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特許7523153カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/20 20060101AFI20240719BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20240719BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20240719BHJP
   C07F 3/04 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C07H19/20
A61L27/12
A61M37/00 500
C07F3/04
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022183801
(22)【出願日】2022-11-17
(65)【公開番号】P2023156973
(43)【公開日】2023-10-25
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】10-2022-0046022
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0097805
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518107501
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145,Anam-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】カン,ヒミン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ソン-ギュ
(72)【発明者】
【氏名】カン,ナ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユ-リ
(72)【発明者】
【氏名】ペ,グン-ヒュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ダ-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン-ヨル
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0025015(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0246142(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1761531(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0009012(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 19/20
A61L 27/12
A61M 37/00
C07F 3/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体であって、
カルシウムイオン、および
1種以上のリガンドを含み、
前記リガンドとカルシウムイオンが可逆的に自己組み立てまたは自己分解され、
前記リガンドの種類、または前記リガンドが複数個である場合、リガンドの配合比によって前記自己組み立て複合体の形状が異なるように形成され、
ここで、前記リガンドは、AMPを含む、
カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項2】
前記リガンドの濃度が増加するにつれ、前記自己組み立て複合体の形状は、順次にニードル(needle)、繊維質(fibrils)および球形(sphere)に変形され、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項3】
ニードルおよび繊維質は、長軸および短軸を有し、
前記ニードルの長軸の長さは、短軸の長さに比して40倍~60倍以上大きく延びた形態を含み、
前記繊維質の短軸の長さは、前記ニードルの短軸の長さより小さく形成され、前記繊維質の表面には、複数個のブランチ部(branch portion)が形成され、
球形は、平均直径が0.1μm~10μmであるものを含む、
請求項2に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項4】
前記球形の平均直径は、前記ニードルの長軸の長さまたは前記繊維質の長軸の長さより小さく形成され、
前記球形の平均直径は、前記ニードルの短軸の長さまたは前記繊維質の短軸の長さより大きく形成される、
請求項3に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項5】
前記リガンドは、
ホスフェートおよびホスホネートのうち少なくともいずれか一つを含む、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項6】
前記リガンドは、ADP、ATP、TMP、TDP、TTP、CMP、CDP、CTP、GMP、GDP、GTP、UMP、UDP、UTP、DNA、RNA、AEP(2-アミノエチルホスホン酸、2-aminoethylphosphonic acid)、TNA(Threose nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)、HNA(1,5-anhydrohexitol nucleic acid)、ANA(1,5-anhydroatritol nucleic acid)、FANA(2’-deoxy-2’-fluoroarabino nucleic acid)およびCeNA(cyclohexenyl nucleic acid)のうち少なくともいずれか一つを含む、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項7】
