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特許7523311スリーブキット及びこれを用いた長尺体貫通部施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】スリーブキット及びこれを用いた長尺体貫通部施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20240719BHJP
   F16L 5/04 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
E04B1/94 D
F16L5/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020172576
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022064067
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】坂本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】砂金 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松井 昭博
(72)【発明者】
【氏名】横山 健志
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-312599(JP,A)
【文献】特開2019-148277(JP,A)
【文献】実開平04-073681(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
F16L 5/02-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺体が貫通する、建築物が有する貫通穴に配置される不燃性の筒状体であって、前記貫通穴への配置時に、前記貫通穴から軸方向に飛び出る突出領域を有するスリーブと、
前記スリーブに取り付けられるシート状体であって、前記突出領域の径外面に取り付けられるスリーブ対応領域、及び、前記スリーブ対応領域に対して前記軸方向で隣接し、加熱により膨張する熱膨張材を有する巻回部と、
加熱された前記熱膨張材の径外方向への膨張を抑制する膨張規制部と、を備え
前記熱膨張材は、前記スリーブに取り付けられた際に、少なくとも前記スリーブの径外に重ならない位置に配置されるスリーブキット。
【請求項2】
前記巻回部は、前記軸方向で前記熱膨張材に対して、前記スリーブ対応領域とは反対側に隣接した長尺体対応領域であって、前記長尺体に取り付けられる長尺体対応領域を備え、
前記長尺体対応領域が前記膨張規制部を兼ねる、請求項1に記載のスリーブキット。
【請求項3】
前記巻回部のうち、前記スリーブに取り付けられた状態での径内面の少なくとも一部が粘着性を有する面である、請求項1または2に記載のスリーブキット。
【請求項4】
前記巻回部の径外に巻回される外巻部を備え、
前記外巻部が前記膨張規制部を兼ねる、請求項1~3のいずれかに記載のスリーブキット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のスリーブキットを用いた長尺体貫通部施工方法であって、
前記スリーブを、前記突出領域が前記貫通穴から露出するように前記貫通穴に挿入する挿入工程と、
前記スリーブの前記突出領域と前記貫通穴に通された前記長尺体とに亘って前記巻回部を取り付ける巻回工程と、を実施する長尺体貫通部施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管等の長尺体が貫通する、建築物が有する貫通穴に配置されるスリーブキット及びこれを用いた長尺体貫通部施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建築物が有する貫通穴に配置されるスリーブが記載されている。特許文献1では、このスリーブを使用して耐火区画構造を形成している。このスリーブを使用した工法では、特許文献1の図7に示されたように、スリーブと配管の隙間を防火区画充填材で塞ぐことになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第2604426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、配管の通ったスリーブ内に防火区画充填材を配置する作業を行うことは、作業者の負担が大きくなる問題点があった。
