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特許7523291研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240719BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240719BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020153877
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047860
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-273910(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131341(WO,A1)
【文献】特開2015-193714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正のゼータ電位を有する砥粒と、
式(1):N(R)(R)-C(=O)-N(R)(R)(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表し、この際、R~Rの少なくともつは、炭素数1~のアルキル基を表す)で示される構造を有する化合物と、を含み、
pHが6.0未満である、研磨用組成物。
【請求項2】
ポリシリコンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
正のゼータ電位を有する砥粒と、
式(1):N(R )(R )-C(=O)-N(R )(R )(式中、R ~R は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表し、この際、R ~R の少なくとも1つは、炭素数1~4のアルキル基を表す)で示される構造を有する化合物と、を含み、
pHが6.0未満であり、
ポリシリコンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物
【請求項4】
前記式(1)の化合物は、0.1質量%未満の割合で含まれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記式(1)の化合物は、前記砥粒 100質量部に対して、10質量部を超える割合で含まれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒がカチオン変性シリカ粒子である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択的な研磨に用いられる、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いてポリシリコンを含む研磨対象物を研磨することを有する、研磨方法。
【請求項9】
ポリシリコンを含む半導体基板を、請求項8に記載の研磨方法により研磨することを有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
当該CMPは、半導体製造における各工程に適用されてきており、その一態様として、例えばトランジスタ作製におけるゲート形成工程への適用が挙げられる。トランジスタ作製の際には、シリコン、シリコン酸化膜(酸化シリコン)、多結晶シリコン(ポリシリコン)やシリコン窒化物(窒化ケイ素)といったSi含有材料を研磨することがあり、トランジスタの構造によっては、各Si含有材料の研磨レートを制御することが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、砥粒として酸化アルミニウム、および水を含み、pHが10.5~11.5であることを特徴とするポリシリコン用研磨材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-344786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、ポリシリコンと窒化ケイ素とを共に含む基板が用いられるようになってきており、このような基板において、ポリシリコンを選択的に研磨するという要求が高まってきている。しかしながら、特許文献1の技術では、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)が低いという問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(すなわち、選択比)を向上できる手段を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、ポリシリコンの研磨速度が十分に高い研磨用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、正のゼータ電位を有する砥粒と、式(1):N(R)(R)-C(=O)-N(R)(R)(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表し、この際、R~Rの少なくとも1つは、炭素数1~4のアルキル基を表す)で示される構造を有する化合物と、を含み、pHが6.0未満である、研磨用組成物により、上記課題の少なくとも一つが解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明の研磨用組成物によれば、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比を向上できる。また、本発明によれば、ポリシリコンの研磨速度が十分に高い研磨用組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、正のゼータ電位を有する砥粒と、式(1):N(R)(R)-C(=O)-N(R)(R)(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表し、この際、R~Rの少なくとも1つは、炭素数1~4のアルキル基を表す)で示される構造を有する化合物と、を含み、pHが6.0未満である、研磨用組成物に関する。かような構成を有する本発明の研磨用組成物によれば、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比が十分に高い(選択比が高い)という効果が得られる。また、本発明の研磨用組成物によれば、ポリシリコンの研磨速度が十分に高いという効果が得られる。なお、本明細書において、式(1):N(R)(R)-C(=O)-N(R)(R)(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表し、この際、R~Rの少なくとも1つは、炭素数1~4のアルキル基を表す)で示される構造を有する化合物を、単に「式(1)の化合物」とも称する。