前記リガンドは、AMPであり、
前記自己組み立て複合体は、ニードル形態に形成される、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項8】
前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、
前記AMPおよびATPが99.99:0.01~99.7:0.3のモル濃度で含まれ、
前記自己組み立て複合体は、繊維質形態に形成される、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項9】
前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、
前記AMPおよびATPが99.5:0.5~96:4のモル濃度で含まれ、
前記自己組み立て複合体は、球形に形成される、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項10】
隣り合う前記リガンドの間のπ-π相互作用、および水素結合のうち少なくともいずれか一つ、または
カルシウムイオンと前記リガンドとの間の配位結合によって自己組み立て複合体を形成する、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項11】
前記カルシウムイオンおよび前記リガンドは、5:1~1:1のモル濃度で含まれる、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項12】
緩衝溶液を含む条件で自己分解が促進される、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項13】
生体内または生体外で3日~40日間自己分解される、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項14】
有効成分をさらに含み、
前記有効成分は、前記自己組み立て複合体に担持される、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項15】
前記有効成分は、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、ドキソルビシン、薬物、タンパク質、有機酸、有機塩基、香料および染料のうち少なくともいずれか一つである、
請求項14に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項16】
前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解されることで排出され、
前記有効成分は、放出時間の間持続的に放出される、
請求項14に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項17】
放出時間は、3日~40日である、
請求項15に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項18】
前記自己組み立て複合体が自己分解されて前記カルシウムイオンおよび前記リガンドのうち少なくともいずれか一つが放出時間の間放出され、
前記放出時間は、前記リガンドの配合比によって調節される、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項19】
前記自己組み立て複合体は、ニードル形状に形成され、
前記自己組み立て複合体は、マイクロニードルパッチ用ニードルとして使用される、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【請求項20】
骨再生材、人工骨材料、生体内物質伝達キャリアおよび生体外部の物質伝達キャリアのうち少なくともいずれか一つとして使用される、
請求項1に記載のカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体に関し、より詳細には、カルシウムイオンおよびリガンドを含んで自己組み立ておよび自己分解される自己組み立て複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
骨再生充填材として使用されるカルシウムとリン酸塩を含むhydroxyapatite(HA)、β-tri-Calcium phosphate(TCP)、biphasic HA-TCP等の物質は、製造時にmicrowaveや熱等の外力が必要であり、これによって設備設置および工程上で物質を製造するのにさらなるコストが発生する。
【0003】
また、先に言及された骨再生充填材は、形態を作るにあたって必要物質以外の化学添加剤が必要であり、生体に使用時に生体適合性に問題が発生し得、製造して不要な添加剤等を除去するのに不要な努力を伴う。
【0004】
カルシウムイオンは、体内骨再生に必須なイオンであり、ヒトは、ほとんどの必要なカルシウムを食べ物を通して摂取する。骨折による骨再生治療が必要な場合、軽い負傷には必要としないが、敬老者や深刻な負傷の場合には外部カルシウムが必要である。
【0005】
アデノシン一リン酸は、体内で骨芽細胞の分化と無機化作用を促進して骨再生に効果的である。
【0006】
リン酸塩は、カルシウムをはじめとする金属と配位結合を通して複合体を形成することができる。
【0007】
