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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】車両用空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20240719BHJP
   F25B 5/02 20060101ALI20240719BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20240719BHJP
   B60K 11/02 20060101ALI20240719BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20240719BHJP
【FI】
B60H1/22 611D
B60H1/22 651B
B60H1/22 651C
F25B5/02 C
F25B1/00 399Y
B60K11/02
B60K1/04 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020055752
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021154814
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】石関 徹也
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232730(JP,A)
【文献】国際公開第2020/026690(WO,A1)
【文献】特開2019-155930(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110116600(CN,A)
【文献】特開2019-143916(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150830(WO,A1)
【文献】特開2020-032749(JP,A)
【文献】特開2013-014268(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0197488(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
F25B 5/02
F25B 1/00
B60K 11/02
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に供給する空気を加熱するためのヒータコアを有して前記車室内を空調する車両用空気調和装置において、
冷媒を圧縮する圧縮機と、
前記冷媒を放熱させて前記車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、
車室外に設けられた室外熱交換器と、
車両搭載機器と前記ヒータコアに熱媒体を循環させるための熱媒体循環回路と、
前記冷媒と前記熱媒体を熱交換させることにより、当該熱媒体から前記冷媒に熱を汲み上げるための冷媒-熱媒体熱交換器と、を備え、
前記熱媒体循環回路は、
前記熱媒体を循環させるための循環装置と、
前記熱媒体を加熱するための加熱装置と、
該加熱装置を経た前記熱媒体が、前記ヒータコアに流れること無く前記車両搭載機器に流れる状態と、前記車両搭載機器と前記ヒータコアの双方に分流されて流れる状態と、前記車両搭載機器に流れること無く前記ヒータコアに流れる状態とに流路を切り換えるための流路切換装置と、
を備えると共に、
前記冷媒-熱媒体熱交換器は、前記流路切換装置と前記車両搭載機器の間に配置され、前記車両搭載機器に流入する前記熱媒体と前記冷媒を熱交換させることを特徴とする車両用空気調和装置。
【請求項2】
前記冷媒-熱媒体熱交換器への前記冷媒の流入を制御するための流路制御装置を備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用空気調和装置。
【請求項3】
前記熱媒体循環回路を制御する制御装置を備え、
該制御装置は、
前記加熱装置を発熱させ、当該加熱装置により加熱された前記熱媒体を、前記流路切換装置により前記ヒータコアに流すこと無く、前記車両搭載機器に流す第1の熱媒体循環モードと、
前記加熱装置を発熱させ、当該加熱装置により加熱された前記熱媒体を、前記流路切換装置により前記車両搭載機器と前記ヒータコアの双方に流す第2の熱媒体循環モードと、
前記加熱装置を発熱させ、当該加熱装置により加熱された前記熱媒体を、前記流路切換装置により前記車両搭載機器に流すこと無く、前記ヒータコアに流す第3の熱媒体循環モードを有することを特徴とする請求項2に記載の車両用空気調和装置
【請求項4】
前記制御装置は、前記車両搭載機器を加熱する必要があり、且つ、前記放熱器の暖房能力が不足していない場合、前記流路制御装置により前記冷媒-熱媒体熱交換器への前記冷媒の流入を阻止し、前記熱媒体循環回路を前記第1の熱媒体循環モードとする車両搭載機器加熱モードを実行することを特徴とする請求項3に記載の車両用空気調和装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記車両搭載機器を加熱する必要があり、且つ、前記放熱器の暖房能力が不足している場合、前記流路制御装置により前記冷媒-熱媒体熱交換器に前記冷媒を流し、前記熱媒体循環回路を前記第1の熱媒体循環モードとする第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の車両用空気調和装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードにおいて前記車両搭載機器に流入する前記熱媒体の温度Twinが所定の許容値T2より高くなった場合、又は、前記第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードによっても前記放熱器の暖房能力が不足する場合、前記流路制御装置により前記冷媒-熱媒体熱交換器に前記冷媒を流し、前記熱媒体循環回路を前記第2の熱媒体循環モードとする第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行することを特徴とする請求項5に記載の車両用空気調和装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記車両搭載機器を加熱する必要が無く、且つ、前記放熱器の暖房能力が不足している場合、前記流路制御装置により前記冷媒-熱媒体熱交換器への前記冷媒の流入を阻止し、前記熱媒体循環回路を前記第3の熱媒体循環モードとする補助暖房モードを実行することを特徴とする請求項3乃至請求項6のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記車両搭載機器の温度TB、又は、当該車両搭載機器を経た前記熱媒体の温度Twoutが所定値T1より低い場合、前記車両搭載機器を加熱する必要があると判断すると共に、
前記放熱器の風下側の空気の温度である加熱温度THが、前記車室内に吹き出される空気の温度の目標値である目標吹出温度TAO、又は、当該目標吹出温度TAOから導出される前記加熱温度THの目標値である目標ヒータ温度TCOより低い場合、前記放熱器の暖房能力が不足していると判断することを特徴とする請求項4乃至請求項7のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記車両搭載機器の加熱に必要な熱量、及び/又は、前記放熱器の暖房能力が不足する分の熱量に基づいて、前記加熱装置の必要熱量を算出することを特徴とする請求項4乃至請求項8のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【請求項10】
前記車両搭載機器は、前記熱媒体循環回路、又は、該熱媒体循環回路と前記圧縮機に給電するバッテリであることを特徴とする請求項1乃至請求項9のうちの何れかに記載の車両用空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車室内を空調する空気調和装置、特に車両に搭載された機器の温度を調整可能とされた車両用空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題の顕在化から、車両に搭載されたバッテリから供給される電力で走行用モータを駆動するハイブリッド自動車や電気自動車等の車両が普及するに至っている。そして、このような車両に適用することができる空気調和装置として、圧縮機と、放熱器と、吸熱器と、室外熱交換器が接続された冷媒回路を備え、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、この放熱器において放熱した冷媒を室外熱交換器において吸熱させることで車室内を暖房し、圧縮機から吐出された冷媒を室外熱交換器において放熱させ、吸熱器において吸熱させることで車室内を冷房するものも開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、バッテリ(車両搭載機器)は低温環境下では充放電性能が低下する。また、自己発熱等で高温となった環境下で充放電を行うと、劣化が進行し、やがては作動不良を起こして破損する危険性もある。そこで、冷媒回路を循環する冷媒と熱交換して冷却された熱媒体(冷却水)や、加熱装置で加熱された熱媒体をバッテリに循環させることでバッテリの温度を調整することができるようにしたものも開発されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-213765号公報
【文献】特許第5668700号公報
【文献】特許第5440426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1のようにこの種車両用空気調和装置には、車室内の暖房補助を行う等のために電気ヒータで熱媒体を加熱し、この加熱された熱媒体で車室内に供給される空気を加熱する熱媒体循環回路から成る補助加熱装置が設けられる。これに加えて、上記特許文献3の如くバッテリを加熱する加熱装置を備えた熱媒体循環回路(冷却水循環回路)を設けた場合、装置が大型化して製造コストも増大する問題が生じる。
