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特許7523296コンクリート基材の補強方法、及び仕上げ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】コンクリート基材の補強方法、及び仕上げ方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/70 20060101AFI20240719BHJP
   C04B 41/68 20060101ALI20240719BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C04B41/70
C04B41/68
C09D1/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020158475
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2021054708
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019181561
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510114125
【氏名又は名称】株式会社エフコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】近本 悠
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099426(JP,A)
【文献】特開2017-014081(JP,A)
【文献】特開2009-091216(JP,A)
【文献】特開2019-163183(JP,A)
【文献】特開2013-081937(JP,A)
【文献】特開2016-188156(JP,A)
【文献】特開2014-201929(JP,A)
【文献】特開2003-027005(JP,A)
【文献】特開昭60-108384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/00-41/72
C09D 1/00-1/12
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート基材に対し、水溶性カルシウム塩、及び水溶性シラン化合物を含む補強剤を塗付した後、
少なくとも、アルカリ金属珪酸塩、水溶性シラン化合物、及び水を含むコンクリート表面強化剤を塗付する
ことを特徴とするコンクリート基材の補強方法
【請求項2】
上記コンクリート表面強化剤における水溶性シラン化合物が、アミノ基含有シラン化合物を含むことを特徴とする請求項1記載のコンクリート基材の補強方法
【請求項3】
上記補強剤における水溶性シラン化合物が、アミノ基含有シラン化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート基材の補強方法
【請求項4】
請求項1に記載のコンクリート基材の補強方法により上記コンクリート表面強化剤を塗付した後、上塗材を塗付することを特徴とするコンクリート基材の仕上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なコンクリート表面強化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁、トンネル、高架道路、建築物などに多くのコンクリート構造物が使用されている。しかし、コンクリート構造物は、塩害、中性化及び凍害等によって経時的に劣化が進行し、該構造物にひび割れやコンクリート片の剥離が発生するといった問題がある。そのため、コンクリート構造物の補修および補強方法が多く提案されている。
【0003】
例えば、特開2002-179479号公報(特許文献1)には、水ガラス等のアルカリ金属ケイ酸塩を浸透させることが開示されている。
しかし、かかる特許文献1では、コンクリート構造物の内部までアルカリ金属ケイ酸塩を浸透させることができない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-179479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、コンクリート構造物に対し、アルカリ金属珪酸塩を十分に含浸させることができるコンクリート表面強化剤を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を行った結果、少なくとも、アルカリ金属珪酸塩、水溶性シラン化合物、及び水を含むことを特徴とするコンクリート表面強化剤に想到し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の特徴を有するものである。
1. コンクリート基材に対し、水溶性カルシウム塩、及び水溶性シラン化合物を含む補強剤を塗付した後、
少なくとも、アルカリ金属珪酸塩、水溶性シラン化合物、及び水を含むコンクリート表面強化剤を塗付する
