(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】内耳感覚有毛細胞の再生/置換のための併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20240719BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240719BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20240719BHJP
A61K 31/433 20060101ALI20240719BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240719BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20240719BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20240719BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240719BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20240719BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K9/14
A61K31/404
A61K31/433
A61K31/713
A61K38/18
A61K45/06
A61K47/34
A61P27/16
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2018563562
(86)(22)【出願日】2017-06-02
(86)【国際出願番号】 US2017035673
(87)【国際公開番号】W WO2017210553
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-06-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-16
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518423869
【氏名又は名称】ハフ イアー インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ウェスト,マシュー ビー.
(72)【発明者】
【氏名】コプケ,リチャード ディー.
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】光本 美奈子
【審判官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-509899(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/210889(US,A1)
【文献】特許第6527431(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39/44
A61K 48/00
CAPLUS/REGISTRY/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における難聴または平衡機能障害を治療するために該対象の内耳に適用される
キットであって、
治療有効量のGSK-3阻害剤を含む第1剤と、
内耳の組織におけるHes1遺伝子の発現を減少させるのに十分な量のsiRNA分子を含む第2剤と、
を含み、
siRNA分子を含む前記第2剤が、i)GSK-3阻害剤を適用した後に別個に適用されるか、ii)GSK-3阻害剤と同時
であるが前記第1剤からのGSK-3阻害剤の放出に比して前記第2剤からのsiRNA分子の放出が遅延するように適用される、
キット。
【請求項2】
GSK-3阻害剤が、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)およびチデグルシブ(TIDE)から選択される、請求項1に記載の
キット。
【請求項3】
siRNA分子が、配列番号1~14のうちの1つまたは複数を含む、請求項1又は2に記載の
キット。
【請求項4】
前記第2剤が、内耳の組織におけるHes1遺伝子の発現を減少させるsiRNA分子を含むナノ粒子を含む、請求項1または2に記載の
キット。
【請求項5】
ナノ粒子が、生分解性ポリマーをさらに含む、請求項4に記載の
キット。
【請求項6】
生分解性ポリマーが、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)またはペグ化PLGA(PEG-PLGA)である、請求項5に記載の
キット。
【請求項7】
ナノ粒子が、磁気応答性粒子をさらに含む、請求項4から6のいずれか一項に記載の
キット。
【請求項8】
磁気応答性粒子が、超常磁性酸化鉄(SPION)である、請求項7に記載の
キット。
【請求項9】
治療有効量のFGF2をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の
キット。
【請求項10】
経鼓膜投与、蝸牛内注射、蝸牛内注入、または点耳剤のために
前記第1剤および/または前記第2剤が製剤化される、請求項1から9のいずれか一項に記載の
キット。
【請求項11】
対象の内耳における有毛細胞を置換、再生および/または保護するために該対象の内耳に適用される
キットであって、
治療有効量のGSK-3阻害剤を含む第1剤と、
内耳の組織におけるHes1遺伝子の発現を減少させるのに十分な量のsiRNA分子を含む第2剤と、
を含み、
siRNA分子を含む前記第2剤が、i)GSK-3阻害剤を適用した後に別個に適用されるか、ii)GSK-3阻害剤と同時
であるが前記第1剤からのGSK-3阻害剤の放出に比して前記第2剤からのsiRNA分子の放出が遅延するように適用される、
キット。
【請求項12】
GSK-3阻害剤が、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)およびチデグルシブ(TIDE)から選択される、請求項11に記載の
キット。
【請求項13】
FGF2をさらに含む、請求項11に記載の
キット。
【請求項14】
siRNA分子が、配列番号1~14のうちの1つまたは複数を含む、請求項11に記載の
キット。
【請求項15】
前記第2剤が、内耳の組織におけるHes1遺伝子の発現を減少させるsiRNA分子を含むナノ粒子を含む、請求項11に記載の
キット。
【請求項16】
ナノ粒子が、生分解性ポリマーをさらに含む、請求項15に記載の
キット。
【請求項17】
生分解性ポリマーが、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)またはペグ化PLGA(PEG-PLGA)である、請求項16に記載の
キット。
【請求項18】
ナノ粒子が、磁気応答性粒子をさらに含む、請求項15に記載の
キット。
【請求項19】
磁気応答性粒子が、超常磁性酸化鉄(SPION)である、請求項18に記載の
キット。
【請求項20】
正円窓膜または卵円窓膜を横切ってナノ粒子を輸送するための磁力の使用のために
前記第2剤が製剤化される、請求項18に記載の
キット。
【請求項21】
経鼓膜投与、蝸牛内注射、蝸牛内注入、または点耳剤のために
前記第1剤および/または前記第2剤が製剤化される、請求項11に記載の
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、2016年6月3日に出願された米国特許出願第62/345,740号に対する優先権を主張し、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
難聴および平衡機能障害は一般的なヒトの障害である。多くの場合、これらの障害は、(1)蝸牛におけるコルチ器(OC)、(2)稜(cristae)における前庭上皮、または(3)前庭器官の球形嚢もしくは卵形嚢における感覚有毛細胞の喪失に起因する。現在、これらの組織での感覚有毛細胞の修復によってこれらの障害を治療することができるFDAにより認可された治療は存在しない。
【0003】
この問題に対する現在のアプローチは、前庭器官への損傷に順応させるための前庭リハビリテーションを含む。リハビリテーションは時間がかかり、失われた機能を回復しない。感音難聴では、リハビリテーションは、補聴器または人工内耳によって実現され得る。しかしながら、これらの装置は高価であり、正常以下の音質をもたらし、部分的な機能の回復しかもたらさず、人工内耳の症例において広範囲の手術を必要とし得る。
【0004】
聴覚障害の治療における別のアプローチは、ペプチドまたは他の低分子の投与である。蝸牛で比較的高い濃度(マイクロモル濃度またはミリモル濃度)を達成されなければならないため、このような薬剤の使用では治療結果はしばしば限定される。さらに、タンパク質またはペプチド阻害剤は、血液迷路関門および血流でのタンパク質クリアランスならびに潜在的な抗原性のため、耳を治療するために全身送達することが困難である。分子が大きいため、局所送達を使用する場合は特に、適切な濃度のペプチドおよびタンパク質を蝸牛に直接送達することに関しても困難が存在する。
【0005】
これらの従来のアプローチに対する1つの可能性がある代替方法は、内耳有毛細胞の再生および置換を引き起こす標的化遺伝子療法の使用である。例えば、有毛細胞の再生または置換は、げっ歯類において、内耳感覚上皮内にAtoh1遺伝子を導入するウイルスベクターの使用によって実現されている。しかしながら、このアプローチは、感染症、炎症性免疫反応、遺伝子の突然変異、新生物の発生などの誘発を含むウイルスベクター療法につきものの危険性を伴う。kip1p27 RNAのサイレンシングは、有毛細胞の再生を引き起こすことが示されているが、機能の回復を伴わない異所性のものである。網膜芽腫遺伝子の調節も、さらに有毛細胞を生じ得るが、がん遺伝子または発がん遺伝子の操作につきものの危険があり得る。したがって、内耳有毛細胞の再生または置換を目的とする現在の遺伝子療法は、安全かつ効果的な分子標的および送達法を特定できていない。
【0006】
1つの可能性がある遺伝子療法アプローチは、低分子干渉RNA(siRNA)の使用による。細胞内に一旦導入されると、siRNA分子は、標的遺伝子によって発現されたメッセンジャーRNA(mRNA)上の相補配列と複合体を形成する。このsiRNA/mRNA複合体の形成は、RNA干渉(RNAi)として知られている天然の細胞内過程を介してmRNAの分解を引き起こす。RNAiは、特定の細胞過程における遺伝子の機能を同定するため、および疾患モデルにおいて可能性がある治療標的を同定するための、十分に確立された手段である。RNAiは従来、細胞培養およびin vitroでの適用に使用されてきたが、遺伝子療法に基づく治療法が、この過程を利用して現在研究されている。
【0007】
上述のように、内耳の有毛細胞の再生に関して、いくつかの遺伝子標的が研究されているがあまり成功していない。塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)遺伝子Hes1およびHes5は、耳の蝸牛および前庭構造における感覚有毛細胞の発生に関与していることが同定されている。加えて、有毛細胞の喪失を防ぐための可能性がある遺伝子標的は、プログラム細胞死またはアポトーシスに関与する分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ1(MAPK1)である。
【0008】
グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK-3)は、セリンおよびトレオニンアミノ酸残基へのリン酸塩分子の付加を媒介するセリン/トレオニンプロテインキナーゼである。これは、種々の異なる経路における40を超える異なるタンパク質に対するキナーゼであり、種々の疾患に関与している。したがって、GSK-3阻害剤(GSK3I)は動物モデルにおいて安全性および有効性について試験されてきたが、GSK-3の阻害が様々なシグナル伝達カスケードにわたって果たし得る役割はまだ十分に理解されていない。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物または薬剤と、第2の薬剤とを利用して有毛細胞を再生および/または修復するための組成物および方法に関する。
【0010】
いくつかの実施形態では、遺伝子は、Hes1、Hes5またはMAPK1である。
【0011】
いくつかの実施形態では、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物または薬剤は、siRNA分子を含んでもよい。いくつかの実施形態では、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物または薬剤は、遺伝子が調節される経路の阻害剤、例えば、ガンマセクレターゼ阻害剤などのNotchシグナル伝達経路阻害剤を含んでもよい(例えば、Hes1の転写がNotchシグナル伝達によって媒介されるからである)。
【0012】
いくつかの実施形態では、第2の薬剤はプライミング組成物である。いくつかの実施形態では、プライミング組成物は、βカテニンを安定化させること、内耳における多能性細胞の数を増加させること、内耳における既存の多能性細胞の可塑性を増加させること、または内耳の細胞における分化のためのシグナルを送ることからなる群から選択される1つまたは複数の機能を示す。いくつかの実施形態では、この第2の薬剤はGSK-3阻害剤である。さらなる実施形態では、GSK-3阻害剤は、CHIR99021、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)、またはチデグルシブ(TIDE)のいずれか1つまたは複数である。
【0013】
いくつかの実施形態では、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物は、ナノ粒子を含んでもよく、次にナノ粒子は内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤を含んでもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤を封入する。
