(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】X線回折測定装置及びX線回折測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2055 20180101AFI20240719BHJP
G01N 23/205 20180101ALI20240719BHJP
【FI】
G01N23/2055 310
G01N23/205
(21)【出願番号】P 2022009040
(22)【出願日】2022-01-25
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000112004
【氏名又は名称】パルステック工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】丸山 洋一
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0142679(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0092921(US,A1)
【文献】特開平05-215698(JP,A)
【文献】特開2019-028015(JP,A)
【文献】特開2003-161708(JP,A)
【文献】特開2001-194325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01N 15/00-G01N 15/08
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段であって、ターゲットに加速した電子を当てることでX線を発生させるX線管を含むX線出射手段と、
前記X線出射手段により前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面にラウエ斑点像を撮像するとともに撮像したラウエ斑点像を検出する像検出手段とを備えたX線回折測定装置において、
前記X線管における電子を加速するための電圧である管電圧を変更するごとに、前記X線出射手段により前記測定対象物の同一の点にX線を照射して、前記像検出手段によりラウエ斑点像を検出する連続検出制御手段と、
前記連続検出制御手段により検出したそれぞれのラウエ斑点像を前記管電圧の小さい順に並べたとき、前記ラウエ斑点像の斑点ごとに、前記斑点が現れ始める管電圧を検出する出現電圧検出手段と、
前記測定対象物の材質ごと及びX線が垂直に入射する回折面ごとに、回折面のミラー指数とラウエ斑点像において前記ミラー指数の回折面に対応する斑点が現れ始める管電圧との関係が予め記憶されている記憶手段と、
前記出現電圧検出手段により検出された管電圧を前記記憶手段に記憶されている関係に当てはめて、前記ラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定する斑点ミラー指数決定手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線回折測定装置において、
前記出現電圧検出手段は、前記連続検出制御手段により検出したそれぞれのラウエ斑点像から、前記ラウエ斑点像の斑点ごとに前記管電圧と前記斑点のピーク強度との関係曲線を作成し、前記関係曲線が予め設定された強度のラインと交差する点を、前記斑点が現れ始める管電圧とすることを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のX線回折測定装置において、
前記記憶手段は、前記測定対象物の材質ごと及びX線が垂直に入射する回折面のミラー指数ごとに、基準のラウエ斑点像が予め記憶されており、
前記像検出手段により検出されたラウエ斑点像と前記基準のラウエ斑点像とを比較し、一致の度合を算出する一致度合計算手段と、
前記一致度合計算手段により算出された一致の度合が予め定められた許容値に達しないとき、前記連続検出制御手段、前記
出現電圧検出手段及び前記斑点ミラー指数決定手段を作動させることが必要と判定する判定手段とを備えたことを特徴とするX線回折測定装置。
【請求項4】
対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段であって、ターゲットに加速した電子を当てることでX線を発生させるX線管を含むX線出射手段と、
前記X線出射手段により前記測定対象物に向けてX線が照射された際、前記測定対象物にて発生した回折X線を、前記X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、前記撮像面にラウエ斑点像を撮像するとともに撮像したラウエ斑点像を検出する像検出手段とを備えたX線回折測定装置を用いたX線回折測定方法において、
前記X線管における電子を加速するための電圧である管電圧を変更するごとに、前記X線出射手段により前記測定対象物の同一の点にX線を照射して、前記像検出手段によりラウエ斑点像を検出する連続検出ステップと、
前記連続検出ステップにて検出したそれぞれのラウエ斑点像を前記管電圧の小さい順に並べたとき、前記ラウエ斑点像の斑点ごとに、前記斑点が現れ始める管電圧を検出する出現電圧検出ステップと、
前記出現電圧検出ステップにて検出された管電圧を、前記測定対象物の材質ごと及びX線が垂直に入射する回折面ごとに得られている、回折面のミラー指数とラウエ斑点像において前記ミラー指数の回折面に対応する斑点が現れ始める管電圧との関係に当てはめて、前記ラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定する斑点ミラー指数決定ステップとを行うことを特徴とするX線回折測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶状態の測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により撮像面にラウエ斑点像を撮像して検出するX線回折測定装置及びX線回折測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、測定対象物にX線を照射して、測定対象物で回折したX線(以下、回折X線という)を撮像面に受光することで回折像を撮像し、撮像された回折像を用いて演算処理を行うことで測定対象物の特性を測定するX線回折測定装置が知られている。例えば特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定装置は、X線出射器、イメージングプレート等の回折像撮像手段、レーザ検出装置及びレーザ走査機構等の回折像読取手段、並びにLED照射器等の回折像消去手段等を1つの筐体内に備えている。そして、回折像撮像手段で測定対象物の回折像である回折環(デバイ環)を撮像し、回折像読取手段により検出した回折環の形状を用いてコンピュータ装置により演算処理を行うことで測定対象物の残留応力等の特性値を測定している。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定装置は、結晶面があらゆる方向に存在する結晶状態である多結晶状態の測定対象物の特性値を測定する装置であるため、多結晶状態による回折像である回折環の像を撮像している。しかし、本願発明者は該X線回折測定装置が出射するX線を単結晶状態の測定対象物に照射して回折像を撮像すると、ラウエ斑点像が撮像されることを確認した。よって、該X線回折測定装置に接続されているコンピュータ装置にラウエ斑点像から結晶面の種類(測定対象物の表面に略平行な回折面のミラー指数)及び結晶方位(測定対象物の表面の法線方向に対する該回折面の法線方向)等、単結晶状態の測定対象物の特性値を算出する演算機能を付加すれば、特許文献1及び特許文献2のX線回折測定装置は、単結晶状態の測定対象物でも測定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5835191号公報
【文献】特許第6924348号公報
【0005】
しかしながら、本願発明者は、特許文献1のX線回折測定装置を用いて多くの単結晶状態の測定対象物でラウエ斑点像を撮像した結果、測定対象物の表面の法線方向に対する回折面の法線方向のずれが大きい等の理由により、撮像されたラウエ斑点像が基準のラウエ斑点像と模様が合わないことが多くあることが分かった。基準のラウエ斑点像とは、測定対象物の材質と入射X線に垂直である回折面のミラー指数から既知であるラウエ斑点像であり、理論的にラウエ斑点像の模様が分かっている像である。撮像されたラウエ斑点像が基準のラウエ斑点像と模様が合わないと、測定対象物の結晶面の種類及び結晶方位等の特性値を精度よく測定するのが困難になるという問題がある。
【0006】
