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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】トナー用樹脂粒子分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20240719BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G03G9/08 381
G03G9/087 331
G03G9/087 325
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020129517
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2021026237
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019140234
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 澄広
(72)【発明者】
【氏名】木畑 貴行
(72)【発明者】
【氏名】小田 斉
(72)【発明者】
【氏名】水畑 浩司
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-194679(JP,A)
【文献】特開2018-022132(JP,A)
【文献】特開2016-138257(JP,A)
【文献】特開2014-195793(JP,A)
【文献】特開2014-191350(JP,A)
【文献】特開2013-190678(JP,A)
【文献】特開2013-057899(JP,A)
【文献】特開2010-160214(JP,A)
【文献】特開2008-281787(JP,A)
【文献】特開2008-310263(JP,A)
【文献】特開2008-040319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性樹脂及び結晶性樹脂を含有する樹脂粒子分散液を、スタティックミキサーを用いて、水系媒体と混合することにより冷却する工程を有
前記冷却する工程が、樹脂粒子分散液を20℃以上冷却する工程である、
トナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記冷却する工程の冷却速度が、20℃/秒以上である、請求項1に記載のトナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
スタティックミキサー中の平均滞留時間が、3秒以下である、請求項1又は2に記載のトナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
冷却前の樹脂粒子分散液の温度が、結晶性樹脂の融点-15℃以上であり、かつ、冷却後の樹脂粒子分散液の温度が、結晶性樹脂の融点-20℃以下である、請求項1~のいずれかに記載のトナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項5】
樹脂粒子分散液に対する水系媒体の混合比(水系媒体/樹脂粒子分散液)が、質量基準で1/1以上10/1以下である、請求項1~のいずれかに記載のトナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
冷却前の樹脂粒子分散液が、非晶性樹脂及び結晶性樹脂を水系媒体中で凝集させて凝集粒子の分散液を得る工程(工程1)と、得られた凝集粒子を水系媒体中で加熱融着させて融着粒子の分散液を得る工程(工程2)により得られた融着粒子の分散液である、請求項1~のいずれかに記載のトナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の製造方法を有する、静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー用樹脂粒子分散液の製造方法に関し、とりわけ、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に用いられる電子写真用トナーに用いられるトナー用樹脂粒子分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用トナーの分野においては、電子写真システムの発展に伴い、高画質化及び高速化に対応したトナーの開発が要求されている。高画質化の観点からは、トナーを小粒径化する必要があり、従来の溶融混練法に代わり、重合法や乳化分散法等のケミカル法により得られる、いわゆるケミカルトナーが開発されている。ケミカルトナーの製造では、樹脂粒子の水系分散液と凝集剤とを加熱下で撹拌混合して粒子を凝集、融着させた後、冷却させることが一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、低温定着性に優れ、かつ経時的な低温定着性の低下を抑制できるトナーを得ることを課題として、非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を含有するトナー粒子の分散液を冷却する工程を含む静電荷像現像用トナーの製造方法であって、前記冷却する工程が、特定の温度条件を満たす静電荷像現像用トナーの製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、特許文献1と同様の課題に対して、工程(1):非晶性複合樹脂及び結晶性樹脂を水系媒体中で凝集させて凝集粒子の分散液を得る工程と、工程(2):得られた凝集粒子を融着させて融着粒子の分散液を得る工程と、工程(3):得られた融着粒子の分散液を10℃/min以上の速度で冷却する工程と、を有する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、非晶性複合樹脂が、ポリエステル樹脂セグメント、及び、炭素数6以上22以下の炭化水素基を有するビニルモノマー由来の構成単位を含有するビニル系樹脂セグメントを含む、静電荷像現像用トナーの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-22132号公報
【文献】特開2018-13589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や2では、トナー粒子の融着粒子の分散液の温度を一気に低下させることは困難なため、トナー粒子中の結晶性樹脂に由来する結晶ドメインが大きくなり易い。
本発明は、更なる低温定着性に優れるトナーが得られる、トナー用樹脂粒子分散液の製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定の装置を用いて冷却することにより、低温定着性に優れるトナーが得られるトナー用樹脂粒子分散液が得られることを見出した。すなわち、本発明は、以下の[1]、[2]に関する。
[1] 非晶性樹脂及び結晶性樹脂を含有する樹脂粒子分散液を、スタティックミキサーを用いて、水系媒体と混合することにより冷却する工程を有する、トナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
[2] 前記[1]に記載の製造方法を有する、静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、低温定着性に優れるトナーが得られる、トナー用樹脂粒子分散液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[トナー用樹脂粒子分散液の製造方法]
本発明のトナー用樹脂粒子分散液の製造方法は、非晶性樹脂(以下、非晶性樹脂(A)ともいう)及び結晶性樹脂(以下、結晶性樹脂(B)ともいう)を含有する樹脂粒子分散液を、スタティックミキサーを用いて、水系媒体と混合することにより冷却する工程を有する。
【0010】
本発明に用いられる、(A)非晶性樹脂及び(B)結晶性樹脂を含有する樹脂粒子分散液は、溶融混練法、乳化転相法、重合法、凝集融着法等の従来から知られているいずれの方法により得られた粒子であってもよいが、凝集融着法による粒子が好ましい。
凝集融着法である場合、製造方法は、例えば、
工程1:非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を水系媒体中で凝集させて凝集粒子の分散液を得る工程(以下、単に「工程1」ともいう)と、
工程2:得られた凝集粒子を水系媒体中で加熱融着させて融着粒子の分散液(樹脂粒子分散液)を得る工程(以下、単に「工程2」ともいう)と、
工程3:得られた非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を含有する樹脂粒子分散液を、スタティックミキサーを用いて、水系媒体と混合することにより冷却して、トナー用樹脂粒子分散液を得る工程(以下、単に「工程3」ともいう)
を含む。
【0011】
特許文献1及び2に記載されているように、冷水にトナー粒子の融着粒子の分散液を添加するか、あるいは、トナー粒子の融着粒子の分散液に冷水を添加する方法では、添加するにつれて、冷水、あるいは前記分散液は、徐々に温度が変化していくため、結晶ドメインの大きさにバラツキが生じてしまい、結晶ドメインの大きな粒子が生じることになる。
トナー定着時には、非晶性樹脂と結晶性樹脂との境界で、構造欠陥が生じ、定着が促されると考えられる。そのため、結晶性樹脂の結晶ドメインが大きくなると、境界面積が減少し、その結果、トナー定着時に結晶性樹脂の溶融性が低下し、低温定着性が低下すると考えられる。
本発明では、非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を含有する樹脂粒子分散液を、スタティックミキサーを用いて、水系媒体と混合して冷却するため、短時間で冷却されることにより、樹脂粒子内の結晶ドメインの拡大を抑制できると考えられる。
また、混合する樹脂粒子分散液の温度と水系媒体の温度が一定であるため、常に、同品質のトナー用樹脂粒子分散液が得られるため、樹脂粒子間の結晶ドメインの大きさのバラツキが抑制されるためと考えられる。
これらにより、本発明の製造方法によれば、低温定着性が向上するトナー用樹脂粒子分散液が得られると考えられる。
更に、本発明で用いられるスタティックミキサーは、一般に、剪断力がかからないか、剪断力がかかっても弱いため、樹脂が変形したり、更に、樹脂粒子がコアシェル樹脂である場合、樹脂粒子が分断されて、コアの結晶性樹脂が樹脂表面に露出することが抑制されるため、トナー用の樹脂粒子の製造に好適である。
また、スタティックミキサーは、連続で処理が可能であるため、工業的な生産にも好適である。
【0012】
<工程1>
工程1は、非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を水系媒体中で凝集させて凝集粒子の分散液を得る工程である。
樹脂粒子を構成する樹脂は、水系分散液を構成し得るものであれば特に限定されないが、トナーの低温定着性及び帯電性の観点から、好ましくはポリエステル系樹脂である。
すなわち、樹脂粒子は非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を含有し、非晶性ポリエステル系樹脂及び結晶性ポリエステル系樹脂を含有することが好ましい。
【0013】
ここで、樹脂が結晶性であるか非晶性であるかについては、結晶性指数により判定される。結晶性指数は、後述する実施例に記載の測定方法における、樹脂の軟化点と吸熱の最大ピーク温度との比(軟化点(℃)/吸熱の最大ピーク温度(℃))で定義される。結晶性樹脂とは、結晶性指数が0.6以上1.4以下のものである。非晶性樹脂とは、結晶性指数が0.6未満又は1.4超のものである。結晶性指数は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。
【0014】
(非晶性樹脂(A))
非晶性樹脂(A)は、低温定着性、印刷物の画像濃度及び耐ホットオフセット性を示すトナーを得る観点から、好ましくはポリエステル系樹脂であり、より好ましくは水酸基及びカルボキシ基の少なくとも1つを有する炭化水素ワックスW1由来の構成成分とポリエステル樹脂セグメントとを有するポリエステル系樹脂である。非晶性樹脂(A)は、例えば、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも1つを有する炭化水素ワックスW1の存在下、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合することで得られる樹脂であることが好ましい。
非晶性樹脂(A)は、低温定着性、印刷物の画像濃度及び耐ホットオフセット性をより向上させる観点から、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも1つを有する炭化水素ワックスW1由来の構成成分、ポリエステル樹脂セグメント、及び付加重合系樹脂セグメントを有することが更に好ましい。
【0015】
〔炭化水素ワックスW1由来の構成成分〕
「炭化水素ワックスW1由来の構成成分」とは、炭化水素ワックスが有する水酸基及びカルボキシ基の少なくとも1つが反応し、ポリエステル樹脂セグメントと共有結合した炭化水素ワックスW1の残余の成分を意味する。