【0005】
そこで本発明は、作業効率を向上できる、スリーブキット及びこれを用いた長尺体貫通部施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、長尺体が貫通する、建築物が有する貫通穴に配置される不燃性の筒状体であって、前記貫通穴への配置時に、前記貫通穴から軸方向に飛び出る突出領域を有するスリーブと、前記スリーブに取り付けられるシート状体であって、前記突出領域の径外面に取り付けられるスリーブ対応領域、及び、前記スリーブ対応領域に対して前記軸方向で隣接し、前記スリーブに取り付けられた際に前記スリーブから離れた位置に配置され、加熱により膨張する熱膨張材を有する巻回部と、加熱された前記熱膨張材の径外方向への膨張を抑制する膨張規制部と、を備えるスリーブキットである。
【0007】
また本発明は、前記スリーブキットを用いた長尺体貫通部施工方法であって、前記スリーブを、前記突出領域が前記貫通穴から露出するように前記貫通穴に挿入する挿入工程と、前記スリーブの前記突出領域と前記貫通穴に通された前記長尺体とに亘って前記巻回部を取り付ける巻回工程と、を実施する長尺体貫通部施工方法である。
【0008】
前記構成によれば、耐火作用を発揮する熱膨張材を有する巻回部が、スリーブにおける突出領域の径外面に取り付けられるので、スリーブの径内部分に対する作業が不要である。
【0009】
また、前記巻回部は、前記軸方向で前記熱膨張材に対して、前記スリーブ対応領域とは反対側に隣接しており、前記長尺体に取り付けられる長尺体対応領域を備え、前記長尺体対応領域が前記膨張規制部を兼ねることもできる。
【0010】
この構成によれば、スリーブキットの構成点数を少なくできる。
【0011】
また、前記巻回部のうち、前記スリーブに取り付けられた状態での径内面が粘着性を有する面であることもできる。
【0012】
この構成によれば、粘着力を利用できるので、スリーブへの巻回部の取り付けを簡単にできる。
【0013】
また、前記巻回部の径外に巻回される外巻部を備え、前記外巻部が前記膨張規制部を兼ねることもできる。
【0014】
この構成によれば、外巻部により熱膨張材の径外方向への膨張を抑制することを確実にできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、スリーブの径内部分に対する作業が不要である。よって、作業効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るスリーブを示す斜視図である。
図2】(a)は本発明の実施形態に係る巻回部を示す平面図であり、(b)は剥離シートの一部を剥がした状態を示す平面図である。
図3】前記スリーブを貫通穴に挿入した状態を示す斜視図である。
図4】前記スリーブにおける爪部を立ち上げた状態を示す斜視図及びその丸囲み部分の拡大図である。
図5図4に示した状態のスリーブに対して巻回部を位置合わせした状態を示す側面図である。
図6】貫通穴に取り付けられたスリーブと長尺体とに亘って巻回部が取り付けられた状態を示す斜視図である。
図7図6に示した巻回部に外巻部を取り付けた状態を示す斜視図である。
図8図6に示した状態に加えて、H鋼に耐火被覆材を被覆した状態を示す、下方から見た斜視図である。
図9】(a)は前記実施形態に係る固定部の形状を示す平面図であり、(b)は前記スリーブの展開図である。
図10】(a)(b)(c)の各々は、他の実施形態に係る固定部の形状を示す平面図である。
図11】(a)は、他の実施形態に係るスリーブを示す斜視図であり、(b)は(a)に示されたスリーブの展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明につき、実施形態を取り上げて説明を行う。なお、以下の説明における「軸方向」とは、貫通穴Hに貫通する長尺体Lの貫通方向、すなわち、長尺体Lの長手方向に沿う方向である。この軸方向は、スリーブ2の貫通方向にも沿う方向である。また、「周方向」は軸方向に直交する方向で、かつ、貫通穴Hの有する空間を取り巻く方向である。
【0018】
本実施形態のスリーブキット1は、図7に示すように、建築物が有する貫通穴Hに適用されて貫通構造を形成する。貫通穴Hは、例えば、建築物の梁を構成するH鋼のウェブ部を貫通して設けられている。この貫通穴Hには長尺体Lが貫通する。長尺体Lは、例えば、給排水配管や電気配線である。長尺体Lが配管である場合、通水時の騒音を低減するため、遮音カバーを巻回した状態とすることもできる。ひとつの貫通穴Hを貫通する長尺体Lは1本であってもよいし、複数本であってもよい。貫通穴Hは一般的には真円形状であるが、長円形状や多角形状とすることもできる。
