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特許7523310全固体二次電池、全固体二次電池システム制御方法及び全固体二次電池システム制御装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】全固体二次電池、全固体二次電池システム制御方法及び全固体二次電池システム制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20240719BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240719BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20240719BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240719BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240719BHJP
   H01M 50/262 20210101ALI20240719BHJP
   H01M 50/202 20210101ALI20240719BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/40
H01M4/134
H01M10/48 301
H01M10/48 Z
H01M10/48 P
H01M50/262 E
H01M50/202 401D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020170617
(22)【出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2022062537
(43)【公開日】2022-04-20
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】小高 敏和
(72)【発明者】
【氏名】青谷 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 修久
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-225356(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110688(WO,A1)
【文献】特開2018-206644(JP,A)
【文献】特開2022-062468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 4/40
H01M 4/134
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体の表面に形成された負極層と、正極集電体の表面に形成された正極層と、前記負極層と前記正極層との間に介在する固体電解質層と、からなる発電要素が少なくとも1つ以上積層された電池セルと、
前記電池セルに対して積層方向の拘束圧力を加える拘束装置と、
を有する全固体二次電池において、
前記負極層は、
金属リチウムまたはリチウム合金を材料とする第1負極層と、
平面視で前記第1負極層の外縁部に形成され、作動中の温度下における前記拘束圧力に対するクリープ応力特性が前記第1負極層より高いリチウム合金を材料とする第2負極層と、
からなることを特徴とする全固体二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の全固体二次電池において、
前記第2負極層は、リチウムの溶解及び析出による体積変化率が前記第1負極層と同等になる組成比のリチウム合金で構成される、全固体二次電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の全固体二次電池において、
前記拘束装置は、前記負極層の前記積層方向の寸法の変化に応じて前記拘束圧力が変化する第1拘束機構と、前記拘束圧力を任意に調整可能な第2拘束機構と、を備える、全固体二次電池。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の全固体二次電池と、
前記拘束装置を制御する制御部と、
前記電池セルの温度であるセル温度を検出する温度検出装置と、
を備える全固体二次電池システムを制御する全固体二次電池システム制御方法において、
前記制御部が、
前記セル温度と前記第2負極層のクリープ特性と前記拘束圧力とに基づいて前記第2負極層の累積クリープ量を推定し、
前記拘束装置を制御することにより、前記累積クリープ量を前記発電要素のエッジ部分での短絡が生じない前記累積クリープ量である限界クリープ量より小さくする、全固体二次電池システム制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の全固体二次電池システム制御方法において、
前記制御部は、前記セル温度と残充電量とに応じて、前記拘束圧力と前記拘束圧力を加える時間である拘束時間とを制御する、全固体二次電池システム制御方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の全固体二次電池システム制御方法において、
前記制御部は、