【0015】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は生分解性ポリマーを含む。さらなる実施形態では、生分解性ポリマーは、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)またはペグ化PLGA(PEG-PLGA)である。
【0016】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、磁気応答性であるか、または磁気応答性粒子を含む。いくつかの実施形態では、磁気応答性粒子は超常磁性酸化鉄(SPION)である。
【0017】
いくつかの実施形態では、第2の薬剤は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤と同じまたは異なるナノ粒子に含まれてもよい。
【0018】
本開示の態様は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物または薬剤と、難聴を治療し、ならびに/または有毛細胞を修復および/または再生するのに十分な治療有効量の第2の薬剤とを適用する方法に関する。いくつかの実施形態では、適用するステップは同時に実施される。代替の実施形態では、適用するステップは逐次的に実施される。さらなる実施形態では、第2の薬剤は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物または薬剤が適用される前または後に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】Hes1 siRNA担持PLGAナノ粒子(NP)処理が耳毒性傷害後に有毛細胞(HC)を再生することを実証するために使用した実験における、マウスのコルチ器(OC)の中回転からの代表的な画像を示す図である。新生児(P3)マウスOCを、オトトキシン(ototoxin)、4-ヒドロキシル-2-ノネナール(4-HNE、450μM)に24時間曝露し、次いで未処理のままにするか、または非ターゲティングスクランブルRNA NP(scRNANP)もしくはHes1 siRNA担持NP(Hes1 siRNANP)のいずれかにより処理し、7日後、組織を固定し、フルオロフォアがコンジュゲートしたファロイジンにより標識した。3列の外有毛細胞(OHC)および1列の内有毛細胞(IHC)が、未処理の培養物からのOCにおいて観察され(左上パネル)、1列のIHCおよび少数の分散したOHC(白抜き矢じり)が4-HNE処理(右上パネル)および4-HNE+scRNANP処理したOC(左下パネル)において観察された。余分なOHC(矢印、右下パネル)およびIHC(矢じり、右下パネル)が、Hes1 siRNANP(800μg/mL)により処理したOCにおいて観察された。
【
図3】Hes1 siRNA NP処理に反応して、オトトキシン、4-HNEに曝露された新生児マウスOCにおいて回復されたHCの数の観察された用量依存反応を実証する図である。高用量のNP(>400μg/mL)による処理の結果、同様に基底回転におけるOHC数の有意な増加がもたらされた。
***および
*は、未処理の培養物と比較して、それぞれ、p<0.001および0.05を示す。###、##および#は、4-HNEのみに曝露された群と比較して、それぞれ、p<0.001、0.01および0.05を示す。括弧内の数字は、HCを計数したOCの数を示す。
【
図4】以下の実験におけるOCの中回転からの代表的な画像を示す図である。新生児(P3)マウスOCを、耳毒性アミノグリコシド、ネオマイシン(NEO、0.75mM)に24時間曝露し、次いで未処理のままにするか、または漸増用量のHes1 siRNA担持NPにより処理した。7日後、組織を固定し、Myo7a抗体(緑色、上パネル)およびフルオロフォアがコンジュゲートしたファロイジン(下パネル)により標識した。3列のOHCおよび1列のIHCが、未処理の培養物からのOCにおいて観察された(左上パネル)。少数の分散したOHC(白抜き矢じり)が、未処理のNEOに曝露したOC(NEOのみ)において観察された。用量依存的なHC数の増加が、漸増用量のsiHes1を封入したPLGA NPにより処理したOCにおいて観察された。示されたNPの用量当量は溶液中の全siRNA濃度に対応し、それぞれ、145、230、および385μg/mLのsiHes1を封入したPLGA NPを表す。
【
図5】用量依存反応が、耳毒性アミノグリコシド、ネオマイシン(NEO)に曝露し、その後、漸増用量のHes1 siRNA NPにより処理した新生児マウスOCにおいて回復したHC(Myo7A陽性細胞)の数においても観察されたことを実証する図である。HCの計数は、OCの中-頂(mid-apical)、中(middle)および中-基底(mid-basal)回転にわたって実施した。示した用量当量は溶液中の全siRNA濃度を表し、78、145、230、および385μg/mLのPLGA NPに対応する。HC数の有意な増加が観察された。
***は、未処理の培養物と比較してp<0.001を示す。###および##は、NEOのみに曝露した群と比較して、それぞれ、p<0.001および0.01を示す。
【
図6】2、4、8および16kHzの試験周波数での偽処置または治療用siHES1 NPで処置した耳からの生きているモルモットの騒音により損傷した蝸牛における聴性脳幹反応(ABR)閾値回復(損傷後)の時間経過を示す図である。音響外傷を、4kHzを中心とする130dB SPLの音響過剰曝露によって2時間誘発した。疑非ターゲティングスクランブルRNA(scRNA)担持NP(800μg/mL)または治療用siHES1 NP(800μg/mL)のいずれかによる遅延(損傷後72時間)治療介入を、ミニ浸透圧ポンプを使用して、蝸牛の基底回転への直接的な片側注入(蝸牛開窓術(cochleostomy))によって行い、ミニ浸透圧ポンプを7日後に外科的に除去した。次いでABR測定を、損傷後2、4、8および10週において両方の実験コホートからの動物の間で行った。偽処置した対照と比較して、騒音に曝露された動物におけるsiHES1 NPにより処置した耳は、この実験の時間経過にわたって、より大きな程度の漸進的な聴覚機能回復(すなわち、試験した周波数範囲にわたるABR閾値の低下)を示した。
【
図7】
図6に示されたABR閾値回復の単純化された時間経過を示す図であり、急性音響外傷に曝露された、生きているモルモットにおけるsiHES1 NPによる遅延(傷害後72時間)治療介入後に達成された聴力回復のレベルが、非ターゲティングscRNA NPにより達成されたものよりも大きかったことを実証する。
【
図8】2、4、8および16kHzの試験周波数での音響過剰曝露の1日後と比較した、処置後10週での外科的に注入した耳におけるscRNA NPまたはsiHES1 NPのいずれかによるin vivoでの遅延(損傷後72時間)治療介入後のAAT後の生きているモルモットにおけるABR閾値回復の差を示す図である。ここで観察されたAAT後の閾値回復に対するsiHES1 NP処置による特異的改善は、臨床的に有意であると予想される。
【
図9】処置した耳からの蝸牛の基底回転から収集した画像を示す図であり、siHES1 NP注入が、成熟色素沈着モルモットの騒音により損傷された蝸牛においてHC数の増加をもたらしたことを実証する。偽(scRNA)および治療的(siHES1)処置した耳におけるMyo7aおよびファロイジンによる標識化により、scRNA NPを注入した耳におけるOHCの顕著な喪失およびsiHES1 NP処置した耳におけるOHC数の著しい回復が明らかにされた。矢印は、siHES1処置した耳における不動毛束(矢じり)を有する過剰のMyo7a陽性IHCの発生を示す。
【
図10】siHES1 NP処置が、損傷を与える音響過剰曝露の後、in vivoでHC数を回復することを示す図である。Myo7aにより免疫標識したIHCおよびOHCの数を定量し、傷害後10週でのscRNA NPおよびsiHES1 NPにより処置した耳におけるOC頂からの距離のパーセント(キロヘルツでの周波数位置)の関数としてIHCおよびOHCの喪失のパーセントを示すサイトコクレオグラム(cytocochleogram)としてグラフ化した。データは平均±SEMとしてプロットする。3つの蝸牛を各データ点について分析した。OHCおよびIHCの喪失の顕著な基底から頂への勾配が、scRNA NPにより処置した耳において観察され、これは、OCの基底回転に沿った高周波数の周波数特定性領域を含む、siHES1 NPにより処置した耳における蝸牛螺旋の全長にわたって劇的に減少した。
【
図11】蝸牛の基底回転から収集した画像を示す図であり、siHES1 NP注入が、有毛細胞を死滅させる大きな損傷を与える騒音に曝露した成熟マウスにおいてin vivoでHC数を回復することを実証する。4週齢のC57BL/6マウスを、116dB SPLにて8~16kHzのオクターブ帯域ノイズの音響過剰曝露に2時間曝露した。音響外傷の72時間後、siHES1 NP(800μg/mL)を、ミニ浸透圧ポンプを使用して、7日間、後半規管に片側から注入した。騒音損傷の8週間後、組織を固定し、HCのMyo7aによる免疫標識のために採取した。siHes1 NP注入の結果、in vivoで騒音により損傷したマウスの蝸牛の構造的に正確な位置におけるHC数が増加した。
【
図12】外リンパ模擬培地中のPLGAナノ粒子からのHES1 siRNAの累積放出プロファイルのグラフである。
【
図13】コルチ器の損傷していない出生後(P3)の器官型培養物における内および外HC(それぞれIHCおよびOHC)の数の増加に対する、単独での、またはGSK-3阻害剤であるBIOの段階的(S)または同時(一緒、T)適用と組み合わせたsiHES1の効果を示す図である。2または10マイクロモル濃度(段階的適用、Sについて)にて、ビヒクルのみ(ジメチルスルホキシド、DMSO)またはGSK-3阻害剤であるBIOのいずれかを含有する培地を添加する前に、コルチ器(OC)を培地のみで24時間培養した。さらに72時間培養した後、培地を交換し、20nMのsiHES1トランスフェクション複合体(JeSI 10mM、Polyplus Transfection、Illkirch、フランス)の存在下または非存在下で、2または10マイクロモル濃度(同時適用、Tについて)にて、DMSO(正常対照、NC、または段階的、S、適用実験について)またはBIOのいずれかを含有する培養培地と置き換えた。さらに48時間後、全ての培地を基礎培地と置き換え、HCの固定および抗Myo7Aによる免疫標識の前にさらに48時間培養した。10マイクロモル濃度のBIOを順次適用し、続いてsiHES1のトランスフェクションの結果、損傷していないOCにおいてIHCおよびOHCの両方の数が最大に増加し(すなわち、より多くのde novo有毛細胞産生)、典型的には出生後の蝸牛における新たなHC産生に対して抵抗性である領域であるOCの中-基底回転において最も大きな差異が観察された。
【
図14】BIOおよびsiHes1による併用処置の結果を示す図であり、いずれかの単一の治療剤単独による処置と比較して、オトトキシンにより除去された卵形嚢の平衡斑状外(extrastriolar)領域におけるHCの数の相乗的増加を実証する。BIOが、有害な損傷後のHCを再生する際にHes1 siRNAの治療効果を増強することができるかどうかを評価するために、新生児のマウスの卵形嚢組織をネオマイシン(NEO)に曝露し、次いで未処理のままにするか、または治療剤の一方もしくは両方により処理した。in vitroで合計8日後、組織を固定し、HCマーカーであるMyo7aにより標識した。###、未処理の対照と比較したMyo7a陽性細胞の差、p<0.001。
*、
**および
***、処理群の間のMyo7a陽性細胞の数の有意差に対してそれぞれ、p<0.05、0.01および0.001。
【
図15】
図14の異なる実験群からの代表的な画像を示す図である。NEO処理後、HC数が大幅に減少する(パネル2)。Hes1 siRNA処理のみの結果、主に平衡斑状(striolar)領域内でHC数は増加したが(パネル4)、siHES1およびBIOによる併用処理の結果、平衡斑状外領域にも及ぶ再生反応の増強がもたらされた(パネル5)。
【
図16】BIOおよびsiHes1による段階的処理の結果、BIOもしくはsiHES1のみのいずれかについて、またはBIO+ガンマセクレターゼ阻害剤(GSI)、デスヒドロキシLY411575(ジベンズアゼピン、5μM)による段階的処置について観察されたものよりも、NEOにより除去した卵形嚢の平衡斑状外領域において、より頑強な分化転換(transdifferentiative)反応が生じたことを実証する図であり、併用処理効果は卵形嚢外植片の平衡斑状領域に大部分限定された。
【
図17】
図16の異なる実験群からの代表的な画像を示す図である。NEO処理後、HC数が大幅に減少する(パネル2)。個々に、BIO、Hes1 siRNAおよびGSI処理のみの結果、平衡斑状領域内のHC数の増加が生じたが(パネル4および6)、BIOおよびsiHES1による併用処理の結果、平衡斑状外領域にも及ぶ再生反応の増強が特有に生じた(パネル5)。
【
図18】成熟マウスOCの全蝸牛培養モデルからの代表的な画像を示す図であり、20倍および40倍の倍率でここに示される異なる実験群の中回転を示す。HC再生を研究するためにこの全蝸牛培養モデルを使用して、成熟マウス蝸牛(P16)を採取し、培地のみで24時間インキュベートすると、この期間にわたって既存のIHCおよびOHCが急速に変性し、死滅した。培養の24時間後、これらの培養物を5μMのBIOにより72時間処理し、続いてsiHES1(20nM)をトランスフェクションし、その後、in vitroで合計9日間培養し、その時点で組織を固定し、ファロイジン(赤色)またはHCマーカーであるMyo7a(緑色)により標識した。BIOおよびHes1 siRNAによる併用処理の結果、これらの条件下で感覚上皮領域内のHC数の顕著な増加が生じた(右パネル)。
【
