(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】液式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/627 20210101AFI20240719BHJP
H01M 10/12 20060101ALI20240719BHJP
H01M 50/645 20210101ALI20240719BHJP
【FI】
H01M50/627
H01M10/12 Z
H01M50/645
(21)【出願番号】P 2020197517
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】柴田 智史
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-023999(JP,A)
【文献】実開昭53-163631(JP,U)
【文献】特開2004-311150(JP,A)
【文献】特開2017-033814(JP,A)
【文献】実開昭52-115819(JP,U)
【文献】実開昭55-049418(JP,U)
【文献】実開平1-062656(JP,U)
【文献】特開2015-153678(JP,A)
【文献】実開昭56-174462(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/60-50/77
H01M 10/00-10/04、10/06-10/34
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセル室を備えた電槽と、
前記複数のセル室に電解液とともに収納されている極板群と、
前記電槽の上面を封止している蓋であって、上板の前記複数のセル室の上方となる各位置に形成された前記電解液の注入口を有し、前記注入口は、前記上板を貫通する貫通穴および前記貫通穴に連続して前記セル室側に延びるスリーブを有する蓋と、
前記注入口を塞ぐ栓と、
を備え、
前記スリーブの前記セル室側の端面位置が前記電解液の規定液面最高位置と同じになるように設計され、
前記スリーブは、前記規定液面最高位置よりも高い液面限界位置を示す目印を有する液式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記スリーブは、前記セル室側の端面から前記上板側に延びる第一のスリットを有し、
前記目印は、前記第一のスリットとは別の位置に配置された、前記セル室側の端面から前記上板側に延びる第二のスリットであり、
前記第二のスリットの長さは前記第一のスリットの長さよりも短い請求項1記載の液式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記目印は前記スリーブの周面を貫通する貫通穴である請求項1記載の液式鉛蓄電池。
【請求項4】
前記液面限界位置は、前記スリーブの前記上板側の端面から20mmとなる位置または、前記端面から20mmとなる位置より下の位置である請求項1~3のいずれか一項に記載の液式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池には液式のものと制御弁式のものがあり、液式鉛蓄電池は、複数のセル室を備えた電槽と、複数のセル室に電解液とともに収納されている極板群と、を備え、その極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、正極板および負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
【0003】
液式鉛蓄電池の電槽の上面は蓋で封止されている。この蓋は、上板の複数のセル室の上方となる各位置に形成された電解液の注入口(注液口)を有し、各注入口は、上板を貫通する貫通穴およびこの貫通穴に連続してセル室側に延びるスリーブを有する。各注入口は栓(液口栓)で塞がれている。
【0004】
スリーブには、充電時の液面上昇による液溢れを防止するために、セル室の端面側から上板側に延びるスリットが設けられている。また、通常、スリーブのセル室側の端面位置が、電槽に記された電解液の規定液面の最高位置と同じになるように設計されている。
液式鉛蓄電池は、過充電などにより各セル室内の電解液が減ることがある。特に、高温地域では電解液の減少が進行しやすい。電解液が減った場合、液口栓を外し、各セル室内に電解液の補給(以下、「補水」とも称する。)を行う必要があるが、高温地域などで電解液の減少量が多い場合、必要以上の補水を行ってしまうことがある。