【0016】
炭化水素ワックスW1は、水酸基及びカルボキシ基の少なくとも1つを有する。炭化水素ワックスW1は、水酸基、カルボキシ基のいずれか一方、又は両方を有していてもよいが、低温定着性、印刷物の画像濃度を向上させる観点、及び耐ホットオフセット性を向上させる観点から、好ましくは、水酸基及びカルボキシ基を有する。
炭化水素ワックスW1は、例えば、未変性の炭化水素ワックスを公知の方法で変性させて得られる。炭化水素ワックスW1の原料としては、例えば、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスが挙げられる。これらの中でも、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスが好ましい。
炭化水素ワックスW1の原料となるパラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスの市販品としては、例えば、「HNP-11」、「HNP-9」、「HNP-10」、「FT-0070」、「HNP-51」、「FNP-0090」(以上、日本精蝋株式会社製)が挙げられる。
【0017】
水酸基を有する炭化水素ワックスは、例えば、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の炭化水素ワックスを酸化処理により変性させて得られるものである。酸化処理の方法としては、例えば、特開昭62-79267号公報、特開2010-197979号公報に記載の方法が挙げられる。具体的には、炭化水素ワックスをホウ酸の存在下で酸素を含有するガスで液相酸化する方法が例示される。
水酸基を有する炭化水素ワックスの市販品としては、例えば、「ユニリン700」、「ユニリン425」、「ユニリン550」(以上、ベーカー・ペトロライト社製)等が挙げられる。
【0018】
カルボキシ基を有する炭化水素ワックスとしては、酸変性炭化水素ワックスが挙げられる。
酸変性炭化水素ワックスは、例えば、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の炭化水素ワックスに、酸変性により、カルボキシ基を導入することで得られる。酸変性の方法としては、例えば、特開2006-328388号公報、特開2007-84787号公報に記載の方法が挙げられる。具体的には、原料の炭化水素ワックスの溶融物に、反応開始剤として、ジクミルパーオキシド等の有機過酸化物と、不飽和結合を有するカルボン酸化合物を添加して反応させることで、カルボキシ基を導入することができる。
カルボキシ基を有する炭化水素ワックスの市販品としては、例えば、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体「ハイワックス1105A」(三井化学株式会社製)が挙げられる。
【0019】
水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスは、例えば、水酸基を有する炭化水素ワックスの酸化処理と同様の方法で得ることができる。
水酸基及びカルボキシ基を有する炭化水素ワックスの市販品としては、例えば、「パラコール6420」、「パラコール6470」、「パラコール6490」(以上、日本精蝋株式会社製)が挙げられる。
【0020】
〔ポリエステル樹脂セグメント〕
ポリエステル樹脂セグメントは、例えば、アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合物であるポリエステル樹脂からなるセグメントである。
【0021】
以下、非晶性樹脂(A)のポリエステル樹脂セグメント各成分について説明する。
アルコール成分としては、例えば、芳香族基を有するジオール、直鎖又は分岐の脂肪族ジオール、脂環式ジオール、3価以上の多価アルコールが挙げられる。これらの中でも、芳香族ジオールが好ましい。
芳香族基を有するジオールは、好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物であり、より好ましくは式(I):
【0022】
【化1】

(式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、R及びRはそれぞれ独立にエチレン又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の値は、1以上、好ましくは1.5以上であり、16以下、好ましくは8以下、より好ましくは4以下である)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物である。
【0023】
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物としては、例えば、ビスフェノールA〔2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〕のポリオキシプロピレン付加物、ビスフェノールAのポリオキシエチレン付加物が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、更に好ましくは100モル%である。
【0024】
カルボン酸成分としては、例えば、ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、直鎖又は分岐の脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸が挙げられる。これらの中でも、芳香族ジカルボン酸、及び、直鎖又は分岐の脂肪族ジカルボン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が挙げられる。これらの中でも、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
芳香族ジカルボン酸の量は、カルボン酸成分中、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは40モル%以上であり、そして、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは80モル%以下である。
【0025】
直鎖又は分岐の脂肪族ジカルボン酸の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
直鎖又は分岐の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アゼライン酸、炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸が挙げられる。炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸としては、例えば、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸が挙げられる。これらの中でも、フマル酸、炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸が好ましく、フマル酸がより好ましい。
直鎖又は分岐の脂肪族ジカルボン酸の量は、カルボン酸成分中、好ましくは1モル%以上、より好ましくは2モル%以上、更に好ましくは3モル%以上であり、そして、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
【0026】
3価以上の多価カルボン酸としては、好ましくは3価のカルボン酸であり、例えばトリメリット酸が挙げられる。
3価以上の多価カルボン酸を含む場合、3価以上の多価カルボン酸の量は、カルボン酸成分中、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上であり、そして、好ましくは30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、更に好ましくは20モル%以下である。
これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
アルコール成分の水酸基に対するカルボン酸成分のカルボキシ基の比〔COOH基/OH基〕は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下である。
【0028】
〔付加重合系樹脂セグメント〕
付加重合系樹脂セグメントは、低温定着性及び印刷物の画像濃度を向上させる観点から、スチレン系化合物を含む原料モノマーの付加重合物であることが好ましい。
【0029】
スチレン系化合物としては、置換又は無置換のスチレンが挙げられる。置換基としては、例えば、炭素数1以上5以下のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、スルホン酸基又はその塩等が挙げられる。
スチレン系化合物としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、スチレンスルホン酸又はその塩が挙げられる。これらの中でもスチレンが好ましい。
付加重合系樹脂セグメントの原料ビニルモノマー中、スチレン系化合物の含有量は、低温定着性及び印刷物の画像濃度を向上させる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは87質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0030】
スチレン系化合物以外の原料モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン類;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のハロゲン化ビニリデン;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物が挙げられる。これらの中でも、低温定着性及び印刷物の画像濃度を向上させる観点、及び耐ホットオフセット性を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルがより好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルにおけるアルキル基の炭素数は、低温定着性及び印刷物の画像濃度をより向上させる観点、及び耐ホットオフセット性をより向上させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは20以下である。
【0031】
付加重合系樹脂セグメントの原料モノマーは、低温定着性及び印刷物の画像濃度を向上させる観点から、好ましくは、スチレンからなる又は、スチレン及び(メタ)アクリル酸エステルを含み、より好ましくは、スチレン及び(メタ)アクリル酸エステルを含み、更に好ましくは、スチレン及び炭素数6以上20以下アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルを含む。
【0032】
付加重合系樹脂セグメントの原料ビニルモノマー中、(メタ)アクリル酸エステルの含有量は、低温定着性及び印刷物の画像濃度を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、更に好ましくは17質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
付加重合系樹脂セグメントの原料モノマー中、スチレン系化合物及び(メタ)アクリル酸エステルの合計含有量は、低温定着性及び印刷物の画像濃度をより向上させる観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、そして、更に好ましくは100質量%である。
【0033】
非晶性樹脂(A)が付加重合系樹脂セグメントを有する場合、非晶性樹脂(A)は、好ましくは、ポリエステル樹脂セグメント及び付加重合系樹脂セグメントと共有結合を介して結合した両反応性モノマー由来の構成単位を有する。「両反応性モノマー由来の構造単位」とは、両反応性モノマーの官能基、不飽和結合部位が反応した単位を意味する。
両反応性モノマーとしては、例えば、分子内に、水酸基、カルボキシ基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する付加重合性モノマーが挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、水酸基又はカルボキシ基を有する付加重合性モノマーが好ましく、カルボキシ基を有する付加重合性モノマーがより好ましい。
両反応性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。これらの中でも、重縮合反応と付加重合反応の双方の反応性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
両反応性モノマー由来の構成単位の量は、非晶性樹脂(A)のポリエステル樹脂セグメントのアルコール成分100モル部に対して、好ましくは1モル部以上、より好ましくは5モル部以上、更に好ましくは8モル部以上であり、そして、好ましくは30モル部以下、より好ましくは25モル部以下、更に好ましくは20モル部以下である。
