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特許7523261希土類元素含有物から希土類酸化物を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】希土類元素含有物から希土類酸化物を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20240719BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240719BHJP
   C22B 9/16 20060101ALI20240719BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20240719BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240719BHJP
   C01F 17/224 20200101ALI20240719BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B7/00 F
C22B9/16
C22B3/06
C22B3/44 101Z
C01F17/224
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020111868
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2021175818
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2020077557
(32)【優先日】2020-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒井 誠也
(72)【発明者】
【氏名】小川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 勉功
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-186121(JP,A)
【文献】特開2014-177666(JP,A)
【文献】特開2004-068082(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102978401(CN,A)
【文献】米国特許第05174811(US,A)
【文献】特開2013-199698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
C22B 7/00
C22B 9/16
C22B 3/06
C22B 3/44
C01F 17/224
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石を含む製品または半製品の廃棄物に、融点降下剤、酸化剤およびアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩を添加して加熱溶融し、前記廃棄物中の希土類元素が前記ホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離することを含む、希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法であって、
前記希土類磁石は、ネオジム、鉄およびホウ素を含有するネオジム磁石を含み、
前記ホウ酸塩は、テトラホウ酸ナトリウム(Na )、テトラホウ酸バリウム(BaB )またはホウ酸カルシウム(CaB )を含み、
前記融点降下剤は、鉄の融点を降下させるものであり、炭素を含み、
前記酸化剤は、希土類元素を酸化するものであり、
前記ホウ酸塩の添加量が、前記ホウ酸塩と前記希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量である、希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法;
ここで希土類磁石の主材料とは、希土類磁石中の希土類成分が全てRE形式の酸化物に酸化した、とみなした際に最も質量の大きい希土類酸化物であり、REとは、Nd、Ce、La、Pr、Dy、Tbのうちいずれか1つ以上の希土類元素を意味する。
【請求項2】
前記酸化剤は、空気、酸素、二酸化炭素、Al 、SiO 、PbO、CuO、酸化鉄および酸化鉄を含む複合酸化物から選択される少なくとも1種を含み、請求項1に記載の希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法。
【請求項3】
前記ホウ酸塩が、テトラホウ酸ナトリウム(Na )を含み、
前記テトラホウ酸ナトリウム(Na)の添加量は、前記添加量と前記希土類磁石の希土類質量との総和に対して、15~23mass%である、請求項1または2に記載の希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法;
ここで希土類質量とは、希土類磁石中の希土類成分が全てRE形式の酸化物に酸化した、とみなした際の質量であり、REとは、Nd、Ce、La、Pr、Dy、Tbのうちいずれか1つ以上の希土類元素を意味する。
【請求項4】
前記ホウ酸塩が、テトラホウ酸バリウム(BaB )を含み、
前記テトラホウ酸バリウム(BaB)の添加量は、前記添加量と前記希土類磁石の希土類質量との総和に対して、22~33mass%である、請求項1または2に記載の希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法;
ここで希土類質量とは、希土類磁石中の希土類成分が全てRE形式の酸化物に酸化した、とみなした際の質量であり、REとは、Nd、Ce、La、Pr、Dy、Tbのうちいずれか1つ以上の希土類元素を意味する。
【請求項5】
前記ホウ酸塩が、ホウ酸カルシウム(CaB )を含み、
前記ホウ酸カルシウム(CaB)の添加量は、前記添加量と前記希土類磁石の希土類質量との総和に対して、42~52mass%である、請求項1または2に記載の希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法;
ここで希土類質量とは、希土類磁石中の希土類成分が全てRE形式の酸化物に酸化した、とみなした際の質量であり、REとは、Nd、Ce、La、Pr、Dy、Tbのうちいずれか1つ以上の希土類元素を意味する。
【請求項6】
少なくとも次の(1)~(4)の順次の工程;
(1)希土類磁石を含む製品または半製品の廃棄物に、融点降下剤を添加して、加熱溶融する工程;
(2)加熱溶融後の溶体に酸化剤を添加する工程;
(3)溶体にアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩を添加する工程;
(4)溶体を冷却することなくまたは冷却して希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離させ、希土類富化相を取りだす工程;
を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法。
【請求項7】
前記希土類富化相を酸で浸出処理し、得られた希土類元素浸出液中の希土類元素を塩として沈殿させ、沈殿物を加熱して希土類元素を酸化物として回収することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法。
【請求項8】
少なくとも次の(1)~(7)の順次の工程;
(1)希土類磁石と鋼材を含む製品または半製品の廃棄物に、融点降下剤を添加して、加熱溶融する工程;
(2)加熱溶融後の溶体に酸化剤を添加する工程;
(3)溶体にアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩を添加する工程;
(4)溶体を冷却することなくまたは冷却して希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離させ、希土類富化相を取りだす工程;
(5)希土類富化相を酸で浸出処理する工程;
(6)得られた希土類元素浸出液中の希土類元素を塩として沈殿させる工程;
(7)沈殿物を加熱して希土類元素を酸化物として回収する工程;
を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素含有物から希土類酸化物を回収する方法に関する。特に、希土類磁石が用いられたモータから希土類酸化物を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は、ディスプレイ用蛍光体、蛍光灯、センサ、永久磁石、燃料電池など様々な製品に使用されており、パソコンや、スマートフォン、電気自動車などのハイテク機器類の製造には欠くことのできない物質である。近年、これらのハイテク機器の普及にともない、希土類元素の需要が高まっているものの、希土類元素は産出地が限られ、その産出量が少なく、価格も高騰している。このため、廃棄されたハイテク機器類の希土類元素含有物から希土類元素を回収する技術の開発や、改良が求められている。
【0003】
従来の希土類元素含有物から希土類元素を回収する方法としては、対象物を酸や溶媒に溶解し、固液分離や溶媒抽出によって各希土類元素に分離を行う湿式法と、対象物をフラックスと共に加熱溶融し、フラックス中に酸化物や炭素などの不純物を抽出する乾式法が知られている。これらの方法のうち、湿式法では、酸や溶媒などの薬剤を大量に使う必要があり、処理後に廃液が大量に発生するという問題がある。また、湿式法では、対象物から酸や溶媒中に希土類元素を溶出させるのに時間がかかるといった問題もある。一方、乾式法には、フラックスの共存下で希土類元素含有物を加熱溶融させる工程のみによって容易に希土類元素の抽出を行うことができ、かつ廃液等の発生も抑えられるという特徴がある。