図19】血清飢餓MDCK細胞におけるGSK3I媒介性増殖の代表的な画像を示す図である。細胞を最初に10%ウシ胎児血清(FBS)の存在下で培養し、次いで24時間、無血清培地に切り替え、その後、10μMのEdUの存在下で示した濃度にてGSK3Iを含む0.2%血清含有培地を添加した。細胞をさらに48時間培養し、その後、固定し、銅触媒による付加環化(「クリック」反応、Click-iT Edu、Life Technologies)におけるAlexaFluor488アジドのコンジュゲーションによりEdu陽性核(緑色)を可視化した。全核をDAPI(青色)により染色した。NC、正常対照または未処理の細胞を、実験時間の過程全体にわたって10%FBSの存在下で培養した。GSK3I、チデグルシブは試験した用量範囲にわたる持続性増殖反応を支持したが、SB-216763などの他のGSK3Iによって誘導された増殖反応は漸増用量に伴って漸進的に減衰した。
【
図20】血清飢餓(すなわち、有糸分裂で抑制された)MDCK細胞において増殖反応を誘導するためのGSK3阻害剤の比較結果を示す図である。
図13に記載されるように培養したMDCK細胞の画像化領域からのEdU陽性核を、ImageJソフトウェア(NIH)を使用して定量し、各領域におけるDAPI染色核の総数に対するEdU陽性細胞数の平均パーセンタイルとしてグラフ化した。各実験条件について最低4つの細胞領域をこの分析に含めた。(
*および
***、未処理の血清飢餓対照と比較してEdU陽性核の統計的に有意な増加について、それぞれp<0.05および0.001)。この標的化分析において調べたGSK3Iの中で、チデグルシブは、これらの血清制限条件下で試験したGSK3I濃度範囲にて最も頑強な有糸分裂反応を支持した。
【
図21】チデグルシブ処理に反応する出生後のコルチ器における有糸分裂活性細胞のEdU標識化を示す図である。出生後3日目のOCを採取し、24時間、in vitroで培養し、その後、0.5または2.0μMの最終濃度にてビヒクルのみ(DMSO)またはチデグルシブ(TIDE)のいずれかの存在下で10μMのEdUを含有する培養培地を添加した。器官型培養物をこれらの薬剤の存在下で72時間連続的に培養し、その後、上記のように固定し、EdU陽性核を可視化した。各群からのOCの中回転の画像を示す。括弧は、各画像における感覚上皮領域を示す。ビヒクルにより処理した対照と比較して、チデグルシブは、培養したコルチ器の感覚上皮領域において顕著に大きな有糸分裂反応を誘導した。
【
図22】ネオマイシン(0.7mM)に24時間曝露し、続いてGSK3阻害剤チデグルシブ(TIDE)および/またはsiHES1(20nM)リポフェクション複合体(JetSI、Polyplus)の存在下または非存在下で回収した後のマウスOCの器官型培養物の中-頂および中領域から定量した有毛細胞(Myo7a+細胞)を示す図である。より多くのHC数が、TIDEおよびsiHES1の組合せにより処理した培養物においてOCの中-頂および中回転の両方において観察され、TIDE、次いでsiHES1の段階的適用により、HC数の最も有意な増加が生じた。
**および
***、NEO処理のみと比較してp<0.01および0.001。##、NEO+siHES1処理と比較してp<0.01。
【
図23】ネオマイシン(0.7mM)に24時間曝露し、続いてGSK3阻害剤チデグルシブ(TIDE)および/またはsiHES1(20nM)リポフェクション複合体(JetSI、Polyplus)の存在下または非存在下で回収した後のマウスOCの器官型培養物の中-頂および中領域から定量した有毛細胞(Myo7a+細胞)を示す図である。より多くのHC数が、ネオマイシンの72時間後にsiHES1により処理した培養物においてOCの中-頂および中回転の両方において観察されたが、TIDE、次いでsiHES1処理の段階的組合せは、OCの中および中-頂回転の両方においてHC数の相乗的増加を生じた。
*および
***、NEO処理のみと比較してp<0.05および0.001。###、NEO+siHES1処理と比較してp<0.01。
【
図24】
図23に記載される実験からのNEOにより損傷した器官型培養物の中で、対照および処置群からのOCの中回転のMyo7a免疫標識を示す図である。
【
図25】ネオマイシン(0.7mM)に24時間曝露し、続いてGSK3阻害剤チデグルシブ(TIDE)および/またはsiHES1(20nM)リポフェクション複合体(JetSI、Polyplus)の存在下または非存在下で回収した後のマウスOCの器官型培養物の中-頂、中、および中-基底領域から定量した有毛細胞(Myo7a+細胞)を示す図である。1組のNEOにより除去したOCを、チデグルシブの効果を潜在的に増強する目的の培地補足物として2ng/mLのFGF-2の存在下でTIDE、次いでsiHes1により処理した。より多くのHC数が、TIDEおよびsiHES1の段階的組合せにより処理した培養物においてOCの中-頂および中回転の両方において観察されたが、増殖培地へのFGF-2の添加は、典型的にはHC再生に対してより抵抗性である領域である、OCの中-基底回転を通して効果を増強した。
*および
***、NEO処理のみと比較してp<0.05および0.001。###、NEO+siHES1処理と比較して、または注記したように処理群の中でp<0.01。
【
図26】
図25に記載される実験からのNEOにより損傷した器官型培養物の中で、対照および処理群からのOCの中回転のMyo7a免疫標識を示す図である。
【
図27】哺乳動物Hes1転写産物の間で保存された標的部位を有する2つの異なるsiHES1分子を使用して、マウス内耳細胞株(IMO-2B1)における偽処理した対照と比較したHes1ノックダウン効率の比較用量曲線分析からの逆転写-定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)結果を示す図である。SiRNA分子を、市販のトランスフェクション剤(RNAiMAX、ThermoFisher Sci.)を使用して、IMO-2B1のサブコンフルエントウェルにトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、全RNAを単離し、Hes1およびハウスキーピング遺伝子GAPDHに対するプライマーを使用して、RT-qPCR分析に供した。相対Hes1レベルを2
-ΔΔCT法により決定した(その全体が参照により組み込まれる、LivakおよびSchmittgen(2001年)Methods 25(4):402~408頁を参照のこと)。分子#7を使用した最適なノックダウンがわずかな程度の2nMのsiRNA(分子#1に必要な約20nMと比較して)を使用して観察されたので、Hes1転写レベルを枯渇させるための分子#7の見かけの効力は分子#1のものよりもかなり大きかった。
【
図28】20,000(左パネル)および40,000(右パネル)倍の倍率での、siHes1 PEG-PLGA NPの代表的な走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【
図29】IMO-2b1内耳細胞におけるフルオロフォアがコンジュゲートしたsiRNA担持PEG-PLGA NPの用量依存的取り込みを実証するグラフを示す図である。
【
図30】FAM scRNA(緑色、左上パネル)およびAF555-PLGA(赤色、右上パネル)の洗浄、固定および共焦点顕微鏡画像化の前の漸増用量(200、400、または800μg/mL)のNPとの24時間インキュベーション後のIMO-2b1におけるDual Fluor PLGA NPの内在化および局在化を示す図である。青色標識化(左下パネル)は細胞核のDAPI染色を表す。融合画像(右下パネル)は、内在化NPからのscRNAとPLGAとの間のシグナル(黄色)の重複を示す。スケールバーは10μmであり、全ての画像に適用される。
【
図31】
図30からの800μg/mLの共焦点画像セットの拡大を示す図である。
【
図32】FAM scRNA(緑色、左上パネル)およびAF555-PLGA(赤色、右上パネル)の洗浄、固定および共焦点顕微鏡画像化の前の漸増用量(200、400、または800μg/mL)のNPとの24時間インキュベーション後のIMO-2b1細胞におけるDual Fluor PEG-PLGA NPの内在化および局在化を示す図である。青色標識(左下パネル)は細胞核のDAPI染色を表す。融合画像(右下パネル)は、内在化NPからのscRNAとPEG-PLGAとの間のシグナル(黄色)の重複を示す。スケールバーは10μmであり、全ての画像に適用される。
【
図33】
図32からの800μg/mLの共焦点画像セットの拡大を示す図である。
【
図34】内耳細胞生存率に対する新たなsiHes1担持PEG-PLGA NP製剤の用量漸増からの潜在的な細胞毒性効果の評価からの結果を示す図である。
【
図35】siHes1担持PLGA NPと比較した、新たなsiHes1担持PEG-PLGA NP製剤の用量漸増によって達成された内耳細胞における相対Hes1サイレンシング効率のペアワイズ比較評価からの結果を示す図である。
【
図36】並行して合成したsiHes1担持PLGA NPと比較した、新たなsiHes1担持PEG-PLGA NP製剤の用量漸増によって達成された、内耳細胞のタンパク質レベルにおける相対的Hes1サイレンシング効率の比較評価からの結果を示す図である。
【
図37】GSK3阻害が、オトトキシンにより除去したOCにおけるHC数を回復するようにsiHes1 NPと相乗作用することを示す図である。出生後(P3)マウス(CD1)OC外植片を、耳毒性アミノグリコシド、ネオマイシンに24時間曝露し、次いで60nMのsiHes1 NPのみ;GSK3阻害剤、チデグルシブ(TIDE)のみ(2μM);または60nMのsiHes1 NPと漸増用量のチデグルシブ(0.5、2、または10μM)との組合せにより6日間処理し、その後、HC特異的マーカーであるMyo7aに対して固定し、免疫標識した。示した画像間の固定基準として中回転。
【
図38】TIDEが、オトトキシンにより除去したOCにおけるHC数を回復するようにsiHes1 NPと相乗作用することを示す図である。NEOにより除去したOCを、単独で、または漸増用量のTIDEと組み合わせて、準最適な(60nM)用量のsiHes1 NPにより処理した。HC定量により、チデグルシブおよび低用量のsiHes1 NP処理を組み合わせた場合、OCの中および中-基底回転におけるHC数の相乗的増加が明らかになった。siHes1 NPの持続放出プロファイルは2つの療法の段階的適用を模倣する。有毛細胞密度の用量依存的増加が、TIDEおよびsiHes1 NPによる共処理の際にOC全体を通して観察された。
*および
***、NEO処理のみと比較してp<0.05および0.001。#および###、NEO+siHes1 NP処理と比較してp<0.05および0.001。n=5OC/条件。
【
図39】騒音により聴力を失ったモルモットにおける聴覚機能の回復に対するsiHES1ナノ粒子の1日の注入の結果を示す図である。モルモットを、聴力を失う騒音レベル(4kHzを中心とする125dB SPLオクターブ帯域ノイズ)に3時間曝露した。音響外傷の72時間後、偽(すなわち、非ターゲティングスクランブルRNA、scRNA)または治療用Hes1 siRNA(siHes1)のいずれかを担持したPLGA NP(800μg/mL)を、24時間(1日注入)にわたって1時間当たり1.0μLの速度にてミニ浸透圧ポンプによって蝸牛に送達した(蝸牛開窓術)。聴性脳幹反応(ABR)測定値を処置後3週間にて記録し、平均ABR閾値回復(すなわち、音響過剰曝露の1日後と比較した聴力回復)を、各群について2~16kHzの試験周波数にわたってプロットした。損傷を与える騒音曝露は、全ての試験周波数にわたって顕著な難聴(すなわち、高ABR閾値シフト)を誘発したが、siHes1 NPにより処置した耳は、scRNA NPにより処置した耳と比較して、2~16kHz範囲全体にわたって閾値回復の有意な改善を示した(
*および
***、p<0.05および0.001;各群についてn=6)。
【
図40】2、4、8および16kHzの試験周波数での音響過剰曝露の1日後と比較した、処置後9週間の外科的に注入した(1日投与)耳における、in vivoでのscRNA NPまたはsiHES1 NPのいずれかによる遅延(損傷後72時間)治療介入後の聴力を失った後の生きているモルモットにおけるABR閾値回復の差を示す図である。ここで観察された閾値回復に対するsiHES1 NP処置に特異的な改善の程度は、臨床的に有意であると予測される(
*p<0.05、
**p<0.01)。
【
図41】siHES1 NP処置が、騒音に曝露された成熟色素沈着モルモットにおいて、処置された耳からの蝸牛の基底回転におけるHC数を回復することを実証する図である。偽(scRNA)および(siHes1)NPにより処置した耳におけるMyo7aおよびファロイジンによる標識化により、scRNA NPを注入した耳におけるOHCの明白な喪失、および騒音により除去したモルモット蝸牛の中および基底回転の両方におけるsiHes1 NPにより処置した耳におけるOHC数の顕著な回復が明らかにされた。矢印は、形態学的に成熟したHCのde novo産生と一致する、siHes1 NPにより処置した耳のIHC領域において独自に観察される不動毛束(矢じり)を有する異所性Myo7a陽性HCの発生を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.定義
本明細書に使用される場合、「に十分な量」という用語は、意図した効果の達成を可能にする、例えば、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる量を指す。このような量は、意図した効果に基づいて、当技術分野において公知の種々のアッセイによって決定することができる。
【0021】
本明細書に使用される場合、「適用すること」または「投与すること」という用語は、指定された薬剤、組成物、または力を、指定された領域または対象に導入する全ての手段を指す。「投与」または「適用」は、治療の過程を通して1回の用量で、連続的または断続的に行うことができる。最も効果的な投与手段および投与量を決定する方法は、当業者に公知であり、療法に使用される組成物、療法の目的、治療される標的細胞、および治療される対象によって異なる。単回または複数回の投与は、治療する医師によって選択される用量レベルおよびパターンにより実施され得る。適切な投薬製剤および薬剤を投与する方法は当技術分野において公知である。投与経路も決定することができ、最も効果的な投与経路を決定する方法は当業者に公知であり、治療に使用される組成物、治療の目的、治療される対象の健康状態または病期、および標的細胞または組織によって異なる。投与経路の非限定的な例には、経口投与、経鼻投与、吸入、注射、および局所適用が含まれる。投与は工業的および治療的適用における使用のためであってもよい。
