(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】炭素繊維複合体、及び炭素繊維複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20240719BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20240719BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20240719BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20240719BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08J5/04 CES
C08J5/04 CFG
C08L77/06
C08L23/02
C08L23/26
C08K7/06
(21)【出願番号】P 2020210393
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】片岡 央尚
(72)【発明者】
【氏名】加賀 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】平田 雅俊
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/100999(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/208826(WO,A1)
【文献】特開平11-335553(JP,A)
【文献】特開2015-059221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04
C08L 77/06
C08L 23/02
C08L 23/26
C08K 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維と、樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む炭素繊維複合体であって、
前記樹脂組成物が、ポリアミド樹脂(A)の連続相と、ポリオレフィン(B)の非連続相とによる海島構造を有し、
前記ポリアミド樹脂(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)のみを含み、
前記ポリオレフィン(B)は、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)を含み、
前記樹脂組成物が、JIS K 7199に準拠し、温度300℃、せん断速度12.16s
-1により測定した粘度が、900Pa・s以上
1800Pa・s以下である、ことを特徴とする、炭素繊維複合体。
【請求項2】
前記半芳香族ポリアミド樹脂(A1)の融点が280℃以下である、請求項1に記載の炭素繊維複合体。
【請求項3】
前記樹脂組成物において、前記ポリアミド樹脂(A)の、前記ポリオレフィン(B)に対する質量比が、1.0以上4.0以下である、請求項1又は2に記載の炭素繊維複合体。
【請求項4】
前記樹脂組成物において、前記未変性ポリオレフィン(B1)の、前記ポリオレフィン(B)に対する質量比が、0.75以上1.00未満である、請求項1~3のいずれかに記載の炭素繊維複合体。
【請求項5】
炭素繊維と、樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む炭素繊維複合体の製造方法であって、
ポリアミド樹脂(A)及びポリオレフィン(B)を含む樹脂組成物から、厚みが10μm以上500μm以下であるシートを形成する、シート形成工程と、
前記シートと炭素繊維とを接触させて、炭素繊維と、前記樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む炭素繊維複合体を得る、複合体取得工程とを、備え、
前記ポリアミド樹脂(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)のみを含み、前記ポリオレフィン(B)は、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)を含
み、
前記樹脂組成物が、ポリアミド樹脂(A)の連続相と、ポリオレフィン(B)の非連続相とによる海島構造を有し、
前記樹脂組成物が、JIS K 7199に準拠し、温度300℃、せん断速度12.16s
-1
により測定した粘度が、900Pa・s以上1800Pa・s以下である、ことを特徴とする、炭素繊維複合体の製造方法。
【請求項6】
更に、前記ポリオレフィン(B)を架橋する架橋工程を、前記シート形成工程開始から前記複合体取得工程の完了までの間に備える、請求項5に記載の炭素繊維複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合体、及び炭素繊維複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂中にエラストマーのドメインを導入し分散させると、耐衝撃性が向上することが知られている。この点、エラストマーのドメインを分散させるためには、通常、無水マレイン酸等の相溶化剤が必要となる。これは、上記相溶化剤を用いることで、ポリアミド樹脂と相溶化剤との反応により一部が結合して、ポリアミド及びエラストマーの両方の機能を有する界面活性剤のような構造を形成することができるからである。
【0003】
上記に関連した技術として、例えば特許文献1は、PA11(ヒマシ油由来の単量体の縮重合体)等の植物由来のポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及び相溶化剤をそれぞれ所定の割合で用いた熱可塑性樹脂組成物が、耐衝撃特性に優れるとともに剛性に優れることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、耐水性や耐熱性に優れるポリアミド樹脂として、いわゆる半芳香族ポリアミド樹脂(即ち、芳香族ジカルボン酸を少なくとも含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンとの重縮合物、又は、非芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを少なくとも含むジアミンとの重縮合物)が注目されている。特に、この半芳香族ポリアミド樹脂は、その分子構造がゆえ、ガラス転移温度が高い傾向にあることから、自動車や航空機分野などへの展開が期待される重要な材料として位置付けられている。
【0006】
ここで一般に、ポリアミド樹脂及びエラストマーに相溶化剤を配合すると、見かけ上の分子量が高くなって粘度が上昇する傾向にある。この点、上記半芳香族ポリアミド樹脂は、加工の過程で極めて高温(例えば、300℃超)に加熱する必要が生じ得るところ、このときに粘度上昇が一層促進されて、ドメイン分散の際にゲル化するという問題が生じることが判明した。かかるゲル化は、成形を困難又は不能にする虞がある。
【0007】
