(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ポリペプチドアルブミンナノ粒子、およびその調製方法と使用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/64 20170101AFI20240719BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20240719BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20240719BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20240719BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20240719BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240719BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K47/64
A61K38/10
A61K38/08
A61K38/06
A61K38/07
A61P35/00
A61K9/14
(21)【出願番号】P 2022563369
(86)(22)【出願日】2021-11-03
(86)【国際出願番号】 CN2021128313
(87)【国際公開番号】W WO2022121561
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】202011455391.8
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202111151600.4
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515206126
【氏名又は名称】中国科学院蘇州納米技術与納米倣生研究所
【氏名又は名称原語表記】SUZHOU INSTITUTE OF NANO-TECH AND NANO-BIONICS(SINANO),CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No 398, Ruoshui Road, SEID, SIP Suzhou, Jiangsu 215125 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】費 浩
(72)【発明者】
【氏名】計 双双
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110496229(CN,A)
【文献】国際公開第2019/048531(WO,A1)
【文献】特開2012-017281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性の両親媒性ポリペプチドおよびアルブミンにより組付けて形成する
ポリペプチドアルブミンナノ粒子であって、
前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドが、疎水性部分および親水性部分を含み、
前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドの構造が、式I又は式IIで表され、
【化1】
ただし、nは、アルギニン残基の数であり、1~9の整数であり、或いは、
前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドの一段構造がCH
3
CO-FWLFLRRRRRRRR-CONH
2
又はchol-RRRRRRRR-CONH
2
である、
ポリペプチドアルブミンナノ粒子。
【請求項2】
前記アルブミンが、哺乳動物アルブミンを含
む、請求項1に記載のポリペプチドアルブミンナノ粒子。
【請求項3】
前記哺乳動物アルブミンが、ヒト血清アルブミン及び/又は牛血清アルブミンを含む、請求項
2に記載のポリペプチドアルブミンナノ粒子。
【請求項4】
請求項1に記載のポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法であって、
カチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液とアルブミン溶液をそれぞれ調製し、前記カチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液とアルブミン溶液を混合して前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子を得ることを含む、
調製方法。
【請求項5】
前記カチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液の濃度が20~5000μMであり、
前記アルブミン溶液の濃度が20~5000μMである、
請求項
4に記載の調製方法。
【請求項6】
前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドと前記アルブミンのモル比が(0.1~10):1である、
請求項
4に記載の調製方法。
【請求項7】
前記混合の温度が5~100℃であり、
前記混合の時間が0.5~120minである、
請求項
4~6のいずれか一項に記載の調製方法。
【請求項8】
前記調製方法は、
カチオン性の両親媒性ポリペプチドを、水、40~60mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液又は10~20mMのリン酸塩緩衝液に添加し、20~5000μMのカチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液を得て、アルブミンを、水又は10~20mMのリン酸塩緩衝液に添加し、20~5000μMのアルブミン溶液を得るステップ(1)と、
カチオン性の両親媒性ポリペプチドとアルブミンのモル比(0.1~10):1で、カチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液とアルブミン溶液を混合し、水又はリン酸塩緩衝液を添加し、5~100℃で0.5~120min混合して前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子を得るステップ(2)と、を含む、
請求項
4に記載の調製方法。
【請求項9】
請求項
1に記載のポリペプチドアルブミンナノ粒子を含む医薬組成物であって、
前記医薬組成物が、薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤のうちのいずれか1種又は少なくとも2種の組合せをさらに含む、医薬組成物。
【請求項10】
抗腫瘍に用いられる、請求項1に記載のポリペプチドアルブミンナノ粒子
又は請求項9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、バイオ医薬の技術分野に属し、ポリペプチドアルブミンナノ粒子、およびその調製方法と使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ性アミノ酸および疎水性アミノ酸からなるカチオン性の両親媒性ポリペプチドは、そのカチオン(正電荷)および両親媒性(親水性と疎水性)の特徴によりバイオフィルムにおけるリン脂質および糖類分子が静電作用や疎水作用を生じることで、膜分裂又は膜貫通の殺傷作用を発揮することができる。
