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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】熱輻射光源
(51)【国際特許分類】
   H01K 1/14 20060101AFI20240719BHJP
   H01K 1/04 20060101ALI20240719BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20240719BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01K1/14
H01K1/04
H05B3/12 A
H05B3/10 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020057343
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021157961
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】末光 真大
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-192608(JP,A)
【文献】国際公開第2018/182013(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/225726(WO,A1)
【文献】特開2012-225829(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022156(WO,A1)
【文献】特開昭53-040425(JP,A)
【文献】Hideki T Miyazaki, et al.,Ultraviolet-nanoimprinted packaged metasurface thermal emitters for infrared CO2 sensing,Science and Technology of Advanced Materials,英国,Taylor and Francis,2015年05月20日,Vol. 16, 035005,pp. 1-5
【文献】Corey Shemelya, et al.,Stable high temperature metamaterial emitters for thermophotovoltaic applications,APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,AIP Publishing,2014年05月21日,Vol. 104, 201113,pp. 1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01K 1/00-13/06
H05B 3/12
H05B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱輻射層と、当該熱輻射層を加熱する基板とが積層された熱輻射光源であって、
前記基板が、前記熱輻射層に対向する面が鏡面であるカンタル合金で形成され、
前記熱輻射層が、透明酸化物にて形成される共鳴用透明酸化物層を前記基板と白金層との間に位置させるMIM積層部を備える輻射制御部、及び、前記透明酸化物にて形成される放射用透明酸化物層の順に前記基板に近い側に位置させる形態で、前記輻射制御部及び前記放射用透明酸化物層を積層した状態に構成され、
前記共鳴用透明酸化物層の厚さが、8μm以下の波長域中に設定される設定領域を共鳴波長域とする厚さであり、
前記設定領域が、0.8μm以上で4μm以下の波長域であり、
前記MIM積層部における前記白金層と前記共鳴用透明酸化物層との間、及び、前記放射用透明酸化物層と前記白金層との間の夫々に、厚さが1nm以下の白金用密着層が積層されている熱輻射光源。
【請求項2】
前記白金用密着層が、チタンにて形成される請求項に記載の熱輻射光源。
【請求項3】
前記透明酸化物が、酸化アルミニウムである請求項1又は2に記載の熱輻射光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輻射層と、当該熱輻射層を加熱する基板とが積層された熱輻射光源に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる熱輻射光源は、熱輻射層を基板にて高温状態に加熱することにより、被加熱物を加熱する輻射光を熱輻射層から放射させるものである。
かかる熱輻射光源として、石英ガラス等の透光性気密部材にて形成される封止管の内部に、基板及び熱輻射層を封止状態で配設し、封止管の内部を真空状態にする、あるいは、封止管の内部に窒素ガス等の不活性ガスを封入したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1においては、基板が、電流を流すことにより発熱するタングステン等の高融点金属にて構成され、熱輻射層が、タンタル、モリブテン等の金属層にて形成され、基板や熱輻射層を封止状態で封止管の内部に配設することにより、基板や熱輻射層の酸化による劣化が防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015‐138638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の熱輻射光源は、基板や熱輻射層を封止管の内部に封止状態で配設するものであるから、全体構造が複雑で高価となるため、基板及び熱輻射層を大気中に露出させた状態で設置できる熱輻射光源が要望されている。
【0006】
