(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】円板共振器、誘電特性測定装置および誘電特性測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20240719BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01R27/26 H
G01N22/00 Y
(21)【出願番号】P 2020199144
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】512307000
【氏名又は名称】住ベリサーチ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】馬路 哲
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-205065(JP,A)
【文献】特開平07-303004(JP,A)
【文献】特開2020-079769(JP,A)
【文献】特開2020-180807(JP,A)
【文献】特開2003-344466(JP,A)
【文献】特開2016-153751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/26
G01N 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸に沿って延在する第1貫通孔を有する第1導体と、
試料を介して前記第1導体と対向して設けられ、第2軸に沿って延在する第2貫通孔を有する第2導体と、
前記試料中に設けられる第3導体と、
第1先端部を有し、前記第1先端部が前記第1貫通孔に挿入された状態で保持される第1励振線と、
第2先端部を有し、前記第2先端部が前記第2貫通孔に挿入された状態で保持される第2励振線と、
前記第1励振線を前記第1軸まわりに1回転以上回転させることなく、前記第1励振線を前記第1軸に沿って移動させる第1駆動部と、
を有
し、
前記第1駆動部は、
第1挿入部、前記第1挿入部の側面に設けられている第1被ガイド部、および、前記第1挿入部の内部に設けられ前記第1励振線が挿通される第1挿通孔、を備える第1アンテナホルダーと、
前記第1アンテナホルダーを前記第1軸に沿って移動させる第1調整部と、
前記第1導体に対して相対的に固定され、前記第1被ガイド部を案内することで前記第1アンテナホルダーの回転を抑制する第1ガイド部を備える第1保持部と、
を備えることを特徴とする円板共振器。
【請求項2】
前記第1駆動部は、
ネジによる繰り出し機構、電磁アクチュエーター、または、ピエゾアクチュエーターにより、前記第1アンテナホルダーを移動させる請求項1に記載の円板共振器。
【請求項3】
前記
第1被ガイド部は、前記
第1挿入部の前記側面に設けられ、前記第1軸に沿って延在する溝であり、
前記
第1ガイド部は、前記溝に挿入される突起である請求項
1または2に記載の円板共振器。
【請求項4】
前記第1駆動部は、前記第1導体に対して
前記第1軸に沿う前記第1アンテナホルダーの移動
を可能にする第1状態と、前記
第1アンテナホルダーを前記第1導体に対して相対的に固定する第2状態と、を切り替える固定切替部をさらに備え
、
前記第1アンテナホルダーは、前記第1挿入部の側面に設けられている第1雄ネジ部を有し、
前記固定切替部は、
前記第1雄ネジ部と螺合するとともに、前記第1保持部から離間することにより、前記第1状態を実現し、
前記第1雄ネジ部と螺合するとともに、前記第1保持部と接触することにより、前記第2状態を実現する請求項
1ないし3のいずれか1項に記載の円板共振器。
【請求項5】
前記第1駆動部は、前記第1導体に対して前記第1軸に沿う前記第1アンテナホルダーの移動を可能にする第1状態と、前記第1アンテナホルダーを前記第1導体に対して相対的に固定する第2状態と、を切り替える固定切替部をさらに備え、
前記固定切替部は、クランプまたはくさびにより、前記第1状態と前記第2状態とを切り替える請求項1ないし3のいずれか1項に記載の円板共振器。
【請求項6】
前記第1導体および前記第2導体の少なくとも一方は、前記試料に対向する試料対向面を有し、
前記試料対向面は、
周縁部に位置する周縁領域と、
中央部に位置し、段差を介して前記周縁領域よりも高くなっている中央領域と、
を有する請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の円板共振器。
【請求項7】
前記第2励振線を前記第2軸まわりに1回転以上回転させることなく、前記第2励振線を前記第2軸に沿って移動させる第2駆動部をさらに有
し、
前記第2駆動部は、
第2挿入部、前記第2挿入部の側面に設けられている第2被ガイド部、および、前記第2挿入部の内部に設けられ前記第2励振線が挿通される第2挿通孔、を備える第2アンテナホルダーと、
前記第2アンテナホルダーを前記第2軸に沿って移動させる第2調整部と、
前記第2導体に対して相対的に固定され、前記第2被ガイド部を案内することで前記第2アンテナホルダーの回転を抑制する第2ガイド部を備える第2保持部と、
を備える請求項1ないし
6のいずれか1項に記載の円板共振器。
【請求項8】
円板共振器法により、試料の誘電特性を測定する誘電特性測定装置であって、
請求項1ないし
7のいずれか1項に記載の円板共振器
と、
前記円板共振器に電磁波を供給するとともに、前記円板共振器から検出した電磁波を解析することにより、解析データを取得するネットワークアナライザーと、
前記解析データに基づいて、前記試料の誘電特性を算出するコンピューターと、
を備えることを特徴とする誘電特性測定装置。
【請求項9】
円板共振器法により、試料の誘電特性を測定する誘電特性測定方法であって、
請求項1ないし
7のいずれか1項に記載の円板共振器
に取り付けられた前記試料に対してネットワークアナライザーから電磁波を入力する電磁波入力工程と、
前記円板共振器から出力された電磁波を前記ネットワークアナライザーで検出する電磁波検出工程と、
検出した電磁波のデータを前記ネットワークアナライザーで解析して解析データを得るデータ解析工程と、
前記解析データに基づいて、コンピューターで前記試料の誘電特性を
算出する誘電特性算出工程と、
を
有することを特徴とする誘電特性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板共振器、誘電特性測定装置および誘電特性測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ波帯よりも高周波の領域であるミリ波帯の電磁波を活用する取り組みが進んでいる。ミリ波帯の電磁波を利用する電子機器では、ミリ波帯に対応した高周波回路の実装用基板が用いられている。このような実装用基板では、高周波の伝送損失が低い低損失材料を用いる必要がある。
【0003】
かかる背景から、ミリ波帯またはそれよりも高周数域に対応する低損失材料の開発が進められている。このため、ミリ波帯またはそれよりも高周波域における低損失材料の誘電特性を高精度に計測する技術が求められている。このような技術の1つとして、平衡型円板共振器法が知られている。
【0004】
特許文献1には、平衡型円板共振器法に用いられる円板共振器が開示されている。この円板共振器では、測定試料を介して配置された一対の外部導体と、外部導体の中心に設けられた励振口に挿入された同軸ケーブル(励振線)と、を備えている。
