(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ゴム組成物、加硫ゴム、タイヤ用トレッドゴム及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20240719BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20240719BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240719BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240719BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L9/06
C08K3/26
C08K5/09
B60C1/00 A
B60C1/00
(21)【出願番号】P 2020128632
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】米田 美咲
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102964619(CN,A)
【文献】特開2018-002934(JP,A)
【文献】特表2014-520174(JP,A)
【文献】特表2015-526541(JP,A)
【文献】特表2014-517115(JP,A)
【文献】特表2015-522698(JP,A)
【文献】特表2016-505659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-5/59
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムを含むゴム成分と、無機発泡剤と、有機酸と、を含むゴム組成物であって、
前記有機酸のSP値が、
10.5~
14.3(cal/cm
3)
1/2であ
り、
前記有機酸の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~7質量部であることを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項2】
前記無機発泡剤が、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウムから選択される、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記無機発泡剤が、重炭酸ナトリウムである、請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記有機酸が、芳香環を有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記有機酸が、安息香酸である、請求項
4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
更に、発泡助剤を含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記発泡助剤として、尿素を含む、請求項
6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴム、合成ジエン系ゴムの少なくとも1種を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記合成ジエン系ゴムとして、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項
8に記載のゴム組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のゴム組成物を加硫してなり、発泡率が1~45%であることを特徴とする、加硫ゴム。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のゴム組成物、又は、請求項
10に記載の加硫ゴムからなることを特徴とする、タイヤ用トレッドゴム。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のゴム組成物、又は、請求項
10に記載の加硫ゴムを、トレッド部に具えることを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、加硫ゴム、タイヤ用トレッドゴム及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面上でのタイヤの制動・駆動性能(以下、氷上性能という。)を向上させるために、特にタイヤのトレッドについての研究が盛んに行われている。氷雪路面においては、氷雪路面とタイヤとの摩擦熱等により水膜が発生し易く、該水膜は、タイヤと氷雪路面との間の摩擦係数を低下させる。このため、タイヤの氷上性能を向上させるためには、タイヤのトレッドの水膜除去能を改良することが必要である。
【0003】
タイヤのトレッドに水膜除去能を持たせるには、タイヤの路面にミクロな排水溝を設け、このミクロな排水溝により水膜を排除し、タイヤの氷雪路面上での摩擦係数を大きくすることが考えられる。しかしながら、この場合、タイヤの使用初期における氷上性能を向上させることはできるものの、タイヤが摩耗すると、氷上性能が低下してしまう。そのため、タイヤが摩耗しても、氷上性能を低下させない技術が求められている。
【0004】
一方、タイヤのトレッドに水膜除去能を持たせるために、タイヤのトレッドに発泡ゴムを適用する技術も知られている。該発泡ゴムには、一般に、ゴム成分と発泡剤とを含むゴム組成物が用いられており、ここで、発泡剤としては、従来、有機系の発泡剤が主に用いられてきた。また、従来の有機発泡剤に加え、発泡剤として、無機発泡剤を用いる取り組みも行われている(例えば、下記特許文献1)。無機発泡剤は、環境への負荷が低いため、無機発泡剤を使い熟すことにより、より環境に低負荷なゴム組成物を提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が検討したところ、ゴム組成物の発泡剤として重曹等の無機発泡剤を用いた場合、ゴム組成物の加硫速度と発泡速度とのバランスを確保することが困難であり、タイヤの氷上性能を十分に向上させることが難しいことが分かった。この問題を解決するために、本発明者は、種々の添加剤を検討したが、添加剤の種類によっては、ゴム組成物に配合すると、ゴム組成物の密着性が高まり、ゴム組成物の製造時において、ゴム組成物がロール等の製造設備に密着してしまい、作業性が悪いことが分かった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、タイヤの氷上性能を向上させることが可能で、作業性に優れるゴム組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、タイヤの氷上性能を向上させることが可能で、生産性に優れた加硫ゴム及びタイヤ用トレッドゴム、更には、優れた氷上性能を有し、生産性に優れたタイヤを提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、無機発泡剤と、有機酸と、を含むゴム組成物であって、
