(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 137/10 20060101AFI20240719BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240719BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20240719BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240719BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240719BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C10M137/10 Z
C10N20:02
C10N40:00 D
C10N30:06
C10N30:00 Z
C10N40:04
(21)【出願番号】P 2020184425
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】角谷 真夕子
(72)【発明者】
【氏名】菖蒲 紀子
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-207083(JP,A)
【文献】特開2020-172642(JP,A)
【文献】特開2010-018780(JP,A)
【文献】特開2017-088651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)潤滑油基油と、
(B1)潤滑油組成物の全質量を基準とした含有量が0.01質量%以上0.50質量%以下のジチオホスホリル化脂肪酸エステルと、
(B2)潤滑油組成物の全質量を基準とした含有量が0.005質量%以上0.15質量%以下のジチオホスホリル化脂肪酸と、
を含み、かつ、下記式(I):
0.30≦[M
(B1)/(M
(B1)+M
(B2))]≦0.95 (I)
[式(I)中、M
(B1)は潤滑油組成物の全質量を基準とした(B1)成分の含有量を示し、M
(B2)は潤滑油組成物の全質量を基準とした(B2)成分の含有量を示す。]
で表される条件を満たすことを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
前記(B1)成分が、下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~18のアルキル基を示し、R
3は直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基を示し、R
4は炭素数1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(B2)成分が、下記一般式(2):
【化2】
[式(2)中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~18のアルキル基を示し、R
7は直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基を示す。]
で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(A)成分は40℃における動粘度が5.0~20.0mm
2/sの潤滑油基油であることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、より詳しくは、電動モーターの潤滑に好適に利用可能な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率及び環境適合性の観点から、電動モーターを走行の動力源とする電気自動車、及び、走行の動力源として電動モーターと内燃機関とを併用するハイブリッド自動車が注目されている。電動モーターは運転に伴い発熱するが、そのモーター内部にはコイルや磁石等の熱に弱い部品が含まれている。そのため、走行の動力源として電動モーターを利用する場合、一般的に、その電動モーターを冷却する手段が併せて使用されている。
【0003】
電動モーターを冷却する手段としては、空冷方式、水冷方式、及び、油冷方式が知られている。これらの中でも油冷方式は、電動モーター内部に油を流通させることにより、電動モーター内の発熱部位(例えばコイル、コア、磁石等)と冷却媒体(油)とを直接接触させ、高い冷却効果を得ることができる方式である。そして、油冷方式を採用する場合、内部に流通させた油により電動モーターの冷却と潤滑が同時に図られる。従って、油冷方式に利用する油(電動モーター内部に流通させる油:電動モーター油)には、冷却及び潤滑時に電動モーターの機能を阻害しないように、電気絶縁性が高いことが求められる。
【0004】
また、走行の動力源として電動モーターを用いる自動車は、通常、歯車機構を有する変速機を備えている。そして、歯車機構の潤滑に利用される潤滑油には、通常、耐摩耗性が求められる。
【0005】
これまで、一般に、電動モーターと変速機(歯車機構)とは異なる潤滑油を用いて潤滑されてきた。これに対して、同一の潤滑油によって電動モーター及び変速機を潤滑することが可能となれば、潤滑油の循環機構を簡略化することが可能であるため、近年では、電動モーターと変速機とを同一の潤滑油によって潤滑することが望まれている。なお、最近では電動モーターと変速機とを一体の装置(パッケージ)として統合した電動ドライブモジュールも提案されているが、そのような電動ドライブモジュールにおいては、特に、装置の小型軽量化の観点から、電動モーターと変速機とを同一の潤滑油によって潤滑することが求められる。
【0006】
他方、潤滑油の分野においては、従来より様々な潤滑油組成物が提案されている。例えば、特開2005-307203号公報(特許文献1)には、基油と、リン含有カルボン酸化合物とを含む潤滑油組成物が開示されており、その実施例の欄においては、基油に対して、β-ジチオホスホリル化プロピオン酸、又は、β-ジチオホスホリル化プロピオン酸エチルエステルを組み合わせた潤滑油組成物が開示されている。また、特開平10-67993公報(特許文献2)には、鉱油をベースとする油などの潤滑剤と、特定の式で表される化合物とを含む組成物が開示され、その実施例の欄においては、基剤とβ-ジチオホスホリル化プロピオン酸とを含む組成物や、基剤とエチル-3-[(ビスイソプロピルオキシホスフィノチオイル)チオ]プロピオネート(BASF社製、商標名:Irgalube 63)とを含む組成物が開示されている。さらに、国際公開第2013/137160号(特許文献3)においては、特定の基油に、特定の式で表される硫黄化合物を配合してなる潤滑油組成物が開示されており、その実施例の欄においては、基油と、硫黄化合物としてのジチオリン酸化合物(BASF社製、商標名:Irgalube 63)とを含む潤滑油組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1~3に記載されているような従来の潤滑油組成物はいずれも、十分に高い水準の電気絶縁性と、優れた耐摩耗性とを両立するといった点においては必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-307203号公報