【0005】
電槽には、電解液の規定液面として最低位置(ロワーレベル)と最高位置(アッパーレベル)を示す線が記されているが、液式鉛蓄電池が車両に搭載された状態でこの線を確認しながら補水を行うことは困難である。規定液面の最高位置を大幅に超えて補水すると、液漏れなどの原因となる。
【0006】
なお、電解液がアッパーレベルに到達して、スリーブのセル室側の端面に電解液が接触すると、表面張力によりメニスカスが生じるため、注液口から電槽内部を目視した場合の見え方が、接触する前の状態から変化する。よって、注液口から電槽内部を目視することで、電解液がアッパーレベルに到達したことを判断することができる。しかし、この原理を知らないディーラーも多いとともに、この方法では、全てのセル室内を目視で確認する作業に時間がかかる。
【0007】
特許文献1には、液口から電解液の規定液面高さまで形成したスリーブ(液面指示装置)の下端を基準として補水(電解液の補給)を行う場合に適した、液面の視認性を向上させる方法として、電解液に含まれるナトリウムを1~90mmol/lの範囲とし、正極活物質の比表面積を5~9m2/gの範囲とすることが記載されている。
【0008】
これにより、正極板から正極活物質の一部を遊離させて、その使用開始から約2年後(車検時に新品に交換して次の車検時を想定した期間に相当する)に、電解液を、透明性を保ったまま薄茶色に着色させることができ、液面の視認性を向上させて精度よく簡単に補水することができる、という効果が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、規定液面の最高位置を超えて補水された場合でも補水過剰量を最小限に留めることができる液式鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、下記の構成(a)~(c)を備えた液式鉛蓄電池を提供する。
(a)複数のセル室を備えた電槽と、複数のセル室に電解液とともに収納されている各極板群と、電槽の上面を封止している蓋であって、上板の複数のセル室の上方となる各位置に形成された電解液の注入口を有し、注入口は、上板を貫通する貫通穴および貫通穴に連続してセル室側に延びるスリーブを有する蓋と、注入口を塞ぐ栓と、を備えている。
【0012】
(b)スリーブのセル室側の端面位置が電解液の規定液面最高位置と同じになるように設計されている。
(c)スリーブは、規定液面最高位置よりも高い液面限界位置を示す目印を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液式鉛蓄電池によれば、規定液面の最高位置を超えて補水された場合でも補水過剰量を最小限に留めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の液式鉛蓄電池を説明する図であって、電槽から蓋を外した状態を示している。
【
図2】実施形態の液式鉛蓄電池を構成する蓋の電槽に向ける面を示す図である。
【
図3】第一実施形態の液式鉛蓄電池が有する注液口(電解液の注入口)のスリーブを示す正面図(a)と、(a)のA-A断面図(b)である。
【
図5】第二実施形態の液式鉛蓄電池が有する注液口(電解液の注入口)のスリーブを示す正面図(a)と、(a)のA-A断面図(b)である。
【
図7】注液口(電解液の注入口)のスリーブが有する目印の例のうち、目印がスリットである例を示す正面図である。
【
図8】注液口(電解液の注入口)のスリーブが有する目印の例のうち、目印がスリットである例を示す正面図である。
【
図9】注液口(電解液の注入口)のスリーブが有する目印の例のうち、目印がスリット以外の例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0016】
〔第一実施形態〕
[構成]
図1に示すように、第一実施形態の液式鉛蓄電池10は、電槽1と蓋2と六個の極板群3を備える。電槽1の形状は直方体であり、電槽1は、底面をなす長方形の一対の長辺上に形成された一対の第一の壁11と、一対の短辺上に形成された一対の第二の壁12を有する。電槽1の内部は、第二の壁12と平行な五枚の隔壁13により、六個のセル室4に区画されている。
図1に示すように、セル室4の配列方向をX方向、これに垂直な方向をY方向とする。六個のセル室4には、それぞれ一個の極板群3が配置されている。また、液式鉛蓄電池10はセル室4毎に一個の液口栓5を備える。
【0017】
各極板群3は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体31を有する。
