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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】断熱外壁構造、及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20240719BHJP
   E04B 1/70 20060101ALI20240719BHJP
   E04B 1/80 20060101ALI20240719BHJP
   E04B 2/56 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
E04B1/76 500F
E04B1/70 D
E04B1/76 400N
E04B1/80 100L
E04B2/56 645B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020047912
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147851
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】上野 彩
(72)【発明者】
【氏名】柏原 誠一
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-164668(JP,A)
【文献】特開2010-077649(JP,A)
【文献】特開2010-071047(JP,A)
【文献】特開平01-312189(JP,A)
【文献】特開昭55-032850(JP,A)
【文献】特開平05-051976(JP,A)
【文献】実開昭62-049516(JP,U)
【文献】実開平01-138092(JP,U)
【文献】実開平01-096906(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0345130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62- 1/99
E04B 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁を構成する断熱外壁構造であって、
外装材と、前記外装材に沿って配置される内装材と、前記外装材と前記内装材との間に形成された空気層と、前記空気層に外気を導入、または該空気層の空気を排出可能な換気ガラリと、を備え
前記空気層は、前記換気ガラリを除いて屋外空間に対して連通しておらず、屋内空間に対しては遮断されており、
前記換気ガラリの開口部の全体形状が、縦長であることを特徴とする断熱外壁構造。
【請求項2】
前記換気ガラリが、前記建物における所定階の外壁上端部に位置する、請求項1に記載の断熱外壁構造。
【請求項3】
前記換気ガラリが、前記建物における最上階の外壁上端部のみに設けられている、請求項1に記載の断熱外壁構造。
【請求項4】
前記換気ガラリは、鉛直方向において、該換気ガラリの上部が梁と重なり、該換気ガラリの下部が前記空気層と重なる位置に設けられている、請求項1~3の何れか一項に記載の断熱外壁構造。
【請求項5】
前記外装材と前記内装材との間に断熱材が配置され、前記外装材と前記断熱材との間に前記空気層が形成されている、請求項1~4の何れか一項に記載の断熱外壁構造。
【請求項6】
前記外装材の容積比熱と厚みの積が、30kJ/mK以上であることを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の断熱外壁構造。
【請求項7】
前記外装材は、軽量気泡コンクリートからなる、請求項1~6の何れか一項に記載の断熱外壁構造。
【請求項8】
前記空気層の下部は、屋内及び屋外に対して空気の流出及び流入を遮断されている、請求項1~7の何れか一項に記載の断熱外壁構造。
【請求項9】
前記空気層の厚さは、15mm以下である、請求項1~8の何れか一項に記載の断熱外壁構造。
【請求項10】
前記換気ガラリは、開閉機能を有する、請求項1~9の何れか一項に記載の断熱外壁構造。
【請求項11】
前記換気ガラリは、開口部の全体形状が縦長の長方形である、請求項1~10の何れか一項に記載の断熱外壁構造。
【請求項12】
