(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット、並びに、路面標示の施工方法及び施工装置
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240719BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240719BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240719BHJP
E01F 9/518 20160101ALI20240719BHJP
E01F 9/576 20160101ALI20240719BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/63
E01F9/518
E01F9/576
(21)【出願番号】P 2020193049
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000101477
【氏名又は名称】アトミクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【氏名又は名称】鳥野 正司
(72)【発明者】
【氏名】新津 健太
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 崇之
(72)【発明者】
【氏名】東 弘一朗
(72)【発明者】
【氏名】小川 博巳
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-244467(JP,A)
【文献】特開2013-240783(JP,A)
【文献】特開昭61-243866(JP,A)
【文献】特開2007-107278(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0048199(US,A1)
【文献】米国特許第05403393(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00;101/00-201/10
E01F 9/518
E01F 9/576
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化カルシウム、酸化バリウム及び酸化ストロンチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物粒子を含む第1乾燥促進剤と、
酢酸塩、プロピオン酸塩及び無機塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩を含む水溶液からなる第2乾燥促進剤と、
の2剤からなることを特徴とする路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット。
【請求項2】
前記第2乾燥促進剤の前記水溶液中の前記塩の濃度が、0.1mol/リットル以上飽和濃度以下である、請求項1に記載の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット。
【請求項3】
路面標示用水性塗料を路面に塗布して乾燥することにより路面標示を形成する路面標示の施工方法であって、
請求項1または2に記載の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セットを用い、かつ、
前記路面標示用水性塗料を前記第1乾燥促進剤とともに前記路面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程によって形成された塗布膜上に、前記第2乾燥促進剤を供給する水溶液供給工程と、
を有することを特徴とする路面標示の施工方法。
【請求項4】
前記塗布工程において、前記路面に対し、前記路面標示用水性塗料を塗布すると同時に、前記第1乾燥促進剤を供給する、請求項3に記載の路面標示の施工方法。
【請求項5】
前記塗布工程において形成される塗布膜1m
2当たりの前記酸化物粒子の量が、有効成分として、0.1~10gの範囲内となるように前記第1乾燥促進剤を用いる、請求項3または4に記載の路面標示の施工方法。
【請求項6】
前記水溶液供給工程において、前記塗布膜1m
2当たりの前記塩の成分量が1g以上になるように、前記第2乾燥促進剤を供給する、請求項3~5のいずれかに記載の路面標示の施工方法。
【請求項7】
前記塗布工程と前記水溶液供給工程との間に、前記塗布工程によって形成された塗布膜上にガラスビーズを散布する、ガラスビーズ散布工程を有する、請求項3~6のいずれかに記載の路面標示の施工方法。
【請求項8】
路面標示用水性塗料を路面に塗布して乾燥することにより路面標示を形成するための路面標示の施工装置であって、
請求項1または2に記載の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セットを用い、かつ、
前記路面標示用水性塗料を前記路面に塗布する水性塗料塗布手段と、
前記水性塗料塗布手段によって塗布している最中の前記路面標示用水性塗料に対して前記第1乾燥促進剤を供給する第1乾燥促進剤供給手段と、
前記水性塗料塗布手段によって形成された塗布膜上に、前記第2乾燥促進剤を供給する水溶液供給手段と、
を有することを特徴とする路面標示の施工装置。
【請求項9】
前記水性塗料塗布手段と前記水溶液供給手段との間に、前記水性塗料塗布手段によって形成された塗布膜上にガラスビーズを散布する、ガラスビーズ散布手段を有する、請求項8に記載の路面標示の施工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の路面に水性の路面標示用塗料を塗布して乾燥する際の乾燥性を改善する路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット、並びに、これを用いた路面標示の施工方法及び施工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、舗装道路の路面には、道路交通に関する規則、警戒、規制、案内、指示等の情報を適切に車両の運転手や歩行者に与えるために、各種の区画線、道路標示、カラーリング(以下、これらを「路面標示」という。)が、塗料を用いて路面に施されている(以下、このような塗料を「路面標示用塗料」という。)。
【0003】
共用道路に於ける路面標示の施工作業は、道路交通を規制して行われるが、路面標示用塗料は、道路交通を規制してから通行を可能とするまでの時間(交通規制時間)を短縮するために、塗料塗布後の乾燥が可能な限り速いことが要求される。また、交通規制からの開放(交通開放)直後の走行車両のタイヤに対する塗膜の耐汚れ性に優れることが求められる。そのような塗料として、従前、蒸発速度の速いケトン系、エステル系、芳香族系、脂肪族系等の有機溶剤を用いた塗料が使用されてきた。
【0004】
しかしながら、これら蒸発性有機溶剤は、塗布後迅速に大気中に揮散することから、環境汚染の要因のひとつとなっており、近年では、より環境汚染の少ない路面標示用水性塗料が使用されている。従前の有機溶剤を使用した路面標示用塗料(有機溶剤系路面標示用塗料)の場合、塗布後通常約10分程度で交通開放が可能である。
【0005】
一方、路面標示用水性塗料の乾燥時間は、塗布後の雰囲気温度や湿度に大きく依存する。JIS K5600に規定されている塗料一般試験条件である気温23℃湿度50%の雰囲気下では、路面標示用水性塗料でも有機溶剤系路面標示用塗料と同等の乾燥時間である。しかし、路面標示用水性塗料では、低温時や多湿時に乾燥時間が長くなり、交通開放が遅くなってしまうことがある。
【0006】
また、乾燥時間が長いことから、降雨に遭遇する確率が上がってしまう。路面標示用水性塗料の塗膜が十分に乾燥・硬化していない状態で降雨に遭遇すると、当該塗膜が溶出、剥離することがある。更に、路面標示用水性塗料の塗膜が、一見、乾燥に至ったとしても、塗膜に粘着が残ってしまえば、タイヤによる汚れが発生するなどの不具合を生ずる懸念があり、一般に、安全を見た乾燥時間が確保される。
【0007】