本発明はこの問題を解消するためなされたもので、その目的は、単結晶状態の測定対象物にX線を照射し、測定対象物で回折したX線により撮像面にラウエ斑点像を撮像して検出するX線回折測定装置及びX線回折測定方法において、撮像されたラウエ斑点像が基準のラウエ斑点像と模様が合わない場合であっても、精度よく測定対象物の特性値を算出することが可能なX線回折測定装置及びX線回折測定方法を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段であって、ターゲットに加速した電子を当てることでX線を発生させるX線管を含むX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面にラウエ斑点像を撮像するとともに撮像したラウエ斑点像を検出する像検出手段とを備えたX線回折測定装置において、X線管における電子を加速するための電圧である管電圧を変更するごとに、X線出射手段により測定対象物の同一の点にX線を照射して、像検出手段によりラウエ斑点像を検出する連続検出制御手段と、連続検出制御手段により検出したそれぞれのラウエ斑点像を管電圧の小さい順に並べたとき、ラウエ斑点像の斑点ごとに、斑点が現れ始める管電圧を検出する出現電圧検出手段と、測定対象物の材質ごと及びX線が垂直に入射する回折面ごとに、回折面のミラー指数とラウエ斑点像において該ミラー指数の回折面に対応する斑点が現れ始める管電圧との関係が予め記憶されている記憶手段と、出現電圧検出手段により検出された管電圧を記憶手段に記憶されている関係に当てはめて、ラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定する斑点ミラー指数決定手段とを備えていることにある。
【0008】
これによれば、連続検出制御手段、出現電圧検出手段及び斑点ミラー指数決定手段を作動させれば、像検出手段により検出されたラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数がわかるので、検出されたラウエ斑点像を基準のラウエ斑点像と比較するよりも精度よく、測定対象物の結晶面の種類及び結晶方位等の特性値を求めることができる。すなわち、検出されたラウエ斑点像が基準のラウエ斑点像と模様が合わない場合であっても、精度よく測定対象物の特性値を算出することができる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、出現電圧検出手段は、連続検出制御手段により検出したそれぞれのラウエ斑点像から、ラウエ斑点像の斑点ごとに管電圧と斑点のピーク強度との関係曲線を作成し、関係曲線が予め設定された強度のラインと交差する点を、斑点が現れ始める管電圧とすることにある。
【0010】
これによれば、記憶手段に記憶させておく関係における斑点が現れ始める管電圧も、出現電圧検出手段が行う方法と同じ方法により取得しておけば、出現電圧検出手段が検出した斑点が現れ始める管電圧から、斑点ミラー指数決定手段が精度よくラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定することができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、記憶手段は、測定対象物の材質ごと及びX線が垂直に入射する回折面のミラー指数ごとに、基準のラウエ斑点像が予め記憶されており、像検出手段により検出されたラウエ斑点像と基準のラウエ斑点像とを比較し、一致の度合を算出する一致度合計算手段と、一致度合計算手段により算出された一致の度合が予め定められた許容値に達しないとき、連続検出制御手段、出現電圧検出手段及び斑点ミラー指数決定手段を作動させることが必要と判定する判定手段とを備えたことにある。
【0012】
これによれば、判定手段が必要と判定したときのみ、X線回折測定装置の操作者は、連続検出制御手段、出現電圧検出手段及び斑点ミラー指数決定手段を作動させるようにすれば、効率よく測定作業を行うことができる。すなわち、連続検出制御手段、出現電圧検出手段及び斑点ミラー指数決定手段を作動させてラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定することは、ラウエ斑点像の撮像と検出を複数回実施するため時間を要することになるが、その時間を要することを必要最小限で行うことができる。
【0013】
また、本発明は、装置の発明のみならず方法の発明としても実施し得るものである。すなわち、対象とする測定対象物に向けてX線を出射するX線出射手段であって、ターゲットに加速した電子を当てることでX線を発生させるX線管を含むX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物に向けてX線が照射された際、測定対象物にて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する撮像面にて受光し、撮像面にラウエ斑点像を撮像するとともに撮像したラウエ斑点像を検出する像検出手段とを備えたX線回折測定装置を用いたX線回折測定方法において、X線管における電子を加速するための電圧である管電圧を変更するごとに、X線出射手段により測定対象物の同一の点にX線を照射して、像検出手段によりラウエ斑点像を検出する連続検出ステップと、連続検出ステップにて検出したそれぞれのラウエ斑点像を管電圧の小さい順に並べたとき、ラウエ斑点像の斑点ごとに、斑点が現れ始める管電圧を検出する出現電圧検出ステップと、出現電圧検出ステップにて検出された管電圧を、測定対象物の材質ごと及びX線が垂直に入射する回折面ごとに得られている、回折面のミラー指数とラウエ斑点像において該ミラー指数の回折面に対応する斑点が現れ始める管電圧との関係に当てはめて、ラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定する斑点ミラー指数決定ステップとを行うX線回折測定方法の発明としても実施し得るものである。これによっても、検出されたラウエ斑点像が基準のラウエ斑点像と模様が合わない場合であっても、精度よく測定対象物の特性値を算出することができるという、上述した効果と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを示す全体概略図である。
【
図3】
図2のX線回折測定装置におけるX線出射機構部分を拡大して示す部分断面図である。
【
図4】測定の際、
図1のコントローラが実行するプログラムのフロー図である。
【
図5】同一の測定点において、X線管の管電圧を変化させたとき、撮像されるラウエ斑点像の変化を示した図である。
【
図6】ラウエ斑点像の1つの斑点におけるX線管の管電圧と斑点のピーク強度との関係曲線から、該斑点が現れ始める管電圧を算出する方法を視覚的に示した図である。
【
図7】X線管の管電圧を変化させたときの出射X線のスペクトル変化を示した図である。
【
図8】
図5のラウエ斑点像のそれぞれの斑点において、対応する回折面のミラー指数と斑点が現れ始める管電圧を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について
図1乃至
図3を用いて説明する。なお、本発明の特徴点は、大部分がX線回折測定システムのコンピュータ装置90にインストールされたプログラム及び記憶された情報にあり、X線回折測定システムの構造及びそれぞれの機構や回路の機能は殆どが、先行技術文献の特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。よって、特許文献1又は特許文献2に示されているX線回折測定システムと構造及び機能が同じ箇所は、同じであることを述べて簡略的に説明するにとどめ、異なっている箇所のみ詳細に説明する。
【0016】
図1及び
図2に示すように、このX線回折測定システムは、X線回折測定装置1、コンピュータ装置90、高電圧電源95、及び対象物セット装置6から構成される。そして、対象物セット装置6に単結晶状態の測定対象物OBをセットし、X線回折測定装置1からX線を測定対象物OBの表面に垂直に照射してラウエ斑点像を撮像して検出し、コンピュータ装置90にて検出したラウエ斑点像のデータを用いた演算処理を行うことで、測定対象物OBの特性値を算出する。対象物セット装置6にセットされる測定対象物OBは様々な材質のものがあり、測定する特性値は結晶面の種類(測定対象物の表面に略平行な回折面のミラー指数)及び結晶方位(測定対象物の表面の法線方向に対する該回折面の法線方向)等である。
【0017】
X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及びラウエ斑点像を検出するレーザ検出装置30等を備えている。そして、X線回折測定装置1は筐体50内に、X線管10、テーブル駆動機構20及びレーザ検出装置30に接続され、それらの作動を制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、
図1において筐体50外に示された2点鎖線で囲われた各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。そして、これらの各種回路はコンピュータ装置90のコントローラ91に接続され、コントローラ91から入力する指令により作動する。X線回折測定装置1のこの構成は特許文献1及び特許文献2のX線回折測定システムと同じである。