請求項1~11の何れか一項に記載の断熱外壁構造を有する建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の断熱外壁構造、及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅等の建物には高い断熱性が求められている。そして、建物の外周部を構成する外壁には、断熱性を高めるための様々な工夫がなされている。例えば、特許文献1には、外壁を構成する第1断熱板と第2断熱板とを外壁の厚さ方向に離間して配置し、それら2枚の断熱板の間に空気層を形成することで、第1断熱板と第2断熱板と空気層で構成される3重の断熱構造を外壁に設けることが提案されている。このような空気層を外壁の内部に形成することで、外壁全体としての断熱性を高めることができ、特に気温の低い冬季において、屋外への建物内部の熱の流出を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-9087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の空気層を有する外壁構造にあっては、高温多湿となる夏季に、空気層内の空気の温度、湿度が上昇し、熱気及び湿気が屋外に排出され難いという問題がある。その結果、外気よりも空気層内の温度及び湿度が高くなり、例えば冷房使用時の冷却効率が低下したり、空気層内に結露が生じたりする虞があった。
【0005】
それゆえ、本発明は、空気層内の熱気及び湿気を適切に排出することが可能な断熱外壁構造、及び建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の断熱外壁構造は、建物の外壁を構成する断熱外壁構造であって、
外装材と、前記外装材に沿って配置される内装材と、前記外装材と前記内装材との間に形成された空気層と、を備え、
前記空気層に外気を導入、または該空気層の空気を排出可能な換気ガラリを有し、
前記換気ガラリの開口部の全体形状が、縦長であることを特徴とするものである。
【0007】
なお、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記換気ガラリが、前記建物における所定階の外壁上端部に位置することが好ましい。
【0008】
また、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記換気ガラリが、前記建物における最上階の外壁上端部のみに設けられていることが好ましい。
【0009】
また、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記換気ガラリは、鉛直方向において、該換気ガラリの上部が梁と重なり、該換気ガラリの下部が前記空気層と重なる位置に設けられていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記外装材と前記内装材との間に断熱材が配置され、前記外装材と前記断熱材との間に前記空気層が形成されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記外装材の容積比熱と厚みの積が、30kJ/m2K以上であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記外装材は、軽量気泡コンクリートからなることが好ましい。
【0013】
また、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記空気層の下部は、屋内及び屋外に対して空気の流出及び流入を遮断されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記空気層の厚さは、15mm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記換気ガラリは、開閉機能を有することが好ましい。
【0016】
また、本発明の断熱外壁構造にあっては、前記換気ガラリは、開口部の全体形状が縦長の長方形であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の建物は、上記何れかの断熱外壁構造を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、空気層内の熱気及び湿気を適切に排出することが可能な断熱外壁構造、及び建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る建物の断熱外壁構造を示す側面視での断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る建物の断熱外壁構造の変形例を示す側面視での断面図である。
