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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】中空成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/118 20170101AFI20240719BHJP
   B29C 64/188 20170101ALI20240719BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20240719BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240719BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240719BHJP
【FI】
B29C64/118
B29C64/188
B29C70/16
B33Y10/00
B33Y80/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020194554
(22)【出願日】2020-11-24
(65)【公開番号】P2022083230
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】市来 英明
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕二
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-514725(JP,A)
【文献】特開2019-001069(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0139260(US,A1)
【文献】特表2018-508384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B29C 70/16
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層方式の3Dプリンタが、中空成形体の側部を造形する工程と、
造形された中空成形体の底部又はステージと前記側部とで囲まれる空間に充填材を投入して、前記空間を前記充填材で満たす工程と、
前記3Dプリンタが、前記側部及び前記充填材の上に前記中空成形体の上部を造形する工程と
前記中空成形体に開口部を形成する工程と、前記開口部から充填材を除去する工程と、を含む、中空成形体の製造方法。
【請求項2】
前記充填材は発泡体である、請求項1に記載の中空成形体の製造方法。
【請求項3】
前記充填材は熱硬化性樹脂発泡体である、請求項1から2のいずれか一項に記載の中空成形体の製造方法。
【請求項4】
前記充填材は熱可塑性樹脂の粉体である、請求項に記載の中空成形体の製造方法。
【請求項5】
前記充填材が結晶性熱可塑性樹脂の場合、融点は、前記3Dプリンタが造形に用いる樹脂の融点より高く、前記充填材が非晶性熱可塑性樹脂の場合、前記3Dプリンタが造形に用いる樹脂のガラス転移点よりも高い、請求項に記載の中空成形体の製造方法。
【請求項6】
前記充填材は無機化合物の粉体である、請求項に記載の中空成形体の製造方法。
【請求項7】
前記中空成形体は、連続繊維強化熱可塑性樹脂で造形される、請求項1からのいずれか一項に記載の中空成形体の製造方法。
【請求項8】
前記上部を造形する工程の後に、前記3Dプリンタが造形に用いる樹脂の融点又はガラス転移点以上に昇温した金型を用いて、前記空間が前記充填材で満たされた前記中空成形体をプレス成形する工程を含む、請求項1、4、5、6、のいずれか一項に記載の中空成形体の製造方法。
【請求項9】
前記上部を造形する工程の後に、成形体の表面を前記3Dプリンタが造形に用いる樹脂の融点又はガラス転移点以上に加熱し、金型を用いて、前記空間が前記充填材で満たされた前記中空成形体をプレス成形する工程を含む、請求項1、4、5、6、7、のいずれか一項に記載の中空成形体の製造方法。
【請求項10】
前記中空成形体を造形する工程は、0.1MPa以上の圧力で造形する、請求項1からのいずれか一項に記載の中空成形体の製造方法。
【請求項11】
