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特許7523390ホウ素キレート化合物、近赤外光吸収材料、薄膜、光電変換素子、及び撮像素子
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  • 特許-ホウ素キレート化合物、近赤外光吸収材料、薄膜、光電変換素子、及び撮像素子 図1
  • 特許-ホウ素キレート化合物、近赤外光吸収材料、薄膜、光電変換素子、及び撮像素子 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-18
(45)【発行日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ホウ素キレート化合物、近赤外光吸収材料、薄膜、光電変換素子、及び撮像素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20240719BHJP
   H10K 30/30 20230101ALI20240719BHJP
   H10K 39/32 20230101ALI20240719BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240719BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H10K30/60
H10K30/30
H10K39/32
H10K85/60
C07F5/02 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021028090
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129432
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 秀典
(72)【発明者】
【氏名】青竹 達也
(72)【発明者】
【氏名】貞光 雄一
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/162345(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/031456(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079653(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/035303(WO,A1)
【文献】特開2016-166284(JP,A)
【文献】特開2020-189950(JP,A)
【文献】特開2020-189933(JP,A)
【文献】特開2016-006033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H10K 39/00-39/38
H10K 85/60
C07F 5/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、R乃至Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、複素環基又はハロゲン原子を表す。mは1乃至3の整数を表す。Aはベンゼン環又はナフタレン環を表す。)で表される化合物。
【請求項2】
乃至Rの少なくとも一つがアルキル基、芳香族炭化水素基、複素環基又はハロゲン原子である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
乃至Rの少なくとも一つがハロゲン原子である請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
乃至Rの少なくとも二つが芳香族炭化水素基又はハロゲン原子である請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
Aがベンゼン環である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の化合物を含む近赤外光吸収材料。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の化合物を含む有機薄膜。
【請求項8】
請求項7に記載の有機薄膜を含む光電変換素子。
【請求項9】
請求項8に記載の光電変換素子を備える光センサー。
【請求項10】
請求項8に記載の光電変換素子を備える撮像素子。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素キレート構造を有する新規化合物、光電変換素子、光センサー、撮像素子に関する。特に、近赤外領域に主たる吸収帯を有する光電変換素子及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
700乃至2,500nmの波長領域に吸収帯を有する近赤外光吸収材料は、例えばCD-R(Compact Disk-Recordable)等の光情報記録媒体;サーマルCTP(Computer ToPlate)、フラッシュトナー定着、レーザー感熱記録等の印刷用途; 熱遮断フィルム等の様々な用途で使用されており、また、選択的に特定波長域の光を吸収するという特性を用いて、PDP(Plasma Display Panel)等に用いられる近赤外光カットフィルターや、植物成長調整用フィルム等にも使用されている。更には、近赤外光吸収色素を溶媒に溶解又は分散させた近赤外光吸収インクを用いた印字物は、目視では認識が困難であって、かつ近赤外光検出器等でのみ読み取りが可能であることから、例えば偽造防止等を目的とした印字物等に使用される。
【0003】
また、近赤外光は紫外光やX線などとは異なり、人体への悪影響はほとんど無い安全な光であり、特に生体を通過する「生体の窓」と呼ばれる700乃至1,400nmの波長領域において、ヘモグロビンや水の影響をほとんど受けることなく、生体内の不可視情報を画像化することができる。さらには、1,000nmを超える波長の近赤外光を用いることにより、食品や農業分野での異物診断やシリコンウエハの欠陥観察に応用することが可能である。
【0004】
このような不可視画像形成用の近赤外光吸収材料としては、無機系の材料と有機系の材料とが知られており、無機系の近赤外光吸収材料の代表的なシリコンは、可視光のみならず780乃至950nm程度の近赤外光領域でも吸収帯を持つため、これを利用したセンサーが広く用いられている。
