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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】切削工具及び円筒形物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/04 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
B23B51/04 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024071093
(22)【出願日】2024-04-25
【審査請求日】2024-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320001444
【氏名又は名称】株式会社レイホー製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 喜佐夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 善慶
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/021771(WO,A1)
【文献】特開2008-307760(JP,A)
【文献】特開2000-042820(JP,A)
【文献】特開2002-172511(JP,A)
【文献】実開昭60-194465(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0060339(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B51/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の切削ブレードと第2の切削ブレードとを含む切削工具を用いて、前記第1の切削ブレードと前記第2の切削ブレードとの間で被加工材を切削加工して、円筒形物品を製造する、円筒形物品の製造方法であって
前記切削工具は、
前記第1の切削ブレードは、円筒状の第1の回転部を有しており、前記第2の切削ブレードは、円筒状の第2の回転部を有しており、
前記第1の回転部及び前記第2の回転部は、その先端部に切削チップを備えており、
前記第1の回転部及び前記第2の回転部は、回転軸に対して同心円状に配置されており、前記第1の回転部の内径が前記第2の回転部の外径よりも大きく構成されている、円筒形物品の製造方法
【請求項2】
前記切削工具において、2個以上の前記切削チップが間隔を置いて設けられている、請求項1に記載の円筒形物品の製造方法
【請求項3】
前記切削工具における前記第1の回転部及び前記第2の回転部は、前記切削チップの近傍に切り欠き部を備えている、請求項1に記載の円筒形物品の製造方法
【請求項4】
前記切削工具の前記切削チップは、円形チップである、請求項1に記載の円筒形物品の製造方法
【請求項5】
前記切削工具における前記第1の回転部及び前記第2の回転部は、その素材が高強度アルミニウム合金である、請求項1に記載の円筒形物品の製造方法
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載円筒形物品の製造方法において使用される、切削工具
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。また、当該切削工具を用いて円筒形物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属及びその合金の溶解と製錬においては、一般的に黒鉛坩堝が使用される。黒鉛は、溶融金属と接触して金属中の酸素を一酸化炭素として除去するので、溶融金属の純化作用も有する。
【0003】
黒鉛坩堝は、耐熱性に優れており、熱伝導率が高いことから、溶解時間の短縮や省エネ化に寄与する。また、黒鉛坩堝は、高熱伝導度と低熱膨張を兼ね備えており、耐熱衝撃性に優れる、耐酸化性に優れる、溶融金属に対する耐食性に優れるなどの特徴を有している。
【0004】