前記セル温度及び前記拘束圧力が、クリープが発生しない条件を満たすときに、そのときの前記全固体二次電池の残充電量及び前記拘束圧力に基づいてクリープ量を算出し、算出した前記クリープ量を前記累積クリープ量に置き換える、全固体二次電池システム制御方法。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項に記載の全固体二次電池システム制御方法において、
前記制御部は、前記負極層と前記固体電解質層との接触抵抗値を検出する機能を有し、前記累積クリープ量から推定した接触抵抗値と検出した接触抵抗値との差に基づいて前記累積クリープ量を補正する、全固体二次電池システム制御方法。
【請求項8】
請求項4から7のいずれか一項に記載の全固体二次電池システム制御方法において、
前記制御部は、定期的または不定期的に前記全固体二次電池の残充電量がゼロになるまで放電を行い、前記累積クリープ量の推定値をリセットする、全固体二次電池システム制御方法。
【請求項9】
請求項4から8のいずれか一項に記載の全固体二次電池システム制御方法において、
前記制御部は、前記拘束圧力を前記第1負極層がクリープ変形を起こす範囲で制御する、全固体二次電池システム制御方法。
【請求項10】
請求項4から9のいずれか一項に記載の全固体二次電池システム制御方法において、
前記制御部は、前記第2負極層に加える前記拘束圧力を前記第2負極層のクリープ応力より小さく、かつ前記第1負極層に加える前記拘束圧力を前記第1負極層のクリープ応力以上に制御する、全固体二次電池システム制御方法。
【請求項11】
請求項1から3のいずれか一項に記載の全固体二次電池と、
前記拘束装置を制御する制御部と、
前記電池セルの温度であるセル温度を検出する温度検出装置と、
を備える全固体二次電池システムを制御する全固体二次電池システム制御装置において、
前記制御部が、
前記セル温度と前記第2負極層のクリープ特性と前記拘束圧力とに基づいて前記第2負極層の累積クリープ量を推定し、
推定結果に基づいて前記拘束装置を制御することにより、前記累積クリープ量を前記発電要素のエッジ部分での短絡が生じない前記累積クリープ量である限界クリープ量より小さくする、全固体二次電池システム制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車またはハイブリッド車両に用いられる二次電池として、電解液を使用するリチウムイオン電池が知られている。しかし、より長い走行可能距離を確保するための大容量化、車体への積載性を高めるための小型化、より利便性を高めるための充電時間の短縮等といった要求を満たすために、固体の電解質を使用するリチウム電池の開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、リチウム固体二次電池のデンドライトによる短絡を防止するための構造が開示されている。具体的には、平面視上で、負極集電体の外周が固体電解質層の外周より内側になる構造が開示されている。また、上記文献には、充放電により負極層の体積が変化した場合でも負極層と電解質層との接触状態を良好に保つために、負極層及び電解質層を含む発電要素に厚さ方向の拘束圧力を付与することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-12495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属リチウムを使用する負極層は、拘束圧力によって金属リチウムがクリープ変形することがある。このクリープ変形には、負極層と電解質層との接触状態を改善する作用があるが、その一方で、負極層のエッジ部へのリチウム析出が進行または助長されるおそれがある。そして、負極層のエッジ部側から正極層方向にかけてリチウムデンドライトが侵攻し、短絡が生じるおそれがある。
【0006】
しかしながら、上記文献ではクリープ変形について考慮されておらず、上記文献に記載の構造ではクリープ変形に起因するエッジ部での短絡が生じるおそれがある。
【0007】
そこで本発明では、クリープ変形に起因する短絡を防止し得る全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、負極集電体の表面に形成された負極層と、正極集電体の表面に形成された正極層と、負極層と正極層との間に介在する固体電解質層と、からなる発電要素が少なくとも1つ以上積層された電池セルと、電池セルに対して積層方向の拘束圧力を加える拘束装置と、を有する全固体二次電池が提供される。負極層は、金属リチウムまたはリチウム合金を材料とする第1負極層と、平面視で第1負極層の外縁部に形成され、全固体二次電池の作動中の温度下における拘束圧力に対するクリープ応力特性が第1負極層より高いリチウム合金を材料とする第2負極層と、からなる。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、クリープ変形に起因する短絡を防止し得る全固体二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、全固体二次電池の断面図である。
図2図2は、発電要素の断面図である。
図3図3は、満充電状態の発電要素の断面図である。
図4図4は、充電残量がゼロの状態の発電要素の断面図である。
図5図5は、クリープ変形による短絡を説明するための第1の図である。
図6図6は、クリープ変形による短絡を説明するための第2の図である。
図7図7は、クリープ特性を調べるための試験方法を説明するための図である。