その一方で、シリコンは1,000nm以上の波長では光吸収帯を持たないため、1,000nmを超える波長の近赤外光を利用するセンサーの開発には、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)を代表とする化合物半導体が近赤外吸収材料として使われている。しかしながら、これらの無機系の材料は一般的に近赤外領域の光吸収能が低く、不可視画像を形成するために単位面積あたりの赤外光吸収材料が多量に必要となる。そのため、無機系の赤外光吸収材料を用いて形成した不可視画像の上にさらに可視画像を形成する場合には、不可視画像表面の凹凸が可視画像の表面形状に影響を与えてしまうことが問題であった。
【0005】
これに対して、有機系の近赤外光吸収材料は近赤外領域の光の吸収能が高く、単位面積あたりの近赤外線吸収材料が少量で不可視画像を形成することができるため、無機系の近赤外光吸収材料を使用した場合のような不都合は生じない。また、有機系の近赤外吸収材料は、その分子構造を柔軟に設計することができるため、ターゲットとする光の波長に吸収帯を有する材料を創生できることから、不要な波長の光の干渉を抑えることができる。そのため、現在に至るまで多くの有機系の近赤外光吸収材料の検討が行われてきた。
【0006】
近赤外光を効率よく吸収する有機材料を開発できれば、上述したような近赤外光を利用したエレクトロニクスデバイスとしての用途の幅が広がる。そのため有機系の近赤外光吸収材料には、近赤外光領域に十分な吸収帯を有し、なおかつ、有機エレクトロニクスデバイス製造時の電極形成や半導体封止層の導入などのプロセスに必要な温度(通常は120乃至180℃)に適応しうる十分な堅牢性が必要とされる。しかしながら、近赤外領域に吸収帯を示すシアニン色素、スクアリリウム色素及びジインモニウム色素等は何れも堅牢性に乏しく、その用途は限られている。
【0007】
この様な状況において、近年では近赤外光の波長領域に吸収帯を示すボロンジピロメテン(boron-dipyrromethene、以下「BODIPY」と称す。)系の化合物の研究が盛んになされている。非特許文献1及び2には、BODIPY骨格のピロール環にベンゼン環が縮環したジベンゾBODIPY化合物が、非縮環型のBODIPY化合物よりも長波長シフトした吸収帯を示すことや、B-Oキレート化による縮環構造とすることにより更に長波長シフトを達成できることが記載されており、特許文献1には、該化合物を近赤外光吸収材料として光記録媒体に利用できることが記載されている。また、特許文献2乃至4には、該縮環構造を有する化合物を用いた有機薄膜についても報告されている。
【0008】
更に、特許文献5には、900nm以上の波長の光において光電変換特性を示し、かつ昇華蒸着が可能な近赤外光吸収色素が記載されている。しかしながら、前記の色素は1,000nmを超える波長の光における光電変換特性が低く、しかも近赤外光の吸収波長が限られているため、撮像素子や光センサーの光電変換材料としての用途が限られる。そのため、1,000nmを超える波長においても高い光吸収能と光電変換特性を示す近赤外光電変換材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開1999-255774号公報
【文献】特開2012-199541号公報
【文献】特開2016-166284号公報
【文献】国際公開第2013/035303号
【文献】国際公開第2020/162345号
【0010】
【文献】Chem.Soc.Rev.,2014,43,4778-4823
【文献】Chem.Rev.,2007,107,4891-4932
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、熱安定性が高く、有機エレクトロニクスデバイス等に容易に利用できる900nm以上の近赤外光領域に主たる吸収帯を有し、かつ、1,000nmを超える波長領域においても高い光電変換特性を示す化合物、有機薄膜および光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記諸課題を解決するべく考究した結果、特定構造のBODIPY化合物を用いることにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
[1]下記一般式(1)
【0013】
【化1】
【0014】
(式(1)中、R乃至Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、複素環基又はハロゲン原子を表す。mは1乃至3の整数を表す。Aはベンゼン環又はナフタレン環を表す。)で表される化合物、
[2]R乃至Rの少なくとも一つがアルキル基、芳香族炭化水素基、複素環基又はハロゲン原子である前項[1]に記載の化合物、
[3]R乃至Rの少なくとも一つがハロゲン原子である前項[2]に記載の化合物、
[4]R乃至Rの少なくとも二つが芳香族炭化水素基又はハロゲン原子である前項[2]に記載の化合物、
[5]Aがベンゼン環である前項[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の化合物、
[6]前項[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の化合物を含む近赤外光吸収材料、
[7]前項[1]乃至[5]のいずれか一項に記載の化合物を含む有機薄膜、
[8]前項[7]に記載の有機薄膜を含む光電変換素子、
[9]前項[8]に記載の光電変換素子を備える光センサー、及び
[10]前項[8]に記載の光電変換素子を備える撮像素子、
に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の新規な化合物を含む有機薄膜は、近赤外光領域に主たる吸収帯を有する。また、該化合物及び/又は該薄膜を用いることにより、近赤外光電変換素子が実現する。該化合物は、各種有機エレクトロニクスデバイスへの利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の光電変換素子の実施態様を例示した断面図を示す。
図2図2は、本発明の化合物を用いて得られた有機薄膜の吸収スペクトルの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。ここに記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づくものであるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されない。なお、本明細書において、近赤外領域とは、750乃至2500nmの範囲内にある光の波長領域を意味し、近赤外光吸収材料とは、近赤外光領域に主たる吸収帯をもつ材料を意味する。
【0018】
本発明の化合物は、下記式(1)で表される。
【0019】
【化2】
【0020】
式(1)中、R乃至Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、複素環基又はハロゲン原子を表す。
【0021】