【0018】
コンピュータ装置90はキーボード等の入力装置92及び液晶画面等の表示装置93を有し、コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置である。コントローラ91は入力装置92からの入力及びインストールされているプログラムの作動により、上述した各種回路に指令を出力し、また該各種回路が出力したデータを入力してメモリに記憶する。そして、記憶したデータを用いて演算を行い、測定対象物OBの特性値を算出し、その算出結果を表示装置93に表示する。また、コントローラ91は、入力装置92から入力した測定条件やX線回折測定システムの作動状況、及びラウエ斑点像の強度分布図(回折X線の強度により色と濃淡を変えた図)等を表示装置93に表示する。コンピュータ装置90の構成及び機能は、特許文献1及び特許文献2に示されているX線回折測定システムと同じである。
【0019】
また、X線回折測定システムは高電圧電源95を備え、高電圧電源95はX線管10がX線を出射するための電圧及び電流をX線管10に出力する。X線管10は、加速した電子を金属のターゲットに衝突させることでX線を発生させるものであり、高電圧電源95が出力する電圧は高電圧であって、電子を加速させるための電圧である。また、高電圧電源95が出力する電流は加速させる電子の量に相当する電流である。この電圧と電流は様々な呼び方があるが、本実施形態では管電圧及び管電流という。高電圧電源95は、後述するX線制御回路71から作動と停止の信号がX線管10に入力するのに応答して、管電圧と管電流の出力と停止を行う。また、X線制御回路71は管電圧の大きさと管電流の大きさを意味する信号も出力し、高電圧電源95が出力する管電圧と管電流は、X線制御回路71が出力する信号により設定される。上述したように、X線回折測定装置1の筐体50内の各種回路はコントローラ91から入力する指令により作動するため、高電圧電源95の出力と停止(すなわち、X線照射時間)及び管電圧と管電流の大きさの設定は、コントローラ91の指令により行われる。
【0020】
また、X線回折測定システムは対象物セット装置6を備える。対象物セット装置6の構造及び機能は特許文献1及び特許文献2のX線回折測定システムと同じであり、ステージSt及びそこに載置された測定対象物OBの位置と姿勢を調整する。対象物セット装置6は、設置プレート62の上に高さ調整機構63、操作子63a及び第1プレート64からなるZ軸方向移動機能があり、その上に第2プレート65及び操作子65aからなるX軸周り傾斜角変更機能があり、その上に第3プレート66及び操作子66aからなるY軸周り傾斜角変更機能があり、その上に第4プレート67及び操作子67aからなるX軸方向移動機能があり、その上に第5プレート68、操作子68a及びステージStからなるY軸方向移動機能がある。そして、操作子63a,65a,66a,67a,68aを回転させることで、ステージSt及びそこに載置された測定対象物OBの位置と姿勢を調整する。これにより、X線回折測定装置1が出射するX線の測定対象物OBにおける照射位置及び照射方向を調整することができる。なお、X,Y,Z軸の各方向は、
図2に示された座標軸の方向である。
【0021】
図2に示すように、X線回折測定装置1の筐体50は、底面壁50a、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、底面壁50aと前面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cと繋ぎ壁50d及び後面壁50eと上面壁50fの角部をなくすように設けた傾斜壁50gを有するように形成されている。切欠き部壁50cは底面壁50aに対し所定の角度を成す平板と底面壁50aにほぼ平行な平板とからなり、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり前面壁50bと所定の角度を有している。筐体50の構造は特許文献2に示されているX線回折測定装置と同じである。
【0022】
X線回折測定装置1の筐体50は
図2の奥側の側面壁で支持ロッド3に固定され、支持ロッド3は設置プレート2に固定されており、設置プレート2を作業台等に載置することで、X線回折測定装置1は位置と姿勢が固定される。支持ロッド3の筐体50の固定部分はX軸周りとY軸周りに回転角を変更することが可能な構造になっており、この回転角を変更することで、X線回折測定装置1の筐体50は姿勢を変更することができる。別の言い方をすると、X線回折測定装置1が出射するX線の測定対象物OBに対する照射方向を変更することができる。
【0023】
X線回折測定装置1の筐体50内の構造は、大部分が特許文献2に示されているX線回折測定装置と同じである。X線管10は、その側面がテーブル駆動機構20の板状プレート26に形成された円柱側面の一部の形状になっている溝に嵌合して固定され、高電圧電源95から電圧が入力されると、側面にある出射口11からX線を
図2の下方向に出射する。
図3に示すように、板状プレート26において出射口11と合わさる箇所には貫通孔26aがあり、出射したX線は貫通孔26aを通過して下方向に進む。
【0024】
なお、X線回折測定装置1の筐体50の上面壁50f、傾斜壁50g及び側面壁の一部を取外すと、板状プレート26にあるX線管10の固定具を取り外してX線管10を別のX線管10に取り換えることができる。これにより、X線管10内にある加速した電子を衝突させることでX線を発生させる金属のターゲットを変更することができ、X線管10が出射するX線のスペクトルを変化させることができる。X線のスペクトルは連続X線と特性X線の2つからなるが、単結晶状態の測定対象物OBに照射されたときラウエ斑点像を発生させるX線は連続X線である。よって、ラウエ斑点像を撮像する測定においては、特性X線の影響が小さいモリブデンやタングステンのターゲットのX線管10が好ましい。なお、特性X線の影響が大きいX線管10でもラウエ斑点像は撮像できるので、多結晶状態の測定対象物OBも測定することがある場合は、別のターゲットのX線管10でもよい。
【0025】
テーブル駆動機構20は、X線管10の下方にて移動ステージ21を備え、移動ステージ21の
図2の奥側には凸部があり、この凸部はテーブル駆動機構20における板状プレート26に固定されたブロック19とブロック29に固定された板状のガイド25に形成された溝に嵌合している。この溝はX線管10の中心軸方向に平行な方向、別の表現では上面壁50f及び側面壁に平行な方向に形成されているため、移動ステージ21はこの方向にのみ移動可能であり、ブロック19に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及びブロック29に固定された軸受部24が回転することにより移動する。フィードモータ22は、フィードモータ制御回路73から駆動信号を入力すると駆動するため、コントローラ91の指令により移動ステージ21はX線管10の中心軸方向に移動する。
【0026】
フィードモータ22には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が回転するとパルス列信号を
図1に示す位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。このパルス列信号の単位時間当たりのパルス数は、フィードモータ22の回転速度に比例し、またパルス数の積算値は移動距離に比例するので、フィードモータ制御回路73は、入力したパルス列信号により移動速度を制御し、位置検出回路72は入力したパルス列信号により原点位置からの移動距離である移動位置を算出する。これにより、移動ステージ21をコントローラ91が指令した方向へ指令した速度で移動させ、また、コントローラ91が指令した移動位置へ移動させることができる。これは、移動ステージ21と一体になっているスピンドルモータ27、テーブル16及びイメージングプレート15等においても同様である。
【0027】
コントローラ91の指令により移動ステージ21が
図2及び
図3の移動位置になっていると、X線管10の出射口11から出射され貫通孔26aを通過したX線は、回転プレート45に当たるが、回転プレート45はモータ46の出力軸46aに接続されており、モータ46の回転により位置を変えるので、回転プレート45をX線の進行方向にないようにすることができる。その状態であれば、貫通孔26aを通過したX線は移動ステージ21に形成された貫通孔21aに入射し、移動ステージ21に固定されたスピンドルモータ27に形成された貫通孔27bの先端に固定されている通路部材28の貫通孔28aを通過する。スピンドルモータ27の出力軸27aには貫通孔27a1が形成されており、貫通孔27bは貫通孔27a1と中心軸が合ったうえでつながっている。このため、貫通孔28aを通過したX線は、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過する。
【0028】
