(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240719BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240719BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240719BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/40
(21)【出願番号】P 2020182640
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】門田 敦志
(72)【発明者】
【氏名】岩本 友美
(72)【発明者】
【氏名】谷木 良輔
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-037341(JP,A)
【文献】特表2020-526893(JP,A)
【文献】特開平11-067208(JP,A)
【文献】特開2019-212432(JP,A)
【文献】特表2014-520370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/134
H01M 4/40
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、正極と、セパレータと、リチウム塩を含む非水電解液と、を有するリチウム二次電池において、前記負極は、集電体と、高分子膜と、前記集電体と前記高分子膜との間に、粒状のリチウム金属を含むリチウム金属層とを有し、前記リチウム金属層の80%以上が、長軸径が5~40μmの粒状のリチウム金属であることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記粒状のリチウム金属のアスペクト比が1.3以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記高分子膜がフッ素原子と、酸素原子とを含み、前記フッ素原子と、酸素原子の比率(フッ素原子数/酸素原子数)が、0.5~500であり、さらに、前記高分子膜の膜厚が、10μm未満であることを特徴とする請求項1~2のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記リチウム金属層に含まれるボイド量が総断面積の30%未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記リチウム二次電池の構成部材の積層方向に対して4.9~29.4N/cm
2の圧力が付与されることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノートパソコン等のモバイルバッテリーから自動車用バッテリーや大型の電力貯蔵用バッテリーまで広く利用されている。
【0003】
負極にリチウム金属を用いるリチウム二次電池は、リチウム金属が析出、溶解することで充放電を行う。リチウム金属は極めて卑な電位を有するため、リチウム二次電池はリチウムイオン二次電池に比べさらに高い理論容量密度を実現できると期待されている。
【0004】
リチウム二次電池は、充電時にリチウム金属が析出する。リチウム金属は、析出開始点を根として樹状に析出する(デンドライトを形成する)場合がある。樹状に析出したリチウム金属は、リチウム二次電池の放電時に溶解する。樹状に析出したリチウム金属の枝の先端部分からリチウム金属が順に溶解すれば問題はないが、根元の部分が先に溶解する場合がある。この場合、根元を失ったリチウム金属は非水電解液中に浮遊し、導通が取れなくなる。したがって非水電解液中に浮遊するリチウム金属は、導通が取れないため、以降の充放電には寄与することができない。その結果、リチウム二次電池のサイクル特性は低減する。
【0005】
また、デンドライトは比表面積が大きくなるので、リチウム金属表面における非水電解液の還元分解が促進される。その結果、サイクルに伴いリチウム金属表面に非水電解液の還元分解物が堆積されていくため、サイクル特性は低減する。
【0006】
特許文献1は、リチウムとの標準電極電位差又は起電力が1.5ボルト以下で、リチウムイオンが挿入脱離できる金属酸化物を含有する膜でリチウム金属表面を被覆することで充電時のデンドライトを抑制し、リチウムが粒状に析出することが記載されている。
【0007】
特許文献2は、高分子層とシングルイオン伝導層を含む多層構造体を含んだ高分子膜を付与した負極を用い、さらに正極、負極及び電解質を含む構造体(電池)に対して垂直な成分を有する圧力を掛けることでデンドライト生成の防止、及び電解質とリチウム金属との反応の防止をできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平08-213008号公報
【文献】国際公開第2012/174393号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の二次電池では、リチウムの析出形状を十分制御できているとは言えず、粒状とはいえ粒径が小さく比表面積が大きいため、電解液の還元分解が大きく、サイクル特性の劣化を充分に抑制できないという問題があった。また、特許文献2に記載の二次電池では、電池に掛ける圧力が少なくとも50N/cm2以上という高い圧力であり、負極に析出したリチウム金属が潰れすぎて負極の投影面積以上に横方向にはみ出し、正極と接触してショートするという問題があった。本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、デンドライト抑制及び電解液の還元分解を最小限に止め、ショートのないサイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、負極と、正極と、セパレータと、リチウム塩を含む非水電解液と、を有するリチウム二次電池において、前記負極は、集電体と、高分子膜と、前記集電体と前記高分子膜との間に、粒状のリチウム金属を含むリチウム金属層とを有し、前記リチウム金属層の80%以上が、長軸径5~40μmの粒状のリチウム金属である、リチウム二次電池が提供される。
【0011】
前記粒状のリチウム金属のアスペクト比は、1.3以下である、リチウム二次電池が提供される。
【0012】