【0004】
例えば、既存の乾式法として、希土類元素含有物を酸化ホウ素(B)フラックスの共存下で加熱溶融することで、B相と、その下方のB相よりも希土類元素が富化された相と、さらにその下方の希土類元素をほとんど含有しないFe含有相と、の3相を形成する工程を含む希土類元素含有物からの希土類元素濃縮方法が知られている。
【0005】
しかしながら、上記した酸化ホウ素(B)をフラックスとして用いた方法では、B相の粘性が非常に高くなり、3相分離後の各相の回収が非常に困難であった。また、溶解物の粘性が高いと、希土類元素の回収の連続操業にあたり、坩堝からの傾注工程において傾注後の溶解物を十分に相分離できないおそれがあった。
【0006】
また、他の既存の乾式法として、アルカリ金属元素またはアルカリ土類金属元素の一種以上であるアルカリ系元素(AE)、ホウ素(B)および酸素(O)を含む反応剤との混合物を加熱し、酸化還元反応させて、反応後冷却して得られた凝集物から、希土類酸化物を主に含む第一生成物と、FeとBを主に含む第二生成物とに分離する工程を備えた再生可能資源回収方法が知られている。
【0007】
しかしながら、上記したAE、BおよびOを含む反応剤を用いた方法では、添加したAE、BおよびOを含む反応剤が希土類磁石中の希土類金属と反応して還元されてしまうことがある。その結果、反応剤としての機能が低下し、必ずしも希土類元素の回収率が良好であるとは言い難い側面があった。また、第二生成物における溶鉄中のB(ボロン)濃度が上がり、鋳物用の銑鉄および一般的な鉄鋼の原料としての利用が制限される。また、上記したAE、BおよびOを含む反応剤を用いた方法では、希土類元素含有物が磁石単体であれば、第二生成物としてフェロボロンが得られるが、希土類元素含有物として、磁石以外の部材を含むスクラップなどを処理した場合は、シリコン、マンガンなども含まれるため、フェロボロンとして利用可能か不明である。
【0008】
上記した既存の乾式法の課題を解決すべく、特許文献1には、希土類磁石と鋼材を含む製品または半製品の廃棄物に、融点降下剤、酸化剤およびナトリウムホウ酸塩を添加し、溶融することで、RE-B系スラグ(RE:Nd、Pr、Dy、Tb)とFe-C相との二相に分離して、回収することを特徴とする希土類元素含有物からの希土類元素回収方法が提案されている。また、非特許文献1には、0~25mol%Nd(0~38mass%のNd)を含んだNd-Na系のガラスに関する例が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-186121号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】INFRARED SPECTROSCOPIC AND MAGNETIC BEHAVIOUR OF xNd2O3(1-x)Na2B4O7GLASSES,E.CULEA and BRATU,Acta mater.49(2001)123-125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の回収方法では、「ナトリウムホウ酸塩の添加量が、希土類磁石の質量に対して、0.5~10倍となるように・・・」と記載されている。このナトリウムホウ酸塩の添加量を、後述する本発明の請求項1と同じ“割合の定義”で表現をすると、「ナトリウムホウ酸塩の添加量は、ナトリウムホウ酸塩添加量と希土類磁石中の希土類成分がRE形式に酸化した際の希土類酸化物重量との総和に対し、60mass%~となるように・・・」となる。このようにリサイクルプロセスで使用するナトリウムホウ酸塩(フラックス)量は多く、磁石リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を増加させてしまうという問題点があった。ナトリウムホウ酸塩(フラックス)に使用されるホウ素は、環境規制物質であり、その使用量の低減が求められているにもかかわらず、当該回収方法では、その使用量を多く必要とする点が問題であった。
【0012】
また、非特許文献1でも、38mass%以上のNdを含んだNd-Na系に関する報告はなされていない。このことからNd-Na状態図において、Naフラックスを62mass%以上添加しないと、均一融体が生成しないと考えられていた。このNaフラックス量は、後述する本発明の請求項1と同じ“割合の定義”で表現したものであり、ナトリウムホウ酸塩(Naフラックス)重量と希土類酸化物(Nd)重量との総和に対し、62mass%以上である。したがって、Nd-Na系のガラスの作製ではあるが、特許文献1と同様に、当該プロセスで使用するナトリウムホウ酸塩(フラックス)量が多く必要であり、磁石リサイクルに適用したとしても、当該リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を増加させてしまうという問題点があった。
【0013】
そこで、本発明は、従来の乾式法の中でも優れている特許文献1に記載の回収方法に対して、さらに磁石リサイクルに関するコストを低減することのできる希土類酸化物の回収方法を提供することを目的とする。
【0014】
なお、本発明では、廃棄された希土類元素含有物から希土類酸化物(最終的な回収物である希土類元素の、いわば中間品)を回収する方法技術の開発や、改良が求められていることに鑑みて、希土類酸化物を回収する方法を提案するものである。これは、廃棄された希土類元素含有物から希土類酸化物が回収できれば、周知慣用な方法である溶融塩電解法やCa還元法を用いて簡単に希土類元素を回収できるためである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。従来、Nd-Na状態図において、Naを60mass%以上添加しないと、均一融体が生成しないと考えられていた。言い換えれば、Nd-Na系の状態図の報告例は存在していないことから、60mass%より少ない量のナトリウムホウ酸塩(フラックス)で均一融体が生成できるとは考えられていなかった。かような技術常識が存在していたにも拘わらず、本発明者らは、60mass%より少ない固相・液相混合領域の中のごく一部のみに均一融体が生成することを見出したものである。即ち、20mass%近傍域のみでNaのNd-Naが均一融体(液相領域)を形成するとの知見は本発明の独創的な点と言える。本発明者らは、さらに幾多の実験を重ねた結果、ナトリウムホウ酸塩(フラックス)以外の他のホウ酸塩においても、従来法のホウ酸塩量60mass%以上添加しないと均一融体が生成しないとの知見に対し、より少ない量の固相・液相混合領域の中のごく一部のみに均一融体(液相領域)が生成することを見出したものである。すなわち、本発明の目的(解決すべき課題)は、以下に示す手段により達成することができる。
【0016】
希土類磁石を含む製品または半製品の廃棄物に、融点降下剤、酸化剤およびアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩を添加して加熱溶融し、前記廃棄物中の希土類元素が前記ナトリウムホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離することを含む、希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法であって、
前記ホウ酸塩の添加量が、前記ホウ酸塩と前記希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量である、希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法;
ここで希土類磁石の主材料とは、希土類磁石中の希土類成分が全てRE形式の酸化物に酸化した、とみなした際に最も質量の大きい希土類酸化物であり、REとは、Nd、Ce、La、Pr、Dy、Tbのうちいずれか1つ以上の希土類元素を意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の希土類酸化物の回収方法によれば、フラックスであるアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩の添加量を従来法の添加量(60mass%以上)に対して、概ね15%~50%低減することができ、磁石リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を低減することができる。また、前記ホウ酸塩の使用量を低減することで、環境規制物質であるホウ素の使用量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例、比較例及び参考例で得られた実験結果に基づき作成したNd-Na擬二元系型状態図を示す図面である。図中の○印は、測定により液相領域であることが確認された箇所であり、×印は、測定により固相・液相混合領域であることが確認された箇所である。
図2】Fe-C2元系型状態図を示す図面である。
図3】本発明の一実施形態のアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩をフラックスとして使用する希土類磁石から最終的な回収物である希土類元素までのリサイクルプロセスを表す図面である。
図4】本発明の一実施形態の溶融処理の概略を表す図面である。
図5】本発明の一実施形態のシュウ酸塩沈殿による希土類酸化物の回収フローを表す図面である。
図6】本発明の実施例及び比較例で得られた実験結果に基づき作成したNd-BaB擬二元系型状態図を示す図面である。図中の○印は、測定により液相領域であることが確認された箇所であり、×印は、測定により固相・液相混合領域であることが確認された箇所である。
