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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20240719BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240719BHJP
   C08K 5/21 20060101ALI20240719BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240719BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240719BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20240719BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K5/17
C08K5/21
C08K5/053
C08K5/09
C08L7/00
B60C1/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020177602
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068753
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】杉原 由季
(72)【発明者】
【氏名】大石 茂樹
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第101200527(CN,B)
【文献】国際公開第2019/089788(WO,A1)
【文献】特開2022-027843(JP,A)
【文献】特開2016-028865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00-19/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、共晶化合物と、を含むゴム組成物であって、
前記共晶化合物は、水素結合受容体を含み、
前記共晶化合物が、前記水素結合受容体と、水素結合供与体と、の混合生成物であり、
前記水素結合受容体は、イオン結合エネルギーが98kcal/mol以上であり、
前記水素結合受容体は、下記式(2):
(R )(R )(R )(R )-N -Φ ・・・ (2)
によって定義される4級アンモニウム塩であり、式(2)中のR 、R 、R 、及びR は、個々に、1個~6個の炭素原子を含むアルキル基であり、Φ はハロゲン化物イオンであることを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項2】
前記4級アンモニウム塩が、テトラメチルアンモニウムクロリドである、請求項に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記水素結合供与体が、尿素誘導体、アルキレングリコール、及びカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記共晶化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.4質量部よりも多い、請求項1~のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴムを含み、
前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、50質量部以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
更に、架橋剤と、架橋促進剤と、を含み、
前記架橋促進剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して2.7質量部より多い、請求項1~のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
タイヤ用である、請求項1~のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のゴム組成物を含むことを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物を加硫して、タイヤ等のゴム製品を製造する際、加硫時間を長くし過ぎると、過加硫によるリバージョン(加硫戻り)が生じ、ゴム製品の物性が低下する。特に、イソプレンゴム(IR)や天然ゴム(NR)等のイソプレン骨格ゴムに対して、硫黄を含む加硫系を配合してなるゴム組成物においては、過加硫によるリバージョン(加硫戻り)が生じ易い。これに対して、ゴム組成物に配合する硫黄や加硫促進剤を増量することでは、リバージョンの解決は困難である。
【0003】
一方、ゴム組成物からゴム製品を製造する過程で、加硫前にヤケ(スコーチ、早期加硫)が発生してしまうと、所望の物性を有する製品を製造し難くなるため、ゴム組成物のスコーチ安定性を十分に確保する必要がある。従って、ゴム組成物のリバージョンの抑制(耐加硫戻り性の向上)を検討するにあたっては、ゴム組成物のスコーチ安定性の確保にも十分に留意する必要がある。
これに対して、ゴム組成物の耐加硫戻り性とスコーチ安定性とを両立する技術として、例えば、下記特許文献1には、天然ゴム及び合成ゴムの内の少なくとも一種からなるゴム成分100質量部に対して、補強性充填材20~150質量部と、含窒素1,3-双極子を有する一価の官能基を含む化合物と、を配合してなるゴム組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示のゴム組成物は、耐加硫戻り性とスコーチ安定性との両立が十分とはいえず、更なる改善が求められていた。
【0004】
一方、ゴム組成物に亜鉛華を追加で配合することで、リバージョンをある程度抑制することが可能である。しかしながら、亜鉛華は、枯渇懸念材料であるため、その増量は好ましくない。
これに対して、共晶化合物を配合することで、亜鉛華を追加で配合せずとも、リバージョンを抑制することが可能である(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-70439号公報