【文献】特開平10-67993公報
【文献】国際公開第2013/137160号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、十分に高い水準の電気絶縁性と、優れた耐摩耗性とを両立させることが可能な潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、潤滑油組成物を、下記(A)成分、下記(B1)成分及び下記(B2)成分を含んだものとしつつ、下記式(I)で表される条件を満たすものとすることにより、十分に高い水準の電気絶縁性と、優れた耐摩耗性とを両立させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の潤滑油組成物は、
(A)潤滑油基油と、
(B1)潤滑油組成物の全質量を基準とした含有量が0.01質量%以上0.50質量%以下のジチオホスホリル化脂肪酸エステルと、
(B2)潤滑油組成物の全質量を基準とした含有量が0.005質量%以上0.15質量%以下のジチオホスホリル化脂肪酸と、
を含み、かつ、下記式(I):
0.30≦[M(B1)/(M(B1)+M(B2))]≦0.95 (I)
[式(I)中、M(B1)は潤滑油組成物の全質量を基準とした(B1)成分の含有量を示し、M(B2)は潤滑油組成物の全質量を基準とした(B2)成分の含有量を示す。]
で表される条件を満たすことを特徴とするものである。
【0011】
前記本発明の潤滑油組成物においては、前記(B1)成分が下記一般式(1):
【0012】
【0013】
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~18のアルキル基を示し、R3は直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基を示し、R4は炭素数1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。]
で表される化合物(以下、場合により単に「化合物(X)」と称する)であることが好ましい。
【0014】
また、前記本発明の潤滑油組成物においては、前記(B2)成分が下記一般式(2):
【0015】
【0016】
[式(2)中、R5及びR6は、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~18のアルキル基を示し、R7は直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基を示す。]
で表される化合物(以下、場合により単に「化合物(Y)」と称する)であることが好ましい。
【0017】
さらに、前記本発明の潤滑油組成物においては、前記(A)成分は40℃における動粘度が5.0~20.0mm2/sの潤滑油基油であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、十分に高い水準の電気絶縁性と、優れた耐摩耗性とを両立させることが可能な潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、本明細書においては、特に断らない限り、数値P及びQについて「P~Q」という表記は「P以上Q以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Qのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Pにも適用されるものとする。
【0020】
本発明の潤滑油組成物は、
(A)潤滑油基油と、
(B1)潤滑油組成物の全質量を基準とした含有量が0.01質量%以上0.50質量%以下のジチオホスホリル化脂肪酸エステルと、
(B2)潤滑油組成物の全質量を基準とした含有量が0.005質量%以上0.15質量%以下のジチオホスホリル化脂肪酸と、
を含み、かつ、下記式(I):
0.30≦[M(B1)/(M(B1)+M(B2))]≦0.95 (I)
[式(I)中、M(B1)は潤滑油組成物の全質量を基準とした(B1)成分の含有量を示し、M(B2)は潤滑油組成物の全質量を基準とした(B2)成分の含有量を示す。]
で表される条件を満たすことを特徴とするものである。
【0021】
<(A)成分:潤滑油基油>
本発明において(A)成分として利用する潤滑油基油は、特に制限されず、潤滑油の分野において利用可能な公知の基油を適宜利用でき、例えば、1種以上の鉱油系基油、もしくは1種以上の合成系基油、またはそれらの混合基油を用いることができる。前記潤滑油基油としては、中でも、API(アメリカ石油協会:American Petroleum Institute)による基油の分類において、グループIIの基油、グループIIIの基油、グループIVの基油、グループVの基油、又は、これらの基油のうちの2種以上の混合物(混合基油)を好適に用いることができる(以下、APIによる基油分類のグループを単に「APIグループ」と称する)。ここで、APIグループIIの基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。APIグループIIIの基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。また、APIグループIVの基油は、ポリα-オレフィン基油である。さらに、APIグループVの基油は、APIグループI~IV以外の基油であって、その好ましい例としてはエステル系基油を挙げることができる。
【0022】
鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られる、パラフィン系またはナフテン系などの鉱油系基油を挙げることができる。APIグループIIの基油及びグループIIIの基油は通常、水素化分解プロセスを経て製造される。また、ワックス異性化基油や、GTL WAX(ガストゥリキッド ワックス)を異性化する手法で製造される基油等も使用可能である。
