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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】推定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20240719BHJP
   G01N 5/04 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N5/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020046757
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2020160066
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019056453
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太郎
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059739(JP,A)
【文献】特開2004-166526(JP,A)
【文献】特開2015-198587(JP,A)
【文献】特開2018-042489(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0263556(US,A1)
【文献】矢島ヱイ子 他,調理操作によるポリフェノール量の変化-食品からのポリフェノール抽出-,長崎女子短期大学紀要,長崎女子短期大学,2012年03月11日,Vol.36,p.57-61
【文献】村上恵 他,アスパラガス水抽出液の血栓溶解作用,同志社女子大学生活科学,同志社女子大学,2018年02月20日,Vol.51,p.45-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00~33/46
G01N 5/04~ 9/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の中で加熱された食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定する推定システムであって、
前記情報としての前記水溶性成分の維持率を、予め定めた維持率相関関係を基に算出する維持率算出手段と、
前記食材の加熱開始からの加熱時間を計測する加熱時間計測手段と、を備え、
前記維持率算出手段は、前記食材の加熱時間と加熱後の前記食材の乾燥重量との関係と加熱後の前記食材の乾燥重量と前記維持率との関係から導出され、前記食材の加熱時間と前記維持率との関係を表す予め定めた維持率相関関係と、前記加熱時間計測手段で計測された加熱時間とを基に、前記加熱時間計測手段で計測された加熱時間経過時における前記維持率を算出する推定システム。
【請求項2】
水の中で加熱された食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定する推定システムであって、
前記情報としての前記水溶性成分の維持率を、予め定めた維持率相関関係を基に算出する維持率算出手段と、
前記食材の加熱開始からの加熱時間を計測する加熱時間計測手段と、を備え、
前記維持率算出手段は、前記食材の加熱時間と加熱後の前記食材の重量との関係と加熱後の前記食材の重量と前記維持率との関係から導出され、前記食材の加熱時間と前記維持率との関係を表す予め定めた維持率相関関係と、前記加熱時間計測手段で計測された加熱時間とを基に、前記加熱時間計測手段で計測された加熱時間経過時における前記維持率を算出する推定システム。
【請求項3】
水の中で加熱された食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定する推定システムであって、
前記情報としての前記水溶性成分の維持率を、予め定めた維持率相関関係を基に算出する維持率算出手段と、
加熱後の前記食材の重量を測定する重量測定手段と、を備え、
前記維持率算出手段は、加熱後の前記食材の重量と前記維持率との関係を表す予め定めた維持率相関関係と、前記重量測定手段で測定された前記食材の重量とを基に、加熱後における前記維持率を算出する推定システム。
【請求項4】
水の中で加熱された食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定する推定システムであって、
前記情報としての前記水溶性成分の維持率を、予め定めた維持率相関関係を基に算出する維持率算出手段と、
加熱後の前記食材の破断強度を測定する破断強度測定手段と、を備え、
前記維持率算出手段は、加熱後の前記食材の破断強度と前記維持率との関係を表す予め定めた維持率相関関係と、前記破断強度測定手段で測定された前記食材の破断強度とを基に、加熱後における前記維持率を算出する推定システム。
【請求項5】
前記水の中の前記水溶性成分を定量化する定量化手段と、
前記定量化手段で得られた前記水の中の前記水溶性成分の量と、前記維持率相関関係とを基に、加熱前の前記食材中における前記水溶性成分の量を算出する初期成分量算出手段とを備え
前記初期成分量算出手段で算出した加熱前の前記食材中における前記水溶性成分の量と、前記維持率算出手段で算出した前記維持率とを基に、加熱した前記食材中の前記水溶性成分の量を算出する加熱後成分量算出手段を備える請求項1~4のいずれか一項に記載の推定システム。
【請求項6】
前記情報を表示する表示手段を備える請求項1~のいずれか一項に記載の推定システム。
【請求項7】
前記表示手段は、前記情報が予め定めた条件を満たしている際に、当該情報が予め定めた条件を満たしていることを知らせる報知機能を有している請求項に記載の推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の中で加熱した食材中における水溶性成分の量に関する情報を推定する推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人体に有用な機能性成分が注目を集めている。例えば、水溶性の機能性成分たるポリフェノール類は、血流改善効果を発揮し、生活習慣病や老化の予防に効果があるとされており、このようなポリフェノール類については、種々の加工品にその含有量などが表示されている。