前記充填材は、直径が0.1mm以下である、請求項1から10のいずれか一項に記載の中空成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中空成形体の製造方法及び中空成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3次元形状の造形物を造形できる3Dプリンタが普及してきている。3Dプリンタの造形方式として、熱可塑性樹脂等を融解したのち硬化させることで断面層を形成する熱溶解積層方式(Fused Deposition Modeling:FDM)が知られている。熱溶解積層方式は材料押出堆積方式とも呼ばれる。
【0003】
3次元形状の造形物が例えば中空である場合に、空間の上部の部材を支持するために、空間にサポート造形物(以下、単に「サポート」と称する)を形成し、対象の造形物とサポートとが一体となった全体造形物を造形することがある。サポートは、造形が終了すると不要になるため、全体造形物から除去される必要がある。例えば特許文献1は、全体造形物からサポートを高精度で除去することができる3次元造形物の製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-77683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、サポートは、造形対象である中空の造形物(以下、「中空成形体」と称する)の造形と同時に造形され、造形終了後に中空成形体から除去される。そのため、中空成形体の製造において、サポートの造形及び除去に時間がかかり、材料のコストが高くなるという問題がある。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、造形時間を短縮し、製造コストを低減できる中空成形体の製造方法及び中空成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施形態に係る中空成形体の製造方法は、
熱溶解積層方式の3Dプリンタが、中空成形体の側部を造形する工程と、
造形された中空成形体の底部又はステージと前記側部とで囲まれる空間に充填材を投入して、前記空間を前記充填材で満たす工程と、
前記3Dプリンタが、前記側部及び前記充填材の上に前記中空成形体の上部を造形する工程と、を含む。
【0008】
本開示の一実施形態に係る中空成形体は、
最内層に10cm以上の平面部分が存在する3辺以上の多角形中空積層体のある最内層の平面Sz1の最大高さであるSz1と、平面Sz1の最大低さであるSz1に対して、その対面にあるいずれかの平面Sz2の最大高さであるSz2と、平面Sz2の最大低さであるSz2が、Sz2+Sz2<Sz1+Sz1≦(Sz2+Sz2)×1.2を満たす。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、造形時間を短縮し、製造コストを低減できる中空成形体の製造方法及び中空成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係る中空成形体の製造方法を実行する製造システムの構成例を示す図である。
図2図2は、3Dプリンタを説明するための図である。
図3図3は、造形対象である中空成形体を例示する図である。
図4図4は、造形される中空成形体の変化を説明する図である。
図5図5は、開口部の形成について説明するための図である。
図6図6は、一実施形態に係る中空成形体の製造方法を示すフローチャートである。
図7図7は、比較例の中空成形体を示す図である。
図8図8は、実施例1のサイズを示す図である。
図9図9は、実施例2及び実施例3のサイズを示す図である。
図10図10は、最大高さ及び最大低さを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(製造システム)
図1は製造システム1の構成例を示す図である。一実施形態に係る中空成形体20(図3参照)の製造方法は、製造システム1によって実行される。製造システム1は、製造管理装置10と、3Dプリンタ11と、充填材投入装置12と、プレス装置13と、切断装置14と、充填材除去装置15と、を備える。
【0012】
製造管理装置10は中空成形体20の製造ラインを管理する装置である。製造管理装置10はプロセスコンピュータであってよい。製造管理装置10は、3Dプリンタ11、充填材投入装置12、プレス装置13、切断装置14及び充填材除去装置15のそれぞれと通信して、中空成形体20の製造に必要な情報の入出力を実行する。製造管理装置10は、処理を実行する装置を切り替えたり、動作のタイミングを制御したりしてよい。例えば、製造管理装置10は、3Dプリンタ11によって中空成形体20の空間が形成された場合に、溶融樹脂が十分に固化する時間をおいてから、充填材投入装置12に、空間への充填材30(図4参照)の投入を開始させてよい。