【0023】
APIグループIVの基油としては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、およびこれらの水素化物等を挙げることができる。
【0024】
APIグループVの基油としては、例えば、モノエステル(例えばブチルステアレート、オクチルラウレート、2-エチルヘキシルオレート等);ジエステル(例えばジトリデシルグルタレート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ビス(2-エチルヘキシル)セバケート等);ポリエステル(例えばトリメリット酸エステル等);ポリオールエステル(例えばトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)等を挙げることができる。
【0025】
潤滑油基油((A)成分)は、1種の基油からなってもよく、2種以上の基油を含む混合基油であってもよい。2種以上の基油を含む混合基油においては、それらの基油のAPI分類は同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。ただし、APIグループVの基油の含有量は、潤滑油基油全量基準で0~20質量%(より好ましくは0~15質量%、更に好ましくは0~10質量%)であることが好ましい。APIグループVの基油の一種であるエステル系基油の含有量を上記上限値以下とすることにより、潤滑油組成物の酸化安定性および電気絶縁性をより高めることが可能になる。
【0026】
(A)成分は、100℃における動粘度が1.8~4.5mm2/s(より好ましくは2.1~4.5mm2/s、特に好ましくは2.3~4.2mm2/s)の潤滑油基油であることが好ましい。潤滑油基油の100℃における動粘度が前記上限値以下である場合には、その上限値を超えた場合と比較して、省燃費性をより高めることが可能になる。潤滑油基油の100℃における動粘度が前記下限値以上である場合には、その下限値未満である場合と比較して、耐摩耗性、耐疲労性および電気絶縁性をより高めることが可能になる。なお、本明細書において「100℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された100℃での動粘度を意味する。
【0027】
前記(A)成分は、40℃における動粘度が5.0~20.0mm2/s(より好ましくは7.0~20.0mm2/s、特に好ましくは7.7~19.5mm2/s)の潤滑油基油であることが好ましい。潤滑油基油の40℃における動粘度が前記上限値以下である場合には、その上限値を超えた場合と比較して、省燃費性をより高めることが可能になる。潤滑油基油の40℃における動粘度が前記下限値以上である場合には、その下限値未満である場合と比較して、耐摩耗性、耐疲労性および電気絶縁性をより高めることが可能になる。なお、本明細書において「40℃における動粘度」とは、JIS K 2283-2000に準拠し、測定装置として自動粘度計(商品名「CAV-2100」、Cannon Instrument社製)を用いて測定された40℃での動粘度を意味する。
【0028】
前記(A)成分は、粘度指数が100以上(より好ましくは105以上、更に好ましくは110以上、特に好ましくは120以上、最も好ましくは125以上)の潤滑油基油であることが好ましい。潤滑油基油の粘度指数が前記下限値以上である場合には、その下限値未満である場合と比較して、潤滑油組成物の粘度-温度特性をより向上させて、摩擦係数をより低減し、また、耐摩耗性をさらに向上させることが可能になる。なお、本明細書において「粘度指数」とは、JIS K 2283-1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0029】
また、(A)成分である潤滑油基油中の硫黄分の含有量は、酸化安定性の観点から、好ましくは0.03質量%(300質量ppm)以下、より好ましくは50質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下であり、最も好ましくは1質量ppm以下である。
【0030】
前記(A)成分は、本発明の潤滑油組成物の主要部を占めるもの(主成分)である。潤滑油組成物中の(A)成分の含有量(潤滑油基油が複数種の基油の混合物(混合基油)である場合にはその総量の割合)は、潤滑油組成物全量基準で80質量%以上(より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは92質量%以上)であることが好ましい。なお、(A)成分の含有量は、場合により(例えば、その用途、他の成分との関係、等に応じて)、潤滑油組成物全量基準で75.0~99.5質量%としてもよい。
【0031】
<(B1)成分:ジチオホスホリル化脂肪酸エステル>
本発明において(B1)成分として利用するジチオホスホリル化脂肪酸エステルとしては、特に制限されず、公知のジチオホスホリル化脂肪酸エステル化合物(例えば、特開2010-150562号公報や特開2010-138416号公報に記載されているホスホリル化カルボン酸のうちのエステルとなるもの等)を適宜利用できる。
【0032】
(B1)成分としては、下記一般式(1):
【0033】
【0034】
[式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~30の炭化水素基を示し、R3は炭素数1~20のアルキレン基を示し、R4は炭素数1~30の炭化水素基を示す。]
で表される化合物であることが好ましい。
【0035】
一般式(1)中のR1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~30の炭化水素基を示す。炭素数1~30の炭化水素基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、又は、アリールアルキル基を挙げることができ、中でも、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましい。
【0036】
R1及びR2として好適に選択され得る、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、第三ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、3-ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、2-エチルブチル基、1-メチルフェニル基、1,3-ジメチルブチル基、1,1,3,3-テトラメチルブチル基、1-メチルヘキシル基、イソヘプチル基、1-メチルヘプチル基、1,1,3-トリメチルヘキシル基及び1-メチルウンデシル基などが挙げられる。