【0022】
本明細書に使用される場合、「生分解性」という用語は、使用中に分解することを意図される、ポリマー、組成物、および製剤などの物質を記載するために本明細書に使用される。生分解性物質はまた、「生体適合性」でもあり得、すなわち、生体組織に有害ではない。非限定的な例示的な生分解性物質には、任意選択でペグ化されている、ポリ(乳酸)(PLA)およびポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)が含まれる。
【0023】
本明細書に使用される場合、「BIO」または「6-ブロモインジルビン-3’-オキシム」という用語は、以下に示される構造を有する化合物および薬学的に許容されるその塩を指す:
【0024】
【0025】
本明細書に使用される場合、「細胞」という用語は、真核細胞を指す。「有毛細胞」という用語は、顕微鏡下で微細な毛のように見える長い繊毛(例えば、不動毛および/または動毛)を有することを特徴とする感覚上皮細胞を指し;本明細書に使用される場合、有毛細胞(HC)は、それらの位置、例えば、内耳有毛細胞(IHC)または外耳有毛細胞(OHC)によって識別され得る。このような有毛細胞は、少なくとも耳のコルチ、斑、および稜の蝸牛器官に存在することが知られている。
【0026】
本明細書に使用される場合、「分化」という用語は、特定の成熟/特殊化した細胞型の形質と一致する、および/またはそれらを促進/維持する特定の遺伝子産物を産生する、成熟/特殊化した細胞型の細胞(例えば、有毛細胞)に細胞を発達させる特定の状態を指す。
【0027】
本明細書に使用される場合、「発現」という用語は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写されるプロセス、および/または転写されたmRNAが続いてペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。遺伝子の発現レベルは細胞または組織試料中のmRNAまたはタンパク質の量を測定することによって決定することができ、さらに、複数の遺伝子の発現レベルは特定の試料についての発現プロファイルを確立するために決定することができる。発現の文脈に使用される場合、「増加する」という用語は、転写および/または翻訳の量を増加させるのに役立つ1つまたは複数の作用を指す。同様に、「減少する」という用語は、転写および/または翻訳の量を減少させるのに役立つ1つまたは複数の作用を指す。
【0028】
本明細書に使用される場合、「遺伝子」という用語は、RNAがコーディング(例えば、mRNA)であるか、または非コーディング(例えば、ncRNA)であるかに関わらず、RNA分子に転写される任意の核酸配列を広範に含むことを意味する。
【0029】
本明細書に使用される場合、「GSK-3」という用語は、この名称に関連するタンパク質、すなわち、セリンおよびトレオニンアミノ酸残基上へのリン酸塩分子の付加を媒介するセリン/トレオニンプロテインキナーゼを指す。
【0030】
本明細書に使用される場合、「Hes1」(HesファミリーBHLH転写因子1、クラスB塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックスタンパク質39、ヘアリー様タンパク質、ヘアリーホモログ、BHLHb39、HHL、HRY、ヘアリーアンドエンハンサーオブスプリット1(Hairy And Enhancer Of Split 1)、(ショウジョウバエ)、ヘアリーアンドエンハンサーオブスプリット1、ヘアリーホモログ(ショウジョウバエ)、HES-1、またはHLとしても知られている)という用語は、この名称および/またはGCID:GC03P194136、HGNC:5192、Entrez遺伝子:3280、Ensembl:ENSG00000114315、OMIM:139605、UniProtKB:Q14469(これらの各々はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に関連する遺伝子および結果として生じるタンパク質産物、ならびに限定されないが、ヒト、マウス、ラット、モルモット、およびチンチラを含む、特定の種におけるそれらのホモログまたはオルソログを指す。ヒトHes1の非限定的な例示的なアミノ酸配列は本明細書以下に提供される(配列番号13):
MPADIMEKNSSSPVAATPASVNTTPDKPKTASEHRKSSKPIMEKRRRARINESLSQLKTLILDALKKDSSRHSKLEKADILEMTVKHLRNLQRAQMTAALSTDPSVLGKYRAGFSECMNEVTRFLSTCEGVNTEVRTRLLGHLANCMTQINAMTYPGQPHPALQAPPPPPPGPGGPQHAPFAPPPPLVPIPGGAAPPPGGAPCKLGSQAGEAAKVFGGFQVVPAPDGQFAFLIPNGAFAHSGPVIPVYTSNSGTSVGPNAVSPSSGPSLTADSMWRPWRN
【0031】
本明細書に使用される場合、「Hes5」(HesファミリーBHLH転写因子5、クラスB塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックスタンパク質38、ヘアリーアンドエンハンサーオブスプリット5、BHLHb38、ヘアリーアンドエンハンサーオブスプリット5(ショウジョウバエ)としても知られている)という用語は、この名称および/またはGCID:GC01M002528、HGNC:19764、Entrez遺伝子:388585、Ensembl:ENSG00000197921、OMIM:607348、UniProtKB:Q5TA89(これらの各々はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に関連する遺伝子および結果として生じるタンパク質産物、ならびに限定されないが、ヒト、マウス、ラット、モルモット、およびチンチラを含む、特定の種におけるそれらのホモログまたはオルソログを指す。ヒトHes5の非限定的な例示的なアミノ酸配列は本明細書以下に提供される(配列番号14):
MAPSTVAVELLSPKEKNRLRKPVVEKMRRDRINSSIEQLKLLLEQEFARHQPNSKLEKADILEMAVSYLKHSKAFVAAAGPKSLHQDYSEGYSWCLQEAVQFLTLHAASDTQMKLLYHFQRPPAAPAAPAKEPKAPGAAPPPALSAKATAAAAAAHQPACGLWRPW
【0032】
本明細書に使用される場合、「阻害剤」という用語は、分子(例えば、タンパク質、核酸、または他の生物学的分子)が特定の反応に関与することを抑制または阻止する組成物または薬剤を指す。例えば、GSK-3阻害剤は、GSK-3がその生物学的機能の1つまたは複数に関与するのを阻止する組成物または薬剤を指すために使用され得る。非限定的な例示的なGSK-3阻害剤には、BIO、TIDE、カイロン(Chiron)化合物、塩化リチウム、およびSB-216763が含まれる。
【0033】
本明細書に使用される場合、「MAPK1」(分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ1、細胞外シグナル制御キナーゼ2、分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ2、MAPキナーゼアイソフォームP42、MAPキナーゼ1、MAPキナーゼ2、EC2.7.11.24、P42-MAPK、MAPK2、PRKM1、PRKM2、ERK-2、ERK2、ERT1、プロテインチロシンキナーゼERK2、EC2.7.11、P42MAPK、P41mapk、MAPK1、MAPK2、P40、P38、ERK、P41としても知られている)という用語は、この名称および/またはGCID:GC22M021754、HGNC:6871、Entrez遺伝子:5594、Ensembl:ENSG00000100030、OMIM:176948、UniProtKB:P28482(これらの各々はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に関連する遺伝子および結果として生じるタンパク質産物、ならびに限定されないが、ヒト、マウス、ラット、モルモット、およびチンチラを含む、特定の種におけるそれらのホモログまたはオルソログを指す。ヒトMAPK1(アイソフォーム1)の非限定的な例示的なアミノ酸配列は本明細書以下に提供される(配列番号15):
MAAAAAAGAGPEMVRGQVFDVGPRYTNLSYIGEGAYGMVCSAYDNVNKVRVAIKKISPFEHQTYCQRTLREIKILLRFRHENIIGINDIIRAPTIEQMKDVYIVQDLMETDLYKLLKTQHLSNDHICYFLYQILRGLKYIHSANVLHRDLKPSNLLLNTTCDLKICDFGLARVADPDHDHTGFLTEYVATRWYRAPEIMLNSKGYTKSIDIWSVGCILAEMLSNRPIFPGKHYLDQLNHILGILGSPSQEDLNCIINLKARNYLLSLPHKNKVPWNRLFPNADSKALDLLDKMLTFNPHKRIEVEQALAHPYLEQYYDPSDEPIAEAPFKFDMELDDLPKEKLKELIFEETARFQPGYRS
【0034】
本明細書に使用される場合、「磁気応答性」という用語は、磁気として知られる物理現象から生じる引力または反発力に応答する粒子または作用物質の能力を指す。いくつかの実施形態では、磁気応答性であることにより、磁気勾配の適用による粒子または作用物質の制御された移動または輸送が可能となる。「磁気応答性」作用物質の非限定的な例は酸化鉄であり、ある特定の酸化鉄粒子は超常磁性であってもよい。このような超常磁性酸化鉄粒子は、マクロスケール、マイクロスケール、またはナノスケールであってもよい。ナノスケールの超常磁性酸化鉄粒子はSPIONという省略表現で称される。
【0035】
本明細書に使用される場合、「ミクロスフェア」という用語は、約1~約1000ミクロンの範囲のサイズを有する、例えば、対象組成物などの生体適合性ポリマーから形成される、実質的に球形のコロイド構造を含む。マイクロカプセルは一般にポリマー製剤などの、ある種の物質によって覆われているので、一般に「マイクロカプセル」はミクロスフェアと区別することができる。「微粒子」という用語は、ミクロスフェアおよびマイクロカプセル、ならびに上記の2つのカテゴリーのいずれかに容易に分類できない構造であり、全て平均約1000ミクロン未満の寸法を有する。構造が直径約1ミクロン未満である場合、対応する技術分野で認識されている用語である「ナノスフェア」、「ナノカプセル」、および「ナノ粒子」を利用することができる。
【0036】
「薬学的に許容される担体」(または「薬学的に許容される賦形剤」)という用語は、本明細書に開示される組成物に使用され得る任意の希釈剤、賦形剤、または担体を指す。薬学的に許容される担体には、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えば、ヒト血清アルブミン、緩衝物質、例えば、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール、ミクロスフェア、微粒子、またはナノ粒子(例えば、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)などの生分解性ポリマーを含む)、および羊毛脂が含まれる。適切な医薬担体は、この分野の標準参照テキストである、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Companyに記載されている。それらは、意図される投与形態、すなわち、経口錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、シロップ剤などに関して選択され得、従来の薬務と両立し得る。
【0037】
本明細書に使用される場合、「可塑性」という用語は、ある細胞(例えば、幹細胞)が別の細胞の特徴を呈する能力を指し、一般に分化の文脈に使用される。「多能性」という用語は、いくつかの異なる細胞型を生じる細胞の能力を指す。
【0038】
本明細書に使用される場合、「ポリマー」という用語は、反復サブユニットから構成される分子を指す。一般に、ポリマーは、「低分子化合物」として分類されているそれらの分子に比べて、より大きな分子量を有する傾向がある。
【0039】
本明細書に使用される場合、「置換すること」または「再生すること」という用語は、有毛細胞の再生、再成長、または回復を指す。「保護する」という用語は、有毛細胞喪失の阻止または軽減を意図する。
【0040】
本明細書に使用される場合、診断または治療の「対象」という用語は、細胞または哺乳動物などの動物もしくはヒトである。診断または治療の対象となる非ヒト動物は、命名された疾患または状態(例えば、難聴)を患うものまたはその動物モデル、例えば、サル、マウス、例えば、ラット、マウス、チンチラ、イヌ科、例えば、イヌ、ウサギ科、例えば、ウサギ、家畜、スポーツ動物、およびペットである。
【0041】
本明細書に使用される場合、「siRNA」という用語は、特定の遺伝子または転写後の遺伝子の発現を干渉する二本鎖RNA分子を意図する。いくつかの実施形態では、siRNAは、RNA干渉経路を使用して遺伝子発現を干渉または阻害するように機能する。同様の干渉または阻害効果が、ショートヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(mRNA)および/または1つもしくは複数の修飾核酸残基を含む核酸(siRNA、shRNA、またはmiRNAなど)、例えば、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA)、アンロックド核酸(UNA)、またはトリアゾール連結DNAのうちの1つまたは複数によって達成され得る。
【0042】
本明細書に使用される場合、「TIDE」または「チデグルシブ」という用語は、以下に示される構造を有する化合物、ならびに薬学的に許容されるその塩および誘導体を指す:
【0043】
【0044】