【文献】国際公開第2019/089788号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記特許文献2に記載のように、共晶化合物を配合すると、ゴム組成物の架橋形成開始までの時間(インダクションタイム)が変化し、該架橋形成開始までの時間が短くなり過ぎると、加硫前のヤケ(スコーチ)の原因となることが分かった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、スコーチ安定性を保ちつつ(ヤケの発生を防止つつ)、加硫戻り(リバージョン)を抑制することが可能なゴム組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、スコーチ(ヤケ)や、加硫戻り(リバージョン)に起因する物性の低下を抑制したタイヤを提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、共晶化合物と、を含むゴム組成物であって、
前記共晶化合物は、水素結合受容体を含み、
前記水素結合受容体は、イオン結合エネルギーが98kcal/mol以上であることを特徴とする。
かかる本発明のゴム組成物は、スコーチ安定性を保ちつつ、加硫戻りを抑制することができる。
【0010】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記共晶化合物が、前記水素結合受容体と、水素結合供与体と、の混合生成物である。この場合、共晶化合物の合成が容易である。
【0011】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記水素結合受容体が、オニウム塩である。この場合、共晶化合物の合成、入手が容易であり、また、安価である。
【0012】
ここで、前記オニウム塩が、アンモニウム塩、スルホニウム塩、及びホスホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、共晶化合物の合成、入手がより容易であり、また、安価である。
【0013】
また、前記オニウム塩が、4級アンモニウム塩であることが更に好ましい。この場合、共晶化合物の合成、入手がより一層容易であり、また、安価である。
【0014】
本発明のゴム組成物においては、前記水素結合供与体が、尿素誘導体、アルキレングリコール、及びカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、共晶化合物の合成、入手が容易であり、また、安価である。
【0015】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記共晶化合物の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して0.4質量部よりも多い。この場合、ゴム組成物の加硫戻りを抑制する効果が大きくなる。
【0016】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記ゴム成分が、イソプレン骨格ゴムを含み、前記イソプレン骨格ゴムの含有量が、前記ゴム成分100質量部中、50質量部以上である。この場合、加硫戻りを起こし難くしつつ、イソプレン骨格ゴムの有する優れた物理特性を最大限に引き出すことができる。
【0017】
本発明のゴム組成物は、更に、架橋剤と、架橋促進剤と、を含み、前記架橋促進剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して2.7質量部より多いことが好ましい。この場合、加硫戻りを抑制しつつ、架橋密度(網目密度)の高い架橋ゴムを得ることができる。
【0018】
本発明のゴム組成物は、タイヤ用であることが好ましい。タイヤの製造においては、スコーチや加硫戻りの問題が起こり易いが、本発明のゴム組成物は、タイヤに用いても、これらの問題を抑制できる。
【0019】
また、本発明のタイヤは、上記のゴム組成物を含むことを特徴とする。かかる本発明のタイヤは、スコーチや加硫戻りに起因する物性の低下が抑制されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、スコーチ安定性を保ちつつ、加硫戻りを抑制することが可能なゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、スコーチや加硫戻りに起因する物性の低下を抑制したタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明のゴム組成物及びタイヤを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0022】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、共晶化合物と、を含む。そして、本発明のゴム組成物において、前記共晶化合物は、水素結合受容体を含み、該水素結合受容体は、イオン結合エネルギーが98kcal/mol以上であることを特徴とする。
【0023】
本発明のゴム組成物は、水素結合受容体を含む共晶化合物を含むため、加硫戻り(リバージョン)を抑制することができる。
一方、ゴム組成物の架橋形成開始までの期間(架橋反応の誘導期間)においては、イオン的な化学反応が進行し(例えば、架橋促進剤を含む場合は、架橋促進剤のイオン開裂反応が進行し)、その後、架橋反応が開始される。ここで、ゴム組成物中に、共晶化合物に含まれる水素結合受容体(イオン性化合物)が存在することで、イオン的な化学反応が促進されるものと考えられる。
これに対して、本発明のゴム組成物においては、共晶化合物に含まれる水素結合受容体(イオン性化合物)のイオン結合エネルギーが98kcal/mol以上であり、即ち、強くイオン結合しているため、共晶化合物内のカチオンとアニオンとの電離度(乖離度)が小さく、ゴム組成物中のイオン的な反応への寄与が小さい(例えば、架橋促進剤を含む場合は、架橋促進剤由来のイオン的な反応生成物の安定化への寄与が小さいため、架橋促進剤のイオン開裂反応を促進し難いものと考えられる)。そのため、本発明のゴム組成物においては、架橋形成開始までの期間におけるイオン的な化学反応の進行が遅く、その結果として、本発明のゴム組成物は、架橋形成開始までの時間が長く、スコーチ安定性に優れる。
従って、本発明のゴム組成物は、スコーチ安定性を保ちつつ(ヤケの発生を防止つつ)、加硫戻り(リバージョン)を抑制することができる。
【0024】
(ゴム成分)
本発明のゴム組成物は、ゴム成分を含み、該ゴム成分は、ジエン系ゴムを含むことが好ましい。ゴム成分中のジエン系ゴムの割合は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上がより一層好ましく、100質量%であってもよい。
【0025】
