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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】スクロール型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20240719BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
F04C18/02 311J
F04C29/00 B
F04C29/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021008672
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2022112750
(43)【公開日】2022-08-03
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】手島 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰造
(72)【発明者】
【氏名】増山 拓樹
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204457(JP,A)
【文献】特開2008-248775(JP,A)
【文献】特開平05-312156(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0102956(US,A1)
【文献】特開2020-112142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸と、固定基板及び前記固定基板に立設された固定渦巻壁を有する固定スクロールと、旋回基板及び前記旋回基板に立設されて前記固定渦巻壁と噛み合う旋回渦巻壁を有する旋回スクロールとを有し、前記駆動軸の回転に伴い前記旋回スクロールが前記固定スクロールに対して公転旋回運動を行うことで前記固定スクロールと前記旋回スクロールとの間に形成される圧縮室の容積が変化し、前記圧縮室に取り込んだ流体を圧縮するように構成されたスクロール型圧縮機であって、
前記旋回スクロールの前記旋回基板の背面側に設けられ、前記旋回基板よりも大径の円環状のプレート部材と、
前記旋回スクロールの前記旋回基板の背面と前記プレート部材との間に設けられ、前記プレート部材と略同径で弾性変形が可能な円環状のシート部材と、
前記旋回スクロールの前記旋回基板の背面の周縁部に取り付けられ、先端部が前記シート部材に摺動可能に接触する円環状の第1シール材と、
圧縮反力によって前記旋回スクロールに作用するスラスト荷重を前記シート部材及び前記プレート部材を介して受けるスラスト受け部と、
前記第1シール材よりも大径に形成され、前記プレート部材の前記スラスト受け部側の面及び前記スラスト受け部の一方に取り付けられ、先端部が前記プレート部材の前記スラスト受け部側の面及び前記スラスト受け部の他方に接触する円環状の第2シール材と、
前記プレート部材、前記シート部材、前記第1シール材及び前記第2シール材によって吸入圧領域と区画され、前記旋回スクロールを前記固定スクロールに押し付ける背圧荷重を前記プレート部材及び前記旋回スクロールに作用させる背圧室と、
を有し、
前記プレート部材の前記シート部材側の面には、円形凹部が形成されている、
スクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記円形凹部は、前記駆動軸の軸方向から見て、前記旋回スクロールの公転旋回運動に伴う前記第1シール材の前記シート部材に対する摺動範囲の内側に位置している、請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記円形凹部は、前記第1シール材の外径と略同径又は前記第1シール材の外径よりも小径に形成されている、請求項1又は2に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記プレート部材は、前記駆動軸の軸方向に移動可能に設けられており、
前記第2シール材は、弾性を有し、前記プレート部材と前記スラスト受け部との間で押圧されて弾性変形する、
請求項1~3のいずれか一つに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記プレート部材は、前記スラスト受け部側の面から突出する2つの位置決めピンを有し、前記2つの位置決めピンは、前記スラスト受け部に形成された位置決め穴に軸方向に移動可能に挿入されることにより、前記プレート部材が回転しないように前記プレート部材を前記スラスト受け部に位置決めするように構成されている、請求項4に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項6】
前記プレート部材は、前記旋回スクロール側の面から突出する複数の自転阻止ピンを有し、前記複数の自転阻止ピンのそれぞれは、前記シート部材を貫通して延びると共に前記旋回スクロールの前記旋回基板の背面に形成された対応する円形穴に遊嵌されて前記旋回スクロールの自転を阻止するように構成されている、請求項4又は5に記載のスクロール型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型圧縮機は、互いの渦巻壁が噛み合うように配置された固定スクロール及び旋回スクロールを有する。スクロール型圧縮機は、旋回スクロールが固定スクロールに対して公転旋回運動を行うことによって双方の渦巻壁の間に形成される圧縮室の容積が変化し、これにより、圧縮室に取り込まれた流体が圧縮される。この種のスクロール型圧縮機の一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