前記有機酸のSP値が、9.15~16.0(cal/cm3)1/2であることを特徴とする。
かかる本発明のゴム組成物は、作業性に優れ、また、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を向上させることができる。
【0010】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記無機発泡剤が、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウムから選択される。この場合、無機発泡剤の発泡がより進み、加硫ゴムの発泡率が更に向上する。
【0011】
ここで、前記無機発泡剤が、重炭酸ナトリウムであることが特に好ましい。この場合、重炭酸ナトリウムに起因する発泡がより進み、加硫ゴムの発泡率がより一層向上する。
【0012】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記有機酸のSP値が、10.5~14.3(cal/cm3)1/2である。この場合、前記無機発泡剤の分解を促進する効果が更に高くなり、また、ゴム組成物の密着性を更に低減できる。
【0013】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記有機酸が、芳香環を有する。この場合、ゴム組成物の作業性が更に向上する。
【0014】
ここで、前記有機酸が、安息香酸であることが特に好ましい。この場合、ゴム組成物の作業性がより一層向上する。
【0015】
本発明のゴム組成物は、更に、発泡助剤を含むことが好ましい。この場合、無機発泡剤の発泡反応が促進され、ゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴムの発泡率を向上させることができる。
【0016】
ここで、前記発泡助剤として、尿素を含むことが特に好ましい。この場合、無機発泡剤の発泡がより進み、加硫ゴムの発泡率が更に向上する。
【0017】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記ジエン系ゴムが、天然ゴム、合成ジエン系ゴムの少なくとも1種を含む。この場合、該ゴム組成物をタイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を更に向上させることができる。
【0018】
ここで、前記合成ジエン系ゴムとして、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが更に好ましい。この場合、該ゴム組成物をタイヤに適用することで、タイヤの氷上性能をより一層向上させることができる。
【0019】
また、本発明の加硫ゴムは、上記のゴム組成物を加硫してなり、発泡率が1~45%であることを特徴とする。かかる本発明の加硫ゴムは、生産性に優れ、また、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を向上させることができる。
【0020】
また、本発明のタイヤ用トレッドゴムは、上記のゴム組成物、又は、上記の加硫ゴムからなることを特徴とする。かかる本発明のタイヤ用トレッドゴムは、生産性に優れ、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を向上させることができる。
【0021】
また、本発明のタイヤは、上記のゴム組成物、又は、上記の加硫ゴムを、トレッド部に具えることを特徴とする。かかる本発明のタイヤは、生産性に優れ、優れた氷上性能を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、タイヤの氷上性能を向上させることが可能で、作業性に優れるゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、タイヤの氷上性能を向上させることが可能で、生産性に優れた加硫ゴム及びタイヤ用トレッドゴム、更には、優れた氷上性能を有し、生産性に優れたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明のゴム組成物、加硫ゴム、タイヤ用トレッドゴム及びタイヤを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0024】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、無機発泡剤と、有機酸と、を含み、前記有機酸のSP値が、9.15~16.0(cal/cm3)1/2であることを特徴とする。
【0025】
本発明のゴム組成物においては、無機発泡剤が、ゴム組成物の加硫時に発泡して、ゴム組成物(加硫ゴム)中に気泡(空隙)を生成し、また、有機酸が、ゴム組成物の加硫時に、無機発泡剤の分解・発泡反応の速度と、ゴム組成物の加硫反応の速度と、をバランスさせて、最適化し、加硫ゴムの発泡率を向上させる。なお、ゴム組成物が有機酸を含まないと、ゴム組成物の加硫時(加熱時)に、十分な発泡反応を起こすことが難しく、加硫ゴムの発泡率を十分に向上させることができない。
また、本発明のゴム組成物が含有する有機酸は、SP値が9.15~16.0(cal/cm3)1/2であり、ゴム組成物の密着性の上昇を抑制しつつ、無機発泡剤の分解を十分に促進できる。ここで、有機酸のSP値が9.15(cal/cm3)1/2未満であると、無機発泡剤の分解を十分に促進できず、また、有機酸のSP値が16.0(cal/cm3)1/2を超えると、有機酸を含むゴム組成物の密着性が高くなり、ゴム組成物の製造時において、ゴム組成物がロール等の製造設備に密着してしまい、作業性が悪化する。
従って、本発明のゴム組成物は、作業性に優れ、また、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を向上させることができる。
【0026】
(ゴム成分)
本発明のゴム組成物のゴム成分は、ジエン系ゴムを含む。ゴム成分中のジエン系ゴムの割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。該ゴム成分は、ジエン系ゴム以外のゴムを含んでもよいが、ジエン系ゴムのみからなることが好ましい。
【0027】
前記ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)でもよいし、合成ジエン系ゴムでもよく、また、両者を含んでもよい。天然ゴム、合成ジエン系ゴムの少なくとも1種を含むゴム組成物をタイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を更に向上させることができる。
【0028】
前記合成ジエン系ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-イソプレンゴム(SIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらの中でも、前記合成ジエン系ゴムとしては、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴムが更に好ましい。イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含むゴム組成物をタイヤに適用することで、タイヤの氷上性能をより一層向上させることができる。