この観点によれば、リチウム金属の析出・溶解反応がスムーズとなり、かつ、非水電解液の還元分解を最小限に止め、負極に析出したリチウム金属が負極の投影面積以上に横方向にはみ出し正極と接触してショートすることのない、サイクル特性に優れたリチウム二次電池が実現可能となる。
【0013】
前記高分子膜がフッ素原子と、酸素原子とを含み、前記フッ素原子と、酸素原子の比率(フッ素原子数/酸素原子数)が、0.5~500であり、さらに、前記高分子膜の膜厚が、10μm未満である、リチウム二次電池が提供される。
【0014】
この観点によれば、サイクル特性が更に向上する。
【0015】
前記リチウム金属層に含まれるボイド量が総断面積の30%未満である、リチウム二次電池が提供される。
【0016】
この観点によれば、サイクル特性が更に向上する。
【0017】
前記リチウム二次電池の構成部材の積層方向に対して4.9~29.4N/cm2の圧力が付与される、リチウム二次電池が提供される。
【0018】
この観点によれば、サイクル特性が更に向上する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本開示によれば、リチウム二次電池のショートの確率が低減し、さらに、サイクル特性が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示の実施形態に係る二次電池を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
[リチウム二次電池の構成]
まず、
図1に基づいて、本実施形態に係るリチウム二次電池100の構成について説明する。
【0023】
リチウム二次電池100は、正極20と、負極30と、セパレータ層10とを備える。リチウム二次電池100の充電到達電圧(酸化還元電位)は、例えば4.0V(vs.Li/Li+)以上5.0V以下、特に4.3V以上4.8V以下となる。リチウム二次電池100の形態は、特に限定されない。即ち、リチウム二次電池100は、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等のいずれであってもよい。
【0024】
負極30は、負極集電体32と、リチウム金属層34と、高分子膜31とを有する。
【0025】
負極集電体32は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
【0026】
リチウム金属層34は、粒状のリチウム金属を含み、その80%以上が、長軸径5~40μmの粒状のリチウム金属で構成される。ここでの粒状とは、リチウム金属層34を上方から倍率1000倍で顕微鏡観察した際に観察される、長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の概円形状のリチウム金属を意味する。また、その割合は、縦及び横200μmの範囲内に観察される全ての粒状リチウム金属数(A)をカウントし、そのうち長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の粒状リチウム金属数をBとしたとき、以下式により、求められる。
長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の粒状リチウム金属の割合(%)=B/A×100
【0027】
あらかじめ、負極集電体32上に、上記のリチウム金属層34を塗工などの方法により形成しても良いが、充電時に負極集電体32の表面にリチウムイオンを粒状のリチウム金属として析出させることでリチウム金属層34を形成させ、放電時に、析出したリチウム金属層34をリチウムイオンとして溶解させる構成としてもよい。
【0028】
粒状のリチウム金属の長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下であるため、リチウム金属の析出・溶解反応がスムーズとなり、かつ、非水電解液の還元分解を最小限に止め、ショートのないサイクル特性に優れたリチウム二次電池を実現できる。
【0029】
粒状のリチウム金属の長軸径が5μm未満の場合、リチウム金属の比表面積が増加することで非水電解液との接触面積が高まり、非水電解液の還元分解が大きくなる。そのため、サイクル特性が悪化する。一方、粒状のリチウム金属の長軸径が40μmを越える場合、負極に析出したリチウム金属が負極の投影面積以上に横方向にはみ出し正極と接触してショートする確率が高まるため、好ましくない。
【0030】
高分子膜31は、その表面自由エネルギーがリチウム金属のそれに比べて小さいことが好ましい。充電過程において負極集電体32上に析出したリチウム金属が高分子膜31と触れた際に、リチウム金属に対しては、表面自由エネルギーを減少させるための表面積を最小限にしようとする作用が働く。この作用によって、粒状のリチウム金属が析出可能となることを本発明者らは見出した。
【0031】
特に、高分子膜31にフッ素原子を含む場合、高分子膜31の表面自由エネルギーをリチウム金属のそれに対して小さくすることが可能となるため好ましい。高分子膜31が、さらに酸素原子を含み、前記フッ素原子と、酸素原子の比率(フッ素原子数/酸素原子数)が0.3~600の場合、長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の粒状のリチウム金属を生成可能な適宜な表面自由エネルギーを得ることが可能となる。さらには、前記フッ素原子と、酸素原子の比率が、0.5~500の場合がより好ましい。前記比率が0.3未満の場合には、高分子膜31の表面自由エネルギーとリチウム金属のそれが近づくため、長軸径40μmを越える横に広がったリチウム金属や、アスペクト比が1.3よりも大きいデンドライト状のリチウム金属が生成しやすくなるため好ましくない。前記比率が600を超える場合には、リチウム金属に対する、表面自由エネルギーを減少させるための表面積を最小限にしようとする作用が強すぎて、長軸径が5μmを下回る粒状のリチウム金属を生成してしまうため好ましくない。
【0032】
高分子膜31の膜厚は30μm未満が好ましい。析出したリチウム金属形状への高分子膜31の追従性や、高分子膜31とリチウム金属層34との接触性向上の観点から、10μm未満がより好ましい。
【0033】
高分子膜31に含まれる高分子成分としては、例えば、フルオロ系共重合体骨格と、前記骨格に結合されたペンダント鎖とを有するペンダント型高分子が挙げられる。
【0034】