路面標示用水性塗料を路面標示に用いる場合の上記の如き問題を解決するために、いくつかの試みがなされている。例えば、特許文献1には、路面標示用水性塗料(当該文献中においては、「水性組成物」。「背景技術」の項において、以下同様に、括弧内は文献中表現。)を塗布後、塩化ナトリウム、塩化カルシウムなどの水溶性塩を塗料と接触させることで乾燥を促進する技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、酸との接触によって凝集する水希釈可能な分散塗料を路面に塗布する技術が開示されている。詳しくは、路面標示用水性塗料(水性の酸凝固性エマルジョン塗料)を路面に塗布する際に、その塗料上に、または塗料中に反射粒子粉を散布した後に、酸水溶液をスプレー散布することによって、数分で乾燥させる方法および装置が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、水と反応することで発熱可能な非水溶性の無機化合物粒子を、路面標示用水性塗料とともに路面に塗布するか、あるいは、路面に塗布された乾燥前の路面標示用水性塗料の塗布膜上に散布することで、塗布膜の乾燥を促進させる技術が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献4には、路面標示用水性塗料の乾燥を促進させる水性塗料乾燥促進剤、及び、スプレーから吐出される路面標示用水性塗料が通過する容器内に、移送された水性塗料乾燥促進剤(水性塗料定着剤)を散布させることで、路面標示用水性塗料と水性塗料乾燥促進剤とを混合させる技術が開示されている。特許文献4に記載の技術によれば、容器外に水性塗料乾燥促進剤が飛散せずに効率よく水性塗料乾燥促進剤を路面標示用水性塗料に混合することができる。
【0011】
特許文献1と特許文献2に記載の技術は、路面標示用水性塗料を路面に塗布した後、酸または水溶性塩との接触によって乾燥を促進する方法である。しかし、路面に塗布した塗布膜上に酸や水溶性塩を散布させた場合に、これら酸や水溶性塩と接触する塗布膜の表面は早く乾燥するが、塗布膜内部の乾燥が遅くなる、いわゆる「中膿み状態」となる傾向がある。
また、特許文献1の如く、塗布膜に酸を散布すると、塗料中に体質顔料として一般に含まれる炭酸カルシウムと供給された酸とが反応して、炭酸ガスが発生するため、設計された塗料性能が得られない場合がある。
【0012】
特許文献3に記載の技術は、水と反応することで発熱可能な非水溶性の無機化合物粒子を散布するもので、塗膜表面および内部まで乾燥を促進できるが、無機化合物粒子が粉末粒子であるため、周囲への粉末粒子の飛散の懸念がある。
特許文献4に記載の技術は、水性塗料乾燥促進剤を飛散させずに効率よく水性塗料に混合できるが、特殊な塗布装置が必要であり、経済的な観点からは課題が残る。また、塗膜内部から乾燥するため、塗膜全体の強度の発現は速いが、水性塗料乾燥促進剤を多量に混合すると路面に塗着する前に乾燥が始まってしまうため、路面との付着性の低下や視認性を付与するために塗膜表面に散布するガラスビーズの固着性が低下する懸念があった。
【0013】
以上のように、何れの文献においても、路面標示用水性塗料の乾燥を促進するための技術が記載されている。しかし、提案されている技術は、何れも、速乾性の路面標示を実現することはできるものの、上述したように、各々課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開昭61-243866号公報
【文献】特表平8-500405号公報
【文献】特開2004-244467号公報
【文献】特開2007-107278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みて検討されたものであり、詳しくは、塗布膜の優れた乾燥促進効果を有する路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット、及び、路面標示の施工方法及び施工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的は、以下の本発明によって解決される。即ち、本発明の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セットは、酸化カルシウム、酸化バリウム及び酸化ストロンチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物粒子を含む第1乾燥促進剤と、
酢酸塩、プロピオン酸塩及び無機塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩を含む水溶液からなる第2乾燥促進剤と、
の2剤からなることを特徴とする。
【0017】
本発明の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セットにおいては、前記第2乾燥促進剤の前記水溶液中の前記塩の濃度が、0.1mol/リットル以上飽和濃度以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の路面標示の施工方法は、路面標示用水性塗料を路面に塗布して乾燥することにより路面標示を形成する路面標示の施工方法であって、
請求項1または2に記載の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セットを用い、かつ、
前記路面標示用水性塗料を前記第1乾燥促進剤とともに前記路面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程によって形成された塗布膜上に、前記第2乾燥促進剤を供給する水溶液供給工程と、
を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の路面標示の施工方法では、前記塗布工程において、前記路面に対し、前記路面標示用水性塗料を塗布すると同時に、前記第1乾燥促進剤を供給することが好ましい。
また、本発明の路面標示の施工方法では、前記塗布工程において形成される塗布膜1m2当たりの前記酸化物粒子の量が、有効成分として、0.1~10gの範囲内となるように前記第1乾燥促進剤を用いることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の路面標示の施工方法では、前記水溶液供給工程において、前記塗布膜1m2当たりの前記塩の成分量が1g以上になるように、前記第2乾燥促進剤を供給することが好ましい。
本発明の路面標示の施工方法においては、前記塗布工程と前記水溶液供給工程との間に、前記塗布工程によって形成された塗布膜上にガラスビーズを散布する、ガラスビーズ散布工程を有するものとすることができる。
【0021】
本発明の路面標示の施工装置は、路面標示用水性塗料を路面に塗布して乾燥することにより路面標示を形成するための路面標示の施工装置であって、
請求項1または2に記載の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セットを用い、かつ、
前記路面標示用水性塗料を前記路面に塗布する水性塗料塗布手段と、
前記水性塗料塗布手段によって塗布している最中の前記路面標示用水性塗料に対して前記第1乾燥促進剤を供給する第1乾燥促進剤供給手段と、
前記水性塗料塗布手段によって形成された塗布膜上に、前記第2乾燥促進剤を供給する水溶液供給手段と、
を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の路面標示の施工装置においては、前記水性塗料塗布手段と前記水溶液供給手段との間に、前記水性塗料塗布手段によって形成された塗布膜上にガラスビーズを散布する、ガラスビーズ散布手段を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット、並びに、これを用いた路面標示の施工方法及び施工装置によれば、塗布膜の内部の乾燥促進効果に優れる第1乾燥促進剤と、塗布膜の表面の乾燥促進効果に優れる第2乾燥促進剤と、の2剤からなるため、塗布後の塗布膜の内部と表面を同時に乾燥することができ、乾燥時間を大幅に短縮することができるともに、乾燥直後の耐水性が著しく向上する。
【0024】