【0012】
上記のような効果が得られるメカニズムは、以下の通りであると考えられる。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が制限されることはない。
【0013】
研磨用組成物に含まれる式(1)の化合物は、=N-C(=O)-N=部分を有するが、この部分の窒素原子に存在する非共有電子対が高い電子供与性(求核性)を有する。加えて、研磨用組成物に含まれる式(1)の化合物は、=N-C(=O)-N=部分の両末端に少なくとも1個のアルキル基が存在する。このアルキル基の存在により、電子がよりスムーズに動くことが可能になるため、電子供与性(求核性)がより高まる。この非共有電子対が、ポリシリコン表面に求核反応することにより、ポリシリコンのケイ素-ケイ素結合は弱くなる。これにより、ポリシリコンの膜表面(すなわち研磨面)が脆化し、砥粒による掻き取りが容易になり、ポリシリコンの研磨速度が向上すると考えられる。また、研磨対象物がポリシリコンとともに酸化ケイ素を含む場合、ポリシリコンの研磨速度と酸化ケイ素の研磨速度とが等しくなる(酸化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)は1に近くなる)。
【0014】
さらに、研磨対象物がポリシリコンとともに窒化ケイ素を含む場合、窒化ケイ素に対しての求核付加はほとんど起きないため、窒化ケイ素の研磨速度は低く抑えられたままである。よって、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)が向上すると考えられる。
【0015】
また、本発明の研磨用組成物を用いてポリシリコンを研磨する場合において、ポリシリコン表面のゼータ電位は負である。本発明の研磨用組成物に含まれる砥粒のゼータ電位は正であることから、砥粒とポリシリコン表面との間に引力が生じ、砥粒は研磨面であるポリシリコン表面に付着しやすくなる。これにより、砥粒がポリシリコン表面に対して有意に近接することができ、砥粒によるポリシリコン表面の掻き取りがさらに容易になり、さらに効率的なポリシリコンの研磨が実現できるものと推測される。よって、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択比)が向上すると考えられる。
【0016】
一方、本発明の研磨用組成物を用いて窒化ケイ素を研磨する場合において、窒化ケイ素表面のゼータ電位は正であり、正のゼータ電位を有する砥粒との間に斥力が生じ、砥粒は窒化ケイ素表面に近づきにくくなる。このことから、砥粒による窒化ケイ素表面の掻き取りは起こりにくく、窒化ケイ素の研磨速度は低いままである。よって、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)およびポリシリコンの研磨速度が向上すると考えられる。
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。
【0018】
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0019】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、特に制限されず、例えば、ポリシリコン、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素(SiCN)、酸化ケイ素、金属、SiGe等が挙げられる。
【0020】
酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0021】
上記金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、ポリシリコンを含む研磨対象物が好ましい。よって、本発明の好ましい一実施形態によれば、研磨用組成物は、ポリシリコンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる。
【0023】
また、上記したように、特にポリシリコンと窒化ケイ素とを含む研磨対象物に本発明の研磨用組成物を適用した場合、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)が向上するという効果が得られる。したがって、本発明の他の好ましい実施形態によれば、研磨用組成物は、窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択的な研磨に用いられる。
【0024】
[砥粒]
本発明に係る研磨用組成物中に含まれる砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0025】
本発明に係る砥粒は、pH6.0未満の研磨用組成物中で正のゼータ電位を有する。pH6.0未満の研磨用組成物中で0以下のゼータ電位を有する砥粒を用いる場合、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)が低下する。また、ポリシリコンの研磨速度が低下する。
【0026】
研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位の下限は、10mV以上が好ましく、10mV超がより好ましく、20mV以上がさらに好ましく、25mV以上が特に好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位の上限は、40mV以下が好ましく、40mV未満がより好ましく、35mV以下がさらに好ましく、35mV未満が特に好ましい。また、すなわち、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、10mV以上40mV以下が好ましく、10mV超40mV未満がより好ましく、20mV以上35mV以下がさらに好ましく、25mV以上35mV未満が特に好ましい。
【0027】
上記のようなゼータ電位を有する砥粒であれば、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより向上させることができる。また、上記のようなゼータ電位を有する砥粒であれば、ポリシリコンの研磨速度と酸化ケイ素の研磨速度とをより等しくすることができる(酸化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより1に近づける)。