【0034】
非晶性樹脂(A)中、炭化水素ワックスW1由来の構成成分の量は、低温定着性及び印刷物の画像濃度をより向上させる観点、及び耐ホットオフセット性をより向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0035】
非晶性樹脂(A)中、ポリエステル樹脂セグメントの量は、低温定着性及び印刷物の画像濃度をより向上させる観点、及び耐ホットオフセット性をより向上させる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下であり、そして、後述の付加重合系樹脂セグメントを有する場合、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0036】
非晶性樹脂(A)中、付加重合系樹脂セグメントの量は、低温定着性及び印刷物の画像濃度をより向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは45質量%以下である。
【0037】
非晶性樹脂(A)中、両反応性モノマー由来の構成単位の量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0038】
炭化水素ワックスW1由来の構成成分と、ポリエステル樹脂セグメントと、付加重合系樹脂セグメントと、両反応性モノマー由来の構成単位の合計量は、非晶性樹脂(A)中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、そして、100質量%以下である。
【0039】
上記量は、ポリエステル樹脂セグメント、付加重合系樹脂セグメントの原料モノマー、両反応性モノマー、ラジカル重合開始剤の量の比率を基準に算出し、ポリエステル樹脂セグメント等における重縮合による脱水量は考慮しない。なお、ラジカル重合開始剤を用いた場合、ラジカル重合開始剤の質量は、付加重合系樹脂セグメントに含めて計算する。
【0040】
〔非晶性樹脂(A)の製造〕
非晶性樹脂(A)は、例えば、水酸基又はカルボキシ基を有する炭化水素ワックスW1の存在下、アルコール成分及びカルボン酸成分の重縮合により得られる。
必要に応じて、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)、酸化ジブチル錫、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のエステル化触媒をアルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対し0.01質量部以上5質量部以下;没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸と同じ。)等のエステル化助触媒をアルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対し0.001質量部以上0.5質量部以下用いて重縮合してもよい。
重縮合反応の温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは160℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。なお、重縮合は、不活性ガス雰囲気中にて行ってもよい。
【0041】
非晶性樹脂(A)は、付加重合系樹脂セグメントを有する場合、例えば、炭化水素ワックスW1の存在下、アルコール成分及びカルボン酸成分による重縮合反応の工程Aと、付加重合系樹脂セグメントの原料モノマー及び両反応性モノマーによる付加重合反応の工程Bとを含む方法により製造してもよい。
工程Aの後に工程Bを行ってもよいし、工程Bの後に工程Aを行ってもよく、工程Aと工程Bを同時に行ってもよい。
工程Aにおいて、カルボン酸成分の一部を重縮合反応に供し、次いで工程Bを実施した後に、再度反応温度を上昇させ、多価カルボン酸成分の残部を重合系に添加し、工程Aの重縮合反応及び必要に応じて両反応性モノマーとの反応を更に進める方法がより好ましい。
【0042】
〔非晶性樹脂(A)の物性〕
非晶性樹脂(A)の軟化点は、低温定着性及び印刷物の画像濃度をより向上させる観点、並びに耐ホットオフセット性をより向上させる観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上であり、そして、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下、更に好ましくは130℃以下である。
非晶性樹脂(A)のガラス転移温度は、低温定着性及び印刷物の画像濃度をより向上させる観点、並びに耐ホットオフセット性をより向上させる観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、更に好ましくは40℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下である。
【0043】
非晶性樹脂(A)の酸価は、低温定着性及び印刷物の画像濃度をより向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは16mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは35mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
【0044】
非晶性樹脂(A)の軟化点、ガラス転移温度及び酸価は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができ、また、それらの値は、実施例に記載の方法により求められる。
なお、非晶性樹脂(A)を2種以上混合して使用する場合は、それらの混合物として得られた軟化点、ガラス転移温度及び酸価の値がそれぞれ前述の範囲内であることが好ましい。
【0045】
(結晶性樹脂(B))
結晶性樹脂(B)としては、例えば、結晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。結晶性ポリエステル樹脂は、アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合物である。
前記アルコール成分としては、α,ω-脂肪族ジオールが好ましい。α,ω-脂肪族ジオールの炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは6以上であり、そして、好ましくは16以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。α,ω-脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオールが挙げられる。これらの中でも、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールが好ましく、1,10-デカンジオールがより好ましい。
α,ω-脂肪族ジオールの量は、アルコール成分中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして100モル%以下であり、更に好ましくは100モル%である。
前記アルコール成分は、α,ω-脂肪族ジオールとは異なる他のアルコール成分を含有していてもよい。
【0046】
カルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。脂肪族ジカルボン酸の炭素数は、好ましくは4以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは14以下、より好ましくは12以下である。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸が挙げられる。これらの中でも、セバシン酸、ドデカン二酸が好ましく、セバシン酸がより好ましい。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
脂肪族ジカルボン酸の量は、カルボン酸成分中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、更に好ましくは100モル%である。
カルボン酸成分は、脂肪族ジカルボン酸とは異なる他のカルボン酸成分を含有していてもよい。
【0047】
アルコール成分の水酸基に対するカルボン酸成分のカルボキシ基の比〔COOH基/OH基〕は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下である。
【0048】
結晶性樹脂(B)は、例えば、アルコール成分及びカルボン酸成分の重縮合により得られる。重縮合反応の条件は、前述の非晶性樹脂(A)の製造方法で示したとおりである。
【0049】
〔結晶性樹脂(B)の物性〕
結晶性樹脂(B)の軟化点は、低温定着性及び印刷物の画像濃度を向上させる観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上であり、そして、印刷物の画像濃度及び耐ホットオフセット性を向上させる観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
結晶性樹脂(B)の融点は、低温定着性及び印刷物の画像濃度を向上させる観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは65℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
【0050】
結晶性樹脂(B)の酸価は、後述する樹脂粒子(Y)の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは35mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは25mgKOH/g以下である。
【0051】
結晶性樹脂(B)の軟化点、融点、及び酸価は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができ、また、それらの値は、実施例に記載の方法により求められる。
なお、結晶性樹脂(B)を2種以上混合して使用する場合は、それらの混合物として得られた軟化点、融点、及び酸価の値がそれぞれ前記範囲内であることが好ましい。
【0052】
(結晶性樹脂(B)の製造)
結晶性樹脂(B)は、公知の方法により製造できるが、例えば、結晶性ポリエステル樹脂である場合、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じエステル化触媒、エステル化助触媒、ラジカル重合禁止剤等を用いて重縮合することにより製造することができる。
エステル化触媒、エステル化助触媒、及びラジカル重合禁止剤は、前述の非晶性樹脂(A)の製造の場合と同様のものを用いることができる。
エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。
重縮合反応の温度は、好ましくは120℃以上、より好ましくは160℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは220℃以下である。
【0053】
(水系媒体)
水系媒体としては、水を主成分とするものが好ましく、水系分散体の分散安定性を向上させる観点、及び環境性の観点から、水系媒体中の水の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%以下である。水としては、脱イオン水イオン交換水、又は蒸留水が好ましい。
水とともに水系媒体を構成し得る水以外の成分としては、炭素数1以上5以下のアルキルアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数3以上5以下のジアルキルケトン;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の水に溶解する有機溶媒が用いられる。
これらの中でも、メチルエチルケトンが好ましい。
【0054】
(工程1の条件)
工程1は、好ましくは、次の工程1-1を含み、コアシェル構造を有するトナー粒子を得るため、続けて工程1-2を含んでいてもよい。
工程1-1:水系媒体中で、非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を含む樹脂粒子(X)を凝集させて、凝集粒子(1)を得る工程
工程1-2:工程1-1で得られた凝集粒子(1)に、非晶性樹脂(C)を含有する樹脂粒子(Y)を添加して、凝集粒子(1)に樹脂粒子(Y)を付着してなる凝集粒子(2)を得る工程
なお、工程(1)が、工程(1-1)及び工程(1-2)を含む場合には、工程(2)における「得られた凝集粒子」とは、「工程(1-2)で得られた凝集粒子(2)」のことをいう。また、工程(1)が、工程(1-1)のみを含む場合には、工程(2)における「得られた凝集粒子」とは、「工程(1-1)で得られた凝集粒子(1)」のことをいう。
【0055】
(工程1-1)
工程1-1では、非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)に加えて、必要に応じて、ワックス(D)、着色剤、凝集剤、界面活性剤等の任意成分を水系媒体中で凝集してもよい。