図7】本発明の実施例及び比較例で得られた実験結果に基づき作成したNd-CaB擬二元系型状態図を示す図面である。図中の○印は、測定により液相領域であることが確認された箇所であり、×印は、測定により固相・液相混合領域であることが確認された箇所である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明の一形態は、希土類磁石を含む製品または半製品の廃棄物に、融点降下剤、酸化剤およびアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩を添加して加熱溶融し、前記廃棄物中の希土類元素が前記ホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離することを含む、希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法であって、
前記ホウ酸塩の添加量が、前記ホウ酸塩と前記希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量である、希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法である。ここで希土類磁石の主材料とは、希土類磁石中の希土類成分が全てRE形式の酸化物に酸化した、とみなした際に最も質量の大きい希土類酸化物であり、REとは、Nd、Ce、La、Pr、Dy、Tbのうちいずれか1つ以上の希土類元素を意味する。かかる構成を有することにより、上記した発明の効果を奏することができる。以下、本形態の希土類元素含有物からの希土類酸化物の回収方法につき、構成要件ごとに詳しく説明する。
【0021】
<希土類元素含有物>
本明細書における、「希土類元素含有物」は、希土類磁石を含む製品または半製品の廃棄物が含まれる。なかでも、希土類磁石と鋼材を含む製品または半製品の廃棄物が好ましい。希土類磁石は、希土類元素、すなわちスカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムの17元素のいずれか1種以上を含有する合金を用いた磁石であれば特に限定されない。本発明の実施形態においては、希土類磁石にはネオジム、プラセオジム及びジスプロシウムから選択される少なくとも一種が含まれる。
【0022】
鋼材は、例えば、製品と一体化された鉄を主成分とする鋼板やネジ、製品のケース、シャーシなどを含んでいる。鉄の含有量については特に限定されない。鋼材は、磁性鋼材であってもよく、また、その組成はNi、Cr、Si、Coなどを含む各種であってもよい。希土類磁石と鋼材を含む場合には、これら全体の鉄量に対して、炭素量を適宜調整することで、希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離させることができる。一方、鋼材を含まない場合、例えば、鉄分を希土類磁石のみが有する場合には、希土類磁石中の鉄量に対して、炭素量を適宜調整することで、希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離させることができる。
【0023】
また、「希土類元素含有物」は混合物、化合物、焼結物、合金、及びこれらの組み合わせなど種々の形態を取ることができる。また、希土類元素含有物には、希土類元素を含有する合金を用いた製品や、製品または半製品の廃棄物、製造工程で生じる端材や不良品などの廃棄物が含まれる。
【0024】
希土類磁石を含む製品または半製品は、希土類磁石単体のみならず、希土類磁石を一部材として含んでいる形態であっても、本発明の希土類酸化物の回収方法を適用することができる。例えば、希土類磁石を一部材として含んでいるモータおよび空調設備のコンプレッサなどが例示される。このような、希土類元素含有物の形状は、製品の要部そのままの形状であってもよいし、分解してあってもよい。モータに組み込まれた希土類磁石を廃棄されたモータから取り外すことは非常に困難である。これに対し、本発明の希土類酸化物の回収方法においては、廃棄モータからの希土類酸化物の回収は廃棄モータから磁石を分離させることなく、モータそのものを処理することができる。このため、希土類元素含有物のリサイクルを簡便に行うことが可能になる。また、希土類磁石をあらかじめ粉砕する必要もない。すなわち、廃棄物および希土類磁石の形状は製品種により様々であり、希土類磁石を取り出すためには、例えば、「家電リサイクルにおけるネオジム磁石回収」(2011年11月29日、財団法人家電製品協会;https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/pdf/016_06_00.pdf)に記載のように、廃棄物形状に合わせた希土類磁石取り出し設備を設計する必要がある。そのためのコストが高いことが磁石リサイクルを妨げている要因の一つであった。本発明の実施形態では、廃棄物に、融点降下剤(炭素)、酸化剤(酸化鉄)およびアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩(フラックス)を添加して加熱溶融して分離、回収可能なため、廃棄物から希土類磁石を取り出す必要がないため、経済性の高い方法であると言える。
【0025】
さらに、従来技術では、希土類磁石を処理する際には、加熱などによる消磁が行われているが(例えば、上記「家電リサイクルにおけるネオジム磁石回収」の9~11頁参照))、本発明の希土類酸化物の回収方法においては、消磁していない希土類磁石を含む製品または半製品を用いることも可能である。
【0026】
さらにまた、前記製品または半製品によっては、防錆性や耐食性などを高めることを目的として、磁性鋼板などの鋼材や磁石の表面に各種メッキが施されているものがある。メッキは、希土類元素の回収の観点からは、不純物が増加するため好ましくなく、従来の方法においては、あらかじめ研磨などによって除去されている。しかしながら、本発明の希土類酸化物の回収方法においては、メッキを除去することなくそのまま希土類酸化物の回収に供することができる。
【0027】
<アルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩の添加>
本発明の希土類酸化物の回収方法では、希土類磁石を含む製品または半製品の廃棄物に、炭素(融点降下剤)、酸化鉄(酸化剤)およびアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩(フラックス)を添加して加熱溶融し、前記廃棄物中の希土類元素が前記ホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、ホウ素の含有量が例えば0.5質量%以下のFe-C相との二相に分離して、回収することができる。
【0028】
希土類磁石を含む製品または半製品の廃棄物に、前記ホウ酸塩フラックスを添加して加熱溶融すると、鉄成分が中心となる鉄が富化された相(以下、「Fe-C相」という。)、フラックス成分に希土類元素が濃縮されたスラグである希土類富化相の2相に溶融分離され、製品に組み込まれた状態の希土類磁石から容易に希土類元素を酸化物の形態で回収できる。Fe-C相の炭素(C)は、後述の炭素(融点降下剤)添加によって主として形成される。
【0029】
本発明の希土類酸化物の回収方法によれば、特に、希土類磁石を取り出すための分解工程や、希土類の脱磁工程などを要さず、低コストで大量に処理を行うことができる。すなわち、前記ホウ酸塩をフラックスとして用いることにより、フラックスを主成分とするスラグ部分にFe成分をほぼ残さない形で希土類元素の分離を行うことができる。また、前記ホウ酸塩をフラックスとして用いると、塩基性酸化物のアルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物が希土類富化相における酸性酸化物である酸化ホウ素特有のO-B-O-B-Oのネットワーク構造を(O-B-O)2M (O-B-O)(ここで、Mはアルカリ金属元素である)、又は(O-B-O) 2+(O-B-O)(ここで、Mはアルカリ土類金属元素である)となるように破壊する。これにより、スラグの粘性が低くなり、坩堝(るつぼ)上部からの傾注等の操業が容易になる。図2は、Fe-C2元系状態図である。傾注時は、希土類富化相(スラグ)、Fe-C相(図2参照)ともに液相となる。希土類富化相(スラグ)は密度がFe-C相に比べて小さいため、るつぼを傾注することで密度の小さい希土類富化相(スラグ)のみを分離回収することができる。特に、10質量%以上の前記ホウ酸塩をフラックスとして添加すると、酸化ホウ素フラックスを用いた場合と比較して、粘度が1/100程度にまで低下するため、傾注等の作業が容易になる。さらに、モータに使われる電磁鋼板内のSiは磁石の酸化過程でSiOになっており、前記ホウ酸塩がSiO固体を溶解し、Fe-C相からSi成分を分離できるという観点からも有利となる。
【0030】