フルオロ系共重合体骨格としては、フッ化モノマーと(メタ)アクリルモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0035】
フッ化モノマーとしては、テトラフルオロエチレン、及びヘキサフルオロプロペンなどのC3~C8パーフルオロオレフィンや、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンなどのC2~C8含水素フルオロオレフィンや、式CH2=CH-Ra(式中、Raは、C1~C6パーフルオロアルキルである)で示されるパーフルオロアルキルエチレンや、クロロトリフルオロエチレンのような、クロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-のC2~C6フルオロオレフィンや、式CF2=CFORb(式中、Rbは、C1~C6のフルオロ-又はパーフルオロアルキル、例えばCF3、C2F5、C3F7である)で示される(パー)フルオロアルキルビニルエーテルや、式CF2=CFORcで示される(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル(式中、Rcは、C1~C12アルキル、又はC1~C12オキシアルキル、又はパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピルのような、1つもしくは複数のエーテル基を有するC1~C12(パー)フルオロオキシアルキルである)や、式CF2=CFOCF2ORd(式中、Rdは、C1~C6フルオロ-もしくはパーフルオロアルキル基、例えばCF3、C2F5、C3F7又はC2F5-O-CF3のような、1つもしくは複数のエーテル基を有するC1~C6(パー)フルオロオキシアルキル基である)で示される(パー)フルオロアルキルビニルエーテルや、式CF2=CFORe(式中、Reは、C1~C12アルキルもしくは(パー)フルオロアルキル、又はC1~C12オキシアルキル、又は1つもしくは複数のエーテル基を有するC1~C12(パー)フルオロオキシアルキルであり、Reは、その酸、酸ハライドもしくは塩の形態での、カルボン酸もしくはスルホン酸を含む)で示される官能性(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテルや、フルオロジオキソール、特にパーフルオロジオキソールなどが挙げられる。
【0036】
(メタ)アクリルモノマーとしては、ペンダント鎖を形成するための官能基を有する。官能基としては、ヒドロキシル基、カルボン酸基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基などが挙げられる。(メタ)アクリルモノマーの具体的な例としては、アクリル酸、メタアクリル酸、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシプロピルメタアクリレート、アミノエチルアクリレート、2-イソシアネートエチルアクリレート、グリシジルアクリレートなどが挙げられる。
【0037】
フッ化モノマーと(メタ)アクリルモノマーとの共重合体を合成する方法としては、任意の方法を用いることができるが、具体的には、水性懸濁重合や水性乳化重合法が挙げられる。
【0038】
フッ化モノマーと(メタ)アクリルモノマーとの比率は、高分子成分中のフッ素原子数/酸素原子数の原子量比率が0.3~600となるよう、ペンダント鎖の導入量を考慮しながら適宜決定すればよい。具体的には、60モル%~99.95モル%のフッ化モノマーと0.05モル%~40モル%の(メタ)アクリルモノマーが含まれる範囲が好ましい。
【0039】
ペンダント鎖を形成するための化合物としては、フルオロ系共重合体骨格と結合させるための官能基と、酸素原子を複数含む化合物が好ましい。官能基としては、ヒドロキシル基、カルボン酸基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基などが挙げられる。具体的には、上記官能基を1~2個有する、分子量80~30000程度のポリオキシアルキレンが好ましい。
【0040】
前述したフルオロ系共重合体骨格の官能基と、ペンダント鎖形成化合物の官能基とが、重縮合及び/又は付加反応によって反応し、ペンダント鎖を有するフルオロ系共重合体骨格が提供される。反応としては任意の方法を用いることができるが、具体的には、1つもしくは複数の有機溶媒の存在下、20℃~250℃程度で行うのが好ましい。
【0041】
高分子膜31にはその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、液体成分としての溶媒や、固体成分としての金属塩、無機フィラーなどが挙げられる。なお、ここでは、溶媒単独もしくは溶媒に金属塩やその他成分が溶解された状態のものも液体成分と定義する。
【0042】
溶媒としては、有機溶媒やイオン液体など挙げられる。有機溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,2―ジメトキシエタン、トリグライム、テトラグライム、アセトニトリル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0043】
イオン液体としては、-30℃~120℃で液体であるカチオン種とアニオン種とを含む化合物が使用できる。カチオン成分としては、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、アゾニアスピロカチオンなどの鎖状又は環状のアンモニウムカチオンや、鎖状又は環状のホスホニウムカチオンやスルホニウムカチオンなどが挙げられる。アニオン成分としては、PF6
-、BF4
-、(SO2F)2N-、(SO2CF3)2N-、(SO2CF3)(SO2F)N-などが挙げられる。
【0044】
金属塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2F)(SO2CF3)、LiN(SO2CF2CF3)2、LiC(SO2CF2CF3)3、LiC(SO2CF3)3、LiI、LiCl、LiF、LiPF5(SO2CF3)、LiPF4(SO2CF3)2等のリチウム塩、
Mg(N(SO2CF3)2)2、Al(N(SO2CF3)2)3、CsN(SO2CF3)2等の塩が挙げられる。
【0045】
高分子膜31の機械的強度の向上などを目的に、無機フィラーを添加しても良い。無機フィラーとしては、粒径0.01μm~10μm程度の二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、ニオブ酸リチウム、チタン酸バリウムなどが挙げられる。