黒鉛坩堝の製造に当たっては、焼結または機械加工などによる製造方法が用いられるのが一般的である。焼結による製造方法では、黒鉛粉とシリカにバインダーを加えて混錬した後、所定形状に造形する。次いで、この造形物を高圧の静水圧中で高密度に固めて成形物を作製する。その後、当該成形物を焼結することにより黒鉛坩堝が製造される。
【0005】
他方、機械加工による製造方法は、高密度に焼成された人造黒鉛ブロックを用いて、それを機械加工によって所定の円筒形状に仕上げて製造される。例えば、次の(a)~(e)の各工程により加工することが通常の製造方法である。(a)被加工材(人造黒鉛ブロック)が直方体形状であれば、旋盤チャックに確実に把持できるように、予め切断機によって被加工材の角部を切断して8角形断面のブロックに加工する。次いで、旋盤によって、(b)所定の円形断面にするための荒仕上げ加工(粗加工)による外径加工、(c)所定の内面にするための荒仕上げ加工(粗加工)による内径加工、(d)所定の内径及び外径にするための仕上げ加工、(e)上下両端面の仕上げ加工を順次行う。
【0006】
従来、被加工材を切削加工して円筒状物品を製造する方法に関しては、例えば、特許文献1~特許文献3に示されるような穴あけ作業に適用されるホールソーによる加工手段が知られている。
【0007】
特許文献1には、先端に複数の歯先からなる刃先部を備えた円筒状の胴部からなる円筒状刃物と、この円筒状刃物の後端側を取り付けるためのホールソー取付部と、このホールソー取付部に一体的に設けたシャンク部とを備えたホールソーにおいて、歯先より低い突起部を設けることにより、歯先の欠損を防止して切削性の向上を図ったものが記載されている。
【0008】
特許文献2には、円筒状のコア体と、このコア体の下部の開口周縁部に接合した硬質材料からなる複数の刃先チップと、を備えたホールソーにおいて、前記刃先チップの内周面に、刃先の回転軌跡の内周円より外向けの内側逃げ面を形成したことにより、切削加工時間の短縮などを図ったものが記載されている。
【0009】
特許文献3には、ホールソーの先端(開口部)に分割されたダイヤモンド焼結体チップと、内側に厚み増したダイヤモンド焼結体チップとを設けたものが記載されている。
【0010】
上記したホールソーは、主に穴あけ加工や円柱状製品の加工を目的としたものである。そのほか、内部のコア部分(芯部分)を残しながら、くり抜くように加工するトレパニング加工も知られている。例えば、特許文献4には、円筒状の筒部と、前記筒部の先端部に取り付けられたブレードとを備えたトレパニング工具において、油路R1,R2を介してブレードへ切削油CFを供給する構造を備えたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-290112号公報
【文献】特開2008-254130号公報
【文献】特開2023-99892号公報
【文献】特開2013-107150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1~3記載のホールソー及び特許文献4記載のトレパニング工具により、被加工材を切削加工して円筒形製品を製造することができる。しかし、その場合、円筒形製品における外面及び内面のいずれか一方を加工した後に、他方の面を加工する必要がある。上述したように、荒仕上加工(粗加工)において外径加工と内径加工とを別個の工程により行っているため、加工作業に長時間を要する。また、別個の工程ごとに被加工材を加工装置に固定する手間を要する。また、被加工材を多角形体にするための予加工を必要とする場合や、切削による被加工材の除去量が多い場合は、素材の歩留まりが低下する。さらに、坩堝の大径化に伴って、被加工材を回転しながら切削する旋盤加工は、被加工材の取り扱いが難しくなる。
【0013】
そのため、従来の円筒形物品を製造するための切削加工方法においては、素材の歩留まりの低下、作業量の増加、外径加工と内径加工とを別工程で行うことによる生産性の低下などの課題があった。また、使用される切削工具においては、切削チップの耐久性、円筒状部品の大径化に適した加工方法の提供などの課題があった。
【0014】