また、前記ジエン系ゴム(ゴム成分)は、1種単独でもよいし、2種以上のブレンドでもよい。
【0029】
前記ジエン系ゴム(ゴム成分)は、未変性のゴムでもよいし、変性されているゴムでもよい。
前記ジエン系ゴムが変性されている場合、該ジエン系ゴムは、下記一般式(I)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物、下記一般式(II)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物、下記一般式(III)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物、下記一般式(IV)で表されるカップリング剤、下記一般式(V)で表されるカップリング剤、下記一般式(VI)で表されるリチオアミン、及び、ビニルピリジンからなる群より選択される少なくとも一種によって変性されていることが好ましい。
【0030】
【化1】
上記一般式(I)中、q1+q2=3(但し、q1は0~2の整数であり、q2は1~3の整数である。)である。
R
11は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
R
12及びR
13は、それぞれ独立して、加水分解性基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。
R
14は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q1が2の場合には同一でも異なっていてもよい。
R
15は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q2が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。
【0031】
【化2】
上記一般式(II)中、r1+r2=3(但し、r1は1~3の整数であり、r2は0~2の整数である。)である。
R
21は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
R
22は、ジメチルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノメチル基、ジエチルアミノエチル基、メチルシリル(メチル)アミノメチル基、メチルシリル(メチル)アミノエチル基、メチルシリル(エチル)アミノメチル基、メチルシリル(エチル)アミノエチル基、ジメチルシリルアミノメチル基、ジメチルシリルアミノエチル基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r1が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。
R
23は、炭素数1~20のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r2が2の場合には同一でも異なっていてもよい。
【0032】
【化3】
上記一般式(III)中、A
3は、(チオ)エポキシ、(チオ)イソシアネート、(チオ)ケトン、(チオ)アルデヒド、イミン、アミド、イソシアヌル酸トリヒドロカルビルエステル、(チオ)カルボン酸エステル、(チオ)カルボン酸の金属塩、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物及び炭酸ジヒドロカルビルエステルから選ばれる少なくとも1種の官能基を有する一価の基である。ここで、「(チオ)エポキシ」とは、エポキシ及びチオエポキシを指し、「(チオ)インシアネート」とは、インシアネート及びチオインシアネートを指し、「(チオ)ケトン」とは、ケトン及びチオケトンを指し、「(チオ)アルデヒド」とは、アルデヒド及びチオアルデヒドを指し、「(チオ)カルボン酸エステル」とは、カルボン酸エステル及びチオカルボン酸エステルを指し、「(チオ)カルボン酸の金属塩」とは、カルボン酸の金属塩及びチオカルボン酸の金属塩を指す。
R
31は、単結合又は二価の不活性炭化水素基であり、該二価の不活性炭化水素基は、炭素数が1~20であることが好ましい。
R
32及びR
33は、それぞれ独立に炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基を示し、nは0から2の整数であり、R
32が複数ある場合、複数のR
32は同一でも異なっていてもよく、OR
33が複数ある場合、複数のOR
33は同一でも異なっていてもよい。
また、一般式(III)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物の分子中には、活性プロトン及びオニウム塩は含まれない。
【0033】
一般式(III)において、A3における官能基の中で、イミンはケチミン、アルジミン、アミジンを包含し、(チオ)カルボン酸エステルは、アクリレートやメタクリレート等の不飽和カルボン酸エステルを包含する。また、(チオ)カルボン酸の金属塩の金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Al、Sn、Zn等を挙げることができる。
R31のうちの二価の不活性炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキレン基を好ましく挙げることができる。該アルキレン基は、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよいが、特に直鎖状のものが好適である。該直鎖状のアルキレン基の例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基、等が挙げられる。
R32及びR33としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアラルキル基等を挙げることができる。ここで、上記アルキル基及びアルケニル基は、直鎖状、枝分かれ状、環状いずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、プロペニル基、アリル基、へキセニル基、オクテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、等が挙げられる。また、該アリール基は、芳香環上に低級アルキル基等の置換基を有していてもよく、その例として、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。さらに、該アラルキル基は、芳香環上に低級アルキル基等の置換基を有していてもよく、その例としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
nは0~2の整数であるが、0が好ましく、また、この分子中には活性プロトン及びオニウム塩を有しないことが必要である。
【0034】