骨再生治療に使用されるhydroxyapatite(HA)、β-tri-Calcium phosphate(TCP)、biphasic HA-TCP等の物質は、形態、porosity、表面の性質(roughness)等によって骨再生誘導能力が異なる。
【0008】
特許文献1は、生体に適用される自己組み立てナノ構造体に関する技術を開示しているが、材料の形態等の特性による機能の差別化を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0009012号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、生体存在物質を利用して自己組み立て構造体を形成し、構造体の構成成分を調節して構造体の自己分解速度、それによる有効成分の伝達速度の制御と構造体の形態変化を提供するためのことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面によれば、本発明の実施例は、カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体であって、カルシウムイオン、および1種以上のリガンドを含み、前記リガンドとカルシウムイオンが可逆的に自己組み立てまたは自己分解され、前記リガンドの種類、または前記リガンドが複数個である場合、リガンドの配合比によって前記自己組み立て複合体の形状が異なるように形成される、カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体を含むことができる。
【0012】
一実施例において、前記リガンドの濃度が増加するにつれ、前記自己組み立て複合体の形状は、順次にニードル(needle)、繊維質(fibrils)および球形(sphere)に変形され得る。
【0013】
一実施例において、前記ニードルおよび繊維質は、長軸および短軸を有し、前記ニードルの長軸の長さは、短軸の長さに比して40倍~60倍以上大きく延びた形態を含み、前記繊維質の短軸の長さは、前記ニードルの短軸の長さより小さく形成され、前記繊維質の表面には、複数個のブランチ部(branch portion)が形成され、前記球形は、平均直径が0.1μm~10μmであるものを含むものであってよい。
【0014】
一実施例において、前記球形の平均直径は、前記ニードルの長軸の長さまたは前記繊維質の長軸の長さより小さく形成され、前記球形の平均直径は、前記ニードルの短軸の長さまたは前記繊維質の短軸の長さより大きく形成されるものであってよい。
【0015】
一実施例において、前記リガンドは、ホスフェートおよびホスホネートのうち少なくともいずれか一つを含むものであってよい。
【0016】
一実施例において、前記リガンドは、前記リガンドは、AMP、ADP、ATP、TMP、TDP、TTP、CMP、CDP、CTP、GMP、GDP、GTP、UMP、UDP、UTP、DNA、RNA、AEP(2-アミノエチルホスホン酸、2-aminoethylphosphonic acid)、TNA(Threose nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)、HNA(1,5-anhydrohexitol nucleic acid)、ANA(1,5-anhydroatritol nucleic acid)、FANA(2’-deoxy-2’-fluoroarabino nucleic acid)およびCeNA(cyclohexenyl nucleic acid)のうち少なくともいずれか一つを含むものであってよい。
【0017】
一実施例において、前記リガンドは、AMPであり、前記自己組み立て複合体は、ニードル形態に形成されるものであってよい。
【0018】
一実施例において、前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、前記AMPおよびATPが99.99:0.01~99.7:0.3のモル濃度で含まれ、前記自己組み立て複合体は、繊維質形態に形成されるものであってよい。
【0019】
一実施例において、前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、前記AMPおよびATPが99.5:0.5~96:4のモル濃度で含まれ、前記自己組み立て複合体は、球形に形成されるものであってよい。
【0020】
一実施例において、隣り合う前記リガンドの間のπ-π相互作用、および水素結合のうち少なくともいずれか一つ、またはカルシウムイオンと前記リガンドとの間の配位結合によって自己組み立て複合体を形成するものであってよい。
【0021】
一実施例において、前記カルシウムイオンおよびリガンドは、5:1~1:1のモル濃度で含まれるものであってよい。
【0022】
一実施例において、緩衝溶液を含む条件で自己分解が促進されるものであってよい。
【0023】
一実施例において、生体内または生体外で3日~40日間自己分解されるものであってよい。
【0024】
一実施例において、有効成分をさらに含み、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体に担持されるものであってよい。
【0025】
一実施例において、前記有効成分は、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、ドキソルビシン、薬物、タンパク質、有機酸、有機染料、香料および染料のうち少なくともいずれか一つであってよい。
【0026】
一実施例において、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解されることで排出され、前記有効成分は、放出時間の間持続的に放出されるものであってよい。