【0046】
高分子膜31は、例えば、高分子成分や必要に応じて上記その他の成分を適当な有機溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に溶解もしくは分散させることで塗工液を形成し、塗工、乾燥することで形成される。あらかじめ、負極集電体32上に、リチウム金属層34を形成する場合には、リチウム金属層34上に上記塗工液を塗工すればよい。また、充電時に負極集電体32の表面にリチウムイオンをリチウム金属層34として形成する場合には、負極集電体32上に上記塗工液を塗工すればよい。充電時に高分子膜31と負極集電体32の間に粒状のリチウム金属が析出し、しいては負極集電体32の上にリチウムイオンをリチウム金属層34として形成することができる。
【0047】
また、リチウム金属層34に含まれるボイド量は、総断面積の60%未満、より好ましくは30%未満であることが好ましい。負極集電体32上に析出したリチウム金属層34にボイドが存在した場合、ボイド部分ではリチウム金属と非水電解液との接触が生じ、非水電解液の還元分解が起きるため好ましくない。リチウム金属層34に含まれるボイド量を総断面積の30%未満とすることで、リチウム金属と非水電解液との接触を有効に低減できる。
【0048】
正極20は、正極集電体22と、その一面に設けられた正極活物質層24とを有する。正極集電体22は、導電性を有する材料により構成されていればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔などの金属薄板を用いることができる。
【0049】
正極活物質層24に用いる正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとリチウムイオンのカウンターアニオン(例えばPF6
-)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を用いることができる。
【0050】
例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2(x+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、MはCo、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等が挙げられる。
【0051】
また正極活物質層24は、導電材を有していてもよい。導電材としては、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。正極活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、正極活物質層24は導電材を含んでいなくてもよい。
【0052】
また正極活物質層24は、バインダーを含む。バインダーは公知のものを用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、が挙げられる。
【0053】
正極活物質層24は、例えば、正極活物質、導電材、及びバインダーを適当な有機溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に分散させることで塗工液を形成し、この塗工液を正極集電体22上に塗工し、乾燥、圧延することで形成される。
【0054】
セパレータ10は、電気絶縁性の多孔質構造から形成されていればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布があげられる。
【0055】
また、上記のセパレータ材料には無機粒子や高分子成分がコートされていてもよい。無機粒子としては、アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウムなどの酸化物やチタン酸バリウムなどの誘電材料があげられる。高分子成分としては、負極用のバインダー類、正極用のバインダー類、高分子電解質類(ポリエチレングリコールやポリエチレンカーボネートなどの高分子材料とリチウム塩の複合物)、イオン交換樹脂類(ポリジメチルジアリルアンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸塩等)、その他には、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリブチラール、ポリアクリル酸などがあげられる。
【0056】
非水電解液は、電解質であるリチウム塩と、溶媒とを含む。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2F)(SO2CF3)、LiN(SO2CF2CF3)2、LiC(SO2CF2CF3)3、LiC(SO2CF3)3、LiI、LiCl、LiF、LiPF5(SO2CF3)、LiPF4(SO2CF3)2等が挙げられる。
【0057】
リチウム塩の濃度は、0.8~5.0mol/L程度であることが好ましい。
【0058】
溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、エチルイソプロピルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、3-フルオロプロピルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル等のカルボン酸エステル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル、ジメチルスルホキシド、亜硫酸ジメチル等の鎖状スルホン酸エステル、スルホラン、プロパンサルトン等の環状スルホン酸エステル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、スクシノニトリル等のニトリル化合物、1,2-ジメトキシエタン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ジプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、トリグライム、テトラグライム等の鎖状エーテル、オキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル等のハイドロフルオロエーテル、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル等のリン酸エステル類、メチルホスホン酸ジメチル等のホスホン酸エステル類、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、ジフルオロメチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)ペンタンなどのフッ素化エーテル類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。リチウム塩の溶解性の観点から、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2―ジメトキシエタン、トリグライム、テトラグライム、アセトニトリルが好ましい。