上記一般式(III)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、例えば(チオ)エポキシ基含有ヒドロカルビルオキシシラン化合物として、2-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、(2-グリシドキシエチル)メチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン及びこれらの化合物におけるエポキシ基をチオエポキシ基に置き換えたものを好ましく挙げることができるが、これらの中でも、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランが特に好適である。
また、イミン基含有ヒドロカルビルオキシシアン化合物として、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1-メチルエチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-エチリデン-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(1-メチルプロピリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(4-N,N-ジメチルアミノベンジリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N-(シクロヘキシリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン及びこれらのトリエトキシシリル化合物に対応するトリメトキシシリル化合物、メチルジエトキシシリル化合物、エチルジエトキシシリル化合物、メチルジメトキシシリル化合物、エチルジメトキシシリル化合物等を好ましく挙げることができるが、これらの中でも、N-(1-メチルプロピリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン及びN-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミンが特に好適である。
【0035】
【化4】
上記一般式(IV)中、R
41、R
42及びR
43は、それぞれ独立して単結合又は炭素数1~20のアルキレン基を示す。
R
44、R
45、R
46、R
47及びR
49は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基を示す。
R
48及びR
51は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキレン基を示す。
R
50は、炭素数1~20の、アルキル基又はトリアルキルシリル基を示す。
mは、1~3の整数を示し、pは、1又は2を示す。
R
41~R
51、m及びpは、複数存在する場合、それぞれ独立しており、i、j及びkは、それぞれ独立して0~6の整数を示し、但し、(i+j+k)は、3~10の整数である。
A
4は、炭素数1~20の、炭化水素基、又は、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子及びリン原子からなる群から選択される少なくとも一種の原子を有し、活性水素を有しない有機基を示す。
【0036】
ここで、前記一般式(IV)で表されるカップリング剤は、テトラキス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、及びテトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0037】
(R5)aZXb ・・・ (V)
上記一般式(V)中、Zは、スズ又はケイ素であり、Xは、塩素又は臭素である。
(R5)は、1~20個の炭素原子を有するアルキル、3~20個の炭素原子を有するシクロアルキル、6~20個の炭素原子を有するアリール、及び7~20個の炭素原子を有するアラルキルから成る群から選択される。ここで、(R5)として、具体的には、メチル基、エチル基、n-ブチル基、ネオフィル基、シクロヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
aは0~3であり、bは1~4であるが、ここで、a+b=4である。
【0038】
上記一般式(V)で表されるカップリング剤としては、四塩化スズ、(R5)SnCl3、(R5)2SnCl2、(R5)3SnCl等が好ましく、それらの中でも四塩化スズが特に好ましい。
【0039】
(AM)Li(Q)
y ・・・ (VI)
上記一般式(VI)中、yは、0又は0.5~3であり、(Q)は、炭化水素、エーテル類、アミン類又はそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、(AM)は、下記式(VII):
【化5】
[式(VII)中、R
71及びR
72は、それぞれ独立して、1~12の炭素原子を有する、アルキル、シクロアルキル又はアラルキル基を示す。]又は下記式(VIII):
【化6】
[式(VIII)中、R
81は、3~16のメチレン基を有するアルキレン、1~12個の炭素原子を有する線状若しくは分枝アルキル、シクロアルキル、ビシクロアルキル、アリール、アラルキルを置換基とする置換アルキレン、オキシジエチレン又はN-アルキルアミノ-アルキレン基を示す。]である。
【0040】
上記一般式(VI)のQが存在することによって、リチオアミンが炭化水素溶媒に可溶となる。また、Qには、3~約300の重合単位からなる重合度を有するジエニル若しくはビニル芳香族ポリマー類又はコポリマー類が含まれる。これらのポリマー類及びコポリマー類には、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリイソプレン及びそれらのコポリマー類が含まれる。Qの他の例としては、極性リガンド[例えば、テトラヒドロフラン(THF)、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)等]が挙げられる。
【0041】
上記一般式(VI)で表されるリチオアミンは、有機アルカリ金属との混合物とすることもできる。該有機アルカリ金属は、好適には、一般式:(R91)M、(R92)OM、(R93)C(O)OM、(R94)(R95)NM及び(R96)SO3Mで表される化合物から成る群から選択され、ここで、(R91)、(R92)、(R93)、(R94)、(R95)及び(R96)の各々は、約1~約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール及びフェニルから成る群から選択される。金属成分Mは、Na、K、Rb及びCsから成る群から選択される。好適にはMは、Na又はKである。
前記混合物は、好適には、該リチオアミン中のリチウム1当量当たり約0.5~約0.02当量から成る混合比で該有機アルカリ金属を含有することもできる。
【0042】