【0006】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、バッテリ等の車両搭載機器を加熱可能とされたものであって、加熱装置の削減を図りながら、車両搭載機器の加熱と車室内空調を両立させることができる車両用空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用空気調和装置は、車室内に供給する空気を加熱するためのヒータコアを有して車室内を空調するものであって、冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、車室外に設けられた室外熱交換器と、車両搭載機器とヒータコアに熱媒体を循環させるための熱媒体循環回路と、冷媒と熱媒体を熱交換させることにより、当該熱媒体から冷媒に熱を汲み上げるための冷媒-熱媒体熱交換器を備え、この熱媒体循環回路は、熱媒体を循環させるための循環装置と、熱媒体を加熱するための加熱装置と、この加熱装置を経た熱媒体が、ヒータコアに流れること無く車両搭載機器に流れる状態と、車両搭載機器とヒータコアの双方に分流されて流れる状態と、車両搭載機器に流れること無くヒータコアに流れる状態とに流路を切り換えるための流路切換装置を備えると共に、冷媒-熱媒体熱交換器は、流路切換装置と車両搭載機器の間に配置され、車両搭載機器に流入する熱媒体と冷媒を熱交換させることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において冷媒-熱媒体熱交換器への冷媒の流入を制御するための流路制御装置を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において熱媒体循環回路を制御する制御装置を備え、この制御装置は、加熱装置を発熱させ、当該加熱装置により加熱された熱媒体を、流路切換装置によりヒータコアに流すこと無く、車両搭載機器に流す第1の熱媒体循環モードと、加熱装置を発熱させ、当該加熱装置により加熱された熱媒体を、流路切換装置により車両搭載機器とヒータコアの双方に流す第2の熱媒体循環モードと、加熱装置を発熱させ、当該加熱装置により加熱された熱媒体を、流路切換装置により車両搭載機器に流すこと無く、ヒータコアに流す第3の熱媒体循環モードを有することを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において制御装置は、車両搭載機器を加熱する必要があり、且つ、放熱器の暖房能力が不足していない場合、流路制御装置により冷媒-熱媒体熱交換器への冷媒の流入を阻止し、熱媒体循環回路を第1の熱媒体循環モードとする車両搭載機器加熱モードを実行することを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明の車両用空気調和装置は、請求項3又は請求項4の発明において制御装置は、車両搭載機器を加熱する必要があり、且つ、放熱器の暖房能力が不足している場合、流路制御装置により冷媒-熱媒体熱交換器に冷媒を流し、熱媒体循環回路を第1の熱媒体循環モードとする第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行することを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明の車両用空気調和装置は、上記発明において制御装置は、第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードにおいて車両搭載機器に流入する熱媒体の温度Twinが所定の許容値T2より高くなった場合、又は、第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードによっても放熱器の暖房能力が不足する場合、流路制御装置により冷媒-熱媒体熱交換器に冷媒を流し、熱媒体循環回路を第2の熱媒体循環モードとする第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行することを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明の車両用空気調和装置は、請求項3乃至請求項6の発明において制御装置は、車両搭載機器を加熱する必要が無く、且つ、放熱器の暖房能力が不足している場合、流路制御装置により冷媒-熱媒体熱交換器への冷媒の流入を阻止し、熱媒体循環回路を第3の熱媒体循環モードとする補助暖房モードを実行することを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明の車両用空気調和装置は、請求項4乃至請求項7の発明において制御装置は、車両搭載機器の温度TB、又は、当該車両搭載機器を経た熱媒体の温度Twoutが所定値T1より低い場合、車両搭載機器を加熱する必要があると判断すると共に、放熱器の風下側の空気の温度である加熱温度THが、車室内に吹き出される空気の温度の目標値である目標吹出温度TAO、又は、当該目標吹出温度TAOから導出される加熱温度THの目標値である目標ヒータ温度TCOより低い場合、放熱器の暖房能力が不足していると判断することを特徴とする。
【0015】
請求項9の発明の車両用空気調和装置は、請求項4乃至請求項8の発明において制御装置は、車両搭載機器の加熱に必要な熱量、及び/又は、放熱器の暖房能力が不足する分の熱量に基づいて、加熱装置の必要熱量を算出することを特徴とする。
【0016】
請求項10の発明の車両用空気調和装置は、上記各発明において車両搭載機器は、熱媒体循環回路、又は、この熱媒体循環回路と圧縮機に給電するバッテリであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車室内に供給する空気を加熱するためのヒータコアを有して車室内を空調する車両用空気調和装置において、車両搭載機器とヒータコアに熱媒体を循環させるための熱媒体循環回路を備え、この熱媒体循環回路が、熱媒体を循環させるための循環装置と、熱媒体を加熱するための加熱装置と、この加熱装置を経た熱媒体が、ヒータコアに流れること無く車両搭載機器に流れる状態と、車両搭載機器とヒータコアの双方に分流されて流れる状態と、車両搭載機器に流れること無くヒータコアに流れる状態とに流路を切り換えるための流路切換装置を備える構成としたので、ヒータコアによる車室内の暖房を行う必要が無く、車両搭載機器を加熱する必要がある場合には、加熱装置を経た熱媒体が、ヒータコアに流れること無く車両搭載機器に流れる状態に流路切換装置を切り換えることで、車両搭載機器を加熱することができるようになる。これにより、例えば、請求項10の発明の如く車両搭載機器がバッテリである場合には、当該バッテリの充放電性能を維持することができる等、車両搭載機器の性能を維持する温調を行うことができるようになる。
【0018】
また、車室内の暖房のみを行う必要がある場合には、加熱装置を経た熱媒体が車両搭載機器に流れること無くヒータコアに流れる状態に流路切換装置を切り換えることで、加熱装置の発熱で、車室内を暖房することができるようになる。即ち、車両搭載機器を加熱するための加熱装置を利用して、車室内の暖房も行うことができるようになり、加熱装置の削減による省スペース化とコストの低減を図ることができるようになる。
【0019】
特に、本発明によれば車両搭載機器の加熱と車室内の暖房の双方が必要な場合に、加熱装置を経た熱媒体が、車両搭載機器とヒータコアの双方に流れる状態に流路切換装置を切り換えることで、加熱装置の発熱で、車両搭載機器の加熱とヒータコアによる車室内の暖房の双方を実現することができるようになる。このように本発明によれば、車両搭載機器を加熱するための加熱装置を利用して、車両搭載機器の性能維持と車室内の暖房を円滑に両立させることができるようになるものである。
【0020】
また、本発明では冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱するための放熱器と、車室外に設けられた室外熱交換器と、冷媒と熱媒体を熱交換させることにより、当該熱媒体から冷媒に熱を汲み上げるための冷媒-熱媒体熱交換器を備えているので、冷媒-熱媒体熱交換器において熱媒体から冷媒に熱を汲み上げ、加熱装置が発生した熱を放熱器に搬送し、車室内の暖房補助を行うことができるようになる。
【0021】
ここで、放熱器の暖房能力が大きく不足し、ヒータコアによる大きい暖房補助が必要とされる場合には、加熱装置の発熱量を増大させる必要がある。他方、前述した如く熱媒体を車両搭載機器とヒータコアの双方に流れる状態とした場合に、加熱装置の発熱量を増大させると、車両搭載機器に流れる熱媒体の温度が、当該車両搭載機器において許容される範囲より高くなり、車両搭載機器が劣化してしまう危険性がある。
【0022】
本発明では、加熱装置を経た熱媒体を車両搭載機器とヒータコアの双方に分流すると共に、冷媒-熱媒体熱交換器を、流路切換装置と車両搭載機器の間に配置し、車両搭載機器に流入する熱媒体と冷媒を熱交換させるようにしているので、冷媒-熱媒体熱交換器において熱媒体は冷媒と熱交換して冷却されることになり、熱媒体を車両搭載機器とヒータコアの双方に流す状態で加熱装置の発熱量を増大させた場合にも、車両搭載機器に流れる熱媒体の温度を、当該車両搭載機器において許容される範囲に低下させることが可能となる。これにより、車両搭載機器に流れる熱媒体の温度が許容される値より高くなることを防止しながら、ヒータコアでより効果的な暖房補助を行い、車室内をより快適に空調することが可能となるので、暖房運転の領域を拡大することができるようになる。また、その際の熱媒体循環回路の制御も簡素化できる効果もある。
【0023】
特に、本発明によれば、流路切換装置と車両搭載機器の間に配置された冷媒-熱媒体熱交換器にて車両搭載機器に流入する熱媒体から熱を汲み上げ、当該車両搭載機器に流入する熱媒体の温度を的確に低下させ、車両搭載機器において許容される範囲に低下させることが可能となる。そして、冷媒は流路切換装置で車両搭載機器側に分流された熱媒体から熱を汲み上げることになるので、ヒータコアによる暖房能力は確保される。
【0024】
また、請求項2の発明の如く冷媒-熱媒体熱交換器への冷媒の流入を制御するための流路制御装置を設けることで、冷媒-熱媒体熱交換器により熱媒体から熱を汲み上げる必要が無い場合や、熱媒体の温度を下げる必要が無い場合には、流路制御装置により冷媒-熱媒体熱交換器に冷媒を流さないようにして、圧縮機の負荷を軽減することができるようになる。
【0025】
また、請求項3の発明の車両用空気調和装置によれば、熱媒体循環回路を制御する制御装置を備え、この制御装置が、加熱装置を発熱させ、当該加熱装置により加熱された熱媒体を、流路切換装置によりヒータコアに流すこと無く、車両搭載機器に流す第1の熱媒体循環モードと、加熱装置を発熱させ、当該加熱装置により加熱された熱媒体を、流路切換装置により車両搭載機器とヒータコアの双方に流す第2の熱媒体循環モードと、加熱装置を発熱させ、当該加熱装置により加熱された熱媒体を、流路切換装置により車両搭載機器に流すこと無く、ヒータコアに流す第3の熱媒体循環モードを有することとしたので、制御装置により第1の熱媒体循環モードを実行して車両搭載機器を加熱し、第2の熱媒体循環モードを実行して車両搭載機器の加熱とヒータコアによる暖房補助の双方を実現し、第3の熱媒体循環モードを実行してヒータコアによる暖房補助を円滑に行うことができるようになる。
【0026】