なお、ポリアミド6及びポリアミド66等の従来のポリアミド樹脂を用いる場合には、加工温度をさほど高くする必要がないため、上記のような粘度上昇に起因した問題には、これまでほとんど至っていない。
【0008】
更には、近年、「コンポジットプリプレグ」とも呼ばれる、シート状のマトリックス樹脂を炭素繊維等の強化繊維に含浸させてなるシート材料(繊維複合体)などの需要の高まりに伴い、ポリアミド樹脂からのシート化も求められている。しかし、上述した半芳香族ポリアミド樹脂を用いたシート成形では、穴あきや粗大な樹脂塊などが頻発するため、所望のシートを安定的に成形することができなかった。
【0009】
そこで、本発明は、半芳香族ポリアミド樹脂を用いつつも、高い耐衝撃性を有し且つ成形性に優れる炭素繊維複合体を提供することを課題とする。
また、本発明は、半芳香族ポリアミド樹脂を用いつつも、高い耐衝撃性を有し且つ成形性に優れる炭素繊維複合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0011】
本発明の炭素繊維複合体は、炭素繊維と、樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む炭素繊維複合体であって、
前記樹脂組成物が、ポリアミド樹脂(A)の連続相と、ポリオレフィン(B)の非連続相とによる海島構造を有し、
前記ポリアミド樹脂(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)のみを含み、
前記ポリオレフィン(B)は、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)を含み、
前記樹脂組成物が、JIS K 7199に準拠し、温度300℃、せん断速度12.16s-1により測定した粘度が、900Pa・s以上4000Pa・s以下である、ことを特徴とする。
かかる本発明の炭素繊維複合体は、半芳香族ポリアミド樹脂を用いつつも、高い耐衝撃性を有し且つ成形性に優れる。
【0012】
本発明の炭素繊維複合体においては、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A1)の融点が280℃以下であることが好ましい。この場合、大幅な粘度上昇、ひいては成形性の悪化をより効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明の炭素繊維複合体は、上記樹脂組成物において、前記ポリアミド樹脂(A)の、前記ポリオレフィン(B)に対する質量比が、1.0以上4.0以下であることが好ましい。この場合、所定の海島構造をより確実に形成することができるとともに、非連続相のドメイン径を適度に大きくすることができる。
【0014】
本発明の炭素繊維複合体は、上記樹脂組成物において、前記未変性ポリオレフィン(B1)の、前記ポリオレフィン(B)に対する質量比が、0.75以上1.00未満であることが好ましい。この場合、特に高温環境下での良好な成形性をより確実に保持するとともに、耐衝撃性の悪化をより効果的に抑制することができる。
【0015】
また、本発明の炭素繊維複合体の製造方法は、炭素繊維と、樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む炭素繊維複合体の製造方法であって、
ポリアミド樹脂(A)及びポリオレフィン(B)を含む樹脂組成物から、厚みが10μm以上500μm以下であるシートを形成する、シート形成工程と、
前記シートと炭素繊維とを接触させて、炭素繊維と、前記樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む炭素繊維複合体を得る、複合体取得工程とを、備え、
前記ポリアミド樹脂(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)のみを含み、前記ポリオレフィン(B)は、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)を含む、ことを特徴とする。
かかる製造方法によれば、半芳香族ポリアミド樹脂を用いつつも、高い耐衝撃性を有し且つ成形性に優れる炭素繊維複合体を製造することができる。
【0016】
本発明の炭素繊維複合体の製造方法は、更に、前記ポリオレフィン(B)を架橋する架橋工程を、前記シート形成工程開始から前記複合体取得工程の完了までの間に備えることが好ましい。この場合、得られる複合体の耐衝撃性をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、半芳香族ポリアミド樹脂を用いつつも、高い耐衝撃性を有し且つ成形性に優れる炭素繊維複合体を提供することができる。
また、本発明によれば、半芳香族ポリアミド樹脂を用いつつも、高い耐衝撃性を有し且つ成形性に優れる炭素繊維複合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の炭素繊維複合体、及びその製造方法を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0019】
<炭素繊維複合体>
本発明の一実施形態の炭素繊維複合体(以下、「本実施形態の複合体」と称することがある。)は、炭素繊維と、樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む。そして、本実施形態の複合体は、
上記樹脂組成物が、ポリアミド樹脂(A)の連続相と、ポリオレフィン(B)の非連続相とによる海島構造を有すること(構造要件)、
前記ポリアミド樹脂(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)のみを含み、前記ポリオレフィン(B)は、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)を含むこと(組成要件)、並びに、
上記樹脂組成物が、JIS K 7199に準拠し、温度300℃、せん断速度12.16s-1により測定した粘度(以下、単に「300℃粘度」と称することがある。)が、900Pa・s以上4000Pa・s以下であること(粘度要件)、をそれぞれ一特徴とする。
【0020】
なお、本明細書において、「半芳香族ポリアミド樹脂」は、芳香族ジカルボン酸を少なくとも含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンとの重縮合物、又は、非芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを少なくとも含むジアミンとの重縮合物を指すものとする。
【0021】
本実施形態の複合体では、マトリックス部の樹脂組成物に関して、上述の通り、ポリアミド樹脂(A)として半芳香族ポリアミド樹脂(A1)のみを用いるとともに、当該ポリアミド樹脂(A)の連続相と、ポリオレフィン(B)の非連続相とによる海島構造が形成されている。このように、本実施形態の複合体は、マトリックス部における、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)自体の特性と、所定の海島構造とに起因して、高い耐衝撃性を発揮することができる。