また、樹脂粒子(X)は、非晶性樹脂(A)の水系分散液と、結晶性樹脂(B)の水系分散液とを凝集させてもよく、予め、非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を含む混合樹脂の水系分散液を凝集させてもよく、特に限定されない。
【0056】
〔樹脂粒子(X)〕
樹脂粒子(X)は、非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を含有する樹脂成分と、必要に応じて着色剤等の任意成分と(以下、樹脂成分及び任意成分を総称し「樹脂成分等」ともいう)を水系媒体中に分散させ、水系分散体として得られる。
樹脂粒子(X)の水系分散体を得る方法としては、樹脂成分等を水系媒体に添加し、分散機等によって分散処理を行う方法、樹脂成分等の溶融体又は有機溶媒溶液に、水系媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法(転相乳化)等が挙げられる。これらの中でも、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、転相乳化による方法が好ましい。
【0057】
転相乳化法としては、樹脂成分等を有機溶媒に溶解させ、得られた溶液に水系媒体を添加して転相乳化する方法(a)、及び、樹脂成分等を溶融して混合して得られた樹脂混合物に水系媒体を添加して転相乳化する方法(b)が挙げられる。均質な樹脂粒子(X)の水系分散体を得る観点から、方法(a)が好ましい。
方法(a)では、まず、樹脂成分等を有機溶媒に溶解させ、樹脂成分等の有機溶媒溶液を得、次いで、該溶液に水系媒体を添加して転相乳化する方法が好ましい。
【0058】
転相乳化法で使用する有機溶媒としては、好ましくはケトン系溶媒及び酢酸エステル系溶媒から選ばれる少なくも1種、より好ましくはメチルエチルケトン、酢酸エチル及び酢酸イソプロピルから選ばれる少なくとも1種、更に好ましくはメチルエチルケトンである。
【0059】
有機溶媒と樹脂粒子(X)を構成する樹脂との質量比(有機溶媒/樹脂粒子(X)を構成する樹脂)は、樹脂を溶解し水系媒体への転相を容易にする観点、及び樹脂粒子(X)の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは4以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1.5以下である。
【0060】
転相乳化法では、樹脂を中和剤により処理することが好ましい。
中和剤としては、塩基性物質が挙げられる。塩基性物質としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の含窒素塩基性物質などが挙げられ、これらの中でも、樹脂粒子(X)の分散安定性及び凝集性を向上させる観点から、好ましくはアルカリ金属の水酸化物、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0061】
樹脂の酸基に対する中和剤の使用当量(モル%)は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下、更に好ましくは100モル%以下である。
なお、中和剤の使用当量(モル%)は、下記式によって求めることができる。中和剤の使用当量は、100モル%以下の場合、中和度と同義であり、下記式で中和剤の使用当量が100モル%を超える場合には、中和剤が樹脂の酸基に対して過剰であることを意味し、このときの樹脂の中和度は100モル%とみなす。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{樹脂の加重平均酸価(mgKOH/g)×樹脂の質量(g)}/(56×1000)]〕×100
【0062】
転相乳化法で添加する水系媒体の量は、樹脂粒子(X)の分散安定性を向上させる観点から、樹脂粒子(X)を構成する樹脂成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上であり、そして、好ましくは900質量部以下、より好ましくは600質量部以下、更に好ましくは400質量部以下、更に好ましくは250質量部以下である。
また、樹脂粒子(X)の分散安定性を向上させる観点から、水系媒体と有機溶媒との質量比(水系媒体/有機溶媒)は、好ましくは20/80以上、より好ましくは50/50以上、更に好ましくは80/20以上であり、そして、好ましくは97/3以下、より好ましくは93/7以下、更に好ましくは90/10以下である。
【0063】
〔ワックス(D)〕
工程1-1では、樹脂粒子X及び着色剤粒子とともに、ワックス(D)を含むワックス粒子を凝集させることが好ましい。
ワックスとしては、例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス;マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の炭化水素系ワックス又はそれらの酸化物;カルナウバワックス、モンタンワックス又はそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステル系ワックス;脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いてもよい。
ワックスの融点は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
ワックスの含有量は、トナー中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0064】
ワックスは、ワックス粒子の分散液として、樹脂粒子分散液及び着色剤粒子分散液と混合し、凝集させることで、凝集粒子に含有させることが好ましい。
ワックス粒子の分散液は、界面活性剤を用いて得ることも可能であるが、ワックスと後述する樹脂粒子Zとを混合して得ることが好ましい。ワックスと樹脂粒子Zを用いてワックス粒子を調製することで、樹脂粒子Zによりワックス粒子が安定化され、界面活性剤を使用しなくてもワックスを水系媒体中に分散させることが可能となる。ワックス粒子の分散液中では、ワックス粒子の表面に樹脂粒子Zが多数付着した構造を有していると考えられる。
【0065】
ワックスを分散する樹脂粒子Zを構成する樹脂は、好ましくはポリエステル樹脂であり、水性媒体中でのワックスの分散性を向上させる観点から、より好ましくは、ポリエステル樹脂セグメントと付加重合系樹脂セグメントを有する複合樹脂である。
【0066】
ワックス粒子分散液の固形分濃度は、トナーの生産性を向上させる観点、及びワックス粒子分散液の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0067】
ワックス粒子の体積中位粒径(D50)は、均一な凝集粒子を得る観点、並びに低温定着性及び印刷物の画像濃度を向上させる観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは0.3μm以上であり、そして、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.8μm以下、更に好ましくは0.6μm以下である。
【0068】
ワックス粒子のCV値は、トナーの生産性を向上させる観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上であり、そして、均一な凝集粒子を得る観点から、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、更に好ましくは42%以下である。
ワックス粒子の体積中位粒径(D50)及びCV値は、具体的には、実施例に記載の方法で求められる。
【0069】
〔着色剤〕
着色剤としては、顔料及び染料が挙げられ、低温定着性及び印刷物の画像濃度を向上させる観点から、顔料が好ましい。顔料としては、シアン顔料、イエロー顔料、マゼンタ顔料、黒色顔料が挙げられる。シアン顔料は、フタロシアニン顔料が好ましく、銅フタロシアニンがより好ましい。イエロー顔料は、モノアゾ顔料、イソインドリン顔料、ベンズイミダゾロン顔料が好ましい。マゼンタ顔料は、キナクリドン顔料、BONAレーキ顔料等の溶性アゾ顔料、ナフトールAS顔料等の不溶性アゾ顔料が好ましい。黒色顔料は、カーボンブラックが好ましい。染料としては、アクリジン染料、アゾ染料、ベンゾキノン染料、アジン染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、フタロシアニン染料、アニリンブラック染料等が挙げられる。着色剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0070】
着色剤は、着色剤粒子として添加することが好ましい。
着色剤粒子の製造方法は、例えば、着色剤と水性媒体とを、界面活性剤等の存在下、分散機を用いて分散する方法が挙げられる。分散機としては、例えば、前述のホモジナイザー、超音波分散機が挙げられる。水性媒体の好ましい態様は、樹脂粒子(X)の水系分散液に用いられる水性媒体と同様である。
分散機としては、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機が挙げられる。好適な分散機の市販品としては、例えば、ホモミキサー「T.K.AGI HOMOMIXER 2M-03」(特殊機化工業株式会社製)、高圧ホモジナイザー「Microfluidizer M-110EH」、「Microfluidizer M-7115」(Microfluidics社製)、超音波ホモジナイザー「US-600T」(株式会社日本精機製作所製)が挙げられる。これらの分散機は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0071】
着色剤粒子の分散液の固形分濃度は、トナーの生産性を向上させる観点、及び着色剤粒子の分散液の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0072】
着色剤粒子の体積中位粒径(D50)は、低温定着性及び高画質の画像が得られるトナーを得る観点から、好ましくは0.050μm以上、より好ましくは0.080μm以上、更に好ましくは0.10μm以上であり、そして、好ましくは0.50μm以下、より好ましくは0.30μm以下、更に好ましくは0.20μm以下である。
着色剤粒子のCV値は、トナーの生産性を向上させる観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは25%以上であり、そして、均一な凝集粒子を得る観点から、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、更に好ましくは42%以下である。
着色剤粒子の体積中位粒径(D50)及びCV値は、具体的には、実施例に記載の方法で求められる。
【0073】
〔凝集剤〕
凝集剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン等の有機系凝集剤;硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム等の無機金属塩;硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩;2価以上の金属錯体等の無機系凝集剤が挙げられる。凝集性を向上させ均一な凝集粒子を得る観点から、1価以上5価以下の無機系凝集剤が好ましく、1価以上2価以下の無機金属塩、無機アンモニウム塩がより好ましく、無機アンモニウム塩が更に好ましく、硫酸アンモニウムが更に好ましい。
【0074】
凝集剤の使用量は、凝集を制御して所望の粒径を得る観点から、樹脂粒子(X)及び樹脂粒子(Y)を構成する樹脂100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、そして、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。
【0075】
凝集剤は、水溶液として混合分散液に滴下して添加することが好ましい。凝集剤は一時に添加してもよいし、断続的あるいは連続的に添加してもよい。添加時及び添加終了後には、十分な撹拌を行うことが好ましい。
また、凝集を制御して所望の粒径及び粒径分布の凝集粒子を得る観点から、凝集剤の水溶液は、pHを7.0以上9.0以下に調整して使用することが好ましい。
凝集剤を滴下する温度は、トナーの生産性を向上させる観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは45℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは35℃以下、更に好ましくは30℃以下である。
【0076】
更に、凝集を促進させ、所望の粒径及び粒径分布の凝集粒子を得る観点から、凝集剤を添加した後に分散液の温度を上げることが好ましい。保持する温度としては、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上であり、そして、好ましくは70℃以下、より好ましくは65℃以下、更に好ましくは63℃以下である。