図5は、特許文献1に記載されたスクロール型圧縮機の断面図である。特許文献1に記載されたスクロール型圧縮機において、旋回スクロール(可動スクロール)22の基板(鏡板)31の背面側には旋回スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重を生じさせる背圧室39が形成されている。背圧室39は、圧縮機構ハウジング7のフレーム部7Bと旋回スクロール22の間(つまり、旋回スクロール22の背面側)に設けられた円環状のスラストプレート38と、旋回スクロール22の基板31の背面に取り付けられてスラストプレート38の一方の面に当接する円環状の第1シール材41と、フレーム部7Bのスラストプレート38側の面に取り付けられてスラストプレート38の他方の面に当接すると共に第1シール材41よりも大径の円環状の第2シール材42とにより、吸入圧領域である吸入部37と区画されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-153295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたスクロール型圧縮機において、旋回スクロール22には、公転旋回運動で発生する遠心力によって、旋回スクロール22を傾けようとする転覆モーメントが作用する。また、特許文献1に記載されたスクロール型圧縮機において、旋回スクロール22を固定スクロール21に押し付ける背圧荷重は、スラストプレート38を駆動軸(回転軸)14の軸方向から見たとき、図6においてハッチングで示されるように、スラストプレート38の前記他方の面における第2シール材42の径方向内側であって且つ第1シール材41の径方向外側の部位に作用する。つまり、旋回スクロール22には、前記背圧荷重が偏った状態で作用する。このため、旋回スクロール22には、前記遠心力による転覆モーメントに加えて、前記背圧荷重の偏りによる転覆モーメントが作用することになる。
【0006】
旋回スクロール22が傾くと、旋回スクロール22渦巻壁(ラップ)31の先端部の固定スクロール21の基板(鏡板)23への片当たりと、固定スクロール21の渦巻壁(ラップ)24の旋回スクロール22の基板(鏡板)31への片当たりとが発生する。特に、旋回スクロール22の渦巻壁31の巻き終わり部の先端部には接触力が集中すると共に、旋回スクロール22の渦巻壁31の巻き終わり部は渦巻壁(ラップ)において最も薄肉に形成されている。このため、旋回スクロール22が傾いた場合、旋回スクロール22の渦巻壁の巻き終わり部の先端部には高い面圧が作用する。
【0007】
近年、スクロール型圧縮機の更なる高効率化及び小型軽量化が求められている。スクロール型圧縮機の更なる高効率化及び小型軽量が進むと、旋回スクロールの傾きにより、旋回スクロールの渦巻壁の巻き終わり部の先端部にはさらに高い面圧が作用し、その結果、旋回スクロールのラップの巻き終わり部の先端部に摩耗や損傷が生じるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、旋回スクロールの渦巻壁の巻き終わり部の先端部に作用する面圧を低減して、旋回スクロールの渦巻壁の巻き終わり部の先端部の摩耗や損傷を抑制することのできるスクロール型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によると、スクロール型圧縮機が提供される。このスクロール型圧縮機は、駆動軸と、固定基板及び前記固定基板に立設された固定渦巻壁を有する固定スクロールと、旋回基板及び前記旋回基板に立設されて前記固定渦巻壁と噛み合う旋回渦巻壁を有する旋回スクロールとを有し、前記駆動軸の回転に伴い前記旋回スクロールが前記固定スクロールに対して公転旋回運動を行うことで前記固定スクロールと前記旋回スクロールとの間に形成される圧縮室の容積が変化し、前記圧縮室に取り込んだ流体を圧縮するように構成されている。前記スクロール型圧縮機は、前記旋回スクロールの前記旋回基板の背面側に設けられ、前記旋回基板よりも大径の円環状のプレート部材と、前記旋回スクロールの前記旋回基板の背面と前記プレート部材との間に設けられ、前記プレート部材と略同径で弾性変形が可能な円環状のシート部材と、前記旋回スクロールの前記旋回基板の背面の周縁部に取り付けられ、先端部が前記シート部材に摺動可能に接触する円環状の第1シール材と、圧縮反力によって前記旋回スクロールに作用するスラスト荷重を前記シート部材及び前記プレート部材を介して受けるスラスト受け部と、前記第1シール材よりも大径に形成され、前記プレート部材の前記スラスト受け部側の面及び前記スラスト受け部の一方に取り付けられ、先端部が前記プレート部材の前記スラスト受け部側の面及び前記スラスト受け部の他方に接触する円環状の第2シール材と、前記プレート部材、前記シート部材、前記第1シール材及び前記第2シール材によって吸入圧領域と区画され、前記旋回スクロールを前記固定スクロールに押し付ける背圧荷重を前記プレート部材及び前記旋回スクロールに作用させる背圧室とを有し、前記プレート部材の前記シート部材側の面には、円形凹部が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、旋回スクロールの渦巻壁の巻き終わり部の先端部に作用する面圧を低減して、旋回スクロールの渦巻壁の巻き終わり部の先端部の摩耗や損傷を抑制することのできるスクロール型圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るスクロール型圧縮機の概略構成を示す断面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3】スラストプレート及びスラストシートを示す斜視図である。