式(1)のR乃至Rが表すアルキル基は直鎖状、分岐鎖状及び環状の何れにも限定されず、その炭素数は1乃至20が好ましく、1乃至10がより好ましい。
式(1)のR乃至Rが表すアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-セチル基、n-ヘプタデシル基、2-エチルへキシル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、3-ブチルノニル基、4-ブチルデシル基、2-ヘキシルデシル基、3-オクチルウンデシル基、4-オクチルドデシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。尚、式(1)のR乃至Rが表すアルキル基は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
式(1)のR乃至Rが表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、2-エチルへキシル基又はシクロヘキシル基好ましく、メチル基、エチル基、t-ブチル基又はシクロヘキシル基がより好ましい。
【0022】
式(1)のR乃至Rが表す芳香族炭化水素基とは、芳香族炭化水素化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた残基であり、その具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、トリル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、フェナンスニル基及びメスチル基等が挙げられる。尚、式(1)のR乃至Rが表す芳香族炭化水素基は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
式(1)のR乃至Rが表す芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基又はメスチル基が好ましく、フェニル基又はトリル基がより好ましい。
【0023】
式(1)のR乃至Rが表す複素環基とは、複素環化合物の複素環から水素原子を一つ除いた残基であり、その具体例としては、フラニル基、チエニル基、チエノチエニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、インドリル基、ベンゾピラジル基、ベンゾピリミジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、ピリジノチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピリジノイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリジノオキサゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、ピリジノチアジアゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基、ピリジノオキサジアゾリル基、カルバゾリル基、フェノキサジニル基及びフェノチアジニル基等が挙げられる。尚、式(1)のR乃至Rが表す複素環基は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
式(1)のR乃至Rが表す複素環基としては、チエニル基、チエノチエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピラジル基又はベンゾチエニル基が好ましく、チエニル基、ピリジル基又はベンゾチエニル基がより好ましい。
【0024】
式(1)のR乃至Rが表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は塩素原子が好ましい。
式(1)におけるR乃至Rとしては、全てが水素原子であるか、又はR及びRが水素原子であってR及びRの一方が水素原子、アルキル基、芳香族炭化水素基、複素環基若しくはハロゲン原子であって他方がアルキル基、芳香族炭化水素基、複素環基若しくはハロゲン原子であることが好ましく、全てが水素原子であるか、又はR及びRが水素原子であってR及びRの一方が水素原子、芳香族炭化水素基若しくはハロゲン原子であって他方が芳香族炭化水素基若しくはハロゲン原子であることがより好ましい。
【0025】
式(1)のmは1乃至3の整数を表し、1又は2が好ましい。
【0026】
式(1)中、Aはベンゼン環又はナフタレン環を表す。尚、Aで表されるベンゼン環又はナフタレン環は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されないが、置換基としては芳香族炭化水素基、複素環基及びハロゲン原子であることが好ましく、ハロゲン原子であることがより好ましい。
式(1)におけるAはベンゼン環であることが好ましく、無置換のベンゼン環であることがより好ましい。
【0027】
次に本発明の化合物の合成方法について説明する。式(1)で表される化合物は、例えば以下のスキームに示した合成法によって合成できる。まず、式(S-1)で表されるヒドロキシチオフェン化合物を、ヨウ化メチルを用いてメチル化することで、式(M-1)で表されるメトキシチオフェン中間体とする。続いてヒドラジン・一水和物との反応により式(M-2)で表されるヒドラジド中間体とする。式(M-2)で表される中間体と式(S-2)で表されるアセトフェノン誘導体を脱水縮合することにより式(M-3)で表されるヒドラゾン中間体とする。その後、ヨードベンゼンジアセテートを用いた脱窒素転位反応により式(M-4)で表されるジケトン中間体とし、該中間体(M-4)に酢酸アンモニウを作用させることにより式(M-5)で表されるジピロメテン中間体とする。最後に、水酸基上のメチル基の脱保護を行うことにより分子内B-O結合を形成させ、式(1)で表される化合物を合成することができる。式(S-1)及び式(S-2)で表される出発化合物はそれぞれ公知の方法を用いることによって合成することができる。
尚、以下の合成スキーム中のR乃至R、m及びAは式(1)におけるR乃至R、m及びAと同じ意味を表す。
【0028】
【化3】
【0029】
前記式(1)で表される化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれに限定されない。なお、具体例として示した構造式は共鳴構造の一つを表したものにすぎず、図示した共鳴構造に限定されない。
【0030】
【化4】
【0031】
【化5】
【0032】
【化6】
【0033】
【化7】
【0034】
【化8】
【0035】
【化9】
【0036】
【化10】
【0037】
【化11】
【0038】
【化12】
【0039】