意図される誘導体の非限定的な例には、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2014/005195号に開示されているものが含まれる。そのようなTIDE誘導体はTIDEと同じ機能を有し得るが、改善された安定性、溶解性、または薬物動態のために修飾されてもよい。本明細書において意図される誘導体のさらなる非限定的な例には、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Morales-Garciaら、(2012年)ACS Chem.Nuerosci.3:963~917頁に開示されているものが含まれる。TIDEに関連するGSK3阻害剤およびその誘導体には、GSK3阻害剤類似体のTDZDファミリーが含まれる。
【0045】
本明細書に使用される場合、「組織」という用語は、生きているもしくは死んだ生物の組織、あるいは生きているもしくは死んだ生物に由来するか、またはそれらを模倣するように設計された任意の組織を指す。
【0046】
本明細書に使用される場合、「治療有効量」という用語は、所望の効果を達成するのに十分な量を指す。治療的適用の文脈において、有効量は、問題となる状態の種類および重症度、ならびに全身の健康状態、年齢、性別、体重、および医薬組成物に対する耐性などの個々の対象の特徴に依存する。免疫原性組成物の文脈において、いくつかの実施形態では、有効量はバイオフィルムの分解を生じるのに十分な量である。他の実施形態では、免疫原性組成物の有効量は、抗原に対する抗体生成をもたらすのに十分な量である。いくつかの実施形態では、有効量は、それを必要とする対象に対して受動免疫を与えるのに必要な量である。免疫原性組成物に関して、いくつかの実施形態では、有効量は、上記の要因に加えて、意図される使用、特定の抗原化合物の免疫原性の程度、および対象の免疫系の健康/応答性に依存する。当業者は、これらおよび他の要因に応じて適切な量を決定することができる。in vitroでの適用の場合、いくつかの実施形態では、有効量は、問題になっている適用の大きさおよび性質に依存する。それはまた、in vitroでの標的の性質および感受性、ならびに使用方法に依存する。当業者は、これらおよび他の考慮に基づいて有効量を決定することができる。有効量は、実施形態に応じて、組成物の1回または複数回の投与を含んでもよい。
【0047】
本明細書に使用される場合、「治療すること」または「治療」という用語は、疾患、障害または状態が、疾患、障害および/もしくは状態にかかりやすいか、またはそれらを有する対象において発生することを阻止すること;疾患、障害または状態を阻害すること、例えば、その進行を妨げること;ならびに疾患、障害または状態を軽減または好転させること、例えば、疾患、障害および/または状態の退縮を引き起こすことを含む。疾患または状態を治療することはまた、特定の疾患または状態の少なくとも1つの症状を改善することを含んでもよい。「難聴」という用語は、音を感知する能力の機能障害を指し、したがって、その治療は、音を感知する能力に対する上記に列挙した効果のいずれか1つを意味する。「感音難聴」という用語は、内耳または内耳から脳への神経経路に損傷がある特定の種類の難聴を指す。
【0048】
2.本開示を実施する方法
本開示の態様は、1つまたは複数の薬剤または組成物を耳の特定の組織または領域に適用することによって、難聴、任意選択で感音難聴を治療する方法、および/または有毛細胞を置換、再生、もしくは保護する方法に関する。
【0049】
本明細書に開示される方法に基づいて治療され得る耳の領域は、
図1に名称を記している、その外耳、中耳、または内耳領域を含むが、これらに限定されない。
【0050】
組成物
本開示の態様は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物または薬剤と、第2の薬剤とに関する。
【0051】
いくつかの実施形態では、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物または薬剤は、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)などの干渉核酸、および/または1つもしくは複数の修飾核酸残基を含む核酸である。いくつかの実施形態では、干渉核酸は、目的の組織への送達の前および/または送達の際に分解を最小化するように、(配列に基づいて)最適化されるか、または化学的に修飾される。これらの干渉核酸についての商業的に入手可能な供給源には、Thermo-Fisher Scientific/Ambion、Origene、Qiagen、Dharmacon、およびSanta Cruz Biotechnologyが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、このような最適化および/または修飾は、干渉核酸の十分なペイロードが目的の組織に送達されることを確実にするために行われ得る。他の実施形態は、発現を制限するために遺伝子のDNAに結合することによって遺伝子の発現を減少させるように設計された低分子、アプタマー、もしくはオリゴヌクレオチド、例えばアンチジーンオリゴヌクレオチドの使用、あるいは限定されないが、前記遺伝子の発現が低減されるように標的化転写産物もしくは遺伝子産物または1つもしくは複数の他のタンパク質に直接的に結合することを含む機構を介して転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を課すように設計された低分子、アプタマー、もしくはオリゴヌクレオチドの使用、あるいは特定の遺伝子の発現を低減させる他の低分子デコイの使用を含む。いくつかの実施形態では、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物または薬剤は、遺伝子が調節される経路の阻害剤、例えば、ガンマセクレターゼ阻害剤などのNotchシグナル伝達経路阻害剤を含んでもよい(例えば、Hes1の転写がNotchシグナル伝達によって媒介されるからである)。
【0052】
いくつかの実施形態では、遺伝子は、Hes1、Hes5、またはMAPK1である。非限定的な例示的なこれらの遺伝子の配列およびそれらに対するsiRNA配列は、例えば、米国特許第9,101,647号に提供されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。さらなる非限定的な例示的なsiRNA配列は、配列番号1~24(これらの配列における小文字は任意選択であり、配列番号1~14はHes1を対象とし、配列番号15~20はHes5を対象とし、配列番号21~24はMAPK1を対象とする)として本明細書以下に提供される。さらなる配列は、当技術分野において公知の方法、例えば、Fakhrら、(2016年)Cancer Gene Ther.23(4):73~82頁に従って決定することができる。
【0053】
【0054】
【0055】
いくつかの実施形態では、第2の薬剤はプライミング組成物である。いくつかの実施形態では、プライミング組成物は、βカテニンを安定化させること、内耳における多能性細胞の数を増加させること、内耳における既存の多能性細胞の可塑性を増加させること、または内耳の細胞における分化のためのシグナルを送ることからなる群から選択される1つまたは複数の機能を示す。いくつかの実施形態では、この第2の薬剤はGSK-3阻害剤である。さらなる実施形態では、GSK-3阻害剤は、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)またはチデグルシブ(TIDE)のいずれかである。いくつかの実施形態では、第2の薬剤は、限定されないが、GSK-3阻害剤および/または発生シグナル伝達に関与する1つもしくは複数の因子(例えば、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2および/またはFGF模倣物)などの1つまたは複数の成分を含んでもよく、このファミリーの非限定的な例は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、KatohおよびKatoh(2006年)Cancer Biol.Therapy 5(9):1059~1064頁に提供されている。
【0056】
製剤
いくつかの実施形態では、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる組成物は、製剤および/または粒子を含んでもよく、その製剤および/または粒子は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤を含んでもよい。
【0057】
このような製剤および/または粒子の非限定的な例には、ナノ粒子、リポフェクション、ゲルまたはヒドロゲル(例えば、Kechaiら、(2016年)J Control Release.226:248~57頁)、ナノエマルション(例えば、米国特許出願公開第2005/0288292号)、微粒子(例えば、Yangら、(2012年)Electrophoresis.33(21):3173~80頁)、コロイド懸濁液(例えば、Arianaら、(2016年)Otolaryngol Head Neck Surg.154(5):917~9頁)、滅菌懸濁液(例えば、http://www.ciprodex.com/におけるCiprodex)、溶液(例えば、Parraら、(2002年)Antimicrob Agents Chemother.46(3):859~62頁)、エアロゾル(例えば、Liら、(2013年)IEEE Trans.Biomed.Eng.60(9):2450~2460頁)、粉剤(例えば、http://fauquierent.blogspot.com/2009/10/treatment-of-chronic-draining-ear.html#ixzz459wcRKOr)、点耳剤(例えば、Wintersteinら、(2013年)Otolaryngol Head Neck Surg.148(2):277~83頁)、ナノファイバー(例えば、Akiyamaら、(2013年)Int J Nanomedicine.8:2629~2640頁)、またはクリーム(例えば、Quadiderm(登録商標)クリーム)が含まれる。本明細書上記に引用した全ての参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。
【0058】
いくつかの実施形態では、製剤および/または粒子は、特に内耳への送達のために適合される。例えば、熱可逆性ヒドロゲル(例えば、プルロニックF-127)などのゲル製剤は、薬物が内耳に拡散または輸送され得るように、薬物が中耳に維持され、正円窓膜と接触することを可能にする。同様にコロイド懸濁液は、特に、内耳に直接的に注射するために製剤化されてもよいか、または正円窓膜を通る拡散もしくは他の輸送手段のために鼓膜を横切ってもよい。同様に、複数のナノ粒子を含むナノ粒子または製剤は、例えば、磁力による、制御された送達のために製剤化されてもよい。このような方法は、微粒子および/または別のナノスケール構造に一般化することができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、第2の薬剤は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤と同一または異なる製剤および/または粒子に含まれてもよい。いくつかの実施形態では、第2の薬剤は、同じもしくは異なる製剤にあり、および/または標的組織へのその適用のタイミングを容易にするためであり、つまり、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤である粒子に対して同時または逐次的である。例えば、同時送達ではあるが、逐次放出の場合、第2の薬剤は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤を含む持続放出製剤および/または粒子と共に投与される溶液に含まれてもよい。同様の効果は、異なる薬剤についての異なる放出プロファイルのために製剤化された両方の薬剤を含む単一の製剤および/または粒子の使用によって達成され得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤を含むか、または封入する。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は生分解性ポリマーを含む。さらなる実施形態では、生分解性ポリマーは、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)またはペグ化PLGA(PEG-PLGA)である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、限定されないが、ポリビニルアルコール(PVA)または他の公知のナノ粒子安定剤を含む、さらなる添加剤を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、磁気応答性であるか、または磁気応答性粒子を含む。いくつかの実施形態では、磁気応答性粒子は、酸化鉄、任意選択で超常磁性(superpararmagnetic)酸化鉄(SPION)である。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、溶液、懸濁液、ゲル、またはその送達に適した他の製剤にさらに含まれてもよい。
【0061】
さらなる実施形態では、同じまたは異なるナノ粒子は、第2の薬剤を含んでもよいか、または封入してもよい。本明細書上記に開示されるナノ粒子は、油中水型エマルションまたは当技術分野において公知の任意の他の技術によって形成することができる。したがって、限定されないが、デュアルコア/シェル担持(例えば、Narayanら、(2014年)Acta Biomaterialia.2112~2124頁)、共封入(例えば、Songら、(2008年)Eur J Pharm Biopharm.69(2):445~53頁)、および層ごとの堆積(例えば、Dengら、(2013年)ACS Nano.7(11):9571~9584頁)などの、1種より多い薬剤を含むナノ粒子を生成するための様々な選択肢が利用可能である。本明細書上記に引用した全ての参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。