【0003】
従来から、ポリフェノールの測定手法としては、フォーリンチオカルト法が茶飲料などに含まれるポリフェノール量を測定するための公定法として用いられている。また、ポリフェノール類の一つであるタンニンの測定手法としては、フォーリンデニス法がワインや蒸留酒などに含まれるタンニン量を測定するための公定法として用いられている。これらの手法は、野菜や果物中に含まれるポリフェノール類の量を測定する手法として、研究で用いられることも多い。
【0004】
また、特許文献1には、過酸化水素を分解する酵素及び電子メディエーターを含有する酸素電極を有し、かつ反応槽に過酸化水素を分解する酵素及び過酸化水素を含むポリフェノールセンサーが提案されており、このポリフェノールセンサーによれば、酸素電極を用いて電気化学的にポリフェノール類と過酸化水素との混合液における過酸化水素の減少量を確認することで、ポリフェノールを定量化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-321234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記フォーリンチオカルト法やフォーリンデニス法は、いずれも液中に含まれるポリフェノール類を試薬によって着色し、吸光度を測定して行う比色分析であり、吸光度測定のための測定機器やポリフェノール類を着色するための試薬が必要不可欠である。また、吸光度を測定する必要があるため、測定対象が懸濁液である場合には、ポリフェノール類の量を適切に測定できないという問題がある。
【0007】
また、特許文献1記載のポリフェノールセンサーを用いる手法では、測定対象の溶液に電極を挿し込むだけで測定が可能となるが、試薬として過酸化水素等を必要とする点や、電気化学的に過酸化水素の減少量を確認するようにしているため、過酸化水素の減少量が他の成分の存在により変動し易く、測定誤差が大きくなる点が問題となる。
【0008】
更に、上記各手法は、試薬での着色や試薬の添加などといった前処理が必要であるため、測定に時間を要し、また、専用の測定機器を用いなければならず、食材を調理・加工する現場で気軽に行うことは難しい。そのため、特に、食材を調理・加工する現場にて、食材中の水溶性成分の量を随時測定し、食材中の水溶性成分の量の経時的な変化を把握することが難しいという問題がある。
【0009】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、食材の調理・加工の現場にて、水の中で加熱した食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定することができる推定システムの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願出願人は、水の中で加熱した食材中における水溶性成分の量に関する情報を推定できるシステムについて鋭意研究を重ねた結果、所定のパラメータと水溶性成分の維持率との間に相関関係があることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
そして、本願発明者は、食材の加熱時間と加熱後の食材の乾燥重量との間に相関関係があるとともに、加熱後の食材の乾燥重量と加熱後の食材中の水溶性成分の維持率との間にも相関関係があることを見出した。更に、本願発明者は、上記2つの相関関係を基にして、食材の加熱時間と加熱後の食材中の水溶性成分の維持率との相関関係(維持率相関関係)を導出できるため、食材の加熱時間を計測することで、計測した加熱時間と維持率相関関係とを基に、計測した加熱時間経過時における維持率を算出することができることを見出した。
【0014】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る推定システムの特徴構成は、
水の中で加熱された食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定する推定システムであって、
前記情報としての前記水溶性成分の維持率を、予め定めた維持率相関関係を基に算出する維持率算出手段と、
前記食材の加熱開始からの加熱時間を計測する加熱時間計測手段と、を備え、
前記維持率算出手段は、前記食材の加熱時間と加熱後の前記食材の乾燥重量との関係と加熱後の前記食材の乾燥重量と前記維持率との関係から導出され、前記食材の加熱時間と前記維持率との関係を表す予め定めた維持率相関関係と、前記加熱時間計測手段で計測された加熱時間とを基に、前記加熱時間計測手段で計測された加熱時間経過時における前記維持率を算出する点にある
【0015】
上記特徴構成によれば、水の中で加熱した食材中の水溶性成分の量に関する情報として、当該成分の維持率を算出することで、水の中で加熱した食材中に、加熱前の食材中に含まれていた水溶性成分のうちどの程度が維持されているかを、水溶性成分の量を測定する度に前処理に時間を要したり、専用の測定機器を必要とすることなく、容易に把握することが可能となる。尚、維持率とは、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量を100としたときの加熱後の食材内に維持されている水溶性成分の割合である。
また、上記特徴構成によれば、加熱時間計測手段によって計測された加熱時間と、上記維持率相関関係とを基にして、加熱時間計測手段で計測された加熱時間経過時において、加熱前の食材中に含まれていた水溶性成分のうちどの程度が維持されているかを容易に把握することが可能となる。
【0016】
また、本願発明者は、食材の加熱時間と加熱後の食材の重量との間に相関関係があるとともに、加熱後の食材の重量と加熱後の食材中の水溶性成分の維持率との間にも相関関係があることを見出した。更に、本願発明者は、上記2つの相関関係を基にして、食材の加熱時間と加熱後の食材中の水溶性成分の維持率との相関関係(維持率相関関係)を導出できるため、食材の加熱時間を計測することで、計測した加熱時間と維持率相関関係とを基に、計測した加熱時間経過時における維持率を算出することができることを見出した。
