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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 55/00 20060101AFI20240719BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240719BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20240719BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240719BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20240719BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08L55/00
C08L51/04
C08L25/04
C08L21/00
C08L27/06
C08K5/36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020062389
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161179
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】396020464
【氏名又は名称】株式会社エーピーアイ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 道隆
(72)【発明者】
【氏名】原 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 雅博
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-113048(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050639(WO,A1)
【文献】特開2012-229292(JP,A)
【文献】特開2020-158426(JP,A)
【文献】特開平10-231407(JP,A)
【文献】特表2007-505180(JP,A)
【文献】特開昭54-083950(JP,A)
【文献】特開平04-031489(JP,A)
【文献】特開2014-224187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00-101/16
C08L 55/00-55/04
C08L 27/00-27/24
C08K 3/00-13/08
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジエステル、下記式(2)で表されるモノエステル及び樹脂を含む樹脂組成物であって、
樹脂組成物中の、[式(2)で表されるモノエステルの重量]/[式(1)で表されるジエステルの重量]が0.01以上0.60以下であり、
樹脂が、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂またはゴム状樹脂である、前記樹脂組成物
【化1】
(上記式(1)において、R~Rはそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12以下のアルキル基であり、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数12以上18以下のアルキル基。上記式(2)において、R~R10はそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12以下のアルキル基であり、R11は炭素数12以上18以下のアルキル基あり、R12は水素であm=n=k=l=2である。
【請求項2】
樹脂組成物中の、式(1)で表されるジエステルの含有量と式(2)で表されるモノエステルの含有量の総量が0.01重量%以上5重量%以下である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂が、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン)、塩化ビニル樹脂、ポリイソプレンゴム、ポリクロロプレンゴムまたはブチルゴムである、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂が、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)樹脂または塩化ビニル樹脂である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂やMBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)樹脂、塩化ビニル樹脂は水媒体中で懸濁重合法又は乳化重合法により重合する樹脂である。その中でも、ABS樹脂とMBS樹脂にはゴム成分としてポリブタジエン系ゴムを用いているが、ポリブタジエン系ゴムに含まれる不飽和結合は熱、光等により酸化劣化を受けやすい。特にMBS樹脂はゴム成分の割合が高いことから酸化劣化による影響を受けやすく、樹脂の製造工程、特に乾燥工程での劣化を防止するため、及び他の樹脂と配合され成形加工されるときの劣化を防止するためには、酸化防止剤の使用が必須となっている。
【0003】
以前より、酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤と、さらに相乗効果を奏することが知られている含イオウエステル化合物を併用添加することが提案されている。例えば、特許文献1において、ジステアリルチオジプロピオネートやモノラウリルチオジプロピオネートが含イオウ化合物系酸化防止剤として使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】昭54-20221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、ポリブタジエン系ゴムを含む樹脂組成物、特にMBSを含む樹脂組成物に対しては、酸化による劣化を防止することに加え、さらに加熱時の安定性の改善が望まれている。そこで本発明の目的は、より耐熱性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が上記課題を解決するために詳細な検討を行った結果、特定のジエステルと特定のモノエステルと樹脂を含む樹脂組成物により、上記課題を解決することを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0007】