【0059】
また、溶媒としてイオン液体が含まれていてもよい。イオン液体としては、-30℃~120℃で液体であるカチオン種とアニオン種とを含む化合物が使用できる。
【0060】
カチオン種としては、窒素を含む窒素系カチオン、リンを含むリン系カチオン、硫黄を含む硫黄系カチオンを用いることができる。これらのカチオン成分は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。窒素系カチオンの例としては、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、アゾニアスピロカチオンなど鎖状又は環状のアンモニウムカチオンを挙げることができる。リン系カチオンの例としては、鎖状又は環状のホスホニウムカチオンが挙げられる。硫黄系カチオンの例としては、鎖状又は環状のスルホニウムカチオンが挙げられる。
【0061】
アニオン種としては、AlCl4
-、NO2
-、NO3
-、I-、BF4
-、PF6
-、AsF6
-、SbF6
-、NbF6
-、TaF6
-、F(HF)2.3
-、CH3CO2
-、CF3CO2
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、(CF3SO2)3C-、C3F7CO2
-、C4F9SO3-、(CF3SO2)(CF3CO)N-、(CN)2N-、次式で表されるイミドアニオン((SO2(CF2)xF)(SO2(CF2)yF)N-(ただし、xとyはそれぞれ独立しており、0~5の整数を示す。))、等が挙げられる。これらのアニオン種は単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
リチウム塩の溶解性の観点から、カチオン成分としては、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオンが好ましく、アニオン成分としては、イミドアニオン、PF6
-、BF4
-のアニオンが好ましく、さらに、(SO2F)2N-、(SO2CF3)2N-、(SO2CF3)(SO2F)N-、がより好ましい。
【0063】
なお、非水電解液には、各種の添加剤(負極SEI(Solid Electrolyte Interface)形成剤、界面活性剤等)を添加してもよい。このような添加剤としては、例えば、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン、炭酸フェニルエチレン、コハク酸無水物、リチウムビスオキサラート、テトラフルオロホウ酸リチウム、ジニトリル化合物、プロパンスルトン、ブタンスルトン、プロペンスルトン、3-スルフォレン、フッ素化アリルエーテル、フッ素化アクリレート等が挙げられる。
【0064】
外装体50は、その内部に積層体40及び非水電解液を密封するものである。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウム二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。
【0065】
例えば、外装体50として、
図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0066】
リード60、62は、アルミ等の導電材料から形成されている。そして、公知の方法により、リード60、62を正極集電体22、負極集電体32にそれぞれ溶接し、正極20の正極活物質層24と負極30の高分子膜31との間にセパレータ10を挟んだ状態で、非水電解液と共に外装体50内に挿入し、外装体50の入り口をシールする。
【0067】
リチウム二次電池100の構成部材の積層方向に対して圧力を付与しても良い。4.9~29.4N/cm2の圧力を付与することで、前記ボイドを有効に低減することが可能となる。29.4N/cm2を超えると負極集電体上に析出した金属リチウムが負極の投影面積以上に横方向にはみ出し正極と接触してショートする確率が高まるため、好ましくない。
【0068】
前記圧力の付与方法は任意の方法を使用できる。圧縮バネ、ベルヴィルワッシャー、機械ネジ、空気圧装置、水圧装置等を用いて力を加えてもよい。例えば、1つ又は複数のリチウム二次電池100(例えば、電池スタック)が2つのプレート(例えば金属プレート)の間に配置し、装置(例えば、機械ネジ、バネ等)を用いて、プレートによりリチウム二次電池100又はスタックの端部に圧力を加えてもよい。機械ネジの場合、ネジを回転させることにより、プレートの間で電池を圧縮することができる。
【0069】
また、前記プレートの代わりに容器構造体を用い、リチウム二次電池100又はスタックを容器構造体に詰め込んだ際に適宜圧力が付与されるよう設計しても良い。容器構造体は、比較的高い弾性係数を有してもよく(例えば、10GPa~100GPa)、例えば、アルミニウム、チタン、又は他の適切な材料を含んでいてもよい。
【0070】
[リチウム二次電池の製造方法]
次に、リチウム二次電池100の製造方法について説明する。正極20は、以下のように製造される。まず、正極活物質、導電剤、及びバインダーを混合したものを、有機溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に分散させることで塗工液を調整する。次いで、塗工液を正極集電体22上に形成し、乾燥させることで、正極活物質層24を形成する。なお、塗工の方法は、特に限定されない。塗工の方法としては、例えば、ナイフコーター法、グラビアコーター法等が考えられる。以下の各塗工工程も同様の方法により行われる。これにより、正極20が製造される。