特に、請求項4の発明の如く車両搭載機器を加熱する必要があり、且つ、放熱器の暖房能力が不足していない場合、制御装置が流路制御装置により冷媒-熱媒体熱交換器への冷媒の流入を阻止し、熱媒体循環回路を第1の熱媒体循環モードとする車両搭載機器加熱モードを実行することにより、車両搭載機器の加熱が必要であって、放熱器の暖房能力が不足していないときに、冷媒-熱媒体熱交換器に冷媒を流さずに、加熱装置による車両搭載機器の加熱を効果的に行うことができるようになる。
【0027】
一方、請求項5の発明の如く車両搭載機器を加熱する必要があり、且つ、放熱器の暖房能力が不足している場合、制御装置が流路制御装置により冷媒-熱媒体熱交換器に冷媒を流し、熱媒体循環回路を第1の熱媒体循環モードとする第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行することにより、車両搭載機器の加熱と、冷媒-熱媒体熱交換器にて汲み上げられた熱を放熱器に搬送することによる車室内の暖房補助の双方を実現することができるようになる。
【0028】
更に、請求項6の発明の如く第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードにおいて車両搭載機器に流入する熱媒体の温度Twinが所定の許容値T2より高くなった場合、又は、第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードによっても放熱器の暖房能力が不足する場合、制御装置が流路制御装置により冷媒-熱媒体熱交換器に冷媒を流し、熱媒体循環回路を第2の熱媒体循環モードとする第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行することにより、車両搭載機器の加熱と、ヒータコアによる暖房補助の双方を実現することができるようになる。
【0029】
特に、この場合は冷媒-熱媒体熱交換器にて汲み上げられた熱を冷媒で放熱器に搬送することによる車室内の暖房補助も合わせて行われると共に、車両搭載機器に流入する熱媒体は冷却されるので、前述した如く加熱装置の発熱量を増大させてヒータコアによる暖房能力を増大させても、車両搭載機器に流入する熱媒体の温度を許容される値に適切に維持し、車両搭載機器の劣化を防止することができるようになる。
【0030】
また、請求項7の発明の如く車両搭載機器を加熱する必要が無く、且つ、放熱器の暖房能力が不足している場合、制御装置が流路制御装置により冷媒-熱媒体熱交換器への冷媒の流入を阻止し、熱媒体循環回路を第3の熱媒体循環モードとする補助暖房モードを実行することにより、車両搭載機器を加熱するための加熱装置を利用して、効果的に車室内の暖房補助を行うことができるようになる。
【0031】
これらにおいて、請求項8の発明の如く制御装置が、車両搭載機器の温度TB、又は、当該車両搭載機器を経た熱媒体の温度Twoutが所定値T1より低い場合、車両搭載機器を加熱する必要があると判断すると共に、放熱器の風下側の空気の温度である加熱温度THが、車室内に吹き出される空気の温度の目標値である目標吹出温度TAO、又は、当該目標吹出温度TAOから導出される加熱温度THの目標値である目標ヒータ温度TCOより低い場合、放熱器の暖房能力が不足していると判断するようにすれば、上記各モードを円滑に実現することができるようになる。
【0032】
また、請求項9の発明の如く制御装置が、車両搭載機器の加熱に必要な熱量、及び/又は、放熱器の暖房能力が不足する分の熱量に基づいて、加熱装置の必要熱量を算出するようにすれば、車両搭載機器を加熱するための加熱装置を利用して、車両搭載機器の加熱と車室内の暖房補助を的確に両立させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明を適用した車両用空気調和装置の一実施例の構成図である(暖房運転)。
図2図1の車両用空気調和装置の制御装置としての空調コントローラのブロック図である。
図3図2の空調コントローラによる補助暖房モード(第3の熱媒体循環モード)を説明する図である。
図4図2の空調コントローラによる車両搭載機器加熱モード(第1の熱媒体循環モード)を説明する図である。
図5図2の空調コントローラによる第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モード(第1の熱媒体循環モード)を説明する図である。
図6図2の空調コントローラによる第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モード(第2の熱媒体循環モード)を説明する図である。
図7図2の空調コントローラによるバッテリ(車両搭載機器)加熱と補助暖房の制御を説明するフローチャートである。
図8】第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードから第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードへの移行を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明を適用した一実施例の車両用空気調和装置1の構成図を示している。本発明を適用する実施例の車両は、エンジン(内燃機関)が搭載されていない電気自動車(EV)であって、車両にバッテリ55(例えば、リチウムイオンバッテリ:車両搭載機器)が搭載され、外部電源からバッテリ55に充電された電力を走行用モータ(電動モータ)に供給することで駆動し、走行するものである。そして、後述する熱媒体循環回路61や圧縮機2を含む車両用空気調和装置1も、バッテリ55から給電されて駆動されるものである。
【0035】
即ち、車両用空気調和装置1は、エンジン廃熱による暖房ができない電気自動車において、冷媒回路Rを有するヒートポンプ装置HPにより暖房運転を行い、更に、除湿暖房運転や、除湿冷房運転、冷房運転の各空調運転を選択的に実行することで、車室内の空調を行うものである。尚、車両として係る電気自動車に限らず、エンジンと走行用の電動モータを供用する所謂ハイブリッド自動車にも本発明が有効であることは云うまでもない。
【0036】
実施例の車両用空気調和装置1は、電気自動車の車室内の空調(暖房、冷房、除湿、及び、換気)を行うものであり、バッテリ55から給電されて冷媒を圧縮する電動式の圧縮機(電動圧縮機)2と、車室内空気が通気循環されるHVACユニット10の空気流通路3内に設けられ、圧縮機2から吐出された高温高圧の冷媒が冷媒配管13Gを介して流入し、この冷媒を放熱させて車室内に供給する空気を加熱するための放熱器4と、暖房時に冷媒を減圧膨張させる電動弁から成る室外膨張弁6と、冷房時には冷媒を放熱させる凝縮器として機能し、暖房時には冷媒を吸熱させる蒸発器として機能すべく冷媒と外気との間で熱交換を行わせるための室外熱交換器7と、冷媒を減圧膨張させる電動弁から成る室内膨張弁8と、空気流通路3内に設けられて冷房時(除湿時)に車室内外から冷媒に吸熱させて車室内に供給する空気を冷却するための吸熱器9と、アキュムレータ12等が冷媒配管13により順次接続され、ヒートポンプ装置HPの冷媒回路Rが構成されている。室外膨張弁6や室内膨張弁8は、冷媒を減圧膨張させると共に、全開や全閉も可能とされている。
【0037】
尚、室外熱交換器7には、室外送風機15が設けられている。この室外送風機15は、室外熱交換器7に外気を強制的に通風することにより、外気と冷媒とを熱交換させるものであり、これにより停車中(即ち、車速が0km/h)にも室外熱交換器7に外気が通風されるよう構成されている。
【0038】
また、室外熱交換器7の冷媒出口側に接続された冷媒配管13Aは、逆止弁18を介して冷媒配管13Bに接続されている。尚、逆止弁18は冷媒配管13B側が順方向とされ、この冷媒配管13Bは室内膨張弁8に接続されている。
【0039】
また、室外熱交換器7から出た冷媒配管13Aは分岐しており、この分岐した冷媒配管13Dは、暖房時に開放される電磁弁21を介して吸熱器9の出口側に位置する冷媒配管13Cに連通接続されている。そして、この冷媒配管13Dの接続点より下流側の冷媒配管13Cに逆止弁20が接続され、この逆止弁20より下流側の冷媒配管13Cがアキュムレータ12に接続され、アキュムレータ12は圧縮機2の冷媒吸込側に接続されている。尚、逆止弁20はアキュムレータ12側が順方向とされている。
【0040】
更に、放熱器4の出口側の冷媒配管13Eは室外膨張弁6の手前(冷媒上流側)で冷媒配管13Jと冷媒配管13Fに分岐しており、分岐した一方の冷媒配管13Jが室外膨張弁6を介して室外熱交換器7の冷媒入口側に接続されている。また、分岐した他方の冷媒配管13Fは除湿時に開放される電磁弁22を介して逆止弁18の冷媒下流側であって、室内膨張弁8の冷媒上流側に位置する冷媒配管13Bに連通接続されている。
【0041】
これにより、冷媒配管13Fは室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18の直列回路に対して並列に接続されたかたちとなり、室外膨張弁6、室外熱交換器7及び逆止弁18をバイパスする回路となる。
【0042】
また、吸熱器9の空気上流側における空気流通路3には、外気吸込口と内気吸込口の各吸込口が形成されており(図1では吸込口25で代表して示す)、この吸込口25には空気流通路3内に導入する空気を車室内の空気である内気(内気循環)と、車室外の空気である外気(外気導入)とに切り換える吸込切換ダンパ26が設けられている。更に、この吸込切換ダンパ26の空気下流側には、導入した内気や外気を空気流通路3に送給するための室内送風機(ブロワファン)27が設けられている。
【0043】
また、図1において23は補助加熱装置としてのヒータコアである。このヒータコア23は実施例では空気流通路3の空気の流れに対して、放熱器4の風上側となる空気流通路3内に設けられている。そして、ヒータコア23に後述する如く加熱された熱媒体が循環されることで、車室内の暖房や暖房補助を行うことができるように構成されている。
【0044】
また、放熱器4の空気上流側における空気流通路3内には、当該空気流通路3内に流入し、吸熱器9を通過した後の空気流通路3内の空気(内気や外気)をヒータコア23及び放熱器4に通風する割合を調整するエアミックスダンパ28が設けられている。更に、放熱器4の空気下流側における空気流通路3には、FOOT(フット)、VENT(ベント)、DEF(デフ)の各吹出口(図1では代表して吹出口29で示す)が形成されており、この吹出口29には上記各吹出口から空気の吹き出しを切換制御する吹出口切換ダンパ31が設けられている。
【0045】
更に、車両用空気調和装置1は、バッテリ55に熱媒体を循環させて当該バッテリ55の温度を調整するための熱媒体循環回路61を備えている。即ち、実施例においてはバッテリ55が本発明での車両搭載機器となる。
【0046】