前述の温度範囲にて、凝集粒子の体積中位粒径をモニタリングすることによって、凝集の進行を確認することが好ましい。
【0077】
凝集粒子(1)の体積中位粒径(D50)は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは6μm以下である。凝集粒子(1)の体積中位粒径は、後述の実施例に記載の方法で求められる。
【0078】
(工程1-2)
〔非晶性樹脂(C)〕
工程1-2を含む場合、非晶性樹脂(C)は、結晶性指数が、1.4超又は0.6未満の樹脂である。結晶性指数は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度等)等により調整することができ、また、その値は、後述の実施例に記載の方法により求められる。
【0079】
非晶性樹脂(C)は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくはアルコール成分(C-al)とカルボン酸成分(C-ac)とを重縮合して得られるポリエステル樹脂である。
【0080】
≪アルコール成分(C-al)≫
アルコール成分(C-al)は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含み、より好ましくは式(I):
【0081】
【化2】

〔式中、OR及びROはアルキレンオキシドであり、Rは炭素数2又は3のアルキレン基、好ましくはエチレン基、x及びyはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示す正の数を示し、xとyの和は1以上、好ましくは1.5以上であり、そして、16以下、好ましくは8以下、より好ましくは4以下である〕で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を含む。
【0082】
アルコール成分(C-al)は、好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物を80モル%以上含む。アルコール成分(C-al)中、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、更に好ましくは98モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、そして、更に好ましくは100モル%である。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、優れた低温定着性、経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくはビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物である。
【0083】
≪カルボン酸成分(C-ac)≫
カルボン酸成分(C-ac)としては、ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸等が挙げられる。中でも、ジカルボン酸が好ましく、ジカルボン酸と3価以上の多価カルボン酸とを併用することがより好ましい。
【0084】
ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及び脂環式ジカルボン酸が挙げられ、好ましくは芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸から選ばれる少なくとも1種、より好ましくは芳香族ジカルボン酸である。
カルボン酸成分(C-ac)には、遊離酸だけでなく、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び各カルボン酸の炭素数1以上3以下のアルキルエステルも含まれる。
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられ、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくはイソフタル酸、又はテレフタル酸であり、より好ましくはテレフタル酸である。
脂肪族ジカルボン酸は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、その炭素数が、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
中でも、炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸が好ましく、ドデセニルコハク酸がより好ましい。更に、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸と、テレフタル酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸等と組み合わせて使用することがより好ましく、テレフタル酸、フマル酸、及びドデセニルコハク酸を併用することが更に好ましい。
【0085】
3価以上の多価カルボン酸は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは3価カルボン酸であり、より好ましくは、トリメリット酸及びその酸無水物から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはトリメリット酸無水物である。
また、3価以上の多価カルボン酸を含む場合の含有量は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、カルボン酸成分(C-ac)中、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上であり、そして、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。
これらのカルボン酸成分(C-ac)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0086】
アルコール成分(C-al)の水酸基(OH基)に対するカルボン酸成分(C-ac)のカルボキシ基(COOH基)のモル当量比(COOH基/OH基)は、好ましい熱物性の樹脂を得る観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.15以下、更に好ましくは1.12以下である。
【0087】
非晶性樹脂(C)の軟化点は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは105℃以上であり、そして、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは120℃以下である。
【0088】
非晶性樹脂(C)のガラス転移温度は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0089】
非晶性樹脂(C)の酸価は、後述の樹脂粒子(Y)の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは35mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは25mgKOH/g以下である。
【0090】
前述の軟化点、ガラス転移温度及び酸価は、後述の実施例に記載の方法により求められる。非晶性樹脂(C)の軟化点、ガラス転移温度及び酸価は、原料モノマーの種類及びその比率、並びに反応温度、反応時間、冷却速度等の製造条件により適宜調整することができる。
なお、非晶性樹脂(C)を2種以上組み合せて使用する場合は、それらの混合物として得られた軟化点、ガラス転移温度及び酸価の値がそれぞれ前述の範囲内であることが好ましい。
【0091】
〔樹脂粒子(Y)〕
樹脂粒子(Y)は、非晶性樹脂(C)を含有する樹脂成分を水系媒体中に分散させ、樹脂粒子(Y)の水系分散体として得る方法によって製造する。
樹脂粒子(Y)は、非晶性樹脂(C)を含有する樹脂成分と、必要に応じて前述の任意成分とを水系媒体中に分散させ、樹脂粒子(Y)の水系分散体として得ることが好ましい。
水系分散体を得る方法及びその好適な条件は、樹脂粒子(X)の場合と同様である。
【0092】
樹脂粒子(Y)の水系分散体の固形分濃度は、トナーの生産性を向上させる観点、及び樹脂粒子(Y)の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。なお、固形分は、樹脂、界面活性剤等の不揮発性成分の総量である。
【0093】
水系分散体中の樹脂粒子(Y)の体積中位粒径(D50)は、低温定着性及び高画質の画像が得られるトナーを得る観点から、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.08μm以上、更に好ましくは0.10μm以上であり、そして、好ましくは0.50μm以下、より好ましくは0.30μm以下、更に好ましくは0.20μm以下である。
【0094】
〔凝集粒子(2)〕
工程(1-2)は、工程(1-1)で得られた凝集粒子(1)に、樹脂粒子(Y)を添加して、凝集粒子(1)に樹脂粒子(Y)を付着してなる凝集粒子(2)を得る工程であり、前述の凝集粒子(1)の分散液に、樹脂粒子(Y)の水系分散体を添加することにより、凝集粒子(1)に更に樹脂粒子(Y)を付着させ、凝集粒子(2)の分散液を得ることが好ましい。
【0095】
凝集粒子(1)の分散液に樹脂粒子(Y)の水系分散体を添加する前に、凝集粒子(1)の分散液に水系媒体を添加して希釈してもよい。また、凝集粒子(1)の分散液に樹脂粒子(Y)の水系分散体を添加する場合には、凝集粒子(1)に樹脂粒子(Y)を効率的に付着させるために、前述の凝集剤を工程(1-2)で用いてもよい。
【0096】
樹脂粒子(Y)の水系分散体を添加する時の温度は、均一な凝集粒子を得る観点、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下である。
【0097】
樹脂粒子(Y)の添加量は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、樹脂粒子(Y)と樹脂粒子(X)との質量比[(Y)/(X)]が、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.15以下になる量である。
【0098】
なお、本発明の製造方法においては、非晶性樹脂(A)、結晶性樹脂(B)、及び非晶性樹脂(C)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、トナーに用いられる公知の樹脂、例えば、スチレン-アクリル共重合体、エポキシ、ポリカーボネート、ポリウレタン等を含有することができる。非晶性樹脂(A)と結晶性樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]は、トナーの低温定着性及び耐久性を向上させる観点から、好ましくは5/5以上、より好ましくは6/4以上であり、そして、好ましくは9/1以下、より好ましくは8/2以下である。
工程(1-2)を行う場合、非晶性樹脂(A)、結晶性樹脂(B)、及び非晶性樹脂(C)の合計含有量は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、トナーの樹脂成分の総量に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
また、非晶性樹脂(C)と非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)の合計との質量比[(C)/((A)+(B))]は、トナーの低温定着性及び耐久性を向上させる観点から、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、更に好ましくは0.15以下である。
結晶性樹脂(B)と非晶性樹脂(A)及び非晶性樹脂(C)の合計との質量比[(B)/((A)+(C))]は、トナーの低温定着性及び耐久性を向上させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下である。
【0099】
凝集粒子(2)の体積中位粒径(D50)は、高画質の画像が得られるトナーを得る観点、並びに、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは6μm以下である。
【0100】
工程(1-2)においては、凝集粒子が、トナーとして適度な粒径に成長したところで凝集を停止させてもよい。
凝集を停止させる方法としては、分散液を冷却する方法、凝集停止剤を添加する方法、分散液を希釈する方法等が挙げられる。不必要な凝集を確実に防止する観点からは、凝集停止剤を添加して凝集を停止させる方法が好ましい。
【0101】
〔凝集停止剤〕
凝集停止剤としては、界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられ、好ましくはポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、より好ましくはポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、更に好ましくはポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムである。