【0028】
本明細書において、砥粒のゼータ電位は、実施例に記載の方法によって測定される値である。砥粒のゼータ電位は、砥粒が有するカチオン性基の量、研磨用組成物のpH等により調整することができる。
【0029】
本発明の研磨用組成物において、砥粒の種類としては、例えば、カチオン変性シリカ粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、セリア粒子等の金属酸化物が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。該砥粒は、それぞれ市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0030】
砥粒は、カチオン変性シリカ粒子(カチオン性基を有するシリカ粒子)が好ましく、カチオン変性コロイダルシリカ粒子(カチオン性基を有するコロイダルシリカ粒子)がより好ましい。
【0031】
コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の砥粒として好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中に拡散性のある金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(たとえば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0032】
ここでカチオン変性とは、シリカ(好ましくはコロイダルシリカ)の表面にカチオン性基(例えば、アミノ基または第4級アンモニウム基)が結合した状態を意味する。そして、本発明の好ましい実施形態によれば、カチオン変性シリカ粒子は、アミノ基変性シリカ粒子であり、より好ましくはアミノ基変性コロイダルシリカ粒子である。かかる実施形態によれば、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより向上させることができる。また、かかる実施形態によれば、ポリシリコンを含む研磨対象物の研磨速度を高めることができる。
【0033】
シリカ(コロイダルシリカ)をカチオン変性するには、シリカ(コロイダルシリカ)に対して、カチオン性基(例えば、アミノ基または第4級アンモニウム基)を有するシランカップリング剤を加えて、所定の温度で所定時間反応させればよい。本発明の好ましい実施形態において、砥粒は、アミノ基を有するシランカップリング剤または第4級アンモニウム基を有するシランカップリング剤をシリカ(より好ましくはコロイダルシリカ)の表面に固定化させてなる。
【0034】
この際、用いられるシランカップリング剤としては、例えば、特開2005-162533号公報に記載されているものが挙げられる。具体的には、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン((3-アミノプロピル)トリエトキシシラン)、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(α,γ-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-β-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリエトキシシランの塩酸塩、オクタデシルジメチル-(γ-トリメトキシシリルプロピル)-アンモニウムクロライド、N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド等のシランカップリング剤が挙げられる。なかでも、コロイダルシリカとの反応性が良好であることから、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランが好ましく用いられる。なお、本発明において、シランカップリング剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
なお、シランカップリング剤は、そのまま、または親水性有機溶媒もしくは純水で希釈して、シリカ(コロイダルシリカ)に加えることができる。親水性有機溶媒または純水で希釈することによって、凝集物の生成を抑制することができる。シランカップリング剤を親水性有機溶媒または純水で希釈する場合、シランカップリング剤が親水性有機溶媒または純水 1L中、0.01~1g、好ましくは0.1~0.7g程度の濃度になるように希釈すればよい。親水性有機溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコールなどを例示することができる。
【0036】
また、シリカ原料のpHとシランカップリング剤の添加量とを調節することにより、シリカ(コロイダルシリカ)の表面に導入されるカチオン性基の量を調節できると考えられる。シランカップリング剤の使用量は特に限定されないが、シリカ(コロイダルシリカ)に対して、好ましくは0.01質量%以上3.0質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下程度である。
【0037】
シランカップリング剤でシリカ(コロイダルシリカ)をカチオン変性する際の処理温度は特に限定されず、室温(例えば、25℃)から、シリカ(コロイダルシリカ)を分散する分散媒の沸点程度の温度であればよく、具体的には0℃以上100℃以下、好ましくは室温(例えば、25℃)以上90℃以下程度とされる。
【0038】
砥粒の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0039】
砥粒の大きさは特に制限されない。例えば、砥粒の平均一次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、砥粒の平均一次粒子径は、300nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、30nm以下が最も好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いた研磨により欠陥が少ない表面を得ることが容易になる。すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、10nm以上300nm以下であることが好ましく、15nm以上100nm以下であることがより好ましく、20nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、20nm以上30nm以下であることが最も好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法から算出した砥粒の比表面積(SA)を基に、砥粒の形状が真球であると仮定して算出することができる。本明細書では、砥粒の平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0040】