【0019】
本実施形態のスリーブキット1は、少なくとも、スリーブ2、巻回部3、膨張規制部4を備える。スリーブ2は、建築物の貫通穴Hに配置される不燃性の筒状体である。このスリーブ2は、例えば図1及び図9(b)に示すように、鋼板等の不燃性の板状体が筒状に巻かれることで形成されている。本実施形態では、貫通穴Hが真円形状であるため、不燃性の板状体が一定曲率で巻かれている。スリーブ2は周方向の端部21,21間に切れ目を有しており、貫通穴Hに既に長尺体Lが貫通していても、この切れ目を通してスリーブ2の内部に長尺体Lを位置させることができる。そして、スリーブ2が貫通穴Hに通される際には、図3に示すように、周方向の端部21,21同士を重なり合わせることで径寸法を縮小でき、貫通穴Hに通された後にはスリーブ2が有する復元力により径寸法が拡大することで、貫通穴Hの周縁にスリーブ2を当接させられる。
【0020】
スリーブ2は、軸方向の中央に固定部22を有する。固定部22は、本実施形態では、平面視形状が図9(a)に示す形状であって、図4に示すように、スリーブ2の本体に対して立ち上げることで、貫通穴Hの穴径よりも径外位置に配置させることのできる爪部221を有している。本実施形態の固定部22は、2個の爪部221,221が1組とされて構成され、図1に示すように、径方向で略対向する2組がスリーブ2に設けられている。2個の爪部221,221の各々は、周方向に異なる方向に延びており、軸方向には、例えばH鋼のウェブ部の厚みよりも若干大きい距離をおいて設けられている。各爪部221は、スリーブ2が貫通穴Hに通され、固定部22がH鋼のウェブ部に一致した状態となった後に、スリーブ2の本体に対して立ち上げられる。立ち上げることで、例えばH鋼のウェブ部に各爪部221が当接することにより、スリーブ2が軸方向にずれたり、スリーブ2が貫通穴Hに対して傾いたりすることを防止する。
【0021】
スリーブ2は、貫通穴Hへの配置時に、この貫通穴Hから軸方向に飛び出る突出領域23を有する。スリーブ2は、軸方向で貫通穴Hの手前側と奥側とで2か所の突出領域23,23を有し、各突出領域23は同一の寸法とされている。ただし、各突出領域23は異なる寸法とされていてもよい。各突出領域23の具体的寸法は特に限定されないが、後述する巻回部3が有する粘着面の取り付けが十分になされる程度に粘着力が作用するだけの寸法が必要である。
【0022】
巻回部3は、スリーブ2に取り付けられるシート状体である。巻回部3は、例えば基材部分がブチルゴムから形成されていて、柔軟性を有しており、スリーブ2における、湾曲した突出領域23に接するようにして取り付けることができる。本実施形態の巻回部3は、軸方向寸法に比べて周方向寸法が大きい形状である。巻回部3は、図2(a)(b)に示すような、平面視で長方形状であってもよいし、例えばテープ状であってスリーブ2に取り付けられる前の状態でロール状とされていて、現場で作業者が適当な長さにカットして使用するよう構成されていてもよい。
【0023】
巻回部3の、取り付け時に径内側となる面の平面図を図2(a)(b)に示す。図示のように、1枚の巻回部3が、取り付け時の軸方向(短手方向)で3つの部分(領域)に分かれている。取り付け時における貫通穴Hから近い側から遠い側に向かい、スリーブ対応領域31、熱膨張材32、長尺体対応領域33が隣接して設けられている。巻回部3は、1枚のシート状体の表面に帯状とされた熱膨張材32が貼付されて構成されている。この熱膨張材32により、1枚のシート状体が二つの領域に分断されていて、熱膨張材32の一方側に隣接するのがスリーブ対応領域31であり、他方側に隣接するのが長尺体対応領域33である。
【0024】
スリーブ対応領域31は、スリーブ2における突出領域23の径外面に取り付けられる。熱膨張材32は、スリーブ2に取り付けられた際にスリーブ2から離れた位置(スリーブ2の径外に重ならない位置)に配置される。熱膨張材32は、貫通穴Hが属する建築物に火災が発生した際、炎による加熱により膨張するもので、組成自体は公知である。長尺体対応領域33は、長尺体Lに取り付けられる
【0025】
熱膨張材32は、スリーブ対応領域31及び長尺体対応領域33よりも、巻回部3の厚さ方向で突出する。このため、特にスリーブ対応領域31と熱膨張材32との間に段差34が存在する。よって、図5に示すように、この段差34をスリーブ2の軸方向端縁に合わせることで、スリーブ2に対する熱膨張材32の、軸方向での位置決めが可能である。