[1]下記式(1)で表されるジエステル、下記式(2)で表されるモノエステル及び樹脂を含む樹脂組成物。
【化1】
(上記式(1)において、R~Rはそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12
以下のアルキル基であり、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1以上34以下のアルキル基又は炭素数3以上34以下のアルケニル基であり、m及びnはそれぞれ独立して、1以上8以下の整数である。上記式(2)において、R~R10はそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12以下のアルキル基であり、R11は炭素数1以上34以下のアルキル基又は炭素数3以上34以下のアルケニル基であり、R12は水素であり、k及びlはそれぞれ独立して、1以上8以下の整数である。)
[2]前記式(1)において、m及びnがいずれも1以上3以下の整数であり、かつ前記式(2)において、k及びlがいずれも1以上3以下の整数である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記式(1)及び前記式(2)において、m=n=k=lである、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]樹脂組成物中の、[式(2)で表されるモノエステルの重量]/[式(1)で表されるジエステルの重量]が0.01以上0.60以下である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]樹脂組成物中の、式(1)で表されるジエステルの含有量と式(2)で表されるモノエステルの含有量の総量が0.01重量%以上5重量%以下である、[1]乃至[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記樹脂が、乳化重合で製造され得る樹脂である、[1]乃至[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記樹脂が、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)樹脂または塩化ビニル樹脂である、[1]乃至[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性に優れた樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0010】
〔樹脂組成物〕
本発明の実施形態に係る樹脂組成物は、下記式(1)で表されるジエステル、下記式(2)で表されるモノエステル及び樹脂を含むものである。なお、以下において、式(1)で表されるジエステルを「ジエステル(1)」と称し、式(2)で表されるモノエステルを「モノエステル(2)」と称することがある。
【化2】
【0011】
本実施形態に係る樹脂組成物は、耐熱性に優れるという効果を奏する。本発明がこのような効果を奏する理由は、含イオウエステル化合物として上記ジエステル(1)と上記モノエステル(2)を同時に用いると、含イオウエステル化合物が樹脂中に広く存在するこ
とに起因するものと考えられる。具体的には、後掲の比較例に示すように酸化防止剤としてジエステル(1)のみを使用する場合には、市販の乳化剤を用いて水中にジエステル(1)を分散させ、水分散液の状態でジエステル(1)を樹脂に添加する。しかし、モノエステル(2)には親水基と疎水基が共存し、かつジエステル(1)と類似の構造を有しているため、分散質であるジエステル(1)に対して良好な界面活性能を発現する。これによってジエステル(1)と市販の乳化剤の組み合わせより、ジエステル(1)とモノエステル(2)の組み合わせの方が、水分散液中のジエステル(1)とモノエステル(2)の粒径がより微細になり、樹脂中に広く存在できると考えられる。その結果、加熱時の安定性が向上すると考えられる。
【0012】
<ジエステル(1)>
前記式(1)において、R~Rはそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12以下のアルキル基である。R~Rが上記範囲であると、酸化防止能に優れたものとなり、特にこの観点から水素又は炭素数が8以下のアルキル基であることが好ましく、水素又は炭素数が4以下のアルキル基であることが好ましく、水素であることが最も好ましい。
【0013】
前記式(1)において、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1以上34以下のアルキル基又は炭素数3以上34以下のアルケニル基である。R及びRが上記範囲であると、ジエステル(1)を樹脂に添加した際に酸化防止能が高められる。樹脂に添加した際にジエステル(1)の揮発性を抑制する観点からアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。また、酸化防止能の観点からアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、22以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましい。
【0014】
前記式(1)において、m及びnはそれぞれ独立して、1以上8以下の整数である。m及びnが上記範囲であると、酸化防止能が高くなり、この観点からm及びnは、それぞれ独立して、1以上3以下の整数であることが好ましく、2であることが最も好ましい。また、合成のし易さの観点から、m及びnは同一であることが好ましい。
【0015】
<モノエステル(2)>
前記式(2)において、R~R10はそれぞれ独立して、水素又は炭素数が1以上12以下のアルキル基である。R~R10が上記範囲であると、酸化防止能が高められ、この観点から、水素又は炭素数が8以下のアルキル基であることが好ましく、水素又は炭素数が4以下のアルキル基であることが好ましく、水素であることが最も好ましい。
