(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】機能層形成用インクおよび自発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 71/15 20230101AFI20240719BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20240719BHJP
H05B 33/22 20060101ALI20240719BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20240719BHJP
C09D 11/033 20140101ALI20240719BHJP
C09D 11/106 20140101ALI20240719BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20240719BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240719BHJP
H10K 59/122 20230101ALI20240719BHJP
【FI】
H10K71/15
H05B33/10
H05B33/22 Z
H05B33/12 B
C09D11/033
C09D11/106
H05B33/14 Z
H10K50/10
H10K59/122
(21)【出願番号】P 2019203968
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】523290528
【氏名又は名称】JDI Design and Development 合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌和
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/118654(WO,A1)
【文献】特開2011-165396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00 - 99/00
H05B 33/00 - 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を準備する工程と、
前記基板上方に画素電極を行列状に配する工程と、
前記画素電極を列方向に区画する画素規制層を形成する工程と、
前記画素電極を行方向に区画する隔壁を形成する工程と、
前記画素電極上方に機能層を形成する工程と、
前記機能層の上方に対向電極を形成する工程と
を含む自発光素子の製造方法であって、
前記機能層を形成する工程は、
前記画素規制層の材料に対応して選択された機能層形成用インクを準備する工程と、前記機能層形成用インクを前記隔壁の間隙内に存在する複数の画素電極上方に
、これらの画素電極を列方向に区画する前記画素規制層のそれぞれの上にも跨って塗布する塗布工程と、前記塗布された機能層形成用インクを乾燥する乾燥工程とを含み、
前記機能層形成用インクは、沸点の異なる複数の溶媒を含む混合溶媒に、機能性材料を溶解または分散してなり、
前記乾燥工程において、塗布前の当該機能層形成用インクに含まれる混合溶媒の質量に対して残存している溶媒の質量の割合が、前記自発光素子の精細度をp[ppi]としたとき、(q=0.00086p+0.27512)の式で決まる割合qになるときまで当該機能層形成用インクが乾燥した状態で、前記画素規制層に対する接触角が5°未満である溶媒のみ残存している
ように、塗布前の当該機能層形成用インクに含まれる前記沸点の異なる複数の溶媒の割合が前記画素規制層の材料に応じて決められている
ことを特徴とする自発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記画素規制層を形成する工程において、前記画素規制層の材料としてアクリル樹脂を用いる
ことを特徴とする請求項
1に記載の自発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記残存している溶媒は、極性溶媒である
ことを特徴とする請求項
2に記載の自発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記残存している溶媒は、
x+0.04y<2.12
を満たすことを特徴とする請求項
2に記載の自発光素子の製造方法。
但し、xは当該溶媒のハンセン溶解度パラメータにおいて、ロンドン分散力によるエネルギー(δD)が、ロンドン分散力によるエネルギー(δD)と双極子相互作用によるエネルギー(δP)と水素結合によるエネルギー(δH)との総和に対して占める割合であり、y[mN/m]は当該溶媒の表面張力である。
【請求項5】
前記自発光素子の精細度p[ppi]が、50~450の範囲内の値であることを特徴とする請求項
1から
4のいずれか1項に記載の自発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自発光素子の機能層をウエットプロセスで製造する場合における機能層形成用インクおよび、当該機能層形成用インクを使用した自発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electroluminescence:電界発光)素子やQLED(Quantum-dot Light Emitting Diode:量子ドット効果)素子などの発光を利用した自発光パネルの開発が盛んに行われている。自発光素子は、基板の上方に、画素ごとの画素電極(第1電極)と、発光層を含む機能層と、複数の自発光素子に共通の対向電極(第2電極)と、をこの順に備え、画素電極及び対向電極から供給された正孔及び電子が発光層で再結合することにより発光材料が発光する。
【0003】
自発光表示パネルにおける機能層の製法例として、蒸着方式と塗布方式(例えば、特許文献1を参照)が存在する。塗布方式では、機能性材料を溶媒に溶解させた溶液(以下、単に「インク」という。)とし、そのインクを印刷法(液滴吐出法)等で基板上に塗布する。塗布後はインクから溶媒を蒸発、乾燥させて機能層を形成する。従って、塗布方式においてはプロセスを真空容器中で行なう必要がなく、量産化の点で好ましいとされている。
【0004】
塗布方式では、1画素を塗布領域として塗布を行うピクセルバンク方式と、複数の画素を含む塗布領域に塗布を行うラインバンク方式がある。ラインバンク方式は、塗布領域に含まれる複数の画素間で機能層の膜厚を均一化することができるため、画素間の機能層の膜厚差に起因する発光ムラを抑止できる点で有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-267299号公報
【文献】国際公開第08/105472号公報
【文献】特開2015-176694号公報