【0027】
一実施例において、前記放出時間は、3日~40日であってよい。
【0028】
一実施例において、前記自己組み立て複合体が自己分解されて前記カルシウムイオンおよびリガンドのうち少なくともいずれか一つが放出時間の間放出され、前記放出時間は、前記リガンドの配合比によって調節されるものであってよい。
【0029】
一実施例において、前記自己組み立て複合体は、ニードル形状に形成され、前記ニードルの長軸方向が繊維シートに垂直に備えられてカルシウムイオンを伝達するものであってよい。
【0030】
一実施例において、骨再生剤、人工骨の材料、生体内物質伝達キャリアおよび生体外部の物質伝達キャリアのうち少なくともいずれか一つとして使用されるものであってよい。
【発明の効果】
【0031】
以上、検討したような本発明によれば、カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体を提供することができる。
【0032】
また、本発明によれば、生体存在物質を利用して自己組み立て構造体を形成し、構造体の構成成分を調節して構造体の自己分解速度、それによる有効成分の伝達速度の制御と構造体の形態変化を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施例によるカルシウムイオンおよびリガンドの自己組み立て過程を模式的に示した図である。
図2】本発明の一実施例によってリガンドとしてAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体のSEMイメージである。
図3】本発明の一実施例によってリガンドとしてAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体のSEMイメージである。
図4】本発明の一実施例によってリガンドとしてAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体の物質伝達実験を遂行した結果である。
図5】本発明の一実施例によってリガンドとしてAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体の物質伝達実験を遂行した結果である。
図6】本発明の一実施例によってリガンドとしてAMPとATPの配合比を異なるようにして製造した自己組み立て複合体の物質伝達実験を遂行した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
その他の実施例の具体的な事項は、詳細な説明および図面に含まれている。
【0035】
本発明の利点および特徴、そして、それらを達成する方法は、添付の図面と共に詳細に後述されている実施例を参照すると明確になるだろう。しかし、本発明は、以下において開示される実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態に具現され得、以下の説明において別に明示されない限り、本発明に成分、反応条件、成分の含量を表現する全ての数字、値および/または表現は、このような数字が本質的に異なるものの中でこのような値を得るのに発生する測定の多様な不確実性が反映された近似値であるので、全ての場合、「約」という用語により修飾されるものと理解されるべきである。また、本記載において数値範囲が開示される場合、このような範囲は連続的であり、別に指摘されない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた前記最大値までの全ての値を含む。さらには、このような範囲が整数を指す場合、別に指摘されない限り、最小値から最大値が含まれた前記最大値までを含む全ての整数が含まれる。
【0036】
また、本発明において範囲が変数について記載される場合、前記変数は、前記範囲の記載された終了点を含む記載された範囲内の全ての値を含むものと理解されるだろう。例えば、「5~10」の範囲は、5、6、7、8、9、および10の値だけではなく、6~10、7~10、6~9、7~9等の任意の下位範囲を含み、5.5、6.5、7.5、5.5~8.5および6.5~9等のような記載された範囲の範疇に妥当な整数の間の任意の値も含むものと理解されるだろう。例えば、「10%~30%」の範囲は、10%、11%、12%、13%等の値と30%までを含む全ての整数だけではなく、10%~15%、12%~18%、20%~30%等の任意の下位範囲を含み、10.5%、15.5%、25.5%等のように記載された範囲の範疇内の妥当な整数の間の任意の値も含むものと理解されるだろう。
【0037】
図1は、本発明の一実施例によるカルシウムイオンを含む自己組み立て複合体が自己組み立てされることを模式的に示した図である。
【0038】
例えば、前記カルシウムイオン(Ca2+)がリガンドとしてAMPまたはATPのリン酸基と配位結合して金属錯体を形成することができる。また、図面に示されてはいないが、前記リガンドの塩基部分を芳香族環を含んでおり、芳香族環の間にπ-π相互作用を形成することができる。また、図面に示されてはいないが、前記カルシウムイオンに水分子が結合でき、前記水分子が塩基部分の窒素と水素結合を形成することができる。
【0039】
前記自己組み立て複合体は、このようにカルシウムイオンとリガンドとの間に配位結合およびπ-π相互作用を含んで形成され得、これらのうち少なくともいずれか一つの結合によって複合体が形成され得る。
【0040】
本発明の一側面によれば、本発明の実施例は、カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体であって、カルシウムイオン、および1種以上のリガンドを含み、前記リガンドとカルシウムイオンが可逆的に自己組み立てまたは自己分解され、前記リガンドの種類、または前記リガンドが複数個である場合、リガンドの配合比によって前記自己組み立て複合体の形状が異なるように形成される、カルシウムイオンを含む自己組み立て複合体を含むことができる。