【0017】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る推定システムの特徴構成は、
水の中で加熱された食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定する推定システムであって、
前記情報としての前記水溶性成分の維持率を、予め定めた維持率相関関係を基に算出する維持率算出手段と、
前記食材の加熱開始からの加熱時間を計測する加熱時間計測手段と、を備え、
前記維持率算出手段は、前記食材の加熱時間と加熱後の前記食材の重量との関係と加熱後の前記食材の重量と前記維持率との関係から導出され、前記食材の加熱時間と前記維持率との関係を表す予め定めた維持率相関関係と、前記加熱時間計測手段で計測された加熱時間とを基に、前記加熱時間計測手段で計測された加熱時間経過時における前記維持率を算出する点にある
【0018】
上記特徴構成によれば、水の中で加熱した食材中の水溶性成分の量に関する情報として、当該成分の維持率を算出することで、水の中で加熱した食材中に、加熱前の食材中に含まれていた水溶性成分のうちどの程度が維持されているかを、水溶性成分の量を測定する度に前処理に時間を要したり、専用の測定機器を必要とすることなく、容易に把握することが可能となる。尚、維持率とは、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量を100としたときの加熱後の食材内に維持されている水溶性成分の割合である。
また、上記特徴構成によれば、上記と同様に、加熱時間計測手段で計測された加熱時間経過時において、加熱前の食材中に含まれていた水溶性成分のうちどの程度が維持されているかを容易に把握することが可能となる。
【0019】
また、本願発明者は、上記のように、加熱後の食材の重量と水溶性成分の維持率との間に相関関係(維持率相関関係)があるため、加熱後の食材の重量を測定することで、測定した食材の重量と維持率相関関係とを基に、加熱後における維持率を算出することができることを見出した。
【0020】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る推定システムの特徴構成は、
水の中で加熱された食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定する推定システムであって、
前記情報としての前記水溶性成分の維持率を、予め定めた維持率相関関係を基に算出する維持率算出手段と、
加熱後の前記食材の重量を測定する重量測定手段と、を備え、
前記維持率算出手段は、加熱後の前記食材の重量と前記維持率との関係を表す予め定めた維持率相関関係と、前記重量測定手段で測定された前記食材の重量とを基に、加熱後における前記維持率を算出する点にある
【0021】
上記特徴構成によれば、水の中で加熱した食材中の水溶性成分の量に関する情報として、当該成分の維持率を算出することで、水の中で加熱した食材中に、加熱前の食材中に含まれていた水溶性成分のうちどの程度が維持されているかを、水溶性成分の量を測定する度に前処理に時間を要したり、専用の測定機器を必要とすることなく、容易に把握することが可能となる。尚、維持率とは、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量を100としたときの加熱後の食材内に維持されている水溶性成分の割合である。
上記特徴構成によれば、加熱後の食材の重量を測定することで、加熱後の食材において、加熱前の食材中に含まれていた水溶性成分のうちどの程度が維持されているかを容易に把握することができる。
【0022】
また、本願発明者は、加熱後における食材の破断強度と水溶性成分の維持率との間に相関関係(維持率相関関係)があることを見出し、加熱後の食材の破断強度を測定することで、測定した食材の破断強度と維持率相関関係とを基に、加熱後における維持率を算出できることを見出した。
【0023】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る推定システムの特徴構成は、
水の中で加熱された食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定する推定システムであって、
前記情報としての前記水溶性成分の維持率を、予め定めた維持率相関関係を基に算出する維持率算出手段と、
加熱後の前記食材の破断強度を測定する破断強度測定手段と、を備え、
前記維持率算出手段は、加熱後の前記食材の破断強度と前記維持率との関係を表す予め定めた維持率相関関係と、前記破断強度測定手段で測定された前記食材の破断強度とを基に、加熱後における前記維持率を算出する点にある
【0024】
上記特徴構成によれば、水の中で加熱した食材中の水溶性成分の量に関する情報として、当該成分の維持率を算出することで、水の中で加熱した食材中に、加熱前の食材中に含まれていた水溶性成分のうちどの程度が維持されているかを、水溶性成分の量を測定する度に前処理に時間を要したり、専用の測定機器を必要とすることなく、容易に把握することが可能となる。尚、維持率とは、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量を100としたときの加熱後の食材内に維持されている水溶性成分の割合である。
上記特徴構成によれば、加熱後の食材の破断強度を測定することで、加熱後の食材において、加熱前の食材中に含まれていた水溶性成分のうちどの程度が維持されているかを容易に把握することができる。
【0025】
また、本願発明者は、各種パラメータ(加熱時間、加熱後の食材の重量、加熱後の食材の破断強度)と維持率相関関係とを基に維持率が算出できるため、各種パラメータが任意のある値である場合における水溶性成分の量を定量化すれば、この定量化した水溶性成分の量と各種パラメータに対応する維持率相関関係とを基にして、加熱前の食材中における水溶性成分の量を推定できることを見出した。
【0026】
即ち、本発明に係る推定システムの更なる特徴構成は、前記水の中の前記水溶性成分を定量化する定量化手段と、
前記定量化手段で得られた前記水の中の前記水溶性成分の量と、前記維持率相関関係とを基に、加熱前の前記食材中における前記水溶性成分の量を算出する初期成分量算出手段とを備え