そこで、本発明は、被加工材から円筒形物品を効率的に加工できる切削工具を提供すること、及び、当該切削工具を用いて円筒形物品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題に鑑みて検討した結果、2つの切削ブレードを回転させることにより効率的に円筒状物品を製造できることを見出して、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、下記(1)~(6)の態様を包含する。なお、本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は、「X以上Y以下」と同義である。
【0016】
(1)第1の切削ブレードと第2の切削ブレードとを含み、前記第1の切削ブレードは、円筒状の第1の回転部を有しており、前記第2の切削ブレードは、円筒状の第2の回転部を有しており、前記第1の回転部及び前記第2の回転部は、その先端部に切削チップを備えており、前記第1の回転部及び前記第2の回転部は、回転軸に対して同心円状に配置されており、前記第1の回転部の内径が前記第2の回転部の外径よりも大きく構成されている、切削工具。
【0017】
(2)2個以上の前記切削チップが間隔を置いて設けられている、上記(1)に記載の切削工具。
【0018】
(3)前記第1の切削ブレード回転部及び前記第2の回転部切削ブレードは、前記切削チップの近傍に切り欠き部を備えている、上記(1)に記載の切削工具。
【0019】
(4)前記切削チップは、円形チップである、上記(1)に記載の切削工具。
【0020】
(5)前記第1の回転部及び前記第2の回転部は、その素材が高強度アルミニウム合金である、上記(1)に記載の切削工具。
【0021】
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載の切削工具を用いて、前記第1の切削ブレードと前記第2の切削ブレードとの間で被加工材を切削加工して、円筒形物品を製造する、円筒形物品の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、被加工材から円筒形部品を効率的に加工できる切削工具を提供することができる。さらに、当該切削工具を用いて円筒形物品を効率的に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る切削工具を示す図であり、(a)が上方から見た斜視図、(b)が下方から見た斜視図である。
図2】本実施形態に係る切削工具を示す図であり、(a)は、第1の切削ブレードの縦断面を示す図であり、(b)は、第2の切削ブレードの縦断面を示す図であり、(c)は、第1の切削ブレードの横断面を示す図であり、(d)は、第2の切削ブレードの横断面を示す図である。
図3】本実施形態に係る切削工具に切削チップが取り付けられた形態を示す図である。
図4】本実施形態に係る切削工具がラジアルボール盤のラジアルアームに取り付けられた外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
(切削工具)
本実施形態に係る切削工具は、第1の切削ブレードと第2の切削ブレードとを含み、前記第1の切削ブレードは、円筒状の第1の回転部を有しており、前記第2の切削ブレードは、円筒状の第2の回転部を有しており、前記第1の回転部及び前記第2の回転部は、その先端部に切削チップを備えており、前記第1の回転部及び前記第2の回転部は、回転軸に対して同心円状に配置されており、前記第1の回転部の内径が前記第2の回転部の外径よりも大きく構成されていること特徴とする。
【0026】
本実施形態に係る切削工具の模式図を図1の(a)及び(b)に示す。これらの図に参照されるように、切削工具は、第1の切削ブレード11と第2の切削ブレード21とが一体となるように組み立てられた二重の切削ブレード構造によって構成されている。第1の切削ブレード11は、円筒状の第1の回転部である外筒部12を有し、第2の切削ブレード21は、円筒状の第2の回転部である内筒部22を有している。なお、本明細書は、「第1の切削ブレード」と「第2の切削ブレード」を、以下、単に「切削ブレード」と記載することもある。また、「第1の回転部」、「第2の回転部」を、以下、単に「回転部」と記載することもある。
【0027】