テーブル16は円盤状であり、その中心軸に形成された貫通孔16aがスピンドルモータ27の出力軸27aの貫通孔27a1と位置が合うよう出力軸27aに固定されている。そして、テーブル16は、中心軸周りに下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面に孔15aを突出部17に嵌め込むようにイメージングプレート15を取り付け、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15はテーブル16に固定される。突出部17にも貫通孔27a1、貫通孔16aと位置が合うよう貫通孔17aが形成されており、固定具18には通路部材28の貫通孔28aと同程度の径の貫通孔18aが形成されている。よって、貫通孔27b、貫通孔27a1を通過したX線は、貫通孔16a、貫通孔17a及び貫通孔18aを通過し、略平行なX線となって、筐体50の円形孔50c1に貼られた炭素繊維フィルムCFの中心孔Hから出射する。炭素繊維フィルムCFは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のようにX線透過率の高い材質でできたフィルムである。出射したX線は、測定対象物OBに照射され、発生した回折X線は炭素繊維フィルムCFを通過してイメージングプレート15で受光され、イメージングプレート15にはラウエ斑点像が撮像される。移動ステージ21を適切な位置にしたうえでX線管10からX線を出射させ、イメージングプレート15にラウエ斑点像を撮像させる機能が、回折像撮像機能である。
【0029】
スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、パルス列信号を
図1に示すスピンドルモータ制御回路74と回転角度検出回路75へ出力し、スピンドルモータ27が1回転するごとにインデックス信号を、回転角度検出回路75及びコントローラ91に出力する。パルス列信号の単位時間当たりのパルス数は、スピンドルモータ27の回転速度に比例し、またパルス数の積算値はインデックス信号が入力してからの回転角度に比例するので、スピンドルモータ制御回路74は、入力したパルス列信号により回転速度を制御し、回転角度検出回路75は、入力したパルス列信号により回転角度を算出する。これにより、スピンドルモータ27をコントローラ91が指令した速度で回転させ、また、コントローラ91が指令した回転角度への回転させることができる。これは、スピンドルモータ27と一体になっているテーブル16及びイメージングプレート15等においても同様である。なお、ラウエ斑点像の撮像時は、スピンドルモータ27の回転角度は0に調整されている。
【0030】
レーザ検出装置30はレーザ検出制御回路77により制御され、回折像を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15で発光した光の強度から、レーザ光照射位置における回折X線の強度を検出する。コントローラ91の指令により移動ステージ21を適切な位置にし、設定した速度で移動させるとともにスピンドルモータ27を設定した速度で回転させたとき、レーザ検出制御回路77にはコントローラ91から指令が入力し、レーザ検出制御回路77はレーザ検出装置30に対し、レーザ光出射、出射レーザ光の強度制御、レーザ光照射点のイメージングプレート15への合焦制御、及びイメージングプレート15での発光強度のコントローラ91への出力といった制御を行う。レーザ検出制御回路77の機能は、特許文献1と同じであるが、特許文献1では、レーザ検出制御回路77を、上述した制御ごとにいくつかの回路に分割して示してある。コントローラ91はレーザ検出制御回路77に指令を出力した後、レーザ検出制御回路77から入力する発光強度データを、位置検出回路72と回転角度検出回路75が出力する移動位置データ及び回転角度データと同じタイミングで取り込み、メモリに記憶していく。移動位置データは、移動位置の原点でのレーザ光照射位置から出射X線の光軸がイメージングプレート15と交差する点までの距離を予め求めてコントローラ91に記憶させておけば、該交差する点を原点にしたレーザ光照射位置である半径データにすることができる。これが回折像読取機能であり、ラウエ斑点像を読取る又は検出するとは、上述した3つのデータを同じタイミングで取り込んで記憶していくことである。
【0031】
また、
図2に示すように、レーザ検出装置30にはLED光源43が設けられており、LED光源43は
図1に示すLED駆動回路84から駆動信号が入力すると、可視光を発してイメージングプレート15に撮像された回折像を消去する。回折像読取りがされた後、コントローラ91の指令によりスピンドルモータ27が回転を継続したまま移動ステージ21が所定位置に戻り移動を再開したとき、LED駆動回路84にコントローラ91から指令が入力し、LED駆動回路84はLED光源43が所定の強度の可視光を出射する駆動信号を出力する。これが回折像消去機能である。
【0032】
図3に示すように、移動ステージ21は、板状プレート26と対向する面にモータ46を取り付けており、モータ46は出力軸46aに楕円状の平板である回転プレート45を取り付けている。回転プレート45は、モータ46の回転により回転プレート45がストッパ47aに当たるまで回転すると、貫通孔26a、21aの中心軸と回転プレート45が交差する箇所が中心となるようにLED光源44を取り付けている。LED光源44は、
図1に示すLED駆動回路85から駆動信号が入力すると可視光を出射し、その可視光は前述した出射X線の光路と同様の光路で出射して測定対象物OBに照射される。これにより、X線の照射点を可視光の照射点として把握することができる。また、回転プレート45がストッパ47bに当たるまで回転すると、貫通孔26aと貫通孔21aの間には何もなくなり、貫通孔26aを通過したX線は貫通孔21aに入射する。
【0033】
モータ46は、
図1に示すモータ制御回路86からの駆動信号により右方向又は左方向に回転するようになっており、モータ制御回路86は、コントローラ91からの回転方向の指令が入力すると、モータ46のエンコーダ46bからのパルス列信号が入力しなくなるまで、入力した回転方向に回転するための駆動信号を出力する。モータ制御回路86及びLED駆動回路85は、コントローラ91からの指令により作動するので、回転プレート45の回転位置設定及びLED光源44からの可視光照射は、コントローラ91の指令により行われる。
【0034】
図1及び
図2に示すように、筐体50の切欠き部壁50cにはカメラCAが取り付けられている。カメラCAは結像レンズ48を取り付けた鏡筒と撮像器49とから構成されたデジタルカメラであり、撮像器49は、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路88に出力し、センサ信号取出回路88は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度に相当するデジタルデータをコントローラ91に出力する。コントローラ91は入力したデータを用いて、表示装置93に撮影画像を表示するが、可視光の照射点(X線の照射点)からイメージングプレート15までの距離(以下、照射点-撮像面間距離という)が基準距離であるとき、可視光の照射点が表示される箇所をクロス点とする十字マークを撮影画像とは独立して表示する。
【0035】
図2から分かるように、照射点-撮像面間距離が変化すると、可視光の照射点と結像レンズ48の中心を結んだラインが撮像器49と交差する点の位置は変化するため、照射点-撮像面間距離と撮影画像における可視光の照射点の位置は変化する。よって、撮影画像における可視光の照射点の位置が十字マークのクロス点に合致するよう、X線回折測定装置1の筐体50に対する測定対象物OBの位置を調整すれば、照射点-撮像面間距離を基準距離にすることができる。また、コントローラ91のメモリには照射点-撮像面間距離と撮影画像における可視光の照射点位置との関係が記憶されているので、コントローラ91は、撮影画像における可視光の照射点位置から照射点-撮像面間距離を算出して表示装置93に表示させることができる。
【0036】
X線回折測定装置1の筐体50の上面壁50fは傾斜角センサ51を取り付けており、傾斜角センサ51は筐体50の上面壁50f内の2軸方向における傾斜角、すなわち90°からこれらの方向が重力方向と成す角度を減算した角度に相当する信号を出力する。傾斜角センサ51は傾斜角検出回路52を内蔵しており、傾斜角検出回路52は2軸方向の傾きのデジタルデータをコントローラ91に出力する。出射X線の光軸は上面壁50fに垂直にされており、上面壁50f内の2軸方向が出射X線の光軸とイメージングプレート15の回転角度0のラインとを含む平面(以下、基準平面という)に、平行及び垂直な方向であれば、傾斜角センサ51が検出する傾斜角は、出射X線の光軸と重力方向とが成す角度及び基準平面と重力方向とが成す角度である。以下、この傾斜角をX軸周り傾斜角及びY軸周り傾斜角という。そして、測定対象物OBの表面が傾斜角0になるよう(重力方向に垂直になるよう)調整すれば、X軸周り傾斜角及びY軸周り傾斜角をともに0にすることで、出射X線を測定対象物OBに垂直に照射させることができる。なお、イメージングプレート15の回転角度0のラインとは、回転角度検出回路75が0を出力したときにレーザ検出装置30からのレーザ光が照射されている位置であり、これは半径位置ごとにあるためラインである。