図4】スラストプレートの断面図である。
図5】従来のスクロール型圧縮機の一例を示す図(断面図)である。
図6】従来のスクロール型圧縮機における背圧荷重を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るスクロール型圧縮機の概略構成を示す断面図である。実施形態に係るスクロール型圧縮機10は、例えば、車両用空調装置の冷媒回路に組み込まれ、当該冷媒回路から低圧の気体冷媒(流体)を受けて圧縮し、高圧化して当該冷媒回路に戻すように構成される。なお、図1における左側がスクロール型圧縮機10における前側、図1における右側がスクロール型圧縮機10における後側、図1における上側がスクロール型圧縮機10における上側、及び、図1における下側がスクロール型圧縮機10における下側である。
【0014】
スクロール型圧縮機10は、ハウジング20と、駆動軸30と、駆動軸30を回転駆動する電動モータ40と、駆動軸30を介して駆動されて(低圧の)気体冷媒を圧縮するスクロールユニット50と、電動モータ40を駆動制御するインバータ60とを有する。駆動軸30、電動モータ40、スクロールユニット50及びインバータ60は、ハウジング20に収容されている。また、スクロールユニット50は、固定スクロール51と、固定スクロール51に対して公転旋回運動する旋回スクロール52とを含む。
【0015】
ハウジング20は、フロントハウジング21、カバー部材22、センターハウジング23及びリアハウジング24を含む。そして、これらが図示省略の締結具などによって締結されてスクロール型圧縮機10のハウジング20が構成されている。
【0016】
フロントハウジング21は、前後に延びる円筒状の第1周壁部211と、第1周壁部211の内部を前後に仕切る第1隔壁部212とを有する。第1周壁部211の前端面がフロントハウジング21の前端面を構成し、第1周壁部211の後端面がフロントハウジング21の後端面を構成している。第1周壁部211の内部(すなわち、フロントハウジング21の内部空間)は、第1隔壁部212により、インバータ60が収容される前側のインバータ収容空間と、電動モータ40が収容される後側のモータ収容空間とに仕切られている。つまり、本実施形態において、電動モータ40及びインバータ60は、フロントハウジング21に収容されている。
【0017】
第1隔壁部212には駆動軸30の前端部を支持する支持部213が設けられている。支持部213は、第1隔壁部212の後側の面から前記モータ収容空間内に円筒状に突出するように形成され、内部に装着された第1軸受214を介して駆動軸30の前端部を回転自在に支持するように構成されている。
【0018】
フロントハウジング21の前端面にはカバー部材22が接合され、これにより、前記インバータ収容空間が閉塞されている(インバータ収容室が形成されている)。フロントハウジング21の後端面にはセンターハウジング23の前端面が接合されている。なお、フロントハウジング21とカバー部材22との間及びフロントハウジング21とセンターハウジング23との間には必要に応じてシール部材が配置され得る。
【0019】
センターハウジング23は、前後に延びる円筒状の第2周壁部231と、第2周壁部231の内部を前後に仕切る第2隔壁部232とを有する。第2周壁部231の前端面がセンターハウジング23の前端面を構成し、第2周壁部231の後端面がセンターハウジング23の後端面を構成している。第2周壁部231の内部(すなわち、センターハウジング23の内部空間)は、第2隔壁部232により、フロントハウジング21の前記モータ収容空間に接続する前側の接続空間と、スクロールユニット50を収容する後側のスクロール収容空間とに仕切られている。つまり、本実施形態において、スクロールユニット50は、センターハウジング23に収容されている。
【0020】
第2隔壁部232は、フロントハウジング21(モータ収容空間)側に突出する中空突出部233を有している。中空突出部233は、フロントハウジング21の第1隔壁部212に設けられた支持部213に対向するように、第2隔壁部232の径方向中央に設けられている。中空突出部233の頂部には、中空突出部233の内外を連通し且つ駆動軸30が挿通される軸挿通孔234が形成されている。中空突出部233の内部には、駆動軸30の後端側の部位を回転自在に支持する第2軸受235が装着されている。つまり、本実施形態において、駆動軸30は、ハウジング20内を前後方向に延びており、フロントハウジング21側に設けられた第1軸受214とセンターハウジング23側に設けられた第2軸受235とによって回転自在に支持されている。
【0021】