図3図1の断熱外壁構造に設けられた換気ガラリの一例を示す正面図である。
図4図3の断熱外壁構造に設けられた換気ガラリの他の例を示す正面図である。
図5】本発明の効果を確認するための建物(実験棟)の平面図である。
図6図5に示す実験棟の側面視での断面図である。
図7】外気の温度と、実施例及び比較例に係る実験棟の室内温度と、を示すグラフである。
図8】外気の湿度と、実施例及び比較例に係る実験棟の梁内部空間の相対湿度変化とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る建物1の断熱外壁構造10を示す断面図である。
【0021】
建物1は、例えば、鉄骨造の骨組みを有する工業化住宅とすることができる。なお、工業化住宅としては例えば、鉄筋コンクリート造の基礎4などの下部構造体2と、柱や梁5などの部材で構成される架構を有し、下部構造体2の上方に設けられた上部構造体3と、で構成される。下部構造体2は、地盤上に設置され、上部構造体3を支持する。具体的に、下部構造体2を構成する基礎4としては、断面T字状の布基礎とすることができ、フーチング部4aと、基礎梁としての立ち上がり部4bとを備える。上部構造体3は、複数の柱及び柱間に架設された複数の梁5から構成される架構と、この架構の外周部に配置される外壁(外周壁)と、架構の梁5上に固定される床部材6と、を備えており、外壁が、本実施形態の断熱外壁構造10を備えている。なお、本実施形態の各階の床部材6は、軽量発泡コンクリート(以下、「ALC」と記載する。「ALC」とは「autoclaved light weight concrete」の略である。)のパネルにより構成されている。また、架構を構成する部材は、予め規格化(標準化)されたものとすることができ、その場合、予め工場にて製造された後、建築現場に搬入されて組み立てられる。
【0022】
図1に示すように、建物1の外壁(外周壁)を構成する本実施形態の断熱外壁構造10は、外装材11と、内装材12と、空気層13とを備える。外装材11には、空気層13とを屋外空間とを連通可能な換気ガラリ20が設けられている。
【0023】
また、外装材11と内装材12との間には、断熱材14が配置されている。断熱材14は、外装材11と平行に配置され、外装材11の屋内側の面から所定の間隔を空けて配置されている。外装材11の屋内側の面と、断熱材14の屋外側の面との間に、空気層13が形成される。なお、断熱材14と内装材12の屋外側の面との間に、例えばロックウール、グラスウール、セルロースファイバー等の繊維系の断熱材を配置してもよい。
断熱材14は、内装材12の屋外側の面に接するように隣接して配置してもよいし、内装材12の屋外側の面から間隔を空けて配置してもよい。本例の断熱材14は、内装材12の全体を屋外側から覆うように配置されている。
【0024】
外装材11は、例えばALCパネルとすることができる。ALCパネルは、例えば矩形板状であり、建物1の外周面に沿って、上下、左右に並べて配置される。外装材11としては、ALCパネルに限定されず、例えばPCコンクリートパネル、押出成形セメント板、及び木質パネルなどを用いてもよい。また、外装材11としては、ALCパネル等の予め工場にて製造されたパネル材であってもよく、建設現場で打設されたものであってもよい。隣接する2枚の外装材11の間には目地部が形成され、当該目地部には、隣接する外装材11間の隙間を埋めるためのシーリングが打設される。
【0025】
外装材11は、架構の外周部を取り囲むように連接されている。外装材11としての各ALCパネルは、L型金物等の連結金物を介して、建物1の構造部材としての各階の上下梁に対して、ボルト等の締結部材により固定されている。より具体的に、建物1の1階部分に配置された外装材11としてのALCパネルは、その上端部が2階の床梁5a(1階の上梁)に対して固定され、下端部が基礎梁としての立ち上がり部4b(1階の下梁)に対して固定されている。また、建物1の2階部分に配置された外装材11としてのALCパネルは、その上端部が屋上階の床梁5b(2階の上梁)に対して固定され、下端部が2階の床梁5a(2階の下梁)に対して固定されている。なお、外装材11の配置、及び固定方法等は特に限定されない。また、本実施形態の梁5(5a、5b)はH型鋼で構成されているが、これに限定されない。