本発明の近赤外光吸収材料は、上記式(1)で表される化合物を含有する。
本発明の近赤外光吸収材料中の式(1)で表される化合物の含有量は、近赤外光吸収材料を用いる用途において必要とされる近赤外光の吸収能力が発現する限り特に限定されないが、通常は50質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
本発明の近赤外光吸収材料には、式(1)で表される化合物以外の化合物(例えば式(1)で表される化合物以外の近赤外光吸収材料(色素)等)や添加剤等を併用してもよい。併用し得る化合物や添加剤等は、近赤外光吸収材料を用いる用途において必要とされる近赤外光の吸収能力が発現する限り特に限定されない。
【0040】
本発明の有機薄膜は、上記式(1)で表される化合物を含有する。
本発明の有機薄膜は、一般的な乾式成膜法や湿式成膜法により作製することができる。具体的には真空プロセスである抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング及び分子積層法、溶液プロセスであるキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等が挙げられる。
一般的な近赤外光吸収材料の有機薄膜の形成は、加工の容易性という観点からは化合物を溶液状態で塗布するようなプロセスが望まれている。そのような観点から、溶液プロセスに適応できる溶解性の高い有機材料の開発が望まれる。
【0041】
一方で、有機膜を積層するような有機エレクトロニクスデバイスの場合、塗布溶液が下層の有機膜を侵さない溶媒条件を選択することが困難なことが多い。この様な積層構造を実現するためには、乾式成膜法、例えば抵抗加熱蒸着等の乾式成膜法に用い得る蒸着可能な材料であることが適切である。したがって、近赤外領域に主たる吸収波長を有し、且つ蒸着可能な近赤外光吸収材料が有機エレクトロニクス材料に用いる際には好ましい。
【0042】
有機膜を積層する場合、各層の成膜には上記の手法を複数組み合わせた方法を採用してもよい。各層の厚みは、それぞれの物質の抵抗値・電荷移動度にもよるので限定することはできないが、通常は0.5乃至5,000nmの範囲であり、好ましくは1乃至1,000nmの範囲、より好ましくは5乃至500nmの範囲である。
【0043】
前記式(1)で表される化合物の分子量は、例えば式(1)で表される化合物を含む有機層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1,500以下であることが好ましく、1,200以下であることがより好ましく、1,000以下であることがさらに好ましい。分子量の下限値は、式(1)がとりうる最低分子量の値である。
なお、式(1)で表される化合物は、分子量にかかわらず塗布法で成膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
尚、本明細書における分子量は、EI-GCMS法で算出した値を意味する。
【0044】
〔光電変換素子〕
上記式(1)で表される化合物は、近赤外光吸収特性を有する化合物であることから、近赤外光電変換素子に好適に用いられる。特に、上記式(1)で表される化合物は、本発明の光電変換素子に於ける光電変換層に用いることができる。当該素子に於いては、光源の光波長に対する十分な光吸収特性と光電変換特性を有する材料であることが好ましい。光源として用いる照射光の波長領域は、800乃至1,400nmであることが好ましく、900乃至1,400nmであることがより好ましく、1,000乃至1,400nmであることがさらに好ましい。ここで、近赤外光電変換素子としては近赤外光センサー、有機撮像素子、近赤外光イメージセンサー等が挙げられる。
尚、本明細書における吸収帯の極大吸収とは、吸収スペクトル測定で測定した吸光度のスペクトルにおいて、吸光度が極大となる波長の値を意味し、極大吸収波長(λmax)は極大吸収の中で最も長波長側の極大吸収を意味する。
【0045】
光電変換素子は、対向する一対の電極膜間に光電変換部(膜)を配置した素子であって、電極膜の上方から光が光電変換部に入射されるものである。光電変換部は前記の入射光に応じて電子と正孔を発生するものであり、半導体により前記電荷に応じた信号が読み出され、光電変換膜部の吸収波長に応じた入射光量を示す素子である。光が入射しない側の電極膜には読み出しのためのトランジスタが接続される場合もある。また、より光源近くに配置された光電変換素子が、光源側から見てその背後に配置された光電変換素子の吸収波長を遮蔽しない(透過する)場合は、複数の光電変換素子を積層して用いてもよい。
【0046】
本発明の光電変換素子は、前記式(1)で表される化合物を上記光電変換部の構成材料として用いたものである。
光電変換部は、光電変換層と、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層及び層間接触改良層等から成る群より選択される一種又は複数種の光電変換層以外の有機薄膜層とから成ることが多い。本発明の式(1)で表される化合物は、光電変換層以外にも用いることもできるが、光電変換層の有機薄膜層として用いることが好ましい。光電変換層は前記式(1)で表される化合物のみで構成されていてもよいが、前記式(1)で表される化合物以外に、公知の近赤外光吸収材料やその他を含んでいてもよい。
【0047】
本発明の光電変換素子に用いられる電極膜は、後述する光電変換部に含まれる光電変換層が、正孔輸送性を有する場合や光電変換層以外の有機薄膜層が正孔輸送性を有する正孔輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から正孔を取り出してこれを捕集する役割を果たし、又光電変換部に含まれる光電変換層が電子輸送性を有する場合や、有機薄膜層が電子輸送性を有する電子輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から電子を取り出して、これを吐出する役割を果たすものである。よって、電極膜として用い得る材料は、ある程度の導電性を有するものであれば特に限定されないが、隣接する光電変換層やその他の有機薄膜層との密着性や電子親和力、イオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択することが好ましい。電極膜として用い得る材料としては、例えば、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)及び酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属:ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質:ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマー:炭素等が挙げられる。