なお、海島構造が形成されているか否かは、原子間力顕微鏡等の顕微鏡で観察することにより、確認することができる。
【0022】
更に、上記樹脂組成物は、上述した構造要件を達成しつつ、300℃粘度が一定の範囲(900Pa・s以上4000Pa・s以下)に調整されているので、成形性、特にはシート成形性に優れる。なお、たとえ樹脂組成物が上述した構造要件及び組成要件を満たすとしても、300℃での粘度が4000Pa・sを超える場合には、成形時に穴あきや粗大な樹脂塊などが発生するため、高い成形性を担保することができない。また、たとえ樹脂組成物が上述の構造及び組成の要件を満たすとしても、300℃粘度が900Pa・s未満である場合には、シート成形時に脈動などの不具合が発生し、厚みが一定であるシートを作製することができない。更に、上記樹脂組成物の300℃粘度が900Pa・s未満である場合には、不所望なドメインの大径化及び/又は減少が生じる結果、高い耐衝撃性を発揮することができない虞がある。
【0023】
上記と同様の観点で、上記樹脂組成物の300℃粘度は、3000Pa・s以下であることが好ましく、2500Pa・s以下であることがより好ましく、2000Pa・s以下であることが更に好ましく、1800Pa・s以下であることが一層好ましい。
【0024】
なお、本実施形態の複合体は、特に限定されないが、少なくとも以下の2つの形態を包含する。
(1)コンポジットプリプレグ
(2)炭素繊維を含む強化繊維が配列された繊維層と、ポリアミド樹脂(A)及びポリオレフィン(B)を含む樹脂層とがそれぞれ複数積層してなる、積層体
【0025】
上記(1)のコンポジットプリプレグは、即ち、ポリアミド樹脂(A)及びポリオレフィン(B)を含むマトリックス樹脂を、炭素繊維を含む強化繊維に含浸させてなるシート材料である。強化繊維は、2以上の繊維の長軸方向がそれぞれ特定の方向に配向するよう配置した、繊維の集合体の層であることが好ましい。更に、本実施形態の複合体は、上記(1)を繰り返し単位とした、コンポジットプリプレグを複数積層させた積層体の形態も包含する。
【0026】
上記(2)は、繊維層及び樹脂層がそれぞれ一層ずつ積層された形態だけでなく、繊維層及び樹脂層がそれぞれ複数積層された形態も包含する。また、繊維層は、2以上の繊維の長軸方向がそれぞれ特定の方向に配向するよう配置した、繊維の集合体の層であることが好ましい。
【0027】
更に、本実施形態の複合体は、上記(1)と上記(2)とが混在する積層体の形態も包含する。
【0028】
上記樹脂組成物は、好適な構造要件として、非連続相の円相当径(ドメイン径)が0.3μm以上であることが好ましく、また、3.0μm以下であることが好ましい。ドメイン径が上記範囲内であれば、より効果的に高い耐衝撃性を発揮することができる。より好ましくは、非連続相の円相当径(ドメイン径)は、0.5μm以上、0.8μm以上、1.2μm以上であり、また、2.8μm以下、2.7μm以下である。
なお、上記ドメイン径は、樹脂組成物の30μm×30μmの画像領域から観察される全ての非連続相について、円相当径(同一面積の円の径)の平均値として求めることができる。
【0029】
なお、上述した構造要件及び粘度要件を達成する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、
(1)半芳香族ポリアミド樹脂(A1)、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)の種類をそれぞれ適切に選択する、
(2)半芳香族ポリアミド樹脂(A1)、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)の配合比をそれぞれ適切に選択する、
(3)混練条件(各原料の投入タイミング、混練時間、混練装置の回転数、スクリュー形状、混練時の樹脂温度)を適切に選択する、
等が挙げられ、これらの複合的な作用に基づいて、上記樹脂組成物を得ることができる。
【0030】
以下、上記樹脂組成物に含有される成分について説明する。
【0031】
(ポリアミド樹脂(A))
上記樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)を含有し、また、当該ポリアミド樹脂(A)は、上述の通り、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)のみを含む。ポリアミド樹脂(A)として、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)以外のポリアミド樹脂、例えば脂肪族ポリアミド樹脂を更に用いると、耐衝撃性が悪化する虞があるためである。なお、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0032】
上記半芳香族ポリアミド樹脂(A1)としては、芳香族ジカルボン酸を少なくとも含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンとの重縮合物、及び、非芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを少なくとも含むジアミンとの重縮合物が挙げられる。具体的には、例えば、ポリアミド4T、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンナフタラミド(ポリアミド6N)、ポリノナメチレンテレフタラミド(ポリアミド9T)、ポリノナメチレンイソフタラミド(ポリアミド9I)、ポリノナメチレンナフタラミド(ポリアミド9N)、ポリ(2-メチルオクタメチレンテレフタラミド)(ポリアミドM8T)、ポリ(2-メチルオクタメチレンイソフタラミド)(ポリアミドM8I)、ポリ(2-メチルオクタメチレンナフタラミド)(ポリアミドM8N)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミドTMHT)、ポリトリメチルヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミドTMHI)、ポリトリメチルヘキサメチレンナフタラミド(ポリアミドTMHN)、ポリデカメチレンテレフタラミド(ポリアミド10T)、ポリデカメチレンイソフタラミド(ポリアミド10I)、ポリデカメチレンナフタラミド(ポリアミド10N)、ポリウンデカメチレンテレフタラミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンイソフタラミド(ポリアミド11I)、ポリウンデカメチレンナフタラミド(ポリアミド11N)、ポリドデカメチレンテレフタラミド(ポリアミド12T)、ポリドデカメチレンイソフタラミド(ポリアミド12I)、ポリドデカメチレンナフタラミド(ポリアミド12N)、ポリアミドMXD6(PAMXD6)等が、その一例である。