このような、アルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩としては、例えば、テトラホウ酸ナトリウム(Na:ホウ砂)、テトラホウ酸リチウム(Li)、テトラホウ酸カリウム(K)、テトラホウ酸ルビジウム(Rb)、テトラホウ酸セシウム(Cs)、メタホウ酸ナトリウム(NaBO)、メタホウ酸リチウム(LiBO)、メタホウ酸カリウム(KBO)、メタホウ酸ルビジウム(RbBO)、メタホウ酸セシウム(CsBO)、テトラホウ酸バリウム(BaB)、テトラホウ酸マグネシウム(MgB)、テトラホウ酸カルシウム(CaB)、テトラホウ酸ストロンチウム(SrB)、ホウ酸マグネシウム(MgB)、ホウ酸カルシウム(CaB)、ホウ酸ストロンチウム(SrB)、ホウ酸バリウム(BaB)などが挙げられる。これらのうち、アルカリ金属元素のホウ酸塩としては、例えば、テトラホウ酸ナトリウム(Na:ホウ砂)を好適に使用することができる。テトラホウ酸ナトリウム(Na:ホウ砂)は、背景技術で説明した、既存の乾式法でフラックスとして用いているBや他の既存の乾式法で具体的に用いているホウ酸カルシウムおよびホウ酸マグネシウムよりも安価に入手することが可能であり、希土類酸化物の回収コストの低減に大いに寄与することができる。アルカリ土類金属元素のマグネシウム、カルシウムなどを含むホウ酸塩は、主体としてのテトラホウ酸ナトリウム(Na:ホウ砂)(アルカリ金属元素のホウ酸塩)と併用することも可能である。アルカリ土類金属元素のホウ酸塩としては、希土類酸化物の回収コストの低減に寄与することができることから、例えば、テトラホウ酸バリウム(BaB)、ホウ酸カルシウム(CaB)を好適に使用することができる。なかでも希土類酸化物の回収コストの低減に大いに寄与することができることから、テトラホウ酸バリウム(BaB)がより好ましい。
【0031】
本実施形態では、前記ホウ酸塩が、テトラホウ酸ナトリウム(Na)であり、希土類磁石がネオジム磁石であるのが好ましい。また、本実施形態では、前記ホウ酸塩が、テトラホウ酸バリウム(BaB)であり、希土類磁石がネオジム磁石であるのが好ましい。さらに、本実施形態では、前記ホウ酸塩が、ホウ酸カルシウム(CaB)であり、希土類磁石がネオジム磁石であるのが好ましい。すなわち、レアアース(Nd、Pr、Dy、Tb)等の希少金属を使用したネオジム磁石が環境対応車である電気自動車(EV)/ハイブリッド電気自動車(HEV)の駆動用、発電用モータで使用されている。レアアース(希土類元素)は調達リスクがあり、天然資源に乏しい我が国において、環境対応車の需要増加が予測される中では、ネオジム磁石からのレアアースのリサイクルが重要となる。ネオジム磁石の中のレアアースをリサイクルすることで、レアアースの調達リスクを低下させることができる点で優れている。通常、ネオジム磁石は、ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする希土類磁石の一つとして定義されている。ただし、本実施形態では、R、T、及びBを有するR-T-B系合金(ただし、RはNd、Pr、Dy、Tbからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことを必須とし、TはFeを必須とする遷移金属であり、Bはホウ素であって、一部が炭素又は窒素で置換可能である)の磁石として定義されるものを意味する。
【0032】
(前記ホウ酸塩の添加量)
アルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩の添加量は、前記ホウ酸塩と希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量であればよい。当該添加量とすることで、60mass%より少ない固相・液相混合領域の中のごく一部のみに生成可能な均一融体(液相領域)を形成させることができる。ここで希土類磁石の主材料とは、希土類磁石中の希土類成分が全てRE形式の酸化物に酸化した、とみなした際に最も質量の大きい希土類酸化物であり、REとは、Nd、Ce、La、Pr、Dy、Tbのうちいずれか1つ以上の希土類元素を意味する(希土類磁石の主材料の定義に関しては、以下、同様である)。これにより前記ホウ酸塩の添加量を、従来のホウ酸塩の添加量(60mass%以上)に対して低減することができる。その結果、磁石リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を低減することができる。また、前記ホウ酸塩の使用量を低減することで、環境規制物質であるホウ素の使用量を低減することができる。
【0033】
(前記ホウ酸塩の1種であるテトラホウ酸ナトリウム(Na)の添加量)
図1は、前記ホウ酸塩の1種であるテトラホウ酸ナトリウム(Na)と前記希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図である。図1の状態図は、今まで未報告領域であった60mass%Na以下の溶融状態についても測定して得られた、Nd-Na擬二元系型状態図である。図1に示すように、本実施形態では、前記ホウ酸塩の1種であるテトラホウ酸ナトリウムの添加量についても、上記したように、前記テトラホウ酸ナトリウムと前記希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量であればよい。これにより前記テトラホウ酸ナトリウムの添加量(図1の20mass%Na近傍の液相領域;均一融体生成域)を、従来のホウ酸塩の添加量(60mass%以上)に対して、1/2~1/3に低減することができる。その結果、磁石リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を低減することができる。また、前記テトラホウ酸ナトリウムの使用量を低減することで、環境規制物質であるホウ素の使用量を低減することができる。
【0034】
前記テトラホウ酸ナトリウムの添加量は、前記テトラホウ酸ナトリウムと希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量であればよいが、前記テトラホウ酸ナトリウムの添加量と前記希土類磁石の希土類質量との総和に対して、15~23mass%が好ましい。この範囲であれば、L+S(固相・液相混合領域)相が生成することもなく、均一液相が生成できる。そうなると、Fe-C相中に希土類成分が残らないため、希土類酸化物の回収率を高めることができる。また、L+Sが生成(混入)しないため、スラグの流動性が良くなり、希土類富化相(スラグ)とFe-C相の分離が容易に行えるため好ましい。さらに、前記テトラホウ酸ナトリウムの添加量は、前記テトラホウ酸ナトリウムの添加量と前記希土類磁石の希土類質量との総和に対して、生産性という観点からは、16~20mass%がより好ましい。この範囲であれば、図1に示すように、1300℃前後でも均一液相が生成するので、エネルギー消費量を少なくすることができる。また、液相線の中間位置であるため、磁石組成がばらついても、均一液相を生成することができる。また、この範囲において、フラックス(テトラホウ酸ナトリウム)の使用量を少なくしたいという観点からは、液相生成域の下限に近い方が、好ましいといえる。なお、希土類磁石と鋼材を含む廃棄物から希土類磁石の成分(希土類質量)を確認する方法としては、あらかじめ磁石の一部をサンプリングし、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)、蛍光X線分析(XRF)、ICP-AES等の元素分析装置を用いて、磁石中の成分を確認することができる(希土類磁石と鋼材を含む廃棄物から希土類磁石の成分(希土類質量)を確認する方法に関しては、以下、同様である)。
【0035】
(前記ホウ酸塩の1種であるテトラホウ酸バリウム(BaB)の添加量)
図6は、前記ホウ酸塩の1種であるテトラホウ酸バリウム(BaB)と前記希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図である。図6の状態図は、60mass%BaB以下の溶融状態について測定して得られた、Nd-BaB擬二元系型状態図である。図6に示すように、本実施形態では、前記ホウ酸塩の1種であるテトラホウ酸バリウムの添加量についても、上記したように、前記テトラホウ酸バリウムと前記希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量であればよい。これにより前記テトラホウ酸バリウムの添加量(図6の27mass%BaB近傍の液相領域;均一融体生成域)を、従来のホウ酸塩の添加量(60mass%以上)に対して、1/2~1/3に低減することができる。その結果、磁石リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を低減することができる。また、テトラホウ酸バリウムの使用量を低減することで、環境規制物質であるホウ素の使用量を低減することができる。
【0036】
前記テトラホウ酸バリウムの添加量は、前記テトラホウ酸バリウムと希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量であればよいが、前記テトラホウ酸バリウムの添加量と前記希土類磁石の希土類質量との総和に対して、22~33mass%が好ましい。この範囲であれば、L+S(固相・液相混合領域)相が生成することもなく、均一液相が生成できる。そうなると、Fe-C相中に希土類成分が残らないため、希土類酸化物の回収率を高めることができる。また、L+Sが生成(混入)しないため、スラグの流動性が良くなり、希土類富化相(スラグ)とFe-C相の分離が容易に行えるため好ましい。さらに、テトラホウ酸バリウムの添加量は、前記テトラホウ酸バリウムの添加量と前記希土類磁石の希土類質量との総和に対して、生産性という観点からは、25~30mass%がより好ましく、25~27mass%がさらに好ましい。この範囲であれば、図6に示すように、1350℃前後でも均一液相が生成するので、エネルギー消費量を少なくすることができる。また、液相線の中間位置であるため、磁石組成がばらついても、均一液相を生成することができる。また、この範囲において、フラックス(テトラホウ酸バリウム)の使用量を少なくしたいという観点からは、液相生成域の下限に近い方が、好ましいといえる。
【0037】
(前記ホウ酸塩の1種であるホウ酸カルシウム(CaB)の添加量)