図8図8は、温度毎の拘束圧力とクリープ変形による伸び量との関係を示す図である。
図9図9は、温度とクリープ応力との関係を示す図である。
図10図10は、本発明の実施形態にかかる負極層の斜視図である。
図11図11は、本発明の実施形態にかかる負極層を備える発電要素の断面図である。
図12図12は、第1負極層のクリープ応力と第2負極層のクリープ応力との関係を示す図である。
図13図13は、第2負極層のクリープ応力とセル温度との関係を示す図である。
図14図14は、累積クリープ量について説明するための図である。
図15図15は、拘束装置の一例を示す図である。
図16図16は、拘束装置の他の例を示す図である。
図17図17は、充電状態の違いによるクリープ変形量の違いを示す図である。
図18図18は、累積クリープ量の推定誤差を修正する第1の補正を説明するための図である。
図19図19は、累積クリープ量の推定誤差を修正する第2の補正を説明するための図である。
図20図20は、本発明の実施形態により拘束圧力を制御した場合のタイミングチャートである。
図21図21は、比較例としての、拘束圧力を制御しなかった場合のタイミングチャートである。
図22図22は、第2実施形態における拘束圧力の調整範囲を示す図である。
図23図23は、第3実施形態にかかる拘束圧力の印加方法を示す図である。
図24図24は、第3実施形態で使用するエンドプレートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態にかかる全固体二次電池1の断面図である。
【0013】
全固体二次電池1は、少なくとも1つ以上の発電要素12が積層されてなる電池セル13が外装部材7に収容された構造を有する。発電要素12は、負極と固体電解質層4と正極とを積層した構成を有する。
【0014】
負極は、負極集電体2の両面に負極活物質(例えば、金属リチウムまたはリチウム合金)を含有する負極層3が形成された構造を有する。なお、図1の負極層3は簡略化したものであり、詳細な構成については後述する。正極は、正極集電体6の両面に正極活物質を含有する正極層5が形成された構造を有する。具体的には、1つの正極層5とこれに隣接する正極層5とが固体電解質層4を介して対向するようにして、負極、固体電解質層4及び正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する負極、固体電解質層及び正極が1つの発電要素12を構成する。したがって、図1に示す全固体二次電池1は、発電要素12が複数積層されて、電気的に並列接続された構成を有する。なお、図1では、発電要素の両最外層の正極集電体6には、片面のみに正極層5が形成されているが、両面に形成されていてもよい。
【0015】
負極集電体2と正極集電体6は、それぞれリード線を介して負極タブ8と正極タブ9に電気的に接続されている。これら負極タブ8及び正極タブ9は外装部材7の外部に導出される構造を有する。
【0016】
また、負極タブ8の近傍には、外装部材7の内部の温度(以下、セル温度ともいう)を検出する温度検出装置としての温度センサ10が配置されている。温度センサ10の検出値はバッテリコントローラ(図中のLBC)11に出力される。バッテリコントローラ11は読み込んだセル温度に応じて後述する制御を実行する。
【0017】
図2は、発電要素12を示している。全固体二次電池1は固体電解質層4を含めて全ての要素が固体で構成されている。そこで、各要素間の接触状態を良好に保つために、図1には図示していない拘束装置20により積層方向(図中の矢印の方向)の拘束圧力を印加して各要素間の密着度を高めている。拘束圧力(面圧)は、接触状態向上の効果と後述する拘束装置20の剛性確保とを勘案して、例えば100[MPa]程度に設定する。拘束装置20については後述する。
【0018】
次に、図3図4を参照して全固体二次電池1の充放電のメカニズムについて説明する。図3、4はいずれも図1の発電要素12の一部を抜粋した図であり、図3は満充電状態を示し、図4は残充電量(SOCともいう)がゼロの状態を示している。なお、SOCは、満充電状態に対する現在の充電量の割合で示すこととする。つまり、満充電状態ではSOCが100[%]、完全に放電した状態ではSOCがゼロ[%]である。
【0019】
放電時には、図3に示すようにリチウムイオンが負極層3から固体電解質層4を介して正極層5へ移動し、これに伴い負極層3の体積が減少する。そして、放電し切ると図4に示すように負極層3はなくなる。
【0020】
充電時には、図4に示すようにリチウムイオンが正極層5から固体電解質層4を介して負極集電体2側へ移動し、負極集電体2の固体電解質層4側の表面に析出して負極層3が形成される。
【0021】
上記のように充放電に伴い負極層3が体積変化するので、発電要素の体積はSOCによって変化する。上述したような拘束装置を用いる場合、発電要素の体積が変化することによって、拘束圧力が変動する。
【0022】
ところで、負極層3に金属リチウムまたはリチウム合金を用いる場合には、拘束圧力によって負極層3がクリープ変形するおそれがある。負極層3は負極集電体2と固体電解質層4とに挟まれているので、クリープ変形が生じると、負極層3は面方向に伸びる。
【0023】