ことを特徴とするコンクリート基材の補強方法。 2.上記コンクリート表面強化剤における水溶性シラン化合物が、アミノ基含有シラン化合物を含むことを特徴とする1.記載のコンクリート基材の補強方法。 3.上記補強剤における水溶性シラン化合物が、アミノ基含有シラン化合物を含むことを特徴とする1.に記載のコンクリート基材の補強方法
4.1.に記載のコンクリート基材の補強方法により上記コンクリート表面強化剤を塗付した後、上塗材を塗付することを特徴とするコンクリート基材の仕上げ方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コンクリート構造物に対するアルカリ金属珪酸塩の浸透性をよりいっそう高め、コンクリート構造物の劣化を補修し、表面強度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
(コンクリート表面強化剤)
本発明は、コンクリート構造物に塗付する表面強化剤に関するものであり、コンクリート構造物、特に劣化したコンクリート構造物に塗付することにより、コンクリート構造物内部にアルカリ金属珪酸塩を浸透(含浸)し、硬化体を形成することにより、劣化部分を補修するとともに、表面強度を高めることができるものである。このようなコンクリート表面強化剤(以下、単に「表面強化剤」ともいう)は、(A)アルカリ金属珪酸塩、(B)水溶性シラン化合物、及び水を含むことを特徴とする。
【0011】
コンクリート構造物としては、例えば、橋梁、トンネル、高架道路、建築物等のセメントやモルタル等により構成されるものであり、新規、既設いずれであってもよい。本発明の組成物は、既設コンクリート構造物、特に経年変化により中性化が進行したり、降雨によってカルシウム成分が溶出したり、さらには亀裂が発生した劣化コンクリート構造物等に好適なものである。
【0012】
(A)アルカリ金属珪酸塩(以下「A)成分」ともいう)は、コンクリート構造物の内部に浸透(含浸)し、硬化体を形成するものであり、これによりコンクリート構造物の表面強度等を向上させるものである。このような(A)成分としては、一般式:M2 O・nSiO2 (MはLi、K、Na,Csから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属)で表される水溶性のアルカリ金属珪酸塩(「水ガラス」ともいう)であればいずれも使用できる。このような(A)成分としては、例えば、珪酸ナトリウム、オルト珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、珪酸リチウム、珪酸カリウム等が挙げられる。また、アルカリ金属珪酸塩の水溶液として市販されている水ガラスを使用することもできる。上記のアルカリ金属珪酸塩は、単独で用いられてもよく、または2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0013】
表面強化剤における(A)成分の含有量は、表面強化剤中に、有効成分(M2 O及びSiO2)換算で好ましくは5~60重量%(より好ましくは8~50重量%)である。このような範囲の場合、表面強度を高め、優れた美観性を得ることができる。
【0014】
本発明では、(A)成分として、少なくともSiO2 /Na2 O(モル比)が5/1~2/1(より好ましくは4/1~3/1)の珪酸ナトリウムを含むことが好ましい。このような場合、本発明の効果を一層高めることができる。さらに、本発明では、SiO2 /K2 O(モル比)が5/1~1/1(より好ましくは4/1~1/1)の珪酸カリウム、SiO2 /Li2 O(モル比)が5/1~2/1(より好ましくは5/1~3/1)の珪酸リチウムを混合して使用することができる。これによって、コンクリート構造物への浸透性が高まり、緻密な硬化体を形成することができる。本発明の補強方法により、コンクリート構造物の防水性が高まり、降雨等の水の浸透による劣化を効果的に抑制することができる。さらには、アルカリ金属の溶出等を抑制し、コンクリート構造物表面の白華等も防止することができる。
【0015】
本発明では特に、珪酸ナトリウムと珪酸カリウムを混合して使用することが好ましい。珪酸ナトリウムと珪酸カリウムの混合比率は、SiO2 /(Na2 O+K2 O)(モル比)が、5/1~1/1(好ましくは4/1~2.5/1)であり、表面強化剤全体に対しSiOの含有量が5~50重量%(より好ましくは10~30重量%)と成るように調整することが好ましい。この場合、(A)成分中の珪酸ナトリウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは10~98重量%(より好ましくは30~95重量%以上)、珪酸カリウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは2~90重量%(より好ましくは5~70重量%)とすることにより、上記範囲に調整することができる。このような範囲である場合、表面強度をいっそう高めることができ、優れた美観性を得ることができる。
