(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】皮膚処理方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/891 20060101AFI20240719BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20240719BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240719BHJP
A61K 8/81 20060101ALI20240719BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240719BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K8/891
A61K8/31
A61K8/34
A61K8/81
A61Q19/00
A61Q19/08
(21)【出願番号】P 2020066051
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】飯田 将行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 元章
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-325088(JP,A)
【文献】特開2012-017317(JP,A)
【文献】特表2005-505505(JP,A)
【文献】特開2013-139423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程1:ポリマーAと揮発性溶媒Bとを含有する液体組成物の微小液滴を皮膚に付与する工程、及び、
工程2:工程1により皮膚に付与された微小液滴の乾燥に伴って、皮膚を収縮させる工程を含む、皮膚処理方法であって、
該ポリマーAの下記方法(I)により測定される変形割合が0.3以上1以下であり、
該工程1で皮膚に付与される微小液滴の質量が、1滴あたり、0.001μg以上100μg以下である、皮膚処理方法。
方法(I):ポリマーAを揮発性溶媒Bに溶解させて、濃度10質量%のポリマー溶液を調製する。該ポリマー溶液0.005gを、幅20mm×長さ100mm×厚さ0.03mmのポリエチレンシートの片面に、短辺の一端から長さ方向に向けて幅20mm×長さ50mmの範囲に塗布し、40℃に設定した恒温槽中で10分乾燥させて、ポリマー膜付きのポリエチレンシートを作製する。前記ポリマー溶液を塗布した部分のポリエチレンシートの長さをL1とし、塗布した溶液の乾燥により変形した部分のポリマー膜付きのポリエチレンシートの長さをL2として、L2/L1の値を変形割合とする。
【請求項2】
工程1における微小液滴の面積あたりの付与量が、ポリマーAの付与量として、0.1mg/cm
2以上3mg/cm
2以下である、請求項1に記載の皮膚処理方法。
【請求項3】
工程1における微小液滴の皮膚への付与方法が、インクジェット方式及びディスペンサ方式から選ばれる1種以上により前記液体組成物を吐出して微小液滴を皮膚に付与する方法である、請求項1又は2に記載の皮膚処理方法。
【請求項4】
工程1により皮膚に付与された微小液滴の平均直径が、10μm以上500μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の皮膚処理方法。
【請求項5】
揮発性溶媒Bの1気圧下、40℃、60%RHで30分揮発した後の揮発率が5%以上である、請求項1~4のいずれかに記載の皮膚処理方法。
【請求項6】
揮発性溶媒Bが、水、炭素数2以上4以下の脂肪族アルコール、揮発性の炭化水素油及び揮発性のシリコーン油から選ばれる1種以上である、請求項1~5のいずれかに記載の皮膚処理方法。
【請求項7】
前記液体組成物中のポリマーAの含有量が0.1質量%以上30質量%以下である、請求項1~6のいずれかに記載の皮膚処理方法。
【請求項8】
前記液体組成物中のポリマーAの揮発性溶媒Bに対する含有質量比(A/B)が0.05以上0.3以下である、請求項1~7のいずれかに記載の皮膚処理方法。
【請求項9】
ポリマーAが、下記一般式(I)で表される構造を有するシリコーンポリマー、及びアニオン性基を有するビニル系単量体由来の繰り返し単位を含むビニル系ポリマーから選ばれる1種以上である、請求項1~8のいずれかに記載の皮膚処理方法。
【化1】
一般式(I)中、R
1はそれぞれ独立に炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、pは1以上の整数である。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の皮膚処理方法を皮膚のシワの改善に用いる、化粧方法。
【請求項11】
工程1において、前記液体組成物の微小液滴を皮膚のシワ周辺部に付与する、請求項10に記載の化粧方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の皮膚処理方法を皮膚の起伏の形成に用いる、化粧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢による皮膚の老化現象として、目の周り、口の周り、額、首等のシワ、フェイスラインのたるみなどがある。このような老化現象は、皮膚組織の変化、骨密度の低下、紫外線曝露等の複数の因子が関与している。
シワやたるみを目立たなくするための方法としては美容整形がある。美容整形で行われる施術では、フェイスリフト手術等の侵襲性の外科的処置や顔のシワ取りのための充填剤(フィラー)の注入治療等の低侵襲性の非外科的処置が行われているが、形状制御が困難な場合もあり、施術者への身体的負担が大きいといった問題がある。
そこで、非侵襲でシワを改善する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、シワ改善効果、使用性、使用感に優れたシワ改善用の皮膚外用剤の提供を目的として、水に不溶性の皮膜形成性のポリマーが水に分散されたポリマー水分散物を含有する皮膚外用剤であって、前記皮膜形成性ポリマーの主成分が、成膜収縮率が20%以下のポリウレタン及び成膜収縮率が20%以下のアクリル系ポリマーであるシワ改善用皮膚外用剤が記載されている。
特許文献2では、短期間でシワ延ばし効果が現れ、しかも他の部分に負荷が掛かりにくいシワ延ばし剤及びシワ延ばし方法の提供を目的として、ポリマー及び溶媒又は分散媒を含有する液体状又はペースト状の組成物からなり、皮膚に適用後、溶媒又は分散媒が揮発する際の収縮によりシワを延ばす力が発生する、皮膚のシワ延ばし剤、及び該シワ延ばし剤を、皮膚のシワのある部分の周辺に適用するシワ伸ばし方法等が記載されている。
特許文献3では、皮膚の収縮、フィルムの柔軟性、収縮弾力性等のバランスを取りながらも皮膚のシワを低減する組成物を適用することができるアプリケータの提供を目的として、ヘッド及び本体を備える皮膚を滑らかにする組成物を適用するためのアプリケータが提供され、前記ヘッドが、特定のフロック繊維でコーティングされた表面の一部を有し、皮膚を滑らかにする組成物が、ケイ酸ナトリウム、多価ケイ酸塩、及び水を含み、前記フロック繊維が皮膚を滑らかにする組成物と接触することができ、次いで前記フロック繊維を介して前記皮膚を滑らかにする組成物を均一なフィルムで皮膚に適用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-200320号公報
【文献】特開2006-169145号公報
【文献】特表2016-532482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シワの種類は、シワが出現する原因と特徴で分類され、ちりめんジワ、小ジワ等の表皮型;紫外線ジワ、大ジワ等の真皮型;表情筋に沿ってできるシワの表情筋型がある。そのため、様々な種類のシワを非侵襲で、かつ見た目の自然さを損なわずに改善する方法が求められている。
また、顔の部位として目の周りは特に皮膚が薄く、まばたきによりよく動く部位であるため、加齢によりシワが増加する。特に目尻に刻まれた小ジワは加齢感を与える印象が強いことから、目尻のような繊細な部位におけるシワを非侵襲で改善する方法への要望は高い。
しかしながら、特許文献1の技術では、成膜収縮率の低い特定のポリマーを用いたシワ改善用皮膚外用剤をシワに塗布し、収縮しない膜でシワを埋める技術であるため、目の周りのような皮膚が薄く、繊細な部位への適用は困難である。
特許文献2の技術では、シワ伸ばし効果が得られるものの、シワ伸ばし剤の皮膚への適用方法としては、液体状又はペースト状の組成物をヒトの指やへら等で皮膚に塗り伸ばす方法が用いられているため、シワの改善効果については改善の余地がある。
特許文献3の技術では、前記アプリケータにより、皮膚が滑らかになる組成物を皮膚に付着し皮膚を収縮させて、シワ、及びきめの欠点を滑らかにし平らにする、所望の厚さの均一なフィルムの適用に役立つと記載されているが、ヘッドをコーティングするフロック繊維を介して前記組成物を均一なフィルムで皮膚に適用する方法であるため、皮膚への適用範囲に制限があり、シワの改善効果が十分ではない。
また、美容整形による施術として充填剤(フィラー)の注入治療は、涙袋の形成にも用いられるが、施術部位の特徴から形状制御が困難な場合もあり、施術者への身体的負担が大きくなるといった問題もある。
そのため、皮膚表面の凹凸の平坦化、皮膚表面の凹凸を際立たせる立体感の付与、及び、皮膚表面にハリを持たせたり、皮膚表面の一部を持ち上げる等の皮膚の外的形状の変化を非侵襲でかつ見た目の自然さを損なわずに微細に制御することが求められている。
本発明は、皮膚の外的形状を非侵襲でかつ見た目の自然さを損なわずに微細に制御することができる皮膚処理方法、及び該皮膚処理方法を用いる化粧方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ポリマーと揮発性溶媒とを含有する液体組成物の微小液滴を皮膚に付与する工程、及び該工程により皮膚に付与された微小液滴の乾燥に伴って、皮膚を収縮させる工程を含む皮膚処理方法であって、該液体組成物に含まれるポリマーの所定の方法により測定される変形割合を所定の範囲とし、皮膚に付与される微小液滴の質量を、1滴あたり所定の範囲とすることにより、皮膚の外的形状を非侵襲でかつ見た目の自然さを損なわずに微細に制御できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供する。
[1]工程1:ポリマーAと揮発性溶媒Bとを含有する液体組成物の微小液滴を皮膚に付与する工程、及び、
工程2:工程1により皮膚に付与された微小液滴の乾燥に伴って、皮膚を収縮させる工程を含む、皮膚処理方法であって、
該ポリマーAの下記方法(I)により測定される変形割合が0.3以上1以下であり、
該工程1で皮膚に付与される微小液滴の質量が、1滴あたり、0.001μg以上100μg以下である、皮膚処理方法。
方法(I):ポリマーAを揮発性溶媒Bに溶解させて、濃度10質量%のポリマー溶液を調製する。該ポリマー溶液0.005gを、幅20mm×長さ100mm×厚さ0.03mmのポリエチレンシートの片面に、短辺の一端から長さ方向に向けて幅20mm×長さ50mmの範囲に塗布し、40℃に設定した恒温槽中で10分乾燥させて、ポリマー膜付きのポリエチレンシートを作製する。前記ポリマー溶液を塗布した部分のポリエチレンシートの長さをL1とし、塗布した溶液の乾燥により変形した部分のポリマー膜付きのポリエチレンシートの長さをL2として、L2/L1の値を変形割合とする。
[2]前記[1]に記載の皮膚処理方法を皮膚のシワの改善に用いる、化粧方法。
[3]前記[1]に記載の皮膚処理方法を皮膚の起伏の形成に用いる、化粧方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、皮膚の外的形状を非侵襲でかつ見た目の自然さを損なわずに微細に制御することができる皮膚処理方法、及び該皮膚処理方法を用いる化粧方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】方法(I)によるポリマーAの変形割合(L2/L1)の測定方法の説明図である。
【
図2】本発明の皮膚の収縮発現機構の一例を示す説明図である。
【
図3】工程1における微小液滴の付与に用いる印刷パターンの一例を示す説明図である。
【
図4】工程1における微小液滴の付与に用いる印刷パターンの他の例を示す説明図である。
【
図5】工程1における微小液滴の付与に用いる印刷パターンの他の例を示す説明図である。
【
図6】
図4又は
図5に示す印刷パターンを用いて工程1の微小液滴の付与により皮膚上に微小液滴が付与された状態を模式的に示す断面図である。
【
図7】工程1における微小液滴の付与に用いる印刷パターンの他の例を示す説明図である。
【
図8】実施例13における皮膚処理前後のサンプルを上面側より撮影した写真である。
【
図9】比較例2における皮膚処理前後のサンプルを上面側より撮影した写真である。
【
図10】実施例42における皮膚処理前後のサンプルを上面側より撮影した写真である。
【
図11】工程1における微小液滴の付与に用いる印刷パターンの他の例を示す説明図である。
【
図12】工程1における微小液滴の付与に用いる印刷パターンの他の例を示す説明図である。
【
図13】工程1における微小液滴の付与に用いる印刷パターンの他の例を示す説明図である。
【