【0033】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸が挙げられ、より具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。これら芳香族ジカルボン酸は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。また、上述した芳香族ジカルボン酸は、無置換であってもよく、種々の置換基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基等)で置換されていてもよい。
【0034】
一方、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸(非芳香族ジカルボン酸)としては、例えば、炭素数3~20の直鎖状又は分岐状の脂肪族ジカルボン酸、脂環構造の炭素数が3~10である脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。これら芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0035】
炭素数3~20の直鎖状又は分岐状の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
【0036】
脂環構造の炭素数が3~10である脂環族ジカルボン酸としては、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等が挙げられる。なお、脂環族ジカルボン酸には、トランス体及びシス体の幾何異性体が存在する。例えば、原料モノマーとしての1,4-シクロヘキサンジカルボン酸としては、トランス体及びシス体のいずれか一方を用いてもよく、トランス体及びシス体を種々の比率で含む混合物を用いてもよい。また、上述した脂環族ジカルボン酸は、無置換であってもよく、種々の置換基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基等)で置換されていてもよい。
【0037】
芳香族ジアミンとしては、例えば、メタキシリレンジアミン、オルトキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等が挙げられる。これら芳香族ジアミンは、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0038】
一方、芳香族ジアミン以外のジアミン(非芳香族ジアミン)としては、例えば、直鎖状又は分岐状の脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン等が挙げられる。これら芳香族ジアミン以外のジアミンは、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0039】
直鎖状脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン(ノナンジアミン)、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等が挙げられる。
【0040】
分岐状脂肪族ジアミンとしては、例えば、2-メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等が挙げられる。
【0041】
脂環族ジアミンとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン等が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、芳香族ジアミン以外のジアミン(非芳香族ジアミン)としては、炭素数7~12のジアミンが好ましい。これら炭素数7~12のジアミンを単量体として用いることで、得られる半芳香族ポリアミド樹脂(A1)の溶融時の安定性、ひいては成形性をより向上させることができる。同様の観点から、芳香族ジアミン以外のジアミン(非芳香族ジアミン)としては、1,9-ノナンジアミン及び1,10-デカメチレンジアミンがより好ましく、1,9-ノナンジアミンが更に好ましい。
【0043】
そして、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)としては、耐熱性や耐衝撃性をより効果的に向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸を少なくとも含むジカルボン酸と非芳香族ジアミンとの重縮合物が好ましい。
【0044】
上記の重縮合物においては、ジカルボン酸における芳香族ジカルボン酸の比率が、50mol%以上であることが好ましく、60mol%以上であることがより好ましく、70mol%以上であることが更に好ましい。これにより、ガラス転移温度を高め、耐衝撃性をより一層効果的に向上させることができる。
【0045】
また、上記の重縮合物においては、成形性及び耐熱性のバランスの観点から、非芳香族ジアミンにおける炭素数7~12のジアミンの比率が、20mol%以上であることが好ましく、30mol%以上であることがより好ましく、40mol%以上であることが更に好ましく、45mol%以上であることが特に好ましい。
【0046】
半芳香族ポリアミド樹脂(A1)は、融点が280℃以下であることが好ましい。これにより、樹脂組成物の調製の際、変性ポリオレフィン(B2)の反応速度が過度に上昇するのを抑え、大幅な粘度上昇、ひいては成形性の悪化をより効果的に抑制することができる。
【0047】
半芳香族ポリアミド樹脂(A1)の製造方法としては、例えば、以下の種々の方法が挙げられる。
(1)ジカルボン酸及びジアミンの水溶液又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法)
(2)熱溶融重合法で得られたポリアミドをその融点以下の温度で固体状態を維持したまま、重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法)、
(3)ジカルボン酸及びジアミンの水溶液又は水の懸濁液を加熱し、プレポリマーを析出させる方法(プレポリマー法)
(4)ジカルボン酸及びジアミンの水溶液又は水の懸濁液を加熱して析出したプレポリマーを、更にニーダー等の押出機で再び溶融して、重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法)
(5)ジカルボン酸及びジアミンの水溶液又は水の懸濁液を加熱して析出したプレポリマーをその融点以下の温度で固体状態を維持したまま、重合度を上昇させる方法(プレポリマー・固相重合法)
(6)ジカルボン酸及びジアミン又はその混合物を、固体状態を維持したまま重合させる方法(固相重合法)
(7)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分とジアミン成分とを用いて重合させる方法(溶液法)
【0048】
これらの中でも、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)の製造方法としては、得られるポリアミド樹脂の色調に優れるため、(1)熱溶融重合法、又は(2)熱溶融重合・固相重合法が好ましい。なお、重合形態としては、バッチ式でも連続式でもよい。また、重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等が挙げられる。
【0049】