正極板は、格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体の格子状基板に、正極合剤(正極活物質を含む合剤)が保持されたものである。負極板は、格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体の格子状基板に、負極合剤(負極活物質を含む合剤)が保持されたものである。複数枚の正極板および負極板は、セパレータを介して交互に配置されている。積層体を構成する負極板の枚数は正極板の枚数よりも一枚多くても良いし、同じでも良い。
【0018】
負極板は袋状セパレータ内に収納されている。そして、負極板が入った袋状セパレータと正極板とを交互に重ねることで、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。なお、正極板を袋状セパレータ内に収納して、負極板と交互に重ねてもよい。
【0019】
また、各極板群3は、積層体の正極板および負極板をそれぞれ幅方向の別の位置で連結する正極ストラップ32および負極ストラップ33と、正極ストラップ32および負極ストラップ33からそれぞれ立ち上がる正極中間極柱321および負極中間極柱331を有する。正極ストラップ32および負極ストラップ33は、正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結している。
【0020】
セル配列方向の両端のセル室4に配置された正極ストラップ32および負極ストラップ33には、それぞれ小片部を介して外部端子となる正極極柱35および負極極柱36が形成されている。また、一方のセル室4の正極中間極柱321と他方のセル室4内の負極中間極柱331とが、隔壁13に形成された貫通孔内を埋める金属部で接続されている。
図2に示すように、蓋2は、電槽1の第一の壁11に対応する第一の壁21と、第二の壁12に対応する第二の壁22と、隔壁13に対応する五枚の仕切り板23と、長方形の上板24を有する。上板24は六個の貫通穴241を有する。六個の貫通穴241は、上板24の五枚の仕切り板23で区切られた各位置に形成されている。
【0021】
上板24の内面(電槽1と対向させる面)には、貫通穴241に連続するスリーブ25が形成されている。貫通穴241とスリーブ25が注液口(電解液の注入口)26を構成する。注液口26は液口栓5で塞がれる。
スリーブ25は、二本の第一のスリット25aと、一本の第二のスリット(目印)25bと、雌ねじ部25cを有する。二本の第一のスリット25aは、スリーブ25を成す円で位相が互いに180°となる位置に形成され、X方向に沿って対向している。第二のスリット(目印)25bは、第一のスリット25aに対してスリーブ25を成す円での位相が90°異なる位置に形成されている。
【0022】
スリーブ25の外周部にフランジ27が形成されている。また、蓋2は、電槽1に対する位置決め用のガイドリブ6と、正極極柱および負極極柱を通すスリーブ7を有する。ガイドリブ6は、仕切り板23の両側と第二の壁22の内側に対して、Y方向に沿って四個ずつ設けられている。
【0023】
図3(b)に示すように、上板24の貫通穴241とスリーブ25の上端面(上板24側の端面)251により、液口栓の頭部の外縁部が収まる凹部が形成されている。第一のスリット25aおよび第二のスリット(目印)25bは、スリーブ25の下端面(セル室4側の端面)252から上板24側に延びており、第一のスリット25aはフランジ27に近い位置まで深く形成されている。第二のスリット(目印)25bは浅く形成されている。つまり、目印である第二のスリット25bの長さL12は、第一のスリット25aの長さL11よりも短い。また、雌ねじ部25cはスリーブ25の内周面の基端部にのみ形成されている。
【0024】
図3(a)に示すように、スリーブ25の上板24の下面245からの突出長さL1は、スリーブ25の下端面252が、電解液の規定液面高さの最高位置P1と同じになるように設計されている。
また、第二のスリット25bの長さL12は、スリット25bの底面253が電槽内の液面限界位置P2と同じになるように設計されている。液面限界位置P2は、スリーブ25の上端面251(つまり、上板24の下面245)から20mmとなる位置、または、その位置(上端面251から20mmとなる位置)より下の位置である。つまり、スリーブ25の上端面(上板24側の端面)251とスリット25bの底面253との距離L253は20mm以上である。
【0025】