【0013】
3Dプリンタ11は、3次元形状の造形物を造形する3次元造形装置である。本実施形態において、3Dプリンタ11は熱溶解積層方式で造形を行う。図2に示すように、3Dプリンタ11は、熱可塑性樹脂を含む材料(フィラメント)を加熱溶融し、平面内で移動可能なノズル110から溶融した材料を押し出し、下から上に(高さ方向に)層を積み上げて造形する。本実施形態において、3Dプリンタ11が造形の対象とする造形物は、内部に空間を有する中空成形体20である。中空成形体20の造形の詳細については後述する。ここで、ステージ112は造形が行われる台である。ステージ112は、例えば金属製である。ステージ112は、固定台であってよいし、本実施形態のように上下に可動な台であってよい。
【0014】
3Dプリンタ11が造形に用いる樹脂は、例えば熱可塑性樹脂のみで構成されてよいし、フィラーを含んで構成されてよい。熱可塑性樹脂は、例えばポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6/12、ポリアミド6/10、ポリアミド6I、ポリアミド6Tなどのポリアミド系樹脂であってよいし、ポリエーテルエーテルケトンなどであってよい。フィラーは、例えばガラス繊維、炭素繊維、ガラスビーズ、金属粉、セラミックなどであってよい。本実施形態において、3Dプリンタ11は、連続繊維をフィラーとして含む連続繊維強化熱可塑性樹脂を用いる。連続繊維強化熱可塑性樹脂は固化した場合に高強度であって、中空成形体20の造形に適している。
【0015】
充填材投入装置12は、中空成形体20の空間に充填材30を投入する。充填材30は、粉体又は発泡体であって、造形中の中空成形体20の空間を埋めるものである。充填材30の詳細については後述する。
【0016】
プレス装置13は、上側の金型と下側の金型との間に中空成形体20を挟んで、プレス成形する。プレス成形によって、中空成形体20の形状を整えることができる。また、プレス装置13は、充填材30が中空成形体に導入されている状態で中空成形体を加熱・軟化させて3Dプリンタ11のノズル110が造形の際にかける圧力よりも強い圧力を中空成形体20にかけて、中空成形体20の機械物性と外観を高めることができる。
【0017】
切断装置14は、造形中の中空成形体20の一部を切断する。本実施形態において、切断装置14は、中空成形体20の空間を埋めている充填材30を取り出すための開口部を形成するために、中空成形体20の一部の側面を切断する。ここで、中空成形体20が底部201(図4参照)を有しておらず、底面部分がそのまま開口部となる場合に、切断装置14による処理は実行されなくてよい。また、充填材30が発泡体の場合、切断装置14による処理は実行されなくてよい。発泡体が中空成形体の中空部分の空間を埋めたまま使用することで軽量かつ高剛性な中空成形体とすることが出来る。
【0018】
充填材除去装置15は、中空成形体20の空間を埋めている充填材30を除去する。充填材除去装置15は、例えば造形中の中空成形体20を、切断装置14によって形成された開口部が下になるように傾けて、開口部から充填材30を流出させる装置であってよい。また、充填材30が発泡体の場合、充填材除去装置15による処理は実行されなくてよい。発泡体が中空成形体の中空部分の空間を埋めたまま使用することで軽量かつ高剛性な中空成形体とすることが出来る。
【0019】
(中空成形体)
図3は、上記の製造システム1を用いて造形される最終的な(造形完了後の)中空成形体20を例示する図である。中空成形体20は、内部に空間を有しており、側面に空間に通じる開口部を有する。以下、中空成形体20の空間を囲む底面部分は、底部201と称される。また、中空成形体20の空間を囲む側面部分は、側部202と称される。また、中空成形体20の空間を囲む上面(天面)部分は、上部203と称される。本実施形態において、造形中の中空成形体20は、開口部を覆う側面部分である仮置き側部204を有する。仮置き側部204は、側部202とともに充填材30を空間に留めるための部材であって、造形完了前に切断されて除去される。
【0020】
図4は、造形される中空成形体20の変化を説明する図である。図4に示される中空成形体20の断面図は、図3に示されるA-Aにおける中空成形体20の断面に対応する。
【0021】
まず、3Dプリンタ11によって中空成形体20の底部201が造形される(図4の(a)参照)。