また、前記リチオアミンと有機アルカリ金属との混合物では、重合が不均一にならないようにする補助としてキレート剤を用いることができる。有用なキレート剤には、例えば、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、オキソラニル環状アセタール類及び環状オリゴマー状オキソラニルアルカン類等が挙げられる。特に好ましくは、環状オリゴマー状オキソラニルアルカン類が挙げられ、具体例としては、2,2-ビス(テトラヒドロフリル)プロパンが挙げられる。
【0043】
前記ビニルピリジンとしては、例えば、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等が挙げられる。
【0044】
上述した種々の変性剤の中でも、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-[ジエトキシ(メチル)シリル]プロピルアミン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-トリエトキシシリル-1-プロパンアミン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、四塩化スズ、ヘキサメチレンイミンとn-ブチルリチウムとの反応物、4-ビニルピリジン、並びに、2-ビニルピリジンが好ましい。
【0045】
また、本発明のゴム組成物は、前記スチレン-ブタジエンゴムとして、スチレン結合量が15質量%以下のスチレン-ブタジエンゴムを含むことが更に好ましい。スチレン結合量が15質量%以下のスチレン-ブタジエンゴムを含むゴム組成物をタイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることができる。
なお、本明細書において、スチレン-ブタジエンゴムのスチレン結合量は、1H-NMRスペクトルの積分比より求めることができる。
【0046】
(無機発泡剤)
本発明のゴム組成物は、無機発泡剤を含む。該無機発泡剤は、無機化合物であり、環境への負荷が低い。また、該無機発泡剤は、ゴム組成物の加硫時に発泡して(加熱により発泡して)、ゴム組成物(加硫ゴム)中に気泡(空隙)を生成する作用を有する。
【0047】
前記無機発泡剤としては、炭酸塩、重炭酸塩(炭酸水素塩)等が挙げられ、これらの中でも、炭酸水素塩が好ましい。
前記炭酸塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。また、前記重炭酸塩としては、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等が挙げられる。これらの中でも、前記無機発泡剤としては、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウムが好ましく、この場合、無機発泡剤の発泡がより進み、加硫ゴムの発泡率が更に向上し、タイヤの氷上性能を更に向上させることができる。
前記無機発泡剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
また、前記無機発泡剤としては、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)が特に好ましい。ゴム組成物が重炭酸ナトリウムを含む場合、重炭酸ナトリウムに起因する発泡がより進み、加硫ゴムの発泡率がより一層向上し、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能をより一層向上させることができる。
【0049】
前記無機発泡剤の含有量は、加硫ゴムの発泡率及びタイヤの氷上性能の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して、1~12質量部の範囲が好ましく、1~10質量部の範囲が更に好ましく、2~7質量部の範囲がより一層好ましく、4~6.5質量部の範囲が特に好ましい。
【0050】
(有機酸)
本発明のゴム組成物は、有機酸を含み、該有機酸のSP値が、9.15~16.0(cal/cm3)1/2である。該有機酸は、ゴム組成物の加硫時に、前記無機発泡剤の分解・発泡反応の速度と、ゴム組成物の加硫反応の速度と、をバランスさせて、加硫ゴムの発泡率を向上させる作用を有する。該有機酸をゴム組成物に配合することで、ゴム組成物の作業性を良好に維持しつつ、前記無機発泡剤の分解・発泡反応を促進して、分解・発泡反応の速度と、ゴム組成物の加硫反応の速度と、をバランスさせて、加硫ゴムの発泡率を向上させることができ、また、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を向上させることができる。なお、ゴム組成物が前記有機酸を含まないと、ゴム組成物の加硫時(加熱時)に、十分な発泡反応を起こすことが難しく、加硫ゴムの発泡率を十分に向上させることができない。
【0051】
前記有機酸のSP値が9.15(cal/cm3)1/2未満であると、前記無機発泡剤の分解を十分に促進できず、また、有機酸のSP値が16.0(cal/cm3)1/2を超えると、有機酸を含むゴム組成物の密着性が高くなり、ゴム組成物の製造時において、ゴム組成物がロール等の製造設備に密着してしまい、ゴム組成物の作業性が悪化する。
前記有機酸のSP値は、10.5~14.3(cal/cm3)1/2であることが好ましい。有機酸のSP値が10.5(cal/cm3)1/2以上であると、前記無機発泡剤の分解を促進する効果が更に高くなり、また、有機酸のSP値が14.3(cal/cm3)1/2以下であると、有機酸を含むゴム組成物の密着性を更に低減でき、ゴム組成物の作業性が更に向上する。
なお、ゴム組成物の加硫助剤として汎用のステアリン酸は、SP値が9.12(cal/cm3)1/2であり、前記無機発泡剤の分解を促進する効果が低い。
ここで、本明細書において、有機酸のSP値(溶解度パラメータ)は、Fedors法に従って、算出する。
【0052】
前記有機酸としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸等のいずれでもよく、また、脂肪族であっても、芳香族であってもよく、更には、ヒドロキシル基、ケトン基、エチレン性不飽和基等の、カルボキシル基以外の官能基を有していてもよい。
前記有機酸としては、芳香環を有するもの(芳香族)が好ましく、また、モノカルボン酸が好ましい。前記有機酸が、芳香環を有する場合、ゴム組成物の密着性を更に低減でき、ゴム組成物の作業性が更に向上し、ロール等の製造設備に更に密着し難くなる。
【0053】
前記脂肪族モノカルボン酸としては、パルミチン酸等が挙げられる。
前記脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
前記芳香族モノカルボン酸としては、安息香酸、サリチル酸等が挙げられる。
前記芳香族ジカルボン酸として、フタル酸等が挙げられる。
また、カルボキシル基以外の官能基を有する有機酸としては、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、グリコール酸、α-ケトグルタル酸等が挙げられる。
前記有機酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
前記有機酸としては、安息香酸が特に好ましい。ゴム組成物に安息香酸を配合した場合、ゴム組成物の密着性をより一層低減でき、ゴム組成物の作業性がより一層向上して、ロール等の製造設備により一層密着し難くなる。