【0016】
さらに、珪酸リチウムを混合して使用することも好ましい。この場合、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、及び珪酸リチウムの混合比率は、SiO2 /(Na2 O+K2 O+Li2 O)(モル比)が、5/1~1/1(好ましくは4/1~2/1)であり、表面強化剤全体に対しSiOの含有量が5~50重量%(より好ましくは10~30重量%)となるように調整することが好ましい。この場合、(A)成分中の珪酸ナトリウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは30~98重量%(より好ましくは50~95重量%)、珪酸カリウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは1.5~50重量%(より好ましくは4~40重量%)、珪酸リチウムの含有量(有効成分換算)を、好ましくは0.5~40重量%(より好ましくは1~30重量%)とすることにより、上記範囲に調整することができる。このような範囲である場合、耐水性が高まり、降雨等の水の浸透による白化や光沢変化等の外観異常を効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明表面強化剤は、(B)水溶性シラン化合物(以下「(B)成分」ともいう)を必須成分として含むことを特徴とするものである。本発明では、上記(A)成分と(B)成分を併用することにより、コンクリート構造物内部(深部)への上記(A)成分の浸透(含浸)性を高めることができる。これにより、コンクリート構造物の表面近傍に上記(A)成分が溜まることなく浸透するため、十分な浸透深さ及び浸透量を確保することができ、表面強度を高めることができる。さらに、塗付ムラ、表面白化等のない美観性に優れた仕上がりを得ることができる。また、コンクリート構造物内部に浸透(含浸)した(B)成分は、コンクリート構造物の構成成分(セメント等)と反応し、強度を高めることができる。
【0018】
本発明の(B)成分は、水に溶解するものであればよく、好ましくは1重量%シラン水溶液を作製できるものが好ましい。この1重量%シラン水溶液作製時には、必要に応じてpHを調整してもよい。このような(B)成分としては、例えば、
グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピル(エチル)ジメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン化合物;
【0019】
γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロビルアミン等のアミノ基含有シラン化合物;
【0020】
3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シラン化合物;
その他、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、及び3-イソシアネートプロピルエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0021】
中でも、本発明では、(B)成分として、アミノ基含有シラン化合物を含むことが好ましい。これにより、上記(A)成分の浸透(含浸)性をよりいっそう高め、コンクリート構造物の表面にカルシウム成分が溜まるのを抑制できる。また、塗付後には、塗付ムラ、表面白化等もなく美観性に優れる。アミノ基含有シラン化合物の含有量は、(B)成分中に好ましくは50重量%以上(より好ましくは80重量%以上)であり、アミノ基含有シラン化合物のみの態様であってもよい。
【0022】
(B)成分の含有量は、組成物中に、好ましくは0.01~5重量%(より好ましくは0.05~5重量%)である。このような範囲を満たす場合、コンクリート構造物に対する上記(A)成分の浸透性を高めることができるとともに、表面強度をいっそう高めることができる。
【0023】
本発明表面強化剤は、上記(A)成分と上記(B)成分を水に溶解させたものである。表面強化剤中の水の含有量は、上記(A)成分及び上記(B)成分の有効成分を除く残量であり、好ましくは45~95重量%(より好ましくは50~90重量%)である。
【0024】
本発明のコンクリート表面強化剤は、必要に応じ、公知の添加剤を含むことができる。このような添加剤としては、例えば、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消臭剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、難燃剤、着色顔料、体質顔料、繊維、撥水剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。
【0025】
(補強方法)
本発明は、コンクリート構造物に対し、上記表面強化剤を塗付する工程を含むものであり、コンクリート構造物の補強、及び表面強度を高めることができる。特に、劣化した既設のコンクリート構造物に対して好適なものである。