また、被加熱物を赤外線にて加熱する等の目的で、8μm以下の波長域中に設定される設定領域(例えば、0.8μm以上で4μm以下の設定領域)において大きな輻射率(放射率)を有し、8μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)の輻射率(放射率)が小さい熱輻射光源が要望されている。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて為されたものであって、その目的は、基板及び熱輻射層を大気中に露出させた状態で設置でき、しかも、8μm以下の波長域中に設定される設定領域において大きな輻射率(放射率)を有し、加えて、構成の簡素化を図ることができる熱輻射光源を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱輻射光源は、熱輻射層と、当該熱輻射層を加熱する基板とが積層された熱輻射光源であって、その特徴構成は、前記基板が、前記熱輻射層に対向する面が鏡面であるカンタル合金で形成され、前記熱輻射層が、透明酸化物にて形成される共鳴用透明酸化物層を前記基板と白金層との間に位置させるMIM積層部を備える輻射制御部、及び、前記透明酸化物にて形成される放射用透明酸化物層の順に前記基板に近い側に位置させる形態で、前記輻射制御部及び前記放射用透明酸化物層を積層した状態に構成され、前記共鳴用透明酸化物層の厚さが、8μm以下の波長域中に設定される設定領域を共鳴波長域とする厚さであり、前記設定領域が、0.8μm以上で4μm以下の波長域であり、前記MIM積層部における前記白金層と前記共鳴用透明酸化物層との間、及び、前記放射用透明酸化物層と前記白金層との間の夫々に、厚さが1nm以下の白金用密着層が積層されている点にある。
【0009】
すなわち、熱輻射層が、MIM積層部を備える輻射制御部及び放射用透明酸化物層の順に輻射制御部を基板に近い側に位置させる形態で、輻射制御部及び放射用透明酸化物層を積層した状態に構成されるものであるから、カンタル合金で形成される基板に通電して基板を高温状態にし、熱輻射層が基板にて高温状態に加熱されると、MIM積層部を備える輻射制御部が輻射光を放射して、当該輻射光が放射用透明酸化物層から放射されることになる。
【0010】
また、白金より屈折率が小さくかつ空気よりも屈折率が大きな放射用透明酸化物層が、輻射制御部における白金層に隣接して位置するから、白金層の反射率が低減されて、輻射制御部から放射される輻射光を外部に良好に放出させることができる。
【0011】
そして、輻射制御部が備えるMIM積層部は、カンタル合金で形成される基板と白金層との間に共鳴用透明酸化物層を位置させるものであり、且つ、共鳴用透明酸化物層の厚さが、8μm以下の波長域中に設定される設定領域を共鳴波長域とする厚さであるから、高温状態の基板や高温状態に加熱される白金層から放射される輻射光のうちの、共鳴波長域の波長において大きな輻射率(放射率)を有し、共鳴波長域から外れた波長において小さな輻射率(放射率)を有するものとなり、その結果、増幅された共鳴波長域の波長の輻射光が、放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
【0012】
説明を加えると、MIMは、metal insulator metalを意味するものであって、MIM積層部は、基板及び白金層が放射する輻射光のうちの、共鳴波長域の波長の輻射光を、基板と白金層との間(共鳴用透明酸化物層内)で繰り返し反射させることにより、共鳴波長域の波長の輻射光を増幅させることになり、この増幅された共鳴波長域の波長の輻射光が、放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
【0013】
つまり、共鳴波長域の波長の輻射光が、基板と白金層との間で繰り返し反射しながら増幅され、共鳴波長域の波長の輻射光の一部が、放射用透明酸化物層の存在側に透過して、放射用透明酸化物層から外部に放出されることになるのであり、その結果、増幅された共鳴波長域の波長の輻射光が放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
【0014】
これに対して、基板及び白金層から放射される輻射光のうちの0.8μm未満の波長や4μmよりも大きな波長である共鳴波長域から外れた波長の輻射光は、共鳴作用により増幅されることが少ない状態で、放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
その結果、放射用透明酸化物層から外部に放出される輻射光が、共鳴波長域の波長において大きな輻射率(放射率)を有し、共鳴波長域から外れた波長において小さな輻射率(放射率)を有するものとなる。
従って、輻射制御部が、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光を含む狭帯域の波長において大きな輻射率(放射率)を有するのに対して、0.8μm未満の波長(つまり、可視光)や4μmよりも大きな波長(つまり、4μmよりも大きく8μm以下の波長の中赤外光、8μmよりも大きな波長の遠赤外光)において小さな輻射率(放射率)を有するものとなり、その結果、増幅された0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光が放射用透明酸化物層から外部に放出されることになる。
ちなみに、4μmよりも大きな波長の光は、石英ガラスにて吸収されるが、4μm以下の波長の光は、石英ガラスを透過することになるから、0.8μm以上で4μm以下の波長域を共鳴波長域とする熱輻射光源は、石英ガラスを通して被加熱物を加熱する際に、良好に使用できることになる。
【0015】
このように、熱輻射層は、共鳴波長域の波長の輻射光を増幅させながら放射用透明酸化物層から外部に放出させることになり、加えて、空気中に設置しても、輻射制御部及び基板が酸化により劣化することが抑制されることにより、光学特性を長時間維持できるものとなる。
【0016】
つまり、MIM積層部の白金層は、白金にて形成されるものであり、白金は、標準酸化ギブスエネルギーがあらゆる温度域で正に大きく、空気中では酸化しないものであるから、空気中に設置しても、酸化により劣化することがない。
また、放射用透明酸化物層及び共鳴用透明酸化物層が、空気中の酸素が基板に向けて透過することを抑制するため、基板が酸化される材料にて形成される場合であっても、長時間に亘って、基板が酸化により劣化することが抑制されることになる。
従って、熱輻射層は、空気中に設置しても、光学特性を長時間維持できるのとなる。
【0017】
ちなみに、共鳴用透明酸化物層に対して隣接する白金層を形成する白金は、高温に加熱されると、共鳴用透明酸化物層上を流動して凝集する虞があるが、放射用透明酸化物層が、白金の動きを抑制する作用を発揮することになるから、白金の凝集を抑制できるため、この点からも、熱輻射層は、光学特性を長時間維持できるのとなる。
【0018】