図14】実施例57で得られた皮膚処理後のサンプルを上面側より撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[皮膚処理方法]
本発明の皮膚処理方法は、
工程1:ポリマーAと揮発性溶媒Bとを含有する液体組成物の微小液滴を皮膚に付与する工程、及び、
工程2:工程1により皮膚に付与された微小液滴の乾燥に伴って、皮膚を収縮させる工程を含む、皮膚処理方法であって、
該ポリマーAの下記方法(I)により測定される変形割合が0.3以上1以下であり、
該工程1で皮膚に付与される微小液滴の質量が、1滴あたり、0.001μg以上100μg以下である。
方法(I):ポリマーAを揮発性溶媒Bに溶解させて、濃度10質量%のポリマー溶液を調製する。該ポリマー溶液0.005gを、幅20mm×長さ100mm×厚さ0.03mmのポリエチレンシートの片面に、短辺の一端から長さ方向に向けて幅20mm×長さ50mmの範囲に塗布し、40℃に設定した恒温槽中で10分乾燥させて、ポリマー膜付きのポリエチレンシートを作製する。前記ポリマー溶液を塗布した部分のポリエチレンシートの長さをL1とし、塗布した溶液の乾燥により変形した部分のポリマー膜付きのポリエチレンシートの長さをL2として、L2/L1の値を変形割合とする。
なお、前記ポリマー溶液を塗布した部分のポリエチレンシートの長さL1とポリマー膜付きポリエチレンシートの長さL2については、
図1を参照することができる。
【0010】
なお、本発明において「皮膚処理方法」とは「皮膚の外的形状を制御する方法」を意味し、「皮膚の外的形状の制御」には、皮膚表面の凹凸を平坦化させる皮膚の外的形状の変化、皮膚表面の凹凸を際立たせて立体感を付与する皮膚の外的形状の変化、及び皮膚表面にハリを持たせたり、皮膚表面の一部を持ち上げる皮膚の外的形状の変化を含み、例えば、シワを低減させて見た目年齢が実年齢以下となる若返り効果をもたらす皮膚の外的形状の変化やシワをより際立たせて見た目年齢が実年齢以上となる老け見せ効果をもたらす皮膚の外的形状の変化をも含む。
本発明において「皮膚のシワ」とは、皮膚表面に現れる凹凸及び筋目を意味する。皮膚のシワは目の周り、口の周り、額、首等に現れやすい。小さな筋目が小ジワ、大きな筋目が大ジワであり、小ジワは目尻、目元等で発生し、大ジワは法令線、頬等の毛穴流れで発生する。
本発明において「皮膚のシワの改善」とは、後述するように、皮膚に付与された前記液体組成物の微小液滴の乾燥に伴うシワ周辺部の皮膚の収縮により、シワを形成する皮膚の窪みを平坦化する方法である。すなわち物理的に皮膚のシワを伸ばして皮膚表面の凹凸を平坦化させる方法であり、例えば、化粧料等を皮膚に適用して皮膚表面の凹凸を埋めたり、光学的にシワを目立たなくする方法とは異なる概念である。
また、本発明において「皮膚の起伏の形成」とは、後述するように、皮膚に付与された組成物の微小液滴の乾燥に伴う皮膚の収縮により立体的に皮膚組織を持ち上げて皮膚表面の凹凸を際立たせる方法である。
さらに、「皮膚のたるみの改善」とは、後述するように、皮膚に付与された組成物の微小液滴の乾燥に伴う皮膚の収縮により皮膚にハリを持たせたり、皮膚表面の一部を持ち上げてたるみをリフトアップする方法である。
【0011】
本発明によれば、皮膚の外的形状を非侵襲でかつ見た目の自然さを損なわずに微細に制御する皮膚処理方法を提供することができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
ここで、本発明による皮膚の収縮発現機構の一例を示す
図2を参照して説明する。
本発明において、前記液体組成物中、ポリマーAは揮発性溶媒Bに溶解した状態で存在している。そして、
図2(i)に示すように、工程1により前記液体組成物の微小液滴21が皮膚22に付与されると、
図2(ii)に示すように、工程2による微小液滴21の乾燥過程において微小液滴21に含まれる揮発性溶媒Bが揮発し始め(
図2中の矢印23は揮発の様子を示す)、微小液滴21の端部に接触する皮膚の温度により、微小液滴21の端部から優先的に揮発性溶媒Bが揮発し、それにより微小液滴の端部と中央部とで表面張力に差が生じ、その結果、微小液滴21内でマランゴニー対流(Marangoni convection)24が発生する。これにより微小液滴21の端部のポリマーAの濃度が高くなり、
図2(iii)に示すように、微小液滴21の中央部に先んじて端部が硬化し、端部25の硬化した塗膜にその下部の皮膚26が固定化される。そして、端部25の塗膜硬化後には、微小液滴21の中央部からも揮発性溶媒Bは揮発して塗膜の収縮が起こるが、
図2(iv)に示すように、端部25の硬化した塗膜は皮膚と固定化され、さらにポリマーAは、上記方法(I)により測定される変形割合が所定の範囲を満たすため、揮発性溶媒Bの揮発による硬化した塗膜の収縮と共に皮膚に収縮応力27がかかる。その結果、
図2(v)に示すように、微小液滴21の乾燥終点において皮膚に収縮応力27がかかり、皮膚に対する高い収縮作用が発現すると考えられる。
本発明においては、工程1により微小液滴の1滴あたりの質量が所定の範囲であることにより、液体組成物を同一の付与量でヒトの指やへら等で皮膚に塗り伸ばす場合と比べて、液体組成物の付与量に対する微小液滴の端部の割合を増加させ、工程2における微小液滴の端部からの揮発性溶媒Bの揮発が促進されるため、皮膚に付与された微小液滴の乾燥速度が高く、皮膚の収縮作用が向上すると考えられる。
【0012】
また、本発明では、工程1により微小液滴からなる塗膜を皮膚表面に不連続に形成することができる。そのため、処理を施した皮膚表面全体のつるつるとした平滑感が抑制され、例えば、液体組成物中のポリマーAの含有量が低く、微小液滴の乾燥速度が遅い場合においても、処理を施した皮膚表面の光の正反射を抑制し、見た目の自然さを損なわずに皮膚の収縮作用の発現を向上させることができる。
また、ヒトの指やへら等で皮膚に塗り伸ばす場合であって、例えば、液体組成物中のポリマーAの含有量が低く、皮膚に付与された液体組成物の乾燥速度が速い場合には、前述のマランゴニー対流の発生に伴って、ベナードセル(Benard cells)により塗膜に微細な凹凸ムラが発生する場合もある。
一方、本発明では、工程1における微小液滴の1滴あたりの質量を所定の量とすることにより、発生するベナードセルのサイズを制限することができるため、塗膜の微細な凹凸ムラを抑制することができる。
さらに、微小液滴からなる塗膜を皮膚表面に不連続に形成することにより、処理後の皮膚表面の光の正反射を抑制し、光の散乱によるぼかし効果を高めることができ、透明感を付与させることもできる。
【0013】
また、本発明の皮膚処理方法を皮膚のシワを改善する化粧方法として用いれば、この皮膚の収縮発現機構により、シワ周辺部の皮膚を収縮させることができ、シワを形成する皮膚の窪みが平坦化されて、シワを目立たなくすることができる。
さらに、本発明の皮膚処理方法を皮膚の起伏を形成する化粧方法として用いれば、この皮膚の収縮発現機構により、皮膚表面の凹凸を際立たせたい部位の皮膚を収縮させることができ、皮膚組織を持ち上げて皮膚の起伏を形成し、皮膚に立体感を付与することもできる。
【0014】
また、本発明においては、前述のとおり微小液滴の中央部に先んじて端部が硬化するため、いわゆるコーヒーリング現象と呼ばれる塗膜端部へのポリマーAの集積が抑制される。そのため、微小液滴の1滴あたりの質量を調整することにより、相対的に端部の塗膜の厚さを薄く、そして、塗膜中央部にポリマーAをより集積させることができるため、微小液滴を付与する身体部位の選択によっては、微小液滴の中央部の乾燥過程において、端部が固定された上で中央部が収縮することにより、皮膚を持ち上げる効果も発現すると考えられる。よって、本発明の皮膚処理方法を用いれば、皮膚のシワの改善のみならず、皮膚のたるみも改善することができ、皮膚にハリを持たせたり、皮膚の一部を持ち上げるリフトアップに適用することもできる。
このように本発明では、工程1における液体組成物の微小液滴を付与する身体部位を選択し、工程2により該部位の皮膚を収縮させることにより、非侵襲的に皮膚の外的形状の変形を促して微細に制御することができる。
【0015】
(工程1)
工程1は、ポリマーAと揮発性溶媒Bとを含有する液体組成物の微小液滴を皮膚に付与する工程である。
本発明において、工程1における液体組成物の微小液滴の皮膚への付与には、液体組成物の微小液滴を皮膚表面に直接付与するのみならず、例えば溶液、乳液、クリーム、シート等の化粧料が予め塗布された皮膚に、該化粧料を介して液体組成物の微小液滴を付与することを含む。
【0016】
<液体組成物>
本発明に用いる液体組成物は、ポリマーA及び揮発性溶媒Bを含有する。
前記液体組成物は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、1気圧下、25℃で液体状であることが好ましい。
【0017】
(ポリマーA)
本発明に用いるポリマーAは、前記方法(I)により測定される変形割合が0.3以上1以下である。前記方法(I)によるポリマーAの変形割合(L2/L1)の測定方法は、具体的には実施例に記載のとおりである。変形割合(L2/L1)の値が大きいほど、乾燥によるポリマーAを含む塗膜の収縮量が大きいことを示し、L2/L1の上限は1である。
【0018】
ポリマーAの前記方法(I)により測定される変形割合(L2/L1)は、ポリマーAと揮発性溶媒Bの組み合わせにより調整することができる。
前記変形割合(L2/L1)は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、0.3以上であり、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上、より更に好ましくは0.8以上、より更に好ましくは0.85以上、より更に好ましくは0.9以上、より更に好ましくは0.95以上であり、そして、1以下である。
【0019】
ポリマーAは、前記変形割合を満たすものであれば特に制限はない。
本発明では、工程1により前記液体組成物が微小液滴状に皮膚に付与されるため、収縮する塗膜を皮膚表面に不連続に付与することができる。工程1により微小液滴が付与されていない領域は塗膜が形成されていないため、該領域が工程2の乾燥過程における収縮応力により優先的に変形する。そのため、収縮する塗膜の破断や破壊が起こり難く、収縮力の比較的高いポリマーAの前記液体組成物への適用もでき、ポリマーAの種類、前記液体組成物中のポリマーAの含有量及び面積あたりの微小液滴の付与量等の設計の自由度が高い。
【0020】
ポリマーAの基本骨格としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリ尿素等の縮合系ポリマー;ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物、環状オレフィン等のビニル系単量体の付加重合により得られるビニル系ポリマー;シリコーン系ポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、ビニル系ポリマー及びシリコーン系ポリマーから選ばれる1種以上が好ましい。
【0021】
ポリマーAとして用いる前記ビニル系ポリマーを構成するビニル系単量体としては、アニオン性基又はカチオン性基を有するものが好ましい。
アニオン性基としては、カルボキシ基(-COOM)、スルホン酸基(-SO3M)、リン酸基(-OPO3M2)等の解離して水素イオンが放出されることにより酸性を呈する基、又はそれらの解離したイオン形(-COO-、-SO3
-、-OPO3
2-、-OPO3
-M)等が挙げられる。前記化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。
アニオン性基を有するビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
カチオン性基としては、1級、2級、又は3級アミノ基のプロトン酸塩、及び第4級アンモニウム基等が挙げられる
カチオン性基を有するビニル系単量体としては、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
前記ビニル系ポリマーは、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくはアニオン性基を有するビニル系単量体由来の繰り返し単位を含むビニル系ポリマーであり、より好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上のビニル系単量体由来の繰り返し単位を含むビニル系ポリマーであり、更に好ましくは、ポリメタクリル酸及びポリスチレンスルホン酸ナトリウムから選ばれる1種以上である。
前記ビニル系ポリマーは、アニオン性基を有するビニル系単量体由来の繰り返し単位に加えて、他の単量体由来の繰り返し単位を含む共重合体であってもよいが、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、アニオン性基を有するビニル系単量体の単独重合体であることが好ましい。
【0022】
前記ビニル系ポリマーの重量平均分子量Mwは、好ましくは10,000以上、より好ましくは30,000以上、更に好ましくは50,000以上であり、そして、好ましくは700,000以下、より好ましくは500,000以下、更に好ましくは300,000以下である。前記重量平均分子量Mwは、ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定でき、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