この実施例の熱媒体循環回路61は、循環装置としての循環ポンプ62と、冷媒-熱媒体熱交換器64と、PTCヒータ等の電気ヒータから構成される加熱装置としての熱媒体加熱ヒータ66と、流路切換装置60と、前述したヒータコア23を備え、それらとバッテリ55が熱媒体配管68にて接続されている。
【0047】
実施例の場合、循環ポンプ62の吐出側に熱媒体配管68Aが接続され、この熱媒体配管68Aは熱媒体加熱ヒータ66の入口に接続されている。熱媒体加熱ヒータ66の出口には熱媒体配管68Bが接続され、この熱媒体配管68Bは流路切換装置60の入口に接続されている。そして、この流路切換装置60の一方の出口は熱媒体配管68Cが接続され、この熱媒体配管68Cは冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aの入口に接続されている。
【0048】
この冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aは熱媒体配管68Dに接続され、この熱媒体配管68Dはバッテリ55の入口に接続されている。即ち、冷媒-熱媒体熱交換器64(熱媒体流路64A)は、流路切換装置60とバッテリ55(車両搭載機器)の間に配置されている。そして、バッテリ55の出口は熱媒体配管68Eに接続され、熱媒体配管68Eは循環ポンプ62の吸込側に接続されている。流路切換装置60の他方の出口は熱媒体配管68Fに接続され、熱媒体配管68Fはヒータコア23の入口に接続されている。このヒータコア23の出口は熱媒体配管68Gに接続され、この熱媒体配管68Gは熱媒体配管68Eに連通接続されている。
【0049】
本発明で使用する流路切換装置60は、入口と、一方と他方の二つの出口を備え、弁体を電磁コイルやモータで移動させることにより、入口を一方の出口のみに連通した状態と、入口を他方の出口のみに連通した状態と、入口を両方の出口(一方と他方の出口)に連通した状態の三つの状態に内部の流路を切り換え可能な弁装置である。
【0050】
従って、流路切換装置60の入口を一方の出口のみに連通した状態では、循環ポンプ62から吐出された熱媒体が熱媒体加熱ヒータ66を経た後、直ぐに冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aに流入し、次にバッテリ55に流入する。また、流路切換装置60の入口を両方の出口に連通した状態では、循環ポンプ62から吐出された熱媒体が熱媒体加熱ヒータ66を経た後に分流され、一方は冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを経た後、バッテリ55に流入し、他方はヒータコア23に流入する。更に、流路切換装置60の入口を他方の出口のみに連通した状態では、循環ポンプ62から吐出された熱媒体が熱媒体加熱ヒータ66を経た後、直ぐにヒータコア23に流入する構成とされている。
【0051】
この熱媒体循環回路61で使用される熱媒体としては、例えば水、HFO-1234yfのような冷媒、クーラント等の液体、空気等の気体が採用可能である。尚、実施例では水を熱媒体として採用している。また、バッテリ55の周囲には例えば熱媒体が当該バッテリ55と熱交換関係で流通可能なジャケット構造が施されているものとする。
【0052】
後述する空調コントローラ32(制御装置)は熱媒体循環回路61の熱媒体循環モードとして、以下に説明する第1の熱媒体循環モードと、第2の熱媒体循環モードと、第3の熱媒体循環モードを有している。
【0053】
(1)第1の熱媒体循環モード
即ち、流路切換装置60が入口と一方の出口のみを連通する状態に切り換えられているときに、循環ポンプ62が運転され、熱媒体加熱ヒータ66が発熱されると、図4及び図5に実線矢印で示す如く、循環ポンプ62から吐出された熱媒体は熱媒体配管68Aを経て熱媒体加熱ヒータ66に流入し、そこで加熱される。そして、この熱媒体加熱ヒータ66で加熱された熱媒体は、熱媒体配管68B、流路切換装置60、熱媒体配管68C、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64A、熱媒体配管68D、バッテリ55、熱媒体配管68Eの順に流れて循環ポンプ62に吸い込まれる循環を行う。これが第1の熱媒体循環モードである。
【0054】
この第1の熱媒体循環モードでは、熱媒体加熱ヒータ66と、冷媒-熱媒体熱交換器64と、バッテリ55の間で熱媒体が循環されることになるので、熱媒体加熱ヒータ66の発熱によってバッテリ55を加熱することができる。また、後述する如く冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに冷媒を流し(図5中白抜き矢印で示す)、熱媒体から吸熱させることにより、熱媒体加熱ヒータ66の熱の一部を冷媒に汲み上げ、放熱器4に搬送して暖房補助を行うこともできるようになる。
【0055】
尚、この第1の熱媒体循環モードの流れ方で、熱媒体加熱ヒータ66を発熱させず、冷媒-媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに冷媒を流して吸熱させることで、バッテリ55の廃熱を回収し、放熱器4に搬送することもできる。その場合、バッテリ55自体は冷却されるので、バッテリ55の温度が高すぎる状況では、バッテリ55を冷却して適温範囲とすることも可能である。尚、バッテリ55の場合、適温範囲は一般的には+25℃以上+45℃以下とされているため、実施例ではこの適温範囲の上限を所定値T3(+45℃)、下限を所定値T1(+25℃)とする。
【0056】
(2)第2の熱媒体循環モード
次に、流路切換装置60が入口と双方の出口を連通する状態に切り換えられているときに、循環ポンプ62が運転され、熱媒体加熱ヒータ66が発熱されると、図6に実線矢印で示す如く、循環ポンプ62から吐出された熱媒体は熱媒体配管68Aを経て熱媒体加熱ヒータ66に流入し、そこで加熱される。そして、この熱媒体加熱ヒータ66で加熱された熱媒体は、熱媒体配管68Bを経て流路切換装置60に流入し、そこで一方の出口と他方の出口に分流される。
【0057】
流路切換装置60の一方の出口から流出する熱媒体は、上述と同様に熱媒体配管68C、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64A、熱媒体配管68D、バッテリ55、熱媒体配管68Eの順に流れて循環ポンプ62に吸い込まれる循環を行う。また、流路切換装置60の他方の出口から流出した熱媒体は、熱媒体配管68F、ヒータコア23、熱媒体配管68G、熱媒体配管68Eの順に流れて循環ポンプ62に吸い込まれる循環を行う。これが第2の熱媒体循環モードである。
【0058】
この第2の熱媒体循環モードでは、熱媒体加熱ヒータ66と、冷媒-熱媒体熱交換器64と、バッテリ55の間、及び、熱媒体加熱ヒータ66とヒータコア23の間で熱媒体が循環されることになるので、熱媒体加熱ヒータ66の発熱によってバッテリ55を加熱し、且つ、ヒータコア23にて空気流通路3を流れる空気を加熱して暖房補助を行うことができる。
【0059】
また、前述と同様に冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに冷媒を流し、熱媒体から吸熱させることにより、流路切換装置60で一方の出口に分流された熱媒体から冷媒に熱を汲み上げ、放熱器4に搬送して暖房補助を行うこともできるようになる。その場合、バッテリ55に向かう熱媒体は冷却されるので、バッテリ55に流入する熱媒体の温度を低下させることができるようになる。
【0060】
(3)第3の熱媒体循環モード
次に、流路切換装置60が入口と他方の出口のみを連通する状態に切り換えられているときに、循環ポンプ62が運転され、熱媒体加熱ヒータ66が発熱されると、図3に実線矢印で示す如く、循環ポンプ62から吐出された熱媒体は熱媒体配管68A、熱媒体加熱ヒータ66、熱媒体配管68B、流路切換装置60、熱媒体配管68F、ヒータコア23、熱媒体配管68G、熱媒体配管68Eの順に流れて循環ポンプ62に吸い込まれる循環を行う。これが第3の熱媒体循環モードである。
【0061】
この第3の熱媒体循環モードでは、熱媒体加熱ヒータ66とヒータコア23の間で熱媒体が循環されることになるので、熱媒体加熱ヒータ66によって加熱された熱媒体をヒータコア23に循環させ、放熱器4に流入する空気を加熱することができる。即ち、バッテリ55を加熱するための熱媒体加熱ヒータ66を利用して、車室内の暖房補助を行うことができる。
【0062】
ここで、冷媒回路Rの冷媒配管13Fの出口、即ち、冷媒配管13Fと冷媒配管13Bとの接続部の冷媒下流側であって、室内膨張弁8の冷媒上流側に位置する冷媒配管13Bには分岐回路としての分岐配管72の一端が接続されている。この分岐配管72には電動弁から構成された流路制御装置としての補助膨張弁73が設けられている。この補助膨張弁73は冷媒-熱媒体熱交換器64の前述した冷媒流路64Bへの冷媒の流入を制御するものであり、冷媒流路64Bに流入する冷媒を減圧膨張させると共に、全閉も可能とされている。
【0063】
そして、分岐配管72の他端は冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに接続されており、この冷媒流路64Bの出口には冷媒配管74の一端が接続され、冷媒配管74の他端は逆止弁20の冷媒下流側であって、アキュムレータ12の手前(冷媒上流側)の冷媒配管13Cに接続されている。そして、これら補助膨張弁73等もヒートポンプ装置HPの冷媒回路Rの一部を構成すると同時に、熱媒体循環回路61の一部をも構成することになる。
【0064】
補助膨張弁73が開いている場合、冷媒配管13Fや室外熱交換器7から出た冷媒(一部又は全ての冷媒)は分岐配管72に流入し、補助膨張弁73で減圧された後、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して、そこで蒸発する。冷媒は冷媒流路64Bを流れる過程で熱媒体流路64Aを流れる熱媒体から吸熱した後、アキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる。即ち、冷媒-熱媒体熱交換器64は流路切換装置60を経てバッテリ55に流入する熱媒体を冷却することになる。
【0065】
(4)空調コントローラ32
次に、図2において、32は車両用空気調和装置1の制御を司る制御装置としての空調コントローラ32である。この空調コントローラ32は、プロセッサを備えたコンピュータの一例としてのマイクロコンピュータから構成されている。
【0066】