【0026】
表面強化剤の塗付方法としては、特に限定されないが、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、スプレー塗装等の種々の方法を採用することができる。また、工場内で塗装する場合は、上記以外にもロールコーター、フローコーター等を用いて塗装することもできる。
【0027】
表面強化剤の塗付け量については、好ましくは0.01~0.5kg/m(より好ましくは0.05~0.4kg/m)程度である。表面強化剤の塗回数は、コンクリート構造物の状態(劣化具合等)によって適宜設定すればよいが、好ましくは1~2回である。また、表面強化剤の塗付後に、浸透性を高めるために、表面に散水することもできる。これにより、光沢ムラ等を生じ難く、美観性に優れた仕上りを得ることができる。組成物の乾燥時間は、好ましくは1時間以上とすればよい。また乾燥温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、より好ましくは5℃以上40℃以下であればよい。
【0028】
本発明では、コンクリート構造物の表面状態(中性化、亀裂の状態)に応じて、上記工程の前に、補強剤を塗付してもよい。これにより、よりいっそう表面強度を高めることができる。補強方法としては、例えば、
(1)コンクリート構造物に対し、上記補強剤を塗付する工程、
(2)上記表面強化剤を塗付する工程、
を順次行うことが好ましい。
【0029】
(補強剤)
上記(1)工程における補強剤は、(C)水溶性カルシウム塩(以下「(C)成分」ともいう)を含むものであることが好ましい。(C)成分は、コンクリート構造物の内部の空隙にカルシウムイオンを補充する成分である。本発明の(C)成分は、25℃の水に対し1重量%以上溶解することができるカルシウム塩であり、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。本発明では、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム等から選ばれる1種を含むことが好ましい。特に、亜硝酸カルシウムを含む場合には、亜硝酸イオンの作用によりコンクリート構造物内部の鉄筋に対する防錆効果が得られるため好適である。
【0030】
(C)成分の含有量は、補強剤中に、好ましくは1~50重量%(より好ましくは2~40重量%、さらに好ましくは3~20重量%)である。このような範囲を満たす場合、コンクリート構造物の内部に、十分なカルシウムイオンを補充することができる。
【0031】
また、上記補強剤に、上記(B)成分と同様のシラン化合物を含むことが好ましい。上記(C)成分と(B)成分を併用することにより、コンクリート構造物内部に対する上記(C)成分の浸透(含浸)性を高めることができる。これにより、塗り付け直後にコンクリート構造物の表面近傍にカルシウムイオンが溜まることなく、コンクリート構造物の深部まで浸透し、十分なカルシウムイオンを補充することができるため、補修に十分な浸透深さ及び浸透量を確保することができる。さらに、コンクリート構造物内部に浸透した(B)成分は、コンクリート構造物の構成成分(セメント等)と反応し、強度を高めることができる。さらに、(B)成分を含むことにより、工程(2)において、本発明の表面強化剤を塗付する際に、コンクリート構造物の内部(深部)まで表面強化剤を浸透させることが可能となり、コンクリート構造物の強度をいっそう高めることができるとともに、優れた防水性を付与することができる。さらには、表面強化剤を均一に浸透(含浸)させることができるため、光沢ムラ等を生じ難く、美観性に優れた仕上がりを得ることができる。
【0032】
(B)成分の含有量は、補強剤中に、好ましくは0.01~5重量%(より好ましくは0.05~5重量%)である。このような範囲を満たす場合、コンクリート構造物に対する上記(C)成分の浸透性を高めることができるとともに、表面強度をいっそう高めることができる。
【0033】
上記補強剤は、上記(C)成分と上記(B)成分を水に溶解させたものである。組成物中の水の含有量は、上記(C)成分及び上記(B)成分を除く残量であり、好ましくは45~98.99重量%(より好ましくは55~97.95重量%)である。
【0034】
上記補強剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り、必要に応じ、公知の添加剤を含むことができる。このような添加剤としては、例えば、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、消臭剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、難燃剤、着色顔料、体質顔料、繊維、撥水剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒等が挙げられる。
【0035】