前記ビニル系ポリマーは、合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記ビニル系ポリマーを合成により得る場合には、例えば、重合開始剤等の存在下、前述のアニオン性基を有するビニル系単量体及び必要に応じて他の単量体の公知の方法の付加重合により得ることができる。
前記ビニル系ポリマーの市販品としては、Alfa Aesar社製のポリスチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
ポリマーAとして用いる前記シリコーン系ポリマーは、好ましくはシリコーン構造を有するシリコーンポリマーである。
本明細書において「シリコーン構造」とは、下記一般式(I)で表される構造をいう。
【0024】
【化1】
一般式(I)中、R
1はそれぞれ独立に炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、pは1以上の整数である。
【0025】
R1は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び汎用性の観点から、好ましくは炭素数1以上12以下のアルキル基又は炭素数6以上12以下のアリール基であり、より好ましくは炭素数1以上12以下のアルキル基又はフェニル基、更に好ましくは炭素数1以上3以下のアルキル基、より更に好ましくはメチル基である。
【0026】
前記シリコーンポリマーはシリコーン構造を少なくとも1つ有するものであればよく、シリコーン構造のみからなるポリマーでもよいが、前述の変形割合を所定の範囲に調整し、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、一部にシリコーン構造を有するポリマーであることが好ましい。
一部にシリコーン構造を有するポリマーである場合、該シリコーン構造はポリマー中、主鎖、側鎖のいずれに存在していてもよく、前述の変形割合を所定の範囲に調整し、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、側鎖に存在していることが好ましい。
前記シリコーン構造がポリマー主鎖に存在する場合、その結合形態にも特に制限はなく、例えば、該シリコーン構造がポリマー主鎖の末端に存在していてもよいし、ポリマー主鎖中に該シリコーン構造がブロック状又はランダム状に結合した共重合ポリマーであってもよい。また、前記シリコーン構造を有する化合物によりグラフト変性されたポリマーも用いることができる。
【0027】
前記シリコーンポリマーは、好ましくはシリコーン変性ポリマーである。シリコーン変性ポリマーの具体例としては、シリコーン変性ポリノルボルネン等のノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマー;シリコーン変性プルラン;トリアルキルシロキシケイ酸、フッ素変性アルキルシロキシケイ酸、フェニル変性アルキルシロキシケイ酸等のシリコーン構造含有ケイ酸化合物;シリコーンデンドリマー等が挙げられる。
【0028】
〔ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマー〕
本明細書において「ノルボルナン構造」とは、下記式で示される構造を意味する。ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマーは、ポリマー中の任意の部位に該式で示されるノルボルナン構造を有するシリコーン変性ポリマーであればよい。
【化2】
ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマーとしては、下記一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有するポリマーが挙げられる。
【化3】
一般式(1)中、R
2はそれぞれ独立に炭素数1以上12以下のアルキル基であり、Xは下記一般式(i)で表される基である。aは1以上3以下の整数であり、bは0以上2以下の整数である。
【化4】
一般式(i)中、R
1は前記と同じであり、cは1以上5以下の整数である。
【化5】
一般式(2)中、R
1、R
2及びbは前記と同じであり、dは2以上5以下の整数である。
【0029】
一般式(1)において、R2はそれぞれ独立に炭素数1以上12以下のアルキル基であり、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び汎用性の観点から、メチル基、エチル基、n-プロピル基、ブチル基、又はペンチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
一般式(i)において、R1は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、及び汎用性の観点から、好ましくは炭素数1以上12以下のアルキル基又は炭素数6以上12以下のアリール基であり、より好ましくは炭素数1以上12以下のアルキル基又はフェニル基、更に好ましくは炭素数1以上3以下のアルキル基、より更に好ましくはメチル基である。cは1以上5以下の整数であり、汎用性の観点から、cは1であることが好ましい。すなわちXは、好ましくはトリメチルシロキシ基である。
一般式(1)において、aは1以上3以下の整数であり、例えばa=2の繰り返し単位とa=3の繰り返し単位が混合して存在する重合体であってよい。汎用性の観点から、aは3であることが好ましい。bは0以上2以下の整数であり、前記と同様の観点から、好ましくは0、1又はこれらの組み合わせであり、0がより好ましい。
【0030】
一般式(2)において、R
1、R
2及びbは前記と同じである。dは2以上5以下の整数であり、汎用性の観点から、dは2であることが好ましい。一般式(2)における環状シリコーン構造は、前記と同様の観点から、R
1及びR
2がメチル基であり、dが2又は3であることが好ましい。すなわち一般式(2)における環状シリコーン構造は、好ましくは下記式(2-1)又は(2-2)で示される構造である。
【化6】
【0031】
ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマー中の一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位の割合は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び汎用性の観点から、該ポリマー中の全繰り返し単位数のうち、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは50%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは95%以下、更に好ましくは90%以下、より更に好ましくは70%以下である。
【0032】
ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマーは、一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位に加えて、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を更に有してもよい。
【化7】
一般式(3)中、R
3~R
6はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基及びハロゲン化炭化水素基から選ばれる置換基、又は、オキセタニル基、アルコキシカルボニル基、ポリオキシアルキレン基、ポリグリセリル基、又はアルコキシシリル基である。R
3~R
6から選ばれる2つの基は、互いに結合して脂環構造、芳香環構造、カルボイミド基又は酸無水物基を形成していてもよい。bは前記と同じである。
【0033】
ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマー中の一般式(3)で表される繰り返し単位の割合は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び汎用性の観点から、該ポリマー中の全繰り返し単位数のうち、好ましくは90%以下、より好ましくは70%以下、更に好ましくは50%以下である。また、一般式(3)で表される繰り返し単位を含む場合、その割合は、該ポリマー中の全繰り返し単位数のうち、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは30%以上である。
ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマー中の一般式(1)~(3)で表される繰り返し単位の割合は、1H-NMR測定により求めることができる。
【0034】
ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマーは、好ましくはシリコーン変性ポリノルボルネン、より好ましくは下記式(4)で表されるシリコーン変性ポリノルボルネンである。
【化8】
式(4)中、e、fは繰り返し単位数であり、それぞれ独立に1以上の整数である。
式(4)中のeとfのモル比(e/f)は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは20/80~90/10、より好ましくは30/70~80/20、更に好ましくは50/50~70/30である。
【0035】
ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマーの数平均分子量Mnは、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び汎用性の観点から、好ましくは50,000以上、より好ましくは100,000以上、更に好ましくは200,000以上であり、そして、好ましくは2,000,000以下、より好ましくは1,500,000以下、更に好ましくは800,000以下、より更に好ましくは600,000以下である。
前記数平均分子量Mnは、ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定でき、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0036】
ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマーは、例えば、ノルボルナン構造を含有するか又はノルボルナン構造を形成し得るシリコーン変性環状オレフィンモノマーを公知の方法で付加重合させて得られる。
例えば一般式(1)又は(2)で表される繰り返し単位を有するノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマーであれば、下記一般式(1a)又は(2a)で表される環状オレフィンモノマーを付加重合させて得ることができる。さらに、付加重合において、下記一般式(3a)で表される環状オレフィンモノマーを共重合させてもよい。
【化9】
一般式(1a)中、R
2、X、a及びbは前記と同じである。
である。
【化10】
一般式(2a)中、R
1、R
2、b及びdは前記と同じである。
【化11】
一般式(3a)中、R
3~R
6、及びbは前記と同じである。
【0037】
一般式(3a)で表される環状オレフィンモノマーを共重合させる場合、その使用量は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び汎用性の観点から、重合に使用する全モノマーを100モル%として、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは50モル%以下であり、そして、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは30モル%以上である。
【0038】
前記式(4)で表されるシリコーン変性ポリノルボルネンは、下記式(4a)で表されるトリス(トリメチルシロキシ)シリルノルボルネンと、ノルボルネンとを付加共重合させて得ることができる。
【化12】
【0039】
トリス(トリメチルシロキシ)シリルノルボルネンとノルボルネンとの共重合体におけるモル比〔トリス(トリメチルシロキシ)シリルノルボルネン/ノルボルネン〕は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは20/80以上、より好ましくは30/70以上、更に好ましくは50/50以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは70/30以下である。
【0040】
なお、一般式(1)~(3)、及び式(4)において示される繰り返し単位は、いずれも原料モノマーである環状オレフィンモノマーの2,3-付加構造単位を示すものであるが、該環状オレフィンモノマーの付加重合による2,7-付加構造単位となっているものが含まれていてもよい。
【0041】
ノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマーとしては、(ノルボルネン/トリス(トリメチルシロキシ)シリルノルボルネン)コポリマーが好ましく、INCI名(International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook,第16版,第2巻,2016年,p.2274):NORBORNENE/TRIS(TRIMETHYLSILOXY)SILYLNORBORNENE COPOLYMERで表記される化合物である。