さらに、熱輻射層に備える輻射制御部が、透明酸化物にて形成される共鳴用透明酸化物層を基板と白金層との間に位置させるMIM積層部を備えるものであるから、換言すれば、カンタル合金にて形成される基板が、MIM積層部を構成する部材に兼用されるものであるから、構成の簡素化を図ることができる。
【0019】
説明を加えると、白金層として、一対の白金層を備えさせて、それらの白金層の間に共鳴用透明酸化物層を配置する形態で、MIM積層部を構成することが考えられるが、この場合には、積層する白金層が増加することに起因して、構成が複雑になる。
これに対して、カンタル合金にて形成される基板を、MIM積層部を構成する部材に兼用することにより、構成の簡素化を図ることができるのである。
【0020】
つまり、本発明の発明者は、カンタル合金にて形成される基板が、輻射光を放射し、かつ、MIM積層部を構成するために、輻射光を適正に反射することを見出して、カンタル合金にて形成される基板を、MIM積層部を構成する部材に兼用することにより、構成を簡素化するに至ったのである。
【0021】
要するに、本発明の熱輻射光源の特徴構成によれば、基板及び熱輻射層を大気中に露出させた状態で設置でき、しかも、0.8μm以上で4μm以下の波長域中に設定される設定領域において大きな輻射率(放射率)を有し、加えて、構成の簡素化を図ることができる。
【0033】
本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成は、前記MIM積層部における前記白金層と前記共鳴用透明酸化物層との間、及び、前記放射用透明酸化物層と前記白金層との間の夫々に、白金用密着層が積層されている点にある。
【0034】
すなわち、白金用密着層が、MIM積層部における白金層と共鳴用透明酸化物層との間、及び、放射用透明酸化物層と白金層との間に設けられているから、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを抑制でき、また、熱膨張率の差によって、白金層と共鳴用透明酸化物層とが剥がれることや、放射用透明酸化物層と白金層とが剥がれることを抑制できる。
【0035】
つまり、白金と透明酸化物との密着性が低いため、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、共鳴用透明酸化物層に隣接する白金層や放射用透明酸化物層に隣接する白金層が流動して凝集する虞があるが、白金用密着層が積層されることにより、共鳴用透明酸化物層に隣接する白金層の共鳴用透明酸化物層に対する密着性や、放射用透明酸化物層に隣接する白金層の放射用透明酸化物層に対する密着性が高められることにより、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを抑制でき、また、白金層と共鳴用透明酸化物層とが剥がれることや、放射用透明酸化物層と白金層とが剥がれることを抑制できるのである。
【0036】
要するに、本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成によれば、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを抑制できる。
【0037】
本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成は、前記白金用密着層が、チタンにて形成される点にある。
【0038】
すなわち、チタンは、共鳴用透明酸化物層に隣接する白金層の共鳴用透明酸化物層に対する密着性、及び、放射用透明酸化物層に隣接する白金層の放射用透明酸化物層に対する密着性を良好に高めることができ、しかも、融点が1668℃と高いものであるから、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを適切に抑制できる。
【0039】
ちなみに、白金用密着層を形成するチタンは、熱輻射光源の大気中での使用によって、徐々に酸化されて酸化チタンに変化することがある。換言すれば、大気中で熱輻射光源が使用されると、白金用密着層が、酸化チタンにて形成されていると見做すことができる。
但し、白金用密着層を形成するチタンは、全てが酸化チタンに変化するのではなく、白金層に密着する箇所のチタンは、酸化されることなく、白金層に密着するチタンの状態(金属状態)を継続することになる。
【0040】
尚、チタンにて形成される白金用密着層は、光透過性を備えるように薄膜状態に形成されることになり、そして、そのように薄膜状態に形成されたチタンが酸化チタンに変化することになるが、酸化チタンは、透明性を備えるものであるから、チタンが酸化チタンに変化しても、熱輻射層の性能に悪影響を与えることはない。
【0041】
要するに、本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成によれば、輻射制御部が基板にて高温状態に加熱された際に、MIM積層部における白金層が流動して凝集することを適切に抑制できる。
【0042】
本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成は、前記透明酸化物が、酸化アルミニウムである点にある。
【0043】
すなわち、酸化アルミニウムは酸素拡散係数が小さいものであるから、放射用透明酸化物層及び共鳴用透明酸化物層を形成する透明酸化物として、酸化アルミニウムを用いることにより、大気中の酸素が透過することを適切に抑制して、基板が酸化される材料にて形成される場合であっても、基板における輻射制御部が積層される側の面が酸化により劣化することを適切に回避できる。
【0044】
要するに、本発明の熱輻射光源の更なる特徴構成によれば、基板における輻射制御部が積層される側の面が酸化により劣化することを適切に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】熱輻射光源の基本構成を示す図である。
図2】熱輻射光源の基本構成における構造例を示す表である。
図3】熱輻射光源の構造例と輻射スペクトルの関係を示すグラフである。
図4】熱輻射光源の基本構成における別形態を示す図である。
図5】基本構成の別形態と輻射スペクトルの関係を示すグラフである。
図6】熱輻射光源の具体構成を示す図である。
図7】白金用密着層の厚さと輻射スペクトルの関係を示すグラフである。
図8】白金用密着層の変化を示す図である。