上記(1)工程において、補強剤の塗付方法としては、特に限定されないが、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、スプレー塗装等の種々の方法を採用することができる。また、工場内で塗装する場合は、上記以外にもロールコーター、フローコーター等を用いて塗装することもできる。さらに、亀裂部等には、シリンダー等により注入することもできる。
【0036】
補強剤の塗付け量については、好ましくは0.01~0.5kg/mより好ましくは0.03~0.4kg/m、さらに好ましくは0.05~0.3kg/m)程度である。このような範囲を満たす場合、本発明の効果を十分に得ることができる。また、上記上限以下で塗付した場合、コンクリート表面の変色等を抑制することができる。なお、補強剤の塗回数は、コンクリート構造物の状態(劣化具合等)によって適宜設定すればよいが、好ましくは1~2回である。また、補強剤の塗付後に、コンクリート構造物の表面に散水することもできる。本発明では、(B)成分を含む場合、散布した水とともに上記(C)成分がコンクリート構造物の内部までよりいっそう浸透(含浸)しやすくなり、本発明の効果を高めることができる。さらには、表面に補強剤が残存しにくくなるため、変色等も抑制することができる。補強剤の乾燥時間は、好ましくは1時間以上とすればよい。また乾燥温度は、好ましくは0℃以上50℃以下、より好ましくは5℃以上40℃以下であればよい。
【0037】
さらに、本発明では、本発明の表面強化剤を塗付した後に、必要に応じて、上塗材を塗付することができる。さらには、
(1)コンクリート構造物に対し、上記補強剤を塗付する工程、
(2)上記表面強化剤を塗付する工程、
(3)上塗材を塗付する工程、
を順次行うことが好ましい。
【0038】
(上塗材)
上記(3)工程における上塗材としては、一般的に建築物や土木構造物の塗装に使用されるものであれば特に限定されるものではない。上記(2)の本発明の表面強化剤は、上記(B)成分を含むことにより、多種多様な上塗材に対し優れた密着性を有することができる。使用可能な上塗材としては、樹脂成分、及び必要に応じて着色顔料を含むものが挙げられる。
【0039】
樹脂成分としては、各種樹脂が使用できる。樹脂の種類としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合樹脂等が挙げられる。この中でも、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等から選ばれる1種または2種以上が好適である。また、このような樹脂成分の形態としては、水溶性樹脂、水分散性樹脂(樹脂エマルション)、溶剤可溶形樹脂、無溶剤形樹脂、非水分散形樹脂、粉末樹脂等が挙げられる。また、溶剤可溶性樹脂及び/または非水分散性樹脂のうち、全溶剤のうち50重量%以上(好ましくは60重量%以上)が脂肪族炭化水素である所謂弱溶剤形樹脂も好適である。脂肪族炭化水素としては、例えば、n-ヘキサン、n-ペンタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン等、あるいはテルピン油やミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。この中でも、本発明では、水溶性樹脂及び/または水分散性樹脂が好適である。また、これら樹脂成分は架橋反応性を有するものであってもよい。架橋反応性を有する樹脂成分を使用した場合は、被膜の耐久性、耐水性、耐候性、耐薬品性、密着性等を向上させることができる。
【0040】
着色顔料としては、例えば公知の無機着色顔料、有機着色顔料等が使用できる。これら着色顔料の1種または2種以上を適宜使用することにより、上塗材を所望の色相に設定することができる。着色顔料の混合比率は、上記樹脂成分の固形分100重量部に対し、好ましくは1~500重量部、より好ましくは5~200重量部、さらに好ましくは10~100重量部である。
【0041】
本発明の上塗材としては、透明被膜を形成するものも使用可能であり、この場合、コンクリート構造物の外観を活かしつつ、止水性、耐久性、美観性等の性能を付与することができるため好適である。また、上塗材は1種または2種以上使用できる。2種以上の上塗材を使用する場合、色調の異なる上塗材を用い、2色以上の多色の外観に仕上げることも可能である。
【0042】
このような上塗材は、本発明の効果が著しく損われない範囲内であれば、上記成分以外の各種成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、増粘剤、造膜助剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、凍結防止剤、pH調整剤、体質顔料、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、吸着剤、繊維、架橋剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、触媒、溶剤、水等が挙げられる。本発明の上塗材は、上述の各種成分を常法によって均一に混合することで製造できる。