外筒部12及び内筒部22は、任意の厚みを有する円筒状の部材であり、第1及び第2の切削ブレード11,21の躯体(くたい)を構成する部材でもある。切削ブレード11,21における外筒部12と内筒部22とは、切削工具が装着される回転切削装置(例えば、ラジアルボール盤)の回転軸に対して同心円状に配置されている。そして、外筒部12が内筒部22よりも外側に配置されるように、外筒部12の内径18は、内筒部22の外径28よりも大きく構成されている。なお、上記内径は、円筒状の回転部を断面視したときの内面の直径を意味する。上記外径は、上記回転部を断面視したときの外面の直径を意味する。
【0028】
外筒部12の先端部13には、切削チップ15が取り付けられている。切削チップ15の近傍には、切削にともない発生する切削粉を排出し易いように切り欠き部14が設けられている。内筒部22においても同様に、先端部23には切削チップ25が取り付けられ、切削チップ25の近傍には切り欠き部24が設けられている。
【0029】
本実施形態に係る切削工具によれば、外筒部12の切削チップ15及び内筒部22の切削チップ25によって被加工材を切削して円筒形物品を削り出すことができる。外筒部12が円筒形物品の外面を削り出すとともに、内筒部22が円筒形物品の内面を削り出している。このように、第1の切削ブレード11と第2の切削ブレード21との間で被加工材が切削されて円筒形物品が作製される。そのため、本実施形態に係る切削工具を用いて被加工材を粗加工する場合、実質的に1つの加工工程により円筒形物品を製造することができる。また、上記切削工具における構成要素(外筒部の内径、内筒部の外径等)の寸法は、製造する円筒形物品の種類及び寸法等や、被加工材の種類、形状、寸法等に応じて適宜に設定することができる。
【0030】
図2の(a)及び(b)は、本実施形態に係る切削工具の縦断面図を模式的に示したものであり、図2の(c)及び(d)は、上記切削工具の下方から見た横断面図を模式的に示したものである。図2の(a)及び(b)に示すように、切削工具1は、第1の切削ブレード11の外筒部12と第2の切削ブレード21の内筒部22とが組み合わされて構成されている。すなわち、内筒部22が外筒部12に挿入された後、外筒部12の上部に設けられた内向きフランジ16と内筒部22の上部に設けられた外向きフランジ26とを重ねて一体化させることにより、二重構造の切削ブレード11,21からなる切削工具が得られる。なお、この切削工具が回転切削装置に装着されて使用する場合は、後記するように、回転軸を備えた回転ディスクが上記切削工具の上側に装着される。図2の(c)及び(d)に示されるように、外向きフランジ26及び内向きフランジ16における6箇所で貫通ボルトを用いて、回転ディスクと切削工具とが係合されて固定される。
【0031】
(切削チップの配置)
本実施形態に係る切削工具は、2個以上の切削チップを互いの間隔を置いて配置することが好ましい。複数の切削チップを配置することにより、切削チップごとの切削抵抗が減少するので、作業効率の向上に寄与する。
【0032】
図2の(c)及び(d)は、本実施形態に係る切削工具における切削チップの取付け位置の代表例を示している。切削チップごとの切削力をほぼ均等にするため、対角線位置に一対の切削チップが取り付けられている。以下、この一対の切削チップを「1ユニット」といい、2個の1ユニットを「2ユニット」という。2ユニット以上の切削チップを取り付ける場合、隣り合う切削チップ同士の間隔は限定されない。各ユニットの中心角を均等間隔または不均等間隔で設けることができる。切削チップがほぼ均等間隔となるように配置することが好ましい。このような配置によって、被加工材に対する切削チップの加圧力がほぼ均等になり、個々の切削チップの切削抵抗が安定するため、切削する際の振動が軽減して加工精度の向上に寄与する。
【0033】
図2の(a)と(c)は、第1の切削ブレード11について、2ユニットの切削チップ、すなわち4個の切削チップが90°の角度で間隔を置いて取り付けられた例を示したものである。図2の(b)と(d)は、第2の切削ブレード21について、1ユニットの切削チップ、すなわち2個の切削チップが180°の角度で間隔を置いて取り付けられた例を示したものである。また、大型の円筒形物品を切削する場合は、4ユニットの切削チップ、すなわち8個の切削チップを45°の角度で間隔を置いて取り付けてもよい。なお、図2の(c)及び(d)に示した外筒部12及び内筒部22は、この図では左方向に回転する。切削チップは、後記するように、その回転方向が切削方向33となるように配置されている。