【0022】
底部201の上に、3Dプリンタ11によって側部202が造形される(図4の(b)参照)。このとき、空間の手前側及び奥側に仮置き側部204が造形される。つまり、底部201、側部202及び仮置き側部204で囲まれる空間が形成される。
【0023】
この空間の開いている上方から、充填材投入装置12によって充填材30が投入される。空間は充填材30によって、隙間なく埋められる(図4の(c)参照)。
【0024】
側部202、仮置き側部204及び充填材30の上に、3Dプリンタ11によって上部203が造形される(図4の(d)参照)。
【0025】
また、上部203を造形する工程の後に、プレス装置13によって中空成形体20がプレス成形される。ここで、3Dプリンタ11によって中空成形体20を造形する工程においてもノズル110によって圧力が加えられている。本実施形態において、ノズル110は、層間の接着強度が低下しないように、0.1MPa以上の圧力を加える。1MPa以上の圧力で中空成形体20が造形されることがさらに好ましい。プレス装置13によるプレス成形における圧力は特に限定されないが、少なくともノズル110がかける圧力よりも強い圧力に設定される。
【0026】
そして、図5に示すように、切断装置14によって仮置き側部204が除去される。中空成形体20の空間を埋めていた充填材30は、充填材除去装置15によって、仮置き側部204を除いたあとの開口部から除去される。このような工程を経て、中空成形体20が造形される(図4の(e)参照)。
【0027】
(充填材)
ここで、中空成形体20の空間を埋めるのに用いられる充填材30は、上記のように粉体又は発泡体である。充填材30は、例えば直径が0.1mm以下の微小粒子で構成され、空間の形状に関係なく空間を隙間なく埋めることができる。そのため、上部203は全体が支持された状態で安定して造形される。また、充填材30によって空間が隙間なく埋められるので、プレス成形によって中空成形体20が変形することがない。
【0028】
また、充填材30は表面が滑らかな粉体又は発泡体である。そのため、充填材30は、開口部から容易に除去されて、空間の壁面に残るようなことがない。例えば、充填材除去装置15によって、開口部が下になるように中空成形体20を手前側又は奥側に傾けることで、充填材30を空間に残さずに容易に除去することが可能である。また、除去された充填材30は、別の中空成形体20の造形で再利用され得る。そのため、中空成形体20と同じ材料のサポート40(図7参照)又は洗い流して除去する支持材を用いる場合と比較して、製造コストを低減させることができる。
【0029】
充填材30は無機化合物の粉体であってよい。無機化合物は、例えばアルミ、鉄などの金属を含んでよい。充填材30が無機化合物の粉体である場合、充填材30は一般に融点が高いため、熱に対して安定である。
【0030】
充填材30は熱可塑性樹脂の粉体であってよい。熱可塑性樹脂は、3Dプリンタ11が造形に用いる樹脂に応じて選択される。つまり、3Dプリンタ11のノズル110の熱によって充填材30が溶解して空間の壁面に残るようなことがないように、熱可塑性樹脂が選択される。充填材30が結晶性熱可塑性樹脂の場合、その融点が、3Dプリンタ11が造形に用いる樹脂の融点より高い樹脂が選択される。また、充填材30が非晶性熱可塑性樹脂の場合、その融点が、3Dプリンタ11が造形に用いる樹脂のガラス転移点よりも高い樹脂が選択される。
【0031】
充填材30は熱硬化性樹脂発泡体であってよい。熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂などが用いられてよい。また、これらのうちの二種以上の組み合わせが用いられてよい。
【0032】
ここで、3Dプリンタ11がレーザーを照射して溶解させた樹脂を用いて中空成形体20を造形するものである場合に、充填材30はレーザーを吸光しにくい性質を有することが好ましい。充填材30がレーザーの熱によって溶解することがないように、充填材30として、例えばレーザーの吸光率が50%以下である粉体又は発泡体が選択されることが好ましい。
【0033】
(製造方法)
図6は、本実施形態に係る中空成形体20の製造方法を示すフローチャートである。上記の製造システム1及び充填材30を用いて図6のフローチャートで示される製造方法が実行されることによって、中空成形体20が製造される。
【0034】