【文献】特開2014-210778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、ラインバンク方式では塗布領域に含まれる隣接する2つの画素間で電流がリークすることを防ぐため画素規制層を設けており、インクが画素規制層を乗り越える必要がある。しかしながら、画素規制層とインクとの親和性が低い場合、インクが乾燥中に画素規制層上で途切れて塗布領域におけるインクの偏在を招き、画素間の機能層の膜厚差を十分に均一化できない場合がある。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであって、塗布方式により機能層を形成する場合に、インクの乾燥途上において画素規制層上でインクの途切れによるインクの偏在を抑止し、機能層の膜厚の均一性を向上させた機能層形成用インクおよび当該機能層形成用インクを使用した自発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る機能層形成用インクは、自発光素子における機能層を印刷方式で形成する際に使用される機能層形成用インクであって、沸点の異なる複数の溶媒を含む混合溶媒に、機能性材料を溶解または分散してなり、前記混合溶媒に対する質量比が所定の割合以上となるように沸点の高い順に1以上の溶媒を前記複数の溶媒から選択したとき、前記選択された溶媒は、所定の樹脂材料に対する接触角が5°未満である溶媒群に含まれることを特徴とする。
【0009】
また、本開示の一態様に係る自発光素子の製造方法は、基板を準備する工程と、前記基板上方に画素電極を行列状に配する工程と、前記画素電極を列方向に区画する画素規制層を形成する工程と、前記画素電極を行方向に区画する隔壁を形成する工程と、前記画素電極上方に機能層を形成する工程と、前記機能層の上方に対向電極を形成する工程とを含み、前記機能層を形成する工程は、機能層形成用インクを前記隔壁の間隙内に存在する複数の画素電極上方に塗布する塗布工程と、前記塗布された機能層形成用インクを乾燥する乾燥工程とを含み、前記機能層形成用インクは、沸点の異なる複数の溶媒を含む混合溶媒に、機能性材料を溶解または分散してなり、前記混合溶媒に対する質量比が所定の割合以上となるように沸点の高い順に1以上の溶媒を前記複数の溶媒から選択したとき、前記選択された溶媒は、前記画素規制層に対する接触角が5°未満である溶媒群に含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記態様に係る機能層形成用インクによれば、塗布された後のインクの質量が元のインクに対して所定の割合となるよう蒸発した状態において、所定の樹脂に対する接触角が5°未満である。したがって、所定の樹脂を画素規制層として用いた場合に、画素規制層上でインクが途切れることを抑止することができ、副画素間でインクの流動性が確保されるため機能層の膜厚の均一性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る自発光パネル10を含む表示装置1の概略図である。
【
図2】実施の形態に係る自発光パネル10の平面概略図である。
【
図3】実施の形態に係る自発光パネル10の部分断面図であって、
図2のA-A断面に相当する。
【
図4】実施の形態または比較例に係る自発光パネル10の製造工程および製造後の部分断面図であって、
図2のB-B断面に相当する。
【
図5】実施の形態に係る自発光パネル10の部分断面図であって、
図2のB-B断面に相当する。
【
図6】自発光パネル10の精細度と、インクの画素規制層に対する接触角が5°となり得るインク量の時の溶媒残存率との関係を示すグラフである。
【
図7】画素規制層がアクリル樹脂である場合における、画素規制層に対する接触角が5°以上の純溶媒および5°未満の純溶媒について、表面張力とハンセン溶解度パラメータから算出される値とを指標にプロットした散布図である。
【
図8】実施の形態に係る自発光素子の製造過程を示すフローチャートである。
【
図9】実施の形態に係る自発光素子の製造工程の一部を模式的に示す部分断面図である。(a)は、基材上にTFT層が形成された状態を示す部分断面図である。(b)は、TFT層上に層間絶縁層が形成された状態を示す部分断面図である。(c)は、層間絶縁層上に画素電極材料層が形成された状態を示す部分断面図である。(d)は、画素電極材料層がパターニングされて画素電極が形成された状態を示す部分断面図である。
【
図10】実施の形態に係る自発光素子の製造工程の一部を模式的に示す部分断面図である。(a)は、画素電極および層間絶縁層上に画素規制材料層が形成された状態を示す部分断面図である。(b)は、画素規制層が形成された状態を示す部分断面図である。(c)は、画素電極および層間絶縁層上に隔壁材料層が形成された状態を示す部分断面図である。(d)は、隔壁が形成された状態を示す部分断面図である。
【
図11】実施の形態に係る自発光素子の製造工程の一部を模式的に示す部分断面図である。(a)は、隔壁の開口部内に正孔注入層の材料インクが塗布されて正孔注入層が形成され、正孔輸送層の材料インクが塗布されて正孔輸送層が形成された状態を示す部分断面図である。(b)列バンクの開口部内に発光層の材料インクが塗布され発光層が形成された状態を示す部分断面図である。
【
図12】実施の形態に係る自発光素子の製造工程の一部を模式的に示す部分断面図である。(a)は、隔壁上及び発光層上に電子輸送層が形成された状態を示す部分断面図である。(b)は、電子輸送層上に電子注入層が形成された状態を示す部分断面図である。(c)は、電子注入層上に対向電極が形成された状態を示す部分断面図である。(d)は、対向電極上に封止層が形成された状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪本開示の一態様に至った経緯≫
自発光パネルにおける各自発光素子の機能層の成膜プロセスは、真空蒸着などの成膜よりも、印刷装置などを使用した塗布成膜の方が、製造コストの面で優れている。
【0013】
塗布成膜では、機能層の膜厚制御や混色の防止の観点から、滴下後のインクが広がる範囲である塗布領域と隣接する塗布領域との間を撥液性のある隔壁(バンク)で区切る必要がある。隔壁のデザインとしては、格子状の隔壁により画素単位で塗布領域を形成するピクセルバンク方式と、一方向に延伸する隔壁を複数並列させ、隔壁間の間隙単位で塗布領域を形成するラインバンク方式が代表的である。ラインバンク方式は、塗布領域が複数の画素に跨るため、画素当たりのインク滴下量の最適化が容易であり、また、滴下後のインクが塗布領域全体に広がるため塗布領域内の複数の画素間で機能層の膜厚が均一化する。したがって、バンクのデザインとして好適である。
【0014】
一方、ラインバンク方式では、同一の塗布領域内に存在する複数の自発光素子間で機能層が共通膜となる。したがって、同一の塗布領域内において隣接する2つの自発光素子間で電流のリークを抑止するため、画素電極間を絶縁体である画素規制層で区切る必要がある。すなわち、ラインバンク方式では画素規制層も塗布領域に含まれるため、機能層形成用インクを塗布する際には、画素規制層上にも機能層と同一素材の層が形成されることを前提としてインクを塗布する必要がある。
【0015】