例えば、路面標示用水性塗料の塗布乾燥直後には、自動車が塗膜上を走行した際、塗膜がタイヤに付着する持ち逃げ現象等の不具合、タイヤの捻じりによる塗膜の欠損等の不具合、あるいは、降雨による塗料の流出等の不具合が生ずる懸念があるが、本発明によれば、これら不具合による懸念を大幅に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態にかかる路面標示の施工方法を適用した路面標示の施工装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット(以下、単に「乾燥促進剤セット」と称する場合がある。)について各構成に分けて詳細に説明した後、これを用いた路面標示の施工方法の実施形態について説明し、さらに、当該路面標示の施工方法を適用した路面標示の施工装置について、一例を挙げて説明する。
【0027】
なお、以下の説明において「路面」とは、車両通行のための道路舗装面、飛行機の滑走路面、工場内の通行路、自転車道、歩道等の舗装路面、及び、屋内外の駐車場等の舗装面等を意味し、建造物の床面や屋上等作業スペース、その他生活空間となり得る床面についても概念に含まれる。
【0028】
また、本実施形態において「舗装」とは、アスファルト舗装、コンクリート舗装及び敷石舗装等を意味する。さらに、本実施形態において「路面標示」とは、特に限定されるものではないが、路面に各種の情報の表示を目的として塗装により形成されるマーク等であり、例えば、区画線、横断歩道、はみ出し禁止、制限速度、通行区分、行先表示等を線、文字、記号及び模様等で表した交通標示やその他の情報の標示を含み、さらには、路面をカラーリングする等、視覚により注意喚起する標示や意匠性を付与する標示等を挙げることができる。
【0029】
[路面標示用水性塗料]
本実施形態において、乾燥促進の対象となる路面標示用塗料とは、車両の運転者及び歩行者等に道路交通に関する規制、警戒、案内、指示等の情報を路面に表示するために用いられるものである。
【0030】
また、路面標示用水性塗料とは、溶剤として、主として水や水系の液体を用い、有機溶剤を含まないか、含んでも少量であり、水系媒体が溶剤のメインの材料である路面標示用塗料をいう。
路面標示用水性塗料の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチル、スチレン等のエチレン性不飽和基を有する化合物を重合または共重合してなる樹脂成分、例えば、アクリル酸樹脂成分をビヒクル成分とするものが挙げられる。
【0031】
更に、樹脂成分は、カルボキシル基、エポキシド基、カルボニル基、アミノ基、炭素-炭素二重結合等の反応性官能基または結合を分子内に導入した重合体であってもよい。水性のビヒクル成分は、分散ポリマーであってもよいし、水溶性ポリマーとの混合物であってよい。
【0032】
また、路面標示用水性塗料は、塗布作業性、着色や塗料物性、塗膜物性を改善するために、添加される各種の添加剤や顔料、フィラーを、適宜、必要に応じて、種類、含有量等を所望の特性に合わせて適宜選択し、それぞれ単独、あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0033】
例えば、添加剤としては、塗料に一般的に使用されている分散剤、湿潤剤、沈降防止剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤等が挙げられる。また、添加可能な顔料としては、二酸化チタンや酸化鉄などの無機顔料、アゾ顔料やフタロシアニン顔料などの有機顔料等、各種着色顔料および体質顔料が挙げられる。添加可能なフィラーとしては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、マイカ、酸化アルミニウム、二酸化珪素、珪石粉などが挙げられる。
【0034】
また、路面標示用水性塗料は、溶媒または分散媒として、主として水を有するが、必要に応じて単独または2種類以上の有機溶剤を含んでいてもよく、特に水溶性の有機溶剤が好ましいが、水性塗料の安定性を阻害するものでなければ限定されるものではない。
このような路面標示用水性塗料の具体例としては、JIS K 5665 1種A及びJIS K 5665 2種Aなどに記載されたものが挙げられる。
【0035】
本実施形態において、「塗布膜」とは、路面標示用水性塗料を塗布することで形成された乾燥前の塗料の層をいう。当該塗布膜を乾燥させることで、使用に供し得る「塗膜」が形成される。なお、「塗膜」といった場合には、ある程度硬化して塗膜としての層が構成された状態の全般を指し、使用に供し得る状態の他、いわゆる生乾き状態の塗料の層をも含む概念である。
【0036】
[路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット]
本実施形態にかかる乾燥促進剤セットは、後に詳述する路面標示の施工方法における、塗布工程で用いる第1乾燥促進剤と、水溶液供給工程で用いる第2乾燥促進剤と、の2剤からなる。第1乾燥促進剤と第2乾燥促進剤とは、セットで取引されてもよいが、別剤として取引の対象とし、使用時に組み合わせて用いても構わない。
【0037】
(第1乾燥促進剤)
本実施形態において、第1乾燥促進剤は、酸化カルシウム、酸化バリウム及び酸化ストロンチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物粒子を含む。当該第1乾燥促進剤は、粉体状のものであることが好ましい。これらは、2種以上や3種全てを含んでも構わないし、いずれか1種のみでも構わない。これら中でも、市場からの入手容易性やコストを考慮すると、酸化カルシウムを含むことが好ましい。
【0038】
(第2乾燥促進剤)
本実施形態において、第2乾燥促進剤は、酢酸塩、プロピオン酸塩及び無機塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩の水溶液からなる。
使用可能な酢酸塩には特に制限はないが、好ましい酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛などが挙げられる。
【0039】
使用可能なプロピオン酸塩には特に制限はないが、好ましいプロピオン酸塩としては、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸亜鉛などが挙げられる。水溶液を調製する前の原料の状態においては、これら酢酸塩、プロピオン酸塩として水和物も含まれ、好適に使用可能である。
【0040】
使用可能な無機塩化物は水溶性であれば特に制限がないが、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等を好適な向き塩化物として挙げることができる。
上記各種カルボン酸塩や無機塩化物は、いずれかの塩を単独で用いてもよいし、2種以上の塩を混合して用いてもよい。
【0041】
これらの塩は、水溶液の状態で使用される。
路面標示用塗料は、一般的にマーカー車と呼ばれる路面標示用塗布装置を搭載した車両を用いて塗装される。特許文献2の如き酸や、多くの水溶性塩を塗布膜に散布した場合、これらの飛沫が塗布装置や車両に付着すると、錆が発生し装置の寿命が短くなるため、メンテナンス周期を短くしなければならなくなる。
【0042】
しかし、第2乾燥促進剤として使用可能な塩の内、カルボン酸塩は、水溶液とした場合に水溶液中に存在する酢酸イオンやプロピオン酸イオンが、金属表面に化学的に吸着して疎水膜を形成する。そのため,例えば、路面標示用塗布装置や、マーカー車などの車両の金属部分に、酢酸イオンやプロピオン酸イオンを含む水溶液の飛沫がかかってしまったとしても、錆の発生が抑制されると考えられる。そのため、錆の抑制の観点からすると、酢酸イオンやプロピオン酸イオンを含むカルボン酸塩を第2乾燥促進剤として使用することが好ましい。
【0043】
一方、塩化カルシウムや塩化ナトリウムの無機塩化物を第2乾燥促進剤として使用した場合には、金属の材質にもよるが、酢酸イオンやプロピオン酸イオンを含むカルボン酸塩を使用した場合に比して、マーカー車などの車両の金属部分を錆びさせ易い。しかし、特許文献2のように酸を用いた場合に比べれば、錆びにくい。
【0044】
また、第2乾燥促進剤として無機塩化物を使用した場合、塗膜表面の乾燥促進性については、カルボン酸塩を使用した場合と同程度あるいはそれ以上である。そのため、マーカー車などの車両に腐食性の金属部分を有しない場合や、その他、各種防錆手段が採られている場合には、第2乾燥促進剤として無機塩化物を使用することも好適である。