【0062】
ナノ粒子は、放出のタイミングを容易にするように製剤化されてもよく、例えば、難水溶性の第2の薬剤(例えば、TIDE)が、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる親水性薬剤(例えば、siHes1)を担持したナノ粒子の有機シェルに封入されてもよい。第2の薬剤は、水により接近しやすいので、最初に放出され、続いて内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤が持続放出される。
【0063】
投与様式
上記に開示された薬剤、組成物、製剤および/または粒子は、内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤の前または後に投与される第2の薬剤と同時にまたは逐次的に投与されてもよい。
【0064】
投与量は、当技術分野において公知の方法によって容易に決定することができる。例えば、有効なin vitro用量、例えば、約0.5から10μMの間の第2の薬剤(例えば、TIDE)および約20から320nMの間の内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤(例えば、siHes1)は、適切なin vivo用量にスケールアップされてもよい。内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤の非限定的な例示的なin vivo用量は、約100から300nMの間のsiHes1である。いくつかの実施形態では、適切なin vivo用量は、約5nMから5mMの第2の薬剤(例えば、TIDE)および約1nMから5mMの間の内耳の組織における遺伝子の発現を減少させる薬剤(例えば、siHes1)の量であってもよい。適切な投与レジメン(regiment)は、各薬剤について適切な間隔で1つまたは複数の用量を必要とし得ることが意図され、これらの間隔は薬剤または適応症によって変化させてもよい。適切な投与間隔は、約1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、1カ月、2カ月、3カ月またはそれ以上であってもよい。
【0065】
いくつかの実施形態では、適用および/または投与は、例えば、指定された薬剤または組成物の直接適用、注射、または注入であってもよい。いくつかの実施形態では、指定された薬剤または組成物は、正円窓膜(RWM)を通した直接注射によって、またはRWMを通して配置された一時的もしくは永久的なカニューレを介した注入によって投与されてもよい。いくつかの実施形態では、注入または注射は、取り付けられた微量注入ポンプ、透析装置、または流体交換システムによって補助されてもよい。同様の実施形態では、注射または注入技術はまた、卵円窓、および/または卵円窓の靭帯もしくは輪に適用されてもよい。注射または注入はさらに、蝸牛開窓術または半規管の1つなどの骨迷路内への他の開口部を介して達成されてもよい。あるいは、皮質骨は迷路上で除去されてもよく、指定された薬剤または組成物は、骨内送達のために皮質除去された骨上に適用されてもよい。いくつかの実施形態では、組成物または薬剤は、静脈内または動脈内投与によって全身に送達される。
【0066】
上記に列挙した投与経路は決して網羅的ではない。一般に、内耳への送達には様々な手段があるが、これらは、2つの一般的なカテゴリー、つまり、内耳への造瘻術(必要な場合、ドリル、ナイフ、またはレーザーで開口される)を介するものと、およびRWM、アブミ骨底板の靱帯を通る、または蝸牛の領域もしくは前庭構造を通る拡散を介するもの(典型的には、骨の領域は、内耳骨内膜裏層および流体から中耳空間を分離する非常に薄い骨だけが残るような厚さまで薄くされる)とに分類される。
【0067】
いくつかの実施形態では、造瘻術が使用される場合、造瘻術は機械または手動で行われる。いくつかの実施形態では、造瘻術は、アブミ骨底板を介し、蝸牛へのドリルで開けられた開口部を介し、半規管へのドリルで開けられた開口部を介し、前庭水管を介し、蝸牛開窓術を介し、RWMへの直接的な開口部を介する。いくつかの実施形態では、造瘻術は、埋め込み電極を差し込むように行われ、したがって開示される製剤および/または粒子の1つまたは複数は、1つまたは複数の薬剤または組成物を環境に溶出するように電極表面に結合され得る。いくつかの実施形態では、造瘻術を受ける1つまたは複数の開口部は、約1日から約1週間、2週間、3週間、4週間、または1カ月の間、例えば約1から30日の間、アクセス可能である。いくつかの実施形態では、造瘻術は、開口部がアクセス可能である期間にわたる単回注射または連続注入に適している。
【0068】
いくつかの実施形態では、拡散が利用される場合、薬剤、組成物、製剤および/または粒子は、内耳液への特定の膜構造を横切る拡散を可能にする。非限定的な例示的な製剤には、溶液、ゲル、エマルション、または懸濁液が含まれる。例えば、ゲルまたはペレットは、本明細書上記に開示される1つまたは複数の薬剤、組成物、および/または粒子の送達に適し得る。例えば、ゲルは、送達のための表面積を増加させることによって送達を向上させるためにアブミ骨上およびRWM上および薄くなった骨の領域上に経鼓膜的に(transtympanically)配置されてもよい。同様に、固体または半固体のペレットが、前記膜との薬物接触を向上させ、薬物が中耳腔から除去されないようにする手段として、アブミ骨底板、RWMまたは薄くなった骨の領域に配置されてもよい。
【0069】
理論に束縛されるものではないが、内耳液に薬物を送達するための低侵襲性の拡散アプローチの課題の1つは、RWMの表面積が小さいこと、およびアブミ骨底板の靭帯の表面積がさらに小さいことであり得る。いくつかの実施形態では、「ブルーライニング(blue-lining)」として当技術分野において公知の手順がこの問題を解決することができる。「ブルーライニング」により、穿孔領域は極めて薄くなり、内耳の内面上の骨内膜をぎりぎり覆う。これは、吸収のための表面積を大幅に増加させることができ、蝸牛または内耳の他の領域に実際の開口部を作製するよりも侵襲性が低くなり得る。熟練した耳の外科医は、この手順を安全に実施することができるはずである。
【0070】
いくつかの実施形態では、送達は、鼓膜を横切る単回または複数回の注射で達成され得る。いくつかの実施形態では、送達は、鼓膜に挿入されたプラスチックチューブを介した単回または複数回の注射によって達成され得る。いくつかの実施形態では、送達は、カテーテルを介した連続注入によって達成され得、その先端は拡散が起こる領域に直接配置される。
【0071】
キット
本明細書に記載されるin vitroおよびin vivo法を実施するのに必要な薬剤および指示書を含むキットも特許請求される。したがって、本開示は、本明細書に開示される1つまたは複数の薬剤、組成物、製剤および/または粒子を含み得る、これらの方法を実施するためのキット、ならびに、組織を採取することおよび/またはスクリーニングを実施すること、および/または結果を分析すること、および/または本明細書に定義される有効量の干渉剤の投与などの、本明細書に開示される方法を実施するための指示書を提供する。これらは、単独で、または他の適切な治療剤と組み合わせて使用することができる。
【0072】
適応症
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される製剤、組成物、方法、投与様式、およびキットは、1つまたは複数の適応症の治療において使用され得る。本明細書に意図される非限定的な例示的な適応症には、大きな音、音響外傷、発破、毒素、ウイルスまたは細菌感染、加齢、感覚有毛細胞の喪失を伴う遺伝的難聴、および糖尿病または甲状腺機能低下症などの代謝状態に起因する蝸牛感覚有毛細胞の喪失をもたらす感音難聴が含まれる。さらなる非限定的な例示的な適応症には、毒素、外傷、ウイルスまたは細菌感染、加齢、遺伝的に誘導される平衡感覚有毛細胞の喪失または糖尿病もしくは甲状腺機能低下症などの代謝状態に起因する末梢前庭器官(稜または黄斑)における感覚有毛細胞の喪失または損傷に起因する平衡障害が含まれる。
【0073】
3.実施例
以下の実施例は非限定的であり、本開示を実施する際の様々な場合において使用され得る手順を例示する。さらに、本明細書の以下に開示される全ての参考文献は、それらの全体が参照として組み込まれる。
【実施例1】
【0074】
siHes1ナノ粒子の生成およびその評価
担持ナノ粒子の生成
この研究のために調製されるsiRNA担持PLGAナノ粒子は、以前に報告されているように水中油中水型(w1/o/w2)二重エマルション溶媒蒸発法によって製剤化した(Cunら、(2010年)Intl.J.Pharmaceutics 390:70~75頁;Duら、(2013年)Hear.Res.304C:91~110頁)。簡潔に述べると、siRNAを50μLのTE緩衝液(MilliQ水中の10mM Tris-HClおよび1mM EDTA、pH7.5)に溶解し、100mgのPLGAを含有する100mLのジクロロメタン(DCM)と混合し、混合物を超音波処理により一次w1/oエマルションに乳化した。MilliQ水中の5%(w/v)ポリビニルアルコール(PVA)4ミリリットルを一次エマルションに直接注ぎ、その後、30秒×3の超音波処理によってさらに乳化して、w1/o/w2二重エマルションを形成した。得られたエマルションをMilliQ水中の0.3%(w/v)PVA50mLで希釈し、室温にて2時間磁気により撹拌してDCMを蒸発させた。PLGAナノ粒子を、4℃にて20分間、13,000×gでの超遠心分離によって回収し、MilliQ水で3回洗浄し、5mLのMilliQ水に再懸濁し、凍結乾燥した(-100℃および40mTorr以下)。siRNA担持NPの最適な製剤を、15nmolのsiRNA、100mgのPLGA、および5%のPVAから作製した。得られたNPを、動的光散乱(Zetasizer Nano ZS、Malvern、Instruments Ltd、Worcestershire、UK)、UV-Vis分光光度計(nanoDrop 2000、Thermo Scientific、Waltham、MA)、および走査型電子顕微鏡(Zeiss Supra 55、VP、FE-SEM、Oberkochen、ドイツ)をそれぞれ使用して、平均粒径(PMD)、多分散指数(PDI)、薬物封入効率パーセント(EE%)、および形態について特性付けした。合成したNPは、通常、使用時まで-80℃にて保存する。
【0075】
in vitroでのナノ粒子研究
新生児(P3)マウスのコルチ器(OC)を、オトトキシン、4-ヒドロキシル-2-ノネナール(4-HNE、450μM)に24時間曝露し、次いで未処理のままにするか、または非ターゲティングスクランブルRNA NP(scRNANP)もしくはHes1 siRNA担持PLGA NP(Hes1 siRNANP)のいずれかで処理し、7日後、組織を固定し、フルオロフォアがコンジュゲートしたファロイジンにより標識した(
図2)。あるいは、耳毒性アミノグリコシド、ネオマイシン(NEO、0.75mM)を使用し、その後、Hes1 siRNA担持PLGA NPの治療適用、組織固定、ならびに有毛細胞マーカーであるミオシンVIIa(Myo7a)に対する抗体および蝸牛螺旋の長さに沿ったHCの免疫蛍光により媒介される定量を容易にするためにフルオロフォアがコンジュゲートしたファロイジンの両方により標識した親和性を用いて、上記と同じように実験を行った(
図4)。用量依存反応を、Hes1 siRNA NP処理に反応するオトトキシン(4-HNEまたはNEO)のいずれかに曝露した新生児マウスOCの回復したHCの数において観察した(
図3および5)。
【0076】
in vivoでのナノ粒子研究
成体色素沈着モルモット(250g、4週齢)を、130dB SPLにて2時間、4kHzを中心とする音響過剰曝露に曝露した。損傷の72時間後(すなわち、遅延処置)、800μg/mLの非ターゲティングスクランブルRNA NPまたはsiHES1 NPのいずれかを充填したミニ浸透圧ポンプを、蝸牛の基底回転に外科的に移植し(蝸牛開窓術)、擬または治療的処置を、7日間にわたって蝸牛に片側注入し、その後、ポンプを外科的に除去した。2、4、8、および16kHzでの聴性脳幹反応(ABR)測定を、音響損傷の前、ならびに損傷後24時間、2週間、4週間、8週間、および10週間にて行った。最後の10週のABR記録期間の後、動物を安楽死させ、蝸牛組織を固定し、顕微解剖し、HCの可視化および定量のためのマーカーにより免疫標識した。siHES1 NPにより処置し、騒音に曝露したモルモット由来の蝸牛は、非ターゲティングscRNA NPにより処置した騒音に曝露したモルモット由来の蝸牛と比較して、内側および外側のHC数の両方の顕著な回復を示した(
図9~10)。
【0077】
成熟C57BL/6マウス(4週齢)を音響過剰曝露(8~16kHzオクターブバンドノイズ、116dB SPL)に2時間曝露した。損傷の72時間後、800μg/mLのsiHES1 NPを充填したミニ浸透圧ポンプを後半規管に外科的に移植し、治療的処置を7日間にわたって片側注入し、その後、ポンプを外科的に除去した。処置の8週間後、動物を安楽死させ、蝸牛組織を固定し、顕微解剖し、HCの可視化および定量のための抗Myo7aにより免疫標識した。siHES1 NPにより処置し、騒音に曝露したマウス由来の蝸牛は、騒音に曝露した対照由来の蝸牛と比較して、内側および外側のHC数(構造的に正確な位置における)の両方の顕著な回復を示した(
図11)。
【0078】
in vitroでの薬物放出研究
Hes1 siRNA担持PLGA NPからのin vitroでの薬物放出研究を、Wangemann P、Schacht J、Dallos P、Popper AN、Fay RR(Eds.)、The Cochlea、Springer、New York、1996年、130~185頁から適合した透析法を使用して3連で実施した。具体的には、Hes1 siRNAまたは封入した(遊離)Hes1 siRNAを含有する1mgの粉末PLGA NPを、タンパク質を含まない1mLの模倣外リンパ培地(SPM)を含有する内側透析バッグ(Spectra/Por Float-A-Lyzer G2、MWCO 20kDa、Spectrum Laboratories Inc.、Rancho Dominguez、CA)に懸濁した。コロイド懸濁液を含有するバッグを3mlの模倣内リンパ培地(SEM)に入れた。この系を37℃にて水平水浴(VWR Scientific Water Bath Model 1211、Sheldon Manufactuing Inc.、Cornelius、OR)に入れた。SEMの3つの10μLアリコートを特定の時間間隔で取り出し、30μLの新鮮なSEMと置き換えて、シンク条件を維持した。平均薬物放出パーセント(%±標準偏差)を、各時点の間隔(1~10日)にて計算した。