図9】共鳴用透明酸化物層の変化と輻射スペクトルの関係を示すグラフである。
図10】熱輻射光源の基本構成における別構造例を示す表である。
図11】熱輻射光源の別構造例と輻射強度との関係を示すグラフである。
図12】放射用透明酸化物層の厚さと輻射強度との関係を示すグラフである。
図13】熱輻射光源の基本構成における更なる別構造例を示す表である。
図14】熱輻射光源の更なる別構造例と輻射強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔熱輻射光源の基本構成〕
図1は熱輻射光源Qの基本構成を示すものであって、熱輻射光源Qは、熱輻射層Nと当該熱輻射層Nを加熱する基板Kとが積層された形態に構成されている。
熱輻射層Nが、輻射制御部Na、及び、透明酸化物にて形成される放射用透明酸化物層Nbの順に基板Kに近い側に位置させる形態で、輻射制御部Na及び放射用透明酸化物層Nbを積層した状態に構成されている。
【0047】
基板Kが、カンタル合金(FeCrAl合金)にて形成されている。カンタル合金は、鉄(Fe)が主成分であり、クロム(Cr)が20%から30%含まれ、アルミニウム(Al)が4%から7.5%含まれている。
尚、カンタル合金(FeCrAl合金)としては、カンタル社のカンタルが望ましく、特に、カンタルAPMが望ましい。
ちなみに、カンタル合金(FeCrAl合金)にて形成される基板Kは、通電することにより自己発熱して、熱輻射層Nを加熱することになる。
【0048】
輻射制御部Naが、透明酸化物にて形成される共鳴用透明酸化物層Rを、基板Kと白金層Pとの間に位置させるMIM積層部Mを備える形態に構成されている。つまり、カンタル合金(FeCrAl合金)にて形成されている基板Kが、輻射制御部NaにおけるMIM積層部Mを構成する部材に兼用されている。
【0049】
共鳴用透明酸化物層Rの厚さが、8μm以下の波長域に設定される設定領域を共鳴波長域とする厚さである。
本基本構成においては、設定領域が0.8μ以上で4μm以下の波長域に設定されている。
つまり、共鳴用透明酸化物層Rの厚さが、近赤外域(0.8μm以上で2.5μm未満)及び中赤外域(2.5μm以上で8μm以下)のうちの4μm以下の波長域を共鳴波長域とする厚さに設定されている。
【0050】
図1に示す熱輻射光源Qの基本構成においては、輻射制御部Naが、1つのMIM積層部Mを備えている。
つまり、熱輻射光源Qの基本構成においては、MIM積層部Mを構成する共鳴用透明酸化物層R、白金層P、及び、放射用透明酸化物層Nbが、この記載順に、MIM積層部Mを構成するための基板Kの上部に順次積層されている。
【0051】
そして、熱輻射層Nを基板Kにて高温状態(例えば、800℃)に加熱することにより、熱輻射光源Qが熱輻射層Nから輻射光Hを放射するように構成されている。
具体的には、輻射光Hとして、0.8μm以上で4μm以下の狭帯域の波長において大きな輻射率(放射率)を有し、0.8μm未満の波長の光(つまり、可視光)及び4μmよりも大きな波長の光(つまり、4μmよりも大きく8μm以下の波長の中赤外光、8μmよりも大きな波長の遠赤外光)において小さな輻射率(放射率)を有する輻射光Hを放射するように構成されている。
【0052】
つまり、熱輻射層Nが基板Kにて高温状態(例えば、800℃)に加熱されると、輻射制御部Naが輻射光を放射することになり、その輻射光の輻射率(放射率)は、図3に示すように、4μm以下の波長においては、短波長に向けて漸増する傾向となり、4μmよりも大きな波長においては、低い値を維持することになる。
【0053】
そして、MIM積層部Mが備える共鳴用透明酸化物層Rの厚さが、0.8μm以上で4μm以下の波長を共鳴波長域とする厚さであるから、MIM積層部Mの基板K及び白金層Pの輻射光のうちの0.8μm以上で4μm以下の波長が共鳴作用により増幅される。
したがって、輻射制御部Naが、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光を含む狭帯域の波長において大きな輻射率(放射率)を有する結果、増幅された0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光Hが、放射用透明酸化物層Nbから外部に放出されることになる。
【0054】
説明を加えると、MIMは、metal insulator metalを意味するものであって、MIM積層部Mは、基板K及び白金層Pの輻射光のうちの0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光を、基板Kと白金層Pとの間で繰り返し反射させることにより、0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光を増幅させ、この増幅された0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光を、放射用透明酸化物層Nbから外部に放出させることになる。
【0055】
つまり、0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光が、基板Kと白金層Pとの間で繰り返し反射しながら増幅され、0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光の一部が、放射用透明酸化物層Nbの存在側に透過して、放射用透明酸化物層Nbから外部に放出されることになるのであり、その結果、増幅された0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光が放射用透明酸化物層Nbから外部に放出されることになる。
【0056】
これに対して、基板K及び白金層Pが放射する輻射光のうちの0.8μm未満の波長の輻射光や4μmよりも大きな波長の輻射光は、共鳴作用により増幅されることが少ない状態で、放射用透明酸化物層Nbから外部に放出されることになる。
その結果、熱輻射光源Qから放射される輻射光H(放射用透明酸化物層Nbから外部に放出される輻射光)が、0.8μm以上で4μm以下の狭帯域の波長(つまり、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光を含む狭帯域の波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、0.8μm未満の波長(つまり、可視光)や4μmよりも大きな波長(つまり、4μmよりも大きく8μm以下の波長の中赤外光、8μmよりも大きな波長の遠赤外光)において小さな輻射率(放射率)を有するものとなる。