さらに、第二のスリット25bの開口端の幅LS1は、スリーブ25の第一のスリット25a間の幅LS2の2/3以下である。スリーブ25の内径Kが17.5mm~22.5mmのとき、第一のスリット25aの幅Hは例えば3.0mm~17.0mmとする。なお、これらの幅LS1,LS2,Hは、スリーブ25の最もセル室側となる端点間を結んだ直線距離を測定した寸法である。
【0026】
なお、液口栓5は、蓋2のスリーブ25内に配置される筒体部と、筒体部の軸方向一端に形成された頭部を有し、筒体部の頭部側の外周に、スリーブの雌ねじ部25cに螺合する雄ねじ部が形成されている。頭部は、大径部と小径部とからなり、板面を貫通する排気孔を有する。筒体部の中には、別部品である防沫栓が配置されている。
【0027】
[製法]
液式鉛蓄電池10は、例えば以下の方法で製造できる。
先ず、公知の方法で作製された化成前の極板群3を、電槽1の各セル室4に配置した後、抵抗溶接を行って金属部を形成する。次に、電槽1の上面と蓋2の下面を熱で溶かして、熱溶着により電槽1に蓋2を固定する。なお、蓋2を電槽1に載せる際に、電槽1の隔壁13、第一の壁11、および第二の壁12の上端面は、蓋2のガイドリブ6に案内されて、スムーズに蓋2の仕切り板23、第一の壁21、および第二の壁22の下端面と当接する。その結果、セル室4の上側に蓋2による上部空間が形成される。
【0028】
次に、各注液口26から各セル室4内に電解液を、電解液の規定液面高さの最高位置P1まで注入する。次に、注液口26に液口栓5の筒体部を入れて、液口栓5の雄ねじ部をスリーブ25の雌ねじ部25bに螺合することで、各注液口26を液口栓5で塞ぐ。
【0029】
[作用、効果]
この実施形態の液式鉛蓄電池によれば、注液口26から電槽1の内部を目視しながら補水を行う際に、スリーブ25の第二のスリット25bの底面253の位置まで電解液が到達した時点で補水を止めることで、規定液面の最高位置P1を超えて補水された場合の補水過剰量を最小限に留めることができる。
【0030】
具体的に言えば、
図4(a)に示すように、スリーブ25に第二のスリット25bがない場合には、規定液面の最高位置P1に合わせてあるスリーブ25の下端面(セル室4側の端面)252よりも上側まで補水されがちになる。これに対して、この実施形態の液式鉛蓄電池では、
図4(b)に示すように、第二のスリット25bがあることで、その底面253の位置で補水を止める心理的な作用が働く。
【0031】
また、第二のスリット25bの開口端の幅LS1が、スリーブ25の第一のスリット25a間の幅LS2の2/3以下であるため、悪路を走行した際等に生じる振動によって、鉛蓄電池内の電解液が液口栓から漏れ出すことを防止するという作用、効果が得られる。
【0032】
〔第二実施形態〕
第二実施形態の液式鉛蓄電池は、以下の点を除いて第一実施形態の液式鉛蓄電池と同じである。
図5に示すように、第二実施形態の液式鉛蓄電池は、蓋2を構成するスリーブ25として、第二のスリット25bの代わりに、スリーブ25の周面を貫通する貫通穴25dを有している。貫通穴25dの正面形状は円形である。貫通穴25dは、貫通穴25dの上端位置が液面限界位置P2と同じになる位置であって、第一のスリット25aに対してスリーブ25を成す円での位相が90°異なる位置に形成されている。
【0033】
スリーブ25の上端面251と貫通穴25dの最も蓋側の点との距離L254は20mm以上である。また、貫通穴25dの直径K1は、スリーブ25の第一のスリット25a間の幅LS2の2/3以下である。
この実施形態の液式鉛蓄電池によれば、注液口26から電槽1の内部を目視しながら補水を行う際に、スリーブ25の貫通穴25dの上端位置まで電解液が到達した時点で補水を止めることで、規定液面の最高位置P1を超えて補水された場合の補水過剰量を最小限に留めることができる。
【0034】
具体的に言えば、
図4(a)に示すように、スリーブ25に貫通穴25dがない場合には、規定液面の最高位置P1を超えて、スリーブ25の上端面251の近くまで補水されがちになる。これに対して、この実施形態の液式鉛蓄電池では、
図6に示すように、貫通穴25dがあることで、貫通穴25dの位置で補水を止める心理的な作用が働く。
また、貫通穴25dの直径K1が、スリーブ25の第一のスリット25a間の幅LS2の2/3以下であるため、悪路を走行した際等に生じる振動によって、鉛蓄電池内の電解液が液口栓から漏れ出すことを防止するという作用、効果が得られる。
【0035】
〔目印の形状の他の例〕