市販のノルボルナン構造含有シリコーン変性ポリマーとしては、信越化学工業(株)製「NBN-30-ID」((ノルボルネン/トリス(トリメチルシロキシ)シリルノルボルネン)コポリマーのイソドデカン溶液)等が挙げられる。
【0042】
〔シリコーン変性プルラン〕
シリコーン変性プルランとしては、側鎖にシリコーン構造を有するプルランが挙げられ、具体的には、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び汎用性の観点から、プルラン中のOH基の水素原子の少なくとも一部が下記一般式(5)で表される基で置換されたシリコーン変性プルランが好ましい。
【化13】
一般式(5)中、Z
1は単結合又は2価の有機基である。R
2、X、aは前記と同じであり、前記と同様の観点から、Xは好ましくはトリメチルシロキシ基、aは好ましくは3である。
【0043】
一般式(5)において、前記と同様の観点から、Z
1は2価の有機基であることが好ましく、下記一般式(5-1)又は(5-2)で表される2価の基がより好ましく、下記一般式(5-2)で表される2価の基が更に好ましい。
【化14】
一般式(5-1)及び(5-2)中、R
11は炭素数1以上10以下のアルキレン基であり、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が例示される。前記と同様の観点から、これらの中でもエチレン基、トリメチレン基、プロピレン基が好ましく、トリメチレン基又はプロピレン基がより好ましい。
【0044】
市販のシリコーン変性プルランとしては、信越化学工業(株)製「TSPL-30-ID」(トリ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルカルバミド酸プルランのイソドデカン溶液)、「TSPL-30-D5」(トリ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルカルバミド酸プルランのシクロペンタシロキサン溶液)等が挙げられる。
【0045】
〔シリコーン構造含有ケイ酸化合物〕
本発明に用いられるシリコーン構造含有ケイ酸化合物としては、末端にシリコーン構造を有するシリケート化合物が挙げられ、例えば、トリアルキルシロキシケイ酸、フッ素変性アルキルシロキシケイ酸、フェニル変性アルキルシロキシケイ酸等が挙げられる。
トリアルキルシロキシケイ酸におけるアルキル基は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び汎用性の観点から、好ましくは炭素数1以上10以下、より好ましくは炭素数1以上4以下であり、更に好ましくはメチル基である。トリアルキルシロキシケイ酸の具体例としてはトリメチルシロキシケイ酸が挙げられる。
フッ素変性アルキルシロキシケイ酸としては、トリアルキルシロキシケイ酸中のアルキル基の少なくとも一部の水素原子がフッ素原子に置換された化合物が挙げられる。その具体例としては、トリフルオロプロピルジメチルシロキシケイ酸、トリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸等が挙げられる。
フェニル変性アルキルシロキシケイ酸としては、例えば、フェニルプロピルジメチルシロキシケイ酸、フェニルプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸等が挙げられる。
【0046】
シリコーン構造含有ケイ酸化合物の中でも、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、トリアルキルシロキシケイ酸及びフッ素変性アルキルシロキシケイ酸から選ばれる1種以上が好ましい。
【0047】
市販のシリコーン構造含有ケイ酸化合物としては、信越化学工業(株)製「KF-7312J」、「KF-7312K」、「KF-7312T」、「KF-7312L」、「X-21-5249」、「X-21-5250」、「KF-9021」、「X-21-5595」、「X-21-5616」、「KF-9021L」、「X-21-5249L」、「X-21-5250L」等のトリメチルシロキシケイ酸(溶液)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「XS66-B8226」(トリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸のシクロペンタシロキサン溶液)、「XS66-B8636」(トリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸のジメチコン溶液)、「SilShine151」(フェニルプロピルジメチルシロキシケイ酸)等を用いることができる。
【0048】
〔シリコーンデンドリマー〕
シリコーンデンドリマーとしては、例えば、シロキサンデンドリマー構造を側鎖に有するビニル系ポリマーが挙げられる。シロキサンデンドリマー構造は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び汎用性の観点から、具体的には下記一般式(6)で表される基であることが好ましい。
【化15】
一般式(6)中、R
1は前記と同じである。Z
2は単結合又は2価の有機基である。X
1はi=1とした場合の下記一般式(6-1)で表される基であり、iは該基の階層を示す1以上10以下の整数である。
【化16】
一般式(6-1)中、R
1は前記と同じであり、R
12は炭素数1以上10以下のアルキル基である。Z
3は炭素数2以上10以下のアルキレン基である。X
i+1は水素原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、アリール基又は一般式(6-1)で表される基であり、a
iは0以上3以下の整数である。
【0049】
一般式(6)において、Z
2は単結合又は2価の有機基であり、汎用性の観点から、2価の有機基であることが好ましく、下記一般式(6-2)、(6-3)又は(6-4)で表される2価の基がより好ましい。
【化17】
一般式(6-2)、(6-3)及び(6-4)中、R
13は炭素数1以上10以下のアルキレン基であり、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が例示され、汎用性の観点から、エチレン基、トリメチレン基、又はプロピレン基が好ましい。R
14は炭素数1以上10以下のアルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が例示され、前記と同様の観点から、メチル基が好ましい。R
15は炭素数1以上10以下のアルキレン基であり、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が例示され、前記と同様の観点から、エチレン基が好ましい。qは0以上4以下の整数であり、rは0又は1である。
【0050】
上記のシロキサンデンドリマー構造を側鎖に有するビニル系ポリマーとしては、下記一般式(7)で表される単量体由来の繰り返し単位を有するポリマーが挙げられる。
【化18】
一般式(7)中、R
1及びX
1は前記と同じである。Yはビニル結合を含む基であり、例えば、ビニル基、2-アクリロイルオキシエチル基、3-アクリロイルオキシプロピル基、2-メタクリロイルオキシエチル基、3-メタクリロイルオキシプロピル基、4-ビニルフェニル基、3-ビニルフェニル基、4-(2-プロペニル)フェニル基、3-(2-プロペニル)フェニル基、2-(4-ビニルフェニル)エチル基、2-(3-ビニルフェニル)エチル基、アリル基、5-ヘキセニル基が挙げられる。これらのうち、汎用性の観点から、好ましくは(メタ)アクリロイル基又はビニル基、より好ましくは(メタ)アクリロイル基である。
【0051】
前記シロキサンデンドリマー構造を側鎖に有するビニル系ポリマーは、一般式(7)で表される単量体以外のビニル系単量体に由来する繰り返し単位をさらに含んでもよい。当該ビニル系単量体としては、ビニル結合を含む基を有しかつ一般式(7)で表される単量体以外の単量体であり、例えば、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有(メタ)アクリレート、脂肪酸ビニルエステル、(メタ)アクリルアミド、スチレン又はその誘導体等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができる。これらの中でも、汎用性の観点から、(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系単量体が好ましい。
【0052】
前記シロキサンデンドリマー構造を側鎖に有するビニル系ポリマー中の、一般式(7)で表される単量体由来の繰り返し単位の含有量は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、該ビニル系ポリマー中の全繰り返し単位に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
【0053】
前記シロキサンデンドリマー構造を側鎖に有するビニル系ポリマーは、アクリル系ポリマーであることがより好ましい。すなわち、好ましいシリコーンデンドリマーとしては、シロキサンデンドリマー構造を側鎖に有するアクリル系ポリマー(以下、「アクリルシリコーンデンドリマー」ともいう)である。アクリルシリコーンデンドリマーは、一般式(7)において、Yが(メタ)アクロイル基である単量体由来の繰り返し単位を含むポリマーであり、一般式(7)で表される単量体以外の(メタ)アクリル系単量体に由来する繰り返し単位をさらに含んでもよい。
【0054】
市販のシリコーンデンドリマーとしては、東レ・ダウコーニング(株)製「FA 4001 CM Silicone Acrylate」(アクリレート-ポリトリメチルシロキシメタクリレート共重合体のシクロペンタシロキサン溶液)、「FA 4002 ID Silicone Acrylate」(アクリレート-ポリトリメチルシロキシメタクリレート共重合体のイソドデカン溶液)等のアクリルシリコーンデンドリマーが挙げられる。
【0055】
前記シリコーンポリマーは、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは、シリコーン変性ポリノルボルネン、シリコーン変性プルラン、トリメチルシロキシケイ酸、トリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸、及びアクリルシリコーンデンドリマーから選ばれる1種以上であり、より好ましくは、シリコーン変性ポリノルボルネン、シリコーン変性プルラン、トリメチルシロキシケイ酸、及びトリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸から選ばれる1種以上である。
【0056】
以上のとおり、ポリマーAは、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは前記一般式(I)で表される構造を有するシリコーンポリマー、及びアニオン性基を有するビニル系単量体由来の繰り返し単位を含むビニル系ポリマーから選ばれる1種以上であり、より好ましくはシリコーン変性ポリマー、並びにアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上のビニル系単量体由来の繰り返し単位を含むビニル系ポリマーであり、更に好ましくは、シリコーン変性ポリノルボルネン、シリコーン変性プルラン、トリメチルシロキシケイ酸、トリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸、アクリルシリコーンデンドリマー、ポリメタクリル酸、及びポリスチレンスルホン酸ナトリウムから選ばれる1種以上であり、より更に好ましくは、シリコーン変性ポリノルボルネン、シリコーン変性プルラン、トリメチルシロキシケイ酸、トリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸、ポリメタクリル酸、及びポリスチレンスルホン酸ナトリウムから選ばれる1種以上である。
また、本発明において、皮膚の外的形状の微細な制御による効果は、工程2により皮膚上塗膜が形成された状態で外力や身体的な変形等が受けても良好に持続することが好ましい。当該観点からは、ポリマー(A)は、好ましくは前記一般式(I)で表される構造を有するシリコーンポリマーであり、より好ましくはシリコーン変性ポリマーであり、更に好ましくは、シリコーン変性ポリノルボルネン、シリコーン変性プルラン、トリメチルシロキシケイ酸、トリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸、及びアクリルシリコーンデンドリマーから選ばれる1種以上であり、より更に好ましくは、シリコーン変性ポリノルボルネン、シリコーン変性プルラン、トリメチルシロキシケイ酸、及びトリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくは、シリコーン変性ポリノルボルネン、シリコーン変性プルラン、及びトリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸から選ばれる1種以上である。
【0057】