したがって、求められる乾燥促進性や防錆性に応じて、最適な第2乾燥促進剤の種類を選択すればよい。
【0045】
第2乾燥促進剤は、水溶液中の上記塩(カルボン酸塩及び/または無機塩化物)の濃度が0.1mol/リットル~飽和濃度の範囲で使用することが好ましい。これら塩の濃度が少な過ぎると、第2乾燥促進剤の効果が不十分となる懸念があり、特に水分が過剰であると、水が追加されることで未添加よりも却って乾燥が遅くなることがある。
【0046】
これら塩の濃度の下限としては、0.1mol/リットル以上であることが好ましく、0.3mol/リットル以上であることがより好ましい。一方、これら塩の濃度の上限としては、成分が析出しない飽和濃度まで可能である。乾燥促進の効果向上の観点からは、成分が析出しない範囲内で、濃度が高い方が好ましい。
【0047】
第2乾燥促進剤には、その他の成分が含まれていても構わない。添加可能なその他の成分としては、着色剤、防腐剤、分散剤等が挙げられ、乾燥促進剤としての性質を損なわない程度の量を添加することができる。また、塗膜性能を低下させない程度の濃度であれば、有機酸や無機酸を添加しても構わない。この際、第2乾燥促進剤としてカルボン酸塩を使用した場合には、金属に腐食を発生させない程度の有機酸や無機酸の濃度とすることが望ましい。
【0048】
[路面標示の施工方法]
本実施形態にかかる路面標示の施工方法は、以上説明した乾燥促進剤セットを用いて、路面標示用水性塗料を路面に塗布して乾燥することにより路面標示を形成する方法である。本実施形態にかかる路面標示の施工方法は、主として、塗布工程と水溶液供給工程とを有し、これら両工程の間にガラスビーズ散布工程を有していてもよい。
【0049】
(塗布工程)
本実施形態において、塗布工程とは、路面標示用水性塗料を第1乾燥促進剤とともに路面に塗布する工程である。路面標示用水性塗料及び第1乾燥促進剤については、既に説明した通りである。
【0050】
塗布工程における操作としては、具体的には、第1乾燥促進剤を路面標示用水性塗料に混合した上で、これを路面に塗布する方法と、路面標示用水性塗料を路面に塗布しているところに同時に第1乾燥促進剤を供給する方法と、が考えられる。路面標示用水性塗料は、第1乾燥促進剤の混入により乾燥が始まるため、前者の方法(以下、「混合塗布法」と称する。)では偏りなく第1乾燥促進剤を混ぜ込ませることが困難であるとともに、混合から速やかに塗布しなければならず、取り扱い性に劣る。
【0051】
これに対して、後者の方法(以下、「塗布同時供給法」と称する。)では、形成する塗布膜中に偏りなく第1乾燥促進剤を混ぜ込ませられるとともに、塗布乃至供給まで別体であることから取り扱い性に優れている。したがって、塗布工程における操作としては、塗布同時供給法が好ましい。
【0052】
路面標示用水性塗料を塗布する方法としては、特に制限はなく、路面標示用水性塗料を路面に塗布する従来公知の方法により行えばよい。即ち、混合した前記塗布液を、従来公知の施工機を用いて塗布すればよい。塗装方法としては、ローラー塗装、はけ塗り、エアレススプレー、エアースプレーなどが可能であるが、目的とする塗布膜が形成可能であれば、塗装方法に制限はない。ただし、塗布同時供給法においては、エアレススプレーやエアースプレー等のスプレー方式が好ましい。
【0053】
塗布同時供給法において、路面標示用水性塗料を路面に塗布しているところに同時に第1乾燥促進剤を供給する方法としては、路面標示用水性塗料がスプレーガン等の吐出装置から吐出されて、路面に達する前の箇所に対して、第1乾燥促進剤を散布して路面標示用水性塗料に第1乾燥促進剤を混ぜ込ませるように供給する方法を、好適な方法として挙げることができる。この際、吐出装置の吐出口から、なるべく近い位置に対して、第1乾燥促進剤を散布することが好ましい。当該方法については、例えば、特許文献4に開示されている。
【0054】
第1乾燥促進剤の使用量としては、形成される塗布膜1m2当たりの酸化物粒子の量が、有効成分として、0.1~10gの範囲内になるようにすることが好ましく、1~5gの範囲内になるようにすることが特に好ましい。第1乾燥促進剤の使用量(酸化物粒子の量)がが多過ぎる場合は、塗膜の仕上がりが悪くなる可能性があり、逆に少な過ぎる場合は、塗膜の乾燥性や耐水性の向上効果が期待に沿えなくなることがある。
塗布同時供給法において、第1乾燥促進剤の使用量を調整するには、路面標示用水性塗料を路面に塗布する際の第1乾燥促進剤の散布量を加減すればよい。
【0055】
(水溶液供給工程)
本実施形態において、水溶液供給工程とは、塗布工程によって形成された塗布膜上に、第2乾燥促進剤を供給する工程である。第2乾燥促進剤については、既に説明した通りである。
【0056】
塗布工程によって形成された塗布膜に供給する第2乾燥促進剤の供給量としては、塗布膜1m2当たりの塩(酢酸塩、プロピオン酸塩及び無機塩化物からなる群より選ばれるる少なくとも1種の塩)の成分量が1g/m2以上となるように供給することが好ましい。適切な量以上の第2乾燥促進剤を供給することで、乾燥促進効果が得られる。
【0057】
塗布膜1m2当たりの塩の成分量が1g/m2未満の場合には、塗布膜表面における乾燥促進や耐水性の向上効果が十分に図れない場合がある。塗布膜1m2当たりの塩の成分量の下限値としては、2g/m2以上であることがより好ましい。
【0058】
塗布膜1m2当たりの塩の成分量の上限値としては、過剰量であっても乾燥促進効果は認められるが、適度な量の場合と比して乾燥促進効果に差がないため、経済的に好ましくない。また、塩の成分量が多くなってくると、塗膜の外観を荒らしてしまう場合がある。したがって、塗布膜1m2当たりの塩の成分量としては、40g/m2以下にすることが好ましく、30g/m2以下にすることがより好ましく、25g/m2以下にすることがさらに好ましい。
【0059】
また、従来の酸や塩を散布する方法では、散布の際に発生したミストによって、乾燥促進剤散布装置や隣接する路面標示塗布装置等の金属部材を腐食させる懸念があるが、特に、第2乾燥促進剤としてカルボン酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩)を使用した場合には、これらの金属部材の腐食が抑制されることから、装置の寿命が延び経済的である。
【0060】
以上のように、本実施形態の路面標示の施工方法によれば、塗布膜の内部と表面とが同時に乾燥されるため、乾燥時間を著しく短縮することができる。そのため、交通開放時間の短縮と耐水性、塗装直後の塗膜の耐久性等の顕著な向上効果を実現することができる。
【0061】
(ガラスビーズ散布工程)
以上説明した塗布工程と水溶液供給工程との間には、当該塗布工程によって形成された塗布膜上にガラスビーズを散布する、ガラスビーズ散布工程を有していてもよい。ガラスビーズが散布された路面標示にすることで、路面標示表面に固定されたガラスビーズが車両のヘッドライト光を再帰反射させるため、夜間や雨天時の視認性を向上させることができる。
【0062】
また、塗布工程と水溶液供給工程との間にガラスビーズ散布工程を実施することで、塗布工程で塗布された未硬化の塗布膜の表面にガラスビーズがある程度沈み込み、その後、次工程の水溶液供給工程で第2乾燥促進剤が供給されることで速やかに塗膜の表面が硬化し、ガラスビーズが塗膜の表面に固定される。
【0063】
ガラスビーズが散布された路面標示では、乾燥が不十分な場合、ガラスビーズが十分に固定されないため、自動車の走行時のタイヤによる荷重や捻じれによって、ガラスビーズが脱落してしまう懸念がある。
しかし、ガラスビーズ散布工程をこのタイミングで実施することにより、施工後速やかにガラスビーズが固定された状態になるため、ガラスビーズの脱落を抑止し得る乾燥状態になるまでの時間を大幅に短縮することができる。したがって、ガラスビーズが散布された路面標示を施工した際における道路開放までの時間を短縮することができる。
【0064】
ガラスビーズ散布工程において、塗布膜上にガラスビーズを散布する方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法によって実施すればよい。散布するガラスビーズの大きさや形状、散布する量(密度)等の各種条件についても、特に制限はなく、従来公知の知見から適切な条件を選択すればよい。