【0037】
コントローラ91のメモリには、X線回折測定装置1内の各回路に指令を出力して、回折像撮像、回折像読取及び回折像消去を行うプログラム、X線回折測定装置1内の各回路に指令を出力して出射X線と同じ光軸の可視光を出射し、可視光の照射点付近をカメラCAにより撮像し撮影画像と照射点-撮像面間距離を表示装置93に表示するプログラム、検出したラウエ斑点像を用いて演算処理することで測定対象物OBの特性値を算出するプログラム、及びX線管10の管電圧を変化させて回折像撮像、回折像読取及び回折像消去を複数回行い、検出した複数のラウエ斑点像を用いてラウエ斑点像のそれぞれの斑点に対応する回折面のミラー指数を決定するプログラム等、いくつかのプログラムがインストールされている。また、コントローラ91のメモリには、カメラCAの可視光照射点の位置と照射点-撮像面間距離の関係、測定対象物OBの材質ごと及びX線が垂直に入射する回折面のミラー指数ごとの、基準のラウエ斑点像、及び回折面のミラー指数に対するラウエ斑点像において該ミラー指数の回折面に対応する斑点が現れ始める管電圧、等が記憶されている。
【0038】
このように構成されたX線回折測定システムを用いて、単結晶状態の測定対象物OBの特性値を測定する際の作業者の操作及びコントローラ91にインストールされたプログラムの作動について説明する。まず作業者は、入力装置92から測定対象物OBの材質、X線管10のターゲット、X線管10の管電圧、管電流及びX線照射時間を入力する。これらは、表示装置93に現在の設定が表示されているので、変更したい設定のみを入力すればよく、変更の必要がなければ入力は不要である。また、測定対象物OBの結晶面の種類(表面に略垂直な回折面のミラー指数)が既知である場合は、結晶面の種類も入力する。
【0039】
次に作業者は、測定対象物OBの表面がステージStの表面と平行である場合(測定対象物OBの表面が平面で厚さが均一の場合)は、水準器を用いてステージStの表面が水平になるよう対象物セット装置6の操作子65a及び66aにより姿勢を調整する。これは、以前に同じ調整がされ、操作子65a及び66aが動かされていなければスキップしてもよい。なお、測定対象物OBの表面がステージStの表面と平行でない場合は、測定対象物OBの表面を水準器を用いて水平にするか、それが不可能なときは次の調整において別の調整を行う。
【0040】
次に作業者は、入力装置92から「位置・姿勢調整」の指令を入力する。これにより、コントローラ91からの指令がX線回折測定装置1内の各回路に出力され、回転プレート45は、
図2及び
図3の状態になって、LED光源44から可視光が出射され、測定対象物OBには可視光の照射点が生じる。また、カメラCAによる撮影が開始され、表示装置93には撮影画像が表示される。作業者は、X線回折測定装置1の姿勢及び対象物セット装置6のステージStの位置と高さを調整し、可視光の照射点が測定対象物OBの測定する点付近になり、撮影画像における可視光の照射点が十字マークのクロス点付近になり、傾斜角センサ51が検出するX軸周り傾斜角及びY軸周り傾斜角がともに0になるようにする。これでX線回折測定装置1からの出射X線は測定対象物OBの表面に垂直に照射され、照射点-撮像面間距離は基準値付近になる。
【0041】
なお、測定対象物OBの表面がステージStの表面と平行でなく、測定対象物OBの表面を水平にすることができない場合は、傾斜角センサ51が検出するX軸周り傾斜角、Y軸周り傾斜角を0にする代わりに、可視のLED光の反射光が円形孔50c1に貼られた炭素繊維フィルムCFの中心孔H付近で受光されるようにする。この方法においては、作業者が直に炭素繊維フィルムCFを見ることは困難であるため、X線回折測定装置1のカメラCAと同様のカメラを用意し、測定対象物OB側から炭素繊維フィルムCFに向けて撮影を行うことができるようにすればよい。
【0042】
位置と姿勢の調整が終了すると、作業者は、入力装置92から「位置・姿勢調整終了」の指令を入力する。これにより、コントローラ91からの指令がX線回折測定装置1内の各回路に出力され、LED光照射は停止し、回転プレート45は出射X線の光軸上にはなくなり、カメラCAの撮影が停止して表示装置93から撮影画像はなくなる。そして、指令を入力したタイミングで、コントローラ91は、撮影画像における可視光の照射点から算出した照射点-撮像面間距離をメモリに記憶する。
【0043】
次に作業者は、入力装置92から「測定開始」の指令を入力する。これにより、コントローラ91は
図4に示すフローのプログラムをステップS1にてスタートさせる。以下、
図4に示すフローに沿って説明する。ステップS2及びステップS3は、特許文献1及び特許文献2で説明されているX線回折測定装置1の作動と同じであり、X線を出射してイメージングプレート15に回折像であるラウエ斑点像を撮像し、撮像したラウエ斑点像を読取り、読取ったデータをコントローラ91のメモリに保存する処理である。次のステップS4も特許文献1及び特許文献2で説明されているX線回折測定装置1の作動と同じであり、LED光をイメージングプレート15に照射して撮像されているラウエ斑点像を消去する処理であるが、回折像消去のための指令を出力した後、すぐにステップS5以降の処理を行うので、ステップS5以降の処理は、回折像の消去と並行して行われる。
【0044】
ステップS5にてコントローラ91は、ステップS3にて取得したラウエ斑点像のデータの、メモリに記憶された基準のラウエ斑点像のデータに対する一致度を算出する。以下、この演算処理の方法を段階的に説明する。
1)ラウエ斑点像の各斑点の位置とピーク強度のデータを抽出する
回折像の読取データは、強度、半径、回転角度の3つのデータからなるデータ群である。このデータ群の中から、強度が設定値以上のデータを抽出し、回転角度データが等しく(差が設定内で)、半径データが近傍のデータでグループ化してデータ組にし、そのデータ組における半径方向に強度がピークであるデータを抽出する。次に抽出したデータの中から1つのデータを抽出し、回転角度データが近傍の別データがあれば、そのデータをグループに入れ、グループに入れたデータに回転角度データが近傍の別データがあれば、そのデータをグループに入れ、ということを近傍のデータがなくなるまで繰り返してデータ組にする。次に、データ組ごとに、回転角度方向に強度が所定の割合以上で変化している場合は、強度がピークであるデータを抽出する。これにより、ラウエ斑点像の各斑点の位置とピーク強度のデータが抽出される。
【0045】
2)基準のラウエ斑点像と位置が許容範囲内で一致するデータの数を検出する
コントローラ91のメモリには、測定対象物OBの材質及びX線が垂直に入射する回折面のミラー指数ごとの、基準のラウエ斑点像の各斑点の位置データが記憶されているので、これらのデータの中から測定前に入力した測定対象物OBの材質と結晶面の種類に合致するものを選択する。結晶面の種類が入力されていないときは、すべての結晶面の種類を選択する。次に、記憶されている基準のラウエ斑点像の各斑点の位置データは、照射点-撮像面間距離が基準値であるときのデータであるので、1)で抽出したデータを照射点-撮像面間距離が基準値であるときの値に補正する。これは、強度、半径、回転角度の3つのデータからなるデータの半径データに(基準の照射点-撮像面間距離)/(検出した照射点-撮像面間距離)を乗算すればよい。次に、1)で検出したデータの回転角度データを等しく変化させるごとに、1)で検出したデータの位置データと選択した位置データとを比較し、差が許容内で合うデータがあれば合致するデータ、差が許容内のデータがなければ合致しないデータとして、合致するデータの数を求める。この処理を1)で検出したデータの回転角度データを360°変化させるまで行う。また、測定前に結晶面の種類が入力されていないときは、選択した全ての結晶面の種類においてこの処理を行う。
【0046】
3)基準のラウエ斑点像との一致度を算出する
2)の処理を行った中で、合致するデータが最も多いときの{(合致するデータ数)/(基準のラウエ斑点像の斑点数)}を算出する。得られた割合が、検出したラウエ斑点像の基準のラウエ斑点像との一致度である。視覚的には、この処理は検出したラウエ斑点像と基準のラウエ斑点像を重ね、検出したラウエ斑点像を座標原点(出射X線の光軸がイメージングプレート15と交差する点)を中心に回転させ、検出したラウエ斑点像と基準のラウエ斑点像のそれぞれの斑点が最も一致する状態を見つけ、その状態において、{(合致する斑点の数)/(基準のラウエ斑点像の斑点数)}を算出する、というものである。
【0047】