本発明においては、前記液体組成物中のポリマーAの含有量が低く、ポリマーAの濃度が比較的希薄な組成物であっても、微小液滴状で皮膚に付与することにより、見た目の自然さを損なうことなく皮膚の収縮作用を発現することができる。また、微小液滴の皮膚への付与方法が、後述するインクジェット方式やナノディスペンサ方式を用いる方法である場合には、液体組成物中のポリマーAの含有量を低く設計する処方の調整により液体組成物の粘度を低下させ、液体組成物の吐出性を向上させて、高精度なパターニング印刷を行うことができる。当該観点から、前記液体組成物中のポリマーAの含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは7質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは15質量%以下である。
【0058】
(揮発性溶媒B)
本発明に用いる液体組成物は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、揮発性溶媒Bを含有する。
揮発性溶媒Bは、1気圧下、40℃、60%RHで30分揮発した後の揮発率が5%以上であることが好ましい。揮発性溶媒Bの揮発率が前記の範囲であることにより、工程2における液体組成物の微小液滴の乾燥速度を向上させることができ、塗膜の収縮が加速して、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する効果を高めることができる。
当該観点から、揮発性溶媒Bの前記揮発率は、好ましくは14%以上、より好ましくは18%以上、更に好ましくは25%以上、より更に好ましくは30%以上、より更に好ましくは45%以上、より更に好ましくは55%以上、より更に好ましくは65%以上、より更に好ましくは70%以上、より更に好ましくは80%以上、より更に好ましくは95%以上である。また、上限は100%である。
前記揮発率は、試料0.5gを直径40mmのガラス製シャーレに入れ、1気圧下、60%RHの環境下で、40℃にて30分静置して揮発させて、揮発前の試料質量をW0(g)、揮発後の試料質量をW1(g)とし、〔(W0-W1)/W0〕×100の値として求める。この値が大きいほど揮発速度が速いことを意味する。
前記揮発率は、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
揮発性溶媒Bは、1種を単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0059】
揮発性溶媒Bは、好ましくは、水、炭素数2以上4以下の脂肪族アルコール、揮発性の炭化水素油、及び揮発性のシリコーン油から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、水(揮発率100%)、エタノール(揮発率100%)、イソドデカン(揮発率33%)、ヘキサメチルジシロキサン(揮発率100%)、メチルトリメチコン、及び、25℃における動粘度が5mm2/s未満のジメチルポリシロキサンから選ばれる1種以上である。
25℃における動粘度は、ASTM D 445-46T又はJIS Z 8803に準じて、ウベローデ粘度計により測定することができる。
【0060】
ヘキサメチルジシロキサン、及び、25℃における動粘度が5mm2/s未満のジメチルポリシロキサンの市販品としては、信越化学工業(株)製の「KF-96L-0.65cs」(ヘキサメチルジシロキサン、動粘度1.0mm2/s)、「TMF1.5」、「KF-96L-1cs」(オクタメチルトリシロキサン、動粘度1.0mm2/s)、「KF-96L-1.5cs」(デカメチルテトラシロキサン、動粘度1.5mm2/s)、「KF-96L-2cs」(ドデカメチルペンタシロキサン、動粘度2.0mm2/s)、「KF-995」(デカメチルシクロペンタシロキサン、動粘度4.0mm2/s)、東レ・ダウコーニング(株)製の「SH200C Fluid 1cs」、「SH200C Fluid 1.5cs」,モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「TSF451-0.65」、旭化成ワッカーシリコーン(株)製の「BELSIL DM0.65」等が挙げられる。
【0061】
前記液体組成物中の成分(B)の含有量は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは25質量%以上、より更に好ましくは35質量%以上、より更に好ましくは45質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、そして、液体組成物の処方の自由度の観点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下、より更に好ましくは97質量%以下、より更に好ましくは95質量%以下である。
【0062】
揮発性溶媒Bの揮発率(%)と、前記液体組成物中の揮発性溶媒Bの含有量(質量%)との積を100で除した値[〔揮発率(%)×含有量(質量%)〕/100]は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは35以上、より更に好ましくは40以上、より更に好ましくは45以上、より更に好ましくは60以上、より更に好ましくは70以上であり、そして、好ましくは99.9以下である。
【0063】
前記液体組成物中のポリマーAの揮発性溶媒Bに対する含有質量比(A/B)は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.07以上、更に好ましくは0.1以上であり、そして、液体組成物の粘度を調整して液体組成物の微小液滴の付与性を良好なものとする観点から、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下、更に好ましくは0.2以下である。
【0064】
(その他の成分)
本発明に用いる液体組成物は、ポリマーA及び揮発性溶媒Bの他、本発明の効果を阻害しない範囲で、化粧料等に通常配合されるその他の成分を適宜含有してもよい。当該成分としては、例えば、ポリマーA及び揮発性溶媒B以外の、油剤、界面活性剤、水溶性高分子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン剤、防腐剤、pH調整剤、香料、美容成分、薬効成分、植物エキス類、保湿剤、着色剤、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、防腐剤、皮膚賦活剤等が挙げられる。これらは、それぞれ1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
〔不揮発性油〕
本発明に用いる液体組成物は、揮発性溶媒B以外の油剤として不揮発性油を更に含有してもよい。不揮発性油とは、前記揮発率が5%未満のものをいう。
前記不揮発性油としては、1気圧下、25℃で液体状のエステル油、シリコーン油、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール等が挙げられる。
液体状の不揮発性油としては、例えば、イソノナン酸イソトリデシル等のモノエステル油;ジイソステアリン酸ポリグリセリル、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)等のジエステル油;トリエステル油等のエステル油;25℃における動粘度が5mm2/s以上のジメチルポリシロキサン等のシリコーン油;流動パラフィン、水添ポリイソブテン等の軽質流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、流動オゾケライト、スクワラン、プリスタン、スクワレン、イソヘキサデカン等の炭化水素油;炭素数12以上22以下の高級脂肪酸;炭素数12以上28以下の高級アルコールなどが挙げられる。
【0066】
前記液体組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、1気圧下、25℃で固体状の不揮発性油を含有してもよい。
固体状の不揮発性油としては、モノステアリン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル等の固体状のエステル油;アルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等の固体状のシリコーン油;ワセリン等の固体状の炭化水素油;セチルアルコール、ステアリルアルコール、べへニルアルコール等の固体状の高級アルコール;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ラノリン脂肪酸等の固体状の高級脂肪酸などが挙げられる。
【0067】
本発明に用いる液体組成物が不揮発性油を含有する場合、該液体組成物中の不揮発性油の含有量は、微小液滴の皮膚への付与性を向上させる観点から、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.7質量%以上であり、そして、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点、及び皮膚に付与した際のべたつき抑制の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは3質量%以下である。
【0068】
〔架橋型シリコーン樹脂〕
本発明に用いる液体組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、架橋型シリコーン樹脂を更に含有してもよい。
前記架橋型シリコーン樹脂としては、ジビニルジメチルポリシロキサン(ビニルジメチコン)、フェニルビニルジメチルポリシロキサン(フェニルビニルジメチコン)、PEG-10ジアリルエーテル、PEG-15ジアリルエーテル等で架橋した架橋型シリコーン樹脂が挙げられる。具体的には、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー、(ビニルジメチコン/ラウリルジメチコン)クロスポリマー、(ジメチコン/(PEG-10/15))クロスポリマー、(PEG-15/ラウリルジメチコン)クロスポリマー、(ジメチコン/フェニルビニルジメチコン)クロスポリマー等が挙げられる。
架橋型シリコーン樹脂の市販品としては、信越化学工業(株)のKSPシリーズ、KMPシリーズ、KSGシリーズ等が挙げられる。
【0069】
本発明に用いる液体組成物が架橋型シリコーン樹脂を含有する場合、該液体組成物中の架橋型シリコーン樹脂の含有量は、微小液滴の皮膚への付与性を向上させる観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.7質量%以上であり、そして、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0070】
前記液体組成物がポリマーA及び揮発性溶媒B以外の他の成分を含有する場合、前記液体組成物中のポリマーA及び揮発性溶媒Bの合計含有量は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上である。
【0071】
前記液体組成物の35℃における粘度は、処理を施した皮膚表面全体のつるつるとした平滑感を抑制し、見た目の自然さを損なわずに皮膚の収縮作用を向上させる観点から、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは1.5mPa・s以上、更に好ましくは2mPa・s以上であり、そして、高精度なパターニング印刷を行う観点から、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下、更に好ましくは10mPa・s以下である。前記液体組成物の35℃における粘度は、E型粘度計「TV-25」(東機産業(株)製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて測定することができる。
【0072】
<微小液滴の付与>
工程1における液体組成物の微小液滴の皮膚への付与方法は、1滴あたりの質量が所定の範囲となるように微小液滴を皮膚の所望の領域に付与することができる方法であれば特に制限はない。例えば、印刷システムで用いられるパターニング印刷により液体組成物の微小液滴を付与する方法、皮膚の一部をマスキングし、その上から噴霧装置(スプレー)等で液体組成物の微小液滴を噴霧する方法等が挙げられる。中でも、印刷システムで用いられるパターニング印刷を用いる方法が好ましい。当該パターニング印刷を用いれば、工程1において液体組成物の微小液滴の1滴あたりの質量、微小液滴の付与量、付与領域等を制御することができ、工程2における皮膚の収縮を平面的ないし立体的に制御することができる。また、用いる印刷パターンをデザインすることにより、処理後の皮膚の外的形状を予め設計することができる。さらに、当該パターニング印刷を用いれば、皮膚処理の再現性を高めることができるため、非侵襲の美容整形技術として適用することもできる。
【0073】
本発明に用いられるパターニング印刷としては、インクジェット方式、ディスペンサ方式等のオンデマンド印刷;スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷等のアナログ印刷が挙げられ、液体組成物の粘度等に応じて選択して用いることができる。
オンデマンド印刷は、刷版を必要としない無版方式で、皮膚に対して非接触な状態で印刷を行う方法である。