【0065】
[路面標示の施工装置]
上記実施形態にかかる乾燥促進剤セットを用い、かつ、上記実施形態にかかる路面標示の施工方法を適用した路面標示の施工装置の一例について、以下、図面を参照して説明する。
【0066】
図1に、本実施形態にかかる路面標示の施工方法を適用した路面標示の施工装置100の概略構成図を示す。
施工装置100は、大きく分けて、第1乾燥促進剤供給機構(第1乾燥促進剤供給手段)Aと、水性塗料塗布機構(水性塗料塗布手段)Bと、ガラスビーズ散布機構(ガラスビーズ散布手段)Cと、第2乾燥促進剤供給機構(第2乾燥促進剤供給手段)Dと、の4つの機構から構成されている。
【0067】
この施工装置100は、マーカー車と呼ばれる不図示の車両に搭載されて使用される。マーカー車に搭載された際の4つの機構ABCDの位置関係は、
図1に示された通りであり、路面標示の施工作業の際には、マーカー車が路面21上を走行することで、施工装置100が矢印Pの方向に移動する。
【0068】
[第1乾燥促進剤供給機構A]
第1乾燥促進剤供給機構Aは、主として、第1乾燥促進剤を収容する乾燥促進剤貯蔵タンク1と、スクリュー状の回転羽根41を有する定量供給部4と、第1乾燥促進剤をエア搬送するための混合部5と、第1乾燥促進剤を搬送、拡散させるためのエアを後述するガラスビーズ17の吐出と同期させて吐出するためのエア制御用電磁弁7及び搬送エアノズル6と、そのエアの圧力を調整するエア調整機器8~11と、第1乾燥促進剤供給機構Aに含まれる機器を制御する制御器12と、塗料・第1乾燥促進剤混合器18と、からなる。なお、塗料・第1乾燥促進剤混合器18の詳細については、[水性塗料塗布機構B]の項において述べる。
【0069】
乾燥促進剤貯蔵タンク1には、収容された第1乾燥促進剤を混合部5に安定供給する機能を有する撹拌棒3と、この撹拌棒3を駆動するモータ2が備えられている。また、定量供給部4には、回転羽根41を駆動するモータ13が備えられている。
回転羽根41は、制御器12の設定によって任意の回転数に制御して駆動することができ、貯蔵タンク1から任意の量の第1乾燥促進剤を定量供給することができるようになっている。
【0070】
貯蔵タンク1から混合部5に定量供給された第1乾燥促進剤は、搬送エアノズル6から吐出されるエアによって搬送、拡散される。エア調整機器(8~11)は、エア制御用電磁弁7により制御された圧縮空気を2系統(第1乾燥促進剤搬送用ホース14に接続された系統とエア供給管15に接続された系統)の配管に分岐して、それぞれの圧力を圧力計8,11で監視しつつ圧力調整弁9,10で制御できるようになっている。
【0071】
第1乾燥促進剤搬送用ホース14に接続された系統においては、圧力調整弁9を通過したエアが、搬送エアノズル6から吐出される。そして、混合部5に定量供給された第1乾燥促進剤が、前記エアにより吹き飛ばされるようにして、第1乾燥促進剤搬送用ホース14内を通って、塗料・第1乾燥促進剤混合器18へと搬送されるようになっている。一方、エア供給管15に接続された系統においては、圧力調整弁10を通過したエアが、エア供給管15内を通って、塗料・第1乾燥促進剤混合器18へと送られるようになっている。
【0072】
[水性塗料塗布機構B]
水性塗料塗布機構Bは、第1乾燥促進剤供給機構Aの下方に位置し、路面標示用水性塗料を路面21に塗布する塗料スプレーガン22を備える。塗料スプレーガン22は、直下方向に吐出口19aを向けた塗料吐出部19を有しており、
図1に示されるように、水性塗料(路面標示用水性塗料)20を路面21に向けて噴霧できるようになっている。塗料スプレーガン22としては、路面標示を施工する際に路面標示用水性塗料を噴霧する従来公知の各種スプレーガンを特に制限されることなく用いることができる。
【0073】
第1乾燥促進剤供給機構Aの1つの構成部材である塗料・第1乾燥促進剤混合器18は、塗料吐出部19の直下に設置されており、塗料吐出部19の吐出口19aは、塗料・第1乾燥促進剤混合器18の内部に向けられた状態になっている。塗料・第1乾燥促進剤混合器18は、その内部空間の垂直断面形状が屈曲部が鈍角のL字状となっており、L字の下方水平線の箇所に当たる空間の下端辺には底面が無く、開口部18aとなっている。そのため、塗料吐出部19の吐出口19aから吐出された水性塗料20は、塗料・第1乾燥促進剤混合器18の内部空間及び開口部18aを通過して、路面21に供給される。
【0074】
塗料・第1乾燥促進剤混合器18の内部空間のL字の上端に当たる後部上面には、第1乾燥促進剤を搬送する既述の乾燥促進剤搬送用ホース14が接続された接続口14aを有する。搬送エアノズル6により混合部5から搬送された第1乾燥促進剤は、接続口14aから下方に落下するように塗料・第1乾燥促進剤混合器18の内部に供給される。
【0075】
塗料・第1乾燥促進剤混合器18の最後部(接続口14aのすぐ後方の後端側面)にはエア接続口16aがあり、当該エア接続口16aには、拡散エアノズル16が挿し込まれて固定されている。拡散エアノズル16には、エア供給管15の端部が接続されており、エア制御用電磁弁7により制御された圧縮空気が、当該拡散エアノズル16によって、塗料・第1乾燥促進剤混合器18の内部に扇状に広がって(
図1においては、図面の奥行方向に広がって)吐出される。
【0076】
この拡散エアノズル16は、その先端の吐出口が接続口14aの直下に向けられるように位置している。接続口14aから落下した第1乾燥促進剤(
図1中に、スモーク形状で表されている。)は、この拡散エアノズル16から吐出されたエアによって、その進行方向をマーカー車の進行方向Pに変えられながら、塗料・第1乾燥促進剤混合器18内で拡散される。
【0077】
一方、塗料スプレーガン22における塗料吐出部19の吐出口19aから高速で吐出された水性塗料20は、扇状に広がり(
図1においては、図面の奥行方向に広がり)ながら塗料・第1乾燥促進剤混合器18内に充満している第1乾燥促進剤の中を進行し、第1乾燥促進剤を均一に同伴した状態となって、ともに路面21に塗布される。即ち、塗料・第1乾燥促進剤混合器18内では、塗料スプレーガン22によって塗布されている最中の水性塗料20に、第1乾燥促進剤が巻き込まれるようにして供給されている。
【0078】
[ガラスビーズ散布機構C]
ガラスビーズ散布機構Cは、マーカー車の進行方向Pにおいて、水性塗料塗布機構Bの下流側に位置しており、ガラスビーズ17を均等に拡散させながら案内する散布板27を備えたガラスビーズ散布ガン23を主な構成要素とする。ガラスビーズ散布ガン23から散布されたガラスビーズ17は、散布板27によって路面21上の適正な散布位置、即ち、塗料スプレーガン22によって路面21上に形成された塗布膜の上に案内されて散布される。
【0079】
ガラスビーズ散布ガン23としては、路面標示を施工する際にガラスビーズを散布する従来公知の散布装置を特に制限されることなく用いることができる。
なお、既述の第1乾燥促進剤供給機構Aにおける回転羽根41の回転開始と、塗料・第1乾燥促進剤混合器18まで搬送する搬送エアノズル6からのエア吐出開始は、ガラスビーズ散布機構Cのガラスビーズ散布ガン23からのガラスビーズ17の散布開始時と同期するように、制御器12が制御される。
【0080】
[第2乾燥促進剤散布機構D]
第2乾燥促進剤散布機構Dは、第2乾燥促進剤貯蔵タンク24と、第2乾燥促進剤搬送用ホース25と、第2乾燥促進剤散布ノズル26と、からなる。第2乾燥促進剤貯蔵タンク24は、不図示のコンプレッサからの圧縮空気の供給を受け、内部の圧力を一定に保つ機構を有する。第2乾燥促進剤の供給は、第2乾燥促進剤貯蔵タンク24の内圧により圧送することで行われる。
【0081】
水性塗料塗布機構Bで水性塗料が塗布され、その上にガラスビーズ散布機構Cでガラスビーズが散布された塗布膜の表面に、第2乾燥促進剤散布機構Dによって、第2乾燥促進剤が散布(供給)される。形成された塗布膜の表面への第2乾燥促進剤の散布方法としては、特に制限はないが、塗布膜表面の全体に均一に散布しやすい点で、シャワー方式やスプレー方式が好適である。特に、散布する第2乾燥促進剤が低粘度の水溶液であるため、一般的なエアレススプレー装置、エアースプレー装置あるいは霧吹き等の簡便な装置を使用することができる。
【0082】