【0005】
平衡型円板共振器法では、同軸ケーブルを介して所望の周波数の信号を入力することにより、円板共振器を励振し、共振特性を測定する。そして、測定した共振特性に基づいて測定試料の誘電特性を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、外部導体の中心に設けられた励振口に励振線を挿入するとき、その挿入量が、測定される共振特性に影響を及ぼすことを見出した。これを踏まえると、測定される共振特性を最適化するためには、測定試料に応じて、挿入量を調整することが必要になる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の円板共振器では、同軸ケーブル(励振線)の挿入量を調整する機構等が存在しないため、挿入量を目的とする値に調整することができない。
【0009】
また、励振線を励振口にねじ込んで挿入する方式の円板共振器が知られている。この場合、ねじ込み量を変えることによって挿入量を調整することも考えられるが、励振線が偏心している場合、ねじ込む際に励振線が回転するため、励振線と励振口との隙間が一定にならない。この隙間が変化すると、測定される共振特性が変化し、誘電特性の算出結果に影響を及ぼす。
【0010】
さらに、この方式では、励振線の回転に伴って励振線と励振口とが何度も接触し、摩耗が生じるおそれがある。摩耗が生じると、励振線と励振口との隙間が変化する。つまり、励振線の挿抜を繰り返すたびに、励振線と励振口との隙間が変化し、誘電特性の計測精度が低下するおそれがある。
【0011】
本発明の目的は、励振線の挿入量を変化させたり、励振線を繰り返し挿抜したりしても、励振孔と励振線との間に生じる隙間の変化を抑制し得る円板共振器、かかる円板共振器を備える誘電特性測定装置、および、前記円板共振器を用いる誘電特性測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的は、下記(1)~(9)の本発明により達成される。
(1) 第1軸に沿って延在する第1貫通孔を有する第1導体と、
試料を介して前記第1導体と対向して設けられ、第2軸に沿って延在する第2貫通孔を有する第2導体と、
前記試料中に設けられる第3導体と、
第1先端部を有し、前記第1先端部が前記第1貫通孔に挿入された状態で保持される第1励振線と、
第2先端部を有し、前記第2先端部が前記第2貫通孔に挿入された状態で保持される第2励振線と、
前記第1励振線を前記第1軸まわりに1回転以上回転させることなく、前記第1励振線を前記第1軸に沿って移動させる第1駆動部と、
を有し、
前記第1駆動部は、
第1挿入部、前記第1挿入部の側面に設けられている第1被ガイド部、および、前記第1挿入部の内部に設けられ前記第1励振線が挿通される第1挿通孔、を備える第1アンテナホルダーと、
前記第1アンテナホルダーを前記第1軸に沿って移動させる第1調整部と、
前記第1導体に対して相対的に固定され、前記第1被ガイド部を案内することで前記第1アンテナホルダーの回転を抑制する第1ガイド部を備える第1保持部と、
を備えることを特徴とする円板共振器。
【0013】
(2) 前記第1駆動部は、ネジによる繰り出し機構、電磁アクチュエーター、または、ピエゾアクチュエーターにより、前記第1アンテナホルダーを移動させる上記(1)に記載の円板共振器。
【0016】
(3) 前記第1被ガイド部は、前記第1挿入部の前記側面に設けられ、前記第1軸に沿って延在する溝であり、
前記第1ガイド部は、前記溝に挿入される突起である上記(1)または(2)に記載の円板共振器。
【0017】
(4) 前記第1駆動部は、前記第1導体に対して前記第1軸に沿う前記第1アンテナホルダーの移動を可能にする第1状態と、前記第1アンテナホルダーを前記第1導体に対して相対的に固定する第2状態と、を切り替える固定切替部をさらに備え、
前記第1アンテナホルダーは、前記第1挿入部の側面に設けられている第1雄ネジ部を有し、
前記固定切替部は、
前記第1雄ネジ部と螺合するとともに、前記第1保持部から離間することにより、前記第1状態を実現し、
前記第1雄ネジ部と螺合するとともに、前記第1保持部と接触することにより、前記第2状態を実現する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の円板共振器。
(5) 前記第1駆動部は、前記第1導体に対して前記第1軸に沿う前記第1アンテナホルダーの移動を可能にする第1状態と、前記第1アンテナホルダーを前記第1導体に対して相対的に固定する第2状態と、を切り替える固定切替部をさらに備え、
前記固定切替部は、クランプまたはくさびにより、前記第1状態と前記第2状態とを切り替える上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の円板共振器。
【0018】
(6) 前記第1導体および前記第2導体の少なくとも一方は、前記試料に対向する試料対向面を有し、
前記試料対向面は、
周縁部に位置する周縁領域と、
中央部に位置し、段差を介して前記周縁領域よりも高くなっている中央領域と、
を有する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の円板共振器。
【0019】
(7) 前記第2励振線を前記第2軸まわりに1回転以上回転させることなく、前記第2励振線を前記第2軸に沿って移動させる第2駆動部をさらに有し、
前記第2駆動部は、
第2挿入部、前記第2挿入部の側面に設けられている第2被ガイド部、および、前記第2挿入部の内部に設けられ前記第2励振線が挿通される第2挿通孔、を備える第2アンテナホルダーと、
前記第2アンテナホルダーを前記第2軸に沿って移動させる第2調整部と、
前記第2導体に対して相対的に固定され、前記第2被ガイド部を案内することで前記第2アンテナホルダーの回転を抑制する第2ガイド部を備える第2保持部と、
を備える上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の円板共振器。
【0020】
(8) 円板共振器法により、試料の誘電特性を測定する誘電特性測定装置であって、
上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の円板共振器と、
前記円板共振器に電磁波を供給するとともに、前記円板共振器から検出した電磁波を解析することにより、解析データを取得するネットワークアナライザーと、
前記解析データに基づいて、前記試料の誘電特性を算出するコンピューターと、
を備えることを特徴とする誘電特性測定装置。
【0021】
(9) 円板共振器法により、試料の誘電特性を測定する誘電特性測定方法であって、
上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の円板共振器に取り付けられた前記試料に対してネットワークアナライザーから電磁波を入力する電磁波入力工程と、
前記円板共振器から出力された電磁波を前記ネットワークアナライザーで検出する電磁波検出工程と、
検出した電磁波のデータを前記ネットワークアナライザーで解析して解析データを得るデータ解析工程と、
前記解析データに基づいて、コンピューターで前記試料の誘電特性を算出する誘電特性算出工程と、