アナログ印刷は、刷版を必要とする有版方式で、皮膚に対して接触した状態で印刷を行う方法である。
これらの中でも、オンデマンド印刷は、液体組成物の微小液滴を吐出して皮膚の所望の領域に所望の量の微小液滴を付与することができ、微小液滴の1滴あたりの質量、微小液滴のの面積あたりの付与量、付与領域等を制御し、皮膚の外的形状の微細な制御を容易にすることができる。当該観点から、工程1における微小液滴の皮膚への付与方法は、インクジェット方式及びディスペンサ方式から選ばれる1種以上により前記液体組成物を吐出して微小液滴を皮膚に付与する方法が好ましい。
【0074】
工程1における微小液滴の質量は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、1滴あたり、0.001μg以上であり、好ましくは0.005μg以上、より好ましくは0.01μg以上、更に好ましくは0.03μg以上であり、そして、100μg以下であり、好ましくは50μg以下、より好ましくは30μg以下、更に好ましくは10μg以下である。
1滴あたりの微小液滴の質量は、例えば微小液滴の付与方法が、インクジェット方式、ナノディスペンサ方式等の液体組成物を吐出して微小液滴を皮膚に付与する方法である場合には、皮膚に吐出する微小液滴の平均直径から算出する、又は、ある一定の微小液滴数を吐出した際の液体組成物の質量変化から算出することができる。
また、微小液滴の付与方法が有版方式の印刷による方法である場合には、孔版や凹版等の刷版に形成された孔やセルの大きさから算出することができる。
工程1における微小液滴の面積あたりの付与量は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、ポリマーAの付与量として、好ましくは0.1mg/cm2以上、より好ましくは0.2mg/cm2以上、更に好ましくは0.3mg/cm2以上、より更に好ましくは0.5mg/cm2以上、より更に好ましくは0.7mg/cm2以上であり、そして、好ましくは3mg/cm2以下、より好ましくは2mg/cm2以下、更に好ましくは1.5mg/cm2以下ある。
【0075】
工程1により付与された微小液滴間の間隔は、好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.03mm以上、更に好ましくは0.05mm以上、より更に好ましくは0.1mm以上、より更に好ましくは0.3mm以上、より更に好ましくは0.5mm以上であり、そして、好ましくは2mm以下、より好ましくは1.5mm以下、更に好ましくは1mm以下である。
なお、工程1における液体組成物の微小液滴の皮膚への付与をパターニング印刷で行う場合は、微小液滴間の間隔は印刷ピッチにより調整することができる。
工程1により皮膚に付与された微小液滴の平均直径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは30μm以上であり、そして、好ましくは500μm以下、より好ましくは450μm以下、更に好ましくは400μm以下、より更に好ましくは350μm以下である。
工程1における液体組成物の微小液滴の皮膚への付与を、印刷システムで用いられるパターニング印刷で行う場合、工程1により付与された微小液滴の平均直径に対する微小液滴間の間隔(印刷ピッチ)の比(印刷ピッチ/微小液滴の平均直径)は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは1以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2以下である。
微小液滴間の間隔及び皮膚に付与された微小液滴の平均直径は、光学顕微鏡を用いた観察により測定することができる。
【0076】
工程1における微小液滴の付与方法がインクジェット方式である場合、インクジェットの吐出方式としては、サーマル式及びピエゾ式のいずれも用いることができる。
インクジェットの吐出ヘッドの印加電圧は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは50V以下、より好ましくは45V以下、更に好ましくは40V以下である。
インクジェットの吐出ヘッドの駆動周波数は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは1kHz以上、より好ましくは3kHz以上であり、そして、好ましくは300kHz以下、より好ましくは150kHz以下、更に好ましくは90kHz以下、より更に好ましくは50kHz以下である。
【0077】
工程1における微小液滴の付与方法がナノディスペンサ方式である場合、ナノディスペンサの吐出方式としては、被印刷物に非接触で液体組成物を吐出することができるジェット方式が好ましく、ピエゾ素子を用いたジェット方式がより好ましい。
ナノディスペンサの吐出ヘッドの印加電圧は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは100V以下、より好ましくは80V以下、更に好ましくは60V以下である。
ナノディスペンサの吐出ヘッドの駆動周波数は、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、好ましくは1Hz以上、より好ましくは5Hz以上であり、そして、好ましくは30kHz以下、より好ましくは10kHz以下、更に好ましくは5kHz以下、より更に好ましくは1kHz以下である。
【0078】
工程1において、前記液体組成物の微小液滴は皮膚の所望の付与領域の全面に亘って一様に付与してもよいが、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、印刷パターン、印刷回数、微小液滴の付与順序の調整等により皮膚の収縮を制御し、皮膚の外的形状の制御を容易なものとすることができる。
工程1のパターニング印刷で用いる印刷パターンは、処理後の皮膚の外的形状に応じた皮膚の収縮を考慮して設計することができ、例えば、三角格子状、正方形格子状、長方形格子状、ハニカム格子状の印刷パターンを用いることができる。
また、処理を施す皮膚の各々の皮丘形状に応じて作製される印刷パターンを用いることもできる。例えば、皮膚の各皮丘に微小液滴を付与する場合には、各皮丘に付与された微小液滴の乾燥に伴って皮膚が収縮することにより、各皮丘が盛り上がった形状を形成することができ、凸部の皮丘と凹部の皮溝との凹凸差を大きくすることができる。その結果、皮膚のキメの鮮明さが増し、皮膚の見た目を良好に改善することができる。
【0079】
工程1の微小液滴の付与方法をパターニング印刷により行う場合、該パターニング印刷は、1回の印刷で皮膚の所望の領域全てに所望の付与量の微小液滴を付与する印刷でもよく、複数回の印刷に分けて皮膚の所望の領域を選択して所望の付与量の微小液滴を付与する印刷であってもよいが、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、複数回の印刷に分けて皮膚の所望の領域を選択して所望の付与量の微小液滴を付与する印刷であることが好ましい。これにより、皮膚の付与領域ごとの液体組成物の付与量を制御し、皮膚の収縮作用を調整することができる。
なお、パターニング印刷を複数回行う場合には、1回の印刷ごとに工程2を行うことが好ましい。これにより、それぞれの印刷で付与される微小液滴をその都度乾燥させ、微小液滴同士の混合を防止し、微細に制御した皮膚処理を行うことができる。
【0080】
微小液滴を付与領域の全面に亘って一様に付与する場合においても、微小液滴を付与する領域及び付与する順序を調整することにより、微細に制御した皮膚処理を行うことができる。
例えば、印刷パターンが正方形格子状である場合には、
図3に示すように正方形格子状の印刷パターンの各格子に図示する番号順に微小液滴を付与する方法(1)や、
図4及び
図5に示すように正方形格子状の印刷パターンの各格子に図示する番号順に、付与する格子を間引きながら微小液滴を付与した後、間引かれた格子に微小液滴を付与する方法(2)が挙げられる。中でも、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、前記方法(2)が好ましい。これにより、ポリマーAの付与量に比してより皮膚の収縮作用を高めることができる。このような効果が発現する理由としては、付与する領域を間引いて微小液滴を付与することにより、皮膚へ付与した後の微小液滴周辺の揮発性溶媒Bの蒸気圧を下げ、微小液滴の乾燥を促進することができ、さらに
図6の断面図に示すように第1の微小液滴の付与(
図6中の番号1及び2で示す)で皮膚を固定化し、かつ皮膚を収縮させているため、続く第2の微小液滴の付与(
図6中の番号9及び10で示す)で間引かれた領域に微小液滴を付与することにより、第1の微小液滴の付与で固定化された皮膚もさらに収縮作用を受けることによるものと考えられる。
【0081】
本発明においては、微小液滴の1滴あたりの質量、微小液滴の面積あたりの付与量等に加えて、所望する皮膚の収縮方向に対して直交する方向に付与する微小液滴の数又は密度、微小液滴を付与する順序、及び微小液滴の乾燥条件を調整することにより、皮膚の収縮方向及び皮膚の収縮量を制御することもできる。
例えば、
図7に示す長方形格子状の印刷パターンを用いる場合、第1の微小液滴の付与として、工程1により、縦方向には図示する番号1から8の順に長い距離で微小液滴を連続的に付与した後、格子1列分の間隔を開けてさらに図示する番号9から16の順に付与することができる。これにより、番号1から16までの微小液滴は、縦方向には連続的に付与されることから揮発性溶媒Bの揮発による収縮は全面に一様に付与した場合と同様になる。一方、横方向には格子1列分の隙間が空いていることから、揮発性溶媒Bが揮発しやすくなり、番号1から16までの微小液滴の収縮度合いは微小液滴が単独で付与された場合とほぼ同等となる。次いで、開けられていた隙間に、番号17から32までの微小液滴が付与される。既に番号1から16まで微小液滴に含まれる揮発性有機溶媒Bの大部分は揮発し飛散していることから、番号17から32までの微小液滴に含まれる揮発性溶媒Bの揮発が阻害されることはほとんど無く、皮膚の横方向の収縮作用は微小液滴が単独で付与された場合とほぼ同等となる。これにより、皮膚の縦方向の収縮作用は、全面に一様に付与した場合と同様になる一方で、皮膚の横方向の収縮作用は全面に一様に付与した場合と比べて強まることとなる。
このように本発明の皮膚処理方法を用いれば、皮膚の収縮作用の程度及び方向に対する制御の自由度が高まる。
【0082】
本発明の皮膚処理方法は、微小液滴を付与する身体部位を選択することにより、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御することができる。中でも、本発明の皮膚処理方法は、皮膚のシワの改善方法、又は皮膚の起伏を形成する方法として用いる化粧方法に適用することが好ましい。
皮膚のシワの改善方法として用いる場合には、工程1において、液体組成物の微小液滴は、皮膚のシワ周辺部に付与することが好ましい。これにより、後続の工程2における微小液滴の乾燥に伴いシワ周辺部の皮膚が収縮し、シワを形成する皮膚の窪みを平坦化することができ、シワを目立たなくすることができる。この場合、工程1において、シワの大きさや深さに応じて微小液滴の1滴あたりの質量、液体組成物の付与量等を調整することにより、シワの種類や身体部位に特に制限はなく適用することができるが、中でも、目尻の小ジワの改善方法として用いることが好ましい。
ここで、本明細書における「皮膚のシワ周辺部」は、シワの内部、すなわち皮膚表面の凹部や筋目の凹部とは区別される。なお、本発明の皮膚処理方法を皮膚のシワの改善方法として用いる場合、当該効果が得られる限り、前記液体組成物の微小液滴を皮膚のシワ周辺部のみに限らず、シワの内部にも付与することを妨げない。
【0083】
上記効果を得る観点から、シワ周辺部の中でも、前記液体組成物の微小液滴を付与する領域としては、シワの方向と交差する領域の少なくとも一部を含むことが好ましい。シワの方向とは筋目が走る方向をいう。シワの方向と交差する領域に前記液体組成物の微小液滴を付与することで、シワを生じている部分の皮膚が伸ばされてシワが目立たなくなるためである。
シワの方向と交差する領域としては、シワの方向に沿った領域であることが好ましく、該領域はシワの片側のみでもよく、両側でもよい。特に、シワを挟んだ両側に前記液体組成物の微小液滴を付与することがより好ましい。シワを生じている部分の皮膚をシワの両側から引っ張ることにより、シワをより目立たなくすることができるためである。
【0084】
また、例えば法令線のように、シワの方向が重力方向に対し並行でない場合は、前記組成物を適用する領域(シワの方向と交差する領域)がシワの上側の領域を含むことが好ましい。ここでいう「重力方向」とは、人が直立している場合に重力が働く方向を意味し、「上側」とは、上記重力方向とは逆方向を意味する。少なくともシワの上側の領域に前記組成物を適用することで、シワを生じている部分の皮膚を上側に引っ張り、シワをより目立たなくすることができる。上記と同様の観点から、シワの方向が重力方向に対し並行でない場合において、前記組成物を適用する領域がシワを挟んだ上側及び下側の領域であり、かつ、シワの上側の領域の方がシワの下側の領域よりも広い範囲であることがより好ましい。
【0085】