センターハウジング23の後端面にはリアハウジング24の前端面が接合されている。ここで、本実施形態において、センターハウジング23の後端面、すなわち、第2周壁部231の後端面には、スクロールユニット50を構成する固定スクロール51の固定基板511(後述する)の外縁部(周縁部)を収容する円形の凹部236が形成されている。そして、固定基板511の外縁部(周縁部)が凹部236に収容されると共にセンターハウジング23とリアハウジング24とに挟持されている。これにより、固定スクロール51が固定され、また、第2周壁部231の後側の開口が固定スクロール51の固定基板511で閉塞される。なお、センターハウジング23とリアハウジング24との間には必要に応じてシール部材が配置され得る。
【0022】
リアハウジング24は、有底円筒状に形成され、前後に延びる円筒状の第3周壁部241と、第3周壁部241の後側の開口を閉塞する底壁部242とを有する。そして、リアハウジング24の前端面を構成する第3周壁部241の前端面がセンターハウジング23の後端面である第2周壁部231の後端面に接合され、これによって、第3周壁部241の前側の開口が固定スクロール51の固定基板511で閉塞されている。
【0023】
電動モータ40は、例えば三相交流モータで構成されており、ステータコアユニット41と、ロータ42とを含む。
【0024】
ステータコアユニット41は、フロントハウジング21の第1周壁部211の内周面に固定されている。ステータコアユニット41には、図示しない車載バッテリなどからの直流電流がインバータ60によって交流電流に変換されて供給される。
【0025】
ロータ42は、ステータコアユニット41の径方向内側に所定の隙間を有して配置されている。ロータ42には永久磁石が組み込まれている。ロータ42は、円筒状に形成されており、その中空部に駆動軸30が挿通された状態で駆動軸30に固定されている。すなわち、ロータ42は、駆動軸30と一体化されており、駆動軸30と一体に回転する。
【0026】
電動モータ40は、インバータ60からの給電によってステータコアユニット41に磁界が発生すると、ロータ42の前記永久磁石に回転力が作用してロータ42が回転し、これによって、駆動軸30を回転させる(回転駆動する)。
【0027】
スクロールユニット50は、上述のように、固定スクロール51と、固定スクロール51に対して公転旋回運動する旋回スクロール52とを含む。
【0028】
固定スクロール51は、円板状の固定基板511と、固定基板511の一方の面に立設された固定渦巻壁512とを有する。固定渦巻壁512は、固定基板511の前記一方の面上を径方向内側の内端部(巻き初め部)から径方向外側の外端部(巻き終わり部)まで渦巻状(インボリュート曲線状)に延びている。固定スクロール51は、固定基板511の前記一方の面(固定渦巻壁512が立設された面)が前方を向いた状態で固定基板511の外縁部(周縁部)が凹部236に収容された状態でセンターハウジング23とリアハウジング24とに挟持されて固定されている。
【0029】
旋回スクロール52は、円板状の旋回基板521と、旋回基板521の一方の面に立設された旋回渦巻壁522と、旋回基板521の他方の面に突出形成された円筒部523とを有する。旋回渦巻壁522は、旋回基板521の前記一方の面上を径方向内側の内端部(巻き初め部)から径方向外側の外端部(巻き終わり部)まで渦巻状(インボリュート曲線状)に沿って延びている。旋回スクロール52は、旋回渦巻壁522が固定スクロール51の固定渦巻壁512に噛み合うように配置されている。すなわち、旋回スクロール52は、センターハウジング23の第2隔壁部232と固定スクロール51との間に、旋回基板521の前記一方の面(旋回渦巻壁522が立設された面)が後方を向いた状態で配置されている。なお、以下では、旋回基板521の前記他方の面(円筒部523が形成された面)を旋回基板521の背面という。
【0030】
旋回スクロール52は、駆動軸30及びクランク機構70を介して伝達される駆動力によって駆動される。駆動された旋回スクロール52は、自転が阻止された状態で、固定スクロール51に対して公転旋回運動するように構成されている。すなわち、クランク機構70は、駆動軸30と旋回スクロール52とを連結すると共に、駆動軸30の回転運動を旋回スクロール52の旋回運動に変換するように構成されている。
【0031】
スクロールユニット50は、旋回スクロール52が固定スクロール51に対して公転旋回運動を行うことで低圧の気体冷媒を取り込んで圧縮するように構成されている。
【0032】
図2は、図1の要部拡大図である。
【0033】
図2を参照すると、クランク機構70は、駆動軸30の後端に設けられた偏心ピン71と、偏心ピン71に取り付けられた偏心ブッシュ72とを含む。
【0034】
偏心ピン71は、駆動軸30の後端面から駆動軸30の軸方向に延びている。また、偏心ピン71は、駆動軸30に対して偏心している。すなわち、偏心ピン71の中心線CL1は、駆動軸30の中心線CL0からずれている。
【0035】
偏心ブッシュ72は、偏心ピン71に回転可能に取り付けられていると共に軸受73を介して旋回スクロール52の円筒部523の内側に回転可能に挿入されている。具体的には、偏心ブッシュ72は、円柱状に形成されている。また、偏心ブッシュ72には、偏心ピン71が回転可能に挿通されるピン挿通孔72aが形成されている。ピン挿通孔72aは、偏心ブッシュ72の中心線CL2から偏心した位置に形成されて偏心ブッシュ72を軸方向に貫通している。そして、偏心ブッシュ72は、ピン挿通孔72aに偏心ピン71を挿通させることにより、偏心ピン71に回転可能に取り付けられている。したがって、ピン挿通孔72aの中心線は、偏心ピン71の中心線CL1に一致する。また、偏心ブッシュ72は、外周面72bを旋回スクロール52の円筒部523の内側に取り付けられた軸受73に外周面72bを支持させることにより、軸受73を介して旋回スクロール52の円筒部523の内側に回転可能に挿入されている。