仮にクリープ変形したとしても、図5に示すように、負極層3のエッジ部が固体電解質層4のエッジ部からはみ出していなければ、負極層3と正極層5との距離(図中の矢印)は均一なので、各層の境界面では一様に反応が進む。しかし、図6に示すように、クリープ変形によって負極層3のエッジ部が固体電解質層4のエッジ部からはみ出すと、エッジ部ではその他の部分に比べて負極層3と正極層5との距離が短くなり、短くなった部分で集中的に反応が進む。つまり短絡が生じる。
【0024】
上記の短絡の原因となるのは、負極層3のクリープ変形、さらにいうとクリープ変形に伴う負極層3の面方向の伸びである。発明者らは、負極層3の面方向の伸び量は、拘束圧力が大きいほど大きく、また高温ほど大きいことを試験により確認した。図7は試験方法の概略を示す図、図8は試験結果を示す図である。
【0025】
図7に示す通り、固体電解質層4と同成分の円盤状のペレット72の一方の面に円盤状のリチウム箔71を、他方の面に正極層5と同成分の箔73を配置した試験材料に、上側治具70Aと下側治具70Bとで荷重を印加した。この荷重が拘束圧力に相当する。そして、印加する荷重の大きさごとにリチウム箔71の面方向の伸び量を測定した。また、図示しない電気炉などを用いて試験中における試験材料の温度を制御し、温度ごとの面方向の伸び量を測定した。その結果を、縦軸を伸び量とし横軸を拘束圧力としてまとめたものが図8である。
【0026】
図8に示す通り、同一温度で比べると、拘束圧力が高くなるほど伸び量は大きくなる。また、同一拘束圧力で比べると、温度が高くなるほど伸び量が大きくなる。
【0027】
図9は、上記の実験結果に基づく負極層3のクリープ応力と温度との関係を示している。ここでのクリープ応力とは、上記実験で求められた伸び量を応力に換算したものである。
【0028】
図9に示す通り、温度が高いほど負極層3のクリープ応力は小さい。このため、図9に破線で示したように拘束圧力に相当する応力が一定の場合には、温度が高くなるほど拘束圧力とクリープ応力の差が大きくなり、クリープ変形が助長される。したがって、クリープ変形を抑制するためには、温度(具体的にはセル温度)に応じて拘束圧力を制御する必要がある。
【0029】
図10は、本実施形態にかかる負極層3の斜視図であり、図11はこの負極層3を用いた場合の発電要素12の断面図である。
【0030】
図10図11に示す通り、負極層3は、第1負極層3Aと、平面視で第1負極層3Aの外縁部に形成される第2負極層3Bとで構成される。なお、以下の説明において、負極層3とは第1負極層3Aと第2負極層3Bとが一体になったもののことをいう。
【0031】
第2負極層3Bは、図12に示す通り、全固体二次電池1の作動中のセル温度下における拘束圧力に対するクリープ特性が第1負極層3Aより優れるリチウム合金で構成される。換言すると、全固体二次電池1の作動中のセル温度下において、第2負極層3Bは第1負極層3Aよりもクリープ応力が大きい。
【0032】
また、第2負極層3Bは、リチウムの溶解及び析出による体積変化率が第1負極層3Aと同等になる、合金種の組成比を有する。
【0033】
拘束圧力は第1負極層3A及び第2負極層3Bに均等に作用するので、第2負極層3Bは第1負極層3Aに比べてクリープ変形しにくい。
【0034】
上記の負極層3は、例えば、金属リチウムで第1負極層3Aを作成した後、第1負極層3Aの内周部(つまり外縁部を除いた部分)をマスキングし、外縁部にのみマグネシウムまたはアルミニウム等を蒸着させてからマスキングを除去することにより作成する。当該方法によれば、内周部が金属リチウムのみの第1負極層3Aとなり、外縁部が金属リチウムとマグネシウムまたはアルミニウム等との合金層である第2負極層3Bとなる。なお、負極層3の作成方法はこれに限られるものではない。例えば、平板状に形成した金属リチウムまたはリチウム合金と、矩形枠状に形成したリチウム合金とを、重ね合わせた状態でプレス加工することにより作成してもよい。
【0035】
次に、負極層3の面方向へのクリープ変形に起因するエッジ部での短絡を抑制するための制御について説明する。
【0036】
図13は、第2負極層3Bのクリープ応力とセル温度との関係を示している。負極層3のクリープ変形は、クリープ特性に優れる第2負極層3Bのクリープ応力に律速される。つまり、拘束圧力が印加されることで第2負極層3Bに生じる応力(以下、「負極層3に生じる応力」ともいう)が、第2負極層3Bのクリープ応力より大きいP1になる作動点A1ではクリープ変形が生じ、第2負極層3Bのクリープ応力より小さいP0になる作動点A0ではクリープ変形が生じない。この特性を踏まえると、負極層3の累積クリープ量は次のように変化する。
【0037】
図14は、全固体二次電池1が一定のセル温度で運転している場合の、負極層3に生じる応力及び累積クリープ量のタイミングチャートである。
【0038】
タイミング0からタイミングT1までは、負極層3に生じる応力P0が第2負極層3Bのクリープ応力より小さいので、クリープ変形は生じない。したがって、累積クリープ量はゼロのままである。
【0039】
タイミングT1からタイミングT2までは、負極層3に生じる応力P1が第2負極層3Bのクリープ応力より大きいので、クリープ変形が生じる。したがって、タイミングT1からタイミングT2までの間は、累積クリープ量が増大する。この場合の累積クリープ量は、第2負極層3Bの温度-クリープ応力特性と拘束圧力とに基づいて、応力P1とクリープ応力との差及び応力P1が作用している時間を用いて推定可能である。
【0040】
タイミングT2からタイミングTまでは、負極層3に生じる応力P2が第2負極層3Bのクリープ応力より小さいので、クリープ変形は生じない。したがって、累積クリープ量は変化しない。