前記ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)でもよいし、合成ジエン系ゴムでもよく、また、両者を含んでもよい。前記合成ジエン系ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-イソプレンゴム(SIR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン三元共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム等が挙げられる。前記ゴム成分は、1種単独でもよいし、2種以上のブレンドでもよい。また、前記ゴム成分は、未変性のゴムでもよいし、変性されているゴムでもよい。
【0026】
前記ゴム成分は、イソプレン骨格ゴムを含むことが好ましい。ここで、イソプレン骨格ゴムとは、イソプレン単位からなるゴムであり、具体的には、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)である。該イソプレン骨格ゴムの含有量は、ゴム成分100質量部中、50質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることが更に好ましく、90質量部以上であることがより一層好ましく、100質量部であってもよい。イソプレン骨格ゴムは加硫戻りを起こし易いため、共晶化合物と併用することで加硫戻りを起こし難くしつつ、イソプレン骨格ゴムの有する優れた物理特性(耐久性能等)を最大限に引き出すことができる。
【0027】
(共晶化合物)
本発明のゴム組成物は、共晶化合物を含む。該共晶化合物は、ゴム組成物の加硫戻り(リバージョン)を抑制する作用を有する。
また、前記共晶化合物は、水素結合受容体を含む。ここで、該共晶化合物は、水素結合受容体と、水素結合供与体と、の混合生成物であることが好ましい。この場合、共晶化合物の合成が容易である。
【0028】
前記水素結合受容体は、イオン性化合物であり、イオン結合エネルギーが98kcal/mol以上である。水素結合受容体のイオン結合エネルギーが98kcal/mol未満では、ゴム組成物の架橋形成開始までの時間が短くなり、ゴム組成物のスコーチ安定性が悪化する。
なお、水素結合受容体のイオン結合エネルギーは、より適切な架橋形成開始までの時間を確保する観点から、100kcal/mol以上であることが好ましく、また、150kcal/mol以下であることが好ましい。
ここで、本発明において、水素結合受容体のイオン結合エネルギーは、GaussView5.0(Revision 5.0、米ガウシアン社製ソフトウェア、商品名)を用いて計算できる。具体的には、B3LYP/6-31Gレベルで各化学構造に対して構造最適化およびエネルギー計算を実施する。各水素結合受容体および構成要素であるカチオン部、アニオン部に関して上記手法により求めたエネルギーをそれぞれE1、E2、E3とした際に、イオン結合エネルギーEは、E=E1-E2-E3により計算できる。
【0029】
前記共晶化合物は、液状であってもよく、液状の場合は、共晶溶媒又は深共晶溶媒(DES)とも呼ばれ、室温(23℃)で液状である。共晶化合物は、使用温度において、共晶を形成していなくてよいが、冷却により2種以上の成分(共晶成分)が同時に析出して共晶を形成する。
1つ以上の実施形態では、共晶化合物は、組み合わされるそれぞれの化合物よりも低い融点を有する。結果として、共晶化合物は、2種以上の化合物を組み合わせることによって形成される組成物を含む。
いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、共晶成分は他の方法で反応又は相互作用して複合体を形成するものと考えられる。
従って、共晶化合物、又は共晶組合せ、共晶対、又は共晶錯体へのいかなる言及も、それぞれの成分よりも低い融点を生じる、組み合わされた成分間の組合せ及び反応生成物又は錯体を含む。例えば、1つ又は複数の実施形態では、有用な共晶化合物(共晶組成)を、下記式(1)によって定義することができる。
CatzY ・・・ (1)
【0030】
式(1)中、Catは陽イオンであり、Xは対アニオン(例えば、ルイス塩基)であり、Yは対アニオンと相互作用する分子(例えば、水素結合供与体)であり、zは対アニオン(例えば、ルイス塩基)と相互作用するY分子の数を指す。
Catとしては、例えば、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン等が挙げられる。
としては、例えば、ハロゲン化物イオン等が挙げられる。
Yとしては、例えば、尿素誘導体、アルキレングリコール、カルボン酸等が挙げられる。
1つ以上の実施形態では、zは深い共晶溶媒を達成する数であり、他の実施形態では、それぞれの共晶成分よりも低い融点を有する錯体を達成する数である。
【0031】
1つ以上の実施形態において、有用な共晶化合物は、酸及び塩基の組み合わせを含み、酸及び塩基は、ルイス酸及び塩基、又はブレンステッド酸及び塩基を含み得る。
1つ以上の実施形態において、有用な共晶化合物は、4級アンモニウム塩と金属ハロゲン化物(タイプI共晶化合物と呼ばれる)との組合せ、4級アンモニウム塩と金属ハロゲン化物水和物(タイプII共晶化合物と呼ばれる)との組合せ、4級アンモニウム塩と水素結合供与体(タイプIII共晶化合物と呼ばれる)との組合せ、又は金属ハロゲン化物水和物と水素結合供与体(タイプIV共晶化合物と呼ばれる)との組合せを含む。
【0032】
--水素結合受容体--
前記水素結合受容体としては、オニウム塩が好ましい。この場合、共晶化合物の合成、入手が容易であり、また、安価である。
【0033】
ここで、前記オニウム塩は、アンモニウム塩、スルホニウム塩、及びホスホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、共晶化合物の合成、入手がより容易であり、また、安価である。
【0034】
また、前記オニウム塩の中でも、4級アンモニウム塩が特に好ましい。この場合、共晶化合物の合成、入手がより一層容易であり、また、安価である。
【0035】
1つ以上の実施形態において、前記4級アンモニウム塩は、20℃で固体である。
これら又は他の実施形態では、金属ハロゲン化物及び水素結合供与体は20℃で固体である。
【0036】
1つ以上の実施形態において、有用な4級アンモニウム塩(「アンモニウム化合物」とも呼ばれ得る)は、下記式(2)によって定義することができる。
(R)(R)(R)(R)-N-Φ ・・・ (2)
【0037】