【0043】
上塗材の塗装においては、公知の塗装器具を用いることができる。塗装器具としては、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等を使用することができる。
上塗材の塗付け量は、基材の表面形状、上塗材の種類や塗装器具の種類等に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは0.1~1kg/m、より好ましくは0.15~0.5kg/mである。塗装時には、必要に応じ上塗材を適宜希釈することもできる。
【実施例
【0044】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0045】
原料としては以下のものを使用した。
(A)成分
(A1)珪酸ナトリウム水溶液
有効成分:33.0%(SiO=26.0%、NaO=7.0%)
SiO/NaO(モル比)=3.83
(A2)珪酸カリウム水溶液
有効成分:55.0%(SiO=28.0%、KO=22.0%)
SiO/KO(モル比)=1.99
(A3)珪酸リチウム水溶液
有効成分:23.3%(SiO=20.4%、LiO=2.9%)
SiO/LiO(モル比)=3.50
(B)成分
(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン
(B2)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン
(C)成分
(C1)亜硝酸カルシウム
【0046】
<表面強化剤の調製>
・表面強化剤1
(A1)珪酸ナトリウム水溶液70重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、水29.5重量部を混合したものを表面強化剤1とした。
・表面強化剤2
(A1)珪酸ナトリウム水溶液60重量部、(A2)珪酸カリウム水溶液10重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、水29.5重量部を混合したものを表面強化剤2とした。
・表面強化剤3
(A1)珪酸ナトリウム水溶液55重量部、(A2)珪酸カリウム水溶液10重量部、(A3)珪酸リチウム水溶液5量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、水29.5重量部を混合したものを表面強化剤3とした。
・表面強化剤4
(A1)珪酸ナトリウム水溶液55重量部、(A2)珪酸カリウム水溶液10重量部、(A3)珪酸リチウム水溶液5重量部、(B2)γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、水29.5重量部を混合したものを表面強化剤4とした。
・表面強化剤5
(A1)珪酸ナトリウム水溶液55重量部、(A2)珪酸カリウム水溶液10重量部、(A3)珪酸リチウム水溶液5重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.1重量部、水29.9重量部を混合したものを表面強化剤5とした。
・表面強化剤6
(A1)珪酸ナトリウム水溶液55重量部、(A2)珪酸カリウム水溶液10重量部、(A3)珪酸リチウム水溶液5重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを5重量部、水25重量部を混合したものを表面強化剤6とした。
・表面強化剤7
(A1)珪酸ナトリウム水溶液55重量部、(A2)珪酸カリウム水溶液10重量部、(A3)珪酸リチウム水溶液5重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを8重量部、水22重量部を混合したものを表面強化剤7とした。
・表面強化剤8
(A1)珪酸ナトリウム水溶液30重量部、(A2)珪酸カリウム水溶液30重量部、(A3)珪酸リチウム水溶液10重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、水29.5重量部を混合したものを表面強化剤8とした。
・表面強化剤9
(A1)珪酸ナトリウム水溶液20重量部、(A2)珪酸カリウム水溶液50重量部、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.5重量部、水29.5重量部を混合したものを表面強化剤9とした。
・表面強化剤10
(A1)珪酸ナトリウム溶液70重量部、水30重量部を混合したものを表面強化剤10とした。
・表面強化剤11
(A1)珪酸ナトリウム水溶液55重量部、(A2)珪酸カリウム水溶液10重量部、(A3)珪酸リチウム水溶液5量部、水30重量部を混合したものを表面強化剤11とした。
【0047】
<補強剤の調製>
・補強剤1
(C1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B1)N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.1重量部添加・攪拌して補強剤1を得た。