前記初期成分量算出手段で算出した加熱前の前記食材中における前記水溶性成分の量と、前記維持率算出手段で算出した前記維持率とを基に、加熱した前記食材中の前記水溶性成分の量を算出する加熱後成分量算出手段を備える点にある。
【0027】
上記特徴構成によれば、水の中の水溶性成分を定量化し、水溶性成分の量と維持率相関関係とを基に、加熱前の食材中における水溶性成分の量を算出することができる。
また、上記特徴構成によれば、加熱前の食材中における水溶性成分の量と、維持率算出工程で算出した維持率とを基に、加熱時間計測工程で計測した加熱時間経過時や、加熱後(食材の重量又は食材の破断強度の測定時)における食材中の水溶性成分の量を算出できる。
【0030】
本発明に係る推定システムの更なる特徴構成は、前記情報を表示する表示手段を備える点にある
【0031】
上記特徴構成によれば、水の中で加熱した食材中の水溶性成分の量に関する情報が表示されるため、水溶性成分の量に関する情報を可視化でき、当該表示をユーザが確認することで、水溶性成分の量に関する情報を容易に把握できる。
【0032】
本発明に係る推定システムの更なる特徴構成は、前記表示手段は、前記情報が予め定めた条件を満たしている際に、当該情報が予め定めた条件を満たしていることを知らせる報知機能を有している点にある
【0033】
上記特徴構成によれば、水溶性成分の量に関する情報が予め定めた条件を満たしている場合に、その旨をユーザに知らせることができるため、例えば、食材中の水溶性成分の維持率が所定の維持率以下になったことを上記条件として予め定めていた場合、ユーザにその旨を知らせることができる。
【0034】
尚、本願における「水溶性成分」には、ポリフェノール類、フラボノイド類や4-アミノ酪酸などの水溶性アミノ酸類、水溶性ビタミンなどの水溶性の機能性成分や、グルタミン酸やクエン酸、イノシン酸、グアニル酸などの水溶性の味成分が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】第一実施形態に係る推定システムの概略構成を示す図である。
図2】第三実施形態に係る推定システムの概略構成を示す図である。
図3】第四実施形態に係る推定システムの概略構成を示す図である。
図4】加熱時間と乾燥重量との関係を示すグラフである。
図5】乾燥重量と維持率との関係を示すグラフである。
図6】加熱時間と、維持率の実測値及び予測値との関係を示すグラフである。
図7】加熱時間と重量との関係を示すグラフである。
図8】重量と維持率との関係を示すグラフである。
図9】加熱時間と、維持率の実測値及び予測値との関係を示すグラフである。
図10】破断強度と維持率との関係を示すグラフである。
図11】加熱前のたまねぎのポリフェノール量の実測値及び予測値をまとめたグラフである。
図12】5分加熱後のグルタミン酸の流出率をまとめたグラフである。
図13】5分加熱後のクエン酸の流出率をまとめたグラフである。
図14】グルタミン酸量の実測値と簡易測定値をまとめたグラフである。
図15】クエン酸量の実測値と簡易測定値をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る推定システム及び推定方法について説明する。尚、以下の各実施形態においては、ユーザが水の中で食材を加熱して調理する場合を例にとって説明する。
【0037】
〔第一実施形態〕
第一実施形態に係る推定システムは、水の中で加熱された食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定するシステムであって、食材の加熱開始からの加熱時間を計測する加熱時間計測部2(加熱時間計測手段)や予め定めた維持率相関関係を基にして水溶性成分の維持率を算出する維持率算出部3(維持率算出手段)などを備えた制御装置1と、この制御装置1から信号を受信して、所定の表示を行う表示装置10(表示手段)とを備えている。また、第一実施形態に係る推定システムは、食材を加熱している水について、所定波長の吸光度を測定する分光光度計15を備えている。尚、水溶性成分としては、ポリフェノール類、フラボノイド類や4-アミノ酪酸などの水溶性アミノ酸類、水溶性ビタミンなどの水溶性機能性成分や、グルタミン酸、クエン酸、イノシン酸、グアニル酸などの水溶性味成分を例示できる。
【0038】
制御装置1は、加熱時間計測部2、維持率算出部3、定量化部4、初期成分量算出部5(初期成分量算出手段)、加熱後成分量算出部6(加熱後成分量算出手段)及び記憶部7を備えている。
【0039】
加熱時間計測部2は、上記のように、食材の加熱開始からの加熱時間を計測する機能部である。本実施形態においては、ユーザが食材を水の中に入れて加熱調理を開始した時点で制御装置1に設けられた適宜スイッチ等を押下することで、加熱時間の計測を開始する。
【0040】
維持率算出部3は、上記のように、予め定めた維持率相関関係を基にして水溶性成分の維持率を算出する機能部である。尚、維持率とは、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量を100としたときの加熱後の食材内に維持されている水溶性成分の割合である。
【0041】
ここで、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、食材の加熱時間と加熱後の食材の乾燥重量との間に相関関係があるとともに、この加熱後の食材の乾燥重量と維持率との間にも相関関係があり、これら2つの相関関係を基にして、食材の加熱時間と維持率との相関関係(維持率相関関係)を導出することができることを見出し、食材の加熱時間を計測することで、計測した加熱時間と維持率相関関係とを基にして、任意の加熱時間経過時における維持率を、水溶性成分の量に関する情報として推定できるという新たな知見を得た。尚、本願でいう「食材の乾燥重量」とは、水の中で加熱した食材を乾燥させた後に測定した場合における食材の重量である。
【0042】
そこで、本実施形態における維持率算出部3においては、食材の加熱時間と加熱後の食材の乾燥重量との関係と加熱後の食材の乾燥重量と水溶性成分の維持率との関係から導出され、予め記憶部7に記憶された維持率相関関係と、加熱時間計測部2で計測された加熱時間とを基に、加熱時間計測部2で計測された加熱時間経過時における維持率を算出する。
【0043】