凝集停止剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
凝集停止剤の添加量は、不必要な凝集を確実に防止する観点から、トナー中の樹脂の総量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であり、そして、トナーへの残留を低減する観点から、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは55質量部以下である。凝集停止剤は、トナーの生産性を向上させる観点から、水溶液で添加することが好ましい。
【0102】
凝集停止剤を添加する温度は、トナーの生産性を向上させる観点から、凝集粒子(2)の分散液を保持する温度と同じであることが好ましい。凝集停止剤を添加する温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下である。
また、凝集粒子を安定化し、一旦凝集した粒子が融着前に離散するのを防ぐ観点から、凝集の停止とともに酸を添加して、凝集粒子の分散液を中性から酸性にするのが好ましい。
添加する酸に制限はなく、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸等が好ましく挙げられるが、添加に対してpH変化が迅速である観点から、好ましくは塩酸、硫酸、硝酸及び酢酸から選ばれる少なくとも1種、より好ましくは塩酸、硫酸、及び硝酸から選ばれる少なくとも1種、更に好ましくは硫酸である。
酸は、水溶液の状態で添加することが好ましい。また、前記凝集停止剤とともに添加してもよい。
【0103】
<工程2>
工程2は、例えば、工程1で得られた凝集粒子を水系媒体中で加熱融着させて融着粒子の分散液(樹脂粒子分散液)を得る工程である。
凝集粒子中の、主として物理的にお互いに付着している状態であった各粒子が融着されて一体となり、融着粒子が形成される。融着により、体積中位粒径を減少させることが好ましい。
なお、工程1と工程2とを、同じ加熱温度で、連続的に行ってもよい。
【0104】
工程2においては、凝集粒子の融着性を向上させる観点、並びに、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、結晶性樹脂(B)の融点より15℃低い温度以上の温度で保持することが好ましい。
保持温度は、凝集粒子の融着性を向上させる観点、及びトナーの生産性を向上させる観点から、より好ましくは結晶性樹脂(B)の融点より10℃低い温度以上、更に好ましくは結晶性樹脂(B)の融点より8℃低い温度以上、更に好ましくは結晶性樹脂(B)の融点より5℃低い温度以上、更に好ましくは結晶性樹脂(B)の融点以上であり、そして、好ましくは結晶性樹脂(B)の融点より30℃高い温度以下、より好ましくは結晶性樹脂(B)の融点より20℃高い温度以下、更に好ましくは結晶性樹脂(B)の融点より12℃高い温度以下である。
その際、結晶性樹脂(B)の融点より15℃低い温度以上の温度で保持する時間は、凝集粒子の融着性を向上させる観点、トナーの生産性を向上させる観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上、更に好ましくは30分以上であり、そして、好ましくは240分以下、より好ましくは180分以下、更に好ましくは120分以下、更に好ましくは90分以下である。
【0105】
工程2で得られる分散液中の融着粒子の体積中位粒径(D50)は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは6μm以下である。
工程2で得られる樹脂粒子分散液中の融着粒子の円形度は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点、並びに、高画質の画像を得る観点から、好ましくは0.955以上、より好ましくは0.960以上であり、そして、好ましくは0.990以下、より好ましくは0.985以下、更に好ましくは0.980以下である。
【0106】
<工程3>
工程3は、上記工程2で得られた非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を含有する樹脂粒子分散液を、スタティックミキサーを用いて、水系媒体と混合することにより冷却して、トナー用樹脂粒子分散液を得る工程である。
工程3により得られるトナー用樹脂粒子は、コア部及び当該コア部の表面に存在するシェル部を有するコアシェル型粒子であってもよい。トナー用樹脂粒子がコアシェル型粒子である場合、コア部は、非晶性樹脂(A)及び結晶性樹脂(B)を含有し、シェル部は、非晶性樹脂(C)を含有する。
冷却する樹脂粒子(冷却前の樹脂粒子分散液中の樹脂粒子)において、非晶性樹脂(A)と結晶性樹脂(B)との質量比〔非晶性樹脂(A)/結晶性樹脂(B)〕は、耐熱保存安定性の観点から、好ましくは50/50以上、より好ましくは55/45以上、更に好ましくは60/40以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
【0107】
工程3で使用されるスタティックミキサーとは、可動部を有さない静止型混合撹拌器をいう。より具体的には、液体が配管内部に固定された抵抗部材を通過するだけで液の進行に伴う液流の反転・転換により混合の目的が達成されるように設計されているインラインミキサーをいう。
抵抗部材の構造により液流の流れ特性、すなわち混合特性は変わりうるが、長方形の板を左右逆方向に180°ねじった部材が代表的である。
【0108】
このようなスタティックミキサーは市販されており、それらのうち代表的なものを以下に示す。
(1) ノリタケカンパニーリミテッド製 3/4-N60S-331-0、1/2-N60S-331-0、及び1-N30-131-F
(2) SULZER CHEMTECH社製のSMX-DN 25×10及びSMX-DN 25×5 など。
これらのスタティックミキサーは管内径が20~50mm程度であり、また、管長は20~50cm程度であるのが一般的である。
【0109】
樹脂粒子分散液と水系媒体との混合系をスタティックミキサーに通す方法は特に限定されないが、ポンプを用いて送り込み、送り速度を、管内径にもよるが、通常1~100kg/分程度とするのが一般的である。また、それを複数回繰り返してもよいが、一回であることが好ましい。すなわち、スタティックミキサーに複数回通過させてもよいが、一回のみ通過させることが好ましい。
【0110】
樹脂粒子分散液に対する水系媒体の混合比(水系媒体/樹脂粒子分散液)は、冷却速度を速めて低温定着性を向上する観点から、好ましくは1/1以上、より好ましくは1.5/1以上、更に好ましくは2/1以上であり、そして、生産効率の観点から、好ましくは10/1以下、より好ましくは5/1以下、更に好ましくは3/1以下である。
【0111】
冷却前の樹脂粒子分散液の温度は、低温定着性の観点から、好ましくは結晶性樹脂(B)の融点-15℃以上、より好ましくは結晶性樹脂(B)の融点-12℃以上、更に好ましくは結晶性樹脂(B)の融点-10℃以上であり、そして、経済性の観点から、好ましくは結晶性樹脂(B)の融点+30℃以下、より好ましくは結晶性樹脂(B)の融点+20℃以下、更に好ましくは結晶性樹脂(B)の融点+10℃以下である。
冷却後の樹脂粒子分散液の温度は、低温定着性の観点から、好ましくは結晶性樹脂(B)の融点-20℃以下、より好ましくは結晶性樹脂(B)の融点-30℃以下、更に好ましくは結晶性樹脂(B)の融点-40℃以下であり、そして、作業効率の観点から、好ましくは結晶性樹脂(B)の融点-80℃以上、より好ましくは結晶性樹脂(B)の融点-60℃以上、更に好ましくは結晶性樹脂(B)の融点-50℃以上である。
冷却前の樹脂粒子分散液の温度が、結晶性樹脂(B)の融点-15℃以上であり、かつ、冷却後の樹脂粒子分散液の温度が結晶性樹脂(B)の融点-20℃以下であることが好ましく、冷却前の樹脂粒子分散液の温度が結晶性樹脂(B)の融点-12℃以上であり、かつ、冷却後の樹脂粒子分散液の温度が結晶性樹脂(B)の融点-30℃以下であることがより好ましく、冷却前の樹脂粒子分散液の温度が、結晶性樹脂(B)の融点-10℃以上であり、かつ、冷却後の樹脂粒子分散液の温度が、結晶性樹脂(B)の融点-40℃以下であることが更に好ましい。
【0112】
工程3における樹脂粒子分散液の冷却速度は、低温定着性の観点から、好ましくは20℃/秒以上、より好ましくは30℃/秒以上、更に好ましくは60℃/秒以上であり、そして、作業性及び設備負荷の観点から、好ましくは500℃/秒以下、より好ましくは300℃/秒以下、更に好ましくは200℃/秒以下である。
ここで、冷却速度は、冷却前の樹脂粒子分散液と、冷却後の樹脂粒子分散液との温度差を、スタティックミキサー中の平均滞留時間で除したものである。
【0113】
スタティックミキサー中の平均滞留時間は、作業性の観点から、好ましくは0.1秒以上、より好ましくは0.15秒以上、更に好ましくは0.2秒以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは3秒以下、より好ましくは2秒以下、更に好ましくは1秒以下である。
【0114】
前記冷却する工程は、低温定着性の観点から、樹脂粒子分散液を、好ましくは20℃以上冷却する工程、より好ましくは30℃以上冷却する工程、更に好ましくは40℃以上冷却する工程であり、そして、作業効率の観点から、好ましくは80℃以下冷却する工程、より好ましくは70℃以下冷却する工程、更に好ましくは60℃以下冷却する工程である。
【0115】
<後処理工程>
工程(3)の後に後処理工程を行ってもよく、単離することによってトナー粒子を得ることが好ましい。
工程(3)で得られたトナー用樹脂粒子分散液中の樹脂粒子は、水系媒体中に存在するため、まず、固液分離を行うことが好ましい。固液分離には、吸引濾過法等が好ましく用いられる。
固液分離後に洗浄を行うことが好ましい。このとき、添加した界面活性剤も除去することが好ましいため、界面活性剤の曇点以下で水系媒体により洗浄することが好ましい。洗浄は複数回行うことが好ましい。
【0116】
次に、乾燥を行うことが好ましい。乾燥時の温度は、トナー粒子自体の温度が、樹脂粒子を構成する樹脂のガラス転移温度よりも低くなるようにすることが好ましく、トナー粒子を構成する樹脂のガラス転移温度の最小値より低くなるようにすることがより好ましい。乾燥方法としては、真空低温乾燥法、振動型流動乾燥法、流動層乾燥法、スプレードライ法、冷凍乾燥法、フラッシュジェット法等を用いることが好ましい。乾燥後の水分含量は、トナーの帯電特性を向上させる観点から、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下に調整する。
【0117】
[静電荷像現像用トナー]
〔トナー粒子〕
乾燥等を行うことによって得られたトナー粒子は、静電荷像現像用トナーとしてそのまま用いることもできるが、後述のようにトナー粒子の表面を処理したものを静電荷像現像用トナーとして用いることが好ましい。
【0118】
本発明のトナー用樹脂粒子分散液の製造方法が、工程1-1及び工程1-2を有するとき、工程1-1で得られる凝集粒子(1)において、結晶性樹脂(B)及び非晶性樹脂(A)の合計含有量に対する、結晶性樹脂(B)の含有量は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0119】
本発明のトナー用樹脂粒子分散液の製造方法が、工程1-1及び工程1-2を有するとき、工程1-1で得られる凝集粒子(1)が含有する結晶性樹脂(B)及び非晶性樹脂(A)の合計量に対する、工程1-2で添加する非晶性樹脂(C)の量は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0120】
また、結晶性樹脂(B)の含有量は、優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、トナー中の樹脂成分の総量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0121】
トナー粒子の体積中位粒径(D50)は、トナーの生産性を向上させる観点、印刷物の画像濃度を向上させる観点、並びに優れた低温定着性、かつ経時的な低温定着性の低下抑制、及び優れた耐熱保存性の観点から、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは6μm以下である。
【0122】
トナー粒子のCV値は、トナーの生産性を向上させる観点から、好ましくは12%以上、より好ましくは16%以上、更に好ましくは20%以上であり、そして、高画質の画像を得る観点から、好ましくは30%以下、より好ましくは26%以下である。
【0123】
トナー粒子の円形度は、トナーの低温定着性及び帯電特性を向上させる観点から、好ましくは0.955以上、より好ましくは0.960以上、更に好ましくは0.965以上であり、そして、好ましくは0.990以下、より好ましくは0.985以下、更に好ましくは0.980以下である。
【0124】