【0026】
巻回部3のうち、スリーブ2に取り付けられた状態での径内面が粘着性を有する面とされている。巻回部3において、少なくとも、スリーブ対応領域31と長尺体対応領域33とが粘着性を有している。粘着性は、少なくとも、スリーブ2に巻回部3が取り付けられた状態を保つことができる程度とされている。また、後述する外巻部5を用いない場合、粘着性は、少なくとも、長尺体Lに巻回部3が取り付けられた状態を保つことができる程度とされている。各領域31,33は剥離シート35に覆われていて、図2(b)に示すように、剥離シート35はスリーブ2に取り付ける際に巻回部3から除去される。また、熱膨張材32がそれ自体で粘着性を有していてもよい。このような粘着性を有する構成により、図6に示すように、巻回部3をスリーブ2に取り付ける際に、スリーブ対応領域31をスリーブ2の突出領域23に貼付できる。また、長尺体対応領域33を長尺体Lに貼付できる。巻回部3の取り付けに粘着力を利用できるので、スリーブ2への巻回部3の取り付けを簡単にできる。
【0027】
膨張規制部4は、加熱された熱膨張材32の径外方向への膨張を抑制する部分である。本実施形態の膨張規制部4は、巻回部3において粘着性を有するスリーブ対応領域31及び長尺体対応領域33と外巻部5とが兼ねている。熱膨張材32の膨張方向の規制は、スリーブ対応領域31のスリーブ2に対する粘着力、及び、長尺体対応領域33の長尺体Lに対する粘着力により発揮される。また、外巻部5が、巻回部3(具体的には長尺体対応領域33)を一定の径寸法に保持する保持力により発揮される。このように膨張規制部4を他部材と兼用することで、スリーブキット1の構成点数を少なくできる。
【0028】
ここで外巻部5は、図7に示すように、巻回部3の径外に巻回される部分である。本実施形態の外巻部5としては公知の結束バンドが用いられており、長尺体Lに貼付した巻回部3における長尺体対応領域33の径外位置に、長尺体対応領域33に接するよう一定の径寸法で固定される。外巻部5は結束バンドに限定されず、針金や紐状体であってよい。また、外巻部5は不燃材で構成されていてもよいし、可燃材で構成されていてもよい。本実施形態の外巻部5は、粘着により長尺体Lに貼付されている巻回部3における長尺体対応領域33を、長尺体Lから剥がれないように径外方向からバックアップしている。なお、外巻部5を設けることは必須ではなく、設けないこともできる。
【0029】
熱膨張材32は加熱されると全方向に膨張しようとするが、膨張規制部4により、熱膨張材32自体が径外方向へ移動してしまうことや、熱膨張材32の径外方向への膨張が抑えられる。このため、熱膨張材32はもっぱら径内方向に膨張することになるため、建築物が有する貫通穴Hが膨張した熱膨張材32(本実施形態では、熱膨張材と火災後に残った長尺体(配管)L)により閉じられ、貫通穴Hを炎及び熱気が通り抜けることが阻止される。これにより耐火作用が発揮される。特に、外巻部5を設けることにより、熱膨張材32の径外方向への膨張を抑制することを確実にできる。
【0030】
以上、本実施形態のスリーブキット1では、耐火作用を発揮する熱膨張材32を有する巻回部3が、スリーブ2における突出領域23の径外面に取り付けられ、スリーブ2の径内部分に対する作業(現場作業)が不要である。このため、従来に比べて作業効率を向上できる。
【0031】
次に、以上のように構成されたスリーブキット1を用いた長尺体貫通部施工方法について説明する。なお、長尺体L(本実施形態では1本の配管であって遮音カバーが巻かれた状態)は、既に貫通穴Hを貫通して設けられている。
【0032】
まず、図3に示すように、スリーブ2を、突出領域23が貫通穴Hから露出するように貫通穴Hに挿入する挿入工程を実施する。スリーブ2の周方向の端部21,21間に有する切れ目を通してスリーブ2の内部に長尺体Lを位置させた上で、貫通穴Hに対してスリーブ2を縮径して挿入し、所定位置まで挿入したら作業者がスリーブ2を持つ手を緩める、そうするとスリーブ2の有する復元力により拡径が生じるため、貫通穴Hに対してスリーブ2を径方向で不動とできる。挿入に当たっては、スリーブ2の爪部221を少し立ち上げた状態にしておく。そうすることにより、スリーブ2を貫通穴Hに挿入する途中で引っ掛かりが生じるため、固定部22がH鋼のウェブ部に一致するよう、スリーブ2を軸方向で位置決めすることが容易である。次に、図4に示すように、爪部221を大きく立ち上げることで、貫通穴Hに対し、スリーブ2が軸方向で固定される。