定量化部4は、食材から水の中へと溶出した水溶性成分を定量化する機能部であり、後述する分光光度計15とともに定量化手段を構成する。具体的に、本実施形態において、定量化部4は、初期成分量測定時間(例えば3分)経過時における食材が投入された水の吸光度と、予め定めた吸光度と水溶性成分の量との相関関係とを基に、初期成分量測定時間が経過した時点での水の中に含まれる水溶性成分の量を算出する。尚、吸光度と水溶性成分の量との相関関係は、フォーリンチオカルト法などの公知の方法によって水溶性成分の量を算出した溶液の吸光度を測定することで、予め定めておくことができる。
【0044】
初期成分量算出部5は、加熱前の食材中に含まれる水溶性成分の量を算出する機能部である。本実施形態において、初期成分量算出部5では、定量化部4において算出された初期成分量測定時間経過時における水の中の水溶性成分の量と、初期成分量測定時間と、上記維持率相関関係とを基にして、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量(以下、初期成分量ともいう)を算出する。定量化部4において算出された水溶性成分の量は、初期成分量測定時間経過時において食材中から水の中へと溶出している水溶性成分の量である。したがって、定量化部4において算出された水溶性成分の量をM1、初期成分量測定時間経過時における維持率をS1、水に投入した食材の量をM2とした場合、食材1g当たりに含まれる初期成分量は、(M1×100)/((100-S1)×M2)で算出することができる。
【0045】
加熱後成分量算出部6は、加熱時間計測部2において計測された加熱時間経過時における食材中の水溶性成分の量を算出する機能部である。本実施形態においては、初期成分量算出部5で算出された初期成分量と維持率算出部3で算出された維持率とを基にして、加熱時間計測部2において計測された加熱時間経過時における食材中の水溶性成分の量(以下、加熱後成分量ともいう)を算出する。即ち、加熱前の食材1g中に含まれる初期成分量をM3、維持率算出部3で算出された維持率をS2とした場合、食材1g当たりに含まれる加熱後成分量は、M3×(S2/100)で算出することができ、水に投入した食材の量がM2である場合、加熱後成分量は、M2×M3×(S2/100)で算出することができる。
【0046】
記憶部7は、各種情報が記憶される機能部であり、本実施形態においては、上記維持率相関関係や、吸光度と水溶性成分の量との相関関係が予め記憶されている他、加熱時間計測部2で計測された加熱時間や初期成分量算出部5で算出された初期成分量が一時的に記憶されるようになっている。尚、維持率相関関係や吸光度と水溶性成分の量との相関関係は、食材の種類や品種によって異なるものであるため、種類や品種が異なる複数の食材について別々の相関関係が予め記憶されており、測定対象となった食材に応じて、各機能部は必要な相関関係を参照するように構成されている。
【0047】
表示装置10は、加熱後成分量算出部6で算出された加熱後成分量を表示するとともに、当該加熱後成分量が予め定めた条件を満たしている場合に、その旨をユーザに報知するための警告を発する機能(報知機能)を有している。尚、本実施形態においては、食材中の水溶性成分の量が減り過ぎている場合、即ち、加熱後成分量が所定量未満となった場合に、その旨をユーザに報知するための警告表示を行うように構成されている。
【0048】
分光光度計15は、上記のように、定量化部4とともに定量化手段を構成するものであり、食材が投入された水について、所定波長の吸光度を測定するものである。
【0049】
次に、以上の構成を備えた推定システムにおいて、水中で所定時間加熱した後の食材中に含まれる水溶性成分の量を推定する過程について説明する。
【0050】
まず、水の中に食材を投入し、食材の加熱を開始して、加熱時間の計測を開始する(加熱時間計測工程)。尚、投入する食材は、適当な大きさにカットしたものであっても良いし、カットすることなくそのままの状態であっても良い。
【0051】
ついで、加熱時間計測部2において計測される加熱時間が初期成分量測定時間となった時点で、食材が投入されている水について分光光度計15により所定波長の吸光度を測定し、測定結果が定量化部4に送信される。その後、定量化部4において、初期成分量測定時間経過時における水の吸光度と、吸光度と水溶性成分の量との相関関係とを基にして、初期成分量測定時間経過時における水の中に含まれる水溶性成分の量が算出される(定量化工程)。
【0052】
ついで、初期成分量算出部5において、初期成分量測定時間経過時における水中の水溶性成分の量と、維持率相関関係とを基にして、食材1g当たりに含まれる初期成分量が算出される(初期成分量算出工程)。尚、算出された初期成分量は、適宜記憶部7に記憶される。
【0053】
次に、任意の加熱時間経過時における維持率を算出する。具体的には、維持率算出部3において、記憶部7に記憶された維持率相関関係を参照して、加熱時間計測部2で計測された加熱時間経過時における維持率が算出される(維持率算出工程)。
【0054】
その後、加熱後成分量算出部6において、記憶部7に記憶された初期成分量と、任意の加熱時間経過時における維持率とを基にして、当該任意の加熱時間経過時における加熱後成分量が算出される(加熱後成分量算出工程)。
【0055】
加熱後成分量算出部6において算出された加熱後成分量は、適宜表示装置10に表示される(表示工程)。尚、表示装置10は、加熱後成分量が所定量未満である場合には、その旨をユーザに報知するための警告表示を行う。
【0056】
尚、任意の加熱時間経過時における維持率及び加熱後成分量の算出は、ユーザが食材の加熱調理をやめるまで適当なタイミングで繰り返し行い、加熱後成分量が算出される都度、当該加熱後成分量が表示装置10に表示される。
【0057】
このように、本実施形態に係る推定システムによれば、任意の加熱時間経過時における食材中に維持された水溶性成分の量を推定することができ、水溶性成分の量を測定する度に前処理に時間を要したり、専用の測定機器を必要とすることなく、容易に水溶性成分の量を把握することが可能となる。また、水溶性成分の量が表示装置10に表示されるため、当該表示をユーザが確認することで、調理中の食材に含まれる水溶性成分の量を視覚的に認識でき、水溶性成分の量が所定量未満である場合には警告表示がなされるため、調理中の食材に含まれる水溶性成分の量が減り過ぎたことをユーザが直感的に認識できる。