しかしながら、機能層形成用インクの画素規制層に対する濡れ性に依存して、インクが画素電極上に遍在することにより膜厚の均一性が失われる場合があることを発明者らは見出した。そして、発明者らは、上記課題に鑑み、インクの乾燥途上において画素規制層上で複数の塊に分離しない機能層形成用インクを得るべく、鋭意研究の結果、本開示の一態様に至ったものである。
【0016】
≪本開示の一態様の概要≫
本開示の一態様に係る機能層形成用インクは、自発光素子における機能層を印刷方式で形成する際に使用される機能層形成用インクであって、沸点の異なる複数の溶媒を含む混合溶媒に、機能性材料を溶解または分散してなり、前記混合溶媒に対する質量比が所定の割合以上となるように沸点の高い順に1以上の溶媒を前記複数の溶媒から選択したとき、前記選択された溶媒は、所定の樹脂材料に対する接触角が5°未満である溶媒群に含まれることを特徴とする。
【0017】
また、本開示の一態様に係る自発光素子の製造方法は、基板を準備する工程と、前記基板上方に画素電極を行列状に配する工程と、前記画素電極を列方向に区画する画素規制層を形成する工程と、前記画素電極を行方向に区画する隔壁を形成する工程と、前記画素電極上方に機能層を形成する工程と、前記機能層の上方に対向電極を形成する工程とを含み、前記機能層を形成する工程は、機能層形成用インクを前記隔壁の間隙内に存在する複数の画素電極上方に塗布する塗布工程と、前記塗布された機能層形成用インクを乾燥する乾燥工程とを含み、前記機能層形成用インクは、沸点の異なる複数の溶媒を含む混合溶媒に、機能性材料を溶解または分散してなり、前記混合溶媒に対する質量比が所定の割合以上となるように沸点の高い順に1以上の溶媒を前記複数の溶媒から選択したとき、前記選択された溶媒は、前記画素規制層に対する接触角が5°未満である溶媒群に含まれることを特徴とする。
【0018】
上記態様の機能層形成用インク、または、上記態様の自発光素子の製造方法によれば、塗布された後のインクの質量が元のインクに対して所定の割合となるよう蒸発した状態において、所定の樹脂に対する接触角が5°未満である。したがって、所定の樹脂を画素規制層として用いた場合に、画素規制層上でインクが途切れることを抑止することができ、副画素間でインクの流動性が確保されるため機能層の膜厚の均一性を高めることができる。
【0019】
また、上記態様の機能層形成用インク、または、上記態様の自発光素子の製造方法において、以下のようにしてもよい。
【0020】
前記所定の樹脂材料は、アクリル樹脂である、としてもよい。または、前記画素規制層を形成する工程において、前記画素規制層の材料としてアクリル樹脂を用いる、としてもよい。
【0021】
これにより、画素規制層の材料としてアクリル樹脂、または、アクリル系樹脂等を用いる場合において、画素規制層上でインクが途切れることを抑止することができ、副画素間でインクの流動性が確保されるため機能層の膜厚の均一性を高めることができる。
【0022】
また、前記溶媒群に含まれる溶媒は、極性溶媒である、としてもよい。
【0023】
これにより、画素規制層の材料としてアクリル樹脂、または、アクリル系樹脂等を用いる場合において、アクリル樹脂等に対して親和性の高い極性溶媒がインク乾燥時に残存するため、画素規制層上でインクが途切れることを抑止することができる。
【0024】
また、前記溶媒群に含まれる溶媒は、x+0.04y<2.12を満たすことを特徴とする、としてもよい。但し、xは当該溶媒のハンセン溶解度パラメータにおいて、ロンドン分散力によるエネルギー(δD)が、ロンドン分散力によるエネルギー(δD)と双極子相互作用によるエネルギー(δP)と水素結合によるエネルギー(δH)との総和に対して占める割合であり、y[mN/m]は当該溶媒の表面張力である。
【0025】
これにより、画素規制層の材料としてアクリル樹脂、または、アクリル系樹脂等を用いる場合において、画素規制層上でインクが途切れる原因となる溶媒が残存することを抑止することができる。
【0026】
また、前記所定の割合は、0.3以上である、としてもよい。
【0027】
これにより、インク中の溶質に対する溶媒の量が過大となることを抑止することができ、インクが隔壁を乗り越える混色等の不具合を抑止することができる。
【0028】
また、前記自発光素子の精細度をp[ppi]、前記所定の割合をqとしたとき、q≧0.00086p+0.27512を満たす、としてもよい。
【0029】
これにより、形成すべき自発光素子の精細度に合わせて適正なインクを用いることが可能となる。
【0030】
また、前記混合溶媒は、沸点が200℃以上である溶媒を含む、としてもよい。
【0031】
これにより、インクが過度に速乾性を有することによる成膜不良を抑止することができる。
【0032】
≪実施の形態≫
<機能層形成用インクの組成>
1.溶質
本実施形態に係る機能層形成用インクは、溶質として、正孔輸送性と正孔注入性の少なくとも一方を有する機能材料、発光材料、電子輸送性と電子注入性の少なくとも一方を有する機能材料、のいずれか1つを含む。
【0033】
2.溶媒
本実施形態に係る機能層形成用インクは、溶媒として、複数の有機溶媒を含み、これらを混合溶媒として用いる。
【0034】
混合溶媒を構成する溶媒は、自発光パネルにおける画素規制層に対する接触角が5°未満である溶媒群(以下、「A群」と呼ぶ)から選択される溶媒を1以上含む。また、自発光パネルにおける画素規制層に対する接触角が5°以上である溶媒群(以下、「B群」と呼ぶ)から選択される溶媒を含む場合、混合溶媒に対する質量比が所定の割合以上となるように沸点の高い順に溶媒を選択したとき、選択された溶媒はすべてA群に含まれる。ここで、所定の割合は自発光パネルの精細度により決定される値であり、例えば、精細度が150ppiである場合は40%である。詳細は後述する。
【0035】
<自発光パネルにおける塗布領域の構成>
以下、実施の形態に係る機能層形成用インクが奏する効果の説明に先立ち、自発光パネルの概要と、機能層形成用インクが乾燥して機能層が形成される際に膜厚が不均一性となる課題の発生メカニズムについて説明する。
【0036】
図1は、自発光パネルとして有機EL表示パネル10を用いた表示装置1の回路構成を示すブロック図である。
図1に示すように、表示装置1は、有機EL表示パネル10と、これに接続された駆動制御回路部200とを備える。駆動制御回路部200は、複数の駆動回路210と、制御回路220とを備える。
【0037】
図2は、有機EL表示パネル10の一部を拡大した模式平面図である。有機EL表示パネル10は、基板上を行方向(X方向)に区画し塗布領域を規定する隔壁(列バンク)14と、基板上を列方向(Y方向)に区画する画素規制層(行バンク)141とによりマトリクス上に区画される。隔壁14と画素規制層141とにより区画された領域はそれぞれ副画素100R、100G、100Bを構成し、副画素100R、100G、100Bが画素Pを構成する。なお、副画素100R、100G、100Bのそれぞれは、X方向に隣接する2つの隔壁14によって区画される塗布領域CR、CG、CBのそれぞれに形成される。
【0038】
図3は、