式(2)中、各R、R、R、及びRは、個々に水素又は一価の有機基であるか、或いは、R、R、R、及びRの2つが結合して二価の有機基を形成し、Φは対アニオンである。
1つ以上の実施形態では、R、R、R、及びRの少なくとも1つ、他の実施形態では、R、R、R、及びRの少なくとも2つ、更に他の実施形態では、R、R、R、及びRの少なくとも3つは、水素ではない。
【0038】
1つ以上の実施形態では、対アニオン(例えば、Φ)がハロゲン化物(X)、硝酸塩(NO )、テトラフルオロホウ酸塩(BF )、過塩素酸塩(ClO )、トリフラート(SOCF )、トリフルオロ酢酸塩(COOCF )からなる群から選択される。
1つ以上の実施形態では、Φはハロゲン化物イオン(塩化物イオン、臭化物イオン等)であり、特定の実施形態では、Φは塩化物イオンである。
【0039】
1つ以上の実施形態では、一価の有機基はヒドロカルビル基を含み、二価の有機基はヒドロカルビレン基を含む。
1つ以上の実施形態において、一価及び二価の有機基は、ヘテロ原子(例えば、酸素及び窒素、及び/又はハロゲン原子が挙げられるが、これらに限定されない)を含む。
従って、一価の有機基としては、アルコキシ基、シロキシ基、エーテル基、及びエステル基、ならびにカルボニル又はアセチル置換基が挙げられる。
1つ以上の実施形態では、ヒドロカルビル基及びヒドロカルビレン基が1個(又は適切な最小数)~約18個の炭素原子、他の実施形態では、1個~約12個の炭素原子、及び他の実施形態では、1個~約6個の炭素原子を含む。ヒドロカルビル基及びヒドロカルビレン基は、分枝状、環状、又は線状であってもよい。ヒドロカルビル基の典型的なタイプとしては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基等が挙げられる。ヒドロカルビレン基の典型的なタイプとしては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、アルキルアリーレン基等が挙げられる。
特定の実施形態では、ヒドロカルビル基が、メチル基、エチル基、ブチル基、プロピル基、オクタデシル基、フェニル基、及びベンジル基からなる群から選択される。
特定の実施形態では、ヒドロカルビル基はメチル基であり、ヒドロカルビレン基はエチレン基又はプロピレン基である。
【0040】
有用な種類のアンモニウム化合物には、第2級アンモニウム化合物、第3級アンモニウム化合物、及び第4級アンモニウム化合物が含まれる。これら又は他の実施形態では、アンモニウム化合物が塩化アンモニウム等のハロゲン化アンモニウムを含むが、これらに限定されない。
特定の実施形態では、アンモニウム化合物が第4級塩化アンモニウムである。
特定の実施形態では、R、R、R、及びRは水素であり、アンモニウム化合物は塩化アンモニウムである。
1つ以上の実施形態では、アンモニウム化合物は不斉である。
【0041】
1つ又は複数の実施形態では、アンモニウム化合物は、ヒドロキシ基を含み、下記式(3)によって定義することができる。
(R)(R)(R)-N-(R-OH)Φ ・・・ (3)
【0042】
式(3)中、各R、R、及びRは、個々に水素又は一価の有機基であり、或いは、R、R、及びRのうちの2つが結合して二価の有機基を形成し、Rは二価の有機基であり、Φは対アニオンである。
1つ以上の実施形態では、R、R、Rのうちの少なくとも1つ、他の実施形態では、R、R、Rのうちの少なくとも2つ、更に他の実施形態では、R、R、Rのうちの少なくとも3つは、水素ではない。
【0043】
式(3)によって定義されるアンモニウム化合物の例としては、トリメチル(ヒドロキシメチル)アンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0044】
1つ以上の実施形態では、アンモニウム化合物がハロゲン含有置換基を含み、下記式(4)によって定義することができる。
Φ-(R)(R)(R)-N-RX ・・・ (4)
【0045】
式(4)中、R、R、及びRはそれぞれ、水素又は一価の有機基であり、或いは、R、R、及びRの2つが結合して2価の有機基を形成する場合、Rは2価の有機基であり、Xはハロゲン原子であり、Φは対アニオンである。
1つ以上の実施形態では、R、R、Rのうちの少なくとも1つ、他の実施形態では、R、R、Rのうちの少なくとも2つ、更に他の実施形態では、R、R、Rのうちの少なくとも3つは、水素ではない。
1つ以上の実施形態において、Xは塩素である。
【0046】
式(4)によって定義されるアンモニウム化合物の例としては、トリメチル(クロロメチル)アンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0047】
前記アンモニウム塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウムクロリド、トリエチルメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、グリシジルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられ、特に、テトラメチルアンモニウムクロリドが好ましい。
【0048】
前記スルホニウム塩としては、3級スルホニウム塩が好ましい。前記スルホニウム塩の具体例としては、トリメチルスルホニウムクロリド、トリエチルスルホニウムクロリド、ジエチルメチルスルホニウムクロリド、トリメチルスルホニウムブロミド、トリエチルスルホニウムブロミド、ジエチルメチルスルホニウムブロミド等が挙げられる。
【0049】
前記ホスホニウム塩としては、4級ホスホニウム塩が好ましい。前記ホスホニウム塩の具体例としては、テトラメチルホスホニウムクロリド、テトラメチルホスホニウムブロミド、トリエチルメチルホスホニウムブロミド等が挙げられる。
【0050】
--水素結合供与体--
前記水素結合供与体(HBD化合物)としては、アミン、アミド、カルボン酸、アルコール等が挙げられるが、これらに限定されない。
1つ以上の実施形態において、水素結合供与体は、炭化水素鎖成分を含む。炭化水素鎖成分は、一実施形態では少なくとも2個、他の実施形態では少なくとも3個、他の実施形態では少なくとも5個の炭素原子を含む。また、炭化水素鎖成分は、一実施形態では30未満、他の実施形態では20未満、更に他の実施形態では10未満の炭素原子を含む。
【0051】
1つ以上の実施形態において、有用なアミンとしては、下記式(a)によって定義される化合物が挙げられる。
-(CH-R ・・・ (a)
【0052】
式(a)中、R及びRは、-NH、-NHR、又はNRであり、xは少なくとも2の整数である。