【0057】
また、放射用透明酸化物層Nbが白金より屈折率が大きくかつ空気よりも屈折率が小さなものであるから、放射用透明酸化物層Nbに隣接する状態で位置する白金層Pの反射率が低減されることになり、輻射制御部Naから放射される輻射光を外部に良好に放出させることができる。
【0058】
ちなみに、本発明の基本構成の熱輻射光源Qは、「0.8μmから4μmの間(近赤外~中赤外域)の輻射率の最大値が90%以上となり、一方で、4μm以上の中赤外域及び遠赤外域の輻射ピークは小さく、輻射率のピークを持たない」という構成(以下、適正構成と呼称)を備えることが望ましいものである。
【0059】
〔基本構成の構造例の説明〕
次に、熱輻射光源Qの基本構成における構造例を説明する。以下に説明する構造例は、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物がアルミナ(酸化アルミニウム、Al)である。
【0060】
以下に説明する構造例は、図2の表に示すように、構造1~構造4の4例である。尚、図2の表においては、基板Kを層No1、共鳴用透明酸化物層Rを層No2、白金層Pを層No3、放射用透明酸化物層Nbを層No4と記載する。
【0061】
構造1~構造4の熱輻射光源Qは、図3に示すように、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光を含む狭帯域の波長において大きな輻射率(放射率)を有し、4μmよりも大きな波長(つまり、4μmよりも大きく8μm以下の波長の中赤外光、8μmよりも大きな遠赤外光)において小さな輻射率(放射率)を有する輻射光Hを放射する。
【0062】
そして、層No2の共鳴用透明酸化物層Rの膜厚(厚さ)が薄い場合は、共鳴周波数が短波長化するので輻射率のピーク位置が短波長側になり、層No2の共鳴用透明酸化物層Rの膜厚(厚さ)が厚い場合は、共鳴周波数が長波長化するので、輻射率のピークが長波長に移動する傾向となる。
【0063】
また、層No3の白金層Pの膜厚(厚さ)が厚い場合は、輻射率のスペクトルのピークが狭帯域化し、層No3の白金層Pの膜厚(厚さ)が薄い場合は、輻射率のスペクトルのピークが広帯域化する傾向となる。
さらに、層No4の放射用透明酸化物層Nbの膜厚(厚さ)が厚くなるほど、輻射率のスペクトルが長波長側に移動する傾向となる。
【0064】
熱輻射光源Qを上述の適正構成とする場合には、白金層Pの膜厚(厚さ)の好適範囲は、例えば、1.5nm以上18nm以下である。
尚、図3において、「鏡面カンタル」とは、熱輻射層Nに対向する面が鏡面であるカンタルAPMを意味し、そのカンタルAPMの輻射スペクトルを図3に併せて記載する。
構造1~構造4は、波長が0.8μm以上で4μm以下の輻射光において、「鏡面カンタル」よりも大きな輻射率を示すものとなる。
【0065】
熱輻射光源Qを上述した適正構成とする場合において、0.8μm以上で4μm以下の波長域を共鳴波長域とする共鳴用透明酸化物層Rの厚さ(膜厚)の好適範囲は、透明酸化物がアルミナ(Al)であるときには、60nm以上1050nm以下である。
熱輻射光源Qを上述した適正構成とする場合において、層No4の放射用透明酸化物層Nbの膜厚(厚さ)の好適な範囲は、例えば、50nm以上500nm以下である。
【0066】
〔基本構成の別形態〕
上述した基本構成においては、輻射制御部Naが、1つのMIM積層部Mを備える場合を例示したが、輻射制御部Naが、複数のMIM積層部Mを備えるようにしてもよい。
尚、複数のMIM積層部Mが備えられるとは、熱輻射層Nと基板Kとの積層方向に沿って並ぶ白金層Pを2つ以上設け、それら白金層Pにおける隣接するもの同士の間に、共鳴用透明酸化物層Rを位置させる形態を意味するものである。
【0067】
図4は、輻射制御部Naが2つのMIM積層部Mを備える場合を例示し、以下、例示する熱輻射光源Qを構造5と呼称する。
構造5は、共鳴用透明酸化物層R、白金層P、共鳴用透明酸化物層R、白金層P及び放射用透明酸化物層Nbの順に、基板Kの上部に積層する形態に構成されている。
構造5は、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物がアルミナ(Al)である。
【0068】
そして、基板K、共鳴用透明酸化物層R及び白金層PからひとつのMIM積層部Mが構成され、白金層P、共鳴用透明酸化物層R及び白金層PからひとつのMIM積層部Mが構成されることになり、その結果、輻射制御部Naが2つのMIM積層部Mを備えることになる。
【0069】
構造5において、基板Kに隣接する共鳴用透明酸化物層Rの厚さを65nm、基板Kに近い側に位置する白金層Pの厚さを8nm、2つの白金層Pの間の共鳴用透明酸化物層Rの厚さを145nm、基板Kから離れる側に位置する白金層P2の厚さを5nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを72nmとした場合の輻射スペクトルを、図5に示す。
尚、図5には、上述した構造1の輻射スペクトルを併記する。
【0070】
構造5においては、2つのMIM積層部Mの共鳴波長(周波数)を異ならせているため、図5に示すように、波長が0.4μm以上で0.8μm未満の可視光の波長でも共鳴できることになる。
したがって、増幅された4μm以下の波長の輻射光Hとして、波長が0.8μm以上で2.5μm未満の近赤外光及び波長が2.5μm以上で4μm以下の中赤外光に加えて、波長が0.4μm以上で0.8μm未満の可視光や、波長が0.4未満の紫外光を含む輻射光Hが得られることになる。
【0071】
〔透明酸化物の種別について〕
熱輻射光源Qの上記基本構成及び基本構成の別形態においては、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物がアルミナ(Al)である場合を例示したが、透明酸化物としては、五酸化タンタル(Ta)、二酸化ケイ素(SiO)、五酸化ニオブ(Nb)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO)、酸化ハフニウム(HfO)等を使用できる。