図2のA-A断面における有機EL表示パネル10の模式断面図である。有機EL表示パネルは、下側から順に、基材111とTFT層112からなる基板11、層間絶縁層12、隔壁14を備え、開口部14a内に画素電極13、正孔注入層15、正孔輸送層16、発光層17を備え、共通層として電子輸送層18、電子注入層19、対向電極20、封止層21を備える。このうち、画素電極13から対向電極20までの部分が有機EL素子2を構成する。また、正孔注入層15、正孔輸送層16、発光層17のうち少なくとも1つが、機能層形成用インクを用いた塗布方式により形成される。
【0039】
図4は、
図2のB-B断面における、機能層の1つである正孔注入層15を塗布方式により形成する場合のインクの塗布直後から機能層完成までの過程を示す模式断面図である。
図4(a)は、インクの塗布直後の状態を示しており、インク15Lは開口部14aにおいて、画素電極13上の発光部100aと画素規制層141上の非発光部100bとに跨って塗布される。このとき、インクの画素規制層141に対する濡れ性が低い場合、
図4(b)の模式断面図に示すように、インク15Lが画素規制層141上で複数のインク隗15L1、15L2、15L3に分離する場合がある。ここで、インク隗15L1と15L2との境界、インク隗15L2と15L3との境界は必ずしも等間隔にならないため、発光部100a当たりのインク隗の体積は、必ずしも均一とはならない。さらに、インクの画素規制層141に対する濡れ性が低い場合、インクがさらに乾燥したときにインクが画素規制層141上から画素電極13上に流れ込む。すなわち、インク隗15L1~L3の端部に近接する発光部100aでは、発光部100a内のインクが隣接する非発光部100b内のインクと連続している場合のみ、非発光部100b内のインクが発光部100a内に流入する。したがって、そのような発光部100aでは、
図4(c)の模式断面図における機能層15-2のように、他の発光部100aに対して膜厚が厚くなる。その一方、発光部100a内のインクが隣接する2つの非発光部100b内のインクのいずれとも連続していない場合は、発光部100a内のインクのみで機能層が形成されるため、
図4(c)の機能層15-3のように、膜厚が小さくなる。したがって、膜厚の均一性が失われる。
【0040】
ここで、機能層形成用インクが画素規制層141上で途切れる条件について種々の溶媒を用いて実験したところ、
図5(a)の模式断面図に示すように、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量において、インクの画素規制層141上の接触角が5°以上であることが判明した。すなわち、インク量が
図5(a)の模式断面図に示す状態まで乾燥したときの、インクと画素規制層の接触角が5°未満であれば、
図4(b)、(c)の模式断面図に示すような膜厚の不均一性を抑止することができる。
【0041】
なお、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量が塗布直後の機能層形成用インクと比べて溶媒含有量がどの程度低下しているかは、発光部100aのサイズに依存する。
図5(b)は、単位面積当たりの塗布量が多い場合の模式断面図、
図5(c)は、単位面積当たりの塗布量が少ない場合の模式断面図を示している。より具体的には、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量15Laは、開口部14aにおける発光部100aの底面積と、画素電極13を基準としたときの画素規制層141の高さによって定まる。なお、
図5(b)、
図5(c)では、
図5(a)における画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量を均一の液面で表示している。一方で、塗布直後のインク量は、表示パネルの精細度に依存し、一般に、高精細であるほど溶質濃度が高濃度であるため、塗布量が少なくなる。これは、高精細パネルであるほど隔壁間の距離が短くなり開口部14aのx方向の幅が小さくなるため、単位面積当たりの、隔壁の頂部を超えてもインクの溢れが起きないインクの塗布最大量が減少し、単位面積あたりに塗布できるインク量が小さくなるためである。すなわち、一般的に、精細度が高くない場合は
図5(b)に示すように塗布直後のインク量15Lbが多く、精細度が高い場合は
図5(c)に示すように塗布直後のインク量15Lcが少ない。
【0042】
図6は、自発光パネルの精細度と、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量であるときの機能層形成用インクにおける溶媒残存率の一例を示すグラフである。なお、溶媒残存率は、塗布前の機能層形成用インクに含まれる混合溶媒の質量に対し、残存している溶媒の質量を比で示したものである。
図6に示すように、精細度が高いほど溶媒残存率が大きい。また、溶媒残存率は、30%以上である。溶媒残存率が30%未満の場合、塗布直後のインク量が多いため、インクが隔壁を超えてあふれ出す危険性がある。また、例えば、150ppiの自発光パネルでは画素規制層141上の接触角が5°となり得るときの溶媒蒸発率は約40%であり、例えば、250ppiの自発光パネルでは画素規制層141上の接触角が5°となり得るときの溶媒蒸発率は約50%である。なお、自発光パネルの精細度をx[ppi]、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量であるときの溶媒量の機能層形成用インクにおける溶媒量に対する割合(溶媒残存率)をyとしたとき、以下の関係が成立する。
【0043】
【数1】
<混合溶媒の組成>
表1は、表1に示す4種類の溶媒を複数組み合わせて混合溶媒として機能層形成用インクを形成した場合の組成と、形成された機能層の膜厚のばらつきとの実験結果を示す表である。なお、A群、B群とは上述の定義に示すとおりであり、結果は機能層の膜厚のばらつきが生じなかったものを〇、機能層の膜厚のばらつきが生じたものを×とした。また、自発光パネルの精細度は150ppiとし、画素規制層141の材料としてアクリル樹脂を用いた。ここで、混合溶媒に含まれる溶媒のうち最も沸点の高い溶媒の沸点は200℃以上が好ましいため、沸点が200℃未満であるEthylenGlycolとanisolとのみを含む混合溶媒については実験を行っていない。
【0044】
【表1】
表1に示すように、組成5~7では機能層の膜厚のばらつきが生じなかった。これに対し、組成1~4、組成8では機能層の膜厚のばらつきが生じた。
【0045】
組成1~3はいずれも、最も沸点の高い溶媒がB群に含まれる3-Methoxyphenolである。したがって、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量までインクが乾燥したときに、B群に含まれる3-Methoxyphenolが溶媒としてインク内に残存している。したがって、画素規制層141上の接触角が5°以上となり、画素規制層141上でインクが途切れ複数のインク隗に分断して機能層の膜厚ばらつきが生じたと考えられる。
【0046】
組成8では、混合溶媒を構成するすべての溶媒がB群に含まれているため、当然に画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量までインクが乾燥したときに、画素規制層141上の接触角が5°以上となり、画素規制層141上でインクが途切れ複数のインク隗に分断して機能層の膜厚ばらつきが生じたと考えられる。