【0041】
タイミングT3からタイミングT4までは、負極層3に生じる応力P3が第2負極層3Bのクリープ応力より大きいので、再び累積クリープ量は増大する。この場合の累積クリープ量もタイミングT1からタイミングT2の場合と同様に推定可能である。
【0042】
全固体二次電池1の運転中は、累積クリープ量は上記の変動を繰り返す。そして、累積クリープ量が限界クリープ量(図中の破線)を超えると、エッジ部での短絡が生じるおそれがある。
【0043】
そこで、累積クリープ量を推定し、後述する構成の拘束装置20を用いて、推定値に基づいて拘束圧力を制御することにより、累積クリープ量をクリープ限界量以下に維持する。なお、限界クリープ量は、負極層3や固体電解質層4の寸法等により定まるものであり、予め実験等により求めておく。
【0044】
ここで、本実施形態で用いる拘束装置20について説明する。
【0045】
図15は、拘束装置20の一例を模式的に表した図である。
【0046】
拘束装置20は、発電要素12を積層方向の両端から挟むよう配置される一対のエンドプレート21と、両エンドプレート21の間に配置される第1拘束機構としての弾性部材(バネ)22と、一方のエンドプレート21とバネ22の端部との間に配置される第2拘束機構としての可動子23と、を含んで構成される。バネ22の自由長は、全てのリチウムが負極層3A、3Bから正極層5へ移動した場合でも両エンドプレート21を互いに引き寄せる方向の弾性力が生じる長さである。
【0047】
可動子23は楔形の部材であり、バッテリコントローラ11により制御される。可動子23は、エンドプレート21とバネ22の端部との間で可動することにより、バネ22の長さを変化させる。例えば、バネ22の長さが縮まる方向に可動子23が動くと、バネ22の弾性力が小さくなるので、拘束圧力が低下する。
【0048】
上記のように構成される拘束装置20において、バネ22だけでも発電要素12の各層間の密着性を確保することができる。しかし、上述した累積クリープ量をクリープ限界量以下に維持するための拘束圧力の制御を行う際に、バネ22で印加できる範囲を超える拘束圧力が要求される場合に、可動子23が必要となる。
【0049】
図16は、拘束装置20の他の例を模式的に表した図である。
【0050】
図15の拘束装置20との相違点は、可動子23に替えてバネ22の温度を調整する温調装置24を備える点である。バネ22の温度を調整することによって、バネ22の弾性力、つまり拘束圧力を変化させる。したがって、バネ22は温度変化に応じて弾性係数が変化しやすい材質で形成されることが望ましい。この温度調整による拘束圧力の制御は、要求される拘束圧力が常温のバネ22で印加できる範囲を超える場合にバッテリコントローラ11により行われる。
【0051】
ところで、本実施形態の全固体二次電池1は上述した通りSOCが変化することによって負極層3の体積が変化する。そして、負極層3の体積が異なれば、同じ拘束圧力を同じ時間だけ印加した場合でもクリープ変形量は異なる。これについて図17を参照して説明する。
【0052】
図17は、SOCが100%の状態と50%の状態での、同じ拘束圧力を印加した場合のクリープ変形量の違いを示した図である。
【0053】
SOCが100%の状態の方が、SOCが50%の状態よりも負極層3の体積が大きい。より具体的には、厚さ方向の寸法が大きい。この状態で同じ拘束圧力を印加すると、SOCが100%の状態の方が、SOCが50%の状態よりも負極層3全体としてのクリープ変形量、つまり面方向の伸び量が大きくなる。すなわち、SOCが100%の場合の面方向の伸び量をε1、SOCが50%の場合の面方向の伸び量をε2とすると、ε1>ε2の関係が成立する。
【0054】
そこで、本実施形態では、累積クリープ量を推定する際にセル温度だけでなくSOCもパラメータとして使用する。また、後述する拘束圧力の制御においても、セル温度及びSOCに応じて拘束圧力及び拘束時間を制御する。
【0055】
上記の通り、累積クリープ量はセル温度と第2負極層3bのクリープ特性と拘束圧力とに基づいて推定できるが、あくまでも推定であるため、実際の累積クリープ量に対する誤差の発生は避けられない。しかし、誤差が累積されることで、短絡の発生を抑制できなくなるおそれがある。
【0056】
そこでバッテリコントローラ11は、累積クリープ量の誤差を推定し、その結果に基づいて累積クリープ量の補正を行う。以下、具体的な補正方法について図18を参照して説明する。
【0057】
図18の基準データとは、セル温度及び拘束圧力が、第2負極層3Bでクリープ変形が生じない条件を満たす場合(例えば図13の作動点P0)の、拘束圧-SOC特性と、負極層3の体積-SOC特性である。なお、ここでの拘束圧力は、上述した可動子23や温調装置24による制御を行わず、バネ22の弾性力のみで生じる拘束圧力である。また、負極層3の体積は、負極層3の厚みに置き換えてもよい。
【0058】
基準データは、実験などにより予め作成して、バッテリコントローラ11に記憶させておく。
【0059】
まず、全固体二次電池1の作動中に、セル温度及び拘束圧力が第2負極層3Bでクリープ変形が生じない条件を満たしたタイミングで、そのタイミングにおけるSOC及び拘束圧力を読み込み、基準データと比較する。ここでは、SOCがX[%]、読み込んだSOC及び拘束圧力から定まる作動点をBとする。そして、基準データのSOC=Xの時の拘束圧力と作動点Bにおける拘束圧力との比較により、圧力誤差を算出する。