図7は、前記ホウ酸塩の1種であるホウ酸カルシウム(CaB)と前記希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図である。図7の状態図は、60mass%CaB以下の溶融状態について測定して得られた、Nd-CaB擬二元系型状態図である。図7に示すように、本実施形態では、前記ホウ酸塩の1種であるホウ酸カルシウムの添加量についても、上記したように、前記ホウ酸カルシウムと前記希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量であればよい。これにより前記ホウ酸カルシウムの添加量(図7の47mass%CaB近傍の液相領域;均一融体生成域)を、従来のホウ酸塩の添加量(60mass%以上)に対して、概ね15%~30%低減することができる。その結果、磁石リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を低減することができる。また、ホウ酸カルシウムの使用量を低減することで、環境規制物質であるホウ素の使用量を低減することができる。
【0038】
前記ホウ酸カルシウムの添加量は、前記ホウ酸カルシウムと希土類磁石の主材料との擬二元系型状態図における固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量であればよいが、前記ホウ酸カルシウムの添加量と前記希土類磁石の希土類質量との総和に対して、42~52mass%が好ましい。この範囲であれば、L+S(固相・液相混合領域)相が生成することもなく、均一液相が生成できる。そうなると、Fe-C相中に希土類成分が残らないため、希土類酸化物の回収率を高めることができる。また、L+Sが生成(混入)しないため、スラグの流動性が良くなり、希土類富化相(スラグ)とFe-C相の分離が容易に行えるため好ましい。さらに、ホウ酸カルシウムの添加量は、前記ホウ酸カルシウムの添加量と前記希土類磁石の希土類質量との総和に対して、生産性という観点からは、44~50mass%がより好ましい。この範囲であれば、図7に示すように、1300℃前後でも均一液相が生成するので、エネルギー消費量を少なくすることができる。また、液相線の中間位置であるため、磁石組成がばらついても、均一液相を生成することができる。また、この範囲において、フラックス(ホウ酸カルシウム)の使用量を少なくしたいという観点からは、液相生成域の下限に近い方が、好ましいといえる。
【0039】
<二相分離>
図3は、本発明の一実施形態のアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩をフラックスとして使用する希土類磁石から最終的な回収物である希土類元素までのリサイクルプロセスを表す図面である。図4は、本発明の一実施形態の溶融処理の概略を表す図面である。図3、4に示すように、本実施形態においては、希土類磁石を含む製品または半製品の廃棄物に、のアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩をフラックスとして添加して加熱溶融すると、希土類元素およびフラックスを主体とした融体と鉄を主体とした融体の二元系融体が出現する。加熱溶融温度を適正化することにより、これらの融体は、密度差によって鉛直方向上部の希土類富化相と、鉛直方向下部のFe-C相とに二相分離する。上記希土類富化相中の希土類元素は、アルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩と希土類酸化物REの液体が均一に溶け合った形態で存在していると考えられる。
【0040】
二相分離に適した温度は、1250℃~1700℃が好ましい。1250℃以上としたのは、実施例で均一融体(液相領域)が確認できた下限温度に基づくものである。また、加熱溶融に用いる溶融炉に使用されている耐火物の耐久性の観点から、1700℃以下が好ましい。さらに二相分離に適した温度は、1400℃~1600℃がより好ましい。希土類元素含有物が溶融する温度である1400℃以上がより好ましい。また、(1)加熱溶融に用いる溶融炉に使用されている耐火物の耐久性の観点、(2)純鉄の融点が1535℃であること、(3)傾注により、希土類富化相(スラグ)とFe-C相を密度差により分離することができることから、1600℃以下がより好ましい。
【0041】
上記の二相分離の分離性を高める観点から、上記温度範囲に10分以上保持し溶融状態にすることが好ましく、60分以上保持することがより好ましい。但し、保持時間が長すぎても理論的な分配比を超えた効果は生じないことから、経済性を考慮すれば、保持時間は180分以下とするのがより好ましい。
【0042】
二相分離させた後、上記温度範囲よりも高い温度に加熱することは二相分離性を悪化させるので避けるべきである。ただし、当該温度範囲に保持する前にいったん当該温度範囲よりも高温に加熱しておくことは鉄など高融点物質中に混入している希土類元素を溶かし出す上で有効である。このため、加熱溶融時の温度変化としては、二相分離に好適な上記温度範囲に加熱し、その後冷却する場合がある。また、均質な融体を形成するために二相分離により好適な上記温度範囲よりも高温(例えば1600℃超から1700℃以下)に加熱して、次いで、温度を低下させて二相分離により好適な上記温度範囲に保持し、その後冷却する場合がある。
【0043】
希土類富化相は、希土類酸化物を20質量%以上、より好ましくは40質量%以上含有する。
【0044】
加熱溶融時の雰囲気は特に制限はなく、空気雰囲気下で実施することができる。
【0045】
このようにして、溶融することにより、または溶融、冷却することにより希土類富化相の鉛直方向下方に又は希土類富化相に包囲されるように、Fe-C相を更に形成することができる。一般に、Fe-C相は希土類富化相よりも密度が大きいので、下方に位置するが、鉄の量が少ないと鉄が丸まってしまい、希土類富化相に包囲されるように、Fe-C相が形成される。
【0046】
本実施形態では、図4に示すように、加熱溶融(図4等では熔融とも記す)後、冷却により二相分離した状態のまま溶融炉を傾注し、密度が小さい希土類富化相(レアアース含有スラグ)を取り出せばよい。なお、溶融炉内に残るFe-C相(溶融Fe-C合金)についても、鉄分のリサイクルの観点から、流動性を高めるべく高温(例えば1200℃以上)加熱した状態で溶融炉を傾注し、取り出してもよい。
【0047】
希土類富化相(レアアース含有スラグ)の傾注時の温度としては、二相分離した状態のまま、粘度が低く流動性の高い希土類富化相を溶融炉から傾注し得る温度であればよく、1160℃~1600℃が好ましく、1250℃~1500℃がより好ましい。
【0048】
さらに、本発明の一実施形態によれば、Fe-C相中の希土類元素の総質量に対して希土類富化相中の希土類元素の総質量を10倍以上とすることができ、好ましくは100倍以上とすることができる。
【0049】
<融点降下剤の添加>
希土類元素含有物として前記製品に使用されていた廃棄モータを用いる場合、廃棄モータには、希土類磁石単体と比較して、モータの電磁鋼板部分に由来する鉄元素が非常に多く含まれている。鉄の融点は1538℃と高いことから、二相分離の効率と溶解時のエネルギー低減を考慮すると、融点降下剤の共存下で希土類元素含有物を溶融することが好ましい。本発明の実施形態においては、融点降下剤として炭素を用いることが好ましい。炭素は、鉄の酸化を防ぎ、鉄が希土類富化相へ移動するのを防止する効果があり、分離性が向上するので好ましい。炭素の供給源としては、例えば、加熱炉(溶融炉)に炭素るつぼを使用すること、炉壁を炭素コーティングすること、銑鉄等のFe-C合金、コークス、グラファイト、市販の加炭材、プラスチック、有機物等を添加剤として反応系に添加することなどが例示される。また、例えば、二酸化炭素、炭化水素系ガスなどのガス状の炭素源を吹き込むこと等が例示される。さらに、後述するように、融点降下剤として炭素を用いる場合において、Fe-C合金を生成する目的で添加する電解鉄などの高純度鉄も融点降下剤に含まれるものとする。また、上記したように加熱炉やその炉壁を炭素供給源(融点降下剤)とする場合、炉壁の表面の炭素材が、廃棄物等が溶融した溶体中に溶け出すことで、融点降下剤として添加される形態となる。
【0050】
また、希土類磁石を含有する電磁鋼板の廃棄物(希土類元素含有物)に、融点降下剤を添加して加熱溶融する際には、電解鉄を添加することができる。電解鉄は、希土類磁石を含有する電磁鋼板を1500℃以上の高温で加熱溶融する際には必ずしも必要ではないが、融点降下剤として炭素を添加した場合には、電解鉄と融点降下剤中の炭素が反応して、Fe-C合金を生成する。このように、電磁鋼板の加熱溶融に先だって、1200℃程度の温度で溶融するFe-C合金を生成することにより、電磁鋼板の溶融を促進し、より短時間かつ低温度で電磁鋼板の溶融状態を達成することができる。
【0051】
このような融点降下剤の添加量は、溶融温度が最も低くなるという理由により共晶点の組成付近とすることが好ましい。融点降下剤として炭素を使用する場合は、炭素飽和の状態、すなわち融体中にそれ以上炭素が溶け込まない状態で加熱溶融を行うことが融点降下や酸化防止効果の観点で好ましい。一般的な目安としては、融点降下剤の添加量は、廃棄物(希土類元素含有物)の鉄元素量に対して、5質量%~10質量%の範囲とすることが考慮される。上記範囲は、あくまで融点降下剤を銑鉄等のFe-C合金、コークス、グラファイト、市販の加炭材、プラスチック、有機物等を添加剤として反応系に添加する場合や二酸化炭素、炭化水素系ガスなどのガス状の炭素源を吹き込む場合の目安である。融点降下剤として、炭素るつぼや炉壁を炭素コーティングしたものを炭素の供給源として使用または併用する場合には、上記範囲に制限されるものではない。但し、これら加熱炉(溶融炉)の一部を炭素源として使用する場合、定期的に炉壁の補修やるつぼの交換を行う必要があることから、他の炭素源を使用するのが好ましい。