【0037】
また、一般式(1)中のR1及びR2として選択され得る直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基の炭素数は、1~18であることが好ましく、3~18のアルキル基であることがより好ましく、3~8であることが更に好ましい。
【0038】
一般式(1)中のR3は炭素数1~20のアルキレン基を示す。かかるアルキレン基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4である。R3として選択され得る前記アルキレン基としては、下記一般式(3):
【0039】
【0040】
[式(3)中、R8、R9、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を示す。ただし、R8、R9、R10及びR11では炭素数の合計が6以下という条件を満たす。]
で表されるアルキレン基が好ましい。
【0041】
また、一般式(3)中のR8、R9、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~3(更に好ましくは1~2)の炭化水素基であり、この場合に、R8、R9、R10及びR11の炭素数の合計は5以下(更に好ましくは4以下、特に好ましくは3以下)という条件を満たすことがより好ましい。また、一般式(3)中のR8、R9、R10及びR11は、それらの全てが水素原子であるか、あるいは、R8及びR9が共に水素原子でありかつR10及びR11の一方が水素原子でもう一方がメチル基であることが好ましい。
【0042】
一般式(1)のR4は、水素原子又は炭素数1~30の炭化水素基を示す。かかる炭化水素基としては、R1及びR2において説明した炭素数1~30の炭化水素基と同義である(基本的に、好適なものも同義である)。なお、一般式(1)のR4としては、中でも、炭素数が1~8(最も好ましくは1~4)の直鎖状のアルキル基が特に好ましく、エチル基であることが最も好ましい。
【0043】
また、一般式(1)で表される化合物は、前記化合物(X)であることがより好ましい。すなわち、一般式(1)で表される化合物としては、一般式(1)中のR1及びR2が、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~18(更に好ましくは3~18、特に好ましくは3~8)のアルキル基を示し、R3が直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基(特に好しくは上記一般式(3)で表されるアルキレン基)を示し、R4が炭素数1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基(特に好ましくは炭素数が1~8の直鎖状のアルキル基、最も好ましくは炭素数が1~4の直鎖状のアルキル基)を示す化合物であることがより好ましい。
【0044】
(B1)成分を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用できる。また、(B1)成分としては市販品を利用してもよい。
【0045】
<(B2)成分:ジチオホスホリル化脂肪酸>
本発明において(B2)成分として利用するジチオホスホリル化脂肪酸としては、特に制限されず、公知のジチオホスホリル化脂肪酸化合物(例えば、特開2010-150562号公報や特開2010-138416号公報に記載されているホスホリル化カルボン酸等)を適宜利用できる。
【0046】
(B2)成分としては、下記一般式(2):
【0047】
【0048】
[式(2)中、R5及びR6は、それぞれ独立に、炭素数1~30の炭化水素基を示し、R7は炭素数1~20のアルキレン基を示す。]
で表される化合物であることが好ましい。
【0049】
前記一般式(2)中のR5及びR6として選択され得る炭素数1~30の炭化水素基はそれぞれ前記一般式(1)中のR1及びR2として選択され得る炭素数1~30の炭化水素基と同義であり(その好適なものも同義である)、また、前記一般式(2)中のR7として選択され得る炭素数1~20のアルキレン基は前記一般式(1)中のR3として選択され得る炭素数1~20のアルキレン基と同義である(その好適なものも同義である)。
【0050】
また、一般式(2)で表される化合物としては、前記化合物(Y)であることがより好ましい。すなわち、一般式(2)で表される化合物としては、一般式(2)中のR5及びR6が、それぞれ独立に、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~18(更に好ましくは3~18、特に好ましくは3~8)のアルキル基を示し、R7が直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基(特に好しくは上記一般式(3)で表されるアルキレン基)を示す化合物であることがより好ましい。
【0051】
(B2)成分を製造するための方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用できる。また、(B2)成分としては市販品を利用してもよい。
【0052】
<(B1)成分及び(B2)成分の含有量について>
(B1)成分の含有量は、潤滑油組成物の全質量を基準として0.01質量%以上0.50質量%以下(より好ましくは0.10質量%以上0.40質量%以下)である。(B1)成分の含有量が前記下限値以上である場合にはその下限値未満である場合と比較して耐摩耗性をより向上させることが可能となる。他方、(B1)成分の含有量が前記上限値以下である場合には、その上限値を超えた場合と比較して耐摩耗性及び電気絶縁性をより向上させることが可能となる。
【0053】
また、(B2)成分の含有量は、潤滑油組成物の全質量を基準として0.005質量%以上0.15質量%以下(より好ましくは0.01質量%以上0.10質量%以下)である。(B2)成分の含有量が前記下限値以上である場合にはその下限値未満である場合と比較して耐摩耗性をより向上させることが可能となる。他方、(B2)成分の含有量が前記上限値以下である場合には、その上限値を超えた場合と比較して電気絶縁性をより向上させることが可能となる。
【0054】