・補強剤2
(C1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部に対し、(B2)γ-アミノプロピルトリメトキシシランを0.1重量部添加・攪拌して補強剤2を得た。
・補強剤3
(C1)亜硝酸カルシウムを水に溶解させた15%亜硝酸カルシウム水溶液100重量部を補強材3とした。
【0048】
<試験例[I]>
基材[I](標準モルタル:100×100×20mm)に、表面強化剤1~11をそれぞれ塗付け量0.2kg/mで刷毛塗りし、常温(23℃)で7日間養生したものを試験体とし、以下の評価を実施した。結果は、表1に示す。
【0049】
・美観性評価
試験体の表面を目視評価し、光沢ムラ、色相ムラ等の外観異常の有無を評価した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。
A:均一な仕上がりで異常がない。
B:僅かな異常が認められる。
C:明らかな異常が認められる。
【0050】
・耐摩耗性(表面強度)評価
得られた試験体について、JIS K5600 5.9耐摩耗性(摩耗輪法)に準じ、テーバー式試験機、摩耗輪CS-17、荷重1000gで500回転後の摩耗減量を観測した。未処理の基材[I]の摩耗減量と比較し、評価した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。
A:未処理品より良好
B:未処理品よりやや良好
C:未処理品と同等、またはそれ以下
【0051】
・透水性評価
上記基材[I]に表面強化剤1~11をそれぞれ塗付け量0.2Kg/mで刷毛塗りし、室温(23℃)で7日間養生したものを試験体とした。JIS A 6909 7.13(透水試験B法)により透水性を評価した。未塗付の標準モルタル板と比較し、評価した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。
A:透水量が少ない
B:同等
C:透水量が多い
【0052】
【表1】
【0053】
試験例I-1~I-9では、表面強化剤の浸透性が良好であり、美観性評価、耐摩耗性評価、透水性評価において良好な結果であった。特に、試験例I-2~I-5においてはすべての評価でA判定となる優れた結果であった。一方、試験例I-10~I-11では、表面強化剤の浸透性が悪く十分な結果が得られなかった。
【0054】
<試験例[II]>
・基材[II]
標準モルタル(100×100×20mm)を、5%CO雰囲気下に60日間静置し、中性化させたものを基材とした。
表2に示す補強剤と表面強化剤の組み合わせに従い、上記基材[II]に補強剤を塗付け量0.1Kg/mで刷毛塗りし、室温(25℃、60%Rh)で24時間養生した後、表面強化剤を塗付け量0.2kg/mで刷毛塗りし、30分間静置した。静置後、表面強化剤1の余剰分を除去した後、水拭きし、常温(25℃)で7日間養生したものを試験体とし、以下の評価を実施した。結果は、表2に示す。
【0055】
・美観性評価
試験例[I]と同様にして美観性を評価した。
・耐摩耗性評価
試験例[I]と同様にして耐摩耗性を評価した。なお、評価では未処理の基材[II]の摩耗減量と比較し、評価した。
【0056】
・浸透深さ評価
得られた試験体の表面を深さ1mmごとに研削する。得られた研削粉が5%となるように水を加えて10分間撹拌し、24時間静置してナトリウム(Na)を水に抽出する。Naイオンメーターを用いてNa量を測定し、未塗付モルタル対比で30%以上Na量が多い深さまで材料が浸透していると判定し、浸透深さを算出した。評価基準は、以下に示す3段階(優:A>B>C:劣)とした。
A:2mm以上
B:1mm以上2mm未満
C:1mm未満
【0057】
【表2】
【0058】
試験例II-1~II-3において、表面強化剤の浸透性が良好であり、美観性評価、耐摩耗性評価、浸透性評価において良好な結果であった。特に、試験例II-1、II-2では、表面強化剤の浸透性に優れ、中性化した基材[II]においても優れた耐摩耗性を得ることができた。
【0059】
<試験例[III]>
上記基材[II]に補強剤1を塗付け量0.1Kg/mで刷毛塗りし、室温(25℃、60%Rh)で24時間養生した後、表3に示す表面強化剤をそれぞれ塗付け量0.2kg/mで刷毛塗りし、30分間静置した。静置後、表面強化剤の余剰分を除去した後、水拭きし、常温(25℃)で7日間養生した。次いで、上塗材1(弱溶剤型アクリル樹脂系塗料)を塗付け量0.2kg/mで刷毛塗りし、常温(25℃)で7日間養生したものを試験体とし、以下の評価を実施した。結果は、表3に示す。
【0060】
・密着性評価
得られた試験体について、JIS K5600-5-6に準じた碁盤目テープ法にて密着性を評価した。評価基準は、以下に示す4段階(優:A>B>C>D:劣)とした。
A:欠損部面積が10%未満
B:欠損部面積が10%以上30%未満
C:欠損部面積が30%以上50%未満
D:欠損部面積が50%以上
【0061】
【表3】
【0062】
試験例III-1~III-6では、密着性評価において良好な結果であった。