尚、アルミナ(Al)及び酸化チタン(TiO)は酸素拡散係数が小さいものであるから、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物として特に好ましい。
【0072】
〔熱輻射光源の具体構成〕
熱輻射光源Qの具体構成は、図6に示すように、MIM積層部Mにおける共鳴用透明酸化物層Rと白金層Pとの間、及び、放射用透明酸化物層Nbと輻射制御部Naにおける放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層Pとの間の夫々に、白金用密着層Sが積層されている構成である。
【0073】
すなわち、白金用密着層Sが、MIM積層部Mにおける共鳴用透明酸化物層Rと白金層Pとの間、及び、放射用透明酸化物層Nbと白金層Pとの間に設けられているから、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、MIM積層部Mにおける白金層Pが流動して凝集することが抑制され、白金層Pと共鳴用透明酸化物層Rとが剥離することや、白金層Pと放射用透明酸化物層Nbとが剥離することが抑制される。
【0074】
つまり、白金と透明酸化物との密着性が低いため、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、共鳴用透明酸化物層Rに隣接する白金層Pや放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層Pが流動して凝集する虞があるが、白金用密着層Sが積層されることにより、共鳴用透明酸化物層Rに隣接する白金層Pの共鳴用透明酸化物層Rに対する密着性や、放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層Pの放射用透明酸化物層Nbに対する密着性が高められることにより、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、MIM積層部Mにおける白金層Pが流動して凝集することが抑制される。
【0075】
白金用密着層Sを形成する材料としては、チタン(Ti)やクロム(Cr)が、融点及び密着性の観点から優れている。特に、チタン(Ti)が望ましい。以下、白金用密着層Sがチタン(Ti)にて形成されているものとして説明する。
【0076】
すなわち、チタン(Ti)は、共鳴用透明酸化物層Rに隣接する白金層Pの共鳴用透明酸化物層Rに対する密着性や、放射用透明酸化物層Nbに隣接する白金層Pの放射用透明酸化物層Nbに対する密着性を良好に高めることができ、しかも、融点が1668℃と高いものであるから、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、MIM積層部Mにおける白金層Pが流動して凝集することを適切に抑制できる。
【0077】
〔白金用密着層の厚さ〕
白金用密着層Sの厚さ(膜厚)は、光学性および耐久性のふたつの観点で設定する必要がある。
すなわち、白金用密着層Sの厚さ(膜厚)が厚過ぎると光学的によくない。つまり、白金用密着層Sは高温状態になると、4μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光)の輻射光を放射することになるから、白金用密着層S2の厚さ(膜厚)が厚過ぎると、白金用密着層Sからの輻射光の強度が大きくなって、輻射制御部Naからの輻射光が、4μmよりも大きな波長において、小さな輻射率(放射率)となることに対して悪影響を与える。
【0078】
図7に、白金用密着層Sをチタン(Ti)にて形成する場合において、白金用密着層Sの厚さを変化させた場合における輻射率の変化を示す。
図7に例示する熱輻射光源Qの構成は、基板Kに隣接する共鳴用透明酸化物層Rの厚さを120nm、白金層Pの厚さを6nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを120nmとした場合において、2つの白金用密着層Sの厚さを変化させたときの輻射率の変化を示すものである。
【0079】
図7に示すように、白金用密着層Sの厚さが厚くなるほど、4μmよりも長波長側の赤外光、つまり、4μmよりも大きく8μm以下の波長の中赤外光、8μmよりも大きな遠赤外光が増加する傾向となる。
そして、チタン(Ti)にて形成する白金用密着層Sの厚さ(膜厚)は、次に述べる理由により、サブnm程度(1nm程度)にするのが望ましい。
【0080】
〔チタンの酸化について〕
白金用密着層Sを形成するチタン(Ti)は、大気中での熱輻射光源Qの使用によって、徐々に酸化されて酸化チタン(TiO)に変化する可能性が高い。換言すれば、大気中で熱輻射光源Qが使用された状態においては、白金用密着層Sが、酸化チタン(TiO)にて形成されていると見做すことができる。
【0081】
但し、図8に示すように、白金用密着層Sを形成するチタンは、全てが酸化チタンに変化するのではなく、白金層Pに密着する箇所のチタンは、酸化されることなく、白金層Pに密着するチタンの状態(金属状態)を継続することになる。
【0082】
つまり、白金用密着層Sを形成するチタンは、全てが酸化チタンに変化するのではなく、白金層Pに密着する箇所のチタンは、酸化されることなく、白金層Pに密着するチタンの状態を継続することになり、白金用密着層Sとしての機能を継続することになる。
【0083】
説明を加えると、白金(Pt)は、標準酸化ギブスエネルギー変化が、+200k/mol/Oであることから、酸素と反応しない(化学反応は、ギブスエネルギー変化がマイナスになる方向に進む。ギブスエネルギー変化が正であるということは、反応しないということである。)。このことは、酸化物を白金(Pt)の密着層とすることは、結合エネルギーの関係で難しいことを意味する。このことから、チタンが酸化によって酸化チタンに変化すると、白金(Pt)の密着層として働かなくなる心配があるが、実際には、チタンが酸化しても、白金(Pt)との界面のチタンは白金との結合手を維持しているため、白金用密着層Sとしての機能を継続することになる。
【0084】
ちなみに、チタンにて形成される白金用密着層Sは、光透過性を備えるように薄膜状態に形成されることになり、そして、薄膜状態に形成されたチタンが酸化チタンに変化することになるが、酸化チタンは、透明性を備えるものであるから、チタンが酸化チタンに変化しても、熱輻射層Nの性能に悪影響を与えることはない。