路面標示の施工装置100は、マーカー車の走行によって進行方向Pに進行しながら、水性塗料塗布機構Bによって塗布膜の内部に第1乾燥促進剤を均一に分散させるとともに、第2乾燥促進剤散布機構Dによって塗布後速やかに塗布膜の表面に第2乾燥促進剤を散布することができる。そのため、路面標示の施工装置100によれば、塗布膜の内部と表面とを同時に乾燥させることができる。したがって、塗布膜の乾燥時間を著しく短縮することができ、交通開放時間の短縮と耐水性、塗装直後の塗膜の耐久性等の顕著な向上効果を実現することができる。
【0083】
また、路面標示の施工装置100では、水性塗料塗布機構Bによる塗布膜の形成と、第2乾燥促進剤散布機構Dによる第2乾燥促進剤の散布との間に、ガラスビーズ散布機構Cによるガラスビーズの散布が塗布膜に施される。そのため、水性塗料塗布機構Bにより形成された直後の未硬化の塗布膜の表面にガラスビーズがある程度沈み込み、その後、第2乾燥促進剤が供給されることで速やかに塗膜の表面が硬化し、ガラスビーズが塗膜の表面に固定される。
【0084】
即ち、施工後速やかにガラスビーズが固定された状態になるため、ガラスビーズの脱落を抑止し得る乾燥状態になるまでの時間を大幅に短縮することができる。したがって、ガラスビーズが散布された路面標示を施工した際における道路開放までの時間を短縮することができる。
【0085】
路面標示の施工装置100では、通常、ガラスビーズ散布機構Cでガラスビーズを散布した直後に、第2乾燥促進剤散布機構Dによって、第2乾燥促進剤が散布される。しかし、ガラスビーズ散布機構Cの稼働を止め、ガラスビーズを散布せず、水性塗料の塗布膜の表面に、直接、第2乾燥促進剤散布機構Dによって第2乾燥促進剤を散布しても構わない。ガラスビーズを散布しないことで、ガラスビーズが散布されていない路面標示を形成することができる。なお、ガラスビーズが散布されていない路面標示を形成するだけであれば、そもそもガラスビーズ散布機構(ガラスビーズ散布手段)を有していない路面標示の施工装置であっても構わない。
【0086】
以上の如き、本実施形態にかかる路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット、並びに、路面標示の施工方法及び施工装置による効果は、後述する実施例において、塗布された塗料の乾燥性試験及び耐水性試験や、乾燥促進剤の金属腐食性試験の結果によって実証される。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、「部」あるいは「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。また、特に条件を記載していない場合は、気温20~23℃、湿度50~60%の条件で試験を行った。
【0088】
[路面標示の施工装置の用意]
図1を用いて説明した路面標示の施工装置100と同構成の装置を用意した。以下の実施例及び比較例においては、この施工装置100における第1乾燥促進剤供給機構A及び水性塗料塗布機構Bを用いて、路面標示用水性塗料を第1乾燥促進剤とともに路面21に塗布した。施工装置100における塗料・第1乾燥促進剤混合器18の具体的な形状は、以下の通りである。
【0089】
・幅方向(図面の奥行方向)の全長:94mm
・進行方向Pの全長:110mm
・高さ方向の全長:50mm
・吐出口19aから開口部18aまでの距離:25mm
・開口部18aのサイズ:90mm(奥行)×33mm(進行方向P長さ)
・内部空間の容積:120000mm3
【0090】
[実施例1]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白(JIS K 5665 2種A。以下同様。)塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が3.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板(70mm×150mm。以下同様。)上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0091】
塗布膜の形成後、直ち(10秒以内。以下同様。)に、プロピオン酸ナトリウム1.69mol/リットル(15質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりのプロピオン酸ナトリウムの成分量が7.1g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例1の供試材を得た。
【0092】
[実施例2]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が0.2g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0093】
塗布膜の形成後、直ちに、プロピオン酸カルシウム0.56mol/リットル(10質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりのプロピオン酸ナトリウムの成分量が4.0g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例2の供試材を得た。
【0094】
[実施例3]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が5.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0095】
塗布膜の形成後、直ちに、プロピオン酸カルシウム0.14mol/リットル(2.5質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりのプロピオン酸ナトリウムの成分量が1.0g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例3の供試材を得た。
【0096】
[実施例4]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が2.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0097】
塗布膜形成後、直ちに、プロピオン酸カルシウム0.56mol/リットル(10質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりのプロピオン酸ナトリウムの成分量が30.0g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例4の供試材を得た。
【0098】
[実施例5]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が10.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0099】
塗布膜形成後、直ちに、酢酸マグネシウム四水和物1.57mol/リットル(30質量%。無水物換算で1.57mol/リットル、20質量%。)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりの酢酸マグネシウムの成分量が10.0g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例5の供試材を得た。
【0100】
[実施例6]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が3.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0101】
塗布膜形成後、直ちに、酢酸マグネシウム四水和物0.24mol/リットル(5.0質量%。無水物換算で0.24mol/リットル、3.3質量%。)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりの酢酸マグネシウムの成分量が1.7g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例6の供試材を得た。
【0102】