【0033】
次に、スリーブ2の突出領域23と長尺体Lとに亘って巻回部3を取り付ける巻回工程を実施する。この際、図5に示すように、巻回部3のスリーブ対応領域31と熱膨張材32との間に存在する段差34をスリーブ2の軸方向端縁に合わせることで、スリーブ2に対して熱膨張材32を定位置に配置しやすくなる。また、熱膨張材32をスリーブ2及び長尺体Lの軸方向に対して直交する方向に(軸方向に大きくずれることなく)巻回できる。巻回後の状態は図6に示す状態である。スリーブ2と長尺体Lとは外径寸法が異なっているが、巻回部3は柔軟性を有しているため、外径寸法の差を吸収しつつ、スリーブ2と長尺体Lの両方に取り付けることが可能である。
【0034】
次に、巻回部3の長尺体対応領域33の径外面に接するように外巻部5を巻き付ける。なお、外巻部5として、端部を引っ張るだけで固定ができるタイプの結束バンドを用いることで、外巻部5を巻き付ける作業を容易に行える。その後、図8に示すように、H鋼を耐火被覆材6で被覆する。なお、H鋼に加えて、耐火被覆材6がスリーブキット1も被覆してよい。これで長尺体貫通部施工方法は完了する。前記説明は、H鋼のウェブ部を基準として軸方向の一方側の施工についてであったが、軸方向の他方側も同じ要領で施工する。
【0035】
本実施形態の長尺体貫通部施工方法では、図3に示すように、スリーブ2を貫通穴Hに通した後は、スリーブ2の径外に巻回部3と外巻部5とを配置するだけでよく、スリーブ2の径内部分には何も挿入する必要がない。このため、例えば特許文献1に記載の施工方法で必要であった、スリーブ2と長尺体Lとの隙間を防火区画充填材で塞ぐ工程を実施せずに耐火作用を発揮させることが可能であるから、作業者の負担を軽減できる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0037】
例えば、前記実施形態では、スリーブ2における固定部22を構成する爪部221は、特定の大きさを有するH鋼のウェブ部の厚さ寸法に応じて形成位置が設定されていた。しかしこれに限られず、複数種のH鋼の各ウェブ部の厚さ寸法に応じて爪部221の形成位置を設定した、複数種の固定部22を一つのスリーブ2に設けておき、複数種の固定部22のうち一種を選択して使用できるよう構成されていてもよい。この構成の一例を図11(a)(b)に示す。この例のスリーブ2では、前記実施形態に係る固定部22が2個設けられていると共に、軸方向寸法を拡大した固定部22bが2個設けられている。形状の異なる固定部22,22bは周方向に交互に設けられている。
【0038】
固定部22は、例えば図10(a)に示す固定部22aのように、前記実施形態に係る固定部22に比べて周方向寸法が拡大されたものとすることができる。また、図10(b)、図11(a)(b)に示す固定部22bのように、前記実施形態に係る固定部22に比べて軸方向寸法が拡大されたものとすることができる。また、図10(c)に示す固定部22cのように、前記実施形態に係る固定部22に比べて周方向寸法及び軸方向寸法が拡大されたものとすることができる。図10(a)~(c)に示す形態では、各爪部221の大きさを一定としているが、各爪部221の大きさを変更することも可能である。
【0039】
また、前記実施形態では、巻回部3は、スリーブ対応領域31、熱膨張材32、長尺体対応領域33の3領域を有していた。しかしこれに限られず、巻回部3がスリーブ対応領域31と熱膨張材32の2領域のみを有していてもよい。
【0040】
また、前記実施形態では、熱膨張材32はスリーブ2に径方向で重ならないように配置されていた。しかし、熱膨張材32の一部がスリーブ2に径方向で重なっていてもよい。
【0041】
また、前記実施形態では、建築物の梁を構成するH鋼に設けられた貫通穴Hを施工の対象としていた。しかしこれに限定されず、建築物の壁や床に設けられた貫通穴を施工の対象としてもよい。また、建築物の梁であってもH鋼以外の構造物に設けられた貫通穴を施工の対象としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 スリーブキット
2 スリーブ
21 端部
22 固定部
221 爪部
23 突出領域
3 巻回部
31 スリーブ対応領域
32 熱膨張材
33 長尺体対応領域
34 段差
35 剥離シート
4 膨張規制部
5 外巻部
6 耐火被覆材
H 貫通穴
L 長尺体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11