【0047】
組成4では、最も沸点の高い溶媒がA群に含まれるIsophoroneである。しかしながら、Isophoroneの含有率は33wt%であり、次に沸点の高い溶媒がB群に含まれるEthylene Glycolである。すなわち、混合溶媒を占める割合が40%以上となるように沸点の高い順に溶媒を選択したとき、A群のIsophoroneのほか、B群のEthylene Glycolも選択されることになる。この場合、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量までインクが乾燥したとき、すなわち、溶媒の40%が残るように溶媒が蒸発したとき、インク内の溶媒にB群のEthylene Glycolが残存している。したがって、画素規制層141上の接触角が5°以上となり、画素規制層141上でインクが途切れ複数のインク隗に分断して機能層の膜厚ばらつきが生じたと考えられる。
【0048】
一方、組成5~7はいずれも、最も沸点の高い溶媒がA群に含まれるIsophoroneであり、かつ、含有率が40wt%以上である。すなわち、混合溶媒を占める割合が40%以上となるように沸点の高い順に溶媒を選択したとき、A群のIsophoroneのみである。この場合、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量までインクが乾燥したとき、すなわち、溶媒の40%が残るように溶媒が蒸発したとき、インク内の溶媒にA群のIsophoroneのみが残存しており、B群の溶媒を含まない。したがって、画素規制層141上の接触角が5°以上となることはなく、画素規制層141上でインクが途切れないため、機能層の膜厚ばらつきが生じなかったと考えられる。
【0049】
以上説明したように、混合溶媒の組成としては、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量までインクが乾燥したときに、B群に含まれる溶媒がインク内に残存していないことが好ましい。混合溶媒の乾燥は原則として沸点の低い溶媒から順に起こるため、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量まで乾燥したときの溶媒残存率以上となるように沸点の高い順に溶媒を選択したとき、B群の溶媒を含まない、つまり、A群に含まれる溶媒のみが含まれることが好ましい。すなわち、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量まで乾燥したときの溶媒残存率(質量比)を所定の割合とした場合に、混合溶媒に対する質量比が所定の割合以上となるように沸点の高い順に溶媒を選択したとき、A群に含まれる溶媒のみが含まれることが好ましい。一方で、選択されなかった溶媒についてはA群に含まれるかB群に含まれるかは重要ではなく、B群に含まれてもよい。なぜならば、選択されなかった溶媒は、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量まで乾燥したときのインクには残存していないと考えられるからである。なお、選択されなかった溶媒はA群に含まれていてもよく、例えば、混合溶媒がすべてA群に含まれる溶媒からなるとしてもよい。
【0050】
上記条件を満たしている場合、画素規制層141上の接触角が5°となり得るインク量までインクが乾燥したとき、
図4(d)の模式断面図に示すとおり、開口部14a内において画素規制層141上でインク15Lpが途切れることがなく、複数の画素電極13上に跨ったまま乾燥する。したがって、インクの乾燥過程で副画素間におけるインクの流動性が保たれる。よって、インクの乾燥後も、
図4(e)の模式断面図に示すとおり、開口部14a内において、機能性材料を含む膜15が複数の機能層15-11、15-12、15-13、15-14を含む状態で形成されるため、Y方向に隣接する2つの副画素間で、機能層の膜厚を均一にすることができる。
【0051】
<溶媒群の条件>
以下、画素規制層に対する接触角が5°未満である溶媒(A群の溶媒)と5°以上である溶媒(B群の溶媒)の差異について、より詳細に説明する。
【0052】
図7は、横軸として溶媒の表面張力(単位はmN/m)、縦軸としてハンセン溶解度パラメータ(以下、「HSP」という。)から算出される値をプロットした散布図である。なお、縦軸の値は、HSPにおいて、ロンドン分散力によるエネルギー(δD)が、δDと双極子相互作用によるエネルギー(δP)と水素結合によるエネルギー(δH)との総和(δD+δP+δH)に対して占める割合である。すなわち、この値が小さいほど、双極子相互作用や水素結合の強い極性分子であり、この値が大きいほど無極性分子であることを示す。
【0053】
なお、ここでは、アクリル樹脂に対する接触角が5°未満である既知の溶媒を以下の表2に示すとともに、
図7のA群の溶媒としてプロットした。
【0054】
【表2】
また、アクリル樹脂に対する接触角が5°以上である既知の溶媒を以下の表3に示すとともに、
図7のB群の溶媒としてプロットした。
【0055】
【表3】
図7に示すように、B群の溶媒はA群の溶媒と比べて表面張力が大きい。一方で、上記のHSPから算出される値が大きいほど、B群の溶媒とA群の溶媒との境界となる表面張力が小さくなることが推測される。ここで、表面張力の値をx[mN/m]、HSPにおいて、δDが、δD+δP+δHに対して占める割合をyとしたとき、A群の溶媒は以下の数式2の関係を満たす。
【0056】
【数2】
一方、B群の溶媒は以下の数式3の関係を満たす。
【0057】
【数3】
上記関係については、表2、表3に含まれない溶媒についても同様であると考えられる。すなわち、表2、表3に記載していない溶媒であっても、数2を満たす溶媒はアクリル樹脂で構成される画素規制層に対してA群の溶媒と考えることができ、数3を満たす溶媒はアクリル樹脂で構成される画素規制層に対してB群の溶媒と考えることができる。また、画素規制層の素材として、アクリル系樹脂など、アクリル樹脂と化学的特性の類似する素材を用いる場合においても、同様であると考えることができる。
【0058】
<自発光素子の構成及び製造方法>
以下、本開示の一態様に係る機能層形成用インクを使用した自発光素子の一例として、トップエミッション型の有機EL素子の具体的な構成例およびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、図面は模式的なものを含んでおり、各部材の縮尺や縦横の比率などが実際とは異なる場合がある。
【0059】
1.有機EL素子の構成
一般に有機EL表示パネルにおいて、一つの画素は、R(赤色)、G(緑色)、B(青色をそれぞれ発光する3つの副画素からなる。各副画素は、対応する色を発光する有機EL素子で構成される。
【0060】