[実施例7]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が5.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0103】
塗布膜形成後、直ちに、酢酸マグネシウム四水和物0.49mol/リットル(10質量%。無水物換算で0.49mol/リットル、6.6質量%。)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりの酢酸マグネシウムの成分量が3.6g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例7の供試材を得た。
【0104】
[実施例8]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が3.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0105】
塗布膜形成後、直ちに、酢酸カルシウム一水和物1.60mol/リットル(25質量%。無水物換算で1.60mol/リットル、22質量%。)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりの酢酸カルシウムの成分量が13.2g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例8の供試材を得た。
【0106】
[実施例9]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が3.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0107】
塗布膜形成後、直ちに、酢酸カリウム4.73mol/リットル(40質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりの酢酸カルシウムの成分量が22g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例9の供試材を得た。
【0108】
[実施例10]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21C10白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が3.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0109】
塗布膜形成後、直ちに、プロピオン酸カルシウム0.56mol/リットル(10質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりのプロピオン酸カルシウムの成分量が5.0g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例10の供試材を得た。
【0110】
[実施例11]
実施例1において、環境条件を気温5~8℃、湿度40~50%の条件下にしたことを除き、他の条件及び操作は実施例1と同様にして、実施例11の供試材を得た。
【0111】
[実施例12]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が3.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0112】
塗布膜形成後、直ちに、塩化ナトリウム4.70mol/リットル(23質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりの塩化ナトリウムの成分量が9.2g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例12の供試材を得た。
【0113】
[実施例13]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が3.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0114】
塗布膜形成後、直ちに、塩化カルシウム3.75mol/リットル(33質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりの塩化カルシウムの成分量が13.2g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例13の供試材を得た。
【0115】
[実施例14]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が3.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。
【0116】
塗布膜形成後、直ちに、塩化マグネシウム4.37mol/リットル(33質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりの塩化マグネシウムの成分量が13.2g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、実施例14の供試材を得た。
【0117】
[比較例1]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2になるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。このとき、施工装置100における接続口14aからの第1乾燥促進剤の供給、及び、エア接続口16aからのエアの供給は行わなかった。その後、第2乾燥促進剤を散布しないそのままの状態を比較例1の供試材とした。
【0118】
[比較例2]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2になるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。このとき、施工装置100における接続口14aからの第1乾燥促進剤の供給、及び、エア接続口16aからのエアの供給は行わなかった。
【0119】
塗布膜形成後、直ちに、プロピオン酸カルシウム0.05mol/リットル(1.0質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりのプロピオン酸カルシウムの成分量が0.6g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、比較例2の供試材を得た。
【0120】
[比較例3]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2になるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。このとき、施工装置100における接続口14aからの第1乾燥促進剤の供給、及び、エア接続口16aからのエアの供給は行わなかった。
【0121】
塗布膜形成後、直ちに、酢酸3.40mol/リットル(20質量%)水溶液からなる比較用の乾燥促進剤を、塗布工程による塗布膜1m2当たりの酢酸の成分量が6g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、比較例3の供試材を得た。
【0122】
[比較例4]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2になるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。このとき、施工装置100における接続口14aからの第1乾燥促進剤の供給、及び、エア接続口16aからのエアの供給は行わなかった。
【0123】
塗布膜形成後、直ちに、プロピオン酸2.70mol/リットル(20質量%)水溶液からなる比較用の乾燥促進剤を、塗布工程による塗布膜1m2当たりのプロピオン酸の成分量が7g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、比較例4の供試材を得た。
【0124】
[比較例5]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が3.0g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した。その後、第2乾燥促進剤を散布しないそのままの状態を比較例5の供試材とした。