また、砥粒の平均二次粒子径は、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、35nm以上であることがさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、安定的な研磨が可能になる。また、砥粒の平均二次粒子径は、400nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、70nm以下であることが最も好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、砥粒の単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、研磨速度がより向上する。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、20nm以上400nm以下であることが好ましく、30nm以上250nm以下であることがより好ましく、35nm以上100nm以下であることがさらに好ましく、35nm以上70nm以下であることが特に好ましい。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えばレーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。本明細書では、砥粒の平均二次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0041】
砥粒の平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましく、2.5以下がさらにより好ましく、2.3以下が最も好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、欠陥をより低減することができる。砥粒の平均会合度はまた、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。この平均会合度とは、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0042】
研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡により砥粒粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましい。
【0043】
砥粒のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の50%に達するときの粒子の直径(D50)との比であるD90/D50の下限は、特に制限されないが、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の50%に達するときの粒子の直径(D50)との比D90/D50の上限は特に制限されないが、2.0以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.5であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。
【0044】
砥粒の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、アスペクト比、D90/D50等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0045】
砥粒の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%超であることが特に好ましい。また、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%未満であることがさらに好ましく、1質量%未満であることが特に好ましい。すなわち、砥粒の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上3質量%未満がさらに好ましく、0.5質量%超1質量%未満が特に好ましい。このような範囲であれば、コストを抑えながら、窒化ケイ素の研磨速度を低く抑えることができる。ゆえに、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより向上させることができる。また、このような範囲であれば、ポリシリコンの研磨速度と窒化ケイ素の研磨速度とのバランスをより向上させることができる。加えて、ポリシリコンの研磨速度と酸化ケイ素の研磨速度とをより同等の速度にする(酸化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより1に近づける)ことができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0046】
[式(1)の化合物]
本発明の研磨用組成物は、式(1):N(R)(R)-C(=O)-N(R)(R)(式中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表し、この際、R~Rの少なくとも1つは、炭素数1~4のアルキル基を表す)で示される構造を有する化合物(式(1)の化合物)を含む。式(1)の化合物に存在する=N-C(=O)-N=部分の窒素原子に存在する非共有電子対が高い電子供与性(求核性)を有する。加えて、研磨用組成物に含まれる式(1)の化合物は、=N-C(=O)-N=部分の両末端に少なくとも1個のアルキル基が存在するため、電子の動きがよりスムーズであり、電子供与性(求核性)がより高まる。この窒素原子の求核作用により、ポリシリコンが有するケイ素-ケイ素結合は弱くなり、ポリシリコンの研磨速度が向上すると考えられる。また、研磨対象物がポリシリコンとともに窒化ケイ素を含む場合、窒化ケイ素に対して上記作用は働き難いため、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)が向上すると考えられる。
【0047】