空調コントローラ32(制御装置)の入力には、車両の外気温度(Tam)を検出する外気温度センサ33と、外気湿度を検出する外気湿度センサ34と、吸込口25から空気流通路3に吸い込まれる空気の温度を検出するHVAC吸込温度センサ36と、車室内の空気(内気)の温度を検出する内気温度センサ37と、車室内の空気の湿度を検出する内気湿度センサ38と、車室内の二酸化炭素濃度を検出する室内CO2濃度センサ39と、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度を検出する吹出温度センサ41と、圧縮機2の吐出冷媒圧力(吐出圧力Pd)を検出する吐出圧力センサ42と、圧縮機2の吐出冷媒温度を検出する吐出温度センサ43と、圧縮機2の吸込冷媒温度を検出する吸込温度センサ44と、放熱器4の温度(放熱器4を経た空気の温度、又は、放熱器4自体の温度:放熱器温度TCI)を検出する放熱器温度センサ46と、放熱器4の冷媒圧力(放熱器4内、又は、放熱器4を出た直後の冷媒の圧力:放熱器圧力PCI)を検出する放熱器圧力センサ47と、吸熱器9の温度(吸熱器9を経た空気の温度、又は、吸熱器9自体の温度:吸熱器温度Te)を検出する吸熱器温度センサ48と、吸熱器9の冷媒圧力(吸熱器9内、又は、吸熱器9を出た直後の冷媒の圧力)を検出する吸熱器圧力センサ49と、車室内への日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ51と、車両の移動速度(車速)を検出するための車速センサ52と、設定温度や空調運転の切り換えを設定するための空調操作部53と、室外熱交換器7の温度(室外熱交換器7から出た直後の冷媒の温度、又は、室外熱交換器7自体の温度:室外熱交換器温度TXO。室外熱交換器7が蒸発器として機能するとき、室外熱交換器温度TXOは室外熱交換器7における冷媒の蒸発温度となる)を検出する室外熱交換器温度センサ54と、室外熱交換器7の冷媒圧力(室外熱交換器7内、又は、室外熱交換器7から出た直後の冷媒の圧力)を検出する室外熱交換器圧力センサ56の各出力が接続されている。
【0067】
また、空調コントローラ32の入力には更に、バッテリ55の温度(バッテリ55自体の温度:バッテリ温度TB)を検出するバッテリ温度センサ76と、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを経てバッテリ55に流入する熱媒体の温度(入口熱媒体温度Twin)を検出する熱媒体入口温度センサ78と、バッテリ55を出た熱媒体の温度(出口熱媒体温度Twout)を検出する熱媒体出口温度センサ77の各出力も接続されている。
【0068】
一方、空調コントローラ32の出力には、前記圧縮機2と、室外送風機15と、室内送風機(ブロワファン)27と、吸込切換ダンパ26と、エアミックスダンパ28と、吹出口切換ダンパ31と、室外膨張弁6、室内膨張弁8と、電磁弁22(除湿)、電磁弁21(暖房)の各電磁弁と、循環ポンプ62、熱媒体加熱ヒータ66、補助膨張弁73、流路切換装置60が接続されている。そして、空調コントローラ32は各センサの出力と空調操作部53にて入力された設定に基づいてこれらを制御するものである。
【0069】
以上の構成で、次に実施例の車両用空気調和装置1の動作について説明する。空調コントローラ32(制御装置)は、この実施例では暖房運転と、除湿暖房運転と、除湿冷房運転と、冷房運転の各空調運転を切り換えて実行すると共に、バッテリ55(車両搭載機器)の温度を調整する。先ず、車両用空気調和装置1のヒートポンプ装置HPの各空調運転について説明する。
【0070】
(5)暖房運転
最初に、図1図3図6を参照しながら暖房運転について説明する。図1図3図6には暖房運転における冷媒回路Rの冷媒の流れ(破線矢印)を示している。冬場等の低外気温時に空調コントローラ32により(オートモード)、或いは、空調操作部53へのマニュアル操作(マニュアルモード)により暖房運転が選択されると、空調コントローラ32は電磁弁21(暖房用)を開放し、室内膨張弁8を全閉とする。また、電磁弁22(除湿用)を閉じる。
【0071】
そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気がヒータコア23及び放熱器4に通風される割合を調整する状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化する。
【0072】
放熱器4内で液化した冷媒は放熱器4を出た後、冷媒配管13E、13Jを経て室外膨張弁6に至る。室外膨張弁6に流入した冷媒はそこで減圧された後、室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒は蒸発し、走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気中から熱を汲み上げる(吸熱)。そして、室外熱交換器7を出た低温の冷媒は冷媒配管13A及び冷媒配管13D、電磁弁21を経て冷媒配管13Cに至り、当該冷媒配管13Cの逆止弁20を経てアキュムレータ12に入り、そこで気液分離された後、ガス冷媒が圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。放熱器4にて加熱された空気は吹出口29から吹き出されるので、これにより車室内の暖房が行われることになる。
【0073】
空調コントローラ32は、後述する目標吹出温度TAOから算出される目標ヒータ温度TCO(放熱器4の風下側の空気温度(後述する加熱温度TH)の目標値)から目標放熱器圧力PCO(放熱器4の圧力PCIの目標値)を算出し、この目標放熱器圧力PCOと、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器4の冷媒圧力(放熱器圧力PCI。冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器温度センサ46が検出する放熱器4の温度(放熱器温度TCI)及び放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCIに基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御し、放熱器4の出口における冷媒の過冷却度を制御する。前記目標ヒータ温度TCOは後述する如く目標吹出温度TAOから導出される。また、放熱器4による暖房能力が不足する場合には後述する如く熱媒体加熱ヒータ66に通電して発熱させ、車室内の暖房能力を補完する(暖房補助)。
【0074】
また、空調コントローラ32はこの暖房運転において、電磁弁22を開き、補助膨張弁73も開いてその弁開度を制御する状態とする。これにより、放熱器4から出た冷媒の一部が室外膨張弁6の冷媒上流側で分流され、図5及び図6に白抜き矢印で示す如く、冷媒配管13Fを経て室内膨張弁8の冷媒上流側に至る。冷媒は次に分岐配管72に入り、補助膨張弁73で減圧された後、分岐配管72を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して蒸発する。このときに吸熱作用を発揮する。この冷媒流路64Bで蒸発した冷媒は、冷媒配管74、冷媒配管13C及びアキュムレータ12を順次経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。
【0075】
(6)除湿暖房運転
次に、除湿暖房運転では、空調コントローラ32は上記暖房運転の状態において電磁弁22を開放し、室内膨張弁8を開いて冷媒を減圧膨張させる状態とする。これにより、放熱器4を経て冷媒配管13Eを流れる凝縮冷媒の一部が分流され、この分流された冷媒が電磁弁22を経て冷媒配管13Fに流入し、冷媒配管13Bから室内膨張弁8に流れ、残りの冷媒が室外膨張弁6に流れるようになる。即ち、分流された一部の冷媒が室内膨張弁8にて減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。
【0076】
空調コントローラ32は吸熱器9の出口における冷媒の過熱度(SH)を所定値に維持するように室内膨張弁8の弁開度を制御するが、このときに吸熱器9で生じる冷媒の吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。分流されて冷媒配管13Jに流入した残りの冷媒は、室外膨張弁6で減圧された後、室外熱交換器7で蒸発することになる。
【0077】
吸熱器9で蒸発した冷媒は、冷媒配管13Cに出て冷媒配管13Dからの冷媒(室外熱交換器7からの冷媒)と合流した後、逆止弁20及びアキュムレータ12を経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて除湿された空気は放熱器4を通過する過程で再加熱されるので、これにより車室内の除湿暖房が行われることになる。
【0078】
空調コントローラ32は目標ヒータ温度TCOから算出される目標放熱器圧力PCOと放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCI(冷媒回路Rの高圧圧力)に基づいて圧縮機2の回転数を制御すると共に、吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて室外膨張弁6の弁開度を制御する。
【0079】
(7)除湿冷房運転
次に、除湿冷房運転では、空調コントローラ32は室内膨張弁8を開いて冷媒を減圧膨張させる状態とし、電磁弁21と電磁弁22を閉じる。そして、圧縮機2、及び、各送風機15、27を運転し、エアミックスダンパ28は室内送風機27から吹き出された空気がヒータコア23及び放熱器4に通風される割合を調整する状態とする。これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気が通風されるので、空気流通路3内の空気は放熱器4内の高温冷媒により加熱され、一方、放熱器4内の冷媒は空気に熱を奪われて冷却され、凝縮液化していく。
【0080】
放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至り、開き気味で制御される室外膨張弁6を経て室外熱交換器7に流入する。室外熱交換器7に流入した冷媒はそこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮する。室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着するので、空気は冷却され、且つ、除湿される。
【0081】
吸熱器9で蒸発した冷媒は冷媒配管13C及び逆止弁20を経てアキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は放熱器4を通過する過程でリヒート(再加熱:暖房時よりも放熱能力は低い)されるので、これにより車室内の除湿冷房が行われることになる。
【0082】
空調コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)とその目標値である目標吸熱器温度TEOに基づき、吸熱器温度Teを目標吸熱器温度TEOにするように圧縮機2の回転数を制御すると共に、放熱器圧力センサ47が検出する放熱器圧力PCI(冷媒回路Rの高圧圧力)と目標ヒータ温度TCOから算出される目標放熱器圧力PCO(放熱器圧力PCIの目標値)に基づき、放熱器圧力PCIを目標放熱器圧力PCOにするように室外膨張弁6の弁開度を制御することで放熱器4による必要なリヒート量を得る。