【0034】
(切削チップの取り付け)
切削チップは、切削ブレードにおける第1の回転部及び第2の回転部の先端部に取り付けられる。切削チップは、前記先端部の下端に沿って取り付けてもよい。また、切削チップは、前記先端部の端面において切削方向に直交するような位置に取り付けてもよい。
【0035】
図3は、切削チップ15が回転部(外筒部12)の先端部13において切削方向33に直交する位置に取り付けられた形態を示した例であり、図1(a)の点線で示された囲み領域35における縦方向の断面を示したものに相当する。図3の右側の図が囲み領域35を正面から見た形態を示し、左側の図が切削方向33から見た形態を示す。切削チップとして丸チップが用いられた例である。なお、後記するように、切削工具は、被加工材の上に載置されて切削加工を行うので、図3における外筒部12の下には被加工材(図示を省略)が配置されている。回転部の先端部には、複数の丸チップが切削方向に直交するような位置に取り付けられている。また、図3に示した第1の切削ブレードにおける切削チップの取り付け形態は、第2の切削ブレードにおいても同様に適用できるものであり、以下では、第2の切削ブレードに関する説明を省略して記載する。
【0036】
切削工具による切削加工において、第1の切削ブレード11は、外筒部12が回転する。その回転にともない、外筒部12に取り付けられた切削チップ15は、外筒部12の円周形状に沿って被加工材の表面を削りながら移動し、被加工材の表面に溝状の切り口を形成する。よって、図3に示す切削方向33は、回転方向でもある。また、切削加工が進行するにしたがって切り口が深くなるので、切削ブレードの外筒部12は、図3に示すように下降方向34へ移動する。
【0037】
図3に示すように、外筒部12の先端部13は、切り欠き部14に対向する側及び被加工材に対向する側において、外筒部12の厚みに相当する端面を有する。切削チップ15は、外筒部12の先端部13において、切り欠き部14に対向する側の端面19に固定されている。この場合、切削チップ15は、切削方向33に対して切刃の一部が先端部13の下端20よりも外側に突出するように、端面19の下端付近で任意の取付手段によって固定されている。取付手段としては、例えば、図3に示すビス32を外筒部12の中に埋め込んで取り付けることが好ましい。このような取付形態は、切削チップが確実に回転部に固定されるため、切削チップの耐久性や切削工具の振動低減の点で効果的である。
【0038】
また、切削チップ15は、その直径が切削ブレードの肉厚よりも大きいものを選択することが好ましい。図3に示すように、切削チップ15を端面19の中央付近に取り付けることにより、切削チップ15の切刃は、切削方向33から見て、端面19の外側にほぼ等しい長さで突出させてもよい。このような取付形態は、加工時に発生する切削粉を切削ブレードの背後へ移動させて、切削屑の排出を容易にする点で効果的である。
【0039】
(切削チップの種類)
本実施形態に係る切削工具に取り付けられる切削チップの種類は、限定されない。切削チップとは、切削用の刃を備えた部品をいう。切削チップを取り外して交換できるものをスローアウェイチップとも呼ばれる。切削チップの形状としては、丸状、多角形状などがあり、その形状に応じて刃が設けられている。例えば、円形チップ(丸チップ)を用いることが好ましい。なお、本明細書に記載した「丸チップ」は、「円形チップ」と同じ種類の切削チップを意味する。
【0040】
様々な切削加工手段との共用を考慮すると、円形チップ(丸チップ)は、非円形状のチップと比べて、円周方向に自由度があるので、切削ブレードへの取付けが容易である。さらに、円形チップは、チップ外周の全位置が有効な切削刃として使用できるので、チップの損耗状態に応じてチップを回転させることにより、全周の使用が可能であり、経済的である点で好ましい。円形チップの寸法は、切削ブレードの厚みに応じて適宜に選択できる。
【0041】
切削チップの材質は、ダイヤモンドコート、超硬合金、サーメットなどから構成され、被加工材の種類に応じて選択される。被加工材として黒鉛のような焼結材を切削加工する場合は、例えば、ダイヤモンドコートを施した超硬質丸チップを用いることが好ましい。