【0003】
バイオフィルムは、機能が重要であり、構造が均一であり、且つ遺伝子変異と関係がない。多くの研究によれば、膜分裂又は膜貫通の殺傷メカニズムによる薬物が腫瘍の薬物耐性を引き起こすことはないと考えられており、さらに、腫瘍細胞が正常の細胞よりも表面に多い負電荷を有し、多めのカチオンを含有する両親媒性ポリペプチドが腫瘍細胞に対してより高い選択的な殺傷効果を発生することができるため、カチオン性の両親媒性ポリペプチドは、抗腫瘍薬物の分野において広い発展見込みを有すると認められている。しかしながら、カチオン性の両親媒性ポリペプチドは、溶血反応を引き起こしやすく、インビボ動力学、ターゲティング性および毒性・副作用などの問題が存在するので、その抗腫瘍薬物の調製における使用が限定されている。
【0004】
現在、カチオン性の両親媒性ポリペプチドの製薬最適化方法には、主に化学修飾、および担体システムの採用が含まれている。化学修飾は、例えば、非天然のD型アミノ酸でL型アミノ酸を置き換えること、ポリペプチドを環化させること、および、ペプチド鎖の側鎖を保留し主鎖を修飾してアナログペプチドを調製することなどにより、酵素の分解に抵抗する可能性がある程度あるが、安全性および腫瘍のターゲティング性の問題を解決することはできず、さらにD型ポリペプチドの経済的コストが高い。ポリエチレングリコール修飾(PEGylated)は、組織における非特異的摂取を減少し、細胞の毒性を低減し、血液の半減期を増加し、タンパク質分解を減少するという利点を有するが、ポリペプチドの活性を低減させる。脂質修飾は、カチオン性の両親媒性ポリペプチドの製薬に最も有利な方法であると考えられおり、脂肪酸のタイプ、脂質アンカー位置又はインターバル挿入などを含む脂質化手段の微細な変化は、いずれも、脂質化ペプチドの物性、バイオ活性および薬物動態に対して大きな影響があるが、脂質化手段の設計過程は複雑で、難度が高い。
【0005】
担体システムを用いてカチオン性の両親媒性ポリペプチドの安定性、毒性、半減期およびターゲティング性を改善することは、別の製薬化ポリシーである。しかし、構造の類似性により、一部の、同様に疎水性末端および親水性末端を含有するモノマーからなるポリマーミセル又はリポソームは、カチオン性の両親媒性ポリペプチドにより破壊される可能性があり、ある程度配達の難度が増加してしまう。現在、このような担体システムは、基礎研究の段階にとどまっている。ある研究者により、シリカナノ粒子が薬物担持系として抗菌ペプチドLL-37を担持していることが報告されている。しかし、抗菌ペプチドLL-37をシリカナノ粒子に担持することにより、ポリペプチドの酵素分解に対する抵抗能力を向上させるが、薬物担持量が低く、溶血毒性があるなどの問題が依然として存在している(Braun K、Pochert A、Linden Mika、et al.Membrane interactions of mesoporous silica nanoparticles as carriers of antimicrobial peptides[J].Journal of Colloid&Interface、2016、475:161-170.)。Huangらにより、カチオン性の両親媒性ポリペプチドmelittinのN端に、ナノ構造を調節・制御可能なα-ヘリックスペプチドを1本結合して、melittinのカチオンをリポソームのリン脂質に深く埋め込むことにより、ある程度melittinの溶血効果を回避することができることが報告されている。しかしながら、このように別のポリペプチドを1本結合するという方法は、ポリペプチドの物性を変える恐れがあり、その適用範囲もさらに検証する必要がある(Huang C、Jin H、Qian Y、et al.Hybrid melittin cytolytic Peptide-driven ultrasmall lipid nanoparticles block melanoma growth in vivo.[J].ACS Nano、2013、7(7):5791-800.)。また、ある研究により、Au-S結合で膜分裂ペプチドcTLを金ナノケージに結合し、外層においてSH-mPEGでさらに修飾することにより、該ナノ粒子が近赤外光により照射された後、溶血毒性が明らかに向上することで、照射後および未照射の腫瘍細胞のいずれを損傷させることが報告されている。しかし、このような金属担体のポリペプチド系には、光/近赤外光がトリガすると、非腫瘍細胞に対して細胞毒性を有する潜在的なリスクが存在し、その安全性をさらに評価する必要がある(Ji-Gang Piao、Dong Liu、Kan Hu、et al.Cooperative Nanoparticle System for Photothermal Tumor Treatment without Skin Damage[J].ACS Applied Materials&Interfaces、2016、8(4):acsami.5b11664.)。
【0006】
要するに、従来技術において薬物担持系が安定せず、調製難度が高く、薬物担体のバイオ安全性が疑わしいなどの問題が存在することに対して、本願は、バイオ安全性、安定性、腫瘍ターゲティング性および腫瘍殺傷作用が良好なカチオン性の両親媒性ポリペプチドを提供し、カチオンフィルム活性抗腫瘍薬物の製剤の調製に用いられ、薬物の体内配達および治療使用を実現し、抗腫瘍薬物の調製分野において重要な意義を有する。
【発明の概要】
【0007】
本願は、ポリペプチドアルブミンナノ粒子、およびその調製方法と使用を提供する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子は、高い安定性およびターゲティング性を有し、溶血毒性・副作用が低く、オンコーシスメカニズム(Oncosis mechanism)によって腫瘍細胞を殺傷しながら、生体自身の抗腫瘍免疫反応を誘発することができ、抗腫瘍薬物の調製において広い発展見込みがある。
【0008】
第1の態様として、本願は、カチオン性の両親媒性ポリペプチドおよびアルブミンにより組付けて形成するポリペプチドアルブミンナノ粒子を提供する。
【0009】
本願において、前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドは、その疎水性部分がアルブミンと結合し、カチオン性の両親媒性ポリペプチドに運ばれる正電荷がアルブミンの表面における負電荷と相互作用できることにより、カチオン性の両親媒性ポリペプチドとアルブミンを組付けさせてポリペプチドアルブミンナノ粒子を形成する(
図1に組付模式図を示す)。組付けでポリペプチドアルブミンナノ粒子を形成し、カチオン性の両親媒性ポリペプチドをアルブミンに埋め込むことで、カチオン性の両親媒性ポリペプチドが分解酵素および赤細胞膜に接触することを回避して、カチオン性の両親媒性ポリペプチドの安定性および安全性を向上させることができる。
【0010】
本願において、ポリペプチドアルブミンナノ粒子は、ナノメータサイズであり、透過が高く、滞留が長いという効果を有し、そのうちのアルブミンが腫瘍細胞により主動的に吸収されて集積されることができることから、高いターゲティング性を有しながら、腫瘍細胞のオンコーシスを誘導して、生物自身の抗腫瘍免疫反応を誘発することができることで、ターゲティング性が高く、腫瘍細胞を効率的に殺傷するという効果を実現する。
【0011】