【0055】
前記有機酸の含有量は、ゴム組成物の作業性、加硫ゴムの発泡率及びタイヤの氷上性能の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~7質量部の範囲が好ましく、1.5~7質量部の範囲が更に好ましく、3~7質量部の範囲がより一層好ましい。
【0056】
また、前記無機系発泡剤と前記有機酸との合計含有量は、加硫ゴムの発泡率及びタイヤの氷上性能の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上15質量部未満であることが好ましく、5質量部以上15質量部未満の範囲が更に好ましく、7質量部以上15質量部未満の範囲がより一層好ましい。
【0057】
また、前記無機発泡剤と前記有機酸との質量比(無機発泡剤:有機酸)は、加硫ゴムの発泡率及びタイヤの氷上性能の観点から、1:0.5~1:1.5が好ましく、1:0.7~1:1.3が更に好ましい。
【0058】
(発泡助剤)
本発明のゴム組成物は、更に、発泡助剤を含むことが好ましい。該発泡助剤は、ゴム組成物の加硫時に、前記無機発泡剤の発泡反応を促進する作用を有する。ゴム組成物が発泡助剤を含む場合、無機発泡剤の発泡反応が促進され、得られる加硫ゴムの発泡率を向上させることができ、また、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を更に向上させることができる。
【0059】
前記発泡助剤としては、尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛、亜鉛華等が挙げられ、これらの中でも、尿素が特に好ましい。ゴム組成物が尿素を含む場合、無機発泡剤の発泡がより進み、加硫ゴムの発泡率が更に向上し、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を更に向上させることができる。
前記尿素は、オイルトリート等の処理を施されていてもよい。オイルトリート等の処理により、尿素を疎水性にすることができ、尿素のゴム成分への分散性を向上させることができる。なお、オイルトリートに使用するオイルは、特に限定されず、種々のオイルを使用することができる。
前記発泡助剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
前記発泡助剤の含有量は、加硫ゴムの発泡率及びタイヤの氷上性能の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して、4~14質量部の範囲が好ましく、6~14質量部の範囲が更に好ましい。
【0061】
本発明のゴム組成物が発泡助剤を含む場合、前記無機発泡剤と当該発泡助剤との総含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1~30質量部の範囲が好ましい。無機発泡剤と発泡助剤との総含有量が1~30質量部であると、加硫時にゴム組成物が十分に発泡して、加硫ゴムの発泡率が更に向上する。
前記無機発泡剤と前記発泡助剤との総含有量は、加硫ゴムの発泡率の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上が更に好ましく、5質量部以上がより一層好ましい。また、前記無機発泡剤と前記発泡助剤との総含有量は、加硫ゴムの発泡率の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して、25質量部以下が更に好ましく、20質量部以下がより一層好ましい。
【0062】
本発明のゴム組成物が発泡助剤を含む場合、前記無機発泡剤と当該発泡助剤との質量比(無機発泡剤:発泡助剤)は、1:1.1~1:3.3の範囲が好ましい。該質量比(無機発泡剤:発泡助剤)が1:1.1~1:3.3の範囲であると、加硫時にゴム組成物が十分に発泡して、加硫ゴムの発泡率が更に向上する。
また、前記無機発泡剤と前記発泡助剤との質量比(無機発泡剤:発泡助剤)は、加硫ゴムの発泡率の観点から、1:1.2以上がより好ましく、1:1.3以上が更に好ましい。また、前記無機発泡剤と前記発泡助剤との質量比(無機発泡剤:発泡助剤)は、加硫ゴムの発泡率の観点から、1:3.2以下がより好ましく、1:3.1以下がより好ましく、1:2.9以下が更に好ましく、1:2.7以下が更に好ましく、1:2.5以下がより一層好ましく、1:2.3以下が特に好ましい。
【0063】
本発明のゴム組成物が発泡助剤を含む場合、前記無機発泡剤と前記有機酸と当該発泡助剤との総含有量は、加硫ゴムの発泡率及びタイヤの氷上性能の観点から、前記ゴム成分100質量部に対して、5~40質量部の範囲が好ましく、9~35質量部の範囲が更に好ましく、12~31質量部の範囲がより一層好ましい。
【0064】
また、本発明のゴム組成物が発泡助剤を含む場合、前記無機発泡剤と前記有機酸と当該発泡助剤との質量比(無機発泡剤:有機酸:発泡助剤)は、加硫ゴムの発泡率及びタイヤの氷上性能の観点から、1:0.3:0.8~1:2:5が好ましく、1:0.5:1~1:1.5:3.5が更に好ましく、1:0.6:1.1~1:1.4:3.3がより一層好ましく、1:0.7:1.3~1:1.3:2.7が特に好ましい。
【0065】
(短繊維)
本発明のゴム組成物は、更に、短繊維を含むことが好ましく、親水性短繊維を含むことが更に好ましい。ここで、親水性短繊維とは、水に対する接触角が5~80°である短繊維を指す。親水性短繊維の水に対する接触角は、親水性短繊維の原料として用いる親水性樹脂を平滑な板状に成形した試験片を用意し、協和界面化学(株)製の自動接触角計DM-301を用い、25℃、相対湿度55%の条件下で、試験片の表面に水を滴下して、その直後に真横から観察したときに、試験片表面が成す直線と水滴表面の接線とが成す角度を測定することにより求めることができる。
【0066】
ゴム組成物が短繊維を含む場合、加硫時に前記無機発泡剤から発生したガスが短繊維の内部に浸入し、ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム中に、短繊維の形状に対応した形状を有する空隙(気泡)が形成される。このような加硫ゴムをタイヤのトレッドに適用すると、空隙が加硫ゴム内に存在するため、タイヤが摩耗するにつれて空隙が排水溝として機能し、タイヤに優れた水膜除去能がもたらされ、タイヤの氷上性能を更に向上させることができる。
【0067】
また、ゴム組成物が親水性短繊維を含む場合、加硫時に前記無機発泡剤から発生したガスが親水性短繊維の内部に浸入して、親水性短繊維の形状に対応した形状を有する空隙(気泡)が形成され、また、該空隙は、壁面が親水性短繊維由来の樹脂で覆われ、親水化されている。そのため、親水性短繊維を含むゴム組成物をトレッドに使用してタイヤを製造すると、タイヤの使用時において、空隙の壁面がトレッド表面に露出することで、水との親和性が向上し、空隙が水を積極的に取り込むことができるようになり、タイヤに優れた水膜除去能及び排水性が付与され、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることができる。