【0083】
(8)冷房運転
次に、冷房運転では、空調コントローラ32は上記除湿冷房運転の状態において室外膨張弁6の弁開度を全開とする。尚、エアミックスダンパ28はヒータコア23及び放熱器4に空気が通風される割合を調整する状態とする。
【0084】
これにより、圧縮機2から吐出された高温高圧のガス冷媒は放熱器4に流入する。放熱器4には空気流通路3内の空気は通風されるものの、その割合は小さくなるので(冷房時のリヒートのみのため)、ここは殆ど通過するのみとなり、放熱器4を出た冷媒は冷媒配管13Eを経て室外膨張弁6に至る。このとき室外膨張弁6は全開とされているので冷媒はそのまま室外膨張弁6を経て冷媒配管13Jを通過し、室外熱交換器7に流入し、そこで走行により、或いは、室外送風機15にて通風される外気により空冷され、凝縮液化する。
【0085】
室外熱交換器7を出た冷媒は冷媒配管13A、逆止弁18を経て冷媒配管13Bに入り、室内膨張弁8に至る。室内膨張弁8にて冷媒は減圧された後、吸熱器9に流入して蒸発する。このときの吸熱作用で室内送風機27から吹き出された空気中の水分が吸熱器9に凝結して付着し、空気は冷却される。
【0086】
吸熱器9で蒸発した冷媒は冷媒配管13C及び逆止弁20を経てアキュムレータ12に至り、そこを経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返す。吸熱器9にて冷却され、除湿された空気は吹出口29から車室内に吹き出されるので、これにより車室内の冷房が行われることになる。この冷房運転においては、空調コントローラ32は吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度(吸熱器温度Te)に基づいて圧縮機2の回転数を制御する。
【0087】
尚、この冷房運転において、補助膨張弁73を開いてその弁開度を制御する状態とすれば、室外熱交換器7から出た冷媒の一部が室内膨張弁8の冷媒上流側で分流され、分岐配管72に入り、補助膨張弁73で減圧された後、分岐配管72を経て冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流入して蒸発するようになる。このときに吸熱作用を発揮する。この冷媒流路64Bで蒸発した冷媒は、冷媒配管74、冷媒配管13C及びアキュムレータ12を順次経て圧縮機2に吸い込まれる循環を繰り返すので、循環ポンプ62を運転し、熱媒体加熱ヒータ66は発熱させず、流路切換装置60を第1の熱媒体循環モードと同じ流れ方とすることにより、冷媒により熱媒体を介してバッテリ55を冷却することも可能である。
【0088】
(9)空調運転の切換制御
空調コントローラ32は下記式(I)から前述した目標吹出温度TAOを算出する。この目標吹出温度TAOは、吹出口29から車室内に吹き出される空気の温度の目標値である。
TAO=(Tset-Tin)×K+Tbal(f(Tset、SUN、Tam))
・・(I)
ここで、Tsetは空調操作部53で設定された車室内の設定温度、Tinは内気温度センサ37が検出する車室内空気の温度、Kは係数、Tbalは設定温度Tsetや、日射センサ51が検出する日射量SUN、外気温度センサ33が検出する外気温度Tamから算出されるバランス値である。そして、一般的に、この目標吹出温度TAOは外気温度Tamが低い程高く、外気温度Tamが上昇するに伴って低下する。
【0089】
また、空調コントローラ32はこの目標吹出温度TAOに基づき、下記式(II)を用いて前述した目標ヒータ温度TCOを算出(導出)する。
TCO=f(TAO) ・・(II)
尚、上記式(II)中のfは、制御上の制限やオフセットなどを意味しているが、基本的にはTCO=TAOとされるので、目標吹出温度TAOが上昇すれば目標ヒータ温度TCOも上昇し、目標吹出温度TAOが低下すれば目標ヒータ温度TCOも低下することになる。
【0090】
更に、前述した暖房運転において空調コントローラ32は、下記に示す一次遅れ演算の式(III)から加熱温度THを算出(推定)する。この加熱温度THは放熱器4の風下側の空気温度であり、上記目標ヒータ温度TCOの目標値といえる。
TH=(INTL×TH0+Tau×THz)/(Tau+INTL)
・・(III)
ここで、INTLは演算周期(定数)、Tauは一次遅れの時定数、TH0は一次遅れ演算前の定常状態における加熱温度THの値である定常値、THzは加熱温度THの前回値である。
【0091】
また、空調コントローラ32は暖房運転では、例えば下記式(IV)、(V)を用いて放熱器4に要求される車室内の暖房能力である目標暖房能力TGQhpと、放熱器4が発生可能な暖房能力Qhpを算出している。
TGQhp=(TCO-Te)×Cpa×ρ×Qair ・・(IV)
Qhp=f(Tam、NC、BLV、VSP、FANVout、Te)・・(V)
ここで、Teは吸熱器温度センサ48が検出する吸熱器9の温度、Cpaは放熱器4に流入する空気の比熱[kj/kg・K]、ρは放熱器4に流入する空気の密度(比体積)[kg/m3]、Qairは放熱器4を通過する風量[m3/h](室内送風機27のブロワ電圧BLVなどから推定)、VSPは車速センサ52から得られる車速、FANVoutは室外送風機15の電圧である。
【0092】
そして、空調コントローラ32は起動時には外気温度センサ33が検出する外気温度Tamと目標吹出温度TAOとに基づいて上記各空調運転のうちの何れかの空調運転を選択する。また、起動後は外気温度Tamや目標吹出温度TAO等の環境や設定条件の変化に応じて前記各空調運転を選択し、切り換えていくものである。
【0093】
(10)熱媒体加熱ヒータ66を用いたバッテリ55の加熱とヒータコア23による暖房補助制御
次に、図7に示すフローチャートを参照しながら、空調コントローラ32による熱媒体加熱ヒータ66を用いたバッテリ55の加熱とヒータコア23による車室内の暖房補助に関する制御について説明する。空調コントローラ32は、図7のステップS1で、バッテリ温度センサ76が検出するバッテリ温度TBが低いか否か判断する(所定のヒステリシスあり)。この場合の判断手法は、バッテリ温度TBが前述した所定値T1(バッテリ55の適温範囲の下限)より低いか否かである。尚、バッテリ温度TBに限らず、熱媒体出口温度センサ77が検出する出口熱媒体温度Twoutを用いて判断してもよい。
【0094】
ステップS1でバッテリ温度TB(又は、出口熱媒体温度Twout。以下、同じ)が所定値T1より低くない場合、空調コントローラ32はバッテリ温度TBは低いのでバッテリ55を加熱する必要は無いものと判断してステップS9に進み、今度は補助暖房が必要か否か判断する。この場合の判断手法は、前述した目標吹出温度TAOより加熱温度THが低いか否かである。尚、目標吹出温度TAOに限らず、それに代えて前述した目標ヒータ温度TCOを用いてもよい。また、実施例のフローチャートのステップS9中で「>>」で示す意味は、目標吹出温度TAOより加熱温度THが低く、その差が相当値以上あることを意味しているが、これも目標吹出温度TAOより加熱温度THが低いことに含むものとし、それ以外に単純にTAO>THで判断してもよいものとする。尚、この場合も所定のヒステリシスが設けられる。
【0095】
ステップS9で目標吹出温度TAO(又は、目標ヒータ温度TCO。以下、同じ)より加熱温度THが低くない場合、空調コントローラ32は補助暖房は不要と判断してステップS12に進み、熱媒体循環回路61を停止する。この状態が図1に示した放熱器4による暖房運転の状態である。尚、熱媒体循環回路61の停止する以外に、循環ポンプ62のみは運転し、流路切換装置60を前述した第1の熱媒体循環モードの流れ方として、バッテリ55には熱媒体を循環させてもよい。それにより、前述した如くバッテリ55を冷媒により冷却することも可能となる。
【0096】
(10-1)補助暖房モード
一方、ステップS9で目標吹出温度TAOより加熱温度THが低い場合、空調コントローラ32は放熱器4の暖房能力が不足しており、補助暖房が必要であるものと判断し、ステップS10に進む。即ち、バッテリ55を加熱する必要は無いが、放熱器4の暖房能力は不足している場合には、ステップS10に進んで熱媒体加熱ヒータ66の必要熱量TGQhtr1を演算する。この場合の必要熱量TGQhtrは、例えば下記式(VI)で算出される。
TGQhtr1=TGQhp-Qhp ・・(VI)
即ち、空調コントローラ32は、媒体加熱ヒータ66の発熱量の目標値である必要熱量TGQhtr1を、放熱器4の暖房能力の不足分(TGQhp-Qhp)とする。例えば、放熱器4の暖房能力の不足分が2kWであった場合、熱媒体加熱ヒータ66の必要熱量TGQhtr1は2kWとされる。
【0097】
次に、空調コントローラ32はステップS11に進み、熱媒体循環回路61の循環ポンプ62を運転し、熱媒体加熱ヒータ66に通電して必要熱量TGHthr1を発生させ、流路切換装置60の入口を他方の出口のみに連通させることにより、前述した第3の熱媒体循環モードとする。これが補助暖房モードである。尚、実施例では循環ポンプ62は定速運転で駆動されるものとする(以下、同じ)。また、この補助暖房モードでは、空調コントローラ32は補助膨張弁73を全閉とし、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに冷媒を流さない。
【0098】
この補助暖房モードでは、図3に示す如く熱媒体加熱ヒータ66で加熱された熱媒体が、循環ポンプ62により流路切換装置60を経てヒータコア23に循環されるので、空気流通路3を流れる空気はこのヒータコア23により加熱され、放熱器4の暖房能力が不足する分の暖房補助が行われることになる。尚、TGQhp=Qhpである場合にはTGQhtr1は0となるが、その場合はステップS9からステップS12に進むようになる。
【0099】
(10-2)車両搭載機器加熱モード
他方、ステップS1でバッテリ温度TBが所定値T1より低い場合、空調コントローラ32はステップS2に進み、補助暖房が必要か否か判断する。この場合の判断手法は、前述したステップS9における手法と同様である(TAO>>TH)。ステップS2で目標吹出温度TAOより加熱温度THが低くない場合、空調コントローラ32は補助暖房は不要と判断してステップS7に進む。
【0100】
即ち、バッテリ55を加熱する必要が有るが、放熱器4の暖房能力は不足していない場合には、ステップS7に進んで熱媒体加熱ヒータ66の必要熱量TGQhtr2を演算する。この場合の必要熱量TGQhtr2は、例えば下記式(VII)で算出される。
TGQhtr2=f(T1-TB) ・・(VII)