ジカルボン酸の添加量mol及びジアミンの添加mol量は、高分子量化のため、同程度であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もmol比においては考慮して、ジカルボン酸全体の添加mol量に対する、ジアミン全体の添加mol量の比は(ジアミン/ジカルボン酸)、0.90以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましく、0.98以上であることが更に好ましく、また、1.20以下であることが好ましく、1.10以下であることがより好ましく、1.05以下であることが更に好ましい。
【0050】
ジカルボン酸及びジアミンからポリアミド樹脂を重合する際には、分子量調節のために、公知の末端封止剤を用いることができる。末端封止剤としては、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられ、熱安定性の観点で、モノカルボン酸、モノアミンが好ましい。末端封止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
(ポリオレフィン(B))
上記樹脂組成物は、ポリオレフィン(B)を含有し、また、当該ポリオレフィン(B)は、上述の通り、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)を含む。ポリオレフィン(B)として少なくとも変性ポリオレフィン(B2)を用いることで、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)の連続相の中にポリオレフィン(B)のドメインが分散する傾向を高めることができる。更に、ポリオレフィン(B)として未変性ポリオレフィン(B1)を併用することで、粘度の適正化を図ることができる。未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)は、それぞれ、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0052】
未変性ポリオレフィン(B1)としては、例えば、エチレン単独重合体;エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体等のエチレン-α-オレフィン共重合体;プロピレン単独重合体;プロピレン-1-ブテン共重合体等のプロピレン-α-オレフィン共重合体;α-オレフィン同士の共重合体;α-オレフィンと共重合可能なα-オレフィン以外の単量体とα-オレフィンとの共重合体;スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-プロピレン/ブチレン-スチレン共重合体;等が挙げられる。上記α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数3~20のα-オレフィン等が挙げられる。上記のα-オレフィンと共重合可能なα-オレフィン以外の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等が挙げられる。これらの中でも、未変性ポリオレフィン(B1)としては、エチレン単独重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体;プロピレン-α-オレフィン共重合体がより好ましい。
【0053】
変性ポリオレフィン(B2)は、未変性のポリオレフィンを変性させたものであり、より具体的には、酸変性ポリオレフィン、エポキシ変性ポリオレフィン、グリシジル変性ポリオレフィン等が挙げられる。特に、変性ポリオレフィン(B2)としては、酸変性ポリオレフィンが好ましい。なお、酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸又はその酸無水物等により酸変性したものである。不飽和カルボン酸又はその酸無水物の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、シス-4-シクロヘキセン-1,2-無水ジカルボン酸等が挙げられる。特に、不飽和カルボン酸又はその酸無水物としては、無水マレイン酸又は無水イタコン酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。なお、不飽和カルボン酸又はその酸無水物の代わりに、酸アミド、酸エステル等の誘導体を用いることもできる。
【0054】
変性ポリオレフィン(B2)の変性前のポリオレフィンの具体例としては、未変性ポリオレフィン(B1)について既述したものと同様である。但し、変性ポリオレフィン(B2)を構成するポリオレフィンとしては、エチレン単独重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン単独重合体;プロピレン-α-オレフィン共重合体がより好ましい。
【0055】
上記樹脂組成物においては、ポリオレフィン(B)の平均酸価が、0.1mgKOH/g以上、3.0mgKOH/g以下であることが好ましい。ポリオレフィン(B)の平均酸価が0.1mgKOH/g以上であれば、適度に粘度が高まり、また、非連続相のドメイン径の過度な粗大化を抑えて、耐衝撃性を効果的に向上させることができる。また、ポリオレフィン(B)の平均酸価が3.0mgKOH/g以下であれば、過度な粘度上昇を抑えて、良好な成形性をより確実に保持するとともに、非連続相のドメイン径を適度に保って、耐衝撃性の悪化をより効果的に抑制することができる。同様の観点から、ポリオレフィン(B)の平均酸価は、0.3mgKOH/g以上であることがより好ましく、0.5mgKOH/g以上であることが更に好ましく、また、2.0mgKOH/g以下であることがより好ましく、1.6mgKOH/g以下であることが更に好ましい。
なお、ポリオレフィン(B)の平均酸価は、以下のようにして算出することができる。例えば、未変性ポリオレフィン(B1)(酸価は0mgKOH/g)をa質量部、酸価がx(mgKOH/g)の第1の変性ポリオレフィン(B2)をb質量部、及び酸価がy(mgKOH/g)の第2の変性ポリオレフィン(B3)をc質量部用いる場合、ポリオレフィン(B)の平均酸価(mgKOH/g)は、(xb+yc)/(a+b+c)として算出することができる。
【0056】
上記樹脂組成物においては、未変性ポリオレフィン(B1)のポリオレフィン(B)に対する質量比(B1/B)が、0.75以上1.00未満であることが好ましい。上記質量比(B1/B)が0.75以上であれば、過度な粘度上昇を抑えて、特に高温環境下での良好な成形性をより確実に保持するとともに、非連続相のドメイン径を適度に保って、耐衝撃性の悪化をより効果的に抑制することができる。一方、上記質量比(B1/B)は、非連続相のドメイン径の過度な粗大化の抑制、ひいては耐衝撃性の効果的な向上の観点から、0.95以下であることがより好ましく、0.92以下であることが更に好ましい。
【0057】