次にステップS6にて、ステップS5にて算出した一致度が許容値以上であるか判定し、許容値以上であればYESと判定してステップS7へ行き、許容値未満であればNoと判定してステップS8へ行く。ステップS7へ行った場合は、検出したラウエ斑点像の基準のラウエ斑点像に対する一致度が許容される場合であるので、測定前に結晶面の種類を入力しなかったときは、最も一致度が高い基準のラウエ斑点像の結晶面の種類を測定対象物OBの結晶面の種類にする。そして、検出したラウエ斑点像の基準のラウエ斑点像に対するずれから結晶方位を算出する。この算出方法は既存技術であり、多くの文献に計算方法が示されている。そして、算出した結果を表示装置93に表示した後、ステップS22へ行きプログラムの実行を終了する。ステップS6にてYESと判定した場合の演算処理は、検出したラウエ斑点像から結晶面の種類と結晶方位を算出する既存技術の演算処理である。
【0048】
ステップS8へ行った場合は、検出したラウエ斑点像の基準のラウエ斑点像に対する一致度が許容されない場合であるので、表示装置93に検出したラウエ斑点像と基準のラウエ斑点像を並べるか、色を変えて重ねて表示し、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点に対応する回折面のミラー指数を検出する必要があることを表示する。なお、表示する検出したラウエ斑点像は、上述したステップS5の(2)に示されている照射点-撮像面間距離による補正を行い、回転角度データから、上述したステップS5の(3)で検出した、基準のラウエ斑点像と合致するデータの数が最も多いときの回転角度の変化量を変化させたデータによる像である。視覚的には、検出したラウエ斑点像を照射点-撮像面間距離が基準値のときの像にしたうえで、基準のラウエ斑点像に重ねた状態で座標原点を中心に回転させ、基準のラウエ斑点像に最も一致するときの像である。作業者は表示装置93に表示されたラウエ斑点像を見て、表示装置93に表示された通り、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点に対応する回折面のミラー指数を検出する処理を行うか否かを判断し、入力装置92から入力する。
【0049】
ステップS9にてNoの判定を繰り返すことで入力装置92からの入力を待ち、入力がされるとYESと判定してステップS10へ行き、ステップS10にて「処理実施」が入力されたときはYESと判定してステップS12へ行き、「処理不実施」が入力されたときはNoと判定して、ステップS11へ行く。ステップS11へ行った場合は、検出したラウエ斑点像の基準のラウエ斑点像に対する一致度が許容されないが、一致した斑点を用いて結晶面の種類と結晶方位を算出する演算処理を行う場合であり、その演算処理は、ステップS7にて行った処理と同様である。なお、この演算処理において、一致した斑点の数が少なく演算処理が不可能なときは、「測定不可能」を表示装置93に表示する。そして、演算が終了し、算出した結果又は「演算不可能」を表示装置93に表示した後、ステップS22へ行き、プログラムの実行を終了する。
【0050】
ステップS12へ行った場合は、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点に対応する回折面のミラー指数を検出する処理を実施する場合であり、X線管10の管電圧を変えて複数のラウエ斑点像を検出し、そのラウエ斑点像から、それぞれの斑点に対応する回折面のミラー指数を検出する処理を行う。まず、ステップS12にてX線管10の管電圧に対応して付けられている番号nを1にし、次にステップS13にてX線制御回路71に管電圧V(1)の指令を出力し、ステップS14にてNoの判定を繰り返すことでステップS4にて開始しているラウエ斑点像の消去が完了するのを待つ。そして、ラウエ斑点像の消去が完了すると、ステップS14にてYESと判定してステップS15へ行き、ステップS15とステップS16の処理により、ステップS2とステップS3の処理と同様、ラウエ斑点像の撮像と検出を行う。次に、ステップS17にてステップS4の処理と同様、ラウエ斑点像の消去を開始し、ステップS18にて番号nが設定値になっているかの判定でNoと判定し、ステップS19にてnをインクリメントしてステップS13に戻る。
【0051】
ステップS13に戻るとnは2になっているので、X線制御回路71に管電圧V(2)の指令を出力し、ステップS14にてNoの判定を繰り返すことで先に開始しているラウエ斑点像の消去が完了するのを待ち、完了すると、ステップS15乃至ステップS17の処理により、ラウエ斑点像の撮像と検出、次いでラウエ斑点像の消去開始を行う。そして、ステップS18にて番号nが設定値になっているかの判定でNoと判定し、ステップS19にてnをインクリメントしてステップS13に戻る。このようにしてステップS13乃至ステップS19の処理を繰り返して行うことで、X線管10の管電圧V(1)、V(2)、V(3)・・・に対応するラウエ斑点像のデータがコントローラ91のメモリに蓄積されていく。
【0052】
そして、インクリメントされるごとにnは大きくなっていくので、設定された最後の管電圧V(n)になったときステップS18にてYESと判定してステップS20へ行く。このとき、コントローラ91のメモリには、X線管10の管電圧V(1)、V(2)、V(3)・・・V(n)に対応するラウエ斑点像のデータと、ステップS3にて取得したラウエ斑点像のデータが記憶されている。なお、X線管10の管電圧V(1)乃至V(n)は、測定対象物OBの材質ごとに適切な値がステップS2での管電圧と重ならないようにコントローラ91のメモリに記憶されている。次に、ステップS20にて、コントローラ91のメモリに記憶されているX線管10の管電圧ごとのラウエ斑点像のデータから、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点に対応する回折面のミラー指数を検出する処理を行う。
【0053】
ステップS20にて行う処理は、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点ごとに、斑点が現れ始める管電圧を算出すること、そして、算出した斑点が現れ始める管電圧を、コントローラ91のメモリに記憶されている回折面のミラー指数と、ラウエ斑点像において該回折面のミラー指数に対応する斑点が現れ始める管電圧との関係に当てはめて、ラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定することである。コントローラ91のメモリに記憶されているこの関係は、測定対象物OBの材質ごと及び測定対象物OBの表面に略平行な回折面(結晶面の種類であり、出射X線に略垂直な回折面)のミラー指数ごとに予め得られている。
【0054】
図5は、測定対象物OBが単結晶状態のシリコンで、(3,7,10)の回折面とおおよそ平行な表面に垂直にX線を照射して撮像したラウエ斑点像であって、同一の測定点をX線管10の管電圧を変化させるごとに撮像したラウエ斑点像である。
図5を見ると分かるように、X線管10の管電圧が小さいときはラウエ斑点像は撮像されないが、管電圧を大きくしていくと斑点が現れ始め、次第にその数が増えていく。すなわち、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点には現れ始める管電圧があり、それぞれの斑点は、その斑点を発生させる回折面があるので、回折面のミラー指数とそのミラー指数の回折面に対応する斑点が現れ始める管電圧とには1:1の関係がある。コントローラ91のメモリに記憶されているこの関係は、材質と表面に略平行な回折面が既知で、撮像されるラウエ斑点像が基準のラウエ斑点像に一致する測定対象物OBに対して、X線管10の管電圧を変化させて、それぞれの管電圧でラウエ斑点像を得て、それぞれの斑点が現れ始める電圧を検出すれば得ることができる。これは、撮像されるラウエ斑点像が基準のラウエ斑点像に一致する場合は、それぞれの斑点に対応する回折面のミラー指数は既知であるためである。
【0055】
そして、撮像されるラウエ斑点像の基準のラウエ斑点像に対する一致度が許容されない場合であっても、材質と表面に略平行な回折面が既知であれば、コントローラ91のメモリに記憶されている関係と略同等な関係があるとすることができる。よって、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点が現れ始める電圧を検出すれば、コントローラ91のメモリに記憶されている関係に当てはめて、ラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定することができる。なお、表面に略平行な回折面(結晶面の種類)を測定前に入力しなかったときは、ステップS5での処理で最も一致度の良かった結晶面の種類を採用する。また、いずれの結晶面の種類においても、ステップS6の許容値よりもさらに下に定めた第2の許容値より一致度が悪かった場合は、記憶されているすべての結晶面の種類における関係に当てはめて、斑点ごとに結晶面の種類を付加したうえで回折面のミラー指数を決定する。そして、回折面のミラー指数を決定できた数が多い結晶面の種類を採用する。
【0056】