【0042】
(切削工具の切り欠き部)
本実施形態に係る切削工具は、第1の回転部及び第2の回転部において切削チップの近傍に切り欠き部を備えることが好ましい。上記切り欠き部とは、回転部が被加工材と対向する側の下端において任意の長さ及び深さで窪んでいる部分を意味する。当該切り欠き部の設置により、切削粉の目詰まりを防止する点や切削粉を速やかに排出する点で有用である。また、当該切り欠き部は、回転部の先端部に切削チップを取り付けるための空間を与える点で好ましい。
【0043】
上記切り欠き部は、回転部の下端において窪んだ形態を有するものであればよく、その形状や配置などは特に限定されない。例えば、図2の(c)は、外筒部12の下端において、90°間隔の4箇所で中心角±20°の角度範囲17に対応する円弧部分に切り欠き部14を設けた例を示している。図2の(d)は、内筒部22の下端において、180°間隔の2箇所で中心角±20°の角度範囲27に対応する円弧部分に切り欠き部24を設けた例である。切り欠き部の配置、個数、間隔及び中心角は、上記の例に限定されず、切削チップの取り付け形態に応じて適宜に選択できる。例えば、45°間隔で8箇所を設けてもよい。間隔は、均等でもよく、または、不均等でもよい。中心角の角度範囲は、±10°または±30°でもよい。
【0044】
(回転切削装置)
図4は、本実施形態に係る切削工具を回転切削装置に装着した形態を示したものである。回転切削装置としてラジアルボール盤を使用することができる。図4に示すように、ラジアルボール盤2のラジアルアーム3に取り付けられた回転軸7に切削工具1が懸垂させて装着される。基台5の上に固定された被加工材10は、切削工具1によって切削加工することができる。
【0045】
従来の円筒形物品を製造するために穴あけ加工を施す方法は、穴の部分を削り出す必要がある。それに対し、本実施形態に係る切削工具は、円筒形物品の外径加工と内径加工が一緒に行われるため、従来の穴あけ加工に比べて小さい動力で加工することができる。切削工具の外筒部及び内筒部において切削チップを支持するに必要な剛性を備えることにより、大径の円筒形物品であっても対応することができる。
【0046】
さらに、円筒形物品の内径加工についても、円筒部分のみを抜き出すように切削加工できるので、従来の加工方法のように被加工材の中心領域を切削屑として粉体化させることがない。そのため、切削した後でも被加工材の中心領域が残存し、それを別の用途に使用できるので、素材の歩留まりを高める点で有用である。
【0047】
また、回転切削装置においては、回転軸にエアスイベル等の治具を取り付けて、当該治具を介して切削工具内部に送風する手段を設けてもよい。この送風手段によって切削粉を速やかに排出することができるため、切削加工を安定して進めることができる。
【0048】
(切削工具の素材)
本実施形態に係る切削工具を構成する素材については、特に限定されない。回転部が十分な剛性を有する素材で構成されていれば、切削ブレードとして使用可能である。また、被加工材の大径化に伴って切削工具の重量が増大する場合は、作業性及び安全性に考慮して、切削ブレードの回転部には軽量の素材を適用すること、例えば、低比重のTi合金やAl合金を適用することが好ましい。コスト、調達性などを考慮すると、5000系の高強度アルミニウム合金が好ましい。大径化への対応としては、6000系または7000系の高強度アルミニウム合金を適用することが好ましい。
【0049】
また、本実施形態に係る切削ブレードの構成材料としては、(i)切削チップによる切削抵抗に対して十分な機械的強度及び剛性を有すること、(ii)ラジアル加工機におけるラジアルアームの負荷を軽減するため、切削ブレードが軽量な金属製であること、(iii)切削による摩擦熱の蓄積を抑制するため、切削ブレードの熱伝導率が高いこと、などの特性を有する金属の板材を適用することが好ましい。上記の各特性に適した金属材料としては、A5052のような高強度アルミニウム合金、チタン合金、合金鋼などを挙げることができる。特に、高強度アルミニウム合金は、被加工材の大径化と高速切削を可能にする点や、切削ブレードの熱伝導率を向上させて摩擦熱の放散を容易にする点で好ましい。
【0050】
(被加工材)