を有することを特徴とする誘電特性測定方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、励振線の挿入量を変化させたり、励振線を繰り返し挿抜したりしても、励振孔と励振線との間に生じる隙間の変化を抑制し得る円板共振器が得られる。また、これにより、試料に応じて励振線の挿入量を変化させた場合でも、試料の誘電特性を精度よく計測可能な円板共振器が得られる。
【0023】
また、本発明によれば、試料の誘電特性を精度よく計測可能な誘電特性測定装置および誘電特性測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態に係る円板共振器を示す分解斜視図である。
【
図4】
図3に示す固定ナットをZ軸マイナス側に移動させた状態を示す図である。
【
図5】
図3のアンテナホルダーをY軸プラス側からY軸マイナス側に向かって見たときの側面図である。
【
図6】
図5に示すアンテナホルダーおよびそのアンテナホルダーに挿通されている第1励振線をZ軸マイナス側からZ軸プラス側に向かって見たときの平面図である。
【
図7】
図5のアンテナホルダーの変形例を示す側面図である。
【
図11】実施形態に係る誘電特性測定装置を示す図である。
【
図12】実施形態に係る誘電特性測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の円板共振器、誘電特性測定装置および誘電特性測定方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1は、実施形態に係る円板共振器を示す分解斜視図である。
図2は、
図1の断面図である。なお、本願の各図では、互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸およびZ軸を設定し、矢印で示している。そして、矢印の基端側を各軸の「マイナス側」、矢印の先端側を各軸の「プラス側」という。また、
図2では、
図1に示す部材の一部を省略している。
【0027】
図1および
図2に示す円板共振器1は、円板共振器法により、試料91、92の比誘電率や誘電正接等の誘電特性を測定するために用いられる治具である。円板共振器1は、特にミリ波帯の周波数で、平板試料の面に対して電界を垂直に印加した場合の誘電特性の測定において好ましく用いられる。
【0028】
図1および
図2に示す円板共振器1は、第3導体23を介して重ねられた試料91、92を、第1導体21と第2導体22との間で挟み込んで押圧する。これにより、試料91を第1導体21と第3導体23とに密着させるとともに、試料92を第2導体22と第3導体23とに密着させることができる。このようにして密着させると、試料91、92と、第1導体21、第2導体22および第3導体23と、の間に空気層が生じにくくなる。この状態で第1導体21と第2導体22との間に電界を印加することにより、空気層の影響を抑えつつ、試料91、92の誘電特性を精度よく測定することができる。
【0029】
以下、
図1および
図2に示す円板共振器1の構造についてさらに説明する。円板共振器1は、第1導体21、第2導体22および第3導体23と、第1固定板31および第2固定板32と、第1駆動部41および第2駆動部42と、第1励振線51を備える送信アンテナ55および第2励振線52を備える受信アンテナ56と、を有する。
【0030】
送信アンテナ55には、図示しない送信ケーブルの一端が接続される。この送信ケーブルの他端は、図示しないネットワークアナライザー等の測定装置の出力ポートに接続される。受信アンテナ56には、図示しない受信ケーブルの一端が接続される。この受信ケーブルの他端は、ネットワークアナライザー等の測定装置の入力ポートに接続される。
【0031】
ネットワークアナライザーから送信アンテナ55に供給された電磁波は、試料91、92を透過し、受信アンテナ56から取り出されてネットワークアナライザーで検出される。このようにして検出された電磁波を有限要素法やモード整合法等の解析手法によって解析することにより、試料91、92の比誘電率や誘電正接等の誘電特性を求めることができる。
【0032】
1.第1導体、第2導体および第3導体
第1導体21および第2導体22は、それぞれX-Y平面に沿って広がる板状をなしている。第1導体21および第2導体22の平面視形状は、それぞれ特に限定されないが、本実施形態では四隅を切り欠いた四角形である。なお、本明細書において「平面視」とは、Z軸上の位置から見ることをいう。
【0033】
第3導体23は、X-Y平面に沿って広がる、第1導体21や第2導体22より薄い板状または箔状をなしている。第3導体23の平面視形状は、特に限定されないが、本実施形態では円形である。また、第3導体23は、平面視における大きさが、第1導体21および第2導体22からはみ出さないように設定され、かつ、第1励振線51と第2励振線52とを結ぶ線上に第3導体23の中心が位置するように配置されている。
【0034】
なお、第3導体23は、試料91と試料92との間に挟まれていればよいので、例えば、試料91と試料92とが一体になっている場合には、その一体になった試料の内部に第3導体23が埋設されていてもよい。
【0035】
試料91、92は、それぞれX-Y平面に沿って広がる板状をなしている。また、試料91、92の平面視における大きさは、第3導体23を覆うように設定されている。
【0036】
第1導体21、第2導体22および第3導体23の構成材料は、それぞれ十分な導電性を有する材料であれば、特に限定されないが、例えば、銅単体または銅合金、アルミニウム単体またはアルミニウム合金、銀合金、ニッケル合金等が挙げられる。なお、銅単体または銅合金は、特に誘電正接が小さい試料91、92の測定に適している。また、アルミニウム合金やニッケル合金は、高温下や加湿下における試料91、92の測定に適している。この他、絶縁性の基材の表面に前述した導電性を有する材料の被膜、例えばめっき膜等を設けた複合材料を用いるようにしてもよい。
【0037】
第1導体21の構成材料、第2導体22の構成材料および第3導体23の構成材料は、互いに異なっていてもよいが、互いに同じであるのが好ましい。
【0038】
第1導体21は、第1軸AX1に沿って延在する第1貫通孔212を備えている。第1貫通孔212には、第1励振線51が挿入される。これにより、第1導体21および第2導体22が接地導体、第3導体23がストリップ導体、試料91および試料92が誘電体、のストリップ構造の回路について、第1励振線51と試料91とが電気的に結合し、第1励振線51から試料91に電磁波を供給することができる。第1軸AX1は、Z軸と平行で、かつ、第3導体23よりもZ軸プラス側に位置するとともに、第1貫通孔212の横断面の中心を通過する軸である。
【0039】
第2導体22は、第2軸AX2に沿って延在する第2貫通孔222を備えている。第2貫通孔222には、第2励振線52が挿入される。これにより、第1導体21および第2導体22が接地導体、第3導体23がストリップ導体、試料91および試料92が誘電体、のストリップ構造の回路について、第2励振線52と試料92とが電気的に結合し、試料92からの電磁波を第2励振線52で受信することができる。第2軸AX2は、Z軸と平行で、かつ、第3導体23よりもZ軸マイナス側に位置するとともに、第2貫通孔222の横断面の中心を通過する軸である。
【0040】
2.第1固定板および第2固定板
第1固定板31および第2固定板32は、それぞれX-Y平面に沿って広がる板状をなしている。第1固定板31および第2固定板32の平面視形状は、特に限定されないが、本実施形態では四角形である。
【0041】