また、皮膚の起伏の形成方法として用いる場合には、工程1において、液体組成物の微小液滴は、皮膚表面の凹凸を際立たせたい部位に付与することが好ましい。これにより、後続の工程2における微小液滴の乾燥に伴い、皮膚表面の凹凸を際立たせたい部位における皮膚の収縮により立体的に皮膚組織が持ち上げられ、皮膚が盛り上がった起伏形状が形成され、皮膚表面の凹凸を際立たせ、立体感を付与することができる。
本発明の皮膚処理方法を皮膚の起伏の形成方法として用いる場合、液体組成物の微小液滴の付与は、所望の起伏の大きさや範囲に応じて微小液滴の1滴あたりの質量、液体組成物の付与量等を調整することにより、適用する部位に特に制限はなく施すことができるが、中でも、涙袋の形状を改善する方法として用いることが好ましい。
【0086】
ここで、涙袋の形状を改善する方法において、用いる印刷パターンが長方形格子状である場合の模式図を
図11から
図13に示す。
涙袋の形状を改善する方法において、工程1の微小液滴の付与方法としては、例えば、
図11に示すように長方形格子状の印刷パターンの各格子に図示する番号順に、端部から中心に向かって微小液滴を付与する方法(3)、
図12に示すように長方形格子状の印刷パターンの各格子に図示する番号順に、長方形格子の外周から中心に向かってらせん状に微小液滴を付与する方法(4)が挙げられる。
また、前記方法(4)と同じようにらせん状に微小液滴を付与するが、
図13のように間引きながら微小液滴を付与した後、間引かれた格子に後から微小液滴を付与する方法(5)も挙げられる。中でも、皮膚の外的形状を見た目の自然さを損なわずに微細に制御する観点から、前記方法(5)が好ましい。これにより、ポリマーAの付与量に比してより皮膚を盛り上げることができる。このような効果が発現する理由としては、付与する領域を間引いて微小液滴を付与することにより、皮膚へ付与した後の微小液滴周辺の揮発性溶媒Bの蒸気圧を下げ、微小液滴の乾燥を促進することができ、さらに
図13に示すように第1の微小液滴の付与で皮膚を固定化し、かつ皮膚を収縮させているため、続く第2の微小液滴の付与で間引かれた領域に微小液滴を付与することにより、第1の微小液滴の付与で固定化された皮膚もさらに収縮作用を受けることによるものと考えられる。
なお、
図11から
図13に示す印刷パターンは、便宜上、付与する微小液滴数が32である場合の印刷パターンを例示しているが、実際の印刷パターンはより細かく、より多くの微小液滴から形成され、上記と同様に、工程1において付与する領域の外側から内側に向けて液小滴滴を付与することにより、付与した領域の中央が盛り上がり、涙袋状の盛り上がった形状を形成することができる。
【0087】
(工程2)
工程2は、工程1により皮膚に付与された微小液滴の乾燥に伴って、皮膚を収縮させる工程である。
本発明においては、工程1により1滴あたりの質量が所定の範囲である微小液滴を付与するため、工程2の微小液滴の乾燥条件に特に制限はなく、皮膚の温度下の自然乾燥により十分に行うことができる。また、乾燥を早める観点から、送風乾燥、温風乾燥等を行ってもよい。
温風乾燥を行う場合には、乾燥時の温度は、特に制限はないが、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上、より更に好ましくは55℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下である。
乾燥時間は、好ましくは5分以上、より好ましくは7分以上、更に好ましくは10分以上であり、そして、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下である。
工程2の後においては、必要に応じて該工程2により皮膚上に形成される塗膜を除去してもよく、該工程2により皮膚上に形成される塗膜を除去することなく該塗膜の上から化粧を施してもよい。
本発明においては、工程2の微小液滴の乾燥に伴う皮膚の収縮により、皮下の乳頭層が変形し、一度変形させた乳頭層の戻りは緩やかに起こるため、該工程2により皮膚上に形成される塗膜を除去した後においても前述の皮膚の収縮発現機構による効果を享受することができる。当該観点からは、工程2により皮膚上に形成される塗膜を一定時間施した後、該塗膜を化粧を施す直前に除去して、化粧を行うこともできる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。なお本実施例において、各種測定は以下の方法により行った。
【0089】
(数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mw)
ポリマーの数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mwは、ポリスチレンを標準物質としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により、以下の条件で測定した。
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
カラム:K-806L(Shodex製)、2本直列
検出器:RI
溶離液:1mmol/L-ファーミンDM20(花王(株)製)/CHCl3
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
【0090】
(変形割合)
方法(I)として、以下に示す方法により、ポリマーAの変形割合を得た。
まず、ポリマーAを揮発性溶媒Bに溶解させて、濃度10質量%のポリマー溶液を調製した。該ポリマー溶液0.005gを、
図1(a)に示す、幅(W)20mm×長さ(L0)100mm×厚さ0.03mmのポリエチレンシート1(エンシュー化成工業(株)製「LLフィルム」)の片面に、ポリエチレンシート1の短辺の一端1aから長さ方向に向けて幅(W)20mm×長さ(L1)50mmの範囲(
図1(a)に示す2の部分)に塗布し、40℃に設定した恒温槽中で10分乾燥させてポリマー膜付きのポリエチレンシート1’を作製した。
ここで、
図1(b)は、ポリエチレンシート1に塗布されたポリマー溶液を乾燥させてポリマー膜を形成した際に、ポリマーAを含むポリマー膜の収縮によりその一部が変形(カール)したポリエチレンシート1’の模式図である。
前記ポリマー溶液を塗布した部分のポリエチレンシート1の長さをL1(50mm)とし、塗布したポリマー溶液の乾燥により変形(カール)した部分のポリマー膜付きのポリエチレンシート1’の長さをL2として、L2/L1の値を算出して、この値をポリマーAの変形割合とした。なお、L2はポリマー膜付きのポリエチレンシート1’の2本の長辺上で計測した値の平均値とした。
【0091】
(揮発率)
試料0.5gを直径40mmのガラス製シャーレに入れ、1気圧下、60%RHの環境下で、40℃に設定したホットプレート上に30分静置して揮発させた。揮発前の試料質量をW0(g)、揮発後の試料質量をW1(g)とし、〔(W0-W1)/W0〕×100の値を揮発率(%)とした。この値が大きいほど揮発速度が速いことを意味する。
【0092】
調製例1(ポリメタクリル酸溶液の調製)
ガラス性反応容器に、メタクリル酸(富士フイルム和光純薬(株)製、特級)300g、エタノール(富士フイルム和光純薬(株)製、1級)1.5L、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬(株)製、1級)1.73gを入れ、65℃で4時間重合した。得られたポリマー溶液をアセトン20Lに滴下し、再沈殿を行った。沈殿物を濾別回収し、10kPaの減圧下、65℃で12時間以上乾燥しポリメタクリル酸を得た。得られたポリメタクリル酸の重量平均分子量は170,000であった。
得られたポリメタクリル酸をエタノール(富士フイルム和光純薬(株)製、1級)に溶解させて濃度10%のポリメタクリル酸溶液を調製した。
【0093】
<目尻の小ジワ改善>
実施例1~39
(工程1)
表1~表4に示す液体組成物及び条件を用いて、皮膚のレプリカサンプルとして人工皮膚模型「バイオスキン 目尻シワ模型」((株)ビューラックス製、品番:No.145-2 シワグレード4)の縦5.6mm、横10.4mmの面積にパターニング印刷を行い、液体組成物の微小液滴を付与した。なお、パターニング印刷はレプリカサンプルに形成されているシワモデルの目尻の深いシワ部分を避けてシワ周辺部に行った。
パターニング印刷装置は、ピエゾジェットディスペンサー「PICO PμlseバルブSD」(ノードソンEFD社製)を用い、液剤ボディアッセンブリーとして「FLUID ASSY Pμlse MST 3.0S F0 E05」(開口部50μm、ボールサイズ3.0S)を用いた。なお、ディスペンサーの移動はノードソン(株)製「PRO4」を用いた。
なお、表1~表4に示す1滴あたりの微小液滴の質量は、微小液滴を吐出した際の液体組成物の質量変化により算出し、微小液滴の平均直径及び印刷ピッチは、光学顕微鏡を用いた観察により、測定対象を20点測定し、その平均値を測定値として得た。表1~表4に示す印刷パターンは以下のとおりである。
印刷パターン1:
図3に示すように正方形格子状パターンを用いて、該パターンの端部から図示する番号順に横方向に微小液滴を付与して印刷領域の全面に一様に印刷を行う。
印刷パターン2:
図4に示すように正方形格子状パターンを用いて、該パターンの端部から図示する番号順に横方向に各格子の領域を1つおきに微小液滴を付与した後、微小液滴を付与しなかった各格子の領域に微小液滴を付与して印刷を行う。格子の縦方向に関しては間引くことなく隣接して印刷を行う。
印刷パターン3:
図5に示すように正方形格子状パターンを用いて、該パターンの端部から図示する番号順に横方向及び縦方向に各格子の領域を1つおきに微小液滴を付与した後、微小液滴を付与しなかった各格子の領域に微小液滴を付与して印刷を行う。
(工程2)
次いで、微小液滴を付与した人工皮膚模型を40℃に設定した恒温槽中で10分乾燥させた。シワの改善効果を以下に示す方法で評価した。結果を表1~表4に示す。
【0094】
比較例1
表1に示す液体組成物に変更した以外は、実施例1と同様にしてシワの改善効果を評価した。結果を表1に示す。
【0095】
比較例2
表1に示す液体組成物1を用い、マイクロシリンジ(ハミルトン社製)を用いて、1滴当たりの質量が30,000μgである微小液滴を前記人工皮膚模型「バイオスキン 目尻シワ模型」に付与した後(工程1’)、実施例1と同様にして微小液滴を乾燥させた(工程2)。次いで、シワの改善効果を以下に示す方法で評価した。結果を表1に示す。
【0096】
<評価>
(シワ改善効果の定量的評価)
実施例及び比較例で得られた評価サンプルを用いて、目尻のシワ改善効果の定量的評価として画像解析ソフト(アメリカ国立衛生研究所製、ImageJ)を用いた画像評価を行った。
まず、標準光源装置「マクベスジャッジII」(光源:D65ランプ)(エックスライト社)を用い、標準光源ブース内の中央に実施例及び比較例で得られた評価サンプルを置き、デジタルカメラにて撮影した。
次いで、撮影した画像をImageJを用いて8ビットのグレースケール画像に変換した後、シワモデルが形成されている領域(横2280ピクセル×縦2790ピクセル)を抜き出し、濃淡のヒストグラムデータを抽出した。得られたデータは0~255までの256階調となっており、それぞれの濃淡濃度ごとに対応するピクセル数が計上される。濃淡濃度値としては、暗い箇所は0に近く、明るい箇所は255に近くなる。また、得られたデータの総数は10,000ピクセルを超えるため、10,000ピクセルあたりのピクセル数に変換し、小数点以下第1位を四捨五入し、整数値として扱った。
上記の撮影プロセスにおいて、画像評価の信頼性を高めるため、濃淡のヒストグラムの数値として0又は255を示すピクセルが検出された場合、0であれば光源が暗すぎる状態とし、255であれば光源が明るすぎる状態として、光源の調整を行ったところ、実施例及び比較例で得られた評価サンプルの撮影では、0~5及び235~255の範囲の数値を示すピクセルは観察されないことを確認した。
また、用いた人工皮膚模型ごとの個体差を確認するため、同一の露光条件でピクセル数を測定し、その平均値と振れ幅を求めたが、平均値からの振れ幅は全ての領域で±5%の範囲に収まっていることを確認した。そして、皮膚処理前の人工皮膚模型についても、実施例及び比較例で得られた評価サンプルと同様の方法により、デジタルカメラにて撮影し、撮影した画像をImageJを用いて8ビットのグレースケール画像に変換し、10,000ピクセルあたりのピクセル数に変換した。
得られたデータを濃淡濃度が0~20の範囲に含まれるピクセル数、濃淡濃度0~30の範囲に含まれるピクセル数、濃淡濃度0~40の範囲に含まれるピクセル数をそれぞれ合算した。
皮膚の見た目としてはシワが暗く観察される箇所が目立ち、濃淡濃度が0~20の範囲に含まれるピクセル合計数がシワの最も重要な指標となる。そのため、濃淡濃度が0~20の範囲に含まれる、皮膚処理前のピクセル合計数に対する皮膚処理後のピクセル合計数の比率をシワの改善率(1)(%)として算出し、評価に用いた。シワの改善率(1)の値が小さいほど、目尻のシワ改善効果に優れることを示す。
また、濃淡濃度が0~30の範囲及び濃度が0~40の範囲に含まれる皮膚処理前後のピクセル合計数から、シワの改善率(1)(%)と同様にそれぞれシワの改善率(2)(%)及びシワの改善率(3)(%)を算出し、これらも評価に用いた。シワの改善率(2)及びシワの改善率(3)の値も小さいほど、目尻のシワ改善効果に優れることを示す。
【0097】
(シワ改善効果の定性的評価)
実施例及び比較例で得られた評価サンプルの目尻の小ジワの改善効果の程度を目視による観察で定性的に評価した。
〔評価基準〕
5:目尻の小ジワが全く見えなくなり、処理後の見た目も自然であった。