また、本発明の潤滑油組成物においては、(B1)成分の含有量及び(B2)成分の含有量に関して、下記式(I):
0.30≦[M(B1)/(M(B1)+M(B2))]≦0.95 (I)
[式(I)中、M(B1)は潤滑油組成物の全質量を基準とした(B1)成分の含有量(質量比)を示し、M(B2)は潤滑油組成物の全質量を基準とした(B2)成分の含有量(質量比)を示す。]
で表される条件を満たす必要がある。上記式(I)中の[M(B1)/(M(B1)+M(B2))]の値を前記範囲内の値(0.30~0.95の範囲内の値)とすることで、それ以外の場合と比較して、より高い水準の優れた耐摩耗性を得ることが可能となり、十分に高い水準の電気絶縁性と、優れた耐摩耗性とを両立させることが可能となる。さらに、同様の観点でより高い効果が得られることから、式(I)中の[M(B1)/(M(B1)+M(B2))]の値は0.40以上0.90以下であることがより好ましく、0.50以上0.85以下であることが特に好ましい。
【0055】
<添加剤>
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分、(B1)成分、(B2)成分以外にも、その性能を更に向上させるために、目的に応じて潤滑油組成物に一般的に使用されている公知の添加剤を適宜含有させてもよい。また、本発明の潤滑油組成物に含有させる添加剤としては、中でも、潤滑油組成物の酸化安定性がより向上するといった観点から、(C)金属系清浄剤、(D)無灰分散剤、(E)酸化防止剤が好ましい。なお、本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油組成物の酸化安定性をさらに高めることが可能となることから、(C)成分、(D)成分及び(E)成分を組み合わせて含有させることが特に好ましい。
【0056】
<(C)成分:金属系清浄剤>
本発明の潤滑油組成物は、耐摩耗性及び酸化安定性をより向上させることが可能となることから、(C)金属系清浄剤を更に含むことが好ましい。(C)成分としては、特に制限されず、公知の金属系清浄剤を適宜利用でき、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を陽性成分とするスルホネート清浄剤、フェネート清浄剤、サリシレート清浄剤等を挙げることができる。また、(C)成分の中でも、耐摩耗性及び酸化安定性の点でより高い効果が得られることから、スルホネート清浄剤、サリシレート清浄剤が好ましい。
【0057】
また、前記(C)成分として好適なスルホネート清浄剤としては、例えば、分子量300~1500(より好ましくは400~1300)のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を好適なものとして挙げることができる。前記アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。さらに、前記石油スルホン酸や合成スルホン酸としては公知のものを適宜利用できる。
【0058】
また、前記スルホネート清浄剤としては、(C1)カルシウムスルホネート清浄剤がより好ましい。なお、(C1)成分としては、例えば、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩であるカルシウムスルホネート、前記カルシウムスルホネートの塩基性塩、前記カルシウムスルホネートの過塩基性塩を挙げることができる。なお、塩基性塩や過塩基性塩の調製方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用できる。また、前記スルホネート清浄剤としては、潤滑油組成物に利用可能な公知のもの(例えば、特開2016-020454号公報に記載されているもの等)を適宜利用できる。
【0059】
(C)成分として好適なサリシレート清浄剤としては、特に制限されないが、例えば、置換基として炭素数4~36(より好ましくは14~30)のアルキル基又はアルケニル基を1~2個有するアルキルサリチル酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩及びこれらの混合物等を挙げることができる。前記サリシレート清浄剤としては、(C2)カルシウムサリシレート清浄剤がより好ましい。なお、(C2)成分としては、例えば、カルシウムサリシレート、カルシウムサリシレートの塩基性塩、カルシウムサリシレートの過塩基性塩を用いることができる。なお、塩基性塩や過塩基性塩の調製方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用できる。また、(C2)成分としては、潤滑油組成物に利用可能な公知のもの(例えば、特開2020-076004号公報、国際公開第2020/095970号に記載されているもの等)を適宜利用できる。
【0060】
また、(C)成分としては、耐摩耗性及び酸化安定性の点で更に高い効果が得られることから、(C1)成分、(C2)成分がより好ましく、(C1)成分が特に好ましい。このように、(C)成分としては、カルシウムスルホネート清浄剤が特に好ましい。なお、(C)成分は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0061】
前記(C)成分である金属系清浄剤の塩基価は特に制限されるものではないが、好ましくは50~500mgKOH/gであり、より好ましくは100~500mgKOH/g、特に好ましくは150~500mgKOH/gである。(C)成分の塩基価が上記下限値以上であることにより、酸化劣化後の組成物の電気絶縁性をさらに高めることが可能になる。
【0062】
また、(C)成分の製造方法は特に制限されるものではなく、公知の製造方法を適宜利用できる。なお、(C)成分としては市販品を利用してもよい。
【0063】
本発明の潤滑油組成物に(C)成分を含有させる場合、(C)成分の含有量は、特に制限されないが、潤滑油組成物全量基準で0.01~0.50質量%(より好ましくは0.05~0.30質量%)であることが好ましい。また、(C)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で金属元素の質量が10~500質量ppm(より好ましくは50~300質量ppm)となる量であることが好ましい。(C)成分の含有量が前記上限値以下である場合には、前記上限値を超えた場合と比較して、潤滑油組成物の電気絶縁性をより高めることが可能になる。他方、(C)成分の含有量が前記下限値以上である場合には、前下限値未満の場合と比較して、耐疲労性をより向上させることが可能になる。