3Dプリンタ11は、製造対象の造形物である中空成形体20が底部201を有する場合に(ステップS1のYes)、ステージ112の上に底部201を造形する(ステップS2)。そして、3Dプリンタ11は、底部201の上に側部202を造形する(ステップS3)。
【0035】
3Dプリンタ11は、製造対象の造形物である中空成形体20が底部201を有しない場合に(ステップS1のNo)、ステージ112の上に側部202を造形する(ステップS3)。
【0036】
充填材投入装置12は、造形された中空成形体20の底部201又はステージ112と側部202とで囲まれる空間に充填材30を投入して、空間を充填材30で満たす(ステップS4)。
【0037】
3Dプリンタ11は、側部202及び充填材30の上に中空成形体20の上部203を造形する(ステップS5)。
【0038】
プレス装置13は、空間が充填材30で満たされた中空成形体20をプレス成形する(ステップS6)。プレス成形は、3Dプリンタ11が造形に用いる樹脂の融点又はガラス転移点以上に昇温した金型を用いて行われてよい。また、プレス成形は、この成形体の表面を3Dプリンタ11が造形に用いる樹脂の融点又はガラス転移点以上に加熱し、金型を用いて行われてよい。このようなプレス成形によって、中空成形体20の強度を高め、表面を滑らかに加工することができる。
【0039】
中空成形体20が底部201を有する場合に、切断装置14は、空間が充填材30で満たされた中空成形体20の仮置き側部204を切断して、中空成形体20に開口部を形成する(ステップS7)。また、中空成形体20が底部201を有しない場合に、3Dプリンタ11は、中空成形体20からステージ112を離すことによって、中空成形体20の底面部分を開口部とする(開口部を形成する)。
【0040】
充填材除去装置15は、開口部から空間に満たされた充填材30を除去する(ステップS8)。
【0041】
以下、本開示を実施例及び比較例に基づいて説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(原材料)
実施例及び比較例で使用した原材料は以下のとおりである。
<<充填剤>>
・熱可塑性発泡樹脂(ダイセル・エボニック株式会社製「ロハセル31 IG/IG-F」、ポリメタクリルイミド硬質発泡体、密度31 kg/m3)
・熱可塑性粉体(ダイセル・エボニック株式会社製「ベスタキープ 2000FP powder」、ポリエーテルエーテルケトン樹脂パウダー、融点340℃、直径10~50 μm)
<<3Dプリンタの造形で使用する樹脂>>
・熱可塑性樹脂(Markforged社製「ONYX」、カーボン短繊維強化ポリアミド樹脂、融点200℃)
・熱可塑性樹脂(Markforged社製「Carbon Fiber」、カーボン連続繊維強化ポリアミド樹脂、融点200℃)
【0043】
3DプリンタはMarkforged社製のMarkTwoを使用して造形を実施した。また、その際の造形条件としては下記の通りとした。
・Material:Onyx
・Reinforcement Material:Carbon Fiber
・Fiber Layers:設定値で最大
・Fiber Angles:奥行き方向に配向
・Fiber Fill Type:Isotropic Fiber
・Layer Height:0.1μm
・Fill Density:50%
・Fill Pattern:Tringular
・Roof&Floor Layers:4
・Wall Layers:2
【0044】
(実施例1)
MarkTwoを使用し、外形で幅100mm×奥行き100mm×高さ100mm、内形で幅80mm×奥行き100mm×高さ80mm、中空部分には熱硬化発泡樹脂が配置された中空成形体を造形した。
【0045】
具体的には、まずMarkTwoで造形を設定する際にUse Supportをオフとしてサポート材を造形しない設定とした。そして造形を開始し、底面部分と側部を造形して天面を造形する直前に造形を停止し、幅80mm×奥行き100mm×高さ80mmの熱硬化発泡樹脂を中空部分に導入した。その後、造形を再開して側部と熱硬化発泡樹脂の上に天面を造形した。
【0046】
実施例1は比較例と比較して造形時間が短く、中空部分に熱硬化発泡樹脂が存在することで曲げ剛性が高い中空成形体が得られた。
【0047】
<内壁の最大高さ及び最大低さの測定方法>