【0036】
偏心ブッシュ72の前端近傍(すなわち、駆動軸30側の端部近傍)の外周面には、偏心ブッシュ72と一体に回転又は揺動するブッシュ・バランサ721が取り付けられており、駆動軸30の後端近傍(すなわち、偏心ピン71側の端部近傍)の外周面には、駆動軸30と一体に回転するシャフト・バランサ31が取り付けられている。
【0037】
ブッシュ・バランサ721は、公転旋回運動によって旋回スクロール52に生じる遠心力を相殺し、主に固定渦巻壁512に対する旋回渦巻壁522の押し付け力を適正に維持する。また、ブッシュ・バランサ721及びシャフト・バランサ31は、ロータ42に取り付けられたロータ・バランサ421、422(図1参照)と協働して、駆動軸30と駆動軸30に固定又は連結されている部品とを含む可動系部品全体のバランスを取るために設けられている。
【0038】
センターハウジング23の第2隔壁部232には、中空突出部233の径方向外側に位置すると共に旋回スクロール52の旋回基板521の背面に間隔をあけて対向する円環状の対向面237が形成されている。また、第2隔壁部232の対向面237と旋回基板521(の背面)との間には、対向面237に近い側から順に、スラストプレート(プレート部材)81及びスラストシート(シート部材)82が設けられている。換言すれば、旋回基板521の背面側にはスラストプレート81が設けられ、スラストプレート81と旋回基板521(の背面)との間にスラストシート82が設けられている。
【0039】
スラストプレート81及びスラストシート82は、円環状に形成されており、旋回基板521の背面に形成された円筒部523の径方向外側に配置されている。具体的には、スラストプレート81は、旋回基板521の外径よりも大きな外径を有すると共に、円筒部523の外径よりも大きな内径を有している。また、スラストシート82は、スラストプレート81と内外径が略等しく(すなわち、略同径)に形成されている。スラストプレート81は、比較的高い剛性を有し、実質的に撓まないように形成されている。他方、スラストシート82は、バネ性を有する金属薄板などで形成されており、可撓性を有し、駆動軸30の軸方向に弾性変形することが可能である。
【0040】
旋回スクロール52の旋回基板521の背面とスラストシート82との間には円環状の第1シール材83が設けられている。第1シール材83は、例えば摺動性を有する合成樹脂で形成されている。第1シール材83は、先端部がスラストシート82の旋回スクロール52側の面に接触するように、旋回スクロール52の旋回基板521の背面の周縁部に取り付けられている。具体的には、本実施形態において、第1シール材83は、旋回スクロール52の旋回基板521の背面から一部が突出するように、旋回スクロール52の旋回基板521の背面の周縁部に形成された環状溝に嵌め込まれており、突出部の先端がスラストシート82の旋回スクロール52側の面に摺動可能に接触している。そして、第1シール材83は、旋回スクロール52の公転旋回運動時においては、スラストシート82の旋回スクロール52側の面上を摺動しながら、旋回スクロール52の旋回基板521の背面とスラストシート82との間をシールする。
【0041】
第2隔壁部232の対向面237とスラストプレート81の間には円環状の第2シール材84が設けられている。第2シール材84は、例えば合成ゴムで形成されており、弾性を有している。第2シール材84は、第1シール材83よりも大径に形成されている。特に制限されないが、例えばOリングが第2シール材84として用いられ得る。第2シール材84は、第2隔壁部232の対向面237及びスラストプレート81の対向面237側の面の一方に取り付けられると共に先端部が他方に接触しており、第2隔壁部232の対向面237とスラストプレート81との間をシールしている。具体的には、本実施形態において、第2シール材84は、第2隔壁部232の対向面237から一部が突出するように、第2隔壁部232の対向面237に形成された環状溝に嵌め込まれており、突出部の先端がスラストプレート81の対向面237側の面の周縁部に接触している。
【0042】
図3は、スラストプレート81及びスラストシート82を示す斜視図であり、図4は、スラストプレート81及びスラストシート82の断面図である。
【0043】
図2図4に示されるように、スラストプレート81は、対向面237側の面811から突出する2つの位置決めピン812と、旋回スクロール52側の面813から突出する6つの自転阻止ピン814とを有する。また、スラストシート82には、6つの自転阻止ピン814に対応する6つの挿通孔821が形成されている。
【0044】
本実施形態において、2つの位置決めピン812は、スラストプレート81の対向面237側の面811から一部が突出するように、スラストプレート81の中空部分815を挟んでその両側に形成された2つの第1圧入孔に圧入されて固定されている。
【0045】
また、2つの位置決めピン812は、第2隔壁部232の対向面237に形成された対応する2つの位置決め穴238(好ましくは一方が丸穴で他方が長穴に形成される)に軸方向に移動可能に挿入されている。
【0046】