【0064】
<(D)成分:無灰分散剤>
本発明の潤滑油組成物としては、使用時に摩耗により生じた金属粉をより高度に分散させることができ、耐摩耗性をより向上させることが可能となるとともに、酸化安定性をより向上させることが可能となることから、(D)無灰分散剤を更に含有することが好ましい。
【0065】
(D)成分としては、潤滑油組成物の分野において無灰分散剤として用いられている公知の化合物(例えば、特開2003-155492号公報、特開2020-76004号公報、国際公開2013/147162号等参照)が適宜使用できる。前記無灰分散剤としては、例えば、直鎖又は分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノ又はビスコハク酸イミド、アルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。なお、前記(D)成分において、前記直鎖又は分枝状のアルキル基又はアルケニル基は、炭素数40~400(より好ましくは60~350)の直鎖又は分枝状のアルキル基又はアルケニル基であることが好ましい。
【0066】
また、(D)成分としては、金属粉などに対するより優れた分散性の付与の観点から、(D1)ホウ素化コハク酸イミド(前述のモノ又はビスコハク酸イミドのホウ素変性化合物等)、(D2)非ホウ素化コハク酸イミド(前述のモノ又はビスコハク酸イミド等)、及び、これらの混合物を好適に利用できる。
【0067】
また、(D1)成分及び(D2)成分としては、無灰分散剤として用いられている公知のホウ素化コハク酸イミド化合物、非ホウ素化コハク酸イミド化合物を適宜利用できる。また、(D1)成分及び(D2)成分としては、それぞれ窒素原子の含有量が(D1)成分又は(D2)成分全量基準で0.5~3.0質量%のものが好ましい。また、(D1)成分としては、(D1)成分全量基準でホウ素原子の含有量が0.1~5.0質量%のものが好ましい。更に、(D1)成分及び(D2)成分は、それぞれ重量平均分子量が1000~20000(より好ましくは2000~20000、更に好ましくは4000~15000)のものが好ましい。なお、(D)成分は1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0068】
本発明の潤滑油組成物に(D)成分を含有させる場合、(D)成分の含有量は特に制限されないが、前記潤滑油組成物の全量を基準として0.1~5.0質量%(より好ましくは0.1~2.5質量%)であることが好ましい。(D)成分の含有量を前記範囲内とすることにより、電気絶縁性を更に向上させることが可能となる。
【0069】
<(E)成分:酸化防止剤>
本発明の潤滑油組成物としては、酸化安定性をより向上させることが可能となることから、(E)酸化防止剤を更に含有することが好ましい。(E)成分としては特に制限されず、潤滑油組成物の分野において酸化防止剤として利用されている公知のものを適宜利用でき、例えば、(E1)フェノール系酸化防止剤(以下、場合により単に「(E1)成分」と称する)、(E2)アミン系酸化防止剤(以下、場合により単に「(E2)成分」と称する)、等を挙げることができる。
【0070】
(E1)成分としては、例えば、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール);2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール);2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール;2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール;2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N’-ジメチルアミノメチル)フェノール;4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール);4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール);2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール);ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド;3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル類;3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェノール脂肪酸エステル類、等のヒンダードフェノール化合物およびビスフェノール化合物を挙げることができる。3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸エステル類の例としては、オクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;デシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ドデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;テトラデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ヘキサデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート];2,2’-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、等を挙げることができる。
【0071】
(E2)成分としては、例えば、芳香族アミン系酸化防止剤、及び、ヒンダードアミン系酸化防止剤等のアミン系酸化防止剤として公知の化合物(例えば、国際公開第2020/095970号に例示されている化合物等)を適宜利用できる。前記芳香族アミン系酸化防止剤としては、中でも、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミンを好適に利用できる。また、前記ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を有する化合物(2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン誘導体)等を好適に利用できる。前記アミン系酸化防止剤としては、中でも、芳香族アミン系酸化防止剤をより好適に用いることができる。