これらの材料は、必要により複数を混合して用いてもよいし、異なる材料の電極膜を2層以上に積層して用いてもよい。電極膜に用いる材料の導電性も、光電変換素子の受光を必要以上に妨げなければ特に限定されないが、光電変換素子の信号強度や、消費電力の観点から出来るだけ高いことが好ましい。例えばシート抵抗値が300Ω/□以下の導電性を有するITO膜であれば、電極膜として充分機能するが、数Ω/□程度の導電性を有するITO膜を備えた基板の市販品も入手可能となっていることから、この様な高い導電性を有する基板を使用することが望ましい。ITO膜(電極膜)の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、通常5乃至500nm、好ましくは10乃至300nm程度である。ITOなどの膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法及び塗布法等が挙げられる。基板上に設けられたITO膜には必要に応じUV-オゾン処理やプラズマ処理等を施してもよい。
【0048】
電極膜のうち、少なくとも光が入射する側の何れか一方に用いられる透明電極膜の材料としては、ITO、IZO、SnO、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)等が挙げられる。光電変換層の吸収ピーク波長における透明電極膜を介して入射した光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0049】
検出する波長の異なる光電変換層を複数積層する場合、それぞれの光電変換層の間に用いられる電極膜(これは上記記載の一対の電極膜以外の電極膜である)は、それぞれの光電変換層が検出する波長を有する光以外の光を透過させる必要があり、該電極膜には入射光の90%以上を透過する材料を用いることが好ましく、95%以上の光を透過する材料を用いることがより好ましい。
【0050】
電極膜はプラズマフリーで作製することが好ましい。プラズマフリーでこれらの電極膜を作成することにより、電極膜が設けられる基板にプラズマが与える影響が低減され、光電変換素子の光電変換特性を良好にすることができる。ここで、プラズマフリーとは、電極膜の成膜時にプラズマを用いないか、又はプラズマ発生源から基板までの距離が2cm以上、好ましくは10cm以上、更に好ましくは20cm以上離すことにより、基板に到達するプラズマが減ぜられるような状態を意味する。
【0051】
電極膜の成膜時にプラズマを用いない装置としては、例えば、電子線蒸着装置(EB蒸着装置)やパルスレーザー蒸着装置等が挙げられる。EB蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をEB蒸着法と称し、パルスレーザー蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をパルスレーザー蒸着法と称する。
【0052】
成膜中プラズマを減ずることが出来るような状態を実現できる装置としては、例えば、対向ターゲット式スパッタ装置やアークプラズマ蒸着装置等が考えられる。
【0053】
透明導電膜を電極膜(例えば第一の導電膜)とした場合、DCショート、あるいはリーク電流の増大が生じる場合がある。この原因の一つは、光電変換層に発生する微細なクラックがTCO(Transparent Conductive Oxide)などの緻密な膜によって被覆され、第一の導電膜とは反対側の電極膜(第二の導電膜)との間の導通が増すためと考えられる。そのため、Alなど膜質が比較して劣る材料を電極に用いた場合、リーク電流の増大は生じにくい。電極膜の膜厚を、光電変換層の膜厚(クラックの深さ)に応じて制御することにより、リーク電流の増大を抑制することができる。
【0054】
通常、導電膜を所定の厚さより薄くすると、急激な抵抗値の増加が起こる。本実施形態の1つである光センサー用光電変換素子における導電膜のシート抵抗は、通常100乃至10000Ω/□であり、膜厚を適宜設定することができる。又、透明導電膜が薄いほど吸収する光の量が少なくなり、一般に光透過率が高くなる。光透過率が高くなると、光電変換層で吸収される光が増加して光電変換能が向上するため非常に好ましい。
【0055】
本発明の光電変換素子が有する光電変換部は、光電変換層及び光電変換層以外の有機薄膜層を含む場合もある。光電変換部を構成する光電変換層には一般的に有機半導体膜が用いられるが、その有機半導体膜は一層若しくは複数の層であってもよく、一層の場合は、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。一方、複数の層である場合は、層の数は、2乃至10程度であり、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)の何れかを積層した構造であり、層間にバッファ層が挿入されていてもよい。なお、上記の混合膜により光電変換層を形成する場合、本発明の式(1)で表される化合物をp型半導体材料として用い、n型半導体材料としては一般的なフラーレンや、その誘導体を用いることが好ましい。
【0056】
本発明の光電変換素子において、光電変換部を構成する光電変換層以外の有機薄膜層は、光電変換層以外の層、例えば、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層(以下電子ブロック層と正孔ブロック層を総称して「キャリアブロック層」とも表す。)、結晶化防止層又は層間接触改良層等として用いられる。特に電子輸送層、正孔輸送層から成る群より選択される一種以上の薄膜層として用いることにより、弱い光エネルギーでも効率よく電気信号に変換する素子が得られるために好ましい。
【0057】
加えて、撮像素子では、一般的には高コントラスト化や省電力化を目的として、暗電流の低減により性能向上を目指すと考えられため、層構造内にキャリアブロック層を挿入する手法が好ましい。これらのキャリアブロック層は、有機エレクトロニクスデバイス分野では一般に用いられており、其々デバイスの構成膜中において正孔若しくは電子の逆移動を制御する機能を有する。
【0058】
電子輸送層は、光電変換層で発生した電子を電極膜へ輸送する役割と、電子輸送先の電極膜から光電変換層に正孔が移動するのをブロックする役割とを果たす。正孔輸送層は、発生した正孔を光電変換層から電極膜へ輸送する役割と、正孔輸送先の電極膜から光電変換層に電子が移動するのをブロックする役割とを果たす。電子ブロック層は、電極膜から光電変換層への電子の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する役割を果たす。正孔ブロック層は、電極膜から光電変換層への正孔の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する機能を有する。