【0041】
前記リガンドの配合比によって、前記自己組み立て複合体の形状は、順次にニードル(needle)、繊維質(fibrils)および球形(sphere)に変形され得る。例えば、前記リガンドの配合比の程度によってニードルおよび繊維質が共存でき、また繊維質および球形が共存できる。
【0042】
前記ニードルおよび繊維質は、長軸および短軸を有し、前記ニードルの長軸の長さは、短軸の長さに比して40倍~60倍以上大きく延びた形態を含み、前記繊維質の短軸の長さは、前記ニードルの短軸の長さより小さく形成され、前記繊維質の表面には、複数個のブランチ部(branch portion)が形成され、前記球形は、平均直径が0.1μm~10μmであるものを含むものであってよい。
【0043】
例えば、前記自己組み立て複合体は、形状がニードルから繊維質の形態に変形される場合、前記繊維質での短軸の長さは、前記ニードルでの短軸の長さよりさらに小さく備えられ得る。また、前記ニードルは、長軸の方向に略滑らかな外面を有するように備えられ、前記繊維質は、長軸の方向に鱗毛のような形態のブランチ部が形成され得る。
【0044】
また、前記自己組み立て複合体は、前記リガンドの配合比を異なるようにして前記繊維質から球形の形態に変形され得る。前記球形の形態の平均直径は、前記繊維質の短軸の長さよりは大きく、長軸の長さよりは小さく形成され得る。
【0045】
前記球形の平均直径は、前記ニードルの長軸の長さまたは前記繊維質の長軸の長さより小さく形成され、前記球形の平均直径は、前記ニードルの短軸の長さまたは前記繊維質の短軸の長さより大きく形成されるものであってよい。
【0046】
前記繊維質は、前記リガンドの配合比によって前記ニードルを形成する自己組み立て複合体の凝縮が解れて形成されるものであってよい。前記繊維質は、前記ニードルに比して長軸がさらに長く、短軸がさらに短く形成され得る。
【0047】
前記繊維質は、表面が枝(branch)形態に形成され、ブランチ部を形成することができる。
【0048】
また、前記リガンドの配合比によって、前記自己組み立て複合体は、繊維質から球形の形態に変わり得る。例えば、前記リガンドの負電荷が増加すると、繊維質が不安定になって繊維質の形態が崩壊され、球形の粒子を形成することができる。
【0049】
前記リガンドの配合比によって、前記ニードルと繊維質は、それぞれ存在するか同時に存在し得る。また、前記リガンドの配合比によって、前記繊維質と球形は、それぞれ存在するか同時に存在し得る。
【0050】
前記リガンドは、前記カルシウムイオンと配位結合(coordination bond)して自己組み立てされ得る物質であってよい。前記リガンドは、前記カルシウムイオンと結合して金属錯化合物を形成することができる。
【0051】
前記リガンドは、ホスフェートおよびホスホネートのうち少なくともいずれか一つを含むものであってよい。前記ホスフェート(phosphate)またはホスホネート(phosphonate)は、前記カルシウムイオンと配位結合できる部分であってよい。
【0052】
例えば、前記リガンドは、AMP(アデノシン一リン酸、Adenosine monophosphate)、ADP(アデノシン二リン酸、Adenosine diphosphate)、ATP(アデノシン三リン酸、Adenosine triphosphate)、TMP(チミジン一リン酸、Thymidine monophosphate)、TDP(チミジン二リン酸、Thymidine diphosphate)、TTP(チミジン三リン酸、Thymidine triphosphate)、CMP(シチジン一リン酸、Cytidine monophosphate)、CDP(シチジン二リン酸、Cytidine diphosphate)、CTP(シチジン三リン酸、Cytidine triphosphate)、GMP(グアノシン一リン酸、Guanosine monophosphate)、GDP(グアノシン二リン酸、Guanosine diphosphate)、GTP(グアノシン三リン酸、Guanosine triphosphate)、UMP(ウリジン一リン酸、Uridine monophosphate)、UDP(ウリジン二リン酸、Uridine diphosphate)、UTP(ウリジン三リン酸、Uridine triphosphate)、DNA、RNA、AEP(2-アミノエチルホスホン酸、2-aminoethylphosphonic acid)、TNA(トレオース核酸、Threose nucleic acid)、GNA(グリコール核酸、glycol nucleic acid)、HNA(1,5-アンヒドロヘキシトール核酸、1,5-anhydrohexitol nucleic acid)、ANA(1,5-アンヒドロアトリトール核酸、1,5-anhydroatritol nucleic acid)、FANA(2’-デオキシ-2’-フルオロアラビノ核酸、2’-deoxy-2’-fluoroarabino nucleic acid)およびCeNA(シクロヘキシニル核酸、cyclohexenyl nucleic acid)のうち少なくともいずれか一つであるものであってよい。
【0053】
前記カルシウムイオンは、例えば、前記リガンドのリン酸基部位等、電子が豊富な部位と配位結合して金属錯化合物を形成することができる。
【0054】
例えば、前記リガンドは、AMPであってよく、前記自己組み立て複合体は、ニードル形態に形成され得る。前記リガンドとしてAMPだけが含まれる場合、前記自己組み立て複合体は、ニードルに形成され得る。
【0055】