好ましくは、前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドは、疎水性部分および親水性部分を含む。
【0012】
好ましくは、前記親水性部分は、アルギニン(Arg、R)、リジン(Lys、K)又はヒスチジン(His、H)のうちのいずれか1種又は少なくとも2種の組合せを含む。そのうち、典型的であるが非限定的な組合せは、アルギニンとリジンの組合せ、アルギニンとヒスチジンの組合せ又はアルギニン、リジンおよびヒスチジンの組合せを含み、アルギニンであることが好ましい。
【0013】
好ましくは、前記疎水性部分は、[Ir(ppy)2(H2O)2]OTf、疎水性アミノ酸又は脂質のうちのいずれか1種又は少なくとも2種の組合せを含む。そのうち、典型的であるが非限定的な組合せは、[Ir(ppy)2(H2O)2]OTfと疎水性アミノ酸の組合せ又は疎水性アミノ酸と脂質の組合せを含む。
【0014】
好ましくは、前記疎水性アミノ酸は、フェニルアラニン(Phe、F)、ロイシン(Leu、F)、イソロイシン(Ile、I)、トリプトファン(Trp、W)、バリン(Val、V)、メチオニン(Met、M)又はアラニン(Ala、A)のうちのいずれか1種又は少なくとも2種の組合せを含む。そのうち、典型的であるが非限定的な組合せは、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンおよびトリプトファンの組合せ;フェニルアラニン、ロイシンおよびトリプトファンの組合せ又はロイシン、イソロイシン、トリプトファンおよびバリンの組合せを含む。
【0015】
好ましくは、前記脂質は、コレステロールおよびその誘導体又は脂肪酸およびその誘導体のうちのいずれか1種又は少なくとも2種の組合せを含む。
【0016】
好ましくは、前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドの構造式は、式I又は式IIで表される。ただし、nは、アルギニン残基の数で、1~9の整数であり、2、3、5、6、7又は8を含むがそれらに限定されず、5~9であることが好ましく、8であることがより好ましい。
【化1】
【0017】
本願において、疎水性イリジウム配位子[Ir(ppy)2(H2O)2]OTfと親水性オリゴアルギニン(oligoarginine)を結合することにより、両親媒性イリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチドを得ることができる。前記両親媒性イリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチドは、静電作用および疎水作用でバイオフィルムにおけるリン脂質および糖類分子と吸着することにより、膜分裂又は膜貫通の殺傷作用を果たし、腫瘍細胞の活性を抑制する能力を向上させることができる。
【0018】
好ましくは、前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドの一段構造は、CH3CO-XRn-CONH2又は脂質-Rn-CONH2である。ただし、Xは、Phe、Leu、Ile、Trp、Val、Met又はAlaのうちのいずれか1種又は少なくとも2種の組合せを含み、nは、アルギニン残基の数で、1~12の整数であり、2、3、5、6、8、9又は11を含むがそれらに限定されず、3~9であることが好ましく、5~9であることがより好ましく、8であることがさらに好ましい。
【0019】
好ましくは、Xは、Phe、Leu、Ile、Trp、Val、MetおよびAlaをそれぞれ1~5個含み、2個、3個又は4個を含むがそれらに限定されず、Phe、Leu、IleおよびTrpをそれぞれ1~5個含むことが好ましい。
【0020】
好ましくは、前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドの一段構造は、CH3CO-FWLFLRRRRRRRR-CONH2又はchol-RRRRRRRR-CONH2であり、cholは、コレステロールである。
【0021】
好ましくは、前記アルブミンは、哺乳動物アルブミンを含む。
【0022】
好ましくは、前記哺乳動物アルブミンは、ヒト血清アルブミン(Human Serum Albumin、HSA)及び/又は牛血清アルブミンを含む。
【0023】
第2の態様として、本願は、第1の態様に記載されたポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法であって、
それぞれ、カチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液とアルブミン溶液を調製し、モル比で前記カチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液とアルブミン溶液を混合し、前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子を得ることを含む調製方法を提供する。
【0024】
好ましくは、前記カチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液の濃度は、20~5000μMであり、30μM、40μM、50μM、60μM、100μM、200μM、500μM、1000μM、2000μM、3000μM、3500μM、4000μM、4200μM、4400μM、4800μM又は4900μMを含むがそれらに限定されない。
【0025】
好ましくは、前記アルブミン溶液の濃度は、20~5000μMであり、30μM、40μM、50μM、60μM、100μM、200μM、500μM、1000μM、2000μM、3000μM、3500μM、4000μM、4200μM、4400μM、4800μM又は4900μMを含むがそれらに限定されない。
【0026】
好ましくは、前記カチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液におけるカチオン性の両親媒性ポリペプチドと前記アルブミン溶液におけるアルブミンのモル比は、(0.1~10):1であり、0.2:1、0.8:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1又は9:1を含むがそれらに限定されない。
【0027】
好ましくは、前記混合の温度は、5~100℃であり、6℃、7℃、9℃、10℃、15℃、30℃、40℃、50℃、70℃、80℃、85℃、90℃、92℃、94℃又は98℃を含むがそれらに限定されない。
【0028】
好ましくは、前記混合の時間は、0.5~120minであり、0.6min、0.7min、0.9min、1.5min、2min、5min、10min、20min、30min、50min、60min、80min、90min、100min、110min又は115minを含むがそれらに限定されない。
【0029】
好適な技術態様としては、前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法は、
カチオン性の両親媒性ポリペプチドを、水、40~60mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液又は10~20mMのリン酸塩緩衝液に添加し、20~5000μMのカチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液を得て、アルブミンを、水又は10~20mMのリン酸塩緩衝液に添加し、20~5000μMのアルブミン溶液を得るステップ(1);