第1固定板31および第2固定板32は、これらの間に、第1導体21、第2導体22、第3導体23、および、試料91、92を挟み込んで押圧する。
【0042】
第1固定板31は、Z軸に沿って貫通する4つのボルト孔314を備えている。第2固定板32も、Z軸に沿って貫通する4つのボルト孔324を備えている。ボルト孔314、324には、ボルト61が挿入され、このボルト61には、ナット62を螺合させる。これにより、第1固定板31と第2固定板32との距離を縮め、第1固定板31と第2固定板32との間に挟持している物体を圧縮するように押圧することができる。なお、ボルト61およびナット62は、第1固定板31および第2固定板32を互いに接近させるように押圧させ得る部材、例えば、プレス器や万力等の部材で代替可能である。また、この部材の数も、4つに限定されず、1つであってもよいし、4つ以外の複数であってもよい。さらに、ボルト61およびナット62を省略し、代わりに、第1固定板31および第2固定板32を互いに接近させるように挟み込むケース状部材が用いられてもよい。
【0043】
第1固定板31および第2固定板32の構成材料は、それぞれ十分な機械的強度を有する材料であれば、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、耐熱鋼、工具鋼、機械構造用合金鋼のようなFe系合金、真鍮のようなCu系合金、アルミニウム合金等の金属材料、アルミナ、ジルコニアのようなセラミックス材料等が挙げられる。また、第1固定板31の構成材料および第2固定板32の構成材料は、互いに異なっていてもよいが、互いに同じであるのが好ましい。
【0044】
第1固定板31は、Z軸に沿って貫通する固定板貫通孔312を有しており、第2固定板32は、Z軸に沿って貫通する固定板貫通孔322を有している。
【0045】
第1固定板31および第2固定板32は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0046】
3.送信アンテナおよび受信アンテナ
送信アンテナ55は、
図2に示すように、第1励振線51と、第1励振線51のZ軸プラス側の端部を支持するコネクター53と、を備えている。第1励振線51は、ネットワークアナライザーから出力された電磁波を、試料91に供給する導線である。コネクター53は、第1励振線51と図示しない送信ケーブルとを接続する。
【0047】
受信アンテナ56は、
図2に示すように、第2励振線52と、第2励振線52のZ軸マイナス側の端部を支持するコネクター54と、を備えている。第2励振線52は、試料92を介して受信した電磁波を、ネットワークアナライザーに向けて伝送する導線である。コネクター54は、第2励振線52と図示しない受信ケーブルとを接続する。
【0048】
なお、第1励振線51および第2励振線52には、同軸線路、平面回路型線路、導波管、誘電体導波路など、測定周波数の電磁波を伝搬する各種導波路を用いることができる。コネクター53およびコネクター54は、特に限定されないが、米国電気電子学会(IEEE)規格287に規定されたプレシジョンコネクターを利用することができる。これにより送受信ケーブルを介したネットワークアナライザーとの接続を容易に実現できる。IEEE287に規定されたプレシジョンコネクターとしては、例えば、3.5mmコネクター、2.92mmコネクター、2.4mmコネクター、1.85mmコネクター、1.0mmコネクター等が挙げられる。このうち、1.0mmコネクターは、最大120GHzまでの誘電特性の測定に利用することができる。
【0049】
4.第1駆動部
第1駆動部41は、送信アンテナ55を支持し、送信アンテナ55を第1軸AX1に沿って移動させる機能を有する。
【0050】
第1駆動部41は、第1励振線51を第1軸AX1まわりに1回転以上回転させることなく、第1励振線51を第1軸AX1に沿って移動させるように構成されている。これにより、第1励振線51を必要以上に回転させることなく平行移動させることができるので、移動に際して、第1励振線51と第1貫通孔212との隙間が変化しにくくなる。つまり、第1励振線51が第1軸AX1からずれた状態で設けられていても、必要以上の回転が抑えられているため、従来の方式に比べて、第1励振線51と第1貫通孔212との隙間の変化量が少なくなる。その結果、この隙間の変化による誘電特性の測定結果への影響を抑制することができ、誘電特性の測定精度の低下を抑制することができる。
【0051】
第1駆動部41は、アンテナホルダー432と、固定ナット436と、保持部45と、調整部47と、を備えている。
【0052】
4.1.保持部
保持部45は、調整部47を第1軸AX1まわりに回転可能な状態で、第1導体21に対して相対的に保持する機能を有する。保持部45は、
図1および
図2に示すように、主部452と、副部454と、を備えている。
【0053】
図1に示す主部452は、板状をなしており、ボルト483により第1固定板31に固定されている。
図1に示す副部454は、主部452との間に調整部47を挟む形状をなしている。つまり、調整部47は、主部452と副部454との間に配置されている。主部452と副部454との隙間には、調整部47のZ軸に沿った厚さに対して余裕が持たせてある。副部454は、ボルト484により主部452に固定されている。
【0054】
主部452は、Z軸に沿って貫通する貫通孔453を有しており、副部454は、Z軸に沿って貫通する貫通孔455を有している。
【0055】
4.2.調整部
調整部47は、X-Y平面に沿って広がる円板状をなしている。調整部47は、第1軸AX1まわりに回転可能な状態で、第1導体21に相対的に保持されている。「第1導体21に相対的に保持されている」という状態には、本実施形態のように、調整部47が第1軸AX1に沿って移動するのを規制しつつ、第1固定板31を介して、調整部47を保持した保持部45を第1導体21に間接的に固定している状態の他、保持部45を第1導体21に直接固定している状態も含む。
【0056】
調整部47は、Z軸に沿って貫通する貫通孔471を有している。貫通孔471の内側面には、雌ネジ部472が設けられている。
【0057】
4.3.アンテナホルダー
アンテナホルダー432は、送信アンテナ55と接続され、送信アンテナ55の移動を担う。アンテナホルダー432は、送信アンテナ55のコネクター53を支持する支持部433と、支持部433に接続された挿入部434と、を備えている。
【0058】
図3は、
図2の部分拡大図である。なお、
図3では、
図2では省略している一部の部材も図示している。
【0059】
図3に示すように、コネクター53は、ビス57により、支持部433に固定されている。なお、固定方法は、これに限定されない。
【0060】
挿入部434は、Z軸に沿って延在する円筒状をなしている。支持部433および挿入部434の内部には、Z軸に沿って延在する第1挿通孔439が設けられており、その第1挿通孔439に第1励振線51が挿通されている。第1励振線51のZ軸マイナス側の端部である第1先端部512は、挿入部434から突出している。
【0061】
このような挿入部434は、
図2に示すように、第1固定板31が有する固定板貫通孔312、保持部45が有する貫通孔453、455、および、調整部47が有する貫通孔471がつながった孔に挿入可能である。そして、挿入部434を固定板貫通孔312等に挿入すると、第1先端部512は、
図3に示すように、第1導体21の第1貫通孔212に挿入される。