そして、2つの位置決めピン812が第2隔壁部232の対向面237に形成された2つの位置決め穴238に挿入されることにより、スラストプレート81は、回転しないように位置決めされた状態で駆動軸30の軸方向に移動可能に第2隔壁部232の対向面237に取り付けられている。
【0047】
スラストプレート81の旋回スクロール52側の面813には、スラストプレート81と同心の円形凹部816が形成されている。換言すれば、本実施形態において、スラストプレート81の旋回スクロール52側の面813は、円形凹部816の底面からなる第1環状面813aと、円形凹部816の径方向外側に位置すると共に前記第1環状面813aよりも1段高い第2環状面813bとで構成されている。円形凹部816は、駆動軸30の軸方向から見たとき、旋回スクロール52の公転旋回運動時に第1シール材83がスラストシート82の旋回スクロール52側の面を摺動する領域、すなわち、旋回スクロール52の公転旋回運動に伴う第1シール部材83のスラストシート82に対する摺動領域(の外形線)の内側に位置するように形成されている。また、本実施形態において、円形凹部816は、第1シール材83の外径よりも小径に形成されている。但し、これに限られるものではない。円形凹部816は、第1シール部材83の外径と略同径に形成されてもよい。
【0048】
6つの自転阻止ピン814は、スラストプレート81の旋回スクロール52側の面813から一部が突出するように、周方向等間隔で形成された6つの第2圧入孔に圧入されて固定されている。具体的には、本実施形態において、6つの第2圧入孔は、円形凹部816の底面からなる第1環状面813aに周方向等間隔で形成されており、6つの自転阻止ピン814は、第2環状面813bよりも突出するように、第1環状面813aに形成された6つの第2圧入孔に圧入されて固定されている。
【0049】
また、6つの自転阻止ピン814は、スラストシート82に形成された6つの挿通孔821に挿通されてスラストシート82を貫通すると共に、旋回スクロール52の旋回基板521の背面に円筒部523を囲むように等間隔で形成された6つの円形穴524(図1及び図2には、そのうちの一つだけが示されている)に遊嵌されている。
【0050】
そして、6つの自転阻止ピン814がスラストシート82の6つの挿通孔821に挿通されることにより、スラストシート82は、スラストプレート81に対する相対回転が阻止された状態でスラストプレート81の旋回スクロール52側の面813(第2環状面813b)に取り付けられている。このとき、円形凹部816の内側空間、すなわち、第2環状面813bと第1環状面813aとの段差により、スラストプレート81とスラストシート82との間には、スラストシート82の内周側の部位が弾性変形するのを許容する許容空間が形成される。また、6つの自転阻止ピン814が旋回基板521の背面に形成された6つの円形穴524に遊嵌されることにより、旋回スクロール52の自転が阻止される。なお、自転阻止ピン814(及び円形穴524)は3つ以上あればよく、自転阻止ピン814(及び円形穴524)の数は任意に設定され得る。
【0051】
図1に戻り、スクロール型圧縮機10は、低圧の気体冷媒が流入する吸入室H1と、低圧の気体冷媒を圧縮する圧縮室H2と、圧縮室H2で圧縮された気体冷媒が吐出される吐出室H3と、圧縮室H2で圧縮された気体冷媒から潤滑油を分離する気液分離室H4と、旋回スクロール52の旋回基板521の背面側に設けられた背圧室H5とを有している。
【0052】
吸入室H1は、フロントハウジング21の第1周壁部211、フロントハウジング21の第1隔壁部212、センターハウジング23の第2周壁部231及びセンターハウジング23の第2隔壁部232によって区画形成されている。すなわち、本実施形態においては、フロントハウジング21の前記モータ収容空間とセンターハウジング23の前記接続区間とによって吸入室H1が形成されている。第1周壁部211には、吸入口P1が形成されている。吸入口P1は、図示省略の接続管などを介して前記冷媒回路(の低圧側)に接続されている。このため、吸入室H1には、吸入口P1を介して前記冷媒回路からの低圧の冷媒が流入する。また、センターハウジング23には、吸入室H1内の低圧の気体冷媒をスクロールユニット50の径方向外側の空間H6に導くための冷媒通路L1が形成されている。
【0053】
圧縮室H2は、固定スクロール51と旋回スクロール52との間に形成される。具体的には、スクロールユニット50において、旋回スクロール52が固定スクロール51に対して公転旋回運動すると、旋回渦巻壁522が固定渦巻壁512に接触し、固定基板511、固定渦巻壁512、旋回基板521及び旋回渦巻壁522によって三日月状の密閉空間が径方向外側で形成される。形成された三日月状の密閉空間が容積を徐々に減少させながら径方向内側へと移動する。この固定スクロール51と旋回スクロール52との間に形成される三日月状の密閉空間が圧縮室H2を構成する。スクロールユニット50は、前記三日月状の密閉空間(すなわち、圧縮室H2)の形成時に空間H6から低圧の気体冷媒を取り込むことで低圧の気体冷媒を圧縮するように構成されている。
【0054】
吐出室H3は、リアハウジング24の第3周壁部241と、リアハウジング24の底壁部242と、固定スクロール51の固定基板511とによって区画形成されている。つまり、リアハウジング24の第3周壁部241の内部が吐出室H3を構成している。固定スクロール51の固定基板511の径方向中央には、最も内側に移動した圧縮室H2と吐出室H3とを連通する吐出孔L2が形成されている。このため、吐出室H3には、スクロールユニット50の圧縮室H2で圧縮された気体冷媒が吐出孔L2を介して吐出される。なお、吐出孔L2には、圧縮室H2から吐出室H3への気体冷媒の流通を許容するが、吐出室H3から圧縮室H2への気体冷媒の流通を規制する逆止弁(リード弁)95が取り付けられている。