【0072】
また、(E)成分としては1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、(E)成分としては、潤滑油組成物の酸化劣化を長期にわたり抑制することが可能となる観点から、(E1)成分と(E2)成分を組み合わせて利用することが好ましい。
【0073】
本発明の潤滑油組成物に(E)成分を含有させる場合、(E)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.1~1.5質量%(より好ましくは0.1~1.0質量%)であることが好ましい。(E)成分の含有量を前記範囲内とすることにより、酸化安定性及び電気絶縁性を更に向上させることが可能になる。また、本発明の潤滑油組成物に(E1)成分を含有させる場合、(E1)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で0質量%超1.5質量%以下(より好ましくは0質量%超1.0質量%以下)であることが好ましい(なお、かかる含有量の下限値は0.1質量%以上とすることがより好ましい)。(E1)成分の含有量を前記範囲内とすることにより、電気絶縁性を更に向上させることが可能になる。また、本発明の潤滑油組成物に(E2)成分を含有させる場合、(E2)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で0質量%超1.5質量%以下(より好ましくは0質量%超1.0質量%以下)であることが好ましい(なお、かかる含有量の下限値は0.005質量%以上とすることがより好ましい)。また、(E2)成分を含有させる場合、(E2)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で窒素の質量が0質量%超0.15質量%以下(より好ましくは0質量%超0.10質量%以下)となる量とすることが好ましい(なお、窒素の質量の下限値は0.0005質量%以上とすることがより好ましい)。(E2)成分の含有量を前記範囲内とすることにより、電気絶縁性を更に向上させることが可能になる。
【0074】
<その他の添加剤>
以上、添加剤に関して、本発明の潤滑油組成物に好適に利用可能な添加剤である(C)金属系清浄剤、(D)無灰分散剤、及び、(E)酸化防止剤を説明したが、本発明の潤滑油組成物に利用可能な添加剤は上記(C)~(E)成分に限定されるものではなく、前述のように、潤滑油組成物の分野において利用されている公知の他の添加剤を適宜利用できる。また、上記(C)~(E)成分以外の他の添加剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、流動点降下剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、希釈油、粘度指数向上剤、防錆剤、抗乳化剤、着色剤、腐食防止剤等を挙げることができる。また、かかる他の添加剤としては特に制限されず、公知のもの(例えば、特開2003-155492号公報、国際公開2017/073748号、特開2020-76004号公報、国際公開第2020/095970号等に記載されているもの等)を適宜利用できる。
【0075】
<潤滑油組成物>
本発明の潤滑油組成物としては、100℃における動粘度が2.0~5.0mm2/sであるものがより好ましい。また、本発明の潤滑油組成物は、40℃における動粘度が7.0~20.5mm2/sであるものがより好ましい。これらの動粘度が前記記上限値以下である場合にはいずれも、前記記上限値を超えた場合と比較して省燃費性をより向上させることが可能になる。他方、これらの動粘度が前記下限値以上である場合にはいずれも、前記下限値未満である場合と比較して、耐焼付き性、耐摩耗性、耐疲労性及び電気絶縁性をより向上させることが可能になる。
【0076】
本発明の潤滑油組成物を製造するための方法としては、特に制限されず、潤滑油組成物の全質量を基準とした(B1)成分の含有量が0.01質量%以上0.50質量%以下となり、潤滑油組成物の全質量を基準とした(B2)成分の含有量が0.005質量%以上0.15質量%以下となり、更に、(B1)及び(B2)成分の含有量が上記式(I)に記載の条件を満たすものとなるように、(A)成分、(B1)成分及び(B2)成分を含有させて、前記本発明の潤滑油組成物を得ることが可能となるような方法を適宜採用できる。
【0077】
また、本発明の潤滑油組成物は、耐摩耗性及び電気絶縁性を十分に高い水準で両立させることが可能であるため、例えば、電動モーター油、変速機油、電動モーターと変速機(歯車機構)との共通潤滑油、電動モーターと変速機(歯車機構)とを備える電動ドライブモジュールの潤滑油(電動モーター及び変速機を共に潤滑させるための潤滑油)等として好適に利用できる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
(各実施例等で利用した成分について)
先ず、各実施例等において利用した潤滑油基油及び添加剤を以下に示す。
【0080】
[(A)成分:潤滑油基油]
A-1:水素化精製鉱油(API基油分類:Group II、動粘度(40℃):7.7mm2/s、動粘度(100℃):2.3mm2/s、粘度指数:118、硫黄分:1質量ppm未満)
A-2:水素化精製鉱油(API基油分類:Group III、動粘度(40℃):19.5mm2/s、動粘度(100℃):4.2mm2/s、粘度指数:125、硫黄分:1質量ppm未満)
A-3:ワックス異性化基油(API基油分類:Group III、動粘度(40℃):9.3mm2/s、動粘度(100℃):2.7mm2/s、粘度指数:125、硫黄分:1質量ppm未満)
A-4:ワックス異性化基油(API基油分類:Group III、動粘度(40℃):15.7mm2/s、動粘度(100℃):3.8mm2/s、粘度指数:143、硫黄分:1質量ppm未満)
A-5:ポリα-オレフィン(API基油分類:Group IV、動粘度(40℃):5.0mm2/s、動粘度(100℃):1.7mm2/s)
A-6:ポリα-オレフィン(API基油分類:Group IV、動粘度(40℃):18.4mm2/s、動粘度(100℃):4.1mm2/s、粘度指数:124)
A-7:モノエステル基油(API基油分類:Group V、動粘度(40℃):8.5mm2/s、動粘度(100℃):2.7mm2/s、粘度指数:177)。
【0081】
[(B)成分:ジチオホスホリル化脂肪酸化合物]