本実施形態に係る切削工具が適用される被加工材については限定されない。セラミックス材料、金属材料など種々の素材からなる被加工材に適用することができる。例えば、セラミックス材料としては、焼結された黒鉛を挙げることができる。金属材料としては、鋼、アルミニウムなどを挙げることができる。
【0051】
(円筒形物品の製造方法)
本実施形態に係る切削工具を用いて、円筒形物品を製造する方法は、基本的に以下に示すような工程1~4を含む。製造される円筒形物品の寸法は、その使用目的に応じて適宜設定することができる。
(工程1)任意の切断機を用いて、被加工材から必要な寸法で所定形状のブロック(例えば、直方体ブロック)を切断する工程
(工程2)本実施形態に係る切削工具を備えた回転切削装置(例えば、ラジアルボール盤)を用いて、前記工程1で得られた前記ブロックに対して、内径及び外径の両方について同時に粗加工による内径加工及び外径加工を行い、粗加工品としての円筒形物品を得る工程
(工程3)旋盤を用いて、前記工程2で得られた円筒形物品に対して、その内径及び外径について仕上げ加工による内径加工及び外径加工を行う工程
(工程4)旋盤を用いて、前記工程3の仕上げ加工された円筒形物品に対して、その両端面に仕上げ加工を行い、仕上げ加工品としての円筒形物品を得る工程
【0052】
本実施形態に係る切削工具を用いて、前記工程2において円筒形物品を製造することにより、作業時間を短縮することができ、被加工材の歩留りを向上することができる点で有用な効果が得られる。
【0053】
図4は、本実施形態に係る切削工具がラジアルボール盤に装着された形態を模式的に示したものである。図4に示すように、ラジアルボール盤2は、加工制御盤6を有するラジアルアーム3とそれを支える支柱4及び基台5等を備えた加工装置である。加工制御盤6は、回転軸7とそれを回転させる駆動モーター8とを備えている。回転軸7は、その周りに回転ディスク9を備えている。加工制御盤6は、ラジアルアーム3のアーム方向に沿って移動可能であり、回転軸7を上下方向に移動させることができる。また、ラジアルアーム3が支柱4を軸にして水平方向に旋回可能である。そのため、加工制御盤6に取り付けられた回転軸7及び回転ディスク9は、上下方向及び水平方向における任意の位置へ移動可能である。
【0054】
切削工具により被加工材を切削加工して、円筒形物品を製造する手順の一例を説明する。まず、第1の切削ブレード11と第2の切削ブレード21とを用いて、二重ブレード構造の切削工具1が組み立てられる。なお、上記の切削ブレードには、所定の配置及び個数からなる切削チップが取り付けられている。組み立てられた切削工具1の上にラジアルボール盤2の回転ディスク9が載置された後、切削工具1と回転ディスク9とがボルトで固定される。他方、ラジアルボール盤2の基台5の上には、ブロック状の被加工材10が載置されて固定される。
【0055】
回転ディスク9に係合された切削工具1を被加工材10の上に置いた後、切削加工が開始される。回転軸7及び回転ディスク9の回転にともなって切削工具1が回転することにより、被加工材10が切削される。第1の切削ブレード11が円筒形物品の外径面に相当する部分を削り出す一方で、第2の切削ブレードが円筒形物品の内径面に相当する部分を削り出す。切削が進行するにつれて、切削工具1は、下方へ移動し、被加工材の下端へ到達した後、回転を停止する。
【実施例
【0056】
以下、本発明に係る実施例について説明する。本発明は、以下の説明に限定されない。
【0057】
実施例では、本発明の範囲に含まれる切削工具を用いて切削加工を行い、粗加工品としての円筒形物品を作製した(本発明例)。図2に示した形態と同様に外筒部と内筒部とが同心円状に配置されるとともに、外筒部の内径が内筒部の外径よりも大きく構成された2つの切削ブレードにより、二重構造の切削工具を組み立てた。切削工具における外筒部及び内筒部の肉厚がいずれも6mm、外筒部の内径が448mm、内筒部の外径が372mmであった。外筒部及び内筒部の先端部に取り付ける切削チップとして、ダイヤモンドコートを施した直径12mmの超硬質丸チップを使用し、外筒部及び内筒部の構成材料として、A5052の高強度アルミニウム合金を使用した。
【0058】