上述したように、有機EL素子2は、基板11、層間絶縁層12、画素電極13、隔壁14、正孔注入層15、正孔輸送層16、発光層17、電子輸送層18、電子注入層19、対向電極20、および、封止層21とからなる。基板11、層間絶縁層12、電子輸送層18、電子注入層19、対向電極20、および、封止層21は、副画素ごとに形成されているのではなく、有機EL表示パネルが備える複数の有機EL素子に共通して形成されている。
【0061】
(1)基板
基板11は、絶縁材料である基材111と、TFT(Thin Film Transistor)層112とを含む。TFT層112には、副画素ごとに駆動回路が形成されている。基材111は、例えば、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、硫化モリブデン、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、マグネシウム、鉄、ニッケル、金、銀などの金属基板、ガリウム砒素などの半導体基板、プラスチック基板等を採用することができる。
【0062】
プラスチック材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂いずれの樹脂を用いてもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうち1種、または2種以上を積層した積層体を用いることができる。
【0063】
フレキシブルな有機EL表示パネルを製造するためには、基板はプラスチック材料であることが望ましい。
【0064】
(2)層間絶縁層
層間絶縁層12は、基板11上に形成されている。層間絶縁層12は、樹脂材料からなり、TFT層112の上面の段差を平坦化するためのものである。樹脂材料としては、例えば、ポジ型の感光性材料が挙げられる。また、このような感光性材料として、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂が挙げられる。また、
図3の断面図には示されていないが、層間絶縁層12には、副画素ごとにコンタクトホールが形成されている。
【0065】
(3)画素電極(第1電極)
画素電極13は、光反射性の金属材料からなる金属層を含み、層間絶縁層12上に形成されている。画素電極13は、副画素ごとに設けられ、コンタクトホール(不図示)を通じてTFT層112と電気的に接続されている。
【0066】
本実施の形態においては、画素電極13は、陽極として機能する。
【0067】
光反射性を具備する金属材料の具体例としては、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、アルミニウム合金、Mo(モリブデン)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、MoW(モリブデンとタングステンの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)などが挙げられる。
【0068】
画素電極13は、金属層単独で構成してもよいが、金属層の上に、ITO(酸化インジウム錫)やIZO(酸化インジウム亜鉛)のような金属酸化物からなる層を積層した積層構造としてもよい。
【0069】
(4)隔壁および画素規制層
隔壁14は、基板11の上方に副画素ごとに配置された複数の画素電極13を、X方向(
図2参照)において列毎に仕切るものであって、X方向に並ぶ副画素列CR、CG、CBの間においてY方向に延伸するラインバンク形状である。隔壁14には、絶縁性を備え、少なくとも表面が機能層形成用インクに対して撥液性を有する。隔壁14は、例えば、絶縁性の有機材料(例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、シロキサン系樹脂、フェノール系樹脂など)からなる。本実施の形態においては、フェノール系樹脂が用いられている。なお、隔壁14は、例えば、フッ素系界面活性剤などの撥液性を備える添加物を含んでいてもよいし、表面処理がなされていてもよい。X方向に隣接する2つの隔壁14で定義される開口部14aに有機EL素子2が形成される。
【0070】
画素規制層141は、開口部14a内においてY方向に隣接する画素電極13を区画するものであって、副画素列CR、CG、CBにおける発光層17の段切れ抑制、画素電極13と対向電極20との間の電気絶縁性の向上などの役割を有する。画素規制層141は、絶縁性を備え、上述したように機能層形成用インクに対して親液性を有する。画素規制層141は、例えば、絶縁性の有機材料からなり、本実施の形態においては、アクリル樹脂が用いられている。
【0071】
(5)正孔注入層
正孔注入層15は、画素電極13から発光層17への正孔の注入を促進させる目的で、画素電極13上に設けられている。正孔注入層15は、例えば、Ag(銀)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、V(バナジウム)、W(タングステン)、Ni(ニッケル)、Ir(イリジウム)などの酸化物、あるいは、銅フタロシアニン(CuPc)などの低分子量の有機化合物や、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)などの高分子材料からなる層である。
【0072】
本実施の形態では、正孔注入層15は、実施の形態に係る機能層形成用インクを用いた塗布成膜により形成される。
【0073】
(6)正孔輸送層
正孔輸送層16は、正孔注入層15から注入された正孔を発光層17へ輸送する機能を有する。正孔輸送層16の材料は、例えば、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。本実施の形態では、実施の形態に係る機能層形成用インクを用いた塗布成膜により形成される。
【0074】
(7)発光層
発光層17は、開口部14a内に形成されており、正孔と電子の再結合により、R、G、Bの各色の光を出射する機能を有する。発光層17の材料としては、公知の材料を利用することができる。
【0075】
発光素子2が有機EL素子である場合、発光層17に含まれる有機発光材料としては、例えば、オキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物およびアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8-ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2-ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質を用いることができる。また、トリス(2-フェニルピリジン)イリジウムなどの燐光を発光する金属錯体等の公知の燐光物質を用いることができる。また、発光層17は、ポリフルオレンやその誘導体、ポリフェニレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体等の高分子化合物等、もしくは前記低分子化合物と前記高分子化合物の混合物を用いて形成されてもよい。なお、発光素子2は量子ドット発光素子(QLED;Quantum-dot Light Emitting Diode)であってもよく、発光層17の材料として量子ドット効果を有する材料を使用することができる。