トナー粒子は、流動化剤等を外添剤としてトナー粒子表面に添加処理したものをトナーとして使用することが好ましい。
外添剤としては、疎水性シリカ、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、酸化セリウム微粒子、カーボンブラック等の無機微粒子、及びポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シリコーン樹脂等のポリマー微粒子等が挙げられ、これらの中でも、疎水性シリカが好ましい。
【0125】
外添剤を用いてトナー粒子の表面処理を行う場合、外添剤の添加量は、トナー粒子100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4.5質量部以下、更に好ましくは4質量部以下である。
外添剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合には、外添剤の添加量は、合計して上記の添加量であることが好ましい。
【0126】
本発明により得られる静電荷像現像用トナーは、一成分系現像剤として、又はキャリアと混合して二成分系現像剤として使用することができる。
【実施例
【0127】
各性状値は、次の方法により、測定した。各種評価は、次に示す方法により評価した。
[測定]
〔樹脂、ワックスの酸価及び水酸基価〕
樹脂、ワックスの酸価及び水酸基価は、JIS K 0070:1992に記載の中和滴定法に従って測定した。ただし、測定溶媒をクロロホルムとした。
【0128】
〔樹脂の軟化点、結晶性指数、融点及びガラス転移温度〕
(1)軟化点
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0129】
(2)結晶性指数
示差走査熱量計「Q100」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.02gをアルミパンに計量し、室温(20℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却した。次いで試料をそのまま1分間停止させ、その後、昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し熱量を測定した。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を吸熱の最大ピーク温度(1)として、(軟化点(℃))/(吸熱の最大ピーク温度(1)(℃))により、結晶性指数を求めた。
【0130】
(3)融点及びガラス転移温度
示差走査熱量計「Q100」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却した。次いで、試料を昇温速度10℃/minで昇温し、熱量を測定した。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を吸熱の最大ピーク温度(2)とした。結晶性樹脂の場合には、該ピーク温度を融点とした。
また、非晶性樹脂の場合に、ピークが観測される時はそのピークの温度を、ピークが観測されずに段差が観測される時は該段差部分の曲線の最大傾斜を示す接線と該段差の低温側のベースラインの延長線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0131】
〔ワックスの融点〕
示差走査熱量計「Q100」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温した後、200℃から降温速度10℃/minで0℃まで冷却した。次いで、試料を昇温速度10℃/minで昇温し、熱量を測定し、吸熱の最大ピーク温度を融点とした。
【0132】
〔ワックスの数平均分子量(Mn)〕
以下に示すゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により数平均分子量(Mn)を測定した。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をクロロホルムに25℃で溶解させ、次いで、この溶液をポアサイズ0.2μmのフッ素樹脂フィルター「DISMIC,25JP」(ADVANTEC社製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)測定
以下の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてクロロホルムを、1mL/minの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させ、そこに前記試料溶液100μLを注入して分子量を測定した。試料の分子量(数平均分子量Mn)は、数種類の単分散ポリスチレン「TSKgel標準ポリスチレン」のタイプ名(Mw):「A-500(5.0×10)」、「A-1000(1.01×10)」、「A-2500(2.63×10)」、「A-5000(5.97×10)」、「F-1(1.02×10)」、「F-2(1.81×10)」、「F-4(3.97×10)」、「F-10(9.64×10)」、「F-20(1.90×10)」、「F-40(4.27×10)」、「F-80(7.06×10)」、「F-128(1.09×10)」(以上、東ソー株式会社製)を標準試料として、予め作成した検量線に基づき算出した。
・測定装置:「HLC-8220GPC」(東ソー株式会社製)
・分析カラム:「GMHXL」及び「G3000HXL」(以上東ソー株式会社製)
【0133】
〔樹脂粒子、着色剤粒子、及びワックス粒子の体積中位粒径(D50)及びCV値〕
(1)測定装置:レーザー回折型粒径測定機「LA-920」(株式会社堀場製作所製)
(2)測定条件:測定用セルに蒸留水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で体積中位粒径(D50)及び体積平均粒径を測定した。なお相対屈折率1.10、循環ポンプON、循環速度5とした。また、CV値は次の式に従って算出した。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積平均粒径)×100
【0134】
〔樹脂粒子分散液、着色剤粒子分散液、及びワックス粒子分散液の固形分濃度〕
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分、水分量の変動幅0.05%)にて、水分(質量%)を測定した。固形分濃度は次の式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100-水分(質量%)
【0135】
〔凝集粒子の体積中位粒径(D50)〕
(1)測定装置:「コールターマルチサイザー(登録商標)III」(ベックマンコールター株式会社製)
(2)解析ソフト:「マルチサイザー(登録商標)IIIバージョン3.51」(ベックマンコールター株式会社製)
(3)測定条件:
・電解液:「アイソトン(登録商標)II」(ベックマンコールター株式会社製)
・アパチャー径:50μm
試料分散液を上記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、改めて3万個の粒子を測定し、その粒径分布から体積中位粒径(D50)を求めた。
【0136】
〔トナーの低温定着性〕
上質紙「J紙A4サイズ」(富士ゼロックス株式会社製)に市販のプリンタ「Microline(登録商標)5400」(株式会社沖データ製)を用いて、トナーの紙上の付着量が0.45±0.03mg/cmとなるベタ画像をA4紙の上端から5mmの余白部分を残し、50mmの長さで定着させずに出力した。
次に、定着器を温度可変に改造した同プリンタを用意し、定着器の温度を90℃にし、1.5秒の速度でトナーを定着させ、印刷物を得た。
同様の方法で定着器の温度を5℃ずつ上げて、トナーを定着させ、印刷物を得た。
印刷物の画像上の上端の余白部分からベタ画像にかけて、メンディングテープ「Scotch(登録商標)メンディングテープ810」(住友スリーエム株式会社製、幅18mm)を長さ50mmに切ったものを軽く貼り付けた後、500g(形状:円柱、底面積1963cm)のおもりを載せ、速さ10mm/sで1往復押し当てた。その後、貼付したテープを下端側から剥離角度180°、速さ10mm/sで剥がし、テープ剥離後の印刷物を得た。テープ貼付前及び剥離後の印刷物の下に上質紙「エクセレントホワイト紙A4サイズ」(株式会社沖データ製)を30枚敷き、各印刷物のテープ貼付前及び剥離後の定着画像部分の反射画像濃度を、測色計「SpectroEye」(GretagMacbeth社製、光射条件:標準光源D50、観察視野2°、濃度基準DINNB、絶対白基準)を用いて測定し、各反射画像濃度から次の式に従って定着率を算出した。
定着率(%)=(テープ剥離後の反射画像濃度/テープ貼付前の反射画像濃度)×100
定着率が90%以上となる最低の温度を最低定着温度とした。最低定着温度が低いほど低温定着性に優れることを表す。
【0137】
[樹脂の製造]
製造例A1(非晶性樹脂A-1の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した内容積20Lの四つ口フラスコの内部を窒素置換し、ビスフェノールAのポリオキシプロピレン(2.2)付加物6536g、テレフタル酸2170g、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)60g、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸6g、及び炭化水素ワックスW1「パラコール6490」(日本精蝋株式会社製)788gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、235℃に昇温し、235℃で8時間保持した後、フラスコ内の圧力を下げ、8kPaにて1時間保持した。その後、大気圧に戻した後、155℃まで冷却し、155℃に保持した状態で、スチレン4276g、メタクリル酸ステアリル1068g、アクリル酸216g、及びジブチルパーオキシド642gの混合物を3時間かけて滴下した。その後、30分間155℃に保持した後、200℃まで昇温し、更にフラスコ内の圧力を下げ、8kPaにて1時間保持した。その後、大気圧に戻した後、190℃まで冷却し、フマル酸140g、トリメリット酸無水物538g、及び4-tert-ブチルカテコール5.0gを加え、210℃まで10℃/hrで昇温し、その後、8kPaにて所望の軟化点まで反応を行って、非晶性樹脂A-1を得た。物性を表1に示す。
【0138】
製造例A2(非晶性樹脂A-2の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した内容積10Lの四つ口フラスコの内部を窒素置換し、ビスフェノールAのポリオキシプロピレン(2.2)付加物4313g、テレフタル酸818g、コハク酸727g、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)30g、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸3.0gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、235℃に昇温し、235℃で5時間保持した後、フラスコ内の圧力を下げ、8kPaにて1時間保持した。その後、大気圧に戻した後、160℃まで冷却し、160℃に保持した状態で、スチレン2756g、メタクリル酸ステアリル689g、アクリル酸142g、及びジブチルパーオキシド413gの混合物を1時間かけて滴下した。その後、30分間160℃に保持した後、200℃まで昇温し、更にフラスコ内の圧力を下げ、8kPaにて所望の軟化点まで反応を行って、非晶性樹脂A-2を得た。物性を表1に示す。
【0139】
製造例C1(非晶性樹脂C-1の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した内容積10Lの四つ口フラスコの内部を窒素置換し、ビスフェノールAのエチレンオキシド(2.2)付加物5363g、テレフタル酸1780g、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)40g、及び3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸4gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、235℃に昇温し、235℃で8時間保持した後、フラスコ内の圧力を下げ、8kPaにて1時間保持した。その後、大気圧に戻した後、180℃まで冷却し、フマル酸287g、ドデセニルコハク酸無水物221g、トリメリット酸無水物380g、及び4-tert-ブチルカテコール2.5gを加え、220℃まで10℃/hrで昇温し、その後、フラスコ内の圧力を下げ、10kPaにて所望の軟化点まで反応を行って、非晶性樹脂C-1を得た。樹脂の各種物性を測定し、表1に示した。樹脂の各種物性を測定し、表1に示した。
【0140】
【表1】
【0141】
製造例B1(結晶性樹脂B-1の製造)