【0062】
挿入部434の側面には、雄ネジ部435が設けられている。前述した第1固定板31が有する固定板貫通孔312、および、前述した保持部45が有する貫通孔453、455には、それぞれ雄ネジ部435が干渉しない。
【0063】
一方、調整部47に設けられた貫通孔471には、前述したように雌ネジ部472が設けられている。そして、挿入部434に設けられた雄ネジ部435と、貫通孔471に設けられた雌ネジ部472と、が螺合する。このように、雄ネジ部435と雌ネジ部472とを螺合させることで、調整部47を第1軸AX1まわりに回転させたとき、回転角度に応じて、第1軸AX1に沿う挿入部434の移動量を容易に調整することができる。これにより、第1貫通孔212に対する第1励振線51の挿入量を容易に調整することができる。
【0064】
しかしながら、雄ネジ部435と雌ネジ部472とを螺合させたとき、両者の摩擦等により、調整部47とともに挿入部434も一緒に回転してしまうことがある。挿入部434が1回転以上回転してしまうと、第1励振線51も1回転以上回転してしまうため、課題を解決することができない。
【0065】
そこで、本実施形態に係る円板共振器1では、挿入部434の必要以上の回転を抑制する機能を第1駆動部41に持たせている。これにより、第1励振線51の回転数を1回転未満に抑制することができる。この機能については、後に詳述する。
【0066】
4.4.固定ナット
固定ナット436は、Z軸に沿って延在する円筒状をなす部材であり、
図3に示すように、貫通孔437を有している。貫通孔437の内側面には、雌ネジ部438が設けられている。
【0067】
固定ナット436の貫通孔437には、挿入部434が挿通されている。そして、挿入部434に設けられた雄ネジ部435と、貫通孔437に設けられた雌ネジ部438と、が螺合する。このように、雄ネジ部435と雌ネジ部438とを螺合させることで、固定ナット436は、第1軸AX1上における挿入部434の位置を固定する機能を有する。
【0068】
図4は、
図3に示す固定ナット436をZ軸マイナス側に移動させた状態を示す図である。
【0069】
前述した
図3に示す状態では、固定ナット436と、保持部45の副部454と、が離れている。この状態では、調整部47を第1軸AX1まわりに回転させたとき、固定ナット436と副部454とが接触しないため、第1軸AX1に沿って挿入部434を移動させることが可能である。
図3に示すように、固定ナット436を副部454から離した状態を、挿入部434の移動を可能にする「第1状態」とする。
【0070】
これに対し、
図4に示す状態では、固定ナット436が保持部45の副部454に接触している。この状態では、調整部47を第1軸AX1まわりに回転させたとき、固定ナット436と副部454とが接触するため、挿入部434をZ軸マイナス側へ繰り出すことはできない。したがって、
図4に示すように、固定ナット436を副部454に接触させた状態を、挿入部434を固定した「第2状態」とする。
【0071】
また、第2状態では、第1軸AX1に沿った移動が制限される他、アンテナホルダー432のガタツキが抑制される。
図3の状態では、副部454を貫通する貫通孔455とアンテナホルダー432との間に隙間があるため、アンテナホルダー432が揺れる可能性がある。これに対し、
図4の状態では、固定ナット436が副部454に押し当てられるため、アンテナホルダー432の揺れが抑制される。したがって、第2状態では、このようなガタツキを抑制して、目的とする挿入量に精度よく調整することができる。その結果、試料91、92の誘電特性をより精度よく計測することを可能にする。
【0072】
4.5.回転抑制機構
以下、第1駆動部41が備える第1励振線51の回転を抑制する機構(回転抑制機構)について説明する。
【0073】
図5は、
図3のアンテナホルダー432をY軸プラス側からY軸マイナス側に向かって見たときの側面図である。
図6は、
図5に示すアンテナホルダー432およびそのアンテナホルダー432に挿通されている第1励振線51をZ軸マイナス側からZ軸プラス側に向かって見たときの平面図である。
【0074】
図5に示すように、アンテナホルダー432は、挿入部434の側面に設けられた1本の溝71を有している。この溝71は、Z軸に沿って延在している。
【0075】
また、
図3に示す保持部45の主部452は、Y軸に沿って外側面と貫通孔453とを連通する連通孔72と、連通孔72に挿入された止めネジ73と、を備えている。
図6にも、止めネジ73を図示している。止めネジ73の外側面には、雄ネジが設けられており、連通孔72の内側面には、雌ネジが設けられている。これらが螺合することにより、止めネジ73のY軸に沿った位置を調整することができる。
【0076】
図3では、止めネジ73を貫通孔453の内側面から突出させている。そして、突出した止めネジ73の先端が、挿入部434の溝71に挿入されている。止めネジ73が溝71に挿入されると、挿入部434が回転しようとしても、止めネジ73と溝71の内壁とが接触する。このため、止めネジ73は、挿入部434が第1軸AX1まわりに回転するのを抑制することができる。
【0077】
一方、溝71は、Z軸に沿って延在しているため、止めネジ73が溝71に挿入されている状態でも、第1軸AX1に沿った挿入部434の移動は可能である。
【0078】
したがって、溝71、連通孔72および止めネジ73で構成される回転抑制機構は、第1励振線51を第1軸AX1まわりに回転させることなく、第1励振線51を第1軸AX1に沿って移動させる機能を有するものとなる。
【0079】
つまり、止めネジ73は、第1軸AX1に沿ってアンテナホルダー432が移動するように案内するガイド部であり、溝71は、止めネジ73により案内される被ガイド部となる。
【0080】
なお、溝71の本数は、1本に限定されず、複数本であってもよい。その場合、溝71の数に応じて連通孔72や止めネジ73の数を増やしてもよいし、増やさなくてもよい。
【0081】
5.第2駆動部
第2駆動部42は、受信アンテナ56を支持し、受信アンテナ56を第2軸AX2に沿って移動させる機能を有する。
【0082】
第2駆動部42は、第2励振線52を第2軸AX2まわりに1回転以上回転させることなく、第2励振線52を第2軸AX2に沿って移動させるように構成されている。これにより、第2励振線52を必要以上に回転させることなく平行移動させることができるので、移動に際して、第2励振線52と第2貫通孔222との隙間が変化しにくくなる。つまり、第2励振線52が第2軸AX2からずれた状態で設けられていても、必要以上の回転が抑えられているため、従来の方式に比べて、第2励振線52と第2貫通孔222との隙間の変化量が少なくなる。その結果、この隙間による誘電特性の測定結果への影響を抑制することができ、誘電特性の測定精度の低下を抑制することができる。
【0083】
第2駆動部42は、アンテナホルダー442と、固定ナット446と、保持部46と、調整部48と、を備えている。
【0084】
5.1.保持部
保持部46は、調整部48を第2軸AX2まわりに回転可能な状態で、第2導体22に対して相対的に保持する機能を有する。
図1および
図2に示すように、貫通孔463を有する主部462と、貫通孔465を有する副部464と、を備えている。保持部46の構成は、前述した保持部45の構成と同様である。
【0085】
5.2.調整部