B-1:ジチオホスホリル化脂肪酸エステル:下記式(X1)で表される化合物(BASF社製、商品名「Irgalube 63」、エチル-3-[(ビスイソプロピルオキシホスフィノチオイル)チオ]プロピオネート)
【0082】
【0083】
B-2:ジチオホスホリル化脂肪酸:下記式(Y1)で表される化合物(BASF社製、商品名「Irgalube 353」、ビス(2-メチルプロポキシ)フォスフィノチオールチオ-2-メチル)
【0084】
【0085】
[(C)成分:金属系清浄剤]
C-1:カルシウムスルホネート清浄剤(塩基価300mgKOH/g、カルシウム原子の含有量:11.6質量%)
C-2:カルシウムサリシレート清浄剤(塩基価325mgKOH/g、カルシウム原子の含有量:11.4質量%)。
【0086】
[(D)成分:無灰分散剤]
D-1:ホウ素化コハク酸イミド(窒素原子の含有量:0.73質量%、ホウ素原子の含有量:0.19質量%、重量平均分子量:9300)
D-2:非ホウ素化コハクイミド(窒素原子の含有量:1.5質量%、重量平均分子量:4600)。
【0087】
[(E)成分:酸化防止剤]
E-1:フェノール系酸化防止剤:3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクチル
E-2:アミン系酸化防止剤:モノブチルフェニルモノオクチルフェニルアミン(窒素原子の含有量:4.5質量%)。
【0088】
(実施例1~21及び比較例1~6)
表1~4に示す組成となるように、前述の各成分を利用して、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。なお、表1~4中において「-」はその成分を利用していないことを示す。また、下記表1~4中において、(A)成分の含有量の単位の「inmass%」は潤滑油基油の全量に対する各基油成分の含有量(質量%)を表し、(B)~(E)成分の含有量の単位の「mass%」は潤滑油組成物全量に対する各添加剤の含有量(質量%)を表す。また、表1~4には、各実施例等で用いる(A)成分(2種の基油の混合物である場合にはその混合物)の40℃における動粘度と100℃における動粘度を併せて示す。また、表1~4には、各潤滑油組成物に関して、B-1の含有量をM(B-1)とし、B-2の含有量をM(B-2)とした場合における「M(B-1)/(M(B-1)+M(B-2))」の値を併せて示す。
【0089】
[各実施例等で得られた潤滑油組成物の特性の評価方法について]
<電気絶縁性の評価:体積抵抗率の測定>
各実施例等で得られた潤滑油組成物の体積抵抗率は、JIS C 2101:1999に規定されている体積抵抗率試験に準拠して、油温80℃の条件で測定することにより求めた。得られた結果(体積抵抗率の値[単位:1010Ω・cm])を表1~4にそれぞれ示す。なお、本明細書においては、体積抵抗率が1.0×1010Ω・cm以上である電気絶縁性が十分に高い水準にあるものと評価する。
【0090】
<耐摩耗性の評価:高速四球試験>
JPI-5S-40-93に準拠した試験方法(高速四球試験)で、高速四球試験機を回転数1800rpm、荷重392N、油温80℃で30分間運転する条件を採用して、摩耗痕径の大きさを潤滑油組成物ごとにそれぞれ測定した。得られた結果(摩耗痕径の大きさ[単位:mm])を表1~4にそれぞれ示す。なお、本試験において摩耗痕径が小さいほど、耐摩耗性に優れたものであることが分かる。本明細書においては、摩耗痕径が0.8mm以下である場合に耐摩耗性が優れたものであると評価する。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
表1~4に示す結果からも明らかなように、潤滑油基油と、潤滑油組成物全量基準の含有量が0.01質量%以上0.50質量%以下のB-1(ジチオホスホリル化脂肪酸エステル)と、潤滑油組成物全量基準の含有量が0.005質量%以上0.15質量%以下のB-2(ジチオホスホリル化脂肪酸)とを含み、かつ、M(B-1)/(M(B-1)+M(B-2))の値が0.30以上0.95以下の範囲内にある、実施例1~22で得られた潤滑油組成物(本発明の潤滑油組成物に相当)はいずれも、体積抵抗率が1.0×1010Ω・cm以上となっており、電気絶縁性が十分に高い水準にあることが確認された。また、実施例1~22で得られた潤滑油組成物(本発明の潤滑油組成物に相当)はいずれも、高速四球試験に用いた場合に摩耗痕径が0.80mm以下(0.79mm以下)となり、耐摩耗性に優れたものであることも確認された。
【0096】
一方、B-2を利用していない比較例1で得られた潤滑油組成物(B-2の含有量が0.005質量%未満の潤滑油組成物)は、高速四球試験に用いた場合に摩耗痕径が1.68mmとなり、耐摩耗性の点で十分なものではなかった。また、B-1を利用していない比較例2で得られた潤滑油組成物(B-1の含有量が0.01質量%未満の潤滑油組成物)も、高速四球試験に用いた場合に摩耗痕径が0.90mmとなり、耐摩耗性の点で十分なものではなかった。さらに、B-1及びB-2を含む潤滑油組成物であっても、M(B-1)/(M(B-1)+M(B-2))の値が0.95を超えた値となっている場合(比較例3)と、M(B-1)/(M(B-1)+M(B-2))の値が0.30未満の値となっている場合(比較例4)には、これらを高速四球試験に用いた場合に摩耗痕径がそれぞれ1.25mm(比較例3)及び0.89(比較例4)となり、やはり耐摩耗性の点で十分なものとはならなかった。更に、B-1及びB-2を含みかつM(B-1)/(M(B-1)+M(B-2))の値が0.30以上0.95以下の範囲内にある潤滑油組成物であっても、B-1の含有量が0.50質量%を超えている場合(比較例5)には、高速四球試験に用いた場合に摩耗痕径が0.82mmとなり、耐摩耗性の点で十分なものとはならず、他方、B-2の含有量が0.15質量%を超えている場合(比較例6)には、体積抵抗率が1.0×1010Ω・cm未満となり、電気絶縁性が十分なものとはならないことが分かった。
【0097】
このような結果から、本発明の潤滑油組成物(実施例1~22)によって、電気絶縁性と耐摩耗性とを共に優れたものとすることが可能となり、十分に高い水準の電気絶縁性と優れた耐摩耗性とを両立させることが可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上説明したように、本発明によれば、十分に高い水準の電気絶縁性と、優れた耐摩耗性とを両立させることが可能な潤滑油組成物を提供することが可能となる。したがって、本発明の潤滑油組成物は、電動モーターと変速機とを共に潤滑させるために利用する潤滑油等として特に有用である。