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した内容積10Lの四つ口フラスコの内部を窒素置換し、1,10-デカンジオール3416g及びセバシン酸4084gを入れ、撹拌しながら、135℃に昇温し、135℃で3時間保持した後、135℃から200℃まで10時間かけて昇温した。その後、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)23gを加え、更に200℃にて1時間保持した後、フラスコ内の圧力を下げ、8kPaの減圧下にて1時間保持し、結晶性樹脂B-1を得た。物性を表2に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
[樹脂粒子分散液の製造]
製造例X1(樹脂粒子分散液X-1の製造)
撹拌機、冷却器、温度計及び窒素導入管を備えた内容積100L反応槽に、非晶性樹脂A-1を12600g、結晶性樹脂B-1を5400g、及びメチルエチルケトン18000gを入れ、73℃にて4時間撹拌し樹脂を溶解させた。得られた溶液に、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を、樹脂の酸価に対して中和度50モル%になるように添加して、30分撹拌した。
次いで、73℃に保持したまま撹拌しつつ、脱イオン水36000gを60分かけて添加し、転相乳化した。継続して73℃に保持したまま、メチルエチルケトンを減圧下で留去し水系分散液を得た。その後、撹拌を行いながら水系分散液を30℃に冷却した後、固形分濃度が35質量%になるように脱イオン水を加えたのち、150メッシュ金網でろ過し、樹脂粒子分散液X-1を得た。得られた樹脂粒子の体積中位粒径(D50)及びCV値を表3に示す。
【0144】
【表3】
【0145】
製造例Y1
(樹脂粒子分散液Y-1の製造)
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた内容積10Lの容器に、非晶性樹脂C-1を2000g及びメチルエチルケトン2000gを入れ、73℃にて3時間かけて樹脂を溶解させた。得られた溶液に、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を、非晶性樹脂C-1の酸価に対して中和度60モル%になるように添加して、30分撹拌した。次いで、73℃に保持したまま、250r/minで撹拌しながら、脱イオン水4000gを60分かけて添加し、転相乳化した。継続して73℃に保持したまま、メチルエチルケトンを減圧下で留去し水系分散液を得た。その後、200r/minで撹拌を行いながら水系分散液を30℃に冷却した後、固形分濃度が35質量%になるように脱イオン水を加えたのち、150メッシュ金網でろ過し、樹脂粒子分散液Y-1を得た。得られた樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.11μm、CV値は23%であった。
【0146】
製造例Z1
(樹脂粒子分散液Z-1の製造)
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた内容積10Lの容器に、非晶性樹脂A-2を1200g及びメチルエチルケトン1200gを入れ、73℃にて2時間かけて樹脂を溶解させた。得られた溶液に、5質量%水酸化ナトリウム水溶液を、非晶性樹脂A-2の酸価に対して中和度60モル%になるように添加して、60分撹拌した。
次いで、73℃に保持したまま、250r/min(周速度79m/min)で撹拌しながら、脱イオン水2400gを60分かけて添加し、転相乳化した。継続して73℃に保持したまま、メチルエチルケトンを減圧下で留去し水系分散液を得た。その後、280r/min(周速度88m/min)で撹拌を行いながら水系分散液を30℃に冷却した後、固形分濃度が35質量%になるように脱イオン水を加えたのち、150メッシュ金網でろ過し、樹脂粒子分散液Z-1を得た。得られた樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.09μm、CV値は23%であった。
【0147】
[ワックス粒子分散液の製造]
製造例D1(ワックス粒子分散液D-1の製造)
内容積30Lステンレス容器に、脱イオン水7572g、樹脂粒子分散液Z-1 3429g、及びパラフィンワックス「HNP-9」(日本精鑞株式会社製、融点75℃)3000gを添加し、90~95℃に温度を保持して溶融させ、撹拌し、溶融混合物を得た。得られた溶融混合物を更に90~95℃に温度を保持しながら、圧力吐出型ホモジナイザー(ゴーリン社製、ゴーリンホモジナイザ)を用いて、40MPaで120分間分散処理した後に室温まで冷却した。脱イオン水を加え、固形分濃度を30質量%に調整し、ワックス粒子分散液D-1を得た。分散液中のワックス粒子の体積中位粒径D50及びCV値を表4に示す。
【0148】
【表4】
【0149】
[着色剤粒子分散液の製造]
製造例P1(着色剤粒子分散液P-1の製造)
内容積10Lステンレス容器に、シアン顔料「ECB-301」(大日精化工業株式会社製、銅フタロシアニン顔料)2400g、ポリオキシエチレン(13)ジスチレン化フェニルエーテル「エマルゲンA-60」(花王株式会社製、ノニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンの平均付加モル数は13)960g、及び脱イオン水4800gを混合し、ホモミキサー「T.K.AGI HOMOMIXER 2M-03」(特殊機化工業株式会社製)を用いて室温下で撹拌翼の回転速度8000rpmで1時間分散させた後、「Microfluidizer M-7115」(Microfluidics社製)を用いて150MPaの圧力で15PASS処理した後、200メッシュのフィルターを通し、固形分濃度が30質量%になるように脱イオン水を加えることにより着色剤粒子分散液P-1を得た。得られた着色剤粒子の体積中位粒径(D50)は0.18μm、CV値は25%であった。
【0150】
実施例1
(凝集融着工程)
撹拌装置及び温水ジャケットを装備した内容積300リットルの球底円筒槽(内径0.7m)、45°傾斜パドル翼(翼径0.35m)に、樹脂粒子分散液X-1 26.03kg、ワックス粒子分散液D-1 10.44kg、着色剤粒子分散液P-1 5.30kg、エマルゲン150(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)の10質量%水溶液0.93kg、ネオペレックスG-15(花王株式会社製、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)1.24kg、及び脱イオン水21.19kgを温度25℃下、撹拌回転数40r/minで5分間混合した。次に、該混合物を撹拌しながら、硫酸アンモニウム3.20kgを脱イオン水46.46kgに溶解した水溶液に4.8質量%水酸化カリウム水溶液2.72kgを添加してpH8.6に調整した溶液を、25℃で30分かけて滴下した。その後、撹拌回転数92r/minに増加し、62℃まで2時間かけて昇温し、凝集粒子の体積中位粒径が5.2μmになるまで62℃で保持し、凝集粒子(1)の分散液を調製した。
前記凝集粒子(1)の分散液を53℃まで30分かけて降温し、53℃に保持しながら、樹脂粒子分散液Y-1 3.15kg、及び脱イオン水1.69kgを1時間かけて滴下し、凝集粒子(2)の分散液を調製した。
前記凝集粒子(2)の分散液に、アニオン性界面活性剤「エマール(登録商標)E-27C」(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、有効濃度27質量%)20.75kg、脱イオン水35.27kg、及び0.1mol/L硫酸3.12kgを混合した水溶液を添加した。その後、75℃まで1時間かけて昇温した後、0.1mol/L硫酸7.75kgを添加し、円形度が0.963、体積中位粒径が4.9μmになるまで75℃で保持し、凝集粒子が融着したトナー用樹脂粒子の分散液(3)を調製した。
【0151】
(冷却工程)
内容量200リットルのドラム缶に脱イオン水124.4kgを入れ7.7℃に冷却した。該冷却した脱イオン水124.4kgを2.43kg/min、及び融着したトナー粒子の分散液(3)55.3kgを1.08kg/minでスタティックミキサー(型式1/4-N30-232-F、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)に移送し混合し、トナー用樹脂粒子の分散液を27℃まで冷却した。なお、融着したトナー用樹脂粒子は移送時に配管で冷え、スタティックミキサーの入口では71℃であった。
使用したスタティックミキサーのエレメント数は12、配管内径は10.5mm、長さは200mmであった。また、使用したスタティックミキサー内の滞留時間は0.3秒であった。
【0152】
(濾過乾燥工程)
冷却したトナー用樹脂粒子の分散液を吸引濾過して固形分を分離した後、25℃の脱イオン水で洗浄し、25℃で2時間吸引濾過した。その後、真空低温乾燥機(ADVANTEC製 DRV622DA)を用いて、33℃で48時間真空乾燥を行って、トナー粒子(4)を調製した。
【0153】
(外添工程)
前記トナー粒子(4)100質量部、疎水性シリカ「RY50」(日本アエロジル株式会社製、個数平均粒径;0.04μm)2.5質量部、及び疎水性シリカ「キャボシル(登録商標)TS720」(キャボットジャパン株式会社製、個数平均;0.012μm)1.0質量部をヘンシェルミキサーに入れて撹拌し、150メッシュの篩を通過させてトナー1を得た。得られたトナー1の評価結果を表5に示す。
【0154】
実施例2
冷却工程を次のように変更した以外は、実施例1と同様にしてトナー2を得た。得られたトナー2の評価結果を表5に示す。
(冷却工程)
内容量50リットルのステンレス製寸胴に脱イオン水16.3kgを入れ10.6℃に冷却した。該冷却した脱イオン水16.3kgを1.42kg/min、及び融着したトナー粒子の分散液(3)7.2kgを0.63kg/minでスタティックミキサー(型式1/4-N30-232-F、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)に移送し混合し、トナー用樹脂粒子の分散液を26.3℃まで冷却した。なお、融着したトナー用樹脂粒子は移送時に配管で冷え、スタティックミキサーの入口では65.2℃であった。
使用したスタティックミキサーのエレメント数は12、配管内径は10.5mm、長さは200mmであった。また、使用したスタティックミキサー内の滞留時間は0.5秒であった。
【0155】
実施例3
濾過乾燥工程を次のように変更した以外は、実施例2と同様にしてトナー3を得た。得られたトナー3の評価結果を表5に示す。
(濾過乾燥工程)
冷却したトナー用樹脂粒子の分散液をフィルタープレス(日本濾過装置株式会社製 PF-7C)に移送し、圧搾して固形分を分離した後、25℃の脱イオン水で洗浄した。その後、気流式乾燥機(株式会社セイシン企業製 FJD-4)を用いて、入口風量10m/min、入口温度43℃、出口温度37℃で乾燥を行って、トナー粒子(3)を調製した。
【0156】
実施例4
冷却工程を次のように変更した以外は、実施例3と同様にしてトナー4を得た。得られたトナー4の評価結果を表5に示す。
(冷却工程)
内容量50リットルのステンレス製寸胴に脱イオン水26.1kgを入れ20.7℃に冷却した。該冷却した脱イオン水26.1kgを2.90kg/min、及び融着したトナー粒子の分散液(3)5.6kgを0.62kg/minでスタティックミキサー(型式1/4-N30-232-F、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)に移送し混合し、トナー用樹脂粒子の分散液を27.4℃まで冷却した。なお、融着したトナー用樹脂粒子は移送時に配管で冷え、スタティックミキサーの入口では63.5℃であった。
使用したスタティックミキサーのエレメント数は12、配管内径は10.5mm、長さは200mmであった。また、使用したスタティックミキサー内の滞留時間は0.3秒であった。
【0157】
比較例1
冷却工程を次のように変更した以外は、実施例1と同様にしてトナー5を得た。得られたトナー5の評価結果を表5に示す。
(冷却工程)
内容量20リットルの容器に脱イオン水6.8kgを入れ7.7℃に冷却した。該冷却した脱イオン水を撹拌しながら、前記71℃で融着したトナー用樹脂粒子の分散液(3)3.0kgを18kg/minの速度にて、10秒間で、冷却した脱イオン水中に添加し、撹拌して、トナー粒子の分散液を27℃まで冷却した。なお、比較例1では、混合の移送時間を10秒間、混合後の撹拌時間を10秒間として、処理時間(滞留時間)を20秒とした。
【0158】
参考例1
乾燥工程を次のように変更した以外は、実施例2と同様にしてトナー6を得た。得られたトナー6の評価結果を表5に示す。
(乾燥工程)
流動層型乾燥機(ホソカワミクロン株式会社製 AGM-2PJ)を用いて、入口風量0.75m/min、機内温度30℃で1時間乾燥を行って、トナー6を調製した。
【0159】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明の製造方法により得られる樹脂粒子分散液中の樹脂粒子は、低温定着性に優れた静電荷像現像用トナーとして好適に使用することができる。