式(1):N(R)(R)-C(=O)-N(R)(R)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4のアルキル基を表す。ここで、R~Rは、同一であっても、または異なるものであってもよい。上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基からなる群より選択される直鎖または分岐鎖のアルキル基がある。これらのうち、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0048】
また、上記式(1)において、R~Rの少なくとも1つは、炭素数1~4のアルキル基を表す。R~Rの少なくとも1つが上記したようなアルキル基であると、電子がさらによりスムーズに動き、電子供与性(求核性)をさらに高めることができる。また、R~Rに占めるアルキル基の数は1~4であるが、アルキル基数に比例して、電子の動きがよりスムーズになり、電子供与性(求核性)がさらに高まる(ゆえに、窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択比、ポリシリコンの研磨速度等がさらに向上できる)。このため、R~Rに占めるアルキル基の数は、好ましくは2~4であり、より好ましくは3または4であり、特に好ましくは4である。すなわち、本発明の好ましい形態では、式(1)において、R~Rの少なくとも1つは、炭素数1~4のアルキル基を表す。本発明のより好ましい形態では、式(1)において、R~Rの少なくとも2つは、炭素数1~3のアルキル基を表す。本発明のさらに好ましい形態では、式(1)において、R~Rの3つまたは4つが、それぞれ独立して、メチル基またはエチル基を表す。本発明の特に好ましい形態では、式(1)において、R~Rすべてがメチル基を表す。
【0049】
式(1)の化合物の具体的な例としては、1-メチル尿素(式(1)中のR=メチル基、R,R,R=H)、1-エチル尿素(式(1)中のR=エチル基、R,R,R=H)、1-プロピル尿素(式(1)中のR=プロピル基、R,R,R=H)、1,1-ジメチル尿素(式(1)中のR,R=メチル基、R,R=H)、1,3-ジメチル尿素(式(1)中のR,R=H,メチル基、R,R=H,メチル基)、1,1-ジエチル尿素(式(1)中のR,R=エチル基、R,R=H)、1,3-ジエチル尿素(式(1)中のR,R=H,エチル基、R,R=H,エチル基)、1-メチル-1-エチル尿素(式(1)中のR,R=メチル基,エチル基、R,R=H)、1-メチル-3-エチル尿素(式(1)中のR,R=H,メチル基、R,R=H,エチル基)、トリメチル尿素(式(1)中のR,R,R=メチル基、R=H)、トリエチル尿素(式(1)中のR,R,R=エチル基、R=H)、トリプロピル尿素(式(1)中のR,R,R=プロピル基、R=H)、1,1-ジメチル-3-エチル尿素(式(1)中のR,R=メチル基、R=エチル基、R=H)、1-メチル-1-エチル-3-エチル尿素(式(1)中のR,R=メチル基,エチル基、R=エチル基、R=H)、テトラメチル尿素(式(1)中のR,R,R,R=メチル基)、テトラエチル尿素(式(1)中のR,R,R,R=エチル基)、テトラプロピル尿素(式(1)中のR,R,R,R=プロピル基)等が挙げられる。
【0050】
上記式(1)の化合物は、1種単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
式(1)の化合物のより具体的な例としては、1-メチル尿素、1-エチル尿素、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、トリメチル尿素、トリエチル尿素、トリプロピル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、テトラプロピル尿素等が挙げられる。これらの式(1)の化合物の中でも、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)のさらなる向上効果、入手容易性等の観点から、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、トリメチル尿素、トリエチル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素が好ましく、トリメチル尿素、トリエチル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素がより好ましく、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素がさらに好ましく、テトラメチル尿素が特に好ましい。
【0052】
使用する式(1)の化合物は、1種単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。また、式(1)の化合物は市販品でもよいし合成品でもよい。市販品としては、東京化成工業株式会社、富士フイルム和光純薬株式会社、シグマアルドリッチ社等から入手できる。
【0053】
式(1)の化合物の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく、0.001質量%以上であることがさらに好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。また、式(1)の化合物の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%未満であることが特に好ましい。すなわち、式(1)の化合物の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.0001質量%以上1質量%未満が好ましく、0.0005質量%以上0.5量%以下がより好ましく、0.001質量%以上0.1質量%以下がさらに好ましく、0.01質量%以上0.1質量%未満が特に好ましい。このような含有量の範囲であれば、コストを抑えながら、窒化ケイ素の研磨速度を低く抑えることができる。ゆえに、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより向上させることができる。また、このような含有量の範囲であれば、ポリシリコンの研磨速度と窒化ケイ素の研磨速度とのバランスをより向上させることができる。加えて、ポリシリコンの研磨速度と酸化ケイ素の研磨速度とをより同等の速度にする(酸化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより1に近づける)ことができる。なお、研磨用組成物が2種以上の式(1)の化合物を含む場合には、式(1)の化合物の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0054】