調整部48は、調整部47と同様の形状を有し、第2軸AX2まわりに回転可能な状態で、第2導体22に相対的に保持されている。「第2導体22に相対的に保持されている」という状態には、本実施形態のように、調整部48が第2軸AX2に沿って移動するのを規制しつつ、第2固定板32を介して、調整部48を保持した保持部46を第2導体22に間接的に固定している状態の他、保持部46を第2導体22に直接固定している状態も含む。
【0086】
調整部48は、Z軸に沿って貫通する貫通孔481を有している。貫通孔481の内側面には、雌ネジ部482が設けられている。調整部48の構成は、前述した調整部47の構成と同様である。
【0087】
5.3.アンテナホルダー
アンテナホルダー442は、支持部443と、挿入部444と、を備えている。
【0088】
挿入部444の側面には、雄ネジ部445が設けられている。第2励振線52のZ軸プラス側の端部である第2先端部522は、挿入部444から突出している。
【0089】
このような挿入部444は、
図2に示すように、第2固定板32が有する固定板貫通孔322、保持部46が有する貫通孔463、465、および、調整部48が有する貫通孔481がつながった孔に挿入可能である。そして、挿入部444を固定板貫通孔322等に挿入すると、第2先端部522は、第2導体22の第2貫通孔222に挿入される。
【0090】
アンテナホルダー442の構成は、前述したアンテナホルダー432の構成と同様である。
【0091】
5.4.固定ナット
固定ナット446の構成は、前述した固定ナット436の構成と同様である。固定ナット446により、アンテナホルダー442の移動を可能にする第1状態と、アンテナホルダー442を固定する第2状態と、を切り替えることができる。
【0092】
5.5.回転抑制機構
次に、第2駆動部42が備える第2励振線52の回転を抑制する機構(回転抑制機構)について説明する。
【0093】
アンテナホルダー442は、
図2に示すように、挿入部444の側面に設けられた1本の溝74を有している。この溝74は、Z軸に沿って延在している。
【0094】
図2に示す保持部46の主部462は、Y軸に沿って外側面と貫通孔463とを連通する連通孔75と、連通孔75に挿入された止めネジ76と、を備えている。
【0095】
溝74、連通孔75および止めネジ76で構成される回転抑制機構は、第2励振線52を第2軸AX2まわりに回転させることなく、第2励振線52を第2軸AX2に沿って移動させる機能を有するものとなる。
【0096】
以上のような第2駆動部42が備える回転抑制機構の構成は、第1駆動部41が備える回転抑制機構の構成と同様である。
【0097】
6.円板共振器の構成と作用・効果との関係
以上のように、本実施形態に係る円板共振器1は、第1導体21と、第2導体22と、第3導体23と、第1励振線51と、第2励振線52と、第1駆動部41と、を少なくとも有する。第1導体21は、第1軸AX1に沿って延在する第1貫通孔212を有する。第2導体22は、試料91、92を介して第1導体21と対向して設けられ、第2軸AX2に沿って延在する第2貫通孔222を有する。第3導体23は、試料91、92中に設けられる。第1励振線51は、第1先端部512を有し、第1先端部512が第1貫通孔212に挿入された状態で保持される。第2励振線52は、第2先端部522を有し、第2先端部522が第2貫通孔222に挿入された状態で保持される。第1駆動部41は、第1励振線51を第1軸AX1まわりに1回転以上回転させることなく、第1励振線51を第1軸AX1に沿って移動させる。
【0098】
このような構成によれば、第1励振線51を第1軸AX1まわりに1回転以上回転させることなく、第1励振線51を第1軸AX1に沿って移動させることができる。これにより、第1先端部512の第1貫通孔212に対する挿入量を調整するとき、第1励振線51が第1軸AX1からずれた状態(偏心した状態)で設けられていたとしても、第1励振線51と第1貫通孔212との隙間が変化しにくくなる。これにより、隙間の変化による誘電特性の測定結果への影響を抑制することができる。その結果、試料91、92の種類に応じて挿入量を調整しつつ、精度の高い誘電特性の測定が可能な円板共振器1を実現することができる。
【0099】
また、第1駆動部41を用いて移動させることにより、第1励振線51の平行移動が容易になる。これにより、第1励振線51が第1軸AX1からずれた状態で設けられていても、第1励振線51の第1貫通孔212に対する挿抜作業に際して、第1励振線51を第1軸AX1に対して平行に移動させることができるので、第1励振線51と第1貫通孔212との摩擦が抑えられる。そして、挿抜作業の繰り返しに伴って、第1励振線51や第1貫通孔212が擦り減るのを抑制することができる。その結果、第1励振線51と第1貫通孔212との隙間が長期的に徐々に変化してしまうのを抑制し、誘電特性の測定精度が低下するのを抑制することができる。
【0100】
さらに、第1励振線51および第1貫通孔212の摩耗を抑制することができるので、第1励振線51や第1導体21の長寿命化を図ることもできる。
【0101】
なお、「第1励振線51を1回転以上回転させない」とは、
図3に示すように、第1励振線51を第1貫通孔212の一方の開口から他方の開口まで移動させる間に、第1励振線51が第1軸AX1まわりに1回転、すなわち360°以上回転しないことを指す。例えば、
図5に示すアンテナホルダー432を用いた場合には、第1励振線51の回転が前述した回転抑制機構によって制限されるため、第1励振線51の回転角度はほぼゼロである。
【0102】
これに対し、
図7には、第1励振線51の回転を1回転未満で許容するアンテナホルダー432Aの例を示している。
図7は、
図5のアンテナホルダー432の変形例を示す側面図である。
【0103】
図7に示すアンテナホルダー432Aは、溝71Aの延在方向が異なる以外、
図5に示すアンテナホルダー432と同様である。
【0104】
溝71Aは、
図7に示すように、挿入部434の側面を1回転未満の角度範囲で周回しつつ、Z軸方向に延在している。このような溝71Aに止めネジ73を挿入した場合、挿入部434は、第1軸AX1まわりに1回転未満の角度範囲で回転しつつ、第1軸AX1に沿って移動し得るものとなる。
【0105】
つまり、溝71A、連通孔72および止めネジ73で構成される回転抑制機構は、第1励振線51を第1軸AX1まわりに1回転以上回転させることなく、第1励振線51を第1軸AX1に沿って移動させる機能を有するものとなる。
【0106】
このようなアンテナホルダー432Aは、アンテナホルダー432を用いた場合に比べて、第1励振線51の多少の回転を許容する。このため、アンテナホルダー432Aを用いる円板共振器1では、誘電特性の測定精度がわずかに低下する一方、第1励振線51が回転することに伴う別の効果を奏する。
【0107】
別の効果として、第1励振線51の健全性、および、第1導体21の第1貫通孔212の健全性、を評価することができる、という効果が挙げられる。具体的には、第1励振線51を1回転未満の範囲で回転させることにより、回転に伴う誘電特性の変化を捉えることができる。この誘電特性の変化のパターンや変化量をモニターし、第1励振線51や第1貫通孔212の摩耗量と関連付けることにより、第1励振線51や第1貫通孔212の摩耗状況を評価することができる。これにより、第1励振線51や第1導体21を交換すべきか否かを、定量的に評価することができる。したがって、このような評価を定期的に行うことにより、測定精度が低い状態に気づかないで測定を続けてしまうことを避けることができる。