【0079】
【0080】
PGLAナノ粒子からのsiRNAの放出動態は、当技術分野において公知の以下の式を使用して決定することができる:
ゼロ次:
Qt=Q0+K0t
(薬物放出速度は、溶解した物質のその濃度とは無関係である。)
1次:
Log Qt=Log Q0+Kt/2.303
(薬物放出速度は、その濃度に依存する)
ヒクソン-クロウェル:
【0081】
【0082】
(薬物は溶解によって放出される)
ヒグチ:
Qt=KHt1/2
(薬物は拡散によって放出される)
Korsmeyer-Peppas:
F=(Mt/M)=Kmtn
(n=0.50は、フィックの拡散を示し、
0.5<n<0.89は、異常拡散または非フィックの拡散を示す:拡散および浸食の両方の制御された放出速度の組合せ。
n≧0.89の場合、事例-2の緩和または優れた事例の輸送-2を示す:ポリマー鎖の浸食。)
【0083】
【0084】
遊離Hes1 siRNAの放出プロファイルはゼロ次モデル(R
2=0.97)と十分に適合する(
図12)。これは、薬物放出速度が外部模倣内リンパ培地(SEM)中の可溶性siRNAの量に依存しないことを示した。したがって、模倣外リンパ培地(SPM)中の可溶性siRNAの濃度に関わらず、遊離Hes1 siRNAは半透膜を通って常に拡散した(放出速度パーセント6.6%/日)。最も早いサンプリング間隔での半透膜を横切る外部SEMへのHes1 siRNAの有意な初期移動(20%、1日)は遊離溶質の受動拡散と矛盾しない。
【0085】
遊離Hes1 siRNAと対照的に、PLGA NP内に封入したHes1 siRNAの放出プロファイルは、1次(R2=0.97)、ヒクソン-クロウェル(R2=0.95)およびKorsmeyer-Peppas(R2=0.96、n=0.94)の式との持続放出プロファイル適合を示した(図面を参照のこと)。この拡散パターンは、放出が、NPのポリマーシェル(PLGA)の遅延した加水分解によるHes1 siRNAの溶解によって主に制御されることを示した。さらに、Hes1 siRNAの溶解はPLGAのポリマー鎖の浸食を伴った。
【0086】
NP懸濁液1(NP1)およびNP懸濁液2(NP2)からのsiRNAの放出プロファイルのペアワイズ比較は、放出速度がNP中のsiRNA担持量の増加と共に増加したことを示した(放出速度パーセント:それぞれ、5.9対6.3%/日)。これは、薬物放出速度が外部SEM中の可溶性siRNAの量に依存することを示した。両方のNP製剤についてのHes1 siRNAの低い初期バースト放出(約5%、1日)は、NPの表面に吸着されたsiRNAの存在に起因すると解釈される。
【0087】
遊離siRNAについて、この薬物放出モデル系において初期担持量の50%を放出するのに4.2日を必要とした。NP1について、初期担持量の50%を放出するのに7.8日を必要とした。NP2について、初期担持量の50%を放出するのに6.2日を必要とした。
【実施例2】
【0088】
BIOおよびHes1 siRNA
非損傷OC
マウス蝸牛由来の器官型培養物を培養し、次いでCD1マウスから出生後3日目(P3)に採取した。次いで、これらの外植片を適切な培地中で24時間培養した。P4相当時に(すなわち、ex vivoで24時間)、培養したコルチ器(OC、すなわち、蝸牛感覚上皮)を、DMSO(ビヒクル)またはGSK3阻害剤、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO)のいずれかを含有する新鮮な培養培地に浸し、それに応じてOCを72時間培養した。P7相当時に(すなわち、ex vivoで96時間)、両方の処理群からの培養物のサブセットを、20nMのHes1 siRNAを24時間トランスフェクトする(jetSI 10mM、PolyPlus Transfection、Illkirch、フランス)。逐次適用の効果を調べるために、siHes1を、BIOを含まない培地中でトランスフェクトした。同時適用の効果を調べるために、siHes1を、BIOを含有する培地中でトランスフェクトした。24時間のトランスフェクションインキュベーション時間の後、2つの薬剤の逐次処理の試験のために指定した培養物を、BIOを含まない培地中で培養し、一方、同時適用のために指定した培養物を、BIOの存在下でさらに48時間培養した。全ての培養物を、最後の24時間、いずれの試験薬剤も含まない培地中に維持し、その後、組織を4%パラホルムアルデヒド溶液中に固定し、有毛細胞マーカーに対する抗体、ミオシンVIIa(Myo7a)、および蝸牛螺旋の長さに沿ったHCのその後の免疫蛍光により媒介される定量のための適切な二次抗体による免疫標識に供した(
図13)。
【0089】
NEO損傷卵形嚢
マウスの卵形嚢斑(平衡器官感覚上皮)由来の器官型培養物を培養し、次いでCD1マウスから出生後3日目(P3)に採取した。次いでこれらの外植片を適切な培地中で24時間培養した。P4相当時に(すなわち、ex vivoで24時間)、培養した卵形嚢を、耳毒性アミノグリコシドネオマイシン(NEO)を含有する新鮮な培養培地に24時間浸してHC喪失を誘導し、次いでDMSO(ビヒクル)またはGSK3阻害剤、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO、2.5μM)のいずれかをP5に投与した。それに応じて卵形嚢を72時間培養した。P8相当時に(すなわち、ex vivoで120時間)、培養物を、治療剤を含まない新鮮な培地と置き換え、両方の処理群からの培養物のサブセットを、20nMのHes1 siRNAをトランスフェクトし(jetSI 10mM、PolyPlus Transfection、Illkirch、フランス)、または5μMのNotch経路阻害剤、LY411575の存在下でインキュベートし、さらに72時間培養した。次いで全ての培養物を、最後の24時間、いずれの試験薬剤も含まない培地中に維持し、その後、組織を4%パラホルムアルデヒド溶液中で固定し、有毛細胞マーカーに対する抗体、ミオシンVIIa(Myo7a)、および蝸牛螺旋の長さに沿ったHCのその後の免疫蛍光により媒介される定量のための適切な二次抗体による免疫標識に供した(
図14~17)。
【0090】
全ての事例において、BIO/siHes1は、いずれかの薬剤単独よりも多くの数のde novo HCを生成し、逐次処理は同時処理よりも頑強な反応を誘導する。これらの結果は、特に、OCの中-基底回転および卵形嚢(utricule)の平衡斑状外領域、典型的には出生後の蝸牛および卵形嚢斑における新たなHC産生に対して抵抗性である領域において、逐次適用がより大きな分化転換反応(すなわち、より多くのde novo有毛細胞)を生じることと一致する(
図13~18)。
【実施例3】
【0091】
TIDEおよびHes1 siRNA
チデグルシブの分析
チデグルシブは、Cayman Chemical Companyから入手し、一連の市販のGSK3阻害剤と並行してMadin-Darby Canine Kidney(MDCK)細胞を用いて血清飢餓条件下で用量曲線分析を実施して、この十分に確立された哺乳動物上皮細胞株における有糸分裂抑制条件下で、その相対増殖能を確認した。これらの実験において、MDCK細胞を血清飢餓条件下で24時間培養し、その後、細胞を、GSK3阻害剤および10μMのEdU(5-エチニル-2’-デオキシウリジン)、DNA複製を受けた細胞を永久的に標識するヌクレオシド類似体の存在下で48時間培養した。
【0092】
このタイプの分析の例を
図19に示す。試験したGSK3阻害剤の各々は、これらの条件下で試験した最低用量にて細胞増殖に対して明白な陽性効果を示し、用量漸増(10μMまで)は、観察したEdU陽性核の数の減少をもたらした。チデグルシブは、これらの条件下で、より高い用量にて細胞増殖に対してそのプラスの効果を持続し、おそらくGSK3に対するこの薬理学的阻害剤のより高い特異性(すなわち、ATPの非競合的阻害剤)を明確に示した。
【0093】
このスクリーニングからの処理群の各々におけるEdU陽性核の正規の定量を
図20に示す。高用量にてGSK3阻害が十分に実証されている分子である、10mMのLiClとのインキュベーションは、非阻害性塩である塩化ナトリウムの同一の用量と比較して、EdU陽性細胞の数の増加をもたらした。この分析において評価した薬理学的GSK3Iの中で、低用量(0.1μM)のCHIR-99021(CAS 252917-06-9)は、血清飢餓下で培養した有糸分裂活性細胞において頑強な統計的に有意な増加をもたらした。10μMへの用量漸増は、低用量で観察した増殖に対するプラスの効果を劇的に減少させ、その結果、EdU陽性核の数は、未処理の血清飢餓細胞と比較して統計的に有意ではなくなった。他のATP競合的GSK3Iについても同様の用量依存的な増殖効率減少の傾向が観察され、6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(BIO、CAS 667463-62-9)およびSB-216763(CAS 280744-09-4)の漸増用量により、EdU陽性核(nuclie)の数が減少するような具合になっており、高用量(10μM)のBIOが、これらの条件下でMDCK細胞に対して毒性(すなわち、定量されていない)であることが証明された。EdU陽性核の数は、試験した用量の各々にわたって未処理の血清飢餓MDCK細胞集団において定量したものよりも統計的に高いままであった。これらの結果は、GSK3に対して予測される特異性がより大きいと、増殖のための濃度範囲がより広くなる可能性があることを示唆する。
【0094】
出生後のOCを、EdUおよびチデグルシブまたはビヒクルのみのいずれかの存在下で72時間連続的に培養して、GSK3阻害剤が、OCの感覚上皮領域において有糸分裂反応を誘導することができるかどうかを評価する、標的化パイロット実験を行った。
図21に示されるように、0.5および2.0マイクロモル濃度のチデグルシブの存在下で培養したOCは、ビヒクルのみの存在下で培養したOCにおいて観察したものよりも、聴覚感覚上皮の解剖学的位置におけるEdU陽性核のより高い発生率を示した。追跡分析は、OCにおけるこのチデグルシブ誘導性増殖反応が、細胞型特異的マーカーを使用して、支持細胞、有毛細胞、または両方に関与するかどうかを示す。
【0095】
非損傷およびNEO損傷OC
BIOについての上記のプロトコールを、BIOを10.0μMのチデグルシブ(TIDE)の添加に置き換えて使用する。他のプロトコールと並行して、チデグルシブがsiHES1の後に培養培地中に含まれる第3の処理群を加える:P4またはP5(有毛細胞喪失を模倣する耳毒性損傷が存在するか否かに応じて)に、対照培地を10.0μMのTIDEを含めまたは含めずに添加し;P7に、siHes1をTIDEの存在下または非存在下で添加し;P9に、10.0μMのチデグルシブを培養物のサブセットのための培地に含める。P11に、全ての培地を、治療剤を全く含まない新鮮な培地と置き換える。P12に、組織を免疫標識化のために固定する。耳毒性アミノグリコシドであるNEOへの曝露後のこの処理パラダイムの比較分析の例を
図22に示す。より多くのHC数を、TIDEおよびsiHES1の組合せにより処理した培養物中のオトトキシンに曝露したOCの中-頂回転において観察し、TIDEおよびsiHES1の段階的組合せが、これらの条件下でHC数の最も有意な増加を生じた(
図22~24)。
図22のデータについてのHC定量結果を以下の表に示す。
【0096】
【0097】
実験を、上記のTIDEおよびsiHES1の段階的適用を使用して反復したが、その結果は、薬剤間の相乗作用を示す様式でTIDEの事前適用後のHC数を回復させるためのsiHES1の有効性の有意な向上を明確に示す(
図23~24)。
【0098】
この実験パラダイムを再度反復し、FGF-2を、培養物のサブセットについてP5、P7、およびP9にて2ng/mLで培養培地に任意選択で含めた、さらなる処理群を加えた。より多くのHC数を、TIDEおよびsiHES1の段階的組合せにより処理した培養物中のOCの中-頂および基底回転の両方において観察したが、増殖培地へのFGF-2(この濃度ではそれ自体で治療反応を誘発しなかった)の添加は、典型的には、出生後の哺乳動物の蝸牛におけるHC再生に対してより抵抗性である領域である、OCの中-基底回転を通して、TIDE/siHES1処理の治療効果を増強した(
図25~26)。
【実施例4】
【0099】
さらなるナノ粒子実験
実験2および/または3のサブセットを、siHes1担持ナノ粒子-持続放出製剤-および種々の用量のTIDEを使用し、ならびにsiHes1およびTIDEの両方を含むナノ粒子を使用して反復する。
【0100】
このプロトコールのいくつかの反復実験において、持続放出siHes1ナノ粒子およびTIDEの同時適用を、TIDEおよびsiHes1リポフェクション複合体の段階的適用を模倣するように設計した様式で行う。模倣は、TIDE(0.5から20μmの間の漸増用量でのいくつかの反復実験において)を加え、持続放出siHes1ナノ粒子を同時に適用して、実験2および3に記載されるネオマイシンプロトコールを使用して達成される。
【0101】
さらに、上記に参照した全ての実験を、siHes5およびsiMAPK1を用いて反復する。
【0102】
例示的なプロトコールは以下の通りである。
【0103】
出願人らは、生体適合性PLGA NPからのsiHes1の、遅延したが、持続した放出が、2つの薬物が同時投与された場合、Hes1に対するGSK3阻害剤およびsiRNAの段階的適用の治療属性を再現するという仮説を立てた。この仮説を試験するために、十分な実験マージンを有するために漸増用量(0.5、2、および10μM)のGSK3I、チデグルシブと共にsiHes1 NPの最大以下の有効用量(60nM)を使用して、ネオマイシン(NEO)に曝露したコルチ器(OC)の器官型培養物における再生の用量反応プロファイルを評価した。このパラダイムを使用して、NEOにより除去したOCを、その後、固定および免疫組織学的分析の前に6日間にわたって、siHes1 NP単独で、またはチデグルシブと組み合わせて培養した。