【0058】
〔第二実施形態〕
第二実施形態に係る推定システムは、主として、維持率算出部3における維持率の算出及び初期成分量算出部5における初期成分量の算出を行う際に、食材の加熱時間と加熱後の食材の重量との関係と、加熱後の食材の重量と維持率との関係とから導出される相関関係を使用する点が第一実施形態と異なっている。以下、第二実施形態に係る推定システムについて説明するが、第一実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0059】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、食材の加熱時間と加熱後の食材の重量との間に相関関係があるとともに、この加熱後の食材の重量と維持率との間にも相関関係があり、これら2つの相関関係を基にして、食材の加熱時間と維持率との相関関係(維持率相関関係)を導出できることを見出し、食材の加熱時間を計測することで、計測した加熱時間と維持率相関関係とを基にして、任意の加熱時間経過時における維持率を、水溶性成分の量に関する情報として推定できるという新たな知見を得た。尚、本願でいう「食材の重量」とは、水の中で加熱した食材を乾燥させることなく測定した場合における食材の重量である。
【0060】
そこで、本実施形態における維持率算出部3においては、食材の加熱時間と加熱後の食材の重量との関係と加熱後の食材の重量と水溶性成分の維持率との関係とから導出され、予め記憶部7に記憶された維持率相関関係と、加熱時間計測部2で計測された加熱時間とを基に、加熱時間計測部2で計測された加熱時間経過時における維持率を算出する。
【0061】
初期成分量算出部5においては、上記第一実施形態の場合と同様にして算出される、初期成分量測定時間経過時における水の中の水溶性成分の量と、上記維持率相関関係とを基にして、初期成分量を算出する。
【0062】
このような構成を備えた第二実施形態に係る推定システムにおいても、上記第一実施形態に係る推定システムと同様に、水溶性成分の量を測定する度に前処理に時間を要したり、専用の測定機器を必要とすることなく、任意の加熱時間経過時における食材中に維持された水溶性成分の量を把握することが可能となる。また、表示装置10に表示される水溶性成分の量や警告表示を通じて、調理中の食材に含まれる水溶性成分の量や、当該水溶性成分の量が減り過ぎていることをユーザが直感的に認識できる。
【0063】
〔第三実施形態〕
第三実施形態に係る推定システムは、主として、食材の重量を測定する重量計16(重量測定手段)を備える点、及び、維持率算出部3における維持率の算出及び初期成分量算出部5における初期成分量の算出を行う際に、加熱後の食材の重量と維持率との間の相関関係を使用する点が第一及び第二実施形態と異なっている。以下、第三実施形態に係る推定システムについて説明するが、第一及び第二実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0064】
図2に示すように、第三実施形態に係る推定システムは、食材の重量を測定するための重量計16を備えており、当該重量計16での測定結果が制御装置1に送信されるようになっている。
【0065】
また、本願発明者は、上記のように、加熱後の食材の重量と水溶性成分の維持率との間に相関関係(維持率相関関係)があることを見出し、加熱後の食材の重量を測定することで、測定した重量と維持率相関関係とを基にして、加熱後(言い換えれば、重量測定時)における維持率を、水溶性成分の量に関する情報として推定できるという新たな知見を得た。
【0066】
そこで、本実施形態における維持率算出部3においては、加熱後の食材の重量と水溶性成分の維持率との相関関係であって、予め記憶部7に記憶された維持率相関関係と、加熱後に重量計16で測定された食材の重量とを基に、加熱後における維持率を算出する。
【0067】
また、本実施形態に係る定量化部4は、ユーザが定めた所定のタイミングにおける食材が投入された水の吸光度と、予め定めた吸光度と水溶性成分の量との相関関係とを基にして、所定のタイミングにおける水の中に含まれる水溶性成分の量を算出する。
【0068】
初期成分量算出部5においては、定量化部4において算出された、所定のタイミングにおける水の中の水溶性成分の量と、上記所定のタイミングにおいて重量計16で測定された食材の重量と、上記維持率相関関係とを基にして、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量(初期成分量)を算出する。
【0069】
このような構成を備えた第三実施形態に係る推定システムにおいては、加熱後の食材の重量を重量計16により測定する重量測定工程を行い、測定した重量と上記維持率相関関係とを基にして維持率を算出し、算出した維持率を用いて加熱後成分量を算出することができる。したがって、本推定システムによれば、水溶性成分の量を測定する度に前処理に時間を要したり、専用の測定機器を必要とせず、調理現場において一般的に使用され得る重量計を使用するだけで、加熱後の食材中に維持された水溶性成分の量を把握することが可能となる。また、表示装置10に表示される水溶性成分の量や警告表示を通じて、調理中の食材に含まれる水溶性成分の量や、当該水溶性成分の量が減り過ぎていることをユーザが直感的に認識できる。
【0070】
〔第四実施形態〕
第四実施形態に係る推定システムは、主として、食材の破断強度を測定する引張試験機17(破断強度測定手段)を備える点、及び、維持率算出部3における維持率の算出及び初期成分量算出部5における初期成分量の算出を行う際に、加熱後の食材の破断強度と維持率との間の相関関係を使用する点が第一、第二及び第三実施形態と異なっている。以下、第四実施形態に係る推定システムについて説明するが、第一及び第二実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0071】
図3に示すように、第四実施形態に係る推定システムは、食材の破断強度を測定するための引張試験機17を備えており、当該引張試験機17での測定結果が制御装置1に送信されるようになっている。
【0072】