【0052】
<酸化剤の添加>
本実施形態の希土類酸化物の回収方法においては、希土類元素含有物の溶融時に酸化剤を添加する(図3、4参照)。酸化剤は、加熱溶融した希土類元素含有物に添加することにより、希土類元素の酸化に必要十分な酸素を供給することができる。希土類元素の酸化を促進することは、相分離性と希土類酸化物の回収率を良くする観点で好ましい。
【0053】
酸化剤としては、例えば、空気、酸素、二酸化炭素などの酸化性のガスや、Al、SiO、PbO、CuOなどの希土類元素により還元される物質、酸化鉄、酸化鉄を含む複合酸化物などが例示される。中でも、酸化鉄は、希土類元素の酸化に必要十分な酸素を供給するだけではなく、回収される鉄の不純物を低減することができるため好ましい。
【0054】
酸化鉄の添加量は、廃棄物中の希土類磁石に含まれる希土類元素量に対して酸素量が1.5倍~2.0倍のモル比とすることが好ましい。不活性雰囲気下において、酸化鉄を添加しない場合、添加したアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩が磁石中の希土類元素と反応して還元されてしまい、フラックスとしての機能が低下するおそれがある。
【0055】
<多段処理工程>
本実施形態の希土類酸化物の回収方法の別の態様としては、少なくとも次の順次の工程;
(1)希土類磁石を含む製品または半製品の廃棄物に、融点降下剤を添加して、加熱溶融する工程;
(2)加熱溶融後の溶体に酸化剤を添加する工程;
(3)溶体にアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩を添加する工程;
(4)溶体を冷却することなくまたは冷却して希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離させ、希土類富化相を取りだす工程;
を含むことが好ましい。
【0056】
すなわち、図4に示すように、希土類磁石(好ましくは希土類磁石と鋼材)を含む製品または半製品の廃棄物に、まず炭素(融点降下剤)を添加して、融点を降下させた状態で加熱溶融し、次いで、酸化剤と、アルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩を順次添加する態様である。希土類磁石(好ましくは希土類磁石と鋼材)を含む製品または半製品の廃棄物への酸化剤と、アルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩の添加は、同時添加であってもよいが、その場合、酸化剤によってアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩が分解されることがあるため、順次添加することがより好ましい。
【0057】
希土類富化相とFe-C相の各相が形成された後は、溶融状態にある間に各相を分液することにより、希土類富化相を含めて各相を分離回収することができる。特に、フラックスとしてテトラホウ酸ナトリウム(Na:ホウ砂)を用いた場合、既存の乾式法のようにBをフラックスとして用いた場合と比較して、希土類富化相の粘性が低下しているため、傾注によって炉の上部から抽出し、希土類富化相の分離を容易に行うことができる。このような効果は、テトラホウ酸ナトリウム以外のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有するホウ酸塩をフラックスとして用いた場合にも同様に得ることができる。
【0058】
また、分液の方法としては、密度の大きい相から順番に炉底から排出する方法がある。さらに、冷却して固化させてから、相の境界に沿ってカッター等で切断してもよい。冷却する際は、分離性を挙げるために、固化するまでは徐冷するのが好ましいが、急冷して固化させることもできる。
【0059】
<希土類酸化物の回収>
図5は、本実施形態のシュウ酸塩沈殿による希土類酸化物の回収フローを表す図面である。本実施形態の希土類酸化物の回収方法の別の態様としては、図3、5に示すように、希土類磁石(好ましくは希土類磁石と鋼材)を含む製品または半製品の廃棄物に融点降下剤、酸化剤およびアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩を添加して加熱溶融し、前記廃棄物中の希土類元素が前記アルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩中に濃縮された希土類富化相と、ホウ素の含有量が0.5質量%以下のFe-C相との二相に分離して、前記希土類富化相を酸で浸出処理し、得られた希土類元素浸出液中の希土類元素を塩として沈殿させ、沈殿物を加熱して希土類元素を酸化物として回収することができる。
【0060】
分離回収された希土類富化相からの希土類元素の塩の回収は、酸(例えば、図5では塩酸)を用いた溶出などによって行うことができる。溶出に用いる酸としては、例えば、シュウ酸、塩酸、硫酸などが例示される。
【0061】
このような酸を用いた酸浸出を行って希土類元素を溶解した後、アルカリ(例えば、図5では水酸化アンモニウム)を添加してpH調整(図5ではpH2に調整し、攪拌しながら40℃で1~2時間保持)することによって、希土類元素の塩(例えば、図5では希土類シュウ酸塩)を析出することができる。析出に用いることができるアルカリとしては、例えば、水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、水酸化ナトリウムなどが例示される。
【0062】
このとき、アルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩由来の成分は、液中に溶解したままであるので、固液分離することによって希土類元素の塩(例えば、図5では希土類シュウ酸塩)を回収可能である。その後、本実施形態では、希土類元素の塩を600℃~1000℃で30分~90分間焼成することにより、希土類酸化物として回収することができる。さらに本発明の実施形態では、酸化物を金属に還元する既存工法である溶融塩電解法(溶融塩還元法)やCa還元法(カルシウム還元法)などの公知の方法によって、得られた希土類酸化物を希土類元素の単体に還元して回収することもできる。
【0063】
この回収に際しては、少なくとも次の順次の工程;
(1)希土類磁石と鋼材を含む製品または半製品の廃棄物に、融点降下剤を添加して、加熱溶融する工程;
(2)加熱溶融後の溶体に酸化剤を添加する工程;
(3)溶体にアルカリ金属元素のホウ酸塩又はアルカリ土類金属元素のホウ酸塩を添加する工程;
(4)溶体を冷却することなくまたは冷却して希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離させ、希土類富化相を取りだす工程;
(5)希土類富化相を酸で浸出処理する工程;
(6)得られた希土類元素浸出液中の希土類元素を塩として沈殿させる工程;
(7)沈殿物を加熱して希土類元素を酸化物として回収する工程;
を含むことが好ましい。
【実施例
【0064】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本発明が限定されることはない。
【0065】
[小型炉による実験]
<実施例1>
純度99.9mass%のNd 0.81gと試薬のNa 0.19gを秤量、混合した。その試料を、内径7mm、厚さ0.2mm、高さ25mmのPt坩堝に挿入し、カンタル炉にて1350℃、空気雰囲気で2時間加熱保持した。所定の時間保持した試料は、水冷により急冷した。急冷した試料について、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察とX線回折装置(XRD)による相の同定を行った。これらの結果に基づき、Ndに対するNaフラックスの溶解能を調べた。その結果、急冷した試料は、均一融体が冷却されガラス化した組織が観察され、高温で均一融体が生成していることを確認した。
【0066】
<実施例2~8、参考例1~10および比較例1~4>:詳細実験条件は下記表1参照
純度99.9mass%のNdと試薬のNaを目的組成になるように、秤量、混合した(表1参照)。その試料を、内径7mm、厚さ0.2mm、高さ25mmのPt坩堝に挿入し、カンタル炉にて1300~1500℃(表1参照)、空気雰囲気で2時間加熱保持した。所定の時間保持した試料は、水冷により急冷した。急冷した試料について、光学顕微鏡とSEMによる組織観察とXRDによる相の同定を行った。これらの結果に基づき、Ndに対するNaフラックスの溶解能を調べた。急冷試料の組織は、均一融体が生成していればL、固相と液相が混合した状態であればL+Sと示した(表1参照)。得られた結果に基づき作成したNd-Na擬二元系状態図を図1に示す。図中の○印は、測定により液相領域であることが確認された箇所であり、×印は、測定により固相・液相混合領域であることが確認された箇所である。
【0067】
【表1】
【0068】
[大型炉による実験]
<実施例9>
日本ルツボ株式会社製クレーボンド坩堝(番型:8)内に、希土類磁石の廃棄物(希土類元素含有物)としてネオジム磁石(磁石1)1,520g、融点降下剤として電解鉄150gおよび加炭材89gを入れ、高周波誘導炉を用いて加熱した。1500℃に昇温して溶融した後、酸化剤として酸化鉄(Fe)215gを添加し、希土類成分を酸化させた。その後、フラックスの1種であるアルカリ金属元素のホウ酸塩としてテトラホウ酸ナトリウム(Na) 110gを投入し、炭素棒で溶湯を撹拌した。30分保持後、傾注により坩堝内から希土類富化相であるRE-Na系スラグ(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)と溶融Fe-C相をそれぞれ取り出し、空冷した。なお、試験に用いたネオジム磁石(磁石1)の組成を下記表5に示す。ネオジム磁石(磁石1)の組成は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法により決定した。