4:目尻の小ジワがかなり薄くなり、処理後の見た目も自然であった。
3:目尻の小ジワがやや薄くなり、処理後の見た目も自然であった。
2:目尻の小ジワがほとんど薄くならず、処理前とあまり変化がなかった。
1:目尻の小ジワが全く薄くならない又は処理前よりも小ジワが増加し、処理後の見た目が不自然であった。
【0098】
(シワ改善効果の持続性の定量的評価)
実施例及び比較例で得られた評価サンプルを用いて、目尻のシワ改善効果の持続性の定量的評価として、評価サンプルに変形を与えた後、前記シワ改善効果の定量的評価と同様の方法で画像評価を行った。
評価サンプルの変形は、25℃、50%RHの環境下において該サンプルを10分間放置することで該サンプルの温度と湿度を調整し、直径80mmの表面が円滑な樹脂製円筒に、処理を施した印刷面が外側に向くように評価サンプルを1秒間かけて巻きつけた。再度1秒間かけて評価サンプルを平面状に戻す操作を1回とし、100回の変形操作を行った。
次いで、変形を与えた評価サンプルを用いて、前記シワ改善効果の定量的評価と同様の方法で画像評価を行った。
前述のシワ改善効果の定量的評価と同様に、皮膚の見た目としてはシワが暗く観察される箇所が目立ち、濃淡濃度が0~20の範囲に含まれるピクセル合計数がシワの最も重要な指標となる。そのため、シワ改善効果の持続性の指標として、濃淡濃度が0~20の範囲に含まれる、皮膚処理前のピクセル合計数に対する皮膚処理後のピクセル合計数の比率をシワの持続的改善率(4)(%)として算出し、評価に用いた。シワの持続的改善率(4)の値が小さいほど、目尻のシワの改善効果の持続性に優れることを示す。
また、濃淡濃度が0~30の範囲及び濃度が0~40の範囲に含まれる皮膚処理前後のピクセル合計数から、シワの持続的改善率(4)(%)と同様にそれぞれシワの持続的改善率(5)(%)及びシワの持続的改善率(6)(%)を算出し、これらも評価に用いた。シワの持続的改善率(5)及びシワの持続的改善率(6)の値も小さいほど、目尻のシワの改善効果の持続性に優れることを示す。
また、本持続性評価においては、前記シワの改善率(1)とシワの持続的改善率(4)の差[シワの持続的改善率(4)-シワの改善率(1)]の値が小さいことが好ましい。この差が小さいことは、一度施術されたシワの改善が、外力や急な変形を受けても良好な状態で維持されることを示す。したがって、表1~表4には差[シワの持続的改善率(4)-シワの改善率(1)]の値も示す。同様に前記シワの改善率(2)とシワの持続的改善率(5)の差、及び前記シワの改善率(3)とシワの持続的改善率(6)の差についても、差が少ないことが好ましい。
【0099】
各表に示す実施例及び比較例で用いた配合成分の詳細は以下のとおりである。
なお、各表に示す他の成分の配合量(質量%)は、いずれも有姿である。
*1:信越化学工業(株)製「NBN-30-ID」(下記式(6)においてモル比(e/f)=60/40、Mn=36万の(ノルボルネン/トリス(トリメチルシロキシ)シリルノルボルネン)コポリマーのイソドデカン溶液、有効分濃度:30質量%)を50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固形分を使用した。
【化19】
【0100】
*2:信越化学工業(株)製「TSPL-30-ID」(トリ(トリメチルシロキシ)シリルプロピルカルバミド酸プルランのイソドデカン溶液、有効分濃度:30質量%)を50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固形分を使用した。
*3:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「XS66-B8226」(トリフルオロプロピルジメチル/トリメチルシロキシケイ酸のシクロペンタシロキサン溶液、有効分濃度:50質量%)を50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固形分を使用した。
*4:信越化学工業(株)製「X-21-5595」(トリメチルシロキシケイ酸のイソドデカン溶液、有効分濃度:60質量%)を50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固形分を使用した。
*5:調製例1で得られたポリメタクリル酸
*6:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(Alfa Aesar社製、重量平均分子量70,000)
*7:信越化学工業(株)製「KP-550」(アクリルポリマーとジメチルポリシロキサンからなるグラフト共重合体のイソドデカン溶液、有効分濃度:40質量%)を50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固形分を使用した。
*8:信越化学工業(株)製「KF-96L-0.65cs」
*9:日清オイリオ(株)製「コスモール42V」
*10:日清オイリオ(株)製「サラコス913」
*11:日清オイリオ(株)製「サラコス334」
*12:味の素(株)製「エルデュウCL-301」
*13:味の素(株)製「エルデュウPS-306」
*14:日油(株)製「パールリームEX」
*15:日清オイリオ(株)製「ノムコートW」
*16:信越化学工業(株)製「KF-96A-6cs」
*17:信越化学工業(株)製「KSP100」
*18:信越化学工業(株)製「KSG-42A」(イソドデカン溶液、有効分濃度20質量%)
*19:信越化学工業(株)製 KSG-210(ジメチルポリシロキサン(動粘度6mm2/s)溶液、有効分濃度25質量%)
*20:信越化学工業(株)製 KSG-320(イソドデカン溶液、有効分濃度25質量%)
*21:東レ・ダウコーニング社製 トレフィルE-506S
*22:信越化学工業(株)製 KSG-16(ジメチルポリシロキサン(動粘度6mm2/s)溶液、有効分濃度25質量%)
【0101】
【0102】
表1より、実施例1~15は、比較例1,2と比べて、定量的にも定性的にも目尻の小ジワが目立ち難く、処理後の見た目も良好であることが分かる。
シワ改善効果について、実施例13の結果を
図8、比較例2の結果を
図9に示す。
図8(8a)及び
図9(9a)はそれぞれ皮膚処理前のシワ周辺部の写真であり、
図8(8b)及び
図9(9b)はそれぞれ皮膚処理後のシワ周辺部の写真である。
図8に示すように、実施例13では、シワの周辺部の小ジワが目立たなくなっているのに対し、
図9に示すように、比較例2では、処理前にはなかった見た目にも不自然なシワが新たに形成され、塗膜の表面には微細な凹凸ムラが発生していることが分かる。
【0103】
【0104】
表2より、実施例16~21は、ポリマーAの種類又は揮発性溶媒Bの変更によらず、定量的にも定性的にも目尻の小ジワが目立ち難くなることが分かる。
【0105】
【0106】
【0107】
表3及び表4より、実施例22~39は、任意成分の添加によらず、定量的にも定性的にも目尻の小ジワが目立ち難くなることが分かる。
【0108】
実施例40~54及び比較例3
(工程1)
表5に示す液体組成物及び条件を用いて、皮膚のレプリカサンプルとして人工皮膚模型「バイオスキン 目尻シワ模型」((株)ビューラックス製、品番:No.145-2 シワグレード8)の縦5.6mm、横10.4mmの面積にパターニング印刷を行い、液体組成物の微小液滴を付与した。なお、パターニング印刷は目尻の深いシワ部分の両端に沿うように行った。
実施例40~51においては、パターニング印刷装置として、ハンディインクジェットプリンター「KGKJET HQ1000H」(紀州技研工業(株)製)を、ノードソン(株)製「PRO4」によって印刷ピッチを制御できるように改修した装置を用いた。インクカートリッジ「TK403黒-CSカートリッジ」(紀州技研工業(株)製)は、該内部をイオン交換水及びエタノールで洗浄し、電気伝導度0.6μS/cm以下のイオン交換水を充填し、インクジェットヘッドから吐出させたイオン交換水を捕集し、電気伝導度が1.0μS/cm以下となったことを確認した後、該内部を空にして真空乾燥器で乾燥させてから用いた。
実施例52~54及び比較例3においては、パターニング印刷装置として、実施例1と同様に前記ピエゾジェットディスペンサーを用いた。
なお、表5に示す1滴あたりの微小液滴の質量、並びに微小液滴の平均直径及び印刷ピッチは、前述と同様の方法により得た。表5に示す印刷パターンの各番号に関しても前述のとおりである。
(工程2)
次いで、微小液滴を付与した人工皮膚模型を40℃に設定した恒温槽中で10分乾燥させた。シワ改善効果及びシワ改善効果の持続性を前述と同様の方法で評価した。結果を表5に示す。
【0109】
【0110】
表5より、実施例40~54は、比較例3と比べて、定量的にも定性的にも目尻の小ジワが目立ち難くなることが分かる。
シワ改善効果について、実施例42の結果を
図10に示す。
図10(10a)は皮膚処理前のサンプルのシワ周辺部の写真であり、
図10(10b)は皮膚処理後のシワ周辺部の写真である。
図10に示すように、実施例42では、白い枠で囲った部分の小ジワが目立たなくなっていることが分かる。
【0111】
<涙袋の形成>
実施例55~69及び比較例4
(工程1)
表6に示す液体組成物及び条件を用いて、皮膚のレプリカサンプルとして、幅3cm、長さ4cmに裁断した銀面調の人工皮革(イデアテックスジャパン(株)製、商品名:サプラーレPBZ13001)を皮膚キメ再現面の縦30mm、横20mmの面積にパターニング印刷を行い、液体組成物の微小液滴を付与した。
実施例55~66においては、パターニング印刷装置として、実施例40で用いた前記ハンディインクジェットプリンター及び前記インクカートリッジを用いて、実施例40と同様に該インクカートリッジは洗浄及び乾燥させてから用いた。
実施例67~69及び比較例4においては、パターニング印刷装置として、実施例1と同様に前記ピエゾジェットディスペンサーを用いた。
なお、表6に示す1滴あたりの微小液滴の質量、並びに微小液滴の平均直径及び印刷ピッチは、前述と同様の方法により得た。表6に示す印刷パターンは以下のとおりである。
印刷パターン4:
図11に示すように長方形格子状パターンを用いて、該パターンの端部から図示する番号順に縦方向に微小液滴を付与して印刷領域の全面に一様に印刷を行う。
印刷パターン5:
図12に示すように長方形格子状パターンを用いて、該パターンの端部から図示する番号順にらせん状に各格子の領域へと微小液滴を付与し、印刷を行う。
印刷パターン6:
図13に示すように長方形格子状パターンを用いて、該パターンの端部から図示する番号順にらせん状に各格子の領域へと微小液滴を付与し、1つおきに微小液滴を付与した後、微小液滴を付与しなかった各格子の領域に微小液滴を付与して印刷を行う。
(工程2)
次いで、微小液滴を付与した人工皮膚模型を40℃に設定した恒温槽中で10分乾燥させた。得られた評価サンプルを用いて、涙袋形成効果を以下に示す方法で評価した。結果を表6に示す。
【0112】
比較例5
表6に示す液体組成物を用い、皮膚のレプリカサンプルとして、幅3cm、長さ4cmに裁断した銀面調の人工皮革(イデアテックスジャパン(株)製、商品名:サプラーレPBZ13001)を皮膚キメ再現面に前記マイクロシリンジを用いて、1滴あたりの微小液滴の質量が30,000μgとなるように微小液滴を付与した(工程1’)、微小液滴を付与した人工皮革を40℃に設定した恒温槽中で10分乾燥させた(工程2)。
しかしながら、人工皮革に付与された液体組成物の微小液滴の乾燥に伴って、人工皮革のシワモデルに変形が加わるが、塗膜の表面に微細な凹凸ムラが発生し、意図した人工皮革が盛り上がるような起伏形状は得られなかった。
得られた評価サンプルを用いて、涙袋形成効果を以下に示す方法で評価した。結果を表6に示す。
【0113】
<評価>
(目視での涙袋形成効果の評価)
実施例及び比較例で得られた評価サンプルの涙袋形成効果の程度を目視観察し、評価者5人で下記の評価基準で各じ5点満点の評価を行い、得られたスコアの合算値を表6に示す。この合算値が高いほど、涙袋が良好に形成されていることを示す。
〔評価基準〕
5:非常に大きな涙袋状の盛り上がった起伏形状が得られ、見た目も自然である。
4:涙袋として遜色のない盛り上がった起伏形状が得られ、見た目も自然である。
3:涙袋状の盛り上がった起伏形状が確認でき、見た目もほとんど問題がない。
2:わずかに盛り上がった変形が認められるが、涙袋状の起伏形状としては不十分であり、見た目が不自然で、実用上問題がある。
1:盛り上がった変形がほとんど見られない。
【0114】
【0115】
表6より、実施例55~69は、比較例4,5と比べて、涙袋状の盛り上がった起伏形状を良好に形成できたことが分かる。
涙袋形成効果について、実施例57の結果を
図14に示す。
図14(14b)は
図14(14a)の写真に凸部を示す補助線を付けた写真である。
図14(14b)に示すように、実施例57では、補助線に沿って皮膚処理を施した部分が盛り上がった起伏形状が形成されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の方法によれば、皮膚の外的形状を非侵襲でかつ見た目の自然さを損なわずに微細に制御することができるため、皮膚のシワの改善、皮膚の起伏形状の形成又はたるみの改善に用いることができる。
【符号の説明】
【0117】
1 ポリエチレンシート
1a ポリエチレンシート1の短辺の一端
1’ ポリマー膜付きポリエチレンシート
2 ポリマー溶液を塗布した部分
21 微小液滴
22 皮膚