【0059】
図1に本発明の光電変換素子の代表的な素子構造を示すが、本発明はこの構造に限定されるものではない。図1の態様例においては、1が絶縁部、2が一方の電極膜(上部電極膜)、3が電子ブロック層、4が光電変換層、5が正孔ブロック層、6が他方の電極膜(下部電極膜)、7が絶縁基材又は他の有機光電変換素子をそれぞれ表す。図中には読み出し用のトランジスタを記載していないが、2又は6の電極膜と接続されていればよく、更には光電変換層4が透明であれば、光が入射する側とは反対側の電極膜の外側に成膜されていてもよい。有機光電変換素子への光の入射は、光電変換層4を除く構成要素が、光電変換層の主たる吸収波長の光を入射することを極度に阻害することがなければ、上部若しくは下部からの何れからでもよい。
【0060】
このような光電変換部を備える光電変換素子は、光電変換部の光源から照射された波長光の吸収量に応じた電荷を信号として読み出すことができるため、光センサーとして利用することができる。特に近赤外光センサーとしての利用例は、蛍光物質を用いた生体内情報観測などがあげられる。
【0061】
また、上記の光センサーにおいて、光電変換素子をアレイ状に多数配置した場合、入射光量に加えて、入射位置情報も得ることができるため、撮像素子として利用することができる。光電変換素子と同じ側に配置した光源から検出体に照射した光の反射光を、もしくは、光電変換素子と逆側に配置した光源から検出体に照射した光の透過光を、光電変換素子を含む受光部により受光量と位置情報を同時に電気信号として読み出すことで、撮像素子となる。光源として近赤外光を利用した撮像素子は、生体静脈観察や食品・農業分野における異物診断などに利用できる。
【実施例
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。合成例に記載の化合物は、必要に応じて質量分析スペクトル、核磁気共鳴スペクトル(NMR)により構造を決定した。実施例における分子量の測定はISQ LT GC-MS(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、また吸収スペクトルの測定はUV-1700(島津製作所製)を用いてそれぞれ行った。また有機光電変換素子の電流電圧の印加測定は、PVL-3300(朝日分光社製)を用いて照射光強度130μW、半値幅20nmの照射条件で、半導体パラメータアナライザ4200-SCS(ケースレーインスツルメンツ社製)を用いて350乃至1100nmの範囲で行った。また、合成の原料となる化合物(S-1)及び化合物(S-2)は 「Organic Letters(2016),18(4),804-807.」に記載の手法に従って合成した。
【0063】
実施例1(下記式(1-1)で表される本発明の化合物の合成)
(工程1)下記式(M-1)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、式(S-1)で表される化合物(15.0g、 56.8mmol)をDMF(300mL)に溶解し、室温で炭酸カリウム(15.7g、 114mmol)、ヨウ化ナトリウム(4.26g、 28.5mmol)及びヨウ化メチル(12、1g、 85.2mmol)を加えた後、攪拌しながら80℃まで昇温して更に3時間撹拌した。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、1N塩酸(1L)に注いで攪拌し、生じた固体を吸引ろ過により回収した。得られた固体を水およびメタノールで洗浄することにより、式(M-1)で表される中間体化合物(14.5g、 52.1mmol、収率91.7%)を得た。
式(M-1)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 278 [M]
【0064】
(工程2)下記式(M-2)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、工程1で合成した式(M-1)で表される中間体化合物(14.5g、 52.1mmol)をエタノール(260mL)に懸濁させ、室温でヒドラジン-水和物(25.3mL、 521mmol)を加えた後、攪拌しながら78℃まで昇温して6時間還流した。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、水(500mL)で希釈し、エタノールを減圧濃縮により留去した。その後、析出した固体を吸引ろ過により回収し、水およびメタノールで洗浄することにより、式(M-2)で表される中間体化合物(12.9g、 46.4mmol、収率89.1%)を得た。
式(M-2)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 278 [M]
【0065】
(工程3)下記式(M-3)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、工程2で合成した式(M-2)で表される中間体化合物(12.0g、 43.0mmol)と4’-フルオロ-2’-ヒドロキシ-5’-フェニルアセトフェノン(11.9g、 51.6mmol)をエタノール(215mL)に懸濁させた後、攪拌しながら78℃まで昇温して6時間還流した。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、エタノール(300mL)で希釈し、生じた固体を減圧濾過により回収し、水、メタノールおよび少量のアセトンで洗浄することにより、式(M-3)で表される中間体化合物(20.3g、 41.5mmol、収率96.5%)を得た。
式(M-3)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 490 [M]
【0066】
(工程4)下記式(M-4)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、工程3で合成した式(M-3)で表される中間体化合物(19.7g、 40.2mmol)をトルエン(400mL)に懸濁させて95℃まで昇温した後、攪拌しながらヨードベンゼンジアセテート(19.4g、 60.3mmol)を10分間以上かけて少しずつ加えて1時間反応を行った。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、有機溶媒を減圧留去し、生じた残渣液体をシリカゲルを固定相とするカラムクロマトグラフィー(移動相:クロロホルム)により精製することにより、式(M-4)で表される中間体化合物(13.1g、 28.5mmol、収率70.9%)を得た。
式(M-4)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 460 [M]