また、上記樹脂組成物においては、ポリアミド樹脂(A)のポリオレフィン(B)に対する質量比(A/B)が、1.0以上であることが好ましい。上記質量比(A/B)が1.0以上であれば、所定の海島構造をより確実に形成することができる。同様の観点、及び非連続相のドメイン径を適度に小さくする観点から、上記質量比(A/B)は、1.0超であることがより好ましく、1.2以上であることが更に好ましく、1.5以上であることが一層好ましい。
また、上記樹脂組成物においては、ポリアミド樹脂(A)のポリオレフィン(B)に対する質量比(A/B)が、4.0以下であることが好ましい。上記質量比(A/B)が4.0以下であれば、非連続相のドメイン径を適度に大きくすることができる。同様の観点から、上記質量比(A/B)は、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましく、2.0以下であることが一層好ましい。
【0058】
(その他の成分)
上記樹脂組成物は、上述したもののほか、目的を損なわない範囲で、通常配合される各種添加剤、例えば流動改善剤、相溶化剤、架橋用添加剤、有機溶媒、重合開始剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、光安定剤、結晶核剤・離型剤、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐光剤及び耐候剤等を目的に応じて適量含有することができる。
【0059】
上記樹脂組成物の調製方法は、特に限定されず、例えば、常法に従って、上述した成分を配合して混練することにより、本実施形態の樹脂組成物を得ることができる。なお、配合及び混練に際しては、全ての成分を一度に配合して混練してもよく、2段階又は3段階等の多段階に分けて各成分を配合して混練してもよい。なお、混練に際しては、ロール、インターナルミキサー、バンバリーローター等の混練機を用いることができる。
【0060】
(炭素繊維)
本実施形態の複合体は、炭素繊維を含む。これにより、軽量ながら高い剛性が得られる。炭素繊維は、連続繊維及び/又は不連続繊維を含むことができる。なお、本明細書において、連続繊維とは、長さが5cm以上の繊維を指し、単繊維だけでなくシート状に縫合された繊維も含むものとする。また、本明細書において、不連続繊維とは、連続繊維以外の強化繊維を指す。
【0061】
炭素繊維は、連続繊維及び0.05cm以上の長繊維からなる群から選択されることが好ましく、連続繊維がより好ましい。また、炭素繊維の繊維長は、1cm以上であることがより好ましい。炭素繊維は、耐衝撃強度の観点では、連続繊維であることが最も好ましい。なお、炭素繊維の長さが短いほど、耐衝撃強度の向上効果は小さくなるが、その一方でより幅広い成形法に対応できるようになるというメリットがある。
【0062】
なお、本実施形態の複合体は、炭素繊維以外のその他の繊維を含んでいてもよい。かかるその他の繊維として、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、有機繊維などが挙げられる。
【0063】
本実施形態の複合体を製造する方法は、特に限定されないが、本実施形態の複合体は、後述する炭素繊維複合体の製造方法により、好適に製造することができる。
【0064】
<炭素繊維複合体の製造方法>
本発明の一実施形態の炭素繊維複合体の製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」と称することがある。)は、炭素繊維と、樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む炭素繊維複合体の製造方法であって、
ポリアミド樹脂(A)及びポリオレフィン(B)を含む樹脂組成物から、厚みが10μm以上500μm以下であるシートを形成する、シート形成工程と、
前記シートと炭素繊維とを接触させて、炭素繊維と、前記樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む炭素繊維複合体を得る、複合体取得工程とを、備え、
前記ポリアミド樹脂(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)のみを含み、前記ポリオレフィン(B)は、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)を含む、ことを特徴とする。
かかる本実施形態の製造方法によれば、高い耐衝撃性を有し且つ成形性に優れる炭素繊維複合体を製造することができる。
【0065】
なお、本実施形態の製造方法は、上述した工程以外の工程(例えば、後述する架橋工程など)を適宜備えていてもよい。
【0066】
(シート形成工程)
シート形成工程では、ポリアミド樹脂(A)及びポリオレフィン(B)を含む樹脂組成物から、厚みが10μm以上500μm以下であるシートを形成する。なお、上記ポリアミド樹脂(A)は、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)のみを含み、上記ポリオレフィン(B)は、未変性ポリオレフィン(B1)及び変性ポリオレフィン(B2)を含む。そして、本シート形成工程では、ポリアミド樹脂(A)(半芳香族ポリアミド樹脂(A1))の連続相と、ポリオレフィン(B)の非連続相とによる海島構造を有するシートを形成することができる。
【0067】
シート形成工程では、特に限定されることなく、本実施形態の複合体に関して既述した内容を適宜選択することにより、所定の海島構造を形成することが好ましい。
【0068】
なお、シート形成工程で用いる樹脂組成物には、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)及びポリオレフィン(B)以外の成分、例えば、流動改善剤、相溶化剤、架橋用添加剤、有機溶媒、重合開始剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、光安定剤、結晶核剤・離型剤、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐光剤及び耐候剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0069】
また、シート形成工程で用いる樹脂組成物は、JIS K 7199に準拠し、温度300℃、せん断速度12.16s-1により測定した粘度(300℃粘度)が、900Pa・s以上4000Pa・s以下であることが好ましい。この理由は、既述した通りである。そして、シート形成工程では、特に限定されることなく、本実施形態の複合体に関して既述した内容を適宜選択することにより、300℃粘度を調整することが好ましい。
【0070】
シート形成工程で形成するシートは、厚みが10μm以上500μm以下である。シート形成工程では、上述した樹脂組成物を原料として用いるので、高い成形性をもって所定の薄さ(500μm以下)で作製することができる。
【0071】
シート形成工程では、例えば、上述した樹脂組成物を溶融させ、押出成形によりシート状に成形することができる(溶融押出成形)。溶融押出成形では、例えば、上述した樹脂組成物を、加熱溶融させ、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイなどのダイスに供給する。次いで、ダイスに供給された溶融物をシート状に押し出し、冷却ロールなどを用いて適宜冷却固化することで、シートを得ることができる。