【0016】
前記式(2)において、R11は炭素数1以上34以下のアルキル基又は炭素数3以上34以下のアルケニル基である。R11が上記範囲であることで樹脂組成物の酸化防止能を高めことができる。樹脂に添加後のモノエステル(2)の揮発性を抑制する観点からアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。また、酸化防止能の観点からアルキル基又はアルケニル基炭素数は、22以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましい。
【0017】
前記式(2)において、k及びlはそれぞれ独立して1以上8以下の整数である。酸化防止能の観点からk及びlは1以上3以下の整数であることが好ましく、2であることが最も好ましい。合成のし易さの観点から、kとlは同一の値であることが好ましい。更に、ジエステル(1)のm、nと、モノエステル(2)のk、lはいずれも同じ値であること、即ちm=n=k=lであることが特に好ましい。
前記式(2)において、R12は水素である。
【0018】
<樹脂>
樹脂は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、スチレン系樹脂(例えば、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン)等)、塩化ビニル樹脂、ゴム状樹脂(例えば、ポリイソプレンゴム、ポリクロロプレンゴム、ブチルゴム等)、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド等である。
【0019】
樹脂は、好ましくは乳化重合で製造される樹脂であり、スチレン系樹脂(例えば、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン)等)、塩化ビニル樹脂、ゴム状樹脂(例えば、ポリイソプレンゴム、ポリクロロプレンゴム、ブチルゴム等)であり、さらに好ましくはABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)樹脂または塩化ビニル樹脂である。ジエステル(1)とモノエステル(2)を同時に用いることで、エステル粒子の粒径が微細なエステル水分散液を容易に得ることができる。乳化重合で製造される樹脂は、含イオウエステル化合物を水分散液の状態で添加する必要があるので、本実施形態の樹脂組成物で使用される樹脂として好ましい。
【0020】
樹脂組成物中の樹脂の含有量は特段限定されないが、通常95重量%以上であり、97重量%以上であることが好ましく、また通常99.99重量%以下であり、99.9重量%以下であることが好ましい。
【0021】
樹脂組成物の、[モノエステル(2)の重量]/[ジエステル(1)の重量]は、樹脂へ添加する前にモノエステルとジエステルを水分散液としたときの分散時間を短くする観点から、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.02以上であり、更に好ましくは0.03以上であり、一方、樹脂組成物の耐熱性の観点から好ましくは0.60以下であり、より好ましくは0.40以下であり、更に好ましくは0.20以下である。
【0022】
樹脂組成物のジエステル(1)の含有量(重量%)とモノエステル(2)の含有量(重量%)の和は、耐熱性の観点から、好ましくは0.01重量%以上であり、より好ましくは0.1重量%以上であり、一方、ブリード現象発生の観点から好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは3重量%以下である。
【0023】
<その他の成分>
樹脂組成物は他の添加剤を含んでもよい。他の添加剤については次に例示するが、これらに限定されるものではない。他の添加剤とはフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤があげられる。
フェノール系酸化防止剤とは、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス(3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート)、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))、オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロ肉桂酸、2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)メシチレン、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、ヘキサメチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,3,5-
トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ポリ(ジシクロペンタジエン-co-p-クレゾール)等が挙げられる。
また、リン系酸化防止剤とは亜りん酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)等が挙げられる。
また、アミン系酸化防止剤とは2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0024】
好ましくはフェノール系酸化防止剤である。フェノール系酸化防止剤と含イオウエステル化合物を併用することで相乗効果を奏するからである。
樹脂組成物中の、フェノール系酸化防止剤の含有量は耐熱性の観点から0.01重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましい。一方で、ブリード現象発生の観点から5重量%以下であることが好ましく、3重量%以下であることがより好ましい。
【0025】
<製造方法>
以下に、本発明の実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の一例を説明する。