実施例の上記式(VII)の右辺は所定値T1とバッテリ温度TBの差を熱量に換算する式である。この場合の必要熱量TGQhtr2はバッテリ55の加熱に必要な熱量であり、バッテリ温度TBが所定値T1より低く、その差が大きい程、大きくなることになる。
【0101】
例えば、バッテリ55の加熱に必要な熱量が2kWであった場合、熱媒体加熱ヒータ66の必要熱量TGQhtr2は2kWとされる。これに限らず、例えばバッテリ55の適温範囲内の所定の値(例えば中心の値)とバッテリ温度TBとの偏差eに基づくPI、PID演算等で必要熱量TGQhtr2(バッテリ55の加熱に必要な熱量)を算出してもよい。
【0102】
次に、空調コントローラ32はステップS8に進み、熱媒体循環回路61の循環ポンプ62を運転し、熱媒体加熱ヒータ66に通電して必要熱量TGQhtr2を発生させ、流路切換装置60の入口を一方の出口のみに連通させることにより、前述した第1の熱媒体循環モードとする。これが車両搭載機器加熱モードである。尚、この車両搭載機器加熱モードでも、空調コントローラ32は補助膨張弁73を全閉とし、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに冷媒を流さない。
【0103】
この車両搭載機器加熱モードでは、図4に示す如く熱媒体加熱ヒータ66で加熱された熱媒体が、循環ポンプ62により流路切換装置60、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを順次経てバッテリ55に循環されるので、バッテリ55は熱媒体により加熱され、バッテリ温度TBは適温範囲に上昇されることになる。尚、TB=T1となればTGQhtr2は0となるが、その場合にはステップS1からステップS9に進むようになる。
【0104】
(10-3)第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モード
次に、ステップS2で放熱器4の暖房能力が不足しており、補助暖房が必要である場合い、空調コントローラ32はステップS3に進む。即ち、バッテリ55を加熱する必要が有り、且つ、放熱器4の暖房能力が不足している場合、空調コントローラ32はステップS3に進んで熱媒体加熱ヒータ66の必要熱量TGQhtr3を演算する。この場合の必要熱量TGQhtr3は、例えば下記式(VIII)で算出される。
TGQhtr3=TGQhtr2+TGQhtr1 ・・(VIII)
【0105】
上記式(VIII)により、バッテリ55の加熱に必要な熱量(TGQhtr2)と、放熱器4の暖房能力の不足分(TGQhtr1)との和をこの場合の必要熱量TGQhtr3となる。例えば、バッテリ55の加熱に必要な熱量(必要熱量TGQhtr2)が2kW、放熱器4の暖房能力の不足分(必要熱量TGQhtr1)が1kWであった場合、必要熱量TGQhtr3は3kWになる。一方、放熱器4の暖房能力の不足分が大きく、バッテリ55の加熱に必要な熱量(必要熱量TGQhtr2)が2kW、放熱器4の暖房能力の不足分(必要熱量TGQhtr1)が3kWであった場合は、必要熱量TGQhtr3は5kWと大きくなる。
【0106】
次に、空調コントローラ32はステップS4に進み、熱媒体入口温度センサ78が検出する入口熱媒体温度Twinが所定の許容値T2より高いか否か判断する。尚、実施例ではこの許容値T2を前述したバッテリ55の適温範囲の上限である所定値T3に設定する(T2=T3)。その理由としては、バッテリ55に流入する入口熱媒体温度Twinがバッテリ55の適温範囲の上限を超えた場合、特に熱媒体の流入部に位置するバッテリ55のセルが劣化してしまう危険性が生じるからである。
【0107】
また、実施例のフローチャートのステップS4中で「<<」で示す意味は、入口熱媒体温度Twinが許容値T2より高く、その差が相当値以上あることを意味しているが、これも入口熱媒体温度Twinが許容値T2より高いことに含むものとし、それ以外に単純にT2<Twinで判断してもよいものとする。
【0108】
ステップS4で入口熱媒体温度Twinが許容値T2以下である場合、空調コントローラ32はステップS6に進む。即ち、バッテリ55を加熱する必要があり、且つ、放熱器4の暖房能力が不足している場合であって、バッテリ55に流入する熱媒体の温度(入口熱媒体温度Twin)が許容値T2以下である場合、ステップS6に進む。
【0109】
このステップS6では、空調コントローラ32は熱媒体循環回路61の循環ポンプ62を運転し、熱媒体加熱ヒータ66で前述した必要熱量TGQhtr3を発生させるべく通電を開始し、流路切換装置60の入口を一方の出口のみに連通させることにより、前述した第1の熱媒体循環モードとする。また、空調コントローラ32は電磁弁22を開き、補助膨張弁73も開いてその弁開度を制御する状態とする。
【0110】
これにより、前述した如く放熱器4から出た冷媒の一部が室外膨張弁6の冷媒上流側で分流され、図5に白抜き矢印で示す如く、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流れて蒸発し、熱媒体流路64Aを流れる熱媒体から吸熱するようになる。即ち、流路切換装置60を経てバッテリ55に流入する熱媒体が冷却されるようになる。これが第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードである。
【0111】
この第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードでは、図5に示す如く熱媒体加熱ヒータ66で加熱された熱媒体が、循環ポンプ62により流路切換装置60、冷媒-熱媒体熱交換器64の熱媒体流路64Aを順次経てバッテリ55に循環される。熱媒体流路64Aを通過する過程で熱媒体は冷媒により冷却されるので、バッテリ55にはこの冷却された後の熱媒体が流入することになる。
【0112】
また、冷媒-熱媒体熱交換器64で熱媒体から汲み上げられた熱(熱媒体加熱ヒータ66の発熱の一部)は、冷媒により放熱器4に搬送されることになるので、これによって車室内の暖房補助が行われることになる。例えば、空調コントローラ32は熱媒体入口温度センサ78が検出する入口熱媒体温度Twinに基づき、補助膨張弁73の弁開度を制御することにより、冷媒-熱媒体熱交換器64で熱媒体から汲み上げる熱量を調整することで、入口熱媒体温度Twinが許容値T2より高くならないようにしながら、バッテリ55の加熱と暖房補助を両立させる。これにより、バッテリ温度TBは適温範囲に上昇していくことになる。
【0113】
しかしながら、冷媒-熱媒体熱交換器64により汲み上げることができる熱量には上限があり、実施例では1kWであるものとすると、前述したように放熱器4の暖房能力の不足分(必要熱量TGQhtr1)が1kW以下であった場合には、入口熱媒体温度Twinも許容値T2以下に収まり、バッテリ温度TBが所定値T1に達し、ステップS9に進むようになるまで、この第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードが継続されることになる。
【0114】
(10-4)第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モード
一方、放熱器4の暖房能力の不足分が大きく、例えば前述した如くバッテリ55の加熱に必要な熱量(必要熱量TGQhtr2)が2kW、放熱器4の暖房能力の不足分(必要熱量TGQhtr1)が3kWであった場合は、熱媒体加熱ヒータ66は5kWの必要熱量TGQhtr3を発生するように通電制御されることになる。
【0115】
このように大きな発熱量が熱媒体加熱ヒータ66で発生すると、冷媒-熱媒体熱交換器64で限界まで熱媒体から熱を汲み上げても、冷媒による冷却作用が不足して、入口熱媒体温度Twinは必要以上に上昇していくようになる。図8を用いてこの状態を説明する。図8中実線は熱媒体加熱ヒータ66の発熱量、破線は入口熱媒体温度Twinの変化を示している。
【0116】
起動(時刻t0)からステップS1、ステップS2、ステップS3と進み、ステップS6で第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを開始してから熱媒体加熱ヒータ66の発熱量は上昇していき、その後、必要熱量TGQhtr3で制御される。入口熱媒体温度Twinも上昇していき、やがて時刻t1で入口熱媒体温度Twinが許容値T2まで到達するが、補助膨張弁73で制御される冷媒による冷却作用が限界になると、図中L2で示す如く入口熱媒体温度Twinは更に上昇していくことになり、そのままではバッテリ55の、特に熱媒体の流入部に位置するセルが過剰に加熱されて劣化してしまうようになる。
【0117】
そこで、空調コントローラ32はステップS4で入口熱媒体温度Twinが許容値T2より高くなった場合、ステップS5に進むようになる。このステップS5では、空調コントローラ32は熱媒体循環回路61の循環ポンプ62を運転し、熱媒体加熱ヒータ66で必要熱量TGQhtr3を発生させるが、流路切換装置60の入口を双方の出口に連通させることにより、前述した第2の熱媒体循環モードとする。また、空調コントローラ32は電磁弁22を開き、補助膨張弁73も開いてその弁開度を制御する状態とする。
【0118】
これにより、前述した如く放熱器4から出た冷媒の一部が室外膨張弁6の冷媒上流側で分流され、図6に白抜き矢印で示す如く、冷媒-熱媒体熱交換器64の冷媒流路64Bに流れて蒸発し、熱媒体流路64Aを流れる熱媒体から吸熱するようになる。即ち、流路切換装置60を経てバッテリ55に流入する熱媒体が冷却されるようになる。これが第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードである。
【0119】
この第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードでは、図6に示す如く熱媒体加熱ヒータ66で加熱された熱媒体が、循環ポンプ62により熱媒体加熱ヒータ66と、冷媒-熱媒体熱交換器64と、バッテリ55の間、及び、熱媒体加熱ヒータ66とヒータコア23の間で熱媒体が循環されることになるので、熱媒体加熱ヒータ66の発熱によってバッテリ55は加熱され、且つ、ヒータコア23にて空気流通路3を流れる空気が加熱されて暖房補助が行われるようになる。
【0120】
また、熱媒体流路64Aを通過する過程で熱媒体は冷媒により冷却されるので、バッテリ55にはこの冷却された後の熱媒体が流入することになる。冷媒-熱媒体熱交換器64で熱媒体から汲み上げられた熱は、冷媒により放熱器4に搬送されるので、これによっても車室内の暖房補助が行われることになる。
【0121】