スリーブ25に設ける目印がスリットの場合、第一実施形態の第二のスリット25bのような縦長の(スリーブ25の軸方向に沿った寸法がスリーブ25の周方向に沿った寸法より長い)長方形以外の例として、
図7および
図8に示すものが挙げられる。
図7(a)は、目印である第二のスリット25bの正面形状が二等辺三角形の例であり、二等辺三角形の底辺が第二のスリット25bの開口端となっている。また、二等辺三角形の頂点の位置が液面限界位置P2と同じになるように設計されている。
図7(b)は、目印である第二のスリット25bの正面形状が、横長の(スリーブ25の軸方向に沿った寸法がスリーブ25の周方向に沿った寸法より短い)長方形の例である。
【0036】
図7(c)は、目印である第二のスリット25bの正面形状が半円形の例であり、半円の直径が第二のスリット25bの開口端となっている。
図7(d)は、目印として、正面形状が二等辺三角形の第二のスリット25bを二つ設けた例である。二つの第二のスリット25bは、二つの第一スリット25aの間で連続している一つの周面に設けてある。二つの第二のスリット25bは、二つの第一スリット25aの間で連続している二つの周面に、それぞれ一つ設けてもよい。
【0037】
図8(a)は、目印として、正面形状が長方形の第二のスリット25bを二つ設けた例である。二つの第二のスリット25bは、二つの第一スリット25aの間で連続している一つの周面に設けてある。二つの第二のスリット25bは、二つの第一スリット25aの間で連続している二つの周面に、それぞれ一つ設けてもよい。
【0038】
図8(b)および
図8(c)は、目印である第二のスリット25bの底面253を二段階に設けた例であり、第二のスリット25bは、スリーブ25の開口端に近い第一の底面253aと、第一の底面253aより深い第二の底面253bを有する。これらの例では、第二の底面253bが液面限界位置P2と同じになり、第一の底面253aが規定液面最高位置P1と液面限界位置P2の間の位置P3と同じになるように設計されている。
図8(d)は、目印である第二のスリット25bを、二本ある第一のスリット25aのうちの一本に連続して設けた例である。第二のスリット25bと連続していない第一のスリット25aが、
図8(d)においてスリーブ25の奥側に存在する。
【0039】
いずれの例においても、第二のスリット25bの開口端の幅LS1は、スリーブ25の第一のスリット25a間の幅LS2の2/3以下であることが好ましい。第二のスリット25bが二つある場合は、二つの第二のスリット25bの開口端の幅LS11,LS12の合計値が、スリーブ25の第一のスリット25a間の幅LS2の2/3以下であることが好ましく、幅LS11とLS12とが、等しい寸法であることが好ましい。なお、
図8(d)の例では、第二のスリット25bの開口端の幅LS1が、スリーブ25の外形幅LS3の2/3以下であることが好ましい。
スリーブ25に設ける目印はスリットに限定されず、例えば、
図9に示すものであってもよい。
【0040】
図9(a)は、スリーブ25の下端面252を、規定液面最高位置P1に沿う面252aと、液面限界位置P2と規定液面最高位置P1を結ぶ直線に沿う斜面252bとで構成した例である。
図9(b)は、スリーブ25の内面の色または表面状態を、液面限界位置P2となる位置から下端面252までの下部分254と、それ以外の部分である上部分255とで変化させた例である。
【0041】
色を変化させる方法としては、例えば、スリーブ25を含む蓋2全体を、黒色の合成樹脂を用いた射出成形で形成した後、スリーブ25の内面の下部分254のみを赤色に着色する方法が挙げられる。表面状態を変化させる方法としては、例えば、スリーブ25を含む蓋2全体を合成樹脂の射出成形で形成する際に、スリーブ25の内面の下部分254のみが凹凸面となるように、金型の表面を加工する方法が挙げられる。
【実施例】
【0042】
〔実施例1〕
第一実施形態の液式鉛蓄電池と同じ構造の液式鉛蓄電池として、サンプルNo.1-1~No.1-3の電池を作製した。具体的には、JIS D5301で規定されるM-42サイズの液式鉛蓄電池であって、定格容量が40Ahで、動作電圧が12Vの電池を作製した。
この電池において
図3に示す各寸法は、スリーブ25の内径Kが23.0mm、第一のスリット25aの幅Hが3.0mm、スリーブ25の長さL1が33.0mm、第二のスリット25bの幅LS1が5.0mm、第一のスリット25a間の幅LS2が23.0mmである。第二のスリット25bの長さL12は、サンプルNo.1-1では11.0mm、No.1-2では13.0mm、No.1-3では15.0mmとした。
【0043】