X線管10の管電圧ごとのラウエ斑点像から、それぞれの斑点が現れ始める電圧を検出する演算処理は、管電圧とそれぞれの斑点のデータにおける強度データ(斑点の強度がピークとなる箇所の強度)との関係曲線を求め、該関係曲線が0のラインと交差する箇所の管電圧を求める処理である。
図6は、この処理を視覚的に示したものであり、管電圧を変化させたとき斑点の強度が所定以上の強度である点を通る曲線を最小二乗法で求め、この曲線が0のラインと交差する点を算出すればよい。なお、
図6の縦軸を対数目盛にしたときは、すなわち斑点の強度を対数データにしたときは、0のラインに替えて予め設定した強度のラインと交差する点を算出すればよい。
【0057】
なお、上述した説明では、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点には、該斑点が現れ始めるX線管10の管電圧があることを、
図5のX線管10の管電圧ごとのラウエ斑点像から説明したが、これは理論的にもそうなることを説明することができる。以下にその説明を行う。
【0058】
X線管10の管電圧は、X線管10内にあるターゲットに電子を衝突させる際の電子を加速させるための電圧である。この電圧をVとし、電子1個が有する電荷をeとすると、加速した電子が衝突する際に有する運動エネルギーはeVである。電子がターゲットに衝突すると運動エネルギーが減少し、減少した分の運動エネルギーで1個のX線光子を発生させる。衝突直後の電子の運動エネルギーを Kとすると、発生するX線光子のエネルギーは(eV-K)であり、X線の振動数をν、プランク定数をhとすると、以下の数1が成り立つ。
(数1)
ν=(eV-K)/h
X線の波長をλ、光速をCとするとν=C/λであるので数1は以下の数2に変形できる。
(数2)
λ=hC/(eV-K)
【0059】
数2において、h、C、eは定数であり、Vを一定とすれば、衝突直後の電子の運動エネルギーKは、連続する様々な値を取るため、X線の波長λも連続する様々な値をとり、これによりX線スペクトルはそれぞれの波長において強度を有するX線である連続X線となる。X線スペクトルは連続X線と特性X線の2つから成るが、ラウエ斑点像は連続X線による回折像であるため、ここでは特性X線の説明は除き、連続X線に限定して説明する。X線スペクトルにおいてスペクトルが立ち上がる箇所は、衝突直後の電子の運動エネルギーが0(K=0)となる箇所であり、X線スペクトルが立ち上がる箇所では数2は以下の数3になる。
(数3)
λ=hC/eV
すなわち、X線管10の管電圧Vを上げていくと、X線スペクトルが立ち上がる箇所のX線の波長λは、波長が小さくなる方へ移動する。また、X線の波長をeV単位で表すと上記の式は、λ=Vとなり、X線スペクトルが立ち上がる箇所のX線の波長λは、管電圧Vに依存するとともに、X線の波長をeV単位で表した時は管電圧V付近の値になる。
【0060】
また、管電圧Vを上げていくと加速された電子がターゲットに衝突した際、運動エネルギーを失うまでに放出するX線光子の数は増え、この数はX線強度に相当するので、X線管10の管電圧Vを上げていくとX線スペクトルの立ち上がる箇所の波長は小さくなる方向へ移動するとともに、それぞれの波長におけるX線強度は大きくなっていく。
図7は、タングステンのターゲットを有するX線管10が出射するX線のスペクトルを管電圧ごとに示した図である。
図7を見ると分かるように、管電圧を上げていくとX線スペクトルの立ち上がる箇所の波長は小さくなる方向へ移動し、それぞれの波長におけるX線強度は大きくなっている。
【0061】
ラウエ斑点像における各斑点は、X線の波長λ、回折面とX線が成す角度Θ及び回折面間隔dがブラッグの条件である以下の数4を満たす時に発生する。
(数4)
λ=2d・sinθ
回折面はミラー指数h,k,lにより定義され、入射するX線と略垂直である回折面のミラー指数h,k,lが既知であれば、ミラー指数h,k,lで定義されるそれぞれの回折面におけるΘは定まる。そして、回折面間隔dは測定対象物OBの材質の格子定数aから以下の数5で得られる。
【数5】
格子定数aは測定対象物の材質により決まっているので、ミラー指数h,k,lで定義されるそれぞれの回折面の回折面間隔dは、測定対象物の材質とミラー指数h,k,lにより定まる。よって、ラウエ斑点像におけるそれぞれの斑点を発生させるX線の波長λも、測定対象物の材質とミラー指数h,k,lにより定まる。すなわち、測定対象物の材質と、入射するX線と略垂直である回折面のミラー指数h,k,lが既知であれば、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点には対応するミラー指数h,k,lと、対応するX線の波長λがある。
【0062】
上述したように、X線管10の管電圧Vを上げていくと、X線スペクトルの立ち上がる箇所の波長λは小さくなる方へ移動する。よって、X線管10の管電圧Vを上げていくと、ラウエ斑点像におけるそれぞれの斑点には対応する波長λのX線が生じる管電圧Vがある。すなわち、X線管10の管電圧Vを上げていくと、ラウエ斑点像の各斑点には、斑点が現れ始める管電圧Vがある。そして、X線管10の管電圧Vを上げていくと、波長全体に渡ってX線強度は大きくなるので、ラウエ斑点像の各斑点は、現れ始めた後、ピーク強度が大きくなっていく。よって、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点ごとにX線管10の管電圧Vに対するピーク強度をグラフにすると、
図6に示すようになる。以上により、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点には現れ始めるX線管10の管電圧があり、また、管電圧とピーク強度には
図6の関係が成り立つことを理論的に説明することができた。
【0063】
なお、数4から、回折面のミラー指数h,k,lの値が大きいほど回折面間隔dは小さくなることが分かり、数5から回折面とX線が成す角度Θが大きく違わないときは、回折面間隔dが小さいほど、ラウエ斑点像の斑点が撮像されるX線の波長λは小さくなることが分かる。よって、回折面のミラー指数h,k,lの値が大きいほど、該回折面に対応する斑点が現れ始める管電圧は大きくなるといえる。これは、実際に検出したラウエ斑点像のそれぞれの斑点が現れ始める管電圧からもわかる。
図8は、
図5の管電圧10Vのときのラウエ斑点像におけるそれぞれの斑点ごとに、対応する回折面のミラー指数と現れ始める管電圧とを示した図であるが、図を見ると分かるように、ミラー指数h,k,lが大きいほど斑点が現れ始める管電圧は大きくなっている。
【0064】
図4のプログラムのフロー図に戻り、ステップS20にてラウエ斑点像のそれぞれの斑点ごとの回折面のミラー指数の検出が終了すると、ステップS21にて結晶面の種類と結晶方位を算出する演算処理を行う。結晶面の種類の算出は測定前に入力しなかったときに行うものであり、ステップS5での処理で一致度が最もよかった結晶面の種類とするか、いずれの結晶面の種類も一致度が第2の許容値未満の時は、ステップS20にて回折面のミラー指数を決定できた数が最も多い結晶面の種類を採用する。そして、基準のラウエ斑点像のそれぞれの斑点ごとの回折面のミラー指数は既知であるので、検出したラウエ斑点像のそれぞれの斑点ごとの回折面のミラー指数を検出すれば、基準のラウエ斑点像からのずれがわかり、このずれから結晶方位を算出することができる。この演算は上述したように既存技術である。演算が終了すると結果を表示装置93に表示するが、このとき、検出したラウエ斑点像を斑点ごとに検出した回折面のミラー指数とともに表示する。また、対比用として基準のラウエ斑点像を斑点ごとに対応する回折面のミラー指数とともに表示してもよい。なお、回折面のミラー指数を決定できた斑点の数が設定値より少なかったときは、「測定不可能」を表示する。そして、ステップS22にてプログラムの実行を終了する。
【0065】
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線管10,貫通孔26a,28a,27b,27a1,17a,18a、X線制御回路71及び高電圧電源95等からなるX線出射手段と、X線出射手段により測定対象物OBに向けてX線が照射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射手段により出射されるX線の光軸に対して垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15にラウエ斑点像を撮像するとともに撮像したラウエ斑点像を検出するレーザ検出装置30、テーブル駆動機構20、各種回路、及びコントローラ91にインストールされたプログラム等からなる像検出手段とを備えたX線回折測定システムにおいて、X線管10における電子を加速するための電圧である管電圧を変更するごとに、X線出射手段により測定対象物OBの同一の点にX線を照射して像検出手段によりラウエ斑点像を検出するコントローラ91にインストールされた連続検出制御プログラムと、連続検出制御プログラムにより検出したそれぞれのラウエ斑点像を管電圧の小さい順に並べたとき、ラウエ斑点像の斑点ごとに、斑点が現れ始める管電圧を検出するコントローラ91にインストールされた出現電圧検出プログラムと、測定対象物OBの材質ごと及びX線が垂直に入射する回折面ごとに、回折面のミラー指数とラウエ斑点像において該ミラー指数の回折面に対応する斑点が現れ始める管電圧との関係が予め記憶されているコントローラ91のメモリと、出現電圧検出プログラムにより検出された管電圧をコントローラ91のメモリに記憶されている関係に当てはめて、ラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定するコントローラ91にインストールされた斑点ミラー指数決定プログラムとを備えたX線回折測定システムとしている。