また、ゴム組成物が親水性短繊維を含む場合、ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴムの空隙(気泡)の長さが更に長くなり、氷上性能をより一層向上させることができる。
【0068】
前記親水性短繊維の原料として用いる親水性樹脂としては、分子内に親水性基を有する樹脂が挙げられ、具体的には、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含む樹脂であることが好ましく、-OH、-COOH、-OCOR(Rはアルキル基)、-NH2、-NCO、-SHからなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含む樹脂であることが更に好ましく、-OH、-COOH、-NH2、-NCOからなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含む樹脂であることがより一層好ましい。
【0069】
前記短繊維の原料としては、種々の樹脂を用いることができる。また、前記親水性短繊維の原料として用いる親水性樹脂として、より具体的には、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸或いはそのエステル、ポリエチレングリコール、カルボキシビニル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、メルカプトエタノール等が挙げられ、これらの中でも、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸が好ましく、エチレン-ビニルアルコール共重合体が特に好ましい。
【0070】
上記親水性短繊維の表面には、前記ゴム成分に対して親和性を有し、好ましくは、ゴム組成物の加硫最高温度よりも低い融点を有する低融点樹脂からなる被覆層が形成されていてもよい。かかる被覆層を形成することで、親水性短繊維が有する水との親和性を有効に保持しつつ、被覆層とゴム成分との親和性が良好なため、短繊維のゴム成分への分散性が向上する。また、かかる低融点樹脂が加硫時に溶融することで流動性を帯びた被覆層となってゴム成分と親水性短繊維との接着を図ることに寄与し、良好な排水性と耐久性とが付与されたタイヤを容易に実現することができる。なお、かかる被覆層の厚みは、親水性短繊維の配合量や平均径等によって変動し得るが、通常0.001~10μm、好ましくは0.001~5μmである。
前記被覆層に用いる低融点樹脂の融点は、ゴム組成物の加硫の最高温度よりも低いことが好ましい。なお、加硫の最高温度とは、ゴム組成物の加硫時にゴム組成物が達する最高温度を意味する。例えば、モールド加硫の場合には、上記ゴム組成物がモールド内に入ってからモールドを出て冷却されるまでに該ゴム組成物が達する最高温度を意味し、かかる加硫最高温度は、例えば、ゴム組成物中に熱電対を埋め込むこと等により測定することができる。低融点樹脂の融点の上限としては、特に制限はないものの、以上の点を考慮して選択することが好ましく、一般的には、ゴム組成物の加硫最高温度よりも、10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましい。なお、ゴム組成物の工業的な加硫温度は、一般的には最高で約190℃程度であるが、例えば、加硫最高温度がこの190℃に設定されている場合には、低融点樹脂の融点としては、通常190℃未満の範囲で選択され、180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。
前記低融点樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリスチレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、並びにこれらのアイオノマー樹脂等が挙げられる。
【0071】
前記短繊維は、平均長さが好ましくは0.1~50mm、より好ましくは1~7mmで、平均径が好ましくは1μm~2mm、より好ましくは5μm~0.5mmである。平均長さ及び平均径が上記範囲内であると、短繊維同士が必要以上に絡まるおそれがなく、良好な分散性を確保することができる。
【0072】
前記短繊維の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.1~100質量部の範囲が好ましく、1~50質量部の範囲が更に好ましい。親水性短繊維の含有量を上記範囲に収めることで、タイヤの氷上性能と耐摩耗性の良好なバランスを取ることができる。
【0073】
(その他の成分)
本発明のゴム組成物には、上述したゴム成分、無機発泡剤、有機酸、発泡助剤、短繊維の他、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、充填剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0074】
前記充填剤としては、カーボンブラック、シリカ等が挙げられる。これら充填剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。該充填剤の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、10~150質量部の範囲が好ましく、20~100質量部がより好ましい。
【0075】
前記加硫剤としては、硫黄等が挙げられる。該加硫剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、硫黄分として0.1~10質量部の範囲が好ましく、1~4質量部の範囲が更に好ましい。
【0076】
前記加硫促進剤としては、チアゾール系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。該加硫促進剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、0.2~3質量部の範囲が更に好ましい。
【0077】
本発明のゴム組成物は、例えば、バンバリーミキサーやロール等を用いて、ゴム成分に、無機発泡剤及び有機酸と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを配合して混練した後、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0078】
本発明のゴム組成物は、タイヤを始めとする種々のゴム製品に利用できる。特には、本発明のゴム組成物は、タイヤのトレッドゴムとして好適である。
【0079】
<加硫ゴム>
本発明の加硫ゴムは、上記のゴム組成物を加硫してなり、発泡率が1~45%であることを特徴とする。かかる本発明の加硫ゴムは、上記のゴム組成物を加硫してなるため、生産性に優れ、また、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を向上させることができる。
加硫ゴムの発泡率が1%以上であると、タイヤの氷上性能を向上させる効果が十分に得られ、また、加硫ゴムの発泡率が45%以下であれば、タイヤに適用した場合、タイヤの耐摩耗性を十分に確保することができる。
【0080】