カチオン性の両親媒性ポリペプチドとアルブミンのモル比(0.1~10):1で、カチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液とアルブミン溶液を混合し、水又はリン酸塩緩衝液を添加し、5~100℃で0.5~120min混合し、前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子を得るステップ(2)を含む。
【0030】
本願において、常圧の条件下で、単純にカチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液およびアルブミン溶液を混合すれば、前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子を得ることができ、他の化学修飾が要らず、コストが低く、再現性がよい。
【0031】
第3の態様として、本願は、第1の態様に記載されたポリペプチドアルブミンナノ粒子を含む医薬組成物を提供する。
【0032】
好ましくは、前記医薬組成物は、薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は希釈剤のうちのいずれか1種又は少なくとも2種の組合せをさらに含む。
【0033】
第4の態様として、本願は、第1の態様に記載されたポリペプチドアルブミンナノ粒子又は第3の態様に記載された医薬組成物の抗腫瘍薬物の調製における使用を提供する。
【発明の効果】
【0034】
従来技術と比べ、本願は、以下の有益な効果を有する。
【0035】
(1)本願において、前記カチオン性の両親媒性ポリペプチドは、疎水性部分がアルブミンと結合し、カチオン性の両親媒性ポリペプチドに運ばれる正電荷がアルブミン表面における負電荷と相互作用できることにより、カチオン性の両親媒性ポリペプチドとアルブミンを組付けさせてポリペプチドアルブミンナノ粒子を形成する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子は、カチオン性の両親媒性ポリペプチドがアルブミンと相互作用して、安定性を向上させるとともに溶血毒性を低下させ、高いターゲティング性を有しながら、腫瘍細胞のオンコーシスを誘導し、生物自身の抗腫瘍免疫反応を誘発することができることで、ターゲティング性が高く、腫瘍細胞を効率的に殺傷するという効果を実現する。
【0036】
(2)本願に係るポリペプチドアルブミンナノ粒子は、酵素分解を効果的に抑制することができ、血液における消失半減期が長く、高い安定性を有する;溶血作用が小さく、安全性が高い;腫瘍細胞が腫脹して細胞内容物を吐き出すことができ、オンコーシスを誘発する腫瘍殺傷メカニズムを有する;腫瘍箇所において効果的に蓄積することができ、ターゲティング性が高い;リンパ節の樹状細胞の成熟を促進し、T細胞(CD8+)を増加させ、生体自身の抗腫瘍免疫反応を誘発することができる;完全にマウス乳がん皮下腫瘍を消失させるとともに、マウスが腫瘍細胞から二次侵害されないように保護することができる。
【0037】
(3)本願において、常圧条件下で、単純にカチオン性の両親媒性ポリペプチド溶液とアルブミン溶液を混合すれば、前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子を得ることができ、他の化学修飾が要らず、コストが低く、再現性がよい
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本願に係るポリペプチドアルブミンナノ粒子の組付模式図であり、そのうち、i)は、ポリペプチドとアルブミンの結合モデル、ii)は、ポリペプチドアルブミン組成物の表面静電展示モデル、iii)およびiv)は、ポリペプチドアルブミン組成物により組付けたナノ粒子である。
【
図2】Ir-cR8-HSAナノ粒子の水和粒径の分布図である。
【
図3】Ir-cR5-HSAナノ粒子の水和粒径の分布図である。
【
図4】Ir-aR8-HSAナノ粒子の水和粒径の分布図である。
【
図5】FR-HSAナノ粒子の水和粒径の分布図である。
【
図6】CR-HSAナノ粒子の水和粒径の分布図である。
【
図7】Ir-cr8-HSAナノ粒子の水和粒径の分布図である。
【
図8】Ir-mK8-HSAナノ粒子の水和粒径の分布図である。
【
図9】Ir-cK8-HSAナノ粒子の水和粒径の分布図である。
【
図10】Ir-cR8-HSAナノ粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【
図11】Ir-cR5-HSAナノ粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【
図12】Ir-aR8-HSAナノ粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【
図13】FR-HSAナノ粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【
図14】CR-HSAナノ粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【
図15】カチオン性の両親媒性ポリペプチドの電荷数、およびカチオン性の両親媒性ポリペプチドとアルブミンの割合の、ポリペプチドアルブミンナノ粒子の組付けに対する影響を示す図である。
【
図16】競合化合物の有無の条件下で、Ir-cR8とアルブミンにより組付た水和粒径の分布図である。
【
図17】Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子の4T1細胞の活性に対する抑制作用を示す図である。
【
図18】Ir-cR5およびIr-cR5-HSAナノ粒子の4T1細胞の活性に対する抑制作用を示す図である。
【
図19】Ir-aR8およびIr-aR8-HSAナノ粒子の4T1細胞の活性に対する抑制作用を示す図である。
【
図20】Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子を用いて孵化した4T1細胞のオンコーシス様子を示す図である。
【
図21】Ir-cR5-HSAナノ粒子を用いて孵化した4T1細胞のオンコーシス図である。
【
図22】Ir-aR8-HSAナノ粒子を用いて孵化した4T1細胞のオンコーシス図である。
【
図23】Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子の異なるpH下での放出グラフである。
【
図24】Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子の血清安定性を示す図である。
【
図25】異なる時点でのIr-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子の血液における濃度を示す図である。
【
図26】Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子の溶血毒性を示す図である。
【
図27】Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子を尾静脈に注射した後の24時間後のマウス体内における組織分布図である。
【