【0067】
(工程5)下記式(M-5)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、工程4で合成した式(M-4)で表される中間体化合物(4.88g、 10.6mmol)をトルエン(90mL)に投入し、攪拌しながら60℃まで昇温して溶解させた後、酢酸アンモニウム(81、6g、 1.06mol)と水(10mL)を加えて還流温度まで昇温して更に2時間反応を行った。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、水(500mL)を加えて分液し、水層をトルエン(300mL)を用いて2回抽出した。分液で得られた有機層と前記で得られた抽出液の混合液に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、吸引ろ過により固形分を除去した後、有機溶媒を減圧留去した。生じた残渣固体をシリカゲルを固定相とするカラムクロマトグラフィーにより精製することで、式(M-5)で表される中間体化合物(2.25g、 2.59mmol、収率48.9%)を得た。
式(M-5)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 868 [M]
【0068】
(工程6)下記式(1-1)で表される化合物の合成
フラスコ内で、工程5で合成した式(M-5)で表される中間体化合物(2.09g、 2.41mmol)をジクロロエタン(340mL)に溶解させ、1Mの三臭化ホウ素ジクロロメタン溶液(48.1mL、 48.1mmol)を滴下し、加熱還流下で12時間攪拌した。前記で得られた反応液を飽和重曹水(1L)に注ぎ、1時間攪拌した後、析出した固体を吸引ろ過により回収し、水、メタノールおよびDMFにより洗浄した。得られた固体を真空昇華法によって精製することで、式(1-1)で表される化合物(1.03g、 1.22mmol、収率50.6%)を得た。
式(1-1)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 848 [M]
【0069】
【化13】
【0070】
実施例2(下記式(1-2)で表される本発明の化合物の合成)
(工程7)下記式(M-6)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、式(S-2)で表される化合物(12.0g、 37.5mmol)をDMF(300mL)に溶解し、室温で炭酸カリウム(10.4g、 75.0mmol)、ヨウ化ナトリウム(2.82g、 18.8mmol)及びヨウ化メチル(8.00g、 56.3mmol)を加えた後、攪拌しながら80℃まで昇温して更に3時間撹拌した。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、1N塩酸(1L)に注いで攪拌し、生じた固体を吸引ろ過により回収した。得られた固体を水およびメタノールで洗浄することにより、式(M-6)で表される中間体化合物(11.2g、33.5mmol、収率89.2%)を得た。
式(M-6)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 334 [M]
【0071】
(工程8)下記式(M-7)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、工程7で合成した式(M-6)で表される中間体化合物(9.89g、 29.6mmol)をエタノール(300mL)に懸濁させ、室温でヒドラジン-水和物(28.8mL、 593mmol)を加えた後、攪拌しながら78℃まで昇温して6時間還流した。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、水(500mL)で希釈し、エタノールを減圧濃縮により留去した。その後、析出した固体を吸引ろ過により回収し、水およびメタノールで洗浄することにより、式(M-7)で表される中間体化合物(8.73g、 26.1mmol、収率88.3%)を得た。
式(M-7)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 334 [M]
【0072】
(工程9)下記式(M-8)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、工程8で合成した式(M-7)で表される中間体化合物(7.85g、 23.5mmol)と4’-フルオロ-2’-ヒドロキシ-5’-フェニルアセトフェノン(5.96g、 25.9mmol)をエタノール(400mL)に懸濁攪拌させた後、攪拌しながら78℃まで昇温して6時間還流した。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、反応液をエタノール(150mL)で希釈し、生じた固体を減圧濾過により回収し、水、メタノールおよび少量のアセトンで洗浄することにより、式(M-8)で表される中間体化合物(12.2g、 22.4mmol、収率95.5%)を得た。
式(M-8)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 546 [M]
【0073】
(工程10)下記式(M-9)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、工程9で合成した式(M-8)で表される中間体化合物(12.2g、 22.4mmol)をトルエン(500mL)に懸濁させ、95℃まで昇温した後、ヨードベンゼンジアセテート(10.8g、 33.6mmol)を10分間以上かけて少しずつ加えて1時間反応を行った。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、有機溶媒を減圧留去し、生じた残渣液体をシリカゲルを固定相とするカラムクロマトグラフィー(移動相:クロロホルム)により精製することにより、式(M-9)で表される中間体化合物(7.64g、 14.8mmol、収率66.2%)を得た。
式(M-9)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 516 [M]
【0074】
(工程11)下記式(M-10)で表される中間体化合物の合成
フラスコ内で、工程10で合成した式(M-9)で表される中間体化合物(3.23g、 6.26mmol)をトルエン(50mL)中に投入し、60℃まで昇温して溶解させた後、酢酸アンモニウム(96.3g、 1.25mol)と水(5mL)を加えて還流温度まで昇温して更に2時間反応を行った。前記で得られた反応液を室温まで冷却した後、水(100mL)を加えて分液し、水層をトルエン(200mL)を用いて2回抽出した。分液で得られた有機層と前記で得られた抽出液の混合液に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、吸引ろ過により固形分を除去した後、有機溶媒を減圧留去した。生じた残渣固体をシリカゲルを固定相とするカラムクロマトグラフィーにより精製することで、式(M-10)で表される中間体化合物(1.44g、 1.47mmol、収率47.0%)を得た。