【0072】
(複合体取得工程)
複合体取得工程では、シート形成工程で形成したシートと炭素繊維とを接触させて、炭素繊維と、樹脂組成物からなるマトリックス部とを含む炭素繊維複合体を得る。なお、炭素繊維については、既述した通りである。
【0073】
上記シートと炭素繊維とを接触させる形態は、シートと炭素繊維とが直接接触さえすればよく、特に制限されることはないが、例えば、以下の(a)~(e)が挙げられる。
(a)シートと炭素繊維とを直接又は間接的に貼り合わせる形態。
(b)一対のシートで炭素繊維を直接若しくは間接的に挟む方法、又は一対の炭素繊維でシートを直接若しくは間接的に挟む形態。
(c)シートと炭素繊維とを(交互に)複数積層する形態。
(d)シートに含まれる半芳香族ポリアミド樹脂(A1)の融点以上の温度で当該シートを加熱した後、溶融したシートに炭素繊維を含浸させる形態。
(e)シートと炭素繊維とを貼り合わせた(若しくは接触して配置した)後に、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)の融点以上に加熱して、炭素繊維を含浸させる形態。
【0074】
複合体取得工程においては、必要により、オス型・メス型等の金属製等の型を使用してもよく、また、上記シートと炭素繊維とを、型内で接触させてもよい。そのため、上記(a)~(e)はいずれも、型内で行ってもよい。また、上記(a)~(e)において、シートと炭素繊維との、貼り合わせ、挟持、又は積層する場合には、必要により、公知のバインダーや、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)、ポリオレフィン(B)を有機溶媒に溶解した溶液を、バインダーとして使用してもよい。
【0075】
シートに対する炭素繊維の配向方向は、特に限定されない。また、シートと炭素繊維とを接触させる際のシート数及び炭素繊維の数も、特に限定されず、適宜選択することができる。
【0076】
上記シートと炭素繊維とを接触させる際の条件は、特に制限されず、上記接触させる態様に合わせて、シート温度、雰囲気、接触圧力などの条件を適宜設定することができる。
【0077】
(架橋工程)
なお、本実施形態の製法は、更に、ポリオレフィン(B)を架橋する架橋工程を、上記シート形成工程開始から上記複合体取得工程の完了までの間に備えることが好ましい。かかるポリオレフィン(B)の架橋により、得られる複合体の耐衝撃性をより一層向上させることができる。架橋工程は、シート形成工程の開始から、複合体取得工程の完了までの間であれば、いつでも行うことができる。
【0078】
上記架橋工程における架橋は、電子線架橋、化学架橋、電磁波架橋、及び熱架橋からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0079】
電子線架橋は、公知の方法により、行うことができる。ポリオレフィン(B)に対して電子線を照射すると、当該ポリオレフィン(B)を構成する高分子鎖の一部が切断されてラジカルが発生する。そして、当該ラジカルが、高分子鎖の他の部位に再結合することにより、架橋構造が形成される。このような電子線架橋に用いられる電子線は、電子銃などから放出される所定のエネルギーをもつ電子からなる。電子源である電子銃には、熱電子銃、電界放出電子銃、ショットキー電子銃などがある。電子線架橋が可能な限り、電子線の種類、強度、電子源などは問わない。
【0080】
電子線の照射における吸収線量は、20~600kGyであることが好ましく、50~500kGyであることがより好ましい。吸収線量が600kGy以下であれば、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)の高分子鎖を切断することなくポリオレフィン(B)の高分子鎖を切断し、また、吸収線量が20kGy以上であれば、ポリオレフィン(B)の高分子鎖を切断し易くなる。また、電子線の吸収線量を上記範囲にすることにより、架橋率又は分子量を適切な範囲内に調節して、非連続相の形状変化を抑制又は防止し易くすることができる。
【0081】
電子線の照射は、酸素雰囲気下で行うと、発生したラジカルが失活する場合があるため、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0082】
なお、電子線の照射を行った場合などにおける、ポリオレフィン(B)が架橋されたか否かの確認は、例えば、ポリオレフィン(B)の粘度変化を測定することによって行うことができ、或いは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて行うことができる。
【0083】
化学架橋は、特に限定されず、公知の方法により行うことができる。化学架橋は、化学架橋剤の存在下で、光照射又は加熱などによって架橋反応を行う方法、又はシラン架橋法が好ましい。当該シラン架橋法は、カップリング剤、ラジカル開始剤及び有機錫化合物等の触媒存在下で、水と接触させることによってポリオレフィン(B)の分子鎖間にシラノール結合による架橋が形成されるものである。
【0084】
例えば、化学架橋は、化学架橋剤、及び必要により配合される架橋助剤、活性化剤又は触媒を用いて行うことが好ましい。上記化学架橋剤としては、例えば、アルキルフェノールホルムアルデヒド等のフェノール樹脂、ビニルトリメトキシシラン若しくはビニルトリエトキシシランといったビニルアルコキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。また、上記架橋助剤としては、例えば、硫黄、p-ジニトロソベンゼン、ジビニルベンゼン、1,3-ジフェニルグアニジン、塩化第一錫・無水物、塩化第一錫・二水和物、塩化第二鉄等が挙げられる。また、上記活性化剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、若しくはクロロスルフォン化ポリエチレン等のハロゲン供与体、酸化鉄、酸化チタン、酸化マグネシウム、二酸化珪素、酸化亜鉛、又はラジカル開始剤等が挙げられる。上記ラジカル開始剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。また、上記触媒としては、ジブチル錫ラウレート等の有機錫化合物が挙げられる。
【0085】
電磁波架橋は、特に限定されず、公知の方法により行うことができる。電磁波架橋に使用する電磁波は、紫外線、可視光線、α線、β線、γ線、陽子線、重イオン線、又は中性子線等の電離放射線を使用することができる。これらの中でも、電磁波としては、シートの劣化の観点から、紫外線が好ましい。電磁波架橋では、電磁波開始剤の存在下で電磁波を照射することにより、ポリオレフィン(B)を架橋することが好ましい。例えば、電磁波架橋は、電磁波開始剤(例えば、紫外線開始剤)、及び電磁波架橋剤(例えば、紫外線架橋剤)、並びに必要に応じて配合される電磁波吸収材(例えば、紫外線吸収剤)を用いて行うことが好ましい。上記電磁波架橋剤としては、ベンゾフェノン類、メラミン化合物等の紫外線架橋剤が挙げられる。上記電磁波開始剤としては、ベンゾイン系光開始剤等が挙げられる。上記電磁波吸収剤としては、トリアジン系紫外線吸収剤(TINUVINシリーズ)、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤(HALS)等が挙げられる。