図28】PBS、HSA、Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子を尾静脈に注射することによる、マウスの樹状細胞に対する成熟促進率を示す図である。
【
図29】腫瘍組織におけるT細胞の割合を示す図である。
【
図30】各実験群における腫瘍成長のグラフである。
【
図31】22日目の各実験群における腫瘍サイズおよびIr-cR8-HSAナノ粒子群のマウスの写真であり、丸は、マウスがその前に死亡したことを示し、枠は、腫瘍がないことを示す。
【
図32】腫瘍細胞がもう一度接種された後のマウスの腫瘍の成長情況を示すグラフである。
【
図33】腫瘍細胞がもう一度接種された後の30日目のマウスの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本願に用いられる技術手段およびその効果をさらに説明するために、以下、実施例及び図面を結び付けて本願について詳しく説明する。ここで記載される具体的な実施形態は、本願を解釈するためのものに過ぎず、本願を限定するものではないことを理解すべきである。
【0040】
実施例において記載されていない具体的な技術または条件については、いずれも当該分野における文献に記載される技術または条件、若しくは製品マニュアルに基づいて行われるべきである。用いられる試料又は装置について、メーカーが記載されていないものは、いずれも正常のルートによって購入可能な通常の製品である。
【0041】
実施例1
本実施例は、イリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチドおよびヒト血清アルブミン(HSA)により組付けて形成するポリペプチドアルブミンナノ粒子を提供する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法は、以下のステップを含む。
【0042】
37℃で、モル比1:1で、オリゴアルギニンポリペプチドと[Ir(ppy)
2(H
2O)
2]OTfを、50mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液(Tris-HCl)に12h混合し、式IIIで表されるイリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチド(Ir-cR8)を得た。
【化2】
【0043】
(2)Ir-cR8を超純水に添加し、500μMのIr-cR8溶液を得た。ヒト血清アルブミンを取り、水で溶解させて同じ濃度のヒト血清アルブミン溶液を調製した。
【0044】
(3)モル比1:1でIr-cR8溶液およびヒト血清アルブミン溶液を混合し、同じ体積のリン酸塩緩衝液(1×PBS)を添加した。室温下で2h混合した後、1倍の現在体積の1×PBSを添加し、Ir-cR8-HSAナノ粒子を得た。
【0045】
実施例2
本実施例は、イリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチドおよびヒト血清アルブミンにより組付けて形成するポリペプチドアルブミンナノ粒子を提供する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法は、以下のステップを含む。
【0046】
(1)37℃で、モル比1:1で、オリゴアルギニンポリペプチドとIr(ppy)
2(H
2O)
2]OTfを50mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液(Tris-HCl)に12h混合し、式IVで表されるイリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチド(Ir-cR5)を得た。
【化3】
【0047】
(2)Ir-cR5を超純水に添加し、500μMのIr-cR5溶液を得た。ヒト血清アルブミンを取り、水で溶解させて同じ濃度のヒト血清アルブミン溶液を調製した。
【0048】
(3)モル比3:1でIr-cR5溶液とヒト血清アルブミン溶液を混合し、同じ体積の超純水を添加した。室温下で2h混合した後、1倍の現在体積の1×PBSを添加し、Ir-cR5-HSAナノ粒子を得た。
【0049】
実施例3
本実施例は、イリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチドおよびヒト血清アルブミンにより組付けて形成するポリペプチドアルブミンナノ粒子を提供する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法は、以下のステップを含む。
【0050】
(1)37℃で、モル比1:1でオリゴアルギニンポリペプチドとIr(ppy)
2(H
2O)
2]OTfを50mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液(Tris-HCl)に12h混合し、式Vで表されるイリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチド(Ir-aR8)を得た。
【化4】
【0051】
(2)Ir-aR8を超純水に添加し、500μMのIr-aR8溶液を得た。ヒト血清アルブミンを取り、超純水で溶解させて同じ濃度のヒト血清アルブミン溶液を調製した。
【0052】
(3)モル比2:1で、Ir-aR8溶液とヒト血清アルブミン溶液を混合し、同じ体積の超純水を添加した。室温下で2h混合し、1倍の現在体積の1×PBSを添加し、Ir-aR8-HSAナノ粒子を得た。
【0053】
実施例4
本実施例は、CH3CO-FWLFLRRRRRRRR-CONH2(FR)およびヒト血清アルブミンにより組付けて形成するポリペプチドアルブミンナノ粒子を提供する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法は、以下のステップを含む。
【0054】
(1)FRを超純水に添加し、500μMのFR溶液を得た。ヒト血清アルブミンを取り、超純水で溶解させて同じ濃度のヒト血清アルブミン溶液を調製した。
【0055】
(2)モル比1:1でFR溶液とヒト血清アルブミン溶液を混合し、同じ体積の超純水を添加し、50℃で1min水浴した。清澄になるまで、1×PBSを滴下した。そして、1倍の現在体積の超純水を添加し、FR-HSAナノ粒子を得た。
【0056】
実施例5
本実施例は、chol-RRRRRRRR-CONH2(CR)およびヒト血清アルブミンにより組付けて形成するポリペプチドアルブミンナノ粒子を提供する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法は、以下のステップを含む。
【0057】
(1)CRを超純水に添加し、500μMのCR溶液を得た。ヒト血清アルブミンを取り、超純水で溶解させて同じ濃度のヒト血清アルブミン溶液を調製した。
【0058】
(2)モル比2:1で、CR溶液とヒト血清アルブミン溶液を混合し、同じ体積の超純水を添加した。50℃で1min水浴した。清澄になるまで、1×PBSを滴下した。そして、1倍の現在体積の超純水を添加し、CR-HSAナノ粒子を得た。
【0059】
実施例6
本実施例は、イリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチドおよびヒト血清アルブミンにより組付けて形成するポリペプチドアルブミンナノ粒子を提供する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法は、以下のステップを含む。