【0108】
なお、モニターする対象は、誘電特性に限定されず、受信アンテナ56で受信した信号に基づく任意の指標であればよい。
【0109】
また、このような別の効果を得るためには、第1励振線51の回転角度が90°超360°未満となるように、アンテナホルダー432Aを構成するのが好ましい。
【0110】
一方、このような別の効果が不要な場合、第1励振線51の回転角度を90°以下に抑えるのが好ましく、30°以下に抑えるのがより好ましく、10°以下に抑えるのがさらに好ましい。
【0111】
また、前述したように、本実施形態に係る円板共振器1は、第1駆動部41に加え、第2駆動部42をさらに有している。この第2駆動部42は、第2励振線52を第2軸AX2まわりに1回転以上回転させることなく、第2励振線52を第2軸AX2に沿って移動させる。
【0112】
このような構成によれば、第1励振線51だけでなく、第2励振線52についても、第2軸AX2まわりに1回転以上回転させることなく、第2軸AX2に沿って移動させることができる。これにより、第2先端部522の第2貫通孔222に対する挿入量を調整するとき、第2励振線52が第2軸AX2からずれた状態(偏心した状態)で設けられていたとしても、第2励振線52と第2貫通孔222との隙間が変化しにくくなる。これにより、隙間の変化による誘電特性の測定結果への影響を抑制することができる。その結果、誘電特性の測定精度により優れた円板共振器1を実現することができる。
【0113】
また、第2駆動部42を用いて移動させることにより、第2励振線52の平行移動が容易になる。これにより、第2励振線52が第2軸AX2からずれた状態で設けられていても、第2励振線52の第2貫通孔222に対する挿抜作業に際して、第2励振線52を第2軸AX2に対して平行に移動させることができるので、第2励振線52と第2貫通孔222との摩擦が抑えられる。そして、挿抜作業の繰り返しに伴って、第2励振線52や第2貫通孔222が擦り減るのを抑制することができる。その結果、第2励振線52と第2貫通孔222との隙間が長期的に徐々に変化してしまうのを抑制し、誘電特性の測定精度が低下するのを抑制することができる。
【0114】
さらに、第2励振線52および第2貫通孔222の摩耗を抑制することができるので、第2励振線52や第2導体22の長寿命化を図ることもできる。
【0115】
なお、第2駆動部42は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。また、送信アンテナ55および受信アンテナ56の位置は、上記と反対であってもよい。すなわち、送信アンテナ55がアンテナホルダー442に支持され、受信アンテナ56がアンテナホルダー432に支持されるように構成されていてもよい。
【0116】
また、第1駆動部41は、前述したように、アンテナホルダー432と、調整部47と、を備えている。アンテナホルダー432は、挿入部434(本体部)、挿入部434の側面に設けられている雄ネジ部435、および、挿入部434の内部に設けられ、第1励振線51が挿通されている第1挿通孔439、を有する。調整部47は、雄ネジ部435と螺合する雌ネジ部472を有し、第1軸AX1まわりに回転可能な状態で第1導体21に相対的に保持されている。
【0117】
このような構成によれば、第1励振線51の挿入量の微調整が容易になる。具体的には、調整部47の回転角度に応じて第1励振線51の挿入量を調整することができるので、作業に不慣れな作業者であっても、挿入量の微調整が容易である。
【0118】
また、第1駆動部41は、第1導体21に対して相対的に固定されている保持部45を備えている。この保持部45は、第1軸AX1まわりに回転可能な状態で調整部47を保持している。
【0119】
これにより、調整部47を第1導体21に相対的に固定するので、調整部47の位置が安定する。その結果、第1励振線51の位置を精度よく調整することができる。
【0120】
図8は、
図3に示す調整部47の平面図である。
図8に示す調整部47は、Z軸プラス側を向く面に設けられた複数の目盛線473を有している。
図8に示す目盛線473は、一例として18°間隔で設けられている。調整部47の回転角度は、アンテナホルダー432に設けられた雄ネジ部435のピッチに応じて決まる、アンテナホルダー432の移動量に比例する。したがって、目盛線473を目安にして調整部47を回すことにより、第1励振線51の挿入量をより精度よく調整することができる。
【0121】
なお、第1駆動部41の構成は、上記の構成に限定されず、例えば、調整部47は、電磁アクチュエーターやピエゾアクチュエーターのような、アンテナホルダー432を微動させ得る部材で代替可能である。
【0122】
また、第1駆動部41と同様、第2駆動部42の構成も、上記の構成に限定されず、例えば、調整部48は、電磁アクチュエーターやピエゾアクチュエーターのような、アンテナホルダー442を微動させ得る部材で代替可能である。
【0123】
さらに、本実施形態では、前述したように、保持部45が、第1軸AX1に沿ってアンテナホルダー432が移動するように案内するガイド部である止めネジ73を備えている。さらに、アンテナホルダー432は、止めネジ73により案内される被ガイド部である溝71を備えている。
【0124】
このような構成によれば、止めネジ73によってアンテナホルダー432が案内されるので、より直線的に、つまり、第1軸AX1まわりの回転をほぼゼロに抑えた状態で、第1励振線51を移動させることができる。
【0125】
また、本実施形態では、被ガイド部である溝71は、挿入部434(本体部)の側面に設けられ、第1軸AX1に沿って延在している。一方、ガイド部である止めネジ73は、溝71に挿入される突起である。
【0126】
このような構成によれば、簡単な構造でガイド部および被ガイド部を構成することができる。これにより、円板共振器1を容易に製造することができ、また、円板共振器1の低コスト化を図ることができる。
【0127】
なお、ガイド部および被ガイド部の構成は、上記の構成に限定されない。例えば、被ガイド部は、挿入部434をY軸に沿って貫通するとともに、Z軸に沿って細長く延びた貫通孔であってもよい。
【0128】
また、第2駆動部42が有するガイド部および被ガイド部の構成も、上記と同様の構成であってもよいし、上記とは異なる構成であってもよい。
【0129】
さらに、本実施形態では、前述したように、第1駆動部41が、固定切替部である固定ナット436をさらに備えている。固定ナット436は、アンテナホルダー432を第1導体21に対して移動可能にする第1状態と、アンテナホルダー432を第1導体21に対して相対的に固定する第2状態と、を切り替える機能を有する。
【0130】
このような固定ナット436を備えることにより、第1状態において、第1励振線51の挿入量を調整した後、第2状態に切り替えて、第1励振線51と第1貫通孔212との隙間を固定することができる。これにより、目的とした挿入量で試料91、92の誘電特性を安定して測定することができる。
【0131】
また、本実施形態では、第2駆動部42も固定ナット446を備えている。これにより、固定ナット436が奏する効果と同様の効果が得られる。
【0132】
なお、固定ナット436、446は、前述した第1状態と第2状態を自在に切り替え得る部材で代替可能である。このような部材としては、例えば、クランプ、くさび等が挙げられる。