【0076】
本実施の形態では、実施の形態に係る機能層形成用インクを用いた塗布成膜により形成される。
【0077】
(8)電子輸送層
電子輸送層18は、対向電極20からの電子を発光層17へ輸送する機能を有する。電子輸送層18は、電子輸送性が高い有機材料からなる。
【0078】
電子輸送層18に用いられる有機材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料が挙げられる。
【0079】
(9)電子注入層
電子注入層19は、電子輸送層18上に複数の画素に共通して設けられており、対向電極20から発光層17への電子の注入を促進させる機能を有する。
【0080】
電子注入層19は、例えば、電子輸送性を有する有機材料に、電子注入性を向上させる金属材料がドープされてなる。ここで、ドープとは、金属材料の金属原子または金属イオンを有機材料中に略均等に分散させることを指し、具体的には、有機材料と微量の金属材料を含む単一の相を形成することを指す。なお、それ以外の相、特に、金属片や金属膜など、金属材料のみからなる相、または、金属材料を主成分とする相は、存在していないことが好ましい。また、有機材料と微量の金属材料を含む単一の相において、金属原子または金属イオンの濃度は均一であることが好ましく、金属原子または金属イオンは凝集していないことが好ましい。金属材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類から選択されることが好ましく、Ba、Li、Ybがより好ましい。本実施の形態では、Baが選択される。また、電子注入層19における金属材料のドープ量は5~40wt%が好ましい。本実施の形態では、20wt%である。電子輸送性を有する有機材料としては、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などのπ電子系低分子有機材料が挙げられる。
【0081】
なお、電子注入層19は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択される金属のフッ化物、または、アルカリ金属またはアルカリ土類金属から選択される金属のキノリニウム錯体を含む層を発光層17側に有していてもよい。
【0082】
電子注入層19の形成は、例えば、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナンスロリン誘導体などの材料と、金属材料とを共蒸着法により複数の画素に共通して成膜することでなされる。
【0083】
(10)対向電極
対向電極20は、複数の画素に共通して電子注入層19上に形成されており、陰極として機能する。
【0084】
本実施の形態では、対向電極20は、透光性と導電性とを兼ね備えており、金属材料で形成された金属層、金属酸化物で形成された金属酸化物層のうち少なくとも一方を含んでいる。透光性を確保するため、金属層の膜厚は1nm~50nm程度である。金属層の材料としては、例えば、Ag、Agを主成分とする銀合金、Al、Alを主成分とするAl合金が挙げられる。Ag合金としては、マグネシウム-銀合金(MgAg)、インジウム-銀合金が挙げられる。Agは、基本的に低抵抗率を有し、Ag合金は、耐熱性、耐腐食性に優れ、長期にわたって良好な電気伝導性を維持できる点で好ましい。Al合金としては、マグネシウム-アルミニウム合金(MgAl)、リチウム-アルミニウム合金(LiAl)が挙げられる。その他の合金として、リチウム-マグネシウム合金、リチウム-インジウム合金が挙げられる。金属酸化物層の材料としては、例えば、ITO、IZOが挙げられる。
【0085】
対向電極20は、金属層単独、または、金属酸化物層単独で構成してもよいが、金属層の上に金属酸化物層を積層した積層構造、あるいは金属酸化物層の上に金属層を積層した積層構造としてもよい。
【0086】
(11)封止層
対向電極20の上には、封止層21が設けられている。封止層21は、基板11の反対側から不純物(水、酸素)が対向電極20、電子注入層19、電子輸送層18、発光層17等へと侵入するのを防ぎ、不純物によるこれらの層の劣化を抑制する機能を有する。封止層21は、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの透光性材料を用い形成される。また、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの材料を用い形成された層の上に、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂材料からなる封止樹脂層を設けてもよい。
【0087】
本実施の形態においては、有機EL表示パネル10がトップエミッション型であるため、封止層21は光透過性の材料で形成されることが必要となる。
【0088】
(12)その他
図3には示されてないが、封止層21上に接着剤を介してガラス基板を基材とするカラーフィルタや偏向シートを貼り合せてもよい。これらを貼り合せることによって、正孔輸送層16、発光層17、電子輸送層18、電子注入層19を外部の水分および空気などからさらに保護できる。
【0089】
2.有機EL素子の製造方法
以下、有機EL素子2の製造方法について、図面を用いて説明する。
【0090】
図8は、有機EL素子2を含む有機EL表示パネル10の製造方法を示すフローチャートである。
図9から
図12は、有機EL表示パネル10の製造における各工程での状態を示す模式断面図であり、
図2のA-A断面に相当する。
【0091】
(1)基板11の形成
まず、基材111上にTFT層112を成膜して基板11を形成する(
図8のステップS1、
図9(a))。TFT層112は、公知のTFTの製造方法により成膜することができる。
【0092】
次に、基板11上に層間絶縁層12を形成する(
図8のステップS2、
図9(b))。
【0093】
具体的には、一定の流動性を有する樹脂材料を、例えば、ダイコート法により、基板11の上面に沿って、TFT層112による基板11上の凹凸を埋めるように塗布する。これにより、層間絶縁層12の上面は、基材111の上面に沿って平坦化した形状となる。
【0094】
層間絶縁層12における、TFT素子の例えばソース電極上の個所にドライエッチング法を行い、コンタクトホールを形成する。コンタクトホールは、その底部にソース電極の表面が露出するようにパターニングなどを用いて形成される。
【0095】
次に、コンタクトホールの内壁に沿って接続電極層を形成する。接続電極層の上部は、その一部が層間絶縁層12上に配される。接続電極層の形成は、例えば、スパッタリング法を用いることができ、金属膜を成膜した後、フォトリソグラフィ法およびウエットエッチング法を用いてパターニングすればよい。
【0096】
(2)画素電極13の形成
次に、層間絶縁層12上に画素電極13を形成する(
図8のステップS3)。
【0097】
まず、層間絶縁層12上に、画素電極13の材料からなる画素電極材料層130を、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などを用いて形成する(