上記超硬質丸チップの配置について、図2に示した形態と同様に、当該丸チップは、外筒部の先端部においては90°の角度で間隔を置いて4か所を対向するように配置され、内筒部においては180°の角度で間隔を置いて2箇所を対向するように配置された。そして、図3に示した形態と同様に、当該丸チップは、外筒部及び内筒部の先端部の端面において下端付近にビスで取り付けられた。当該丸チップは、その直径(12mm)が外筒部及び内筒部の肉厚(6mm)よりも大きいので、外筒部及び内筒部の端面の外側に3mm程度が突出した。
【0059】
また、切り欠き部については、図2の(c)及び(d)に示した形態と同様に、外筒部の円弧状の端部には、90°間隔で4箇所において、中心角±20°の角度範囲に対応する円弧部分に深さ40mmの切り欠き部が設けられた。他方、内筒部の円弧状の端部には、180°間隔で対向する2箇所において、中心角±20°の角度範囲に対応する円弧部分に深さ40mmの切り欠き部が設けられた。なお、本発明例では、被加工材の歩留まりを高めるため、粗加工品の外径が被加工材の外形寸法と同程度となるように切削工具が設計された。
【0060】
上記の切削工具は、図4に示した形態と同様に、ラジアルボール盤の回転ディスクに装着された。被加工材をラジアルボール盤の基台に固定した後、切削工具を回転させて切削加工を進めた。被加工材として、人造黒鉛からなる、幅445mm×奥行445mm×厚さ225mmの直方体ブロックを用いた。加工条件は、切削ブレードの回転数を77rpm、1回転当たりの縦方向の送り量を0.18mmにより切削加工した。その結果、約17minの加工時間で切削加工することができた。加工途中で切削粉を取り除く掃除を行った時間を含め、合計約30minで加工作業を終了し、外径445mm×内径375mm×長さ225mmの円筒形の粗加工品を作製した。
【0061】
本発明例は、加工時の切削粉の排出状況が良好であった。また、切削チップの欠けが生じておらず、チッピング性が良好であった。その後、上記粗加工品の外面、内面及び端面に対して仕上げ加工を行い、外径440mm×内径380mm×長さ200mmの円筒形物品の仕上げ加工品を得た。
【0062】
比較例として、従来の旋盤加工を用いて、実施例と同じ寸法の円筒形の粗加工品を作製した。比較例の円筒形物品を得るための作業工程としては、(i)旋盤加工用の8角形断面のブロックを得るための加工作業、(ii)旋盤により外径加工を行う粗加工作業、(iii)旋盤により内径加工を行う粗加工作業が必要である。比較例は、上記(i)で約15min、上記(ii)で約30min、上記(iii)で約30minが掛かり、合計の加工時間は、約75minであった。上記の本発明例は、従来の粗加工方法(比較例)と比べて、加工時間を大きく短縮できた。
【符号の説明】
【0063】
1 切削工具
2 ラジアルボール盤
3 ラジアルアーム
4 支柱
5 基台
6 加工制御盤
7 回転軸
8 駆動モーター
9 回転ディスク
10 被加工材
11 第1の切削ブレード
12 外筒部(第1の回転部)
13 先端部
14 切り欠き部
15 切削チップ
16 内向きフランジ
17 角度範囲
18 外筒部の内径
19 端面
20 下端
21 第2の切削ブレード
22 内筒部(第2の回転部)
23 先端部
24 切り欠き部
25 切削チップ
26 外向きフランジ
27 角度範囲
28 内筒部の外径
31 他端部
32 ビス
33 切削方向(回転方向)
34 下降方向
35 囲み領域

【要約】
【課題】被加工材から円筒状部品を効率的に加工できる切削工具を提供すること、及び、当該切削工具を用いて円筒状物品を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、第1の切削ブレード11と第2の切削ブレード21とを含み、前記第1の切削ブレード11は、円筒状の第1の回転部12を有しており、前記第2の切削ブレード21は、円筒状の第2の回転部22を有しており、前記第1の回転部12及び前記第2の回転部22は、その先端部13,23に切削チップ15,25を備えており、前記第1の回転部12及び前記第2の回転部22は、回転軸に対して同心円状に配置されており、前記第1の回転部の内径18が前記第2の回転部の外径28よりも大きく構成されている、切削工具である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4