【0104】
図37および38に示されるように、siHes1 NPにより誘導される有毛細胞(HC)再生の明確な濃度依存性の増強を、OCを漸増用量のチデグルシブと組み合わせて処理した場合に観察した。しかしながら、チデグルシブ単独による処理は統計的に有意な再生反応を誘導しなかった。このことは、チデグルシブは、この状況において、HCを再生するように独立して作用するのではなく、siHes1により媒介される反応を本質的に増強するようにプライミング剤として作用する可能性があることを示唆している。
【0105】
これらの処理群の間のHC数の定量により、臨床的に関連するGSK3阻害剤であるチデグルシブが、OCの中回転において10μMの濃度、ならびに基底回転において2および10μMの濃度にてsiHes1 NP再生効力の統計的に有意な増加(siHes1 NPのみと比較して)を促進することが明らかになった。siHes1 NPの再生反応が一貫して最も高かった、中-頂領域において、処理群の間で統計的に有意な差を帰属することができなかった。チデグルシブのみによって誘導される再生反応の欠如のために、この組合せ処理ストラテジーによって誘導される増強された治療効果は、HC数の治療的増加に関して相乗的であると記載され得る。
【実施例5】
【0106】
さらなるナノ粒子実験
siHes1(分子#1)担持ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)またはポリエチレングリコール-PLGAナノ粒子(PEG-PLGA NP)を、以前に報告されているように、わずかな改変を加えた水中油中水型(w/o/w)二重エマルション溶媒蒸発法によって調製した。McCallおよびSirianni(2013年)J Vis Exp.82:51015頁;doi:10.3791/51015。
【0107】
簡潔に述べると、ある体積のsiHes1水溶液(100μL)を、PLGA NPについて100mgのPLGA、またはPEG-PLGA NPについて50mgのPLGAおよび50mgのPEG-PLGAを含有する1,000μLのジクロロメタン(DCM)に滴下した(表1)。
【0108】
混合物を、超音波処理(10秒、25W)(Microson ultrasonic cell disruptor XL Misonix Inc.、Farmingdale、NY)により一次w1/oエマルションに乳化した。PLGA NPについて、一次エマルションを4mlの5%PVA水溶液中で希釈した。得られた二次エマルションを、MilliQ水(Millipore Co.、Billerica、MA)中の50mLの0.3%(w/v)(PLGA NP)または0.125%PVA(w/v)(PEG-PLGA NP)中で希釈し、室温にて2時間磁気撹拌して(RO10、IKA-Werke Gmbh & Co、Staufen、ドイツ)、DCMを蒸発させた。PEG-PLGA NPを、10℃にて20分間、13,000gでの超遠心分離(TOMY MX-201 Highspeed Refrigerated Microcentrifuge)によって回収し、MilliQ水により3回洗浄して、余分な溶媒(DCM)および残留PVAを除去し、次いで滅菌ガラス容器中の5mLのMilliQ水に再懸濁し、連続して3日間、40mTorr(Virtis Benchtop freeze-dryer、Gardiner、NY)下で-100℃にて凍結乾燥した。
【0109】
得られた粉末NPをUV下で20~30分間滅菌し、さらに使用するまで-80℃にて保存した。
【0110】
【0111】
siHes1担持PEG化PLGA NP(表2)は、標準的なPLGA製剤よりも小さく(すなわち、低い平均粒径[PMD])、標準的なPLGA製剤ほど負に帯電していなかった(すなわち、高いゼータ電位[ZP])。PEG-PLGAナノ粒子製剤に担持されたsiHes1(pmol/mg)の量は、PLGA製剤と比較したナノ担体のサイズの減少に比例して減少した。
【0112】
【0113】
それらのサイズおよび物理化学的特性に基づいて、本発明者らは、siRNA担持PEG-PLGA NPが、内耳細胞によって容易に取り込まれるという仮説を立てた。この仮説を評価し、内耳細胞におけるPLGA NPに対するsiRNA担持PEG-PLGA NPの取り込みを比較するために、フルオレセイン(FAM)がコンジュゲートした非ターゲティングsiRNA模倣物(スクランブルRNA、scRNA)二本鎖を、siHes1 NPを合成するために用いたものと同じ合成方法論を使用して、AlexFluor 555がコンジュゲートしたPEG-PLGAおよびPLGA NP製剤内に封入した。合成前に、Alexa Fluor 555(AF555、MW:1.25kDa、Thermofisher、Rockford、IL)のPLGA(MW:15kDa)(Polymers Material Inc.、Montreal、カナダ)とのコンジュゲーションを、カルボジイミドカップリング反応(Chanら、(2010年)Methods Mol Biol.624:163~75頁)を使用して実施した。等モル量のPLGAおよびAF555を混合し、室温にて一晩撹拌した。未反応の成分を、室温にて3時間、脱イオン水(Direct-Q3 UVシステム、Millipore SAS、Molsheim、フランス)に対する透析(Spectra/por Float-A-Lyzer G2、MWCO 3.5~5kDa Spectrum Laboratories Inc.Rancho Dominguez、CA)によって除去した。PLGAがコンジュゲートしたAF555を含有する精製した懸濁液を精製水中で回収し、8℃にて30分間、15,000rpmで遠心分離した。
【0114】
合成後、得られたFAM-scRNA担持AlexaFluor555 PLGAまたはPEG-PLGA NP(本明細書以下において、Dual Fluor NPSと称する)は、siHes1担持NPとサイズ、電荷、および残留PVA含有量が同等であり、それらが、siHes1ナノ担体製剤の実行可能な代用物としての役割を果たす能力があることが示された(表3)。
【0115】
【0116】
Dual Fluor PLGAおよびPEG-PLGA NPの細胞取り込みを、33℃、5%CO2での24時間のインキュベーション後、紫外分光測定-分光測定(UV-spec)および共焦点顕微鏡の組合せを使用してIMO-2b1マウス内耳細胞において調べた。
【0117】
UV-specについて、細胞を96ウェルプレートに播種し、完全増殖培地中で70%コンフルエンスに達するまで培養した。24時間後、細胞を、33℃、5%CO
2にて24時間、200、400、800μg/mLでインキュベートした。PBS溶液による3ステップの洗浄後、細胞外蛍光を、1~5分間、0.2%のトリパンブルー50μlによりクエンチした(Gibco、BRL、Grand Island、NY)(Hed J.Methods for distinguishing ingested from adhering particles. Methods Enzymol.1986年;132:198~204頁)。内在化蛍光強度を、FAM scRNAについては485±20nmの発光波長および525±25nmの励起にて、ならびにAF555 PLGAについては555±20nmの発光波長および572±25nmの励起にてマイクロプレートリーダー(Beckman Coulter DTX 880 Multimode Detector、Brea、CA)を使用して決定した。培地排出前のインキュベートしたNP懸濁液の未洗浄蛍光がある陽性対照(PC)ウェルを使用して各参照基準について100%蛍光を確立した。Dual Fluor NP製剤とインキュベートしなかった細胞の正常対照(NC)ウェルをバックグラウンド対照として使用した。NP取り込みのマイクロプレートリーダー評価により、400および800μg/mLの用量にて、PEG-PLGA NPがPLGA NPと比較して優れた内在化を示すことが実証された(
図29、
**、p<0.01)。200μg/mLの濃度では、内在化NPの全蛍光強度は2つの製剤の間で同様であった。
【0118】
フルオロフォアにより標識したNPとの24時間のインキュベーション後のIMO-2b1固定細胞の共焦点顕微鏡により、両方の製剤が用量依存的に細胞内に内在化することが確認された(
図30)。siRNA担持PLGA NPは、IMO-2b1細胞内でヘテロ分散(heterodisperse)局在化パターンを示したが、対応するPEG-PLGA NP製剤はPLGA NPよりも一貫した核周囲局在化を示した(
図30~33)。この観察は、siRNAにより媒介される遺伝子サイレンシングに最適な細胞内領域におけるPEG-PLGA NPによって送達されるsiRNA生体分子のより効率的な送達および蓄積を示唆する(Chiuら、(2004年)Chem.Biol.11(8):1165~75頁)。
【0119】
siHes1担持PEG-PLGA NP製剤の潜在的な細胞障害効果を評価するために、IMO-2b1細胞を、PLGAまたはPEG-PLGA製剤のいずれかと48時間インキュベートした後、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイを行って、細胞生存率を評価した。MTTアッセイは、黄色テトラゾリウム色素であるMTTの、その不溶性紫色生成物であるホルマザンへの還元を介してNAD(P)H依存性細胞オキシドレダクターゼ活性を測定することによって細胞代謝能を客観的に定量するための比色法である。
【0120】
このように、評価中の薬物の相対的な細胞障害効果は、試験ウェルにおいて形成されたホルマザン生成物の全量を、未処理細胞の対照ウェルにおいて形成された対応する量と比較することによって識別することができる。この方法を使用すると、siHes1担持PEG-PLGA NPの800μg/mL(約66nMのsiRNA当量)までの用量漸増は、48時間曝露後のIMO-2b1細胞によって十分に耐容された(
図34)。試験した最高濃度では、未処理対照(UTD)と比較して、いずれのNP製剤についてもMTTアッセイを使用して、細胞生存率の統計的に有意な喪失は観察されなかった。対照的に、細胞障害レベル(2%)の非イオン性界面活性剤であるTritonX-100(TX)により処理したウェルは、このアッセイにおいて細胞生存率の顕著な喪失を示した。
【0121】
PEG-PLGA NP内に封入したsiHes1生体分子(分子#1)の相対サイレンシング効率を試験するために、siRNA担持PLGAおよびPEG-PLGA NPのいずれかの用量漸増を、IMO-2B1細胞のサブコンフルエントなウェルと培養し、それにより各ウェルにおける全siRNAについてペアワイズ投与を制御した(28.8、57.6、115.2nM siRNA当量)。NP処理の開始から72時間後、全RNAを単離し、Hes1およびハウスキーピング遺伝子GAPDHに対するプライマーを使用してRT-qPCR分析に供した。相対Hes1レベルを2-ΔΔCT法によって決定した。LivakおよびSchmittgen(2001年)Methods 25(4):402~8頁を参照のこと。
【0122】
その見かけの向上した取り込み効率および機能的に最適な核周囲蓄積パターンと一致することには、siHes1を担持したPEG-PLGA NP(分子#1)は、PLGA NPよりも低い用量当量にてHes1発現に対してより顕著なサイレンシング効果を誘発した(
図35、###、示した用量でのPLGA NPと比較してPEG-PLGA NPによって誘導されるサイレンシングの程度に関してp<0.001)。
【0123】
タンパク質レベル(曝露後96時間)でのIMO-2b1におけるsiHes1 KD効率の標的とした比較は、転写レベル(曝露後72時間)でのHes1の測定から得られた結果を反映した(
図36)。NPインキュベーション後、細胞抽出物を、Hes1に対する抗体による免疫ブロッティングに供し、免疫ブロットにおけるHes1の相対レベルを、NIH Image Jソフトウェアを使用するデンシトメトリー分析によって決定した。各レーンの下の数字は、各ブロットにおける未処理(偽)対照試料に対する各抽出物中で測定したHes1タンパク質の量を表す。350μg/mLおよびそれ以上の濃度にて、Hes1タンパク質の顕著な減少をPEG化PLGA NPについて観察したのに対して、PLGA NPについてHes1レベルの明らかな減少を600μg/mLおよびそれ以上にて最初に観察した。
【実施例6】
【0124】
投与実験の期間
siHes1 NPの治療的投与期間を、投与を1日のみ(24時間)に制限し、聴力を失ってから72時間後に開始することによって追跡実験において試験した。
図39に見られるように、実質的な統計的に有意な聴力改善を、この代替投与パラダイムを使用して、注入後3週間の早さで複数の試験頻度にわたって観察した。
図40に示されるように、実質的な聴力改善もまた、延長された9週間の期間にわたって観察し、高周波数の基底領域において最大の漸進的改善を観察した。これらの結果により、1日のsiHes1 NP注入が、騒音により聴力を失った動物における聴覚機能を回復させるための10日の注入と、見かけ上、同じくらい有効であることが明らかになった。この結果はいくぶん驚くべきものであったが、siHes1のNPにより媒介される送達が、この状況において内因性多タンパク質RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)へのsiRNAの効率的な担持をもたらし、このことは、一旦担持されると、非分裂細胞における単回用量投与後の時に数週間、遺伝子サイレンシングを持続することができることを示唆する。Weiら、(2011年)Mol Pharmacol.79(6):953.PubMed PMID:21427169;Bartlettら、(2006年)Nucleic Acids Res.34(1):322.Epub 2006/01/18.PubMed PMID:16410612;PMCID:1331994;Bartlettら、(2007年)Biotechnol Bioeng.97(4):909.PubMed PMID:17154307を参照のこと。
【0125】
同様の実験を本明細書に記載される併用療法を用いて反復する。
【配列表】