最大高さ(平面からの隆起)及び最大低さ(造形品におけるフィラメントとフィラメント間の凹み)の測定はKEYENCE製3次元測定器(コントローラ:VL―500、ステージ:Vl-550、測定部:VL-570)を使用した。造形した中空成形体をバンドソーで底面部分、側部、天面に分解し、底面部分の内壁(平面Sz2)と天面部分の内壁(平面Sz1)を測定し、比較した。分解する際は分解後の内壁の面積が中空成形体のときの内壁の面積を可能な限り保ち、極端に小さくなることがないように分解する。最大高さの測定方法としては、分解した内壁の最大高さを持つ点から、分解した内壁の端点3点を結んでつくられる基準面に対して、直角に下した直線を最大高さとした(図10参照)。また、最大低さの測定方法としては、分解した内壁の最大低さを持つ点から、分解した内壁の端点3点を結んでつくられる基準面に対して、直角に下した直線を最大低さとした(図10参照)。また、分解した内壁が四角形の場合、端点3点の選び方は4通りあり、4つの基準面をつくることが出来るため4つの基準面に対して4つの最大高さを測定し、その平均値を最大高さとした。ここで、分解した平面が多角形の場合はその全ての端点を測定した平均値でよく、分解した平面が角を持たない形状の場合は4通り以上の端点3点の選択をしてその平均値で判断してよい。
【0048】
(実施例2)
MarkTwoを使用し、まずは外形で幅100mm×奥行き120mm×高さ100mm、内形で幅80mm×奥行き110mm×高さ80mmの中に熱可塑性樹脂粉体が配置された成形体を造形した。その後、熱可塑性樹脂粉体を取り除くことで外形は幅100mm×奥行き100mm×高さ100mm、内形で幅80mm×奥行き100mm×高さ80mmの中空成形体を得た。
【0049】
具体的には、まずMarkTwoで造形を設定する際にUse Supportをオフとしてサポート材を造形しない設定とした。そして造形を開始し、底面部分と側部を造形して天面を造形する直前に造形を停止し、熱可塑性樹脂粉体を隙間なく充填した。その後、造形を再開して側部と熱可塑性樹脂粉体の上に天面を造形した。さらに成形体の奥行き方向の手前と奥の10mmをカットして熱可塑性樹脂粉体を取り除くことで外形は幅100mm×奥行き100mm×高さ100mm、内形で幅80mm×奥行き100mm×高さ80mmの中空成形体を得た。
【0050】
実施例2は比較例と比較して造形時間が短く、天面の樹脂の垂れ下がりが無く、天面の熱可塑性樹脂粉体に触れた部分は平滑性に優れた中空成形体が得られた。
【0051】
(実施例3)
MarkTwoを使用し、まずは外形で幅100mm×奥行き120mm×高さ100mm、内形で幅80mm×奥行き110mm×高さ80mmの中に熱可塑性樹脂粉体が配置された成形体を造形した。その後、短波長赤外線ヒーター(へレウス製)で本成形体の表面温度を250℃まで加熱したのち、120℃に加熱した熱盤で底面部分と天面部分を挟み込み、成形体に5MPaの圧力がかかるようにプレス成形を実施した。さらに、短波長赤外線ヒーターで本成形体の表面温度を250℃まで加熱したのち、120℃に加熱した熱盤で側面部分を挟み込み、成形体に5MPaの圧力がかかるようにプレス成形を実施した。そして成形体の奥行き方向の手前と奥の10mmをカットして熱可塑性樹脂粉体を取り除くことで外形は幅100mm×奥行き100mm×高さ100mm、内形で幅80mm×奥行き100mm×高さ80mmの中空成形体を得た。実施例3ではプレス成形を実施する以外は実施例2と同様にして中空成形体を製造した。
【0052】
実施例3は比較例と比較して造形時間が短く、天面の樹脂の垂れ下がりが無く、天面の熱可塑性樹脂粉体に触れた部分は平滑性に優れ、外観の平滑性に優れた中空成形体が得られた。
【0053】
(比較例)
ここで、図7は比較例の中空成形体20を示す図である。図7に示される中空成形体20は、空間にサポート40を形成し、対象の造形物とサポート40とが一体となった全体造形物を造形する従来技術で製造される。ここで、サポート40は、中空成形体20と同じ材料で造形される。そのため、仮に空間をサポート40で満たすと材料のコストが高くなる。図7に示すように、離散的にサポート40を配置するとしても、サポート40の造形及び除去に時間がかかる。さらに、上部203が造形された場合に、サポート40の直上にない部分が支持されずに垂れ下がって変形したため、実施例2及び3と異なりSz2+Sz2<Sz1+Sz1≦(Sz2+Sz2)×1.2は満たさなかった。ここで、上記の平面Sz1の最大高さがSz1、最大低さがSz1である。また、上記の平面Sz2の最大高さがSz2、最大低さがSz2である。また、一般的に熱溶解積層方式でサポート材料を使用して造形した場合、サポート材を除去した面となる内部空間壁面は荒れて平滑性が低いという問題も生じる。更に、垂れ下がりの変形が発生することで天面部分の物性は低下するという問題も生じる。