【0060】
(1)37℃で、モル比1:1で、オリゴアルギニン(D型)ポリペプチドCH
3CO-hrrrrrrrrh-CONH
2と[Ir(ppy)
2(H
2O)
2]OTfを50mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液(Tris-HCl)に2h混合し、式VIで表されるイリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチド(Ir-cr8)を得た。
【化5】
【0061】
(2)Ir-cr8を超純水に添加し、500μMのIr-cr8溶液を得た。ヒト血清アルブミンを取り、水で溶解させて同じ濃度のヒト血清アルブミン溶液を調製した。
【0062】
(3)モル比1:1でIr-cr8溶液とヒト血清アルブミン溶液を混合し、同じ体積の超純水を添加した。室温下で2h混合した後、1倍の現在体積の1×PBSを添加し、Ir-cr8-HSAナノ粒子を得た。
【0063】
実施例7
本実施例は、イリジウム配位オリゴポリペプチドおよびヒト血清アルブミンにより組付けて形成するポリペプチドアルブミンナノ粒子を提供する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法は、以下のステップを含む。
【0064】
(1)37℃で、モル比1:1で、オリゴポリペプチドCH
3CO-KKKKHHKKKK-CONH
2と[Ir(ppy)
2(H
2O)
2]OTfを50mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液(Tris-HCl)に2h混合し、式VIIで表されるイリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチド(Ir-mK8)を得た。
【化6】
【0065】
(2)Ir-mK8を超純水に添加し、500μMのIr-mK8溶液を得た。ヒト血清アルブミンを取り、水で溶解させて同じ濃度のヒト血清アルブミン溶液を調製した。
【0066】
(3)モル比1:1でIr-mK8溶液とヒト血清アルブミン溶液を混合し、同じ体積の超純水を添加した。室温下で60min混合し、1倍の現在体積の1×PBSを添加し、Ir-mK8-HSAナノ粒子を得た。
【0067】
実施例8
本実施例は、イリジウム配位オリゴポリペプチドおよびヒト血清アルブミンにより組付けて形成するポリペプチドアルブミンナノ粒子を提供する。前記ポリペプチドアルブミンナノ粒子の調製方法は、以下のステップを含む。
【0068】
(1)37℃で、モル比1:1でオリゴポリペプチドCH
3CO-HKKKKKKKKH-CONH
2と[Ir(ppy)
2(H
2O)
2]OTfを50mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩緩衝液(Tris-HCl)に2h混合し、式VIIIで表されるイリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチド(Ir-cK8)を得た。
【化7】
【0069】
(2)Ir-cK8を超純水に添加し、500μMのIr-cK8溶液を得た。ヒト血清アルブミンを取り、水で溶解させて同じ濃度のヒト血清アルブミン溶液を調製した。
【0070】
(3)モル比1:1でIr-cK8溶液とヒト血清アルブミン溶液を混合し、同じ体積の超純水を添加した。室温下で60min混合し、1倍の現在体積の1×PBSを添加し、Ir-cK8-HSAナノ粒子を得た。
【0071】
試験例1
本試験例は、動的光散乱装置および透過型電子顕微鏡を用いて実施例1~8で調製したポリペプチドアルブミンナノ粒子の粒径を測定した。
【0072】
1×PBSを用いて、それぞれIr-cR8-HSAナノ粒子、Ir-cR5-HSAナノ粒子、Ir-aR8-HSAナノ粒子、Ir-cr8-HSAナノ粒子、Ir-mK8-HSAナノ粒子およびIr-cK8-HSAナノ粒子を10μMに希釈させ、FR-HSAナノ粒子およびCR-HSAナノ粒子を20μMに希釈させた。25℃で、動的光散乱装置を用いて測定した。形成したポリペプチドアルブミンナノ粒子のピークのみを算出し、結果は
図2~
図9に示すとおりである。
【0073】
図2~
図9からわかるように、Ir-cR8-HSAナノ粒子の平均水和粒径が155.6nm、Ir-cR5-HSAナノ粒子の平均水和粒径が240.6nm、Ir-aR8-HSAナノ粒子の平均水和粒径が258.7nm、Ir-cr8-HSAナノ粒子の平均水和粒径が144.9nm、Ir-mK8-HSAナノ粒子の平均水和粒径が266.5nm、Ir-cK8-HSAナノ粒子の平均水和粒径が322.4nm、FR-HSAナノ粒子の平均水和粒径が396.1nm、CR-HSAナノ粒子の平均水和粒径が295.3nmである。
【0074】
1×PBSを用いて、それぞれ、Ir-cR8-HSAナノ粒子、Ir-cR5-HSAナノ粒子、Ir-aR8-HSAナノ粒子、FR-HSAナノ粒子およびCR-HSAナノ粒子を500μMに希釈させた後、それぞれ300メッシュのカーボン支持膜へ滴下した。液滴が乾燥する直前に、1滴の3%のリンタングステン酸染色溶液を滴下して1~2minネガティブ染色した後、染色溶液を抽出した。水で3回洗浄した後、乾かした。透過型電子顕微鏡で分析し、結果は
図10~
図14に示すとおりである。
【0075】
図10~
図14からわかるように、Ir-cR8-HSAナノ粒子の粒径が40~100nm、Ir-cR5-HSAナノ粒子の粒径が50~200nm、Ir-aR8-HSAナノ粒子の粒径が40~200nm、FR-HSAナノ粒子の粒径が40~400nm、CR-HSAナノ粒子の粒径が40~400nmである。
【0076】
試験例2
本試験例は、カチオン性の両親媒性ポリペプチドの電荷数、およびカチオン性の両親媒性ポリペプチドとヒト血清アルブミンの割合の、ポリペプチドアルブミンナノ粒子の組付けに対する影響を考察した。
【0077】
それぞれ、Ir-cR3(式IXで表される)、Ir-cR5、Ir-cR8およびヒト血清アルブミンを取り、モル比2:1、1:1、1:2および1:3で混合し、ヒト血清アルブミンの最終濃度が10μMとなった。動的光散乱装置でポリペプチドアルブミン混合溶液における水和粒径の分布状況を測定し、結果は
図15に示すとおりである。これからわかるように、カチオン性の両親媒性ポリペプチドの親水性部分の正電荷の数が多いほど(アルギニンの数が多いほど)、アルブミンの割合が小さくなっており、カチオン性の両親媒性ポリペプチドとアルブミンがポリペプチドアルブミンナノ粒子を組付けやすくなった。
【化8】
【0078】
試験例3
本試験例は、イリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチドの腫瘍細胞活性に対する抑制能力を測定した。
【0079】
ヒト子宮頸癌細胞であるHela細胞を取り、10%牛胎児血清を含有するDMEM培地に分散させた後、ウェルごとに8000の細胞があるように、96ウェルプレートに播種した。細胞が接着した後、2、4、8、16、32、64および128μMのIr-cR5、Ir-cR8およびIr-aR8、並びに対応するオリゴアルギニンポリペプチドcR5、cR8およびaR8を添加し、24h孵化した。チアゾリルブルー法を用いて細胞の活性を測定し、半阻害濃度(IC
50)を算出し、結果は表1に示すとおりである。イリジウム配位オリゴアルギニンポリペプチドは、半阻害濃度(IC