つまり、スリーブ25の上端面251とスリット25bの底面253との距離L253は、サンプルNo.1-1では22mm、No.1-2では20mm、No.1-3では18mmとした。これにより、液面限界位置P2が、サンプルNo.1-1では、スリーブ25の上端面251から22mmとなる位置に、No.1-2では20mmとなる位置に、No.1-3では18mmとなる位置に設定された。
【0044】
No.1-1~No.1-3の各電池の製造時に、注液口26から電槽1の内部を目視しながら、各セル室内に電解液を注入し、スリーブ25の第二のスリット25bの底面253まで電解液が到達した時点で注入を止めた。その結果、蓋2の下面245から液面までの距離は、サンプルNo.1-1では22mm、No.1-2では20mm、No.1-3では18mmとなった。
【0045】
〔実施例2〕
第二実施形態の液式鉛蓄電池と同じ構造の液式鉛蓄電池として、サンプルNo.2-1~No.2-3の電池を作製した。具体的には、JIS D5301で規定されるM-42サイズの液式鉛蓄電池であって、定格容量が40Ahで、動作電圧が12Vの電池を作製した。
この電池において
図5に示す各寸法は、スリーブ25の内径Kが23mm、第一のスリット25aの幅Hが3mm、スリーブ25の長さL1が33mm、貫通穴25dの直径K1が5.0mm、第一のスリット25a間の幅LS2が23.0mmである。貫通穴25dの最も蓋側の点とスリーブ25の下端面252との距離L13は、サンプルNo.2-1では11mm、No.2-2では13mm、No.2-3では15mmとした。
【0046】
つまり、スリーブ25の上端面251と貫通穴25dの最も蓋側の点との距離L254は、サンプルNo.2-1では22mm、No.2-2では20mm、No.2-3では18mmとした。これにより、液面限界位置P2が、サンプルNo.2-1では、スリーブ25の上端面251から22mmとなる位置に、No.2-2では20mmとなる位置に、No.2-3では18mmとなる位置に設定された。
【0047】
No.2-1~No.2-3の各電池の製造時に、注液口26から電槽1の内部を目視しながら、各セル室内に電解液を注入し、スリーブ25の貫通穴25dが隠れるまで電解液が入った時点で注入を止めた。その結果、蓋2の下面245から液面までの距離は、サンプルNo.2-1では22mm、No.2-2では20mm、No.2-3では18mmとなった。
【0048】
〔性能試験〕
得られたサンプルNo.1-1~1-3、No.2-1~2-3の液式鉛蓄電池について、SBA規格の耐振動試験を以下の条件で行い、液漏れが発生するかどうかを調べた。
a)放電電流:20時間率電流I20の3.42倍の電流
定格容量が40Ahであるため、放電電流は6.84Aとなる。
b)振動方向:上下の単振動
c)複振幅:2.3mm~2.5mm
d)振動加速度:29.4m/s2
e)振動時間:2時間
【0049】
試験の結果、蓋2の下面245から液面までの距離が22mmとなったNo.1-1およびNo.2-1の液式鉛蓄電池と、同距離が20mmとなったNo.1-2およびNo.2-2の液式鉛蓄電池では、液漏れが発生しなかった。これに対して、蓋2の下面245から液面までの距離が18mmとなったNo.1-3およびNo.2-3の液式鉛蓄電池では液漏れが生じた。
この結果から、液面限界位置P2を、スリーブの上板側の端面から20mmとなる位置または、端面から20mmとなる位置より下の位置に設定して、液面限界位置P2を示す目印を設け、この目印以下の位置まで補水を行うことで、液漏れが防止できることが分かる。
【符号の説明】
【0050】
10 液式鉛蓄電池
1 電槽
11 電槽の第一の壁
12 電槽の第二の壁
13 隔壁
2 蓋
21 蓋の第一の壁
22 蓋の第二の壁
23 仕切り板
24 蓋の上板
241 上板の貫通孔
25 スリーブ
25a 第一のスリット
25b 第二のスリット(目印)
25d 貫通穴(目印)
251 スリーブの上端面(上板側の端面)
252 スリーブの下端面(セル室側の端面)
252b スリーブの下端面を構成する斜面(目印)
254 スリーブの内面の下部分(目印)
26 注液口(電解液の注入口)
27 フランジ
3 極板群
4 セル室
5 液口栓(注入口を塞ぐ栓)
6 ガイドリブ
L11 第一のスリットの長さ
L12 第二のスリットの長さ
LS1 第一のスリットの開口端の幅
LS2 スリーブの第一のスリット間の幅
L1 スリーブの長さ
P1 規定液面最高位置
P2 液面限界位置
P3 規定液面最高位置と液面限界位置との間の位置