【0054】
上記の実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の詳細は表1のとおりである。また、図8は、実施例1のサイズを示す図である。また、図9は、実施例2及び実施例3のサイズを示す図である。
【0055】
【表1】
【0056】
上記のように、製造システム1は、本実施形態に係る中空成形体20の製造方法を実行することによって、サポート40を造形することなく中空成形体20を製造できる。よって、比較例との対比から明らかなように、本実施形態に係る中空成形体20の製造方法は、中空成形体20の造形時間を短縮し、製造コストを低減できる。
【0057】
また、本実施形態に係る中空成形体20の製造方法において、空間を充填材30で満たしてから上部203が造形される。そのため、比較例との対比から明らかなように、上部203が垂れ下がって変形することがない。つまり、中空成形体20の外観を良くすることができるとともに、垂れ下がった面が発生しないことで物性が低下しない。
【0058】
また、本実施形態に係る中空成形体20の製造方法において、空間を充填材30で満たした状態でプレス成形を実行することができる。そのため、ノズル110がかける圧力よりも強い圧力をかけて、中空成形体20を変形させることなく成形できる。よって、中空成形体20の機械物性(強度及び耐久性など)を高めることができる。
【0059】
本開示を図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段及びステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0060】
図1に示される製造システム1の構成要素は例示である。製造システム1は、図1に示される構成要素の一部を含まない構成であってよい。製造システム1は、図1に示されていない構成要素を備えてよい。例えば製造システム1は、プレス装置13を備えない構成であってよい。このとき、製造システム1によって実行される中空成形体20の製造方法は、中空成形体20をプレス成形する工程(図6のステップS6)を含まなくてよい。例えば製造システム1は、充填材投入装置12を備えない構成であってよい。このとき、中空成形体20の製造方法において、製造システム1の管理者が、手動で空間に充填材30を投入してよい。例えば製造システム1は、充填材除去装置15を備えない構成であってよい。このとき、中空成形体20の製造方法において、製造システム1の管理者が、手動で開口部から充填材30を取り出してよい。
【0061】
上記で例示した中空成形体20は、内部の空間の形状が単純な直方体である。ただし、中空成形体20の空間の形状は限定されず、複雑なものであってよい。例えば、中空成形体20は階段状、角柱状、角錐状、円錐状、これらのうちの複数の組み合わせなどの形状の空間を有してよい。特に空間の形状が複雑である場合に、従来技術ではサポート40の除去が困難であった。本実施形態に係る中空成形体20の製造方法では、空間の形状に関係なく、容易に充填材30を満たし、除去することが可能である。つまり、本実施形態に係る中空成形体20の製造方法は、空間の形状が複雑な中空成形体20の製造に好適である。
【0062】
また、上記の実施例2及び3は、底面部分の内壁(Sz2)と天面部分の内壁(Sz1)との関係において、Sz2+Sz2<Sz1+Sz1≦(Sz2+Sz2)×1.2を満たす。ここで、中空成形体20が実施例2及び3のように断面が四角形の空間を有する場合に限らず、製造システム1によって製造される、最内層(内部の空間の内壁)に10cm以上の平面部分が存在する3辺以上の多角形中空積層体は、良好にSz2+Sz2<Sz1+Sz1≦(Sz2+Sz2)×1.2を満たす。ここで、断面が例えば五角形の場合に、ある平面(Sz1に対応)の対面にある平面(Sz2に対応)は1つでなく2つであるが、対面にあるいずれかの平面を用いればよい。
【符号の説明】
【0063】
1 製造システム
10 製造管理装置
11 3Dプリンタ
12 充填材投入装置
13 プレス装置
14 切断装置
15 充填材除去装置
20 中空成形体
30 充填材
40 サポート
110 ノズル
112 ステージ
201 底部
202 側部
203 上部
204 仮置き側部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10