本願発明者は、加熱後の食材の破断強度と水溶性成分の維持率との間に相関関係(維持率相関関係)があることを見出し、加熱後の食材の破断強度を測定することで、測定した破断強度と維持率相関関係とを基にして、加熱後(言い換えれば、破断強度測定時)における維持率を、水溶性成分の量に関する情報として推定できるという新たな知見を得た。
【0073】
そこで、本実施形態における維持率算出部3においては、加熱後の食材の破断強度と水溶性成分の維持率との相関関係であって、予め記憶部7に記憶された維持率相関関係と、加熱後に引張試験機17で測定された食材の破断強度とを基に、加熱後における維持率を算出する。
【0074】
初期成分量算出部5においては、上記第三実施形態の場合と同様にして算出される、所定のタイミングにおける水の中の水溶性成分の量と、上記所定のタイミングにおいて引張試験機17で測定された食材の破断強度と、上記維持率相関関係とを基にして、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量(初期成分量)を算出する。
【0075】
このような構成を備えた第四実施形態に係る推定システムにおいては、加熱後の食材の破断強度を引張試験機17により測定する破断強度測定工程を行い、測定した破断強度と上記維持率相関関係とを基にして維持率を算出し、算出した維持率を用いて加熱後成分量を算出することができる。したがって、本推定システムによれば、水溶性成分の量を測定する度に前処理に時間を要したり、試薬等を必要することなく、加熱後の食材中に維持された水溶性成分の量を把握することが可能となる。また、表示装置10に表示される水溶性成分の量や警告表示を通じて、調理中の食材に含まれる水溶性成分の量や、当該水溶性成分の量が減り過ぎていることをユーザが直感的に認識できる。
【0076】
〔別実施形態〕
〔1〕上記各実施形態では、初期成分量算出部5において初期成分量を算出するようにしているが、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量が予め分かっている場合や、加熱後の食材中における水溶性成分の維持率を把握できれば十分であるような場合には、定量化部4や初期成分量算出部5を備えていない構成であっても良い。
【0077】
〔2〕上記各実施形態では、加熱後成分量が所定量未満である場合に警告表示を行うようにしているが、これに限られるものではなく、警告音を発するようにしても良いし、警告表示等を行わないようにしても良い。
【0078】
〔3〕上記第三及び第四実施形態では、加熱時間計測部2を備えていない構成を採用したが、これに限られるものではなく、加熱時間計測部2を備えていても良い。この場合、第三及び第四実施形態においては、定量化部4において、上記第一実施形態の場合と同様に初期成分量測定時間経過時における水の中の水溶性成分の量を算出し、この算出した水溶性成分の量を使用して、初期成分量算出部5において初期成分量を算出するようにしても良い。
【0079】
〔4〕上記実施形態では、維持率相関関係として、加熱時間と加熱後食材の重量との関係及び加熱後食材の重量と維持率との関係から導出される相関関係や、加熱後食材の重量と維持率との相関関係などを使用する態様としたがこれに限られるものではない。例えば、加熱時間がX分である場合の維持率Y%であるという一つの関係のみを予め定められた維持率相関関係として使用してもよい。
【0080】
上記実施形態(別実施形態を含む)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0081】
以下、本願発明者が行った実験及びその結果について説明する。
【0082】
〔実験例1〕
本願発明者は、品種の異なる5種類のたまねぎ(サンプル1~5)について、これらサンプル1~5を2cm四方に細断したもの約10gを30gの水の中に入れ、各サンプルについて250℃にて0分、2分、5分、10分、15分、30分加熱した。加熱後、水中から取り出したサンプルについて、重量、乾燥させた重量(乾燥重量)、ポリフェノール量及び破断強度を測定するとともに、加熱後の水に溶出したポリフェノール量を測定した。また、加熱前の各サンプルについて、重量、乾燥重量、ポリフェノール量及び破断強度を測定した。
【0083】
図4は、各サンプルについての加熱時間と乾燥重量との関係をプロットしたグラフであり、図5は、各サンプルについての乾燥重量と維持率との関係をプロットしたグラフである。尚、維持率とは、加熱後の各サンプル中のポリフェノール量、加熱後の水の中のポリフェノール量及び加熱前の各サンプル中のポリフェノール量を基に算出した値であり、加熱前の各サンプル中のポリフェノール量を100としたときの加熱後の各サンプル中に維持されているポリフェノール量の割合である。
【0084】
図4から明らかなように、各サンプルについて、加熱時間が長くなるにつれて乾燥重量が徐々に減少しており、加熱時間と乾燥重量との間に相関関係があった。また、図5から分かるように、各サンプルについて、乾燥重量が増加するにつれて維持率が徐々に高くなっており、乾燥重量と維持率との間にも相関関係があった。そこで、この2つの相関関係を基に、加熱時間と維持率との間の相関関係(維持率相関関係)を導出した。
【0085】
図6は、サンプル3について、上記導出した維持率相関関係によって予測される維持率(予測値)及び実測した維持率(実測値)と、加熱時間との関係をプロットしたグラフである。同図から明らかなように、予測値が実測値とよく一致しており、このことから、加熱時間と乾燥重量との間の相関関係及び乾燥重量と維持率との間の相関関係を基に導出した維持率相関関係を利用すれば、加熱時間を計測することで、所定の加熱時間経過時における水溶性成分の維持率を推定できることが明らかとなった。
【0086】
図7は、各サンプルについて、加熱時間と重量との関係をプロットしたグラフであり、図8は重量と維持率との関係をプロットしたグラフである。
【0087】
図7から分かるように、各サンプルについて、加熱時間が長くなるにつれて重量が徐々に減少しており、加熱時間と重量との間に相関関係があった。また、図8から分かるように、各サンプルについて、重量が増加するにつれて維持率が徐々に高くなっており、重量と維持率との間にも相関関係があった。このことから、重量と維持率との間の相関関係を維持率相関関係として利用すれば、加熱後の食材の重量を測定することで、重量測定時における水溶性成分の維持率を推定できることがわかった。