【0026】
内装材12は、外装材11に沿って配置される。内装材12は、外装材11と平行に、外装材11の屋内側の面から所定の間隔をあけて配置される。内装材12は、例えば石膏ボード等の板材で構成される。内装材12は、内装材12の屋外側に位置する下地材に対してビス等の固定具により固定されている。内装材12の屋外側の面と外装材11の屋内側の面との間に、空気層13及び断熱材14が位置する。
【0027】
本例の空気層13は、外装材11(の屋内側の面)と、断熱材14(の屋外側の面)との間に区画形成されている。空気層13は、断熱外壁構造10において断熱層を高める断熱層として機能する。
【0028】
また、建物1の外壁(外周壁)を構成する本実施形態の断熱外壁構造10の変形例を図2に示す。図2の例では、最上階の天井部分の内装材12の屋上側に断熱材14を設けている。断熱材14と床部材6の間は空気層であり、空気層と換気ガラリ20が連通している。
【0029】
空気層13の下部は、屋内及び屋外に対して空気の流出及び流入を遮断されている。すなわち、空気層13は、換気ガラリ20を除いて屋外空間に対して連通しておらず、屋内空間(内装材12よりも屋内側の空間)に対しては遮断されている(連通していない)。
【0030】
断熱材14は、例えば、フェノールフォーム、ポリスチレンフォーム、ウレタンフォーム等の発泡樹脂系の材料からなるパネル状の断熱材の他、ロックウール等の繊維系の断熱材を用いることもできる。この断熱材14は、内装材12の屋外側の面に沿って配置されている。
【0031】
換気ガラリ20は、空気層13に外気を導入、または空気層13の空気を屋外に排出可能に構成されている。すなわち、換気ガラリ20は、空気層13内の熱気及び湿気を適切に屋外に排出可能に構成されている。
【0032】
図3に示すように、換気ガラリ20は、開口部21と、当該開口部21を取り囲むフレーム部22とを有する。換気ガラリ20の開口部21の全体形状は、幅Wよりも高さHが大きい縦長である。ここで、換気ガラリ20の「開口部の全体形状が縦長である」とは、1つまたは複数の孔21aで構成される開口部21の全体形状の幅W(水平方向の最大寸法)よりも高さH(鉛直方向の最大寸法)が大きいことを意味する。つまり、図3に示すように換気ガラリ20の開口部21が1つの孔21aのみで構成されている場合には、当該1つの孔21aの形状が縦長(幅Wよりも高さHが大きい形状)となっており、図4に示すように換気ガラリ20の開口部21が複数の孔21bで構成されている場合には、複数の孔21bを全て取り囲む略長方形状の仮想輪郭線Lの形状が、縦長となっている。図4に示す換気ガラリ20の開口部21は、鉛直方向及び水平方向に互いに間隔を空けて配列された18個の孔21bで構成されている。図3、4に示すように、本実施形態のフレーム部22は、縦長の長方形状であるが、これに限られず、フレーム部22の形状は適宜変更可能である。また、開口部21の全体形状が縦長であれば、フレーム部22の形状は縦長でなくてもよい。
【0033】
図3に示す例では、換気ガラリ20の開口部21が1つの長方形の孔21aで構成されており、幅W(mm)よりも高さH(mm)が大きい。なお、開口部21の形状は適宜変更可能である。例えば、孔21aの形状は長方形に限られず、他の多角形または楕円形等であってもよい。また、開口部21が複数の孔21bで構成されている場合(図4参照)、全ての孔21bが同一であってもよいし、異なる形状、または異なる大きさの孔が組み合わされていてもよい。また、開口部21が複数の孔21bで構成されている場合、開口部21の全体形状が縦長であれば、それぞれの孔21bの形状は縦長でなくてもよく、例えば、高さHよりも幅Wが大きい横長の形状、または、幅Wと高さHが同一の円形、正方形等であってもよい。また、開口部21の全体形状が縦長であれば、複数の孔21bの配列も特に限定されない。
【0034】