ここで、R及びRとしては、上述したような一価の有機基が挙げられ、アルキル基が好ましい。
xは、1つ以上の実施形態においては2~約10であり、他の実施形態においては約2~約8であり、更に他の実施形態においては約2~約6である。
【0053】
有用なアミンの具体例としては、脂肪族アミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、アミノエチルピペラジン、トリエチレンテトラミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、N,N’-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、ピペラジンエチレンジアミン、テトラエチレンペンタアミン、プロピレンアミン、アニリン、置換アニリン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0054】
1つ以上の実施形態において、有用なアミドとしては、下記式(b)によって定義される化合物が挙げられる。
R-CO-NH ・・・ (b)
【0055】
式(b)中、Rは、H、NH、CH又はCFである。
【0056】
有用なアミドの具体例としては、尿素、1-メチル尿素、1,1-ジメチル尿素、1,3-ジメチル尿素、チオ尿素、ベンズアミド、アセトアミド、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
1つ以上の実施形態において、有用なカルボン酸は、単官能性、二官能性、及び三官能性有機酸を含む。これらの有機酸は、アルキル酸、アリール酸、及び混合アルキル-アリール酸を含むことができる。
一官能性カルボン酸の具体例としては、脂肪族酸、フェニルプロピオン酸、フェニル酢酸、安息香酸、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
二官能性カルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、コハク酸、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
三官能性カルボン酸の具体例としては、クエン酸、トリカルバリル酸、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
アルコールの種類としては、モノオール、ジオール、及びトリオールが挙げられるが、これらに限定されない。
モノオールの具体例としては、脂肪族アルコール、フェノール、置換フェノール、及びそれらの混合物が挙げられる。
ジオールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、レゾルシノール、置換レゾルシノール、及びそれらの混合物が挙げられる。
トリオールの具体例としては、グリセロール、ベンゼントリオール、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0059】
前記水素結合供与体は、尿素誘導体、アルキレングリコール、及びカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。この場合、共晶化合物の合成、入手が容易であり、また、安価である。
【0060】
前記尿素誘導体としては、下記式(c)によって定義される化合物が挙げられる。
N-CX-NR ・・・ (c)
【0061】
式(c)中、Rは、H又は1価の有機基、XはO(酸素原子)又はS(硫黄原子)である。1価の有機基としては、ヘテロ原子を有していてもよい1価の炭化水素基が好ましい。
【0062】
尿素誘導体の具体例としては、尿素、1-メチル尿素、1,1-ジメチル尿素、1,3-ジメチル尿素、チオ尿素、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
前記アルキレングリコールとしては、炭素数2のエチレングリコール、炭素数3のプロピレングリコール、炭素数4のブチレングリコールが好ましく、エチレングリコールが特に好ましい。
【0064】
前記カルボン酸としては、フェニルプロピオン酸、フェニル酢酸、安息香酸、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、コハク酸、クエン酸、トリカルバリル酸等が好ましい。
【0065】
--金属ハロゲン化物--
金属ハロゲン化物の種類としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物及びフッ化物が挙げられるが、これらに限定されない。
1つ以上の実施形態において、これらの金属ハロゲン化物は、遷移金属ハロゲン化物を含むが、これらに限定されない。
当業者は、対応する金属ハロゲン化物水和物を容易に想像することができる。
【0066】
有用な金属ハロゲン化物の具体例としては、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
当業者は、対応する金属ハロゲン化物水和物を容易に想像することができる。
例えば、塩化アルミニウム六水和物及び塩化銅二水和物は、上記のハロゲン化物に相当する。
なお、金属ハロゲン化物は、4級アンモニウム塩と組み合わされて、タイプI共晶化合物を形成し、金属ハロゲン化物水和物は、4級アンモニウム塩と組み合わされて、タイプII共晶化合物を形成し、また、金属ハロゲン化物水和物は、水素結合供与体と組み合わされて、タイプIV共晶化合物を形成する。
【0067】
--共晶化合物の調製--
当業者は、所望の共晶化合物の共晶組成を提供するために、適切なモル比で適切な共晶原料を選択することができる。
当業者は、対の第1の化合物(例えば、ルイス塩基)と対の第2の化合物(例えば、ルイス酸)とのモル比が、選択された化合物に基づいて変化することを理解する。
共晶化合物の融点は、2つの構成成分の融点の間に存在し、モル比に応じて共晶化合物の融点が決まる。
しかしながら、第1の化合物と第2の化合物とのモル比は、それにもかかわらず、最小融点ではない第1及び第2の化合物の個々の融点に対する共晶溶媒の融点の抑制をもたらすように変化させることができる。
従って、本発明の1つ以上の実施形態の実施は、共晶点の外側のモル比で共晶溶媒を形成することを含む。
【0068】
前記共晶化合物において、共晶対の化合物、並びに第1の化合物と対の第2の化合物とのモル比は、1つ又は複数の実施形態では130℃未満の融点、他の実施形態では110℃未満の融点、他の実施形態では100℃未満の融点、他の実施形態では80℃未満の融点、他の実施形態では60℃未満の融点、他の実施形態では40℃未満の融点、更に他の実施形態では30℃未満の融点を有する混合物を生成するように選択される。
