びその隣のうちの一つの各第一及び第二導体層Dの表面Eにのみ、選択的にめっきによる被膜Fが形成された状態となる。第五の箔状部材10Bを利用しためっき処理では、めっき処理を一律に或いは各通電パターン12b毎に異ならせて施すことができるのみならず、各通電層12や絶縁層11の積層数や積層パターンを変更することで、上記第四の箔状部材10Aで例示したような真ん中に配置された第一導体層Dを含めて、任意の箇所に選択的にめっき処理することができるようになるので、種々の導体層Dのパターンや密集度合いにも適宜対応させためっき処理を行うことが可能となる。
【0142】
本実施形態に係る表面処理装置1においては、上記のように各箔状部材10を様々な構成(例えば、第四の箔状部材10Aや第五の箔状部材10B等)とした上で表面処理を行うことで、上述したように微細で複雑なパターンの導体層Dが形成された被処理物Cについても、導体層Dの表面Eを適切且つ選択的にめっき処理することができる。
【0143】
なお、イオン伝導膜6は、上述したように非常に薄く形成され、柔軟性や撓み性に優れたものであるため、微細で複雑なパターンの導体層Dの表面Eに合わせて形成された貫通孔11a,12a等を介して、十分且つ確実に表面Eに密着することができる。したがって、被処理物Cにおけるより微細なパターンや複雑なパターンの導体層Dの表面Eをも適切に処理することが可能である。
【0144】
また、被処理物Cの樹脂基材B上の導体層Dを陰極とするために、電源部7の負極と導通させる通電層12を有する箔状部材10は、非常に薄く且つ安価に構成することができるので、イオン伝導膜6が導体層Dの表面Eと密着する際の厚さ方向の変形量を小さくすることができ、イオン伝導膜6に掛かる負荷を低減することができる。
【0145】
さらに、特許文献1に開示された従来技術の成膜装置では、導通部材の材料が不動態被膜ができやすい金属材料に限定されるが、本実施形態に係る箔状部材10は、様々な材料の組み合わせにより絶縁層11と通電層12を構成することができるので、導体層Dを陰極とするために電源部7の負極と導通させる部材の制約を低減させ、該部材の材料の選択肢を大きく広げることが可能となると共に、例えば電流効率を改善し、より微細な処理や複雑な処理を均一且つ適切に行うことが可能となる。
【0146】
また、本実施形態に係る箔状部材10によれば、絶縁層11によりイオン伝導膜6と通電層12とを電気的に分離させることが可能となるため、通電層12において電気分解(本実施形態では金属の析出)が起こることを防止することができる。さらに、本実施形態に係る箔状部材10では、絶縁層11が、少なくとも通電層12と被処理物Cの導体層Dとの接触部において、該通電層12とイオン伝導膜6との間に配置されているため、該接触部においても、絶縁層11によってイオン伝導膜6と電気的に分離させることが可能となり、めっき被膜等によって通電層12と導体層Dとが接合される等の不具合を回避することが可能となる。
【0147】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0148】
例えば、上記の実施形態では、液室3内の籠状部材20を陽極とすると共に、箔状部材10の通電層12が表面Eに接触した被処理物Cの導体層Dを陰極として、イオン伝導膜6を導体層Dの表面Eに密着させて電圧を印加し、金属を析出させるめっき処理を例に挙げて説明したが、表面処理としては、このようなめっき処理に限定されるものではない。
【0149】
すなわち、表面処理装置1は、例えば、イオン伝導膜6を用いずに、液室3内にめっき液を導入して被処理物Cを浸漬させてからめっきを行うタイプの浸漬めっき処理等に利用することも可能である。
【0150】
また、表面処理装置1は、電源部7の正極及び負極の極性を入れ替え、被処理物Cの導体層Dを陽極、ハウジング4内に配された電極(上記の実施形態では籠状部材20)を陰極とすることにより、被処理物Cの導体層Dのエッチング処理や洗浄処理等に利用することも可能である。この場合において、イオン伝導膜6及び箔状部材10の双方を用いても良いし、箔状部材10のみを用いても良い。
【0151】
箔状部材10は、上述したように通電層12が導体層Dの一部に接するものであれば、種々の形状を採り得る。すなわち、箔状部材10は、絶縁層11及び通電層12を、被処理物Cの導体層Dの表面Eにおける被処理領域を塞がないように配置し、通電層12を、導体層Dの一部に接触させるように配置すれば良いので、上記例示した形状や配置態様に限定されるものではない。例えば、被処理物Cの導体層D以外の部分が絶縁性であり、絶縁層11及び/又は離型フィルム材46でマスクをする必要が無い場合には、絶縁層11の貫通孔11a及び離型フィルム材46の貫通孔を被処理物Cの導体層Dの表面Eにおける被処理領域よりも大きく形成し、絶縁層11及び/又は離型フィルム材46をマスク材として機能させない構成としても良い。
【0152】
また、上記の実施形態では、絶縁層11及び/又は離型フィルム材46が、図示したような矩形の閉じた外縁を持つ形状(ロの字状)の貫通孔を有するものとして説明したが、これに限定されず、絶縁層11によって通電層12とイオン伝導膜6とを電気的に分離することができると共に、絶縁層11を被処理物Cの非処理領域に対して所望の位置に配置することが可能な構成であれば、貫通孔の形状は任意に変更可能であり、また、貫通孔を有さない構成としても良い。なお、本明細書において、「貫通孔」とは、一方の面から他方の面に亘って貫通する開口を意味し、外縁全域が閉じた開口に限定されず、外縁の一部が開放された形状(例えばコの字状の切り欠き等)も含まれるものとする。