【0125】
[比較例6]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2に、酸化カルシウム(第1乾燥促進剤)が0.1g/m2に、それぞれなるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した。その後、第2乾燥促進剤を散布しないそのままの状態を比較例6の供試材とした。
【0126】
[比較例7]
施工装置100を用い、アトミクス株式会社製ハードラインアクア#21H60白塗料(路面標示用水性塗料)が640g/m2になるように、試験片としてのガラス板上に塗布して塗布膜を形成した(塗布工程)。このとき、施工装置100における接続口14aからの第1乾燥促進剤の供給、及び、エア接続口16aからのエアの供給は行わなかった。
【0127】
塗布膜形成後、直ちに、プロピオン酸カルシウム0.56mol/リットル(10質量%)水溶液(第2乾燥促進剤)を、塗布工程による塗布膜1m2当たりのプロピオン酸ナトリウムの成分量が4.0g/m2になるように、一般的な霧吹き器で散布して(水溶液供給工程)、比較例7の供試材を得た。
【0128】
[比較例8]
比較例1において、環境条件を気温5~8℃、湿度40~50%の条件下にしたことを除き、他の条件及び操作は比較例1と同様にして、比較例5の供試材を得た。
【0129】
以上の実施例1~14及び比較例1~8に用いた第1乾燥促進剤及び第2乾燥促進剤(比較用を含む)の成分について、下記表1にまとめて示す。
【0130】
【0131】
[評価試験項目及び評価試験方法]
得られた実施例1~14及び比較例1~8の各供試材について、各種評価試験を行った。その結果を下記表2にまとめて示す。なお、各評価試験方法は、以下に示すとおりである。
【0132】
(1.塗膜外観判定)
実施例1~14及び比較例1~8の各供試材について、塗膜の外観を目視で観察した。評価基準は以下に示す通りである。なお、不具合があった場合には、その内容を書き留めた。
〇:良好
△:微かに塗膜欠陥が認められる。
×:塗膜欠陥が認められる。
【0133】
(2.乾燥性試験)
乾燥性試験は、JIS K5665で規定される「8.13 タイヤ付着性 1種乃至2種」に準じて試験を行った。塗料がタイヤに付着しなくなるまでの塗布後の静置時間を測定し、当該静置時間を評価指標とすることで、乾燥性を評価した。
【0134】
(3.硬化乾燥試験)
硬化乾燥試験は、JIS K5600-1-1 4.3.5で規定される硬化乾燥時間に準じて試験を行った。塗面の中央を親指と人差指とで強く挟んで、塗面に指紋によるへこみが付かず、塗膜の動きが感じられず、また、塗面の中央を指先で急速に繰返しこすって、塗面にすり跡が付かない時間を測定した。
【0135】
(4.耐水性試験)
まず、供試材作製後(塗布後)の経過時間が3分、5分、10分、15分、20分、30分、40分、50分、60分、90分、120分及び150分となる間養生した供試材を、水に浸漬した。浸漬から1時間経過後、各供試材を水から引き上げ、その直後の塗膜の溶出状況を観察するとともに、人差指で塗膜を軽く擦り、塗料が付着するか否かを調べた。塗料が指に付着しなくなる養生時間を測定し、当該養生時間を評価指標とすることで、耐水性を評価した。
【0136】
【0137】
[実施例及び比較例の結果の考察]
以上に示す実施例及び比較例の結果から、本発明の乾燥促進剤セットを用い、本発明の路面標示の施工方法によって施工された実施例1~14の供試材の塗膜は、塗膜外観に優れ、乾燥性や耐水性も良好な結果となった。ただし、第2乾燥促進剤の散布量(塗膜面積1m2当たりのプロピオン酸塩の成分量)がやや多めの実施例4では、塗膜の表面がやや荒れた状態になった。
【0138】
一方、路面標示用水性塗料を塗布しただけで、第1乾燥促進剤及び第2乾燥促進剤をどちらも用いなかった比較例1や比較例8では、乾燥までに時間を要し、耐水性が劣る結果となった。
また、第2乾燥促進剤中のプロピオン酸塩の濃度が低く、その供給量(塗膜面積1m2当たりのプロピオン酸塩の成分量)が少ない比較例2では、第2乾燥促進剤を散布しなかった比較例1の場合よりも、乾燥性や耐水性がさらに低下した。
【0139】
そして、第1乾燥促進剤として酸化カルシウムを用いながらも第2乾燥促進剤を用いなかった比較例5や比較例6では、表面乾燥時間が劣る結果となった。
第2乾燥促進剤の代わりに、酸を散布した比較例3や比較例4では、塗膜に膨れが生じてしまい、塗膜外観が大幅に劣っていた。
【0140】
[第2乾燥促進剤の金属腐食性試験]
以上の実施例及び比較例とは別に、後記表3に示す如き、金属腐食性試験用に各種第2乾燥促進剤としての水溶液(実施例第2乾燥促進剤1~8)、及び、比較用の各種水溶液(比較水溶液1~4)乃至水(比較水5)を用意した。
【0141】
JIS G 3141に規定される冷間圧延鋼板の試験板をシンナーで脱脂し、実施例第2乾燥促進剤1~7及び比較水溶液(水)1~5のそれぞれを2ml滴下して、時計皿で蓋をし、放置した。24時間後に腐食(錆の発生)状況を観察し、以下の評価基準で評価した。評価結果を下記表3にまとめて示す。
〇:錆の発生が認められない。
△:滴下部分に薄い錆の発生が認められる。
×:滴下部分に濃い錆の発生が認められる。
【0142】
【0143】
[第2乾燥促進剤の金属腐食性試験の結果の考察]
以上に示す第2乾燥促進剤の金属腐食性試験の結果から、本発明の乾燥促進剤セットにおける第2乾燥促進剤の中でもカルボン酸塩を用いた実施例第2乾燥促進剤1~5では、鋼板を錆びさせることが無い。これに対して、無機塩化物や酸を含む実施例第2乾燥促進剤6~8や比較水溶液では、いずれも24時間で鋼板を錆びさせてしまった。それどころか、単なる脱イオン水である比較水5でも24時間で鋼板が錆びてしまった。
【0144】
以上のことから、本発明の乾燥促進剤セットにおける第2乾燥促進剤に含まれるプロピオン酸塩や酢酸塩の水溶液は、錆の発生を抑制する性質があることが認められる。なお、無機塩化物の中でも、塩化カルシウムや塩化マグネシウムを含む実施例第2乾燥促進剤7や8は、酸を含む比較水溶液1~3に比べれば、錆の程度が薄かった。
【0145】
以上説明した実施形態及び実施例は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は当該実施形態や実施例に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお、本発明にかかる路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット、本発明にかかる路面標示の施工方法、あるいは本発明にかかる路面標示の施工装置の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の路面標示用水性塗料の乾燥促進剤セット、並びに、路面標示の施工方法及び施工装置は、路面以外の被塗装対象、例えば、床用塗料や陸屋根等を塗装した水性塗料に対しても、乾燥促進剤セット乃至路面標示の施工方法及び施工装置として利用乃至適用することができる。これらについても、勿論、全て、本願発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0147】
1…乾燥促進剤貯蔵タンク、
2…モータ、
3…撹拌棒、
4…定量供給部、
5…混合部、
6…搬送エアノズル、
7…エア制御用電磁弁、
8,11…圧力計、
9,10…圧力調整弁、
12…制御器、
13…モータ、
14…第1乾燥促進剤搬送用ホース、
14a…接続口、
15…エア供給管、
16…拡散エアノズル、
16a…エア接続口、
17…ガラスビーズ、
18…塗料・乾燥促進剤混合器、
18a…開口部、
19…塗料吐出部、
19a…吐出口、
20…水性塗料(路面標示用水性塗料)、
21…路面、
22…塗料スプレーガン、
23…ガラスビーズ散布ガン、
24…第2乾燥促進剤貯蔵タンク、
25…第2乾燥促進剤搬送用ホース、
26…第2乾燥促進剤散布ノズル、
27…散布板、
41…回転羽根、
100…施工装置(路面標示の施工装置)
A…第1乾燥促進剤供給機構
B…水性塗料塗布機構、
C…ガラスビーズ散布機構、
D…第2乾燥促進剤供給機構