例えば、前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、前記AMPおよびATPが99.99:0.01~99.7:0.3のモル濃度で含まれ、前記自己組み立て複合体は、繊維質形態に形成され得る。前記リガンドは、好ましくは、前記AMPおよびATPが99.99:0.01~99.5:0.5のモル濃度で含まれ得、前記自己組み立て複合体は、繊維質に形成され得る。
【0056】
例えば、前記リガンドは、AMPおよびATPが混合されたものであり、前記AMPおよびATPが99.5:0.5~0.01:99.99の比率で含まれ得、前記自己組み立て複合体が球形に形成され得る。前記リガンドは、AMPおよびATPが99.5:0.5~96:4のモル濃度で含まれ、前記自己組み立て複合体は、球形に形成され得る。前記リガンドは、好ましくは、AMPおよびATPが99.5:0.5~95:5のモル濃度で含まれ得、前記自己組み立て複合体は、球形に形成され得る。
【0057】
隣り合う前記リガンドの間のπ-π相互作用、および水素結合のうち少なくともいずれか一つ、またはカルシウムイオンと前記リガンドとの間の配位結合によって自己組み立て複合体を形成するものであってよい。
【0058】
前記自己組み立て複合体は、隣り合う前記カルシウムイオンとリガンドとの間に配位結合、π-π相互作用および水素結合のうち少なくともいずれか一つによって形成され得る。前記自己組み立て複合体は、これらの相互作用または結合によってそれぞれのカルシウムイオンおよびリガンドが密に密着し得る。従って、前記自己組み立て複合体は、前記カルシウムイオンおよびリガンドが密に固まって形成されるものであってよい。
【0059】
前記自己組み立て複合体は、前記リガンドの種類または配合比率によってさらに密に形成されるか緩く形成され得る。前記配合比率をモル濃度比率であってよい。
【0060】
例えば、前記リガンドでATPの配合比が増加するほど前記自己組み立て複合体で負電荷が大きくなり、前記自己組み立て複合体がさらに密に形成され得る。
【0061】
前記カルシウムイオンおよびリガンドは、5:1~1:1のモル濃度で含まれるものであってよい。
【0062】
前記自己組み立て複合体は、自発的に自己組み立てされ、自己分解され得る。ただし、緩衝溶液を含む条件で自己分解が促進されるものであってよい。前記緩衝溶液は、生体内の環境と類似した環境を造成するものであってよい。前記緩衝溶液は、前記自己組み立て複合体の構成成分とイオンを交換することで前記自己組み立て複合体の分解を促進できる。
【0063】
前記緩衝溶液がある場合、前記自己組み立て複合体は、3日~40日間自己分解され得る。
【0064】
前記自己組み立て複合体は、有効成分をさらに含み、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体に担持されるものであってよい。前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己組み立てされる時に共に組み立てされて前記自己組み立て複合体内に担持され得る。
【0065】
前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解される時に排出され得る。従って、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解される時間を調節することで放出される時間および速度を調節できる。前記自己組み立て複合体は、リガンドの配合比によって自己分解速度が異なり得、前記自己組み立て複合体は、表面から一定速度で順次に自己分解され得る。従って、前記有効成分は、前記自己組み立て複合体が自己分解される時間の間一定に持続的に放出され得る。即ち、前記有効成分は、放出時間の間一定に持続的に放出されるものであってよい。
【0066】
前記有効成分は、例えば、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、ドキソルビシン、薬物、タンパク質、有機酸、有機染料、香料および染料のうち少なくともいずれか一つであってよいが、これに制限されない。
【0067】
また、前記自己組み立て複合体が自己分解される場合、前記有効成分の他にも前記カルシウムイオンおよびリガンドのうち少なくともいずれか一つが放出時間の間放出され得る。前記放出時間は、前記リガンドの配合比によって調節されるものであってよい。従って、前記自己組み立て複合体は、生体内に前記カルシウムイオンまたはリガンドを伝達するために使用され得る。
【0068】
例えば、前記放出時間は、3日~40日であってよい。
【0069】
本実施例による自己組み立て複合体は、前記ニードル形態に備えられる場合、パッチ等の形態で利用され得る。具体的には、ポリマー、不織布等のようなシート形態に、前記ニードル形態の自己組み立て複合体は垂直に固定させることができ、これは、マイクロニードルパッチ等として利用され得る。
【0070】
前記自己組み立て複合体がニードル形態に備えられる場合、皮膚の表皮層を貫通するように剛性を有するように備えられ、マイクロニードルパッチ用ニードルとして利用され得る。前記自己組み立て複合体がマイクロニードルとして利用される場合、美容機器または医療機器等に適用でき、薬物の伝達効率を向上させることができる。
【0071】
前記自己組み立て複合体は、骨再生剤、人工骨の材料、生体内物質伝達キャリアおよび生体外部の物質伝達キャリアのうち少なくともいずれか一つとして使用されるものであってよい。
【0072】
以下、本発明の実施例および比較例を記載する。しかし、下記実施例は、本発明の好ましい一実施例であるだけで、本発明の権利範囲が下記実施例によって制限されるものではない。
【0073】
[製造例]
1.自己組み立て複合体の製造