【0055】
気液分離室H4は、リアハウジング24に設けられている。具体的には、本実施形態において、気液分離室H4は、リアハウジング24の底壁部242を外周面から内部へと向かって下方に延びる円柱状空間として形成されている。吐出室H3と気液分離室H4とは連通孔L3を介して連通している。気液分離室H4には、気体冷媒に含まれる潤滑油を分離するオイルセパレータ100が配置されている。ここでは遠心分離式のオイルセパレータが用いられているが、これに限られるものではなく、他の方式のオイルセパレータが用いられてもよい。気液分離室H4におけるオイルセパレータ100より上部には、吐出口P2が設けられている。吐出口P2は、図示省略の接続管などを介して前記冷媒回路(の高圧側)に接続されている。
【0056】
背圧室H5は、旋回スクロール52の旋回基板521とセンターハウジング23の第2隔壁部232との間に形成されている。本実施形態において、背圧室H5は、第2隔壁部232の中空突出部233の内部空間を含む。背圧室H5は、スラストプレート81、スラストシート82、第1シール材83及び第2シール材84により、吸入室H1の圧力の領域(吸入圧領域)であるスクロールユニット50の径方向外側の空間H6と区画されている。
【0057】
センターハウジング23及びリアハウジング24には、吐出室H3と背圧室H5とを接続すると共に、気液分離室H4と背圧室H5とを接続する潤滑油通路L4が形成されている。潤滑油通路L4の途中には、オリフィス(絞り部)OLが配置されている。また、背圧室H5は、軸挿通孔234の内周面と駆動軸30の外周面との間の微小隙間を介して吸入室H1に連通している。但し、これに限られるものではない。軸挿通孔234の内周面と駆動軸30の外周面との間の隙間がシールされると共に、背圧室H5が途中にオリフィスや背圧制御弁などが設けられた放圧通路を介して吸入室H1に連通するように構成されてもよい。
【0058】
次に、スクロール型圧縮機10の動作を説明する。
【0059】
インバータ60からの給電によって電動モータ40が駆動軸30を回転させると、駆動軸30の回転がクランク機構70を介して旋回スクロール52に伝達され、旋回スクロール52は固定スクロール51に対して公転旋回運動を行う。すると、前記冷媒回路からの低圧の気体冷媒が吸入口P1を介して吸入室H1に流入し、冷媒通路L1を通過して空間H6に至り、その後、固定スクロール51と旋回スクロール52との間に形成される圧縮室H2に取り込まれて圧縮される。圧縮室H2で圧縮された気体冷媒(高圧の気体冷媒)は、吐出孔L2(及び逆止弁95)を介して吐出室H3に吐出され、その後、連通孔L3を介して気液分離室H4に流入する。気液分離室H4に流入した気体冷媒は、オイルセパレータ100によって、そこに含まれた潤滑油が分離される。そして、オイルセパレータ100によって潤滑油が分離された後の気体冷媒は、吐出口P2から前記冷媒回路へと導出される。他方、オイルセパレータ100によって気体冷媒から分離された潤滑油は、気液分離室H4の底部に貯留される。なお、吐出室H3に吐出された気体冷媒に含まれた潤滑油の一部は、吐出室H3の底部に貯留される。
【0060】
スクロール型圧縮機10の動作中、旋回スクロール52には、圧縮反力によって、旋回スクロール52を固定スクロール51から離す方向のスラスト荷重が作用する。旋回スクロール52に作用するスラスト荷重は、スラストシート82及びスラストプレート81を介して第2隔壁部232の対向面237に伝達される。換言すれば、第2隔壁部232に対向面237は、圧縮反力によって旋回スクロール52に作用するスラスト荷重をスラストシート82及びスラストプレート81を介して受けるように構成されている。したがって、本実施形態においては、第2隔壁部232に対向面237が本発明の「スラスト受け部」に相当する。
【0061】
また、背圧室H5は、潤滑油通路L4を介して吐出室H3及び気液分離室H4に連通していると共に、軸挿通孔234の内周面と駆動軸30の外周面との間の微小隙間を介して吸入室H1に連通している。このため、吐出室H3の底部及び/又は気液分離室H4の底部に貯留された潤滑油(及び気体冷媒の一部)は、潤滑油通路L4を介して背圧室H5に供給されるが、その際、オリフィスOLによって減圧される。また、背圧室H5と吸入室H1とは前記微小隙間を介して連通しており、背圧室H5から吸入室H1に流出する潤滑油(及び/又は気体冷媒)が制限される。このため、背圧室H5の圧力が吸入室H1の圧力Psと吐出室H3の圧力Pd(=気液分離室H4の圧力)との間の中間圧力Pmに保持される。この中間圧力(背圧)Pmにより、旋回スクロール52を固定スクロール51に押し付ける方向の背圧荷重がスラストプレート81及び旋回スクロール52に作用する。つまり、背圧室H5は、旋回スクロール52を固定スクロール51に押し付ける方向の背圧荷重をスラストプレート81及び旋回スクロール52に作用させる。
【0062】
そして、旋回スクロール52は、主にスラストプレート81及び旋回スクロール52に作用する背圧荷重によって押圧されて、圧縮反力に抗して固定スクロール51に押し付けられる。これにより、固定渦巻壁512と旋回基板521との接触、及び、旋回渦巻壁521と固定基板511との接触が維持され、圧縮室H2における気体冷媒の圧縮効率の低下が防止される。