また、式(1)の化合物と砥粒との混合割合は特に制限されないが、式(1)の化合物が、砥粒 100質量部に対して、5質量部を超える割合で含まれることが好ましく、10質量部以上の割合で含まれることがより好ましく、10質量部を超える割合で含まれることがさらに好ましく、11質量部以上の割合で含まれることが特に好ましい。また、式(1)の化合物は、砥粒 100質量部に対して、50質量部以下の割合で含まれることが好ましく、30質量部未満の割合で含まれることがより好ましく、25質量部以下の割合で含まれることがさらに好ましく、20質量部未満の割合で含まれることが特に好ましく、15質量部以下の割合で含まれることが最も好ましい。すなわち、式(1)の化合物が、砥粒 100質量部に対して、5質量部を超え50質量部以下の割合で含まれることが好ましく、5質量部を超え30質量部未満の割合で含まれることがより好ましく、10質量部以上25質量部以下の割合で含まれることがさらに好ましく、10質量部を超え20質量部未満の割合で含まれることが特に好ましく、11質量部以上15質量部以下の割合で含まれることが最も好ましい。このような混合比であれば、式(1)の化合物が砥粒により有効に作用し、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより向上させることができる。また、このような混合比であれば、ポリシリコンの研磨速度と窒化ケイ素の研磨速度とのバランスをより向上させることができる。加えて、ポリシリコンの研磨速度と酸化ケイ素の研磨速度とをより同等の速度にする(酸化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)をより1に近づける)ことができる。なお、研磨用組成物が2種以上の式(1)の化合物を含む場合には、式(1)の化合物の含有量は、これらの合計量を意図する。同様にして、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0055】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明のより好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のさらに好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。上記したように、さらに好ましくは、分散媒は水のみからなる。
【0056】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0057】
[pH]
本発明の研磨用組成物のpHは、6.0未満である。pHが6.0以上であると、=N-C(=O)-N=部分の窒素原子に存在する非共有電子対が高い電子供与性(求核性)が過度に低下して、ポリシリコンや酸化ケイ素の研磨速度(ゆえに窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比))が過度に低下して、好ましくない。研磨用組成物のpHは、5.5以下が好ましく、5.5未満がより好ましく、5.0以下がさらに好ましく、5.0未満が特に好ましい。研磨用組成物のpHの下限は、特に制限されないが、砥粒のゼータ電位(ゆえに、砥粒と研磨対象物(特に酸化ケイ素)との引き合い)を適切に調節できるとの観点から、3.5以上が好ましく、3.5超がより好ましく、3.7以上がさらに好ましく、3.7超が特に好ましい。すなわち、研磨用組成物のpHは、3.5以上5.5以下が好ましく、3.5超5.5未満がより好ましく、3.7以上5.0以下がさらに好ましく、3.7超5.0未満が特に好ましい。
【0058】
研磨用組成物のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)により測定することができる。
【0059】
本発明の研磨用組成物においては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、pH調整剤を添加してpHを調整してもよい。
【0060】
pH調整剤は酸、塩基のいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0061】
pH調整剤として用いられる酸の具体例としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸等の有機酸等が挙げられる。
【0062】
pH調整剤として用いられる塩基の具体例としては、例えば、第1族元素の水酸化物または塩、第2族元素の水酸化物または塩、水酸化第4級アンモニウムまたはその塩等が挙げられる。塩の具体例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0063】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0064】
[研磨用組成物の電気伝導度(EC)]
本発明の研磨用組成物の電気伝導度(EC)の下限は、好ましくは0.01mS/cm以上であり、より好ましくは0.1mS/cm以上である。また、本発明の研磨用組成物の電気伝導度(EC)の上限は、好ましくは10mS/cm以下であり、より好ましくは3mS/cm以下である。上記したような範囲であれば、砥粒同士の反発を適切に調整して、(特にポリシリコンに対する)十分な研磨速度および安定性を確保できる。研磨用組成物の電気伝導度は、式(1)の化合物の種類および量、研磨用組成物のpH、pH調整剤の種類および量等により調整することができる。なお、研磨用組成物の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71)により測定される値である。
【0065】
[その他の成分]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0066】
本発明に係る研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、研磨対象物(例えばポリシリコン)の表面を酸化して酸化膜を生じさせ、研磨時間が長くなってしまう虞がある。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含される。例えば、研磨用組成物中における酸化剤の濃度は、好ましくは0.001質量%以下、より好ましくは0.0001質量%以下、さらに好ましくは0.00001質量%以下(下限:0質量%)である。