【0086】
上記紫外線の光源は、特に限定されず、照射する波長(例えば、200~450nmの範囲)を考慮して適宜設定することができる。例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、メタルハライドランプ、紫外線レーザー光源等の光源を挙げることができる。また、紫外線を照射する際には、必要に応じて波長フィルターを用いて、特定の波長の光を照射してもよい。
【0087】
熱架橋は、特に限定されず、公知の方法により行うことができる。熱架橋では、熱架橋剤の存在下で熱処理を行うことにより、ポリオレフィン(B)を架橋することが好ましい。上該熱架橋剤としては、ヒドロパーオキシド類等の有機過酸化物、オキシム系化合物、トリアリルシアヌレート又はトリアリルイソシアヌレート等のアゾ系化合物が挙げられる。
【0088】
上述した化学架橋剤、架橋助剤、活性化剤、触媒、電磁波開始剤、電磁波架橋剤、電磁波吸収剤及び熱架橋剤は、本明細書において「架橋用添加剤」と総称する。
【0089】
本実施形態の製造方法において架橋工程を行うタイミングは、シート形成工程の開始、即ち、シート形成工程の開始直後から、複合体取得工程の完了までの間であれば、特に制限されることはない。なお、「シート形成工程の開始から架橋工程を施す」とは、半芳香族ポリアミド樹脂(A1)及びポリオレフィン(B)(例えば、少なくとも半芳香族ポリアミド樹脂(A1)とポリオレフィン(B)とを混合した樹脂組成物等)をシート化するシート形成工程において、ポリオレフィン(B)の非連続相が形成された直後から当該非連続相中のポリオレフィン(B)を架橋することをいう。また、架橋工程は、その他の各工程と同時並行して行ってもよく、或いは、各工程後に行ってもよい。また、「複合体取得工程の完了までの間に架橋工程を施す」とは、文字通り、複合体取得工程が完全に完了するまで、ポリオレフィン(B)を架橋することをいう。従って、複合体取得工程の際に、架橋工程を施す形態(例えば、シート及び炭素繊維の成形と、ポリオレフィン(B)の架橋工程とを併せて行う場合)、並びに、シート及び炭素繊維の成形を複数回行う形態(例えば、炭素繊維複合体を複数積層する場合)は、いずれも該当する。熱などの外部刺激をシートに対して与える前に、当該シート中の非連続相を構成するポリオレフィン(B)を架橋することで、非連続相の形状が最終製品までより維持されやすくなる。
【0090】
そして、架橋工程は、上記シート形成工程中、上記複合体取得工程中、又は、上記シート形成工程と上記炭素繊維複合体取得工程との間に施されることが好ましい。
【0091】
シート及び炭素繊維を成形する前、即ち、シートに対して熱などの外部刺激を与える前に、非連続相を構成するポリオレフィン(B)を架橋することにより、非連続相の形状がより維持されやすくなる。また、架橋工程が上記いずれかの工程中に施されると、製造効率が向上する。
【実施例】
【0092】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0093】
(樹脂組成物の調製)
キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製、「キャピログラフ1D」)を用い、表1に示す配合処方の樹脂組成物について、JIS K 7199に準拠し、温度300℃、せん断速度12.16s-1による粘度(300℃粘度)を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
また、粘度測定時に得られた樹脂組成物からなるストランドの表面の外観について、目視にて、下記の基準に従って評価した。結果を表1に示す。かかる評価結果は、成形性の指標となる。また、通常、ストランド外観が不良であると、シート成形性も不良となる傾向にある。
A:表面全体が滑らかである。
B:表面に低頻度の荒れが観察される。
C:表面全体に荒れ又は凹凸が観察される。
【0095】
また、上記樹脂組成物について、ミクロトームを用いて平滑化したのち、原子間力顕微鏡(AFM)(株式会社島津製作所製、「SPM-9700HT」)にて、30μm×30μmの画像を取得し、海島構造(連続相及び非連続相)の有無を確認した。結果を表1に示す。更に、海島構造が確認された例においては、上記画像から観察される全ての非連続相(ドメイン)について、円相当径(同一面積の円の径)の平均値を算出し、ドメイン径を求めた。結果を表1に示す。
【0096】
比較例1-5の樹脂組成物について、Tダイシート成形装置により、シートの成形を試みた。しかしながら、比較例1においては、成形中に大幅な増粘現象が発生し、樹脂塊や穴あきが多数発生したため、シートを成形することができなかった。また、比較例5においては、ポリオレフィンが連続相として形成され、シート成形時に樹脂が脈動しやすく、所定の厚みを有するシートを成形することができなかった。
一方、実施例4,5及び11並びに比較例6の樹脂組成物について、Tダイシート成形装置により、厚み60μmのシートを成形した。次いで、このシートの上下に一方向開繊糸(炭素繊維、連続繊維)を配置し、プレス機(小平製作所社製)を用い、温度280℃、圧力1MPaの条件で熱プレスすることでコンポジットプリプレグ(炭素繊維複合体)を作製した。このコンポジットプリプレグを、0°、90°方向に交互に20層積層し、温度300℃、圧力5MPaの条件で熱プレスを行い、サイズ160mm×160mm、厚み2.0mmの積層体を得た。この積層体を用い、ISO6603-2:2000に準拠して、衝撃吸収エネルギーを測定した。結果を表1に示す。なお、衝撃吸収エネルギーが60.0J以上であれば、耐衝撃性が良好とみなすことができる。
【0097】
【0098】
*1 半芳香族ポリアミド樹脂・・・クラレ株式会社製、ポリアミド9T、融点:265℃
*2 未変性ポリオレフィン・・・三井化学株式会社製「DF640」、酸価:0mgKOH/g
*3 変性ポリオレフィン1・・・三井化学株式会社製「MH7020」、酸価:11mgKOH/g
*4 変性ポリオレフィン2・・・三井化学株式会社製「MH7010」、酸価:5.5mgKOH/g
*5 酸化防止剤・・・BASF社製「IRGANOX1098」
【0099】
表1より、実施例では、樹脂組成物からなるストランドの外観が良好である上、適度な300℃粘度を有するため、成形性に優れることが分かる。更に、実施例では、樹脂組成物が、半芳香族ポリアミド樹脂を含むとともに、適度な大きさの非連続相(ポリオレフィンのドメイン)が分散形成されていることから、高い耐衝撃性を発揮することができることも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、半芳香族ポリアミド樹脂を用いつつも、高い耐衝撃性を有し且つ成形性に優れる炭素繊維複合体を提供することができる。
また、本発明によれば、半芳香族ポリアミド樹脂を用いつつも、高い耐衝撃性を有し且つ成形性に優れる炭素繊維複合体の製造方法を提供することができる。