また、共晶対の化合物、並びに化合物のモル比は、これら又は他の実施形態では0℃を超える融点、他の実施形態では10℃を超える融点、他の実施形態では20℃を超える融点、他の実施形態では30℃を超える融点、更に他の実施形態では40℃を超える融点を有する混合物を生成するように選択される。
【0069】
前記共晶化合物において、共晶対の化合物、並びに第1の化合物対の第2の化合物のモル比は、1つ以上の実施形態では、所望の金属化合物を溶解する能力又は能力を有する共晶溶媒を生じるように選択され、これは溶解度又は溶解力と呼ばれ得る。
当業者に理解されるように、この溶解度は、飽和溶液が調製される場合、特定の温度及び圧力で、特定の時間にわたって、共晶溶媒の所与の質量に溶解した金属化合物の質量に基づいて定量化することができる。
前記共晶溶媒は、大気圧下、50℃で24時間にわたって、1つ以上の実施形態では100ppmを超える、他の実施形態では500ppmを超える、他の実施形態では1000ppmを超える、他の実施形態では1200ppmを超える、他の実施形態では1400ppmを超える、更に他の実施形態では1600ppmを超える酸化亜鉛の溶解度を達成するように選択され、ここで、ppmは、質量溶質対質量溶媒基準で測定される。
【0070】
1つ以上の実施形態において、前記共晶化合物は、溶媒組成物(即ち、所望の温度での液体組成物)を提供するために、適切なモル比で第1の化合物を第2の化合物と組み合わせることによって形成される。
共晶混合物は、固体状態混合又はブレンド技術を含むが、これらに限定されない種々の技術を使用することによって機械的に撹拌され得る。
一般的に言えば、前記共晶化合物を生成するための共晶混合物は、視覚的に均一な液体が形成されるまで混合されるか、又は他の方法で撹拌される。
また、前記共晶混合物は、高温で形成されてもよい。例えば、共晶化合物は、共晶混合物を一実施形態では50℃超、他の実施形態では70℃超、他の実施形態では90℃超の温度に加熱することによって形成することができる。
混合は、共晶混合物の加熱中に継続することができる。所望の混合物が形成されたら、共晶溶媒を室温に冷却することができる。
1つ以上の実施形態では、共晶混合物の冷却は、1℃/分未満の速度等の制御された速度で行うことができる。
【0071】
1つ以上の実施形態では、有用な共晶化合物を商業的に入手することができる。例えば、深共晶溶媒は、Scionix社から商品名「Ionic Liquids」で市販されている。
また、有用な共晶化合物は、米国特許公報に記載されているように一般に知られている。米国特許出願公開第2004/0097755A1及び米国特許出願公開第2011/0207633A1を、参照により本明細書に組み込む。
【0072】
前記共晶化合物においては、4級アンモニウム塩と水素結合供与体との組み合わせが好ましく、そのモル比(4級アンモニウム塩/水素結合供与体)は、1/100~10/1が好ましく、1/10~5/1がより好ましく、1/5~2/1が更に好ましく、1/5~1/1が特に好ましい。モル比(4級アンモニウム塩/水素結合供与体)が、1/100~10/1の範囲であれば、共晶化合物が効率的に生成するからである。特に、このモル比が1/100以上であれば、4級アンモニウム塩よりも融点が下がり好ましく、10/1以下であれば、水素結合供与体よりも低融点であり好ましい。この場合、4級アンモニウム塩と水素結合供与体との共晶混合物は、好ましくは50~150℃、より好ましくは70~120℃の範囲内で共晶溶媒が生成するように温度が設定される。
【0073】
前記共晶化合物の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して0.4質量部よりも多いことが好ましく、0.41質量部以上であることが更に好ましい。共晶化合物の含有量が、ゴム成分100質量部に対して0.4質量部よりも多いと、加硫戻りを抑制する効果が大きくなる。
また、前記共晶化合物の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して1.2質量部以下であることが好ましい。共晶化合物の含有量が、ゴム成分100質量部に対して1.2質量部以下であると、スコーチ安定性と耐加硫戻り性とのバランスが更に向上する。
【0074】
(架橋系)
本発明のゴム組成物は、更に、架橋剤と、架橋促進剤と、を含むことが好ましい。ゴム組成物が、架橋剤と架橋促進剤とを含む場合、架橋速度が向上して、ゴム組成物の生産性が向上し、また、架橋密度の高い架橋ゴムが得られ易い。
【0075】
--架橋剤--
前記架橋剤は、前記ゴム成分を架橋する作用を有する。該架橋剤としては、硫黄系架橋剤、過酸化物系架橋剤等が挙げられる。
【0076】
前記硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄;二硫化アミン、ポリマーポリスルフィド、硫黄オレフィン付加物、塩化硫黄、二塩化硫黄、等の含硫黄化合物;不溶性ポリマー硫黄、等が挙げられる。これらは、一種単独で又は複数種併せて用いることができる。
【0077】
前記過酸化物系架橋剤としては、ジアシルパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、パーカーボネート類、ケトンパーオキサイド類等が挙げられる。より具体的には、過安息香酸、過酸化ベンゾイル、クメンパーオキシド、ジクミルパーオキシド、1,1-ビス(1,1-ジメチルエチルペルオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルペルオキシラウレート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサネート等が好ましく挙げられる。これらは、一種単独で又は複数種併せて用いることができる。
【0078】
前記架橋剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1~15質量部、より好ましくは1~10質量部である。架橋剤の含有量を上記範囲内にすることで、伸長疲労特性等の耐久性、及び省エネルギー性を損なうことなく、優れた耐熱性が得られる。
【0079】
--架橋促進剤--
前記架橋促進剤は、架橋剤による架橋を促進する作用を有する。架橋促進剤は、ラジカルを発生させ易く、加硫戻りを起こし易いが、前記共晶化合物と併用することで、加硫戻りを起こし易いゴム組成物の架橋(加硫)を最も効率的に行うことができる。
【0080】