50)が配位前のオリゴアルギニンポリペプチドに対して顕著して減少し、Hela細胞に対する殺傷毒性が明らかに向上した。
【表1】
【0080】
試験例4
ヒト血清アルブミンは、一本鎖ポリペプチドであり、AとBの2つのサブドメインに分けられている。各々のサブドメインは、さらにI、II、IIIの3つの部分に分けられてもよい。それには、3種の主な薬物結合サイトがあり、それぞれ、IIAに位置する薬物結合サイト1(Sudlowサイト1とも呼ばれる)、IIIAに位置する薬物結合サイト2(Sudlowサイト2とも呼ばれる)、およびIBに位置する薬物結合サイト3である。本試験例においてIr-cR8のヒト血清アルブミンにおける結合位置が測定されている。10μMのヒト血清アルブミンの水溶液、および10μMの、ヒト血清アルブミンと、ヒト血清アルブミンの薬物結合サイト1、2、3における競合化合物であるフェニルブタゾン、イブプロフェンおよびリドカインとの混合溶液を調製し、5分間混合した後、それぞれ、0、2、4、6、8、および10μMのIr-cR8を添加し、280nmの光で励起し、300~450nmにおける励起スペクトルを走査した。数式(1)から、競合化合物の有無下でのIr-cR8とアルブミンとの結合定数および結合サイトの数を算出した。
【数1】
【0081】
ただし、F0は、競合化合物が添加されていない場合の体系の蛍光強度、Fは、競合化合物が添加された場合の体系の蛍光強度、Kaは、結合定数、cは、クエンチャー濃度、nは、結合サイトの数である。
【0082】
結果は表2に示すとおりである。これから分かるように、Ir-cR8は、ヒト血清アルブミンにおける結合サイトの数が1個であり、主にサイト1で結合した。
【表2】
【0083】
上述した結論をさらに検証するために、10μMのヒト血清アルブミンと各サイトにおける競合化合物を1:4のモル比で混合した後、10μMのIr-cR8を添加した。等濃度の競合化合物を添加しない時のヒト血清アルブミンとIr-cR8の混合溶液を対照として、動的光散乱装置で、各競合化合物が存在する条件、および競合化合物が存在しない条件下でのポリペプチドアルブミンナノ粒子の組付け情況を測定した。結果は
図16に示すとおりである。Ir-cR8のヒト血清アルブミンにおける主な結合サイトがサイト1であることがさらに検証された。
【0084】
試験例5
本試験例は、Ir-cR8-HSAナノ粒子、Ir-cR5-HSAナノ粒子およびIr-aR8-HSAナノ粒子の腫瘍の殺傷能力および殺傷メカニズムについて検討した。
【0085】
マウス乳がん細胞4T1を取り、10%の牛胎児血清を含有するDMEM培地で分散させて、ウェルごとに8000の細胞があるように、96ウェルプレートに播種した。細胞が接着した後、それぞれ2、4、8、16、32、64、128μMのIr-cR8-HSAナノ粒子、Ir-cR5-HSAナノ粒子、Ir-aR8-HSAナノ粒子、Ir-cR8、Ir-cR5およびIr-aR8を添加し、24h孵化した。チアゾリルブルー法で細胞の活性を測定した。結果は
図17~
図19に示すとおりである。これから分かるように、Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子の半阻害濃度は、それぞれ10.1μMおよび13.9μM、Ir-cR5およびIr-cR5-HSAナノ粒子の半阻害濃度はそれぞれ25.45μMおよび29.64μM、Ir-aR8およびIr-aR8-HSAナノ粒子の半阻害濃度は、13.16μMおよび16.20μMである。カチオン性の両親媒性ポリペプチドは、ポリペプチドアルブミンナノ粒子に調製された後、腫瘍細胞に対する殺傷活性による顕著な影響を受けていないことが検証された。
【0086】
直径15mmのガラス培養皿を用意し、3×10
5の4T1細胞を添加した。それが接着した後、それぞれ半阻害濃度1mLのIr-cR8-HSAナノ粒子、Ir-cR5-HSAナノ粒子、Ir-aR8-HSAナノ粒子およびIr-cR8(5μg/mLのヨウ化プロピジウムを含む)を添加し、405nmおよび561nmにおいてレーザの共焦点を励起させた。細胞の死亡過程を観察し、結果は
図20~
図22に示すとおりである。腫瘍細胞は、細胞が腫脹して細胞内容物を吐き出したことを示しており、ポリペプチドアルブミンナノ粒子が、オンコーシスを誘発する腫瘍殺傷メカニズムを有することが検証された。
【0087】
試験例6
本試験例は、Ir-cR8-HSAナノ粒子の安定性および安全性について分析した。
【0088】
500μLのIr-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子(200μM)を取り、分子量8000~14000Dの透析バッグに置いた。透析バッグを15mLの遠心分離管に置き、遠心分離管毎に、それぞれ5mLのpHが5.0、6.5および7.4のPBS緩衝液を添加した。遠心分離管を37℃、200rpmの恒温型発振器に置き、それぞれ1h、2h、4h、6h、16hおよび24hで500μLの緩衝液を取り出して500μLの新鮮な緩衝液を遠心分離管に補充した。波長328nmで、取り出した緩衝液の350~550nmにおける発光スペクトルを測定するように励起した。Ir-cR8の緩衝液における蛍光マークから、緩衝液におけるIr-cR8濃度を定量した。結果は
図23に示すとおりである。これから分かるように、Ir-cR8-HSAナノ粒子におけるIr-cR8が遊離Ir-cR8と比べて放出されにくくなった。
【0089】
100μLのIr-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子(160μM)をそれぞれ900μLの10%の牛胎児血清を含有するPBS溶液と混合し、2、4、16および24h孵化した。孵化した混合溶液を、4T1細胞が播種された96ウェルプレートに添加し、24h孵化した。チアゾリルブルーを添加して細胞抑制活性を測定した。血清処理されていないIr-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子の細胞抑制活性と比較し、結果は
図24に示すとおりである。Ir-cR8-HSAナノ粒子は87.05%の細胞抑制活性を保留し、Ir-cR8は42.74%の細胞抑制活性しか残らなかった。ポリペプチドアルブミンナノ粒子を調製することにより、血清における各酵素のカチオン性の両親媒性ポリペプチドに対する分解を抑制することができ、カチオン性の両親媒性ポリペプチドの体内におけるサイクルに寄与することが検証された。
【0090】
36匹のBALB/cマウスを取り、2群に分けた。尾静脈にそれぞれ500μMのIr-cR8、およびIr-cR8-HSAナノ粒子をそれぞれ100μL注射した。それぞれ、0.5h、2h、4h、8h、24hおよび48hで、眼球を取り出して血液を抽出した。10000rpmで10min遠心分離した。遠心分離した血清を100μL取り、1mLの過塩素酸および3mL王水を添加し、260℃で2h消化した。10mLまでに水を添加し、ICP-MASSで各時点での血液における金属イリジウムの含有量を測定した。結果は
図25に示すとおりである。結果から、Ir-cR8の血液における消失半減期は0.5h未満、Ir-cR8-HSAナノ粒子の血液における消失半減期は15h超えであり、Ir-cR8-HSAナノ粒子の血液におけるサイクル時間が明らかに向上することが検証された。
【0091】