図9(c))。次に、画素電極材料層130をエッチングによりパターニングして、副画素ごとに区画された複数の画素電極13を形成する(
図9(d))。
【0098】
(3)画素規制層141および隔壁14の形成
次に、画素規制層141および隔壁14を形成する(
図8のステップS4)。
【0099】
まず、画素規制層用樹脂であるアクリル樹脂を溶媒に溶解させた溶液を画素電極13上および層間絶縁層12上にスピンコート法などを用いて一様に塗布して、画素規制材料層1410を形成する(
図10(a))。次に、画素規制材料層1410にパターン露光と現像を施して、画素規制層141を形成する(
図10(b))。続けて、隔壁用樹脂であるフェノール樹脂を溶媒(例えば、乳酸エチルとGBLの混合溶媒)に溶解させた溶液を画素電極13上、画素規制層141上および層間絶縁層12上にスピンコート法などを用いて一様に塗布して、隔壁材料層140を形成する(
図10(c))。そして、隔壁材料層140にパターン露光と現像を施して、隔壁14を形成する(
図10(d))。
【0100】
(4)正孔注入層15および正孔輸送層16の形成
次に、正孔注入層15および正孔輸送層16を形成する(
図8のステップS5、
図11(a))。
【0101】
まず、隔壁14により規定される開口部14aに対し、正孔注入層15の構成材料を溶質として含む正孔注入層形成用インクを、印刷装置301のノズル3011より吐出して開口部14a内の画素電極13上に塗布した後、乾燥させて、正孔注入層15を形成する。次に、隔壁14により規定される開口部14aに対し、正孔輸送層16の構成材料を溶質として含む正孔輸送層形成用インクを、印刷装置301のノズル3011より吐出して開口部14a内の正孔注入層15上に塗布した後、乾燥させて、正孔輸送層16を形成する。
【0102】
(5)発光層17の形成
次に、隔壁14により規定される開口部14aに対し、発光層17の構成材料を溶質として含む発光層形成用インクを、印刷装置301のノズル3011より吐出して開口部14a内の正孔輸送層16上に塗布した後、乾燥させて、発光層17を形成する(
図8のステップS6、
図11(b))。
【0103】
(6)電子輸送層18の形成
次に、発光層17および隔壁14上に、電子輸送層18を形成する(
図8のステップS7、
図12(a))。電子輸送層18は、例えば、電子輸送性の有機材料を蒸着法により各サブピクセルに共通して成膜することにより形成される。
【0104】
(7)電子注入層19の形成
次に、電子輸送層18上に、電子注入層19を形成する(
図8のステップS8、
図12(b))。電子注入層19は、例えば、電子輸送性の有機材料とドープ金属を共蒸着法により各サブピクセルに共通して成膜することにより形成される。
【0105】
(8)対向電極20の形成
次に、電子注入層19上に、対向電極20を形成する(
図8のステップS9、
図12(c))。対向電極20は、ITO、IZO、銀、アルミニウム等を、スパッタリング法、真空蒸着法により成膜することにより形成される。
【0106】
(9)封止層21の形成
次に、対向電極20上に、封止層21を形成する(
図8のステップS10、
図12(d))。封止層21は、SiON、SiN等を、スパッタリング法、CVD法などにより成膜することにより形成することができる。
【0107】
これにより、有機EL素子2が完成する。
【0108】
≪変形例≫
以上、本開示の一態様として、有機EL素子の発光層形成用インクの組成および当該インクを使用した有機EL素子の製造方法について説明したが、本発明は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の説明に何ら限定を受けるものではない。以下では、本発明の他の態様例である変形例を説明する。
【0109】
(1)上記実施の形態においては、画素電極が陽極、対向電極が陰極であり、かつ、トップエミッション型の有機EL素子であるとした。しかしながら、例えば、画素電極が陰極、対向電極が陽極であってもよい。また、例えば、ボトムエミッション型の有機EL素子であってもよい。この場合、画素電極が光透過性の導電性材料で形成され、対向電極が光反射性の導電性材料で形成される。また、基板11において少なくとも画素電極の下側に層とする部分が光透過性を有する。
【0110】
なお、自発光素子は有機EL素子に限られず、例えば、QLEDなどの他の素子であってもよい。
【0111】
(2)上記実施の形態においては、正孔注入層15、正孔輸送層16、発光層17の全てが実施の形態に係る機能層形成用インクを用いた塗布工程で形成されるとした。しかしながら、少なくとも1つの機能層が実施の形態に係る機能層形成用インクを用いた塗布工程で形成されていればよく、例えば、正孔注入層15がスパッタリングにより成膜されてもよいし、または、正孔輸送層16が蒸着法により成膜されてもよい。または、例えば、電子輸送層18と電子注入層19のいずれか1以上が、実施の形態に係る機能層形成用インクを用いた塗布工程で形成されるとしてもよい。
【0112】
(3)上記実施の形態においては、有機EL素子2は、電子輸送層18や電子注入層19、正孔注入層15や正孔輸送層16を有する構成であるとしたが、これに限られない。例えば、電子輸送層18を有しない有機EL素子や、正孔輸送層16を有しない有機EL素子であってもよい。また、例えば、正孔注入層15と正孔輸送層16とに替えて、単一層の正孔注入輸送層を有していてもよい。また、例えば、発光層17と電子輸送層18との間に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類のいずれか、またはそのフッ化物からなる中間層を備えてもよい。
【0113】
(4)上記実施の形態においては、インクは機能性材料を溶質とする溶液であるとしたが、これに限られず、機能性材料を混合溶媒中に分散させたコロイド溶液や懸濁液であってもよい。
【0114】
(5)ノズルを介して高精細なインクの塗布が可能なものであれば、上記実施の形態におけるインクジェット装置に限らず、インクを連続的に基板上に吐出するディスペンサー方式の塗布装置を用いてもよい。
【0115】
(6)上記実施の形態に係る自発光素子は、列状に隔壁を形成するラインバンク方式であるとしたが、これに限られない。機能層の1以上が塗布法により形成され、かつ、隔壁により規定される塗布領域内に複数の副画素が存在していればよく、例えば、複数の副画素ごとに隔壁で囲み複数画素単位でピクセルバンク構造とする形態であってもよいし、六角形の副画素が千鳥状に配されるハニカム構造において隔壁が折れ線上に延伸する形態であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、自発光素子の発光層を塗布方式で形成する場合の発光層形成用インクとして最適である。
【符号の説明】
【0117】
1 表示装置
2 自発光素子(有機EL素子)
10 自発光パネル(有機EL表示パネル)
11 基板
12 層間絶縁層
13 画素電極
14 隔壁
141 画素規制層
14a 開口部
15 正孔注入層
16 正孔輸送層
17 発光層
18 電子輸送層
19 電子注入層
20 対向電極
21 封止層