架橋剤として硫黄系架橋剤(加硫剤)を使用する場合は、架橋促進剤(加硫促進剤)として、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤等を使用することが好ましい。これらの中でも、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。該スルフェンアミド系加硫促進剤として、具体的には、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)等が挙げられる。
【0081】
架橋剤として過酸化物系架橋剤を使用する場合は、架橋促進剤として、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド等を使用することが好ましい。
【0082】
前記架橋促進剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して2.7質量部より多いことが好ましく、2.8質量部以上であることが更に好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。架橋促進剤の含有量が、ゴム成分100質量部に対して2.7質量部より多いと、リバーションを抑制しつつ、架橋密度(網目密度)の高い架橋ゴムを得ることができる。
【0083】
(その他の成分)
本発明のゴム組成物は、更に、熱可塑性エラストマー(TPE)等のエラストマー成分を含んでもよい。該熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)等が挙げられ、これらの中でも、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)が好ましい。
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)としては、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)ブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレン(SIS)ブロック共重合体、スチレン/ブタジエン/イソプレン/スチレン(SBIS)ブロック共重合体、スチレン/ブタジエン(SB)ブロック共重合体、スチレン/イソプレン(SI)ブロック共重合体、スチレン/ブタジエン/イソプレン(SBI)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン(SEBS)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEPS)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/エチレン/プロピレン/スチレン(SEEPS)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/ブチレン(SEB)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン(SEP)ブロック共重合体、スチレン/エチレン/エチレン/プロピレン(SEEP)ブロック共重合体等が挙げられる。
【0084】
本発明のゴム組成物には、上述したゴム成分、共晶化合物、架橋系(架橋剤、架橋促進剤)、エラストマー成分の他、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、充填剤、軟化剤、脂肪酸、老化防止剤、酸化亜鉛(亜鉛華)等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0085】
前記充填剤としては、カーボンブラック、シリカ等が挙げられる。これら充填剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記充填剤の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、10~150質量部の範囲が好ましく、20~100質量部がより好ましい。
【0086】
前記軟化剤としては、芳香油、パラフィン油、ナフテン油、ヒマシ油以外の植物油、MES、TDAE、SRAE等の低PCA油、重質ナフテン油等が挙げられる。
好適な低PCA油としては、野菜、ナッツ、種子から収穫できる種々の植物由来の油が挙げられる。
植物由来の油としては、大豆油、ヒマワリ油、ベニバナ油、トウモロコシ油、亜麻仁油、綿実油、菜種油、カシュー油、ゴマ油、カメリア油、ホホバ油、マカダミアナッツ油、ココナッツ油、パーム油等が挙げられる。
前記軟化剤の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以上であることが特に好ましく、また、35質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることが更に好ましい。
【0087】
前記脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸等が挙げられる。これらの中でも、ステアリン酸が好ましい。
前記脂肪酸の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、1~4質量部がより好ましい。
【0088】
前記老化防止剤としては、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6C)、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(AW)、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)等が挙げられる。
前記老化防止剤の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1~5質量部の範囲が好ましく、1~4質量部がより好ましい。
【0089】
前記酸化亜鉛(亜鉛華)の含有量は、特に制限はなく、前記ゴム成分100質量部に対して、1~10質量部の範囲が好ましく、2~8質量部がより好ましい。
【0090】
(その他)
本発明のゴム組成物は、例えば、バンバリーミキサーやロール等を用いて、ゴム成分に、共晶化合物と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを配合して混練した後、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0091】