【0060】
次に、基準データの拘束圧力-SOC特性及び負極層3の体積-SOC特性から、SOCがX[%]のときの拘束圧力より圧力誤差の分だけ低いときの体積を算出し、これを拘束圧力の実測値から推定される体積とする(図中の点C)。
【0061】
そして、体積の推定値と基準データとを用いて実際の累積クリープ量を推定する。具体的には、SOC毎の負極層3の体積は基準データとして持っているので、体積の推定値と基準データとの差から、累積クリープ量を推定することができる。
【0062】
上記の通り推定した累積クリープを、それまでの累積クリープ量の推定値と置き換えることにより、累積クリープ量が補正される。この補正を第1の補正と称する。
【0063】
なお、第1の補正は、セル温度及び拘束圧力が第2負極層3Bでクリープ変形が生じない条件を満たす度に行ってもよいが、前回の補正から所定期間が経過し、かつセル温度及び拘束圧力が第2負極層3Bでクリープ変形が生じない条件を満たしたタイミングで実行してもよい。
【0064】
ところで、第1の補正は、セル温度及び拘束圧力が第2負極層3Bでクリープ変形が生じない条件を満たさないと実行できない。そこで、バッテリコントローラ11は、第1の補正に加えて以下に説明する第2の補正も行う。
【0065】
第2の補正は、負極層3と固体電解質層4との間の接触抵抗値に基づいて累積クリープ量を補正するものである。この第2の補正について、図19を参照して説明する。
【0066】
負極層3がクリープ変形すると、負極層3と固体電解質層4との接触面積が変化するので、接触抵抗値も変化する。そこで、バッテリコントローラ11は、まず現在の累積クリープ量の推定値に基づいて負極層3と固体電解質層4との接触面積を推定する。接触面積は、例えば、基準データとして有している現在のSOCにおける負極層3の体積と、累積クリープ量とを用いて推定する。そして、接触面積の推定値から接触抵抗値を推定する。接触面積と接触抵抗値との関係は、予め実験等により求めて、バッテリコントローラ11に記憶しておく。
【0067】
次に、バッテリコントローラ11は、実際の接触抵抗値を算出する。これは、例えば図示しないインピーダンス測定装置を用いて交流インピーダンスを測定し、電気化学インピーダンス分光法(EIS法)を用いて測定結果を解析することで、反応抵抗や電解質抵抗との切り分けを行うことで算出できる。なお、接触抵抗値と周波数帯との関係を予め調べておけば、EIS法を用いなくても算出可能である。
【0068】
算出された接触抵抗値が図19の実測値1であった場合、つまり累積クリープ量に基づく推定値が、実際の接触抵抗値より低い場合は、負極層3と固体電解質層4との実際の接触面積が、累積クリープ量から推定した接触面積より大きいことを意味する。換言すると、累積クリープ量の推定値より実際の累積クリープ量の方が大きいことを意味する。そこで、実測値1と推定値との差に応じて累積クリープ量を増量補正する。具体的には、例えば、図19の接触抵抗-接触面積特性を用いて、接触面積を推定値のときの値から実測値1のときの値に補正する。そして、そのときのSOCにおける負極層3の体積と補正後の接触面積とから累積クリープ量を算出し、算出結果を新たな累積クリープ量の推定値とする。
【0069】
一方、算出された接触抵抗値が図19の実測値2であった場合、つまり累積クリープ量に基づく推定値が、実際の接触抵抗値より高い場合は、累積クリープ量の推定値より実際の累積クリープ量の方が小さいことを意味する。そこで、実測値2と推定値との差に応じて累積クリープ量を減量補正する。減量補正の方法は、増量補正の場合と同様である。
【0070】
上記の第1の補正及び第2の補正の他に、バッテリコントローラ11は累積クリープ量の推定値のリセットを行う。具体的には、例えば全固体二次電池1を整備工場等に備え付けられた充放電装置に接続し、充放電装置によってSOCがゼロ[%]になるまで放電し、その後にSOCが100[%]になるまで充電する。SOCがゼロ[%]になるまで放電することで負極層3がない状態になり、その後にSOCが100[%]になるまで充電することで負極層3はクリープ変形していない状態に戻る。そして、このSOCが100[%]になったら、累積クリープ量の推定値をゼロにリセットする。これにより、累積クリープ量の推定値の誤差を一旦ゼロに戻すことができる。このリセット作業は、定期的または不定期的に整備工場等において行う。
【0071】
バッテリコントローラ11は、上述した算出方法及び補正方法により得られた累積クリープ量が限界クリープ量を超えないように、拘束圧力を制御する。すなわち、セル温度が高くなるほどクリープ変形が進み易いので、セル温度が高くのなるほど拘束圧力を低下させる。反対に、セル温度が低くなるほどクリープ変形が進み難くなるので、セル温度が低くなるほど拘束圧力を上昇させる。また、バッテリコントローラ11は、拘束圧力の大きさだけでなく、拘束圧力の印加する時間も制御する。
【0072】
図20は、上述した拘束圧力の制御を行う場合のタイミングチャートである。図21は、比較例としての、拘束圧力の制御を行わない場合(つまり拘束圧力が一定の場合)のタイミングチャートである。図20図21とで、セル温度の変化の履歴は同じである。
【0073】
本実施形態では、図20に示す通り、タイミングゼロからタイミングT1まではセル温度が上昇するので、クリープ量の増大を抑制するため拘束圧力を低下させる。
【0074】