以上の通り、本実施形態の断熱外壁構造10にあっては、外装材11と、外装材11に沿って配置される内装材12と、外装材11と内装材12との間に形成された空気層13と、を備え、空気層13に外気を導入、または空気層13の空気を排出可能な換気ガラリ20を有し、換気ガラリ20の開口部21の全体形状が縦長となっている。このように、換気ガラリ20の開口部21の全体形状が縦長であることで、例えば開口部21の上部を通して空気層13内の熱気及び湿気を排出しつつ、開口部21の下部を通して外気を導入することが容易となる。その結果、効率的に空気層13内の熱気及び湿気をより迅速に排出することができる。すなわち、開口部21の全体形状が縦長の場合、例えば開口部21の開口面積を同一として、開口部21の全体形状が、高さHよりも幅Wが大きい横長、または、高さHと幅Wが同一の円(真円)もしくは正方形等の形状である場合と比較して、効率的に空気層13内の熱気及び湿気をより迅速に排出することができる。高さHと幅Wの寸法は、建物1の意匠性や外壁材の強度などで適宜調整可能であり、特段限定されるものではないが、高さHは200mm以上、380mm以下の範囲、幅Wは30mm以上、80mm以下の範囲にあるのが実用的に好ましい。
【0035】
このように、本実施形態の断熱外壁構造10、及び当該断熱外壁構造10を備えた建物1によれば、空気層13内の熱気及び湿気を適切に排出することが可能となる。
【0036】
換気ガラリ20の位置は特に限定されるものではなく、例えば、建物1の各階の外壁上端部、外壁下端部、高さ方向中央部のいずれでもよい。ただし、空気層13内の熱気をより効果的に排出するためには、換気ガラリ20は、建物1における所定階の外壁上端部に位置することが好ましい。ここで、図1には、建物1の2階(最上階)の外壁上端部に位置する換気ガラリ20を実線で示し、建物1の1階の外壁上端部に位置する換気ガラリ20を二点鎖線で示している。このように、所定階の外壁上端部に換気ガラリ20を配置することで、温度の高い空気は空気層13の上方に移動するため、空気層13内の熱気をより効果的に排出することができる。また、建物1が2階以上である場合、各階にそれぞれ換気ガラリ20を設けてもよいし、所定階のみに設けてもよい。
【0037】
なお、高温の気体は空気層13の上部に滞留し易いため、建物1における最上階の外壁上端部に換気ガラリ20が設けられていることが望ましい。このような構成により、空気層13内の熱気を効率的に排出することができる。また、換気ガラリ20による外観の悪化、及びコスト上昇を抑制するため、換気ガラリ20は建物1の最上階の外壁上端部のみに設けられていることがより望ましい。
【0038】
換気ガラリ20は、鉛直方向において、換気ガラリ20の上部が梁5(5a、5b)と重なり、換気ガラリ20の下部が空気層13と重なる位置に設けられていることが好ましい。このような構成により、梁5内部の比較的広い空間に滞留する熱気及び湿気を効果的に屋外に排出することができ、且つ、空気層13からの熱気及び湿気も効果的に屋外に排出することができる。
【0039】
本実施形態では、外装材11と内装材12との間に断熱材14が配置され、外装材11と断熱材14との間に空気層13が形成(区画形成)されていることが好ましい。このような構成により、外装材11、空気層13及び断熱材14それぞれが持つ熱抵抗を効果的に外壁全体としての断熱性能に反映させることができる。その結果、外壁の断熱性を効果的に高めることができる。
【0040】
また、外装材11の容積比熱と厚さの積を30kJ/m2K以上とすることができる。このような、熱容量の大きい外壁材ほど、日射熱の蓄熱により、空気層13の温度が高くなりやすく、換気ガラリ20の設置がより有効となる。ここで、熱容量が大きい外壁材として軽量気泡コンクリートからなるALCパネルがあるが、ALCパネルの容積比熱は660kJ/m3Kであることが知られており(田中俊六、武田仁、足立哲夫、土屋喬雄「最新 建築環境工学(改訂2版)」井上書院、178頁)、典型的なALCパネルの厚さ5cmでは、その容積比熱と厚さの積は33kJ/m2Kとなるから、容積比熱と厚さの積が概ね当該数値以上となる外装材を選択したものである。なお、外装材11の容積比熱と厚さの組み合わせは660kJ/m3Kと5cmに限定されず、その積が30kJ/m2K以上であれば、どのような組み合わせも選択しうる。
【0041】
また、本実施形態では、外装材11が軽量気泡コンクリートからなるALCパネルとしている。このように、適切な熱抵抗を有する軽量気泡コンクリート製の外装材11を使用することで、断熱外壁構造10の断熱性をさらに高めることができる。また、外装材11としてALCパネルを用いる場合、外壁内側が外気よりも高温・高湿になりやすいので、換気ガラリ20を設けることにより、屋内環境に近づけることが可能となる。
【0042】