【0063】
以上のように、実施形態に係るスクロール型圧縮機10において、旋回スクロール52の旋回基板521の背面側、さらに言えば、第2隔壁部232の対向面(スラスト受け部)237と旋回基板521の旋回基板521との間には、円環状のスラストプレート81及び円環状のスラストシート82が設けられている。スラストプレート81は、旋回基板512よりも大径に形成されている。スラストシート82は、旋回基板512とスラストプレート81との間に設けられ、スラストプレート81と略同径に形成され、且つ駆動軸30の軸方向に弾性変形が可能である。旋回基板521とスラストシート82との間は、旋回基板521の背面の周縁部に取り付けられた摺動性を有する円環状の第1シール材83によってシールされている。第2隔壁部232の対向面(スラスト受け部)234とスラストプレート81との間は、対向面(スラスト受け部)234に取り付けられた第2シール材84によってシールされている。第2シール材84は、弾性を有し、第1シール材83よりも大径に形成されている。背圧室H5は、スラストプレート81、スラストシート82、第1シール材83及び第2シール材84によって、スクロールユニット50の外端部近傍の空間H6(吸入圧領域)と区画されている。そして、スラストプレート81のスラストシート82側の面には、円形凹部816が形成されている。円形凹部816は、駆動軸30の軸方向から見たときに旋回スクロール52の公転旋回運動に伴う第1シール部材83のスラストシート82に対する摺動領域(の外形線)の内側に位置している。
【0064】
実施形態に係るスクロール型圧縮機10によれば、以下のような効果が得られる。
【0065】
スラストプレート81のスラストシート82側の面には、円形凹部816が形成されている。そして、この円形凹部816(の内部空間)により、スラストプレート81とスラストシート82との間には、スラストシート82の弾性変形を許容する許容空間が形成される。このため、旋回スクロール52が傾いた状態で固定スクロール51に押し付けられた場合であっても、スラストシート81が円形凹部816内に弾性変形することにより、旋回スクロール52の旋回渦巻壁521が固定スクロール51の固定基板511に過剰な接触力で接触することが抑制される。この結果、旋回スクロール52の旋回渦巻壁522の巻き終わり部の先端部に作用する面圧を低減することができ、旋回スクロール52の旋回渦巻壁522の巻き終わり部の先端部の摩耗や損傷が抑制される。
【0066】
また、スラストプレート81は、駆動軸30の軸方向に移動可能に第2隔壁部232の対向面(スラスト受け部)237に取り付けられ、対向面(スラスト受け部)237とスラストプレート81との間は、対向面(スラスト受け部)237に取り付けられた弾性を有する第2シール材84によってシールされている。つまり、第2シール材84は、スラストプレート81と第2隔壁部232の対向面237との間で押圧されて弾性変形すると共に、その弾性復元力により、旋回スクロール52を固定スクロール51に押し付ける方向にスラストプレート81を押圧することが可能である。このため、旋回渦巻壁521と固定基板511との接触を維持しつつ、旋回渦巻壁521が固定基板511に過剰な接触力で接触すること抑制される。これによっても、旋回スクロール52の旋回渦巻壁522の巻き終わり部の先端部に作用する面圧が低減され、旋回スクロール52の旋回渦巻壁522の巻き終わり部の先端部の摩耗や損傷が抑制される。
【0067】
さらに、スラストプレート81は、対向面(スラスト受け部)237側の面811から突出する2つの位置決めピン812を有している。そして、2つの位置決めピン812は、対向面(スラスト受け部)237に形成された2つの位置決め穴238に軸方向に移動可能に挿入されることにより、スラストプレート81が回転しないようにスラストプレート81を対向面(スラスト受け部)237に位置決めするように構成されている。このため、スラストプレート81の駆動軸30の軸方向への移動を可能としつつ、スラストプレート81を対向面(スラスト受け部)237に容易に組付けることができる。
【0068】
さらにまた、スラストプレート81は、旋回スクロール52側の面813から突出する複数(6つ)の自転阻止ピン814を有している。そして、複数の自転阻止ピン814のそれぞれは、スラストシート82を貫通して延びると共に旋回スクロール52の旋回基板521の背面に形成された対応する円形穴524に遊嵌されて旋回スクロール52の自転を阻止するように構成されている。このため、スラストシート82の位置ずれや回転が阻止されると共に、公転旋回運動する旋回スクロール52の自転が阻止される。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらなる変形や変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0070】
10…スクロール型圧縮機、30…駆動軸、50…スクロールユニット、51…固定スクロール、52…旋回スクロール、81…スラストプレート(プレート部材)、82…スラストシート(シート部材)、83…第1シール材、84…第2シール材、237…対向面(スラスト受け部)、511…固定基板、512…固定渦巻壁、521…旋回基板、522…旋回渦巻壁、812…位置決めピン、814…自転阻止ピン、816…円形凹部、H2…圧縮室、H5…背圧室
図1
図2
図3
図4
図5
図6