式(M-10)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 980 [M]
【0075】
(工程12)下記式(1-2)で表される化合物の合成
フラスコ内で、工程11で合成した式(M-10)で表される中間体化合物(1.15g、 1.17mmol)をジクロロエタン(100mL)に溶解させ、1Mの三臭化ホウ素ジクロロメタン溶液(23.4mL、 23.4mmol)を滴下し、加熱還流下で12時間攪拌した。前記で得られた反応液を飽和重曹水(500mL)に注ぎ、1時間攪拌した後、析出した固体を吸引ろ過により回収し、水、メタノールおよびDMFにより洗浄した。得られた固体を真空昇華法によって精製することで、式(1-2)で表される化合物(0.32g、 0.334mmol、収率28.5%)を得た。
式(1-2)で表される化合物の質量分析の測定結果は以下の通りであった。
DI-MS : m/z = 960 [M]
【0076】
【化14】
【0077】
実施例3、4(有機薄膜の作製)
実施例1及び2で得られた化合物を予め洗浄したガラス基板上に抵抗加熱真空蒸着し、それぞれの化合物の有機薄膜を作製した。式(1-1)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜(実施例3)の厚さは120nm、式(1-2)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜(実施例4)の厚さは100nmであった。
【0078】
(有機薄膜の吸収スペクトル測定)
実施例3及び4で得られた各有機薄膜の吸収スペクトルを測定した。結果を図2に示した。尚、図2は測定結果を単位膜厚(nm)あたりに換算したものである。実施例3及び4で得られた有機薄膜の極大吸収波長(λmax)は、それぞれ921nm及び961nmであった。
【0079】
実施例3及び4で得られた本発明の有機薄膜は、900nm以上の長波長領域に極大吸収波長を有しており、800乃至1,000nm付近の近赤外光を効率よく吸収できることは明らかである。
【0080】
実施例5(式(1-1)で表される化合物を用いた光電変換素子の作製およびその評価)
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、抵抗加熱真空蒸着によって式(1-1)で表される化合物の厚さ120nmの有機薄膜を形成し、光電変換層とした。その上に、抵抗加熱真空蒸着によってアルミニウムの厚さ100nmの膜を形成し、本発明の光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、1,000nm、半値幅20nmの光照射を行える状態で、1Vの電圧を印加した際の光電流応答性を測定したところ、暗所での電流は1.01×10-10A/cm、明所での電流は1.82×10-7A/cmであり、前記の測定結果から算出した明暗比(明電流/暗電流)の値は1.80×10であった。
【0081】
実施例6(式(1-2)で表される化合物を用いた光電変換素子の作製およびその評価)
式(1-1)で表される化合物の代わりに式(1-2)で表される化合物を用い、かつ、光電変換層の厚さを100nmとしたこと以外は実施例5に準じた方法で、本発明の光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、1,000nm、半値幅20nmの光照射を行える状態で、1Vの電圧を印加した際の光電流応答性を測定したところ、暗所での電流は2.41×10-10A/cm、明所での電流は3.18×10-7A/cmであり、前記の測定結果から算出した明暗比(明電流/暗電流)の値は1.32×10であった。
【0082】
比較例1(比較用の化合物を用いた光電変換素子の作製およびその評価)
式(1-1)で表される化合物の代わりに国際公開第2020/162345号に記載されている方法に準じて合成した下記式(R-1)で表される化合物を用い、かつ、光電変換層の厚さを100nmとしたこと以外は実施例5に準じた方法で、比較用の光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、1,000nm、半値幅20nmの光照射を行える状態で、1Vの電圧を印加した際の光電流応答性の測定結果から算出した明暗比(明電流/暗電流)の値は1.5×10であった。
【0083】
【化15】
【0084】
比較例2(比較用の化合物を用いた光電変換素子の作製およびその評価)
式(1-1)で表される化合物の代わりに国際公開第2020/162345号に記載されている方法に準じて合成した下記式(R-2)で表される化合物を用い、かつ、光電変換層の厚さを100nmとしたこと以外は実施例5に準じた方法で、比較用の光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、1,000nm、半値幅20nmの光照射を行える状態で、1Vの電圧を印加した際の光電流応答性の測定結果から算出した明暗比(明電流/暗電流)の値は8.6×10であった。
【0085】
【化16】
【0086】
比較例3(比較用の化合物を用いた光電変換素子の作製およびその評価)
式(1-1)で表される化合物の代わりに国際公開第2020/162345号に記載されている方法に準じて合成した下記式(R-3)で表される化合物を用い、かつ、光電変換層の厚さを100nmとしたこと以外は実施例5に準じた方法で、比較用の光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、1,000nm、半値幅20nmの光照射を行える状態で、1Vの電圧を印加した際の光電流応答性の測定結果から算出した明暗比(明電流/暗電流)の値は2.0×10であった。
【0087】
【化17】
【0088】
上記の結果より、本発明の化合物を用いた有機薄膜を含む有機光電変換素子は、波長1,000nmの近赤外光において比較の有機光電変換素子よりも高い明暗比を示し、撮像素子や光センサー用の近赤外光吸収材料として有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の化合物は、近赤外光領域における良好な吸収特性を示し、デバイス作成プロセスに十分に耐えうる高い耐熱性と、良好な近赤外光電変換特性を示すことから有機エレクトロニクスデバイス材料として有用である。


図1
図2