また、空気層13の下部は、屋内及び屋外に対して空気の流出及び流入を遮断されていることが好ましい。このような構成により、例えば、空気層13の下部から空気層13内に低温の外気が流入したり、空気層13から屋内(内装材12よりも屋内側の空間)に当該冷気が流入したりすること等を抑制することができる。その結果、外壁の断熱性をより確実に高めることができる。
【0043】
また、換気ガラリ20は、建物1の四方の外壁にそれぞれ設けられていることが好ましい。すなわち、建物1が、前後左右の4方向の面(正面、背面、左側面、右側面)を有する場合、各方向の面にそれぞれ換気ガラリ20が設けられていることが好ましい。このような構成により、建物1の各方向の外壁に設けられた空気層13内の熱気及び湿気を、より効率的に排出することが可能となる。また、建物1の各方向に設けた空気層13が梁部を通して連通している場合には、一方の面に設けた換気ガラリ20から吸気し、他方の面に設けた換気ガラリ20から排気するといったことも可能となり、熱気及び湿気の排出性能を高めることができる。なお、少なくとも建物1の何れか一方の面に、1つの換気ガラリ20が設けられていればよい。
【0044】
換気ガラリ20は、開口部21が自動的に開閉する、又は手動で開閉可能であることが好ましい。これにより、空気層13内の熱気及び湿気を排出したいときにのみ、換気ガラリ20の開口部21を開くことができるので、外壁の断熱性低下をより確実に抑制することができる。また、この場合、例えば、気温が低い冬季には換気ガラリ20の開口部21を閉じて外壁の断熱性を高め、気温が高い夏季には換気ガラリ20の開口部21を開くことで、空気層13内の熱気及び湿気を効果的に排出することができる。なお、換気ガラリ20が開口部21の開閉機能を有していなくても、例えば空気層13の厚さを適切な範囲に設定したり、開口部21の開口面積を適切な大きさに設定したり、換気ガラリ20の位置を適切に設定したりすること等により、空気層13による外壁の断熱性向上効果を得ることができる。
【0045】
また、換気ガラリ20は、開口部21の開閉度合いを自動又は手動で調整可能であることがより好ましい。これにより、空気層13内の熱気及び湿気の排出度合いを微調整し易くなる。
【0046】
さらに、換気ガラリ20は、温度に応じて変形する形状記憶合金を用いた自動開閉機能を有することが好ましい。これにより、空気層13内の空気の温度及び湿度の管理が容易となる。なお、この場合には、例えば形状記憶合金からなり、温度により伸縮可能なコイルスプリングの伸縮を利用して開口部21を開閉させる機構とすることができる。これによれば、外気又は空気層13内の空気が所定の温度を超えると、自動開閉機能によって自動的に開口部21が解放され、また、所定の温度以下になると自動的に開口部21が閉塞される。開口部21が自動開閉する所定の温度は、例えば、18℃を超えると全開とし、12℃以下となると全閉になるように条件設定することができる。その場合、夏期の開口部21は、ほぼ24時間全開となり、常時空気層13内の熱気や湿気を排出することになる。また、冬期や中間期の暖かい昼間は、夏期同様に開口部21は解放され、熱気や湿気の排出が可能となる。一方、寒くなる夜間においては、開口部21が閉塞され、断熱性を発揮する。このように、自動開閉機能を有することで、居住者の手を煩わせることなく、結果的に屋内の温熱環境の安定化に寄与することが可能となる。
【0047】
なお、換気ガラリ20は、形状記憶合金を用いた自動開閉機能を有するものである必要はない。たとえば、換気ガラリ20は、形状記憶合金を用いなくとも、現在の気温またはそれを推定可能な環境条件(日付、時刻、湿度、日照度等)を検出して、その結果に応じて自動開閉する機能を有するものであってもよい。また、換気ガラリ20は、居住者による手動で開閉する機能を有するものであってもよい。
【0048】
また、換気ガラリ20は、開口部21の全体形状が縦長の長方形であることが好ましく、これによれば、換気ガラリ20の製造が容易となり、製造コストを低減することができる。
【0049】
ここで、少なくとも換気ガラリ20の開閉機能により開口部21が閉じている間は、空気層13が外気から遮断されている。また、換気ガラリ20の開口部21が開いている場合でも、開口部21の開口面積が比較的小さい場合には、空気層13に流れ込む外気の影響は小さくなるため、実質的に空気層13が断熱層を構成し得る。
【0050】
本実施形態の断熱外壁構造10においては、外装材11及び空気層13の熱抵抗を断熱外壁構造10全体としての断熱性能に反映させることができる。
【0051】