ここで、本明細書において、前記加硫ゴムの発泡率とは、平均発泡率Vsを意味し、具体的には、下記式(1)により算出される値を意味する。
Vs=(ρ0/ρ1-1)×100(%) ・・・ (1)
式(1)中、ρ1は加硫ゴム(発泡ゴム)の密度(g/cm3)を示し、ρ0は加硫ゴム(発泡ゴム)における固相部の密度(g/cm3)を示す。なお、加硫ゴムの密度及び加硫ゴムの固相部の密度は、エタノール中の質量と空気中の質量を測定し、これから算出される。
また、加硫ゴムの発泡率は、上述の無機発泡剤、有機酸、発泡助剤の種類、含有量等により適宜変化させることができる。
【0081】
本発明の加硫ゴムは、タイヤを始めとする種々のゴム製品に利用できる。特には、本発明の加硫ゴムは、タイヤのトレッドゴムとして好適である。
【0082】
<タイヤ用トレッドゴム>
本発明のタイヤ用トレッドゴムは、上記のゴム組成物、又は、上記の加硫ゴムからなることを特徴とする。かかる本発明のタイヤ用トレッドゴムは、上記のゴム組成物又は加硫ゴムからなるため、生産性に優れ、タイヤに適用することで、タイヤの氷上性能を向上させることができる。
なお、本発明のタイヤ用トレッドゴムは、新品タイヤに適用してもよいし、更生タイヤに適用してもよい。
【0083】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上記のゴム組成物、又は、上記の加硫ゴムを、トレッド部に具えることを特徴とする。かかる本発明のタイヤは、上記のゴム組成物又は加硫ゴムを、トレッド部に具えるため、生産性に優れ、優れた氷上性能を有する。
なお、本発明のタイヤは、氷上性能に優れるため、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤとして特に有用である。
【0084】
本発明のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、又は予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、本発明のタイヤは、好ましくは空気入りタイヤであり、空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0086】
<ゴム組成物の調製及び評価>
表1に示す配合処方で、通常のバンバリーミキサーを用いて、ゴム組成物を製造し、該製造の際の作業性を評価した。
更に、該ゴム組成物を常法に従い加硫して、加硫ゴムを得た。得られた加硫ゴムに対して、下記の方法で、発泡率を測定し、更に、氷上性能を評価した。結果を表1に示す。
【0087】
(1)作業性
前記ゴム組成物を製造する際の作業性を評価した。具体的には、ゴム組成物を製造する際に、ゴム組成物がロール等の製造設備に密着するか否かを評価した。
表1中、「良好」は、ゴム組成物がロール等の製造設備に密着せず、作業性が良好であったことを示し、「ロール密着」は、ゴム組成物がロールに密着し、作業性が悪かったことを示す。
【0088】
(2)発泡率
加硫ゴムの発泡率として、下記式(1):
Vs=(ρ0/ρ1-1)×100(%) ・・・ (1)
により算出される平均発泡率Vsを算出し、以下の基準で評価した。
〇(優良):平均発泡率Vsが1~45%の場合
△(良好):平均発泡率Vsが0.5%以上1%未満の場合
×1(不良):平均発泡率Vsが0.5%未満の場合
×2(不良):平均発泡率Vsが45%超の場合
式(1)中、ρ1は加硫ゴム(発泡ゴム)の密度(g/cm3)を示し、ρ0は加硫ゴム(発泡ゴム)における固相部の密度(g/cm3)を示す。なお、加硫ゴムの密度及び加硫ゴムの固相部の密度は、エタノール中の質量と空気中の質量を測定し、これから算出した。
【0089】
(3)氷上性能(ICEμ)
一辺が25mmの正方形で、厚さ2mmの加硫ゴムを、-2℃の固定した氷上に押しつけて往復させるときに発生する摩擦力をロードセルで検出し、動摩擦係数μを算出した。比較例1の動摩擦係数μを100として、指数表示した。指数値が大きい程、動摩擦係数μが大きく、氷上性能が良好であることを示す。
【0090】
【0091】
*1 NR: 天然ゴム
*2 BR: ブタジエンゴム、宇部興産株式会社製、「BR150L」
*3 変性BR: 変性ブタジエンゴム、JSR株式会社製、「BR500」
*4 SBR: スチレン-ブタジエンゴム、JSR株式会社製、「1500」
*5 変性SBR: 下記の方法で合成した変性スチレン-ブタジエンゴム
【0092】
(変性SBRの合成方法)
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、1,3-ブタジエンのシクロヘキサン溶液及びスチレンのシクロヘキサン溶液を、1,3-ブタジエン67.5g及びスチレン7.5gになるように加え、2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン0.6mmolを加え、0.8mmolのn-ブチルリチウムを加えた後、50℃で1.5時間重合を行った。この際の重合転化率がほぼ100%となった重合反応系に対し、変性剤としてN,N-ビス(トリメチルシリル)-3-[ジエトキシ(メチル)シリル]プロピルアミンを、0.72mmol添加し、50℃で30分間変性反応を行った。その後、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール5質量%溶液2mLを加えて反応を停止させ、常法に従い乾燥して変性SBRを得た。得られた変性SBRのミクロ構造を測定した結果、結合スチレン量が10質量%、ブタジエン部分のビニル結合量が40%、ピーク分子量が200,000であった。
【0093】
*6 カーボンブラック: 旭カーボン株式会社製、「N134」
*7 硬化脂肪酸: 新日本理化株式会社製、「ステアリン酸50S」
*8 老化防止剤: 大内新興化学工業株式会社製、「ノクラックNS-6」
*9 加硫促進剤: 三新化学工業株式会社製、「サンセラーCZ」
*10 重曹: 重炭酸ナトリウム、永和化成工業株式会社製、「セルボンFE507」
*11 安息香酸: 富士フイルム和光純薬株式会社製、SP値=11.93(cal/cm3)1/2
*12 マロン酸: 関東化学株式会社製、SP値=14.03(cal/cm3)1/2
*13 クエン酸: 関東化学株式会社製、SP値=16.53(cal/cm3)1/2
*14 サリチル酸: 関東化学株式会社製、SP値=15.53(cal/cm3)1/2
*15 尿素: 永和化成工業株式会社製、「セルペーストK5」
【0094】
表1から、無機発泡剤と、SP値が9.15~16.0(cal/cm3)1/2である有機酸と、を含む実施例のゴム組成物は、作業性が良好であり、また、氷上性能に優れることが分かる。
なお、実施例4は、作業性が良好であり、また、氷上性能(ICEμ)が比較例1と同等であるものの、比較例1に比べて発泡率が向上していた。
また、比較例3は、比較例1に比べて氷上性能が向上していたものの、ゴム組成物がロールに密着し、作業性が悪く、本願の課題を解決できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のゴム組成物、加硫ゴム及びトレッドゴムは、タイヤ、特にはスタッドレスタイヤ等に利用できる。また、本発明のタイヤは、スタッドレスタイヤとして特に有用である。