1mLのマウスの血液を取り、1mLのPBSを添加し、均一に吹き付けた後、1000rpmで5min遠心分離した。上記ステップを繰り返し、PBSを捨て、52.5mLの新鮮なPBSを添加した。空白の対照群(140μLのPBS/ウェル)、陰性対照群(70μLの赤細胞懸濁液+70μLのPBS/ウェル)、陽性対照群(70μL赤細胞の純水ライセート+70μLの純水/ウェル)、実験群(70μLのIr-cR8又はIr-cR8-HSAナノ粒子+70μL赤細胞懸濁液)を設定した。37℃、87rpmで2h発振し、3000rpmで5min遠心分離した。90μLの上澄みを取り出して405nmにおける吸収値を測定した。結果は
図26に示すとおりである。Ir-cR8は、濃度78.125μMの場合に52.87%の溶血を引き起こし、Ir-cR8-HSAナノ粒子は、濃度625μMの場合に15.70%の溶血しか引き起こさなかった。カチオン性の両親媒性ポリペプチドをポリペプチドアルブミンナノ粒子に調製することにより、ポリペプチド自身の溶血作用を明らかに低下させ、バイオ安全性を向上させることができることが検証された。
【0092】
試験例7
本試験例は、Ir-cR8-HSAナノ粒子の腫瘍ターゲティング性、および生体自身の抗腫瘍免疫反応の誘発の効果について検討した。
【0093】
BALB/cマウスの股間における皮下に10
6の4T1細胞を注射し、BALB/cマウス皮下腫瘍モデルを構築した。腫瘍の体積(体積=L×D
2/2、Lは、腫瘍の長さ、Dは、腫瘍の幅である)が100mm
3に達した後、尾静脈に500μMのIr-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子をそれぞれ100μL注射し、24h後にマウスを殺した。心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓および腫瘍を取り出して、重量を量った後にせん断し、1mLのPBSを添加してホモジネート粉砕した。10000rpmで10分間遠心分離し、上澄みを取り出し、波長328nmで励起し、各サンプルの502nmにおける蛍光放射強度を測定した。Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子のPBS溶液の同様の励起条件下での502nmにおける蛍光放射強度に基づいて各組織の上澄み液におけるIr-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子の濃度を算出した。結果は
図27に示すとおりである。Ir-cR8-HSAナノ粒子の腫瘍箇所における濃度は12.19μg/g、Ir-cR8の腫瘍箇所における濃度は4.14μg/gである。尾静脈に24h注射した後、Ir-cR8-HSAナノ粒子の腫瘍箇所における蓄積量が約Ir-cR8の3倍となった。Ir-cR8-HSAナノ粒子は、Ir-cR8と比べて腫瘍箇所においてより良好な蓄積作用を有し、高いターゲティング性を有することが検証された。
【0094】
BALB/cマウスの股間における皮下に10
6の4T1細胞を注射し、BALB/cマウス皮下腫瘍モデルを構築した。腫瘍の体積(体積=長さ*幅^2/2)が100mm
3に達した後、4日間連続してそれぞれ、尾静脈に500μMのHSA、Ir-cR8、Ir-cR8-HSAナノ粒子を100μL注射し、および尾静脈に体積が同様なPBSを対照として注射した。投薬した後の5日目、腫瘍側の股間リンパ節を取り出し、単一の細胞に分散させた。70μmのフィルタで濾過し、4℃で、抗マウスCD11c-FITC、CD80-PEおよびCD86-APCの抗体で、細胞染色緩衝液中に15min染色した後、細胞染色緩衝液で3回洗浄した。500μLの細胞染色緩衝液で再懸濁し、フローサイトメーターで測定し、結果は
図28に示すとおりである。Ir-cR8-HSAナノ粒子は、腫瘍において蓄積することができ、オンコーシスによって腫瘍細胞を殺傷して近傍の股間リンパ節の樹状細胞(Dendritic Cells、DC)が腫瘍の関連抗原を摂取して、より成熟することが検証された。
【0095】
BALB/cマウスの股間における皮下に10
6の4T1細胞を注射し、BALB/cマウス皮下腫瘍モデルを構築した。腫瘍の体積(体積=長さ*幅^2/2)が100mm
3に達した後、4日間連続して、それぞれ尾静脈に500μMのHSA、Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子を100μL注射し、および尾静脈に体積が同様なPBSを対照として注射した。投薬した後の7日目、腫瘍を取り、単一の細胞に分散させた。70μmのフィルタで濾過して、4℃で抗マウスCD3-FITC、CD4-Percp-Cy5.5およびCD8a-APCの抗体で、細胞染色緩衝液中に15min染色した後、細胞染色緩衝液で3回洗浄した。500μLの細胞染色緩衝液で再懸濁し、フローサイトメーターで測定した。結果は
図29に示すとおりである。Ir-cR8-HSAナノ粒子は、股間リンパ節における樹状細胞の成熟、および腫瘍箇所に死亡した腫瘍細胞の粉砕を促進するため、腫瘍箇所における細胞傷害性T細胞(CD8
+)が顕著して増加し、抗腫瘍免疫をさらに補強することができることが検証された。
【0096】
6周齢の成年雌BALB/cマウスを用意した。その背部皮下に10
6の4T1細胞を注射して皮下腫瘍マウスモデルを構築した。腫瘍の体積が50~60mm
3に達した後、マウスを群ごとに5匹があるように4群に分けた。その後、4日間連続して尾静脈にPBS、500μMのHSA、Ir-cR8およびIr-cR8-HSAナノ粒子をそれぞれ100μL注射した。各マウス腫瘍の成長情況を観察し、結果は
図30および
図31に示すとおりである。Ir-cR8-HSAナノ粒子群は、良好な腫瘍抑制効果を有し、マウスの腫瘍を完全に消失させることができるが、他の群は、腫瘍の成長を効果的に抑制することができないことが検証された。
【0097】
第1回目の皮下腫瘍が消失したIr-cR8-HSAナノ粒子群におけるマウスを5匹用意した。もう一度、他方側の皮下に8×10
5の4T1細胞を注射した。週齢が同様な処理されていないマウスを対照群(未治療)として5匹用意した。同様に皮下に8×10
5の4T1細胞を注射した。2群の腫瘍の成長情況を観察し、結果は
図32および
図33に示すとおりである。Ir-cR8-HSAナノ粒子で治療されたマウスは、腫瘍に対して抗腫瘍免疫記憶を形成して、腫瘍の二次侵害を受けにくい。本願に係るポリペプチドアルブミンナノ粒子は、生体自身の抗腫瘍免疫反応を誘導することができることが検証された。
【0098】
要するに、本願に係るポリペプチドアルブミンナノ粒子は、酵素分解を効果的に抑制することができ、血液における消失半減期が長く、高い安定性を有する;溶血作用が小さく、安全性が高い;腫瘍細胞が腫脹して細胞内容物を吐き出すことができ、オンコーシスを誘発する腫瘍殺傷メカニズムを有する;腫瘍箇所において効果的に蓄積することができ、ターゲティング性が高い;リンパ節の樹状細胞の成熟を促進し、T細胞(CD8+)を増加させ、生体自身の抗腫瘍免疫反応を誘発することができる;完全にマウス乳がん皮下腫瘍を消失させるとともに、マウスが腫瘍細胞から二次侵害されないように保護することができる。
【0099】
本願は上記実施例によって本願の詳しい方法を説明したが、本願は上記詳しい方法に限られるものではない、即ち、本願は上記詳しい方法によって実施しなければならないものではないと出願人は声明する。当業者にとって、本願に対する如何なる改良、本願の製品の各原料への等価置換及び補助成分の追加、具体的な実施形態の選択等はいずれも本願の保護範囲及び開示範囲に入ることが明瞭である。