また、空気層13の厚さ(すなわち、本例では外装材11の屋内側の面と断熱材14の屋外側の面との間の、外壁の厚さ方向の距離)は、15mm以下であることが好ましい。これにより、空気層13内の空気に自然対流が生じ難くなるので、空気層13を設けたことによる断熱外壁構造10の断熱性向上効果を高めることができる。また、当該観点から、空気層13の厚さは、10mm以下であることがより好ましい。さらに、空気層13の厚さを、自然対流を抑制可能な大きさに形成することで、密閉空気層に水分が放散される場合であっても、自然対流による水分の移動は抑制され、これによって、空気層13内の低温部に向けての水分の輸送(供給)が抑制され、その結果、当該低温部での結露の発生を抑制することができる。
【0052】
ここで、例えば、外壁に給気口及び排気口をそれぞれ設けるとともに給気口から排気口へと外気が循環する所謂「通気層」を設けた場合には、通気層の屋外側に位置する外装材の熱抵抗を外壁全体の断熱性能に反映させることができない。しかしながら、本実施形態では、換気ガラリ20のみを設け、空気層13内を外気が実質的にほとんど循環しない構成としたことで、空気層13の屋外側に位置する外装材11の熱抵抗を外壁全体の断熱性能に反映させることができる。また、空気層13自体も熱抵抗となり、これによって、さらに外壁全体の断熱性能を向上させることができる。また、自然対流を抑制可能な厚さで空気層13を形成すると、当該空気層13の容積が比較的小さくなり(低容量となり)、それに伴って湿気容量も小さなものとなる。よって、仮に空気層13内の水分によって結露が発生したとしてもその量はきわめて僅かなものとなり、当該結露による外装材11や断熱材14への影響を低減することができる。
【0053】
本実施形態の断熱外壁構造10は、特に、基礎天端に開口を持たない住宅、陸屋根を備える住宅、軒を持たない住宅等に適している。
【0054】
発明の有効性を確認すべく図5、6に示すような実験棟100(建物)を建設して、換気ガラリの排熱・排湿効果を検証した。
【0055】
<実施例>
本発明の実施例として、換気ガラリ20の上部が梁5と重なり、下部が空気層13と重なる位置に、かつ実験棟100の前後左右の4方向の壁面に換気ガラリ20を設置した。なお使用した換気ガラリ20は、温度に応じて変形する形状記憶合金を用いた自動開閉機能を有する換気ガラリを適用し、18℃を超えると全開とし、12℃以下となると全閉になるように条件を設定した。
【0056】
<比較例>
比較例の実験棟は、換気ガラリ20を設置しない以外は実施例と同じ建物構成とした。
【0057】
<検証方法>
2019年8月中旬~9月中旬の一カ月間(夏季)、室内温度と南西側の梁5の内部空間の温度及び相対湿度をモニターした。なお上記期間中、換気ガラリ20の近傍の温度は18度以上を保っていたため、換気ガラリ20の開口部21は24時間全開状態であった。
【0058】
<実験結果>
一例として2019年9月10日の室内温度(図7)と、梁内部空間の相対湿度変化(図8)を示す。図7に示されるように、換気ガラリ20がある場合、空気層13の換気が促進され、熱ごもりが解消した結果、換気ガラリ20のない比較例と比較して、室内温度が低下した。また図8に示されるように、換気ガラリ20がある場合、梁5内部空間の換気が促進され、湿気が排出された結果、換気ガラリ20のない比較例と比較して、梁5内部の相対湿度が低下した。
【0059】
本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲で記載された内容を逸脱しない範囲で、様々な構成により実現することが可能である。例えば、上記実施形態では2階建ての住宅について説明したが、1階建て又は3階建て以上の建物にも適用可能である。また、外装材11と内装材12との間には、他の部材を配置してもよい。さらに、基礎4の構造、柱及び梁5等の躯体、及び床部材6の構造等は上記実施形態に限られず、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0060】
1:建物
2:下部構造体
3:上部構造体
4:基礎
4a:フーチング部
4b:立ち上がり部
5(5a、5b):梁
6:床部材
10:断熱外壁構造
11:外装材
12:内装材
13:空気層
14:断熱材(断熱層)
20:換気ガラリ
21:開口部
21a、21b:孔
22:フレーム部
100:実験棟(建物)
L:仮想輪郭線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8