即ち、この例の如くバッテリ55の加熱に必要な熱量(必要熱量TGQhtr2)が2kW、放熱器4の暖房能力の不足分(必要熱量TGQhtr1)が3kWであった場合は、冷媒-熱媒体熱交換器64で冷媒が汲み上げる熱量が上限以下の1kW、ヒータコア23で放熱される熱量が2kWとなり、それらの和が暖房補助の熱量となる。これにより、バッテリ55の加熱と車室内の暖房補助の両立を図ることができるようになると共に、冷媒-熱媒体熱交換器64における冷媒による冷却作用が不足することが無くなり、図8中L1で示すように入口熱媒体温度Twinが許容値T2より高くなることが防止されるので、異常に高い温度の熱媒体が流入することによるバッテリ55の劣化が解消される。
【0122】
尚、この第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードとした場合には、実施例では熱媒体加熱ヒータ66の発熱量を最大としても、入口熱媒体温度Twinが許容値T2より高くならないように循環ポンプ62による熱媒体の循環量やヒータコア23の空気の加熱能力が設定されているものとする。
【0123】
また、ステップS4の判断では所定のヒステリシスα(αは正の温度値)が設けられ、ステップS4から一旦ステップS5に進んだ後は、例えば入口熱媒体温度Twinが許容値T2-αに低下するまで(Twin≦T2-α)、空調コントローラ32はステップS4からステップS6に進まないものとする。
【0124】
以上詳述したように本発明によれば、流路切換装置60により熱媒体加熱ヒータ66で熱媒体が、ヒータコア23に流れること無くバッテリ55に流れる第1の熱媒体循環モードと、バッテリ55とヒータコア23の双方に流れる第2の熱媒体循環モードと、バッテリ55に流れること無くヒータコア23に流れる第3の熱媒体循環モードに流路を切り換えられるようにしたので、ヒータコア23による車室内の暖房を行う必要が無く、バッテリ55を加熱する必要がある場合には、第1の熱媒体循環モードを実行することでバッテリ55を加熱することができるようになり、当該バッテリ55の充放電性能を維持することができるようになる。
【0125】
また、車室内の暖房のみを行う必要がある場合には、第3の熱媒体循環モードを実行することで熱媒体加熱ヒータ66の発熱で、車室内を暖房することができるようになる。即ち、バッテリ55を加熱するための熱媒体加熱ヒータ66を利用して、車室内の暖房も行うことができるようになり、加熱装置の削減による省スペース化とコストの低減を図ることができるようになる。
【0126】
特に、本発明によればバッテリ55の加熱と車室内の暖房の双方が必要な場合に、第2の熱媒体循環モードを実行することで、熱媒体加熱ヒータ66の発熱で、バッテリ55の加熱とヒータコア23による車室内の暖房の双方を実現することができるようになり、バッテリ55を加熱するための熱媒体加熱ヒータ66を利用して、バッテリ55の性能維持と車室内の暖房を円滑に両立させることができるようになる。
【0127】
また、実施例では圧縮機2と、放熱器4と、室外熱交換器7と、冷媒-熱媒体熱交換器64を有したヒートポンプ装置HPを設けているので、冷媒-熱媒体熱交換器64において熱媒体循環回路61を流れる熱媒体から冷媒に熱を汲み上げ、熱媒体加熱ヒータ66が発生した熱を放熱器4に搬送し、車室内の暖房補助を行うことができるようになる。
【0128】
また、冷媒-熱媒体熱交換器64において熱媒体は冷媒と熱交換して冷却されることになるので、第2の熱媒体循環モードで熱媒体加熱ヒータ66の発熱量を増大させた場合にも、バッテリ55に流れる熱媒体の温度を、当該バッテリ55において許容される範囲に低下させることが可能となる。これにより、バッテリ55に流れる熱媒体の温度が許容される値より高くなることを防止しながら、ヒータコア23でより効果的な暖房補助を行い、車室内をより快適に空調することが可能となるので、暖房運転の領域を拡大することができるようになる。また、実施例のように循環ポンプ62を定速運転で駆動しても支障なく制御することが可能となる等、熱媒体循環回路61の制御も簡素化できる。
【0129】
特に、実施例では冷媒-熱媒体熱交換器64を、流路切換装置60とバッテリ55の間に配置し、バッテリ55に流入する熱媒体と冷媒を熱交換させるようにしているので、バッテリ55に流入する熱媒体から熱を汲み上げ、当該バッテリ55に流入する熱媒体の温度を的確に低下させ、バッテリ55において許容される範囲に低下させることが可能となる。そして、冷媒は流路切換装置60でバッテリ55側に分流された熱媒体から熱を汲み上げることになるので、ヒータコア23による暖房能力は確保される。
【0130】
また、実施例では冷媒-熱媒体熱交換器64への冷媒の流入を制御するための補助膨張弁73を設けているので、冷媒-熱媒体熱交換器64により熱媒体から熱を汲み上げる必要が無い補助暖房モードや、熱媒体の温度を下げる必要が無い車両搭載機器加熱モードでは、補助膨張弁73により冷媒-熱媒体熱交換器64に冷媒を流さないようにして、圧縮機2の負荷を軽減することができるようになる。
【0131】
特に、実施例ではバッテリ55を加熱する必要があり、且つ、放熱器4の暖房能力が不足していない場合、空調コントローラ32が補助膨張弁73により冷媒-熱媒体熱交換器64への冷媒の流入を阻止し、熱媒体循環回路61を第1の熱媒体循環モードとする車両搭載機器加熱モードを実行するようにしたので、バッテリ55の加熱が必要であって、放熱器4の暖房能力が不足していないときに、冷媒-熱媒体熱交換器64に冷媒を流さずに、熱媒体加熱ヒータ66によるバッテリ55の加熱を効果的に行うことができるようになる。
【0132】
一方、バッテリ55を加熱する必要があり、且つ、放熱器4の暖房能力が不足している場合、空調コントローラ32が補助膨張弁73により冷媒-熱媒体熱交換器64に冷媒を流し、熱媒体循環回路61を第1の熱媒体循環モードとする第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行するようにしたので、バッテリ55の加熱と、冷媒-熱媒体熱交換器64にて汲み上げられた熱を放熱器4に搬送することによる車室内の暖房補助の双方を実現することができるようになる。
【0133】
ここで、第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードにおいてバッテリ55に流入する熱媒体の温度Twinが所定の許容値T2より高くなった場合、空調コントローラ32が補助膨張弁73により冷媒-熱媒体熱交換器64に冷媒を流し、熱媒体循環回路61を第2の熱媒体循環モードとする第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行するようにしたので、バッテリ55の加熱と、ヒータコア23による暖房補助の双方を実現することができるようになる。
【0134】
特に、この場合は冷媒-熱媒体熱交換器64にて汲み上げられた熱を冷媒で放熱器4に搬送することによる車室内の暖房補助も合わせて行われると共に、バッテリ55に流入する熱媒体は冷却されるので、熱媒体加熱ヒータ66の発熱量を増大させてヒータコア23による暖房能力を増大させても、バッテリ55に流入する熱媒体の温度を許容される値に適切に維持し、バッテリ55の劣化を防止することができるようになる。
【0135】
また、バッテリ55を加熱する必要が無く、且つ、放熱器4の暖房能力が不足している場合、空調コントローラ32が補助膨張弁73により冷媒-熱媒体熱交換器への冷媒の流入を阻止し、熱媒体循環回路61を第3の熱媒体循環モードとする補助暖房モードを実行するようにしたので、バッテリ55を加熱するための熱媒体加熱ヒータ66を利用して、効果的に車室内の暖房補助を行うことができるようになる。
【0136】
更に、実施例では空調コントローラ32が、バッテリ温度TB、又は、当該バッテリ55を経た熱媒体の温度Twoutが所定値T1より低い場合、バッテリ55を加熱する必要があると判断すると共に、放熱器4の風下側の空気の温度である加熱温度THが目標吹出温度TAO、又は、目標ヒータ温度TCOより低い場合、放熱器4の暖房能力が不足していると判断するようにしているので、上記各モード(補助暖房モード、車両搭載機器加熱モード、第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モード、第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モード)を円滑に実現することができるようになる。
【0137】
また、実施例のように空調コントローラ32が、バッテリ55の加熱に必要な熱量や、放熱器4の暖房能力が不足する分の熱量に基づいて、熱媒体加熱ヒータ66の必要熱量(TGQhtr1~3)を算出するようにしているので、バッテリ55を加熱するための熱媒体加熱ヒータ66を利用して、バッテリ55の加熱と車室内の暖房補助を的確に両立させることができるようになる。
【0138】
尚、実施例では図7のステップS7で熱媒体加熱ヒータ66の必要熱量TGQhtr3を算出し、ステップS4で入口熱媒体温度Twinが許容値T2より高くなるか否かで、第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードと、第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを切り換えるようにしたが、それに限らず、冷媒-熱媒体熱交換器64で熱を汲み上げられる限界が実施例のように1kWであるときに、バッテリ55の加熱が必要で、且つ、放熱器4の暖房能力が不足する場合で、暖房補助の必要熱量TGQhtr1が1kW以下の場合には第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行し、TGQhtr1が1kWより大きい場合、即ち、第1の車両搭載機器加熱/補助暖房モードによっても放熱器4の暖房能力が不足する場合に、第2の車両搭載機器加熱/補助暖房モードを実行するように切り換えてもよい。
【0139】
また、実施例では車両搭載機器としてバッテリ55を採り上げたが、それに限らず、請求項10以外の発明では走行用の電動モータやそれを駆動するインバータ装置等にも本発明は有効である。
【0140】
更に、実施例で説明した空調コントローラ32の構成、車両用空気調和装置1のヒートポンプ装置HPや熱媒体循環回路61の構成はそれに限定されるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能であることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0141】
1 車両用空気調和装置
2 圧縮機
4 放熱器
6 室外膨張弁
7 室外熱交換器
23 ヒータコア
32 空調コントローラ(制御装置)
55 バッテリ(車両搭載機器)
60 流路切換装置
61 熱媒体循環回路
62 循環ポンプ(循環装置)
64 冷媒-熱媒体熱交換器
66 熱媒体加熱ヒータ(加熱装置)
73 補助膨張弁(流路制御装置)
76 バッテリ温度センサ
77 熱媒体出口温度センサ
78 熱媒体入口温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8