タイミングT1からタイミングT2まではセル温度が低下するのでクリープ量は増大し難い。そこで、各層の接触状態を向上させるため拘束圧力を上昇させる。ただし、累積クリープ量の増加速度が過剰にならない程度、例えばタイミングゼロからタイミングT1における増加速度と同じになる程度の上昇量とする。
【0075】
タイミングT2からタイミングT3までと、タイミングT3からタイミングT4までは、セル温度が上昇するので、クリープ量の増大を抑制するため拘束圧力を低下させる。このとき、クリープ量の増加速度が、例えばタイミングゼロからタイミングT1における増加速度と同じになる程度の低下量とする。なお、図17で説明した通りSOCが大きいほどクリープ変形量は大きくなるという特性があるので、拘束圧力を制御する際にはSOCも考慮する。例えば、SOCが相対的に大きい場合には、相対的に小さい場合よりも、拘束圧力の上昇度合いを小さくする。
【0076】
このように拘束圧力を制御することによって、接触状態を維持しつつ累積クリープ量の増大は抑制されるので、タイミングT4においても累積クリープ量は限界クリープよりも小さい。
【0077】
なお、例えば、累積クリープ量の推定値が限界クリープ量に近い場合には、累積クリープ量の増加速度をより低下させるために、セル温度が上昇している最中の拘束圧力を上昇させる時間を短くしてもよい。つまり、セル温度が上昇している最中に、拘束圧力の上昇を止めてもよい。
【0078】
これに対し拘束圧力を制御しない比較例では、図22に示す通り、セル温度が上昇するタイミングゼロからタイミングT1、タイミングT2からタイミングT3、及びタイミングT3からタイミングT4における累積クリープ量の増加速度が、本実施形態に比べて大きい。このため、タイミングT4において累積クリープ量が限界クリープ量に達してしまう。
【0079】
すなわち、本実施形態の拘束圧力の制御によれば、累積クリープ量の増大が抑制されるので、クリープ変形に起因する短絡の発生を防止できる。
【0080】
なお、本実施形態では拘束圧力の調整範囲を制限していないが、第2負極層3Bに発生する応力が第2負極層3Bのクリープ応力を超えない範囲で拘束圧力を制御するようにしてもよい。これによれば、負極層3の外縁に位置する第2負極層3Bがクリープ変形しないので、負極層3全体としてのクリープ変形をより抑制することができる。
【0081】
以上のように本実施形態では、負極集電体2の表面に形成された負極層3と、正極集電体6の表面に形成された正極層5と、負極層3と正極層5との間に介在する固体電解質層4と、からなる発電要素12が少なくとも1つ以上積層された電池セル13と、電池セル13に対して積層方向の拘束圧力を加える拘束装置20と、を有する全固体二次電池1が提供される。負極層3は、金属リチウムまたはリチウム合金を材料とする第1負極層3Aと、平面視で第1負極層3Aの外縁部に形成され、全固体二次電池1の作動中の温度下における拘束圧力に対するクリープ応力特性が第1負極層3Aより高いリチウム合金を材料とする第2負極層3Bとからなる。このように負極層3の外縁部にクリープ応力特性が高い部分を設けることで、負極層3全体としてのクリープ変形を抑制し、クリープ変形に起因する負極層3のエッジ部での短絡を防止できる。
【0082】
本実施形態では、第2負極層3Bは、リチウムの溶解及び析出による体積変化率が第1負極層3Aと同等になる組成比のリチウム合金で構成される。これにより、リチウムの移動により体積変化した場合でも、負極層3全体に均一に拘束圧力を印加することができる。
【0083】
本実施形態の全固体二次電池システムでは、拘束装置20は、負極層3の積層方向の寸法の変化に応じて拘束圧力が変化する第1拘束機構としてのバネ22と、拘束圧力を任意に調整可能な第2拘束機構としての可動子23または温調装置24と、を備える。これにより、拘束圧力の調整幅が広がり、セル温度に応じた拘束圧力の制御が可能となる。
【0084】
本実施形態の全固体二次電池システムは、拘束装置20を制御する制御部としてのバッテリコントローラ11と、電池セル13の温度であるセル温度を検出する温度検出装置としての温度センサ10と、を備える。そして、バッテリコントローラ11が、セル温度と第2負極層3Bのクリープ特性と拘束圧力とに基づいて第2負極層3Bの累積クリープ量を推定し、拘束装置20を制御することにより累積クリープ量を発電要素12のエッジ部分での短絡が生じない累積クリープ量である限界クリープ量より小さくする。このように第2負極層3Bの累積クリープ量を制御することにより、上述したエッジ部における短絡の発生を抑制できる。
【0085】
本実施形態では、バッテリコントローラ11がセル温度とSOC(残充電量)とに応じて、拘束圧力と拘束圧力を加える時間である拘束時間とを制御する。SOCが異なれば同じ拘束圧力の大きさ及び拘束時間が同じであってもクリープ変形量は異なるので、本実施形態のように制御することで、累積クリープ量の推定精度を向上させることができる。
【0086】
本実施形態では、バッテリコントローラ11は、クリープが発生しない条件をセル温度及び拘束圧力が満たすときに、そのときの全固体二次電池1のSOC及び拘束圧力に基づいてクリープ量を算出し、算出したクリープ量を累積クリープ量に置き換える第1の補正を行う。これにより、累積クリープ量の推定精度を向上させることができる。
【0087】
本実施形態では、バッテリコントローラ11は、負極層3と固体電解質層4との接触抵抗値を検出する機能を備え、累積クリープ量から推定した接触抵抗値と検出した接触抵抗値との差に基づいて累積クリープ量を補正する第2の補正を行う。これにより、これにより、累積クリープ量の推定精度を向上させることができる。