【0067】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、式(1)の化合物、および必要に応じて他の添加剤を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、砥粒、および式(1)の化合物を混合する工程を含む、研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0068】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0069】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、ポリシリコンを含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、ポリシリコンを含む研磨対象物を、本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。
【0070】
さらに、本発明は、ポリシリコンを含む半導体基板を前記研磨方法で研磨する工程を含む半導体基板の製造方法を提供する。
【0071】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0072】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0073】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0074】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0075】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0076】
(研磨速度、選択比)
本発明の研磨用組成物を用いてポリシリコン及び窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨すると、高い窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(高い窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択比)を達成できる。具体的には、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択比)は、15以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、25以上であることがさらに好ましく、30以上であることが特に好ましい。なお、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(選択比)は、高いほど好ましいため、上限は特に制限されないが、通常、50以下である。
【0077】
また、本発明の研磨用組成物を用いてポリシリコン及び酸化ケイ素を含む研磨対象物を研磨すると、ポリシリコン及び酸化ケイ素を実質的に同等の研磨速度で研磨できる。具体的には、酸化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(酸化ケイ素に対するポリシリコンの選択比)は、0.70を超えて1.30未満であることが好ましく、0.80以上1.20以下であることがより好ましく、0.95を超えて1.10未満であることがさらに好ましく、0.98を超えて1.05未満であることが特に好ましい。
【0078】
本発明の研磨用組成物を用いてポリシリコンを含む研磨対象物を研磨すると、高いポリシリコンの研磨速度を達成できる。具体的には、ポリシリコンの研磨速度は、600Å/min以上であると好ましく、700Å/min以上であることがより好ましく、800Å/min以上であることがさらに好ましい。なお、ポリシリコンの研磨速度の上限は、特に制限されないが、例えば、2000Å/min以下である。
【0079】
また、本発明の研磨用組成物を用いて窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨すると、窒化ケイ素の研磨速度を抑制できる。具体的には、窒化ケイ素の研磨速度は、70Å/min以下であると好ましく、50Å/min以下であることがより好ましく、40Å/min以下であることがさらに好ましく、30Å/min以下であることがさらに好ましい。なお、窒化ケイ素の研磨速度の下限は、可能な限り低い(ゆえに0Å/min)ことが好ましいが、例えば、5Å/min以上であれば十分である。
【0080】
本明細書において、ポリシリコン、窒化ケイ素および酸化ケイ素の研磨速度は、実施例に記載の方法により算出される値を採用する。本明細書において、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択比)および酸化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨度の比(酸化ケイ素に対するポリシリコンの選択比)は、実施例に記載の方法により算出される値を採用する。
【実施例
【0081】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0082】
(研磨用組成物の電気伝導度の測定)
研磨用組成物の電気伝導度(EC)(mS/cm)は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71)により測定した。
【0083】
(砥粒のゼータ電位の測定)
調製した研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位(ζ電位)(mV)を算出した。
【0084】
(砥粒の粒子径の測定)
砥粒の平均一次粒子径(nm)は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径(nm)は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。
【0085】
(砥粒の準備)
特開2005-162533号公報の実施例1に記載の方法と同様にして、シリカゾルのメタノール溶液(シリカ濃度=20質量%)1Lに対してシランカップリング剤としてγ-アミノプロピルトリエトキシシランを2mmolの濃度で使用して、平均一次粒子径:23nm、平均二次粒子径:50nm、アスペクト比:1.2、D90/D50:約1.4、平均会合度:2.17の繭型形状のカチオン変性コロイダルシリカを作製した。
【0086】
また、アニオン変性シリカとして、スルホン酸修飾コロイダルシリカ(“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で作製したもの、平均一次粒子径20nm、平均二次粒子径40nm、平均会合度2)を準備した。