【0071】
負極30は、負極集電体32上に、リチウム金属層34として粒子状のリチウム金属をあらかじめ形成する場合と、充電時に負極集電体32の上にリチウムイオンをリチウム金属層34として析出させ、放電時に、析出したリチウム金属層34をリチウムイオンとして溶解させる構成の場合により負極シートの作製方法が異なる。
【0072】
リチウム金属層34として粒子状のリチウム金属をあらかじめ形成する場合、例えば、炭酸リチウムなどで表面保護したリチウム金属粒子を、有機溶媒(例えばヘキサン)に分散させることで塗工液を調整する。次いで、不活性ガス中で塗工液を負極集電体32上に形成し、乾燥させることで、リチウム金属層34を形成する。なお、塗工の方法は、特に限定されない。塗工の方法としては、例えば、ナイフコーター法、グラビアコーター法等が考えられる。
【0073】
続いて、高分子膜31を形成する。高分子成分を有機溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に溶解させることで塗工液を調整する。次いで、不活性ガス中で塗工液をリチウム金属層34上に形成し、乾燥させることで、高分子膜31を形成する。なお、塗工の方法は、リチウム金属層34の場合と同様の方法が用いられる。
【0074】
充電時に負極集電体32の上にリチウム金属層34を形成する場合、負極集電体32上に直接高分子膜31を形成すればよい。当該負極を用いた場合、充電時に高分子膜31と負極集電体32の間にリチウム金属層34が形成され、しいては負極集電体32の上にリチウムイオンをリチウム金属層34として形成することができる。
【0075】
上記の手法を用いることで、リチウム金属層34上あるいは負極集電体32上に高分子膜31が形成された負極30が得られる。
【0076】
次いで、セパレータ10を正極20及び負極30で挟むことで、積層体40を製造する。次いで、積層体40を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)の容器に挿入する。次いで、当該容器内に上記組成の非水電解液を注入し封口することでリチウム二次電池100が製造される。
【実施例】
【0077】
以下、本開示におけるリチウム二次電池について、実施例により具体的に説明する。実施例1~11として、下記に記載の通りにリチウム二次電池を作製し、リチウム金属層34中の長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の粒状のリチウム金属の割合、ボイド量の測定及びサイクル測定を行った。また、比較のために、比較例1~3を作製し、同様に評価を行った。その結果を表2に示す。なお、実施例1~11及び比較例3で用いたペンダント鎖形成化合物としては、表1のNo.M-1~M-6で示した。
【0078】
【0079】
(実施例1)
[高分子成分の合成]
フルオロ系共重合体骨格(F-1)を以下のように合成した。
1000rpmの速度で作動するメカニカルスタラーを備えた2リットル反応器内に、500gの純水と0.2gのMETHOCEL(登録商標)K100GR沈殿防止剤を順に導入した。反応器内を減圧してから、窒素で1バールまで加圧し、75容量%のt-アミルパーピバレート/イソドデカン溶液2gを反応器に導入した後、220gのフッ化ビニリデンを導入した。次に、55℃まで徐々に加熱した。さらに、メタクリル酸の10質量%水溶液150mlを添加し、圧力を110バールとして5時間反応した。室温まで冷却後、大気圧に開放し、得られた高分子を回収した。純水、メタノールで順に洗浄した後、50℃のオーブンで乾燥した(収量208g)。このようにして得られたフルオロ系共重合体骨格は、NMR測定より、98.8モル%のフッ化ビニリデン及び1.2モル%のメタクリル酸を含有していた。
【0080】
次に、得られたフルオロ系共重合体骨格(F-1)とペンダント鎖形成化合物(M-1)との反応を行った。5gのF-1と、25gのM-1を100mlのN-メチル-2-ピロリドンに溶解し、さらに触媒として0.15gのトリフェニルホスフィンを添加した。これを80℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を1リットルのメタノールに滴下し、析出した高分子成分を回収した。さらに2回、メタノールで洗浄した。得られた高分子成分を60℃のオーブンで乾燥した(収量27.7g)。
【0081】
1H-NMRより、高分子成分のフルオロ系共重合体骨格の-CH2-部分(約2.5及び3ppm)と、ペンダント鎖形成化合物由来の約3.5~3.6ppmのオキシアルキレン繰り返し単位に関係するシグナルが観測されたことにより、フルオロ系共重合体骨格に対しペンダント鎖が導入されていることを確認した。
【0082】
高分子成分中の原子量比率(フッ素原子数/酸素原子数)は、XPS表面分析装置を用いて測定することができる。XPS表面分析装置としては、いかなる機種も使用することができるが、本実施例においてはVGサイエンティフィック社製のESCALAB-200Rを用いた。なお、実施例1に係る高分子成分中のフッ素原子数/酸素原子数の原子量比率は、0.3であった。
【0083】
[負極の作製]
高分子膜31形成のための溶液調整を行った。10gの前記高分子成分と、リチウム塩として1gのLiN(SO2F)2を混合し、さらに溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを添加して、10質量%の溶液を調整した。次に、厚さ10μmの銅箔上に前記高分子溶液を塗布し高分子膜31を形成した。その後、80℃で乾燥した。高分子膜31の膜厚は約15μmであった。30×40mmサイズに切り出し、さらに、ニッケル箔のリードを超音波溶接により取り付けて負極30を作製した。
【0084】
[正極の作製]
正極20については、まず、酸化物Li1.0Ni0.78Co0.19Al0.03O290質量%、ケッチェンブラック6質量%、ポリフッ化ビニリデン4質量%をN-メチル-2-ピロリドンに分散させることで、塗工液を調整した。次いで、塗工液を正極集電体であるアルミニウム箔上に塗工し、乾燥させることで、正極活物質層24を形成した。次いで、プレス機により正極活物質層24をプレスした。30×40mmサイズに切り出し、さらに、アルミニウム箔のリードを超音波溶接により取り付けて正極20を作製した。
【0085】