【0066】
これによれば、コントローラ91が、連続検出制御プログラム、出現電圧検出プログラム及び斑点ミラー指数決定プログラムを作動させれば、像検出手段により検出されたラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数がわかるので、検出されたラウエ斑点像を基準のラウエ斑点像と比較するよりも精度よく、測定対象物OBの結晶面の種類及び結晶方位等の特性値を求めることができる。すなわち、検出されたラウエ斑点像が基準のラウエ斑点像と模様が合わない場合であっても、精度よく測定対象物OBの特性値を算出することができる。
【0067】
また、上記実施形態においては、出現電圧検出プログラムは、連続検出制御プログラムにより検出したそれぞれのラウエ斑点像から、ラウエ斑点像の斑点ごとに管電圧と斑点のピーク強度との関係曲線を作成し、関係曲線が予め設定された強度のラインと交差する点を、斑点が現れ始める管電圧としている。
【0068】
これによれば、コントローラ91のメモリに記憶させておく関係における斑点が現れ始める管電圧も、出現電圧検出プログラムが行う方法と同じ方法により取得しておけば、出現電圧検出プログラムが検出した斑点が現れ始める管電圧から、斑点ミラー指数決定プログラムが精度よくラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定することができる。
【0069】
また、上記実施形態においては、コントローラ91のメモリは、測定対象物OBの材質ごと及びX線が垂直に入射する回折面のミラー指数ごとに、基準のラウエ斑点像が予め記憶されており、像検出手段により検出されたラウエ斑点像と基準のラウエ斑点像とを比較し、一致の度合を算出するコントローラ91にインストールされた一致度合計算プログラムと、一致度合計算プログラムにより算出された一致の度合が予め定められた許容値に達しないとき、連続検出制御プログラム、出現電圧検出プログラム及び斑点ミラー指数決定プログラムを作動させることが必要と判定するコントローラ91にインストールされた判定プログラムとを備えている。
【0070】
これによれば、判定プログラムが必要と判定したときのみ、X線回折測定システムの操作者は、連続検出制御プログラム、出現電圧検出プログラム及び斑点ミラー指数決定プログラムを作動させるようにすれば、効率よく測定作業を行うことができる。すなわち、連続検出制御プログラム、出現電圧検出プログラム及び斑点ミラー指数決定プログラムを作動させてラウエ斑点像の斑点ごとに回折面のミラー指数を決定することは、ラウエ斑点像の撮像と検出を複数回実施するため時間を要することになるが、その時間を要することを必要最小限で行うことができる。
【0071】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0072】
上記実施形態におけるX線回折測定システムは、X線回折測定システムの操作者が必要と判断したときに、コントローラ91にインストールされた連続検出制御プログラム、出現電圧検出プログラム及び斑点ミラー指数決定プログラムを作動させることで、検出したラウエ斑点像のそれぞれの斑点ごとに回折面のミラー指数を決定するようにしている。しかし、X線回折測定システムが、先行技術文献の特許文献1及び特許文献2に示されたX線回折測定システムのように、測定対象物OBにX線を照射して回折像としてラウエ斑点像を検出するまでのシステムであっても、本発明は実施することができる。すなわち本発明は、方法の発明としても実施し得るものである。この場合、操作者による操作でX線回折測定システムに、上記実施形態の連続検出制御プログラムによる作動と同様の作動をさせ、X線管10の管電圧ごとのラウエ斑点像データを取得する。そして、出現電圧検出プログラム及び斑点ミラー指数決定プログラムをインストールさせたコンピュータ装置に取得したデータを入力させ、上記実施形態と同様の処理をさせてラウエ斑点像のそれぞれの斑点ごとに回折面のミラー指数を決定するようにすればよい。
【0073】
この場合、出現電圧検出プログラム及び斑点ミラー指数決定プログラムをインストールさせたコンピュータ装置は、X線回折測定システムのコンピュータ装置90であってもよいし、別のコンピュータ装置であってもよい。そして、別のコンピュータ装置である場合は、コントローラ91のメモリに記憶されたラウエ斑点像データを別のコンピュータ装置に転送すればよいが、転送する方法は、作業者が持ち運び可能な記憶媒体をコントローラ91と別のコンピュータ装置にそれぞれセットしてデータを移す方法や、ネット回線を用いる方法等、様々な方法がある。
【0074】
また、上記実施形態においては、検出したラウエ斑点像と基準のラウエ斑点像とを比較して一致度が許容値未満であるときに、ラウエ斑点像のそれぞれの斑点ごとに回折面のミラー指数を決定する処理を行うか否かを操作者に判断させ、操作者がそのようにすると判断したときにその処理を行うようにしている。しかし、検出されるラウエ斑点像の基準のラウエ斑点像との一致度が悪いことがわかっているときは、最初からラウエ斑点像のそれぞれの斑点ごとに回折面のミラー指数を決定する処理、すなわち、上記実施形態の
図4のフローにおけるステップS12乃至ステップS21を行うようにしてもよい。
【0075】
また、上記実施形態におけるX線回折測定システムは、回折像の読取データは、強度、半径、回転角度の3つのデータからなるデータ群であり、半径及び回転角度は位置検出回路72及び回転角度検出回路75が出力するデータであるとした。しかし、特性値の算出をより精度よく行うため、半径及び回転角度に得られたデータを補正したデータを用いるようにしてもよい。詳細に説明すると、位置データである半径及び回転角度データの座標原点は、出射X線の光軸がイメージングプレート15の表面と交差する点である。しかし、レーザ検出装置30のレーザ光の照射点の移動ラインが完全に該交差する点を含んでおり、さらにスピンドルモータ27の回転軸が出射X線の光軸と完全に一致していることはないので、得られたデータの座標原点は正式な座標原点(該交差する点)からややずれがある。また、イメージングプレート15の表面は出射X線の光軸に完全に垂直になっていないので、半径及び回転角度データにはこの傾きによるずれもある。よって、半径及び回転角度データに、得られたデータからこのずれ分を補正したデータを用いればより精度のよい測定を行うことができる。この補正方法については特許第5522411号公報に詳細に説明されている。
【0076】
また、上記実施形態におけるX線回折測定装置1は、イメージングプレート15にラウエ斑点像を撮像し、レーザ走査により撮像したラウエ斑点像を読取る装置としたが、ラウエ斑点像を検出することができるならば、どのようなX線回折測定装置であっても、本発明は適用することができる。例えば、撮像面にX線CCDのような固体撮像素子を並べたX線回折測定装置であっても適用することができるし、微小な固体撮像素子を移動位置検出とともに撮像面内で走査するX線回折測定装置であっても適用することができる。なお、特許請求の範囲に記載された、撮像面にラウエ斑点像を撮像するとともに撮像したラウエ斑点像を検出する像検出手段は、固体撮像素子により撮像面のそれぞれの位置ごとの回折X線強度を検出する手段も含むものとする。
【符号の説明】
【0077】
1…X線回折測定装置、2…設置プレート、3…支持ロッド、6…対象物セット装置、10…X線管、11…出射口、15…イメージングプレート、15a…孔、16a,17a,18a,21a,27a1,27b、28a…貫通孔、16…テーブル、17…突出部、18…固定具、19…ブロック、20…テーブル駆動機構、21…移動ステージ、22…フィードモータ、23…スクリューロッド、24…軸受部、25…ガイド、26…板状プレート、27…スピンドルモータ、28…通路部材、29…ブロック、30…レーザ検出装置、43…LED光源,44…LED光源、45…回転プレート、46…モータ、47a,47b…ストッパ、48…結像レンズ、49…撮像器、50…筐体、50a…底面壁、50b…前面壁、50c…切欠き部壁、50c1…円形孔、50d…繋ぎ壁、50e…後面壁、50f…上面壁、50g…傾斜壁、51…傾斜角センサ、90…コンピュータ装置、91…コントローラ、92…入力装置、93…表示装置、95…高電圧電源、OB…測定対象物、CA…カメラ、St…ステージ、CF…炭素繊維フィルム、H…中心孔