最初にジエステル(1)とモノエステル(2)からなるエステル混合物を得る。次にエステル混合物、金属水和物水溶液、及び水を混合することでエステル水分散液を得る。フェノール系酸化防止剤、乳化剤、水を混合して、フェノール系酸化防止剤水分散液を得る。そののちにエステル水分散液とフェノール系酸化防止剤水分散液を樹脂乳化液に添加し、凝固、ろ過、乾燥させて、樹脂組成物を得ることができる。
【0026】
[エステル混合物の合成処方]
エステル混合物の合成処方の一例を説明する。
含硫黄ジカルボン酸を仕込み、長鎖アルキル基を有する高級アルコールを仕込む。原料が均一になるまで加熱し、撹拌する。系内を脱水しながら、水の留出がなくなるまで反応させる。このとき、酸触媒を添加してもよい。反応完了後、水と混合し、撹拌、静置し、水層を排出する。この操作を数回繰り返すことが好ましい。そののち油層中の水分を除去し、得られた油層を冷却して、ジエステル(1)とモノエステル(2)を含むエステル混合物を得ることができる。
【0027】
高級アルコールの仕込み量は含硫黄ジカルボン酸のモル数に対して、0.5倍モル以上2倍モル未満から選択することができる。反応温度、圧力、時間は原料である高級アルコールの種類により適宜設定できるが、反応温度は20~200℃、反応時圧力は10~300hPa、反応時間は1~6時間程度が好ましい。
【0028】
前記の酸触媒は酸と水とを混合又は溶解したものであり、仕込み量は含硫黄ジカルボン酸のモル数に対して、0.01倍モル以上2倍モル未満から選択することができる。酸は無機酸でも有機酸でも使用することができ、コスト等の観点から無機酸では硫酸、硝酸が好ましく、有機酸ではp-トルエンスルホン酸1水和物、メタンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸が好ましい。これらは組み合わせて用いることもできる。
【0029】
[エステル水分散液の作製]
前記の処方で製造したエステル混合物とジエステル(1)と金属水和物水溶液と水とを混合して加熱し、エステル混合物中のモノエステル(2)を金属水和物で中和する。これに対して固形物が全て溶けた時から分散機で撹拌することにより、エステル水分散液を作
製することができる。
【0030】
金属水和物は無機塩基が好ましく、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。これらは組み合わせて用いることもできる。その仕込み量はエステル混合物中のモノエステルのモル数に対して通常、0.5倍モル以上2.0倍モル以下とする。
【0031】
エステル混合物とジエステル(1)との配合量は、配合後の、すなわち樹脂組成物中の、[(2)で表されるモノエステルの重量]/[式(1)で表されるジエステルの重量]が好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.02以上であり、更に好ましくは0.03以上であり、一方、好ましくは0.60以下であり、より好ましくは0.40以下であり、更に好ましくは0.20以下である。
【0032】
[フェノール系酸化防止剤水分散液の作製]
フェノール系酸化防止剤、乳化剤、水を混合して加熱し、分散機で撹拌することにより、フェノール系酸化防止剤水分散液を作製することができる。
【0033】
乳化剤にはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、高分子分散安定剤があり、好ましくはアニオン性界面活性剤が用いられる。
アニオン性界面活性剤の具体例としては、カルボン酸塩界面活性剤、スルホン酸塩界面活性剤、硫酸エステル界面活性剤及び燐酸エステル界面活性剤を挙げることができる。
カルボン酸塩界面活性剤の具体例としては、脂肪酸塩、N-アシルアミノ酸及びその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等を挙げることができる。
スルホン酸塩界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルアルキルスルホン酸塩等を挙げることができる
硫酸エステル塩界面活性剤の具体例としては、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノ脂肪酸グリセリル硫酸塩、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩等を挙げることができる。
燐酸エステル塩界面活性剤の具体例としては、アルキルエーテル燐酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩等を挙げることができる。
【0034】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレート、オキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体、ポリグリセリンエステル等を挙げることができる。
また、高分子分散安定剤としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸エステルの塩、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0035】
フェノール系酸化防止剤水分散液中のフェノール系酸化防止剤、乳化剤の含有量は特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
【0036】
[樹脂組成物の作製]
上記作製したエステル水分散液と、必要に応じフェノール系酸化防止剤水分散液とを樹脂乳化液に添加する。樹脂乳化液は、好ましくは乳化重合で製造される樹脂の乳化液であって、その乳化液を加熱した酸性水に攪拌しながら、滴下し、スラリー液を発生させる。
スラリー液に塩基性水を添加して、所望のpHに調整する。その後、さらに高温に加熱し、ろ過、乾燥させて、樹脂組成物を得ることができる。
【0037】
加熱した酸性水、乳化液滴下中のスラリー液、塩基性水添加後のスラリー液の液温度は任意で設定できるが、20~100℃が好ましい。
【0038】
酸性水は酸性物質を水に溶解した水溶液である。酸性物質は無機酸でも有機酸でも使用することができ、コスト等の観点から無機酸では硫酸、塩酸、硝酸が好ましく、有機酸ではp-トルエンスルホン酸1水和物、メタンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸が好ましい。これらは組み合わせて用いることもできる。