[非水電解液の調整]
ジメチルカーボネート、及びフッ素化エーテルとして1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルを80:20の体積比で混合した溶媒に、リチウム塩としてLiN(SO2F)2を4.2mol/Lの濃度となるように溶解することで、非水電解液を調整した。
【0086】
[リチウム二次電池の作製]
厚さ13μmのポリプロピレンセパレータを準備し、32×42mmサイズのセパレータ10を作製した。正極20、セパレータ10、負極30の順に重ね、50×60mmサイズの袋状に形成したアルミラミネートの外装体内に載置した。このとき、負極の高分子膜31が形成された面をセパレータ10と隣接するように配置した。さらに上記非水電解液を添加して封口し、リチウム二次電池100を作製した。なお、リチウム金属層34中の長軸径5~40μmの粒状のリチウム金属の割合及びボイド量の測定用と、サイクル測定用にそれぞれ電池を作製した。
【0087】
[リチウム金属層34中の長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の粒状のリチウム金属の割合の測定]
25℃において、0.5Cに相当する定電流で、終止電圧4.4Vまで充電し、不活性ガス中でリチウム二次電池100を解体して負極30を取り出した。高分子膜31側から倍率1000倍の顕微鏡観察を行い、縦及び横200μmの範囲内に観察される全ての粒状のリチウム金属数(A)をカウントし、そのうち長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の粒状のリチウム金属数をBとしたとき、以下式により、長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の粒状のリチウム金属の割合(%)を求めた。
長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の粒状のリチウム金属の割合(%)=B/A×100
【0088】
[ボイド量の測定]
25℃において、0.5Cに相当する定電流で、終止電圧4.4Vまで充電し、不活性ガス中でリチウム二次電池100を解体して負極30を取り出した。取り出した負極30の断面SEM観察を行い、画像の二値化処理を行った。次に、ボイド面積(C)をカウントし、全体の観察面積をDとしたとき、以下式により、ボイド量の割合(%)を求めた。
ボイド量の割合(%)=C/D×100
【0089】
[サイクル特性評価]
100サイクル後の放電容量維持率の測定は、以下に示す手順により行った。25℃において、0.5Cに相当する定電流で、終止電圧4.4Vまで充電し、その後0.5Cに相当する定電流で3.0Vまで放電することで行った。1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を求め、「サイクル容量維持率(%)」とした。
【0090】
(実施例2)
高分子成分の合成を以下のように変更する以外は実施例1と同様に行った。
[高分子成分の合成]
フルオロ系共重合体骨格(F-2)を以下のように合成した。
1000rpmの速度で作動するメカニカルスタラーを備えた2リットル反応器内に、500gの純水と0.2gのMETHOCEL(登録商標)K100GR沈殿防止剤を順に導入した。反応器内を減圧してから、窒素で1バールまで加圧し、75容量%のt-アミルパーピバレート/イソドデカン溶液2gを反応器に導入した後、220gのフッ化ビニリデンを導入した。次に、55℃まで徐々に加熱した。さらに、メタクリル酸の10質量%水溶液15mlを添加し、圧力を110バールとして5時間反応した。室温まで冷却後、大気圧に開放し、得られた高分子を回収した。純水、メタノールで順に洗浄した後、50℃のオーブンで乾燥した(収量201g)。このようにして得られたフルオロ系共重合体骨格は、NMR測定より、99.9モル%のフッ化ビニリデン及び0.1モル%のメタクリル酸を含有していた。
【0091】
次に、得られたフルオロ系共重合体骨格(F-2)とペンダント鎖形成化合物(M-2)との反応を行った。20gのF-1と、0.02gのM-2を100mlのN-メチル-2-ピロリドンに溶解し、さらに触媒として0.15gのトリフェニルホスフィンを添加した。これを80℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を1リットルのメタノールに滴下し、析出した高分子成分を回収した。さらに2回、メタノールで洗浄した。得られた高分子成分を60℃のオーブンで乾燥した(収量18.7g)。
【0092】
1H-NMRより、高分子成分のフルオロ系共重合体骨格の-CH2-部分(約2.5及び3ppm)と、ペンダント鎖形成化合物由来の約3.5~3.6ppmのオキシアルキレン繰り返し単位に関係するシグナルが観測されたことにより、フルオロ系共重合体骨格に対しペンダント鎖が導入されていることを確認した。
【0093】
実施例2に係る高分子成分中のフッ素原子数/酸素原子数の原子量比率は、実施例1と同様の手法により測定した結果、556であった。
【0094】
(実施例3)
高分子成分の合成を以下のように変更し、高分子膜31の膜厚を約3μmに変更する以外は実施例1と同様に行った。
[高分子成分の合成]
フルオロ系共重合体骨格(F-1)とペンダント鎖形成化合物(M-3)との反応を行った。10gのF-1と、25gのM-3を150mlのN-メチル-2-ピロリドンに溶解し、さらに触媒として0.30gのトリフェニルホスフィンを添加した。これを80℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を1リットルのメタノールに滴下し、析出した高分子成分を回収した。さらに2回、メタノールで洗浄した。得られた高分子成分を60℃のオーブンで乾燥した(収量32.1g)。
【0095】
1H-NMRより、高分子成分のフルオロ系共重合体骨格の-CH2-部分(約2.5及び3ppm)と、ペンダント鎖形成化合物由来の約3.5~3.6ppmのオキシアルキレン繰り返し単位に関係するシグナルが観測されたことにより、フルオロ系共重合体骨格に対しペンダント鎖が導入されていることを確認した。
【0096】
実施例3に係る高分子成分中のフッ素原子数/酸素原子数の原子量比率は、実施例1と同様の手法により測定した結果、0.55であった。
【0097】
(実施例4)