【0133】
図9は、
図3の第1導体21のみを示す斜視図である。なお、
図9では、Z軸プラス側の方向を、
図3とは異ならせている。また、
図10は、
図9の断面図である。
【0134】
図9に示す第1導体21は、X-Y平面にそれぞれ平行であり、互いに表裏の関係を持つ2つの主面を有している。この2つの主面のうち、
図3に示す試料91に対向する主面を「試料対向面219」とする。この試料対向面219は、周縁部に位置する周縁領域217と、中央部に位置する中央領域218と、を有している。中央領域218は、段差を介して周縁領域217よりも高くなっている。
【0135】
このような構成によれば、
図9に示す第1導体21を
図1に示すように組み立てたとき、中央領域218が試料91を優先的に押圧する。中央領域218は、周縁領域217よりも突出しているため、試料91を均一に押圧することができる。また、第1導体21が酸化等により劣化しても、中央領域218を研磨することにより、当初の表面状態を簡単に復活させることができる。さらに、研磨に伴って中央領域218が凹んでしまうのを防止することができる。これにより、良好な表面状態の中央領域218で、試料91を繰り返し押圧することができる。その結果、押圧力の分布状態の再現性を高めることができ、誘電特性の測定結果の繰り返し精度を高めることができる。
【0136】
なお、中央領域218の平面視形状は、
図9に示す円形であるのが好ましいが、四角形やその他の形状であってもよい。
【0137】
また、第1導体21の試料対向面219の形状は、上記の形状に限定されず、例えば、湾曲凸面であってもよいし、平坦面であってもよい。
【0138】
図10に示す周縁領域217を基準にしたときの中央領域218の高さhは、特に限定されないが、0.03~1.0mm程度であるのが好ましく、0.05~0.5mm程度であるのがより好ましい。これにより、繰り返し研磨しても、中央領域218と周縁領域217との間に十分な段差を確保することができる。また、第1導体21全体が湾曲している場合でも、中央領域218が突出していることによる作用が十分に発揮され、試料91を均一な圧力分布で押圧することができる。
【0139】
中央領域218の表面粗さRaは、特に限定されないが、0.3μm以下であるのが好ましく、0.1μm以下であるのがより好ましい。これにより、第1導体21と試料91との間に空気層が残存するのを抑制することができる。その結果、試料91、92の誘電特性をより精度よく測定することができる。
【0140】
また、第2導体22は、第1導体21と異なる形状を有していてもよいが、好ましくは第1導体21と同様の形状を有している。これにより、第2導体22が、試料92を均一に押圧することができる。その結果、第1導体21が奏する効果と同様の効果が得られる。
【0141】
7.誘電特性測定装置
図11は、実施形態に係る誘電特性測定装置を示す図である。
【0142】
実施形態に係る誘電特性測定装置10は、前述した円板共振器1を備える。具体的には、
図11に示す誘電特性測定装置10は、円板共振器1と、ネットワークアナライザー11と、パーソナルコンピューター12と、を備える。ネットワークアナライザー11と円板共振器1との間は、送信ケーブル13および受信ケーブル14を介して接続されている。
【0143】
ネットワークアナライザー11は、円板共振器1に電磁波を供給するとともに、円板共振器1から検出した電磁波をデジタル処理することによって、共振周波数、挿入損失、電力半値幅等の解析データを取得する。そして、ネットワークアナライザー11は、これらの解析データをパーソナルコンピューター12に出力する。
【0144】
パーソナルコンピューター12は、これらの解析データや試料に関する初期条件、円板共振器1に関する初期条件、温度、湿度等の環境条件等に基づいて、試料の比誘電率、誘電正接等の誘電特性を算出する。
【0145】
このような誘電特性測定装置10によれば、前述した円板共振器1を備えているため、試料の誘電特性を精度よく測定することができる。
【0146】
8.誘電特性測定方法
図12は、実施形態に係る誘電特性測定方法を示すフローチャートである。
【0147】
実施形態に係る誘電特性測定方法は、前述した円板共振器1を用いて誘電特性を測定する方法である。
【0148】
具体的には、
図12に示す誘電特性測定方法は、電磁波入力工程S102と、電磁波検出工程S104と、データ解析工程S106と、誘電特性算出工程S108と、を有する。
【0149】
電磁波入力工程S102では、円板共振器1に取り付けられた試料に対してネットワークアナライザー11から電磁波を入力する。電磁波検出工程S104では、円板共振器1から出力された電磁波をネットワークアナライザー11で検出する。データ解析工程S106では、ネットワークアナライザー11が電磁波のデータを解析して、解析データを得る。誘電特性算出工程S108では、得られた解析データや初期条件等に基づいて、パーソナルコンピューター12が試料の誘電特性を算出する。
【0150】
このような誘電特性測定方法によれば、前述した円板共振器1を用いるため、試料の誘電特性を精度よく測定することができる。
【0151】
以上、本発明の円板共振器、誘電特性測定装置および誘電特性測定方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0152】
例えば、本発明の円板共振器および誘電特性測定装置は、それぞれ、前記実施形態の各部が同様の機能を有する任意の構成のものに置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【0153】
また、本発明の誘電特性測定方法は、前記実施形態に任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0154】
1 円板共振器
10 誘電特性測定装置
11 ネットワークアナライザー
12 パーソナルコンピューター
13 送信ケーブル
14 受信ケーブル
21 第1導体
22 第2導体
23 第3導体
31 第1固定板
32 第2固定板
41 第1駆動部
42 第2駆動部
45 保持部
46 保持部
47 調整部
48 調整部
51 第1励振線
52 第2励振線
53 コネクター
54 コネクター
55 送信アンテナ
56 受信アンテナ
57 ビス
61 ボルト
62 ナット
71 溝
71A 溝
72 連通孔
73 止めネジ
74 溝
75 連通孔
76 止めネジ
91 試料
92 試料
212 第1貫通孔
217 周縁領域
218 中央領域
219 試料対向面
222 第2貫通孔
312 固定板貫通孔
314 ボルト孔
322 固定板貫通孔
324 ボルト孔
432 アンテナホルダー
432A アンテナホルダー
433 支持部
434 挿入部
435 雄ネジ部
436 固定ナット
437 貫通孔
438 雌ネジ部
439 第1挿通孔
442 アンテナホルダー
443 支持部
444 挿入部
445 雄ネジ部
446 固定ナット
452 主部
453 貫通孔
454 副部
455 貫通孔
462 主部
463 貫通孔
464 副部
465 貫通孔
471 貫通孔
472 雌ネジ部
473 目盛線
481 貫通孔
482 雌ネジ部
483 ボルト
484 ボルト
512 第1先端部
522 第2先端部
AX1 第1軸
AX2 第2軸
h 高さ
S102 電磁波入力工程
S104 電磁波検出工程
S106 データ解析工程
S108 誘電特性算出工程