【0069】
下記表3に回収されたFe-C相の成分分析結果を示す。Fe-C相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、合計0.011mass%であり、Fe-C相中にはレアアース(希土類元素)はほとんど含まれておらず、磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Fe-C相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0070】
回収されたRE-Na系スラグ10gを6mol/l塩酸200mlで酸浸出し、ろ過によりろ液を得た。ろ液に1mol/lシュウ酸溶液100mlを加え、アンモニア水を添加することによりpH2に調整した。pH調整液を撹拌しながら40℃で1~2時間保持することで、希土類シュウ酸塩の沈殿物を得た。ろ過により、希土類シュウ酸塩を分離し、マッフル炉で900℃×60分焼成することで、希土類酸化物を得た。下記表4に希土類酸化物の成分分析結果を示す。回収されたレアアース酸化物(希土類酸化物)濃度の合計は、99.7mass%であった。希土類酸化物の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0071】
<実施例10>
日本ルツボ株式会社製フェニックス坩堝(型番:CD 100HP)内に、希土類磁石の廃棄物(希土類元素含有物)としてネオジム磁石(磁石1)10,090g、融点降下剤として銑鉄2,375gを入れ、高周波誘導炉を用いて加熱した。1500℃に昇温して溶融した後、酸化剤として酸化鉄2,554gを添加し、希土類成分を酸化させた。その後、フラックスの1種であるアルカリ金属元素のホウ酸塩としてテトラホウ酸ナトリウム(Na) 887gを投入し、炭素棒で溶湯を撹拌した。30分保持後、傾注により坩堝内から希土類富化相であるRE-Na系スラグ(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)と溶融Fe-C相をそれぞれ取り出し、空冷した。なお、試験に用いたネオジム磁石(磁石1)の組成を下記表5に示す。
【0072】
下記表3に回収されたFe-C相の成分分析結果を示す。Fe-C相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、合計0.087mass%であり、Fe-C相中にはレアアース(希土類元素)はほとんど含まれておらず、磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Fe-C相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0073】
回収されたRE-Na系スラグ10gを6mol/l塩酸200mlで酸浸出し、ろ過によりろ液を得た。ろ液に1mol/lシュウ酸溶液100mlを加え、アンモニア水を添加することによりpH2に調整した。pH調整液を撹拌しながら40℃で1~2時間保持することで、希土類シュウ酸塩の沈殿物を得た。ろ過により、希土類シュウ酸塩を分離し、マッフル炉で900℃×60分焼成することで、希土類酸化物を得た。下記表4に希土類酸化物の分析結果を示す。回収されたレアアース酸化物(希土類酸化物)濃度の合計は、99.7mass%であった。希土類酸化物の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0074】
<実施例11>
日本ルツボ株式会社製フェニックス坩堝(型番:CD 100HP)内に、希土類磁石と鋼材を含む廃棄物(希土類元素含有物)として磁石含有ロータ15.533kg、融点降下剤として銑鉄6,993gおよび加炭材981gを入れ、高周波誘導炉を用いて加熱した。なお、磁石含有ロータにはネオジム磁石(磁石2)1,761gが挿入されており、その組成は下記表6に示す通りである。1500℃に昇温して溶融した後、酸化剤として酸化鉄405gを添加し、希土類成分を酸化させた。その後、フラックスの1種であるアルカリ金属元素のホウ酸塩としてテトラホウ酸ナトリウム(Na) 130gを投入し、炭素棒で溶湯を撹拌した。30分保持後、傾注により坩堝内から希土類富化相であるRE-Na系スラグ(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)と溶融Fe-C相をそれぞれ取り出し、空冷した。ネオジム磁石(磁石2)の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0075】
下記表3に回収されたFe-C相の成分分析結果を示す。Fe-C相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、合計0.082mass%であり、Fe-C相中にはレアアース(希土類元素)はほとんど含まれておらず、磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Fe-C相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0076】
回収されたRE-Na系スラグ10gを6mol/l塩酸200mlで酸浸出し、ろ過によりろ液を得た。ろ液に1mol/lシュウ酸溶液100mlを加え、アンモニア水を添加することによりpH2に調整した。pH調整液を撹拌しながら40℃で1~2時間保持することで、希土類シュウ酸塩の沈殿物を得た。ろ過により、希土類シュウ酸塩を分離し、マッフル炉で900℃×60分焼成することで、希土類酸化物を得た。下記表4に希土類酸化物の分析結果を示す。回収されたレアアース酸化物(希土類酸化物)濃度の合計は、99.0mass%であった。希土類酸化物の組成は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法により決定した。
【0077】
実施例9~11の詳細な実験条件を下記表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2中の炉型は、使用した焼成炉(溶融炉)である坩堝(るつぼ)での1回の最大処理量(kg)を表す。
【0080】
表2中のフラックス量(%)は、アルカリ金属元素のホウ酸塩であるテトラホウ酸ナトリウム(Na)フラックスの添加量と希土類磁石(磁石1または磁石2)の希土類質量との総和に対する添加量(mass%)を表す。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
実施例1~8、参考例1~10、比較例1~4の小型炉による実験結果及び実施例9~11の大型炉による実験結果から、実施例1~11では、フラックスである前記ホウ酸塩の添加量を従来法の添加量(60mass%以上;参考例1~5参照)に対して、1/2~1/3に低減できることが確認された。また、前記ホウ酸塩の使用量を低減することで、環境規制物質であるホウ素の使用量を低減できることが確認された。さらに実施例9~11では、磁石リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を低減できることが確認された。
【0086】
一方、比較例1~4では、前記ホウ酸塩の添加量が、図1の擬二元系型状態図におけるNa 60mass%以下の固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量から外れている。そのため、前記ホウ酸塩の添加量を従来法の添加量(60mass%以上;参考例1~5参照)に対して、1/2~1/3程度に低減しているにもかかわらず、希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離することができないことが確認された。この結果から、希土類酸化物の回収は困難であることがわかった。
【0087】
[小型炉による実験]
<実施例12>
純度99.9mass%のNd 0.75gと試薬のBaB 0.25gを秤量、混合した。その試料を、内径7mm、厚さ0.2mm、高さ25mmのPt坩堝に挿入し、カンタル炉にて1350℃、空気雰囲気で2時間加熱保持した。所定の時間保持した試料は、水冷により急冷した。急冷した試料について、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察とX線回折装置(XRD)による相の同定を行った。これらの結果に基づき、Ndに対するBaBフラックスの溶解能を調べた。その結果、急冷した試料は、均一融体が冷却されガラス化した組織が観察され、高温で均一融体が出来ていることを確認した。
【0088】
<実施例13~17および比較例5~12>:詳細実験条件は下表7参照
純度99.9mass%のNdと試薬のBaBを目的組成になるように、秤量、混合した(表7参照)。その試料を、内径7mm、厚さ0.2mm、高さ25mmのPt坩堝に挿入し、カンタル炉にて1350~1500℃(表7参照)、空気雰囲気で2時間加熱保持した。所定の時間保持した試料は、水冷により急冷した。急冷した試料について、光学顕微鏡とSEMによる組織観察とXRDによる相の同定を行った。これらの結果に基づき、Ndに対するBaBフラックスの溶解能を調べた。急冷試料の組織は、均一融体が生成していればL、固相と液相が混合した状態であればL+Sと示した(表7参照)。得られた結果に基づき作成したNd-BaB擬二元系状態図を図6に示す。図中の○印は、測定により液相領域であることが確認された箇所であり、×印は、測定により固相・液相混合領域であることが確認された箇所である。