【0153】
なお、被処理物Cが、例えば、樹脂基材Bの表面上に導体層Dが形成されると共に樹脂基材Bの裏面側の導体層と表面側の導体層Dとが樹脂基材Bへの側面めっき(樹脂基材側面を含む全周に施された無電解めっき)や、樹脂基材Bの表面から裏面に亘って形成されたスルーホール(TH)等の手段により接続されているものである場合は、表面処理装置1の箔状部材10は絶縁層11のみを備えて構成されていれば良く、箔状部材10をマスク材として用いた表面処理を行うことも可能である。この場合、電源部7の負極は載置基台2に接続されていれば良い。
【0154】
また、例えば、上述した実施形態に係る表面処理プロセスでは、電解液を増圧して通電により金属を析出させる表面処理プロセスについて説明したが、被処理物Cを加熱する必要がある場合は、
図1に示したハウジング4の上面と、載置基台2の下面側とに、上ヒータ55及び下ヒータ56を配置し、被処理物Cを所望の温度に設定することが可能である。また、溶液供給部に、電解液の加熱ユニット及び冷却ユニットを設ければ、被処理物Cの温度をさらに急速に変化させることも可能である。
【0155】
また、表面処理装置1としては、載置基台2の上方にハウジング4が設けられた、いわゆる縦型の表面処理装置を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。また、排出流路31の液室3に臨む開口部が、ハウジング4の内部側面の最上部に設けられるものとして説明したが、これに限定されず、液室3内の気体を排出させるという機能を阻害しない範囲において、排出流路31の開口部の位置は任意に変更可能である。そのため、例えば、ハウジング4の内部上面に開口部が形成される構成としても良い。
【0156】
また、供給流路41の液室3に臨む開口部が、ハウジング4の内部側面の最下部に設けられるものとして説明したが、これに限定されず、液室3に対して電解液を供給・排出するという機能を阻害しない範囲において、供給流路41の開口部の位置は任意に変更可能である。そのため、例えば、載置基台2に開口部が形成される構成としても良い。
【0157】
また、ハウジング4の(液室3の)内部上面が排出流路31の開口部側を最上部として鉛直方向に対して傾斜するものとして説明したが、これに限定されず、ハウジング4の(液室3の)内部上面の一部のみが鉛直方向に対して傾斜する構成や、ハウジング4の(液室3の)内部上面が鉛直方向に対して傾斜せずに平坦な構成など、種々の構成を採用することができる。
【0158】
さらに、上述した実施形態では、開閉弁付き加圧機構30及び流路開閉弁40がハウジング4の外部側面に装着されるものとして説明したが、これに限定されず、例えば、ハウジング4の側壁内に埋め込まれるように、表面処理装置1に一体的に設けられる構成、或いは流路系の配管等を介して完全に外部に別体として設けられる構成等、これらの設置位置は任意に変更可能である。
【0159】
その他、ハウジング4に開閉弁付き加圧機構30が設けられるものとして説明したが、これに限定されず、表面処理装置1が液室3内に充填された電解液を加圧可能な構成であれば良く、例えば、液室3の形成後にさらにハウジング4を載置基台2に対して接近させる(又は載置基台2をハウジング4に対して接近させる)ことで、液室3内の電解液を加圧する構成等であっても良い。また、開閉弁付き加圧機構30の設置位置は、液室3内の電解液を加圧するという機能を阻害しない範囲において、任意に変更可能である。
【0160】
また、移動機構5が、直動ロッド51を備えるものとして説明したが、これに限定されず、載置基台2及びハウジング4の少なくとも一方を他方に対して接近又は離隔する方向に相対移動させることが可能な構成であれば、例えば空圧式又は油圧式のシリンダ機構、ボールねじ機構、ラックアンドピニオン機構及びトグル機構等の種々の機構を採用することが可能である。
【0161】
なお、移動機構5は、載置基台2及びハウジング4が相対移動不能となるよう位置保持(ロック)可能な構成、例えば、液室3内の圧力(内圧)以上の圧力で載置基台2及びハウジング4の少なくとも一方を押さえ込むことで載置基台2及びハウジング4の相対移動を規制する構成や、物理的なロック機構等の構成をさらに備えることが挙げられる。
【0162】
表面処理は、電子部品等の被処理物Cを含めて多くの分野で用いられており、本発明の適用先や応用先は広い。また、電解液を直接被処理物Cに接触させることができる表面処理の場合は、上述したイオン伝導膜6を排除して表面処理装置1を構成することができるので、より簡易な装置構成で各種の表面処理を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0163】
1 表面処理装置
2 載置基台
3 液室
4 ハウジング
5 移動機構
6 イオン伝導膜
7 電源部
8 支持基台
9 排気流路
9a 排気ポート
9b トレイ
10 箔状部材
11 絶縁層
12 通電層
13 コネクタ部
20 籠状部材
21 支持柱部
22 高さ調整スペーサ
23 底部
30 開閉弁付き加圧機構
31 排出流路
32,42,49 スプール
33,43,57 閉操作ポート
34,44,58 開操作ポート
35,45 給排ポート
36 内枠膜治具
37 外枠膜治具
38 上クランプ部
39 下クランプ部
40 流路開閉弁
41 供給流路
46 離型フィルム材
47 開閉弁
48 減圧流路
50 傾斜機構
50a 直動ロッド
51 直動ロッド
52 剥離機構
52a 直動ロッド
55 上ヒータ
55a 絶縁部材
56 下ヒータ
B 樹脂基材
C 被処理物
D 導体層
E 表面
F 被膜