【0088】
本実施形態では、バッテリコントローラ11は、定期的または不定期的に全固体二次電池1のSOCがゼロになるまで放電を行い、累積クリープ量の推定値をリセットする。これにより、定期的または不定期的に累積クリープ量の推定誤差を排除することができ、累積クリープ量の推定精度を向上させることができる。
【0089】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について図22を参照して説明する。
【0090】
本実施形態にかかる全固体二次電池1の構成と、累積クリープ量の推定、補正及びリセットは第1実施形態と同様である。しかし、第1実施形態では拘束圧力の調整範囲を定めていないのに対し、本実施形態では、当該調整範囲を制限する。以下、本実施形態の拘束圧力の調整範囲について説明する。
【0091】
図22は、本実施形態における拘束圧力の調整範囲を示す図である。
【0092】
図中の斜線を付した領域、つまり第1負極層3Aのクリープ応力より大きく、かつ第2負極層3Bのクリープ応力より小さい領域が、本実施形態における拘束圧力の調整範囲である。この範囲で拘束圧力を調整することで、第1負極層3Aは常にクリープ応力下にあるためクリープ変形し、このクリープ変形が第1負極層3Aと固体電解質層4との接触状態の向上に寄与する。一方、第2負極層3Bは、常にクリープ応力より小さい応力下にあるためクリープ変形しない。第2負極層3Bは負極層3の外縁に位置するので、負極層3全体の面方向へのクリープ変形を抑制できる。
【0093】
上記の通り本実施形態では、バッテリコントローラ11は、拘束圧力を第1負極層3Aがクリープ変形を起こす範囲で制御する。より詳細には、第1負極層3Aがクリープ変形を起こし、かつ第2負極層3Bがクリープ変形を起こさない範囲で制御する。これにより、負極層3と固体電解質層4との接触状態を良好に保ちつつ、クリープ変形に起因する発電要素12のエッジ部での短絡を防止できる。
【0094】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について図23図24を参照して説明する。
【0095】
本実施形態にかかる全固体二次電池1の構成と、累積クリープ量の推定、補正及びリセットは第1実施形態及び第2実施形態と同様である。しかし、拘束圧力の制御及び拘束装置20の構成が第1実施形態及び第2実施形態とは異なる。
【0096】
図23は、図11と同様に発電要素12の断面を表した図である。図中の矢印P1、P2は、それぞれ第1負極層3Aに印加する拘束圧力と第2負極層3Bに印加する荷重を示す。図24は、本実施形態の拘束装置20が備えるエンドプレート21を表した図である。
【0097】
本実施形態では、第1負極層3Aと第2負極層3Bに、それぞれ異なる大きさの拘束圧力を印加する。このため、拘束装置20のエンドプレート21は、積層方向から見たときに負極集電体2の第1負極層3Aと重なる領域と接触する第1部材21Aと、同じく第2負極層3Bと重なる領域と接触する第2部材21Bと、を備える。第1部材21Aと第2部材21Bはそれぞれ独立した部材である。そして、拘束装置20は、第1部材21Aと第2部材21Bがそれぞれ別の第1拘束機構及び第2拘束機構により作動する構成となっている。
【0098】
バッテリコントローラ11は、第1負極層3Aに印加する拘束圧力を、第1負極層3Aに生じる応力が第1負極層3Aのクリープ応力より大きくなる範囲で制御する。また、バッテリコントローラ11は、第2負極層3Bに印加する拘束圧力を、第2負極層3Bに生じる応力が第2負極層3Bのクリープ応力より小さくなる範囲で制御する。なお、印加する拘束圧力は、上記の通り第2負極層3Bの方が第1負極層3Aより大きいが、印加する荷重の大きさは図23の矢印で示す通り、第1負極層3Aの方が第2負極層3Bより大きくなる。これは、第1負極層3Aの方が第2負極層3Bより面積が大きいためである。
【0099】
上記の範囲で拘束圧力を制御すると、第1負極層3Aはクリープ変形し、第2負極層3Bはクリープ変形しない。これにより、相対的に固体電解質層4との接触面積が大きい第1負極層3Aをクリープ変形させることで負極層3と固体電解質層4との接触状態を良好に保ちつつ、外縁にある第2負極層3Bをクリープ変形させないことで負極層3全体としてのクリープ変形を抑制して短絡を防止できる。
【0100】
以上の通り本実施形態では、バッテリコントローラ11は、第2負極層3Bに加える拘束圧力を第2負極層3Bのクリープ応力より小さく、かつ第1負極層3Aに加える拘束圧力を第1負極層3Aのクリープ応力以上に制御する。これにより、負極層3と固体電解質層4との接触状態を良好に保ちつつ、クリープ変形に起因する発電要素12のエッジ部での短絡を防止できる。
【0101】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0102】
1 全固体二次電池
2 負極集電体
3 負極層
3A 第1負極層
3B 第2負極層
4 固体電解質層
5 正極層
6 正極集電体
10 温度センサ
11 バッテリコントローラ
12 発電要素
13 電池セル
21 エンドプレート
22 バネ
23 可動子
24 温調装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24