【0089】
【表7】
【0090】
[大型炉による実験]
<実施例18>
日本ルツボ株式会社製クレーボンド坩堝(番型:8)内に、希土類磁石の廃棄物(希土類元素含有物)としてネオジム磁石(磁石1)1,534g、融点降下剤として銑鉄1,168gおよび加炭材82gを入れ、高周波誘導炉を用いて加熱した。1500℃に昇温して溶融した後、酸化剤として酸化鉄(Fe)370gを添加し、希土類成分を酸化させた。その後、フラックスの1種であるアルカリ土類金属元素のホウ酸塩としてテトラホウ酸バリウム(BaB) 247gを投入し、炭素棒で溶湯を撹拌した。30分保持後、傾注により坩堝内から希土類富化相であるRE-BaB系スラグ(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)と溶融Fe-C相をそれぞれ取り出し、空冷した。なお、試験に用いたネオジム磁石(磁石1)の組成を下記表11に示す。ネオジム磁石(磁石1)の組成は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法により決定した。
【0091】
下記表9に回収されたFe-C相の成分分析結果を示す。Fe-C相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、合計0.010mass%であり、Fe-C相中にはレアアース(希土類元素)はほとんど含まれておらず、磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Fe-C相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0092】
回収されたRE-BaB系スラグ10gを6mol/l塩酸200mlで酸浸出し、ろ過によりろ液を得た。ろ液に1mol/lシュウ酸溶液100mlを加え、アンモニア水を添加することによりpH2に調整した。pH調整液を撹拌しながら40℃で1~2時間保持することで、希土類シュウ酸塩の沈殿物を得た。ろ過により、希土類シュウ酸塩を分離し、マッフル炉で900℃×60分焼成することで、希土類酸化物を得た。下記表10に希土類酸化物の分析結果を示す。回収されたレアアース酸化物(希土類酸化物)濃度の合計は、99.4mass%であった。希土類酸化物の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0093】
<実施例19>
日本ルツボ株式会社製フェニックス坩堝(型番:CD 100HP)内に、希土類磁石と鋼材を含む廃棄物(希土類元素含有物)として磁石含有ロータ15.880kg、融点降下剤として銑鉄7,111gおよび加炭材981gを入れ、高周波誘導炉を用いて加熱した。なお、磁石含有ロータにはネオジム磁石(磁石2)1,761gが挿入されており、その組成は下記表12に示す通りである。1500℃に昇温して溶融した後、酸化剤として酸化鉄403gを添加し、希土類成分を酸化させた。その後、フラックスの1種であるアルカリ土類金属元素のホウ酸塩としてテトラホウ酸バリウム(BaB) 198gを投入し、炭素棒で溶湯を撹拌した。30分保持後、傾注により坩堝内から希土類富化相であるRE-BaB系スラグ(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)と溶融Fe-C相をそれぞれ取り出し、空冷した。ネオジム磁石(磁石2)の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0094】
下記表9に回収されたFe-C相の成分分析結果を示す。Fe-C相中の残存RE(RE:Nd、Pr、DyおよびTb)量は、合計0.068mass%であり、Fe-C相中にはレアアース(希土類元素)はほとんど含まれておらず、磁石中の希土類成分はスラグ相(希土類富化相)に移行したものと考えられる。Fe-C相の組成は、ICP-AES法により決定した。
【0095】
回収されたRE-BaB系スラグ10gを6mol/l塩酸200mlで酸浸出し、ろ過によりろ液を得た。ろ液に1mol/lシュウ酸溶液100mlを加え、アンモニア水を添加することによりpH2に調整した。pH調整液を撹拌しながら40℃で1~2時間保持することで、希土類シュウ酸塩の沈殿物を得た。ろ過により、希土類シュウ酸塩を分離し、マッフル炉で900℃×60分焼成することで、希土類酸化物を得た。下記表10に希土類酸化物の分析結果を示す。回収されたレアアース酸化物(希土類酸化物)濃度の合計は、99.1mass%であった。希土類酸化物の組成は、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法により決定した。
【0096】
実施例18~19の詳細な実験条件を下記表8に示す。
【0097】
【表8】
【0098】
表8中の炉型は、使用した焼成炉(溶融炉)である坩堝(るつぼ)での1回の最大処理量(kg)を表す。
【0099】
表8中のフラックス量(%)は、テトラホウ酸バリウム(BaB)フラックスの添加量と希土類磁石(磁石1または磁石2)の希土類質量との総和に対する添加量(mass%)を表す。
【0100】
【表9】
【0101】
【表10】
【0102】
【表11】
【0103】
【表12】
【0104】
実施例12~17、比較例5~12の小型炉による実験結果及び実施例18~19の大型炉による実験結果から、実施例12~19では、フラックスである前記ホウ酸塩の添加量を従来法の添加量(60mass%以上)に対して、1/2~1/3に低減できることが確認された。また、前記ホウ酸塩の使用量を低減することで、環境規制物質であるホウ素の使用量を低減できることが確認された。さらに実施例18~19では、磁石リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を低減できることが確認された。
【0105】
一方、比較例5~12では、前記ホウ酸塩の添加量が、図6の擬二元系型状態図におけるBaB 60mass%以下の固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量から外れている。そのため、前記ホウ酸塩の添加量を従来法の添加量(60mass%以上)に対して、1/2~1/3程度に低減しているにもかかわらず、希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離することができないことが確認された。この結果から、希土類酸化物の回収は困難であることがわかった。
【0106】
[小型炉による実験]
<実施例20>
純度99.9mass%のNd 0.53gと試薬のCaB 0.47gを秤量、混合した。その試料を、内径7mm、厚さ0.2mm、高さ25mmのPt坩堝に挿入し、カンタル炉にて1300℃、空気雰囲気で2時間加熱保持した。所定の時間保持した試料は、水冷により急冷した。急冷した試料について、光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察とX線回折装置(XRD)による相の同定を行った。これらの結果に基づき、Ndに対するCaBフラックスの溶解能を調べた。その結果、急冷した試料は、均一融体が冷却されガラス化した組織が観察され、高温で均一融体が出来ていることを確認した。
【0107】
<実施例21および比較例13~26>:詳細実験条件は下表13参照
純度99.9mass%のNdと試薬のCaBを目的組成になるように、秤量、混合した(表13参照)。その試料を、内径7mm、厚さ0.2mm、高さ25mmのPt坩堝に挿入し、カンタル炉にて1300~1500℃(表13参照)、空気雰囲気で2時間加熱保持した。所定の時間保持した試料は、水冷により急冷した。急冷した試料について、光学顕微鏡とSEMによる組織観察とXRDによる相の同定を行った。これらの結果に基づき、Ndに対するCaBフラックスの溶解能を調べた。急冷試料の組織は、均一融体が生成していればL、固相と液相が混合した状態であればL+Sと示した(表13参照)。得られた結果に基づき作成したNd-CaB擬二元系状態図を図7に示す。図中の○印は、測定により液相領域であることが確認された箇所であり、×印は、測定により固相・液相混合領域であることが確認された箇所である。
【0108】
【表13】
【0109】
実施例20~21、比較例13~26の小型炉による実験結果から、実施例20~21では、フラックスである前記ホウ酸塩の添加量を従来法の添加量(60mass%以上)に対して、概ね25%低減できることが確認された。また、前記ホウ酸塩の使用量を低減することで、環境規制物質であるホウ素の使用量を低減できることが確認された。さらに前記ホウ酸塩についても、実施例18~19と同様にして、大型炉により実験を行うことで、磁石リサイクルに関するコスト(原材料費、廃棄物処理費用)を低減できることが容易に推測できることから、さらなる実験は省略した。
【0110】
一方、比較例12~26では、前記ホウ酸塩の添加量が、図7の擬二元系型状態図におけるCaB 60mass%以下の固相・液相混合領域に挟まれた液相領域に対応する量から外れている。そのため、前記ホウ酸塩の添加量を従来法の添加量(60mass%以上)に対して、1/10~1/1程度に低減しているにもかかわらず、希土類富化相と、Fe-C相との二相に分離することができないことが確認された。この結果から、希土類酸化物の回収は困難であることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7