【0088】
また、上記2つの相関関係を基に、加熱時間と維持率との間の相関関係(維持率相関関係)を導出した。図9は、サンプル3について、上記導出した維持率相関関係によって予測される維持率(予測値)及び実測した維持率(実測値)と、加熱時間との関係をプロットしたグラフである。同図から明らかなように、予測値は実測値とよく一致している。このことから、加熱時間と重量との間の相関関係及び重量と維持率との間の相関関係を基に導出した維持率相関関係を利用すれば、加熱時間を計測することで、所定の加熱時間経過時における水溶性成分の維持率を推定できることが明らかとなった。
【0089】
図10は、各サンプルについての破断強度と維持率との関係をプロットしたグラフである。同図から明らかなように、各サンプルについて、破断強度が大きくなるにつれて維持率が徐々に高くなっており、破断強度と維持率との間に相関関係があった。このことから、破断強度と維持率との間の相関関係を維持率相関関係として利用すれば、加熱後の食材の破断強度を測定することで、破断強度測定時における水溶性成分の維持率を推定できることがわかった。
【0090】
また、本願発明者は、加熱前のサンプル1に含まれるポリフェノール量を推定する実験を行った。具体的には、サンプル1について、2cm四方に細断したもの約10gを30gの水の中に入れ、250℃にて1分(60秒)、2分(120秒)、3分(180秒)加熱した。加熱後の水について、ポリフェノールが吸収する所定波長の吸光度を測定し、この測定した吸光度、及びフォーリンチオカルト法を利用して予め定めたポリフェノール量と吸光度との関係を基にして、水に流出したポリフェノール量を算出した。その後、算出したポリフェノール量、加熱時間及び維持率相関関係を基にして、加熱前のたまねぎに含まれるポリフェノール量を推定した。尚、3つの加熱時間について、それぞれ3回同様の実験を行った。図11はその結果をまとめたグラフであり、加熱前のたまねぎのポリフェノール量を実測した値(実測値)も併記した。
【0091】
図11に示すように、加熱時間の長短にかかわらず、予測値は実測値とよく一致している。このことから、所定の加熱時間経過時における水に溶出した水溶性成分を定量化し、得られた水溶性成分の量と維持率相関関係とを利用すれば、加熱前の食材中の水溶性成分の量を推定できることがわかった。
【0092】
〔実験例2〕
本願発明者は、生のトマトについて、これらを縦に8等分、横に3等分となるようにカットしたもの(1つ約15g)をサンプル(サンプル1~8)とし、これら8つのサンプルを1つずつ別々に30mLの水の中に入れ、5分加熱した。加熱後、煮だし液からサンプルを取り出し、5分加熱後の煮だし液中のグルタミン酸量及びクエン酸量を既知の酵素法を用いて測定した。また、取り出したサンプルを再度30mLの水の中に入れて更に5分加熱した後、同様に煮だし液からサンプルを取り出し、この煮だし液中のグルタミン酸量及びクエン酸量を酵素法を用いて測定し、この測定値を10分加熱後のグルタミン酸量及びクエン酸量とした。以後同様に、15分加熱後、20分加熱後の煮だし液中のグルタミン酸量及びクエン酸量を既知の酵素法を用いて測定した。その後、各サンプルごとに、5分、10分、15分及び20分加熱後に測定したグルタミン酸量及びクエン酸量の総量を100としたときの5分加熱後の各サンプル中から水に流出したグルタミン酸量及びクエン酸量の割合(流出率)を算出した。尚、流出率は、加熱前の食材に含まれる水溶性成分の量を100としたときに加熱後の維持率を減算した値でもある。
【0093】
図12及び図13は、各サンプルについて算出した5分加熱後のグルタミン酸(図12)及びクエン酸(図13)の流出率をまとめたグラフである。同図からわかるように、グルタミン酸及びクエン酸に関する5分後の流出率は、各サンプルごとに大きなばらつきはなかった。具体的に、グルタミン酸については平均値が56.5%、標準偏差が3.4%であり、クエン酸については平均値が58.2%、標準偏差が2.9%であった。加熱前の各サンプル中のグルタミン酸量及びクエン酸量をそれぞれ100としたときの5分加熱後において各サンプル中に維持されているグルタミン酸量及びクエン酸量の割合(維持率)は、100から流出率を引いた値となる。したがって、グルタミン酸及びクエン酸の維持率についても各サンプルごとに大きなばらつきはなく、5分加熱後のサンプルの維持率を予め算出しておくことで、この加熱時間と維持率との関係を維持率相関関係として使用することができることが確認できた。
【0094】
本願発明者は、上記維持率相関関係(5分加熱時のサンプルの維持率)と5分加熱後の煮だし液中に流出したグルタミン酸量及びクエン酸量とを基に、加熱前の各サンプルに含まれるグルタミン酸量及びクエン酸量の簡易測定値を算出した。図14及び図15は、その結果をまとめたグラフであり、図14はグルタミン酸、図15はクエン酸に関するグラフである。尚、加熱前の各サンプルのグルタミン酸量及びクエン酸量を実測した値(実測値)も併記した。
【0095】
これら図14及び図15から明らかなように、いずれのサンプルについてもグルタミン酸及びクエン酸の簡易測定値と実測値とがよく一致している(グルタミン酸に関する実測値との平均誤差は5.3%、クエン酸に関する実測値との平均誤差は4.2%)。このことから、任意の一の加熱時間経過後の維持率を維持率相関関係として利用すれば、当該一の加熱時間経過時における水に流出した水溶性成分を定量化することで、加熱前の食材中の水溶性成分の量を推定できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の推定システム及び推定方法は、食材の調理・加工の現場にて、水の中で加熱した食材中の水溶性成分の量に関する情報を推定するのに用いられる。また、野菜や果物などの農業現場における生産物の成分量に関する情報を推定するのに用いられる。
【符号の説明】
【0097】
2 加熱時間計測部
3 維持率算出部
4 定量化部
5 初期成分量算出部
6 加熱後成分量算出部
10 表示装置
15 分光光度計
16 重量計
17 引張試験機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15