高分子成分の合成を以下のように変更し、高分子膜31の膜厚を約3μmに変更する以外は実施例1と同様に行った。
[高分子成分の合成]
フルオロ系共重合体骨格(F-1)とペンダント鎖形成化合物(M-4)との反応を行った。20gのF-1と、1.0gのM-4を100mlのN-メチル-2-ピロリドンに溶解し、さらに触媒として0.15gのトリフェニルホスフィンを添加した。これを80℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を1リットルのメタノールに滴下し、析出した高分子成分を回収した。さらに2回、メタノールで洗浄した。得られた高分子成分を60℃のオーブンで乾燥した(収量18.5g)。
【0098】
1H-NMRより、高分子成分のフルオロ系共重合体骨格の-CH2-部分(約2.5及び3ppm)と、ペンダント鎖形成化合物由来の約3.5~3.6ppmのオキシアルキレン繰り返し単位に関係するシグナルが観測されたことにより、フルオロ系共重合体骨格に対しペンダント鎖が導入されていることを確認した。
【0099】
実施例4に係る高分子成分中のフッ素原子数/酸素原子数の原子量比率は、実施例1と同様の手法により測定した結果、25であった。
【0100】
(実施例5)
高分子成分の合成を以下のように変更し、高分子膜31の膜厚を約3μmに変更する以外は実施例1と同様に行った。
[高分子成分の合成]
フルオロ系共重合体骨格(F-2)とペンダント鎖形成化合物(M-5)との反応を行った。20gのF-2と、0.03gのM-5を100mlのN-メチル-2-ピロリドンに溶解し、さらに触媒として0.15gのトリフェニルホスフィンを添加した。これを80℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を1リットルのメタノールに滴下し、析出した高分子成分を回収した。さらに2回、メタノールで洗浄した。得られた高分子成分を60℃のオーブンで乾燥した(収量18.4g)。
【0101】
1H-NMRより、高分子成分のフルオロ系共重合体骨格の-CH2-部分(約2.5及び3ppm)と、ペンダント鎖形成化合物由来の約3.5~3.6ppmのオキシアルキレン繰り返し単位に関係するシグナルが観測されたことにより、フルオロ系共重合体骨格に対しペンダント鎖が導入されていることを確認した。
【0102】
実施例5に係る高分子成分中のフッ素原子数/酸素原子数の原子量比率は、実施例1と同様の手法により測定した結果、498であった。
【0103】
(実施例6)
高分子成分の合成を以下のように変更し、高分子膜31の膜厚を約1μmに変更する以外は実施例1と同様に行った。
[高分子成分の合成]
フルオロ系共重合体骨格(F-2)とペンダント鎖形成化合物(M-6)との反応を行った。20gのF-2と、0.3gのM-6を100mlのN-メチル-2-ピロリドンに溶解し、さらに触媒として0.15gのトリフェニルホスフィンを添加した。これを80℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を1リットルのメタノールに滴下し、析出した高分子成分を回収した。さらに2回、メタノールで洗浄した。得られた高分子成分を60℃のオーブンで乾燥した(収量19.1g)。
【0104】
1H-NMRより、高分子成分のフルオロ系共重合体骨格の-CH2-部分(約2.5及び3ppm)と、ペンダント鎖形成化合物由来の約3.5~3.6ppmのオキシアルキレン繰り返し単位に関係するシグナルが観測されたことにより、フルオロ系共重合体骨格に対しペンダント鎖が導入されていることを確認した。
【0105】
実施例6に係る高分子成分中のフッ素原子数/酸素原子数の原子量比率は、実施例1と同様の手法により測定した結果、122であった。
【0106】
(実施例7)
高分子膜31の膜厚を約9.5μmに変更する以外は実施例6と同様に行った。
【0107】
(実施例8)
高分子膜31の膜厚を約3μmに変更し、以下のようにリチウム二次電池100の構成部材の積層方向に対して圧力を付与して評価する以外は実施例7と同様に行った。
[圧力の付与]
作製したリチウム二次電池100と圧力センサー(面圧分布測定システムI-SCAN,ニッタ株式会社製)を厚さ3mm、60×70mmサイズの金属板に挟み、3N/cm2の圧力が付与されるようクランプで締め付けた。
【0108】
(実施例9)
圧力を4.9N/cm2に変更する以外は実施例8と同様に行った。
【0109】
(実施例10)
圧力を14.7N/cm2に変更する以外は実施例8と同様に行った。
【0110】
(実施例11)
圧力を24.5N/cm2に変更する以外は実施例8と同様に行った。
【0111】
(比較例1)
高分子膜31を設けないこと以外は実施例1と同様に行った。
【0112】
(比較例2)
高分子膜31を設けないこと以外は実施例10と同様に行った。
【0113】
(比較例3)
圧力を34.3N/cm2に変更する以外は実施例8と同様に行った。
【0114】
実施例1~11及び比較例1~3の結果を表2に示す。実施例1~11の結果より、リチウム金属層34の80%以上が、長軸径が5~40μm且つアスペクト比が1.3以下の粒状のリチウム金属から構成される場合、良好なサイクル特性が得られることが分かる。また、高分子膜31がフッ素原子と、酸素原子とを含み、前記フッ素原子と、酸素原子の比率(フッ素原子数/酸素原子数)が、0.5~500であり、さらに、前記高分子膜31の膜厚が、10μm未満である場合、さらに良好なサイクル特性が得られることが分かる。リチウム金属層34に含まれるボイド量が総断面積の30%未満であり、さらにリチウム二次電池100の構成部材の積層方向に対して4.9~29.4N/cm2の圧力を付与した場合、さらに良好なサイクル特性が得られることが分かる。比較例1~2より、高分子膜31が無い場合は、サイクル特性に劣ることが分かる。また、比較例3より、リチウム二次電池100の構成部材の積層方向に対して34.3N/cm2という高い圧力を付与した場合、充電時に上限電圧まで到達せず、充電が完了しなかった。このリチウム二次電池を解体して負極を観察したところ、析出したリチウム金属が負極の投影面積以上に横方向にはみ出し、正極と接触してショートしていることを確認した。
【0115】
【符号の説明】
【0116】
10…セパレータ、20…正極、22…正極集電体、24…正極活物質層、30…負極、31…高分子膜、32…負極集電体、34…リチウム金属層、40…積層体、50…外装体、60,62…リード、100…リチウム二次電池