尚、白金用密着層Sを形成する材料が酸化することを考慮すると、クロム(Cr)は酸化すると黒色になるので、酸化すると黒色になるクロムは、輻射制御の観点で密着層としては不適であるのに対して、酸化すると透明となる酸化チタン(TiO)を形成するチタン(Ti)は輻射制御の観点で優れている。
【0085】
ところで、白金用密着層Sのチタン(Ti)が経時的に酸化するのであれば、白金用密着層Sが厚くても、いずれは図8の厚さ(膜厚)が薄い場合の熱輻射に近づくと考えられる。しかし、厚さ(膜厚)が厚い場合、輻射制御部Naが基板Kにて高温状態に加熱された際に、チタン(Ti)が熱で動き回り、白金層Pの表面に出てくる現象を発生する虞がある。このような現象が生じると、輻射制御部Naの熱輻射制御構造が崩れるので熱輻射の制御が難しくなる。特に、白金層Pの白金は薄いため、チタン(Ti)の動きが熱輻射制御構造の崩れに大きく影響を与える。
従って、白金用密着層Sの厚さ(膜厚)は、サブnm程度(1nm程度)にするのが望ましい。
【0086】
〔熱輻射光源の経時変化について〕
図9は、実際に作製した熱輻射光源Qを大気中で800℃に加熱して24時間使用したときの熱輻射スペクトルを示すものであり、成膜直後の熱輻射スペクトルを併記する。
尚、図9は、共鳴用透明酸化物層の厚さを150nm、白金層Pの厚さを6nm、放射用透明酸化物層Nbの厚さを150nmとし、白金用密着層Sの厚さを0.5nmとしたときの熱輻射光源Qの熱輻射スペクトルを例示するものである。
【0087】
成膜直後の熱輻射スペクトルと、24時間加熱後の熱輻射スペクトルとは異なるが、その理由は、加熱により、アルミナ(Al)や白金(Pt)の結晶性が高まったことが原因と考えられる。
【0088】
理論値(計算値)の熱輻射スペクトルは、結晶性の高いアルミナ(Al)の光学定数を用いて計算したものである。
成膜直後の熱輻射スペクトルは、理論値(計算値)の熱輻射スペクトルと乖離しているが、加熱後の熱輻射スペクトルは、理論値(計算値)の熱輻射スペクトルと極めて近い値となっているので、加熱によって、アルミナ(Al)や白金(Pt)の結晶性が高まることで、アルミナ(Al)や白金(Pt)の光学定数が理論値に近づいたものと考えられる。
【0089】
上記の結果の通り、本発明の熱輻射光源Qは、大気中で800℃程度に加熱して用いることができる熱輻射光源である。
尚、本発明の熱輻射光源Qの構成材料の融点は、白金(Pt)が、1768℃、アルミナ(Al)が、2072℃、チタン(Ti)が、1668℃、酸化チタン(TiO)が、1843℃であり、基板K(カンタル合金)が1300℃であり、本発明の熱輻射光源Qは、この点からも、大気中において800℃程度で用いることができる。
【0090】
〔熱輻射光源の別構成について〕
上述した熱輻射光源Qの基本構成においては、共鳴波長域とする設定領域が0.8μ以上で4μm以下の波長域に設定されている構成を例示した。
次に、熱輻射光源Qの基本構成の別構成として、共鳴波長域とする設定領域が2.5μ以上で8μm以下の波長域に設定されている構成を説明する。
【0091】
この熱輻射光源Qの基本構成の別構成は、上述した熱輻射光源Qの基本構成と基本的には同じであるが、共鳴用透明酸化物層Rの厚さが、波長が2.5μm以上で8μm以下の中赤外光域を共鳴波長域とする厚さに設定されている点が、上述した熱輻射光源Qとは相違する。
【0092】
そして、熱輻射層Nを基板Kにて高温状態(例えば、300℃)に加熱することにより、熱輻射光源Qが熱輻射層Nから輻射光Hを放射するように構成されている。
具体的には、輻射光Hとして、2.5μm以上で8μm以下の中赤外光域において大きな輻射率を有し、2.5μm未満の波長(つまり、近赤外光の波長)や8μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光の波長)において小さな輻射率を有する輻射光Hを放射するように構成されている。
【0093】
つまり、熱輻射層Nが基板Kにて高温状態(例えば、300℃)に加熱されると、輻射制御部Naが備えるMIM積層部Mにおける基板K及び白金層Pが、輻射光を放射することになる。
そして、MIM積層部Mが備える共鳴用透明酸化物層Rの厚さが、2.5μm以上で8μm以下の中赤外光域を共鳴波長域とする厚さに設定されるから、MIM積層部Mの基板K及び白金層Pの輻射光のうちの、2.5μm以上で8μm以下の波長(つまり、中赤外光域の波長)が共鳴作用により増幅される。
【0094】
従って、輻射制御部Naが、2.5μm以上で8μm以下の領域の波長(つまり、中赤外光域の波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、8μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光の波長)及び2.5μm未満の波長(つまり、近赤外光の波長)において、小さな輻射率(放射率)を有するものとなる。
その結果、2.5μm以上で8μm以下の波長が増幅された輻射光Hが、放射用透明酸化物層Nbから外部に放出されることになる。
【0095】
〔熱輻射光源の別構造例の説明〕
次に、熱輻射光源Qの基本構成の別構成における構造例、つまり、熱輻射光源Qの基本構成における別構造例を説明する。以下に説明する別構造例は、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物がアルミナ(酸化アルミニウム、Al)である。
【0096】
別構造例は、図10の表に示すように、構造6から構造9の4例である。ちなみに、図10の表においては、基板Kを層No1、共鳴用透明酸化物層Rを層No2、白金層Pを層No3、放射用透明酸化物層Nbを層No4と記載する。
そして、構造6から構造9における熱輻射層Nを、300℃に加熱したときの輻射強度(W/sr/m/nm)を図11に示す。尚、図11には、300℃の黒体の輻射強度を併せて記載する。
【0097】
構造7及び構造8の熱輻射光源Qは、層No2の厚さが1200nm及び1500nmであり、図11に示すように、2.5μm以上で8μm以下の領域の波長(つまり、中赤外光のの波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、8μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光の波長)及び2.5μm未満の波長(つまり、近赤外光の波長)において、小さな輻射率(放射率)を有する傾向となる。