本発明のゴム組成物は、タイヤを始めとする種々のゴム製品に利用できる。特には、本発明のゴム組成物は、タイヤ用のゴム組成物として好ましい。タイヤは、種々のゴム部材から構成され、各部材により、形状、厚さ等が異なるため、加硫時に均一に熱履歴を与えることが難しいため、早期加硫や加硫戻りの問題が起こり易い。これに対して、本発明のゴム組成物は、スコーチ安定性と耐加硫戻り性に優れるため、タイヤに適用しても、早期加硫や加硫戻りを抑制できる。
【0092】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上記のゴム組成物を含むことを特徴とする。かかる本発明のタイヤは、スコーチ(ヤケ)や、加硫戻り(リバージョン)に起因する物性の低下が抑制されている。
上述の通り、タイヤは、種々のゴム部材から構成され、各部材により、形状、厚さ等が異なるため、加硫時に均一に熱履歴を与えることが難しいため、早期加硫や加硫戻りの問題が起こり易いが、加硫時間を他部材と調整したい際に、スコーチ安定性と耐加硫戻り性に優れる上述の本発明のゴム組成物を好適に使用できる。
【0093】
本発明のタイヤの好ましい態様としては、ランフラットタイヤ、再生タイヤ等が挙げられる。
【0094】
ランフラットタイヤは、サイド部にサイド補強ゴムを具え、一般的なタイヤよりも、厚みが厚いため、加硫時間が長くなり易く、タイヤ表面が加硫戻り(リバージョン)を起こし易い。これに対して、上述の本発明のゴム組成物は、耐加硫戻り性に優れるため、ランフラットタイヤへの適用に好適である。
【0095】
また、再生タイヤは、使用済のタイヤからトレッドゴムを取り除き、新品のトレッドゴムを装着して、加硫したものであるが、トレッドゴムを取り除いて得られる台タイヤ(タイヤのケース部材)は、既に一旦加硫工程を経ているため、加硫戻り(リバージョン)を起こし易い。これに対して、上述の本発明のゴム組成物は、耐加硫戻り性に優れるため、台タイヤ(タイヤのケース部材)への適用にも好適である。
【0096】
本発明のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、又は予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、本発明のタイヤは、空気入りタイヤでも、ソリッドタイヤでもよいが、好ましくは空気入りタイヤである。ここで、空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例
【0097】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
<ゴム組成物の作製>
表1に示す配合処方に従い、バンバリーミキサーにて、70RPM(回転/分)で操作し、最高温度145℃にて、イソプレンゴム(IR)、老化防止剤、亜鉛華、脂肪酸、共晶化合物を混錬した(混練第1段階)。
次に、表1に示す配合処方に従い、バンバリーミキサーにて、70RPM(回転/分)で操作し、最高温度100℃にて、混練第1段階で得られた混錬物、亜鉛華、硫黄、架橋促進剤を混錬した(混練第2段階)。
その後、混練第2段階で得られた混錬物を室温(23℃)に冷却して、ゴム組成物を調製した。得られたゴム組成物に対して、下記の方法で、架橋形成開始までの時間とリバージョンの評価を行った。
【0099】
<架橋形成開始までの時間とリバージョンの評価方法>
調製した各ゴム組成物を用いて、キュラストメータ(東洋精機製「型式RLR-4 ロータレスレオメータ」)により、JIS K6300-2に準拠して、160℃における10%加硫時間{tc(10)}(単位:分)、最大トルク時間{tc(max)}(単位:分)、及び最大トルク値(Fmax)(単位:dN・m)、最小トルク値(Fmin)(単位:dN・m)、最大トルク時間+8分後におけるトルク値(Fx)(単位:dN・m)を測定した。
架橋形成開始までの時間とリバージョンは、以下のように定義した。
架橋形成開始までの時間=tc(10)
リバージョン=(Fmax-Fx)/(Fmax-Fmin)
比較例1の架橋形成開始までの時間を100として、各例の架橋形成開始までの時間を指数表示した。指数値が大きい程、架橋形成開始までの時間が長く、スコーチ安定性に優れることを示す。
また、比較例1のリバージョンを100として、各例のリバージョンを指数表示した。指数値が小さい程、リバージョン(加硫戻り)が小さく、耐加硫戻り性に優れることを示す。
【0100】
【表1】
【0101】
*1 IR: イソプレンゴム、JSR製、商品名「JSR IR2200」
*2 老化防止剤: N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(老化防止剤6C)、住友化学株式会社製、商品名「アンチゲン 6C」
*3 亜鉛華: 酸化亜鉛、ハクスイテック株式会社製、商品名「酸化亜鉛2種」
*4 脂肪酸: ステアリン酸、日油株式会社製、商品名「桐印ステアリン酸」
*5 共晶化合物1: 下記の方法で調製した水素結合受容体と水素結合供与体との混合生成物、水素結合受容体のイオン結合エネルギー=97.9kcal/mol
*6 共晶化合物2: 下記の方法で調製した水素結合受容体と水素結合供与体との混合生成物、水素結合受容体のイオン結合エネルギー=100.8kcal/mol
*7 共晶化合物3: 下記の方法で調製した水素結合受容体と水素結合供与体との混合生成物、水素結合受容体のイオン結合エネルギー=100.8kcal/mol
*8 硫黄: イーストマンMFGジャパン製、商品名「CRYSTEX HS 0T20」
*9 架橋促進剤: N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(加硫促進剤NS)、大内新興化学工業製、商品名「ノクセラーNS-P」
【0102】
<共晶化合物1~3の調製方法>
水素結合受容体と水素結合供与体を、表2に示すモル比で混合、昇温して均一な液体となったのを確認した後、室温に戻して、共晶化合物を調製した。
【0103】
【表2】
【0104】
表1の比較例1と、比較例2及び実施例1-2と、の比較から、共晶化合物を配合することで、リバーションを抑制して、ゴム組成物の耐加硫戻り性を改善できることが分かる。
また、比較例2と、実施例1-2と、の比較から、共晶化合物に使用する水素結合受容体のイオン結合エネルギーが98kcal/mol以上であることで、架橋形成開始までの時間が長くなり、ゴム組成物のスコーチ安定性が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のゴム組成物は、タイヤを始めとして、種々のゴム製品に利用できる。