【0087】
(実施例1)
砥粒として上記で得られたカチオン変性コロイダルシリカを1質量%、式(1)の化合物として1,3-ジメチル尿素(東京化成工業株式会社製)を0.1質量%の最終濃度とそれぞれなるように、分散媒である純水に室温(25℃)で加え、混合液を得た。
【0088】
その後、混合液に、pH調整剤として硝酸を、pHが4.0となるように添加し、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。また、得られた研磨用組成物中のカチオン変性コロイダルシリカのゼータ電位を、上記(砥粒のゼータ電位の測定)に従い測定したところ、+30mVであった。なお、研磨用組成物中のカチオン変性コロイダルシリカの粒子径は、用いたカチオン変性コロイダルシリカの粒子径と同様であった。さらに、得られた研磨用組成物の電気伝導度を、上記(研磨用組成物の電気伝導度の測定)に従い測定したところ、0.3mS/cmであった。
【0089】
(実施例2~8、比較例1~5)
砥粒の種類および濃度、式(1)の化合物の種類および濃度、ならびに研磨用組成物のpHを、下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~8、比較例1~5の各研磨用組成物を調製した。なお、1-メチル尿素として、東京化成工業株式会社製の1-メチル尿素を使用した。テトラメチル尿素として、東京化成工業株式会社製のテトラメチル尿素を使用した。下記表1において「-」と表示されているものは、その剤を含んでいないことを示す。
【0090】
また、上記各研磨用組成物につき、実施例1と同様にして、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位および研磨用組成物の電気伝導度を測定し、結果を下記表1に示す。なお、各研磨用組成物中のカチオン変性コロイダルシリカの粒子径は、用いたカチオン変性コロイダルシリカの粒子径と同様であった。
【0091】
比較例4は、式(1)の化合物の代わりに尿素(東京化成工業株式会社製)を用い、比較例5は式(1)の化合物の代わりにビ尿素(東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0092】
<評価>
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、下記の研磨対象物のいずれかに対して、以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度を測定した。
【0093】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製200mm用CMP片面研磨装置 Mirra 研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:3psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:97rpm
ヘッド(キャリア)回転数:43rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:60秒。
【0094】
(研磨対象物)
表面に研磨対象物の膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、アドバンテック株式会社製)をそれぞれ準備した。研磨対象物は、
(1)表面に厚さ5000Åのポリシリコン膜を形成したシリコンウェーハ(poly-Si)、
(2)表面に厚さ10000Åの酸化ケイ素(TEOS)膜を形成したシリコンウェーハ(TEOS)、および
(3)表面に厚さ2000Åの窒化ケイ素膜を形成したシリコンウェーハ(SiN)
の3種類とした。上記で得られた各研磨用組成物を用いて、上記3種の基板を上記の研磨条件で研磨した。
【0095】
(研磨速度)
研磨速度(研磨レート)(Å/分)は、以下の式により計算した。
【0096】
【数1】
【0097】
膜厚(Å)は、光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)により求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより、研磨速度(研磨レート)(Å/分)を評価した。なお、下記表1では、ポリシリコンの研磨速度、窒化ケイ素の研磨速度および酸化ケイ素の研磨速度を、それぞれ、「poly-Si」、「SiN」および「TEOS」の欄に記す。
【0098】
(選択比)
窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択比は、ポリシリコンの研磨速度を窒化ケイ素の研磨速度で除することによって求める。また、酸化ケイ素に対するポリシリコンの選択比は、ポリシリコンの研磨速度を酸化ケイ素の研磨速度で除することによって求める。下記表1では、窒化ケイ素に対するポリシリコンの選択比および酸化ケイ素に対するポリシリコンの選択比を、それぞれ、「poly-Si/SiN」および「poly-Si/TEOS」の欄に記す。
【0099】
各評価結果を下記表1に示す。なお、下記表1において、混合比は、各研磨用組成物における、砥粒 100質量部に対する式(1)の化合物量(質量部)の割合(質量比)である。例えば、下記表1において、実施例1の研磨用組成物は、カチオン変性コロイダルシリカ 100質量部に対して、式(1)の化合物であるジメチル尿素を10質量部含むことを意味する。
【0100】
【表1】
【0101】
上記表1から明らかなように、実施例1~8の研磨用組成物は、比較例1~5の研磨用組成物に比べて、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(poly-Si/SiN)が有意に高いことが分かる。また、実施例1~8の研磨用組成物は、比較例1~5の研磨用組成物に比べて、ポリシリコンの研磨速度が有意に高いことが分かる。特に、実施例3、4の研磨用組成物は、窒化ケイ素の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(poly-Si/SiN)に優れ、また、高いポリシリコンの研磨速度および高い選択比(poly-Si/SiN)を両立していた。
【0102】
また、実施例1~8の研磨用組成物は、比較例1~5の研磨用組成物に比べて、酸化ケイ素(TEOS)の研磨速度に対するポリシリコンの研磨速度の比(poly-Si/TEOS)が1に近い値を示すことが分かった。このことは、実施例1~8の研磨用組成物が、酸化ケイ素をポリシリコンと同様の研磨速度で研磨し得ることを示している。