超純水にカルシウムクロリド(Calcium chloride)、AMP(Adenosine monophosphate)、ATP(Adenosine triphosphate)をそれぞれ溶かして最終濃度が100mMになるように準備する。ストックソリューション(stock solution)をコニカルチューブ(conical tube)に入れ、超純水の量を計算して入れる。ここにアデノシンリン酸塩水溶液、カルシウムイオン水溶液の順に入れ、ボルテックシング(vortexing)してよく混合し、36時間の間反応させる。
【0074】
2.自己組み立て複合体に有効成分担持
前記自己組み立て複合体にアデノシンのような薬物を担持して合成した。コニカルチューブ(conical tube)またはガラスボトル(glass bottle)にアデノシンを計量して入れた後、超純水を入れ、最後にAMPを入れてよく混ぜる。ここにカルシウムイオンを含む溶液を入れる。この後、36時間の間反応させ、反応が終了すると、反応していない物質を除去し、自己組み立て体を収得するために、遠心分離機を通して10,000RPMで10分間遠心分離して自己組み立て体を沈め、上清液を除去する。超純水を本来の体積と同一に入れ、また遠心分離する。この過程を2回繰り返す。
【0075】
3.実験に使用された物質
Calcium chloride(CAS:10043-52-4、Sigma-Aldrich)
Adenosine-5’-monophosphate disodium salt(CAS:4578-31-8、Alfa Aesar)
Adenosine 5’-triphosphate disodium salt(51963-61-2、DAEJUNG試薬)
Adenosine(CAS:58-61-7、Sigma-Aldrich)
PBS solution(1X pH 7.4、ML 008-01、WELGENE)
Calcium Assay Kit(MAK022、Sigma-Aldrich)
[実施例]
1.実施例1
超純水1ml内にAMPとCalcium chlorideの濃度を変化させながら混合溶液を製造した。この後、常温で36時間の間反応させて自己組み立て複合体が形成されるようにした。
【0076】
【表1】

2.実施例2
超純水5ml内にAMPとCalcium chlorideの濃度を変化させながら混合溶液を製造した。この後、常温で24時間の間反応させて自己組み立て複合体が形成されるようにした。
【0077】
【表2】

[実験例]
1.形態分析
図2および3は、実施例に対するSEMイメージである。
【0078】
図2および3において、リガンドの配合比率によって自己組み立て複合体の形態が変わることを観察できる。リガンドとしてAMPだけがある時は、ニードル形状の自己組み立て複合体が絡まっている。しかし、ATPが0.1の比率で含まれた場合には、自己組み立て複合体の長軸がさらに長くなり、短軸がさらに薄くなって繊維質のような形状を有することを観察できる。また、ATPの配合比率が0.5になった時は、球形の形状を有することを確認できる。ATPの配合比率がそれ以上になると、自己組み立て複合体はそれ以上他の形状に変わらず、球形を維持するか球形の形状の間に複合体を形成することもある。
【0079】
2.薬物伝達
図4乃至6は、自己組み立て複合体が薬物を伝達および放出することを実験した結果である。
【0080】
実施例2で製造された自己組み立て複合体をPBS溶液を入れ、自己組み立て複合体が自己分解されて物質を放出する時間を観察した。自己組み立て複合体に担持される薬物は、アデノシンを利用した。
【0081】
自己組み立て複合体をPBS溶液(5mL)に入れ、一定時間毎にPBS緩衝溶液を全て回収し、同量のPBS緩衝溶液(5ml)を入れた。この緩衝溶液は、薬物伝達において生体環境と類似した環境を設定するためのものである。
【0082】
自己分解進行後、HPLC(高性能液体クロマトグラフィー、High Performance Liquid Chromatography)を通して溶出されたAMPとアデノシンの溶出量を確認し、カルシウムは、calcium assay kitを利用して確認した。
【0083】
図面において、自己組み立て複合体の自己分解が進行した後、約30日間、AMP、カルシウムイオンおよびアデノシンの累積放出量が一定に持続的に増加することを確認できる。また、放出される物質は、自己組み立て複合体に含まれた量が全て放出されるまで一定の速度で放出されることを確認できる。
【0084】
このような結果から自己組み立て複合体が一定の水準に継続的に自己分解される特性を有することを確認できる。
【0085】
また、リガンドの配合比率による差を見ると、AMPだけを使用した場合に放出速度が最も速く、ATPの配合比率が増加するほど放出速度が遅くなることを確認できる。従って、リガンドの配合比率を調節して薬物等が伝達される速度および期間を調節できる。
【0086】
また、この実験結果は、自己組み立て複合体とこれと同じ様相で生体内でも薬物等を伝達できることを示す。
【0087】
本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須な特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施され得るということを理解できるだろう。それゆえ、以上において記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないものと理解すべきである。本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲、そして、その均等概念から導出される全ての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6