【0098】
構造6及び構造9の熱輻射光源Qは、層No2の厚さが1000nmであり、図11に示すように、共鳴するピーク波長が構造7及び構造8の熱輻射光源Qよりも短波長側となるが、2.5μm以上で8μm以下の領域の波長(つまり、中赤外光のの波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、8μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光の波長)及び42.5μm未満の波長(つまり、近赤外光の波長)において、小さな輻射率(放射率)を有する傾向となる。
【0099】
〔放射用透明酸化物層の考察〕
放射用透明酸化物層Nbは、共鳴波長における白金層Pの反射率を低減させる反射防止と耐久性の向上のために存在する。基本的に、反射防止は、0.5と共鳴波長/4との積で求められる値程度の厚みで実現することができる。例えば、2500nmから7000nmの波長範囲で共鳴させる場合、300nmから800nm程度の厚みが望まれる。
上記した構造9において、層4(放射用透明酸化物層Nb)の厚さを、0nmから1500nmに向けて段階的に変化させたときの輻射率スペクトルを図12に示す。
【0100】
層4(放射用透明酸化物層Nb)の厚さが0nmの場合、4μm付近の輻射ピーク付近における輻射率が小さいため、ピーク波長における輻射強度が黒体輻射スペクトルに達していないことがわかる。
層4(放射用透明酸化物層Nb)の厚さを反射防止できる500nmの厚さに形成した場合、ピーク波長における輻射強度が黒体輻射スペクトル(300℃)とほぼ一致する。
【0101】
層4(放射用透明酸化物層Nb)の厚さを更に厚くすると、反射防止膜としての膜厚条件から外れるためにピーク波長における輻射強度が小さくなる。そして、アルミナ(酸化アルミニウム、Al)に由来する熱輻射が長波長側で大きくなる。
つまり、層4(放射用透明酸化物層Nb)の厚さが厚くなるほど、層4(放射用透明酸化物層Nb)に由来する長波の熱輻射が大きくなる。
【0102】
したがって、層4(放射用透明酸化物層Nb)の厚さの上限は800nm程度である。
また、層4(放射用透明酸化物層Nb)の厚さの下限は、後述する耐久性を考慮すると、100nm以上である。
つまり、放射用透明酸化物層Nbは、反射防止と耐久性の向上のために存在するものであるから、その厚さの好適範囲は、例えば、100nm以上で800nm以下が好ましく、特に、300nm以上で800nm以下が一層好ましい。
【0103】
〔熱輻射光源の更なる別構造例の説明〕
次に、熱輻射光源Qの別構成における更なる別構造例として、構造10及び構造11を説明する。以下に説明する更なる別構造例は、放射用透明酸化物層Nb及び共鳴用透明酸化物層Rを形成する透明酸化物がアルミナ(酸化アルミニウム、Al)である。
【0104】
更なる別構造例は、図13の表に示すように、基板Kを層No1、共鳴用透明酸化物層Rを層No2、白金層Pを層No3、放射用透明酸化物層Nbを層No4と記載する。
そして、更なる別構造例としての構造10及び構造11における熱輻射層Nを、300℃に加熱したときの輻射強度(W/sr/m/nm)を図14に示す。尚、図14には、300℃の黒体の輻射強度を併せて記載する。
【0105】
構造10及び構造11の熱輻射光源Qは、層No2の厚さが1200nm及び1500nmであり、図14に示すように、2.5μm以上で8μm以下の領域の波長(つまり、中赤外光のの波長)において大きな輻射率(放射率)を有し、8μmよりも大きな波長(つまり、遠赤外光の波長)及び2.5μm未満の波長(つまり、近赤外光の波長)において、小さな輻射率(放射率)を有する傾向となる。
【0106】
先に説明した別構造例の構造6、構造7においては、白金層Pの厚さが10nmであるのに対して、先に説明した構造例の構造8並びに更なる別構造例の構造10、構造11は、白金層Pの厚さが5nmである。
【0107】
白金層Pの厚さが10nm以下となる薄い場合には、白金層Pの反射率が低くなるため、放射用透明酸化物層Nbが不要であると考えられるが、耐久性の面からは、放射用透明酸化物層Nbが必要である。
つまり、白金層P2を形成する白金は、高温に加熱されると、共鳴用透明酸化物層R上を流動して凝集する虞があるが、放射用透明酸化物層Nbが、白金の動きを抑制する作用を発揮することになるから、白金の凝集を抑制できる。
そして、白金の凝集を抑制して耐久性を向上するには、放射用透明酸化物層Nbの厚さを100nm以上にするのが好ましい。
【0108】
〔熱輻射光源の別構成のその他について〕
熱輻射光源Qの別構成、つまり、波長が2.5μm以上で8μm以下の中赤外光において大きな輻射率(放射率)を有する輻射光Hを放射する別構成においても、0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光Hが放射される構成の熱輻射光源Qと同様に、複数のMIM積層部Mを備えさせることができ、また、白金用密着層Sを備える具体構成にすることになるが、その詳細は、0.8μm以上で4μm以下の波長の輻射光Hが放射される構成の熱輻射光源Qと同様であるから、本実施形態では、詳細な説明を省略する。
【0109】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
(1)上記実施形態では、基板Kにおける熱輻射層Nが積層される側の面とは反対側の裏面が酸化しても、基板Kの厚さが厚ければ、熱輻射層Nに悪影響を与えることが無い点に鑑みて、基板Kにおける熱輻射層Nが積層される側の面とは反対側の裏面を、露出させる状態としたが、当該裏面に、酸化を抑制する酸化防止膜を積層するようにしてもよい。
【0110】
(2)上記実施形態では、8μm以下の共鳴波長域とする設定領域として、0.8μm以上で4μm以下の領域、及び、2.5μm以上で8μm以下の領域を例示したが、その他の範囲の領域を、共鳴波長域とする設定領域として設定する形態で実施してもよい。
【0111】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0112】
K 基板
N 熱輻射層
Na 輻射制御部
Nb 放射用透明酸化物層
M MIM積層部
P 白金層
R 共鳴用透明酸化物層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14