【0039】
塩基性水は塩基性物質を水に溶解した水溶液である。塩基性物質は無機塩基でも有機塩基でも使用することができ、コスト等の観点から無機塩基では水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが好ましく、有機塩基ではピリジン、トリエチルアミンが好ましい。これらは組み合わせて用いることもできる。
pHはフェノール系酸化防止剤の種類により適宜設定できるが、1~6の範囲内が好ましい。
【0040】
<用途>
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分がABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂の場合、OA機器、自動車部品(内外装品)、ゲーム機、内装建築部材、電気製品のハウジング、雑貨、文具、家具、楽器(リコーダー)、機械部品等に使用され、樹脂成分がMBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)樹脂である場合、耐衝撃性改良剤として使用される。樹脂成分が塩化ビニル樹脂の場合、衣類、壁紙、バッグ、インテリア(クッション材、断熱材、防音材、保護材)、ロープ、電線被覆(絶縁材)、防虫網(網戸など)、包装材料、水道パイプ、建築材料、農業用資材等に使用される。
【実施例
【0041】
以下の実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(酸触媒の調製)
p-トルエンスルホン酸1水和物(東京化成工業(株)製)6.8gと、イオン交換水4.6gとを混合し、p-トルエンスルホン酸1水和物をイオン交換水に溶解させ、酸触媒とした。
【0043】
(エステル混合物の合成)
ステアリルアルコール(富士フイルム和光純薬(株)製)65.0g(0.24モル)と、チオジプロピオン酸(東京化成工業(株)製)32.1g(0.18モル)とを500mlセパラブルフラスコに仕込み、内温が127℃になるまで加熱した。原料が溶解してから撹拌を開始し、調製した酸触媒を1mL添加した。内温を維持したまま徐々に減圧度を高めていき、最終的には20hPaで水の留出がなくなるまで反応を続けた。そののち、内温を90℃に調整し、イオン交換水24gを添加し、30分間撹拌し、その後30分間静置し、水層を排出した。再度、イオン交換水24gを添加し、30分間撹拌し、その後30分間静置し、水層を排出した。内温を100℃にして、ダイヤフラムポンプを使い、267hPaで1時間、53hPaで1時間、13hPaで1時間と段階的に減圧度を上げ、油層中の水分を除去した。水分を除去した油層をSUSバットに排出し、冷却して、エステル混合物を87g得た。このエステル混合物のジエステル組成率をジエステル単体のGC分析データから定量し、エステル混合物の組成がジステアリルチオジプロピオネート/モノステアリルチオジプロピオネート(重量比)=61/39であることを確認
した。
【0044】
(フェノール系酸化防止剤分散液調製)
オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(東京化成(株)製)20gと、牛脂微水添脂肪酸カリウム(日油(株)製ノンサールTK-1、以下ノンサールTK-1と記す)2gと、イオン交換水78gとを容器にいれ、80℃に加熱した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、フェノール系酸化防止剤分散液100gを作製した。
【0045】
(酸素誘導時間)
後述の実施例1及び比較例1~2で作製した樹脂組成物に対し、空気雰囲気下170℃条件での重量変化の推移をTG-DTAで測定し、重量増加の開始に要した時間を測定し、この時間を酸素誘導時間とした。酸素誘導時間が長いほど、耐熱性が高いと評価した。
【0046】
[実施例1]
(エステル水分散液の調製)
上記合成したエステル混合物7gと、ジステアリルチオジプロピオネート(三菱ケミカル(株)製DSTP「ヨシトミ」以下、DSTPと記す)13gと、5%水酸化ナトリウム水溶液5.2gと、イオン交換水75gとを容器にいれ、80℃に加熱し、エステル混合物中のモノステアリルチオジプロピオネートを水酸化ナトリウムで中和し、モノエステル塩を生成した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、エステル水分散液100gを調製した。
【0047】
(MBS評価サンプル作製)
前記実施例1で調製したエステル分散液7gと、前記調製したフェノール系酸化防止剤分散液7gと、MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン)ラテックス400g(固形分35%)とを混合し、ラテックス液を調製した。水280gと硫酸0.7gとを容器にいれ、希硫酸の内温を45℃に加熱し、攪拌した。内温を45℃以上に維持しながら、前記調製したラテックス液を滴下し、スラリー液を調製した。調製したスラリー液に5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを4に調整した。その後、内温を85℃まで昇温し、5分間保持し、ろ過をし、さらに水でろ物を洗浄した。ろ物中の水を絞った後、60℃で乾燥させ、MBS評価サンプルを作製した。このサンプルの酸素誘導時間を測定したところ160分であった。
【0048】
[比較例1]
(エステル水分散液の調製)
DSTP20gと、ノンサールTK-1(日油株式会社製)2gと、イオン交換水78gとを容器にいれ、80℃に加熱した。固形物が全て溶けた時からホモミキサーで撹拌回転数3000rpmの撹拌を240分間実施し、DSTP分散液100gを調製した。
【0049】
(MBS評価サンプル作製)
実施例1で調製したエステル水分散液を前記DSTP分散液とする以外は実施例1同様の手順でMBS評価サンプルを作製した。このサンプルの酸素誘導時間を測定したところ116分であった。
【0050】
実施例1はジエステル(1)とモノエステル(2)を併用しているので、樹脂組成物の耐熱性が高いことが理解できる。比較例1はジエステル(1)を含んでいるが、モノエステル(2)を含んでいないため、樹脂組成物の耐熱性が低いことが理解できる。
【0051】
【表1】